光電変換素子およびその製造方法
【課題】光電変換素子において、熱処理工程を追加することなく、また基板強度を低下させることもなく、受光面電極層の下部に高濃度拡散層を形成する。
【解決手段】光電変換素子は、主表面を有する半導体基板1と、上記主表面1aに配置された電極層4と、主表面1aの一部に設けられた多孔質層10とを備え、半導体基板1のうち主表面1aの近傍には不純物が拡散された拡散層3が形成されている。電極層4と多孔質層10とは接している。主表面1aを基準に見たときの多孔質層10の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面10bは、主表面1aの平均高さによって規定される主表面基準面1bと同じ高さであるかまたはより高い位置にある。
【解決手段】光電変換素子は、主表面を有する半導体基板1と、上記主表面1aに配置された電極層4と、主表面1aの一部に設けられた多孔質層10とを備え、半導体基板1のうち主表面1aの近傍には不純物が拡散された拡散層3が形成されている。電極層4と多孔質層10とは接している。主表面1aを基準に見たときの多孔質層10の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面10bは、主表面1aの平均高さによって規定される主表面基準面1bと同じ高さであるかまたはより高い位置にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン太陽電池は、太陽電池素子として広く使用されている。太陽電子素子は光電変換素子の一種である。光電変換素子の一例として、シリコン太陽電池を例にとり、図26を参照して説明する。図26はシリコン太陽電池の一般的な断面構造図である。半導体基板1は基本的に第一の導電型を有する。この半導体基板1の一方の主面(図26における上側の面)には、化学エッチングなどによって形成された微細な凹凸2が形成されている。半導体基板1のうち微細な凹凸2のある領域の表面近傍は、第一の導電型とは逆の第二の導電型を有する拡散層3となっている。拡散層3上には、一部にパターニングされた受光面電極層4が形成され、残りの全面に反射防止膜5が形成されている。また、半導体基板1の他方の主面(図26における下側の面)には裏面電極層6および、裏面取出し電極層7が形成されている。
【0003】
太陽光の照射によって半導体基板1および拡散層3の内部で発生した電子−正孔対は半導体基板1と拡散層3との界面に出来たPN接合の電界により、P型およびN型の領域へと分離される。これを両面に設置された電極から取り出すことによって電力を得ることができる。
【0004】
ここで、拡散層3の不純物濃度が高い場合、発生した電子−正孔対に属する電子および正孔の一部が拡散層3の表面で再結合してしまい、損失となってしまう。太陽電池素子の変換効率を向上させるためには、この表面再結合を低減することが重要である。表面再結合を低減するためには、拡散層3の不純物濃度は低い方が好ましい。
【0005】
しかし一方、拡散層3の不純物濃度が低い場合、拡散層3と受光面電極層4との間の接触抵抗が増大してしまうため、太陽電池素子としての変換効率が低下してしまう。また、拡散層3の深さが浅い場合、いわゆる「電極の突き抜け」が起こり易くなってしまうため、拡散層3の深さはある程度深く、高濃度である事が好ましい。
【0006】
このように拡散層3には相反する条件が求められており、これらをともに満足する方法として、受光面電極層4と接触する部分のみ高濃度化し、それ以外の受光部分には低濃度な拡散層を形成するという技術が提案されている。この技術に関しては、たとえば特開2004−273829号公報(特許文献1)が参考となる。
【0007】
この技術を適用した光電変換素子としての太陽電池素子の一例を図27に示す。ここでは、受光面電極層4の下部にのみ高濃度拡散層8が設けられている。この構造によれば受光面電極層4と高濃度拡散層8の接触抵抗を低下させることができ、なおかつそれ以外の受光部分の拡散層3は低濃度となっているため、太陽電池素子の変換効率を向上することができる。
【0008】
しかし、このような構造を実現するための方法が問題となる。従来、この構造を実現するためには、いくつかの方法が用いられてきた。
【0009】
第1の方法は、高濃度拡散層8を先に形成しておく方法である。すなわち、まず全面にわたって高濃度拡散層8を形成した後、電極のパターンにマスキングを施し、マスキングされた部分以外の高濃度拡散層8をエッチングして除去する。その後、エッチングされた部分に低濃度の拡散層3を形成する。上記特許文献1にはこの方法が記載されている。
【0010】
第2の方法は、第1の方法とは逆に、拡散層3を先に拡散によって全面に形成しておく方法である。このようにして、次に受光面電極層4の設置予定領域以外に、拡散を防ぐためのマスクを配置する。その後、このマスクを介してさらにもう一度拡散を行なうことで受光面電極層4下部にのみ高濃度拡散層8を形成する。
【0011】
第1,第2の方法によれば、いずれの場合も拡散を2回行なうこととなる。
第3の方法は、特開2004−247595号公報(特許文献2)に記載された方法である。受光面に微細な凹凸を設けておき、受光面電極層4下部においては微細な凹凸のアスペクト比を高くする、すなわち、頂点を高く、頂点間の距離を短くしておく。このような状態にしておくことで、拡散時に電極下部にのみ高濃度拡散層が形成される。
【0012】
他にこの分野に関連する技術文献として、Takashi Unagami and Masahiro Seki, "Structure of Porous Silicon Layer and Heat-Treatment Effect", Journal of The Electrochemical Society, Vol.125, No.8, August 1978, pp.1339-1343(非特許文献1)や、Kazuya Tsujino et.al., "Texturization of Multicrystalline Silicon Wafers by Chemical Treatment Using Metallic Catalyst", 第3回太陽光発電世界会議(WCPEC-3), 2003年5月11〜18日, 大阪, 日本, 4-LN-D-08(非特許文献2)が挙げられる。
【特許文献1】特開2004−273829号公報
【特許文献2】特開2004−247595号公報
【非特許文献1】Takashi Unagami et.al., "Structure of Porous Silicon Layer and Heat-Treatment Effect", Journal of The Electrochemical Society, Vol.125, No.8, August 1978, pp.1339-1343
【非特許文献2】Kazuya Tsujino et.al., "Texturization of Multicrystalline Silicon Wafers by Chemical Treatment Using Metallic Catalyst", 第3回太陽光発電世界会議(WCPEC-3), 2003年5月11〜18日, 大阪, 日本, 4-LN-D-08
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図27に示す構造を得るために、上述のようにいくつかの方法が知られていたが、これらのうち、拡散を2回行なう方法では、拡散に必要な高温熱処理工程を2回行なうこととなる。そのため、半導体基板1が熱衝撃応力で割れてしまうという問題があった。
【0014】
また、電極下部においてのみ微細な凹凸構造を異ならせておくという方法では、拡散を1回で済ませられるものの、半導体基板1の中で局所的に表面凹凸のアスペクト比を高くしたり、頂点を高くしたり、または頂点間の距離を短くしたりすることで、半導体基板1の強度が低下してしまう。このため半導体基板1が割れてしまい、歩留りが低下してしまうという問題があった。また、受光面電極層4をスクリーン印刷法によって形成する場合、半導体基板1表面に作製した微細な凹凸構造が印刷時に掛かる圧力によって破損してしまうという事態がしばしば起こる。凹凸構造のアスペクト比は高ければ高いほど、また、凹凸構造の先端形状が鋭ければ鋭いほど破損し易い。凹凸構造がもし破損してしまうと受光面電極層4と半導体基板1とが直接接し易くなってしまうので、リーク電流が増大し、結果的に太陽電池素子の変換効率を低下させてしまう。
【0015】
そこで、本発明は、基板の一方の主面に受光面電極層と拡散層とを有する光電変換素子において、熱処理工程を追加することなく、また基板強度を低下させることもなく、リーク電流増大も抑えられる構造を有し、受光面電極層の下部に高濃度拡散層を形成した光電変換素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に基づく光電変換素子は、主表面を有する半導体基板と、上記主表面に配置された電極層と、上記主表面の一部に設けられた多孔質層とを備える。上記半導体基板のうち上記主表面の近傍には不純物が拡散された拡散層が形成されている。上記電極層と上記多孔質層とは接している。上記主表面を基準に見たときの上記多孔質層の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面は、上記主表面の平均高さによって規定される主表面基準面と同じ高さであるかまたはより高い位置にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、拡散のための熱処理工程を2回行なわずに1回で済ませて作製することができる。したがって、半導体基板が熱衝撃応力で割れてしまう度合いを低減することができる。また基板強度を低下させることもなく、リーク電流増大も抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず初めに、本発明の各実施の形態に共通する事項を説明する。
本発明に係る光電変換素子は、第一の導電型の半導体基板と、この半導体基板の一方の面(「主表面」ともいう。)に形成された多孔質層と、高濃度拡散層と、拡散層と、受光面電極と、半導体基板の他方の面(「裏面」ともいう。)に形成された裏面電極とを備える。
【0019】
多孔質層の形成方法としては様々なものが知られているが、陽極化成法が好ましい。「陽極化成法」とは、半導体基板を陽極とし、白金電極などを対極として、フッ化水素を含む溶液中に浸漬した状態でこれらの電極間に電流を流すことで、陽極である半導体基板の表面で反応が起こり、半導体基板が多孔質状にエッチングされるという現象を利用した加工方法である。陽極化成法によって多孔質層が形成される。このことについては上記非特許文献1が参考となる。
【0020】
陽極化成法の利点としては、流れる電流、エッチング時間、エッチング液を調整することで多孔質層の形状および厚さを任意に変更することが可能であるという点が挙げられる。また、陽極化成法においては、ワックスなどのように、絶縁性が高くかつ化学エッチングに対して耐性の強いものをマスクの材料として利用することで、任意の場所にのみ多孔質層を形成することができる。
【0021】
ここで陽極化成法の詳細な方法を説明する。50%のフッ化水素酸水溶液を用意する。あらかじめ半導体基板の裏面側にアルミニウムなどを蒸着させてこれを「取出し電極」とする。半導体基板の主表面における多孔質層を得たい領域以外をワックスで覆って保護する。ここでは、半導体基板の全表面のうち、多孔質層を得たい領域のみが露出し、裏面も端面もすべて保護する。ただし、先ほど形成した取出し電極には配線を接続し、電流を流せるようにしておく。このような処理を施した半導体基板を陽極とし、別に用意された白金板を対極として先ほど用意したフッ化水素酸溶液の中に浸し、これらの2つの電極間に10〜300mAの電流を5〜60分間流す。こうすることで半導体基板の全表面のうちワックスで覆われなかった領域に多孔質層が得られる。その後、保護のためのワックスを除去し、取出し電極として設けたアルミニウムなどの蒸着膜を除去する。この方法であれば、任意の領域に多孔質層が形成された半導体基板を得ることができる。
【0022】
その他にも、多孔質層を得るための方法としては、たとえば触媒効果を利用した凹凸構造の形成方法が上記非特許文献2に記載されている。この技術は、NO3-イオンおよびNO2のシリコン酸化作用を利用するものである。この技術を用いることによっても、多孔質層を得ることは可能である。
【0023】
(実施の形態1)
(構成)
図1、図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1における光電変換素子について説明する。本実施の形態における光電変換素子100の断面図を図1に示す。光電変換素子100は、主表面1aを有する半導体基板1と、主表面1aに配置された電極層としての受光面電極層4と、主表面1aの一部に設けられた多孔質層10とを備える。半導体基板1のうち主表面1aの近傍には不純物が拡散された拡散層3が形成されている。受光面電極層4と多孔質層10とは接している。図1におけるZ1部を拡大したところを図2に示す。主表面1aを基準に見たときの多孔質層10の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面10bが、主表面1aの平均高さによって規定される主表面基準面1bと同じ高さであるかまたはより高い位置にある。
【0024】
ただし、「主表面1aの平均高さ」といった場合、主表面1aのうち多孔質層10が設けられている領域を除いた部分の平均高さを意味するものとする。図1に示した光電変換素子100の例では、図2に拡大して示すように主表面1aも多孔質層10の上面もそれぞれ凹凸を有しているが、これら2つの上面のうちいずれか一方または両方が平坦であってもよい。その場合、平均高さは上面の高さそのものと等しくなるので、各基準面は各上面と等しくなる。
【0025】
多孔質層基準面10bが、主表面基準面1bと同じ高さであるかまたはより高い位置にあるということは、言い換えれば、多孔質層基準面10bと主表面基準面1bとは、光源からの距離が同じであるか、あるいは、多孔質層基準面10bの方が主表面基準面1bよりも光源寄りにあるということである。
【0026】
本実施の形態における光電変換素子100は、さらに好ましいことに、主表面1aに拡散層3よりも高い濃度で不純物が拡散された高濃度拡散層8を有する。高濃度拡散層8は多孔質層10および半導体基板1の一部にわたる範囲に不純物が高濃度で拡散された結果として形成されたものである。受光面電極層4と高濃度拡散層8とは接している。図2に示すように高濃度拡散層8の存在範囲は多孔質層10の存在範囲を包含している。また、高濃度拡散層8のうち受光面電極層4と接している部分は多孔質層10を含んでいる。
【0027】
(作用・効果)
本実施の形態における光電変換素子100は、後述するような製造方法で得ることができるので、拡散のための熱処理工程を2回行なわずに1回で済ませることができる。したがって、半導体基板が熱衝撃応力で割れてしまう度合いを低減することができる。また、半導体基板の表面凹凸のアスペクト比を高くするわけでもないので、基板強度を低下させることもなく、リーク電流増大も抑えることができる。
【0028】
(実施の形態2)
(製造方法)
図3〜図13を参照して、本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法について説明する。この光電変換素子の製造方法は、図3に示すように、主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面に多孔質層を形成する工程S1と、前記多孔質層のうち、電極を形成すべき領域である第1の領域に前記多孔質層を残し、前記第1の領域以外の領域である第2の領域からは前記多孔質層を除去する工程S2と、一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程S3とを含む。
【0029】
(製造方法に関するより具体的な説明)
以下に、本実施の形態における光電変換素子の製造方法についてより具体的に説明する。
【0030】
本実施の形態における光電変換素子の製造方法として、図1、図2に示したように多孔質層基準面10bが主表面基準面1bより高い位置にある構造、すなわち多孔質層基準面10bの方が主表面基準面1bよりも光源寄りにある構造を得るための方法を説明する。
【0031】
まず、図4に示すように主表面1aを有する半導体基板1を用意し、基板洗浄工程を行なう。基板洗浄工程においては、この半導体基板1をアセトンなどに浸し、その後RCA(Radio Corporation of America)洗浄を行なう。
【0032】
次に硝酸とフッ化水素酸の混合水溶液中に半導体基板1を浸すことで表面のダメージ層を除去する。この時の処理時間は硝酸とフッ化水素酸の混合比によってエッチングレートが異なるため一概には言えないが、硝酸とフッ化水素酸の濃度比3:1の混合水溶液を用いれば、30〜60秒間行なうことで十分にダメージ層を除去することができる。
【0033】
その後、工程S1として、この半導体基板1の主表面1a側に陽極化成法を施すことで、図5に示すように多孔質層10を形成する。
【0034】
なお、後の工程で反射防止膜5(図1参照)として窒化シリコン膜を形成する際に、多孔質構造があると、窒化シリコン膜を多孔質層の奥まで真空プロセスで堆積させることは難しく、窒化シリコン膜による被覆が不十分となり、表面再結合低減のためのパッシベーション効果が得にくくなる。そのため、窒化シリコン膜の形成時点では受光部分に多孔質層10が残っていることは好ましくない。
【0035】
そこで、工程S2を行なう。すなわち、図6に示すように、多孔質層10上にガラスを含むペーストをマスク11として、受光面電極層の設置予定領域(以下「電極設置予定領域」という。)12のパターンに塗布する。これを水酸化ナトリウム水溶液中に浸すことで受光領域13にある多孔質層10を除去する。こうすることで、図7に示すように電極設置予定領域12のみに多孔質層10を残した構造を得ることができる。これが工程S2である。
【0036】
なお、工程S2におけるマスク11としては、上述したようにガラスを含むペーストを用いてもよいが、ワックスなどのように化学エッチングに対して耐性を有する材料を用いることもできる。また、マスク11を形成する領域は電極設置予定領域12と完全に等しくする以外に、より狭いパターンとしてもよい。そのようにしても多孔質層10と受光面電極層との電気的接続は一応達成できるからである。ただし、電極設置予定領域12と等しいパターンまたはより広いパターンに塗布した方が、受光面電極層4(図1参照)と多孔質層10とが接する面積を最大限に確保でき、その結果、接触抵抗が低減するので、好ましい。
【0037】
また、多孔質層10のエッチングには水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液を用いずに、硝酸とフッ化水素酸を含む混合水溶液などのような酸系の水溶液を用いてもよい。ただし、アルカリ水溶液を用いることでアルカリの異方性エッチング効果によって凹凸が得られ、なおかつ、多孔質構造が一部残った構造となるので、結果的には反射率の低い理想的な「微細な凹凸」を得ることができる。
【0038】
なお、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液以外にも、水酸化カリウム水溶液や、アンモニア水溶液を用いても同様の効果が期待できる。
【0039】
このようにして得られた構造は、電極設置予定領域12には多孔質層10が形成されている一方、受光領域13においては微細な凹凸を有するので単位投影面積当たりの表面積が大きくなる。また、この多孔質層10の基準面である多孔質層基準面10bは、受光領域13の基準面である主表面基準面1bよりも高くなっている。
【0040】
次に、こうして得られた半導体基板1に対して工程S3すなわち拡散層形成工程を行なう。半導体基板1を、たとえばPOCl3などのリンを含む雰囲気中で700〜950℃で加熱することで、図8に示すように、半導体基板1の主表面1aに拡散層が形成される。このとき、半導体基板1の主表面1aにおいては領域によって多孔質層10の有無に起因して単位投影面積当たりの表面積が異なる領域があるので、その違いから拡散層は高濃度と低濃度とに区別して形成される。多孔質層10がある領域では、単位投影面積当たりの表面積が大きいので、高濃度拡散層8が形成される。多孔質層10がない領域では、低濃度拡散層である拡散層3が形成される。
【0041】
次に、半導体基板1の主表面1aに対してプラズマCVD法などを行なうことによって窒化シリコン膜を形成する。図9に示すようにこの窒化シリコン膜は反射防止膜5となる。反射防止膜5としては窒化シリコン膜の他に酸化シリコン膜や酸化チタン膜などを用いることもできる。
【0042】
次に、この半導体基板1を、硝酸とフッ化水素酸を含む混合水溶液中に浸すことで、主表面1a以外にあった余分な拡散層を除去する。こうして図10に示す構造が得られる。
【0043】
なお、主表面1aにのみ拡散層3を形成するためには、たとえば拡散層形成工程として、側面や裏面にチタンを含む溶液を塗布して保護し、主表面1aにはリンを含む溶液を塗布して、700〜950℃に加熱することとしてもよい。こうすることによっても主表面1aだけに拡散層3が形成された構造を得ることができる。その場合は所望領域だけを覆う拡散層3を形成した後に主表面1aを覆うように反射防止膜5としての窒化シリコン膜を形成する。
【0044】
続いて、アルミニウムを含むペーストを裏面側のほぼ全面に塗布し、加熱することで焼結させ、裏面電極層6を形成する。この加熱に際してはアルミニウムとシリコンとの共晶温度575℃以上に加熱することで、アルミニウムの一部が半導体基板1に拡散する。こうして、半導体基板1の裏面側には裏面電極層6が形成される。裏面電極層6の形成後、半導体基板1の裏面のうち裏面電極層6が形成されていない領域に、銀を含むペーストを塗布して乾燥することで裏面取出し電極層7を形成する。こうして、図11に示す構造が得られる。
【0045】
また、主表面1には多孔質層10によって規定される領域に形成された高濃度拡散層8のパターンとほぼ同様のパターンで銀を含むペーストを塗布し、乾燥させることによって受光面電極層4を形成する。こうして、図1に示した構造が得られる。なお、ここでいう「同様のパターン」とは、高濃度拡散層8と受光面電極層4とが厳密に同一のパターンを有することまでは必要ではなく、多少の位置ずれや各層の幅、長さなどの相違は許容されることを意味する。
【0046】
この例では、受光面電極層4の形成のために銀を含むペーストを塗布して乾燥させているが、この際に、銀を含むペースト中にはガラスフリットを含ませておき、乾燥させる温度をガラスフリットの融点以上とするとよい。こうすることで、図12に示すように塗布されたペースト層15の中でガラスが溶け、高温で溶けたガラスが窒化シリコンからなる反射防止膜5を突き破り、図13に示すように主表面1aに形成された多孔質層10に達する。その結果、多孔質層10と受光面電極層4とが互いに接した構造を得ることができる。このようにして電極層を形成する方法はファイヤスルー法と呼ばれる。ファイヤスルー法によれば、反射防止膜5としての窒化シリコン膜のパターニングの工程を省くことができる。したがって、ファイヤスルー法は、低コストな多結晶シリコン太陽電池素子の製造現場などで用いられている。
【0047】
ファイヤスルー法を採用しない場合、受光面電極層4の形成は以下のように行なう。まず反射防止膜5としての窒化シリコン膜の一部をレジストなどで保護する。すなわち、高濃度拡散層8と同様のパターンだけを露出させるようにレジストなどで保護する。その状態で窒化シリコン膜が露出する部分の窒化シリコン膜を除去する。さらにレジストを除去する。その後、蒸着法によって受光面電極層4を形成する。その場合、受光面電極層4は、窒化シリコン膜を除去した部分に選択的に形成される。このようにファイヤスルー法を採用しない場合でも上と同様の構造が得られるが、レジストによるパターニングが必要となるので、工程数の増加や位置合わせの問題によってコスト増加や生産効率の低下を招く。そのため、低コスト、高生産効率が求められる量産プロセスでは好まれない。
【0048】
上述のように各工程を行ない、図13に示した構造に達することによって、図1、図2に示した光電変換素子100を得ることができる。
【0049】
なお、拡散層形成工程の後に電極を形成するために所定領域に塗布するものは、銀を含むペーストに限らず他の種類の金属を含むペーストであってもよい。もっとも銀は抵抗値が低いので銀を含むペーストを用いれば、電極層を低抵抗とすることができ、好ましい。
【0050】
(作用・効果)
本実施の形態における光電変換素子の製造方法によれば、得られる光電変換素子においては、基板の一方の主面側に高濃度拡散層8とより低濃度の拡散層3との2種類が存在するが、これらの2種類の拡散層の形成を一度の熱拡散工程で済ませている。そのため、半導体基板1を高温にさらす回数を1回に抑えることができ、基板強度の低下を回避することができる。さらに受光面電極層の下部に微細な凹凸を設けるわけでもないので、そのような微細な凹凸に起因する破損によるリーク電流増大も抑えることができる。
【0051】
(変形例)
本実施の形態における光電変換素子の製造方法の変形例として、多孔質層基準面10bが主表面基準面1bと同じ高さにある構造を得るための方法を説明する。
【0052】
変形例である光電変換素子の製造方法は、主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面のうちに電極を形成すべき領域である第1の領域に多孔質層を形成する工程と、一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第1の領域以外の領域である前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程とを含む。
【0053】
図4に示す半導体基板1からアセトンを用いて油分を除去し、さらにRCA洗浄を行なう。その後、水酸化ナトリウムとイソプロピルアルコールを含む水溶液を80〜90℃に加熱したものに半導体基板1を浸す。こうすることで、ダメージ層が除去されるとともに、図14に示すように半導体基板1の主表面1aに微細な凹凸構造が形成される。なお、イソプロピルアルコールを含まずに水酸化ナトリウムのみを含む水溶液でも同様な構造は得られるが、イソプロピルアルコールを含む溶液を用いた方がより反射率を抑えた凹凸構造を形成することができる。このようにして得られた半導体基板1において、図15に示すように、主表面1aのうち電極設置予定領域12以外の領域および半導体基板1の主表面1a以外の面すべてをワックスなどの保護膜14で保護する。この状態の半導体基板1の主表面1aに対して、工程S1として、陽極化成法で多孔質シリコン層を形成する。
【0054】
その後、保護膜14を全て除去する。こうすることによって、図16に示すように、電極設置予定領域12にのみ多孔質層10が形成された構造となる。主表面1aの電極設置予定領域12は多孔質層10を有することとなるので、受光領域13と比較して単位投影面積当たりの表面積がより大きくなる。なおかつ、多孔質層基準面10bは、受光領域13の基準面である主表面基準面1bと同じ高さになっている。
【0055】
主表面1aに対して実施の形態1で説明したような拡散層形成工程S3を行なう。その結果、図17に示すように拡散層3が形成される。このとき多孔質層10の部分は高濃度拡散層8となる。次に、プラズマCVD法などを行なうことによって図18に示すように窒化シリコン膜からなる反射防止膜5を形成する。さらに、実施の形態2で説明したように、裏面電極層6および裏面取出し電極層7を形成し、図19に示す構造とする。さらに、実施の形態2で説明したように、受光面電極層4を形成し、図20に示す構造とする。図20におけるZ2部を拡大したところを図21に示す。
【0056】
このようにすることによって、図1に示した光電変換素子の変形例として、多孔質層基準面10bが主表面基準面1bと同じ高さにある構造を得ることができる。
【0057】
上述した各実施の形態においては、「主表面」が受光面であって「電極層」が受光面電極層である例を前提に説明したが、本発明の適用対象は受光面の電極層に限らない。光電変換素子が有する両面のうち受光面とは反対側の表面、すなわち、いわゆる「裏面」に対しても本発明は適用することができる。その場合、裏面を「主表面」とみなし、裏面に形成される電極層について、上述した内容をあてはめることとなる。
【0058】
(実験)
(シート抵抗の測定)
本発明による接触抵抗低減の効果を確認するために、発明者らは、まず、多孔質層を設けることがシート抵抗の低減をもたらすか否かを確認する実験を行なった。すなわち、発明者らは、図22に示す構造の試料を作製してシート抵抗を測定する実験を行なった。以下に詳しく説明する。
【0059】
実験のために、何枚かの半導体基板1を用意する。これらの半導体基板1を酸溶液やアルカリ溶液で処理して、表面のダメージ層を除去する。続いて、半導体基板1の表面上に多孔質層10を形成する。多孔質層10の形成方法としては、本実験では陽極化成法を用いた。すなわち、半導体基板1の裏面側にアルミニウムを蒸着し、主表面以外の部分をワックスで保護する。これを陽極とし、白金電極を対極としてフッ化水素酸水溶液中で10mAの電流を3分間流す。こうすることで、陽極化成法が行なわれる。その結果、半導体基板1の主表面に多孔質層10が形成された。多孔質層10の形成後、アセトンによってワックスを除去した。塩酸と過酸化水素水を含む水溶液により、裏面に形成されていたアルミニウム膜を除去した。
【0060】
次に、水酸化ナトリウム水溶液を用いて多孔質層10をエッチングした。エッチングする時間の長さを試料ごとにそれぞれ変更することによって、多孔質層10の残存厚みを5通りに変えた試料1〜5を用意した。これらの半導体基板1に対して、同一拡散条件下で拡散後のシート抵抗がどのように変化するかを調べることとした。
【0061】
拡散の方法として具体的には、POCl3などのリンを含む拡散ソースを用いて、850〜900℃で熱拡散を施した。こうして半導体基板1の各々に図22に示すように拡散層3を形成した。シート抵抗の測定には四探針法を用いた。各試料における測定結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、多孔質層10のエッチング時間が長くなるにつれてシート抵抗が増大していることがわかる。すなわち、残存する多孔質層10の厚みに依存してシート抵抗が変化しており、多孔質層10の残存厚みが厚ければ厚いほどシート抵抗は低くなっている。このことから、多孔質層10がシート抵抗の低減に貢献していることがわかる。
【0064】
これは、多孔質層10があることによって、その部分では拡散層3が不純物濃度の高い層すなわち高濃度拡散層として形成され、高濃度拡散層の存在によってシート抵抗が低くなっているものと考えられる。
【0065】
(接触抵抗の測定)
その後、図22に示した試料の主表面側の拡散層3の上に、窒化シリコンの反射防止膜5をCVD法により形成した。主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3を化学エッチングを用いて除去した。この拡散層除去の工程は接合を分離するために行なうものである。
【0066】
次に、主表面側の拡散層3と直接接するように、スクリーン印刷によって銀ペーストを塗布し、第一の電極101および第二の電極102を形成した。こうして、図23に示す接触抵抗測定用試料を得た。第一の電極101および第二の電極102はいずれも、電極幅100〜200μm、電極長さ0.6cmのパターンとなるよう形成した。このようにして得られた接触抵抗測定用試料を用いて、実際に接触抵抗を低減できるか否かを確認した。
【0067】
ここで接触抵抗の測定方法について簡単に述べる。この実験では、2つの電極間の抵抗を測定するTLM法に準ずる測定方法を用いた。すなわち、図23に示すような構造において電極間距離Dを1〜5mmまで変化させた試料をそれぞれ用意し、第一の電極101と第二の電極102との間の抵抗を測定する。図23に示す構造は、図24に示すように拡散層の抵抗201の両端に接触抵抗200をそれぞれ接続した等価回路にあてはめて考えることができる。電極間距離Dが異なるものをそれぞれ測定して比較すれば、図24に示す回路における接触抵抗200と、拡散層の抵抗201とのうち、拡散層の抵抗201のみが電極間距離Dに比例して変化するため、測定された抵抗値から接触抵抗200の値を算出することができる。表1に示す試料1〜5に対して、この方法を用いて、図24に示す等価回路における接触抵抗200の値を調べた。
【0068】
(比較試料)
ここで、試料1〜5との比較に用いる比較試料1について説明する。比較試料1を製造するために、半導体基板1を洗浄後、表面が鏡面状となるように化学エッチングを用いて加工し、その後拡散層3を形成した。拡散ソースとしては試料1〜5に対して用いたのと同一のものを用い、拡散時間も試料1〜5を同一として熱拡散を施した。その結果、形成された拡散層のシート抵抗は50Ω/sqとなった。さらに試料1〜5と同様に、反射防止膜5をCVD法により形成し、主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3を化学エッチングを用いて除去した。最後に半導体基板1の主表面側の拡散層3と直接接するように、スクリーン印刷によって銀ペーストを塗布し、第一の電極101および第二の電極102を形成した。すなわち、比較試料1は、多孔質層を全く形成していないという点で試料1〜5とは大きく異なる。
【0069】
図25に、試料1〜5および比較試料1における接触抵抗200の測定結果を示す。図25では、横軸に拡散層のシート抵抗の値を、縦軸に接触抵抗200の値をとり、各点をプロットしている。図25のグラフでは、半導体基板1の表面が鏡面状であっても多孔質層状であってもいずれも同様にシート抵抗と比例して接触抵抗の値が変化している。このことから、表面状態に関係なく、シート抵抗と接触抵抗とは比例することがわかる。
【0070】
以上から、多孔質層を利用することで不純物濃度の高い拡散層を形成することができ、金属電極との接触抵抗も低減できることが確認された。
【0071】
(実施例1)
実施の形態1で示した図1の構造の光電変換素子を実際に作製する様子を「実施例1」として、より具体的に示す。図22〜図25を参照した上記実験によって、多孔質層に不純物拡散を行なうことによって接触抵抗が低減できることが分かったので、これから示す実施例1では、一部に本発明の構造を有する光電変換素子すなわち太陽電池素子の製造方法を説明する。説明に当たって、実施の形態2で参照した図4〜図10を再び参照する。
【0072】
まず図4に示す半導体基板1を洗浄後、酸溶液およびアルカリ溶液で処理して表面のダメージ層を除去する。続いて半導体基板1の表面上に陽極化成法を用いて図5に示すように多孔質層10を形成する。多孔質層10の厚みは厚すぎると、受光面電極層4を印刷、焼成して形成した際に十分な接着強度が得られない。多孔質層10の厚みを0.2μm以下に設定することで接着強度を十分に確保できる。本実施例では、多孔質層10の厚みは0.15μm程度に設定した。
【0073】
その後、この多孔質層10上にマスクを施し、受光面電極層4と接する予定の領域以外の多孔質層10をエッチング除去する工程を行なう。ここでいうマスクとしては、耐アルカリ性のペーストとしてガラスを主成分としたペーストを用い、印刷法によって受光面電極層4の設置予定形状と同様の形状となるように印刷する。すなわち図6に示すようにマスク11を形成する。この工程におけるエッチングとしては水酸化ナトリウムを用いたウェットエッチングを行なう。すなわち、水酸化ナトリウム水溶液中に浸して多孔質層10の一部をエッチングする。その結果、図7に示す構造となる。
【0074】
この後、受光面電極層4の設置予定部分に印刷されたマスクをフッ化水素酸水溶液を用いて除去する。こうすることで、所望領域すなわち受光面電極層4と接する予定の領域に多孔質層10を残した半導体基板1を得ることができる。また、主表面の受光領域は光の反射を抑えるための凹凸構造が必須であるが、水酸化ナトリウムによる多孔質層10のエッチング時間を調整することで、アルカリエッチングによる凹凸構造と、多孔質層10の一部が残ることによって存在する微細な凹凸構造とが混在した複合的な凹凸構造が形成される。
【0075】
この半導体基板1に対して、POCl3を含む拡散ソースを用いて、850〜900℃で熱拡散を施す。その結果、図8に示すように拡散層3が形成される。ただし、半導体基板1の表面の一部に残された多孔質層10の部分は、凹凸構造となっていることにより、他の部分よりも単位投影面積当たりの表面積が大きいため、他の領域よりも高濃度に拡散され、高濃度拡散層8となる。その後、図9に示すように、主表面側の拡散層3、多孔質層10、高濃度拡散層8の上に、窒化シリコンの反射防止膜5をCVD法により形成する。次に、主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3を化学エッチングを用いて除去する。こうして図10に示す構造となる。この拡散層3除去の工程は接合を分離するために行なうものである。
【0076】
その後、主表面の多孔質層10上に銀などからなる電極材料を塗布するとともに、裏面にはアルミニウムを主成分とする電極材料と、銀を主成分とする電極材料とを塗布する。この状態で焼き付けることにより、受光面電極層4、裏面電極層6、裏面取出し電極層7が形成され、図1に示す光電変換素子100すなわち太陽電池素子が得られる。
【0077】
ここで示した実施例1は、あくまで製造方法の一例であり、本発明に係る光電変換素子の製造方法はこの実施例1に限定されるものではない。たとえば多孔質層10を形成する工程やマスキングをする工程の実施順序はここに述べたものに限らない。多孔質層10の製造方法自体もあくまで一例であってここに述べたものに限らない。
【0078】
(実施例2)
以下「実施例2」として、実施の形態2において変形例として説明した製造方法により光電変換素子を作製する様子を説明する。説明に当たって、実施の形態2の変形例で参照した図14〜図21を再び参照する。
【0079】
まず、半導体基板1を洗浄し、その後、酸溶液およびアルカリ溶液で処理して表面のダメージ層を除去する。続いて半導体基板1の表面を70〜90℃に加熱した水酸化ナトリウムを含む水溶液中に浸す。こうすることで、図14に示すように、表面での光の反射を抑える凹凸構造を得る。次に、図15に示すように、主表面の受光面電極層4の設置予定領域以外の受光領域13にワックスを塗布してマスキングを行なう。この半導体基板1に対して陽極化成法を行なうことで、半導体基板1の受光面電極層4の設置予定領域の表面に多孔質層10を得る。図16に示すように、ワックスによるマスクを除去する。この半導体基板1に対して、POCl3を含む拡散ソースを用いて、850〜900℃で熱拡散を施すと、図17に示すように、多孔質層10が形成された部分は高濃度拡散層8が、それ以外の部分は低濃度の拡散層3が形成される。
【0080】
次に、主表面の拡散層3、多孔質層10、高濃度拡散層8を覆うように窒化シリコンからなる反射防止膜5をCVD法により形成する。こうして図18に示す構造となる。さらに、図19に示すように、主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3や多孔質層10、高濃度拡散層8を化学エッチングを用いて除去する。これによって接合を分離し、短絡によるリークを防ぐ。
【0081】
その後、主表面の多孔質層10上に銀などからなる電極材料を塗布するとともに、裏面にはアルミニウムを主成分とする電極材料と、銀を主成分とする電極材料を塗布する。この状態で焼き付けることにより、図20に示すように受光面電極層4、裏面電極層6、裏面取出し電極層7が形成され、実施の形態2の変形例として示した光電変換素子が得られる。すなわち、図21に示したように多孔質層基準面10bが主表面基準面1bと同じ高さにある構造を有する太陽電池素子を得ることができる。
【0082】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に基づく実施の形態1における光電変換素子の断面図である。
【図2】図1におけるZ1部の拡大図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法のフローチャートである。
【図4】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第1の工程の説明図である。
【図5】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第2の工程の説明図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第3の工程の説明図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第4の工程の説明図である。
【図8】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第5の工程の説明図である。
【図9】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第6の工程の説明図である。
【図10】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第7の工程の説明図である。
【図11】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第8の工程の説明図である。
【図12】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の中で見られる現象の第1の説明図である。
【図13】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の中で見られる現象の第2の説明図である。
【図14】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第1の工程の説明図である。
【図15】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第2の工程の説明図である。
【図16】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第3の工程の説明図である。
【図17】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第4の工程の説明図である。
【図18】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第5の工程の説明図である。
【図19】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第6の工程の説明図である。
【図20】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第7の工程の説明図である。
【図21】図20におけるZ2部の拡大図である。
【図22】シート抵抗を測定するための試料の断面図である。
【図23】接触抵抗測定用試料の断面図である。
【図24】等価回路の回路図である。
【図25】接触抵抗の測定結果のグラフである。
【図26】従来技術に基づく第1の光電変換素子の断面図である。
【図27】従来技術に基づく第2の光電変換素子の断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 半導体基板、1a 主表面、1b 主表面基準面、2 微細な凹凸、3 拡散層、4 受光面電極層、5 反射防止膜、6 裏面電極層、7 裏面取出し電極層、8 高濃度拡散層、10 多孔質層、10b 多孔質層基準面、11 (ガラスを含むペーストによる)マスク、12 電極設置予定領域、13 受光領域、14 保護層、15 ペースト層、100 光電変換素子、101 第一の電極、102 第二の電極、200 接触抵抗、201 拡散層の抵抗。
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン太陽電池は、太陽電池素子として広く使用されている。太陽電子素子は光電変換素子の一種である。光電変換素子の一例として、シリコン太陽電池を例にとり、図26を参照して説明する。図26はシリコン太陽電池の一般的な断面構造図である。半導体基板1は基本的に第一の導電型を有する。この半導体基板1の一方の主面(図26における上側の面)には、化学エッチングなどによって形成された微細な凹凸2が形成されている。半導体基板1のうち微細な凹凸2のある領域の表面近傍は、第一の導電型とは逆の第二の導電型を有する拡散層3となっている。拡散層3上には、一部にパターニングされた受光面電極層4が形成され、残りの全面に反射防止膜5が形成されている。また、半導体基板1の他方の主面(図26における下側の面)には裏面電極層6および、裏面取出し電極層7が形成されている。
【0003】
太陽光の照射によって半導体基板1および拡散層3の内部で発生した電子−正孔対は半導体基板1と拡散層3との界面に出来たPN接合の電界により、P型およびN型の領域へと分離される。これを両面に設置された電極から取り出すことによって電力を得ることができる。
【0004】
ここで、拡散層3の不純物濃度が高い場合、発生した電子−正孔対に属する電子および正孔の一部が拡散層3の表面で再結合してしまい、損失となってしまう。太陽電池素子の変換効率を向上させるためには、この表面再結合を低減することが重要である。表面再結合を低減するためには、拡散層3の不純物濃度は低い方が好ましい。
【0005】
しかし一方、拡散層3の不純物濃度が低い場合、拡散層3と受光面電極層4との間の接触抵抗が増大してしまうため、太陽電池素子としての変換効率が低下してしまう。また、拡散層3の深さが浅い場合、いわゆる「電極の突き抜け」が起こり易くなってしまうため、拡散層3の深さはある程度深く、高濃度である事が好ましい。
【0006】
このように拡散層3には相反する条件が求められており、これらをともに満足する方法として、受光面電極層4と接触する部分のみ高濃度化し、それ以外の受光部分には低濃度な拡散層を形成するという技術が提案されている。この技術に関しては、たとえば特開2004−273829号公報(特許文献1)が参考となる。
【0007】
この技術を適用した光電変換素子としての太陽電池素子の一例を図27に示す。ここでは、受光面電極層4の下部にのみ高濃度拡散層8が設けられている。この構造によれば受光面電極層4と高濃度拡散層8の接触抵抗を低下させることができ、なおかつそれ以外の受光部分の拡散層3は低濃度となっているため、太陽電池素子の変換効率を向上することができる。
【0008】
しかし、このような構造を実現するための方法が問題となる。従来、この構造を実現するためには、いくつかの方法が用いられてきた。
【0009】
第1の方法は、高濃度拡散層8を先に形成しておく方法である。すなわち、まず全面にわたって高濃度拡散層8を形成した後、電極のパターンにマスキングを施し、マスキングされた部分以外の高濃度拡散層8をエッチングして除去する。その後、エッチングされた部分に低濃度の拡散層3を形成する。上記特許文献1にはこの方法が記載されている。
【0010】
第2の方法は、第1の方法とは逆に、拡散層3を先に拡散によって全面に形成しておく方法である。このようにして、次に受光面電極層4の設置予定領域以外に、拡散を防ぐためのマスクを配置する。その後、このマスクを介してさらにもう一度拡散を行なうことで受光面電極層4下部にのみ高濃度拡散層8を形成する。
【0011】
第1,第2の方法によれば、いずれの場合も拡散を2回行なうこととなる。
第3の方法は、特開2004−247595号公報(特許文献2)に記載された方法である。受光面に微細な凹凸を設けておき、受光面電極層4下部においては微細な凹凸のアスペクト比を高くする、すなわち、頂点を高く、頂点間の距離を短くしておく。このような状態にしておくことで、拡散時に電極下部にのみ高濃度拡散層が形成される。
【0012】
他にこの分野に関連する技術文献として、Takashi Unagami and Masahiro Seki, "Structure of Porous Silicon Layer and Heat-Treatment Effect", Journal of The Electrochemical Society, Vol.125, No.8, August 1978, pp.1339-1343(非特許文献1)や、Kazuya Tsujino et.al., "Texturization of Multicrystalline Silicon Wafers by Chemical Treatment Using Metallic Catalyst", 第3回太陽光発電世界会議(WCPEC-3), 2003年5月11〜18日, 大阪, 日本, 4-LN-D-08(非特許文献2)が挙げられる。
【特許文献1】特開2004−273829号公報
【特許文献2】特開2004−247595号公報
【非特許文献1】Takashi Unagami et.al., "Structure of Porous Silicon Layer and Heat-Treatment Effect", Journal of The Electrochemical Society, Vol.125, No.8, August 1978, pp.1339-1343
【非特許文献2】Kazuya Tsujino et.al., "Texturization of Multicrystalline Silicon Wafers by Chemical Treatment Using Metallic Catalyst", 第3回太陽光発電世界会議(WCPEC-3), 2003年5月11〜18日, 大阪, 日本, 4-LN-D-08
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図27に示す構造を得るために、上述のようにいくつかの方法が知られていたが、これらのうち、拡散を2回行なう方法では、拡散に必要な高温熱処理工程を2回行なうこととなる。そのため、半導体基板1が熱衝撃応力で割れてしまうという問題があった。
【0014】
また、電極下部においてのみ微細な凹凸構造を異ならせておくという方法では、拡散を1回で済ませられるものの、半導体基板1の中で局所的に表面凹凸のアスペクト比を高くしたり、頂点を高くしたり、または頂点間の距離を短くしたりすることで、半導体基板1の強度が低下してしまう。このため半導体基板1が割れてしまい、歩留りが低下してしまうという問題があった。また、受光面電極層4をスクリーン印刷法によって形成する場合、半導体基板1表面に作製した微細な凹凸構造が印刷時に掛かる圧力によって破損してしまうという事態がしばしば起こる。凹凸構造のアスペクト比は高ければ高いほど、また、凹凸構造の先端形状が鋭ければ鋭いほど破損し易い。凹凸構造がもし破損してしまうと受光面電極層4と半導体基板1とが直接接し易くなってしまうので、リーク電流が増大し、結果的に太陽電池素子の変換効率を低下させてしまう。
【0015】
そこで、本発明は、基板の一方の主面に受光面電極層と拡散層とを有する光電変換素子において、熱処理工程を追加することなく、また基板強度を低下させることもなく、リーク電流増大も抑えられる構造を有し、受光面電極層の下部に高濃度拡散層を形成した光電変換素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に基づく光電変換素子は、主表面を有する半導体基板と、上記主表面に配置された電極層と、上記主表面の一部に設けられた多孔質層とを備える。上記半導体基板のうち上記主表面の近傍には不純物が拡散された拡散層が形成されている。上記電極層と上記多孔質層とは接している。上記主表面を基準に見たときの上記多孔質層の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面は、上記主表面の平均高さによって規定される主表面基準面と同じ高さであるかまたはより高い位置にある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、拡散のための熱処理工程を2回行なわずに1回で済ませて作製することができる。したがって、半導体基板が熱衝撃応力で割れてしまう度合いを低減することができる。また基板強度を低下させることもなく、リーク電流増大も抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
まず初めに、本発明の各実施の形態に共通する事項を説明する。
本発明に係る光電変換素子は、第一の導電型の半導体基板と、この半導体基板の一方の面(「主表面」ともいう。)に形成された多孔質層と、高濃度拡散層と、拡散層と、受光面電極と、半導体基板の他方の面(「裏面」ともいう。)に形成された裏面電極とを備える。
【0019】
多孔質層の形成方法としては様々なものが知られているが、陽極化成法が好ましい。「陽極化成法」とは、半導体基板を陽極とし、白金電極などを対極として、フッ化水素を含む溶液中に浸漬した状態でこれらの電極間に電流を流すことで、陽極である半導体基板の表面で反応が起こり、半導体基板が多孔質状にエッチングされるという現象を利用した加工方法である。陽極化成法によって多孔質層が形成される。このことについては上記非特許文献1が参考となる。
【0020】
陽極化成法の利点としては、流れる電流、エッチング時間、エッチング液を調整することで多孔質層の形状および厚さを任意に変更することが可能であるという点が挙げられる。また、陽極化成法においては、ワックスなどのように、絶縁性が高くかつ化学エッチングに対して耐性の強いものをマスクの材料として利用することで、任意の場所にのみ多孔質層を形成することができる。
【0021】
ここで陽極化成法の詳細な方法を説明する。50%のフッ化水素酸水溶液を用意する。あらかじめ半導体基板の裏面側にアルミニウムなどを蒸着させてこれを「取出し電極」とする。半導体基板の主表面における多孔質層を得たい領域以外をワックスで覆って保護する。ここでは、半導体基板の全表面のうち、多孔質層を得たい領域のみが露出し、裏面も端面もすべて保護する。ただし、先ほど形成した取出し電極には配線を接続し、電流を流せるようにしておく。このような処理を施した半導体基板を陽極とし、別に用意された白金板を対極として先ほど用意したフッ化水素酸溶液の中に浸し、これらの2つの電極間に10〜300mAの電流を5〜60分間流す。こうすることで半導体基板の全表面のうちワックスで覆われなかった領域に多孔質層が得られる。その後、保護のためのワックスを除去し、取出し電極として設けたアルミニウムなどの蒸着膜を除去する。この方法であれば、任意の領域に多孔質層が形成された半導体基板を得ることができる。
【0022】
その他にも、多孔質層を得るための方法としては、たとえば触媒効果を利用した凹凸構造の形成方法が上記非特許文献2に記載されている。この技術は、NO3-イオンおよびNO2のシリコン酸化作用を利用するものである。この技術を用いることによっても、多孔質層を得ることは可能である。
【0023】
(実施の形態1)
(構成)
図1、図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1における光電変換素子について説明する。本実施の形態における光電変換素子100の断面図を図1に示す。光電変換素子100は、主表面1aを有する半導体基板1と、主表面1aに配置された電極層としての受光面電極層4と、主表面1aの一部に設けられた多孔質層10とを備える。半導体基板1のうち主表面1aの近傍には不純物が拡散された拡散層3が形成されている。受光面電極層4と多孔質層10とは接している。図1におけるZ1部を拡大したところを図2に示す。主表面1aを基準に見たときの多孔質層10の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面10bが、主表面1aの平均高さによって規定される主表面基準面1bと同じ高さであるかまたはより高い位置にある。
【0024】
ただし、「主表面1aの平均高さ」といった場合、主表面1aのうち多孔質層10が設けられている領域を除いた部分の平均高さを意味するものとする。図1に示した光電変換素子100の例では、図2に拡大して示すように主表面1aも多孔質層10の上面もそれぞれ凹凸を有しているが、これら2つの上面のうちいずれか一方または両方が平坦であってもよい。その場合、平均高さは上面の高さそのものと等しくなるので、各基準面は各上面と等しくなる。
【0025】
多孔質層基準面10bが、主表面基準面1bと同じ高さであるかまたはより高い位置にあるということは、言い換えれば、多孔質層基準面10bと主表面基準面1bとは、光源からの距離が同じであるか、あるいは、多孔質層基準面10bの方が主表面基準面1bよりも光源寄りにあるということである。
【0026】
本実施の形態における光電変換素子100は、さらに好ましいことに、主表面1aに拡散層3よりも高い濃度で不純物が拡散された高濃度拡散層8を有する。高濃度拡散層8は多孔質層10および半導体基板1の一部にわたる範囲に不純物が高濃度で拡散された結果として形成されたものである。受光面電極層4と高濃度拡散層8とは接している。図2に示すように高濃度拡散層8の存在範囲は多孔質層10の存在範囲を包含している。また、高濃度拡散層8のうち受光面電極層4と接している部分は多孔質層10を含んでいる。
【0027】
(作用・効果)
本実施の形態における光電変換素子100は、後述するような製造方法で得ることができるので、拡散のための熱処理工程を2回行なわずに1回で済ませることができる。したがって、半導体基板が熱衝撃応力で割れてしまう度合いを低減することができる。また、半導体基板の表面凹凸のアスペクト比を高くするわけでもないので、基板強度を低下させることもなく、リーク電流増大も抑えることができる。
【0028】
(実施の形態2)
(製造方法)
図3〜図13を参照して、本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法について説明する。この光電変換素子の製造方法は、図3に示すように、主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面に多孔質層を形成する工程S1と、前記多孔質層のうち、電極を形成すべき領域である第1の領域に前記多孔質層を残し、前記第1の領域以外の領域である第2の領域からは前記多孔質層を除去する工程S2と、一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程S3とを含む。
【0029】
(製造方法に関するより具体的な説明)
以下に、本実施の形態における光電変換素子の製造方法についてより具体的に説明する。
【0030】
本実施の形態における光電変換素子の製造方法として、図1、図2に示したように多孔質層基準面10bが主表面基準面1bより高い位置にある構造、すなわち多孔質層基準面10bの方が主表面基準面1bよりも光源寄りにある構造を得るための方法を説明する。
【0031】
まず、図4に示すように主表面1aを有する半導体基板1を用意し、基板洗浄工程を行なう。基板洗浄工程においては、この半導体基板1をアセトンなどに浸し、その後RCA(Radio Corporation of America)洗浄を行なう。
【0032】
次に硝酸とフッ化水素酸の混合水溶液中に半導体基板1を浸すことで表面のダメージ層を除去する。この時の処理時間は硝酸とフッ化水素酸の混合比によってエッチングレートが異なるため一概には言えないが、硝酸とフッ化水素酸の濃度比3:1の混合水溶液を用いれば、30〜60秒間行なうことで十分にダメージ層を除去することができる。
【0033】
その後、工程S1として、この半導体基板1の主表面1a側に陽極化成法を施すことで、図5に示すように多孔質層10を形成する。
【0034】
なお、後の工程で反射防止膜5(図1参照)として窒化シリコン膜を形成する際に、多孔質構造があると、窒化シリコン膜を多孔質層の奥まで真空プロセスで堆積させることは難しく、窒化シリコン膜による被覆が不十分となり、表面再結合低減のためのパッシベーション効果が得にくくなる。そのため、窒化シリコン膜の形成時点では受光部分に多孔質層10が残っていることは好ましくない。
【0035】
そこで、工程S2を行なう。すなわち、図6に示すように、多孔質層10上にガラスを含むペーストをマスク11として、受光面電極層の設置予定領域(以下「電極設置予定領域」という。)12のパターンに塗布する。これを水酸化ナトリウム水溶液中に浸すことで受光領域13にある多孔質層10を除去する。こうすることで、図7に示すように電極設置予定領域12のみに多孔質層10を残した構造を得ることができる。これが工程S2である。
【0036】
なお、工程S2におけるマスク11としては、上述したようにガラスを含むペーストを用いてもよいが、ワックスなどのように化学エッチングに対して耐性を有する材料を用いることもできる。また、マスク11を形成する領域は電極設置予定領域12と完全に等しくする以外に、より狭いパターンとしてもよい。そのようにしても多孔質層10と受光面電極層との電気的接続は一応達成できるからである。ただし、電極設置予定領域12と等しいパターンまたはより広いパターンに塗布した方が、受光面電極層4(図1参照)と多孔質層10とが接する面積を最大限に確保でき、その結果、接触抵抗が低減するので、好ましい。
【0037】
また、多孔質層10のエッチングには水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液を用いずに、硝酸とフッ化水素酸を含む混合水溶液などのような酸系の水溶液を用いてもよい。ただし、アルカリ水溶液を用いることでアルカリの異方性エッチング効果によって凹凸が得られ、なおかつ、多孔質構造が一部残った構造となるので、結果的には反射率の低い理想的な「微細な凹凸」を得ることができる。
【0038】
なお、アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液以外にも、水酸化カリウム水溶液や、アンモニア水溶液を用いても同様の効果が期待できる。
【0039】
このようにして得られた構造は、電極設置予定領域12には多孔質層10が形成されている一方、受光領域13においては微細な凹凸を有するので単位投影面積当たりの表面積が大きくなる。また、この多孔質層10の基準面である多孔質層基準面10bは、受光領域13の基準面である主表面基準面1bよりも高くなっている。
【0040】
次に、こうして得られた半導体基板1に対して工程S3すなわち拡散層形成工程を行なう。半導体基板1を、たとえばPOCl3などのリンを含む雰囲気中で700〜950℃で加熱することで、図8に示すように、半導体基板1の主表面1aに拡散層が形成される。このとき、半導体基板1の主表面1aにおいては領域によって多孔質層10の有無に起因して単位投影面積当たりの表面積が異なる領域があるので、その違いから拡散層は高濃度と低濃度とに区別して形成される。多孔質層10がある領域では、単位投影面積当たりの表面積が大きいので、高濃度拡散層8が形成される。多孔質層10がない領域では、低濃度拡散層である拡散層3が形成される。
【0041】
次に、半導体基板1の主表面1aに対してプラズマCVD法などを行なうことによって窒化シリコン膜を形成する。図9に示すようにこの窒化シリコン膜は反射防止膜5となる。反射防止膜5としては窒化シリコン膜の他に酸化シリコン膜や酸化チタン膜などを用いることもできる。
【0042】
次に、この半導体基板1を、硝酸とフッ化水素酸を含む混合水溶液中に浸すことで、主表面1a以外にあった余分な拡散層を除去する。こうして図10に示す構造が得られる。
【0043】
なお、主表面1aにのみ拡散層3を形成するためには、たとえば拡散層形成工程として、側面や裏面にチタンを含む溶液を塗布して保護し、主表面1aにはリンを含む溶液を塗布して、700〜950℃に加熱することとしてもよい。こうすることによっても主表面1aだけに拡散層3が形成された構造を得ることができる。その場合は所望領域だけを覆う拡散層3を形成した後に主表面1aを覆うように反射防止膜5としての窒化シリコン膜を形成する。
【0044】
続いて、アルミニウムを含むペーストを裏面側のほぼ全面に塗布し、加熱することで焼結させ、裏面電極層6を形成する。この加熱に際してはアルミニウムとシリコンとの共晶温度575℃以上に加熱することで、アルミニウムの一部が半導体基板1に拡散する。こうして、半導体基板1の裏面側には裏面電極層6が形成される。裏面電極層6の形成後、半導体基板1の裏面のうち裏面電極層6が形成されていない領域に、銀を含むペーストを塗布して乾燥することで裏面取出し電極層7を形成する。こうして、図11に示す構造が得られる。
【0045】
また、主表面1には多孔質層10によって規定される領域に形成された高濃度拡散層8のパターンとほぼ同様のパターンで銀を含むペーストを塗布し、乾燥させることによって受光面電極層4を形成する。こうして、図1に示した構造が得られる。なお、ここでいう「同様のパターン」とは、高濃度拡散層8と受光面電極層4とが厳密に同一のパターンを有することまでは必要ではなく、多少の位置ずれや各層の幅、長さなどの相違は許容されることを意味する。
【0046】
この例では、受光面電極層4の形成のために銀を含むペーストを塗布して乾燥させているが、この際に、銀を含むペースト中にはガラスフリットを含ませておき、乾燥させる温度をガラスフリットの融点以上とするとよい。こうすることで、図12に示すように塗布されたペースト層15の中でガラスが溶け、高温で溶けたガラスが窒化シリコンからなる反射防止膜5を突き破り、図13に示すように主表面1aに形成された多孔質層10に達する。その結果、多孔質層10と受光面電極層4とが互いに接した構造を得ることができる。このようにして電極層を形成する方法はファイヤスルー法と呼ばれる。ファイヤスルー法によれば、反射防止膜5としての窒化シリコン膜のパターニングの工程を省くことができる。したがって、ファイヤスルー法は、低コストな多結晶シリコン太陽電池素子の製造現場などで用いられている。
【0047】
ファイヤスルー法を採用しない場合、受光面電極層4の形成は以下のように行なう。まず反射防止膜5としての窒化シリコン膜の一部をレジストなどで保護する。すなわち、高濃度拡散層8と同様のパターンだけを露出させるようにレジストなどで保護する。その状態で窒化シリコン膜が露出する部分の窒化シリコン膜を除去する。さらにレジストを除去する。その後、蒸着法によって受光面電極層4を形成する。その場合、受光面電極層4は、窒化シリコン膜を除去した部分に選択的に形成される。このようにファイヤスルー法を採用しない場合でも上と同様の構造が得られるが、レジストによるパターニングが必要となるので、工程数の増加や位置合わせの問題によってコスト増加や生産効率の低下を招く。そのため、低コスト、高生産効率が求められる量産プロセスでは好まれない。
【0048】
上述のように各工程を行ない、図13に示した構造に達することによって、図1、図2に示した光電変換素子100を得ることができる。
【0049】
なお、拡散層形成工程の後に電極を形成するために所定領域に塗布するものは、銀を含むペーストに限らず他の種類の金属を含むペーストであってもよい。もっとも銀は抵抗値が低いので銀を含むペーストを用いれば、電極層を低抵抗とすることができ、好ましい。
【0050】
(作用・効果)
本実施の形態における光電変換素子の製造方法によれば、得られる光電変換素子においては、基板の一方の主面側に高濃度拡散層8とより低濃度の拡散層3との2種類が存在するが、これらの2種類の拡散層の形成を一度の熱拡散工程で済ませている。そのため、半導体基板1を高温にさらす回数を1回に抑えることができ、基板強度の低下を回避することができる。さらに受光面電極層の下部に微細な凹凸を設けるわけでもないので、そのような微細な凹凸に起因する破損によるリーク電流増大も抑えることができる。
【0051】
(変形例)
本実施の形態における光電変換素子の製造方法の変形例として、多孔質層基準面10bが主表面基準面1bと同じ高さにある構造を得るための方法を説明する。
【0052】
変形例である光電変換素子の製造方法は、主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面のうちに電極を形成すべき領域である第1の領域に多孔質層を形成する工程と、一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第1の領域以外の領域である前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程とを含む。
【0053】
図4に示す半導体基板1からアセトンを用いて油分を除去し、さらにRCA洗浄を行なう。その後、水酸化ナトリウムとイソプロピルアルコールを含む水溶液を80〜90℃に加熱したものに半導体基板1を浸す。こうすることで、ダメージ層が除去されるとともに、図14に示すように半導体基板1の主表面1aに微細な凹凸構造が形成される。なお、イソプロピルアルコールを含まずに水酸化ナトリウムのみを含む水溶液でも同様な構造は得られるが、イソプロピルアルコールを含む溶液を用いた方がより反射率を抑えた凹凸構造を形成することができる。このようにして得られた半導体基板1において、図15に示すように、主表面1aのうち電極設置予定領域12以外の領域および半導体基板1の主表面1a以外の面すべてをワックスなどの保護膜14で保護する。この状態の半導体基板1の主表面1aに対して、工程S1として、陽極化成法で多孔質シリコン層を形成する。
【0054】
その後、保護膜14を全て除去する。こうすることによって、図16に示すように、電極設置予定領域12にのみ多孔質層10が形成された構造となる。主表面1aの電極設置予定領域12は多孔質層10を有することとなるので、受光領域13と比較して単位投影面積当たりの表面積がより大きくなる。なおかつ、多孔質層基準面10bは、受光領域13の基準面である主表面基準面1bと同じ高さになっている。
【0055】
主表面1aに対して実施の形態1で説明したような拡散層形成工程S3を行なう。その結果、図17に示すように拡散層3が形成される。このとき多孔質層10の部分は高濃度拡散層8となる。次に、プラズマCVD法などを行なうことによって図18に示すように窒化シリコン膜からなる反射防止膜5を形成する。さらに、実施の形態2で説明したように、裏面電極層6および裏面取出し電極層7を形成し、図19に示す構造とする。さらに、実施の形態2で説明したように、受光面電極層4を形成し、図20に示す構造とする。図20におけるZ2部を拡大したところを図21に示す。
【0056】
このようにすることによって、図1に示した光電変換素子の変形例として、多孔質層基準面10bが主表面基準面1bと同じ高さにある構造を得ることができる。
【0057】
上述した各実施の形態においては、「主表面」が受光面であって「電極層」が受光面電極層である例を前提に説明したが、本発明の適用対象は受光面の電極層に限らない。光電変換素子が有する両面のうち受光面とは反対側の表面、すなわち、いわゆる「裏面」に対しても本発明は適用することができる。その場合、裏面を「主表面」とみなし、裏面に形成される電極層について、上述した内容をあてはめることとなる。
【0058】
(実験)
(シート抵抗の測定)
本発明による接触抵抗低減の効果を確認するために、発明者らは、まず、多孔質層を設けることがシート抵抗の低減をもたらすか否かを確認する実験を行なった。すなわち、発明者らは、図22に示す構造の試料を作製してシート抵抗を測定する実験を行なった。以下に詳しく説明する。
【0059】
実験のために、何枚かの半導体基板1を用意する。これらの半導体基板1を酸溶液やアルカリ溶液で処理して、表面のダメージ層を除去する。続いて、半導体基板1の表面上に多孔質層10を形成する。多孔質層10の形成方法としては、本実験では陽極化成法を用いた。すなわち、半導体基板1の裏面側にアルミニウムを蒸着し、主表面以外の部分をワックスで保護する。これを陽極とし、白金電極を対極としてフッ化水素酸水溶液中で10mAの電流を3分間流す。こうすることで、陽極化成法が行なわれる。その結果、半導体基板1の主表面に多孔質層10が形成された。多孔質層10の形成後、アセトンによってワックスを除去した。塩酸と過酸化水素水を含む水溶液により、裏面に形成されていたアルミニウム膜を除去した。
【0060】
次に、水酸化ナトリウム水溶液を用いて多孔質層10をエッチングした。エッチングする時間の長さを試料ごとにそれぞれ変更することによって、多孔質層10の残存厚みを5通りに変えた試料1〜5を用意した。これらの半導体基板1に対して、同一拡散条件下で拡散後のシート抵抗がどのように変化するかを調べることとした。
【0061】
拡散の方法として具体的には、POCl3などのリンを含む拡散ソースを用いて、850〜900℃で熱拡散を施した。こうして半導体基板1の各々に図22に示すように拡散層3を形成した。シート抵抗の測定には四探針法を用いた。各試料における測定結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から、多孔質層10のエッチング時間が長くなるにつれてシート抵抗が増大していることがわかる。すなわち、残存する多孔質層10の厚みに依存してシート抵抗が変化しており、多孔質層10の残存厚みが厚ければ厚いほどシート抵抗は低くなっている。このことから、多孔質層10がシート抵抗の低減に貢献していることがわかる。
【0064】
これは、多孔質層10があることによって、その部分では拡散層3が不純物濃度の高い層すなわち高濃度拡散層として形成され、高濃度拡散層の存在によってシート抵抗が低くなっているものと考えられる。
【0065】
(接触抵抗の測定)
その後、図22に示した試料の主表面側の拡散層3の上に、窒化シリコンの反射防止膜5をCVD法により形成した。主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3を化学エッチングを用いて除去した。この拡散層除去の工程は接合を分離するために行なうものである。
【0066】
次に、主表面側の拡散層3と直接接するように、スクリーン印刷によって銀ペーストを塗布し、第一の電極101および第二の電極102を形成した。こうして、図23に示す接触抵抗測定用試料を得た。第一の電極101および第二の電極102はいずれも、電極幅100〜200μm、電極長さ0.6cmのパターンとなるよう形成した。このようにして得られた接触抵抗測定用試料を用いて、実際に接触抵抗を低減できるか否かを確認した。
【0067】
ここで接触抵抗の測定方法について簡単に述べる。この実験では、2つの電極間の抵抗を測定するTLM法に準ずる測定方法を用いた。すなわち、図23に示すような構造において電極間距離Dを1〜5mmまで変化させた試料をそれぞれ用意し、第一の電極101と第二の電極102との間の抵抗を測定する。図23に示す構造は、図24に示すように拡散層の抵抗201の両端に接触抵抗200をそれぞれ接続した等価回路にあてはめて考えることができる。電極間距離Dが異なるものをそれぞれ測定して比較すれば、図24に示す回路における接触抵抗200と、拡散層の抵抗201とのうち、拡散層の抵抗201のみが電極間距離Dに比例して変化するため、測定された抵抗値から接触抵抗200の値を算出することができる。表1に示す試料1〜5に対して、この方法を用いて、図24に示す等価回路における接触抵抗200の値を調べた。
【0068】
(比較試料)
ここで、試料1〜5との比較に用いる比較試料1について説明する。比較試料1を製造するために、半導体基板1を洗浄後、表面が鏡面状となるように化学エッチングを用いて加工し、その後拡散層3を形成した。拡散ソースとしては試料1〜5に対して用いたのと同一のものを用い、拡散時間も試料1〜5を同一として熱拡散を施した。その結果、形成された拡散層のシート抵抗は50Ω/sqとなった。さらに試料1〜5と同様に、反射防止膜5をCVD法により形成し、主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3を化学エッチングを用いて除去した。最後に半導体基板1の主表面側の拡散層3と直接接するように、スクリーン印刷によって銀ペーストを塗布し、第一の電極101および第二の電極102を形成した。すなわち、比較試料1は、多孔質層を全く形成していないという点で試料1〜5とは大きく異なる。
【0069】
図25に、試料1〜5および比較試料1における接触抵抗200の測定結果を示す。図25では、横軸に拡散層のシート抵抗の値を、縦軸に接触抵抗200の値をとり、各点をプロットしている。図25のグラフでは、半導体基板1の表面が鏡面状であっても多孔質層状であってもいずれも同様にシート抵抗と比例して接触抵抗の値が変化している。このことから、表面状態に関係なく、シート抵抗と接触抵抗とは比例することがわかる。
【0070】
以上から、多孔質層を利用することで不純物濃度の高い拡散層を形成することができ、金属電極との接触抵抗も低減できることが確認された。
【0071】
(実施例1)
実施の形態1で示した図1の構造の光電変換素子を実際に作製する様子を「実施例1」として、より具体的に示す。図22〜図25を参照した上記実験によって、多孔質層に不純物拡散を行なうことによって接触抵抗が低減できることが分かったので、これから示す実施例1では、一部に本発明の構造を有する光電変換素子すなわち太陽電池素子の製造方法を説明する。説明に当たって、実施の形態2で参照した図4〜図10を再び参照する。
【0072】
まず図4に示す半導体基板1を洗浄後、酸溶液およびアルカリ溶液で処理して表面のダメージ層を除去する。続いて半導体基板1の表面上に陽極化成法を用いて図5に示すように多孔質層10を形成する。多孔質層10の厚みは厚すぎると、受光面電極層4を印刷、焼成して形成した際に十分な接着強度が得られない。多孔質層10の厚みを0.2μm以下に設定することで接着強度を十分に確保できる。本実施例では、多孔質層10の厚みは0.15μm程度に設定した。
【0073】
その後、この多孔質層10上にマスクを施し、受光面電極層4と接する予定の領域以外の多孔質層10をエッチング除去する工程を行なう。ここでいうマスクとしては、耐アルカリ性のペーストとしてガラスを主成分としたペーストを用い、印刷法によって受光面電極層4の設置予定形状と同様の形状となるように印刷する。すなわち図6に示すようにマスク11を形成する。この工程におけるエッチングとしては水酸化ナトリウムを用いたウェットエッチングを行なう。すなわち、水酸化ナトリウム水溶液中に浸して多孔質層10の一部をエッチングする。その結果、図7に示す構造となる。
【0074】
この後、受光面電極層4の設置予定部分に印刷されたマスクをフッ化水素酸水溶液を用いて除去する。こうすることで、所望領域すなわち受光面電極層4と接する予定の領域に多孔質層10を残した半導体基板1を得ることができる。また、主表面の受光領域は光の反射を抑えるための凹凸構造が必須であるが、水酸化ナトリウムによる多孔質層10のエッチング時間を調整することで、アルカリエッチングによる凹凸構造と、多孔質層10の一部が残ることによって存在する微細な凹凸構造とが混在した複合的な凹凸構造が形成される。
【0075】
この半導体基板1に対して、POCl3を含む拡散ソースを用いて、850〜900℃で熱拡散を施す。その結果、図8に示すように拡散層3が形成される。ただし、半導体基板1の表面の一部に残された多孔質層10の部分は、凹凸構造となっていることにより、他の部分よりも単位投影面積当たりの表面積が大きいため、他の領域よりも高濃度に拡散され、高濃度拡散層8となる。その後、図9に示すように、主表面側の拡散層3、多孔質層10、高濃度拡散層8の上に、窒化シリコンの反射防止膜5をCVD法により形成する。次に、主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3を化学エッチングを用いて除去する。こうして図10に示す構造となる。この拡散層3除去の工程は接合を分離するために行なうものである。
【0076】
その後、主表面の多孔質層10上に銀などからなる電極材料を塗布するとともに、裏面にはアルミニウムを主成分とする電極材料と、銀を主成分とする電極材料とを塗布する。この状態で焼き付けることにより、受光面電極層4、裏面電極層6、裏面取出し電極層7が形成され、図1に示す光電変換素子100すなわち太陽電池素子が得られる。
【0077】
ここで示した実施例1は、あくまで製造方法の一例であり、本発明に係る光電変換素子の製造方法はこの実施例1に限定されるものではない。たとえば多孔質層10を形成する工程やマスキングをする工程の実施順序はここに述べたものに限らない。多孔質層10の製造方法自体もあくまで一例であってここに述べたものに限らない。
【0078】
(実施例2)
以下「実施例2」として、実施の形態2において変形例として説明した製造方法により光電変換素子を作製する様子を説明する。説明に当たって、実施の形態2の変形例で参照した図14〜図21を再び参照する。
【0079】
まず、半導体基板1を洗浄し、その後、酸溶液およびアルカリ溶液で処理して表面のダメージ層を除去する。続いて半導体基板1の表面を70〜90℃に加熱した水酸化ナトリウムを含む水溶液中に浸す。こうすることで、図14に示すように、表面での光の反射を抑える凹凸構造を得る。次に、図15に示すように、主表面の受光面電極層4の設置予定領域以外の受光領域13にワックスを塗布してマスキングを行なう。この半導体基板1に対して陽極化成法を行なうことで、半導体基板1の受光面電極層4の設置予定領域の表面に多孔質層10を得る。図16に示すように、ワックスによるマスクを除去する。この半導体基板1に対して、POCl3を含む拡散ソースを用いて、850〜900℃で熱拡散を施すと、図17に示すように、多孔質層10が形成された部分は高濃度拡散層8が、それ以外の部分は低濃度の拡散層3が形成される。
【0080】
次に、主表面の拡散層3、多孔質層10、高濃度拡散層8を覆うように窒化シリコンからなる反射防止膜5をCVD法により形成する。こうして図18に示す構造となる。さらに、図19に示すように、主表面以外の側面や裏面の余分な拡散層3や多孔質層10、高濃度拡散層8を化学エッチングを用いて除去する。これによって接合を分離し、短絡によるリークを防ぐ。
【0081】
その後、主表面の多孔質層10上に銀などからなる電極材料を塗布するとともに、裏面にはアルミニウムを主成分とする電極材料と、銀を主成分とする電極材料を塗布する。この状態で焼き付けることにより、図20に示すように受光面電極層4、裏面電極層6、裏面取出し電極層7が形成され、実施の形態2の変形例として示した光電変換素子が得られる。すなわち、図21に示したように多孔質層基準面10bが主表面基準面1bと同じ高さにある構造を有する太陽電池素子を得ることができる。
【0082】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に基づく実施の形態1における光電変換素子の断面図である。
【図2】図1におけるZ1部の拡大図である。
【図3】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法のフローチャートである。
【図4】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第1の工程の説明図である。
【図5】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第2の工程の説明図である。
【図6】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第3の工程の説明図である。
【図7】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第4の工程の説明図である。
【図8】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第5の工程の説明図である。
【図9】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第6の工程の説明図である。
【図10】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第7の工程の説明図である。
【図11】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の第8の工程の説明図である。
【図12】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の中で見られる現象の第1の説明図である。
【図13】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の中で見られる現象の第2の説明図である。
【図14】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第1の工程の説明図である。
【図15】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第2の工程の説明図である。
【図16】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第3の工程の説明図である。
【図17】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第4の工程の説明図である。
【図18】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第5の工程の説明図である。
【図19】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第6の工程の説明図である。
【図20】本発明に基づく実施の形態2における光電変換素子の製造方法の変形例の第7の工程の説明図である。
【図21】図20におけるZ2部の拡大図である。
【図22】シート抵抗を測定するための試料の断面図である。
【図23】接触抵抗測定用試料の断面図である。
【図24】等価回路の回路図である。
【図25】接触抵抗の測定結果のグラフである。
【図26】従来技術に基づく第1の光電変換素子の断面図である。
【図27】従来技術に基づく第2の光電変換素子の断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 半導体基板、1a 主表面、1b 主表面基準面、2 微細な凹凸、3 拡散層、4 受光面電極層、5 反射防止膜、6 裏面電極層、7 裏面取出し電極層、8 高濃度拡散層、10 多孔質層、10b 多孔質層基準面、11 (ガラスを含むペーストによる)マスク、12 電極設置予定領域、13 受光領域、14 保護層、15 ペースト層、100 光電変換素子、101 第一の電極、102 第二の電極、200 接触抵抗、201 拡散層の抵抗。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面を有する半導体基板と、
前記主表面に配置された電極層と、
前記主表面の一部に設けられた多孔質層とを備え、
前記半導体基板のうち前記主表面の近傍には不純物が拡散された拡散層が形成されており、
前記電極層と前記多孔質層とが接しており、
前記主表面を基準に見たときの前記多孔質層の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面が、前記主表面の平均高さによって規定される主表面基準面と同じ高さであるかまたはより高い位置にある、光電変換素子。
【請求項2】
前記主表面に前記拡散層よりも高い濃度で不純物が拡散された高濃度拡散層を有し、前記電極層と前記高濃度拡散層とは接しており、前記高濃度拡散層のうち前記電極層と接している部分は前記多孔質層を含んでいる、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面に多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層のうち、電極を形成すべき領域である第1の領域に前記多孔質層を残し、前記第1の領域以外の領域である第2の領域からは前記多孔質層を除去する工程と、
一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程とを含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面のうちに電極を形成すべき領域である第1の領域に多孔質層を形成する工程と、
一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第1の領域以外の領域である前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程とを含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質層を形成する工程は、前記主表面に対して陽極化成法を行なうものである、請求項3または4に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記拡散層形成工程の後に、前記第1の領域に、金属を含むペーストを塗布することによって電極層を形成する工程を含む、請求項3から5のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項1】
主表面を有する半導体基板と、
前記主表面に配置された電極層と、
前記主表面の一部に設けられた多孔質層とを備え、
前記半導体基板のうち前記主表面の近傍には不純物が拡散された拡散層が形成されており、
前記電極層と前記多孔質層とが接しており、
前記主表面を基準に見たときの前記多孔質層の上面の平均高さによって規定される多孔質層基準面が、前記主表面の平均高さによって規定される主表面基準面と同じ高さであるかまたはより高い位置にある、光電変換素子。
【請求項2】
前記主表面に前記拡散層よりも高い濃度で不純物が拡散された高濃度拡散層を有し、前記電極層と前記高濃度拡散層とは接しており、前記高濃度拡散層のうち前記電極層と接している部分は前記多孔質層を含んでいる、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面に多孔質層を形成する工程と、
前記多孔質層のうち、電極を形成すべき領域である第1の領域に前記多孔質層を残し、前記第1の領域以外の領域である第2の領域からは前記多孔質層を除去する工程と、
一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程とを含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
主表面を有する半導体基板に対して、前記主表面のうちに電極を形成すべき領域である第1の領域に多孔質層を形成する工程と、
一括して行なわれる不純物拡散によって、前記第1の領域に高濃度拡散層を形成すると同時に前記第1の領域以外の領域である前記第2の領域に前記高濃度拡散層よりも不純物濃度が低い低濃度拡散層を形成する拡散層形成工程とを含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質層を形成する工程は、前記主表面に対して陽極化成法を行なうものである、請求項3または4に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記拡散層形成工程の後に、前記第1の領域に、金属を含むペーストを塗布することによって電極層を形成する工程を含む、請求項3から5のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
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【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2008−205398(P2008−205398A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42740(P2007−42740)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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