説明

光電気素子に用いられる化合物

【解決手段】 光電気素子の製造に使用される組成物であって、溶解処理可能なトリアジンホスト材料及び燐光発光部を含有することを特徴とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電気的燐光発光素子の製造に用いられるトリアジンホスト化合物含有組成物、及び該組成物を用いた光電気素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の光電気素子には、光を発する又は検知するための有機材料が用いられる。このような素子は、ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)又はポリフルオレンのフィルム等からなる有機発光層が、該有機層に負電荷担体(電子)を注入するためのカソードと正電荷担体(正孔)を注入するためのアノードとの間に挟まれた基本構造を有する。これら電子及び正孔が有機層中で結合し、光子が発生する。WO90/13148(特許文献1)では有機発光材料としてポリマーを用いている。米国特許第4539507号(特許文献2)では有機発光材料として(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)等の公知の小分子材料を用いている。実用的な素子では電極の一方が透明であり、そこから光子が素子外部に取り出される。
【0003】
典型的には、有機発光素子(OLED)は、ガラス又はプラスチックの基板をインジウムスズ酸化物(ITO)等の透明第1電極で被覆し、第1電極を少なくとも1つの有機電界発光材料からなる薄膜層で被覆し、最後にこの有機電界発光材料層をカソードで被覆して得られる。カソードは通常金属又は合金からなり、アルミニウム等の単層、又はカルシウム及びアルミニウム等の複数層からなるものであってよい。例えば電極から電界発光材料への電荷注入を改善するために、他の層を素子に追加することができる。例えば、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT−PSS)やポリアニリン等からなる正孔注入層を、アノードと電界発光材料の間に形成してよい。電源から両電極間に電圧を印加すると、電極の一方がカソードとして作用し、他方がアノードとして作用する。
【0004】
素子を駆動すると、アノードから素子に正孔が注入され、カソードから素子に電子が注入される。正孔及び電子が有機電界発光層中で結合して励起子を形成し、該励起子が放射崩壊し光を発する。
【0005】
有機半導体においては、電子エネルギー準位、特に最高被占分子軌道(HOMO)準位及び最低空分子軌道(LUMO)準位の真空準位として測定される結合エネルギーが重要な特性である。これらは光子放出の測定、特に酸化及び還元における電気化学ポテンシャルの測定によって推定できる。当該分野において、このようなエネルギーは、界面付近の局所環境や、値を決定するための曲線(ピーク)上の点等の多くの要因によって影響されることがよく知られている。従って、このような値の使用は定量的ではなく指標的である。
【0006】
有機半導体の光学的特性及び電子的特性は上記HOMO準位及びLUMO準位のエネルギーに強く依存する。更に、これらエネルギー準位は有機半導体の化学構造に強く依存する。適当な材料又は複数の材料の組み合わせを選択することによって、素子性能を改善できる。
【0007】
例えば、素子の効率を改善する手法の一つとして、正孔輸送材料及び電子輸送材料を用いる方法がある。WO99/48610(特許文献3)は正孔輸送ポリマー、電子輸送ポリマー、及び電界発光ポリマーの混合について開示している。該文献には、正孔輸送ポリマーとしてジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの1:1コポリマーが開示されている。最も効果的なこの種の電荷輸送材料は、素子中の他の成分のHOMO及びLUMOに左右されると考えられる。
【0008】
電荷輸送材料を用いた素子の効率は大幅に改善されたが、それでも既存の素子よりも更に優れた効率を得るための新規電荷輸送材料の開発が常に望まれている。
【0009】
WO02/083760(特許文献4)は有機光電気素子中で電荷輸送材料及び蛍光発光性材料として使用されるコポリマーを開示している。このコポリマーは第1繰り返し単位を含み、該第1繰り返し単位は式(a):
【化1】

(式中、R’’は水素、或いは分岐状又は直鎖状のC1−C20アルキル又はアルコキシである。)により表されるトリアジン単位であってよい。
【0010】
上記コポリマーは第2繰り返し単位を含み、該第2繰り返し単位は任意に置換されるフェニレン、フルオレン、ヘテロアリール、及びトリアリールアミンからなる群から選択してよい。
【0011】
WO2004/077885(特許文献5)は、青色電界発光素子の成分として用いられるトリアジンを開示している。
【0012】
米国特許第6821643号(特許文献6)では、アリール化トリアジンを蒸着してOLEDの青色蛍光発光層又は電子輸送層を形成している。
【0013】
米国特許第6352791号(特許文献7)では、アリール化トリアジンを蒸着してOLEDの電子輸送層を形成している。
【0014】
WO2005/105950(特許文献8)は、OLEDの青色蛍光発光層に用いられる三置換トリアジンを開示している。
【0015】
欧州特許第1385221号(特許文献9)は、アントラセン誘導体化合物及びトリアジン誘導体化合物からなる発光領域を有する発光素子を開示している。
【0016】
燐光材料も有用であり、用途によっては蛍光材料よりも好ましい場合がある。ある種の燐光材料は、ホスト及びその中に存在する燐光発光体を含有する。この発光体はホストに結合していてもよく、またホストとは別個の成分として混合物中に存在していてもよい。
【0017】
先行技術において多くの燐光発光体用ホストが述べられている。その例としては、CBPとして知られる4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル)やTCTAとして知られる(4,4’,4’’−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン等の「小分子」ホスト(Ikai et al., Appl. Phys. Lett., 79, no. 2, 2001, 156(非特許文献1)に開示)、並びにMTDATAとして知られるトリス−4−(N−3−メチルフェニル−N−フェニル)フェニルアミン等のトリアリールアミンが挙げられる。ホモポリマー、特にポリ(ビニルカルバゾール)(Appl. Phys. Lett., 2000, 77(15), 2280(非特許文献2)等に開示);ポリフルオレン(Synth. Met., 2001, 116, 379、Phys. Rev. B 2001, 63, 235206、Appl. Phys. Lett., 2003, 82(7), 1006(非特許文献3〜5));ポリ[4−(N−4−ビニルベンジルオキシエチル−N−メチルアミノ)−N−(2,5−ジ−tert−ブチルフェニルナフタルイミド](Adv. Mater. 1999, 11(4), 285(非特許文献6));及びポリ(パラフェニレン)(J. Mater. Chem., 2003, 13, 50-55(非特許文献7))もホストとして公知である。
【0018】
公知のホスト−燐光体系においては、ホストが燐光体からの発光を消光してしまうという問題がある。通常、ホストの三重項エネルギー準位が燐光体と比較して相対的に低いほど、消光が起こりやすいと考えられる。ホストポリマーを用いる場合は、重合により三重項エネルギー準位がモノマーよりも低下するため、この問題はより深刻である。従って、燐光発光系でホストとして使用でき、高い三重項エネルギー準位を有する材料を製造することが求められる。
【0019】
JP2005−071983(特許文献10)は、Irppy用のホストとして、例えば:
【化2】

等のトリスカルバゾリル置換トリアジン類を開示している。
【0020】
Chemistry of Materials, (2004), 16(7), 1285-1291(非特許文献8)は、OLED中のIrppy用のホストとして、例えば:
【化3】

等のトリスカルバゾリル化合物及び他のアリールアミノ置換トリアジン類を開示している。
【0021】
WO2005/029923(特許文献11)は、赤色燐光体Ir(piq)用のホストとして、トリスベンズイミダゾリル置換トリアジン:
【化4】

を開示している。
【0022】
US2005/0287393(特許文献12)は、燐光発光ドーパント、並びにカルバゾール化合物及び小分子トリアジン化合物を含むホストを含有する発光性組成物を開示している。トリアジン化合物の典型例としては、2,4,6−トリス(ジアリールアミノ)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(ジフェニルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリカルバゾロ−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(N−フェニル−2−ナフチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(N−フェニル−1−ナフチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリスビフェニル−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0023】
燐光性組成物にホストとして用いられる上記小分子トリアジン類は、US2005/0287393(特許文献12)の化合物一覧の最後の例(2,4,6−トリスビフェニル−1,3,5−トリアジン)を除き、全てアミノ誘導体である。これらアミノ誘導体は、全てアリール置換基を中心トリアジン環に直接結合させる窒素原子を有する。しかしながら、本願では、この窒素による結合は完全には安定ではなく、組成物の寿命を短くし得ると提案する。更に、上記小分子化合物はいずれも容易に溶解処理を行うのに十分な溶解性を有しておらず、むしろ真空熱蒸着により適している。
【0024】
ホスト−発光体系は燐光発光素子に限定されない。様々な蛍光性低分子量金属錯体が知られており、実際に有機発光素子に使用されている(例えばMacromol. Sym., 125 (1997) 1-48、US−A5150006、US−A6083634、及びUS−A5432014(非特許文献9、及び特許文献13〜15)参照)。
【0025】
公知のホスト−蛍光発光体系も、燐光発光系と同様に、ホストが蛍光発光体からの発光を消光し得るという問題を有する。発光体に電子を注入するために、ホストは発光体よりも高いLUMOを有することが有利である。発光体に正孔を注入するために、ホストは発光体よりも低いHOMOを有することが有利である。従って、蛍光発光系でホストとして用いるためには、HOMOとLUMOの間のバンドギャップが大きい材料の製造が求められる。
【0026】
光電気素子の性能に影響を及ぼす他の要因としては、素子を形成するフィルムのモルホロジーが挙げられる。半導体有機材料の場合は、結晶質フィルムよりもアモルファスフィルムが有利である。しかしながら、より優れた性能を有する素子を得るためには、フィルムの不規則性は高すぎないことが望ましい。従って、より優れたフィルム形成特性を有する材料を製造することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】WO90/13148
【特許文献2】米国特許第4539507号
【特許文献3】WO99/48610
【特許文献4】WO02/083760
【特許文献5】WO2004/077885
【特許文献6】米国特許第6821643号
【特許文献7】米国特許第6352791号
【特許文献8】WO2005/105950
【特許文献9】欧州特許第1385221号
【特許文献10】JP2005−071983
【特許文献11】WO2005/029923
【特許文献12】US2005/0287393
【特許文献13】US−A5150006
【特許文献14】US−A6083634
【特許文献15】US−A5432014
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Ikai et al., Appl. Phys. Lett., 79, no. 2, 2001, 156
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett., 2000, 77(15), 2280
【非特許文献3】Synth. Met., 2001, 116, 379
【非特許文献4】Phys. Rev. B 2001, 63, 235206
【非特許文献5】Appl. Phys. Lett., 2003, 82(7), 1006
【非特許文献6】Adv. Mater. 1999, 11(4), 285
【非特許文献7】J. Mater. Chem., 2003, 13, 50-55
【非特許文献8】Chemistry of Materials, (2004), 16(7), 1285-1291
【非特許文献9】Macromol. Sym., 125 (1997) 1-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の目的は、上記概説した問題のうち1つ以上を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の第1の態様によれば、溶解処理可能なトリアジンホスト材料及び燐光発光部を含有し、光電気素子の製造に用いられる組成物が提供される。
【0031】
一実施形態においては、上記溶解処理可能なトリアジンホスト材料は小分子トリアジン化合物である。
【0032】
他の実施形態においては、上記溶解処理可能なトリアジンホスト材料は、トリアジン繰り返し単位を含むポリマーである。
【0033】
「小分子」は非重合性の分子を意味する。有機光電気材料にはポリマー及び小分子という主要な2群が存在するため、本発明では「小分子」という語をこのような意味でしばしば用いる。オリゴマーは1〜10個の繰り返し単位からなり、より好ましくは1〜5個の繰り返し単位からなる。
【0034】
好ましくは、上記トリアジンホスト材料は可溶化置換基を有する。
【0035】
「可溶化置換基」は、有機溶媒を用いて溶解処理を行いインクジェット印刷やスピンコーティング等によって光電気素子を製造する際に、上記トリアジンを該有機溶媒中に十分に可溶化するための置換基を意味する。素子を製造する際に溶解処理するためには、通常、化合物は8mg・ml−1を超える濃度で可溶である必要があり、10mg・ml−1を超える濃度で可溶であることが好ましい。光電気素子の製造に適した有機溶媒としてはキシレン、トルエン、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等が挙げられ、好ましくはトルエン又はキシレンである。先行技術の化合物2,4,6−トリス(ビフェニル)−1,3,5−トリアジンは、これらの溶媒全てにおいて<5mg・ml−1の溶解度を有し、そのため溶解処理によるOLED素子の製造に適当な材料ではない。
【0036】
小分子トリアジン化合物に可溶化置換基を付与することによって、この化合物を容易に溶解処理できることを発見した。このようにして、小分子トリアジン化合物を含有する本発明の組成物を、熱蒸着ではなくインクジェット印刷やスピンコーティング等によって積層させてフィルムを形成することができる。
【0037】
更に、可溶化置換基はトリアジン化合物を析出させて形成したフィルムの結晶化度を低下させるため、先行技術の小分子トリアジン化合物と比較して、より優れたフィルムモルホロジーが得られることを発見した。加えて、可溶化置換基を用いることでフィルムの物理的性質を調整することができる。
【0038】
即ち、本発明は、光電気素子に用いられるトリアジン化合物であって、溶解処理が可能で、且つ優れたモルホロジー及び調整された物理的性質を有するフィルムを形成し得るトリアジン化合物を提供する。更に、本発明のトリアジン化合物は深いLUMO及び深いHOMOの両方を有する。従って、光電気素子中で該トリアジン化合物は電子を容易に受容するが、正孔を容易には受容しない。更に、この化合物は、発光材料からの発光を消光することなく、該発光材料のための電子輸送ホスト材料として作用する。好ましくは、そのLUMO準位はエネルギー的にカソード中の電子注入材料のフェルミ準位と発光材料のLUMO準位(又は燐光発光材料中の三重項準位)との中間であり、或いは少なくとも、高い駆動電圧が必要となるほど電子注入材料のフェルミ準位よりも大幅には高くないか、発光材料のLUMO準位(又は三重項準位)よりも大幅には低くない。好ましくは、トリアジン化合物のHOMO準位は発光材料のHOMO準位よりも低い。上記トリアジン類は正孔受容特性/正孔輸送特性に乏しいため、正孔輸送材料又は正孔輸送能に優れた発光材料と共に使用するのが好ましい。
【0039】
トリアジン化合物のLUMO準位は、好ましくはエネルギー的に注入カソードと発光体の中間である。電子注入に対する障壁が存在する場合は、カソードの仕事関数より大きく、0.4eV以下であることが好ましい。該トリアジンのHOMO準位は、発光体種からの燐光が消光されないような三重項準位エネルギーギャップを保つために十分大きな光学的バンドギャップを維持しうるものである。
【0040】
本発明のトリアジン化合物は、良好なホスト材料として作用し、更に青色発光材料、電子輸送材料(素子のカソードと発光層の間に配置される独立した電子輸送層に用いてもよく、発光材料との混合物として素子の発光層に添加してもよく、発光材料に結合させてもよい)、及び/又は正孔ブロック材料(素子の発光層とカソードの間に配置される)としても利用できるような電気特性を有する。更に、トリアジン化合物は低いLUMOを有するため、高い仕事関数を有するカソード材料を使用することも可能である。トリアジン化合物が例えば2.8eV等のLUMO準位を有する場合、高い仕事関数のカソードを使用でき、エネルギーギャップは0.4eV以下である。即ち、カソード材料の仕事関数は2.6〜3.2eVが好ましい。
【0041】
上記少なくとも1つの可溶化置換基はC−C20アルキル鎖を有するのが好ましい。この範囲のアルキル鎖はトリアジン化合物を十分に可溶化し、溶解処理を容易に行いモルホロジーが良好なフィルムを形成できることを発見した。特定の用途に応じてフィルムの物理的性質を調整するように、アルキル鎖の長さ及び組成を選択することができる。
【0042】
中心トリアジン環は少なくとも1つのアリール基で置換されているのが好ましい。アリール基が中心トリアジン環に直接結合しているのが最も好ましい。アリール基はフェニル環であってよい。トリアジン化合物がトリスアリールトリアジンであり、そのアリール基のうち1つ以上に可溶化置換基が結合しているのが最も好ましい。より好ましくは、アリール基のうち2又は3つが可溶化置換基を有する。複数の可溶化基は同じであっても異なっていてもよい。
【0043】
可溶化基を有するトリスアリールトリアジン化合物は、物理的モルホロジー及び物理的性質が良好なフィルムを形成することを発見した。特に、アリール基や可溶化基を用いる場合、アモルファスではあるが不規則性が高すぎないフィルムが得られる。このようなフィルムはより優れた光電気特性を有するため、より優れた性能を有する素子が得られる。
【0044】
上記少なくとも1つの可溶化置換基は中心トリアジン環に炭素原子を介して直接結合するのが好ましい。上述のとおり、中心トリアジン環に窒素原子を介して結合する置換基を有する先行技術のトリアジン化合物は、光電気素子中で不安定で、そのため素子の寿命を短くする場合がある。素子を駆動する際に、窒素連結原子が置換基の結合の反応点として作用することがある。一方、本発明の実施形態において炭素で結合した置換基は、光電気素子中でより安定である。
【0045】
本発明の実施形態においては、上記トリアジン類は、ヘテロ原子による連結が無く、アルキル置換基(又は好ましくはアルキル基を有するアリール置換基)を有する単純なトリアリール置換化合物の構造を有する。該構造からなるフィルムの物理的性質(150℃を超えるTg、良好なフィルムモルホロジー、適当なHOMO準位及びLUMO準位等)を調節できるように、このような置換基を選択する。この構造の例として、下記式:
【化5】

(式中、R基は可溶化置換基である。)により表されるものが挙げられる。1つの環上のRが他の2つの環上のRと異なり、非対称構造を形成していてもよい。更なる例として、下記式:
【化6】


により表されるものが挙げられる。
【0046】
上記具体例の化合物を緑色燐光材料用のホスト材料として素子中で試験したところ、公知の溶解処理可能な緑色ホストよりも優れた寿命性能を示した。本発明の実施形態は赤色燐光材料用のホストとしても有用であると予想できる。
【0047】
上記構造に共通するトリフェニルトリアジン部分は、化学的及び電気化学的により不活性であり、そのため一般的なホスト(例えば、アルキル基、アルコキシ基等の可溶化基で任意に置換されるCBP)と比較して、素子中でより安定であると考えられる。また、上記トリアジン類は、良好な電子輸送特性を有し、一般的な素子構造中での使用により適している点、並びに発光層と正孔注入層の間に配置される電子ブロック/正孔輸送層と共に使用できる点で優れている。また、燐光発光素子には通常発光層とカソードの間に正孔ブロック/電子輸送層を配置するが、その必要が無い。
【0048】
上記化合物の用途によっては、エネルギー準位が深すぎるという問題が生じる可能性がある。しかしながら、適切な置換(例えばアミン置換)を行うことによって、その用途に最適なエネルギー準位を得ることができる。尚、上述した理由から、アミン置換基を中心トリアジン環に窒素原子を介して直接結合させるべきではない。或いは、必要に応じて適当な電子供与能又は電子吸引能を有する他の官能基を利用してもよく、その例としてはフルオロアリール基、パーフルオロアリール基、アルキルアリール基、アルコキシアリール基等が挙げられ、これらに限定されない。
【0049】
溶解処理可能なトリアジン材料は、その深いLUMOにより電子注入/輸送能が向上し、その広い三重項バンドギャップにより消光が減少するため、燐光発光材料用ホストとして優れていることを発見した。本発明の第1の態様に関して述べた有利な特徴は、本発明の第2の態様においても達成できる。
【0050】
トリアジン単位は正孔輸送単位等と共にコポリマーを形成してよく、正孔輸送単位としてはトリアリールアミン、燐光発光体からの発光が消えないようにポリマーの三重項準位を維持するツイステッドコモノマー(twisted co-monomer)等が使用できる。例えば以下のものが挙げられる。
【0051】
【化7】

【0052】
その代替として、又はそれに加えて、上記コポリマーは燐光発光部を有してもよい。燐光発光部はポリマー主鎖(polymer backbone)又は懸垂側鎖(pendent side chain)中に存在してよい。
【0053】
燐光発光部は緑色発光体であるのが好ましい。溶解処理可能なポリフルオレンホスト材料等の公知の緑色発光体用ホストは、通常、三重項準位が低すぎるため緑色燐光発光部のホストとして効果的ではない。一方、本発明の実施形態は緑色燐光発光部用ホスト材料として効果的である。しかしながら、溶解処理可能なトリアジンは赤色燐光発光部用のホストとしても有用であると予想される。
【0054】
ポリマーホストを得るために適しているトリアジンモノマーの一例を以下に示す。
【0055】
【化8】

【0056】
緑色燐光用のホスト材料として、上記と同様に良好な電子注入/輸送特性を有する広いバンドギャップのポリマーを得るために、これらモノマーを使用できる。ポリフルオレンは通常三重項準位が低すぎるため緑色燐光ホストとして用いることはできず、ポリフルオレンを用いる必要は無い。例えば以下のものが挙げられる。
【0057】
【化9】

【0058】
このポリマーはトリアジンの三重項バンドギャップ及び電子注入特性と共に、共役ポリマーとしての処理特性を有する。他のモノマーを導入して、電荷注入/伝導特性を微細に調整したり、発光中心を加えることも可能である。
【0059】
本発明の第3の態様によれば、光電気素子を製造する方法であって、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、上記本発明の第1の態様による組成物を溶液から積層させる工程;及びその上に前記第1極性とは逆の第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を配置する工程を含む方法が提供される。
【0060】
本発明の第4の態様によれば、基板;基板上に配置される、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;第1電極上に配置される、上記本発明の第1の態様による組成物を含む層;及びその上に配置される、第1極性とは逆の第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を有する光電気素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態による有機発光素子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明するが、下記説明は単なる例示にすぎない。
図1に示す素子は、透明なガラス又はプラスチックからなる基板1、インジウムスズ酸化物からなるアノード2、及びカソード4を有する。アノード2とカソード4の間には、電界発光層3が形成される。
【0063】
アノード2とカソード3の間に、電荷輸送層、電荷注入層、電荷ブロック層等の更なる層を配置してもよい。
【0064】
特に、アノード2と電界発光層3の間にドープ有機材料からなる導電性正孔注入層を形成し、アノードから該層又は半導体ポリマー層への正孔注入を補助するのが望ましい。ドープ有機正孔注入材料の例としては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)、特に欧州特許第0901176号及び同第0947123号に開示されているようなポリスチレンスルホネート(PSS)、ポリアクリル酸、フッ素化スルホン酸等の電荷平衡化(charge-balancing)ポリ酸をドープしたPEDT(Nafion(登録商標)等);米国特許第5723873号及び同第5798170号に開示されているようなポリアニリン;ポリ(チエノチオフェン);等が挙げられる。正孔注入層に導電性無機材料を用いてもよい。適当な無機材料としては、Journal of Physics D: Applied Physics (1996), 29(11), 2750-2753に開示されているようなVOx、MoOx、RuOx等の遷移金属酸化物が挙げられる。
【0065】
アノード2と電界発光層3の間に正孔輸送層を配置する場合は、正孔輸送層のHOMO準位は好ましくは5.5eV以下、より好ましくは4.8〜5.5eV程度である。
【0066】
電界発光層3とカソード4の間に電子輸送層を配置する場合は、電子輸送層のLUMO準位は好ましくは3〜3.5eV程度である。
【0067】
電界発光層3は電界発光材料のみからなるものであっても、電界発光材料と1以上の更なる材料の組み合わせからなるものであってもよい。特に、電界発光材料をWO99/48160等に開示されているように正孔及び/又は電子輸送材料と混合してもよい。或いは、電界発光材料を電荷輸送材料に共有結合させてもよい。
【0068】
カソード4の材料は、電界発光層に電子を注入し得る仕事関数を有する材料から選択される。カソード材料を選択する際には、カソードと電界発光材料が不都合な相互作用を起こす可能性といった他の要因も考慮する。カソードはアルミニウム層のような単一材料からなるものであってよい。或いは、カソードは複数の金属を含有してもよく、例えば、WO98/10621に開示されているカルシウムとアルミニウムのような低仕事関数材料と高仕事関数材料の二層を含んでよい。カソードはWO98/57381、Appl. Phys. Lett., 2002, 81(4), 634、及びWO02/84759に開示されているバリウム元素や、電子注入を補助する金属化合物の薄層等を含んでもよい。該金属化合物は、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物又はフッ化物であってよく、その例としては、WO00/48258に開示されているフッ化リチウム、Appl. Phys. Lett., 2001, 79(5), 2001に開示されているフッ化バリウム、酸化バリウム等が挙げられる。効果的に電子を素子に注入するために、カソードの仕事関数は、好ましくは3.5eV未満、より好ましくは3.2eV未満、更に好ましくは3eV未満、最も好ましくは2.8eV未満である。
【0069】
光学的素子は水分及び酸素の影響を受けやすい傾向がある。従って、水分及び酸素が素子内部に侵入するのを防ぐために、基板は良好な遮断特性を有するのが好ましい。基板は通常はガラスからなるが、特に柔軟な素子を所望する場合等は、代替基板を用いてよい。例えば、基板は米国特許第6268695号に記載されているようにプラスチックを含有してよく、該文献はプラスチックと障壁層を交互に用いた基板を開示している。また、欧州特許第0949850号に開示されているように、基板は薄ガラスとプラスチックの積層物であってもよい。
【0070】
水分及び酸素の侵入を防ぐために、カプセル材料(図示せず)を用いて素子を封入するのが好ましい。適当なカプセル材料としては、ガラス板や適当な遮断特性を有するフィルム(WO01/81649に開示されているようなポリマーと誘電体の交互積層物、WO01/19142に開示されているような密閉容器等)が挙げられる。基板やカプセル材料を透過して侵入する大気中の水分及び/又は酸素を吸収するために、基板とカプセル材料の間にゲッタ材料を配置してもよい。
【0071】
実用素子においては、光が吸収(光応答性素子の場合)又は放出(OLEDの場合)されるように、電極のうち少なくとも一方を半透明とする。アノードが透明である場合、典型的にはインジウムスズ酸化物を含有する。透明カソードの例はGB2348316等に開示されている。
【0072】
図1の実施形態に示す素子は、まずアノードを基板上に形成し、その上に電界発光層及びカソードを配置して得られる。しかしながら、本発明の素子は、まずカソードを基板上に形成し、その上に電界発光層及びアノードを配置しても好適に得られる。
【0073】
電荷輸送、発光、又はホストポリマーとしての目的で、半導体ポリマーを用いてもよい。以下、このようなポリマーの繰り返し単位についてより詳細に説明する。このポリマーは本発明のトリアジンとは別々に、例えば多色素子の発光中心として使用してよい。
【0074】
或いは、繰り返し単位をトリアジンと組み合わせて使用してもよい。例えば、本発明の第2の態様による溶解処理可能なトリアジンホスト材料は、トリアジン繰り返し単位と、下記のものから選ばれる1種以上の他の繰り返し単位とを含有してよい。この場合、このような繰り返し単位をトリアジン繰り返し単位と組み合わせて用いて調製したポリマーは、燐光発光ドーパントよりも高い三重項エネルギーを持つ必要があると考えられる。
【0075】
ポリマーは、アリーレン繰り返し単位、特にJ. Appl. Phys., 1996, 79, 934に開示されているような1,4−フェニレン繰り返し単位;欧州特許第0842208号に開示されているようなフルオレン繰り返し単位;Macromolecules, 2000, 33(6), 2016-2020等に開示されているようなインデノフルオレン繰り返し単位;及び欧州特許第0707020号等に開示されているようなスピロフルオレン繰り返し単位から選ばれる第1繰り返し単位を含有してよい。これら繰り返し単位はそれぞれ任意に置換されていてよい。置換基の例としては、C1−20アルキル又はアルコキシ等の可溶化基;フッ素、ニトロ、シアノ等の電子吸引基;ポリマーのガラス転移温度(Tg)を上昇させる置換基;等が挙げられる。
【0076】
ポリマーは任意に置換される2,7−結合フルオレン、例えば下記式:
【化10】

により表される繰り返し単位を含んでよい。式中、R及びRはそれぞれ独立に、水素、並びに任意に置換されるアルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、ヘテロアリール、及びヘテロアリールアルキルから選ばれる。R及びRの少なくとも1つが任意に置換されるC−C20アルキル基又は任意に置換されるアリール基を含むのがより好ましい。
【0077】
ポリマーは、それを用いる素子の層及び組み合わせる繰り返し単位の特性に応じて、正孔輸送、電子輸送、及び発光のうち1以上の機能を有してよい。
【0078】
特に、フルオレン繰り返し単位のホモポリマー(9,9−ジアルキルフルオレン−2,7−ジイルのホモポリマー等)を電子輸送の目的で使用してよく、また、トリアリールアミン繰り返し単位、特に下記式1〜6から選ばれる繰り返し単位を含むポリマー(好ましくはコポリマー)を正孔輸送及び/又は本発明の組成物とは異なる色の発光の目的で使用してもよい。
【0079】
【化11】

【0080】
式中、X、Y、A、B、C、及びDは、それぞれ独立にH及び置換基から選ばれる。X、Y、A、B、C、及びDのうち1個以上が、それぞれ独立に、任意に置換される分岐状又は直鎖状のアルキル基、アリール基、パーフルオロアルキル基、チオアルキル基、シアノ基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、アルキルアリール基、及びアリールアルキル基からなる群から選ばれるのがより好ましい。X、Y、A、及びBが、C1−10アルキルであるのが最も好ましい。ポリマー主鎖中の芳香環は直接連結していてもよく、また架橋基又は架橋原子(特に酸素、硫黄等の架橋ヘテロ原子)で連結されていてもよい。
【0081】
この種の正孔輸送ポリマーは、アリーレン繰り返し単位(特にフルオレン繰り返し単位)又はトリアリールアミン繰り返し単位のコポリマーであることが特に好ましい。
【0082】
第1繰り返し単位及びヘテロアリーレン繰り返し単位を含むコポリマーは、電荷輸送又は発光の目的で使用できる。ヘテロアリーレン繰り返し単位は、下記式7−21から選ばれるものであってよい。
【0083】
【化12】

【0084】
式中、R及びRは同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に水素又は置換基であり、好ましくはアルキル、アリール、パーフルオロアルキル、チオアルキル、シアノ、アルコキシ、ヘテロアリール、アルキルアリール、又はアリールアルキルである。容易に製造するためには、R及びRは同じであるのが好ましい。R及びRは同じであって、それぞれフェニル基であるのがより好ましい。
【0085】
【化13】




【0086】
例えばWO00/55927及び米国特許第6353083号に開示されているように、電界発光コポリマーは、電界発光領域と、正孔輸送領域及び電子輸送領域のうち少なくとも1つとを有してよい。正孔輸送領域及び電子輸送領域のうち一方のみを有する場合は、電界発光領域が正孔輸送能及び電子輸送能のうち他方を有していてよい。
【0087】
このようなポリマー中の異なる領域は、米国特許第6353083号のようにポリマー主鎖に沿って存在してよく、或いはWO01/62869のようにポリマー主鎖から延びる基に存在してもよい。
【0088】
ポリマーの調製方法としては、WO00/53656等に記載の鈴木重合、並びにT. Yamamoto, "Electrically Conducting And Thermally Stable π-Conjugated Poly(arylene)s Prepared by Organometallic Processes", Progress in Polymer Science, 1993, 17, 1153-1205等に記載の山本重合が好ましい。これら重合法は共に「金属挿入」によって重合を行うものであり、金属錯体触媒の金属原子がモノマーのアリール基と脱離基の間に挿入される。山本重合ではニッケル錯体触媒を使用し、鈴木重合ではパラジウム錯体触媒を使用する。
【0089】
例えば山本重合によって直鎖状ポリマーを合成する際には、2つの反応性ハロゲン基を有するモノマーを用いる。同様に、鈴木重合による方法においては、少なくとも1つの反応性基がボロン酸やボロン酸エステル等のホウ素誘導体基であり、他の反応性基がハロゲンである。ハロゲンは好ましくは塩素、臭素、又はヨウ素であり、最も好ましくは臭素である。
【0090】
従って、本願で述べるアリール基を含む繰り返し単位及び末端基は、適当な脱離基を有するモノマーから誘導されるものであってよいと解される。
【0091】
鈴木重合を用いて位置規則的コポリマー、ブロックコポリマー、又はランダムコポリマーを調製してよい。特に、一方の反応性基がハロゲンであり、他方の反応性基がホウ素誘導体基であるとき、ホモポリマー又はランダムコポリマーを調製できる。或いは、第1モノマーの反応性基が共にホウ素であり、第2モノマーの反応性基が反応性基が共にハロゲンであるときは、ブロックコポリマー又は位置規則的コポリマー(特にABコポリマー)を調製できる。
【0092】
ハロゲン化物の代替物として、金属挿入に利用可能な他の脱離基を用いてもよく、その例としては、トシレート、メシレート、フェニルスルホネート、及びトリフレートが挙げられる。
【0093】
単一のポリマー又は複数のポリマーを溶液から積層させて層5を形成してよい。ポリアリーレン類に適した溶媒としては、トルエンやキシレン等のモノ−又はポリ−アルキルベンゼン類が挙げられる。特に好ましい溶液堆積法は、スピンコーティング及びインクジェット印刷である。
【0094】
スピンコーティングは、電界発光材料のパターニングが不要な素子、例えば照明や単純なモノクロ分割ディスプレイに特に適している。
【0095】
インクジェット印刷は、高情報量ディスプレイ、特にフルカラーディスプレイに特に適している。OLEDのインクジェット印刷については、例えば欧州特許第0880303号に記載されている。
【0096】
素子の多層構造を溶解処理によって形成する場合、隣接する層の混合を防ぐ方法は当業者に自明であろう。例えば、次の層を形成する前にある層を架橋する方法、第1層に用いる材料が第2層の形成に用いる溶媒に溶解しないように隣接層の材料を選択する方法等が挙げられる。
【0097】
好ましい燐光発光金属錯体は、下記式(34)で表される任意に置換可能な錯体を含む。
【0098】
【化14】

【0099】
式中、Mは金属であり、L、L、及びLはそれぞれ配位基であり、qは整数であり、r及びsはそれぞれ独立に0又は整数である。(a.q)+(b.r)+(c.s)の合計はM上の配位部位の数に等しく、ここでaはL上の配位部位の数、bはL上の配位部位の数、cはL上の配位部位の数である。
【0100】
重元素Mは強いスピン軌道結合を形成し、迅速な項間交差及び三重項状態からの発光(燐光発光)を可能とする。適当な重金属Mとしては、ランタニド金属(セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ツリウム、エルビウム、ネオジム等)、並びにdブロック金属(特に第2周期及び第3周期の元素、即ち39〜48及び72〜80の元素、特にルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金)が挙げられる。
【0101】
fブロック金属に適した配位基としては、カルボン酸、1,3−ジケトネート、ヒドロキシカルボン酸、シッフ塩基(アシルフェノール、イミノアシル基等)等の酸素又は窒素のドナー系が挙げられる。既に知られているとおり、発光性ランタニド金属錯体は増感基を必要とする。増感基は金属イオンの第1励起状態よりも高い三重項励起エネルギー準位を有する。金属のf−f遷移により発光が起こり、そのため金属の選択によって発光色が決まる。一般に鋭い発光は狭く、ディスプレイ用途に有用な純粋な色の発光が得られる。
【0102】
dブロック金属は、ポルフィリン、下記式(35)により表される二座配位子等の炭素又は窒素のドナーと共に有機金属錯体を形成する。
【0103】
【化15】

【0104】
式中、Ar及びArは同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に任意に置換されるアリール及びヘテロアリールから選ばれ、X及びYは同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に炭素及び窒素から選ばれる。Ar及びArは縮合していてもよい。Xが炭素であり、且つYが窒素である配位子が特に好ましい。
【0105】
二座配位子の例を以下に示す。
【0106】
【化16】

【0107】
Ar及びArはそれぞれ1つ以上の置換基を有してよい。特に好ましい置換基としては、WO02/45466、WO02/44189、US2002−117662、及びUS2002−182441に開示されているような、錯体の発光を青色側にシフトさせるために使用できるフッ素及びトリフルオロメチル;JP2002−324679に開示されているようなアルキル基及びアルコキシ基;WO02/81448に開示されているような、発光材料として用いた際に錯体への正孔輸送を補助するために使用できるカルバゾール;WO02/68435及び欧州特許第1245659号に開示されているような、更なる基を付加させるために配位子を官能化する際に有用な臭素、塩素、及びヨウ素;並びにWO02/66552に開示されているような、金属錯体に溶解処理特性を付与する又は該特性を向上させるために有用なデンドロンが挙げられる。
【0108】
dブロック元素との使用に適した他の配位子としては、ジケトネート類、特にアセチルアセトネート(acac)、トリアリールホスフィン類、及びピリジンが挙げられる。これらは置換されていてもよい。
【0109】
主族金属錯体は配位子又は電荷輸送に基づく発光を示す。このような錯体では、金属の選択のほか、配位子の選択によって発光色が決まる。
【0110】
ホスト材料及び金属錯体を物理的ブレンドの形態で組み合わせて使用してよい。或いは、金属錯体をホスト材料に化学的に結合させてもよい。ポリマー状のホストの場合、欧州特許第1245659号、WO02/31896、WO03/18653、及びWO03/22908等に開示されているように、金属錯体を置換基としてポリマー主鎖に化学結合させてよく、繰り返し単位としてポリマー主鎖に組み込んでもよく、或いはポリマーの末端基として付与してもよい。
【0111】
本発明の実施形態を蛍光発光体用のホストとして使用することもできる。本発明では様々な蛍光性低分子量金属錯体を使用してよい。2価又は3価の金属に対する適当な配位子としては、例えば酸素−窒素又は酸素−酸素を供与するオキシノイド(oxinoid)(通常は環窒素原子と置換基酸素原子、或いは置換基窒素原子又は置換基酸素原子と置換基酸素原子を有し、例えば8−ヒドロキシキノレート、ヒドロキシキノキサリノール−10−ヒドロキシベンゾ(h)キノリナト(II)等)、ベンザゾール(III)、シッフ塩基、アゾインドール、クロモン誘導体、3−ヒドロキシフラボン、カルボン酸類(サリチラトアミノカルボキシレート、エステルカルボキシレート等)等が挙げられる。発光色を変化させ得る(ヘテロ)芳香族環上の任意の置換基としては、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、ハロアルキル、シアノ、アミノ、アミド、スルホニル、カルボニル、アリール、ヘテロアリール等が挙げられる。
【0112】
以上、本発明を詳述し、その好ましい実施形態について説明したが、添付の特許請求の範囲で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態や細部において様々な変更が可能であることを当該分野の当業者は理解するであろう。
【実施例】
【0113】
2,4,6−トリス(4’−ブロモフェニル)−1,3,5−トリアジン(1)
1Lの三口丸底フラスコに、磁気攪拌機、N気泡注入口付きの還流冷却器、及び500mlの均圧滴下漏斗を取り付けた。トリフルオロメタンスルホン酸(60g、35ml)をフラスコに入れ室温で攪拌した。別のフラスコ中で、4−ブロモベンゾニトリル(36.4g、0.20mol)を無水CHCl(500ml)に溶解し、得られた溶液をN下でカニューレを用いて滴下漏斗に移した。このベンゾニトリル溶液を滴下した後、反応混合物を加熱して90〜95℃で20〜24時間還流した。反応混合物を冷却し、氷浴で冷却した希薄アンモニア水溶液(250ml、3%)中に攪拌しながら慎重に加えた。生成物がオフホワイト色の固体として沈殿し、これをろ過して回収し、HO及びEtOで洗浄した。生成物を還流トルエンから再結晶して純粋な生成物(HPLCで100%)を得た。収量は24.0g、66%であった。
【0114】
2,4,6−トリス(4’’−tert−ブチルビフェニル)−1,3,5−トリアジン(2)
大型の攪拌子及びN気泡注入口付きの還流冷却器を取り付けた3Lの多口丸底フラスコに、(1)(24.0g、44mmol)、4−Bu−フェニル(ピナコール)ボロネート(38.9g、150mmol)、及びPd(PPh(4.56g、3.95mmol)を加えた。この装置をNパージし、カニューレを用いてNスパージにより脱気したトルエン(1.5L)を反応容器に移した。この混合物を攪拌し、EtNOH(155ml、20重量%水溶液)を脱気して加えた。反応系を加熱して115℃で44時間還流した。反応をTLC(20%DCM/ヘキサン)で確認し、反応完了と判断した時点で停止した。混合物を室温まで冷却した後、有機層と水層を分離した。有機層をHCl(600ml、10%)及びHO(2×600ml)で洗浄した。有機層を回収し、MgSOで乾燥し、ろ過し、真空乾燥して租生成物を得た。この生成物を還流ジクロロメタン/メタノールから二度再結晶し、良好な純度を得た(HPLCで99.84%)。収量は13.0g、42%であった。
【0115】
2,4,6−トリス(4’−ブロモ−3’−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(3)
(1)と類似の方法により4−ブロモ−3−メチルベンゾニトリルから調製した。この化合物はジクロロメタン/メタノールから再結晶して精製した。
【0116】
2,4,6−トリス(4’’−tert−ブチル−3’−メチルビフェニル)−1,3,5−トリアジン(4)
(2)と類似の方法により(3)を反応させて調製した。この化合物はトルエンから再結晶を繰り返して精製した。
【0117】
2,4−ビス(4’−ブロモフェニル)−6−フェニル−1,3,5−トリアジン(5)
攪拌子及びN気泡注入口付きの還流冷却器を取り付けた250mlの多口丸底フラスコに、AlCl(8.68g、65.1mmol)及びNHCl(10.45g、195mmol)を加えた。この装置をNパージした。4−ブロモベンゾニトリル(20g、110mmol)及び塩化ベンゾイル(7.94g、56mmol)を反応容器に加え、フラスコを150℃に加熱して、溶解した内容物を攪拌した。混合物を攪拌するとHClガスを放出してスラリーを形成し、その後再度固化した。加熱を20時間続けた。この混合物を還流トルエンで抽出し、還流トルエンから再結晶して、生成物を得た。
【0118】
2,4−ビス(4’’−tert−ブチルビフェニル)−6−フェニル−1,3,5−トリアジン(6)
(2)と類似の方法により(5)を反応させて調製した。この化合物はカラムクロマトグラフィー(10%ジクロロメタン/ヘキサン)で精製した。
【0119】
素子実施例
ITO電極を有するガラス基板上に、PEDOT/PSS層(エイチ・シー・スタルク(H C Starck)社製「Baytron P(登録商標)」、独国レバークーゼン);フルオレン繰り返し単位とトリアリールアミン繰り返し単位からなるコポリマーを含有する正孔輸送層;化合物(6)をホスト材料として含有し、WO02/066552に開示の下記緑色発光イリジウム核デンドリマーを用いた発光層;並びに酸化バリウムからなる層(5nm)及びアルミニウムからなる厚いキャッピング層を有するカソードを順に形成した。これらの層は全て溶液からスピンコーティングにより積層させた。
【0120】
【化17】

【0121】
素子比較例
比較のために、一般的なホスト材料4,4’−ジ(N−カルバゾール)ビフェニル(CBP)を溶解処理可能な状態に修飾したものを上記溶解処理可能なトリアジンホスト材料(6)に替えて用いて、上記素子実施例と同様に素子を製造した。尚、CBPをアルキル基で置換することによって溶解処理可能な状態に変換した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電気素子の製造に用いられる組成物であって、溶解処理可能なトリアジンホスト材料及び燐光発光部を含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記トリアジンホスト材料が小分子トリアジン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶解処理可能なトリアジンホスト材料が、トリアジン繰り返し単位を含むポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記トリアジンがC−C20アルキル鎖可溶化置換基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
中心トリアジン環が少なくとも1つのアリール基で置換されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記アリール基が前記中心トリアジン環に直接結合していることを特徴とする請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記アリール基が前記中心トリアジン環に炭素原子を介して直接結合していることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記アリール基がフェニル環であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記トリアジン化合物がトリスアリールトリアジンであり、そのアリール基のうち1つ以上に、少なくとも1つの可溶化置換基が結合していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記アリール基のうち2又は3つに可溶化置換基が結合していることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
下記式:
【化1】

(式中、R基は可溶化置換基であり、同じであっても異なっていてもよい。)により表されることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
下記式:
【化2】

のいずれか1つにより表されることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの可溶化置換基がアミン基を含み、前記アミン基が前記中心トリアジン環に窒素原子を介して直接結合していないことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
前記トリアジン繰り返し単位が第2繰り返し単位と共にコポリマーを形成していることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項15】
前記第2繰り返し単位がツイステッドコモノマー(twisted co-monomer)であることを特徴とする請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記燐光発光部が前記溶解処理可能なトリアジンホスト材料とは別個の化学物質であり、前記溶解処理可能なトリアジンホスト材料と混合されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記燐光発光部が前記溶解処理可能なトリアジンホスト材料に化学的に結合していることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記燐光発光部がポリマー主鎖(polymer backbone)又は懸垂側鎖(pendent side chain)中に存在することを特徴とする請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記燐光発光部が緑色発光体であることを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
光電気素子を製造する方法であって、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極を有する基板上に、請求項1〜19のいずれかに記載の組成物を溶液から積層させる工程;及びその上に前記第1極性とは逆の第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を配置する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
基板;前記基板上に配置される、第1極性を示す電荷担体を注入するための第1電極;前記第1電極上に配置される、請求項1〜19のいずれか一項に記載の組成物を含む層;及びその上に配置される、前記第1極性とは逆の第2極性を示す電荷担体を注入するための第2電極を有することを特徴とする光電気素子。

【公表番号】特表2010−503193(P2010−503193A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526176(P2009−526176)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003300
【国際公開番号】WO2008/025997
【国際公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(503419985)シーディーティー オックスフォード リミテッド (21)
【出願人】(506061668)サメイション株式会社 (51)
【Fターム(参考)】