説明

光触媒構造体およびその製造方法

【課題】光触媒反応の効率を向上できる光触媒構造体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る光触媒構造体は、基材と、この基材表面に形成され、酸化チタン結晶粒が固着した酸化チタン層と、この酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に固着した白金族金属粒と、を備え、白金族金属粒は酸化チタン結晶粒間の粒界に実質的に存在せず、酸化チタン層は、酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下であり、白金族金属粒の平均粒径が20nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光触媒性能を有する光触媒構造体およびその製造方法に関するものであり、特に、空気浄化、水浄化などの環境浄化装置に適用できる光触媒構造体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は光を照射されて触媒作用を有するものであり、近年、空気浄化・脱臭、水浄化・排水処理、防汚、抗菌・殺菌、防曇等の広い分野で注目されている。光触媒は、光を照射されることにより、強い酸化作用や超撥水作用を示し、たとえば、有機物を分解して空気を浄化したり、防曇作用を発現したりする。
【0003】
光触媒の酸化作用は、以下の機構により発現すると考えられている。すなわち、光半導体粒子にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光が与えられると、価電子帯に存在している電子は光励起されて伝導帯に移動し、価電子帯に正孔(ホール)が生成される。
【0004】
伝導帯の電子(e)は酸素(O)と反応してスーパーオキサイドアニオン(・O)を生成し、価電子帯の正孔(h)は水と反応してヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。スーパーオキサイドアニオン(・O)およびヒドロキシラジカル(・OH)は強い酸化力を示すため、光触媒に酸化作用が生じる。
【0005】
光触媒は、応用範囲が極めて広く、また、太陽光または蛍光灯の光などをエネルギー源として直接利用できるため、環境に優しいという点で注目されている。しかし、光触媒の触媒反応はあまり強力でなくまた迅速でもないため、触媒反応の効率を向上させることが望まれている。
【0006】
光触媒の触媒反応の効率の向上を目的とする従来技術としては、以下のものが挙げられる。
【0007】
例えば、特開平9−262482号公報(特許文献1)には、Cr、Cu、Pd、Pt等から選択される1種以上の金属イオンを特定の割合で酸化チタンの表面から内部に含有する光触媒が開示されている。この光触媒によれば、紫外光に加え可視光を利用して触媒反応を行えるため、光触媒の効率の向上を図れる。
【0008】
また、特開平2−107339号公報(特許文献2)には、3次元網目構造の基材上に、光触媒活性成分を担持させた光触媒が開示されている。この光触媒によれば、光触媒の効率が向上するとともに、充填して使用するときに圧力損失が少なくなる。
【0009】
さらに、特開平8−103631号公報(特許文献3)には、球状の耐熱ガラスが融着されてなる基材の表面が酸化チタン膜で被覆された光触媒が開示されている。この光触媒によれば、表面積が大きく、入射光が酸化チタン全体に当たるため、効率良く汚染物質を吸着または分解除去できる。
【特許文献1】特開平9−262482号公報
【特許文献2】特開平2−107339号公報
【特許文献3】特開平8−103631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された光触媒では光触媒の効率が十分でなく、光触媒の効率の向上が求められていた。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、光触媒反応の効率を向上できる光触媒構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光触媒構造体は、上記問題点を解決するものであり、基材と、この基材表面に形成され、酸化チタン結晶粒が固着した酸化チタン層と、この酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に固着した白金族金属粒と、を備え、前記白金族金属粒は前記酸化チタン結晶粒間の粒界に実質的に存在せず、前記酸化チタン層は酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下であり、前記白金族金属粒は平均粒径が20nm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光触媒構造体の製造方法は、上記問題点を解決するものであり、酸化チタン層の表面に白金族金属を含む液状組成物を付着させ、この液状組成物を乾燥させ、熱処理して、前記酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に白金族金属粒を固着させる光触媒構造体の製造方法であって、前記酸化チタン層は酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下であり、前記白金族金属粒は平均粒径が20nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光触媒構造体は、光触媒反応の効率が高く、低コストで量産可能である。
【0015】
また、本発明に係る光触媒構造体の製造方法は、光触媒反応の効率が高い光触媒構造体を、低コストで量産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[光触媒構造体]
本発明に係る光触媒構造体は、基材と、この基材表面に形成された酸化チタン層と、この酸化チタン層の表面に固着した白金族金属粒とを備える。
【0017】
(基材)
本発明で用いられる基材としては、3次元網目構造を有する基材が用いられる。3次元網目構造を有する基材としては、たとえば、コーディエライト(MgAlSi18)を主成分とするケイ酸塩、アルミナ珪酸ガラス等が挙げられる。ここで、コーディエライトを主成分とするとは、ケイ酸塩の50重量%以上がコーディエライトであることを意味する。3次元網目構造を有する基材は、コーディエライトであると、酸化チタン層が基材から剥離しにくいため好ましい。3次元網目構造を有する基材は、開気孔率が75%以上であると、圧力損失が小さいため好ましい。
【0018】
(酸化チタン層)
酸化チタン層は、基材の表面に形成される。酸化チタン層は、酸化チタン結晶粒同士が固着したものになっている。酸化チタン層は、酸化チタン層の厚さ方向に酸化チタン結晶粒が1層以上存在するようになっている。酸化チタン層の厚さ方向に酸化チタン結晶粒が2層以上存在する場合は、酸化チタン結晶粒間に隙間が生じてもよい。この隙間は、酸化チタン結晶粒が3個以上接触した部分に生じることがある。
【0019】
酸化チタン層は、酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下、好ましくは6nm〜100nmである。酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下であると、酸化チタン結晶粒の比表面積が大きく光触媒反応の活性が高いため好ましい。
【0020】
ここで、酸化チタン結晶粒の平均粒径とは、物理吸着による窒素ガス吸着法を用いて測定した酸化チタン結晶粒の平均粒径を意味する。
【0021】
酸化チタン層は、酸化チタンの真密度4.26g/cmに対する相対密度が85%以上、好ましくは85%〜100%である。酸化チタンの相対密度が85%以上であると、酸化チタン層の強度が高く、かつ、光触媒反応の活性が高いため好ましい。酸化チタンの相対密度が85%未満であると、酸化チタン層の強度が低いため酸化チタン層が基材から剥離する等のおそれがある。
【0022】
酸化チタン層は、平均厚さが1μm〜300μmであると、基材から剥離しにくいため好ましい。
【0023】
(白金族金属粒)
白金族金属粒は、酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に固着される。また、白金族金属粒は酸化チタン層の酸化チタン結晶粒間の粒界に実質的に存在しないようになっている。酸化チタン層の酸化チタン結晶粒間に隙間が生じる場合は、白金族金属粒は、この隙間にある酸化チタン結晶粒の表面に存在していてもよい。
【0024】
白金族金属粒は、Pt、Ru、Rh、Pd、OsおよびIrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属からなる。
【0025】
また、白金族金属粒は、Ptと、Ru、Rh、Pd、OsおよびIrから選ばれる少なくとも1種の元素との合金であると、光触媒反応の活性を高く保ったまま、高価な白金族金属の中でも特に高価なPt(白金)の使用量を少なくすることができ経済的であり、さらに合金化すると白金単独の場合より光触媒反応の活性が向上するため好ましい。
【0026】
ここで白金族金属粒が合金であるとは、第1の白金族金属の粒子と、第1の白金族金属以外の白金族金属の粒子とが、それぞれ酸化チタン結晶粒の表面に固着していることを意味する。第1の白金族金属の粒子と、第1の白金族金属以外の白金族金属の粒子とは、固着していてもよいし固着していなくてもよい。
【0027】
たとえば、第1の白金族金属の粒子が白金粒で、第1の白金族金属以外の白金族金属の粒子がルテニウム粒であり、これらがそれぞれ酸化チタン結晶粒の表面に固着している場合、白金−ルテニウム合金が形成されていると認定する。
【0028】
さらに、白金族金属粒は、合金中のPtの含有量が50mol%以上であると、光触媒反応の活性が高いため好ましい。
【0029】
白金族金属粒は、実質的に酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面のみに形成され、酸化チタン結晶粒の粒界や酸化チタン結晶粒内部には実質的に存在しない。本発明では、実質的に光触媒反応の反応場である酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面のみに触媒活性成分である白金族金属粒が存在するため、光触媒反応が効率的に行われ、高価な白金族金属の使用量が少なくても、光触媒反応の活性が高い。
【0030】
一般的に、酸化チタンに紫外線が照射させると、表面に電子と正孔が生成することによって光触媒反応が起こるが、この電子と正孔は再結合し、活性を低下させる原因となっている。そこで白金族微粒子を表面に担持させると、電子と正孔の再結合を抑制し、効率よく光触媒反応が起こる。白金族金属粒は平均粒径が20nm以下、好ましくは1nm〜20nmである。白金族金属粒の平均粒径が20nm以下であると、光触媒反応の活性が高いため好ましい。
【0031】
白金族金属粒の平均粒径が20nmを超えると、光触媒反応の活性が低くなるおそれがある。
【0032】
ここで、白金族金属粒の平均粒径とは、水素による化学吸着法を用いて測定した平均粒径を意味する。
【0033】
白金族金属粒は、酸化チタン層に対し、0.9mmol%以下、好ましくは0.5mmol%〜0.9mmol%の量で形成される。
【0034】
白金族金属粒が酸化チタン層に対し0.9mmol%以下であると光触媒反応の活性が高いため好ましい。また、白金族金属粒が酸化チタン層に対し0.5mmol%〜0.9mmol%であると、光触媒反応の活性がより高いためさらに好ましい。
【0035】
光触媒構造体の光触媒反応の活性は、たとえば、光を当てた光触媒構造体にアンモニア含有ガスを供給し、光触媒構造体を流通後、アンモニア含有ガス中のアンモニアの含有量を測定することにより調べることができる。
【0036】
[光触媒構造体の製造方法]
本発明に係る光触媒構造体は、たとえば、以下の方法により製造することができる。
【0037】
初めに、基材の表面に酸化チタンゾルを付着させる。基材の表面に酸化チタンゾルを付着させる方法としては、たとえば、基材に酸化チタンゾルを含浸させる方法が挙げられる。
【0038】
酸化チタンゾルは、平均粒径が、通常1nm〜20nm、好ましくは3nm〜10nmのものを用いる。
【0039】
酸化チタンゾルの平均粒径が1nm〜20nmであると、結晶粒の平均粒径が100nm以下の酸化チタン結晶粒からなる酸化チタン層の形成が容易であるため好ましい。
【0040】
次に、付着させた酸化チタンゾルを乾燥させ、熱処理して酸化チタン層を得る。酸化チタンゾルの熱処理は、酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下、好ましくは6nm〜100nmになるように行う。上記平均粒径の酸化チタン結晶粒は、たとえば、大気中、350℃〜700℃で、2時間〜8時間、加熱処理することにより得られる。
【0041】
酸化チタン結晶粒の平均粒径は、物理吸着による窒素ガス吸着法を用いて測定することができる。
【0042】
さらに、酸化チタン層の表面に白金族金属を含む液状組成物を付着させる。白金族金属を含む液状組成物は、Pt、Ru、Rh、Pd、OsおよびIrから選ばれる少なくとも1種の元素の液状組成物である。液状組成物の具体例としては、塩化白金酸、塩化パラジウム、酸化イリジウム、酢酸ロジウム、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム、オスミウム酸カリウムを含む溶液等が挙げられる。
【0043】
白金族金属を含む液状組成物は、酸化チタン層の表面に付着させ、乾燥させ、熱処理することにより、酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に白金族金属粒を固着させるものである。
【0044】
白金族金属粒を、Pt、Ru、Rh、Pd、OsおよびIrから選ばれる2種以上の金属からなる白金合金とする場合は、たとえば、異なる白金族金属を含む液状組成物を2種以上混合してから酸化チタン層の表面に付着させることにより白金合金を得ることができる。
【0045】
次に、付着させた白金族金属を含む液状組成物を乾燥させ、熱処理することにより酸化チタン結晶粒の表面に固着した白金族金属粒を得る。白金族金属を含む液状組成物の熱処理は、白金族金属粒の平均粒径が20nm以下、好ましくは1nm〜20nmになるように行う。上記平均粒径の白金族金属粒は、たとえば、大気中、200℃〜600℃で、0.5時間〜4時間、加熱処理することにより得られる。
【0046】
白金族金属粒の平均粒径は、水素による化学吸着法を用いて測定することができる。
【0047】
以上の工程により、本発明に係る光触媒構造体が得られる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0049】
[実施例1−1]
(基材)
基材として、コーディエライト(MgAlSi18)を主成分とし、開気孔率85%の3次元網目構造を有するケイ酸塩を用いた。
【0050】
(酸化チタン膜の形成)
基材に、濃度30%、結晶粒径6nmの酸化チタンゾルとポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、ポリエチレングリコール200)の混合物を含浸し、乾燥させた。その後、大気中、600℃で4時間熱処理することにより、基材上に酸化チタン膜が形成された光触媒モジュールを作製した。
【0051】
(白金族金属粒の形成)
酸化チタン膜が形成された光触媒モジュールを、白金換算濃度が0.2mmol%の塩化白金酸水溶液に浸けた後、大気中、500℃で1時間熱処理することにより、基材上の酸化チタン膜表面に白金粒が形成された光触媒モジュールを作製した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0052】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に白金粒が存在することが分かった。
【0053】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、物理吸着による窒素ガス吸着法を用いて酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の平均粒径を測定した。また、得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、水素による化学吸着法を用いて白金粒の平均粒径を測定した。測定結果を表3に示す。
【0054】
(アンモニアの分解効率の測定)
光触媒膜の光触媒効率を、アンモニアの分解効率の測定により評価した。具体的には、最終的に得られた光触媒モジュールにブラックライト(平均波長370nm、強度3mW/cm)の光を当てながら、空気中にアンモニアを濃度100ppmで含み、流量を0.5l/minとしたアンモニアガスを光触媒モジュールの一方から流入した。そして、流入した側と反対の光触媒モジュールの出口側におけるアンモニア濃度を測定した。
【0055】
光触媒モジュールのアンモニアの分解効率の測定結果を表3および図1に示す。
【0056】
[実施例1−2〜実施例1−3、比較例1](酸化チタン結晶粒の粒径の影響)
酸化チタン膜の形成の熱処理の温度と処理時間を変えることにより、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の平均粒径を表3に示すように変えた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0057】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に白金粒が存在することが分かった。
【0058】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表3および図1に示す。
【0059】
[比較例2](白金族金属粒の影響)
白金族金属粒を作製しない以外は実施例1−1と同様にして基材上に酸化チタン膜が形成された光触媒モジュールを作製した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0060】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表3および図6に示す。
【0061】
酸化チタン結晶粒の平均粒径を変えた実施例1−1〜実施例1−3、比較例1および比較例2の結果より、図1に示すように、酸化チタン結晶粒の平均粒径が120nmである場合には出口側のアンモニア濃度が50ppmを超え光触媒効率が低下するが、酸化チタン結晶粒の平均粒径が95nm以下の場合には出口側のアンモニア濃度が30ppmよりも低く光触媒効率が良好であることが分かった。
【0062】
[実施例2−1〜実施例2−2、比較例3](白金粒の粒径の影響)
白金族金属粒の形成の熱処理の温度と処理時間を変えることにより、白金族金属粒の白金粒の平均粒径を表3に示すように変えた以外は実施例2と同様にして光触媒モジュールを作製した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0063】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に白金粒が存在することが分かった。
【0064】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表3および図2に示す。
【0065】
白金粒の平均粒径を変えた実施例2−1〜実施例2−2および比較例3の結果より、図2に示すように、白金粒の平均粒径が22nmである場合には、出口のアンモニア濃度が50ppmを超えているが、平均粒径が19nm以下である場合には、出口のアンモニア濃度は30ppmよりも低く光触媒効率が良好であることが分かった。
【0066】
[比較例4](白金相の存在部位の影響)
(光触媒膜作製用液状組成物の作製)
濃度30%、結晶粒径6nmの酸化チタンゾルとポリエチレングリコールの混合物に、白金換算濃度が0.2mmol%である塩化白金酸水溶液を混合して、光触媒膜作製用液状組成物を作製した。
【0067】
(光触媒膜の作製)
実施例1−1と同様の基材に、光触媒膜作製用液状組成物を含浸し、乾燥させた。その後、大気中、500℃で1時間熱処理することにより、基材上に、酸化チタンと白金を含む光触媒膜が形成された光触媒モジュールを作製した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0068】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面および酸化チタン結晶粒間の粒界に白金粒が存在することが分かった。
【0069】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表3および図3に示す。図3には、実施例1−1の測定結果も併せて示す。
【0070】
酸化チタン結晶粒の粒界に白金相が存在するか否かを変えた比較例4および実施例1−1の結果より、図3に示すように、白金が酸化チタン結晶粒界に存在する場合には、出口側のアンモニア濃度は50ppm以上を示し光触媒効率が低下することが分かった。
【0071】
[実施例3−1〜実施例3−4](酸化チタン層の密度の影響)
濃度30%、結晶粒径6nmの酸化チタンゾルに、添加するポリエチレングリコールの量を変えた点以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した。
【0072】
実施例3−1〜実施例3−4とした。ポリエチレングリコールの添加量は、酸化チタン膜の相対密度が所定量(83%(実施例3−1)、86%(実施例3−2)、91%(実施例3−3)、97%(実施例3−4))になるように調整した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0073】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に白金粒が存在することが分かった。
【0074】
また、酸化チタン膜の膜厚を測定し、この膜厚と酸化チタン重量とから酸化チタン膜の相対密度を算出した。酸化チタン膜の相対密度は、酸化チタンの真密度4.26g/cmを100%としたときの相対密度として求めた。
【0075】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表3および図4に示す。
【0076】
酸化チタン膜の相対密度を変えた実施例3−1〜実施例3−4の結果より、図4に示すように、酸化チタン膜の相対密度が97%から86%の範囲にある場合には、相対密度83%の場合と比較して出口のアンモニア濃度が低く、良好な光触媒効率を示すことが分かった。
【0077】
[実施例4−1〜実施例4−5](塩化白金酸水溶液の白金濃度の影響)
白金換算濃度が0.1mmol%(実施例4−1)、0.2mmol%(実施例4−2)、0.5mmol%(実施例4−3)、0.7mmol%(実施例4−4)、0.9mmol%(実施例4−5)、になるように塩化白金酸水溶液の濃度を変えた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した。光触媒モジュールの製造条件を表1に示す。
【0078】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に白金粒が存在することが分かった。
【0079】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表3および図5に示す。
【0080】
塩化白金酸水溶液の濃度を変えた実施例4−1〜実施例4−5の結果より、図5に示すように、白金粒の白金量が酸化チタン膜の酸化チタンに対し0.1mmol%、0.2mmol%である場合は出口のアンモニア濃度は25ppmより低く光触媒効率は良好であるが、0.5mmol%、0.7mmol%、0.9mmol%とした場合にはさらに良好であることが分かった。
【0081】
[実施例5−1〜実施例5−6](白金族金属種類の影響)
酸化チタンゾル中の酸化チタン量に対する白金換算濃度が0.2mmol%の塩化白金酸水溶液に代えて、以下の白金族金属を含む溶液を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュール(実施例5−1〜実施例5−6)を作製した。
【0082】
すなわち、実施例1−1の白金換算濃度が0.2mmol%の塩化白金酸水溶液(実施例5−1)に代えて、ルテニウム換算濃度が0.2mmol%のトリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(実施例5−2)、ロジウム換算濃度が0.2mmol%の酢酸ロジウム(実施例5−3)、パラジウム換算濃度が0.2mmol%の塩化パラジウム(実施例5−4)、オスミウム換算濃度が0.2mmol%のオスミウム酸カリウム(実施例5−5)またはイリジウム換算濃度が0.2mmol%の酸化イリジウム(実施例5−6)を用いた。光触媒モジュールの製造条件を表2に示す。
【0083】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に、白金粒(実施例5−1)、ルテニウム粒(実施例5−2)、ロジウム粒(実施例5−3)、パラジウム粒(実施例5−4)、オスミウム粒(実施例5−5)、イリジウム粒(実施例5−6)が存在することが分かった。
【0084】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金族金属粒(白金粒、ルテニウム粒、ロジウム粒、パラジウム粒、オスミウム粒、イリジウム粒)の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表4および図6に示す。図6には、比較例2の測定結果も併せて示す。
【0085】
[実施例6−1〜実施例6−20](白金族金属合金の種類と、白金族金属合金中の白金含有比率の影響)
白金族金属粒形成用の液状組成物として、塩化白金酸水溶液とトリス(アセチルアセトナト)ルテニウムとを混合して作製した、白金換算濃度が0.2mmol%、ルテニウム換算濃度が0.2mmol%の液状組成物を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した(実施例6−1、6−6、6−11、6−16)。
【0086】
また、白金族金属粒形成用の液状組成物として、塩化白金酸水溶液と酢酸ロジウムとを混合して作製した、白金換算濃度が0.2mmol%、ロジウム換算濃度が0.2mmol%の液状組成物を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した(実施例6−2、6−7、6−12、6−17)。
【0087】
さらに、白金族金属粒形成用の液状組成物として、塩化白金酸水溶液と塩化パラジウムとを混合して作製した、白金換算濃度が0.2mmol%、パラジウム換算濃度が0.2mmol%の液状組成物を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した(実施例6−3、6−8、6−13、6−18)。
【0088】
また、白金族金属粒形成用の液状組成物として、塩化白金酸水溶液とオスミウム酸カリウムとを混合して作製した、白金換算濃度が0.2mmol%、オスミウム換算濃度が0.2mmol%の液状組成物を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した(実施例6−4、6−9、6−14、6−19)。
【0089】
さらに、白金族金属粒形成用の液状組成物として、塩化白金酸水溶液と酸化イリジウムとを混合して作製した、白金換算濃度が0.2mmol%、イリジウム換算濃度が0.2mmol%の液状組成物を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した(実施例6−5、6−10、6−15、6−20)。
【0090】
実施例6−1〜実施例6−5は、液状組成物中の白金とルテニウム等の白金以外の白金族金属とのモル比が4:6になるようにした。
【0091】
実施例6−6〜実施例6−10は、液状組成物中の白金とルテニウム等の白金以外の白金族金属とのモル比が5:5になるようにした。
【0092】
実施例6−11〜実施例6−15は、液状組成物中の白金とルテニウム等の白金以外の白金族金属とのモル比が6:4になるようにした。
【0093】
実施例6−16〜実施例6−20は、液状組成物中の白金とルテニウム等の白金以外の白金族金属とのモル比が7:3になるようにした。
【0094】
光触媒モジュールの製造条件を表2に示す。
【0095】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に、白金粒とルテニウム粒が固着し(実施例6−1、6−6、6−11、6−16)、白金粒とロジウム粒が固着し(実施例6−2、6−7、6−12、6−17)、白金粒とパラジウム粒が固着し(実施例6−3、6−8、6−13、6−18)、白金粒とオスミウム粒が固着し(実施例6−4、6−9、6−14、6−19)、白金粒とイリジウム粒が固着して(実施例6−5、6−10、6−15、6−20)いることが分かった。
【0096】
実施例6−1〜実施例6−5は、酸化チタン結晶粒の表面に形成される白金族金属粒の白金粒の比率が40mol%、白金以外の白金族金属の粒子の比率が60mol%であった。
【0097】
実施例6−6〜実施例6−10は、酸化チタン結晶粒の表面に形成される白金族金属粒の白金粒の比率が50mol%、白金以外の白金族金属の粒子の比率が50mol%であった。
【0098】
実施例6−11〜実施例6−15は、酸化チタン結晶粒の表面に形成される白金族金属粒の白金粒の比率が60mol%、白金以外の白金族金属の粒子の比率が40mol%であった。
【0099】
実施例6−16〜実施例6−20は、酸化チタン結晶粒の表面に形成される白金族金属粒の白金粒の比率が70mol%、白金以外の白金族金属の粒子の比率が30mol%であった。
【0100】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金族金属粒(白金粒、ルテニウム粒、ロジウム粒、パラジウム粒、オスミウム粒、イリジウム粒)の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表4および図7に示す。
【0101】
白金合金中の金属元素の種類や白金の含有比率を変えた実施例6−1〜実施例6−20の結果より、図7に示すように、白金の含有比率が50mol%以上では出口のアンモニア濃度がいずれも40ppmよりも低く光触媒効率が良好であったが、白金の含有比率が40%以下になると光触媒効率が低下することが分かった。
【0102】
[実施例7−1](基材の種類の影響)
また、基材として、セルの断面形状が正六角形の無機繊維製ハニカム基材を用いた以外は実施例1−1と同様にして光触媒モジュールを作製した(実施例7−1)。光触媒モジュールの製造条件を表2に示す。
【0103】
得られた光触媒モジュールの光触媒膜について、SEMおよびEDXで観察したところ、実施例6−1では酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒の表面に、白金粒が固着していることが分かった。
【0104】
得られた光触媒モジュールについて、実施例1−1と同様にして、酸化チタン膜の酸化チタン結晶粒および白金粒の平均粒径、アンモニアの分解効率を測定した。測定結果を表4および図8に示す。図8には、実施例1−1の測定結果も併せて示す。
【0105】
基材の種類を変えた実施例1−1と実施例7−1の結果より、図8に示すように、3次元網目構造を有する基材は出口のアンモニア濃度が30ppm以下で光触媒効率が良好であったが、ハニカム基材の場合は光触媒効率が低下することが分かった。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】酸化チタン結晶粒の粒径と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図2】白金粒の粒径と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図3】白金相の存在部位と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図4】酸化チタン層の密度と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図5】塩化白金酸水溶液の白金濃度と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図6】単体の白金族金属の種類と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図7】白金族金属合金中の白金含有比率と光触媒効率との関係を示すグラフ。
【図8】基材の種類と光触媒効率との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
この基材表面に形成され、酸化チタン結晶粒が固着した酸化チタン層と、
この酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に固着した白金族金属粒と、
を備え、
前記白金族金属粒は前記酸化チタン結晶粒間の粒界に実質的に存在せず、
前記酸化チタン層は酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下であり、
前記白金族金属粒は平均粒径が20nm以下であることを特徴とする光触媒構造体。
【請求項2】
前記酸化チタン層は酸化チタンの真密度4.26g/cmに対する相対密度が85%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒構造体。
【請求項3】
前記白金族金属粒はPt、Ru、Rh、Pd、OsおよびIrから選ばれる少なくとも1種の元素を含む金属からなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒構造体。
【請求項4】
前記白金族金属粒はPtと、Ru、Rh、Pd、OsおよびIrから選ばれる少なくとも1種の元素との合金であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒構造体。
【請求項5】
前記白金族金属粒は前記合金中のPtの含有量が50mol%以上であることを特徴とする請求項4に記載の光触媒構造体。
【請求項6】
前記白金族金属粒は前記酸化チタン層に対し0.5mmol%以下の量で形成されることを特徴とする請求項1に記載の光触媒構造体。
【請求項7】
前記基材は3次元網目構造を有することを特徴とする請求項1に記載の光触媒構造体。
【請求項8】
酸化チタン層の表面に白金族金属を含む液状組成物を付着させ、この液状組成物を乾燥させ、熱処理して、前記酸化チタン層の酸化チタン結晶粒の表面に白金族金属粒を固着させる光触媒構造体の製造方法であって、
前記酸化チタン層は酸化チタン結晶粒の平均粒径が100nm以下であり、
前記白金族金属粒は平均粒径が20nm以下であることを特徴とする光触媒構造体の製造方法。
【請求項9】
前記酸化チタン層は、基材の表面に酸化チタンゾルを付着させた後乾燥させ、熱処理して得られることを特徴とする請求項8に記載の光触媒構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−262049(P2009−262049A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114423(P2008−114423)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】