説明

光量絞り装置

【課題】UVIRカットフィルタ等の光学フィルタを固体撮像素子の周辺から発生する熱の影響を受けても変形し難くする。
【解決手段】固体撮像素子22に対し反対面の絞り羽根支持板2aに設けた固定ピン23に、UVIRカットフィルタ21の外周部に設けた複数個の挿通孔を挿通し接着剤を用いて周囲を固定することによりUVIRカットフィルタ21を取り付ける。これにより、UVIRカットフィルタ21には上下方向に矯正力が働き、平面度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラ等の撮影光学系への使用に適した光量絞り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体撮像素子は近赤外領域においても高い感度を有しているため、何の対策もせずに固体撮像素子に光を入射させると、近赤外域に高い感度を有したまま信号処理を行うこととなり、光量調整、色バランス調整が適切にできなくなる。従って、近赤外光を含む光が固体撮像素子に入射した場合には、近赤外光の影響を受け、実際に人が目で見るときの視感度とは異なる画像を映出する。
【0003】
そこで通常では、光路中に近赤外波長領域の透過を制御する赤外線カットフィルタを設けることにより、近赤外光が固体撮像素子に入射することを防止している。
【0004】
また近赤外光と同様に、固体撮像素子は紫外領域においても感度を有しており、紫外線を含む光が固体撮像素子に入射した場合には、紫外線により実際に人が目で見るときの視感度とは異なる画像を映出する。
【0005】
そこで、光路中に紫外波長領域の透過を制御する紫外線カットフィルタを設け、紫外線が固体撮像素子、或いはカメラ等の光学系に入射することを防止している。
【0006】
このような光学フィルタの製造方法としては、基材にそれぞれの波長の光を吸収する物質を混入させる方法、基材上に光を吸収する物質を塗布する方法、基材上に光を吸収する薄膜を形成することにより、光を反射又は吸収させる方法等が知られている。
【0007】
近年では、真空蒸着法やスパッタリング法等における薄膜生成方法の精度の向上に伴い、1枚の基板上に近赤外波長領域と紫外波長領域の所望する波長領域の透過を同時に制限するUVIRカットフィルタの形成も可能となっている。光学フィルタとして求められる仕様にもよるが、低コスト化、少スペース化の観点からは、1枚の基板上に設けた上述した特性を満足するUVIRカットフィルタがより好ましい。
【0008】
一般に、光学フィルタの基材としては、ガラス基板が使用されてきたが、近年の装置の小型、薄型化の要求により、光学フィルタはより薄いものが求められ、合成樹脂基板の利用が試みられている。
【0009】
UVIRカットフィルタの場合においては、基板上に積層する積層膜の層数が多く、特に合成樹脂製の基板を使用した場合には、膜応力による基板の反りに関する問題が顕在化してしまう。
【0010】
これに対して特許文献1においては、プロセス上で膜応力の少ない膜質に制御する方法等により、光学フィルタ単体での反りを低減する方法が提案されている。また、このようにして製造したUVIRカットフィルタは、特許文献2に記載されるように、固体撮像素子を覆うようにガラス等の保護部材により固定されている場合が多い。
【0011】
【特許文献1】特開2000−248356号公報
【特許文献2】特開2000−216368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上述のようにUVIRカットフィルタを固体撮像素子に極めて近い位置に配置した場合には、固体撮像素子の発熱による熱の影響を受け易い。更に、近赤外線を反射させる光学フィルタの場合には、発生した熱が放熱され難く、再び固体撮像素子に熱を反射し、更なる温度上昇の要因となる。これらの影響により光学フィルタが変形したり、固体撮像素子が劣化したりする等の不具合が生ずる。
【0013】
また、上述した固体撮像素子の発熱の影響を低減するために、光学フィルタを通常の撮像光学系を構成する部材とは別に、固体撮像素子から遠い位置に配置することも考えられている。この場合には、撮像系の薄型化のために、光学フィルタの基板を薄くする必要がある。
【0014】
しかし、光学フィルタの基板を薄くすると、積層した積層膜の応力により光学フィルタ自体が変形し易くなると云う別の不具合が生ずる。更に、光学フィルタを配置するために、通常の撮影光学系を構成する部材とは別の部材を配置すると、光学フィルタのコストが増大してしまう問題が生ずる。
【0015】
本発明の目的は、上述の問題を解消し、UVIRカットフィルタ等の光学フィルタが、固体撮像素子の発熱による熱の影響を受け難い光量絞り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明に係る光量絞り装置は、紫外波長領域及び近赤外波長領域のうちの少なくとも一方の波長領域の透過を制限する光学フィルタを、絞り機構の一部に前記光学フィルタの平面度を向上させる力を加えて固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光量絞り装置によれば、膜応力による光学フィルタの変形を低減でき、コストアップすることなく、固体撮像素子の周辺からの発熱による光学フィルタの変形や、固体撮像素子の劣化等の不具合を低減することができる。また、これにより薄型化の要求に応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1はビデオカメラ或いはデジタルスチルカメラ等の撮影光学系に使用するに適した光量絞り装置の分解斜視図を示しており、図示しないCCDやCMOSセンサから成る固体撮像素子の入射光量を制御するためのものである。光量絞り装置1には絞り羽根支持板2a、2bが設けられ、それぞれ絞り羽根3a、3bが可動に取り付けられている。絞り羽根3aには、絞り羽根3a、3bにより形成された開口部を透過する可視光波長領域の透過光量を調整するためのND(Neutral Density)フィルタ4が接着されている。更に、図1には図示していないが、光路中には紫外波長領域と近赤外波長領域の波長領域の透過を同時に制限するUVIRカットフィルタが設けられている。
【0020】
光量絞り装置1は被写界が明るくなると、絞り羽根3a、3bをより絞り込むように制御している。被写界が高輝度や快晴時の場合においては、光路中に可視光波長領域の透過光量を調整するNDフィルタ4が挿入され、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口部をより大きくすることができる。
【0021】
入射光はこの光量絞り装置1を通過して撮像光学系に入射し、図示しない固体撮像素子に到達することにより、電気的な信号に変換され画像が形成される。
【0022】
本実施例におけるUVIRカットフィルタの基板には、厚板0.1mmのArton(JSR製、商品名)フィルムが使用され、所望する紫外波長領域と近赤外波長領域の一部の透過を制限する蒸着膜が成膜されている。Artonフィルムはガラス転移温度が160℃程度あり、かつ曲げ弾性率が約3000MPa程度であることから、UVIRカットフィルタの基板に好適である。なお、蒸着膜の成膜には、アシストを付加した他の成膜方法と比較して、比較的、膜に起因する応力を小さい値に制御できる理由からイオンプレーティング法を選択している。
【0023】
図2は縦横共に60mmの正方形状のArtonフィルムから成る透明基板11上に、マスク12を配置した状態の平面図を示し、マスク12には直径10mmの円形の孔部13が数個所穿けられている。
【0024】
図3はマスク12を施した透明基板11上に蒸着膜を成膜した後に、マスク12を取り外し、円形のUVIRカットフィルタ21を切り抜いた状態を示している。透明基板11の大きさや形状に関しては、必要とされる仕様によって様々であり、マスク12の形状等により調整することができる。
【0025】
透明基板11上に蒸着する複数層の薄膜の材料には、高屈折率材料のTiO2と低屈折率材料のSiO2が使用され、透明基板11の両面に交互に積層されている。図4は本実施例におけるUVIRカットフィルタ21の膜構成図を示しており、透明基板11の片面に17層、他面に27層積層され、両面で合計44層とされている。
【0026】
TiO2は屈折率が高く、膜設計上、好適であり、SiO2は成膜条件や成膜室の雰囲気によって、勿論微妙に異なるが、イオンプレーティングによる成膜において、TiO2と膜応力の発生方向が反対であり、屈折率も低く、膜設計上、好適である。
【0027】
また、光学特性を重視しながら、透明基板11の両面の総膜厚をほぼ同様にすることにより、膜応力に起因する透明基板11の反りの発生を可能な限り低減することができる。
【0028】
成膜手順においては、先ず図2に示すマスク12を用いて透明基板11の表面に17層の積層膜を成膜した後に、透明基板11の表裏を変え、表面と同様に裏面に27層の積層膜を成膜する。
【0029】
成膜条件としては、DCパルス重畳型のRFのイオンプレーティングを用い、高屈折率材料ではDCパワーは300V、RFパワーは400W、低屈折率材料ではDCパワーは300V、RFパワーは300Wに設定した。
【0030】
成膜中は成膜開始から成膜終了まで成膜する透明基板11の反対面を冷却しながら蒸着を行う。なお、冷却冷媒には食塩水を使用し、−10℃の温度制御を行い、流量は6リットル/分とした。なお、透明基板11の表面に予め設置しておいた真空中専用のサーモラベルにより測定した結果、成膜中の最大温度は両面共に50℃以下である。
【0031】
このようにして作製したUVIRカットフィルタ21を図1に示す光量絞り装置に組み込み、デジタルカメラ等で使用する。
【0032】
UVIRカットフィルタ21の平面度に関しては、成膜される形状、積層膜に起因する応力、透明基板11を冶具等で固定することから成膜中に発生する応力、透明基板11から切り抜く際に発生する変形等の様々な要因により、外観上に変形が発生する場合がある。
【0033】
UVIRカットフィルタ21の外観が大きく変形してしまうと、光学系全体を考えた場合に、意図した場所に光が到達せず、画像劣化の要因となってしまう。そこで、光学系で使用されている何れかの部材に固定し、変形を矯正することが望ましいが、固体撮像素子を覆っているガラス等の保護部材に固定すると、上述したように固体撮像素子の周辺から発生する熱の影響を受け、別の不具合が生ずる。
【0034】
図5は上述の理由により、変形が生じ易いUVIRカットフィルタ21を一部品として用いた絞り機構の断面図を示している。絞り羽根支持板2aには光束を通過させる孔部が設けられており、固体撮像素子22と反対側の面において孔部の周囲に複数本の固定ピン23を設けられ位置決め手段とされている。これらの固定ピン23にUVIRカットフィルタ21の外周部に設けた挿通孔21aを挿通し、接着剤を用いて周囲を固定することによりUVIRカットフィルタ21を位置決め固定する。
【0035】
これにより図6に示すように、UVIRカットフィルタ21には上下方向に矯正力が働くので、UVIRカットフィルタ21の平面度を向上させることができる。
【0036】
UVIRカットフィルタ21の好適な配置位置は、光路上において必要な面積を小さくすることができ、かつ固体撮像素子22からの距離が遠い場所が適している。この際に、UVIRカットフィルタ21の変形を矯正できる程度の力を加え、それを保持できるように固定する必要がある。固定位置、固定方法、固定により保持する力や、その力の方向は作製したUVIRカットフィルタ21の外観形状により様々であり、一義的ではなく、その時々で最適な手法を選択する必要がある。
【0037】
図7において、UVIRカットフィルタ21は固体撮像素子22から離れた絞り羽根支持板2aに貼り付けて固定されている。また図8においては、絞り羽根支持板2aの固体撮像素子22側に固定ピン23により固定されている。更に図9においては、固体撮像素子22から最も離れた絞り羽根支持板2bの固体撮像素子22側の孔部の周囲に配置され、図10においてはこの絞り羽根支持板2bの固体撮像素子22の反対側に設けられている。
【0038】
なお、本実施例においては、絞り羽根支持板2a、2bにUVIRカットフィルタ21を取り付けたが、絞り羽根支持板2a、2b以外の光量絞り装置1を構成する一部品に取り付けることもできる。
【0039】
また、UVIRカットフィルタ21は積層数が多く、成膜時間が長いため、成膜時の生産性を向上させコストを低減するためには単純に成膜面積を小さくし、同一時間内に成膜されるUVIRカットフィルタ21の数を増加することが考えられる。
【0040】
なお、本実施例においては、紫外波長領域と近赤外波長領域の透過光量を同時に制限できるUVIRカットフィルタ21を用いたが、紫外波長領域及び近赤外波長領域の少なくとも一方の波長領域の透過を制限するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】光量絞り装置の分解斜視図である。
【図2】マスクを施した状態の透明基板の平面図である。
【図3】UVIRカットフィルタを切り抜いた状態の透明基板の平面図ある。
【図4】UVIRカットフィルタの膜構成図である。
【図5】外観が変形した状態のUVIRカットフィルタを組み込んだ絞り機構の断面図である。
【図6】UVIRカットフィルタの平面度が矯正された状態の絞り機構の断面図である。
【図7】UVIRカットフィルタの配置例の断面図である。
【図8】UVIRカットフィルタの配置例の断面図である。
【図9】UVIRカットフィルタの配置例の断面図である。
【図10】UVIRカットフィルタの配置例の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 光量絞り装置
2a、2b 絞り羽根支持板
3a、3b 絞り羽根
4 NDフィルタ
11 透明基板
12 マスク
13 孔部
21 UVIRカットフィルタ
21a 挿通孔
22 固体撮像素子
23 固定ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外波長領域及び近赤外波長領域のうちの少なくとも一方の波長領域の透過を制限する光学フィルタを、絞り機構の一部に前記光学フィルタの平面度を向上させる力を加えて固定したことを特徴とする光量絞り装置。
【請求項2】
前記光学フィルタは透明基板の上に複数層の薄膜を積層したことを特徴とする請求項1に記載の光量絞り装置。
【請求項3】
前記光学フィルタの固定は前記絞り機構の一部に設けた固定ピンに、前記光学フィルタに設けた挿通孔を挿通することにより行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の光量絞り装置。
【請求項4】
更に、可視光波長領域の透過光量を調整するNDフィルタを有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光量絞り装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4の何れかに記載の光量絞り装置を備えた撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−85908(P2010−85908A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257314(P2008−257314)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】