説明

光音響波測定装置

【課題】レーザー光を用いる光音響波測定装置において、光照射時の被検体の表面における光量分布差を低減するための技術を提供する。
【解決手段】レーザー光を射出する光源と、前記レーザー光の光束を分割または変形して第二光束を形成する形成手段と、前記第二光束を、被検体の表面の照射領域に導く光学部材と、前記第二光束が照射されることにより前記被検体から発生する光音響波を取得するプローブと、を有する光音響波測定装置であって、前記光学部材は、前記被検体の表面において、前記第二光束のうち光量の小さい領域を重ね合わせるように照射するものであることを特徴とする光音響波測定装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被検体の情報を取得し画像化する光音響波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光に比べて生体内での散乱が少ない音響波(典型的には超音波)の特性を利用して、生体内の光学特性値分布を高解像度に求める光音響トモグラフィー(Photoacoustic tomography)が提案されている。本明細書中ではPATと記述する。光源から発生したパルス光が生体に照射されると、パルス光は生体内で拡散しながら伝播する。生体組織内に含まれる光吸収体は、伝播してきたパルス光のエネルギーを吸収して音響波を発生する。音響波信号を解析処理することにより、生体内の光学特性分布、特に 光エネルギー吸収
密度分布を得ることができる。
【0003】
PATの生体応用として乳房診断用光音響波測定装置(Photoacoustic mammography、
本明細ではPAMと称する)が提案されている。PAM装置は、主に腫瘍形成時に腫瘍周囲に形成される新生血管及び新生血管を含む吸収係数の高い領域を画像化することにより乳房中の腫瘍位置を検出する装置である。全乳房を診断するには、画像の高精細化だけでなく、一測定箇所当たりの測定領域を広げることで診察時間を短縮することも重要である。
【0004】
PAM装置の主要構成は、入力系を担う照明光学系と出力系を担う超音波検出系である。これまで、多種多様な構成の照明光学系が報告されている。照明光学系と超音波検出系が同側に配置される後方検出型光音響装置では、光音響波顕微鏡として生体表面の表在部位を観察する暗視野用照明光学系(特許文献1)が提案されている。また、リニアアレイ超音波プローブの両脇より光束を入射する照明光学系(非特許文献1)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0184042号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Joel J. Niederhauser, Michael Jaeger, Robert Lemor, Peter Weber, and Martin Frenz, IEEE TRANSACTIONS ON MEDICAL IMAGING, vol.24, no.4, 436.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乳房診断用光音響波測定装置(PAM)では、一測定箇所当たりの測定領域を広げて診察時間を短縮しつつ、診断の高精細化のために光音響信号(PA信号)強度を増加させることが重要である。PA信号は、生体内部の光吸収体部分に強い放射量を照射するほど信号強度が増加する。しかしながら、生体表面に照射可能な最大許容照射量(Maximal Permissible Exposure; MPE)には規定がある。その一つは、国際電気標準会議(International Electro-technical Commission、略称IEC)の60825-1「レーザー機器及びその使用者
のための安全指針」である。また、IECに準じる日本工業規格(JIS)の JIS C 6802 「レーザー製品の安全基準」にも規定がある。MPEは、単位面積当たりの放射量である放射照度の最大値である。PAM装置で大きなPA信号を得るためには、MPE以下の放射照度で生体表面の照明領域全体を均一に照明することが好ましい。
【0008】
照明光学系と超音波検出系が同側に配置される後方検出型PAT装置では、超音波プローブが光束伝搬路に対して遮蔽物となる。このため、特許文献1及び非特許文献1に示されるように、超音波プローブを避けて照明する照明光学系が提案されている。特許文献1では超音波プローブ前面を照射しない暗視野照明が採用されており、照明領域の光量分布は不均一である。非特許文献1で提示される照明光学系は、生体表面上にて光束の光量分布を反映して照明している。このため、光源から照射された光束分布が不均一な場合において、生体表面で光量分布の均一化を図ることを意図していない。
【0009】
照明分布の均一化手法はプロジェクターのような画像表示装置に多くの提案がされている。しかしながら、PAM装置に用いる照明光学系とは放射量が大きく異なる。更に、PAM装置では、超音波プローブとの併用という特殊性を有する。すなわち、光束の光量分布が不均一な光源を用いた後方検出型PAM装置において、生体照明領域全体で光量分布差を低減し照明均一性を向上させることで総放射光量を最大化するという課題がある。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、レーザー光を用いる光音響波測定装置において、光照射時の生体表面における光量分布差を低減するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、レーザー光を射出する光源と、前記レーザー光の光束を分割または変形して第二光束を形成する形成手段と、前記第二光束を、被検体の表面の照射領域に導く光学部材と、前記第二光束が照射されることにより前記被検体から発生する光音響波を取得するプローブと、を有する光音響波測定装置であって、前記光学部材は、前記被検体の表面において、前記第二光束のうち光量の小さい領域を重ね合わせるように照射するものであることを特徴とする光音響波測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーザー光を用いる光音響波測定装置において、光照射時の生体表面における光量分布差を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1における装置の構成を示す概略図。
【図2】分岐光束の重ね合わせによる照明領域及び光量分布を示す図。
【図3】実施形態2における装置の構成を示す概略図。
【図4】分岐光束の重ね合わせによる照明領域及び光量分布を示す図。
【図5】実施形態3における装置の構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。以下に述べる光音響波測定装置は、光源からの光を導いて被検体を照明する照明光学系と、被検体内部の光吸収体から発生した光音響波を検出する音響波検出系が主な構成要素である。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状及びそれらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。なお、以下では、被検体が生体の場合を例にして説明するが、これに限られない。
【0015】
特に本装置は生体内部を広範囲に測定することを目的としており、乳房診断に適する構成である。広範囲の測定を効率的に行うには、一回の測定当たりの測定領域を広げることが必要である。そのためには、乳房表面を照明する領域を広げ、2次元アレイ型超音波プ
ローブを用いて光音響波を取得することが有効である。
【0016】
また、正確な診断のためには、生体深部に位置する光吸収体からの音響波信号の検出が必要であり、そのためには、生体表面への放射照度を増大することにより強い光音響信号強度を検出することが有効である。しかしながら、生体表面へのレーザー光の放射照度は最大許容照射量(MPE)として限定されている。したがって、生体を照明する総放射光量を最大とするために、MPE限界の放射照度で照明領域を均一に照明することが最適である。
【0017】
ただし、光源の出力エネルギーには限界がある。そこで以下の実施形態では、比較的容易な照明光学系を用いた、エネルギー利用効率が良く、エネルギー損失の少ない照明均一化方法を示す。以下に記載する照明均一化とは、光源の光量分布に準じた光量分布で生体表面を照明する場合と比較して、照明領域内部の光量分布差を減らすことである。照明領域全体を完全に均一放射照度で照明することに限定するものではない。
【0018】
以下の実施形態における光音響波測定装置では、超音波プローブと、生体表面の照明領域に光照射する照明光学系が生体に対して同側に配置される。ただし、超音波プローブと照明光学系の配置は、これに限定されない。MPEを満たし、光量を均一化するために本発明を使用するのは、照明領域がどの方向であるかにはよらず、レーザーを用いるものであればどんな構成でもよい。ただし、超音波プローブと生体表面を照明する照明領域が生体に対して同側であれば、通常はレーザー光を分割する構成となるので、その構成を利用できるというメリットはある。
【0019】
上記のような、超音波プローブと照明範囲が同じ側にある構成を後方検出型配置と称する。図1に示した装置も、後方検出型である。本図では、生体19に対して光束が、超音波プローブ17及び緩衝部材18と同じ側から照射されている。本配置に対して、測定する生体を挟み超音波プローブと照明領域が対向する配置を前方検出型配置と称する。前方検出型配置の装置では超音波プローブが光束伝搬を遮蔽しないため、比較的容易に照明光の均一化を図ることができる。一方、後方検出型配置では超音波プローブを避けて光束を伝搬して照明均一化を行う必要がある。
【0020】
乳房診断においては、上記後方検出型配置と前方検出型配置を組み合わせることが可能であり、便宜的に両面照射配置と称する。両面照射配置の装置では、生体を両側から挟むように緩衝部材が配置される。一方の緩衝部材には超音波プローブが配置され、そのプローブを避けるように光学系から光が照射される。もう一方の緩衝部材にも光学系が配置される。プローブが配置される側においては、本発明の照明方法を用いることができる。
【0021】
光源には、およそ100ns以下のパルス発振したレーザー光を好適に用いることができる。特に、全乳房を診断する目的では、出力エネルギーの高いパルスレーザーが適する。パルスレーザーの光束分布は、主に光束の中心部分の光量が大きいガウス形状や、ガウス形状が若干均一化されたフラットトップ形状が多い。本発明では、2種類以上の光源から射出された光量分布が不均一な光束を用いてもよい。すなわち、本発明によれば、光量分布が不均一なレーザー光を用いて、生体表面の照明領域で光量分布差を低減することができる。バンドルファイバーを用いることで光束を均一化することも可能であるが、入力端でのエネルギー損失が高いためエネルギー利用効率が低いなどの問題点がある。
【0022】
本発明の光束均一化手法は以下のような工程で実施する。
第一工程で、不均一な光量分布を有する光源から射出された光束を、光学部材(形成手段)を用いて分割(分岐)または変形して、第二光束を形成する。レーザー光を分割(分岐)した場合は、複数の第二光束ができる。使用する光学部材に応じて、多様に分割(分
岐)及び変形した第二光束を形成することが可能である。個々の形態に関しては詳細に後述する。
【0023】
第二工程で、第二光束を生体近傍に位置する超音波プローブを避けるように伝搬させて、超音波プローブの外側から生体表面へ向けて入射する。本第二工程では反射用光学部材を用いて第二光束を生体表面へ向けて伝搬する。反射用光学部材を適宜利用することにより、光量分布の位置を制御し生体表面へ入射することができる。
【0024】
第三工程で、第二光束の光量分布の低い領域を重ねあわせることで生体表面に照明領域を作成する。第三工程では、超音波プローブ前面に位置する生体表面へ第二光束を導くために、一定の厚みを有する光学導波用緩衝部材が必要である。本緩衝部材は、超音波伝送損失が少なく、且つレーザー光を透過する部材であり、ポリメチルペンテンなどの樹脂部材が好適である。光束を分岐または変形させることは、超音波プローブを避けるだけでなく生体表面で光束を重ねあわせるために必要である。そして、分岐または変形させた第二光束の、光量の低い光束部分を重ね合わせることにより、生体表面の照明領域での光量分布差を低減する。
【0025】
本発明の均一化法は、画像表示装置であるプロジェクターなどで多く見られる、フライアイレンズを用いた照明光学系とは異なる。フライアイレンズでは、分岐した全光束を同じ領域に重ね合わせることにより光量分布均一化を図る。この方法は均一性が非常に高い手法であるが、フライアイレンズにより光束が集束されるため、大きいパルスエネルギーを用いるPAMでは不適当である。また、本問題の回避策として、エネルギー密度を低減するために光束を拡大した後、フライアイレンズにて均一化するなどの手法も考えられる。しかしながら、光学系が大きくなるだけでなく、使用する光学部材が高額となるなどの問題点も有する。
【0026】
<実施形態1>
図1に本実施形態の概略図を示す。図中、光束として射出光束11、分岐光束12がある。図では、光束の外縁を点線で示している。また、光学系として分岐用ビームスプリッター13、反射ミラー14、光拡散板15、反射用台形プリズム16がある。また、超音波プローブ17、緩衝部材18が、生体19に接して配置されている。光源には高エネルギーパルスレーザーを用いる。このようなレーザーでは一般的に、射出される光束の中心部分に大きい光量を持つ光量分布を有する。また、光束形状は使用するレーザー発振媒質の形状に依存するが疑似円形であることが多い。本実施形態は上記レーザー光を用いたものとして説明するが、光束の形状及び光束分布はこれに限定されない。
【0027】
分岐用ビームスプリッター13は、ここではプリズムを用いるものとするが、平板ビームスプリッターを用いる事も可能である。分岐用ビームスプリッター13により射出光束11がスプリットされると、二本の分岐光束12のエネルギーは、それぞれ射出光束11の二分の一となる。光量分布は維持され、分岐光束12の中央部分の光量分布が高い状態である。
【0028】
分岐光束12は光拡散板15を通過する。なお、ここでは光拡散板15を用いているが、光拡散板15の利用は必須ではない。光拡散板15の効用に関しては別途後述する。光拡散板15を通過した光束は、反射用台形プリズム16で屈折した後、超音波プローブ17を避けて、その両脇より生体19へ斜入射する。超音波プローブ17と生体19の間には緩衝部材18が位置しており、その厚みに応じて生体表面における照明範囲は変化する。図中、生体19と緩衝部材18の接触面の中央部分に見られるように、それぞれの分岐光束の内側を重ねるようにして照射する。超音波プローブ17は、光照射により生体から発生した光音響波を取得する。信号処理装置(不図示)により光音響波を増幅、デジタル
変換し、情報処理装置で画像再構成を行うことにより、生体内部の光吸収係数の変化を可視化し、診断に役立てることができる。
【0029】
図2(a)に生体表面での照明範囲及び光量分布を示す。生体表面には、分岐光束21が、A−A’においてはグラフに示したような光量分布22で照射されている。このように、各分岐光束の光量分布において光量が小さい部分を重ね合わせることにより、重ね合わせがない状態(光量分布22に破線で示した状態)と比較して照明範囲内部の光量分布差は軽減される。生体表面の位置、すなわち緩衝部材18の厚さに応じて重ね合わせ量は任意に変えることができる。更に、緩衝部材18を厚くすることにより、斜入射したそれぞれの分岐光束12を緩衝部材18内部で交差させることにより、重ね合わせる位置を反転させることも可能である。なお、超音波プローブから生体表面までの距離は、超音波伝送損失の観点から短いことが好ましい。
【0030】
光源から射出する光束を2分割以上に分岐することも可能であり、ビームスプリッターを2段階用いることにより4分割の分岐光束とすることができる。図2(b)には、生体表面の照明領域で、4分割した分岐光束23を重ね合わせた様子を示している。本発明は、2分割以上の多分割した分岐光束の形成を排除するものではない。
【0031】
<実施形態2>
図3に本実施形態の装置の概略図を示す。図中、光束として射出光束31、分岐光束32がある。また、光学系として分岐用ナイフエッジ45度直角反射三角プリズム33(ナイフエッジプリズム)、反射用プリズム34、光拡散板35、反射用台形プリズム36がある。また、超音波プローブ37、緩衝部材38が、生体39に接して配置されている。光源には高エネルギーパルスレーザーを用いる。射出される光束は疑似円形であり光束の中心部分に大きい光量を持つ光量分布を有する。図では、光束の外縁を点線で示し、光量分布における光量が大きい部分を二点鎖線で示す。
【0032】
光束31の光量が大きい部分を分岐用ナイフエッジ45度直角反射三角プリズム33のナイフエッジ部分に照射すると、光束31は、光量が大きい部分を境界として二分割され、半円状の分岐光束32になる。このとき、分岐光束32の光量分布は、分割部分(境界の直線部分に由来する側)近傍に大きい光量、円周近傍(元の光束の外周に由来する側)に小さい光量を有する。分岐光束32は等分割である必要はないが、後工程での重ね合わせによる光量分布均一化を考慮すると等分割に近いことが好ましい。
【0033】
このような光束31の分岐を行った後、生体照射領域にて光量分布において光量が小さい部分が中央になるように、分岐されたそれぞれの変形光束を空間伝搬させる。ここでは光拡散板35を用いているが、光拡散板35の利用は必須ではない。光拡散板35を通過した光束は、反射用台形プリズム36で屈折した後、超音波プローブ37を避けて、その両脇より生体39へ斜入射する。超音波プローブ37と生体39の間には緩衝部材38が位置しており、その厚みに応じて生体表面における照明範囲は変化する。反射用プリズムは本発明の第一の反射用プリズムに、反射用台形プリズムは第二の反射用プリズムに相当する。
【0034】
図4に生体表面での照明範囲及び光量分布を示す。生体表面には、分岐光束41が、B−B’においてはグラフに示したような光量分布42で照射されている。このように、各分岐光束の光量分布において光量が小さい円周部分(射出光束の外縁部分)を重ね合わせるように生体表面を照射することにより、照射領域全体の光量分布差を低減することができる。本実施例では光量において光量が大きい部分で分岐し、更に光束伝搬領域に配置する反射用プリズム34と反射用台形プリズム36を用いて生体表面に分岐光束32を入射している。光束31では光量分布において光量が大きい部分が中心部分である光束内部に
位置するのに対して、分岐光束32で形成する生体表面照明領域では、光量分布において光量が大きい部分が外側になる。すなわち、光量分布が反転している。その結果、本実施形態では、生体表面での照射領域における光量分布差が簡便、且つ効果的に軽減される。
【0035】
<実施形態3>
図5に本実施形態の装置の概略図を示す。図中、光束として射出光束51、変形光束52がある。また、光学系として分岐用円錐状光学部材53、反射用光学部材54、反射用第二光学部材56がある。また、超音波プローブ57、緩衝部材58が、生体59に接して配置されている。本図面は射出光束を含む面で装置を切断した断面図である。射出光束と同じ向きから見た場合、分岐用円錐状光学部材53は円形をしており、それを大きな円形の反射用光学部材54が取り囲んでいる。また装置を生体側からみた場合、反射用第二光学部材56も円形をしており、その真中にプローブがある。光源には高エネルギーパルスレーザーを用いる。射出される光束は疑似円形であり光束の中心部分に大きい光量を持つ光量分布を有する。図では、光束の外縁を点線で示し、光量分布の光量が大きい部分を二点鎖線で示す。
【0036】
光束51の光量が大きい部分を分岐用円錐状光学部材53の頂点に合わせて照射する。光束51は円錐の曲面で反射して変形光束52が形成される。ここで変形光束52は中央部分に穴があいたドーナツ形状となり、変形してできた空間に超音波プローブ57を配置することができる。変形光束52は、超音波プローブ57の周囲より生体59に対して斜入射する。超音波プローブ57と生体59の間には緩衝部材58が位置しており、その厚みに応じて、生体表面における照明範囲は変化する。
【0037】
変形光束の反射に用いる反射用光学部材54は、内部に穴が空いた形状であり、外周側面で変形光束を全反射する。また、反射用第二光学部材56も、反射用光学部材54と同様の形態をしている。ただし反射部材の形状は本例に限定されるものではない。ドーナツ形状の変形光束52は、反射用光学部材54で反射された後、内側の円周近傍領域の光量が大きい状態を保つ。しかしながら、反射用第二光学部材で反射することにより、変形光束52では外側の光量分布が強くなる。すなわち、緩衝部材58に斜入射したドーナツ状の変形光束52は、内側部分の光量分布が低くなり、徐々に内部の空間が小さくなる。生体表面上にて光量の低い部分を重ね合わせることにより、ドーナツ状の内部空間をなくし、光量分布差を軽減することができる。
【0038】
特許文献1では、ほぼ同様の構成により生体まで光束を入射している。しかしながら、特許文献1に記載されているのは超音波プローブの前面に位置する生体表面に照射部分を形成しない暗視野照明を用いる技術であり、光束を重ね合わせて照明を行っていない。また、光束を均一化する概念もなく、上記の本発明の技術とは本質的に異なる。
【0039】
生体表面の照射領域における放射照度はMPEにより上限値が規定されている。皮膚へのMPEは「φ3.5mmの円内部の平均放射照度」として規定される。そこで、生体表面照明領域内部の「φ3.5mmの円における平均放射照度」を条件として、光束の重ね合わせ量を例示する。光束を重ね合わせた際の上記平均放射照度は、生体表面の全照射領域内部の最大の上記平均放射照度に対して小さくする事が好ましい。重ね合わせ領域を制限することで、光量分布差を低減するだけでなく、より広い領域を照射することが可能となる。
【0040】
光源から射出される光束は、多くの場合、光束中心部分に大きい光量を有する分布を示す。しかしながら、局所的にエネルギー密度の高い部分が光束内部に存在する場合や、その局所部分が偏在しているような場合は本手法だけでは良好な均一化は図れない。特に、高出力パルスレーザーでは、レーザー構成に応じてレーザー発振モードが異なるだけでな
く、多くのモードが混在したマルチモード発振することが多い。マルチモード発振では、モード間の相互作用により射出口からの距離に応じて、局所的にエネルギー密度の高い領域が現れる。このような場合、分岐または変形した光束の経路に光拡散板などの拡散機能を有する光学部材を置くことも好ましい。そして、生体に照射する前に光拡散板を透過させることにより、局所的な不均一性を低減し平滑化することができる。光が拡散部材を透過したのち、生体表面で重ね合わせられることにより、照射領域全体の光量分布の均一性を更に高め、照明効率の向上を図ることが可能である。
【0041】
<実施例>
光源から射出した光束を2分割に分岐した際の実施例を、上述した図3の概略図を用いて説明する。本実施例では、光源として、生体測定に適した近赤外領域の波長を発振することが可能な波長可変ナノ秒パルスレーザーである、Ti:saレーザーを用いる。使用波長は800nmである。Ti:saの励起レーザーには、高いエネルギー出力が得られるマルチモード発振したNd:YAGレーザーを用いる。Ti:saレーザーから射出される光束は、Ti:saレーザーの励起に用いるNd:YAGレーザーの光束の形状に大きく依存する。Ti:saレーザーの光束の形状は、円柱状Nd:YAGロッドに即した疑似円形の光束を有する。Ti:saレーザーの光量分布は光束中心の光量が大きい。
【0042】
射出されたレーザーは、上述の実施形態2で図3を用いて述べたような経路を経て、生体に照射される。すなわち、レーザーから射出された疑似円形の光束31は、ナイフエッジ45度直角反射三角プリズム33により半円に2分割された分岐光束32となる。続いて、分岐光束32は反射用プリズム34、及び反射用台形プリズム36により反射され、生体に向けて斜入射する。
【0043】
本実施例では、超音波プローブ37は2次元アレイからなり、分岐光束32は超音波プ
ローブ37の両脇から入射される。超音波プローブ37と生体39の間にはポリメチルペンテン製の緩衝部材38を配置されている。緩衝部材38を透過した分岐光束32が超音波プローブ37の前面に位置する生体表面を照射する。分岐光束32は、光拡散板35を透過することにより徐々に口径が拡大する。光拡散板を透過することで、局所的な光量の大きいスポット領域が平滑化される。
【0044】
ここで、半円状の分岐光束32は、反射用プリズム34で反射して円周部分が外側となっている。元の光束31の中心部分に相当する、分割部分である直線近傍に大きい光量を持つ光量部分が位置している。伝搬された分岐光束32は、反射用台形プリズム36の斜面で反射することにより、円周部分は反転して内側を向く。このようにして分岐光束32を生体表面へ斜入射することにより、光量分布の大きい光量を持つ部分が外側を向く。斜入射した分岐光束32の内側、すなわち半円状の円周部分を重ね合わるようにして生体表面を照射する。このように、それぞれの分岐光束の光量の低い領域を重ね合わせて照明することにより、重ね合わせされた部分の光量は強くなる。このとき、照明領域全体において重ね合された部分の光量分布が最大光量にまではならないように重ね合わせ量を制限している。
【0045】
本実施例においては、MPEで規定されるφ3.5mmの開口を作成し、本開口を透過する光束をパワーメータで測定して放射照度を測定し、MPE以下となるように光源の射出エネルギーを制御する。すると、全照明領域内にて開口φ3.5mmを透過した光束の最大放射照度は30mJ/cm、平均放射照度は23mJ/cmとなる。一方、斜入射した分岐光束32の内側、すなわち半円状の円周部分を重ね合わずに照明領域を形成した場合は、開口φ3.5mmを透過した光束の最大放射照度は30mJ/cmであるのに
対して平均放射照度は18mJ/cmである。このように、本方法を用いることにより
、光量分布差の少ない均一な照明を行い、総放射光量の大きな効果的な照明を行うことが
できる。
【符号の説明】
【0046】
11:射出光束,12:分岐光束,13:分岐用ビームスプリッター,16:反射用台形プリズム,17:超音波プローブ,18:緩衝部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を射出する光源と、
前記レーザー光の光束を分割または変形して第二光束を形成する形成手段と、
前記第二光束を、被検体の表面の照射領域に導く光学部材と、
前記第二光束が照射されることにより前記被検体から発生する光音響波を取得するプローブと、
を有する光音響波測定装置であって、
前記光学部材は、前記被検体の表面において、前記第二光束のうち光量の小さい領域を重ね合わせるように照射するものである
ことを特徴とする光音響波測定装置。
【請求項2】
前記被検体の表面の照射領域におけるレーザー光の放射照度が、前記被検体の表面への最大許容照射量よりも小さいものである
ことを特徴とする請求項1に記載の光音響波測定装置。
【請求項3】
前記被検体の表面に接し、光を透過する緩衝部材をさらに有し、
前記プローブと前記光学部材は、前記被検体に対して前記緩衝部材を挟んで同じ側に位置しており、
前記光学部材は、前記第二光束を屈折させ、前記プローブを避けて前記緩衝部材を経て前記被検体に照射するものである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光音響波測定装置。
【請求項4】
前記形成手段は、前記レーザー光の光量分布を維持しつつ複数の第二光束に分割するビームスプリッターである
ことを特徴とする請求項3に記載の光音響波測定装置。
【請求項5】
前記レーザー光の光束は、中心部分の光量が大きい光量分布をしており、
前記形成手段は、前記レーザー光の光束を、中心部分を境界として分割して、分割した境界の近傍に由来する側で光量が大きく、元の光束の外周に由来する側で光量が小さい複数の第二光束に分割し、
前記光学部材は、前記複数の第二光束の光量が小さい側が重なり合うように前記被検体に照射する
ことを特徴とする請求項3に記載の光音響波測定装置。
【請求項6】
前記形成手段は、前記レーザー光の光束を二つの第二光束に分割するナイフエッジプリズムであり、
前記光学部材は、前記第二光束を反転して光量が小さい領域を外側に配置する第一の反射用プリズムと、前記反転した第二光束を前記被検体の照射領域に導く第二の反射用プリズムを組み合わせたものである
ことを特徴とする請求項5に記載の光音響波測定装置。
【請求項7】
前記形成手段は、前記レーザー光をドーナツ形状の第二光束に変形する円錐状光学部材である
ことを特徴とする請求項3に記載の光音響波測定装置。
【請求項8】
前記第二光束が伝搬する経路に配置され、前記第二光束の光量分布を平滑化する光拡散板をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光音響波測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−229609(P2011−229609A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101006(P2010−101006)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】