説明

光誘起誘電泳動装置

【課題】光誘起誘電泳動装置において、微粒子の移動状態の観察のための照明光の影響を受けることなく、誘起光の照射による不均一交流電場に対応した正確な誘電泳動を行う。
【解決手段】誘起光の照射を受けて導電率を変えることで不均一交流電場を形成する光導電膜として、520nm付近に吸収端があるCdSを利用する一方、観察用の照明光はCdSの吸収スペクトルと重ならない赤色を中心とする波長帯域の可視光を用いる。これにより、観察を連続的に行いながら、光導電膜の任意の位置に誘起光を照射して所望の位置や方向に液体中の微粒子を誘電泳動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電泳動を利用して液体中の微粒子を移動させる誘電泳動装置に関し、さらに詳しくは、誘電泳動力を生起させる不均一交流電場を液体中に形成するために光を利用した光誘起誘電泳動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電泳動法は、微粒子が分散した液体中に不均一な交流電場を印加すると、その電場により微粒子が分極され、電場の強い方向又は弱い方向に微粒子が移動する現象を利用した泳動法である。この誘電泳動では、直流電場を利用する電気泳動とは異なり、電荷を持たない様々な粒子を泳動させることができるという大きな特徴を持つ。そのため、例えば、微粒子アセンブルと呼ばれる微細加工、タンパク質、DNA、微生物等のマニピュレーションや、分離・分析、懸濁粒子のフィルタリングや回収、など幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
特に近年、数μmから数nm程度の径の微粒子を集積化して様々な機能材料を作製する微粒子アセンブル法についての研究が盛んに行われており、誘電泳動は複数の微小要素を同時に基板上の特定の部位(サイト)に集積化させるマニピュレーション技術として有望視されている。しかしながら、従来の一般的な誘電泳動法で、基板上の特定のサイトに微粒子を集積させるような不均一交流電場を形成するには、複雑なパターンを持った電極を使用しなければならない。こうしたパターンは半導体プロセス等に利用されているフォトリソグラフィー技術を用いて作製可能ではあるが、そうした電極をいちいち作製するのは手間が掛かり自由度も低い。
【0004】
これに対し、最近、光を利用して不均一交流電場を形成する光誘起誘電泳動法が提案されている。非特許文献1に記載の光誘起誘電泳動法では、対向して配置した2枚のガラス基板の一方の内面全体に透明な電極とアモルファスシリコン(a−Si)層とを形成し、他方の内面全体に透明電極のみを形成し、両ガラス基板間に形成された隙間に微粒子の浮遊する媒質を閉じ込める。そして、2つの透明電極間に交流電圧を印加し、媒質中に均一な交流電場を形成する。ここで、ガラス基板や透明電極を通してa−Si層の一部に光を照射すると、光が当たった部分の導電性が変化するため媒質中の交流電場は不均一になる。即ち、光の照射によって不均一交流電場が形成される。これに伴って媒質中に浮遊する微粒子に正又は負の誘電力が作用し、微粒子は媒質中で移動する(誘電泳動する)。例えばa−Si層に対して光を照射する位置を変化させると、それに応じて不均一交流電場も変化し、媒質中で微粒子を所望の位置に搬送することが可能となる。
【0005】
ところで、こうした現象を利用して実際に液体(媒質)中の微粒子を所定のサイトに搬送するために粒子の移動状況をモニタしたり或いは移動した微粒子の数や量を計測したりするためには、上記のような導電性を変化させるための誘起光とは別に、何らかの光を液体に照射する必要がある。この光は、顕微鏡や撮像装置等により液体中の微粒子を直接観察する際には照明光であり、また微粒子が蛍光性を有しその蛍光の観察する際には励起光であるが、いずれにしても誘起光とは別に液体に光(以下、誘起光と区別して「照明光」という)を当てる必要が生じる。上記のような従来の光誘起誘電泳動装置の構成において、この照明光がa−Si層に当たるとそれによって導電性が変動して微粒子の移動操作のための交流電場が乱れてしまったり、誘起光が照射された特定部分での電界強度変化が不足したりするといったおそれがある。その結果、所望の通りに、微粒子を搬送することが困難になるという問題がある。
【0006】
【非特許文献1】ペイ・ユー・チョウ(Pei Yu Chiou)ほか2名、「マイクロビジョン−アクティベイテッド・オートマティック・オプティカル・マニピュレータ・フォー・マイクロスコピック・パーティクルズ(Microvision-Activated Automatic Optical Manipulator for Microscopic Particles)」、MEMS 2005(The 18th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)、p.681-685
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主な目的とするところは、液体中の微粒子の移動状況などを的確に観察しながら、確実な移動操作を行うことができる光誘起誘電泳動装置を提供することである。また、本発明の別の目的とするところは、基板上の特定のサイトに目的とする微粒子を集積化するのに好適な光誘起誘電泳動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る光誘起誘電泳動装置は、微粒子が分散した液体中に不均一交流電場を形成し、該電場による誘電泳動力により前記微粒子を泳動させる誘電泳動装置であって、
a)前記液体に接触するように配置され、特定の波長帯域を持つ光の照射を受けて導電性が変化する光導電部と、
b)前記光導電部に前記特定の波長帯域を含む誘起光を照射することにより前記液体中の交流電場を不均一化させる誘起光照射手段と、
c)前記特定の波長帯域とは異なる波長帯域の光を照射する照明光照射手段を含む、前記液体中の微粒子を光学的に観察する観察手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
例えば顕微観察などを行うことを考えると照明光は可視光であることが望ましい。一方、光導電部として使用する材料として可視光を全く吸収しない特性を実現することは難しい。そこで、本発明の一態様として、光導電性部は青を含む相対的に短い波長帯域の光を吸収するもの、例えば緑色の波長付近に吸収端を持ち、それよりも短波長帯域で高い吸収率を示す材料から成るものであり、前記照明光照射手段は上記波長帯域と重ならないように赤色を中心とする相対的に長い波長帯域を有するものである構成とするとよい。
【0010】
具体的には、上記のような吸収特性を持つ光導電部の材料として、第12族元素であるカドミウム(Cd)と、第16族元素である硫黄(S)、セレン(Se)又はテルル(Te)との化合物を用いることができる。特にCdSは半導体材料として広く使用されており、比較的廉価で入手し易い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る光誘起誘電泳動装置では、観察のための照明光が光導電部に当たっても、光導電部はその照明光を殆ど吸収せず導電性が大きく変化しないので、誘起光の照射による不均一交流電場の乱れが起こらず、誘起光の照射に従った確実な微粒子の搬送、分離、選別等の操作が可能となる。一方、照明光を利用して微粒子の移動状況の観察なども支障なく行えるので、例えば微粒子の移動を確認しながらの的確な搬送操作が行える、或いは、微粒子を正確に検出、計測することができる。
【0012】
また、本発明に係る光誘起誘電泳動装置の構造の一態様として、前記液体を挟んで配置された一対の支持体と、該一対の支持体の一方の内側に設けられた電極と他方の内側に設けられた電極とから成る一対の電極と、該電極間に交流電圧を印加する交流電源と、を備え、前記光導電部は前記一対の電極の一方の表面を覆うように設けられ、且つ、少なくとも一方の支持体及び電極は透光性を有する構成とすることができる。
【0013】
ここで、上記一対の支持体は液体を導入する容器の壁面を構成するものとすることができる。また、透光性を有する支持体は例えばガラス、合成樹脂などを用いることができ、透光性を有する電極は例えばITO(酸化インジウム・スズ)を用いることができる。
【0014】
また、上記態様では一対の支持体の両方に電極が形成されているが、一方の支持体には電極が形成されない、つまり支持体そのものの内面が液体に直接接触した構成とすることができる。即ち、本発明に係る光誘起誘電泳動装置の別の態様として、前記液体を挟んで配置された一対の支持体と、該一対の支持体の一方の内側に互いに離して設けられた一対の電極と、該電極間に交流電圧を印加する交流電源と、を備え、前記光導電部は前記一対の電極の表面を覆うように設けられ、且つ、少なくとも一方の支持体が透光性を有する構成とするとよい。
【0015】
また本発明に係る光誘起誘電泳動装置のさらに別の態様として、前記液体を挟んで配置された一対の支持体と、該一対の支持体の一方の内側に設けられた電極、及び両支持体の間に液体中に浸漬するように設けられ、微粒子が通過可能なサイズの微小開口が多数形成された電極から成る一対の電極と、該電極間に交流電圧を印加する交流電源と、を備え、前記光導電部は前記一対の電極の一方の表面を覆うように設けられ、且つ、少なくとも一方の支持体は透光性を有する構成としてもよい。ここで、「微粒子が通過可能なサイズの微小開口が多数形成された電極」とは例えば、微小開口として網目が形成されたメッシュ状の電極、多数の微小孔が穿設された板状の電極などが考えられる。
【0016】
これら態様の構成では、液体を挟んで配置された一対の支持体の一方の内面に電極が設けられていないため、この支持体を微粒子を組み付ける特定の部位(サイト)を有する基板とし、その基板を単体で、つまり他方の支持体などをそのままの状態に維持したまま交換可能である構成とするとよい。この構成では、支持体(基板)を交換する毎に光誘起誘電泳動を行わせることにより、特定のサイトに微粒子が集積した基板を効率良く得ることができ、例えば微粒子アセンブルのためのマニピュレーション装置として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第1実施例]
本発明に係る光誘起誘電泳動装置の一実施例(第1実施例)を、図1〜図3を用いて説明する。図1は本実施例の光誘起誘電泳動装置の全体の概略構成図、図2は図1中の泳動部10の拡大図である。
【0018】
図1に示すように、本実施例の誘起誘電泳動装置は、泳動部10と、泳動部10に交流電圧を印加する交流電源20と、泳動部10に誘起光22を照射する誘起光照射部21と、泳動部10における微粒子の移動状態などを観察するために泳動部10を照明する照明光照射部23と、泳動部10の顕微画像を取得する顕微撮像部25と、撮影画像を出力する表示部26と、全体の動作を制御する制御部27と、を含む。
【0019】
泳動部10について図2により詳述する。泳動部10では、透光性を有する2枚のガラス基板(本発明における支持体に相当)11a、11bが絶縁性のスペーサ14により支持されて対向配置されている。このスペーサ14とガラス基板11a、11bとが、微粒子101が分散した液体100を保持する容器を構成する。一方のガラス基板11aの内面全体には透光性を有する導電膜12aが一方の電極として形成され、さらにそれを覆うように光導電膜(本発明における光導電部に相当)13が形成されている。他方のガラス基板11bの内面全体にも同様に透光性を有する導電膜12bが一方の電極として形成されている。
【0020】
ここでは一例として、導電膜12a、12bはITOであり、光導電膜13は硫化カドミウム(CdS)である。硫化カドミウムは禁止帯幅が大きいために、長波長帯域の、つまりエネルギーの小さな光を吸収しないという性質を持つ。図3中のAはCdSの吸収スペクトルである。CdSの禁止帯幅は2.4eVであり、これを波長に換算すると517nm、光の三原色ではほぼ緑の波長である。従って、CdSで光電変換に寄与するのはこれ以下の短波長帯域、光の三原色では青を含む波長の光であり、その帯域の光が導電率の変化を起こすのに利用できる。従って、誘起光22は少なくとも約520nm以下の短波長帯域の成分を含む必要がある。
【0021】
一方、照明光照射部23から出射される観察用の照明光24は液体100の広い範囲に当たるように照射されるため、これが液体100を透過して又は散乱して光導電膜13に達することは避けられない。そのため、この照明光24が上述したような短波長帯域の成分を含んでいると、これにより光導電膜13の導電率が変化してしまったり、誘起光22の当たった部分の導電率の変化が相対的に小さくなってしまったりするおそれがある。そこで、ここでは照明光24として、少なくとも光導電膜13の吸収が大きな波長帯域の成分を含まないような波長特性を有する光を利用する。また、例えば赤外撮像装置等を利用することで赤外光を照明光としても観察が可能であるが、ここでは通常の撮像装置を利用するために照明光24も可視光とする。
【0022】
具体的には、図3中のBに示すように、約630nmを中心波長として550〜750nm程度の範囲に成分を持つ、赤色を中心とする長波長帯域の光を照明光24として利用する。こうした波長帯域の光を出射するために、照明光照射部23として、特定の波長帯域の光を放出するLEDなどの光源を用いるか、或いは、より広い波長帯域の光を放出する光源と特定の波長帯域のみを選択的に透過させる光学フィルタ(或いはそのほかの波長選択素子)との組み合わせを用いることができる。なお、図3で分かるようにCdSの吸収は上記長波長帯域でも完全にゼロではなく、実際に全く波長帯域が重ならないように波長分離を行うことは困難であるから、実用上問題がない程度に波長分離が達成されていればよい。
【0023】
次に、本実施例の光誘起誘電泳動装置における目的の微粒子の搬送操作について説明する。制御部27の制御の下に、交流電源20は導電膜12a、12b間に所定周波数の交流電圧を印加する。誘起光22を照射しない状態では、光導電膜13の導電率は相対的に小さい(抵抗が相対的に大きい)ため、電圧印加による電圧降下は主として光導電膜13中で起こる。従って、液体100に掛かる電圧は小さく、相対する光導電膜13と導電膜12bとは全体が液体100に接していてその間隔もほぼ等しいため、このとき液体100中には均一な(均一とみなせる)交流電場が形成される。
【0024】
図2に示すように誘起光照射部21から誘起光22を照射すると、ガラス基板11a、導電膜12aを透過して光導電膜13の一部に誘起光22が当たり、誘起光22が照射された領域13aでは選択的に導電率が高くなる。そのため、この領域13aと導電膜12bとの間でだけ液体100に掛かる電圧は大きくなり、液体100中で電位差が生じ、交流電場が不均一となる。これによって、液体100中の微粒子101は分極し、微粒子101に誘電力が作用して誘電泳動力が発生する。その結果、液体100中の微粒子は例えば図2中に示したように、光導電膜13に誘引されて近づくように移動するか、或いは逆に反発して遠ざかるように移動する。その移動方向は液体100の性質などに依存する。
【0025】
誘起光照射部21は誘起光22の照射位置を二次元的に走査することが可能であり、制御部27の制御の下に、光導電膜13上で誘起光22の照射位置を予め定めたパターンに従って走査する。すると、その走査に伴って液体100中の不均一交流電場の状態が変動するため、微粒子101の移動方向や移動長さを制御することができる。
【0026】
一方、顕微撮像部25は照明光照射部23から出射された照明光24の反射光や散乱光などを受けることで液体100中の微粒子101の移動や離散・集合を反映した2次元画像を時々刻々と撮影し、その画像を表示部26の画面上に表示する。また、その画像信号は制御部27にも与えられ、制御部27は画像処理を行うことで誘起光22の照射に対応した微粒子の搬送が行われているか否かを判断しつつ、誘起光22の照射位置の走査を制御する。もちろん、顕微撮像部25に代えて光学顕微鏡などを用い、オペレータが目視で微粒子の移動状態などを観察しながら、誘起光22の照射やその位置の走査をマニュアルで行ってもよい。また、誘起光照射部21での走査により誘起光22の照射位置を変えるのではなく、泳動部10を載せた図示しないステージを二次元的に駆動することで同様の走査を達成することもできる。
【0027】
観察をリアルタイムで行うために照明光24は、ガラス基板11b、導電膜12bを通して連続的に液体100に照射され、多くは光導電膜13にも当たるが、上述のように、この照明光24の波長帯域と光導電膜13が吸収する波長帯域とは重ならない、即ち、波長分割されているため、この照明光24によって液体100中に形成される不均一性交流電場は殆ど影響を受けない。それ故に、液体100中の微粒子101の移動に影響を及ぼすことなく、観察を行いながら目的の位置や方向に微粒子101を搬送することができる。
【0028】
[第2実施例]
次に本発明の他の実施例(第2実施例)の光誘起誘電泳動装置について図4により説明する。図4(a)は泳動部10の断面図、(b)は上面平面図、(c)は(b)中のa−a’線断面図であり、上記第1実施例と同じ構成要素には同じ符号を付して詳細な説明を略す。
【0029】
この第2実施例の構成の特徴は、下側のガラス基板11bには導電膜を形成せず、上側のガラス基板11aの内面に所定間隔離して一対の電極としての導電膜12a、12bを形成し、その両導電膜12a、12bを被覆するようにガラス基板11a内面全体に光導電膜13が形成されていることである。また、図4には現れない誘起光照射部は、図4(b)に示すように、互いに離れた2個所に同時に誘起光を照射することが可能である。
【0030】
第1実施例と同様に、導電膜12a、12b間に交流電圧を印加することで液体100中に略均一の交流電場を形成している状態から図4(b)中に示すような領域13aに誘起光を照射すると、その領域の導電率が変化し、交流電場が不均一になる。これによって、液体100中の微粒子101は誘電泳動する。光導電膜13とガラス基板11bとの間の間隔や両領域13aの間の間隔などを適宜に定めておくことにより、誘電泳動によって集まって来た微粒子101を重力により沈下させて図4(c)に示すように領域13aの境界付近の直下に集積させることができる。この第2実施例では、ガラス基板11bの内面に導電膜が存在しないから、このガラス基板11b自体を微粒子101を組み付ける対象の基板とすることにより、基板上の任意の部位(サイト)に微粒子101を集積させることができる。
【0031】
[第3実施例]
次に本発明のさらに他の実施例(第3実施例)の光誘起誘電泳動装置について図5、図6により説明する。図5は泳動部10の断面図、図6は液体100中の要部の斜視図である。上記第1実施例、第2実施例と同じ構成要素には同じ符号を付して詳細な説明を略す。
【0032】
この第3実施例の構成の特徴は、上側のガラス基板11aの内面ほぼ全体に導電膜12aが一方の電極として形成される一方、対向配置されたガラス基板11bには導電膜は設けられず、その代わりに、両ガラス基板11a、11bの間、つまり液体100中に浸漬する位置に、メッシュ(網目)状導電体15が他方の電極として配設され、且つそのメッシュ状導電体15の表面に光導電膜16が形成されていることである。メッシュ状導電体15の網目の開口は表面に形成された光導電膜16により少し狭くなるが、少なくとも液体100中の微粒子101が十分に通過可能な程度のサイズになっている。
【0033】
交流電源20から導電膜12aとメッシュ状導電体15との間に交流電圧が印加され、それによって液体100中にはほぼ均一な交流電場が形成される。この状態で図5に示すように、誘起光22が照射されると、ガラス基板11a、導電膜12aを透過してメッシュ状導電体15表面の光導電膜16に誘起光22が当たり、その照射領域の導電率が変化する。それによって液体100中には不均一交流電場が形成され、微粒子101は誘電泳動する。このとき、図6に示すように誘電泳動により集めた微粒子101を網目を通して沈下させることにより、ガラス基板11bの表面上の特定の部位(サイト)に微粒子101を集積することができる。特に、この第3実施例では、第2実施例よりも微粒子101を取り付けるサイトを細かく設定することができる。
【0034】
図7は第3実施例の変形例であり、メッシュ状導電体15を他方の電極として用いるものの、光導電膜13はその導電体15ではなく第1実施例と同様に、上側の電極に相当する導電膜12aを覆うように設けたものである。この例でも、第3実施例と同様に、下側のガラス基板11bの表面の特定のサイトに微粒子101を集積させることができる。
【0035】
上述のように第2、第3実施例では、誘起光の照射位置で決まる下側のガラス基板11b表面の特定の位置に設けられたサイトに微粒子101を集積させることができるため、このガラス基板11bを微粒子101を組み付ける対象の基板として交換容易としておけば、効率的に微粒子を配列させたアセンブル構造体を得ることができる。
【0036】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例(第1実施例)の光誘起誘電泳動装置の全体の概略構成図。
【図2】第1実施例の光誘起誘電泳動装置における泳動部の概略断面図。
【図3】第1実施例の光誘起誘電泳動装置における光導電膜の吸光スペクトル及び照明光の発光スペクトルの概略図。
【図4】本発明の第2実施例の光誘起誘電泳動装置における泳動部の概略断面図(a)、上面平面図(b)、及びa−a’線断面図(c)。
【図5】本発明の第3実施例の光誘起誘電泳動装置における泳動部の概略断面図。
【図6】第3実施例の光誘起誘電泳動装置における液体中の要部の斜視図。
【図7】本発明の第3実施例の変形例による光誘起誘電泳動装置における泳動部の概略断面図。
【符号の説明】
【0038】
10…泳動部
100…液体
101…誘電体粒子
11a、11b…ガラス基板
12a、12b…導電膜
13…光導電膜
13a…照射領域
14…スペーサ
20…交流電源部
21…誘起光照射部
22…誘起光
23…照明光照射部
24…照明光
25…顕微撮像部
26…表示部
27…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子が分散した液体中に不均一交流電場を形成し、該電場による誘電泳動力により前記微粒子を泳動させる誘電泳動装置であって、
a)前記液体に接触するように配置され、特定の波長帯域を持つ光の照射を受けて導電性が変化する光導電部と、
b)前記光導電部に前記特定の波長帯域を含む誘起光を照射することにより前記液体中の交流電場を不均一化させる誘起光照射手段と、
c)前記特定の波長帯域とは異なる波長帯域の光を照射する照明光照射手段を含む、前記液体中の微粒子を光学的に観察する観察手段と、
を備えることを特徴とする光誘起誘電泳動装置。
【請求項2】
前記光導電性部は青色を含む相対的に短い波長帯域の光を吸収するものであり、前記照明光照射手段は赤色を中心とする相対的に長い波長帯域を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の光誘起誘電泳動装置。
【請求項3】
前記光導電部はカドミウム(Cd)と硫黄(S)、セレン(Se)又はテルル(Te)との化合物から成ることを特徴とする請求項2に記載の光誘起誘電泳動装置。
【請求項4】
前記液体を挟んで配置された一対の支持体と、該一対の支持体の一方の内側に設けられた電極と他方の内側に設けられた電極とから成る一対の電極と、該電極間に交流電圧を印加する交流電源と、を備え、前記光導電部は前記一対の電極の一方の表面を覆うように設けられ、且つ、少なくとも一方の支持体及び電極は透光性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光誘起誘電泳動装置。
【請求項5】
前記液体を挟んで配置された一対の支持体と、該一対の支持体の一方の内側に互いに離して設けられた一対の電極と、該電極間に交流電圧を印加する交流電源と、を備え、前記光導電部は前記一対の電極の表面を覆うように設けられ、且つ、少なくとも一方の支持体が透光性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光誘起誘電泳動装置。
【請求項6】
前記液体を挟んで配置された一対の支持体と、該一対の支持体の一方の内側に設けられた電極、及び両支持体の間に液体中に浸漬するように設けられ、微粒子が通過可能なサイズの微小開口が多数形成された電極から成る一対の電極と、該電極間に交流電圧を印加する交流電源と、を備え、前記光導電部は前記一対の電極の一方の表面を覆うように設けられ、且つ、少なくとも一方の支持体は透光性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光誘起誘電泳動装置。
【請求項7】
液体中の微粒子を支持体の表面上の特定の部位に組み付けるための装置であって、前記一対の支持体のうちで前記電極が設けられていない側の支持体は前記特定の部位を有し、それ単体で交換可能であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光誘起誘電泳動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−2745(P2009−2745A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162824(P2007−162824)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】