説明

光触媒組成物、内装用建材、塗料、合成樹脂成形体、光触媒の活用方法及び有害物質の分解方法

【課題】建材などから放出された有害物質、とりわけトルエンを効率よく分解することのできる光触媒組成物、内装用建材及び有害物質の分解方法を提供する。
【解決手段】光触媒性半導体材料に担持された金属陽イオンを含む物質により、分離した電子e−を金属陽イオンへ移動させ、正孔h+との再結合を防止して励起可能な光の照射による光触媒性半導体材料の励起状態を維持して光触媒としての活性を高め、有害物質、とりわけ分解に高い活性エネルギーが必要なトルエンを効率よく分解することができる。
【参照図】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に室内の建材から発生する有害な化学物質や臭気を好適に分解して空気を浄化することのできる光触媒組成物、および、それを用いた内装用建材、塗料、合成樹脂成形体、光触媒の活用方法及び有害物質の分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の建築技術の進歩により、室内環境は一段と密閉化が進んでいる。それに伴い建築材料に用いた微量のホルムアルデヒドやトルエンといった有機化合物に起因するシックハウス症候群や化学物質アレルギーなどが発生する恐れが増大し、社会的に大きな問題となっている。これらの問題を解決する手段として、かかる化学物質をできるだけ含まない建材や放出しない建材を用いたり、消臭材、換気設備を設置したり、空気清浄機等を導入して放出された物質や臭いを取り除くなどの措置がとられているものの、現状十分な改善には至っていない。
【0003】
最近、これらの異臭の原因となる有機物質を光触媒性半導体材料の酸化分解機能を利用して除去する製品が数多く提案されている。光触媒には光の照射により酸化還元作用が発生することが知られており、様々な分野で使われている。例えば、その強力な酸化力をもちいて、細菌を分解したりその繁殖を抑えたり、悪臭物質や汚れ物質、有害物質などの有機物質を分解することができる。この光触媒を用いて、建材から発生したホルムアルデヒドやその他の有機物質を効率的に分解除去することができるといわれている。(たとえは特許文献1)
【0004】
酸化チタンは、塗料に配合して塗装したり建材の表面などに担持させたりして用いることで、周囲からの光により活性化されて有害物質を酸化分解することができ、更には吸着剤や多孔質剤と複合化させることにより、有害物質を速やかに捕捉して分解効率を高めることができる。
【0005】
この光触媒は通常、その安全性や化学安定性から酸化チタンが好適に用いられるが、この酸化チタンは紫外光により励起され酸化還元反応による分解能力を発揮するものであり、室内の蛍光灯などの光では十分な分解活性を得ることはできなかった。
【0006】
しかし近年、可視光によっても光触媒活性を発現することのできる可視光応答型の酸化チタンが開発されており、かかる可視光応答型の酸化チタン光触媒には、酸化チタン上に色素を吸着させ可視光を吸収して生じた吸着色素の励起状態から酸化チタンへ電子を注入するようにしたもの、Cr,V,Mn,Fe,Niなどの金属イオンを化学的に注入したもの、プラズマ照射等によって酸素欠陥を導入したもの、酸化チタン結晶のチタン原子や酸素原子の一部を窒素原子や硫黄原子に置換したものなどが開発、提案され、室内での有効的な光触媒利用が可能になった。
【0007】
この中でも、特に酸化チタン結晶のチタン原子または酸素原子の一部を硫黄原子に置き換えた光触媒は、可視光の吸収領域が広い特徴があり、屋内で好適に用いることができる。(例えば特許文献2)
【0008】
【特許文献1】特開平9−300515号公報
【特許文献2】特開2004−143032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の光触媒や、光触媒と吸着剤等とを複合化させたものを用いても、トルエンはその極性の乏しい分子構造から非常に吸着がされにくく、またベンゼン環を有するため、化学的に安定で光触媒の酸化作用による分解除去が困難な物質であり、トルエンを効率的に捕捉、分解することが困難であった。
【0010】
本発明は上記の如き問題点に鑑みてなされたものであり、建材などから放出された有害物質、とりわけトルエンを効率よく分解することのできる光触媒組成物、内装用建材及び有害物質の分解方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる光触媒組成物は、光触媒性半導体材料に、金属陽イオンを含む物質を導入していることを特徴とするものである。
【0012】
かかる構成により光触媒組成物中の光触媒性半導体材料の活性が高められ、有害物質の分解効率は向上される。その原理は完全に明らかではないが、おおよそ以下のとおりと推測される。光触媒性半導体材料に励起可能な波長の光が照射されると、光触媒性半導体材料が励起状態となって正孔h+と電子e−に電荷分離が起こる。この分離した電荷によって、光触媒性半導体材料の酸化還元反応による有害物質の分解性能が発揮されるが、分離した電荷は酸化還元反応を行う対象がないと自然に電子e−は正孔h+と再結合し基底状態に戻る。光触媒性半導体材料に金属陽イオンが導入することで、分離した電子e−を金属陽イオンへ移動させ、再結合を防止して励起状態を維持することができるため、光触媒性半導体材料の酸化還元反応を促進させることができると考えられる。
【0013】
光触媒性半導体材料は、光の照射により励起状態となって正孔h+と電子e−に電荷分離が起こるものであれば特に限定されるものではなく、Fe、CuO、In、WO、FeTiO、PbO、V、FeTiO、Bi、Nb、TiO、SrTiO、ZnO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、ZrOなどの金属酸化物半導体や、Si、GaAs、CdSe、GaP、CdS、ZnSなどの単体及び金属酸化物半導体以外の化合物半導体等を、照射される光の波長や、適用される用途に応じて取り扱いの便宜等を考慮して適宜のものを用いることができる。室内の天井や壁面などに塗装したり担持させたりして用いるにおいては、上述の如くTiOを用いるのが好適である。
【0014】
また請求項1に記載の光触媒組成物において、前記陽イオンは、Fe、Cu、In、W、Pb、V、Bi、Nb、Ti、Sr、Zn、Ba、Ca、K、Ta、Sn、Zrからなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子がイオン化されたものであることが好ましい。
【0015】
かかる構成により光触媒組成物中の光触媒性半導体材料の活性が高められ、有害物質の分解効率は向上される。その原理は完全に明らかではないが、おおよそ以下のとおりと推測される。光触媒性半導体材料の結晶は、通常の製造方法では金属分子と酸素分子とで完全無欠な結晶とならず、結晶格子の歪みや金属分子又は酸素分子の欠損部位は電子e−と正孔h+との再結合が起こりやすく、原子レベルで光触媒として活性しない部位を生じるが、かかる部位にFe、Cu、In、W、Pb、V、Bi、Nb、Ti、Sr、Zn、Ba、Ca、K、Ta、Sn、Zrからなる群から選ばれた少なくとも1つの金属陽イオンを含む物質が導入されていることで、金属原子又は酸素原子の欠損が補填される形となって光触媒としての活性を示すようになり、単位量辺りの光触媒としての活性を高めて光触媒性半導体材料の酸化還元反応を促進させることができると考えられる。
【0016】
用いる金属陽イオンを含む物質においては、上述の金属原子及び酸素原子の欠損を補填する形とする必要があることから、上記の光触媒性半導体材料の結晶中での金属とイオン価を合致させておくのが好ましく、例えばFeであれば二価又は三価の陽イオンとなるもの、Cuであれば一価の陽イオンとなるもの、Pbであれば二価の陽イオンとなるもの等を用いることで、金属陽イオンを含む物質による金属原子及び酸素原子の欠損の補填が円滑に行われるようになり好ましい。
【0017】
また請求項1に記載の光触媒組成物において、前記金属陽イオンは、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケルからなる群から選ばれた少なくとも1つであれば、水媒体により容易に陽イオン化できることで導入に係わる操作が容易なものとなり好ましい。
【0018】
また、請求項1に記載の光触媒組成物において、前記光触媒性半導体材料は、酸化チタンであって、該酸化チタン表面に前記金属陽イオンとして鉄イオンを含む物質を付着させていれば、酸化チタンと鉄という比較的安価な原材料を用いて形成することが可能となり量産等に際しての利点が高められ好ましい。
【0019】
また、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒組成物において、前記光触媒性半導体材料は、可視光によって励起することが可能な可視光応答性を有するものであれば、前述の電荷分離による酸化還元反応の促進効果は、可視光応答型の光触媒性半導体材料に非常に有効となり好ましい。
【0020】
すなわち、室内において有害物質を分解除去するには、室内光源でも酸化分解反応を示す可視光応答型の光触媒を用いるとよいのは明白であるが、可視光応答型の酸化チタンは通常の紫外光応答型のアナターゼ型の光触媒酸化チタンなどと比べ比較的酸化還元力が低いと考えられる。従って効率よく酸化還元反応をさせる必要があり、鉄イオンを含む物質を光触媒表面に付着させて電荷分離を促進させると、可視光応答型の光触媒でも高い酸化分解効率を発現させることができることとなる。
【0021】
また、一般に可視光応答型の酸化チタンは、その粒子径が紫外光応答型のものより比較的大きいものが多い。粒子径が大きいと、電荷の分離がスムーズに行われず、再結合が起きやすいため、その活性が十分に発揮されない。したがって、このような場合に電荷の分離を促進するように表面に鉄イオンを含む物質を付着させることによって、高い酸化分解力を発現させることができる。
【0022】
更にまた、請求項5に記載の光触媒組成物において、前記光触媒性半導体材料は、酸化チタン結晶のチタン原子または酸素原子の一部を窒素原子及び/又は硫黄原子に置換したものを用いれば、可視光による高い光触媒活性を発現することができ、室内における蛍光灯等からの光によっても有害物質の分解が高い効率で行われるようになり、更には酸化チタンにおいては窒素原子及び/又は硫黄原子の置換を行う際に、結晶格子の歪みやチタン原子や酸素原子の欠損により原子レベルで光触媒として活性しない部位が多くなり、その補填を行うことによる効果が一層高められることとなり好ましい。
【0023】
また、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒組成物において、更に吸着剤及び多孔質剤を含むものとすれば、吸着剤によって光触媒組成物近傍に酸化分解の対象となる物質が吸着され、多孔質剤によってその物質が光触媒の酸化作用によって分解されるまで保持されることで、光触媒による酸化分解の対象となる物質が効率よく分解できるようになり好ましい。
【0024】
また、本発明に係わる光触媒組成物の製造方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物の製造方法であって、前記光触媒性半導体材料の結晶を、前記金属陽イオンがイオン化された状態で分散された溶媒中に浸漬し、該溶媒に前記光触媒性半導体材料が励起する波長の光を照射しつつ攪拌することを特徴とするものである。
【0025】
本発明に係わる光触媒組成物の製造方法によれば、光触媒性半導体材料は、通常の状態では電気的に中性であり金属陽イオンの導入は物理的な要因のみによって行われるが、光触媒性半導体材料が励起される波長の光が照射されると励起状態となって正孔h+と電子e−に電荷分離が起こり、電荷分離した電子e−によって電気的に負となった部位に金属陽イオンが誘引されることで、物理的な要因に加えて電気的な要因によっても金属陽イオンが導入され、以て高い効率で光触媒性半導体材料に金属陽イオンが導入されることとなる。
【0026】
また本発明に係わる内装用建材は、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物を用いて、基材の外面に光触媒含有層が形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明に係わる内装用建材によれば、前記の光触媒組成物を塗装したり外面付近に担持させたりすることで、建材に容易に光触媒による高い活性エネルギーを備えさせ、室内の有害物質を高い効率で分解してシックハウス症候群や化学物質アレルギーなどを防止することができる。
【0028】
また本発明に係わる塗料は、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物を配合していることを特徴とするものである。
【0029】
本発明に係わる塗料によれば、該塗料を塗装することのみで配合された前記光触媒組成物を外面付近に担持させて光触媒による高い活性エネルギーを備えさせ、空気中の有害物質や付着した汚染物質等、酸化分解の対象となる物質を高い効率で分解させる機能を容易に備えさせることができる。
【0030】
また本発明に係わる合成樹脂成形体は、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物を混合させて形成したことを特徴とするものである。
【0031】
本発明に係わる合成樹脂成形体によれば、前記光触媒組成物を混合して形成するのみで前記光触媒組成物を外面付近に担持させて光触媒による高い活性エネルギーを備えさせ、空気中の有害物質や付着した汚染物質等、酸化分解の対象となる物質を高い効率で分解させる機能を容易に備えさせた成形体を得ることができる。
【0032】
また本発明に係わる光触媒の利用方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物に光を照射させることによって光触媒を活性化させ、前記光触媒組成物が担持された外面若しくは近傍の消臭、皮脂汚れの分解、埃の易除去、汚染物質の分解、抗菌のいずれか少なくとも1つを発現させることを特徴とするものである。
【0033】
本発明に係わる光触媒の利用方法によれば、前記の光触媒組成物を用いて消臭、皮脂汚れの分解、埃の易除去、汚染物質の分解、抗菌のいずれか少なくとも1つを発現させることによって、自動車関連部材、事務用品、生活用品、家屋の内外、公共品部材、電気機器等で発生する悪臭、皮脂汚れ、埃の堆積、汚染物質の付着、雑菌の付着を軽減し、環境の改善に繋げることができる。
【0034】
また本発明に係わる有害物質の分解方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物に光を照射させることによって光触媒を活性化させ、空気中の有害物質を分解することを特徴とするものである。
【0035】
本発明に係わる有害物質の分解方法によれば、前記の光触媒組成物を用いることで、建材などから放出されたホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質等を効率よく分解して、環境の改善に繋げることができる。
【0036】
また請求項13に記載の有害物質の分解方法において、前記有害物質は、主にトルエンであれば、とりわけ従来は分解が困難であったトルエンを分解して、より一層環境を改善することができ好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係わる光触媒組成物によれば、光触媒性半導体材料に導入した金属陽イオンを含む物質により、金属原子又は酸素原子の欠損が補填される形となって光触媒としての活性を示すようになり、単位量辺りの光触媒としての活性を高めて光触媒性半導体材料の酸化還元反応を促進させることで有害物質、とりわけ分解に高い活性エネルギーが必要なトルエンを効率よく分解することができる。
【0038】
また本発明に係わる光触媒組成物の製造方法によれば、光触媒性半導体材料は、通常の状態では電気的に中性であり金属陽イオンの導入は物理的な要因のみによって行われるが、光触媒性半導体材料が励起される波長の光が照射されると励起状態となって正孔h+と電子e−に電荷分離が起こり、電荷分離した電子e−によって電気的に負となった部位に金属陽イオンが誘引されることで、物理的な要因に加えて電気的な要因によっても金属陽イオンが導入され、以て高い効率で光触媒性半導体材料に金属陽イオンが導入されることとなる。
【0039】
また本発明に係わる内装用建材によれば、前記の光触媒組成物を塗装したり外面付近に担持させたりすることで、建材に容易に光触媒による高い活性エネルギーを備えさせ、室内の有害物質を高い効率で分解してシックハウス症候群や化学物質アレルギーなどを防止することができる。
【0040】
また本発明に係わる塗料によれば、該塗料を塗装することのみで前記光触媒組成物を外面付近に担持させて光触媒による高い活性エネルギーを備えさせ、空気中の有害物質や付着した汚染物質等、酸化分解の対象となる物質を高い効率で分解させる機能を容易に備えさせることができる。
【0041】
また本発明に係わる合成樹脂成形体によれば、前記光触媒組成物を混合して形成するのみで前記光触媒組成物を外面付近に担持させて光触媒による高い活性エネルギーを備えさせ、空気中の有害物質や付着した汚染物質等、酸化分解の対象となる物質を高い効率で分解させる機能を容易に備えさせた成形体を得ることができる。
【0042】
また本発明に係わる光触媒の利用方法によれば、前記の光触媒組成物を用いて消臭、皮脂汚れの分解、埃の易除去、汚染物質の分解、抗菌のいずれか少なくとも1つを発現させることによって、自動車関連部材、事務用品、生活用品、家屋の内外、公共品部材、電気機器等で発生する悪臭、皮脂汚れ、埃の堆積、汚染物質の付着、雑菌の付着を軽減し、環境の改善に繋げることができる。
【0043】
また本発明に係わる有害物質の分解方法によれば、前記の光触媒組成物を用いることで、建材などから放出されたホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質等を効率よく分解して、環境の改善に繋げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明に係わる最良の実施の形態について、以下に具体的に説明する。
【0045】
まず光触媒性半導体材料としては、光の照射により励起状態となって正孔h+と電子e−に電荷分離が起こるものであれば特に限定されるものではなく、Fe、CuO、In、WO、FeTiO、PbO、V、FeTiO、Bi、Nb、TiO、SrTiO、ZnO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、ZrOなどの金属酸化物半導体や、Si、GaAs、CdSe、GaP、CdS、ZnSなどの単体及び金属酸化物半導体以外の化合物半導体等を、照射される光の波長や、適用される用途に応じて取り扱いの便宜等を考慮して適宜のものを用いることができる。室内の天井や壁面などに塗装したり担持させたりして用いるにおいては、コストや酸化力等の要因を鑑みるとTiOが好適に用いられる。
【0046】
金属陽イオンとしては、分離した電子e−を保持して再結合を防止できるものであれば特に限定されるものではないが、光触媒性半導体材料の結晶格子の歪みや金属分子又は酸素分子の欠損部位は電子e−と正孔h+との再結合が起こって原子レベルで光触媒として活性しない部位を生じるので、かかる欠損部位にFe、Cu、In、W、Pb、V、Bi、Nb、Ti、Sr、Zn、Ba、Ca、K、Ta、Sn、Zrからなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子がイオン化されたものを導入することで、金属原子又は酸素原子の欠損が補填される形となって光触媒としての活性を示すようになり、単位量辺りの光触媒としての活性を高めて光触媒性半導体材料の酸化還元反応を促進させることができる。
【0047】
また金属陽イオンは、上記の内カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケルからなる群から選ばれた少なくとも1つであれば、水媒体により容易に陽イオン化できることで導入に係わる操作を容易なものとでき、また光触媒性半導体材料として酸化チタンを用い、金属陽イオンとして鉄イオンを用いれば、低コストでありながら高い光触媒活性を備えた光触媒組成物を得ることができる。
【0048】
これらの光触媒性半導体材料及び金属陽イオンを用いて光触媒組成物を得る製造方法としては、まず溶媒中に金属を含む物質をイオン化して分散させて金属陽イオンを分散させる。溶媒はイオン化可能なものであれば特に限定されないが、前項の如き金属陽イオンを用いることで水溶媒により操作が容易なものとなり得る。次に金属陽イオンが分散された溶媒中に光触媒性半導体材料の結晶を浸漬し、溶媒に対して浸漬した光触媒性半導体材料が励起する波長の光を照射しつつ攪拌することで、高い効率で光触媒性半導体材料に金属陽イオンを導入することができる。
【0049】
ここで照射される光としては、紫外線応答型の光触媒性半導体材料であれば、380nm以下の波長を多く含む320nm〜400nmの近紫外線放射(UV−A。英語名ブラックライト)を照射できるものが好適である。また可視光応答型の光触媒性半導体材料であれば、380nmを超える波長の光を照射できる、蛍光灯や白熱電球等を用いることができる。また照射する光としては、適用される用途及び状況において照射される波長の光を多く含む光源によって光を照射するのが好ましい。
【0050】
可視光応答型の光触媒性半導体材料としては、酸化チタン結晶のチタン原子または酸素原子の一部を窒素原子及び/又は硫黄原子に置換したものが好適に用いられる。これらの光触媒性半導体材料は元来可視光による高い光触媒活性を発現することが知られているが、酸化チタンに対して窒素原子及び/又は硫黄原子の置換を行う際に、結晶格子の歪みやチタン原子や酸素原子の欠損により原子レベルで光触媒として活性しない部位が多くなっており、その欠損部分を金属陽イオンを導入することで補填でき、本発明による効果がより一層高められることとなる。
【0051】
また光触媒組成物に、更に吸着剤及び多孔質剤を含むものとすることで、光触媒による酸化分解の対象となる物質が効率よく分解できるようになる。吸着剤としては、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、人工ゼオライト、合成ゼオライト、ベントナイト、アパタイト、セピオライト、モンモリロナイト、タルク等を用いることができる。多孔質剤としては活性炭等の上記吸着剤として挙げたものの内の多孔質のものや、珪藻土、珪藻頁石、アタパルジャイト等を用いることができ、これらの吸着剤及び多孔質剤は単独で用いてもよく、複数種類を混合して用いてもよく、またこれら吸着剤、多孔質剤に本発明に係わる光触媒組成物を担持させたり、被覆したりしてもよく、更には光触媒組成物と吸着剤及び多孔質剤とをバインダー中に分散させてマトリックス状に配置させるようにしてもよい。
【0052】
本発明に係わる光触媒組成物を、例えば壁材、壁紙、天井材、天井板、床材、カーテン、棚材等をはじめとする様々な内装用建材の表面に担持させておいたり、エアーフィルターに担持させておいたりすることで、効率よく空気中の有害物質を分解することができる。また、内装用建材に担持させる方法としては、光触媒組成物を塗料中に分散させて建材の表面に塗装してもよいし、内装用建材が樹脂成形品であれば、表面層に配合してもよく、一般的に既存の様々な担持方法を用いることができる。
【0053】
本発明に係わる光触媒組成物を塗料に配合するには、液状の塗料や粉体塗料に粉体状の光触媒組成物を分散させることで配合することができる。塗料のベースとなる合成樹脂としては、テトラアルコキシシラン類の4官能性物質であるテトラメトキシシラン、テトラエトシキシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等、アルコキシシラン類の3官能性物質であるアルコキシシランメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロキシシラン、エチルトリプロキシシラン等といったシリコーン系のものが好適に用いられるが、それらに限定されるものではなく、カイナー型、ルミフロン型等のフッ素樹脂系のもの、水硬性石灰、ポルトランドセメント、アルミナセメント、混合セメント等の水硬化セメントや石灰、石こう等の気硬性セメントといったセメント系のもの、酢酸ビニル系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系、アクリル−スチレン系、アクリル系、エポキシ系、アルキド系、アクリル−アルキド系等の水性合成エマルジョンのものなどを用いることができ、これらを単独で用いるか、または適宜複数を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
またこれらの塗料を木質板系ボード、石こうボード、ロックウール、硅カル板、布ばく、繊維等に塗布して、内装用建材を形成してもよい。
【0055】
本発明に係わる光触媒組成物を混合して合成樹脂成形体を形成するには、硬化前状態、軟化状態、若しくは溶融状態の合成樹脂に光触媒組成物を混合するか、または表面付近に付着させることで形成することができる。形成に用いられる合成樹脂としては、熱硬化性、熱可塑性を問わず用いることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ABS、AAS、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、天然ゴムやその誘導体等を用いることができ、これらを単独で用いるか、または適宜複数を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また本発明に係わる光触媒の利用方法として、消臭を行う用途としては、自動車関連部材のメータ表示板、ガラス内面、内装内張、シーツ、事務用品の収納棚、パーテーション、スリッパ、生活用品の靴下、背広、防寒衣服、制服、ワイシャツ、下着、着物、ゴミ箱、タオル、かつら、帽子、家屋用部材の簀の子、天井、下駄箱、押入、枕、布団、毛布、フィルター、扇風機、照明灯の傘、ブラインド、絨毯、シーツ、ペット小屋、鳥かご、畳、ふすま、障子、ペット用トイレ、観葉植物、靴敷き、カーテン、壁紙、塗り壁、トイレ周り、便器の蓋、公共品部材の車内広告、電気機器の喫煙用空気清浄機、エアコンフィルター、OA機器、AV機器、ファンヒーター、こたつ、空気清浄機、掃除機等が挙げられる。これらに適用することで、光触媒組成物に光が照射されることによって発生する悪臭が酸化分解作用によって分解される。
【0057】
また皮脂汚れの分解としては、自動車関連部材のメータ表示板、ガラス内面、ハンドル、事務用品の机の上面及び縁、キーボード、電話、生活用品のコップ、かつら、帽子、家屋用部材の手摺、椅子、表示器具の表示面、メガネのフレーム、公共品部材の手摺、車内の吊革、電気機器のOA機器、AV機器、テレビ、洗濯機等が挙げられる。これらに適用することで、光触媒組成物に光が照射されることによって有機物質である皮脂汚れが酸化分解作用によって分解される。
【0058】
また埃の易除去としては、自動車関連部材のエアコンのファン、事務用品のディスプレイ、パソコンのファン、ハードディスクの表面、家屋用部材の照明灯の傘、ブラインド等が挙げられる。これらに適用することで、光触媒組成物に光が照射されることによって埃に含まれる有機物質が酸化分解作用によって分解され、埃が適用物から容易に脱離するようになされる。
【0059】
また汚染物質の分解としては、自動車関連部材のナンバープレート、ライト、ドアミラー、事務用品のコード表面、生活用品の電子レンジフード、水槽、自転車、プール、傘、家屋用部材の床、タイル、エアコンのファン、流し台、扇風機、テーブル、ふすま、障子、窓、電気機器の喫煙用空気清浄機、ステレオ、ファンヒーター、洗濯機、炊飯器、ドライヤー、食器洗浄機等が挙げられる。これらに適用することで、光触媒組成物に光が照射されることによってこれらの主として外面に付着して汚れの原因となる汚染物質に含まれる有機物質が酸化分解作用によって分解されて汚染物質が容易に脱離するようになされると共に、光触媒の親水性が発現されて汚染物質が容易に洗い流されるようになされる。
【0060】
またと抗菌しては、自動車関連部材のシーツ、事務用品の電話、パーテーション、スリッパ、生活用品の靴下、コップ、背広、防寒衣服、制服、ワイシャツ、下着、着物、水槽、プール、ゴミ箱、タオル、かつら、帽子、風呂の蓋、メガネのフレーム、車椅子、杖、家屋用部材の簀の子、米櫃、枕、布団、毛布、扇風機、流し台、照明灯の傘、ブラインド、シーツ、ペット小屋、鳥かご、畳、ペット用トイレ、壁紙、塗り壁、トイレ周り、便器の蓋、電気機器のエアコンフィルター、洗濯機、こたつ、食器洗浄機、空気清浄機、掃除機等が挙げられる。これらに適用することで、光触媒組成物に光が照射されることによって酸化分解作用により付着した雑菌が死滅若しくは弱体化され、抗菌作用が発現される。
【0061】
次に本発明に係わる光触媒組成物について、以下に実施例を示してその効果を説明する。
【0062】
まず光触媒性半導体材料として、酸化チタン(TiO)を用いる。酸化チタンに対して、以下の調整方法により金属陽イオンを含む物質を導入する。
【0063】
(調製方法)
純水300gに硫酸鉄(二価)7水和物 (和光純薬株式会社、試薬特級)を10g添加し、完全に溶解させる。この硫酸鉄水溶液に、酸化チタン粉末を3g添加し、光触媒を励起できる光を照射しながら24時間撹拌した。その後、作成した懸濁液を吸引濾過した後、さらに純水で洗浄して80℃にて乾燥させて光触媒組成物を得た。
【0064】
(実施例1)
前記調整方法において、酸化チタン粉末として硫黄ドープ型酸化チタン粉末を用いて、本発明の実施例1に係わる光触媒組成物を得た。また光触媒を励起できる光としては、蛍光灯を用いている。
【0065】
上記実施例1においては、金属陽イオンを含む物質として鉄(二価)イオンを含む硫酸鉄(二価)を用いているが、金属陽イオンを含む物質は、硫酸鉄に限定されるものではなく、二価又は三価の鉄イオンを含む物質を用いることができる。
【0066】
(比較例1)
比較例1として、アナターゼ型酸化チタン粉末(石原産業株式会社製ST−01)を用いる。
【0067】
(比較例2)
比較例2として、アナターゼ型酸化チタン粉末(石原産業株式会社製ST−01)に硫黄原子の置換処理を行った硫黄ドープ型酸化チタン粉末を用いる。
【0068】
(測定方法)
次に、実施例1において作成した光触媒組成物について、トルエンの分解性能を測定した。測定は、以下の方法により行った。洗浄した1リットルのテドラーバック(株式会社サンプラテック製)に、光触媒組成物を0.2g入れ、さらに、トルエン(ナカライテスク株式会社製 試薬特級)を、その濃度が約20ppmとなるように封入した。これを、まず、暗所にて安定するまで放置(約4時間)した後、15Wの昼光色の蛍光灯を50cmの距離から照射した。その後、2時間後、4時間後において、テドラーバック内の空気をサンプリングして、ガスクロマトグラフィー(島津製作所株式会社製GC−9A)により、テドラーバック内のトルエン濃度を測定した。
【0069】
上記測定方法により、実施例及び比較例によるトルエンの分解低減量を測定した。その結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す如く、蛍光灯の光によって、実施例1は比較例1及び2と比較して顕著に高い分解低減量となっており、光触媒性半導体材料に金属陽イオンを含む物質を導入することで、光触媒性半導体材料の活性が高められ、有害物質の分解効率、とりわけ有害物質のトルエンの分解能力が格段に高められることが顕わされている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒性半導体材料に、金属陽イオンを含む物質が導入されていることを特徴とする光触媒組成物。
【請求項2】
前記金属陽イオンは、Fe、Cu、In、W、Pb、V、Bi、Nb、Ti、Sr、Zn、Ba、Ca、K、Sn、Zrからなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子がイオン化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒組成物。
【請求項3】
前記金属陽イオンは、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケルからなる群から選ばれた少なくとも1つの金属原子がイオン化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒組成物。
【請求項4】
前記光触媒性半導体材料は、酸化チタンであって、該酸化チタン表面に前記金属陽イオンとして鉄イオンを含む物質を付着されていることを特徴とする請求項1に記載の光触媒組成物。
【請求項5】
前記光触媒性半導体材料は、可視光によって励起することが可能な可視光応答性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒組成物。
【請求項6】
前記光触媒性半導体材料は、酸化チタン結晶のチタン原子または酸素原子の一部を窒素原子及び/又は硫黄原子に置換したものを用いていることを特徴とする請求項5に記載の光触媒組成物。
【請求項7】
更に吸着剤及び多孔質剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光触媒組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物の製造方法であって、前記光触媒性半導体材料の結晶を、前記金属陽イオンがイオン化された状態で分散された溶媒中に浸漬し、該溶媒に前記光触媒性半導体材料が励起する波長の光を照射しつつ攪拌することを特徴とする光触媒組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物を用いて、基材の外面に光触媒含有層が形成されていることを特徴とする内装用建材。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物を配合していることを特徴とする塗料。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物を混合させて形成したことを特徴とする合成樹脂成形体。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物に光を照射させることによって光触媒を活性化させ、前記光触媒組成物が担持された外面若しくは近傍の消臭、皮脂汚れの分解、埃の易除去、汚染物質の分解、抗菌のいずれか少なくとも1つを発現させることを特徴とする光触媒の利用方法。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒組成物に光を照射させることによって光触媒を活性化させ、空気中の有害物質を分解することを特徴とする有害物質の分解方法。
【請求項14】
前記有害物質は、主にトルエンであることを特徴とする請求項13に記載の有害物質の分解方法。

【公開番号】特開2006−82071(P2006−82071A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40543(P2005−40543)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】