説明

光触媒性能の評価試薬および評価方法

【課題】可視光反応型の光触媒製品の評価を正しく行うことができる光触媒性能の評価方法の提供。
【解決手段】アゾ染料を含む試薬で可視光反応型の光触媒製品1を着色した後、光触媒製品1に可視光線を照射して試薬の色の変化を測定し、色の変化を指標にして光触媒性能を測定評価する。光触媒性能の評価試薬4はアゾ染料を含むから、アゾ染料を含む試薬は可視光線は非常に分解されにくいので、可視光反応型の光触媒製品1の評価を適正に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光反応型の光触媒製品の光触媒性能を評価するための試薬および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒の空気浄化効果、水質浄化効果、セルフクリーニング効果、並びに抗菌効果等の光触媒性能を有する各種様々な光触媒製品が知られている。
この光触媒製品の品質を評価するため、従来、光透過性プラスチックフィルム上にリング形状の防波堤を設け、この防波堤の内側に脱色色素試薬を収容し、光透過性プラスチックフィルムの防波堤が設けられた側を光触媒製品に面密着させ、励起光源から放射される励起光を、光透過性プラスチックフィルム側から防波堤内に向けて照射することにより色素を脱色させ、色素の脱色を指標にして測定評価する方法がある(特許文献1)。
【0003】
この特許文献1では、脱色色素試薬としてメチレンブルーが用いられており、このメチレンブルーは励起光源としての紫外線LED、紫外線レーザあるいは紫外線ランプから照射される紫外線で色素が脱色される。
【0004】
【特許文献1】特開2005−69812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例では、脱色色素試薬としてメチレンブルーが使用されている。このメチレンブルーは紫外線では分解されないが、可視光線では、分解されることになる。
通常、人は可視光領域で色の変化を認識するが、特許文献1のように可視光線で分解されるメチレンブルーを試薬として使用すると、赤い波長の光を吸収、分解してしまうので、必ずしも正しい評価が行われるとは限らないという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、可視光反応型の光触媒製品の評価を正しく行うことができる光触媒性能の評価試薬および評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光触媒性能の評価試薬は、可視光反応型の光触媒製品を着色し、かつ、前記光触媒製品の光触媒性能を、照射された光で変化する色から評価する試薬であって、アゾ染料を含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記アゾ染料は、アゾ基−N=N−を分子内にもつ合成染料の総称であり、芳香族第一アミンを亜硝酸でジアゾ化してジアゾニウム塩とし、これにフェノール類又は芳香族アミン類をカップリングさせて作製される。このアゾ染料はシアングリーン、ブルー、レッドを例示できる。
【0009】
この構成の発明では、アゾ染料を含む試薬は可視光線は非常に分解されにくいので、可視光反応型の光触媒製品の評価を適正に行うことができる。
また、アゾ染料として入手が容易なシアングリーン、ブルー、レッドを用いることで、光触媒の評価を安価に実施することができる。この点、アゾ染料には、イエローやレッドがあるが、これらの染料は、従来例に比べて効果を有するものの、シアングリーン、ブルー、レッドに比べた効果が十分ではない。
【0010】
本発明の光触媒性能の評価方法は、前述の構成の試薬で前記可視光反応型の光触媒製品を着色した後、前記光触媒製品に可視光線を照射して前記試薬の色の変化を測定し、色の変化を指標にして光触媒性能を測定評価することを特徴とする。
【0011】
この構成の発明では、前述と同様の効果を奏することができる光触媒性能の評価方法を提供することができる。
【0012】
光触媒性能の評価方法の発明において、前記光触媒製品を使用部位に設置することが好ましい。
この構成の発明では、実際に光触媒製品を用いる部位、例えば、室内に光触媒製品を設置し、この光触媒製品を試薬で着色する。この試薬に可視光線を照射して、その色の変化を測定評価する。
そのため、本発明では、実際に使用される使用部位に設置された光触媒製品を直接試薬で着色するから、使用環境に合った精度の高い光触媒の評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態にかかる光触媒性能の評価方法を説明する概略図であり、図2は評価方法を実施するための装置の概略構成図である。
図1(A)には本実施形態の光触媒製品1が示されている。光触媒製品1は、建材2の表面に光触媒コート3を形成した構成である。光触媒コート3は、直接建材2に塗布してもよいが、障子紙や壁紙等の紙、布、その他の担持体に担持させるものであってもよい。光触媒は公知の可視光反応型の光触媒、例えば、窒素ドープ酸化チタン光触媒を用いることができる。
建材2としては種々のものが例示できるが、例えば、無機材料、木質材料等から形成されるタイル、壁材等が該当する。
【0014】
図1(B)に示される通り、光触媒製品1の光触媒コート3に評価試薬4を着色する。この評価試薬4は、照射された可視光で色が変化するものであって、アゾ染料を含む。
このアゾ染料としては、シアングリーン、ブルー、レッド、グレー、イエロー、その他の材料が例示できる。これらのアゾ染料のうち、シアングリーン、ブルー、レッドは変色がわかりやすいので、最も適した材料である。イエローやグレーは、シアングリーン、ブルー、レッドに比べて変色がわかりにくいが、使用状況によっては、利用可能である。
シアングリーンとしては、OG(Kayanol Cyanne Green G)を例示できる。
ブルーとしては、日本化薬株式会社製Kayanol Blue NR Q−056を例示できる。
レッドとしては、日本化薬株式会社製Kayanol Red 3BL P−378を例示できる。
グレーとしては、日本化薬株式会社製Kyakalan Gray BL 167を例示できる。
イエローとしては、日本化薬株式会社製Kayacyl Yellow GG R−305を例示できる。
【0015】
評価試薬4は、例えば、アゾ染料を100%使用してもよいが、アゾ染料を溶液に溶かして作製するものが好ましい。溶液としては、例えば、水、アルコールを例示することができる。
アゾ染料と溶液とは所定割合であり、例えば、布や紙を担持体として使用する場合では、アゾ染料の水に対する割合は、0.05〜1.0g/lの濃度である。この濃度が1.0g/lを超えると、判定に時間がかかりすぎ、0.05g/l未満であると、判断が難しくなる。
アゾ染料に他の材料を混ぜるには、攪拌機を用いる等、種々の手段が採用できる。
【0016】
評価試薬4は光触媒製品1に対して一部設ければ足り、必ずしも光触媒製品1の全面に設けることを要しない。
評価試薬4を光触媒製品1に設ける手段としては、例えば、図1(B)に示される通り、ノズル5から評価試薬4を塗布する方法を採用することができる。ノズル5に設けられた図示しないタンクに評価試薬4を収納し、このタンクからノズル5を通じて評価試薬5を塗布する。
本実施形態では、ノズル5から評価試薬4を刷毛、ローラ等を用いて光触媒製品1に塗布する方法を採用してもよい。
評価試薬4を塗布された光触媒製品1を使用部位に設置する。ここで、使用部位とは光触媒製品1を実際に設置する場所や実際に設置する場所に近い環境の場所をいい、例えば、光触媒製品1を内壁として使用する場合には、内壁を設置する建物内の場所である。
【0017】
その後、図1(C)に示される通り、評価試薬4に可視光を照射する。可視光は、図1(C)に示されるように、蛍光灯6から照射するものでもよく、蛍光灯以外の照明手段から照射するものでもよく、あるいは、太陽光であってもよい。
照射時間は適宜設定されるが、例えば、1週間から4週間である。照度も適宜設定されるものであり、例えば、200lx〜1200lxである。
【0018】
一定時間が経過したら、図1(D)に示される通り、評価試薬4で着色された光触媒製品1の変色の程度を観察する。
この方法は、例えば、建材2の表面に光触媒コート3を塗布して光触媒製品1と、光触媒コート3を塗布しない建材2とにおいて、それぞれ評価試薬4を塗布し、前述の設定照射時間を経過した後での色差(ΔE)の変化を測定するものである。ここで、色差(ΔE)は、例えば、図2で示される光触媒の評価装置で測定できる。
【0019】
図2において、光触媒性能の評価装置は、色差を測定する色差測定器10と、この色差測定装置10からの測定信号を受けて演算する分析器20とを備えて構成されている。
色差測定器10は、市販の色彩色差計、例えば、コニカミノルタ製のCR−400/410をそのまま用いることができる。
分析器20は、色差測定器10からの測定信号を演算するための演算部21と、この演算部21で演算されたデータを記憶するメモリ22と、演算部21で演算した結果を表示する表示部23とを備えている。
【0020】
次に、光触媒性能の評価装置の利用方法について図3に基づいて説明する。図3は光触媒性能の評価装置の概要を示す図である。
本実施形態では、光触媒コート3およびアゾ染料含有の評価試薬4を建材2の可視光受光部位に設け、アゾ染料の光触媒分解に伴う色差の変化を色差測定器10及び分析器20で自動計測する(色差測定(1))。
また、本実施形態では、建材2の汚れ付着部位において、一般家庭での暴露下における光触媒をコートしない部位とコートする部位との色差を色差測定器10によってそれぞれ測定し、これらの測定結果を演算部21で演算処理して表示部21に表示させることで、光触媒の光触媒の防汚性を評価する(色差測定(2)(3))。この際、色差の変化を経時的に記録しデータをメモリ22に蓄積することで長時間の光触媒性能を分析する。
なお、本実施形態では、演算部21は、色差測定器10で自動計測されたアゾ染料を含有した評価試薬4の光触媒分解に伴う色差の変化のデータを取り込むとともに、光触媒性能の励起と効果の程度を出力結果として表示部23に表示させる機能も合わせて有する。この際、暴露開始時にはアゾ染料の色の初期値を記録しておき、光触媒分解による色の経時的変化を測定し、この測定結果を演算部21で演算した後、メモリ22で記憶させる。
本実施形態では、住宅の居住者がアゾ染料を含有した評価試薬4と評価装置とのそれぞれを用いて独自に光触媒製品の防汚性の評価を行うことができる。仮に、居住者が評価装置を所有していなくても、業者(例えば、住宅メーカー)がアゾ染料を含有した評価試薬4を居住者に定期的に配布しておき、居住者に評価試薬4を光触媒をコートしない部位と光触媒をコートした部位とにそれぞれ貼り付け、これらの評価試薬4を所定時間暴露させた後、業者が回収し、その回収された評価試薬4を業者が測定することで、光触媒製品の防汚性評価を行うことができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1は、担持体として障子紙を用い、この障子紙に可視光反応型の光触媒を担持させたものを試験体とした。
この障子紙の試験体を評価試薬4で着色する。評価試薬4はシアングリーンを水で薄めたものであり、その濃度は1g/lである。シアングリーンはOG(Kayanol Cyanne Green G)を用いた。
その後、蛍光灯を点灯し一定量の光を試験体に照射する。その際の照度は1200lxである。
この照射を1週間、2週間、3週間続けて行い、その際の色差(ΔE)を測定した。その結果を表1に示す。
なお、実施例1の効果を確認するために、障子紙に可視光反応型の光触媒を担持させず障子紙そのものを参考の試験体とし、この参考の試験体にシアングリーン1g/lを塗布し、これに一定量の光を1週間、2週間、3週間続けて照射し、その際の色差(ΔE)を測定した。その結果を表1に示す。
【0022】
[実施例2]
実施例2は、担持体として壁紙を用い、この壁紙に可視光反応型の光触媒を担持させたものを試験体とした。それ以外の条件は実施例1と同じである。
[比較例1]
比較例1は実施例1と同様の障子紙に光触媒を担持させた試験体を用い、この試験体をメチレンブルー4で着色する。この際、メチレンブルーは150mol/l用いた。
それ以外の条件は実施例1と同じである。
[比較例2]
比較例2は実施例2と同様の壁紙に光触媒を担持させた試験体を用い、この試験体をメチレンブルー4で着色する。この際、メチレンブルーは比較例1と同量を用いた。
【0023】
【表1】

【0024】
[実施例3]
実施例3は、担持体として障子紙を用い、この障子紙に可視光反応型の光触媒を担持させたものを試験体とした。
この障子紙の試験体を評価試薬4で着色する。評価試薬4はシアングリーンを水で薄めたものであり、その濃度は0.1g/lである。シアングリーンはOG(Kayanol Cyanne Green G)を用いた。
その後、蛍光灯を点灯し一定量の光を試験体に照射する。その際の照度は200lxである。
この照射を1日、3日、5日、7日(1週間)、14日(2週間)続けて行い、その際の色差(ΔE)を測定した。その結果を表2に示す。
なお、実施例3の効果を確認するために、障子紙に可視光反応型の光触媒を担持させず障子紙そのものを参考の試験体とし、この参考の試験体にシアングリーン0.1g/lを塗布し、これに一定量の光を1日、3日、5日、7日、14日続けて照射し、その際の色差(ΔE)を測定した。その結果を表2に示す。
【0025】
[実施例4]
実施例4は、試薬としてシアンブルーを用いた点で実施例3とは異なるが、それ以外の条件は実施例3と同じである。実験結果を表2に示す。
[実施例5]
実施例5は、試薬としてシアンレッドを用いた点で実施例3とは異なるが、それ以外の条件は実施例3と同じである。実験結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
以上の表1および表2の結果から、実施例1〜3のシアングリーンを試薬として用いた場合には、光触媒がない場合には色の変化が殆どなく(実施例1,2ではΔEが2未満)、光触媒がある場合には明らかに色の変化があり(実施例1,2ではΔEが2以上)、性能評価が正確に行えることがわかる。しかも、実施例4のシアンブルーを試薬として用いた場合や実施例5のシアンレッドを試薬として用いた場合にも、光触媒がない場合には色の変化が殆どなく、光触媒がある場合には明らかに色の変化がある。
これに対して、比較例1,2のメチレンブルーを試薬として用いた場合には光触媒があってもなくても色が変化しており、正しい評価ができないことがわかる。
【0028】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)光触媒性能の評価試薬4はアゾ染料を含むから、アゾ染料を含む試薬は可視光線で非常に分解されにくいので、可視光反応型の光触媒製品1の評価を適正に行うことができる。
(2)アゾ染料のうち入手が容易なシアングリーン、ブルー、レッドを用いたから、光触媒の評価を安価に実施することができる。
【0029】
(3)光触媒性能を評価するにあたり、実際に使用される使用部位に設置された光触媒製品1を直接試薬で着色するから、使用環境に合った精度の高い光触媒の評価を行うことができる。
【0030】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、光触媒製品1は、建材2の表面に光触媒コート3の層を形成した構成としたが、本発明では、必ずしも建材2に光触媒を設けるものでなくてもよく、例えば、基材に光触媒を塗布したものを建材とは別個に用いる構成としてもよい。
【0031】
さらに、実際に使用される使用部位に光触媒製品1を設置することを必ずしもすることを要しない。仮に、使用部位に光触媒製品1を設置する場合であっても、前記実施形態のように評価試薬4を塗布した後の光触媒製品1を使用部位に設置するものに限らず、予め使用部位に設置した光触媒製品1に評価試薬4を塗布し、この光触媒製品に光を照射するものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、タイル、壁紙等の内装建材、外壁、ガラス等の外装建材、その他の光触媒製品の可視光反応型光触媒性能の評価に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る光触媒性能の評価方法を説明する概略図。
【図2】本発明の一実施形態に係る光触媒性能の評価装置を示す概略図。
【図3】前記実施形態の光触媒性能の評価装置の概要を示す図。
【符号の説明】
【0034】
1‥光触媒製品、2‥建材、3‥光触媒コート、4‥評価試薬、10…色差測定装置、20…演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光反応型の光触媒製品を着色し、かつ、前記光触媒製品の光触媒性能を、照射された光で変化する色から評価する試薬であって、
アゾ染料を含むことを特徴とする光触媒性能の評価試薬。
【請求項2】
請求項1に記載された光触媒性能の評価試薬において、
前記アゾ染料がシアングリーン、ブルー、レッドのいずれかであることを特徴とする光触媒性能の評価試薬。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された試薬で前記可視光反応型の光触媒製品を着色した後、前記光触媒製品に可視光線を照射して前記試薬の色の変化を測定し、色の変化を指標にして光触媒性能を測定評価することを特徴とする光触媒性能の評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載された光触媒性能の評価方法において、
前記光触媒製品を使用部位に設置することを特徴とする光触媒性能の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−156690(P2009−156690A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334508(P2007−334508)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(307042385)ミサワホーム株式会社 (569)
【Fターム(参考)】