説明

光起電力モジュール用多層バックシートおよびその製造方法並びに光起電力モジュール製造への使用

【課題】水蒸気および酸素に対する透過抑制効果を向上させた、光起電力モジュール用多層バックシートを提供する。
【解決手段】光起電力モジュール用多層バックシート1は、第1の外層2、第2の外層3、およびこれらの外層2,3の間に配置され、水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する少なくとも1つの内層4,5を有する。これらのすべての層2,3,4,5は高分子で構成されている。光起電力モジュール用多層バックシート1は、2つの外層2,3の少なくとも1つはポリアミドを含み、少なくとも1つの内層4,5は、フッ素高分子ではなく、かつポリエチレンを含まない高分子からなる。一部が芳香族であるポリエステルからなる内層4,5は、エステルアミドブロック共重合体からなる少なくとも1つの外側接着促進層6と組み合わせてのみ用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光起電力モジュール、すなわち光電発電用システムに関する。1個の太陽電池が実質的に平坦な光起電力モジュールとして配置され、あるいは複数の太陽電池が表面上で結合および相互に連結されている。現在の技術においては、太陽電池はほとんどの場合、入射光を電気エネルギーに直接変換する半導体材料で構成されている。この目的のため、シリコンが半導体材料として主に使用されている。大規模光起電力太陽光発電所では多数のモジュールが直列に連結され、高電圧装置および高電力装置を提供している。
【背景技術】
【0002】
従来の薄膜シリコン材料に代えて化合物CuIn1−xGaSe(CIGS)を用いることは公知であり、該化合物は、CdTe(テルル化カドミウム)とともに、高効率の薄膜太陽電池用の最も有望な材料の一つと見なされている(EPMAのウェブサイト、薄膜および光起電力研究所)。EPMA研究所は、ガラス基板上のCIGSで最大18.1%の効率を達成した。フライブルグ(ドイツ)の「フライブルグ太陽エネルギーシステム研究所」は、可撓性の高分子基材薄膜太陽電池で、17.6%の効率を証明した。高分子フィルムを基材とする太陽電池の製造方法は、一体的に連結された太陽電池モジュールのロールツーロール(roll-to-roll)製法に適用できる。有機半導体の使用も検討されている(Carsten Deibel, Thomas Strobel, Vladimir Dyakonov:「高分子−フラーレン混合物における効率的なポーラロン対解離の起源」:Physical Review Letters;Phy.Rev.Lett.103,036402、2009年7月16日発行)。
【0003】
金属ナノ粒子または金属ナノ構造体(それぞれがn型ドープまたはp型ドープの電荷輸送層の間に配置されている)を含む高効率の複数の光起電力素子は、米国特許出願公開第2010/0000598A1号明細書により公知である。
【0004】
光起電力モジュールは、積層体として平板状に通常配置されている。例えば特別なガラスからなるガラス板または適切な透明高分子または透明な多層複合体がその上面に配置されている。この下に湿分の侵入を防止するために、好ましくはエチレンビニルアセテート(EVA)からなるフィルムを設けるが、該フィルムは、上記の透明なガラス板と実際の太陽電池(複数のシリコンディスクまたは1個のシリコンディスク)とを結合し、あるいは包み込む。EVAからなる別のフィルムが、太陽電池の底面と、モジュールの裏面保護層となるバックシートとを結合する。真空プレス中で熱固化させることにより、これらの層は結合する(熱プレスの間、EVAによりそれらの層が互いに接着する)。層材料は、逆の順番でプレス中にまず配置され、それにより、ガラス板は積層時には他の層に対して固い基材として作用する。このようにして太陽電池は、弾性を有し透明なEVAホットメルト接着剤の中に埋め込まれ、ガラスとバックシートとの間に封入される、すなわち、湿分の侵入に対して封止される。EVA高分子だけでなく、別の封入材料、例えばPVB、TPUまたはシリコーン高分子の使用が増加している。上述の光起電力モジュールのバックシートが本発明の主要な主題である。
【0005】
この技術的背景についての優れた説明が、国際特許出願公開WO94/22172A1号パンフレットに記載されている。テドラー(Tedlar:イ・アイ・デュポン・ド・ヌムール・アンド・カンパニーの登録商標)は、ポリビニルフルオライド(PVF)からなるフィルムであり、その特許文献の中では好ましいバックシートとして記載されている。Tedlarのバックシートは、実際には、3層フィルム(PVF/PET/PVF)の状態で通常使用されている。国際特許出願公開WO94/22172A1号パンフレットは、裏面モジュール層に可能な材料として、ポリオレフィン、ポリエステル、各種ポリアミド(ナイロン)、ポリエーテルケトン、フッ素高分子等の熱可塑性材料をさらに開示している。
【0006】
光起電力モジュール用の封止材料としてのポリアミドの使用は、国際特許出願公開WO2008/138021A2号パンフレットの焦点となっている。この文献は、(裏面)封止材料として、フッ素高分子とポリエステル(すなわちPVFとPET)からなる多層フィルム複合体の従来技術について最初に言及している。エチレンビニルアセテート(EVA)からなる固定材料に対するこの封止材料の接着力が弱いので、国際特許出願公開WO2008/138021A2パンフレットでは、封止材料として、すなわち、光起電力モジュールのバックシートに使用する材料として、ポリアミド(PA)を提案している。各種ポリアミドが具体的に記載されている:PA6、PA66、PA7、PA9、PA10、PA11、PA12、PA69、PA610、PA612、PA6−3−T、PA6Iおよびポリフタルアミド(PPA)。文献国際特許出願公開WO2008/138021A2号パンフレットは、上述のPA種の使用に関し、複合フィルムおよび単層フィルムのいずれの使用についても実験に基づく証拠を示していない。
【0007】
Proc.of SPIE(2008)Vol.7048「光起電力電池、光起電力モジュール、光起電力部品および光起電力システムの信頼性」,70480C/1-10の中で発表されたS.B.Levyによる「バイオ系バックシート」という技術文献にも、ポリアミド11が可能性のあるバックシート材料として説明されている。この文献では、ナイロン11(すなわちPA11)は、持続可能な原料源(ひまし油)であるので、バックシート材料として有用であると考えられている。PA11はさらに安定であること(すなわち、生分解性ではない)も開示されており、それにより、環境に優しい太陽発電に使用するにことに興味が持たれている。実際にはナイロン11は単独では使用されず、他のフィルム材料(例えばセルロース)を含む複合体の状態でバックシートとして使用することが開示されている。
【0008】
S.B.Levyも第1発明者となっている米国特許出願公開US2009/0101204A1号明細書も、同じ結論に至っている。この場合、ポリアミド11(ナイロン−11層510)は、特定の電気絶縁性紙(505)との複合体の状態で、光起電力バックシート(500)として使用されている(図5および各説明)。ポリアミド11は、上記の紙の上に押し出し塗工により塗布されている。
【0009】
国際特許出願公開WO2008/138022A1パンフレットも、ポリアミド12を光起電力モジュールの保護フィルム用の層材料として記載しており、さらに各フィルム複合体が、ポリエステル(PETまたはPEN)またはフッ素高分子(ETFE)から選択された輸送材料層から主としてなることも述べている。
【0010】
光起電力モジュールとしての多層積層体は従来技術から公知である。日本国特許出願公開である特開2004−223925A号明細書は、例としてそのような多層積層体を開示しており、該多層積層体が耐湿性および耐浸透性を有し、かつ耐候性を有することを開示している。少なくとも一つの第1層がポリプロピレン(PP)系樹脂からなる。第2層が、密度0.94〜0.97g/cmのポリエチレン(PE)からなる。その第2層は、第1層の片面または両面に積層されている。
【0011】
多層構造体の同様の耐久性については、欧州特許出願公開EP1956660A1号明細書により公知である。この多層積層体は、耐加水分解層(メートルトン当たり15当量未満の末端カルボキシル基を有するポリエステル樹脂からなる)と、該耐加水分解層上に積層されたPP樹脂層を含んでいる。PVD法またはCVD法(物理的または化学的蒸着)により製造される金属酸化物からなる別の障壁層も開示されている。例えば、アルミニウムまたはシリコンが出発物質として使用されている。
【0012】
米国特許第6,521,825B2号明細書では、別の方法が検討されており、その方法では、軽量で薄く、耐久性があり、向上した耐湿性、および優れた電気絶縁性を有する多層バックシートを用いている。この光起電力モジュール用多層バックシートは、耐熱層と耐候層の2つの間に配置された、耐湿性を有する中間層を有している。耐湿性を有する該中間層は、基層面上に堆積した無機酸化物からなる層を有している。
【0013】
さらに別の方法が国際特許出願公開WO2009/085182A2号パンフレットにおいて検討されており、該方法では以下の構成からなる共押し出しされた多層バックシートを用いる:
1)フッ素高分子(例えば、ポリビニリデンフルオライド=PVDF)を含む第1の外層、
2)ポリエステルまたはポリカーボネート(またはそれらの組み合わせ)と、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂を主成分とするあるいはアルカリスズ酸化物を主成分とする相剤(phase agent)を含む内層、および
3)フッ素高分子、ポリオレフィンまたはポリオレフィンホットメルト接着剤を含む第2の外層を含む。
【0014】
PVDFを主成分とする光起電力モジュール用多層バックシートは、さらに、例えば国際特許出願公開WO94/22172A1号パンフレット、国際特許出願公開WO2008/157159A1号パンフレット等の文献により公知である。ちなみに、国際特許出願公開WO2008/157159A1号パンフレットは、アルミニウム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、またはエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)をフッ素高分子と組み合わせて蒸気に対する障壁として用いることができることを開示している。これに対し、国際特許出願公開WO2009/067422号パンフレットおよび国際特許出願公開WO2009/111194A1号パンフレットは、太陽電池の受光面上に取り付けるガラス代替物としてPVDFを主成分とする層を開示している。
【0015】
受光面と裏面を有する太陽電池は、国際特許出願公開WO2008/097660A1号パンフレットから公知である。太陽電池は、さらに、ポリビニルブチラール(PVB)からなる硬い埋入(encasing)層を有する。該埋入層は、太陽電池の受光面または裏面に接し、PVB成分はPVB成分の全重量の10〜23重量%の可塑剤を含み、PVB成分を含む高分子マトリックスで太陽電池を包み込む。
また、PVBを主成分とする光起電力モジュールは、文献国際特許出願公開WO2008/138022A1号パンフレットにより公知である。
【0016】
ポリアミドをグラフトした、反応性側鎖を有するポリオレフィンは、光起電力モジュールの保護バックシート用の別の可能性のある材料として、国際特許出願公開WO2010/069546A2号パンフレットから公知である。
【0017】
各種ポリアミド(PA12、PA1010、PA610、PA612、またはPA MACM12)から製造された光起電力モジュール用単層バックシート、すなわちこれらのポリアミドから製造された光起電力モジュール用単層バックシートにおいて、80℃以上の温度では比較的速く黄色に変色する傾向があることが認められた。上記のポリアミドから製造したバックシートの場合、光を反射するという必要な特性が低下する可能性がある。フィルムが酸素の影響を受けないようにできれば、この黄色化はかなり低減できる。また、光起電力モジュールの電気部品は湿度の影響を受けやすいことは知られている。湿度の高い気候で長期間使用する場合、光起電力モジュールのバックシート材料に水蒸気が浸透すると、光起電力モジュールの動作能力はかなり低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0000598A1号明細書
【特許文献2】国際特許出願公開WO94/22172A1号パンフレット
【特許文献3】国際特許出願公開WO2008/138021A2号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開US2009/0101204A1号明細書
【特許文献5】国際特許出願公開WO2008/138022A1号パンフレット
【特許文献6】特開2004−223925A号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開EP1956660A1号明細書
【特許文献8】米国特許第6,521,825B2号明細書
【特許文献9】国際特許出願公開WO2009/085182A2号パンフレット
【特許文献10】国際特許出願公開WO94/22172A1号パンフレット
【特許文献11】国際特許出願公開WO2008/157159A1号パンフレット
【特許文献12】国際特許出願公開WO2009/067422号パンフレット
【特許文献13】国際特許出願公開WO2009/111194A1号パンフレット
【特許文献14】国際特許出願公開WO2008/097660A1号パンフレット
【特許文献15】国際特許出願公開WO2010/069546A2号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Carsten Deibel, Thomas Strobel, Vladimir Dyakonov:「高分子−フラーレン混合物における効率的なポーラロン対解離の起源」:Physical Review Letters;Phy.Rev.Lett.103,036402、2009年7月16日発行
【非特許文献2】Proc.of SPIE(2008)Vol.7048「光起電力電池、光起電力モジュール、光起電力部品および光起電力システムの信頼性」,70480C/1-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
そこで、本発明は、水蒸気および酸素に対する透過抑制効果を向上させた、別の光起電力モジュール用多層バックシートを提供するという目的に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、請求項1の特徴を有する光起電力モジュール用多層バックシートに基づく第1の態様により達成される。この光起電力モジュール用多層バックシートは、第1の外層、第2の外層、およびこれらの外層の間に配置され、水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する少なくとも1つの内層を有し、これらの層が高分子からなる。本発明の光起電力モジュール用多層バックシートは、2つの外層の少なくとも1層がポリアミドを含むことを特徴とする。上記の少なくとも1つの内層は、フッ素高分子ではなく、かつポリエチレンも含まない高分子からなる。一部が芳香族ポリエステルからなる内層は、エステルアミドブロック共重合体からなる少なくとも1つの外側接着促進層(outer adhesion promoter)により、ポリアミドを含む外層の少なくとも1層と常に結合している。
【0022】
本発明の目的は、請求項17の特徴を有する光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法に基づく第2の態様により達成される。本発明の光起電力モジュール用多層バックシートは、第1の外層、第2の外層、およびこれらの外層の間に配置され、水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する少なくとも1つの内層を有し、これらの層が高分子からなる。本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法は、2つの外層の少なくとも1層がポリアミドで形成され、少なくとも1つの内層がフッ素高分子ではなく、かつポリエチレンも含まない高分子からなる。一部が芳香族であるポリエステルからなる内層は、エステルアミドブロック共重合体からなる外側接着促進層とともに常に用いられる。
【0023】
また、本発明の光起電力モジュール用多層バックシートまたは本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法の好ましい特徴は、従属クレームにおいてそれぞれ規定されている。本発明の光起電力モジュール用多層バックシートまたはそれらの製造方法は、光起電力モジュールの製造時に好適に使用される。
【0024】
本発明では、以下の定義が用いられる:
「ポリアミド」という用語は以下のものを含むものとして理解されなくてはならない:
・ホモポリアミドおよび
・コポリアミド。
【0025】
「ポリアミドブレンド」という用語は以下のものを含むものとして理解されなくてはならない:
・ホモポリアミドおよびコポリアミドの混合物(ブレンド);
・ホモポリアミドの混合物、および
・コポリアミドの混合物。
【0026】
「ポリアミド成形混合物」は、ポリアミドおよび/またはポリアミドブレンドを含む成形混合物を意味し、該ポリアミド成形混合物は添加物を含んでもよい。
【0027】
本発明の利点は以下の通りである:
1.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの好ましい態様では、PVDCからなる内層は、接するポリアミド外層(および太陽電池の電気部品も)を、特に水蒸気の侵入から保護し、かつこのポリアミド層は大気中の酸素の侵入からも保護し、それにより黄色化からも保護する。
2.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの好ましい態様では、EVOHからなる内層が、太陽電池に最も近接するポリアミド外層を大気中の酸素の侵入から保護する。
3.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの特に好ましい態様では、PVDCからなる内層およびEVOHからなる内層が、太陽電池に最も近接するポリアミド外層および太陽電池自体を水蒸気および空気中の酸素の侵入からより効果的に保護する。
4.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの別の好ましい態様では、COCからなる内層およびEVOHからなる内層が、太陽電池に最も近接するポリアミド外層および太陽電池自体を水蒸気および空気中の酸素の侵入からより効果的に保護する。
5.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの好ましくかつ特に費用効果に優れた態様では、PPからなる内層およびEVOHからなる内層が、太陽電池に最も近接するポリアミド外層および太陽電池自体を水蒸気および空気中の酸素の侵入からより効果的に保護する。
6.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートは、太陽電池に最も近接するポリアミド外層の黄色化を効果的に防止し(特に大気中の酸素に対する透過抑制効果の増大により)、それによりポリアミド外層は、太陽電池の裏側で白色反射層としての特性を十分に保持することができるので、太陽電池の電気収率を高いレベルに維持できる。
7.本発明の光起電力モジュール用多層バックシートは、太陽電池に最も近接するポリアミド外層が電気絶縁層としての特性を十分に保持できるように効果的に作用し(特に水蒸気に対する透過抑制効果の増大により)、起こりうる短絡電流により電気部品の性能が損なわれるのを防止する。
8.一部が芳香族ポリエステルからなる透過抑制層を、エステルアミドブロック共重合体とともに、外層またはポリアミドからなる層に対する接着促進層として用いる場合、本発明の光起電力モジュール用多層バックシートは、1段階の共押し出しにより非常に経済的に製造することができ、それは接着剤を用いて各フィルムを積層することが不要だからである。
【0028】
ここで、より十分な理解のために、以下の点に注意する必要があり、すなわち、仕上げ後のまたは完成した光起電力モジュールからわかるように、太陽電池に最も近接するあるいは太陽電池に面する多層バックシートの外層は、熱真空プレスで他の部材と結合した後では、外層ではなく中間層であることを明らかに示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
付属の図は、本発明の好ましい態様を示すものであり、該態様の図示のためにだけ用いており、本発明の範囲を限定するものではない。
【図1】本発明の第1の態様に基づき、2つの外層と1つの内層を有する光起電力モジュール用多層バックシートを示す。
【図2】本発明の第2の態様に基づき、2つの外層と1つの内層を有する光起電力モジュール用多層バックシートを示す。
【図3】本発明の第3の態様に基づき、2つの外層と2つの内層を有する光起電力モジュール用多層バックシートを示す。
【図4】本発明の第4の態様に基づき、2つの外層と2つの内層を有する光起電力モジュール用多層バックシートを示す。
【図5】本発明の第5の態様に基づき、2つの外層と2つの内層を有する光起電力モジュール用多層バックシートを示す。
【図6】本発明の第6の態様に基づき、2つの外層と3つの内層を有する光起電力モジュール用多層バックシートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、光起電力モジュール用多層バックシート1を示し、該バックシートは、第1の外層2、第2の外層3、および該外層2,3の間に配置され、水蒸気透過抑制層および/または酸素透過抑制層を形成する内層4を含み、これら層は高分子からなる。2つの外層2,3の少なくとも1つの層、好ましくは両方の層2,3がポリアミドを含み、この場合、本第1の態様の特に好ましい変形例として両方の外層2,3が同じポリアミドからなる。
【0031】
太陽電池に最も近接するバックシートの少なくとも外層は透明でもよく、その下に配置された内層が白色顔料を含む反射層として配置されてもよい。好ましくは、該白色顔料が二酸化チタンの場合には反射率が少なくとも92%以上である。太陽電池に最も近接するバックシートの外層を代わりにまたは好ましく反射層として配置し、白色顔料を含有させてもよく(好ましくは二酸化チタンを)、それにより好ましくは少なくとも92%の反射率が得られる。
【0032】
透明なポリアミドは、脂肪族モノマー、脂環族モノマーおよび/または芳香族モノマーからなり、ホモポリアミドおよびコポリアミドの両方を含む。微結晶ポリアミドだけでなく非晶質ポリアミドも透明である。微結晶ポリアミドはもはや完全に非晶質ではないが、
微結晶構造に基づく結晶子を含み、該結晶子は光の波長より小さいので見ることはできない。そのため微結晶ポリアミドは目には透明である。特に好ましい透明ポリアミドは、PA12/MACMI、PA MACM12/PACM12およびPA MACMI/MACMT/12等のコポリアミドだけでなく、PA MACM12およびPA PACM12等のホモポリアミド、およびこれらポリアミドの混合物またはブレンドである。
【0033】
好ましくは、少なくとも1つの外層または両方の外層2,3に用いるポリアミドは、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタムおよびアミノカルボン酸からなる群から選択された、直鎖状および/または分岐状の脂肪族モノマーおよび/または脂環族モノマーおよび/または芳香族モノマーに基づいて構成されたポリアミドに関するものであり、例えばPA11、PA12、PA610、PA612、PA1010、PA1012、PA106、PA106/10T、PA614、PA618およびPA MACM12またはそれらの混合物であり、および前述の透明ポリアミドの群である。以下のポリアミドも、外層2,3を製造するのに好ましいものである:PA6、PA66、PA7、PA9、PA10、PA69、PA−3―T、PA6I、ポリフタルアミドおよび他の可能な芳香族ポリアミドまたは一部が芳香族であるポリアミドおよびこれらすべての種類についてのコポリアミドである。
【0034】
ポリアミドのために選択されるモノマーは、平均して少なくとも6個および最大17個の炭素原子を含む(すなわち、ポリマー中に含まれる他のモノマーが、それぞれ6個を越える炭素原子を含む場合には、各モノマーは、6個未満の炭素原子を含んでもよい)。ポリアミドのために選択されるモノマーは、平均して少なくとも6個および最大17個の炭素原子を含むという事実のために、各モノマーの選択範囲は下側に広がることになり(ポリアミド中に含まれる各モノマーは少なくとも6個の炭素原子を持つべきであるというより厳しい条件と比較すれば)、かつ該選択範囲は、任意の短いモノマー(例えば短鎖のジアミン)が、同じポリアミド中の他の種類の長いモノマー(例えば長鎖のジカルボン酸)により補償されあるいは過補償され、それにより平均が少なくとも6個の炭素原子となる(および最大17個の炭素原子)という考察に基づく。平均に対する条件は満たされるが、すべてのモノマーが少なくとも6個の炭素原子を含まないポリアミドの一例として、PA412があり、4個の炭素原子としてジアミンブタンジアミンおよび12個の炭素原子としてジカルボン酸ドデカンジオン酸からなる。
【0035】
モノマーは、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタム、およびアミノカルボン酸並びにそれらの混合物からなる群から選択される。ラクタムとアミノカルボン酸を用いたポリアミドは架橋されていることが好ましい。ジアミンとジカルボン酸を用いた前述の範囲のポリアミドは、非架橋型および架橋型の両方の好ましい変形例を示している。別の変形例ではポリアミドは非架橋型であってもよく、例えばTAIC等の架橋活性剤を前に含んでいてもよく、火により架橋し、ポリアミドのたれを防ぐ。
【0036】
既に説明したように、ポリアミドは脂肪族モノマーに加えて脂環族モノマーを含んでもよく、以下のものが好ましい:CHDA(シクロヘキサンジカルボン酸の脂環族モノマー化合物の略称、1,4−CHDAも属する。)、BAC(ビスアミノシクロヘキサンの略称)、PACM(4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン)、MACM(3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン)、および脂環族ジアミンの混合物。
【0037】
好ましい態様として、ポリアミドは以下の群から選択される:ポリアミド4X(Xは12から18個の炭素原子を有する直鎖状脂肪族ジカルボン酸)、ポリアミド4X架橋体、ポリアミド9架橋体、ポリアミド99、ポリアミド99架橋体、ポリアミド910、ポリアミド910架橋体、ポリアミド1010、ポリアミド1010架橋体、ポリアミド11架橋体、ポリアミド12架橋体、ポリアミド1010/10CHDA、ポリアミド1010/10CHDA架橋体、ポリアミド610/10CHDA、ポリアミド610/10CHDA架橋体、ポリアミド612/10CHDA、ポリアミド612/10CHDA架橋体、ポリアミド910/10CHDA、ポリアミド910/10CHDA架橋体、ポリアミド912/10CHDA、ポリアミド912/10CHDA架橋体、ポリアミド1012/10CHDA、ポリアミド1012/10CHDA架橋体、ポリアミド610/12CHDA、ポリアミド610/12CHDA架橋体、ポリアミド612/12CHDA、ポリアミド612/12CHDA架橋体、ポリアミド910/12CHDA、ポリアミド910/12CHDA架橋体、ポリアミド912/12CHDA、ポリアミド912/12CHDA架橋体、ポリアミド1012/12CHDA、ポリアミド1012/12CHDA架橋体、ポリアミド1212/12CHDA、ポリアミド1212/12CHDA架橋体、ポリアミド1212/10CHDA、ポリアミド1212/10CHDA架橋体、ポリアミド1012、ポリアミド1012架橋体、ポリアミド1014、ポリアミド1014架橋体、ポリアミド1212、ポリアミド1212架橋体、ポリアミド1210、ポリアミド1210架橋体、ポリアミドMACMY(Yは9〜18個の炭素原子を有する直鎖状脂肪族ジカルボン酸)、ポリアミドMACMY架橋体、ポリアミドPACMY、ポリアミドPACMY架橋体、ポリアミドMACMY/PACMY、ポリアミドMACMY/PACMY架橋体、およびそれらの混合物。ポリアミドを、ポリアミド12架橋体だけでなく、ポリアミド1010とポリアミド1010架橋体からなる群から選択することが特に好ましい。また、2つの外層は、異なるポリアミドおよび/またはポリアミドブレンドを含んでもよい(表1参照)。
【0038】
少なくとも1つの内層4,5は、フッ素高分子ではない高分子からなり、さらにポリエチレンも内層としては除かれる。水蒸気および/または酸素に対する透過抑制能を有する高分子は、内層として好ましい。少なくとも1つの内層4,5として好ましい高分子は、一方では従属クレーム5で言及され、他方では従属クレーム10で言及されている。クレーム1またはクレーム10では、内層用の透過抑制高分子として一部が芳香族であるポリエステルが選択され、本発明の光起電力モジュール用多層バックシート14において、エステルアミドブロック共重合体からなる少なくとも1つの接着促進層とともにのみ用いられる。エステルアミドブロック共重合体接着促進層とポリエステルの組み合わせは、国際特許公開WO2008/138022A1パンフレットからは予期されない。
【0039】
少なくとも1つの内層4,5の特に好ましい材料は、ポリビニリデンクロライド(PVDC)である。そのPVDC材料は、登録商標IXAN PV910(ソルビン社(SolVin S.A.)、ベルギー、ブリュッセルB−1120)として知られている。それは、PVDCに2%のエポキシ化大豆油をブレンドしたものであり、食品包装用フィルム(EVAまたはPEを用いる)の押し出しまたは共押し出しに適している。これらのフィルムは、特に熱収縮性または熱変形性であってもよい。その材料の融点は155℃、水蒸気および酸素の浸透率は低い。
【0040】
高密度PVDCの成形温度(160℃から170℃)に近づくと、塩化水素が脱離して材料の分解が始まるため、押し出し時には、成形機は腐食により大きな損傷を受ける可能性がある。すなわち、塩化ビニル(5〜20%)または塩化ビニル(13%)およびアクリロニトリル(2%)を含むPVDCからなる共重合体が成形されるからである。多層フィルムの製造者がPVDCの(共)押し出しをしなくて済むようにするために、PVDCからなる少なくとも1つの内層4,5上への2つの外層2,3の積層は、既に作製されたPVDCフィルムを用いる方法が特に好ましい。別の方法は、外層フィルムにPDVCを懸濁液として塗布することである。
【0041】
環状オレフィン共重合体(COC)を、少なくとも1つの内層4,5に用いる別の材料として考慮してもよい。環状オレフィン共重合体(COC、登録商標TOPAS;トパスアドバンストポリマー株式会社、ドイツ、フランクフルトD−95926)は、優れた撥水性を有し、水蒸気に対する非常に良好な透過抑制能を示すことが知られている。そのオレフィン特性により、COC製品は、加水分解、酸およびアルカリ溶液に対して、およびメタノール等の極性溶媒に対して耐性を有する。しかしながら、COC製品は、例えばトルエンのような非極性溶媒により損傷を受ける可能性がある。TOPAS(登録商標)COC樹脂は紫外線照射の影響を受けやすいので、紫外線安定化剤の使用が推奨されている。無水マレイン酸を修飾したCOCは、接着性を向上させる目的でCOC内層を用いる時に思想することが好ましい。
【0042】
EVOHは、その優れた酸素透過抑制能により、少なくとも1つの内層4,5に用いるさらに別の材料として考慮される。さらに、ポロプロピレン(PP)も、少なくとも1つの内層4,5に用いるさらに別の材料として考慮される。その理由は、水蒸気透過抑制能が非常に良好であり(表2参照)、そのためEVOH層との組み合わせに特に適しているからである(表1参照)。特開2004−223925A号公報により公知のポリエチレン(PE)は、それ自身水蒸気透過抑制能が良好ではあるが、本発明に用いる少なくとも1つの内層4,5の対象としては考慮されない。それは、その融点が135℃であり、完成品の光起電力モジュールの製造に用いるには低すぎるからである。なぜならモジュール全体を積層するための真空プレスでは140℃から150℃の温度が通常使用されるからである。
【0043】
そのため、少なくとも1つの内層4,5の材料としては、PVDC、COC、PPおよびEVOH並びにそれらの組み合わせを含む群から選択するのが好ましい。この群で構成される少なくとも1つの内層4,5に対する好ましい付加材料は、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PSU(ポリスルホン)、PESU(ポリエーテルスルホン)、PPSU(ポリフェニルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、液晶ポリマー(LCP=液晶ポリマー)、ポリイミド(PI)、およびポリアミドイミド(PAI)である。2つの内層4,5の好ましい組み合わせは、PVDC+EVOHまたはCOC+EVOHまたはPP+EVOHから形成することができ、PVDC+EVOHの組み合わせが特に好ましい。
【0044】
内層4,5の少なくとも1つの面と、外層2,3の一方または両方の内面との間に層同士の良好な接着を確保するために接着促進層6を設けてもよい。しかしながら、これが必要なのは、材料の問題により、外層2,3の両方が、内層4,5との間で自発的な接着接続を行わない場合のみである。同様に、接着促進層7を2つの内層4,5の間に設けてもよい。接着促進層6,7,9に用いる材料は、アクリレート、エポキシド、PUR(ポリウレタン)、修飾ポリオレフィン(例えばEPMまたはEPDMを基体とする)、アイオノマーおよびエチレンビニルアセテート(EVA)を含む材料から選択することが好ましい。
【0045】
本発明の光起電力モジュール用多層バックシート1の別の変形例では、少なくとも1つの内層4,5の材料が、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)およびPEN(ポリエチレンナフタレート)を含む一部が芳香族であるポリエステルからなる群から選択される。この内層は、ブロックが近接層と相溶性であるエステルアミドブロック共重合体からなる少なくとも1種の近接接着促進層と常に組み合わせて使用され、該コポリエステルアミドは一部が芳香族であるポリエステルと、少なくとも1つのポリイミド外層とを結合する。
【0046】
好ましくは、エステルアミドブロック共重合体のブロックは、エステルアミドブロック共重合体からなる接着促進層に近接している、一部が芳香族であるポリエステルに一方では対応し、他方ではポリアミドに対応している。それは、近接する高分子層と物質的に同一のブロックは最も優れた相溶性または接着性を有するからである。
【0047】
好ましい態様では、一部が芳香族であるポリエステルを、その両面上で、エステルアミドブロック共重合体からなる各接着促進層によってポリアミドからなる2つの外層2,3と結合せしめる。
【0048】
エステルアミドブロック共重合体を接着促進層として用いることにより、一段階の共押し出しで完成品バックシートの製造を行うことができる。すなわち、その光起電力モジュール用多層バックシートを共押し出しできる。
【0049】
一部が芳香族であるポリエステルからなる内層と接着促進剤(HV)としてのエステルアミドブロック共重合体を有する好ましい光起電力モジュール用多層バックシートは例えば次の構造を有してもよい:ポリアミド12/HV/PBT/HV/ポリアミド12。この場合、エステルアミドブロック共重合体接着促進剤は、ポリアミド12とPBTブロックとからなることが好ましい。その接着促進剤は、登録商標グリラミッド(Grilamid)EA20HV1という名前でエムス(EMS)化学社(スイス、ドマート/エムス)から入手できる。
【0050】
一部が芳香族であるポリエステルからなる内層と接着促進剤としてのエステルアミドブロック共重合体を有する光起電力モジュール用多層バックシートの類似構造として、PA1010がポリアミド外層を形成するものも好ましい:ポリアミド1010/HV/PBT/HV/ポリアミド1010。
【0051】
本発明の光起電力モジュール用多層バックシート1の製造方法において、ポリアミドを架橋させるために、架橋活性化剤をポリアミド溶融物に添加してもよい。該架橋活性化剤は、トリメチロールプロパントリメタクリレートおよびトリアリルイソシアヌレート(TAIC)からなる群から選択することが好ましい。
【0052】
2つの外層2,3を最初に独立のフィルムとして押し出し、内層4の2つの面上に積層することが好ましい。あるいは、2つの外層2,3および内層4を、溶融層として共押し出し、直接多層フィルムとしてもよい。既に説明したように、一部が芳香族であるポリエステルをエステルアミドブロック共重合体と組み合わせて用いる場合には、後者の方法が特に好ましい。
【0053】
架橋活性化剤がポリアミドに含まれている場合には、押し出した箔の架橋を、高エネルギー放射、例えば電子放射により、個々のポリアミドフィルムまたは多層フィルムのいずれかに対して開始させることが好ましい、
【0054】
架橋可能ではあるが未架橋のポリアミドの変形例として、架橋活性化剤を含むが放射を行わない例を挙げることができる。通常の状態では特性に関して架橋は必要ではないが、火事等の緊急時にポリアミドの垂れを防止する必要がある場合には、この変形例は有用である。このような場合、特に火の熱エネルギーにより架橋が開始される。
【0055】
本発明のバックシートのポリアミド成形混合物は、白色顔料、紫外線安定化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、加水分解安定剤、架橋活性化剤、難燃剤、特に層状シリケート等のナノフィラー、フィラー、着色剤(染料および着色顔料を含む)、補強剤、接着促進剤および耐衝撃性改良剤から選択された添加剤を含むことが好ましい。ポリアミド材料またはバックシートの水蒸気透過抑制能は、層状シリケートを用いてさらに向上させることができる。層状シリケートは、ポリアミド成形混合物の熱酸化分解耐久性および寸法安定性(フィルム製造時の後収縮が小さく、かつ熱膨張係数が小さい)をさらに向上させる。
【0056】
所望の高い反射率を与える白色顔料は、酸化チタン(好ましくはルチル型の結晶変態)は好ましい。酸化チタンは、同時に紫外線吸収剤としても作用する。他の可能な白色顔料は、例えば酸化亜鉛および硫化亜鉛である。白色顔料用いたバックシートの反射率は、少なくとも92%であることが好ましい。
【0057】
光起電力モジュール用バックシートが、火事または火事の延焼時の特性に関する要求特性、例えば米国規格UL790(屋根材の防火試験についての標準試験方法)をさらに満たすことが好ましい。バックシートは、必ずしも難燃性である必要はないが、可能であれば、これら高分子またはポリアミドは、炎の中にまたはそれら自身が燃えている時に、少なくとも垂れたりまたは落下すべきではない。それは、燃焼滴が、家の低い部分に火を非常に速く拡げるからである。本発明者らは、垂れに関し、架橋ポリアミドは、炎に接触しても、通常の非架橋ポリアミドの場合と異なり、実質的に垂れないということを見出した。追加としてあるいは代わりに、高分子またはポリアミドは、難燃剤を含んでもよく、および難燃性となるように処理されてもよい。これらの観点から、架橋ポリアミドPA1010およびPA12が特に好ましい。別の難燃剤を必要に応じて用いてもよい。難燃剤を複数の層の中に含有させてもよい。
【0058】
外層2,3に対して請求された範囲からポリアミド、少なくとも1つの内層4,5のための材料、および1種または複数のこれら添加物を必要に応じて添加することを選択することにより、本発明の光起電力モジュール用多層バックシート1は、そのバックシートに課されるすべての関連した要求、例えば、耐候性(紫外線および加水分解に対する耐性)、耐熱性、機械抵抗性、電気絶縁性、高反射率および優れた接着性を満たす。選択された1種(または複数)の内層を有する本発明の多層を用いた解決策は、その重要な効果として、水蒸気および酸素に対する透過抑制能の向上、−30℃から+80℃の範囲での熱膨張の減少、および相対温度指数(RTI)の>+105℃の達成がある。単層フィルムでは同等の値を得ることはできない。
【0059】
本発明の光起電力モジュール用多層バックシートの製造には、押し出し法または積層法が最も適している。もしポリアミドの架橋を行う場合には、成形前にポリアミド成形混合物へ架橋活性化剤を添加する。好ましい架橋活性化剤は、例えばTMPTMA(トリメチロールプロパントリメタクリレート)およびTAIC(トリアリルイソシアヌレート)である。各活性化剤を使用する場合、混合時または直列のフィルム押し出し時にラジカル的に前もって架橋してもよい。高エネルギー放射により、押し出しフィルムについて引き続き加工を開始するのが好ましい。高エネルギー放射は、電子放射によるものが好ましい。
【0060】
このようにして製造した本発明の構成に係るバックシートを、光起電力モジュールの製造に用いる。
【0061】
架橋ポリアミド11およびポリアミド910(非架橋体および架橋体)、ポリアミド1010(非架橋体および架橋体)、ポリアミド1010/10CHDA(非架橋体および架橋体)、ポリアミド1012(非架橋体および架橋体)、およびポリアミド1210(非架橋体および架橋体)を用いた変形例は、それらが維持可能な原料に基づくものであるという生態学的主張をさらに主張することができる。それは、ひまし油がPA11モノマーを製造するための原料としてだけでなく、炭素原子10個の二酸および/または炭素原子10個のジアミンを用いてポリアミドを合成するために使用するセバシン酸(デカン二酸)およびデカンジアミンを製造するための原料でもあるからである。また、アゼライン酸(炭素原子9個の二酸)はひまし油から入手でき、PA99またはPA(Mおよび/またはP)ACM9の中に存在している。図1に示す積層された光起電力モジュール用多層バックシート1についての第1の形態は、架橋ポリアミドPA1010からなる2つの外層2,3とPVDCからなる内層4を含んでいる。
【0062】
図2も光起電力モジュール用多層バックシート1を示しており、該バックシートは、第1の外層2、第2の外層3、およびこれら外層の間に配置され水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する少なくとも1つの内層4を含み、これら層は高分子からなる。図1に関係するすべての説明がここでも適用できる。好ましくは、図2に示す共押し出しされた光起電力モジュール用多層バックシート1についての第2の形態は、ポリアミドPA MACM12からなる2つの外層2,3と、無水マレイン酸で修飾されたCOCからなる1つの内層4を含んでいる。
【0063】
図3は、第3の形態に基づく光起電力モジュール用多層バックシート1を示しており、該バックシートは、2つの外層2,3、および2つの内層4,5を有している。すべてのこれらの層は高分子で構成されている。図2に関係するすべての説明が同様にここでも適用できる。しかしながら、2つの内層4,5の1つはEVOHからなるものを用いてもよい。好ましくは、図3に示す第3の形態に係る積層された光起電力モジュール用多層バックシート1は、ポリアミドPA MACM12からなる2つの外層2,3、PVDCからなる内層4およびEVOHからなる内層5を含んでいる。
【0064】
図4も、2つの外層2,3、およびこれら外層2,3の間に配置され水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する2つの内層4,5を含む光起電力モジュール用多層バックシート1を示している。図3に関係するすべての説明がここでも適用できる。好ましくは、図4に示す第4の形態に係る積層された光起電力モジュール用多層バックシート1は、架橋されたポリアミドPA1010からなる2つの外層2,3、PVDCからなる内層4およびCOCからなる内層5を含んでいる。
【0065】
図5も、2つの外層2,3、およびこれら外層2,3の間に配置され水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する2つの内層4,5を含む光起電力モジュール用多層バックシート1を示している。図3に関係するすべての説明がここでも適用できる。好ましくは、図5に示す第5の形態に係る積層された光起電力モジュール用多層バックシート1は、架橋されたポリアミドPA MACM12からなる2つの外層2,3、COCからなる内層4およびEVOHからなる内層5を含んでいる。
【0066】
図6は、2つの外層2,3、およびこれら外層2,3の間に配置され水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する3つの内層4,5,8を含む光起電力モジュール用多層バックシート1を示している。すべてのこれらの層は高分子で構成されている。図1または3に関係するすべての説明が同様にここでも適用できる。この場合、光起電力モジュール用多層バックシート1は、少なくとも3つの内層4,5,8を含んでいる。第2または第3の内層5,8として使用できる障壁高分子は、PPA(ポリフタルアミド、一部が芳香族であるポリアミド)、PPS(ポリフェニルスルホン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、PI(ポリイミド)およびPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である。
【0067】
光起電力モジュールの残りの部品(別々には示していない)は、すべての図面中、最上部に図示された外層2の上に配置される。内層が2層または3層の場合、図面に示すものとは異なるように障壁層の順番を選択してもよい。
【0068】
本発明の光起電力モジュール用多層バックシート1の別の形態は、表1に示す以下の例を含み、該例は、好ましい層の組み合わせの選択を単に示すものであり、限定するものと理解されるべきではない:
【0069】
【表1】

【0070】
略号は以下のことを意味する:
AS=外層;HV=接着促進層;IS=内層
【0071】
表1に記載した材料について、多数の選択された標準化透過係数が以下の表2に例として記載されている:
【0072】
【表2】

【0073】
説明:[1]DIN/ISO 15105−1(O)およびDIN/ISO 15106−1(HO)に基づいて、エムス(EMS)内部で測定した値
[2]文献値:「プラスチックおよびエラストマーの透過特性」、Liesl K. Massey, 2003, プラスチック・デザイン・ラボラトリー(Plastic Design Library).
【0074】
以下の例示的な透過度は、表2の透過係数から計算したものである。単層フィルムの対象となる透過性を決めることを可能とするため、標準化透過係数を対象となる層の厚さ(mm)で割った。多層フィルムの場合、各層の透過度の逆数を考慮する必要がある(電気抵抗との類似性)。全体の透過度を計算するためには、各透過度の逆数を合計する必要があり、そして全体の透過度の逆数はこの合計から計算される(電気抵抗の直列接続を流れる電流との類似性)。
【0075】
比較例: 単層フィルム
材料: PA12
全厚み: 300μm
酸素透過度: 63.3[cm/m*day*bar]
水蒸気透過度:26.7[g/m*day]
【0076】
実施例: 多層フィルム
材料: PA12(125μm)/PVDC(50μm)/PA12(125μm)
全厚み: 300μm
酸素透過度: 5.7[cm/m*day*bar]
水蒸気透過度:0.40[g/m*day]
(ここでは、接着促進層は考慮されていない。)
【0077】
単層フィルム(比較例)と、同じ厚さを有する本発明の多層フィルム(実施例)とを比較すると、計算された透過度に基づくと、透過抑制フィルムを用いると透過度を顕著に減少させることができる。事実、酸素透過度は比較例の約11分の1に減少し、水蒸気透過度は比較例の約66分の1に減少した。
【0078】
食品包装技術で公知の透過抑制フィルムを、全く特殊である本発明の技術分野に適用することは、当業者には自明ではなく、特に、成形が少し困難である材料(例えばPVDC)を用いているが故に自明ではない。
【0079】
外層2,3を別の好ましいポリアミドで代わりに製造することも通常可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 起電力モジュール用多層バックシート
2 第1の外層
3 第2の外層
4 第1の内層
5 第2の内層
6 外側接着促進層
7 第1の内側接着促進層
8 第3の内層
9 第2の内側接着促進層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の外層(2)、第2の外層(3)、およびこれらの外層(2,3)の間に配置され、水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する少なくとも1つの内層(4,5)を有し、これらの層(2,3,4,5)が高分子から構成されている、光起電力モジュール用多層バックシート(1)であって、
上記の2つの外層(2,3)の少なくとも1層がポリアミドを含み、上記の少なくとも1つの内層(4,5)が、フッ素高分子ではなく、かつポリエチレンも含まない高分子からなり、
一部が芳香族であるポリエステルからなる内層(4,5)が、エステルアミドブロック共重合体からなる少なくとも1つの外側接着促進層(6)により、ポリアミドを含む外層(2,3)の少なくとも1層と結合していることを特徴とする該光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項2】
上記光起電力モジュール用多層バックシート(1)の上記の2つの外層(2,3)が、ポリアミド、好ましくは同じポリアミドからなることを特徴とする請求項1記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項3】
上記外層(2,3)の少なくとも1層または上記外層(2,3)の両層のポリアミドが、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタムおよびアミノカルボン酸からなる群から選択された、直鎖状および/または分岐状の、脂肪族モノマーおよび/または脂環族モノマーおよび/または芳香族モノマーに基づいて構成されていることを特徴とする請求項2記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項4】
上記外層(2,3)の少なくとも1層または両層が、PA12、PA11、PA610、PA612、PA1010、PA1012およびPA MACM12並びにそれらの混合物を含む群から選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項5】
上記の少なくとも1つの内層(4,5)が、PVDC、COC、PP、EVOH、PPS、PSU、PESU、PPSU、PEEK、LCP、PIおよびPAIを含む群から選択され、好ましくはCOCが無水マレイン酸で修飾されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項6】
上記光起電力モジュール用多層バックシート(1)が少なくとも2つまたは3つの内層(4,5,8)を含み、少なくとも2つの場合には、該内層(4,5)の1層はEVOHからなり、2番目の層は好ましくはPVDCからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項7】
内層(4,5,8)の少なくとも1面と、上記の2つの外層(2,3)の一方の内面との間に外側接着促進層を配置することを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項8】
第1の内層(4)、第2の内層(5)および/または第3の内層(8)のそれぞれの1面の間に内側接着促進層が配置されていることを特徴とする請求項6または7に記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項9】
接着促進層(6,7,9)の材料が、アクリート、エポキシド、ポリウレタン(PUR)、修飾ポリオレフィン、アイオノマーおよびエチレンビニルアセテート(EVA)を含む群から選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項10】
上記の少なくとも1つの内層(4,5)の材料が、PBT、PETおよびPENを含む一部が芳香族であるポリエステルからなる群から選択される一方、エステルアミドブロック共重合体からなる近接する外側接着促進層(6)を有し、該エステルアミドブロック共重合体は、上記の接着促進層に近接する層(2,3,4,5)と相溶性であるブロックを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項11】
エステルアミドブロック共重合体からなる外側接着促進層(6)の該ブロックは、内層(4,5)の一部が芳香族であるポリエステルと、外層(2,3)のポリアミドに対応し、これらとエステルアミドブロック共重合体からなる該外側接着促進層(6)が接することを特徴とする請求項10記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項12】
光起電力モジュール用多層バックシート(1)が、一部が芳香族であるポリエステルからなる内層(4)を含み、該内層はその両面のそれぞれが、エステルアミドブロック共重合体からなる1つの外側接着促進層(6)により、ポリアミドからなる2つの外層(2,3)と結合していることを特徴とする請求項10または11に記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項13】
光起電力モジュール用多層バックシート(1)が、共押し出しされていることを特徴とする請求項10から12のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項14】
外層(2,3)の1層または両層のポリアミドが、白色顔料、紫外線安定化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、加水分解安定剤、架橋活性化剤、難燃剤、層状シリケート、フィラー、着色剤、補強剤、接着促進剤および耐衝撃性改良剤からなる群から選択された添加剤を含むことを特徴とする請求項1から13のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項15】
光起電力モジュール用多層バックシート(1)が、白色顔料を含み、かつ反射率が少なくとも92%であり、白色顔料が好ましくは酸化チタンであることを特徴とする請求項1から14のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシート。
【請求項16】
外層(2,3)の高分子またはポリアミドが、架橋ポリアミドからなり、架橋PA1010および架橋PA12が好ましい材料であることを特徴とする請求項1から15のいずれか一つに記載の
【請求項17】
第1の外層(2)、第2の外層(3)、およびこれらの外層(2,3)の間に配置され、水蒸気および/または酸素に対する障壁を形成する少なくとも1つの内層(4,5)を有し、これらの層(2,3,4,5)が高分子から構成されている、光起電力モジュール用多層バックシート(1)の製造方法であって、
2つの外層(2,3)の少なくとも一方がポリアミドで形成され、少なくとも1つの内層(4,5)がフッ素高分子ではなく、かつポリエチレンも含まない高分子からなり、
一部が芳香族であるポリエステルからなる内層(4,5)を、エステルアミドブロック共重合体からなる外側接着促進層(6)と組み合わせてのみ用いることを特徴とする該製造方法。
【請求項18】
2つの外層(2,3)が1種のポリアミド成形混合物からそれぞれ押し出されるとともに、少なくとも1つの内層(4,5)上に共押し出しまたは積層され、必要に応じて接着促進層を用いることを特徴とする請求項17記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項19】
2つの外層(2,3)と少なくとも2つの内層(4,5)とで形成され、内層の少なくとも1つの層がEVOHで形成され、かつ内層の第2の層が好ましくはPVDCで形成されていることを特徴とする請求項17または18に記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項20】
2つの外層(2,3)の少なくとも1つが、PVDCからなる内層(4)の上に積層され、必要に応じて接着促進層を用いることを特徴とする請求項17から19のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項21】
2つの外層(2,3)の少なくとも1つが、COCまたはEVOHからなる内層(4)の上に共押し出しまたは積層され、必要に応じて接着促進層を用いることを特徴とする請求項17から19のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項22】
光起電力モジュール用多層バックシート(1)が共押し出しにより製造され、一部が芳香族であるポリエステルからなる内層(4)を含み、該内層はその両面がそれぞれ、エステルアミドブロック共重合体からなる1つの外側接着促進層(6)により、ポリアミドからなる2つの外層(2,3)と結合していることを特徴とする請求項17記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項23】
ポリアミドを架橋するために、外層(2,3)用ポリアミド溶融物に架橋活性化剤を添加することを特徴とする請求項17から22のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項24】
2つの外層(2,3)をフィルムとして押し出し、その押し出されたフィルムの架橋を高エネルギー放射、好ましくは電子放射を用いて開始することを特徴とする請求項17から21のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項25】
架橋活性化剤を、トリメチロールプロパントリメタクリレートおよびトリアリルイソシアヌレートからなる群から選択することを特徴とする請求項23または24に記載の光起電力モジュール用多層バックシートの製造方法。
【請求項26】
請求項1から16のいずれか一つに記載の光起電力モジュール用バックシートの使用、または請求項17から25のいずれか一つに記載の製造方法の光起電力モジュールの製造における使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−39086(P2012−39086A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−133159(P2011−133159)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(505343930)エムス−パテント アクチエンゲゼルシャフト (10)
【Fターム(参考)】