説明

光触媒材料製造用組成物

【課題】高い触媒活性を達成する光触媒材料製造用組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の光触媒材料製造用組成物は、光触媒、バインダー成分及び溶剤を包含する基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物であって、上記バインダー成分が、以下の式:
【化1】


(ここで、Xは水素原子(H)又はメチル基(CH)であり、Rは水素または炭素数が1から10までのアルキル基であり、カルボキシル基のHは非置換であるか又は1から4級のアミン若しくはナトリウム(Na)によって置換されている)
によって表される構造を有する(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料製造用の組成物、並びにこれらを用いた光触媒材料に関し、より詳細には、光触媒、バインダー及び溶剤を包含する光触媒材料製造用組成物、並びにこれらを用いた光触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、通常の触媒とは異なり、光を吸収することによって電子−正孔への電荷分離及び結晶表面におけるヒドロキシル基の結合状態の変化(超親水性現象)を起こして、汚染物質の分解、抗菌、殺菌、セルフクリーニング、及び防曇などといった、人の生活環境の改善に貢献し得るいくつかの機能を発現する。現在、用いられている光触媒は、主として二酸化チタン(TiO)であり、二酸化チタンは、数ナノメートル〜数十ナノメートル(nm)の粒径を有する白色の微粒子である。最近、可視光吸収性の向上を目的として、窒素、硫黄又は炭素などをドープした二酸化チタン、並びに白金又は鉄などの金属化合物を二酸化チタンの表面に担時させた光触媒微粒子が製造され始めている。ナノ粒子は、空気中に飛散しやすいので、光触媒微粒子(ナノ粒子)の形態においてほとんど使用されず、さらに溶液に分散させた場合に最終的な反応生成物から分離する必要が生じるので、光触媒微粒子は、主として適当な基材の表面に固定されて使用される。
【0003】
基材の表面に対する光触媒微粒子の固定には、多くの場合、光触媒微粒子及びバインダーの混合物を溶剤に溶解させたコーティング液が用いられる。光触媒微粒子が固定される基材として、高温処理が可能なセラミックス、ガラス、及び金属などの無機系の基材を用いる場合には、光触媒微粒子の固定に関わる大切な部分を除いて、不要な部分を燃やすことによってバインダーを除去することができる。結果として、比較的多くの光触媒微粒子を表面に露出させることができるので、高活性を示す光触媒材料を容易に得ることができる。さらに、無機系の基材は、二酸化チタンの表面に生じる活性酸素種(OHラジカル及びOラジカルなど等)によって分解されないので、光触媒微粒子を基材に対して直接に固定することができる。一方、光触媒微粒子が固定化される基材として、一般に100℃以上の高温処理を適用できない有機系の基材(プラスチックなど)を用いる場合には、光触媒微粒子がバインダーによって覆われることなく基材に固定され、かつ適度に表面に露出するような、工夫が求められる。さらに、プラスチックが二酸化チタンの表面に生じる活性酸素種によって分解されるので、基材の表面に保護(バリアー)層を設けるなどの対策が必要である。保護層の材料として、上記活性酸素種によって分解されにくいシリカ又はフッ素樹脂などがよく利用されている。保護層の形成以外の、基材の分解を抑制する技術としては、光触媒微粒子の部分被覆が挙げられる。
【0004】
これまでに、プラスチック基材に対する光触媒微粒子の固定に利用可能な、数多くのコーティング液、及びコーティング方法が開発されている。上記コーティング液の例としては、特許文献1〜9に開示されているものが挙げられる。また、上記コーティング方法の例としては、特許文献10〜16に開示されているものが挙げられる。また、アパタイトによって光触媒微粒子を被覆する技術が特許文献17に開示され、かつ両性ポリマーによって光触媒微粒子を被覆する技術が特許文献18に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−89708号公報(平成13年4月3日公開)
【特許文献2】特開2001−279184号公報(平成13年10月10日公開)
【特許文献3】特開2001−323189号公報(平成13年11月20日公開)
【特許文献4】特開2003−3113号公報(平成15年1月8日公開)
【特許文献5】特開2004−50047号公報(平成16年2月19日公開)
【特許文献6】特開2004−269898号公報(平成16年9月30日公開)
【特許文献7】特開2005−139314号公報(平成17年6月2日公開)
【特許文献8】特開2005−179686号公報(平成17年7月7日公開)
【特許文献9】特開2005−29646号公報(平成17年2月3日公開)
【特許文献10】特開2000−318089号公報(平成12年11月21日公開)
【特許文献11】特開2000−107610号公報(平成12年4月18日公開)
【特許文献12】特開2000−313853号公報(平成12年11月14日公開)
【特許文献13】特開2001−277418号公報(平成13年10月9日公開)
【特許文献14】特開2002−285468号公報(平成14年10月3日公開)
【特許文献15】特開2005−35198号公報(平成17年2月10日公開)
【特許文献16】特開2005−113048号公報(平成17年4月28日公開)
【特許文献17】特開2004−195416号公報(平成16年7月15日公開)
【特許文献18】特開2003−213564号公報(平成15年7月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来のコーティング液及びコーティング方法(特許文献1〜16)を用いると、基材に塗布されたコーティング液において、光触媒微粒子がバインダー成分(エポキシ、アクリル、ウレタン、又は酢酸ビニル等)に埋もれるという問題が生じる。光触媒微粒子がバインダー成分に埋もれた状態では、光触媒微粒子が用途に応じた十分な活性を示さないので、製品の効果に対して利用者が抱く信頼が、部分的に損なわれている。光触媒微粒子をプラスチック基材の中に練りこむ方法は、光触媒微粒子が表面に露出する割合が非常に低いので、同様に上記問題を生じる。また、特許文献17及び18に記載の技術は、光触媒微粒子と基材との直接的な接触を抑制するが、バインダー成分の混合比を適切に制御しなければ、上記問題を同様に生じる。以上のことから、従来の技術に代わる、高い光触媒活性を達成し得る、新しい光触媒材料製造用組成物の開発が、強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高い触媒活性を達成する、光触媒材料製造用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明らは、鋭意検討した結果、光触媒、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、及び溶剤を包含する液状混合物を用いれば、上記課題が解決することを見出して、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物は、光触媒、バインダー成分及び溶剤を包含する光触媒材料製造用組成物であって、上記バインダー成分が、以下の式:
【0010】
【化1】

【0011】
(ここで、Xは水素原子(H)又はメチル基(CH)であり、Rは水素または炭素数が1から10までのアルキル基であり、カルボキシル基のHは非置換であるか又は1から4級のアミン若しくはナトリウム(Na)によって置換されており、かつn及びmは1以上の整数である)
によって表される構造を有する(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記光触媒が0重量%より大きく、30重量%以下であり、上記バインダー成分が0重量%より大きく、30重量%以下であり、かつ上記溶剤が40重量%以上100重量%未満であることをことが好ましい。
【0013】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記光触媒及びバインダー成分が、1:0.1〜1:2.0の重量比において包含されることが好ましい。
【0014】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記バインダー成分が、Ciba社製の(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の内、SURCOL 960、SURCOL963若しくはSURCOL969’’のいずれか1つであるか、又はこれらの内の2つの組み合わせであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記光触媒が、二酸化チタン(TiO)、窒素原子、硫黄原子、炭素原子、若しくは炭素原子と窒素原子との組み合わせをドープした二酸化チタン、又は金属若しくは金属化合物を担持した二酸化チタン、又はこれらの二酸化チタンを無機化合物に複合化した光触媒微粒子であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記溶剤が、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール又はこれらの混合物であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記紫外線が、300nm以上、400nm以下の波長を有することが好ましい。
【0018】
また、本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物において、上記基材が、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、及びポリエステルから選択されるポリオレフィン系プラスチックから構成される板、フィルム又はこれらの成型体であるか、又はポリカーボネート、ABS樹脂、ナイロン、紙、ガラス、セラミックス、セメント及びこれらの複合物であるか、又は金属板であることが好ましい。
【0019】
本発明の光触媒材料は、上記基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物を基材の表面に塗布され、乾燥され、かつ紫外線の照射によって活性化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物は、光触媒、バインダー成分及び溶剤を包含し、上記バインダー成分が、上記化学式によって表される構造を有する(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体である。上記(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル重合体が、光触媒と基材とを結び付けるバインダーの役目に加えて、光触媒材料製造用組成物が基材表面に塗膜として形成され、かつし紫外線照射を受けて、光触媒を塗膜の表面に露出させる役目を果たす。また、紫外線照射を受けても上記(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、塗膜表面において光触媒を保持して、光触媒と基材とを結び付けた状態を維持する。従って、本発明の光触媒材料製造用組成物によれば、高い触媒活性、及び種々の基材に対する強固な結合の維持を達成する光触媒材料を、容易に得ることが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】二酸化チタンによってコートしたOPPフィルムの空気浄化試験の結果を示すグラフであり、(a)は1回目の試験結果を示し、かつ(b)は2回目の試験結果を示す。なお、このグラフは、TiOの濃度が10%及びバインダーの濃度が15%(重量比1:1.5)の場合の結果を示している。
【図2】二酸化チタンによってコートしたOPPフィルムの空気浄化試験の結果を示すグラフであり、(a)は1回目の試験結果を示し、かつ(b)は2回目の試験結果を示す。なお、このグラフは、5%の濃度のTiO及び2.5%の濃度のバインダー(重量比1:0.5)を使用した場合の結果を示している。
【図3】紫外線の照射時間と活性(トルエン除去率)との関係を示すグラフであり、(a)はTiOの濃度が1%及びバインダーの濃度が0.5%の場合(重量比1:0.5)の関係であり、かつ(b)は、TiOの濃度が8%及びバインダーの濃度が5%の場合(重量比1:0.6)の関係である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔光触媒材料製造用組成物〕
本発明に係る基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物(以下、単に「本発明に係る光触媒材料製造用組成物」という。)の一実施形態について、以下に説明する。
【0023】
本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、
光触媒、バインダー成分及び溶剤を包含する光触媒材料製造用組成物であって、
上記バインダー成分が、以下の式:
【0024】
【化2】

【0025】
(ここで、Xは水素原子(H)又はメチル基(CH)であり、Rは水素または炭素数が1から10までのアルキル基であり、カルボキシル基のHは非置換であるか又は1から4級のアミン若しくはナトリウム(Na)によって置換されており、n及びmは1以上の整数である)
によって表される構造を有する(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体である光触媒材料製造用組成物である。
【0026】
本発明に係る光触媒材料製造用組成物を使用すれば、基材への塗布および乾燥を経てから紫外線の照射後に、光触媒が触媒活性を発揮する状態において基材との強固な結合を維持する、光触媒材料を容易に製造できる。光触媒が高い触媒活性を発揮する状態とは、光触媒がバインダー成分に埋もれずに(取り囲まれずに)表面に露出した状態であり、かつ触媒反応による処理を所望する対象と光触媒とが容易に接触可能な状態である。バインダー成分として(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を含んでいるので、紫外線の照射後において、光触媒が種々の基材(例えば、無機系の基材及び有機系の基材)に対する強固な結合を維持する。従って、光触媒材料の用途に応じた種々の基材を選択可能である。また、ここで述べた本発明に係る光触媒材料製造用組成物の作用は、当該分野において通常の技術を用いて実現される。通常の技術の一例としては、上記液状混合物の十分な攪拌によって光触媒を分散させてから、基材に対して当該液状混合物を塗布し、かつ乾燥させた後に、塗布面に紫外線を一定時間照射するという容易な方法である。当該方法によって、光触媒材料における高い光触媒活性、及び種々の基材に対する強固な結合の維持が実現される。
【0027】
基材表面に対する塗布、乾燥、及び紫外線の照射後に、光触媒が触媒活性を発揮する状態になるのは、紫外線の照射によって(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、構造変化(おそらく架橋形成又は部分的な分解)を起こして、光触媒が表面に露出するためである。上記構造変化の機構の詳細は明確にはなっていないが、後述の(実施例7)において確認されているように、カルボキシル基が重要であると考えられる。というのも、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と分子構造が非常に近いものは、紫外線照射によって構造変化を起こすが、バインダーとしてよく使用されるポリアクリル酸エチルは、紫外線照射によって構造変化を起こさないためである。従って、本発明における上記作用は、上記化学式によって表される(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体に特有のものである。
【0028】
上記構造変化によって光触媒が表面に露出するのは、以下に挙げる2つの理由(1)(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が分子構造を変化させる際に、バインダー成分に包まれて存在していた光触媒が、不純物とみなされて外に排除されるか、又は(2)バインダー成分の分解によってひび割れが生じて、光触媒が露出するかのいずれかであると考えられる。(1)に関して、高純度の無機物質を得る際に利用される、ゾーンメルティング現象に類似の不純物の排除作用によるものと考えられるが、高分子においてこの作用が報告された例はない。(2)に関して、オルガノシランのコーティング面に紫外線を照射した場合に生じる類似の現象が報告されている。
【0029】
上記化学式において、カルボキシル基のHは、非置換であるか又は1から4級のアミン若しくはナトリウム(Na)によって置換されている。ここで、カルボキシル基のHは、グラフト重合又はイオン結合などの反応によって置換され得る。一例として、実施例7において確認されているように、ポリエチレンイミンとグラフト重合された(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、本発明の光触媒材料製造用組成物に含まれる。また、本発明の光触媒材料製造用組成物には、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、シリコンジオール、又はシリコンジアミンなどとグラフト重合された(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が含まれる。また、本発明の光触媒材料製造用組成物には、イソブチルビニルエーテル又はN−ビニルピロリドンと反応させることによって得られる、ビニルエーテル又はビニルピロリドンのカチオングラフト重合を起こした(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が含まれる。2−メチル 2−オキサゾリンと反応させることによって得られる、オキサゾリン類のカチオン開環重合を起こした(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が含まれる。さらに、本発明の光触媒材料製造用組成物には、水酸化ナトリウム又は重炭酸水素ナトリウムとの反応によってカルボキシル基の水素がNaに置換された(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が含まれる。
【0030】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物における各成分の含有量については、例えば、上記光触媒が0重量%より大きく20重量%以下の範囲であり、バインダー成分が0重量%より大きく、30重量%以下の範囲であり、かつ溶剤が50重量%以上100重量%未満の範囲であることが好ましい。各成分が上記の範囲内であれば、バインダー成分を過度に用いなくてよいので、コスト及び溶液の取り扱いやすさ等の点で有利であり、さらに、基材の特性(柔軟性及びソフト感など)を損なわずに、十分に生かすことができる。また、〔光触媒材料〕の項に後述するように、バインダー成分の量に比例して、紫外線の照射時間を延長させる必要が生じる。これは、上述のバインダー成分の全体において構造変化が起こるまで紫外線を照射する必要があるためである(すなわち、多くの光触媒が表面に露出するまでの時間が長くなる(高活性に達するまでの時間が長くなる))。従って、実際の光触媒材料に求められる光触媒活性に応じて、光触媒及びバインダー成分の重量比を設定することが好ましい。
【0031】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、光触媒及びバインダー成分を、1:0.1〜1:2.0の重量比において包含することが好ましい。上記範囲内において光触媒及びバインダー成分を包含する場合に、光触媒が高い触媒活性を示し、かつ光触媒がバインダー成分によって基材に強固に結合され得る。
【0032】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、Ciba社製の(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の内、SURCOL 960、SURCOL963若しくはSURCOL969’’のいずれか1つであるか、又はこれらの内の2つの組み合わせをバインダー成分として包含することが好ましい。これらのバインダー成分を用いた場合に、光触媒の触媒活性が非常に高くなる(後述の実施例1、3及び4を参照すればよい)。特に、SURCOL 960とSURCOL 963を1:4の比率において組み合わせたバインダー成分によって、光触媒の非常に高い活性が実現される。
【0033】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、二酸化チタン(TiO)、窒素原子、硫黄原子、炭素原子、又は窒素原子と炭素原子との組み合わせをドープした二酸化チタン、又は金属若しくは金属化合物を担持する二酸化チタン、又はこれらの二酸化チタンを無機化合物に複合化した光触媒微粒子を、光触媒として包含することが好ましい。二酸化チタンに窒素原子、硫黄原子又は炭素原子をドープすること、並びに金属又は金属化合物を二酸化チタンに担持させることによって、光触媒の可視光の吸収率が向上する。二酸化チタンに担持される金属又は金属化合物としては、白金、鉄、タングステン、銅、銀及びバナジウムが挙げられる。これらの内の白金及び鉄は、電荷分離効率を高める役目も果たすので、反応を促進するという効果を奏する。また、これらの二酸化チタンと複合化される無機化合物の担体としては、シリカゲル、ゼオライト、炭素系物質(活性炭、カーボンクラスター又はカーボンナノチューブなど)、アパタイト、珪藻土、及び各種の粘土から選択される無機化合物が挙げられる。なお、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、光触媒として、高価なゾル−ゲル(アルコキシチタンのようなTiO前駆体を含むもの)ではなく、粉末状のTiOを用いることができる。この場合、高い触媒活性を示す光触媒材料を、安価にかつ再現性よく製造できる。
【0034】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール又はこれらの混合物を溶剤として包含することが好ましい。溶剤は、バインダー及び光触媒の種類に応じて、選択すればよい、すなわち、溶剤は、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の溶剤に対する溶解性、及び光触媒(微粒子)の分散性が高いものを選択すればよい。例えば、典型的な(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の溶解に適する溶剤の組み合わせとしては、メチルエチルケトン、トルエン及び酢酸エチルの混合物が挙げられる。光触媒の分散性を向上させるために、イソプロピルアルコールがさらに加えられてもよい。
【0035】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、超音波、スターラー又はホモジナイザーを用いて攪拌されることが好ましい。攪拌によって各成分がよく分散した状態において光触媒材料製造用組成物を基剤に塗布すれば、結果として触媒活性の高い光触媒材料を得ることができる。ホモジナイザーを用いて攪拌される場合に、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、特に高い触媒活性を示す。
【0036】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、300nm以上、400nm以下の波長を有する紫外線の照射を受けることが好ましい。光触媒材料製造用組成物が塗布された基材の面に対して、300〜400nmの波長を有する紫外線を一定の時間に渡って照射すると、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(バインダー成分)の分子構造が変化する。当該分子構造の変化を生じさせる(光触媒を露出させる)ために必要な紫外線の照射時間は、使用する(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の種類に応じて異なる。紫外線強度の高い光源を用いれば、紫外線の照射時間を短縮することができる。例えば、13mW/cmの紫外線ランプ(ブラックライト)を用い場合に、紫外線の照射時間は、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の使用量が少なければ(例えば、0.1〜0.5%)少なくとも10時間を要し、かつ使用量が多ければ(例えば、0.5〜20%)15時間以上を要する。
【0037】
また、本発明に係る光触媒材料製造用組成物は、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、及びポリエステルから選択されるポリオレフィン系プラスチックから構成される板、フィルム又はこれらの成型体であるか、又はポリカーボネート、ABS樹脂、ナイロン、紙、ガラス、セラミックス、セメント及びこれらの複合物であるか、又は金属板から構成される基材に適用されることが好ましい。
【0038】
以上のように、本発明に係る光触媒材料製造用組成物によれば、汚染物質の分解、抗菌、殺菌、セルフクリーニング、及び防曇などといった、人の生活環境を改善に貢献し得る光触媒材料を容易に提供できる。また、上記光触媒材料製造用組成物から製造された光触媒材料は、高い触媒活性及び基材との強固な結合の維持を実現する。
【0039】
〔光触媒材料〕
本発明に係る光触媒材料は、基材の表面に、上述した本発明に係る光触媒材料製造用組成物を塗布しかつ乾燥させることによって形成された層を備え、上記層が紫外線の照射を受けている光触媒材料である。上述のように、本発明に係る光触媒材料製造用組成物を用いて製造された光触媒材料は、高い触媒活性及び基材との強固な結合の維持を実現する。
【0040】
本発明に係る光触媒材料は、〔光触媒材料製造用組成物〕において説明した、紫外線の照射を受けていることが好ましい。さらに、本発明に係る光触媒材料は、〔光触媒材料製造用組成物〕に挙げられている基材を備えることが好ましい。
【0041】
また、本発明に係る光触媒材料は、種々の塗布方法を用いて光触媒材料製造用組成物を基材に塗布することによって製造され得る。塗布方法は、基材の種類及び性質若しくは形状に応じて適切な方法を選択すればよい。例えば、ポリオレフィン系プラスチックの基材を使用する場合には、基材の性質(軟質であるか又は硬質であるかなど)又は形状(平板であるか又は形成体)に適した、以下のような塗布方法が挙げられる。平板(軟質のフィルム又はパネルなど)であれば、バーコーティング法、スクリーンプリンティング法、スピンコーティング法、及びスプレイ法等が好ましい。特に、印刷技術の基本と言えるバーコーティング法又はスクリーンプリンティング法を採用した場合、基材に対する光触媒材料製造用組成物の塗布に、既存の各種の印刷装置をそのまま適用することができる。また、成型体(凹凸を有する板、不織布、ネット又は他の3次元構造を有する成型体)であれば、ディップコーティング法、スピンコーティング法及びスプレイ法等が好ましい。このような硬質の基材及び成型体に対しても印刷技術を適用できるが、上記3つのいずれかの塗布方法を採用するのが一般的である。
【0042】
なお、基材に塗布した後の乾燥については、本発明に係る光触媒材料の目的に応じて、適宜、本発明に係る光触媒材料製造用組成物に含まれる溶剤の含有量が、所望の値となるまで溶剤を除去するように乾燥させればよい。例えば、溶剤を全て除去するように乾燥させてもよい。また、乾燥は、室温のドラフトチャンバー内において実施可能であるが、80℃程度まで(基材がポリオレフィン系プラスチックの場合にはこの温度が重要である)の乾燥機内において実施してもよい。室温より高温の乾燥機内において乾燥させれば、処理時間の短縮に繋がる。この他に、溶剤の蒸発量が多くなる、面積の大きい基材に塗布した光触媒材料製造用組成物を乾燥させる場合には、溶剤の揮散を防止できるような専用の乾燥機を使用すればよい。
【0043】
以上のように、本発明に係る光触媒材料によれば、汚染物質の分解、抗菌、殺菌、セルフクリーニング、及び防曇などといった、人の生活環境を改善に貢献し得る。また、本発明に係る光触媒材料は、高い触媒活性及び基材との強固な結合の維持を実現する。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の具体例としての実施例を示す。実施例における記載は、本発明の理解を助けるためのものであって、特許請求の範囲に規定される本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【0045】
〔実施例1〕
本実施例において、本発明に係る光触媒材料製造用組成物を用いて二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムをコーティングして得られた、光触媒材料の表面の光触媒活性を測定した。光触媒活性の測定方法は、JIS R1701−3(ファインセラミックス−光触媒材料の空気浄化性能試験方法−第3部:トルエンの除去性能)に従って行った。光触媒材料製造用組成物である混合物は、10%の光触媒(10g)、15%のバインダー成分(14g)、溶剤として75%の溶剤混合液(36mlのメチルエチルケトン、38mlのトルエン、10mlのイソプロピルアルコール、及び2mlの酢酸エチルからなる混合液)の重量比に調製した。光触媒として石原産業株式会社製のST−01を使用し、かつバインダー成分((メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体)としてCiba社製のSURCOL 960及びSURCOL 963の組み合わせを使用した。光触媒(TiO)及びバインダー成分の重量比は1:1.5である。混合物は、4gのSURCOL 960及び10gのSURCOL 960を、86mlの上記溶剤混合液に溶かした後に、10gの光触媒を加えて、調製された。混合物を5分間に渡って攪拌することによって、光触媒を比較的均一に分散させた。種々の方法(手、手+超音波、メカニカルスターラー及びホモジナイザー)を用いて攪拌することによって、攪拌方法による活性への影響を平行して調べた。
【0046】
次に、縦20cm、横15cm、厚さ0.025mmのOPPフィルムを平らな台の上に置いて、上記混合物の適量をフィルムの上側に滴下し、これを一気にバーコーターを用いて手前側に広げた。その後、フィルムを3〜5分間室温において乾燥させ、ドラフトチャンバー内に数時間さらに放置して溶媒を完全に除去した。これによって、TiOコーティングOPPフィルムを得た。
【0047】
(光触媒活性の測定:空気浄化性能試験)
上記TiOコートOPPフィルムを縦5cm×横10cmの大きさに切ってガラス板に貼り付け、ブラックライトの300−400nmの波長を有する紫外光を16時間照射して前処理した後に、光触媒活性(空気浄化性能)を測定した。試験(流通法)には、JIS R1701−3の規定に従って、幅5.5cm、長さ約30cm、高さ約4cmの空間を有するアクリル製の光照射反応装置を用いた。上面には試験片に紫外線が照射されるように石英製の窓板を付けた。また、気体が、以下の通り道:入り口側から5mmの空気層→材料の上面→出口側の順に移動するように、反応装置内に肉厚の複数のアクリル板を設置した。試験において、紫外線照射下において1ppmのトルエンを含む空気を流したときに、中央に置いたTiOコートOPPフィルムによってトルエンの濃度が減少する割合を測定した。トルエンの濃度分析にはガスクロマトグラフ(GC)を用いた。図1に上記TiOコートOPPフィルムについて試験した結果を示す。最初の30分間(図1における−30〜0分)において、トルエンの光触媒に対する吸着を観察するために紫外光を照射していない。0分から紫外光照射を始めて、光触媒活性(トルエンの濃度)を3時間継続して測定した。CGのデータからトルエンの濃度が減少する割合を除去率(%)として算出した。JIS R1701−3の規定に従って、トルエン除去率(%)は、光照射後の2時間(120分)から3時間(180分)までに測定された、活性の平均値として表わす。
【0048】
図示していないが、従来の方法によって作製した試験片は、ほとんどの光触媒微粒子がバインダー成分(エポキシ、アクリル、ウレタン、又は酢酸ビニルなど)に包まれているので、活性が低かった。トルエン除去率にして数%以下がほとんどで、ゼロ%という材料も数多くみられた。本実施例のTiOコートOPPフィルムにおいて、最初は従来のものと同様に活性がほとんど認められなかった(図1(a))。しかし、紫外光照射時間が長くなるに従ってトルエン濃度が減少した(活性が高くなった)。そして、1時間半(180)を経過した頃からトルエン濃度がほぼ一定の値を示した。このような活性の上昇現象は、紫外光照射によってアクリル酸/アクリル酸エステル系共重合体に分子構造の変化が生じ、その影響によって当初、バインダー成分に包まれていた光触媒微粒子(TiO)が表面に露出したことによって起こると推察される。なお、分子構造の変化は不可逆的なので、同じ試料について再試験すると、2回目にはトルエン濃度がすばやく減少して最初から高い活性を示した(図1(b))。
【0049】
4種の異なる攪拌方法を用いた場合の本実施例に係るTiOコートOPPフィルムのトルエン除去率をまとめて表1に示す。表1から明らかなように、攪拌方法によって活性に違いが見られ、ホモジナイザーによる攪拌が最も高い活性を与えた。また、同一サンプルを用いた2回目の試験では、トルエン除去率が1回目と比べて大幅に向上し、メカニカルスターラー、及びホモジナイザーのそれぞれの攪拌方法において、46.6%、62.6%を示した。このように2回目の活性が大きく向上する理由として、(1)紫外線を用いて再度16時間の前処理したこと、及び(2)1回目の試験に用いたガス(トルエン)がアクリル酸/アクリル酸エステル系共重合体の分子構造変化を加速させたこと等が考えられるが、まだ実験的に証明できていない。なお、トルエンに代えて1ppmのNOガスを用いた測定(JIS R1701−1に従う)において、同様に活性が向上するので、(2)の理由は、特にトルエンに限って適用されることではない。表1の“水洗:”右に示される値は、2回目の試験終了後にサンプル表面を蒸留水によって十分に洗浄した後に再試験した結果を示している。この値と水洗前の値とを比較することによって、TiOの剥離が生じるか否かを調べたものである。水洗及び乾燥の後も高いトルエン除去率を維持することから、TiOは強固に基材表面に固定されていることが分かった。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例2)
実施例1において1回目の活性が緩やかに上昇したため、活性が緩やかに上昇することと、アクリル酸/アクリル酸エステル系共重合体における分子構造変化に要する時間との間に関係があるのではないかと考えた。これを確認するために、本実施例においてSURCOL 960及びSURCOL 963の合計の重量濃度を2.5%まで低下させた。なお、この濃度では10%の光触媒をコーティングすることが不可能であるので、光触媒の濃度を5%に下げた。光触媒(TiO)及びバインダー成分の重量比は1:0.5である。双方の濃度を低下させた結果、調製した試料は、1回目の試験から高活性を示した(図2(a)及び(b))。図2(a)のメカニカルシェーカーを用いて攪拌したものは、最初のうちはトルエン濃度が徐々に低下する(紫外線照射と同時に最大の活性を示さない)一方において、(b)のホモジナイザーを用いて攪拌したものは、紫外線照射とほぼ同時にトルエン濃度が急激に低下した。この結果から、二酸化チタンがよく分散している系において、アクリル酸/アクリル酸エステル系共重合体の分子構造変化が、より起こりやすいのではないかと考える。すなわち、高活性化がバインダーの分子構造変化に連動しているといえる。混合物が2.5%のバインダー及び5%のTiO(光触媒:ST−01)を包含する場合の、TiOコートOPPフィルムの空気浄化性能試験の結果を表2に示す。表2から明らかなように、この条件の混合物を用いて調製したサンプルは、1回目の試験から30%台のトルエン除去率(高い活性)を示し、かつ2回目ではさらに高い40%台のトルエン除去率を示した。異なる光触媒(日本アエロジル P25)を使用した場合のトルエン除去率を表3に示す。P25を用いても、ST−01に劣らないトルエン除去率(高い活性)を示した。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
光触媒材料が高活性化する機序としては、上述のように、アクリル酸/アクリル酸エステル系共重合体が分子構造を変える際、それまでバインダーに包まれて存在していた二酸化チタン微粒子が不純物としてみなされ外に排除されたか、バインダー成分が分解してひび割れが生じて酸化チタンが露出したかのいずれと思われる。空気浄化性能試験(トルエン除去性能試験)において、CO濃度を同時に測定しているので、トルエンを含まない空気を用いてCOのみを測定した。その結果、サンプルの紫外線照射のみによってCOが発生した。これは、バインダー成分の分子構造変化によるものである。
【0055】
実施例1において、2回目の試験後にサンプル表面を水洗しても高いトルエン除去率を維持することから、短期間に例えばバインダー成分の作用が失われてTiOの剥離などは生じないと考えられる。しかし、長期間に渡って使用する場合には剥離が起こらないか否かを確認して、剥離が起こる場合には適当な予防対策を施せばよい。
【0056】
(実施例3)
実施例1及び2において、バインダー成分として、ソフトレジンであるSURCOL 960、及びハードレジンであるSURCOL 963の2種類を、1:2.5の割合において混合して用いた。実施例3では、2種類のSURCOLを、混合せずに単独に2.5%の濃度においてバインダー成分として、5%の濃度のTiOを光触媒として混合物を調製して、OPPフィルムにバーコーティングした。実施例1及び2と同じく紫外線による前処理を16時間行い、TiOコートOPPフィルムの活性を調べた。得られた結果を表4に示した。トルエン除去率は攪拌方法によって異なった。また、ソフトレジンのSURCOL 960のトルエン除去率が22〜31%であり、かつ14〜23%であるハードレジンSURCOL 963の除去率よりかなり大きかった。このことから、単独において用いる場合にはソフトレジンSURCOL 960の方が有利であるといえる。しかし、SURCOL 960及びSURCOL 963の2種類を1:2.5の割合において混合した場合(表1〜3)より除去率が低いため、高い除去率を得るには、予め実験によって光触媒とバインダー成分との適切な混合比を求めておく必要があると考えられる。
【0057】
【表4】

【0058】
(実施例4)
実施例1では光触媒(TiO)及びバインダー成分の重量比を1:1.5に設定し、かつ実施例2及び3では光触媒(TiO)及びバインダー成分の重量比を1:0.5に設定した混合物を調製してコーティングを行い、活性を調べた。実施例1ではバインダーの使用量が多かったため、TiOの露出に要する紫外線の照射時間が長い傾向を示した。一方、実施例2および3では、バインダーの使用量を少なくしたため、紫外線の照射時間が短縮されたが、フィルムにコーティングできるTiOの量が少なくなるため、中程度の活性しか得られなかった。紫外線の照射を短縮し、かつ高い活性を示す条件を見出すために、TiOの濃度を8%、SURCOLの濃度を5%に設定してコーティングを行い、活性を調べた。これと平行して、それほど高い活性を必要としない用途もあり得るので、逆にTiOの濃度を1%減らし、かつSURCOLの濃度も0.5%に減らして活性評価も行った。これらの結果を表5に示した。8%のTiOの場合にトルエン除去率は約45%であり、かつ1%のTiOの場合にトルエン除去率は約10%であった。これらの結果から、用途に応じた活性を得るためのTiO及びバインダーの好適な使用量が、わかった。
【0059】
【表5】

【0060】
(実施例5)
紫外線の照射時間と活性(トルエン除去率)との関係は図3に示す通りであった。(a)のグラフは、TiOの濃度が1%であり、バインダー成分の濃度が0.5%である場合を示しており、かつ(b)のグラフは、TiOの濃度が8%であり、バインダー成分の濃度が5%である場合を示している。これらの結果から、紫外線の照射は、バインダー濃度が低い場合には少なくとも10時間行う必要があり、かつバインダー濃度が高い場合には15時間以上行う必要があることがわかった。
【0061】
(実施例6)
基材としてのポリプロピレン(PP)のネット及び不織布、ポリエチレン(PE)のフィルム及びネット、並びにポリエステルのネット及び綿を、バーコーターによってコーティングして、活性を調べた。コーティングに用いた混合物は、実施例4と同様に、8%の濃度のTiO及び5%の濃度のバインダー成分(重量比1:0.6)の条件に設定した。結果を表6に示した。PPの場合のトルエン除去率は、ネットにおいて11.2%、やや厚手の不織布において20.9%、薄手の不織布において14.6%であり、比較的良好な結果であった。PEフィルムのトルエン除去率は、攪拌方法がメカニカルスターラー又は超音波によって攪拌した場合に5%前後であり、ホモジナイザーによって攪拌した場合にはやや向上して9%であり、OPPフィルムのときのような高い活性は得られなかった。綿にコーティングした場合のトルエン除去率は、11.6%であって、OPPフィルムの活性に届くほどの高い活性を示さなかった。OPPフィルムが他の基材と比べて極めて高い活性を示すことが明らかなことから、基材の性質が活性に何らかの影響を与えていると推察される。
【0062】
【表6】

【0063】
(実施例7)
光触媒としてST−01をそのまま使用し、バインダーの種類を他のアクリル酸エステル類(産物)に代えてバーコーティングを行い、活性を調べた。基材としてOPPフィルムを用い、実施例4と同様に、8%の濃度のTiO、及び5%の濃度のバインダー成分(重量比1:0.6)の条件に設定した。バインダーとして、試薬のポリアクリル酸エチル(製品A)、市販のメタアクリル酸、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸メチル及びメタアクリル酸ブチルの共重合体に対するポリエチレンイミンのグラフト化物(産物B)、並びに(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と非常に近い分子構造を有する(赤外吸収スペクトルによって確認済)市販のアクリル製コーティング剤(産物C)を用いた。活性の測定結果を表7に示した。ポリアクリル酸エチル(産物A)をバインダーとして用いた場合には、先に述べたように紫外線照射しても活性の向上が起こらない。一方、カルボキシル基を有する製品B、及び赤外スペクトルからカルボキシル基を有すると推定される製品Cのそれぞれは、SURCOLの使用時ほどには高い活性を示さないが、15.6%、11.3%のトルエン除去率を示した。
【0064】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、高い光触媒活性をする光触媒材料製造用組成物を提供することができる。本発明に係る光触媒材料製造用組成物を用いて製造された光触媒材料は、空気中又は水中に存在する各種汚染物質の分解、セルフクリーニング、殺菌等に使用する機能的材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒、バインダー成分及び溶剤を包含する光触媒材料製造用組成物であって、
上記バインダー成分が、以下の式:
【化1】

(ここで、Xは水素原子(H)又はメチル基(CH)であり、Rは水素または炭素数が1から10までのアルキル基であり、カルボキシル基のHは非置換であるか又は1から4級のアミン若しくはナトリウム(Na)によって置換されており、n及びmは1以上の整数である)
によって表される構造を有する(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であることを特徴とする基材の表面に塗布され、乾燥され、紫外線の照射を受けるための光触媒材料製造用組成物。
【請求項2】
上記光触媒が0重量%より大きく、30重量%以下であり、上記バインダー成分が0重量%より大きく、30重量%以下であり、かつ上記溶剤が40重量%以上100重量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項3】
上記光触媒及びバインダー成分が、1:0.1〜1:2.0の重量比において包含されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項4】
上記バインダー成分が、Ciba社製の(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の内、SURCOL 960、SURCOL963若しくはSURCOL969’’のいずれか1つであるか、又はこれらの内の2つの組み合わせであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項5】
上記光触媒が、二酸化チタン(TiO)、窒素原子、硫黄原子、炭素原子若しくは窒素原子と炭素原子との組み合わせをドープした二酸化チタン、金属若しくは金属化合物を担持する二酸化チタン、又はこれらの二酸化チタンを無機化合物に複合化した光触媒微粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項6】
上記溶剤が、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項7】
上記紫外線の波長が、300nm以上、400nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項8】
上記基材が、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、及びポリエステルから選択されるポリオレフィン系プラスチックから構成される板、フィルム又はこれらの成型体であるか、又はポリカーボネート、ABS樹脂、ナイロン、紙、ガラス、セラミックス、セメント及びこれらの複合物であるか、又は金属板であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光触媒材料製造用組成物。
【請求項9】
基材の表面に塗布され、乾燥され、かつ紫外線の照射によって活性化されている請求項1〜8のいずれか1項に記載の光触媒材料製造用組成物を備えることを特徴とする光触媒材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−188217(P2010−188217A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32020(P2009−32020)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(508066223)ナショナル サイエンス アンド テクノロジー ディベロップメント エイジェンシー (2)
【氏名又は名称原語表記】National Science and Technology Development Agency
【住所又は居所原語表記】111 Thailand Science Park,Paholyothin Rd.,Klong 1,Klong Luang,Pathumthani 12120 THAILAND
【Fターム(参考)】