説明

光電子素子及びその製造方法

【課題】第1及び第2の電極間に設けられた発光材料を、第1及び第2の電極と発光材料との間を電荷キャリアが移動できるように含む発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、第1及び第2の電極の間に設けられたポリマー・ブレンドの層を含み、発光材料から放出された光の伝搬を所定の方向に制御するために、ポリマー・ブレンドの少なくとも一部においてポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離が生じている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、及び光起電力又は光検出素子等のポリマー光/電子素子、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー光電子素子は、通常、電極間に設けられた光電子的に活性なポリマー材料から成る層を備えており、電極と光電子的活性材料との間を電荷キャリアが移動できるようになっている。発光素子は、電極から注入された電荷キャリアがポリマー材料内で結合して減衰することで動作し、そのプロセスの結果として光を放出する。光起電力素子は、ポリマー材料上へ光が入射したときにそのポリマー材料内部に電荷キャリア対を生成する動作をし、電荷キャリア対が分離しそれぞれの電極に電荷キャリアが移動することで、電極間に電位を発生させる。光検出器は、外部回路内に入射光の強度に比例して誘導される電流が所望の出力であることを除いて、光起電力素子のそれと同じ基本原理で動作する。光検出器は、それらが本質的に短絡回路とされる回路(電極対電極)又は「検出効率」を増大させるために外部バイアスが素子の両端に印加される回路の中に含まれることが多い。
【0003】
電極と光電子的活性材料との間での電荷キャリアの移動を促進するために、光電子的活性層と電極の一方又は両方との間にポリマー電荷輸送層を設けることが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、有用な光電子素子構造とその製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の特徴によれば、第1及び第2の電極間に設けられた発光材料を備え、第1及び第2の電極と発光材料との間を電荷キャリアが移動できるようにした発光素子であって、第1及び第2の電極の間に設けられたポリマー・ブレンドの層を含み、前記発光材料から放出された光の伝搬を所定の方向に制御するために、前記ポリマー・ブレンドの少なくとも一部において前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離が生じていることから成る発光素子が提供される。
【0006】
この素子の一実施形態においては、ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離は、発光材料から放出された光の伝搬を第1及び第2の電極間の方向に制御するように、ポリマー・ブレンドの少なくとも一部において生じている。別の実施形態においては、ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離は、発光材料から放出された光の伝搬をポリマー・ブレンド層の平面に平行な方向に制御するように、ポリマー・ブレンドの少なくとも一部において生じている。
【0007】
また、第1及び第2の電極間に設けられた発光材料を備え、前記第1及び第2の電極と前記発光材料との間を電荷キャリアが移動できるようにした発光素子の製造方法であって、
前記第1電極を含む基板上に流体の形態でポリマー・ブレンドの層を被着(deposit) させるステップであって、前記ポリマー・ブレンドが前記発光材料を含むステップと、
使用中に、前記発光材料から放出された光の伝搬を所定の方向に制御するために、前記ポリマー・ブレンド中に制御された態様で相分離を生じさせるステップと、
前記第2電極を前記ポリマー・ブレンド層上に被着させるステップとから成る発光素子の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の特徴によれば、ポリマー・ブレンドの層を含んで成り、前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離によって2つ以上の集積された光及び/又は電子コンポーネントが定められる光素子が提供される。
【0009】
一実施形態においては、素子は、発光用の第1コンポーネントと、使用中に前記発光コンポーネントから放出された光を所定の方向にガイドし及び/又は前記発光コンポーネントから放出された光を変調するための光ガイド/変調用の第2コンポーネントとを備え、前記第1及び第2のコンポーネントは、ポリマー・ブレンドの単一層内において、前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの制御された相分離によって定められている。別の実施形態においては、光電子素子は、光検出用の第1コンポーネントと、使用中に光を前記第1コンポーネントにガイドするための光ガイド用の第2コンポーネントとを備え、前記第1及び第2のコンポーネントは、ポリマー・ブレンドの単一層内において、前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの制御された相分離によって定められている。
【0010】
本発明の第3の特徴によれば、制御された相分離がなされたポリマー・ブレンド層の製造方法であって、有機基板を用意すること、前記基板表面の選択された部分の表面エネルギーをプラズマ処理によって変更して、前記基板の有機表面を表面エネルギーの異なる領域にパターニングすること、及び異なる前記表面エネルギーの影響を受けて前記ポリマー・ブレンドが相分離することを可能にする条件下で、パターニングされた前記基板表面上に流体の形態で前記ポリマー・ブレンドを被着させることから成るポリマー・ブレンド層の製造方法が提供される。
【0011】
また制御された相分離がなされたポリマー・ブレンド層の製造方法であって、有機基板を用意すること、前記基板の有機表面をプラズマ処理によって活性化すること、活性化された前記基板表面の選択された部分上にカウンタ(counter) 層を形成して、前記基板表面を表面エネルギーの異なる領域にパターニングすること、及び異なる前記表面エネルギーの影響を受けて前記ポリマー・ブレンドが相分離することを可能にする条件下で、パターニングされた前記基板表面上に流体の形態で前記ポリマー・ブレンドを被着させることを含むポリマー・ブレンド層の製造方法が提供される。
【0012】
上記カウンタ層は、それが形成される基板部分の表面エネルギーを変更する機能を果たす。
【0013】
第1ポリマーと第2ポリマーとを含むポリマー・ブレンドからなる制御された相分離層の製造方法の一変形によれば、この製造方法は、第1及び第2のポリマーに対する化学親和性が異なる材料から成るシールド(shielding) 層を基板表面の選択された部分上に形成するステップと、第1及び第2のポリマーに対するシールド層の異なる化学親和性の影響を受けてポリマー・ブレンドが相分離することを可能にする条件下で、パターニングされた基板表面上に流体の形態でポリマー・ブレンドを被着させるステップとを含む。
【0014】
この方法を用いて光素子、電子素子、又は光電子素子を作製する場合、シールド層又はカウンタ層の材料及び/又は厚みは、完成した素子の基本的な機能にそれらが実質的に影響を及ぼさないように選択される。素子が動作するために電荷キャリアがシールド層又はカウンタ層を通って移動することが必要となる特定の光電子素子又は電子素子の場合においては、シールド層又はカウンタ層の材料及び/又は厚みは、層を横切る電荷キャリアの移動が通常の動作条件下において妨げられないように選択される。
【0015】
本発明の第4の特徴によれば、第1及び第2の電極構造間に設けられたボディを、前記ボディと前記第1及び第2の電極構造との間を電荷キャリアが移動できるように含んでな成るポリマー光電子素子であって、前記ボディは平面アレイの活性領域を非活性マトリックス中に含み、前記アレイはポリマー・ブレンドの層内において前記ポリマー・ブレンドの制御された相分離によって定められ、前記電極構造は、使用中に各活性領域を独立にアドレス指定できるようにパターニングされているポリマー光電子素子が提供される。
【0016】
本発明の第5の特徴によれば、第1の型の電荷キャリアを受け取るための第1表面と第2の型の電荷キャリアを受け取るための第2表面とを有するポリマー・ブレンド層を備え、前記ポリマー・ブレンドは光電子的に活性な第1ポリマーと電荷輸送用の第2ポリマーとを含んで成る光電子素子であって、使用中に前記ポリマー・ブレンド層内への電荷キャリアの受け入れを促進するため前記第1表面に隣接する前記ポリマー・ブレンド層の部分が相対的に高い比率で前記第2ポリマーを含むように、前記第1及び第2のポリマーの相対比率が前記ポリマー・ブレンド層内で変化する光電子素子が提供される。
【0017】
前記ポリマー・ブレンドは更に電荷輸送用の第3ポリマーを含んでおり、この場合、使用中に前記ポリマー・ブレンド層内への第1の型の電荷キャリアの受け入れを促進するため第1表面に隣接する前記ポリマー・ブレンド層の部分が前記第2ポリマーを相対的に高い比率で含むように、及び使用中に前記ポリマー・ブレンド層内への第2の型の電荷キャリアの受け入れを促進するため第2表面に隣接する前記ポリマー・ブレンド層の部分が前記第3ポリマーを相対的に高い比率で含むように、前記第1、第2及び第3のポリマーの相対比率が前記ポリマー・ブレンド層内で変化している。
【0018】
用語「相対的に高い比率」は、ポリマー・ブレンド層の個々の部分が、ポリマー・ブレンド層の他の部分よりも、個々のポリマーを多く含むことを示す。それぞれの個々の部分は、実質的に個々のポリマーからなることが好ましい。
【0019】
また、光電子的に活性な第1ポリマーと電荷輸送用の第2ポリマーとを含んでなるポリマー・ブレンド層を第1及び第2の電気接点間に設けている光電子素子の製造方法であって、前記第1電気接点を含む基板を用意するステップと、前記基板の第1表面上に前記ポリマー・ブレンドを流体の形態で被着させるステップと、前記ポリマー・ブレンドを固化させるステップと、固化された前記ポリマー・ブレンド層上に前記第2接点を形成するステップとを含み、前記基板の前記第1表面は前記第1ポリマーよりも前記第2ポリマーに対する親和性が大きくなるように選択され、前記基板上の前記ポリマー・ブレンドの固化は、結果として生じる前記ポリマー・ブレンド層が、使用中に前記第1接点と前記ポリマー・ブレンド層との間の電荷の輸送を促進するように前記基板の前記第1表面に隣接し前記第2ポリマーを相対的に高い比率で有する部分を含むように制御される方法が提供される。
【0020】
本方法の一実施形態においては、前記ポリマー・ブレンド層は、光電子的に活性な第1ポリマーと、電荷輸送用の第2ポリマーと、電荷輸送用の第3ポリマーとを含み、前記基板の第1表面は、前記第1ポリマーよりも前記第2ポリマーに対する親和性が大きいが、前記第1ポリマーよりも前記第3ポリマーに対する親和性が小さくなるように選択され、前記基板上の前記ポリマー・ブレンドの固化は、結果として生じる前記ポリマー・ブレンド層が、使用中に前記第1接点と前記ポリマー・ブレンド層との間の電荷の輸送を促進するように前記第2ポリマーを相対的に高い比率で有する前記基板の前記第1表面に隣接する第1部分と、前記第1部分に対向し且つ使用中に前記第2接点と前記ポリマー・ブレンド層との間の電荷の輸送を促進するように前記第3ポリマーを相対的に高い比率で有する第2部分とを含み、前記第1部分と前記第2部分とが前記第1ポリマーを相対的に高い比率で有する第3部分によって分離されるように制御されている。
【0021】
以下に本発明の実施形態を、例としてのみであるが、添付の図面を参照して、より詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1には、本発明の第1の実施形態による発光素子の模式的な断面図が示されている。ITOがコーティングされたガラス基板2には、そのITOコーティング表面上に、金のストリップ4が設けられている。F8BT(ポリ(9,9’ジオクチルフルオレン−コ−3,6−ベンゾチアジアゾール))(poly(9,9'-dioctylfluorene-co-3,6-benzothiadiazole))と、PFB(ポリ(9,9’−ジオクチルフルオレン−コ−ビス−N,N’−(4−ブチルフェニル)−ビス−N,N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン))(poly (9,9'-dioctylfluorene-co-bis-N ,N'-(4-butylphenyl)-bis-N,N'-phenyl-1,4-phenylenediamine)とからなる相分離されたブレンド6が、溶液コーティング・プロセスによって、基板2上に設けられている。ブレンドの相分離は、パターニングされた基板表面を反映している。主にF8BTからなる第1相8の列は、相対的に親和力のある(attractive)金ストリップの上に位置し、金ストリップ間のスペースのガラス表面上に位置するPFBが支配的な第2相10の列によって互いに分離されている。カルシウムなどの低い仕事関数を持つ金属の層12が、層分離されたポリマー・ブレンド層の上に設けられている。
【0023】
この素子の作動において、ITOは陽極として機能し、カルシウム層12は陰極として機能する。素子の両端に電位が印加されると、陽極及び陰極からポリマー・ブレンド層6内に電荷キャリアが注入され、ポリマー・ブレンド層6において電荷キャリアは再結合して減衰し、そのプロセスの結果として光を放出する。ポリマー・ブレンド6の層分離のパターニングが層内の光の伝搬に影響するので、素子の平面に対して垂直及び平面内に放出される光の分布が変更される。
【0024】
この素子は、以下の方法によって製造することができる。
【0025】
ガラス基板には、その一方の表面上に、蒸発させた金の層が設けられる。レジストを、コンタクト・マスクを通してUV輻射に曝してパターニングし、焼き付けし、そして現像液中ですすぐことによって、金の頂面上のレジストに所望するパターンのポジ像が作製される。次に、基板をエッチングして、露出する金が取り除かれ、その後、レジストが取り除かれた。金の厚みは、数100ナノメートルから約20nmであると考えられる。図2平面図において、この作製段階での素子が模式的に示されている。
【0026】
上記の方法に代えて、その上面全体に金層が設けられた基板の、ソフト・リソグラフィ・ベース(a soft lithography-based)の自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer)の表面改質によって、パターニングされた基板を製造することができる。パターンは、スタンピング表面上に物理的グレーティング(physical grating)を有するシリコーン・エラストマー・スタンプから作製しても良い。スタンプに、CH3-及びフッ素化された炭化水素で終端されたチオール溶液によって「インク付け」し、乾燥させ、その後に金表面と接触させる。スタンプ上の隆起ライン上に存在するインク分子のチオール端は、表面と接触している間に、金に付着して、この領域内の金の単層カバレッジ(monolayer coverage)を形成する。ラインの幅は、スタンピング圧力によってある程度まで制御することができる。このスタンピング・ステップによって、金表面上のスタンプされたラインは疎水性領域に変わる。この疎水性パターニングの後に、金コーティングされた基板をCOOH終端されたチオールを含む溶液中で洗浄する。この結果、最早この疎水性の単層によって既に覆われなくなっている金領域上には相対的に親水性の表面が形成されるため、相対的に親水性の領域と相対的に疎水性の領域とを有する基板表面が形成される。同じ終端の単層パターンを、他の付着化学反応によって形成することができる。これには、酸化された無機及び有機表面上へ疎水性/親水性パターンを形成するために用いることができるシリル化ベースの単層(silylation-based
monolayers )が含まれる。
【0027】
次に、F8BT:PFB(ポリ(9,9’−ジオクチルフルオレン−コ−ビス−N,N’−(4−ブチルフェニル)−ビス−N,N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン))の1:1(重量で)のブレンドの溶液の層が、パターニングされた表面上に被着される。この被着は、例えばポリマー・ブレンド溶液のスピン・コーティング又はドロップ・キャスティングによって行なうことができる。溶液濃度は、通常、スピン・コーティングの場合にはp−キシレンのリットル当たり15グラムの全ポリマーであり、ドロップ・キャスティング溶液の場合には1〜1.7g/Lであった。
【0028】
他のポリマー・ブレンド、例えば1:1(重量で)のF8BT:F8(ポリ(9,9’−ジオクチルフルオレン))ブレンドを用いても良い。この場合、ブレンドが、パターニングされた基板表面上に被着された後に、制御された相分離を受けるように、成分ポリマーの相対的な親水性を選ぶことが条件となる。ポリマー・ブレンド層の膜厚は、100〜200nmの範囲である。
【0029】
ブレンド比は、パターニングされた基板上の親水性表面領域部分の割合に従って、調整することができる。
【0030】
パターニングされた基板表面上に存在するポリマー・ブレンド溶液の層からの溶媒の除去は、ポリマー・ブレンドが基板表面上のパターンに従った相分離時間を持つように、制御される。パターニングされた基板上に溶液を落とした後の固化及び相分離の速度は、サンプルと溶媒リザーバとをガラス皿で覆ってサンプルからの溶媒の蒸発を遅くすることによって制限しても良い。場合によっては、溶媒が富化された雰囲気の下で溶液をパターニングされた基板表面上にスピン・コーティング又はドロップ・キャストしても良い。
【0031】
また、スピン・コーティングとアニーリングとの組み合わせによって、微細なパターン転写(サブ・ミクロン)を実現することができる。先ず、パターニングされた基板上に高ブレンド膜をスピン・コーティングすることによって揮発性溶媒から分離されて、非常に微細なナノ構造の相分離が得られるが、これは膜の深さ方向を通じて基板パターンにはまだ完全には追従していないことが考えられる。その後、溶媒蒸気が富化された雰囲気の存在下でアニーリング・ステップを行なうことによって、更なる相分離が進み基板パターンとの一致が得られる。
【0032】
最後に、蒸発技術によって、カルシウム等の低仕事関数金属の層が、相分離したポリマー・ブレンド層上に被着される。
【0033】
別の実施形態においては、発光素子は、例えばPEDOT:PSSのような正孔輸送ポリマー層を、ポリマー・ブレンドと陽極との間に備えている。PEDOT:PSS膜は、発光ダイオード構造において、ITO陽極からそれに続くポリマー層内への正孔注入を改善するために用いられている。この場合、パターニングされたPEDOT:PSSコーティング済み陽極基板を、以下のようにして作製しても良い。先ず最初に、PEDOT:PSS膜160を、酸素プラズマ処理されたITO/ガラス基板140上に、最初にスピン・コーティング、そして加熱(乾燥窒素下で)することによって形成する。次にPEDOT:PSS膜160を酸素プラズマ中で処理する。これは、その後のPEDOT:PSS表面上への自己組織化膜180,182の直接的なマイクロコンタクト・プリンティング(microcontact printing) を促進するためである。次に、マイクロコンタクト・プリンティング及び残りのステップを、例えば上述したように行なう。図10に、このような素子を模式的に示す。図10では、同様の構成要素を同一の参照数字によって示している。
【0034】
別の技術においては、プラズマ処理自体を用いて、PEDOT:PSS層をパターニングすることができる。この技術においては、PEDOT:PSS層の選択された領域のみがプラズマ処理を受けて、相対的に親水性の領域と相対的に疎水性の領域とのパターンが形成される。また別の技術においては、単一のマイクロコンタクト・プリンティング工程のみを行なってPEDOT:PSS層の選択された部分を覆い、マイクロ・コンタクト・プリントされた領域と覆われていないPEDOT:PSS領域との間での親水性の違いを用いて、ポリマー・ブレンドの所望する相分離を引き起こすことができる。
【0035】
図3は、本発明の別の実施形態による発光素子の模式的な断面図を示している。相分離されたポリマー・ブレンド14が、陽極基板12と陰極16との間に設けられている。ポリマーは、親水性の異なる3つの半導体共役ポリマーを含み、そのうちの少なくとも1つは発光ポリマーである。3つのポリマーの選択は、ポリマー・ブレンドの相分離を制御して図3に示すパターンを生成できるように行なわれる。即ち、3つのポリマーのうち主に第1ポリマーから成る第1相18の層が陽極基板12に隣接して位置し、3つのポリマーのうち主に第2ポリマーから成る第2相20の層が第1相18の層の上方に位置し、3つのポリマーのうち主に第3ポリマーから成る第3相22の層が第2相20の層の上方に位置するパターンである。本実施形態においては、陽極基板には均一な親水性又は疎水性を有する上面24が設けられ(親水性又は疎水性の度合いは、所望する相分離がポリマー・ブレンド中に生じるように選択される)、ポリマー・ブレンドの溶液がこの表面24上に被着され、上述したようにパターニングされたポリマー・ブレンド層が得られるように溶媒の除去が制御される。好ましい変形においては、第1ポリマーは陽極基板に隣接して正孔輸送層を提供する正孔輸送用ポリマーであり、第3ポリマーは陰極に隣接して電子輸送層を提供する電子輸送用ポリマーであり、第2ポリマーは電荷輸送層の間で発光層を提供する発光ポリマーである。
【0036】
作動においては、好適な電位が電極間に印加されたときに発光ポリマーから光が放出され、放出された光は、相分離されたポリマー・ブレンドのパターニングによって素子の層と実質的に平行な方向にガイドされる。
【0037】
図4及び図5は、本発明の代替的な実施形態による光電子素子の模式図を示している。図5を参照すると、素子は、パターニングされた陽極基板32と陰極34との間にポリマー・ブレンド層36を備えている。陽極基板32は、断面A−Aについての模式図である図4に示す態様で、ポリマー・ブレンドの相分離を起こすようにパターニングされる。ポリマー・ブレンドの相分離は、主に光電子的に活性な第1ポリマーからなる第1領域38と、主に光電子的に不活性な第2ポリマーからなる第2領域40とを形成するように制御される。第1領域によって、第1コンポーネントとしての発光領域42と、第2コンポーネントとしての第1導波管44と、第3コンポーネントとしての反射器46と、第4コンポーネントとしての第2導波管48とが定められている。作動においては、発光領域で放出された光は、導波管及び反射器によって素子の外へ予め決められた方向にガイドされる。この素子は、陽極基板を列ではなく図4に示すパターンに沿ってパターニングするということを除いて、図1に示す第1の実施形態と同じ一般的な方法で製造しても良い。陰極36を、単に光が発光領域38で放出されるようにパターニングしても良い。
【0038】
図6及び図7に、本発明による素子の別な実施形態の模式図を示している。図7を参照すると、相分離されたポリマー・ブレンド層56が、陽極基板52と陰極54との間に設けられている。ポリマー・ブレンド層の相分離は、図6に示す種類のパターンを生成するように生じている。即ち、主に発光性の第1ポリマーからなる複数の第1領域58が、主に非発光性の第2ポリマーからなるマトリックス状の第2領域60によって囲まれている。この素子は、陽極基板を、例えば相対的に疎水性の表面領域によって囲まれる規則的な2Dアレイの相対的に親水性の表面領域を有するようにパターニングすることを除いて、図1に示す素子と同じ一般的な方法で作製することができる。
【0039】
作動において、発光性の第1領域58のみから光が放出されるため、画素化されたディスプレイが規定される。陰極及び/又は陽極を、各発光領域を独立にアドレス指定できるようにパターニングしても良い。
【0040】
図8は、本発明の別の実施形態による素子の模式図を示す。相分離されたポリマー・ブレンド64が、陽極基板62と陰極66との間に設けられている。ポリマーは、親水性の異なる2つの半導体共役ポリマー、即ち発光性の第1ポリマーと正孔輸送用の第2ポリマーとを含んでいる。陽極基板は、その上に被着されるポリマー・ブレンドの溶液が図8に示す仕方で相分離を起こすように選択される。即ち、主に第2ポリマーからなる正孔輸送用の第1層68が陽極基板に隣接して位置し、主に第1ポリマーからなる発光性の第2層70が正孔輸送用の第1層を覆うように位置する。
【0041】
図9に示す変形例においては、ポリマー・ブレンドは、親水性の異なる3つの半導体共役ポリマー、即ち、正孔輸送用の第1ポリマー、発光性の第2ポリマー、及び電子輸送用の第3ポリマーを含む。3つのポリマーは、ポリマー・ブレンドの相分離を制御して図9に示すパターンを生成できるように選択される。即ち、そのパターンとは、主に第1ポリマーからなる第1相80を成す正孔輸送用の第1層が陽極基板62に隣接して位置し、主に第2ポリマーからなる第2相82を成す発光性の第2層が第1相80の層の上方に位置し、主に第3ポリマーからなる第3相84を成す電子輸送用の第3層が第2相82の層の上方に位置するパターンである。
【0042】
図8及び9に示す実施形態においては、陽極基板には、均一な親水性又は疎水性を有する上面24が備わっている。親水性又は疎水性の度合いは、所望する仕方でポリマー・ブレンドが層分離を起こすように選択される。ポリマー・ブレンドの溶液をこの表面24上に被着させ、溶媒の除去を制御することによって、上述したようにパターニングされたポリマー・ブレンド層が得られる。
【0043】
出願人としては、本明細書において暗黙的若しくは明示的に開示したいかなる特徴若しくは特徴の組み合わせも又はそれらのどんな一般化も、本特許請求の範囲の何れの範囲も限定することなく、本発明に含まれ得るという事実に注意喚起を求める。上述の記載を考慮すれば、本発明の範囲内において種々の変更を行なっても良いことが、当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図2】図1の素子を、その製造の中間段階で示す模式的な平面図である。
【図3】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図7】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図8】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図9】本発明の別の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明の他の実施形態による発光素子を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0045】
2 ガラス基板 4 ストリップ
6 ポリマー・ブレンド 8 第1相
10 第2相 12 陽極基板
14 ポリマー・ブレンド 16 陰極
18 第1相 20 第2相
22 第3相 24 上面
32 陽極基板 34 陰極
36 ポリマー・ブレンド層 38 第1領域
40 第2領域 42 発光領域
44 第1導波管 46 反射器
48 第2導波管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電極間に設けられた発光材料を備え、前記第1及び第2の電極と前記発光材料との間を電荷キャリアが移動できるようにした発光素子であって、前記第1及び第2の電極の間に設けられたポリマー・ブレンドの層を含み、前記発光材料から放出された光の伝搬を所定の方向に制御するために、前記ポリマー・ブレンドの少なくとも一部において前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離が生じていることから成る発光素子。
【請求項2】
前記ポリマー・ブレンド中の前記ポリマーの前記相分離は、前記発光材料から放出された光の伝搬を前記第1及び第2の電極間の方向に制御するように、前記ポリマー・ブレンドの少なくとも一部において生じていることから成る請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記ポリマー・ブレンド中の前記ポリマーの前記相分離は、前記発光材料から放出された光の伝搬を前記ポリマー・ブレンド層の平面に平行な方向に制御するように、前記ポリマー・ブレンドの少なくとも一部において生じていることから成る請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記ポリマー・ブレンドが前記発光材料を含んでいることから成る請求項1〜3のいずれか一項に記載の発光素子。
【請求項5】
発光素子中の発光材料から放出された光の伝搬方向を制御するため、ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離が制御された態様で生じていることから成る前記ポリマー・ブレンドの層の使用。
【請求項6】
第1及び第2の電極間に設けられた発光材料を備え、前記第1及び第2の電極と前記発光材料との間を電荷キャリアが移動できるようにした発光素子の製造方法であって、
前記第1電極を含む基板上に流体の形態でポリマー・ブレンドの層を被着させるステップであって、前記ポリマー・ブレンドが前記発光材料を含むステップと、
使用中に、前記発光材料から放出された光の伝搬を所定の方向に制御するために、前記ポリマー・ブレンド中に制御された態様で相分離を生じさせるステップと、
前記第2電極を前記ポリマー・ブレンド層上に被着させるステップとから成る発光素子の製造方法。
【請求項7】
ポリマー・ブレンド層を含んで成り、前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの相分離によって2つの集積された光及び/又は電子コンポーネントが定められていることから成る光素子。
【請求項8】
集積された前記光及び/又は電子コンポーネントは、反射器及び/又は導波管を含んでいることから成る請求項7に記載の光素子。
【請求項9】
発光用の第1コンポーネントと、使用中に前記発光コンポーネントから放出された光を所定の方向にガイドし及び/又は前記発光コンポーネントから放出された光を変調するための光ガイド/変調用の第2コンポーネントとを備え、前記第1及び第2のコンポーネントは、ポリマー・ブレンドの単一層内において、前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの制御された相分離によって定められていることから成る光電子素子。
【請求項10】
光検出用の第1コンポーネントと、使用中に光を前記第1コンポーネントにガイドするための光ガイド用の第2コンポーネントとを備え、前記第1及び第2のコンポーネントは、ポリマー・ブレンドの単一層内において、前記ポリマー・ブレンド中のポリマーの制御された相分離によって定められていることから成る光電子素子。
【請求項11】
制御された相分離がなされたポリマー・ブレンド層の製造方法であって、有機基板を用意すること、前記基板表面の選択された部分の表面エネルギーをプラズマ処理によって変更して、前記基板の有機表面を表面エネルギーの異なる領域にパターニングすること、及び異なる前記表面エネルギーの影響を受けて前記ポリマー・ブレンドが相分離することを可能にする条件下で、パターニングされた前記基板表面上に流体の形態で前記ポリマー・ブレンドを被着させることから成るポリマー・ブレンド層の製造方法。
【請求項12】
制御された相分離がなされたポリマー・ブレンド層の製造方法であって、有機基板を用意すること、前記基板の有機表面をプラズマ処理によって活性化すること、活性化された前記基板表面の選択された部分上にカウンタ層を形成して、前記基板表面を表面エネルギーの異なる領域にパターニングすること、及び異なる前記表面エネルギーの影響を受けて前記ポリマー・ブレンドが相分離することを可能にする条件下で、パターニングされた前記基板表面上に流体の形態で前記ポリマー・ブレンドを被着させることから成るポリマー・ブレンド層の製造方法。
【請求項13】
前記活性化された基板の選択された部分上に第1シールド層を形成するステップと、その後に、活性化された前記基板の第1シールド層によって覆われていない部分上に第2カウンタ層を形成するステップとを含み、前記第1及び第2のシールド層は異なる表面エネルギーを持つことから成る請求項12に記載のポリマー・ブレンド層の製造方法。
【請求項14】
前記基板がポリマー基板であることから成る請求項11〜13のいずれか一項に記載のポリマー・ブレンド層の製造方法。
【請求項15】
電子素子、光電子素子、又は光素子の製造における請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項16】
第1及び第2の電極構造間に設けられたボディを、前記ボディと前記第1及び第2の電極構造との間を電荷キャリアが移動できるように含んで成るポリマー光電子素子であって、前記ボディは平面アレイの活性領域を非活性マトリックス中に含み、前記アレイはポリマー・ブレンドの層内において前記ポリマー・ブレンドの制御された相分離によって定められ、前記電極構造は、使用中に各活性領域を独立にアドレス指定できるようにパターニングされていることから成るポリマー光電子素子。
【請求項17】
第1の型の電荷キャリアを受け取るための第1表面と第2の型の電荷キャリアを受け取るための第2表面とを有するポリマー・ブレンド層を備え、前記ポリマー・ブレンドは光電子的に活性な第1ポリマーと電荷輸送用の第2ポリマーとを含んで成る光電子素子であって、使用中に前記ポリマー・ブレンド層内への電荷キャリアの受け入れを促進するため前記第1表面に隣接する前記ポリマー・ブレンド層の部分が相対的に高い比率で前記第2ポリマーを含むように、前記第1及び第2のポリマーの相対比率が前記ポリマー・ブレンド層内で変化していることから成る光電子素子。
【請求項18】
前記ポリマー・ブレンドは更に電荷輸送用の第3ポリマーを含み、使用中に前記ポリマー・ブレンド層内への第1の型の電荷キャリアの受け入れを促進するため第1表面に隣接する前記ポリマー・ブレンド層の部分が前記第2ポリマーを相対的に高い比率で含むように、及び使用中に前記ポリマー・ブレンド層内への第2の型の電荷キャリアの受け入れを促進するため第2表面に隣接する前記ポリマー・ブレンド層の部分が前記第3ポリマーを相対的に高い比率で含むように、前記第1、第2及び第3のポリマーの相対比率が前記ポリマー・ブレンド層内で変化していることから成る請求項17に記載の光電子素子。
【請求項19】
前記第2ポリマーは正孔輸送用のポリマーであり、前記第3ポリマーは電子輸送層であることから成る請求項18に記載の光電子素子。
【請求項20】
第1及び第2の電気接点間に設けられたポリマー・ブレンド層を含み、前記ポリマー・ブレンド層は光電子的に活性な第1ポリマーと電荷輸送用の第2ポリマーとを含んでいる光電子素子の製造方法であって、前記第1電気接点を含む基板を用意するステップと、前記基板の第1表面上に前記ポリマー・ブレンドを流体の形態で被着させるステップと、前記ポリマー・ブレンドを固化させるステップと、固化された前記ポリマー・ブレンド層上に前記第2接点を形成するステップとを含み、前記基板の前記第1表面は前記第1ポリマーよりも前記第2ポリマーに対する親和性が大きくなるように選択され、前記基板上の前記ポリマー・ブレンドの固化は、結果として生じる前記ポリマー・ブレンド層が、使用中に前記第1接点と前記ポリマー・ブレンド層との間の電荷の輸送を促進するように前記基板の前記第1表面に隣接し前記第2ポリマーを相対的に高い比率で有する部分を含むように制御されることから成る光電子素子の製造方法。
【請求項21】
前記ポリマー・ブレンド層は、光電子的に活性な第1ポリマーと、電荷輸送用の第2ポリマーと、電荷輸送用の第3ポリマーとを含み、前記基板の第1表面は、前記第1ポリマーよりも前記第2ポリマーに対する親和性が大きいが、前記第1ポリマーよりも前記第3ポリマーに対する親和性が小さくなるように選択され、前記基板上の前記ポリマー・ブレンドの固化は、結果として生じる前記ポリマー・ブレンド層が、使用中に前記第1接点と前記ポリマー・ブレンド層との間の電荷の輸送を促進するように前記第2ポリマーを相対的に高い比率で有する前記基板の前記第1表面と隣接する第1部分と、前記第1部分に対向し且つ使用中に前記第2接点と前記ポリマー・ブレンド層との間の電荷の輸送を促進するように前記第3ポリマーを相対的に高い比率で有する第2部分とを含み、前記第1部分と前記第2部分とが前記第1ポリマーを相対的に高い比率で有する第3部分によって分離されるように制御されることから成る請求項20に記載の光電子素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−27208(P2009−27208A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287220(P2008−287220)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【分割の表示】特願2002−581600(P2002−581600)の分割
【原出願日】平成14年4月12日(2002.4.12)
【出願人】(503372842)ケンブリッジ エンタープライズ リミティド (32)
【Fターム(参考)】