説明

光電変換装置

【課題】裏面電極層の硫化による反射率の低下を抑制し、光電変換装置の長期的な性能を向上させる。
【解決手段】光電変換ユニットであるa−Siユニット202及びμc−Siユニット204と、光電変換ユニットに形成された裏面電極層26とを設け、裏面電極層26は、銀を含む第2領域26bと、第2領域26b上に積層された阻止領域である第3領域26cと、第3領域26c上に積層され、第2領域26bより薄い犠牲領域である第4領域26dと、第4領域26d上に積層された保護領域である第5領域26eと、の積層構造を含み、第3領域26cは、第5領域26eより硫黄を透過し難い材料から構成し、第4領域26dは、第3領域26cより硫黄と化学反応し易い材料から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を利用した発電システムとして、アモルファスや微結晶等の半導体薄膜を積層した光電変換装置が用いられている。
【0003】
図5に、光電変換装置100の基本構成の断面模式図を示す。光電変換装置100は、ガラス等の基板10上に表面電極層12、光電変換ユニット14及び裏面電極層16を積層して形成される。基板10を透明基板として基板10側から光を入射させる場合、表面電極層12は透明導電膜(TCO)で構成される。また、裏面電極層16は、透明導電膜と金属膜との積層構造とされることもある。
【0004】
裏面電極層16の金属膜として光反射率の高さ等から銀(Ag)が用いられることが多い。しかしながら、銀は、空気に曝されると空気中の硫黄含有物(例えばSOx)と反応し、表面に銀硫化物を生成して変質・劣化し易い。そこで、裏面電極層16として、銀系の金属層と、金、白金、アルミニウム、チタン、酸化シリコン、酸化アルミニウム及び酸化亜鉛を含む保護層とを積層した構成が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−53305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の硫化反応は、銀の表面上をチタン等の保護層で被った場合であっても、保護層を通して経時的に進行し、最終的には銀の層内部まで至ることがある。そこで、銀の硫化をより抑制できる裏面電極層の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、光電変換ユニットと、光電変換ユニット上に形成された裏面電極層と、を備え、裏面電極層は、銀を含む反射領域と、反射領域上に積層された阻止領域と、阻止領域上に積層され、反射領域より薄い犠牲領域と、犠牲領域上に積層された保護領域と、の積層構造を含み、阻止領域は、保護領域より硫黄を透過し難い材料から構成され、犠牲領域は、阻止領域より硫黄と化学反応し易い材料から構成される、光電変換装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、裏面電極層に含まれる銀系金属層の硫化を抑制し、光電変換装置の性能の向上を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態における光電変換装置の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における裏面電極層の構造を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における裏面電極層の形成装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における光電変換装置の変換効率の経時的な変化を示す図である。
【図5】従来の光電変換装置の構造を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態における光電変換装置のSIMS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態における光電変換装置200は、図1に示すように、基板20を光入射側として、光入射側から、表面電極層22、トップセルとして広いバンドギャップを有するアモルファスシリコン光電変換ユニット(a−Siユニット)202、中間層24、ボトムセルとしてa−Siユニット202よりバンドギャップの狭い微結晶シリコン光電変換ユニット(μc−Siユニット)204、裏面電極層26、充填材28及びバックシート30を積層した構造を有している。
【0011】
本実施の形態では、発電層である光電変換ユニットとして、a−Siユニット202及びμc−Siユニット204を積層したタンデム型光電変換装置を例に説明を行うが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、シングル型光電変換装置やさらに多層の光電変換装置であってもよい。
【0012】
基板20は、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等の少なくとも可視光波長領域において透過性を有する材料を適用することができる。
【0013】
基板20上に表面電極層22が形成される。表面電極層22は、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等に錫(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)等をドープした透明導電性酸化物(TCO)のうち少なくとも一種類又は複数種を組み合わせて用いることが好適である。特に、酸化亜鉛(ZnO)は、透光性が高く、抵抗率が低く、耐プラズマ特性にも優れているので好適である。
【0014】
光電変換装置200を複数のセルを直列に接続した構成とする場合、表面電極層22を短冊状にパターニングする。例えば、波長1064nm、エネルギー密度13J/cm2、パルス周波数3kHzのYAGレーザを用いて表面電極層22を短冊状にパターニングすることができる。
【0015】
表面電極層22上に、p型層、i型層、n型層のシリコン系薄膜を順に積層してa−Siユニット202を形成する。a−Siユニット202は、シラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、ジクロルシラン(SiH2Cl2)等のシリコン含有ガス、メタン(CH4)等の炭素含有ガス、ジボラン(B26)等のp型ドーパント含有ガス、フォスフィン(PH3)等のn型ドーパント含有ガス及び水素(H2)等の希釈ガスを混合した混合ガスをプラズマ化して成膜を行うプラズマ化学気相成長法(CVD法)により形成することができる。
【0016】
プラズマCVD法は、例えば、13.56MHzのRFプラズマCVD法を適用することが好適である。RFプラズマCVD法は平行平板型とすることができる。平行平板型の電極のうち基板20を配しない側には原料の混合ガスを供給するためのガスシャワー孔を設けた構成としてもよい。プラズマの投入電力密度は、5mW/cm2以上300mW/cm2以下とすることが好ましい。
【0017】
p型層は、p型ドーパント(ボロン等)を添加した膜厚5nm以上50nm以下のアモルファスシリコン層、微結晶シリコン薄膜、微結晶炭化シリコン薄膜等の単層又は積層構造とする。p型層の膜質は、シリコン含有ガス、p型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。i型層は、p型層上に形成されたドーパントが添加されていない膜厚50nm以上500nm以下のアモルファスシリコン膜とする。i型層の膜質は、シリコン含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。i型層は、a−Siユニット202の発電層となる。n型層は、i型層上に形成されたn型ドーパント(リン等)を添加した膜厚10nm以上100nm以下のn型微結晶シリコン層(n型μc−Si:H)とする。n型層の膜質は、シリコン含有ガス、炭素含有ガス、n型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。これに限定されるものではないが、例えば、表1に示す成膜条件でa−Siユニット202を成膜することができる。
【0018】
【表1】

【0019】
a−Siユニット202上に、中間層24を形成する。中間層24は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化シリコン(SiOx)等の透明導電性酸化物(TCO)を用いることが好適である。特に、マグネシウム(Mg)がドープされた酸化亜鉛(ZnO)や酸化シリコン(SiOx)を用いることが好適である。中間層24は、例えば、スパッタリング等により形成することができる。中間層24の膜厚は10nm以上200nm以下の範囲とすることが好適である。なお、中間層24は、設けなくてもよい。
【0020】
中間層24上に、p型層、i型層、n型層を順に積層したμc−Siユニット204を形成する。μc−Siユニット204は、シラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、ジクロルシラン(SiH2Cl2)等のシリコン含有ガス、メタン(CH4)等の炭素含有ガス、ジボラン(B26)等のp型ドーパント含有ガス、フォスフィン(PH3)等のn型ドーパント含有ガス及び水素(H2)等の希釈ガスを混合した混合ガスをプラズマ化して成膜を行うプラズマCVD法により形成することができる。
【0021】
プラズマCVD法は、a−Siユニット202と同様に、例えば、13.56MHzのRFプラズマCVD法を適用することが好適である。RFプラズマCVD法は平行平板型とすることができる。平行平板型の電極のうち基板20を配しない側には原料の混合ガスを供給するためのガスシャワー孔を設けた構成としてもよい。プラズマの投入電力密度は、5mW/cm2以上300mW/cm2以下とすることが好ましい。
【0022】
p型層は、膜厚5nm以上50nm以下のp型ドーパント(ボロン等)が添加された微結晶シリコン層(μc−Si:H)とする。p型層の膜質は、シリコン含有ガス、p型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。
【0023】
i型層は、p型層上に形成された膜厚0.5μm以上5μm以下のドーパントが添加されていない微結晶シリコン層(μc−Si:H)である。i型層の膜質は、シリコン含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。
【0024】
n型層は、膜厚5nm以上50nm以下のn型ドーパント(リン等)が添加された微結晶シリコン層(n型μc−Si:H)を積層して構成される。n型層の膜質は、シリコン含有ガス、n型ドーパント含有ガス及び希釈ガスの混合比、圧力及びプラズマ発生用高周波パワーを調整することによって変化させることができる。これに限定されるものではないが、例えば、表2に示す成膜条件でμc−Siユニット204を成膜することができる。
【0025】
【表2】

【0026】
複数のセルを直列接続する場合、a−Siユニット202、中間層24及びμc−Siユニット204を短冊状にパターニングする。表面電極層22のパターンニング位置から50μm横の位置にYAGレーザを照射してスリットを形成し、a−Siユニット202及びμc−Siユニット204を短冊状にパターニングする。YAGレーザは、例えば、エネルギー密度0.7J/cm2、パルス周波数3kHzのものを用いることが好適である。
【0027】
μc−Siユニット204上に、裏面電極層26を形成する。本実施の形態では、裏面電極層26は、図2に示すように、コンタクト領域となる第1領域26a、反射性金属からなる第2領域26b、硫化物の透過を抑制する阻止層となる第3領域26c、硫化物と反応する犠牲層となる第4領域26d及び裏面電極層26の保護層となる第5領域26eの積層構造を含むことが好適である。また、裏面電極層26には、光閉じ込め効果を高めるための凹凸を設けることが好適である。
【0028】
第1領域26aは、光電変換ユニットとのコンタクト抵抗の抑制及び光電変換ユニットを透過してくる光を反射し、再び光電変換ユニットへ導入する反射特性を向上させるためのコンタクト層としても設けられる。第1領域26aは、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等に錫(Sn)、アンチモン(Sb)、フッ素(F)、アルミニウム(Al)等をドープした透明導電性酸化物(TCO)のうち少なくとも一種類又は複数種を組み合わせて用いることが好適である。特に、酸化亜鉛(ZnO)は、透光性が高く、抵抗率が低く、耐プラズマ特性にも優れているので好適である。また、導電性を高めるために、0.1重量%以上のアルミニウム(Al)又はガリウム(Ga)を添加することが好適である。第1領域26aの膜厚は、30nm以上150nm以下とすることが好適である。
【0029】
第2領域26bは、反射性の金属層であり、光電変換ユニットを透過してくる光を反射し、再び光電変換ユニットへ導入するために設けられる。第2領域26bは、光電変換ユニットで利用される光の波長領域での反射率を考慮して銀(Ag)が用いられる。第2領域26bの膜厚は、100nm以上200nm以下とすることが好適である。
【0030】
第3領域26cは、外部から第2領域26bへの硫化物の浸入を防ぐ阻止層として設けられる。第3領域26cは、少なくとも第5領域26eより硫化物の透過し難い材料から構成される。第3領域26cは、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)を含む材料とすることが好ましく、導電性の材料として透明導電性酸化物(TCO)である酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウム錫酸化物(ITO)等を用いることが好適である。また、第3領域26cは、第1領域26aと同じ材料で構成することが好適である。第3領域26cの膜厚は、0.1nm以上5nm以下とすることが好適である。
【0031】
第4領域26dは、外部からの硫化物と化学反応し、第3領域26cへの硫化物の到達を妨げる犠牲層として設けられる。第4領域26dは、少なくとも第3領域26cより硫化物と反応し易い物質を含むことが好ましい。具体的には、銀(Ag)を含む材料とすることが好ましい。また、第4領域26dは、第2領域26bの硫化を防ぐために自ら硫化される犠牲層として機能するので、第2領域26bより薄い層とすることが好適である。また、第4領域26dは、第2領域26dと同じ材料で構成することが好適である。第4領域26dの膜厚は、0.1nm以上5nm以下とすることが好適である。
【0032】
第5領域26eは、裏面電極層26の保護層として設けられる。第5領域26eは、外部からの硫化物の浸入を防ぐことができる材料を含むことが好ましく、例えば、チタン(Ti)、金(Au)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(AlxOy)及び酸化亜鉛(ZnO)とすることが好適である。第5領域26eの膜厚は、5nm以上50nm以下とすることが好適である。
【0033】
なお、第1領域26a〜第5領域26eは、二次イオン質量分析法(SIMS)により調べることが可能である。すなわち、裏面電極層26の膜厚方向に沿って元素の組成を調べることによって、第1領域26a〜第5領域26eの積層構造を確認することができる。
【0034】
第1領域26a〜第5領域26eは、スパッタリング等の成膜手段により形成することができる。例えば、図3に示すように、第1領域26a〜第5領域26eを連続的に成膜することが可能なインラインスパッタ装置により形成される。インラインスパッタ装置は、ロードロック室40、予備室42、成膜室44a〜44e、予備室46及びアンロードロック室48が連続して配置された構造を有する。全体が真空に排気されたインラインスパッタ装置内において、ロードロック室40から導入された基板10(光電変換ユニットまで形成された基板10)を予備室42を介して成膜室44a〜44eへ移動させつつ第1領域26a〜第4領域26dを順に成膜し、その後、予備室46及びアンロードロック室48を介して基板10を取り出すことにより裏面電極層26を形成する。
【0035】
成膜室44a〜44eには、第1領域26a〜第4領域26dの原料となるターゲット50a〜50eが配置されており、成膜室44a〜44eにおいてアルゴンや窒素等のプラズマをそれぞれ発生させ、プラズマによってターゲット50a〜50eをスパッタして基板10上に成膜させる。このとき、図3中の左側から順に、第1領域26aの原料となるターゲット50a、第2領域26bの原料となるターゲット50b、第3領域26cの原料となるターゲット50c、第4領域26dの原料となるターゲット50d及び第5領域26eの原料となるターゲット50eを配置し、基板10を図中左側から右側へと移動させながらスパッタリングを行うことによって、第1領域26a〜第5領域26eの積層構造を形成することができる。
【0036】
ここで、第3領域26c及び第4領域26dの成膜時は、第1領域26a、第2領域26b及び第4領域26dの成膜時に比べてプラズマ生成のための投入電力を小さくすることが好適である。これにより、第3領域26c及び第4領域26dは、第1領域26a、第2領域26b及び第4領域26dに比べて微弱なプラズマによるスパッタリングによって第1領域26a、第2領域26b及び第4領域26dより薄い膜として成膜される。
【0037】
光電変換装置200を複数のセルを直列に接続した構成とする場合、裏面電極層26を短冊状にパターニングする。a−Siユニット202及びμc−Siユニット204のパターンニング位置から50μm横の位置にYAGレーザを照射してスリットを形成し、裏面電極層26を短冊状にパターニングする。YAGレーザは、エネルギー密度0.7J/cm2、パルス周波数4kHzのものを用いることが好適である。
【0038】
さらに、充填材28によって裏面電極層26の表面をバックシート30で被う。充填材28及びバックシート30は、EVA、ポリイミド等の樹脂材料とすることができる。これによって、光電変換装置200の発電層への水分の侵入等を防ぐことができる。
【0039】
次に、光電変換装置200における裏面電極層26の効果について説明する。図4は、a−Siユニット202及びμc−Siユニット204を積層したタンデム型光電変換装置に各種の裏面電極層を適用した場合における光電変換効率の経時的な変化について示す。なお、経時的な変化は、高温高湿環境下での光電変換装置の劣化度合いを経時的に評価したものである。図中、太い実線(◆シンボル)は本願実施の形態における4層積層の裏面電極層26を適用した試料1についての測定結果であり、太い破線(○シンボル)は別の成膜装置で第1領域26a及び第2領域26bを形成した後に同様のインラインスパッタ装置により、第3領域26c、第4領域26d、第5領域26eを形成した試料2についての測定結果であり、細い一点鎖線(■シンボル)は同様のインラインスパッタ装置により第1領域26a及び第2領域26bを形成した後に別の成膜装置で第3領域26cを形成した3層積層構造の裏面電極層とした試料3についての測定結果であり、細い点線(△シンボル)は同様のインラインスパッタ装置により第1領域26a、第2領域26b及び第5領域26eを形成した3層積層構造の裏面電極層とした試料4についての測定結果である。試料4は、第1領域26a、第2領域26b及び第5領域26eをこの順で他の層を介在させることなく形成した裏面電極層であり、従来の裏面電極層の構成を適用した試料に相当する。
【0040】
図4から、試料1及び2では変換効率の経時的な劣化が試料4より小さくなった。特に、試料1では、変換効率の経時的劣化の抑制効果が顕著であった。これは、阻止層である第3領域26c及び犠牲層である第4領域26dによって反射層となる第2領域26bの硫化が抑制され、裏面電極層26全体としての反射率の経時的な劣化が抑制されたためと推考される。このとき、犠牲層となる第4領域26dは、保護層である第5領域26eを通って浸入する硫化物と反応し、その結果として硫化物が第3領域26cへ到達することを防ぐ役割を果たしていると考えられる。これにより、阻止層である第3領域26cは、第4領域26dによって減少させられた硫化物の浸入を阻止すればよく、第2領域26bへの硫化物の浸入を効果的に抑制することができる。また、阻止層である第3領域26cは、第4領域26dによって減少させられた硫化物の浸入を阻止すればよいので、単に第3領域26cのみによって第2領域26bの硫化を防止する場合に比べて、第3領域26cの薄膜化が可能になる。
【0041】
以上のように、本実施の形態によれば、裏面電極層の硫化による反射率の低下を抑制することができ、光電変換装置の長期的な性能を向上させることができる。
【0042】
なお、本実施の形態では、第1領域26a〜第5領域26eまでを1つのインラインスパッタ装置により形成する態様としたが、これに限定されるものではなく、いずれかの領域を別の装置で形成するものとしてもよい。例えば、第3領域26cが第1領域26aと同じ材料で構成される場合には、第1領域26a及び第2領域26bを形成した後、第1領域26aを形成した装置において第1領域26aの形成時よりプラズマ電力を下げたスパッタリングにより第3領域26cを形成してもよい。また、第4領域26dが第2領域26bと同じ材料で構成される場合には、第1領域26a〜第3領域26cを形成した後、第2領域26bを形成した装置において第2領域26bの形成時よりプラズマ電力を下げたスパッタリングにより第4領域26dを形成してもよい。
【0043】
また、第2領域26bから第5領域26eまでを連続的に形成する代りに、第2領域26bを形成後、一旦インライン成膜装置から基板を取り出し、その後、インライン成膜装置に戻して第3領域26cから第5領域26eまでを形成することが好適である。
【0044】
図6は、ガラス基板上に酸化亜鉛(ZnO)、銀(Ag)及びチタン(Ti)を連続的に形成した試料1と、酸化亜鉛(ZnO)及び銀(Ag)を連続的に形成した後、一旦インライン成膜装置から基板を取り出し、その後、再びインライン成膜装置に戻して、極薄膜の第3領域26c及び第4領域26dを介在させた上でチタン(Ti)を形成した試料2の二次イオン質量分析法(SIMS)による硫黄(S)の濃度測定結果を示す。
【0045】
図6に示されるように、試料1では、チタン(Ti)と銀(Ag)との境界(界面)を超えて硫黄(S)が入り込んでいる。これに対して、試料2では、第5領域26eであるチタン(Ti)と第2領域26bである銀(Ag)との境界付近(第3領域26cと第4領域26dに相当する部分)に硫黄(S)が留まり、硫黄(S)がより深く浸入することを抑制できている。
【0046】
また、表3は、試料1及び2と同様の条件で形成した裏面電極層26を有する光電変換装置200をそれぞれ試料3及び4として、試料3及び4の各特性値の経時的変化について測定した結果を示す。表3は、光電変換装置200形成時の各特性値に対する1年経過後の各特性値の割合(パーセンテージ)を示している。
【表3】

【0047】
表3に示されるように、試料3のように銀(Ag)及びチタン(Ti)を連続的に形成した試料に比べて、試料4のように銀(Ag)を形成した後、一旦インライン成膜装置から基板を取り出し、その後、再びインライン成膜装置に戻して、第3領域26c及び第4領域26dを介在させた上でチタン(Ti)を形成した試料では、開放電圧Voc、最大電力値Pmax、最大電流値Ipm、曲線因子FF及び発電効率ηの低下が抑制された。特に、こうした試料(試料4)では、最大電流値Ipm及び曲線因子FFは、光電変換装置200の形成時より1年経過後において特性が向上した。
【符号の説明】
【0048】
10 基板、12 表面電極層、14 光電変換ユニット、16 裏面電極層、20 基板、22 表面電極層、24 中間層、26 裏面電極層、26a 第1領域、26b 第2領域、26c 第3領域、26d 第4領域、26e 第5領域、28 充填材、30 バックシート、40 ロードロック室、42 予備室、44a〜44d 成膜室、46 予備室、48 アンロードロック室、50a〜50e ターゲット、100,200 光電変換装置、202 a−Siユニット、204 μc−Siユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換ユニットと、
前記光電変換ユニット上に形成された裏面電極層と、
を備え、
前記裏面電極層は、銀を含む反射領域と、前記反射領域上に積層された阻止領域と、前記阻止領域上に積層され、前記反射領域より薄い犠牲領域と、前記犠牲領域上に積層された保護領域と、の積層構造を含み、
前記阻止領域は、前記保護領域より硫黄を透過し難い材料から構成され、
前記犠牲領域は、前記阻止領域より硫黄と化学反応し易い材料から構成される
ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光電変換装置であって、
前記阻止領域は、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)の少なくとも1つを含むことを特徴とする光電変換装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光電変換装置であって、
前記犠牲領域は、銀を含むことを特徴とする光電変換装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換装置であって、
前記保護領域は、チタンを含むことを特徴とする光電変換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−256828(P2012−256828A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262152(P2011−262152)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】