説明

光音響ミラーおよび音響波取得装置

【課題】内部への入射界面および外部への出射界面における透過効率が高く、かつ音響反射界面における反射効率が高い光音響ミラーを提供する。
【解決手段】互いに音速の異なる第一の三角プリズムと第二の三角プリズムとを有し、第一の三角プリズムと第二の三角プリズムが接合面にて接合されており、光が入射する第一の面と、光が出射する第二の面と、第二の面から入射し接合面で反射した音響波が出射する第三の面とを有し、第一の面は、第一の三角プリズムに属し、前記第二の面および第三の面は、第二の三角プリズムに属し、第一の三角プリズム内の音速より、第二の三角プリズムの音速が低い光音響ミラーを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響ミラーおよび音響波取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍や動脈硬化などの疾病増加が社会的に大きな課題となっている。このような疾病の有無を診断するために、X線CTやPET−CTなどの侵襲的な生体の画像化装置を用いた測定法が実用化されているが、より低侵襲な測定法が求められている。より低侵襲な測定法の候補として、光音響トモグラフィが挙げられる。
また、細胞やマウスの血管や脳など小動物臓器を観察するための光音響顕微鏡も開発されている。非特許文献1には反射型顕微鏡が提示されている。
【0003】
一般の光学顕微鏡同様、光音響顕微鏡においても、被検体が不透明な観察対象の場合には反射型を用いる。このとき、光学顕微鏡の場合に反射や複屈折を利用したハーフミラーに相当する部品として、光音響ミラーを用いる方法が、非特許文献1で提案されている。光音響ミラーを用いて光照射によって発生した反射音響を光軸外に屈折させることにより、光軸内に音響トランスデューサ(検出素子)を設置する必要がない。
【0004】
光音響トモグラフィは均一な分布、あるいは既知の分布を持った光の中に存在する光吸収係数分布を計測する手段である。そのため、光軸内に音響トランスデューサが存在すると、その影ができ、また光量分布が生じ、結果として被検体に均一な光を照射することができない。よって、非特許文献1のような光音響ミラーを用いるのが好ましい。
【0005】
一方、上記した光音響ミラーを用いない次善の方策として、コンフォーカルレンズや光ファイバーを用いて音響トランスデューサの周囲から被検体に光を照射する方法も提案されている。しかし、観察点に光の焦点や光軸を一致させることは困難であり、またコンフォーカルレンズは高価である上に、音響トランスデューサを取り囲んで配置するため装置が大型化するという問題があった。また、コンフォーカルレンズや光ファイバーにおいては被検体に応じて光の波長を変えるときには、焦点や光軸がずれるため、設計見直しが必要であるという問題もあった。
【0006】
非特許文献1の光音響ミラーは、同種の(例えば直角二等辺三角形の)三角プリズムを対向させ、その間にシリコーンオイル層を入れた構成である。この従来例にかかる光音響ミラーを図2に示す。2個の三角プリズム(符号201、202)の間に、シリコーンオイル層203が配置されている。三角プリズムを2個使う理由は、音響ミラーの前後で入射光軸と出射光軸を平行に保つためである。
【0007】
光は1つめの三角プリズム201とシリコーンオイル層203との界面で屈折し、シリコーンオイル層203ともう1つの三角プリズム202との界面で逆方向に屈折するので、結果として音響ミラー前後で入射光軸と出射光軸は平行にずれる。位置ずれ量は三角プリズムおよびシリコーンオイル層の屈折率ならびに三角プリズムサイズとシリコーンオイル層厚さによって決まる。
非特許文献1には、光音響ミラーの作用に関して、音響については、ガラスとシリコーンオイルとの音響インピーダンス差で45°反射させると記載されている。
【0008】
ここで、上記の従来の光音響ミラーにおいては、光音響ミラーでの音響反射および音響透過によるロスが大きく、光音響信号としての音響波の音圧が必然的に小さくなり、得られる画像のコントラストが低くなってしまう、という課題があった。
光音響ミラーによる音圧のロスを、(1)音響ミラーへの入射界面、(2)45°反射界面、(3)音響ミラーからの出射界面、の3要素に分けて見積もり評価する。
【0009】
まず、(1)音響ミラーへの入射界面でのロスについて検討する。
光音響ミラーは水や生体材料と音響的にコンタクトさせて使う。ここで、各材料の音響インピーダンスは次のように既知である(単位はN・s/m3)。すなわち、水の音響インピ
ーダンスZ1:1.5×106、ガラスの音響インピーダンスZ2:12.1×106である。
水に音響ミラーのガラス面を接触させた場合、水中から音響ミラーへの(垂直)入射界面での反射率Rは、それぞれの音響インピーダンスより、R=0.779と計算できる。すなわ
ち音圧の78%が反射され、音響ミラーに入射するのは音圧の22%に過ぎない。
【0010】
次に、(2)45°反射界面でのロスについて検討する。
音響波が媒質の異なる境界面に対して媒質1から媒質2へθ1の入射角で入射した場合
、その進行方向がθ2の角度に屈折する。なお、反射角は入射角と同じθ1となる。その入射角θ1、屈折角θ2はスネルの法則により次式(1)で表される。
sinθ1/sinθ2=C1/C2 …(1)
ただし、C1、C2はそれぞれ媒質1、2の音速である。
また、そのときの反射率Rは、次式(2)のようになる。
R=(Z2・cosθ1−Z1・cosθ2)/(Z1・cosθ2+Z2・cosθ1) …(2)
【0011】
ここで、音響波が入射角45°でガラスからシリコーンオイルに入射した場合について計算する。屈折角θを求めると、ガラスの音速は5100m/sec、シリコーンオイルの音速
は1000m/secであるので、これを式(1)に当てはめて、θ2=7.97°と計算できる。
また、非特許文献1によれば、シリコーンオイルの音響インピーダンスZ3は0.95×106 (N・s/m3)であるので、上述のガラスの音響インピーダンスZ1とともに式(2)に当ては
めて、反射率R=0.89と計算できる。
【0012】
次に、(3)音響ミラーからの出射界面でのロスについて検討する。
音響ミラーからの出射界面には通常、空気層で全反射ロスするのを避けるために、ゲルなど水に近い音響特性をもつカップラーが用いられる。そこで、音響ミラーのガラス製三角プリズムから水への(垂直)入射界面での反射率Rを計算する。水とガラスの音響イン
ピーダンスは(1)の場合と同じである。ただし媒質1と媒質2が逆転しているため音圧反
射率の符号がマイナスとなる。よってR=−0.779となる。
すなわち、音響ミラーから出射するのは音圧の22%である。
【0013】
(1),(2),(3)の透過率・反射率を掛け合わせると、光音響レンズに入った音圧の4%
しか利用できないことになる。そのため、従来の光音響レンズを用いた装置は感度が低いということが課題となっていた。
【0014】
また、音響波を屈折させるためには音響波の波長以上のシリコーンオイルの厚さが必要となる。例えば音速1000m/secのシリコーンオイル中では、75MHzの音響波の1波長
は13μmである。しかし光音響トモグラフィでは広帯域の音響波が発生する。例えば1MHzの音響波は波長が1mmであるため、このように低周波の帯域の音響波を反射・屈折させるためには数mmの厚さのシリコーンオイルが必要となる。このように、シリコーンオイル層が数mmの厚さとなると、三角プリズムとシリコーンオイル界面での屈折による光軸のずれが、無視できないほど大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】“Optical-Resolution Confocal Photoacoustic Microscopy”,Lihong V. Wang, etc. Proc. of SPIE Vol. 6856, 68561I, (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、内部への入射界面および外部への出射界面における透過効率が高く、かつ音響反射界面における反射効率が高い光音響ミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、音速の異なる第一の三角プリズムと第二の三角プリズムとを有し、前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムが接合面にて接合されており、光が入射する第一の面と、前記第一の面に対向し、前記入射した光が出射する第二の面と、前記第一の面および第二の面と接し、前記第二の面から入射し前記接合面で反射した音響波が出射する第三の面とを有し、前記第一の面は、前記第一の三角プリズムに属し、前記第二の面および前記第三の面は、前記第二の三角プリズムに属し、前記第一の三角プリズム内の音速より、前記第二の三角プリズムの音速が低いことを特徴とする光音響ミラーである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内部への入射界面および外部への出射界面における透過効率が高く、かつ音響反射界面における反射効率が高い光音響ミラーを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の光音響ミラーの模式図。
【図2】従来例の光音響ミラーの模式図。
【図3】本発明のプリズムの辺と面を説明する図。
【図4】本発明の光音響ミラーを用いた光音響装置の模式図。
【図5】本発明の光音響ミラーの別の例の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。本発明は、プリズムの組み合わせからなる光音響ミラー、あるいは、光音響ミラーを用いた光音響装置として実現される。本発明の光音響装置は、被検体から発生した音響波を取得する、音響波取得装置とも言える。
【0021】
(音響波)
音響波は、弾性波の一種である。弾性波とは、典型的には超音波であり、音波、超音波、音響波、光音響波、光超音波と呼ばれる弾性波を含む。
本発明の光音響装置(音響波取得装置)とは、被検体に光(電磁波)を照射することにより被検体内で発生した音響波(典型的には超音波)を受信して、被検体情報を画像データあるいは数値データとして取得する光音響効果を利用した装置である。
このような装置において、取得される被検体情報とは、光照射によって生じた音響波の発生源分布や、被検体内の初期音圧分布、あるいは初期音圧分布から導かれる光エネルギー吸収密度分布や、吸収係数分布、組織を構成する物質の濃度分布を示す。物質の濃度分布とは、例えば、酸素飽和度分布や酸化・還元ヘモグロビン濃度分布などである。
【0022】
(被検体)
被検体は本発明の光音響ミラーまたは光音響装置の一部を構成するものではないが、以下に説明する。本発明の光音響装置は、人や動物の悪性腫瘍や血管疾患、血糖値などの診断や化学治療の経過観察などを主な目的とする。よって、被検体としては生体、具体的に
は人体や動物の乳房や指、手足などの診断の対象部位が想定される。
被検体内部の光吸収体としては、被検体内で相対的に吸収係数が高いものを示す。例えば、人体が測定対象であれば、酸化あるいは還元ヘモグロビンやそれらを含む血管、あるいは新生血管を多く含む悪性腫瘍が該当する。また、被検体表面の光吸収体としては皮膚表面付近にあるメラニンが該当する。
【0023】
まず、本発明を特徴付ける、2つの三角プリズムを組み合わせた光音響ミラーの要件について説明する。なお光音響ミラーとは、光は実質上の影響がない範囲での屈折率で被検体まで透過させ、被検体から発生した音響波には屈折率(反射率)を与えて音響トランスデューサ(検出素子)に導く部品である。
【0024】
(光音響ミラーを構成する三角プリズム)
図1に示した光音響ミラーの例を参照しつつ、三角プリズムの条件を検討する。三角プリズムの各辺および各面の呼称は図3に示す。
本発明に好適な2つの三角プリズム(1)(図中、符号101で示す)および三角プリズム(2)(符号102)の組合せは、光学屈折率が一致または近似していて、かつ、音速または音響インピーダンスの差が大きな材質である。好ましい素材については後述する。
【0025】
(光音響ミラーの光学屈折率)
本発明の光音響ミラーは音響のみを反射・屈折することが目的であり、光軸ずれが実質的無視できる範囲であることが好ましい。光学屈折率が同じあるいは近似している場合にこの条件を満足する。
【0026】
便宜的に三角プリズム(1)を光入射側三角プリズム、(2)を光出射・音響入出射側三角プリズムとする。2枚とも断面が直角二等辺三角形のプリズムであれば、(1)の面に垂直入射した光は(1)内を直進し、(1)から(2)へ(界面の垂線に対して)45°の角度で入射する。スネルの法則より、屈折角θ2は屈折率比n1/n2で決定され、次式
(3)のようになる。
θ2=sin-1(sin45・n1/n2) …(3)
【0027】
なお、三角関数では近似が使われることが多く、屈折率比が1に近似できるときにはθ2 =45°とみなされる。屈折率比が1.1乃至0.9の範囲で1と近似が成り立つので、屈折率
比が1±0.1の範囲であれば光はほぼ直進するとみなせる。
例えば、(1)にガラス(屈折率1.52)、(2)にアクリル(屈折率1.49)を用いた場合、屈折率比は1.02となり、屈折角θ2 は46.2°である。これは、三角プリズムのa=30mmの場合に、光出射面において0.6 mmのずれ量となる。レーザービーム光源ではビーム径が10mm程度なので、実用的な観点から光は直進すると近似してよい。
【0028】
(光音響ミラーの音速・音響インピーダンス)
本発明の光音響ミラーは音響波(典型的には超音波。光音響効果により発生したものは光音響波とも呼ぶ)を反射・屈折することが目的である。そのため、光音響ミラー面(2つのプリズムの接合面)は音速または音響インピーダンスの差が大きな材質であることが望ましい。2つの材質が45°で接する界面において、音速差が大きい場合には音響波の反射率が高くなることが知られている。一方、それ以外の界面、すなわち光音響ミラーへの入射界面ならびに光音響ミラーからの出射界面においては反射ロスが少ないことが望ましい。
【0029】
接合面を挟んで、材質2内の音速はC2、材質1内の音速はC1とする。このとき材質2から材質1へ、界面の垂線に対して角度θ2で音響波が入射する場合、材質1への屈折角θ1
=sin-1(sinθ2×C1/C2)となる。
また、臨界角θc=sin−1(C1/C2)となる。材質2から材質1への入射角θ2 > θcのと
きに全反射となる。
【0030】
光音響効果によって水中で発生した音響波が光音響ミラーの材質2と材質1との界面へ45°入射した場合、C1/C2>1.4のときに全反射する。また、音響波が60°入射した場合には、C1/C2>1.15のときに全反射する。
なお、従来例においてはC1/C2=0.20で、臨界角は11°であるため、三角プリズムにすれすれ(界面に浅い角度)に光を入れなければ全反射しない。
【0031】
(三角プリズムの形状)
三角プリズムの三角形は直角二等辺三角形であることが好ましい。すなわち、図3においてa=bの2辺の挟角が90°である。高さdは任意の大きさとする。
ただし、三角プリズム内に光軸が実質的に入るサイズであることが第一要件である。例えば、ガウシアン型の分布を持つ場合にはビームウェスト面内での(中心に比べて1/e2の)強度の等高線の半径w0より(a,b,c,d)の最小値が大きいことを満足することが望ましい

また、三角プリズム内に音響ビームが実質的に入るサイズであることが第二要件である。光と異なり、音響シグナル強度ピーク値の−6dBをビームウェストBDと定義したとき、BDより(a,b,c,d)の最小値が大きいことを満足することが望ましい。
よって、本発明の三角プリズムの三角形は直角二等辺三角形であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0032】
(光音響ミラーならびにその形成方法)
本実施例の光音響ミラーは、異種の2つの三角プリズム(直角二等辺三角形プリズム)を貼り合せたものである。光音響ミラーの構成と形成方法について詳述する。以下の説明では、直角二等辺三角形プリズムの辺および面を図3のように表す。二等辺をa、b、(a=b、辺aと辺bの挟角が90°を頂角とする)、頂角に対向する底辺をc、(c=√2・a=√2・b)であり、プリズムの高さをdとする。辺で囲まれた面は、頂角に対向する底面をcd面、稜面をad面およびbd面、直角二等辺三角形をab面とする。
【0033】
(プリズムの接合)
2つの三角プリズム内での音速が異なり、かつ、2つの三角プリズムの光学屈折率差が10%以内であることが望ましい。光音響ミラーは、2つの三角プリズムのcd面同士を接合させて構成された直方体で、特に好ましくは立方体(キュービック)である。
【0034】
異種材料で、特に片方が樹脂素材の場合には鏡面研磨の精度を出すことが難しいため、cd面同士の接合面でオプティカルコンタクトを達成することは一般に困難である。そこで本発明では、三角プリズムの組み合わせに応じて、以下のような接合方法から最適な方法を選択して三角プリズムから光音響ミラーを形成した。なお、以下に示したものは例であり、接合方法はこれに限定されるものではない。
【0035】
(熱接合)
ガラスや石英のような、λ/2ないしλ/4の面精度で鏡面仕上げが可能な第一の三角プリズムと、アクリルのような熱可塑性を有する樹脂素材の第二の三角プリズムとを組合せて接合する場合、以下のように形成できる。
あらかじめ、第一の三角プリズムを加熱して、第二の三角プリズム樹脂のガラス転移点以上の温度とし、第二の三角プリズムを第一の三角プリズムに押し付ける。第二の三角プリズムは表面がガラス状態となり、第一の三角プリズムの面精度でコンタクトが可能となる。
【0036】
(溶剤接合)
ガラスや石英製の第一の三角プリズムと、樹脂製で所定の溶媒(溶剤)に可溶、特に好ましくは微溶な第二の三角プリズムとを組合せて接合する場合、以下のように形成できる。
第一の三角プリズムのcd面上に、第二の三角プリズム樹脂の溶剤をあらかじめ展開させ、その上に第二の三角プリズムを押し付ける。溶剤により第二の三角プリズム表面が溶解し、第一の三角プリズムの面精度でコンタクトが可能となる。
【0037】
(光硬化樹脂接合)
第一の三角プリズムと第二の三角プリズムの間に、あらかじめ光硬化樹脂を塗布しておき、ad面もしくはbd面から光、特に好ましくは紫外線を照射することにより接合面が樹脂で固定される。この場合、光硬化樹脂層が厚いと接合面で光軸がずれるため、光硬化樹脂層の厚さは100μm以下とし、特に薄いほど好ましい。
【0038】
(光音響ミラーの光軸ずれ)
従来例では、シリコーンオイル層の厚さが、100μmと記載されている。これは音響波を屈折させるためには音響波の波長以上、例えば音速1000m/secのシリコーンオイル中では75MHzの音響波の1波長は13μmであるので、シリコーンオイル層を100μmとしているためである。
【0039】
しかし光音響では、上述したように広帯域の音響波が発生する。例えば1MHzの音響波は波長が1mmであるため、この帯域の音響波を反射・屈折させるためには数mmの厚さが必要となる。よって、この方法では、75MHzの音響波を観測することができるが、低周波の音響波は観測できず、例えば1MHzの音響トランスデューサで観測することはできない。低周波音響波を反射可能な数mmの厚さのシリコーンオイル層となると、三角プリズムとシリコーンオイル界面での屈折による光軸のずれが大きく無視できなくなる。
【0040】
一方、本発明においては、2つの異種の三角プリズムを直接接合する場合はもちろん、光硬化樹脂層を用いる場合でも厚さを100μm以下とすることが可能で、光軸のずれは実用上無視できる範囲である。しかも、その厚さは薄ければ薄いほど、光軸がずれない点で好ましく、かつ、音響波は第一の三角プリズムcd面において反射・屈折するため、光硬化樹脂層が薄くても音響特性には影響を及ぼさない。
【0041】
本発明の光音響ミラーにおいて、異種の三角プリズムの界面での光屈折による光軸ずれ量の計算例は以下のとおりである。
波長633nmにおける屈折率n1=1.52のガラスから、屈折率n2=1.49のアクリルへ入射角θi=45°で入射する場合を考える。スネルの法則に従い屈折角θtを求め
ると、θt=46.2°である。アクリル中を10mm進むと光軸はわずか0.2mmず
れるが、光音響計測では直径5mm乃至10mm程度のレーザービームを通常使うため、光軸のずれは実用上問題とならない。
【0042】
(光音響ミラーの音響効率)
本発明の例での各界面での音響(音圧)透過率・反射率を以下(1)-1と(2)-1と(3)-1で
考察する。これらを掛け合わせた音圧出力は40%となる。
【0043】
(1)-1:水からアクリルへの界面。
反射率=(3.27−1.5)/(3.27+1.5)=37%
透過率=100-37%=63%
【0044】
(2)-1:アクリルからガラスへの界面(45°入射)。
屈折角θt=sin-1(C2/C1×sinθi)
=sin-1(5100/1500×0.71)・・・全反射
よって、反射率=100 %
【0045】
(3)-1:アクリルから水への界面。
反射率=(1.5 −3.27)/(1.5 +3.27)=37%
透過率=100-37%=63%
【0046】
一方、従来例では、各界面での音響(音圧)透過率・反射率は以下(1)-2と(2)-2と(3)-2であり、これらを掛け合わせた音圧出力は4%に過ぎない。
(1)-2:水からガラスへの界面での透過率 = 100-78% = 22%。
(2)-2:ガラスからシリコーンへの界面(45°入射)での反射率=89 %。
(3)-2:ガラスから水への界面での透過率=22%。
【0047】
なお、2つの異種の三角プリズムを接合するために接着層を設ける場合には、(2)−1
界面において反射する音響波の1波長以下とすることが好ましい。音響波の波長以下の厚さであれば音響波は接着層で反射せずに、接着層がない場合と同様の設計が可能である。しかも、光軸のずれも実用上無視できる範囲であることは上述したとおりである。なお従来例では、シリコーンオイル層が音響波波長の7倍以上あるため、ガラスとシリコーン層との界面において音響波が反射できてしまう条件で構成されている。
【0048】
<実施例1>
本実施例では、光音響ミラーの代表例について詳細に説明する。
【0049】
(光音響ミラーの構成)
第一の三角プリズムとして、ガラスBK7素材を面精度λ/2に鏡面加工した直角二等辺三角プリズムa=b=d=30mm(シグマ光機製RPB-30-2L)を用いた。第二の三角プリズムと
して、アクリル素材を同じ形状に加工し、全面を研磨加工した物を用いた。光音響ミラー加工時の接合方法としては溶剤接合を用い、ジクロロメタン溶媒を用いて接合した。本実施例において、光学屈折率の比は1.02、音速の比は3.4である。
【0050】
(光学特性)
波長633nmにおける屈折率n1=1.52のガラスから、屈折率n2=1.49のアクリルへ入射角θi=45°で入射する場合、スネルの法則より、屈折角θt=46.2°で
ある。光音響ミラーのガラス面中心から垂直入射し、アクリル界面で屈折した光軸はアクリル中を15mm進むとわずか0.3mmずれる。しかし、光音響計測では直径5mm乃至10mm程度のレーザービームを通常使うため、光軸のずれは実用上問題とならない。
【0051】
(音響特性)
音響の総合効率は、次の3つの界面での効率を総合して考察した。
(1)-1:音響波が光音響ミラーへの入射界面で反射されるロスを減じた透過効率。
(2)-1:アクリルとガラス界面に45°入射した音響波の反射効率。
(3)-1:光音響ミラーから水(あるいは超音波ゲルなど)への出射界面で反射されるロ
スを減じた透過効率である。
【0052】
それぞれの音響特性計算値も上述した通りである。すなわち、(1)-1の透過率=63%、
(2)-1の反射率=100 %、(3)-1の透過率=63%である。これらの効率を掛け合わせると、入射した音響波が検出される効率は、トータルで入射の40%となる。
【0053】
<比較例1>
従来例における媒質2と媒質1との音速比は0.2であり、音速の高い媒体から音速の低い媒体での界面での音響反射であるため反射率が低い。その結果、音響波の総合伝搬効率は前述したように4%である。よって、従来の効率である4%と比較して、本発明においては40%であるため、10倍の音響波伝搬効率を得た。
【0054】
<実施例2>
本実施例では、三角プリズム素材組合せの異なる例について説明する。
【0055】
第一の三角プリズムとして、石英素材を面精度λ/2に鏡面加工した直角二等辺三角プリズムa=b=d=30mm(シグマ光機製RPSQ-30-2L)を用いた。第二の三角プリズムとして、TPX−RT18(三井化学製ポリメチルペンテン)素材を同じ形状に加工し、全面を研磨加工した物を用いた。TPXの光学屈折率は1.46で石英の1.45にきわめて近い。
【0056】
従来、TPX中の音速は2190m/secで、石英の音速5100m/secは2.3倍であることが知られている。よって、実施例1と同様に、TPXから石英に45°入射した音響波は全反射する。すなわち、本実施例において、光学屈折率の比は1.01、音速の比は2.3である。なお、TPXは溶剤に溶けにくいという特徴があるため、石英との接合は加熱加圧方式を採択した。
三角プリズムに用いる素材をこのように組み合わせても、本発明の効果を得ることができる。
【0057】
<実施例3>
本実施例では、実施例1で作製した光音響ミラーを用いた光音響装置について、図4を参照しつつ述べる。光音響装置は、少なくとも、光音響ミラーと、被検体(光音響観察対象物)から音響を発生させるための光源と、被検体から発生した音響波を検出する検出素子(音響トランスデューサ)を有する。このような光音響装置において、光源からの光が光音響ミラー内部を通過し、被検体から発生した音響波が光音響ミラー内部において反射・屈折し、検出素子により検出される。
本実施例では上記の構成要素に加えて、後述するような複数の付加的な構成要素が存在する。しかしこれらは必須ではなく、測定の必要に応じて付加すればよい。
【0058】
(構成)
実施例1の光音響装置は、光402を照射する光源401、光を被検体に導く光学系403、キュービックプリズムからなる光音響ミラーを有する。被検体405はステージ406に載せられている。ステージは走査機構407に接続されている。走査機構を駆動して被検体を移動することにより、観察位置を変えることができる。光音響ミラーは被検体から発した音響波410を、水槽409を介して入射される。音響波が三角プリズムの接合面で反射した先には、音響カップリング剤411を介して、音響トランスデューサ408が配置されている。さらに、被検体を圧迫等の手段により保持する保持部材を用いてもよい。
【0059】
本実施例の光音響ミラーは、ガラス製三角プリズム404aとアクリル製三角プリズム404bからなる。図示したように、光音響ミラーは、三角プリズム同士の接合面が光および音響波の入射方向に対して45°で傾くように配置されている。
2つのプリズムのうち、アクリル製三角プリズムの側が、水に接しており、水を介して被検体からの音響波入射面(第二の面)となる。光音響ミラーのうち、ガラス製三角プリズムの側の面であり、音響波入射面に対向する面が光入射面(第一の面)となる。
【0060】
入射した音響波はアクリル製三角プリズムとガラス製三角プリズムの接合面で反射し、アクリル製三角プリズムの別の面(第三の面)から出射する。反射した音響波を計測可能な位置に音響トランスデューサを配置する。
光音響ミラーと音響トランスデューサは水や超音波ゲルなどを介して音響カップリングさせる。光音響ミラーならびに音響トランスデューサは光軸をさえぎらないように設計したホルダーに収納する。
【0061】
(作用)
光軸は光音響ミラーに略鉛直に落射して、ガラス製三角プリズム側面に略垂直に入射する。光音響装置の光源にレーザーを用いる場合、ほぼ平行ビームとすることができるため、ビーム径の範囲で略垂直入射を実現できる。垂直入射した光軸は三角プリズムの接合する界面まで直進し、略45°でアクリル製三角プリズムに入射する。実施例1で計算したように、30mmのキュービックプリズムにおいて、光軸中心は、三角プリズム内を屈折角46.2°で15mm直進し、光音響ミラーの底面に到達する。そのとき、入射位置からは水平方向に0.3mmずれる。よって、光音響ミラーの底面と水との界面に対して1.2°の傾斜をもって入射する。
【0062】
波長633nmにおける屈折率n2=1.49のアクリルから、屈折率n3=1.33の水へ入射角θi=1.2°で入射する場合、スネルの法則より、屈折角θt=1.3°で水中
を直進し、被検体を照射する。
【0063】
被検体は、吸収した光エネルギーを音響波として放出する。放出された音響波は光音響ミラーの方向へ進み、底面から入射する。光音響波の指向性は被検体の形状などに依存し複雑であるが、ここでは簡略化のために、光音響ミラーの底面に垂直入射した音響波を追跡する。
【0064】
光音響ミラーの底面に垂直入射した音響波は、水と光音響ミラー(アクリル製三角プリズム側)の底面との界面で反射する。伝搬してきた水の音響インピーダンスをZ1、アクリル製三角プリズムの音響インピーダンスをZ2とすると、その反射率Rw−aは、Rw−a=(Z2−Z1)/(Z2+Z1)のように表される。
反射されなかった音響波は界面を透過し、その割合は、1−Rw−a=2Z2/(Z2+Z1)であ
る。
【0065】
音響波はアクリル製三角プリズム内を進行し、ガラス製三角プリズムとの接合面に達する。このとき、接合面に対して略45°の傾斜角となる。接合面に対して斜入射した音響波は、アクリル製三角プリズム内の音速をC2、ガラス製三角プリズム内の音速をC1とすると、スネルの法則に従った屈折角θt=sin-1(C2/C1×sinθi)で屈折する。
なお、C2<C1の場合、θtが臨界角θc=sin-1(C2/C1)より大きいときには、音響波が全反射する。
【0066】
また、実施例1の光音響ミラーの接合界面に対して45°入射した場合に、この臨界角より大きいため全反射することは前述したとおりである。
また、斜入射における反射率Ra−gは、アクリル製三角プリズムの音響インピーダンスをZ2、ガラス製三角プリズムの音響インピーダンスをZ1とすると、Ra−g=(Z2・cosθ1−Z1・cosθ2)/(Z1・cosθ2+Z2・cosθ1)である。
【0067】
さらに、アクリル製三角プリズムとガラス製三角プリズムの界面で反射した音響波はアクリル製三角プリズム内をさらに進行し、光音響ミラー(アクリル製三角プリズム)の端面(側面)に達する。この端面で、かつ音響波を効率良く計測できる位置に音響トランスデューサを配置する。音響トランスデューサは検出素子が単数のものでも、複数配列した
ものでも良い。例えば、NDT製のV303、東レ製のH9Cなど検出素子が単数のものや、Vermon社製のC360など複数のものを用いることができる。
【0068】
このように音響トランスデューサの選択肢が多いのは、本発明の光音響ミラーによって光軸から音響波を分離できているので、レイアウトの自由度が高いためである。また、従来の光音響ミラーより感度が高いため、単数で用いる検出素子よりもサイズが比較的小さいために感度が低い複数で用いるタイプでも問題なく使えるためでもある。
【0069】
さらに、アクリル製三角プリズムの端面とこれらの音響トランスデューサとを、上述のように超音波ゲルを介して音響カップリングさせれば、音響波を音響トランスデューサへと効率良く導くことができる。音響カップリング剤としては他に、水を用いてもよい。
以上の操作を、時間的あるいは空間的に繰り返し、検知された光音響信号から画像再構成することにより、被検体の映像を構成することができる。
【0070】
(光源)
光源は、被検体(生体)を構成する成分のうち特定の成分(例えばヘモグロビン)に吸収される特定の波長の光を照射する手段である。光源としては5ナノから50ナノ秒のパルス光を発生可能なパルス光源を少なくとも一つは備える。光源としては大きな出力が得られるレーザーが好ましいが、レーザーのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。
本発明において光とは、可視光線や赤外線を含む電磁波を示し、具体的には、波長が500nm以上1300nm以下の範囲の光を用いる。前記範囲内の光のうち、測定対象とする成分に
より特定の波長を選択すると良い。
【0071】
(光学系)
本発明の光学部材(光学系)としては、例えば、光を反射するミラーや、光を集光したり拡大したり形状を変化させるレンズ、光を分散・屈折・反射するプリズム、光を伝搬させる光ファイバー、拡散板、絞り等が挙げられる。これらの機構により、光源からの光が光音響ミラーに入射される。
光源から照射された光は、レンズやミラーなどの光学部材を用いて被検体に導かれたり、光ファイバーなどの光学部材を用いて伝搬させたりすることが可能である。このような光学部材は、光源から発せられた光が被検体に所望の形状で照射されれば、どのようなものを用いてもかまわない。なお、一般的に光はレンズで集光させるより、ある程度の面積に広げる方が生体への安全性ならびに診断領域を広げられるという観点で好ましい。
【0072】
<実施例4>
本実施例では、光音響装置の別の例について説明する。本発明において、三角プリズムは直角二等辺三角形を含む三角柱形状に限定されない。
【0073】
図5(a)に示すように、第一の三角プリズム501として、ガラスBK7素材を面精度λ/10に鏡面加工した60°三角プリズム(シグマ光機製DPB-30-10H)を用いた。各辺の長さは、a=b=c=d=30mmである。
図5(b)に示すように、第二の三角プリズム502として、アクリル素材を同じ形状、サイズに加工し、接合する面を研磨加工した物を用いた。そして、溶剤接合方法で両者を接合して、図5(c)の断面図に示されるような光音響ミラーとした。
両者の光学屈折率の比は1.02、音速の比は3.4である。
【0074】
(光学特性)
三角プリズムのad面を水平に配置して基準面とする。レーザー光Lは略鉛直にガラス製
三角プリズムに入射する。波長633nmにおける屈折率n1=1.52のガラスから、屈折率n2=1.49のアクリルへ入射角θi=60°で入射する場合、スネルの法則に従い、屈折角θt=62.1°である。光音響ミラーのガラス面中心から垂直入射し、アクリル
界面で屈折した光軸はアクリル中を15mm進むと0.55mmずれる。しかし、光音響計測では直径5mm乃至10mm程度のレーザービームを通常使うため、光軸のずれは実用上問題とならない。
【0075】
(音響特性)
音響の総合効率は、上記実施例と同様、3つの界面を考察した。すなわち、(1)-1:光
音響効果により発生し水中を伝搬した音響波が光音響ミラーへの入射界面で反射されるロスを減じた透過効率。(2)-1:アクリルとガラス界面に60°入射した反射効率。(3)-1:光音響ミラーから水(あるいは超音波ゲルなど)への出射界面で反射されるロスを減じた透過効率、である。
【0076】
それぞれの音響特性計算値は、以下のとおりである。
(1)-1に関しては、上記実施例と同じく垂直入射なので、同様の計算が成り立ち、透過
率=63%、となる。
(2)-1に関しては、θt=sin-1(C2/C1×sinθi)=sin-1(5100/1500×0.866)となり、臨界
角を越えて60°で入射した音響波は全反射する。よって、反射率=100%、となる。
(3)-1に関しても、透過率=63%、となる。
以上の3つの要素を掛け合わせると、本実施例におけるトータルでの効率は40%となる。すなわち、光音響ミラーに入射した音響波の最大40%を出射できる。
【0077】
なお、実施例1の光音響ミラーと比較して、媒質1と媒質2との音速比が小さい範囲まで全反射条件を満足するため、材質の選択幅が広がる。60°入射の場合の臨界角条件は、上記θt=sin-1(C2/C1×0.866)が90°となるとき、すなわち媒質2と媒質1との音速
比が1.15以上を満足するときである。
【0078】
<比較例2>
ここでは、実施例4との比較対象として、実施例4と同じ形状の三角プリズムを非特許文献1に適用した場合を考察する。この場合2つのプリズムの接合面にはシリコーンオイル層がある。なお、ガラスの音速は5100m/sec、シリコーンオイルの音速は1000m/secであることが知られている。
【0079】
水と光音響ミラーのガラス面の接触面において、水中から光音響ミラーへの(垂直)入射する音響波の反射率R=0.779となり、光音響ミラーに入射するのは音圧の22%となる。
【0080】
次に、光音響ミラー内のガラス製三角プリズムを進行した音響波がシリコーンオイル層で反射される効率を求める。屈折角θ2=9.78°と求められる。また、ガラスの音響インピーダンスZ1=12.1×106(N・s/m3)と、シリコーンオイルの音響インピーダンスZ2=0.95×106(N・s/m3)より、R=−0.92と求められる。
【0081】
さらに、ガラス製三角プリズムから水中へ音響波が出射する界面における入射角θiは30°となり、屈折角θ3=78.6°と求められる。また、ガラスの音響インピーダンスZ1と、
水の音響インピーダンスZ3=1.5×106(N・s/m3)より、R=−0.30と求められる。負の符号は位相を表すので、反射率は0.3である。よって、透過率は0.7である。
【0082】
以上3つを掛け合わせると、本比較例におけるトータルの音響伝搬効率は14%となる。したがって、実施例4の40%より効率が悪い。
【0083】
<実施例5>
本実施例では、光音響ミラーを構成する三角プリズム素材のバリエーションについて説明する。
【0084】
本発明において、複数の三角プリズム素材を組み合わせて光音響ミラーを構成することが可能である。また、実施例4で提示したように、三角プリズムの三角形角度を変えることにより、その素材が同じでない限り、組み合わせて用いることができる。
例えば、ガラス製の直角二等辺三角形プリズムを光入射側の三角プリズムとした場合、音響波の入射側の三角プリズムとして、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、TPX(ポリメチルペンテンポリマー)、ポリスチレン等を用いることができる。
【0085】
下の表に、各素材の屈折率、ガラス製三角プリズムとの屈折率比、光学屈折角、音速を示す。屈折角はいずれも、界面に対して45°入射の場合を想定している。なお、いずれの素材においても、45°屈折での音響反射率は100%と考えることができる。
【表1】

【0086】
ガラス製三角プリズムに対して、これらの素材を音響波入射側の第二の三角プリズムとして用いても、上記実施例で述べたような光音響ミラーや、その光音響ミラーを用いた光音響装置を実現可能である。
【0087】
(三角プリズム群)
2つの異種の三角プリズムの組み合わせについてさらに検討する。組み合わせは、以下の要件を満足することが好ましい。
【0088】
まず、光音響ミラーによる光音響に用いる光に対する作用を極力少なくするために、三角プリズムは光音響に用いる光の波長に対して透明であることが望ましい。
また、本発明に用いる2つの三角プリズムは異種の材料であるため、その光学屈折率およびその材料内での音速は異なっている。その範囲は、光学屈折率の比が0.9乃至1.1以内が好ましい。音速比は1.15以上が好ましく、特に1.4以上が好ましい。
【0089】
2つの異種材料の組み合わせに関して、光学屈折率および光学屈折率比を下表に例示する。ここに示した2つの素材間の光学屈折率比はすべて1.0±0.1を満足する。なお、好ましい条件範囲を満足すれば、素材はこの例に限定されるものではない。
【表2】

【0090】
光学屈折率の比が1.0±0.1か好ましい理由を述べる。第一の三角プリズムのみを用いて水に接触させた場合、光軸は屈折する。これを補正するために、文献1において同じ材質の第二の三角プリズムを貼りあわせて光軸を元に戻している。よって、本発明においても、第一の三角プリズムに屈折率1.52を使った場合、水の屈折率1.33との比は1.14であるため、第二の三角プリズムは水以上、すなわち屈折率の比が1.0±0.1以下であることが効果として期待される。
【0091】
2つの異種材料の組み合わせに関して、材料内音速(m/sec)および音速比を下表に例
示する。ここに示した2つの素材間の音速比のうち、通常の文字で示したものは1.4以上、カッコにいれた文字が1.15以上であり、これらが本発明の好適な適用範囲である。斜体字で示した音速比は好ましい範囲以下である。なお、好ましい条件範囲を満足すれば、素材はこの例に限定されるものではない。
【表3】

【0092】
音速比は1.15以上が好ましく、特に1.4以上が好ましい理由を述べる。三角プリズムの三角形の三角が60°である正三角形の場合、光音響レンズの光入射面を水平にしたときに、被検体から垂直に反射して光音響レンズに入射した音響波が臨界角以上となるのは音速比が1.15以上のときである。また、三角プリズムの三角形が直角二等辺三角形の場合、同様の条件で臨界角以上となるのは音速比が1.4以上のときである。
【0093】
これ以下の音速比でも、第一の三角プリズムと第二の三角プリズムとの界面すれすれに音響波が入射すれば臨界角以上となり全反射は可能である。しかし、音響波の方向を変えて光軸からずらすという光音響ミラーの目的には相応しくない。
【0094】
以上の各実施例のような光音響ミラーや光音響装置を用いれば、被検体からの音響波を従来よりも効率良く取得することができる。このようにして集めたデータを、コンピュータ等の信号処理部において適切な信号処理を施すことにより、被検体の表面あるいは内部の被検体情報を画像データとして取得することできる。すなわち、被検体内部を断層等で3次元イメージ化する光音響トモグラフィ装置を構成することが可能になる。
【符号の説明】
【0095】
101:ガラス製三角プリズム,102:アクリル製三角プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音速の異なる第一の三角プリズムと第二の三角プリズムとを有し、
前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムが接合面にて接合されており、
光が入射する第一の面と、前記第一の面に対向し、前記入射した光が出射する第二の面と、前記第一の面および第二の面と接し、前記第二の面から入射し前記接合面で反射した音響波が出射する第三の面とを有し、
前記第一の面は、前記第一の三角プリズムに属し、
前記第二の面および前記第三の面は、前記第二の三角プリズムに属し、
前記第一の三角プリズムの音速より、前記第二の三角プリズムの音速が低い
ことを特徴とする光音響ミラー。
【請求項2】
前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムは、断面が直角二等辺三角形であることを特徴とする請求項1に記載の光音響ミラー。
【請求項3】
前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムは、断面が正三角形である
ことを特徴とする請求項1に記載の光音響ミラー。
【請求項4】
前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムのいずれかは熱可塑性を有し、当該熱可塑性を有する三角プリズムが加熱され、もう一方の三角プリズムに押し付けられることで、前記接合面が形成される
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光音響ミラー。
【請求項5】
前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムのいずれかは所定の溶剤に可溶であり、前記溶剤により溶解した三角プリズムがもう一方の三角プリズムに押し付けられることで、前記接合面が形成される
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光音響ミラー。
【請求項6】
前記第一の三角プリズムと前記第二の三角プリズムが光硬化樹脂により接合されることで前記接合面が形成される
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光音響ミラー。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光音響ミラーと、
前記第三の面から出射した音響波を検出する検出素子と、
を有する音響波取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−143384(P2012−143384A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3905(P2011−3905)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】