説明

光電変換素子

【課題】凹凸形状(テクスチャー構造)を高密度かつ緻密かつ均質にすることにより、光の散乱(光電変換素子内における光の閉じ込め効果)に優れた光電変換効率が高い、
可撓性を有するフィルムを基材として用いた光電変換素子を提供すること。
【解決手段】少なくとも、フレキシブル透明基材、透明電極、半導体層が光入射側からこの順に積層されてなる光電変換素子において、
前記フレキシブル透明基材の透明電極側にモスアイ構造を形成すること。
前記フレキシブル透明基材の材料としてシリコン樹脂を用いること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換素子の基材フィルムに関し、更に詳しくは、太陽光を有効利用し光電変換効率を向上させる構造を有する基材フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの光電変換素子はガラス上に作製されている。
しかしながらガラス上に作製すると重く設置場所が限られてしまう。
フィルム上で作製できれば軽量化が可能で、さらに曲面上にも設置が可能になり光電変換素子の設置可能範囲が拡大し光電変換素子の普及に貢献できる。
また、フィルムはロールトゥロールの生産工程が可能で量産できコストを抑えられるという利点がある。
【0003】
光電変換素子の性能向上のためには光反射による光損失、電荷の再結合による光損失、エネルギーの不完全利用による光損失、抵抗による電気損失などの損失を少なくする必要がある。
【0004】
光電変換素子の光電変換層表面は屈折率が大きいので光反射による光損失が大きくなることが懸念されるため、光電変換層表面に光反射防止構造としてテクスチャーを形成することが行われている。
【0005】
反射防止構造を形成する方法として、シリコンウエハーから太陽電池セルを作製するタイプでは、シリコンウエハーを水酸化カリウムなどのアルカリ溶液に浸漬し結晶方位によるエッチング速度異方性を利用しテクスチャーを形成する方法が開示されている。(特許文献1)
【0006】
反射防止構造を形成する方法として、基板上に透明導電膜を形成して行くタイプでは、透明導電膜に酢酸や塩酸などの酸性または水酸化ナトリウムなどのアルカリ性溶液でエッチングすることによりテクスチャーを形成する方法が開示されている。(特許文献2)
【0007】
反射防止構造を形成する方法として、基板上に透明導電膜を形成して行くタイプでは、スパッタやCVDでの透明導電膜作製時にホウ素を導入することでテクスチャーを形成する方法が開示されている。(特許文献3)
【0008】
【特許文献1】特開2004−281758号公報
【特許文献2】特開2005−72332号公報
【特許文献3】特開2000−252504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の透明電極及び裏面電極表面上の凹凸形状(テクスチャー構造)は、規則性がなく、形状がランダムに形成されていた。
そのため、電極表面上のテクスチャー構造の密度にばらつきを生じており、光の散乱(光電変換素子内における光の閉じ込め効果)が十分ではなく、光電変換効率が不十分だった。
【0010】
本発明の課題は、凹凸形状(テクスチャー構造)を高密度かつ緻密かつ均質にすることにより、光の散乱(光電変換素子内における光の閉じ込め効果)に優れた光電変換効率が高い、
可撓性を有するフィルムを基材として用いた光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、少なくとも、フレキシブル透明基材、透明電極、半導体層が光入射側からこの順に積層されてなる光電変換素子において、
前記フレキシブル透明基材の透明電極側にモスアイ構造が形成されていることを特徴とする光電変換素子である。
【0012】
このような構成にすることで、透明電極表面に高密度かつ緻密かつ均質な凹凸形状(テクスチャー構造)を形成することができ、入射光を多方向へ散乱させることが可能となり、光電変換効率を向上することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記フレキシブル透明基材がシリコン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子である。
【0014】
前記フレキシブル透明基材として耐熱性を有するシリコン樹脂を用いることにより、高温プロセス(光電変換層の作製プロセス)に耐久することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記フレキシブル透明基材と前記透明電極の間にガスバリア層を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光電変換素子である。
【0016】
このようにすることで、透明電極を水蒸気から保護することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記モスアイ構造を有する表面が、凸部が200〜2000Åの平均直径(ピッチ)を有した概略円柱状であり、アスペクト比(凸部の高さ/凸部の幅)は0.4〜0.5の関係を満たしていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0018】
このようにすることで、効率良く入射光を多方向へ散乱させることが可能となり、光電変換素子の出力を向上することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、少なくとも、フレキシブル透明基材、透明電極、半導体層が光入射側からこの順に積層されてなる光電変換素子において、
前記フレキシブル透明基材上に透明樹脂でモスアイ構造を形成したことを特徴とする光電変換素子である。
【0020】
このような構成にすることで、透明電極表面に高密度かつ緻密かつ均質な凹凸形状(テクスチャー構造)を形成することができ、入射光を多方向へ散乱させることが可能となり、光電変換効率を向上することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記透明樹脂がシリコン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子である。
【0022】
前記透明樹脂として耐熱性を有するシリコン樹脂を用いることにより、高温プロセス(光電変換層の作製プロセス)に耐久することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、前記透明樹脂と前記透明電極の間にガスバリア層を形成したことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光電変換素子である。
【0024】
このようにすることで、透明電極を水蒸気から保護することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明は、前記モスアイ構造を有する表面が、凸部が200〜2000Åの平均直径(ピッチ)を有した概略円柱状であり、アスペクト比(凸部の高さ/凸部の幅)は0.4〜0.5の関係を満たしていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の光電変換素子である。
【0026】
このようにすることで、効率良く入射光を多方向へ散乱させることが可能となり、光電変換素子の出力を向上することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光の散乱(光電変換素子内における光の閉じ込め効果)に優れた光電変換効率が高い、可撓性を有するフィルムを基材として用いた光電変換素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1にモスアイ反射防止パターンを形成した光電変換素子構造を示す。
図1は一例であり、基材1の光入射側にも反射防止パターンを形成してもよい。
また、入射光を散乱させるため透明基材内に散乱体を導入しても良い。
【0029】
フレキシブル透明基材1の材料としては、紫外領域から赤外領域まで幅広く透明性があり、可撓性を有し、透明導電膜及び光電変換層の形成時の熱に対する耐熱性(およそ250℃)を有し、屋外で使用するための耐候性有するシリコン樹脂を用いることができる。
【0030】
シリコン樹脂は、例えば、光電変換層3がアモルファスシリコンの場合、アモルファスシリコンの吸収波長である300〜750nmの波長対して少なくとも90%以上の透過率を有している。
【0031】
モスアイ構造の凸部のピッチは光電変換層3の吸収波長の300nmよりも少なくとも小さい必要があり、更に、入射光の入射角が変化するためそれより更に小さいことが必要である。
【0032】
膜質の良い透明電極形成や光電変換層形成のため、モスアイ構造のアスペクト比は小さい方が適しているがモスアイ構造を付加する効果を得るためにはある程度のアスペクト比が必要である。
モスアイ構造のアスペクト比(凸部の高さ/凸部の幅)は0.4〜0.5が好ましい。
【0033】
モスアイ構造形成方法としては、基板上にレジストを塗布し電子線やUVにより凹凸パターンを形成し、該凹凸パターン上に電鋳によりNiを積層し、原版を作製し、該原版の凹凸形成面上に、UV硬化性の樹脂を流し込みUVを照射し剥がすことでモスアイ構造を形成する方法を用いることができる。
【0034】
透明電極2の材料としてはZnO、SnOおよびITOを用いる事ができる。
光電変換層としてアモルファスシリコンを、水素プラズマ法を用いて成膜する場合、透明電極2の材料としては耐水素プラズマ性を有するZnOやSnOを用いる事が望ましい。
【0035】
光電変換層3の材料としては、シリコン系材料(アモルファス、微結晶、多結晶)やCIGS系材料、2−6族系材料を用いることができ、フレキシブル透明基材1の耐熱性を考えるとシリコン系が好ましい。
【0036】
光電変換層3の構造としては、pin構造が好ましく、アモルファスと微結晶等のタンデム構造でもよい。
【0037】
裏面電極4の材料としては、Ag、Alなどの金属やZnOを用いることができる。
【0038】
裏面電極4の構造としては、ZnOをテクスチャー化して形成し、その上に金属を積層することにより、光散乱(光閉じ込め)効果を加えてもよい。
【実施例】
【0039】
まず、電子線描画により形成したレジスト版(凹凸ピッチ200nm、高さ100nm)を作製し、その後、レジスト上に電鋳法を用いてNiを積層したNi原版を作製し、その原版にUV硬化性シリコン樹脂を流し込み、該UV硬化性シリコン樹脂にUVを照射し硬化させることにより、凸部が1000Åの平均直径(ピッチ)を有した概略円柱状であり、アスペクト比(凸部の高さ/凸部の幅)が0.45であるモスアイ構造を持つ150μm厚のシリコン樹脂シートを形成した。
【0040】
次に、モスアイ構造上にガスバリア層(酸化珪素層(膜厚30nm))を、RFマグネトロンスパッタ法を用いて形成した。
【0041】
スパッタ条件を以下に示す。
ターゲット;Si
スパッタガス:O;Ar=1:9
スパッタガス流量;50sccm
圧力;0.5Pa
投入電力;300W/cm
基板温度;100℃
【0042】
次に、ガスバリア層上に透明電極としてZnO層(膜厚200nm)を、RFマグネトロンスパッタ法を用いて形成した。
【0043】
スパッタ条件を以下に示す。
ターゲット;ZnO・Ga2O3(Ga2O3 5.6wt%)
スパッタガス:アルゴン
ガス圧力;0.3Pa
投入電力;300W/cm
基板温度;100℃
【0044】
次に、透明電極上に、光電変換層(a−Si)を、PECVD法を用いて形成した。
【0045】
PECVD条件を以下に示す。
(p層(20nm))
原料ガスおよび原料ガス流量;SiH:7sccm、H:50sccm、B:50sccm
圧力;50Pa
電力;8W
基板温度;200℃
(i層(500nm))
原料ガスおよび原料ガス流量;SiH:5sccm、H:50sccm
圧力;50Pa
電力;20W
基板温度;180℃
(n層(40nm))
原料ガスおよび原料ガス流量;SiH:3sccm、H:48sccm、PH:2sccm
圧力;50Pa
電力;5W
基板温度;200℃
【0046】
最後に、光電変換層上に裏面電極(Ag)を、EB蒸着法を用いて形成することにより光電変換素子を得た。
【0047】
EB蒸着条件を以下に示す。
ガス圧力;50Pa
投入電力;300W/cm
基板温度;100℃
【0048】
次に、ソーラーシュミレーターを用い、太陽電池規格AM1.5(100mW/cm)照射条件下における電流−電圧特性を評価した。
【0049】
開放電圧は0.5V、短絡電流は24mA/cm、形状因子は0.75、変換効率は9.0%であった。
【0050】
<比較例1>
微細凹凸パターンを設けなかったこと以外は実施例と同様にして光電変換素子を作製し、実施例と同様に電池特性を測定した。
【0051】
開放電圧は0.52V、短絡電流は18mA/cm、形状因子は0.75、変換効率は7.2%であった。
【0052】
比較例の光電変換素子よりも実施例の光電変換素子の方が、光電電流が大きく、変換効率が高い事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の、太陽電池およびその製造方法は、電気自動車、携帯電話、自動販売機、宇宙船用電源等に用いる太陽電池に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の太陽電池の断面の一部を示す説明図である。
【図2】本発明の太陽電池の断面の一部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 フレキシブル透明基材
2 透明電極
3 光電変換層
4 裏面電極
5 透明樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、フレキシブル透明基材、透明電極、半導体層が光入射側からこの順に積層されてなる光電変換素子において、
前記フレキシブル透明基材の透明電極側にモスアイ構造が形成されていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記フレキシブル透明基材がシリコン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記フレキシブル透明基材と前記透明電極の間にガスバリア層を形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記モスアイ構造を有する表面が、凸部が200〜2000Åの平均直径(ピッチ)を有した概略円柱状であり、アスペクト比(凸部の高さ/凸部の幅)は0.4〜0.5の関係を満たしていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
少なくとも、フレキシブル透明基材、透明電極、半導体層が光入射側からこの順に積層されてなる光電変換素子において、
前記フレキシブル透明基材上に透明樹脂でモスアイ構造を形成したことを特徴とする光電変換素子。
【請求項6】
前記透明樹脂がシリコン樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記透明樹脂と前記透明電極の間にガスバリア層を形成したことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記モスアイ構造を有する表面が、凸部が200〜2000Åの平均直径(ピッチ)を有した概略円柱状であり、アスペクト比(凸部の高さ/凸部の幅)は0.4〜0.5の関係を満たしていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−34687(P2008−34687A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207770(P2006−207770)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】