説明

光走査装置

【課題】高い電界を印加する場合でも、歪みが生じていない偏向した光束を得ることができる光走査装置を提供すること。
【解決手段】入射光が透過する複数の光導波路を有する光走査装置であって、前記複数の光導波路は、印加される電界に基づいて屈折率を変化する電気光学素子をそれぞれ含み、前記各電気光学素子に所定の周波数の電圧を位相をずらして印加することにより、該電気光学素子の屈折率を位相をずらして変化させ、前記変化した屈折率に対応させて、前記複数の光導波路に入射する前記入射光をそれぞれ点滅する、ことを特徴とする光走査装置により上記の課題が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学素子を用いた光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光束の進行方向を制御して光を走査させる装置として、ポリゴンミラー、ガルバノミラーあるいは電気光学素子を用いた光走査装置が知られている。
【0003】
ポリゴンミラー及びガルバノミラーを用いた光走査装置では、光の偏向可能な角度(偏向角)が大きいが、光学系(ミラーなど)及び可動部を必要とするため、小型化が難しい場合がある。また、可動部の振動が問題になる場合がある。
【0004】
一方、電気光学素子を用いた光走査装置では、偏向角は小さいが、電気光学効果(電気光学結晶の屈折率が電界強度に依存して変化する効果)を利用しているため、可動部がなく、高応答性を実現できる。また、小型化も比較的容易である。
【0005】
特許文献1は、複数の三角形の分極反転ドメインを有する強誘電性基体を用いて、高速のランダムアクセスが可能であると共に、偏向可能な偏向角が大きく、高分解能の電気光学素子に関する技術を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強誘電体(電気光学素子)を用いた光走査装置は、強誘電体に連続して一方向に電圧を印加することで強誘電体内の電気光学結晶の屈折率を変化させ、電気光学結晶を透過する光を偏向する。このとき、大きな偏向角を得るためには、電気光学結晶に高い電界を印加する必要がある。具体的には、電気光学結晶として用いられているニオブ酸リチウム結晶では、分極反転によるプリズム構造(プリズム幅D=2mm、プリズム長L=20mm)により光を偏向させる場合において、偏向角度を5°以上とするために、ニオブ酸リチウム結晶に約10kV/mm以上の電界を印加する。
【0007】
特許文献1に開示されている技術において、電気光学結晶に高い電界を印加する場合では、空間電荷効果により、結晶内に注入された電子によって陽極からの電界が影響を受け、電極間の電界(電荷分布)が不均一になる場合があった。これにより、電気光学結晶の屈折率が不均一となり、偏向して出射される出射光に歪みが生じ、出射光の品質が保たれない場合があった。
【0008】
本発明は、高い電界を印加する場合でも、歪みが生じていない偏向した光束を得ることができる光走査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、入射光が透過する複数の光導波路を有する光走査装置であって、前記複数の光導波路は、印加される電界に基づいて屈折率を変化する電気光学素子をそれぞれ含み、前記各電気光学素子に所定の周波数の電圧を位相をずらして印加することにより、該電気光学素子の屈折率を位相をずらして変化させ、前記変化した屈折率に対応させて、前記複数の光導波路に入射する前記入射光をそれぞれ点滅する、ことを特徴とする光走査装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光走査装置において、電気光学素子に印加する電界が高い場合でも、歪みが生じていない偏向した光束を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】光偏向器及び光走査装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】光偏向器の要部の一例を示す概略側面図である。
【図3】光偏向器の動作の一例を説明する説明図である。
【図4】実施例1の光走査装置の偏向角を説明する説明図である。
【図5】変形例1の光走査の動作を説明する説明図である。
【図6】実施例2の光走査装置の一例を示す概略構成図である。
【図7】実施例2の光走査装置のの偏向角を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
電気光学効果により光束の進行方向を偏向する光偏向器を用いて、本発明を詳細に説明する。本発明は、光偏向器以外でも、プリンタ、スキャナ、車載用レーザレーダ、波長可変レーザ、及び、メディカル用レーザ等において用いられる入射光を電気光学効果を用いて偏向し、偏向した光束(入射光)を出射光として照射するものであれば、いずれのものにも用いることができる。
【0013】
(光偏向器の構成)
図1に、本実施形態の光偏向器の概略構成図の例を示す。
【0014】
図1において、光偏向器10は、制御手段11、入射光手段12、第1の光導波路13A、第2の光導波路13B、電極14、及び、基板15を含む。
【0015】
光偏向器10は、本実施形態では、入射光手段12から入射された入射光を第1の光導波路13A等で偏向し、偏向後の光束(入射光)を出射光として出射する。また、光偏向器10は、制御手段11により、電極14に印加する電圧を制御し、電気光学効果により、第1の光導波路13A等の屈折率を変化させ、光導波路内を透過する光束を偏向する。
【0016】
ここで、電気光学効果とは、電気光学結晶の屈折率が電界強度に依存して変化する効果をいう。
【0017】
制御手段11は、光偏向器10全体の制御を行う手段である。制御手段11は、入射光手段12等の動作を制御する。また、制御手段11は、電極14に印加する電圧を制御することにより、第1の光導波路13A等の屈折率を制御する。
【0018】
入射光手段12は、光を発し、その光を入射光として、第1の光導波路13A等に入射する手段である。入射光手段12は、本実施形態では、光源及び光学系を含む。入射手段12は、光源が射出する光束(半導体レーザなど)を光学系(レンズ及びミラーなど)により集光し、第1の光導波路13A等(後述する第1のコア層13Ac等)に入射する。
【0019】
第1の光導波路13Aは、入射光手段12により入射された入射光の進行方向を偏向し、偏向後の光束(入射光)を出射光として出射するものである。第1の光導波路13Aは、本実施形態では、第1のグレーティング13Ag及び第1のコア層13Acを含む。
【0020】
第1のグレーティング13Agは、格子状パターンによる光の回折により、第1の光導波路13Aに入射された入射光の波長に応じて、入射光を偏向する回折格子である。第1のグレーティング13Agは、本実施形態では、入射光を入射する第1の光導波路13A(後述する第1のコア層13Ac)の表面を凹凸形状に加工して形成される。
【0021】
第1のコア層13Acは、電気光学素子として、本実施形態では、強誘電性体により構成される。また、第1のコア層13Acは、強誘電性体の一部に自発分極の方向(電気光学結晶の分極軸の方向)が反転した領域(後述する分極反転領域13Acr)を有する。
【0022】
第2の光導波路13Bは、第1の光導波路13Aと構成が同様のため、説明を省略する。
【0023】
電極14は、第1のコア層13Ac等に電界を印加し、第1のコア層13Ac等の屈折率を変化させるものである。電極14は、本実施形態では、第1の光導波路13A等の表面に、一対の電極(上部電極層及び下部電極層)として形成される。詳細は、後述の(光導波路及び電極の構成)で説明する。
【0024】
基板15は、第1の光導波路13A、第2の光導波路13B及び電極14を支持するものである。詳細は、後述の(光導波路及び電極の構成)で説明する。
【0025】
(光導波路及び電極の構成)
光偏向器の第1の光導波路及び電極の構成を、図2を用いて、説明する。図2は、光偏向器の要部の一例を示す概略側面図である。なお、光偏向器の第2の光導波路等の構成は、第1の光導波路等の構成と同様のため、説明を省略する。
【0026】
図2において、光偏向器は、第1の光導波路として、入射光BA1を偏向する回折格子である第1のグレーティング13Agと、光束BA2を透過する薄膜導波路である第1のコア層13Acと、第1のコア層13Acから漏れた光を反射するクラッド層(13Aup及び13Adw)と、を有する。
【0027】
第1のグレーティング13Agは、第1の光導波路の外部から入射角α(図中のz軸に対する角度α)で入射する入射光BA1を第1のコア層13Acに伝搬(以下、カップリングという。)させるため、入射光BA1の位相整合を行う。ここで、位相整合条件は、次式より、得られる。
【0028】
n(a)×sinα=N−λ/Λ
ここで、n(a)は、グレーティング周辺の屈折率である。Nは、コア層の実効屈折率である。λは、光束の波長である。Λは、グレーティングの周期である。第1のグレーティング13Agは、本実施形態では、グレーティングの周期Λを500nmとし、凹凸のデューティ比を1:1とする。このとき、入射光BA1の入射角αは64°となる。
【0029】
第1のコア層13Acは、自発分極の方向が図中のz軸の正方向である正領域13Acpと、光を偏向させるために自発分極の方向を反転(z軸の負方向に)した領域(以下、分極反転領域という。)13Acrと、を有する。ここで、分極反転領域13Acrの形状は、三角形の断面形状(以下、プリズム形状という。)である。プリズム形状は、後述する図3(a)〜(c)に図示する。また、分極反転領域13crは、光束BA2の進行方向(図中のy軸方向)に、複数、配置されている。
【0030】
クラッド層は、上部クラッド層13Aup及び下部クラッド層13Adwを有する。ここで、クラッド層とは、光束BA2の進行方向と交差する方向側の第1のコア層13Acの表面上に被覆され、第1のコア層13Acから漏れた光を反射する。なお、グレーティング13Agが形成される領域には、上部クラッド層13Aupを被覆しない。
【0031】
また、光偏向器は、光導波路(コア層)に電界を印加するための電極として、上部クラッド層13Aup及び下部クラッド層13Adwの外側(第1のコア層13Acと接する側の反対側)に形成された上部電極層14Aup及び下部電極層14Adwを有する。なお、グレーティング13Agが形成される領域には、上部電極層14Aupを形成しない。
【0032】
更に、光偏向器は、第1の光導波路13A及び上部電極層14Aup等を支持する支持基板15Asと、第1の光導波路13Aと支持基板15Asとを接着する接着層15Agと、を有する。
【0033】
ここで、第1のコア層13Acの材質は、電気光学素子として、電気光学効果を有する強誘電体のニオブ酸リチウム材料(LiNbO)を用いることができる。また、支持基板15Asもニオブ酸リチウム材料を用いることができ、光偏向器の熱膨張による損傷を低減することができる。上部クラッド層13Aup及び下部クラッド層13Adwは、膜厚約1μmのTa膜またはSiO膜を用いることができる。上部電極層14Aup及び下部電極層14Adwは、膜厚約200nmのTi膜またはCr膜を用いることができる。
【0034】
第1のコア層13Acは、その一方の表面上に下部クラッド層13Adw及び下部電極層14Adwを成膜後、第1のコア層13Acを上下反転(z軸方向に反転)し、第1のコア層13Acの成膜されていない他方の表面を研磨することができる。これにより、第1のコア層13Acの膜厚を調整することができる。第1のコア層13Acの膜厚は、本実施形態では、約20μmとする。研磨後、第1のコア層13Acは、研磨した表面上に上部クラッド層13Aup等を成膜(形成)することができる。
【0035】
(光束を偏向する動作)
光偏向器が光束の進行方向を偏向する動作を、図3を用いて、説明する。図3(a)は、光偏向器の入射光及び出射光を説明する概略斜視図である。図3(b)は、その概略断面図である。図3(c)は、その概略平面図である。なお、図3(a)〜(c)において、電極の記載は省略している。
【0036】
図3(a)において、光偏向器は、第1の光導波路13A(電極を含む。以下、同様とする。)を第2の光導波路13B上に積層して構成される。このとき、第1の光導波路13Aの透過する光束BA2の光軸(印加する電圧が0Vのときの光軸)と第2の光導波路13Bの光束BB2の光軸とは、同一の方向とする。また、第2の光導波路13Bは、第1の光導波路13Aより、光軸方向(図中のy軸方向)において長い構成とする。このため、第2のグレーティング13Bgは、積層後もその表面が露出している。
【0037】
図3(b)において、光偏向器は、図示しない光源(入射光手段)から発せられた光を、図示しないレンズ等により集光し、入射光BA1及び入射光BB1として、第1の光導波路13A及び第2の光導波路13Bに入射する。このとき、入射光BA1等は、第1のグレーティング13Ag及び第2のグレーティング13Bgにより偏向され、光束BA2及び光束BB2として、第1の光導波路13A等の正領域13Acp及び分極反転領域13Acr等を伝搬する。その後、第1の光導波路13A等内で偏向され、出射光BA3及び出射光BB3として出射される。
【0038】
第1の光導波路13Aと第2の光導波路13Bとの積層において、各光導波路の高さ(図中のz軸方向の長さ)を数100μmとすることにより、出射光(BA3及びBB3)の出射位置(図中のz軸方向の位置)の差分を数100μmにすることができる。
【0039】
図3(c)において、光束BA2が第1の光導波路13Aを伝搬しているときに、第1の光導波路13Aに電界を印加すると、第1の光導波路13Aの電気光学効果により、第1の光導波路13A内の正領域13Acp及び分極反転領域13Acrの屈折率が変化する。このとき、正領域13Acpと分極反転領域13Acrとは自発分極の方向が180度異なるため、屈折率の変化量が異なる。この結果、光束BA2は、正領域13Acp及び分極反転領域13Acrを透過する際に、正領域13Acpと分極反転領域13Acrとの界面(屈折率の異なる界面)で屈折し、図中のXY平面内で進行方向を偏向する。
【0040】
その後、偏向された光束BA2は、出射光BA3として、第1のコア層の端面から出射される。なお、第2の光導波路13Bも、同様に、出射光BB3として、偏向された光束BB2を出射する。
【0041】
ここで、正領域13Acp及び分極反転領域13Acrの屈折率差Δnは、次式となる。
【0042】
Δn=−1/2×r×n×V/d
上記の式において、rは、電気光学定数(ポッケルス定数)である。nは、光導波路(コア層)の屈折率である。dは、光導波路(コア層)の厚さである。Vは、光導波路(コア層)に印加する電圧である。
【0043】
以上より、光偏向器は、第1の光導波路13A等に印加する電圧を制御することによって、電気光学効果により第1の光導波路13A等(コア層)の屈折率を制御し、第1の光導波路13A等を透過する光束の進行方向を偏向することができる。
【0044】
なお、電圧を印加する領域を分極反転領域のプリズム形状と同様の形状の領域とすることで、光導波路内に電圧が印加された領域と印加されていない領域とを形成し、局所的に屈折率を変化させることができる。その結果、電圧が印加された領域と印加されていない領域との界面(屈折率の異なる界面)を透過する光束を屈折させ、光束の進行方向を偏向することができる。
【0045】
(実施例)
光走査装置の実施例を用いて、本発明を説明する。本発明は、光走査装置以外でも、プリンタ、スキャナ、車載用レーザレーダ、波長可変レーザ、及び、メディカル用レーザ等において、入射光を電気光学効果を用いて偏向し、偏向した光束(入射光)を出射光として対象物に照射するものであれば、いずれのものにも用いることができる。
【実施例1】
【0046】
実施例1の光走査装置を用いて、本発明を説明する。ここで、光走査装置とは、本実施例では、光源からの入射光を光導波路に入射し、電気光学効果により光導波路の屈折率を変化させ、光導波路内を透過する光束の進行方向を偏向し、偏向後の光束を出射光として出射(以下、光走査という。)する装置である。
【0047】
(光走査装置の構成)
図1に、本実施例の光走査装置100の構成を示す。
【0048】
光走査装置100は、本実施例では、第1の光導波路13Aとして、ユニット1を有する。また、光走査装置100は、第2の光導波路13Bとして、ユニット2を有する。その他の構成は、光偏向器10(図1)と同様のため、説明を省略する。
【0049】
(光走査する動作)
光走査装置が、光走査する動作について、図4を用いて説明する。図4(a)は、ユニット1及び2の偏向角(θ1)を示す。図4(b)及び(c)は、ユニット1及び2に入射光(LD1及びLD2)を点滅するタイミング及び印加する電圧を示す。図(d)は、ユニット1及び2が出射する出射光の偏向角(θ1及び−θ1)を示す。
【0050】
図4(a)において、ユニット1及び2は、グレーティング(13Ag及び13Bg)の位置以外は同じ構成で形成される。ここで、光走査装置は、印加される電圧が0Vのときのユニット1及び2を透過する光束の光軸が同一の方向になるようにユニット1及び2を積層して構成される。また、偏向された光束BA及びBBの出射する位置(以下、光走査位置という。)のずれ量は、ユニット1及び2の合計厚さの1/2と同じ大きさとなる。
【0051】
ここで、ユニット1及び2の厚さを略300μmとすることができる。このため、出射光(BA及びBB)が照射する位置のずれ量は、略300μmとなる。
【0052】
ユニット1及び2には、常時、所定の周波数で電圧が印加される。このため、入射光を常時点灯している場合では、所定の周波数に対応して出射光(BA及びBB)の出射方向が変化する光走査の動作をすることができる。
【0053】
また、所望の光走査位置(方向)に対応する電圧レベル時に入射光を点灯し、所望の光走査位置に対応しない電圧レベル時に入射光を消灯することによって、所望の光走査位置のみに出射光を照射する光走査の動作をすることができる。
【0054】
更に、ユニット1及び2に印加する電圧の波形の位相をずらすことで、一方のユニットの入射光が消灯しているときに、他方のユニットの入射光を点灯することができる。これにより、ユニット1及び2により、常時、所望の光走査位置に出射光を停止して照射する光走査の動作をすることができる。
【0055】
ここで、所定の周波数とは、空間電荷効果により、光導波路内に注入された電子の分布(電荷分布)が不均一とならない周波数の値とすることができる。また、所定の周波数の値を、数値計算又は実験等により定められる光走査する対象物に対応する値とすることができる。
【0056】
具体的には、所定の周波数は、膜厚20μmの光導波路の材料にマグネシウムが添加されたニオブ酸リチウム結晶を用いる場合、1kHz以上の波形で±250Vの電圧を印加することができる。このとき、ニオブ酸リチウム結晶内の電子が不必要な準位にトラップされる前に、逆向きの電圧が印加される。このため、不均一な電荷分布を結晶内に生じさせることがなく、偏向された出射光の形状に歪みが生じることを防止することができる。
【0057】
一方、周波数を1kHz未満にすると、偏向された出射光の形状に歪みが生じる。これは、周波数を小さくすると、電気光学結晶内の電子が滞留する時間が確保され、空間電荷効果が生じ易くなるためである。したがって、マグネシウムが添加されたニオブ酸リチウム結晶を用いる場合、光導波路に印加する電圧の波形の周波数は1kHz以上とすることが好ましい。
【0058】
また、印加する電圧の中間の電圧レベルがゼロでない場合、電気光学結晶内で不均一な電荷分布が発生し、屈折率が不均一になり、出射光に歪みが生じる場合がある。これは、光導波路に電圧を印加することにより、電気光学結晶内に中間の電圧レベルに対応する電圧勾配が存在するため、電気光学結晶内に電子が不必要に滞留するためである。これにより、不均一な電荷分布が電気光学結晶内に形成され、屈折率が不均一になる。
【0059】
光導波路の材料にマグネシウムが添加されたニオブ酸リチウム結晶を用いる場合、印加する電圧の中間の電圧レベルがゼロでないとき、出射光の歪みが顕著となる。これは、マグネシウムの添加により、空間電荷効果が発生し易くなるからである。
【0060】
したがって、光偏向器の印加する電圧の波形は、中間の電圧レベルがゼロとなる波形(電圧レベルの絶対値が同じであり、極性の異なる電圧レベルを一定周期で交互に印加する波形)が好ましい。
【0061】
次に、図4(b)〜(d)を用いて、本実施例の光走査の動作を、具体的に説明する。
【0062】
図4(b)において、光走査装置は、先ず、ユニット1に周期2Tで電圧+V1及び−V1を繰り返す矩形波形の電圧を印加する。このとき、ユニット1は、印加電圧+V1で、θ1(図4(a))の偏向角の出射光を出射する。ここで、入射光を常時点灯している場合では、出射光は、偏向角θ1及び−θ1(θ1の反対方向の角度)で時間Tごとに交互に照射する光走査の動作となる。
【0063】
光走査装置は、出射光を偏向角θ1のみで出射する場合では、ユニット1に入射する入射光LD1を、印加電圧が+V1のとき(図中の横軸の0〜T、2T〜3T、4T〜5Tなど)で点灯することができる。また、光走査装置は、それ以外のとき(印加電圧が−V1のとき)には、入射光LD1を消灯することができる。
【0064】
次に、図4(c)において、光走査装置は、ユニット2に周期2Tで電圧+V1でθ1(図4(a))の偏向角の出射光を出射することができる。ここで、光走査装置は、ユニット2に周期2Tで電圧を印加するときの位相をユニット1の位相と逆にし(半周期ずらして)、ユニット1が−V1となっているときに、ユニット2が+V1となるように電圧を印加する動作をすることができる。
【0065】
また、光走査装置は、ユニット1で入射光LD1を消灯しているとき(T〜2T、3T〜4T、5T〜6Tなど)、ユニット2の入射光LD2を点灯とすることができる。更に、光走査装置は、ユニット1で入射光LD1を点灯しているとき(0〜T、2T〜3T、4T〜5Tなど)、ユニット2の入射光LD2を消灯することができる。
【0066】
次いで、図4(d)において、光走査装置は、上記のユニット1及び2の動作により(図4(b)及び(c))、ユニット1及び2の入射光を点滅することで、常時、偏向角θ1の光走査位置で停止した出射光を照射する光走査の動作をすることができる。
【0067】
以上より、本実施例における光走査装置は、ユニット1及び2に、常時、所定の周波数で電圧を印加し、電気光学結晶内(光導波路のコア層内)に不均一な電荷分布が形成されるのを防止することができる。また、光走査装置は、ユニット(光導波路)を複数有し、各ユニットに印加する電圧の波形の位相をずらすことで、入射光の点滅のタイミングを調整し、出射光を光走査位置に停止して、常時照射することができる。これにより、光走査装置は、常時、所定の周波数で電圧を印加しながら、任意の光走査位置に、出射光に歪みが発生することなく、出射光を光走査することができる。
(変形例1)
本変形例は、光走査位置を経過時間に対応して変化させる例である。
【0068】
(光走査装置の構成)
本変形例の光走査装置の構成は、実施例1と同様のため、説明を省略する。
【0069】
(光走査する動作)
本変形例の光走査装置が、光走査する動作について、図5を用いて説明する。ここで、図5(a)は、光走査を行う出射光の偏向角を示す。図5(b)及び(c)は、ユニット1及び2に印加する電圧及び入射光(LD1及びLD2)を点滅するタイミングを示す。図5(d)は、ユニット1及び2により出射される出射光の偏向角を示す。
【0070】
図5(a)において、光走査装置は、出射光の偏向角をθ1からθ2に徐々に変化させ、その後、偏向角θ2で停止させる光走査の動作を行う。
【0071】
図5(b)において、光走査装置は、図5(a)の光走査を行うため、ユニット1に印加する電圧と入射光LD1を点滅するタイミングとを制御する。ここで、光走査装置は、空間電荷効果が発生するのを抑制するため、ユニット1に、常時、周期2Tの矩形波の電圧を印加する。また、光走査装置は、本変形例では、偏向角をθ1からθ2に変化させるために、ユニット1に印加する電圧の振幅(電圧レベル)を所望となる偏向角に対応する振幅となるように制御する。
【0072】
具体的には、光走査装置は、偏向角θ1に対応する電圧V1から偏向角θ2に対応する電圧V2に周期2Tで変化する矩形波の印加電圧の波形で、ユニット1及びユニット2に電圧を印加することができる。このとき、光走査装置は、印加する電圧を偏向角に対応する電圧とその逆極性の電圧とを繰り返す矩形波の電圧を印加することで、空間電荷効果が発生するのを抑制することができる。また、光走査装置は、偏向角に対応する電圧となったタイミングのみで、ユニット1の入射光LD1を点灯することができる。
【0073】
次に、図5(c)において、光走査装置は、ユニット1の位相から半周期ずらした波形でユニット2に電圧を印加することができる。このとき、光走査装置は、印加する電圧について、ユニット1と同様に、偏向角に対応する電圧とその逆極性の電圧とを繰り返す矩形波の電圧を印加することができる。ここで、ユニット1とユニット2とは、印加される電圧の矩形波の位相が半周期ずれている。
【0074】
このため、ユニット1の入射光LD1が点灯しているときに、ユニット2の入射光LD2は消灯している。また、入射光LD1が消灯しているときに、ユニット2の入射光LD2は点灯している。
【0075】
次いで、図5(d)において、光走査装置は、上記のユニット1及び2の動作により(図5(b)及び(c))、ユニット1及び2の入射光を点滅することで、任意の光走査位置(図5(a))に光走査する動作をすることができる。また、光走査装置は、印加する電圧の周期を短くすることで、よりスムーズに光走査する動作をすることができる。
【0076】
以上より、本変形例における光走査装置は、ユニット1及び2に、常時、所定の周波数で電圧を印加し、電気光学結晶内(光導波路のコア層内)に不均一な電荷分布が形成されるのを防止することができる。このため、光走査装置は、出射光に歪みが発生することなく、出射光を光走査することができる。また、光走査装置は、印加する電圧の振幅を所望となる偏向角と対応するように変化させることで、任意の光走査位置に光走査する動作をすることができる。
【実施例2】
【0077】
実施例2の光走査装置を用いて、本発明を説明する。
【0078】
(光走査装置の構成)
本実施例の光走査装置200の構成を図6に示す。
【0079】
図6において、光走査装置200は、第3の光導波路13Cを含む。ここで、第3の光導波路13Cの構成は、第1の光導波路13A等と同様のため、説明を省略する。また、光走査装置200は、本実施例では、第3の光導波路13Cとして、ユニット3を有する。
【0080】
光走査装置200のその他の構成は、実施例1の光走査装置100(図1)と同様のため、説明を省略する。
【0081】
(光走査する動作)
光走査装置が、光走査する動作について、図7を用いて説明する。図7(a)は、各ユニットの入射光及び出射光を示す。図7(b)〜(d)は、ユニット1〜3に入射する入射光LD1〜LD3の点滅のタイミング及び印加する電圧を示す。図7(e)は、ユニット1〜3により出射される出射光の偏向角を示す。
【0082】
図7(a)は、図3(b)と同様のため、説明を省略する。
【0083】
図7(b)において、光走査装置は、ユニット1に、周期3Tで+V1及び−V1を繰り返す矩形波の電圧を印加する。このとき、印加電圧+V1と−V1とのデューティ比を1:1とし、それぞれの印加時間を(3/2)Tとする。ここで、ユニット1は、電圧+Vが印加されると、透過する光束の偏向角は+θとなる。
【0084】
光走査装置は、本実施例では、ユニット1に電圧+Vが印加されている期間0〜T(図中の横軸)に入射光LD1を点灯する。この期間0〜Tは、電圧+Vを印加している期間(3/2)Tよりも短い。このため、+V〜−V及び−V〜+Vに印加する電圧の極性を切り替える時間を含まない。
【0085】
次に、光走査装置は、ユニット1の入射光LD1をT〜3Tまで消灯する。その後、光走査装置は、ユニット1の入射光LD1を3T〜4Tまで点灯する。これにより、光走査装置は、プラス/マイナスの電圧の極性切り替え時に発生する「立上り/立下りに要する時間」及び「オーバーシュートが発生する時間」を除いて、出射光を照射することができる。このため、光走査装置は、出射光の偏向角の安定性を向上させることができる。
【0086】
次に、図7(c)及び(d)において、光走査装置は、ユニット2及び3を、上記ユニット1(図7(b))と同様に、ユニット1に印加する電圧の波形に対して、その位相を1/3周期ずらして制御する。また、光走査装置は、上記ユニット1(図7(b))と同様に、ユニット2及び3の入射光LD2及びLD3の点滅のタイミングを制御する。
【0087】
次いで、図7(e)において、光走査装置は、上記のユニット1〜3の動作により(図7(b)〜(d))、ユニット1〜3の入射光を点滅することで、常時、偏向角+θの光走査位置で停止した出射光を照射する光走査の動作をすることができる。
【0088】
以上より、本実施例における光走査装置は、ユニット1〜3に、常時、所定の周波数で電圧を印加し、電気光学結晶内(光導波路のコア層内)に不均一な電荷分布が形成されるのを防止することができる。
【0089】
また、光走査装置は、ユニット(光導波路)を複数有し、各ユニットに印加する電圧の波形の位相をずらすことで、入射光の点滅のタイミングを調整し、印加電圧の極性切り替え時に発生する「立上り等に要する時間」及び「オーバーシュートが発生する時間」を除いて、出射光を光走査位置に停止して、常時照射させることができる。これにより、光走査装置は、常時、所定の周波数で電圧を印加しながら、任意の光走査位置に、出射光に歪みが発生することなく、偏向角の安定性の高い出射光を光走査することができる。
【0090】
更に、光走査装置は、実施例1の変形例1と同様に、印加する電圧の振幅(電圧レベル)を所望となる偏向角と対応するように変化させることで、任意の光走査位置に光走査する動作をすることができる。
【0091】
なお、光走査装置は、4つ以上の光導波路(ユニット)により、構成することも可能である。また、電圧を印加する波形は、三角波等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 : 光偏向器
12 : 入射光手段(光源)
13A: 第1の光導波路(光導波路)
13B: 第2の光導波路(光導波路)
13C: 第3の光導波路(光導波路)
13Ac:第1のコア層(電気光学素子)
13Bc:第2のコア層(電気光学素子)
13Cc:第3のコア層(電気光学素子)
13Ag:第1のグレーティング(グレーティング)
13Bg:第2のグレーティング(グレーティング)
13Cg:第3のグレーティング(グレーティング)
100、200:光走査装置
BA1、BB1:入射光
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開平9−146128

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光が透過する複数の光導波路を有する光走査装置であって、
前記複数の光導波路は、印加される電界に基づいて屈折率を変化する電気光学素子をそれぞれ含み、
前記各電気光学素子に所定の周波数の電圧を位相をずらして印加することにより、該電気光学素子の屈折率を位相をずらして変化させ、
前記変化した屈折率に対応させて、前記複数の光導波路に入射する前記入射光をそれぞれ点滅する、
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記入射光を発する光源を複数有し、
前記光源は前記入射光を点滅することを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記複数の光導波路を透過する前記入射光が所望の光走査位置に照射するときの前記屈折率に変化したタイミングで、前記光源は前記入射光を点灯することを特徴とする請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記複数の光導波路を積層し、
前記複数の光導波路を透過する前記入射光の光軸は同一の方向であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記複数の光導波路は、該複数の光導波路に入射する入射光の波長に応じて、前記入射する入射光を偏向するグレーティングをそれぞれ含み、
前記入射する入射光は、前記グレーティングにより、前記複数の光導波路をそれぞれ透過することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の光走査装置。
【請求項6】
前記電圧は、該電圧の中間の電圧レベルがゼロであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光走査装置。
【請求項7】
前記所定の周波数は、1kHz以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−61489(P2013−61489A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199919(P2011−199919)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】