説明

光電変換素子

【課題】光電変換効率の向上と短絡発生防止による素子の安定性維持を両立することが可能な光電変換素子を提供する。
【解決手段】少なくとも、基体、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第2電極を有し、光電変換層にイミダゾロン構造を有する化合物を担持させた半導体材料を含有させ、正孔輸送層に固体の芳香族アミン化合物を含有させた光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光のエネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有する光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池に代表される光電変換素子は、光のエネルギーを電気エネルギーに変換して各種機器に電力を供給する素子で、環境にやさしく無限に存在する太陽光エネルギーを用いることからシリコンを用いた太陽電池等が従来より検討されてきた。シリコンを用いた太陽電池には、人工衛星等に用いられる単結晶シリコン型の太陽電池の他に、多結晶シリコンを用いたものやアモルファスシリコンを用いた太陽電池が産業用や家庭用として普及しつつある。また、携帯電話や携帯端末機等の各種携帯用情報機器の普及に伴い、これらコンパクトな装置にスムーズにセットして安定した電力供給が行える様に、可撓性を有する太陽電池も登場している。これらシリコンを用いた太陽電池は、いずれも、大型で高価な製造装備が必要な上に原料価格も高く製造コストに課題を有し、また、製造時のエネルギー消費量や光電変換効率にも課題を有しており、必ずしも省エネ対応で環境にやさしい電源とはいえなかった。
【0003】
この様な背景から、シリコンを用いた太陽電池に代わる新しいタイプの光電変換素子の開発が検討される様になり、その中でも色素増感型太陽電池と呼ばれるタイプの光電変換素子の開発が注目される様になった(たとえば、非特許文献1参照)。前記非特許文献1に開示された光電変換素子は、ルテニウム錯体で分光増感させた酸化チタンを用いたもので、半導体材料である酸化チタンを高純度に精製する手間をかけずに可視光領域での光電変換を可能にした。しかしながら、錯体化合物を構成するルテニウム原子は貴金属原子の1つであり、ルテニウム錯体は安定供給の側面で不安を有することや、経時での安定性にも懸念があるため、量産の見地から不向きであると考えられた。
【0004】
一方、合成による安定供給が可能な有機色素を用いた光電変換素子の開発も検討されていたが、有機色素を用いた光電変換素子では実用可能なレベルの光電変換効率を確保することが極めて困難であるという課題を有していた。それでも、高い光電変換効率を発現しそうな構造の有機色素を見出し、これを用いて光電変換素子を開発することが検討されてきた。その結果、たとえば、ローダニン骨格を有するアミン化合物を用いた光電変換素子では、従来の有機色素系のものでは得られなかったレベルの光電変換効率を発現することが見出され(たとえば、特許文献1参照)、有機色素系のものへの可能性が示唆された。しかしながら、前述のルテニウム錯体を用いた光電変換素子で得られる光電変換効率に匹敵するレベルには及ばず、有機色素を用いた光電変換素子の分野におかれては、光電変換効率のさらなる向上が課題になっていた。
【0005】
また、従来の色素増感型光電変換素子では液状の電解質が用いられていたが、電解液の漏洩や揮発が発生すると光電変換効率が急激に低下するものであった。そこで、液状電解質に代わる固体の正孔輸送材料を見出すことにより、光電変換効率の信頼性と長期安定性を実現しようと開発が進められ、固体高分子電解質を正孔輸送材料を用いた光電変換素子が開発された(たとえば、非特許文献2参照)。しかしながら、非特許文献2に開示された技術では、固体高分子電解質が光電変換層に十分浸透せず、光電変換効率を向上させることが不利なものであることが判明した。そこで、化学構造的に正孔輸送に適した低分子量有機化合物を固体電解質中に含有させて固体電界解質の光電変換層への浸透を向上させる様にした技術が検討された(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−123033号公報
【特許文献2】特開2007−115665号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B.O’Regan,M.Gratzel,Nature,353,737(1991)
【非特許文献2】A.F.Nogueira,J.R.Durarant,M.A.DePaoli,Adv.Mater.13,826,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光電変換効率の向上が可能な有機色素を用いた光電変換素子を提供することを目的とするものである。また、光電変換素子を構成する正孔輸送物質が電極との間で短絡を起こさずに安定した光電変換性能を発現することが可能な光電変換素子を提供することを第2の目的とするものである。すなわち、本発明は、光電変換効率の向上と短絡発生防止による素子の安定性維持を両立することが可能な光電変換素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題が下記に記載のいずれかの構成により解消されるものであることを見出した。すなわち、請求項1に記載の発明は、
『少なくとも、基体、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第1電極に対向させて配置された第2電極を、この順に設置してなる光電変換素子であって、
前記光電変換層は、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を担持させた半導体材料を含有するものであるとともに、
前記正孔輸送層は、少なくとも芳香族アミン化合物を含有するものであることを特徴とする光電変換素子。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、Arは置換または未置換のアリーレン基、RとRは置換または未置換のアルキル基またはアリール基を表し、Ar、R、Rは互いに連結して環状構造を形成してもよい。RとRは水素原子、置換または未置換のアルキル基を表す。Rは酸性基Xで置換された置換または未置換のアルコキシ基、チオアルコキシ基、セレノアルキキシ基を表し、mは1以上の整数を表す。mが2以上の場合、酸性基Xは同じものでも異なるものであってもよい。〕』というものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、
『前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【0013】
【化2】

【0014】
〔式中、Arは置換または未置換のアリーレン基、RとRは置換または未置換のアルキル基またはアリール基を表し、Ar、R、Rは互いに連結して環状構造を形成してもよい。RとRは水素原子、置換または未置換のアルキル基を表す。また、Yはイオウ原子、酸素原子、セレン原子のいずれかを表し、RとRは水素原子を表す。nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表す。〕』というものである。
【0015】
請求項3に記載の発明は、
『前記一般式(2)で表される化合物中のYで表される部位がイオウ原子であることを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。』というものである。
【0016】
請求項4に記載の発明は、
『前記一般式(1)または(2)で表される化合物中のRで表される部位が水素原子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子。』というものである。
【0017】
請求項5に記載の発明は、
『前記一般式(1)または(2)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0018】
【化3】

【0019】
〔式中、Rは水素原子、置換または未置換のアルキル基またはシアノ基を表し、RとRは水素原子を表す。nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表す。また、R、Rは置換、未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基を表す。n8、n9は1〜5の整数を表し、n8、n9が2以上の場合、R、Rは同じものでも異なるものであってもよい。〕』というものである。
【0020】
請求項6に記載の発明は、
『前記一般式(1)または(2)で表される化合物が、下記一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0021】
【化4】

【0022】
〔式中、Rは水素原子、置換または未置換のアルキル基またはシアノ基を表し、RとRは水素原子を表す。nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表す。また、Rは置換、未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基を表す。n9は1〜5の整数を表す。〕』というものである。
【0023】
請求項7に記載の発明は、
『前記正孔輸送層に含有される芳香族アミン化合物は、分子量が500以上2000以下のものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子。』というものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、光電変換層に少なくとも一般式(1)で表される化合物を担持させた半導体材料を含有させるとともに、正孔輸送層に少なくとも芳香族アミン化合物を含有させることにより、前述の課題を解消させることが可能なことを見出した。すなわち、光電変換層に少なくとも一般式(1)で表される化合物を担持させた半導体材料を含有することにより、光電変換素子の光電変換効率の向上を可能にした。
【0025】
この様に、本発明によれば、光電変換効率の向上と短絡発生防止による安定性維持の両立が可能な光電変換素子の提供を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る光電変換素子の一例を示す断面構成図である。
【図2】「形状係数FF」の数値と「電圧−電流特性グラフ」の形状との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、少なくとも、基体、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第1電極に対向させて配置された第2電極を、この順に設置してなる光電変換素子に関する。そして、本発明に係る光電変換素子は、一般にイミダゾロン骨格と呼ばれるアミン構造を有する前述の一般式(1)で表される化合物を光電変換層に含有するとともに、芳香族アミン化合物を正孔輸送層に含有するものである。
【0028】
従来より、高分子量の芳香族アミン化合物を正孔輸送物質に用いると、正孔輸送層は固体の膜で形成され、電解液の漏洩や揮発のおそれのないじょうぶで安定した光電変換素子が得られると考えられていた。また、芳香族アミン化合物は、その構造から高い電荷輸送性能を発現することができるものと考えられていた。
【0029】
ところで、高い光電変換効率を発現させるためには、電荷輸送性能を有する物質が光電変換層内部に十分浸透していく必要があった。ところが、芳香族アミン化合物を用いた光電変換素子では、期待された高い光電変換効率は得られず、短絡が頻繁に発生するものになった。これは、芳香族アミン化合物と半導体材料の距離が近接あるいは接触し易い状態になるため、半導体から芳香族アミン化合物への逆方向の電荷移動が起きる様になり短絡を発生させたものと考えられた。
【0030】
本発明に係る光電変換素子では、短絡の発生を解消し、高い光電変換効率が得られる様になった。これは、一般式(1)で表される化合物は、分子内のアリールアミン構造とイミダゾロン骨格構造により、化合物中に電気陰性度の高い領域と低い領域が形成され、電荷分離によりキャリアが発生し易くなるためと考えられる。また、一般式(1)で表される化合物中に電気陰性度の高い領域が存在することにより化合物端部の酸性基Xの求核性が強まり、半導体材料である酸化チタン表面の金属原子に結合あるいは配位し易くなるものと考えられる。これらの作用により、一般式(1)で表される化合物が酸化チタン表面に安定した形で取り込まれ、酸化チタンの光に対する感度が大幅に増大して光電変換を効率よく行える環境が形成される様になったためと考えられる。
【0031】
また、一般式(1)で表される化合物は、その分子間相互作用により凝集構造を形成し易い性質のものと考えられる。その結果、酸化チタン表面をより被覆することができるようになり、芳香族アミン化合物と半導体材料との接触を抑制することができる様になり、光電変換効率が向上するものと考えられる。
【0032】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明に係る光電変換素子は「光電変換層に少なくとも一般式(1)の化合物を担持させた半導体材料を含有するもの」であるが、「半導体材料に化合物を担持させる」とは一般式(1)の化合物をはじめとする増感色素を物理的あるいは化学的な作用で半導体材料表面に付着、結合させることを意味するものである。具体的には、物理的な吸着や化学結合の形成、さらには、多孔質構造の半導体材料表面に存在する孔に充填させること等が挙げられる。
【0033】
最初に、本発明に係る光電変換素子の構成について説明する。図1は、本発明に係る光電変換素子の一例を示す断面構成図である。図1の光電変換装置1Aは、固体型色素増感型光電変換素子と呼ばれるもので、基体2上に導電性あるいは半導電性を発現する材質より構成される第1電極3と第1電極3に対向して配置される第2電極4を有する。
【0034】
第1電極3と第2電極4の間には、第1電極3に近い側から後述する一般式(1)で表される化合物を吸着させた半導体材料を含有してなる光電変換層5と後述する芳香族アミン化合物を正孔輸送物質として含有する正孔輸送層6が設けられている。
【0035】
先ず、基体2について説明する。基体2は第1電極3、光電変換層5、正孔輸送層6及び第2電極4を支持するもので、平板状の部材で構成されるものである。基体2の構成材料としては、透明性を有するものであればいずれのものでも使用可能で、たとえば、石英やガラス等の透明無機材料や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、トリメチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミドイミド、シクロオレフィン重合体、スチレンブタジエン共重合体等の透明樹脂材料を使用することができる。この中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)等の可撓性を発現することが可能な透明樹脂材料は、フレキシブルな光電変換素子を作製する上で有利である。
【0036】
基体2の厚さは、材料や用途等により適宜設定が可能で特に限定されるものではないが、たとえば、ガラス等の透明無機材料の様な硬質材料で構成する場合は、その平均厚さは0.1〜1.5mmが好ましく、0.8〜1.2mmがより好ましい。また、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等の可撓性を有する透明樹脂材料で構成する場合は、その平均厚さは0.5〜150μmが好ましく、10〜75μmがより好ましい。
【0037】
次に、第1電極3について説明する。第1電極3は、後述する光電変換層5の受光面側に、この受光面を覆う様に設置された平板状の部材である。第1電極3は、後述する光電変換層5で形成された電子の授受を行うもので、光電変換層5より受け取った電子を外部回路に伝達するものである。
【0038】
第1電極3の構成材料は、電気的に導電性あるいは半導電性を有するとともに、透明電極の様に光電変換層5に光を到達させることが可能な形態のものを使用することができる。具体的には、インジウムスズ酸化物(ITO)、フッ素ドープ処理した酸化スズ(FTO)、インジウム酸化物(IO)、酸化スズ(SnO)等の金属酸化物、アルミニウム、ニッケル、コバルト、白金、銀、金、銅、モリブデン、チタン、タンタル等の金属またはこれらを含有する合金、黒鉛やカーボンブラック等の炭素材料等が挙げられる。
【0039】
たとえば、上記金属酸化物を用いて第1電極3を形成すると透明電極にすることができる。また、第1電極3の形状を複数の櫛歯を有するものにすると、光は複数の櫛歯の間を通って光電変換層5に到達することができる。この様に、第1電極3に光透過可能な部位を設けることにより、第1電極3の構成部材が光透過性を有さないものも使用することが可能なので、第1電極3の構成材料や製造方法等の選択の幅を拡大させることができる。
【0040】
次に、光電変換層5について説明する。基体2の上面には、前述した様に、第1電極3が設けられ、この第1電極3の上面には太陽エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換層5が設けられている。光電変換層5の面上は太陽光を受ける受光面を形成しており、前述した第1電極3はこの受光面を覆う様に配置され、光電変換層5と第1電極3との間で電子の授受が行える様に設計されている。すなわち、第1電極3を通過した光は光電変換層5内に進入し、光電変換層5内に進入した光は、そのまま層内を通過するものもあるが、後述する半導体材料に衝突するものもある。そして、半導体材料に衝突した光は任意の方向に乱反射し光電変換層5内に拡散する。このとき、光は増感色素と接触することにより電子及び正孔(ホール)を発生する。この様にして形成された電子が光電変換層5より第1電極3に向かって移動する。
【0041】
光電変換層5は、少なくとも後述する一般式(1)で表される化合物を光増感色素として吸着させた半導体材料を含有してなるもので、半導体材料としては、たとえば、酸化チタンや酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)に代表されるn型半導体材料が用いられる。これらn型半導体材料の中でも酸化チタンが好ましく用いられる。また、酸化チタンには、二酸化チタン(TiO)や一酸化チタン(TiO)、三酸化チタン(Ti)等があるが、これらの中でも二酸化チタンが特に好ましく用いられる。
【0042】
その理由として、二酸化チタンは、特に、電子の輸送に優れる他、光に対する感受性が高くそれ自体でも電子を発生できる等の高い光電変換効率(発電効率)が期待できることから特に好ましいとされるものである。また、二酸化チタンは、その結晶構造が安定しているので、過酷な環境下に曝された場合でも経年変化(劣化)が少なく、所定の性能を長期間安定して得られる利点を有する。
【0043】
また、二酸化チタンには、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンを主とするもの、ルチル型の結晶構造を有する二酸化チタンを主とするもの、アナターゼ型の二酸化チタンとルチル型の二酸化チタンの混合物を主とするものがある。そして、これらのいずれのものも光電変換素子用の半導体材料として好ましく使用することができる。このうち、アナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンは、電子をより効率よく輸送することができる利点を有している。また、ルチル型の二酸化チタンとアナターゼ型の二酸化チタンとを混合して用いる場合、ルチル型とアナターゼ型の混合比は特に限定されないが、たとえば、質量比でルチル型:アナターゼ型=95:5〜5:95とすることができ、80:20〜20:80とすることが好ましい。
【0044】
また、半導体材料は、その表面に複数の孔(細孔)を有するものが好ましく、細孔の存在により半導体材料に衝突した光の乱反射と拡散が促進され、光電変換効率を向上させるメリットがある。二酸化チタンは、その表面に細孔を有しており、高い光電変換効率が期待できる。光電変換層5に含有させる二酸化チタンの空孔率(二酸化チタン粒子表面の単位面積あたりに占める孔の面積の比率)は、特に限定されるものではないが、たとえば、5%〜90%が好ましく、より好ましくは15%〜50%、特に好ましくは20%〜40%である。二酸化チタンの空孔率が前記範囲のとき、二酸化チタンの表面積は十分大きなものになるので、二酸化チタンの外面及び孔の内面に沿って吸着させる増感色素の吸着面積を十分に確保することができる。その結果、光電変換素子の光電変換効率(発電効率)をさらに向上させることができる。
【0045】
また、光電変換層5に含有させる二酸化チタンは、比較的厚みを有するものであってもよいが、光電変換素子の小型化や製造コスト低減の観点からは膜状の形態を有するものが好ましい。二酸化チタンの平均膜厚は特に限定されるものではないが、具体的には、0.1μm〜50μm程度が好ましく、より好ましくは0.5μm〜25μm程度、特に好ましくは1μm〜10μm程度である。
【0046】
光電変換層5に含有される二酸化チタンに代表される半導体材料は、後述する一般式(1)で表される化合物に代表される光増感色素を結合してなるもので、光増感色素は、たとえば、分子間引力や静電引力等の物理的結合や共有結合や配位結合等の化学結合により半導体材料に結合している。この光増感色素は、受光により電子と正孔(ホール)を発生するもので、光電変換層5内で光エネルギーを電気エネルギーに実際に変換しているものである。光増感色素は半導体材料の外面や孔の内面に沿って結合しており、光増感色素が存在する領域が光電変換層5内で光を受けて電子と正孔を発生させる領域である受光層を形成するものである。そして、光増感色素により発生した電子は、光増感色素と結合している半導体材料に移動し、半導体材料より第1電極3に移動する。なお、光増感色素として作用する一般式(1)で表される化合物の具体的な説明は後で詳細に行う。
【0047】
次に、正孔輸送層6について説明する。正孔輸送層6は、光電変換層5の上面に層状に形成されてなり、光電変換層5を介して第1電極3と対向して設置されている。正孔輸送層6は、光電変換層5で発生した正孔(ホール)を捕捉し、捕捉した正孔を後述する第2電極を介し、または、ホール輸送層6自体が電極となり、外部回路に向けて輸送するものである。正孔輸送層6の平均厚さは、特に限定されるものではないが、たとえば、0.1〜100μmとすることが好ましく、より好ましくは0.5〜50μm、特に好ましくは1〜20μmである。本発明に係る光電変換物質は、正孔輸送層6に正孔輸送物質として芳香族アミン化合物を含有するものである。
【0048】
次に、第2電極4について説明する。第2電極4は、正孔輸送層6の上面に層状(平板状)に形成されてなり、その平均厚さは材料や用途等により適宜設定され、特に限定されるものではない。
【0049】
第2電極4の構成材料としては、公知の導電性材料や半導電性材料が挙げられる。導電性材料としては、たとえば、各種イオン導電性材料や、アルミニウム、ニッケル、コバルト、白金、銀、金、銅、モリブデン、チタン、タンタル等の金属またはこれらを含む合金、あるいは、黒鉛などの各種炭素材料等が挙げられる。また、半導電性材料としては、たとえば、トリフェニルジアミン(モノマー、ポリマー等)、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、フタロシアニン化合物(たとえば、銅フタロシアニン等)等またはこれらの誘導体等のp型半導体材料が挙げられる。これら導電性材料や半導電性材料を1種または2種以上組み合わせて第2電極4を形成することができる。
【0050】
次に、前述した光電変換層5に含有される一般式(1)で表される化合物について説明する。本発明に係る光電変換素子を構成する光電変換層は、下記一般式(1)で表される化合物を担持させた半導体材料を含有するものである。
【0051】
【化5】

【0052】
上記一般式(1)で表される化合物は、構造中にイミダゾロン骨格と呼ばれる部位を有するものである。式中のArは置換または未置換のアリーレン基、RとRは置換または未置換のアルキル基またはアリール基で、一般式(1)で表される化合物には、Ar、R、Rが互いに連結して環状構造を形成するものもある。また、式中のRとRは水素原子、置換または未置換のアルキル基またはシアノ基である。また、式中のRは酸性基Xで置換された置換または未置換のアルコキシ基、チオアルコキシ基、セレノアルキキシ基を表すものである。
【0053】
に結合するXで表される酸性基の個数mは1以上で、特に、Rに結合する酸性基の数が2つ以上の場合、すなわち、mが2以上の場合、Rに結合する酸性基Xの種類は同じものでも異なるものでもよい。酸性基Xの具体例としては、たとえば、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基(−PO(OH))、スルホン酸基(−SO(OH))、硫酸基(−O−SO(OH))等がある。
【0054】
本発明では、上記一般式(1)で表される化合物を用いることにより、高い光電変換効率が得られる様になったが、これは前述した様に、イミダゾロン骨格構造が電子アクセプターとして機能して電気陰性度の高い領域を構造中に形成し易いためと考えられる。そして、電気陰性度の高い領域の存在により化合物端部の酸性基の求核性が強まり、半導体材料である酸化チタン表面への結合や配位が促進されて、半導体材料の光に対する感度が向上して光電変換効率を向上させているものと考えられる。
【0055】
また、一般式(1)で表される化合物は、その分子間相互作用により凝集構造を形成し易く、凝集により酸化チタン表面を高密度に被覆して、この様な高い被覆密度が光電変換効率の向上に寄与するものと考えられる。また、被覆密度が高くなると吸収波長の長波長側へのシフトが容易に行える様になり、酸化チタン表面での吸収波長領域が拡大して光電変換効率を向上させていることも考えられる。また、一般式(1)で表される化合物が酸化チタン表面を高密度に被覆することにより、光電変換層と正孔輸送層の界面形成を阻害し、両者間で発生する電荷の再結合を抑制することも考えられる。これらの作用により光電変換効率が向上するものと考えられる。
【0056】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明で使用可能な一般式(1)で表される化合物はこれらに限定されるものではない。なお、以下の各具体例中に示す波線の部分は、一般式(1)で表される化合物における結合部分を表すものである。
【0057】
【化6】

【0058】
【化7】

【0059】
【化8】

【0060】
【化9】

【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
【化14】

【0066】
【化15】

【0067】
【化16】

【0068】
【化17】

【0069】
【化18】

【0070】
【化19】

【0071】
【化20】

【0072】
【化21】

【0073】
【化22】

【0074】
【化23】

【0075】
【化24】

【0076】
【化25】

【0077】
【化26】

【0078】
【化27】

【0079】
【化28】

【0080】
【化29】

【0081】
【化30】

【0082】
【化31】

【0083】
【化32】

【0084】
【化33】

【0085】
【化34】

【0086】
【化35】

【0087】
【化36】

【0088】
【化37】

【0089】
【化38】

【0090】
【化39】

【0091】
【化40】

【0092】
【化41】

【0093】
【化42】

【0094】
【化43】

【0095】
【化44】

【0096】
【化45】

【0097】
【化46】

【0098】
【化47】

【0099】
【化48】

【0100】
【化49】

【0101】
【化50】

【0102】
【化51】

【0103】
【化52】

【0104】
【化53】

【0105】
【化54】

【0106】
【化55】

【0107】
【化56】

【0108】
【化57】

【0109】
【化58】

【0110】
【化59】

【0111】
【化60】

【0112】
【化61】

【0113】
【化62】

【0114】
【化63】

【0115】
【化64】

【0116】
【化65】

【0117】
【化66】

【0118】
【化67】

【0119】
【化68】

【0120】
【化69】

【0121】
【化70】

【0122】
【化71】

【0123】
【化72】

【0124】
【化73】

【0125】
【化74】

【0126】
【化75】

【0127】
【化76】

【0128】
【化77】

【0129】
【化78】

【0130】
【化79】

【0131】
【化80】

【0132】
【化81】

【0133】
【化82】

【0134】
【化83】

【0135】
【化84】

【0136】
【化85】

【0137】
【化86】

【0138】
【化87】

【0139】
【化88】

【0140】
本発明では、前述した一般式(1)で表される化合物の中でも、以下に示す一般式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
【0141】
【化89】

【0142】
すなわち、一般式(2)で表される化合物は、一般式(1)で表される化合物を構成するRに結合する酸性基Xの個数が1個のもので、酸性基Xに結合するRが上記Y、R、R等より構成されるものである。
【0143】
また、本発明では、上記一般式(2)で表される化合物中のYで表される部位がイオウ原子のものがより好ましく、一般式(1)または(2)で表される化合物中のRで表される部位が水素原子のものがさらに好ましい。
【0144】
さらに、本発明では、前述した構造中のYで表される部位がイオウ原子で、Rで表される部位が水素原子のもので、以下の構造を有するものを用いるのが特に好ましい。
【0145】
【化90】

【0146】
【化91】

【0147】
上記一般式(3)と(4)で表される化合物を構成するRは水素原子、置換または未置換のアルキル基またはシアノ基を表し、RとRは水素原子を表すものである。また、nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表すものである。また、R、Rは置換、未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基を表すものである。さらに、n8とn9は1〜5の整数を表し、n8とn9が2以上の場合は、RとRは同じものでも異なるものであってもよい。
【0148】
以上、一般式(1)で表される化合物のより好ましい形態である一般式(2)〜一般式(4)で表される化合物の具体例は、前述した例示化合物中に含まれている。上記一般式(3)で表される化合物に該当する例示化合物としては、たとえば、化合物141、223、343、527等が挙げられる。また、上記一般式(4)で表される化合物に該当するものとしては、たとえば、化合物637、641、642、644等が挙げられる。
【0149】
本発明は、一般式(1)で表される化合物を光電変換層を構成する半導体材料に担持させる増感色素として使用するものであるが、公知の増感色素用の化合物を併用することも可能である。なお、本発明でいう「半導体材料に担持させる」とは、一般式(1)で表される化合物をはじめとする増感色素を物理的あるいは化学的に半導体材料表面に吸着あるいは結合させることをいう。また、多孔質構造の半導体材料表面に存在する孔に充填させることも含むものである。
【0150】
また、一般式(1)で表される化合物をはじめとする増感色素の半導体材料への総担持量は、特に限定されるものではないが、光電変換層1mあたり0.01〜100ミリモルで、好ましくは0.1〜50ミリモル、より好ましくは0.5〜20ミリモルである。
【0151】
次に、前述した正孔輸送層6に正孔輸送物質として含有される芳香族アミン化合物について説明する。本発明に係る光電変換素子を構成する正孔輸送層は、芳香族アミン化合物を正孔輸送物質として含有するものである。
【0152】
そして、光電変換層で半導体材料に担持させる増感色素として前述の一般式(1)で表される化合物により光電変換効率の向上が実現されており、芳香族アミン化合物により良好な光電変換効率が安定した状態で維持される様になっている。この様に、本発明では、イミダゾロン骨格構造の化合物を増感色素に用い、芳香族アミン化合物を正孔輸送物質に用いることを組み合わせることで、光電変換効率の向上と短絡発生防止による光電変換効率の安定維持を両立している。
【0153】
また、正孔輸送物質として使用する芳香族アミン化合物は、分子量が500以上2000以下のものが好ましい。この範囲の分子量を有する芳香族アミン化合物を正孔輸送物質に用いることにより、固体の膜で形成された正孔輸送層が得られ、電解液の漏洩や揮発のおそれのないじょうぶな光電変換素子が得られるものと考えられる。芳香族アミン化合物の分子量を前記範囲とすることで、光電変換層内部に芳香族アミン化合物が浸透することができる様になり、良好な電荷輸送性能を得ることができる様になるものと考えられる。そして、前述の一般式(1)で表される化合物と組み合わせることにより、本発明では短絡の発生が抑制されるので、安定した電荷輸送性能を発現するものと考えられる。
【0154】
以下、本発明で使用可能な芳香族アミン化合物の具体例を示すが、本発明に使用可能な固体の芳香族アミン化合物はこれらに限定されるものではない。
【0155】
【化92】

【0156】
【化93】

【0157】
【化94】

【0158】
【化95】

【0159】
【化96】

【0160】
【化97】

【0161】
【化98】

【0162】
【化99】

【0163】
【化100】

【0164】
【化101】

【0165】
【化102】

【0166】
【化103】

【0167】
【化104】

【0168】
次に、本発明に係る光電変換素子の製造方法について説明する。
【0169】
本発明に係る光電変換素子は、たとえば、以下に示す〔1〕〜〔4〕の手順により作製することが可能である。なお、本発明に係る光電変換素子は、以下に示す工程を経て作製されるものに限定されるものではない。
【0170】
〔1〕第1電極の形成
先ず、ポリエチレンナフタレート(PEN)等で構成された均一な厚さを有する基体を用意し、パルスレーザ蒸着法等の公知の製膜装置等により、当該基体上に第1電極を形成する。
【0171】
〔2〕光電変換層の形成
次に、第1電極の上面に半導体材料を用いて光電変換層5を形成する。光電変換層5を構成する半導体材料は、たとえば、ゾル・ゲル法、蒸着法、スパッタリング法等の公知の方法により形成することが可能であり、この中でもゾル・ゲル法により形成することが好ましい。その理由としては、光電変換層を構成する半導体材料を形成する際、半導体材料のゾル液を用いると表面が多孔質の半導体材料を形成し易いことが挙げられる。すなわち、ゾル液を使用し易いゾル・ゲル法によれば、表面多孔質の半導体材料からなる光電変換層の形成が有利なことが挙げられる。
【0172】
ゾル・ゲル法により極めて簡単な操作で表面多孔質の半導体材料を形成できることに加え、この様にして作製したゾル液を公知の塗布方法で第1電極上面に塗布できるので、大がかりな装置を必要とせずに好適に光電変換層を膜状に形成することができる。また、塗布法を用いることにより、たとえば、マスク等でマスキングが行えて、所望のパターン形状の光電変換層を容易に作製することができる。ゾル・ゲル法と併用可能な公知の塗布方法としては、たとえば、ディッピング法、滴下法、ドクターブレード法、スピンコート法、刷毛塗り法、スプレー塗布法、ロールコータ法等が挙げられる。
【0173】
半導体材料の平均粒径は、特に限定されるものではないが、1nm〜1μmが好ましく、5〜50nmがより好ましい。半導体材料の平均粒径を前記範囲内にすることにより、ゾル液を形成したときに半導体材料の均一性を向上させることができる。すなわち、半導体材料の平均粒径の平均粒径を小さくすると光電変換層を構成する半導体材料の比表面積がより大きなものになり、増感色素の吸着量が増大して発電効率の向上に寄与することができる。
【0174】
以下、光電変換層を構成する半導体材料の形成方法について一例を挙げて説明する。
【0175】
(1)酸化チタン粉末の調製
ルチル型の二酸化チタン粉末とアナターゼ型の二酸化チタン粉末とを所定の配合比になる様に混合する。ルチル型の二酸化チタン粉末の平均粒径とアナターゼ型二酸化チタン粉末の平均粒径は、それぞれ異なっていても同じであってもよいが、異なっている方が好ましい。
【0176】
(2)ゾル液の調製
下記(a)〜(e)の手順によりゾル液を調製する。すなわち、
(a)公知の有機チタン化合物や公知の無機チタン化合物を1種または2種以上組み合わせたものを、有機溶媒に溶解させる。このとき、有機あるいは無機のチタン化合物の有機溶媒中の濃度(含有量)は、特に限定されるものではないが、たとえば0.1〜3.0モル/リットルとするのが好ましい。
【0177】
なお、有機チタン化合物の具体例としては、たとえば、チタンテトライソプロポキシド(TPT)、チタンテトラミトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド等のチタンアルコキシドやチタンオキシアセチルアセトナート(TOA)等がある。また、無機チタン化合物としては、たとえば、四塩化チタン(TTC)等がある。さらに、有機溶媒としては、たとえば、無水エタノール、2−ブタノール、2−プロパノール、2−n−ブトキシエタノール等があり、これらの混合溶媒を用いることも可能である。
【0178】
上記溶液中には、必要に応じて各種添加物を添加することが可能である。たとえば、チタンアルコキシドを有機チタン化合物を用いる場合、チタンアルコキシドは化学的安定性が低いので、酢酸、アセチルアセトン、硝酸等を添加することにより、チタンアルコキシドを化学的に安定化させることができる。これら添加物とチタンアルコキシドとの配合比は、特に限定されるものではないが、たとえば、モル比で1:2〜8:1程度とすることが好ましい。
【0179】
(b)上記溶液中に、蒸留水、超純水、イオン交換水、RO水等の水を混合する。水とチタン化合物のとの配合比は、モル比で1:4〜4:1程度とすることが好ましい。
【0180】
(c)上記溶液中に、前記工程(1)で調製した二酸化チタン粉末を混合して懸濁液(分散液)を作製する。
【0181】
(d)上記懸濁液を前述した有機溶媒(混合溶媒でもよい)で希釈してゾル液を調製する。ゾル液を調製するときの希釈倍率は、たとえば、1.2〜3.5倍程度が好ましい。また、二酸化チタン粉末のゾル液中の含有量は、特に限定されるものではないが、たとえば、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。これにより、光電変換層を構成する半導体材料の空孔率を好適に前記範囲内にすることができる。
【0182】
(3)光電変換層の形成
第1電極の上面に、前述した塗布方法によりゾル液を塗布した後、たとえば、80℃〜180℃、好ましくは100℃〜160℃に加熱処理して塗膜を形成する。この様な塗布と加熱処理を、たとえば、1〜10回、好ましくは5〜7回行うことにより前述した平均厚さを有する光電変換層を形成する。
【0183】
(4)光電変換層への増感色素吸着
上記手順で形成した光電変換層を構成する半導体材料を、前述した一般式(1)で表される化合物に代表される光増感色素を含有してなる液に接触させることにより、半導体材料の外表面及び孔に光増感色素を吸着、結合させる。具体的には、基体、第1電極、光電変換層より構成される積層体を光増感色素含有液に浸漬することにより、光電変換層を構成する半導体材料の外面と孔の内面に沿って光増感色素を吸着、結合させることができる。ここで、光増感色素を含有してなる液とは、たとえば、光増感色素を溶媒に溶解させてなる溶液や光増感色素を溶媒中に分散させた懸濁液等が挙げられる。
【0184】
前述の光増感色素を溶解あるいは分散させる溶媒は、特に限定されるものではないが、たとえば、以下のものがある。すなわち、蒸留水、超純水、イオン交換水、RO水等の各種水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトニトリル、酢酸エチル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、N−メチルピロリドン(NMPともいう)等がある。
【0185】
前記積層体を光増感色素含有液中への浸漬後、前記積層体を取り出し、たとえば、自然乾燥、あるいは空気や窒素ガス等の気体吹き付けにより溶媒を除去する。さらに、必要に応じて、前記積層体をたとえば60℃〜100℃の温度で0.5時間〜2時間乾燥処理することもできる。この様にすることにより、光電変換層を構成する半導体材料に光増感色素をより強固に吸着、結合させることができる。
【0186】
〔3〕正孔輸送層の形成
正孔輸送層は、たとえば、光電変換層の上面に前述した芳香族アミン化合物の正孔輸送材料を公知の方法で塗布することにより形成することができる。正孔輸送層の形成に使用可能な塗布方法としては、たとえば、ディッピング法、滴下法、ドクターブレード法、スピンコート法、刷毛塗り法、スプレー塗布法、ロールコータ法等が挙げられる。これら公知の塗布方法により、正孔輸送層が光電変換層孔内に確実に浸透する様に形成することができる。
【0187】
また、上記方法で形成した正孔輸送層に、たとえば、減圧下、不活性雰囲気下等で熱処理を施すことも可能である。この様に、熱処理を施すことにより、正孔輸送層内の溶媒が効率よく除去され、正孔輸送層を迅速に作製できるようになるので光電変換素子の生産効率を向上させることができる。熱処理を行う際の加熱温度としては、たとえば、50℃〜150℃が好ましい。この様な塗布と熱処理操作を繰り返し行うことにより、積層型の正孔輸送層を形成することができる。
【0188】
また、正孔輸送層の形成に使用可能な溶媒としては、たとえば、以下に挙げる極性溶媒や非プロトン系溶媒よりなる有機溶媒が挙げられる。極性溶媒としては、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、ブチレンオキサイド、シクロヘキサノン、アセトン、各種アルコール等が挙げられる。また、非プロトン系溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等が挙げられる。これら有機溶媒のうちの1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0189】
〔4〕第2電極の形成
第2電極は、正孔輸送層の上面に形成される。第2電極は、たとえば、金等で構成される第2電極材料を、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等の公知の方法を用いて形成することが可能である。
【0190】
以上の工程を経て、本発明に係る光電変換素子を作製することが可能である。
【実施例】
【0191】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、下記文中に記載の「部」は「質量部」を表すものである。
【0192】
1.「光電変換素子1〜30」、「比較用光電変換素子1、2」の作製
1−1.「光電変換素子1」の作製
以下の手順により、図1に示す構成を有する「光電変換素子1」を作製した。
【0193】
(1)基体の用意
縦30mm、横35mm、厚さ1.0mmの市販のソーダガラス基体を用意し、当該基体を硫酸と過酸化水素水の混合液よりなる85℃の洗浄液に浸漬して洗浄処理を行うことにより、その表面を清浄化した。
【0194】
(2)第1電極の形成
公知の蒸着法の製膜装置を用い、前記ソーダガラス基体上に、縦30mm、横35mm、厚さ1μmのFTO(フッ素ドープ酸化スズ)よりなる第1電極を形成した。
【0195】
(3)光電変換層の形成
次に、前記FTO薄膜からなる非晶質金属酸化物の第1電極の上面に以下の手順で酸化チタンからなる光電変換層を形成した。なお、酸化チタンは以下の手順で作製した。
【0196】
(酸化チタン粉末の調製)
ルチル型二酸化チタン粉末とアナターゼ型二酸化チタン粉末との混合物からなる二酸化チタン粉末を用意した。酸化チタン粉末の平均粒径は40nmであり、ルチル型二酸化チタン粉末とアナターゼ型二酸化チタン粉末の配合比を質量比で60:40とした。
【0197】
(ゾル液の調製)
先ず、チタンテトライソプロポキシドを2−プロパノールに1モル/リットルとなる様に溶解した後、この溶液に酢酸と蒸留水とを混合した。ここで、酢酸はチタンテトライソプロポキシドに対してモル比で1:1になる様に添加した。また、蒸留水もチタンテトライソプロポキシドに対してモル比で1:1になる様に添加した。
【0198】
次に、上述の溶液に前述した様に調製した酸化チタン粉末を混合して懸濁液とし、さらにこの懸濁液を2−プロパノールで2倍に希釈することによりゾル液を調製した。なお、前記ゾル液中の酸化チタン粉末の含有量が3質量%となる様に調製した。
【0199】
(光電変換層の形成)
前述のソーダガラス基体上にFTO薄膜の第1電極を形成した積層体を140℃に加熱したホットプレート上に載置し、当該積層体上に前記ゾル液を滴下法により塗布後、乾燥処理を行った。この操作を3回繰り返し行うことにより、平均厚さ2.1μmの酸化チタンよりなる光電変換層を形成した。この様にして、ソーダガラス基体上にFTO薄膜からなる第1電極上に光電変換層を形成した積層体を作製した。
【0200】
(光増感色素の吸着)
次に、一般式(1)で表される化合物に該当する前述の「化合物1」をアセトニトリル/t−ブタノール混合液(質量比1:1)に飽和状態になるまで溶解させた溶液を予め用意しておき、当該溶液中に前記積層体を浸漬させた。その後、当該溶液より前記積層体を取り出して自然乾燥してアセトニトリルとt−ブタノールを揮発させ、さらに、80℃に加熱したクリーンオーブンで30分間乾燥処理した後、24時間放置した。この様にして、光電変換層を構成する酸化チタンの外面及び孔の内面に沿って一般式(1)で表される化合物に該当する「化合物1」を吸着、結合させた。
【0201】
(4)正孔輸送層の形成
次に、正孔輸送物質である芳香族アミン化合物「A1」をクロロベンゼンに溶解させた正孔輸送層形成用塗布液を予め調製しておく。そして、当該正孔輸送層形成用塗布液を前述した「化合物1」を吸着、結合させた光電変換層の上面にスピンコート法により塗布した後、150℃で10分間加熱処理を施すことによりクロロベンゼンを除去して正孔輸送層を形成した。なお、正孔輸送層の寸法は、縦10mm、横10mm、厚さ1.5μmであり、前述したスピンコート法による塗布ではスピンコートの回転数を500rpmに設定して行った。
【0202】
以上の手順により、ソーダガラス基体上にFTO膜からなる非晶質金属酸化物の第1電極、酸化チタンに「化合物1」を吸着、結合させた光電変換層、及び、「化合物A1」を含有する正孔輸送層を順次形成させた積層体を作製した。
【0203】
(5)第2電極の形成
次に、前述した正孔輸送層の上面に蒸着法により金(Au)の膜を形成して第2電極とした。以上の手順により図1に示す積層構造を有する「光電変換素子1」を作製した。
【0204】
1−2.「光電変換素子2〜30」の作製
前記「光電変換素子1」の作製において、光電変換層を作製する際に使用した「化合物1」と正孔輸送層を作製する際に使用した「化合物A1」を、表1に示す化合物にそれぞれ変更した他は同じ手順を採ることにより「光電変換素子2〜30」を作製した。
【0205】
1−3.「比較用光電変換素子1、2」の作製
(1)「比較用光電変換素子1」の作製
前記「光電変換素子1」の作製において、光電変換層を作製する際に使用した「化合物1」を下記に示すイミダゾロン構造を有さない化合物に変更した他は同じ手順を採ることにより「比較用光電変換素子1」を作製した。
【0206】
【化105】

【0207】
(2)「比較用光電変換素子2」の作製
前記「光電変換素子1」の作製において、正孔輸送層を作製する際に使用した「化合物A1」に代えて、下記の電解質液を使用した他は同じ手順をとることにより「比較用光電変換素子2」を作製した。なお、電解質液は、ヨウ化カリウム0.4M、ヨウ素0.05M、4−(t−ブチル)ピリジン0.5Mを含有する3−メチルプロピオニトリル溶液である。
【0208】
上記「光電変換素子1〜30」と「比較用光電変換素子1、2」を作製する際に使用した光電変換層の作製で使用した化合物と正孔輸送層の作製で使用した化合物を下記表1に示す。
【0209】
【表1】

【0210】
2.評価実験
評価は、以下に示す様に、初期段階より短絡が発生せず高い光電変換効率が得られること、及び、耐久試験実施後も液漏れが発生しないことを確認するものとした。
【0211】
前記「光電変換素子1〜30」と「比較用光電変換素子1、2」を用いて下記評価を行った。評価は、市販のソーラシミュレータ「WXS−85−H((株)ワコム電創製)」により形成される照射強度100mW/cmの擬似太陽光を各光電変換素子に照射することにより行ったものである。前記擬似太陽光は、前記ソーラシミュレータによりキセノンランプ光をAMフィルタ(AM1.5)に通過させて形成されたものである。
【0212】
最初に、室温環境(温度20℃)下で前記擬似太陽光照射時における各光電変換素子の電流−電圧特性を、市販のI−Vテスタを用いて測定して、短絡電流値Iscと開放電圧Voc、及び、電流−電圧特性グラフより形状係数FFを算出した。そして、これらの値を用いて後述する計算式より光電変換効率を算出した。次に、温度85℃の暗所下に240時間放置した後、再び上記と同じ条件で擬似太陽光照射を行い、短絡電流値Iscと開放電圧Voc、形状係数FFを算出して光電変換効率を算出した。この様にして光電変換効率の変動を評価するとともに、暗所保存後における液漏れ発生の有無を評価した。
【0213】
ここで、「光電変換素子1〜30」を用いて行った評価を「実施例1〜30」、「比較用光電変換素子1、2」を用いて行った評価を「比較例1、2」とした。また、評価項目中の「開放電圧」とは、光電変換素子に電圧負荷をかけたときに電流が流れなくなる電圧のことをいうものである。また、「短絡電流」とは、光電変換素子に電圧負荷をかけていない状態の時に流れる電流のことをいうもので、本発明の課題である「正孔輸送物質が光電変換層に過剰に浸透することにより発生する短絡」でいう「短絡」とは無関係のものである。さらに、「形状係数FF」は、後述する光電変換効率を測定する際の電圧−電流特性グラフにおいて、Pmaxを短絡電流値Iscと開放電圧Vocの積で除して得られる値である。なお、図2に「形状係数FF」の数値と「電圧−電流特性グラフ」の形状との関係を示す。
【0214】
また、評価項目中の光電変換効率は、下記式より算出されるものである。
【0215】
(光電変換効率を算出する計算式)
すなわち、前記ソーラシミュレータより、AM1.5フィルタ、照射強度100mW/cmの疑似太陽光を照射したときに得られる各光電変換素子の短絡電流密度をJsc(mA/cm)、開放電圧をVoc(V)、形状係数をFF(%)としたときの光電変換効率η(%)は、
η(%)=Jsc(mA/cm)×Voc(V)×FF(%)
より算出される。
【0216】
以上の結果を表2に示す。すなわち、
【0217】
【表2】

【0218】
表2に示す様に、本発明の構成を有する「光電変換素子1〜30」を用いた「実施例1〜30」は、初期及び擬似太陽光照射後のいずれも、開放電圧、短絡電流値、光電変換効率が変動せず、光電変換効率の向上と短絡の発生防止を発現した。また、暗所保存後に液漏れが発生するものはなかった。一方、本発明の構成を有さない「比較用光電変換素子1、2」を用いた「比較例1、2」は、初期段階より短絡が発生して良好な光電変換効率が得られないものや暗所保存後に液漏れが発生するものがある等、安定した性能を発現することが困難なものであった。
【符号の説明】
【0219】
1 光電変換素子
2 基体
3 第1電極
4 第2電極
5 光電変換層
6 正孔輸送層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基体、第1電極、光電変換層、正孔輸送層、第1電極に対向させて配置された第2電極を、この順に設置してなる光電変換素子であって、
前記光電変換層は、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物を担持させた半導体材料を含有するものであるとともに、
前記正孔輸送層は、少なくとも芳香族アミン化合物を含有するものであることを特徴とする光電変換素子。
【化1】

〔式中、Arは置換または未置換のアリーレン基、RとRは置換または未置換のアルキル基またはアリール基を表し、Ar、R、Rは互いに連結して環状構造を形成してもよい。RとRは水素原子、置換または未置換のアルキル基を表す。Rは酸性基Xで置換された置換または未置換のアルコキシ基、チオアルコキシ基、セレノアルキキシ基を表し、mは1以上の整数を表す。mが2以上の場合、酸性基Xは同じものでも異なるものであってもよい。〕
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【化2】

〔式中、Arは置換または未置換のアリーレン基、RとRは置換または未置換のアルキル基またはアリール基を表し、Ar、R、Rは互いに連結して環状構造を形成してもよい。RとRは水素原子、置換または未置換のアルキル基を表す。また、Yはイオウ原子、酸素原子、セレン原子のいずれかを表し、RとRは水素原子を表す。nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表す。〕
【請求項3】
前記一般式(2)で表される化合物中のYで表される部位がイオウ原子であることを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記一般式(1)または(2)で表される化合物中のRで表される部位が水素原子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記一般式(1)または(2)で表される化合物が下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化3】

〔式中、Rは水素原子、置換または未置換のアルキル基またはシアノ基を表し、RとRは水素原子を表す。nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表す。また、R、Rは置換、未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基を表す。n8、n9は1〜5の整数を表し、n8、n9が2以上の場合、R、Rは同じものでも異なるものであってもよい。〕
【請求項6】
前記一般式(1)または(2)で表される化合物が、下記一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化4】

〔式中、Rは水素原子、置換または未置換のアルキル基またはシアノ基を表し、RとRは水素原子を表す。nは1以上の整数を表し、Xは酸性基を表す。また、Rは置換、未置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基または複素環基を表す。n9は1〜5の整数を表す。〕
【請求項7】
前記正孔輸送層に含有される芳香族アミン化合物は、分子量が500以上2000以下のものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−96436(P2011−96436A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247574(P2009−247574)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】