説明

光触媒及びその製造方法、それを用いた水処理方法及び装置

【課題】 光触媒活性を顕著に向上させることができる光触媒とその製造方法、及びそれを用いる水処理方法と装置を提供する。
【解決手段】 導電性物質を含む材料上に、塩化銀が担持されている光触媒としたものであり、該塩化銀は、導電性物質を含む材料上に銀を担持し、電解酸化により生成させたものがよく、また、このように生成させた塩化銀を、導電性物質を含む材料上から分離させて光触媒とすることができ、その製造方法は、導電性物質を含む材料上に、先ず銀を担持させ、次いで電解酸化により該銀から塩化銀を形成させて行い、さらに、有害物質を含む水から有害物質を除去する水処理方法において、有害物質を含む水を上記光触媒に接触させること、及び、有害物質を含む水から有害物質を除去する装置において、該有害物質を含む水の導入口1及び排水口4を有し、内部に上記光触媒2と、該光触媒に光照射する光源3とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率に光触媒活性が発揮される光触媒及びその製造方法、それを用いた水処理方法及び装置に関する。
本発明の光触媒は、製薬、医薬、農薬、食品、半導体のような各種化学工程における産業廃水、都市下水、上水、バイオマス等の水処理に適用可能である。特に、有害物質が被酸化性汚染物、例えば有機性物質(有機物)、アンモニアを含む水の酸化処理、無害化(低分子量化あるいは安定物質への変換)処理、細菌や原生動物等の有害生物を含む水の殺菌(不活化)、藻類の死滅化、脱色、脱臭を行う方法及び装置に関する。
【0002】
表1に、本発明の用途並びに用途に対応した利用分野の例を示す。
【表1】

【背景技術】
【0003】
近年、環境汚染に対する認識が益々高まっている。中でも水(処理)に対する認識は高く、一層効果的で良質な水質が得られる水処理方式の出現が期待されている。
従来の水処理方式として、水中の有機性物質(有機物)処理について説明する。
従来、水中の有機物除去方法としては、活性炭法、オゾン法、電気分解法などが知られている。しかしながら、これらの処理法には次のような問題点がある。
活性炭法は、処理効率は比較的高いが、活性炭の再生が煩雑でありコストが高い。
オゾン法は、有機物処理として脱色、脱臭、分解作用の効果は比較的良く、他に殺菌作用が存在するが、オゾンは製造するのにコスト高であり、また、未利用のオゾンが廃オゾンとして放出されるため、リーク廃オゾンの環境に対する二次汚染対策が必要である。
電気分解法は、有機物処理としての脱色の効率は比較的良いが、有機物分解には充分な効果が得られない。また、コスト高である。
【0004】
これらに対し、本発明者らは、光触媒を用いた新規方式を提案した(例:特公平2−55117号、特許第3202863号)。
特公平2−55117号は、過酸化水素のような過酸化物の存在下に空気又は酸素を吹き込み、反応促進を図るものである。
特許第3202863号は、光触媒をファイバー状の様な線状物品となして光触媒面積を大きくすることで、反応促進を図るものである。
また、光触媒材に銀を担持し、殺菌作用の促進を図る提案がある(特開平10−235346号)。
これらの光触媒は、いずれも酸化チタン(TiO)を用いている。
【0005】
これらのこれまでの光触媒方式は、用途、要求性能によっては効果があるが、光触媒として、酸化チタンを用いる方式は、貧酸素状態(水中の酸素濃度が低下した状態)になると、原理的に性能が低下してしまう。従って、このような場合は、水処理効率の低下、不安定化により処理水質が悪化する現象が引き起こされる。
このような中で、突発的な貧酸素状態等、被処理水(負荷)条件が変化しても長時間性能の安定化(一定以上の性能を長時間維持)、維持管理の容易化等、用途や要求性能によっては一層実用上効果的な方式の出現が期待されていた。
【特許文献1】特公平2−55117号公報
【特許文献2】特許第3202863号公報
【特許文献3】特開平10−235346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、より効果的(高性能)な光触媒の開発に関し、母材上に塩化銀を担持させることにより、光触媒活性を顕著に向上させることが出来る光触媒とその製造方法、及び、水中の有害汚染物が高効率で除去出来る水処理方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、導電性物質を含む材料上に、塩化銀が担持されていることを特徴とする光触媒としたものである。
前記光触媒において、塩化銀は、導電性物質を含む材料上に銀を担持して電解酸化により生成させるのがよい。
また、本発明では、導電性物質を含む材料上に銀を担持して電解酸化して得られた塩化銀が、導電性物質を含む材料上から分離されたものであることを特徴とする光触媒としたものである。
さらに、本発明では、光触媒を製造する方法においては、導電性物質を含む材料上に、先ず銀を担持させ、次いで電解酸化により該銀から塩化銀を形成させて製造することを特徴とする光触媒の製造方法としたものである。
前記光触媒の製造方法において、導電性物質を含む材料上への銀の担持は、電解還元析出で行うことができる。
【0008】
また、本発明では、有害物質を含む水から有害物質を除去する水処理方法において、有害物質を含む水を前記のいずれかの光触媒に、光の照射下に接触させることを特徴とする水処理方法としたものである。
前記水処理方法において、有害物質を含む水は、貧酸素状態であってもよい。
さらに、本発明では、有害物質を含む水から有害物質を除去する装置において、該有害物質を含む水の導入口及び排水口を有し、内部に前記のいずれかの光触媒と、該光触媒に光照射する光源とを有することを特徴とする水処理装置としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)導電性物質を含む材料表面に銀を担持させ製造したことにより、高活性なAgCl光触媒が出来た。
(2)前記光触媒は、少なくとも導電性物質を含む材料上に銀を担持させ、次いで電解酸化を行うことにより形成出来た。
(3)前記光触媒は、水中酸素濃度が例えば1〜3mg/L以下のような貧酸素状態でも高活性を発揮する。
(4)本光触媒は、水中酸素含有濃度が自然状態(通常状態)の濃度域から貧酸素状態においても高活性な酸化力を発揮するので、酸化、殺菌(不活化)、脱色、脱臭等の広い用途、利用分野に適用出来た。
(5)上記より、光触媒技術の実用性が一層高まった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、次の4つの知見に基づいて発明されたものである。
(1)光触媒に光照射すると、光励起により荷電子帯に正孔(h+)、伝導帯に電子(e)が生じ、この正孔は強力な酸化力を有するため、有機物やアンモニアのような被酸化性汚染物を分解、無害化できるので環境汚染浄化材料として有用である。この酸化力は、例えば光触媒が酸化チタン(TiO)の場合、TiO表面に生じる正孔は、約+3.0V(v.s. NHE)であり、オゾンの酸化力に対し1.5倍である。(エバラ時報, No.180号,p.3-14, 1998)
(2)従来の光触媒として、例えばTiOの光触媒反応の高効率化には、正孔と電子の再結合を防止(電荷分離促進)することが重要である。従来、このために電子受容体(電子アクセプター)として光触媒周囲に存在する酸素がこの作用をなしていたが、酸素による電子移動は必ずしも十分でない(酸素による電子移動は遅い)。すなわち、電子受容体に対する酸素の利用は、これまでの光触媒反応活性の律速となり、光触媒反応全体の速度を低下させている。
この様に、従来の光触媒のTiOは、酸素の共存が必須であるので、貧酸素状態では光触媒は原理的に使用できないため、用途開発に限界がある。
【0011】
(3)上記に対し、導電性物質を含む材料(例:SnO)上に塩化銀(AgCl)を担持(AgCl/SnO)し光照射すると、高活性(顕著な光触媒作用)を示す。また、前記AgCl/SnOから粒子状AgClを分離し、粒子状AgClに同様に光照射すると、高活性を示す。この反応機構の詳細は、鋭意検討中であり詳細は不明であるが、AgCl表面への光照射により、AgClの光励起で生じた正孔により、活性種(例:OHラジカル)が発生し、高活性を示すと考えられる。この光触媒は、酸素が存在しない無酸素状態や酸素が少ない状態(貧酸素状態)でも高活性を発揮する特性を有する。
(4)本発明の光触媒(例:AgCl/SnO2、粒子状AgCl)は、導電性物質を含む材料(SnO)表面に、先ずAgを担持させ、次いで、該AgをKCl電解質溶液での電解酸化することにより、実用上効果的なAgClを形成出来る。
【0012】
本発明の光触媒は、(1)導電性物質を含む材料(例:SnO)表面に、AgCl(粒子状)が担持されたもの、或いは(2)前記AgCl(粒子状)が導電性物質を含む材料(例:SnO)から分離(脱離)されたものであり、該光触媒は、光吸収によってそのエネルギーを他の反応物(被処理物)に与えて酸化作用を及ぼし、種々の化学反応、例えば酸化反応、殺菌(不活化)、脱色反応、脱臭反応を誘起させ、水中の有害物質(汚染物質)を分解・除去(無害化:低分子量化或いは安定物質への変換)する。
【0013】
次に、本発明を詳細に説明する。
AgClの担持材(母材)
母材は、本発明の光触媒であるAgClを担持できるものであれば何れでも良い。このような材料としては、導電性物質を含む材料であれば何れでも良く、周知の導電性物質或いは導電性物質を含有する非導電性物質を用いることが出来る。本発明の特徴である導電性物質を含む材料を使用する意義は、本発明の光触媒の製造が簡易に出来ることが有る。即ち、該材料を電極として使用することにより、光触媒の製造が簡易に出来る。例えば、先ず、電解還元によって該材料表面上に銀(Ag)を析出させ、次に、電解酸化することによりAgCl形成を効果的に行うことが出来る。
【0014】
母材のより好ましい材料は、導電性物質(電極として効果的)である。該材料は、Agの担持及びAgClの電解による形成、を一連の操作で出来るので実用上効果的である。即ち、より簡易に、且つ効果的にAgClが製造出来るので、より好適に用いることが出来る。
この材料は、SnO,Al,W,ステンレス、亜鉛、のような金属酸化物、金属又はカーボンブラックのようなカーボン系のものがある。
前記母材の形状は、板状、網状、シート状、チューブ状、柱状、ロッド状(棒状)、線状、ファイバー状、フィルター状、粒状、球状がある。
前記の母材の材料種類や形状の選択は、下記Agの担持(付加)方法や条件、AgCl形成方法や条件、本光触媒の適用先(用途)、光源種類、装置形状、規模、要求仕様等で適宜検討を行い決めることが出来る。
【0015】
AgClの形成
本発明の光触媒AgClは、先ず、導電性物質を含む材料にAgの担持(付加)を行い、次いで該AgよりAgClを形成するものである。
(a)Agの担持
Agの担持(付加)方法は、導電性物質を含む材料への担持によりAgClを形成出来るものであれば良く、その担持方法、担持条件は、担持Agから本発明の特徴である光触媒性能を発揮するAgClを形成できるものであれば何れでも良い。
この様なAgの担持方法は、(a)電解還元により、Ag担体結晶微粒子を導電性物質を含む材料上に析出させ付加する方法、(b)銀化合物を含む溶液に少なくとも導電性物質を含む材料を含浸し、加熱処理により付加する方法、がある。
【0016】
前記担持方法の内、(a)の方法は、母材 にSnOのような導電性材料を用いることで、電解法によるAg担持及びそれに続くAgClの形成を一連の操作で出来るので実用上効果的である。
即ち、より簡易に、且つ効果的にAgClが製造出来るので、より好適に用いることが出来る。
担持形態は、担持AgからAgClを形成できるものであれば良く、Ag粒径として、0.1μm〜500μm、好ましくは1μm〜50μm、より好ましくは1μm〜4μmである。
【0017】
(b)AgClの形成
AgClは、Agを、Clを含む電解溶液中で電解酸化することで効果的に形成される。
この電解溶液としてはKClがあり、濃度は、0.01M〜10MのKCl、好ましくは0.1 M〜1MのKClにおいて電解酸化を行うと、AgからのAgCl生成が効果的となり、AgClが母材上に形成され、高活性な光触媒が製造される。
【0018】
本発明の光触媒は、(1)導電性物質を含む材料上にAgClを形成させたもの(例;AgCl/SnO)、(2)前記(1)より粒子状AgClを脱離させたもの、を使用することが出来る。
これらの光触媒は、本光触媒の適用先(用途)、装置形状や運転条件、光源種類や使用方法、規模、要求仕様等からそれぞれの光触媒の利点(特徴)を考え、適宜検討を行い決めることが出来る。それぞれの光触媒の利点(特徴)を下記に示す。
導電性物質を含む材料上にAgClを形成させたもの(例:AgCl/ SnO)は、前記の如く、板状、網状、シート状、チューブ状、柱状、ロッド状(棒状)、線状、ファイバー状、フィルター状等、種種の形状が出来るため、光触媒反応装置の任意の場所への固定化使用が可能である。これにより、(a)光触媒反応装置の設計の自由度が拡大、(b)装置の保守、維持が容易となる利点がある。
【0019】
一方、粒子状AgClは、みかけの比重が小さく、表面積が広い。これにより、光触媒反応装置において、被処理水中に浮遊状態として使用出来るので、光触媒への光照射及び光触媒と被処理物との接触をより効果的に出来る利点がある。即ち、粒子状AgClは、後述図11、図14の如く浮遊状態となしての使用が可能である。この場合、光触媒の浮遊状態を、空気の導入による気泡としてマイクロバブルにより行うと、容易に浮遊状態が得られ、更にマイクロバブルによる被処理物と光触媒表面との接触効率の向上(平均滞留時間の増大)効果により、効果的処理が出来る。即ち、粒子状AgClは、後述図11、図14の如く空気供給(導入)による気泡下で使用すると、粒子状AgClを好適に用いることが出来る形態となる。
【0020】
通常は、導電性物質を含む材料上にAgClを形成させた光触媒の形態(例:AgCl/SnO)が、反応装置設計の自由度拡大の点、及び取扱い性、保守・維持が容易である点から好ましい。
AgClの好適な粒径は、光触媒の母材の有・無、その形状、適用先(用途)、装置形状や運転条件、規模、要求仕様等から選択出来、その粒径は電解酸化条件により制御可能である。
粒径は、0.1μm〜500μm、好ましくは1μm〜50μm、より好ましくは1μm〜5μmである。
好適な電解酸化条件、濃度、電解電流、形成時間は、用いるAgCl形態により適宜予備試験を行い適宜決めることが出来る。
【0021】
光源
光源は、光触媒への照射により、光触媒作用を発揮させるものであれば良く、水銀ランプ、キセノンランプなどの放電ランプ、殺菌灯、ブラックライト、蛍光灯などの蛍光ランプ、白熱灯などのフィラメントランプ、発光ダイオード(LED)、レーザー光などの人工光源、太陽光等を用いることが出来、適用先(用途)、装置形状、装置規模、光触媒種類、要求仕様等で適宜選択して、使用出来る。
例えば、殺菌用途では、殺菌灯あるいは低圧水銀ランプが好ましい。これは、光触媒作用に、殺菌灯の使用では殺菌灯からの殺菌線による殺菌作用が加わり、低圧水銀ランプの使用ではオゾン発生するので、該オゾンによる殺菌作用が加わり、相乗効果が得られるので適宜選択し、使用でき、殺菌や脱臭用途では好ましい。
【0022】
一般に、処理水中には自然状態(通常状態)で酸素濃度8.8mg/L(20℃、大気圧)程度含有するが、本発明の光触媒は水中酸素濃度が1mg/L〜3mg/L以下の貧酸素状態でも同様に作用し、本発明の大きな特徴である。
尚、前記酸素濃度は20℃、大気圧での値であり、温度、圧力、水処理方式により変化する。
また、一般に好気性処理では、酸素濃度は1〜3mg/L(20℃、大気下)必要であるが、本発明では、該濃度以下の通常好気性処理が原理的に不可能な状態でも発揮出来る。
本発明の光触媒は、高活性を示す。この反応機構の詳細は、鋭意検討中であり詳細不明であるが次のように考えられる。AgClへの光照射により、AgClの光励起で生じた正孔により、活性種(例:OHラジカル)が発生し、高活性を示すと考えられる。AgClの伝導帯は、従来の光触媒として知られている酸化チタン(TiO)の伝導帯よりも相当高い位置にあるため、生じたプロトンが電子受容体として効果的に作用することが考えられる。
【0023】
本発明の光触媒は、導電性物質を含む材料上に先ず銀を担持し、次いで電解酸化により生成させたものであり、このようにして製造されたAgClは、結晶構造ではみかけの比重が小さく、表面積が広い粒子状をなし、高純度であることから光触媒として高性能を発揮すると考えられる。
ここで、AgCl/導電性物質への光照射では、粒子状AgClよりも高性能である。この理由として、導電性物質(例:SnO)を用いる場合は、AgClへの光照射により生じた励起電子がAgClの伝導帯から、導電性物質(例:SnO)へ効率良く移動するためAgClの荷電子帯の正孔が反応に効果的に作用するようになるため、と考えられる。
【実施例】
【0024】
実施例1
光触媒の製造;下記工程による。
(1);母材(SnO2)上へのAgの担持
SnOを0.2M−NaClOと0.2mM−AgClO溶液に浸漬し、Arを溶液下部から導入し、電解還元を行う(Ag/SnO)。
(対極:ブラッシーカーボンと作用極SnO間に、−1.0Vを60分印加)
(2);Ag/SnOのAgからAgClの形成
Ag/SnOを0.2 M−KCl電解質溶液に浸漬し、電解酸化を行う(AgCl/SnO)。
(対極:ブラッシーカーボンとSnO間に、+0.9mAで60分電解酸化)
【0025】
結果
光触媒(AgCl/SnO)のSEM写真、粒径分布及びX線分析
光触媒の製造において、該表面をSEM写真観察、X線分析(XRD)及び粒径分布測定を行い、調べた。
図3は、(a):Ag/SnO、(b):AgCl/SnO(本発明の光触媒) のSEM写真であり、(b)の右上部にはAgCl部の拡大図を示している。尚、図3の下地はSnOである。
図4は、XRDパターンを示す。図4中●はSnO2、○はAg、×はAgClを表しており、(a)はAg/SnO、(b)はAgCl/SnO、(c) は1ヶ月使用後のAgCl/SnOである。
図5は、(a):Ag/SnO、(b):AgCl/SnO(本発明の光触媒) の粒径分布を示している。
これらの写真、XRDパターン及び粒径分布から、電解還元によりSnO上に1μm〜3μm(平均粒径:1.5μm)のAg粒子が担持され、次の電解酸化により、1μm 〜4μm(平均粒径:2.1μm)の AgClがSnO上に形成されていることが観察された。
AgからAgClの形成
図6は、前記のAg/SnOにおけるAgからAgClへの形成(変化量、%)を示す。電解酸化の時間は、10分から180分であり、図6より、60分以上の電解酸化により、AgからAgClは90%(以上)形成されることが分かる。
【0026】
実施例2
図1は、難生物分解性有機物を含む水の処理に、本発明の光触媒を用いる水処理を適用した例である。
図1は、本発明の光触媒を用いた光触媒反応工程Aと生物処理工程Bの順より成る難生物分解性有機物を含む水の処理プロセスを示す。
光触媒反応工程Aは、本発明の光触媒反応装置で、又生物処理工程Bは、生物処理装置で実施される。
種々の有機物、例えばフミン系統のCOD、農薬、有機塩素化合物等の難生物分解性有機物を含む処理水1は、光触媒反応装置Aに導入される。
該光触媒反応装置Aは、その主たる構成は図2に示した本発明の光触媒2、光源3より成る。図2において符号4は、光触媒2により処理された処理水(出口)である。
図1と図2で、同一符号は、同じ意味を示す。
【0027】
該光触媒反応装置Aは、被処理水1中の被処理有機物は光源3からの光照射によって活性化された光触媒2による酸化作用を受け、易分解性有機物はCO,HOの無害ガスに変換され、大気放出5される。また、難分解性有機物は、易生物分解性有機物に変換され、水中に残る。
次に、易生物分解性有機物を含む水4は、生物処理装置Bに送られる。ここで、光触媒反応装置Aにより低分子量化された易生物分解性有機物は、空気の吹き込み6により好気的条件下とされている該装置B内で生物により処理され、生物学的に低分子量の無害物質に変換される。
ここで使用できる生物処理は、生物ろ過、流動媒体生物処理、ハニカム接触材生物処理、活性汚泥処理があり、適宜仕様等により選択できる。本実施例は、生物膜処理の生物ろ過である。
【0028】
処理対象の難分解性有機物が高濃度含有する場合や高効率の処理を行う場合には、前記生物処理水7をそのまま出口処理水8とするのではなく、前記光触媒反応装置Aに循環9させることにより除去率を向上させることが好ましい。
これは、易生物分解性有機物を生物処理工程で分解した後の未分解の難生物分解性有機物は、再度、くり返し光触媒による酸化反応を行うことにより、易生物分解性有機物に変換されるためである。
このようにして、難生物分解性有機物を含む水1は、前工程で本発明の光触媒反応装置Aで、予備的な処理を行い、次いで後工程で生物処理Bを行うことにより、効果的な処理が行える。
【0029】
実施例3
図1の処理プロセスにし尿処理施設の凝集沈殿処理水(COD:98mg/L、色度150度)を導入し、COD及び色度について調べた。
処理条件
処理水の処理量;10L/日。
光触媒反応装置;図2の型式。
大きさ;図2の型式で反応装置の大きさは3L。
光源;殺菌灯(強度2.5mW/cm)。
光触媒;実施例1で製造した光触媒を使用。
生物処理装置
方式:好気性生物ろ過
生物ろ過速度:110m/日
【0030】
COD及び色の除去性能
図7に、CODについて、60日間運転の値を示す。
図7中○は、本発明の値、●は比較例としての値で、光源をoffとし、生物処理装置のみ使用した場合を示す。図7中↓は、1mg/Lを示す。
図7は、下記を示している。
初期から生物処理を行うと、有機物除去性能は、変動が大きく、また低い。これは導入される被処理有機物の種類によっては、例えばより難生物分解性有機物(大きい分子量の有機物)が一時的に高濃度導入されると、除去性能は低下するためと考えられる。
前記に対し、先ず、本発明の光触媒反応装置により、多種類含有する水中有機物を低分子化し、次いで生物処理すると、高度に清浄化された水が安定して得られ(到達清浄度が高い水)、信頼性の高い水が長時間連続的に得られる。
表2に色度を示す。比較例の方式は前記の通りである。表2中数値は色度(度)である。
【0031】
【表2】

表2の結果により、本発明の光触媒は、脱色に効果的であることがわかる。
【0032】
実施例4
図8は、クリプトスポリジウムのような有害生物を含む水の殺菌処理に、本発明の光触媒を用いる水処理を適用した例であり、浄水場における凝集沈殿における洗浄排水の殺菌処理(浄水場廃水処理プロセス)である。
通常の沈殿を用いた浄水場では、河川又は井戸などから原水(被処理水)1を取り入れ、急速混和池11、緩速混和池12を経て、沈殿池13で凝集沈殿、ろ過池14で砂ろ過又は膜ろ過が行われ、排水池15へ続く後工程へと流れている。7は、処理水の出口である。
ろ過池14では、ろ材の目詰まりを解消するために、間欠的に逆方向水流により洗浄が行われ、その洗浄排水16は排水池17へ送水される。また、排水池17では、その沈殿物18は排泥池19へ送られ、排泥池19の上澄み液20は、排水池17へと送水される。
【0033】
沈殿池13で発生した沈殿物は排泥池19へ送られ、排泥池19の上澄み液20は排水池17へと送水され、排水池17の一部21が原水1へと返送され、濁質成分を濃縮する。
ここで22は、洗浄排水16を原水1に返送する途中に設置された、本発明の光触媒を用いた水処理装置(光触媒装置、図9に主な構成図)である。
このような一連の浄水過程では、凝集沈殿・ろ過の際に原水1に含まれる砂やプランクトンを含む濁質成分とともに、クリプトスポリジウム、大腸菌のような病原性微生物が補足される。このため、ろ過洗浄排水16にはこれらの成分が含まれることになり、排水池17の一部21を返送を繰り返すたびに原水側に濃縮され、凝集沈殿・ろ過を行っても排水池15に混入してしまう恐れが起きる。大腸菌のような塩素耐性を持たない微生物の場合には、後工程である塩素注入による殺菌消毒により死滅するが、クリプトスポリジウムのような塩素耐性を持つ生物に対しては、飲料水が汚染される危険性が生じてしまい、重大な汚染を引き起こし、問題である。
【0034】
これに対し、本発明は、図8に示した位置に光触媒装置22(主な構成図:図9)を配備することで、排水中の有害生物を光触媒による酸化作用により有害生物の殺菌(不活化)を行うものである。図9は、光触媒反応装置であり、実施例1と同様な方法で製造した網状の光触媒2、紫外線ランプ3が複数設置され、又装置には撹拌ファンFによる被処理水の撹拌により光触媒による殺菌効果の促進を図っている。図8、9における(M)は、撹拌用モータである。
この様にして、洗浄排水16中のクリプトスポリジウム、大腸菌等の有害生物が殺菌され、安全性の高い飲料水が長時間安定して得られる(長時間安全性を確保)。
【0035】
実施例5
図9に示す光触媒反応装置に、浄水場から発生する凝集沈殿洗浄排水、クリプトスポリジウムオーシストを添加した試験用のクリプトスポリジウム添加処理水を導入して、クリプトスポリジウムの不活化について調べた。
処理条件
光触媒反応装置;500Lのステンレス反応容器(図9の構成)。
光触媒の形状;網状(4個)
光源;殺菌灯(照射強度;2.5mW/cm)
光触媒の間に設置(6本)
光触媒の製造法;実施例1と同様の方法で作成した。
【0036】
被処理水;クリプトスポリジウムの添加量:1×10個/L
濁度;20度、通常、浄水場の洗浄排水の濁度は、5度から20度程度であり、20度は濁度が高い状態の水である。
撹拌;12回/min
不活化の評価法; 処理後の処理水は、濃縮後顕微鏡でクリプトスポリジウムオーシストの個数を調べ、免疫不全マウスに投与した。投与されたマウスの糞便中のクリプトスポリジウムの個数を計測することで、光触媒による不活化効果を調べた。
結果
不活化率を表3に示す。
【0037】
【表3】

この結果から、光触媒処理により、洗浄排水中の病原性微生物の殺菌消毒に高い効果があることが認められた。
【0038】
実施例6
図10及び図11に示す光触媒2と光源3から成る光触媒反応容器22に、アゾ色素として広く用いられている2−ナフトール溶液を導入し、光源の点灯による2−ナフトール濃度の変化を測定することにより光触媒効果を調べた。又、貧酸素状態についても同様に調べた。
尚、符号23は、光源3からの光を光触媒2に照射するためのガラス窓である。
図10は、AgCl/SnO:板状の光触媒の反応容器、図11はAgCl:粒子状光触媒の反応容器である。
処理条件
光触媒反応装置;2Lステンレス製、図10及び図11の構成
光触媒形状;AgCl/SnO:板状、AgCl:粒子状
光源;高圧水銀灯
光触媒の製造法;
(1)AgCl/SnO:実施例1と同様の方法で製造した。
(2)粒子状AgCl:上記(1)を溶液中で、超音波を与えることにより脱離させた。(平均粒径:2.1μm)
【0039】
図11において、1は被処理液(2−ナフトール)、2は浮遊状態(分散状態)の光触媒(AgCl:粒子状)、3は光源、22は光触媒反応装置、24は光触媒2を浮遊状態にさせるための空気供給菅(散気菅)である。矢印は、空気の流れ方向を示している。粒子状光触媒2は、下方の散気菅24から供給された気泡25により浮遊状態となり、被処理液中の汚染物と接触し、光触媒作用により、2−ナフトールの分解を行う。
被処理物;2-ナフトール、1×10−5M溶液
水中酸素濃度:自然状態:8.8mg/L及び貧酸素状態:1.0mg/L(以下)2−ナフトールの濃度測定法;液体クロマトグラフにより測定
【0040】
結果
本光触媒の性能;
(1)AgCl/SnO:図12中○及び△は、本光触媒のものを示し、○は、水中酸素濃度:8.8mg/L状態、また、△は、脱気により水中酸素濃度を除去(貧酸素状態)し、同様に試験した結果であり、光触媒への紫外線照射時間と2−ナフトール分解率(除去率)の関係を示す。
(2)粒子状AgCl:図12中●は、本光触媒のものを示し、図11に示すように水中に浮遊状態で使用し、水中酸素濃度は8.8mg/L状態、で光触媒への紫外線照射時間と2−ナフトール分解率(除去率)の関係を示す。
【0041】
比較試験の性能;
図12中、×は、比較としてAg/SnO(水中酸素濃度:8.8mg/L)、□は、比較としてAgCl(試薬品)、また、▲は比較用の従来の光触媒(TiO)を、脱気により水中酸素濃度を除去(貧酸素状態)し、同様に試験したものである。
図12の結果は、下記を示している。
従来の光触媒は、貧酸素状態になると光触媒性能を失うが、これに対し、本光触媒は貧酸素状態においても自然状態における酸素状態と同程度の高活性を発揮する。
2−ナフトールが分解・除去されたことから、本光触媒では有機物の分解及び色素の脱色に効果的である。
【0042】
実施例7
図10に示した光触媒2と光源3から成るステンレス製の光触媒反応容器22に、アンモニア水溶液(NH−Nとして2mg/L)を導入し、光源の点灯によるアンモニア酸化により生成した硝酸イオン濃度の変化を測定することにより光触媒効果を調べた。
光触媒反応装置の構成は実施例6と同様である。
光触媒は、AgCl/SnO:板状(実施例と同様な方法で製造)である。
硝酸イオン濃度は、イオンクロマト法により求めた。
【0043】
結果
図13に、光触媒への紫外線照射時間と、硝酸イオン濃度の関係を示す。
図13中○及び△が本発明の光触媒による分解率であり、○は水中酸素濃度:8.8mg/L状態、△は水中酸素濃度を除去(貧酸素状態)、また、▲は、比較用の従来の光触媒(TiO)を貧酸素状態(0.5mg/L)で使用したものである。
図13の結果により、下記の適用が可能である。
本発明の光触媒は、水中のアンモニアを速やかに硝酸イオンへと酸化する。従来の光触媒、例えば、TiO(酸化チタン)は、貧酸素状態になると、性能低下するが、本光触媒は、酸素状態が変動してもその影響を受けること無く、高効率の長時間運転が可能である。
【0044】
水中のアンモニア成分は、例えば魚類などの生育に悪影響を及ぼし、高濃度においては死に至らしめるが、本法によって、水中のアンモニアを速やかに硝酸(魚類生育への悪影響はアンモニアと比較すると少ない)へと酸化することが出来るので、アンモニアが問題となる用途に好適に使用出来る。
更に、嫌気条件下で脱窒細菌による硝酸の窒素化、あるいは電解反応による硝酸の電気分解による窒素化など、一般的な硝酸還元方法により、アンモニアや窒素含有物質の効果的な処理が可能となる。
【0045】
実施例8
図14は、本発明の粒子状光触媒(AgCl)2を浮遊状態(分散状態)で使用する光触媒反応装置を示す。
1は被処理液、2は浮遊状態(分散状態)の粒子状光触媒、3は光源、22は光触媒反応装置、26は光触媒2を浮遊状態にさせるためのマイクロバブル発生装置(気泡発生装置)である。
矢印は供給空気の流れ方向を示している。
該マイクロバブル発生装置26は、遠向心分離方式によるもので、これにより直径10μm〜50μmの気泡が発生される。
粒子状光触媒2は、下方に設置されたマイクロバブル発生装置26から発生された気泡(マイクロバブル)25により浮遊状態となり、被処理液1中の汚染物と接触し、光触媒作用により、被処理の分解処理が行われる。
【0046】
該光触媒反応装置22は、中央部に光源3を設置し、マイクロバブル発生装置26からの気泡25発生により粒子状光触媒(AgCl)2を浮遊状態とするので、光触媒2への光照射及び光触媒2と被処理物との接触効率がより効果的になる。更に、水中の被処理物は、マイクロバブルにより、光触媒表面との接触効率が向上(平均滞留時間が増大)する。
この様に、本光触媒反応装置22は、光触媒2の浮遊状態による効果(接触効率が効果的)と、マイクロバブル25による被処理物と光触媒表面との接触効率の向上効果(平均滞留時間が増大)が、被処理物の処理効率に対して相乗効果をもたらすので、高効率処理が実施される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の水処理装置の一例を示すフロー構成図。
【図2】図1の光触媒反応装置Aの拡大構成図。
【図3】実施例1で製造した(a)はAg/SnO、(b)はAgCl/SnOのSEM写真。
【図4】(a)はAg/SnO、(b)はAgCl/SnO、(c)は1ヶ月使用後のはAgCl/SnOのXRDパターン図。
【図5】実施例1で製造した(a)はAg/SnO、(b)はAgCl/SnOの粒径分布を示すグラフ。
【図6】Ag/SnOにおけるAgからAgClの変化量を示すグラフ。
【図7】実施例3の60日間運転した場合のCODの値を示すフロー構成図。
【図8】本発明の水処理装置の他の例を示すフロー構成図。
【図9】図8の光触媒装置22の拡大構成図。
【図10】光触媒反応装置で板状の光触媒を用いた断面構成図。
【図11】光触媒反応装置で粒子状の光触媒を用いた断面構成図。
【図12】光触媒への紫外線照射時間と2−ナフトール分解率の関係を示すグラフ。
【図13】光触媒への紫外線照射時間と硝化率の関係を示すグラフ。
【図14】粒子状光触媒を用いた光触媒反応装置の他の例を示す断面構成図。
【符号の説明】
【0048】
1:被処理水、2:光触媒、3:光源、4:光触媒処理水、5:ガス、6:空気、7:生物処理水、8:処理水、9:循環水、11:急速混和池、12:緩速混和池、13:沈殿池、14:ろ過池、15:排水池、16:洗浄排水、17:排水池、18:沈殿物、19:排泥池、20:上澄液、21:返送水、22:光触媒装置、23:ガラス、24:散気管、25:気泡、26:マイクロバブル発生装置、A:光触媒反応装置、B:生物処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質を含む材料上に、塩化銀が担持されていることを特徴とする光触媒。
【請求項2】
前記塩化銀は、導電性物質を含む材料上に銀を担持して電解酸化により生成させたものであることを特徴とする請求項1記載の光触媒。
【請求項3】
導電性物質を含む材料上に銀を担持して電解酸化して得られた塩化銀が、導電性物質を含む材料上から分離されたものであることを特徴とする光触媒。
【請求項4】
光触媒を製造する方法において、導電性物質を含む材料上に、先ず銀を担持させ、次いで電解酸化により該銀から塩化銀を形成させて製造することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記導電性物質を含む材料上への銀の担持は、電解還元析出で行うことを特徴とする請求項4記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
有害物質を含む水から有害物質を除去する水処理方法において、有害物質を含む水を請求項1、2又は3記載の光触媒に、光の照射下に接触させることを特徴とする水処理方法。
【請求項7】
前記有害物質を含む水が、貧酸素状態であることを特徴とする請求項6記載の水処理方法。
【請求項8】
有害物質を含む水から有害物質を除去する装置において、該有害物質を含む水の導入口及び排水口を有し、内部に請求項1、2又は3記載の光触媒と、該光触媒に光照射する光源とを有することを特徴とする水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−302308(P2008−302308A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152204(P2007−152204)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】