説明

光記録媒体、光記録方法

【課題】記録時のパワーマージン特性や再生時のジッタの良好な光記録媒体を提供する。
【解決手段】光記録媒体10において、基板14とカバー層20の間に、Tiを主成分として含み且つAlが添加されるTi記録層19と、Ti記録層19のカバー層20側に隣接配置されてSiを主成分として含む第1のSi記録層18Aを積層した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録媒体及び該光記録媒体に情報を記録する光記録方法に関するものであり、特に情報を記録する際の信号品質を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディジタル動画コンテンツの視聴や、ディジタルデータの記録のために、CD、DVD、Blu−ray Disc:BDなどの光記録媒体が広く利用されている。この中でも、次世代型DVD規格の一つとされるBDは、記録再生に用いるレーザー光の波長を405nmと短くし、対物レンズの開口数を0.85に設定される。BD規格に対応した光記録媒体側は、1つの情報記録層に対して25GB以上の記録再生を可能にしている。
【0003】
これらの記録媒体には、その記録方式として追記型光記録媒体と書換型光記録媒体がある。追記型光記録媒体は、その記録層に情報を1度だけ書き込むことができる機能を有するタイプの光記録媒体であり、たとえば、CD−R、DVD+/−R、PhotoCD、BD−Rなどの規格がある。書換型光記録媒体は、その記録層に情報を繰り返し書き込むことができる機能を有する光記録媒体であり、たとえば、CD−RW、DVD+/−RW、DVD−RAM、BD−REなどの規格がある。
【0004】
追記型光記録媒体には、記録特性の向上だけでなく、初期の記録情報を劣化させずに長期間保持する耐久特性が必要となる。さらに、追記型光記録媒体には、近年の地球環境問題に対する関心の高まりにともなって、環境に与える負荷がより小さな構成材料を用いて構成することも要求されてきている。
【0005】
そこで例えば特許文献1には、追記型光記録媒体の記録層を、TiとAlの合金を主成分とした材料で構成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−284242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載される従来の光記録媒体を、BD規格等に適用させようとすると、記録層に情報を記録する際のジッタやパワーマージンが不足する可能性があった。この結果、光ピックアップ側においても、レーザーの記録パワーを高精度で制御しなければならないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、再生時のジッタや、記録パワーのパワーマージン特性を向上させた光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの鋭意研究によって、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0010】
即ち、上記目的を達成する本発明は、基板と、カバー層と、前記基板と前記カバー層の間に配置されてTiを主成分として含み且つAlが添加されるTi記録層と、前記Ti記録層の前記カバー層側に隣接配置されてSiを主成分として含む第1のSi記録層と、を備えることを特徴とする光記録媒体である。
【0011】
上記目的を達成する光記録媒体は、上記発明において、前記第1のSi記録層の膜厚T1が4nm≦T1≦8nmに設定されることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成する光記録媒体は、上記発明において、前記Ti記録層の前記基板側に隣接配置されてSiを主成分として含む第2のSi記録層を更に備えることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成する光記録媒体は、上記発明において、前記第2のSi記録層の膜厚T2が1nm≦T2≦3nmに設定されることを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成する光記録媒体は、上記発明において、前記第1のSi記録層の膜厚T1と比較して、前記第2のSi記録層の膜厚T2が小さく設定されることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成する光記録媒体は、上記発明において、前記第1のSi記録層の前記カバー層側に隣接して配置される第1の誘電体層と、前記第2のSi記録層の前記基板側に隣接して配置される第2の誘電体層と、を更に備えることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成する本発明は、基板とカバー層の間に情報記録層を有する光記録媒体にレーザービームを照射して情報を記録する光記録方法であって、前記情報記録層として、Tiを主成分として含み且つAlが添加されるTi記録層と、前記Ti記録層の前記カバー層側に隣接配置されてSiを主成分として含む第1のSi記録層を備えるようにし、前記Ti記録層及び前記第1のSi記録層を、前記レーザービームの熱によって化学的又は物理的に同時に変性させることで情報を記録することを特徴とする光記録方法である。
【0017】
上記目的を達成する光記録方法は、上記発明において、前記情報記録層は、前記Ti記録層の前記基板側に隣接配置されてSiを主成分として含む第2のSi記録層を更に備えるようにし、前記Ti記録層、前記第1のSi記録層及び前記第2のSi記録層を、前記レーザービームの熱によって化学的又は物理的に同時に変性させることで情報を記録することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ボトムジッタ等の再生時の信号品質を高く維持しながらも、パワーマージン特性に優れた光記録媒体を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光記録媒体と、該光記録媒体の記録再生に用いられる光ピックアップの全体構成を示すブロック図である。
【図2】同光記録媒体の積層構造を示す断面図である。
【図3】第1検証例に係る光記録媒体の未記録状態時の反射率を示す図である。
【図4】第1検証例に係る光記録媒体の最適記録パワーPo時の変調度を示す図である。
【図5】第1検証例に係る光記録媒体のLEQジッタ最小値(ボトムジッタ)を示す図である。
【図6】第1検証例に係る光記録媒体のパワーマージンを示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る光記録媒体の積層構造を示す断面図である。
【図8】第2検証例に係る光記録媒体のLEQジッタ最小値(ボトムジッタ)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1には、第1実施形態に係る光記録媒体10と、この記録再生に用いられる光ピックアップ201の構成が示されている。光源1から出射された波長380〜450nm(ここでは405nm)となる発散性のビーム70は、焦点距離f1が15mmとなると共に球面収差補正手段93を備えたコリメートレンズ53を透過し、偏光ビームスプリッタ52に入射する。偏光ビームスプリッタ52に入射したビーム70は、偏光ビームスプリッタ52を透過し、4分の1波長板54を透過して円偏光に変換された後、焦点距離f2が2mmとなる対物レンズ56で収束ビームに変換される。このビームは、光記録媒体10のカバー層20を透過し、支持基板12とカバー層20の間に形成された記録再生層14上に集光される。
【0022】
対物レンズ56の開口はアパーチャ55で制限され、開口数NAを0.70〜0.90(ここでは0.85)としている。記録再生層14で反射されたビーム70は、対物レンズ56、4分の1波長板54を透過して往路とは90度異なる直線偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ52で反射される。偏光ビームスプリッタ52で反射されたビーム70は、焦点距離f3が10mmとなる集光レンズ59を透過して収束光に変換され、シリンドリカルレンズ57を経て、光検出器32に入射する。ビーム70には、シリンドリカルレンズ57を透過する際、非点収差が付与される。
【0023】
光検出器32は、図示しない4つの受光部を有し、それぞれ受光した光量に応じた電流信号を出力する。これら電流信号から、非点収差法によるフォーカス誤差(以下FEとする)信号、プッシュプル法によるトラッキング誤差(以下TEとする)信号、光記録媒体10に記録された情報の再生信号等が生成される。FE信号およびTE信号は、所望のレベルに増幅および位相補償が行われた後、アクチュエータ91および92にフィードバック供給されて、フォーカスおよびトラッキング制御がなされる。
【0024】
図2は、第1実施形態に係る光記録媒体10の断面構造が拡大して示されている。なお、光記録媒体10は、外径が約120mm、厚みが約1.2mmの円盤形状となっている。この光記録媒体10は、光入射面10a側から、カバー層20、記録再生層14、支持基板12を備えて構成される。なお、記録再生層14には情報を記録することができる。記録再生層14の種類として、情報の追記が出来るが書き換えが出来ない追記型記録再生層と、情報の書換が可能な書換型記録再生層があるが、ここでは追記型記録再生層を例示している。
【0025】
支持基板12は、光記録媒体に求められる厚み(約1.2mm)を確保するための、厚さ1.1mmで直径120mmとなる円盤形状の基板であり、光入射側の面には、その中心部近傍から外縁部に向けて、ビーム70をガイドするためのグルーブおよびランドが螺旋状に形成される。支持基板12の材料としては種々の材料を用いることが可能であり、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂を利用できる。これらのうち成型の容易性の観点から樹脂が好ましい。樹脂としてはポリカーボネイト樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、加工性などの点からポリカーボネイト樹脂やオレフィン樹脂が特に好ましい。なお、支持基板12は、ビーム70の光路とならないことから、高い光透過性を有している必要はない。なお、本実施形態では、グルーブ及びランドのピッチは0.32μmとしている。支持基板12の厚さは特に限定されるものではないが、0.05〜2.4mmの範囲内が好ましい。0.05mm未満となると強度面から基板の成形が困難となる。一方、2.4mmを越えると、光記録媒体10の質量が大きくなり取り扱いにくくなる。支持基板12の形状もとくに限定されるものではないが、通常は、ディスク状、カード状あるいはシート状である。
【0026】
支持基板12の上に形成される記録再生層14は、支持基板12側から順番に、反射膜15、バリア層16、第2誘電体膜17B、第2のSi記録層18B、Ti記録層19、第1のSi記録層18A、第1誘電体膜17Aをこの順に積層して構成される。
【0027】
反射膜15は、Ag主成分とした合金が用いられ、ここではAg−Nd−Cu合金が用いられる。この反射膜15の膜厚は、例えば5〜300nmに設定されることが好ましく、20〜200nmに設定されることが特に好ましい。反射膜15の厚さが5nm未満であると反射機能を十分に得ることができない。一方、反射膜15の厚さが300nmを越えると、成膜時間が長くなり生産性が極端に低下してしまう。従って、上記のように膜厚を設定すれば、反射機能と量産性を両立させることができる。本実施形態では、反射膜15の膜厚を80nmに設定している。なお、ここでは反射膜15に関してAgを主成分とする場合を示すが、例えば、Alを主成分とした合金を用いても良い。
【0028】
バリア層16は、反射層15に含まれるAg等の金属の硫化を抑制するための保護膜であり、ZnOを主成分とした合金が用いられ、ここではZnO−SnO−InO合金が用いられる。本実施形態では、バリア層16の膜厚を5nmに設定している。なお、反射層15に含まれる成分によっては、このバリア層16を省略することも可能である。
【0029】
第2誘電体膜17B及び第1誘電体膜17Aは、第2のSi記録膜18B、第1のSi記録膜18Aを保護するという基本機能に加えて、記録マークの形成前後における光学特性の差(変調度)を拡大させる役割も果たす。なお、記録マーク形成前後の光学特性の差を増大させるには、第2誘電体膜17B及び第1誘電体膜17Aの材料として、使用されるビーム70の波長領域、すなわち380nm〜450nm(特に405nm)の波長領域において高い屈折率(n)を有する材料を選択することが好ましい。また、ビーム70を照射した場合に、第2誘電体膜17Bおよび第1誘電体膜17Aに吸収されるエネルギーが大きいと記録感度が低下しやすい。従って、これを防止するためには、これらの第2誘電体膜17Bおよび第1誘電体膜17Aの材料として、380nm〜450nm(特に405nm)の波長領域において低い吸収係数(k)を有する材料を選択することが好ましい。本実施形態では、第2誘電体膜17Bおよび第1誘電体膜17Aの材料として硫化物および酸化物の混合物を用いており、本実施形態では、ZnSとSiO2の混合物(モル比80:20)を用いている。
【0030】
なお、第2誘電体膜17B及び第1誘電体膜17Aは、透明な誘電体材料であれば他の材料を採用することもできる。例えば酸化物、硫化物、窒化物またはこれらの組み合わせを主成分とする誘電体材料であればよく、Al2O3、AlN、ZnO、ZnS、GeN、GeCrN、CeO、SiO、SiO2、SiNおよびSiCよりなる群から選ばれる少なくとも1種の誘電体材料を主成分として含んでいることが好ましい。
【0031】
また、ビーム70の波長が380nm〜450nmの青色波長領域であることを考慮すれば、第2誘電体膜17Bおよび第1誘電体膜17Aの膜厚は3〜200nmであることが好ましい。膜厚が3nm未満になると、第2のSi記録膜18Bを保護する機能、及び記録マークの形成前後における光学特性の差を拡大する機能が得られにくい。一方、200nmを越えると、成膜時間が長くなり生産性が低下する。ここでは、第2誘電体膜17Bを13.75nm、第1誘電体膜17Aを18nmに設定している。
【0032】
第2のSi記録層18B、Ti記録層19及び第1のSi記録層18Aは、これらの3層が相互に作用して不可逆的に記録マークが形成される膜である。第2のSi記録層18B、Ti記録層19、第1のSi記録層18Aが相互に隣接して積層されており、所定以上のパワーを持つビーム70が照射されると、その熱によって、3層が同時に化学的又は物理的に変性して、その領域の反射率が変化する。反射率の変化の要因は明確でないが、第2のSi記録層18B、Ti記録層19及び第1のSi記録層18の3層の元素が、互いの接触面において部分的または全体的に互いに混合されたりすることで、反射率が変化すると推察される。この結果、記録マークが形成された部分とそれ以外の部分(ブランク領域)とでは、ビーム70に対する反射率が大きく異なる。この結果、データの記録・再生を行うことができる。
【0033】
第2のSi記録層18B及び第1のSi記録層18Aに用いる材料は、主成分をシリコン(Si)としている。本実施形態では、第1、第2のSi記録層18A、18Bの材料をSiのみで構成する場合を示す。なお、添加元素として、例えば、Ge、Sn、Mg、In、Zn、Bi、Alなどを含有させても良い。
【0034】
第1のSi記録層18Aの膜厚T1は0nm<T1≦10nmの範囲に設定される。好ましくは0nm<T1≦8.5nmに設定され、より望ましくは4nm≦T1≦8nmに設定される。本実施形態では、第1のSi記録膜18Aの膜厚T1を6nmとしている。
【0035】
第2のSi記録層18Bの膜厚T2は0nm≦T2≦8nmの範囲に設定される。好ましくは0nm≦T2≦4nmに設定され、より望ましくは1nm≦T2≦3nmに設定される。本実施形態では、第2のSi記録膜18Bの膜厚T2を2nmとしている。
【0036】
これらの数値範囲から分かるように、本実施形態ではT1>T2となるように膜厚を設定することが好ましい。なお、これらの数値範囲の具体的な根拠については第1検証例で後述する。
【0037】
Ti記録層19に用いる材料はTiを主成分としている。具体的には、主成分となるTiに対して、Alを添加したTi−Alの構成となる材料を採用している。具体的には、Tiに対して、Alが25atm%〜50atm%の範囲で添加することが好ましい。ここではTi:Al=68:32(atm%)に設定する。なお、添加材料としては、Alに加えて、更にZn、Ni、Mg、Ag、Au、Si、Sn、Ge、P、Cr、Feなどの1または2以上の元素が添加されていても良い。
【0038】
Ti記録層19の膜厚T3は特に限定されないが、5.5nm≦T3≦9.25nmの範囲に設定されることが好ましい。更に好ましくは、5.5nm≦T3≦9nmに設定され、ここでは7.5nmに設定する。
【0039】
なお、本実施形態でいう「主成分」とは、その材料の含有比が他の材料と比較して最も大きいか、原子比又はモル比で50%以上含有していることを意味している。
【0040】
カバー層20は、記録層14を保護するための層であり、光透過姓のアクリル系の紫外線硬化型樹脂により構成される。カバー層20の層厚は、とくに限定されるものではないが、1〜200μmであることが好ましく、ここでは100μmの膜厚としている。カバー層20の層厚が1μm未満であると、記録再生層14を保護することが困難になる。一方、カバー層20の層厚が200μmを越えると、カバー層20の層厚を制御することが困難になるとともに、光記録媒体10全体の機械精度を確保することも困難になる。
【0041】
この光記録媒体10に対して情報を記録する場合、図2に示すように、光記録媒体10に対して強度変調されたビーム70をカバー層20の光入射面10a側から入射させて、記録再生層14に照射する。ビーム70が記録再生層14に照射されると、記録再生層14が加熱されて、第2のSi記録層18B、Ti記録層19及び第1のSi記録層18Aを構成する各元素(Si、Ti、Si)が互いに混合される。この混合部分は記録マークとなり、その反射率は、それ以外の部分(ブランク領域)の反射率と異なった値となる。
【0042】
次に、第1実施形態に係る光記録媒体10の製造方法について説明する。
【0043】
まず、スタンパを用いた射出成型法により、グルーブおよびランドが形成された支持基板12を作製する。なお、支持基板12の作製は射出成型法に限られず、2P法や他の方法によって作製しても構わない。
【0044】
次に、支持基板12におけるグルーブ及びランドが設けられた側の表面に反射膜15を形成する。この形成は、主成分となる銀(Ag)を含む化学種を利用した気相成長法、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法を用いる。特にスパッタリング法を用いることが好ましい。その後、反射膜15の上にバリア層16を形成する。このバリア層16の形成も気相成長法を用いることが好ましい。更に、バリア層16の上に第2誘電体膜17Bを形成する際は、硫化物、酸化物、窒化物、炭化物、弗化物またはこれらの混合物を含む化学種を利用した気相成長法を用いることができ、中でも、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0045】
次いで、第2誘電体膜17Bの上に第2のSi記録層18B、Ti記録層19、第1のSi記録層18Aを形成する。これらについても気相成長法を用いることができ、中でも、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0046】
その後、第1のSi記録層18Aの上に、第1誘電体膜17Aを形成する。第1誘電体膜17Aについても、第2誘電体膜17Bと同様、好ましい主成分である硫化物、酸化物、窒化物、炭化物、弗化物またはこれらの混合物を含む化学種を利用した気相成長法を用いて形成する。中でも、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0047】
最後に、第1誘電体膜17Aの上にカバー層20を形成する。カバー層は、例えば、粘度調整されたアクリル系またはエポキシ系の紫外線硬化型樹脂をスピンコート法等により皮膜し、これに対して紫外線を照射して硬化することにより形成する。なお、紫外線硬化性樹脂の代わりに、光透過性樹脂からなる光透過性シートを接着剤や粘着剤等を用いて第1誘電体膜17Aの上に貼り付けることで形成することもできる。
【0048】
なお、本実施形態では上記製造方法を説明したが、本発明は上記製造方法に特に限定されるものではなく、他の製造技術を採用することもできる。
【0049】
本実施形態の光記録媒体10は、記録再生層14として、Ti記録層19と、このTi記録層19におけるカバー層20側に隣接配置される第1のSi記録層18Aと、Ti記録層19の支持基板12側に隣接配置される第2のSi記録層18Bを備えるようになっている。この3層構造を採用することで、再生時のジッタや、情報を記録する際のパワーマージン特性が向上する。
【0050】
更に、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が0nm≦T1≦8.5nm、第2のSi記録層18Bの膜厚T2が0nm≦T2≦4nmに設定されることで、最適記録パワーを出来る限り小さく抑制しながらも、再生時のジッタを小さくすることが可能となる。特に、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が4nm≦T1≦8nm、第2のSi記録層18Bの膜厚T2が1nm≦T2≦3nmに設定すると、ボトムジッタを一層良好にすることができる。
【0051】
<第1検証例>
【0052】
第1実施形態の光記録媒体10について、第1のSi記録膜18Aの膜厚を0nm〜10nmの間で1nm刻みで変化させると同時に、第2のSi記録膜18Bの膜厚を0nm〜10nmの間で1nm刻みで変化させることで、これらの組み合わせとなる100種類の媒体を製造し、これらの媒体について記録再生特性を検証した。
【0053】
具体的には、この光記録媒体10に対して、記録パワーを変化させながら情報を記録し、その再生時の信号特性を、反射率、変調度、ボトムジッタ、パワーマージンの観点から評価した。ジッタ評価には、LEQ(Limit Equalizer)を用いた。パワーマージンを評価では、LEQジッタが最小(ボトムジッタ)となる記録パワーを最適記録パワーPo(Poptimum)と定義すると共に、実際の記録パワーをPwと定義し、Pw/Poをパワーマージンとした。特に本検証では、記録パワーPwを強弱双方向に変化させ、LEQジッタが10%を超えた時を、それぞれ最低記録パワーPunderと最高記録パワーPoverとし、(Punder−Pover)/Po をパワーマージン値として採用した。
【0054】
なお、記録条件としては、パルステック社製の光ディスク評価装置ODU−1000(NA=0.85、λ=405nm)を用いて評価を行い、変調信号として(1,7)RLLを採用し、記録時の線速度は9.84m/s、再生時の線速度は4.92m/sで行った。
【0055】
以上の検証結果として、未記録状態時の反射率を図3に、最適記録パワーPo時の変調度を図4に、LEQジッタ最小値(ボトムジッタ)を図5に、パワーマージンを図6に示す。分析方法として、横軸を第1のSi記録膜18Aの膜厚T1、縦軸を第2のSi記録膜18Bの膜厚T2として、そのマトリクス上において等高線状に検証結果をマッピングすることで行った。
【0056】
図3の未記録状態の反射率から分かるように、好ましい反射率となる10%以上の領域、即ちA〜Kまでの領域は、マップにおける右側及び右上側に広がっていることが分かる。具体的には、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が3〜4nm以上の領域であれば十分な反射率が得られる。また、第2の記録層18Bの膜厚T2が厚いと、より良好な反射率が得られることも分かる。特に、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が4nm以上、且つ第2の記録層18Bの膜厚T2が1nm以上であれば、安定して反射率が10%以上となり望ましいことが分かる。
【0057】
図4から分かるように、好ましい変調度となる55%以上の領域、即ちA〜Dまでの領域は、マップにおける右下側に広がっていることが分かる。具体的には、第2の記録層18Bの膜厚T2が4nm以下、望ましくは3nm以下の領域であって、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が4nm以上且つ8nm以下の領域であれば十分な変調度が得られることが分かる。即ち、変調度の観点から、4nm≦T1≦8nmの条件、T2≦3nmの条件が好ましい事を導き出すことが出来る。
【0058】
図5から分かるように、好ましいボトムジッタとなる7%以下の領域、即ちG、H、I、Jの領域は、マップにおける右下側に広がっていることが分かる。特に、本検証によれば、より望ましいボトムジッタとなる6%以下の領域、即ちI、Jの領域がマップにおける右下に浮島のように部分的に広がっていることも分かる。具体的には、第2の記録層18Bの膜厚T2が1nm以上且つ3nm以下の領域であって、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が4nm以上且つ8nm以下の領域であれば十分なボトムジッタが得られることが分かる。即ち、ボトムジッタの観点から、4nm≦T1≦8nmの条件、1nm≦T2≦3nmの条件が好ましい事を導き出すことが出来る。
【0059】
図6から分かるように、好ましいパワーマージンとなる25%以上の領域、即ちA〜Dの領域は、マップにおける中央に上下方向に広がっていることが分かる。特に、第2の記録層18Bの膜厚T2が大きくなると、パワーマージン特性が悪化しやすい。従って、第2の記録層18Bの膜厚T2が小さい方がパワーマージンが良好になるが、第2の記録層18Bの膜厚T2が2nm前後の範囲では、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が小さいとパワーマージンが局所的に悪化しやすいことが分かる。そこで、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が4nm以上にすることで、第2の記録層18Bの膜厚T2が2nm前後となる場合であっても、その欠点を補うことができ、25%以上のパワーマージンを安定して得ることが出来ることが分かる。即ち、第2の記録層18Bの膜厚T2が2nm前後にする際の欠点を、第1のSi記録層18Aを組み合わせることで補うことができることも分かる。
【0060】
なお、図5、図6において、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が2nm未満であって、第2のSi記録層18Bの膜厚T2が2nm未満の領域の組合せは、記録マークの形成自体が不安定となることから評価対象から除外している。
【0061】
以上の図3〜図6の最も好ましい条件を満たす領域Pを、各図面上に重ねて示した。領域Pは、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が4nm≦T1≦8nm、第2のSi記録層18Bの膜厚T2が1nm≦T2≦3nmとなる範囲に設定されることが分かる。また、これらの検証結果を総じて、第1のSi記録層18Aの膜厚T1と比較して、第2のSi記録層18Bの膜厚T2が小さく設定されることが好ましい事も分かる。
【0062】
次に、図7の断面構造を参照して、本発明の第2実施形態に係る光記録媒体110について説明する。なお、この光記録媒体111は、第1実施形態の光記録媒体10と比較して、第2のSi記録層が存在しないことが特徴となっており、他の構成は第1実施形態とは殆ど共通している。従って、第2実施形態の光記録媒体110の部材において、第1実施形態の光記録媒体10と同一又は類似するものについては、その符号の下二桁を同一にすることで、個々の部材の詳細説明を省略する。
【0063】
この光記録媒体110は、光入射面110a側から、カバー層120、記録再生層114、支持基板112を備えて構成される。記録再生層114は追記型記録再生層となっている。
【0064】
支持基板112の上に形成される記録再生層114は、支持基板112側から順番に、反射膜115、バリア層116、第2誘電体膜117B、Ti記録層119、第1のSi記録層118A、第1誘電体膜117Aをこの順に積層して構成される。
【0065】
Ti記録層119及び第1のSi記録層118Aは、これらの2層が相互に作用して不可逆的に記録マークが形成される膜である。Ti記録層119と第1のSi記録層118Aは、相互に隣接して積層されており、所定以上のパワーを持つビーム70が照射されると、その熱によって2層が同時に化学的又は物理的に変性して、その領域の反射率が変化する。反射率の変化の要因は明確でないが、Ti記録層119及び第1のSi記録層118Aの2層の元素が、接触面において部分的または全体的に互いに混合されたりすることで、反射率が変化すると推察される。この結果、記録マークが形成された部分とそれ以外の部分(ブランク領域)とでは、ビーム70に対する反射率が大きく異なる。この結果、データの記録・再生を行うことができる。
【0066】
第1のSi記録層118Aの膜厚T1は0nm<T1≦10nmの範囲に設定される。好ましくは0nm<T1≦8.5nmに設定され、より望ましくは4nm≦T1≦8nmに設定される。なお、第2実施形態のように第1のSi記録層118Aを単層にする場合は、膜厚T1を5.5nm以上にすることが好ましい。本第2実施形態では、第1のSi記録膜118Aの膜厚T1を8nmとしている。
【0067】
Ti記録層19の膜厚T3は特に限定されないが、5.5nm≦T3≦9.25nmの範囲に設定されることが好ましい。更に好ましくは、5.5nm≦T3≦9nmに設定され、ここでは7.5nmに設定する。
【0068】
この光記録媒体110に対して情報を記録する場合、図7に示すように、光記録媒体110に対して強度変調されたビーム70をカバー層120の光入射面110a側から入射させて、記録再生層114に照射する。ビーム70が記録再生層114に照射されると、記録再生層114が加熱されて、Ti記録層119及び第1のSi記録層118Aを構成する各元素(Ti、Si)が互いに混合される。この混合部分は記録マークとなり、その反射率は、それ以外の部分(ブランク領域)の反射率と異なった値となる。
【0069】
本第2実施形態の光記録媒体110は、記録再生層114として、Ti記録層119と、このTi記録層119におけるカバー層120側に隣接配置される第1のSi記録層118Aの2層構造を採用することで、再生時のジッタや、情報を記録する際のパワーマージン特性を向上させることができる。
【0070】
<第2検証例>
【0071】
第2実施形態の光記録媒体10について、第1のSi記録層118Aの膜厚T1を4nm〜18.5nmの間で1nm刻みで変化させると同時に、Ti記録層119の膜厚T3を5.5nm〜9.25nmの間で1nm刻みで変化させることで、これらの組み合わせとなる媒体を製造し、これらの媒体について記録再生特性を検証した。
【0072】
検証方法は、第1検証例と同様にし、ここではLEQボトムジッタを評価した。その評価結果を図8に示す。
【0073】
図8のから分かるように、好ましいボトムジッタとなる7%以下の領域、即ちG、H、I、Jの領域は、マップにおける右側中央に広がっていることが分かる。特に、本検証によれば、Ti記録層19の膜厚T3が、5.5nm≦T3≦9nmの範囲のボトムジッタが良好となり、6.75nm≦T3≦9nmの範囲のボトムジッタがより良好となる。更に、第1のSi記録層18Aの膜厚T1が大きくなるほど、ボトムジッタが良好になることが分かる。特にT1≧5.5nmの領域は、安定したボトムジッタが得られることが分かる。
【0074】
なお、上記第1及び第2実施形態の光記録媒体10、110は、追記型光記録媒体となる場合を示しているが、本発明は、他の記録方式の光記録媒体に適用することもできる。しかし、書換型光記録媒体に適用する場合は、予め記録再生層を予熱して全体を結晶化させることが必要となる。一方で、本発明はそのような工程を経ることなく記録マークを直接形成できる利点があることから、追記型光記録媒体に適用することが望ましいと言える。
【0075】
また、本実施形態の光記録媒体10、110では、Ti記録層と、この両側又は片側に配置されるSi記録層によって1つの記録膜を構成しているが、本発明の要旨を満たす範囲であれば、これらの層構造の近傍に他の材料の記録層を配置しても良い。
【0076】
更に本実施形態では、光記録再生に使用するビーム70の波長領域が380nm〜450nmとなる場合に限って示したが、本発明はこれに限定されず、例えば250nmないし900nmであることが好ましい。
【0077】
また更に、本実施形態では、記録再生層が単層である場合に限って示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、この記録再生層を複数層備えるようにしても良い。この場合、全ての記録再生層は、Ti記録層と、この両側又は片側に配置されるSi記録層を有することが好ましい。
【0078】
尚、本発明の光記録媒体は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の光記録媒体は、多層構造を含めた様々な光記録媒体に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
10、110 光記録媒体
12、112 支持基板
14、114 記録再生層
15、115 反射膜
16、116 バリア層
17A、117A 第1誘電体膜
17B、117B 第2誘電体膜
18A、118A 第1のSi記録層
18B 第2のSi記録層
19、119 Ti記録層
20、120 カバー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、カバー層と、前記基板と前記カバー層の間に配置されてTiを主成分として含み且つAlが添加されるTi記録層と、前記Ti記録層の前記カバー層側に隣接配置されてSiを主成分として含む第1のSi記録層と、を備えることを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】
前記第1のSi記録層の膜厚T1が4nm≦T1≦8nmに設定されることを特徴とする請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項3】
前記Ti記録層の前記基板側に隣接配置されてSiを主成分として含む第2のSi記録層を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光記録媒体。
【請求項4】
前記第2のSi記録層の膜厚T2が1nm≦T2≦3nmに設定されることを特徴とする請求項3に記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記第1のSi記録層の膜厚T1と比較して、前記第2のSi記録層の膜厚T2が小さく設定されることを特徴とする請求項3又は4に記載の光記録媒体。
【請求項6】
前記第1のSi記録層の前記カバー層側に隣接して配置される第1の誘電体層と、
前記第2のSi記録層の前記基板側に隣接して配置される第2の誘電体層と、
を更に備えることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の光記録媒体。
【請求項7】
基板とカバー層の間に情報記録層を有する光記録媒体にレーザービームを照射して情報を記録する光記録方法であって、
前記情報記録層として、Tiを主成分として含み且つAlが添加されるTi記録層と、前記Ti記録層の前記カバー層側に隣接配置されてSiを主成分として含む第1のSi記録層を備えるようにし、
前記Ti記録層及び前記第1のSi記録層を、前記レーザービームの熱によって化学的又は物理的に同時に変性させることで情報を記録することを特徴とする光記録方法。
【請求項8】
前記情報記録層は、前記Ti記録層の前記基板側に隣接配置されてSiを主成分として含む第2のSi記録層を更に備えるようにし、
前記Ti記録層、前記第1のSi記録層及び前記第2のSi記録層を、前記レーザービームの熱によって化学的又は物理的に同時に変性させることで情報を記録することを特徴とする請求項7に記載の光記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−238324(P2011−238324A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110825(P2010−110825)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】