説明

光音響画像化装置及び方法

【課題】光音響画像化装置において、ジッタが生じた場合でも、その影響を低減させて画像化を可能とする。
【解決手段】領域選択部104は、生体組織の画像化する範囲を分割した複数の部分領域を順次に選択する。光照射検出部105は、レーザ光源102からの光が生体組織に照射されたことを検出する。信号取込み部107は、超音波探触子103から、選択された部分領域に対応するプローブ素子で検出された音響信号をサンプリングし、素子データメモリ108に格納する。画像構築部109は、素子データメモリ108から読み出したデータに基づいて生体組織の断層画像を構築する。同期補正処理部106は、光照射検出部105が光が照射されたことを検出したタイミングの差を部分領域間で求め、求めたタイミング差に基づいて、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響画像化装置及び方法に関し、更に詳しくは、生体組織に光を照射し、光照射に伴って発生する音響信号に基づいて画像化を行う光音響画像化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響イメージングが知られている。一般に光音響イメージングでは、レーザパルスなどのパルスレーザ光を生体内に照射する。生体内部では、パルスレーザ光のエネルギーを吸収した生体組織が、その熱による体積膨張により音響波(音響信号)が発生する。この音響波を超音波プローブなどで検出し、検出信号を使用することで、音響波に基づく生体内の可視化が可能である。
【0003】
光音響効果を利用した画像生成を行う装置は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1では、超音波診断装置などで使用されるラインbyライン法と同様な方法で画像化を行う。すなわち、光源部からの光を導波部を用いて生体組織まで導き、生体組織にレーザパルスを照射する。レーザパルス照射後、超音波プローブが有するプローブ素子のうちの隣接する所定チャネル数のプローブ素子を用いて音響波を検出する。検出した音響波を位相整合することで、生体内のどの深さ位置から音響波が発生しているかが特定できる。レーザパルスの照射・音響波の検出を、プローブ素子の1ch分(1ライン分)ずつずらしながら繰り返し実行し、光音響画像を構築する。
【0004】
上記した方法以外に、超音波プローブが有する全てのプローブ素子のデータを一度に素子データメモリに格納し、素子データメモリに格納したデータを使用することで画像化を行う方法が知られている。このような画像構築は、例えば非特許文献1に記載されている。非特許文献1には、超音波プローブが128素子を有するとき、1回のレーザパルス発光で128素子分のデータ(128chのデータ)を並列に取得することが記載されている。また、非特許文献1には、1回のレーザパルスの発光につき64ch分のデータを並列に取得し、2回のレーザパルス発光で128ch分のデータを取得することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光音響イメージングに関して、多数の研究報告がなされているが、画像の高速化は実用化に向けた課題である。特許文献1では、1回の光照射で1ライン分の信号しか検出できないため、超音波プローブの素子数(チャネル数)が増えるほど画像化に要する時間は長くなる。特許文献1において、画像化の速度を上げるには光照射の間隔を短くする必要がある。しかし、安全上の理由から、生体へ照射できるエネルギーレベルは一定のレベルよりも低く抑える必要がある。例えばパルスレーザ光1つあたりのエネルギーや、パルスレーザ光照射の繰り返し回数などには安全上の基準があり、光照射の間隔をむやみに短くすることはできない。従って、特許文献1に記載の方法では画像の高速化には限界がある。
【0008】
一方、非特許文献1では、プローブ素子のデータを全て一度素子データメモリに保管して画像化する。例えば、超音波プローブが128chのプローブ素子を有するとした場合に、128ch分の全てのデータを並列に取得することで、画像の高速化が可能である。しかしながら、これを実際に行うには、全てのチャネルにA/D(Analog/Digital)変換器が必要となる。並列かつ高速動作するAD変換器は高価であり、多数のAD変換器を備えなければならないことで、システムが高価になる。
【0009】
ここで、非特許文献1に記載されているように、1回のレーザパルス照射で64ch分のデータを取得し、それを2回行うことで128ch分のデータを取得することとすれば、並列動作するAD変換器の数は64個で済む。この場合、128chのデータを一度に取得する場合に比して必要なAD変換器の数は半分で済み、コストを低減できる。しかし、レーザパルスを複数回照射すると、例えば1回目の発光と2回目の発光とでレーザパルスの照射タイミングにずれが生じることが考えられる。つまり、レーザパルスにジッタが生じることが考えられる。ジッタが生じると、1回目の発光で取り込んだデータと、2回目の発光で取り込んだデータとに誤差が生じ、データを使用することで生成される画像の質が落ちるという問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記に鑑み、パルスレーザ光にジッタが生じた場合でも、その影響を低減させて画像化が可能な光音響画像化装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、生体組織の画像化する範囲に対応して設けられ、それぞれが音響信号を検出する複数のプローブ素子を含む超音波探触子と、前記画像化する範囲が複数の部分領域に分割されており、該分割された複数の部分領域を順次に選択する領域選択部と、前記画像化する範囲のうち、少なくとも選択された部分領域を含む範囲に光を照射する光照射部と、前記光照射部から前記生体組織に光が照射されたことを検出する光照射検出部と、前記選択された部分領域に対応するプローブ素子が検出した音響信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、素子データメモリに格納する信号取り込み部と、前記複数のプローブ素子それぞれからの複数回のサンプリングデータを前記素子データメモリから読み出し、該読み出したデータに基づいて前記生体組織の断層画像を構築する画像構築部と、前記光照射検出部が光が照射されたことを検出したタイミングの差を前記部分領域間で求め、該求めたタイミング差に基づいて、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する同期補正処理部とを備える光音響画像化装置を提供する。
【0012】
前記同期補正処理部は、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸において、各部分領域への光照射が検出されたタイミングが前記部分領域間で一致するように、前記時間軸を補正する構成とすることができる。
【0013】
また、前記同期補正処理部は、前記信号取込み部が前記素子データメモリに複数回のサンプリングデータを格納する際に、前記タイミング差に基づいて前記部分領域ごとに時間軸をずらして前記複数回のサンプリングデータを格納させる構成を採用することができる。或いはこれに代えて、前記同期補正処理部が、前記画像構築部が前記素子データメモリから前記複数回のサンプリングデータを読み出す際に、前記タイミング差に基づいて前記部分領域ごとに時間軸をずらして前記複数回のサンプリングデータを読み出させてもよい。
【0014】
前記同期補正処理部は、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸の補正に代えて、部分領域間で、前記光照射検出部が光照射を検出してから前記信号取込み部がサンプリングを開始するまでの間の時間が同じになるように、各部分領域でのサンプリング開始タイミングを制御してもよい。
【0015】
前記光照射検出部は、光を検出する光検出器を含む構成を採用することができる。前記光検出器は、前記部分領域のそれぞれに対応して設けられていてもよい。
【0016】
上記に代えて、前記光照射検出部が、前記光照射部が照射した光を音響信号に変換させる部分で変換された音響信号を検出する音響信号検出部を含む構成としてもよい。
【0017】
各部分領域に対応するプローブ素子の数は、前記信号取込み部が並列にサンプリング可能なデータの数以下とすることができる。また、各部分領域の幅は、前記信号取込み部が並列にサンプリング可能なデータの数のプローブ素子に対応する領域の幅とすることができる。
【0018】
本発明は、また、生体組織の画像化する範囲が複数の部分領域に分割されており、該分割された部分領域を順次に選択するステップと、前記画像化する範囲のうち、少なくとも前記選択された部分領域を含む範囲に光を照射するステップと、複数のプローブ素子を含む超音波探触子を用いて、前記選択された部分領域からの音響信号を検出するステップと、前記光が前記選択された部分領域に照射されるタイミングを検出するステップと、前記検出された音響信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、素子データメモリに格納するステップと、前記複数のプローブ素子それぞれからの複数回のサンプリングデータを前記素子データメモリから読み出し、該読み出したデータに基づいて前記生体組織の断層画像を構築するステップと、前記部分領域への光照射のタイミングの差を前記部分領域間で計測し、該計測したタイミング差に基づいて、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正するステップとを有することを特徴とする光音響画像化方法を提供する。
【0019】
本発明の光音響画像化方法において、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正するステップに代えて、部分領域への光照射が検出されてから前記音響信号のサンプリングが開始されるまでの間の時間が部分領域間で同じになるように、各部分領域でのサンプリング開始タイミングを制御するステップを有することとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光音響画像装置及び方法では、生体組織の画像化する範囲を分割した複数の部分領域を順次に選択し、選択した部分領域に対する光照射と、光照射により生じた音響信号のサンプリングとを各部分領域に対して行う。部分領域の選択後、各部分領域への光照射タイミングを検出し、部分領域への光照射タイミングの差を部分領域間で計測する。この計測したタイミング差に基づいて、素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する。このようにすることで、部分領域ごとに光照射タイミングが異なったとしても、画像構築部が行う画像構築の際に、部分領域間で生じた光照射タイミングのばらつきに起因する誤差を抑制させることができる。つまり、ジッタが生じた場合でも、その影響を低減させることができ、より質の高い画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】は、本発明の一実施形態の光音響画像化装置を示している。
【図2】各部分領域におけるパルスレーザ光の照射とデータサンプリングとの関係を示すタイミングチャート。
【図3】超音波探触子の構成例を示す斜視図。
【図4】超音波探触子と信号取込み部との接続例を示すブロック図。
【図5】素子データメモリに格納されるサンプリングデータを示すブロック図。
【図6】動作手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態の光音響画像化装置を示している。光音響画像化装置100は、レーザドライバ101、レーザ光源102、超音波探触子103、領域選択部104、光照射検出部105、同期補正処理部106、信号取込み部107、素子データメモリ108、画像構築部109、画像メモリ110、及び画像表示部111を有する。
【0023】
レーザドライバ101は、レーザ光源102を駆動する。レーザ光源102は、被検体である生体組織に照射するパルスレーザ光を生成する。レーザ光源102には、例えばQスイッチ固体レーザを用いることができる。レーザドライバ101にはトリガー信号が入力され、レーザドライバ101はトリガー信号に応答してレーザ光源102を駆動する。超音波探触子103は、複数チャネルの超音波探触子素子(プローブ素子)を有する。プローブ素子は、生体組織の画像化する範囲に対応して設けられている。例えば超音波探触子103は、192個のプローブ素子を有する。超音波探触子103は、生体組織にパルスレーザ光が照射されることで発生した生体組織内からの超音波(音響信号)を検出し、音響信号を電気信号に変換して出力する。
【0024】
信号取込み部107は、超音波探触子103からの電気信号を素子データメモリ108に格納する。信号取込み部107は、超音波探触子103からの電気信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、その複数回のサンプリングデータを素子データメモリ108に格納する。信号取込み部107は、例えば微小信号を増幅するプリアンプや、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器を含む。信号取込み部107が、並列に取り込める信号の数(ch数)は、超音波探触子103が有するプローブ素子の総数(総チャネル数)よりも少ない。例えば超音波探触子103が192個のプローブ素子を有するとき、信号取込み部107が並列に取り込み可能なチャネル数は64chであるとする。
【0025】
超音波探触子103の複数のプローブ素子に対応する範囲(生体組織の画像化する範囲)は、複数の部分領域に分けられている。例えば、生体組織の画像化する範囲は、領域A、領域B、及び領域Cの3つの部分領域に分かれている。領域A、領域B、及び領域Cは互いに重複していないとする。各部分領域の幅は、信号取込み部107が並列にサンプリング可能なデータの数のプローブ素子に対応する領域の幅とする。例えば信号取込み部107で64ch分のデータが並列にサンプリング可能な場合、領域A、領域B、及び領域Cの各部分領域の幅は、64個のプローブ素子に対応した幅であるとする。
【0026】
領域選択部104は、分割された部分領域を選択する。領域選択部104は、レーザドライバ101及び超音波探触子103に対してそれぞれ部分領域の選択情報を通知する。レーザドライバ101は、レーザ光源102が少なくとも選択された部分領域を含む範囲にパルスレーザ光を照射するようにレーザ光源102を駆動する。一方、超音波探触子103は、図示しないマルチプレクサなどを用いて、選択された部分領域に対応するプローブ素子と信号取込み部107とを接続させる。信号取込み部107は、部分領域に光が照射された後、接続されたプローブ素子からの電気信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、素子データメモリ108に格納する。
【0027】
領域選択部104は、選択した部分領域に対応するプローブ素子からの電気信号が素子データメモリ108に格納されると、次の部分領域を選択する。領域選択部104は、生体組織の画像化する範囲の全範囲が選択されるまで、部分領域を順次に選択していく。領域選択部104が部分領域を順次に選択することで、素子データメモリ108には、超音波探触子103が有する全てのプローブ素子からの電気信号が素子データメモリ108に格納される。例えば、領域選択部104が領域A、領域B、領域Cを順次に選択し、信号取込み部107が各領域64ch分ずつのデータを複数回サンプリングすることで、素子データメモリ108には計192ch分の複数回のサンプリングデータが格納される。
【0028】
ここで、各部分領域での処理の流れを考えると、部分領域の選択、トリガー信号発生、レーザ励起、生体組織へパルスレーザ光照射、生体組織からの音響信号検出、素子データメモリへの格納という流れになる。信号取込み部107における電気信号(音響信号)の取込み開始タイミング(サンプリング開始タイミング)は、生体組織へパルスレーザ光が照射されるタイミングに合わせて事前に設定されている。各部分領域において、トリガー信号発生から実際に生体組織へパルスレーザ光が照射されるまでの時間が一定であれば特に問題はない。しかし実際には、レーザ励起の時間などにばらつきが生じ、生体組織へのパルスレーザ光の照射タイミングが部分領ごとに異なるタイミングになることがある。
【0029】
図2は、各部分領域におけるパルスレーザ光の照射とデータサンプリングとの関係を示している。ここでは、画像化する範囲が領域A、領域B、及び領域Cの3つに分割されている場合を考える。領域選択部104が領域Aを選択し、レーザドライバ101にトリガー信号が入力された後、領域選択から所定時間の経過後に信号取込み部107にサンプリング開始が指示される。サンプリング開始が指示されると、信号取込み部107は音響信号データのサンプリングを開始する。サンプリングの期間は例えば50μsecとする。領域B及び領域Cに対しても、同様な手順で音響信号データがサンプリングされる。
【0030】
領域の選択からサンプリング開始までの所定時間は、例えばあらかじめ見積もられた、レーザ光源102がパルスレーザ光を出力するまでに要する時間に基づいて設定されている。各領域におけるサンプリング開始の時刻をt=0と定義する。t=0で1回目のサンプリングが行われ、信号取込み部107がサンプリング期間の間に所定のサンプリングレートでn回のサンプリングを行うとすると、信号取込み部107は、時刻t=0からt=n−1までの間にn個の音響信号データをサンプリングする。素子データメモリ108は、各チャネルについて、t=0からt=n−1までの時刻に対応するn個のサンプリングデータを格納する。
【0031】
理想的には、各部分領域が選択されてから、その部分領域にパルスレーザ光が照射されるタイミングは一定である。しかし、パルスレーザ光にジッタが生じると、部分領域の選択から実際のパルスレーザ光の照射までの間の時間が常に一定になるとは限らず、部分領域間でサンプリング開始のタイミングと光照射のタイミングとの関係がずれる。例えば図2に示すように、領域Aではレーザ照射タイミングが時刻t=4であるのに対し、領域Bではレーザ照射タイミングが時刻t=2となることがあり得る。光音響イメージングでは、生体組織がパルスレーザ光を吸収することで生体組織からの音響波が生じるため、光照射タイミングが部分領域間でずれると誤差が生じることになる。本実施形態では、このずれを、図1に示す光照射検出部105と同期補正処理部106とを用いて補正する。
【0032】
光照射検出部105は、レーザ光源102からのパルスレーザ光が生体組織に照射されたことを検出する。光照射検出部105は、例えばレーザ光源102のパルスレーザ光が生体組織に照射される部分の近傍に設けられている。光照射検出部105は、部分領域のそれぞれに対応して設けられていてもよい。例えば画像化する範囲が領域A、領域B、及び領域Cの3つの部分領域に分割されている場合、光照射検出部105は3つの部分領域のそれぞれに対応して設けられていてもよい。光照射検出部105には、例えば光を検出すると、その旨を表す電気信号を出力する光検出器を用いることができる。
【0033】
同期補正処理部106は、各部分領域について、光が照射されたことを光照射検出部105が検出するタイミング(光照射タイミング)を求め、その差を部分領域間で求める。ここで、部分領域における光照射タイミングは、各部分領域で同期ポイントとなる時刻から光照射検出部105が光が照射されたことを検出した時刻までの間の時間と定義できる。言い換えれば、部分領域における光照射タイミングは、同期ポイントを時刻0と定義したときの光照射検出部105が光が照射されたことを検出した時刻と定義できる。部分領域間の光照射タイミングの差は、ある部分領域で、同期ポイントを時刻0と定義したときの光照射検出部105が光が照射されたことを検出した時刻と、別の部分領域で、同期ポイントを時刻0と定義したときの光照射検出部105が光が照射されたことを検出した時刻との差と定義できる。
【0034】
例えば、同期補正処理部106は、各部分領域について、同期ポイント(基準)となる時刻から光照射検出部105がパルスレーザ光が生体組織に照射されたことを検出する時刻までの間の時間を計測する。基準となる時刻は、例えば部分領域が選択された後にトリガー信号がレーザドライバ101に入力される時刻とすることができる。或いは信号取込み部107に対して取込み開始(サンプリング開始)を示す信号が入力される時刻を基準の時刻としてもよい。同期補正処理部106は、基準の時刻からパルスレーザ光が生体組織に照射される時刻までの間の時間を部分領域ごとに求め、その時間の部分領域間の差を光照射タイミングの差として求める。
【0035】
同期補正処理部106は、部分領域間の光照射タイミング差に基づいて、信号取込み部107でサンプリングされた音響信号データの時間軸を部分領域間で補正する。より詳細には、同期補正処理部106は、信号取込み部107がサンプリングした音響信号データを素子データメモリ108に格納する際に、検出したパルスレーザ光の光照射タイミングの差に基づいて、部分領域ごとに時間軸を補正して複数回のサンプリングデータを格納させる。同期補正処理部106は、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸において、各部分領域で生体組織にパルスレーザ光が照射されたタイミングが部分領域間で一致するように、素子データメモリ108に格納する音響信号データの時間軸を部分領域ごとに補正する。
【0036】
画像構築部109は、領域選択部104が全ての部分領域を選択し、超音波探触子103が有する複数のプローブ素子それぞれからの複数回のサンプリングデータが素子データメモリ108に格納されると、画像構築を開始する。画像構築部109は、例えば192chのプローブ素子からの複数回のサンプリングデータを素子データメモリ108から読み出し、読み出したデータに基づいて生体組織の断層画像を構築する。画像構築部109は、典型的には信号処理部、位相整合加算部、及び画像処理部を含む。画像構築部109における詳細な画像構築の手順の説明は省略する。画像構築部109の機能は、例えばコンピュータが所定のプログラムに従って動作することで実現可能である。或いは画像構築部109の機能を、DSP(digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実現してもよい。画像構築部109は、構築した画像を画像メモリ110に格納する。画像表示部111は、画像メモリ110に格納された断層画像を表示モニタなどに表示する。
【0037】
図3は、超音波探触子103を示している。超音波探触子103は、複数のプローブ素子131を有している。プローブ素子131は、例えば所定の方向に沿って1次元的に配列されている。光ファイバ134は、レーザ光源102(図1)からの光を超音波探触子103内に設けられた光照射部132にまで導く。光照射部132は、生体組織の少なくとも選択された部分領域を含む範囲にレーザ光源102からのパルスレーザ光を照射する。光照射部132は、例えば領域A、領域B、及び領域Cのそれぞれに対応して設けられる。その場合、領域Aに対応する光照射部132は領域Aの選択時にパルスレーザ光を少なくとも領域Aに照射する。また、領域Bに対応する光照射部132は領域Bの選択時にパルスレーザ光を少なくとも領域Bに照射し、領域Cに対応する光照射部132は領域Cの選択時にパルスレーザ光を少なくとも領域Cに照射する。
【0038】
光検出器133は、図1に示す光照射検出部105に含まれる。光検出器133は、生体組織に光照射132からの光が照射されたことを検出する。光検出器133は、例えば光照射部132からの光を受光すると、光が検出された旨の信号を出力する。光検出器133は、部分領域に対応して設けられていてもよい。例えば光検出器133は、領域A、領域B、及び領域Cのそれぞれに対応して設けられていてよい。領域Aに対応する光検出器133は、領域Aが選択されているときに、光照射部132から領域Aにレーザ光源102からのパルスレーザ光が照射されたことを検出する。領域B及び領域Cに対応する光検出器133は、それぞれの領域の選択時に、各領域にパルスレーザ光が照射されたことを検出する。
【0039】
図4は、超音波探触子103と信号取込み部107との接続例を示している。例えば超音波探触子103は、192chのプローブ素子131(図3)を有している。192chのプローブ素子131に対応する幅は、3つの部分領域(領域A〜C)に分割されており、各部分領域の幅は64chのプローブ素子131に相当する幅であるとする。192chのプローブ素子131に対応する生体組織の幅は57.6mmであったとすると、各部分領域の幅は19.2mmとなる。光音響画像化装置100は、例えば図4に示すように分割された19.2mm幅の部分領域への光照射・データ収集を3回繰り返し行い、全192ch分のデータを取得する。
【0040】
信号取込み部107は、例えば64ch分のデータを並列にサンプリング可能なAD変換器を含む。マルチプレクサ112は、超音波探触子103のプローブ素子と信号取り込み部107とを選択的に接続する。マルチプレクサ112は、例えば192chのプローブ素子と接続しており、そのうちの64ch分を信号取込み部107のAD変換器に選択的に接続する。マルチプレクサ112は、例えば領域Aが選択されているときは、領域Aに対応する部分の64chのプローブ素子を信号取込み部107のAD変換器に接続する。また、マルチプレクサ112は、領域Bが選択されているときは、領域Bに対応する部分の64chのプローブ素子を信号取込み部107のAD変換器に接続し、領域Cが選択されているときは、領域Cに対応する部分の64chのプローブ素子を信号取込み部107のAD変換器に接続する。
【0041】
領域Aが選択され、光照射部132(図3)が生体組織の領域Aにパルスレーザ光を照射すると、レーザ光は生体組織内の散乱により、ある程度の広がりを持って進行する。生体組織内に存在する血液等の吸収体はパルスレーザ光のエネルギーを吸収し、音響信号を発生する。この音響信号が各プローブ素子で検出されるまでに要する時間は、音響信号発生地点と各プローブ素子とのX方向の位置関係と、音響信号発生地点のZ方向の位置とに応じて決まる。この音響信号を検出するために、マルチプレクサ112が選択したプローブ素子131が出力する電気信号を、AD変換器にて所定の計測期間にわたって複数回サンプリングする。領域B及び領域Cも同様に、各領域に対してパルスレーザ光を照射し、各領域に対応するプローブ素子が出力する電気信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、音響信号を検出する。
【0042】
図5は、素子データメモリに格納されるサンプリングデータを示している。素子データメモリ108は、超音波探触子103が有する各プローブ素子に対して、時刻t=0からt=n−1に対応したn回のサンプリングデータを格納する。ここでは、領域選択部104が領域A、領域B、領域Cを順次に選択するとする。信号取込み部107は、まず領域Aに対応するプローブ素子(例えば64chのプローブ素子)のn回のサンプリングデータを取り込む。このとき、同期補正処理部106は、領域Aの選択から領域Aに光が実際に照射されるまでの間の時間(T)を求める。この時間Tは、領域Aのサンプリング開始タイミングと領域Aに実際に光が照射されたタイミングとの関係に相当する。信号取込み部107は、素子データメモリ108のt=0からt=n−1の各時刻に対応した場所(アドレス)にn回のサンプリングデータを格納する。
【0043】
次いで領域Bが選択されると、信号取込み部107は、領域Bに対応するプローブ素子(例えば64chのプローブ素子)のn回のサンプリングデータを取り込む。その際、同期補正処理部106は、領域Bの選択から領域Bに光が実際に照射されるまでの間の時間(T)を求める。この時間Tは、領域Bのサンプリング開始タイミングと領域Bに実際に光が照射されたタイミングとの関係に相当する。同期補正処理部106は、領域Aにおける光照射タイミングを基準に、領域Bにおける光照射タイミングが基準のタイミングからどれだけずれているかを求める。
【0044】
同期補正処理部106は、領域Aで求めた時間Tと領域Bで求めた時間Tとの差を、領域Aと領域Bとの間における光照射タイミングの差として求める。例えば図2に示すように、領域Aにおいて、サンプリング開始からサンプリング周期1つ分だけ遅れた時刻(t=4)に光照射検出部105が光照射を検出したとする。また、領域Bにおいて、サンプリング開始からサンプリング周期2つ分だけ遅れた時刻(t=2)に光照射検出部105が光照射を検出したとする。このケースでは、領域Aと領域Bとにおける光照射タイミングの差ΔABは、ΔAB=T−T=−2と求まる。
【0045】
同期補正処理部106は、素子データメモリ108における領域Bのサンプリングデータの時間軸を、求めた光照射タイミングの差だけ領域Aのサンプリングデータの時間軸からずらして、信号取込み部107が取り込んだサンプリングデータを格納させる。上記のケースの場合、同期補正処理部106が、領域Bのサンプリングデータ格納の際に素子データメモリ108における時間軸をサンプリング周期2つ分だけ遅らせることで、信号取込み部107は、図5に示すように素子データメモリ108におけるt=2から領域Bのサンプリングデータを格納する。なお、データを格納しない時刻については、無信号(データ値0)にしておけばよい。また、データ格納時刻を遅らせることで素子データメモリ108からはみ出すデータ、例えば領域Bのt=n−2以降のデータは破棄すればよい。
【0046】
領域Bに次いで領域Cが選択されると、信号取込み部107は、領域Cに対応するプローブ素子(例えば64chのプローブ素子)のn回のサンプリングデータを取り込む。同期補正処理部106は、領域Bにおける処理と同様に、領域Aにおける光照射タイミングを基準に、領域Cにおける光照射タイミングが基準のタイミングからどれだけずれているかを求める。例えば図2に示すように、領域Cにおける光照射タイミングがサンプリング開始からサンプリング周期1つ分遅れた時刻(t=1)であれば、領域Aと領域Cとにおける光照射タイミングの差ΔACを、ΔAC=T−T=−3と求める。この場合、同期補正処理部106が、領域Cのサンプリングデータ格納の際に素子データメモリ108における時間軸をサンプリング周期3つ分だけ遅らせることで、信号取込み部107は、図5に示すようにt=3から領域Cのサンプリングデータを格納する。
【0047】
同期補正処理部106が上記のように素子データメモリ108における時間軸を補正することで、例えば領域Aにおける4回目のサンプリングデータ、領域Bにおける2回目のサンプリングデータ、領域Cにおける1回目のサンプリングデータが、全て時刻t=4のデータとして素子データメモリ108に格納されることになる。このように、同期補正処理部106がデータ格納の際に素子データメモリ108における時間軸を部分領域ごとに補正することで、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸において、各部分領域で生体組織にパルスレーザ光が照射されたタイミングを部分領域間で一致させることができる。
【0048】
図6は、動作手順を示している。手順は、データ収集を行うフェーズと、収集したデータに基づいて画像構築を行うフェーズとに大別できる。領域選択部104は、部分領域のうちの1つを選択する(ステップS1)。レーザドライバ101はレーザ光源102を駆動し、レーザ光源102は、生体組織の少なくともステップS1で選択された部分領域を含む範囲にパルスレーザ光を照射する(ステップS2)。同期補正処理部106は、光照射検出部105を用いて、パルスレーザ光が実際に生体組織に照射されるタイミングを検出する(ステップS3)。生体組織にパスレーザ光が照射されることで、生体組織内で音響信号が発生する。この音響信号は、超音波探触子103が有するプローブ素子で検出される。信号取込み部107は、プローブ素子が出力する信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングする(ステップS4)。ステップS3とステップS4とは並列に行われてもよい。
【0049】
同期補正処理部106は、以前に選択された部分領域があるときは、部分領域への光照射タイミングの差を部分領域間で求め、求めた光照射タイミングの差に基づいて、素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸の補正量を決定する(ステップS5)。ステップS1で選択された部分領域が1つ目の部分領域である場合は、その部分領域における光照射タイミングを基準として用いることとし、補正量を0(補正なし)と決定すればよい。信号取込み部107は、ステップS4でサンプリングした複数回のサンプリングデータを素子データメモリ108に格納する(ステップS6)。その際、信号取込み部107は、ステップS5で決定された補正量に従って、素子データメモリ108における時間軸を補正する。
【0050】
領域選択部104は、未選択の部分領域が存在するか否かを判断する(ステップS7)。領域選択部104は、未選択の部分領域があるときは、ステップS1に戻り、未選択の部分領域の中から1つを選択する。その後、ステップS2からステップS4を経て、同期補正処理部106は、ステップS5で基準とする部分領域における光照射タイミングと、現在選択された部分領域における光照射タイミングとの差を求め、求めた光照射タイミングの差に基づいて、素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸の補正量を決定する。信号取込み部107は、決定された補正量だけ、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間でずらして複数回のサンプリングデータを素子データメモリ108に格納する。
【0051】
光音響画像化装置100は、ステップS1からステップS6を未選択の部分領域がなくなるまで繰り返し実行し、素子データメモリ108に各部分領域のサンプリングデータを格納していく。領域選択部104は、ステップS7で未選択の部分領域がないと判断すると、すなわち全ての部分領域を選択すると、処理を画像構築部109に移す。ここまでの部分がデータ収集フェーズに相当する。ここまでの処理で、例えば超音波探触子103が有する192chのプローブ素子からの複数回のサンプリングデータが素子データメモリ108に格納される。
【0052】
画像構築部109は、データ収集が終了すると、素子データメモリ108からサンプリングデータを読み出し、画像構築を開始する(ステップS8)。画像構築部109は、所定ch数のサンプリングデータを用いて位相整合加算処理を行い(ステップS9)、断層画像を生成する(ステップS10)。画像構築部109は、生成した断層画像を画像メモリ110に格納する。必要に応じて、画像表示部111は、画像メモリ110から断層画像を読み出し、ディスプレイ等に表示する(ステップS11)。ステップS8からステップS11の処理が画像構築フェーズに相当する。
【0053】
本実施形態では、生体組織の画像化に利用する範囲が複数の部分領域に分割されており、領域選択部104は部分領域を順次に選択し、部分領域ごとに光照射、音響信号検出を行う。同期補正処理部106は、光照射検出部105を用いて部分領域への光照射が検出されたタイミングの差を部分領域間で求め、求めた光照射タイミングの差に基づいて、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する。この補正により、素子データメモリ108における時間軸において、各部分領域への光照射が検出されたタイミングを部分領域間で一致させることができる。このため、各部分領域へ照射するパルスレーザ光にジッタが生じた場合でも、その影響を低減させて画像化を行うことができる。
【0054】
本実施形態では、画像化の範囲を複数の部分領域に分割しており、信号取込み部107が並列にサンプリングするデータの数は、部分領域に対応するプローブ素子の数で足りる。例えば超音波探触子103が192chのプローブ素子を有し、部分領域の幅が64chのプローブ素子に対応する幅であったとすれば、信号取込み部107は、64ch分のデータを並列にサンプリングできればよい。多数のデータを並列かつ高速に取り込む回路は高価である。本実施形態では信号取込み部107が並列にサンプリングするデータの数を超音波探触子103が有する全プローブ素子の数よりも少なくできるため、信号取込み部107で超音波探触子103が有する全てのプローブ素子に対応した数の信号を並列に取り込み可能とする場合に比して、コストを低減できる。
【0055】
本実施形態では、最小で部分領域の数だけパルスレーザ光を照射することで、1画像を構築するために必要なデータをサンプリングして素子データメモリ108に格納できる。このため、特許文献1に記載の方法のように、データ収集の範囲を1ラインずつずらしながら位相整合を行って画像を構築する場合に比して、1画像を得るため要する時間を短縮できる。本実施形態では、レーザの繰り返しの安全な条件である1kHzまで実現できれば、十分高速な画像化が実現できる。本実施形態では、1画像を得る時間が早いことから、動きの影響(モーションアーティファクト)を抑えることができ、動きのある対象の画像を良好に取得できる。
【0056】
本実施形態では、ある部分領域が選択されているとき、少なくともその選択された部分領域に対してパルスレーザ光が照射されればよい。つまり、生体組織の全範囲にレーザ光を照射する必要がない。例えば、光音響イメージングではnsecオーダーのパルスレーザ光が必要であり、そのようなパルスレーザ光の照射に用いる光源としてはQスイッチ固体レーザが想定される。パルスレーザ光が全領域に照射される場合、Qスイッチ固体レーザで20mJ/cmの安全基準のパワーを得ようと思うと、光学系の効率や照射範囲を考慮した場合に60mJ以上のパルス出力が必要となる。これは、装置の高コスト化の要因になる。本実施形態では、部分領域ごとにパルスレーザ光を切り替えて照射することが可能であり、光源のパワーを抑えることができる。このことは、コストの面で有利である。
【0057】
本実施形態では、1画像を構築するのに要する時間が短く、診断対象に応じて定まる実用上必要な画像化の速度以上の速度で画像を得ることもできる。実用上必要な画像加速度以上の速度で画像化が可能な場合、例えば領域A、領域B、及び領域Cの各部分領域に対して図6のステップS2からステップS6までの処理を複数回行い、複数回のサンプリングデータの加算平均を求めて素子データメモリ108に格納してもよい。或いは図6のステップS1からステップS10までを複数回行って複数の断層画像を生成し、生成した複数の断層画像の平均化してもよい。そのようにする場合、画像のSN比(Signal to Noise Ratio)を向上させることができ、高画質化が可能になる。
【0058】
なお、上記実施形態では、各部分領域に対応するプローブ素子の数と、信号取込み部107で並列にサンプリング可能なデータの数とを同数としたが、これには限定されない。部分領域に対応するプローブ素子の数は、信号取込み部107で並列にサンプリング可能ンデータの数よりも少なくてもよい。また、各部分領域の幅は相互に一致している必要はない。例えばある部分領域が64chのプローブ素子に対応した幅であるとき、別のある部分領域が60chのプローブ素子に対応した幅であってもよい。
【0059】
上記実施形態では、部分領域が部分領域間で重複する領域を持たないこととしたが、これには限定されない。各部分領域は、他の部分領域と重複する領域を有していてもよい。例えば超音波探触子103が128chのプローブ素子を有しているとき、画像化する範囲を5つの部分領域に分割し、1番目から64番目までのプローブ素子を領域A、32番目から96番目までのプローブ素子を領域B、64番目から128番目までのプローブ素子を領域C、96番目から160番目までのプローブ素子を領域D、128番目から192番目までのプローブ素子を領域Eとしてもよい。この場合、例えば32番目から64番目までのプローブ素子は領域Aと領域Bとで重複し、64番目から96番目までのプローブ素子は領域Bと領域Cとで重複することになる。
【0060】
上記のように領域が重複する場合、例えば32番目から64番目までのプローブ素子は領域Aと領域Bとで重複するため、重複範囲のプローブ素子からは、領域Aにパルスレーザ光を照射してサンプリングされたデータと、領域Bにパルスレーザ光を照射されたデータとが得られる。重複領域のデータは、複数回分のサンプリングデータを平均するなどすることで、SN比の向上が可能である。ただし、部分領域の重複が増加するほど、パルスレーザ光照射・データサンプリングの回数が増加することになるため、画像化の速度は低下する。部分領域の重複範囲のあり・なし、或いはどの程度の範囲を重複させるかは、画像化の速度などに応じて適宜設定すればよい。
【0061】
また上記のケースで、例えば40番目のプローブ素子のサンプリングデータを考えると、領域Aにパルスレーザ光が照射されるときと、領域Bにパルスレーザ光が照射されるときとで、そのプローブ素子は同じタイミングで音響信号を検出することになるはずである。従って、光音響信号の検出タイミングの差を求めることで、部分領域間の光照射タイミングの差を推定することができる。部分領域間の光照射タイミングの差を求める際には、光照射検出部105が検出する光照射タイミングに加えて、重複領域での音響信号検出タイミングを使用してもよい。
【0062】
上記実施形態では、同期補正処理部106が、素子データメモリ108にデータを格納する際に、部分領域間の光照射タイミングの差に基づいて部分領域ごとに時間軸をずらすこととしたが、これには限定されない。例えば、複数回のサンプリングデータを時間軸を補正せずに素子データメモリ108に格納しておき、画像構築部109が素子データメモリ108から複数回のサンプリングデータを読み出す際に、素子データメモリ108における時間軸を補正してもよい。すなわち、同期補正処理部106が、画像構築部109が素子データメモリ108から複数回のサンプリングデータを読み出す際に、部分領域間の光照射タイミングの差に基づいて、部分領域ごとに時間軸をずらして複数回のサンプリングデータを読み出させてもよい。
【0063】
例えば光照射タイミングが図2に示すように、領域Aではt=4、領域Bではt=2、領域Cではt=1であったとする。素子データメモリ108には、各領域のn回のサンプリングデータをt=0から格納する。領域Aを基準とする場合、同期補正処理部106は、画像構築部109が領域Aに対応するプローブ素子のデータを読み出す際には補正量0(補正なし)とする。この場合、画像構築部109は、素子データメモリ108におけるt=0のデータを、そのままt=0のデータとして読み出す。同期補正処理部106は、画像構築部109が領域Bに対応するプローブ素子のデータを読み出すときは、補正量を2に設定する。この場合、画像構築部109は、素子データメモリ108におけるt=0のデータをt=2のデータとして読み出す。また、同期補正処理部106は、画像構築部109が領域Cに対応するプローブ素子のデータを読み出すとき、補正量を3に設定する。この場合、画像構築部109は、素子データメモリ108におけるt=0のデータをt=3のデータとして読み出す。
【0064】
上記のように読み出しの際の時間軸を補正することで、画像構築部109は、例えば領域Aにおける4回目のサンプリングデータ、領域Bにおける2回目のサンプリングデータ、領域Cにおける1回目のサンプリングデータを、全て時刻t=4のデータとして読み出す。このように、同期補正処理部106がデータ読み出しの際に素子データメモリ108における時間軸を部分領域ごとに補正する場合でも、データ格納の際に時間軸を補正する場合と同様に、生体組織にパルスレーザ光が照射されたタイミングを部分領域間で一致させた状態で、画像構築を行うことが可能である。
【0065】
上記実施形態では、信号取込み部107がサンプリングを開始するタイミングは実際の光照射タイミングに依存せず一定であるとした。これに代えて、同期補正処理部106が、部分領域間で、光照射検出部105が光照射を検出してから信号取込み部107がサンプリングを開始するまでの間の時間が同じになるように、各部分領域でのサンプリング開始タイミングを制御してもよい。このように制御する場合、同期補正処理部106が素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正しなくても、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸において、各部分領域で生体組織にパルスレーザ光が照射されたタイミングを部分領域間で一致させることができる。
【0066】
上記実施形態では、光照射検出部105が光検出器を含む例を説明したが、これには限定されない。光照射検出部105は、生体組織に光が照射されたことを検出できればよく、光を直接に検出する必要はない。例えば、光照射検出部105が音響信号検出部を含み、音響信号検出部が、光照射部132(図3)が照射した光を音響信号に変換させる部分で変換された音響信号を検出してもよい。光を音響信号に変換させる部分は、例えば超音波探触子103の内部に設けることができる。或いは光を音響信号に変換させる部分を、生体組織の表面に貼り付けてもよい。超音波探触子103のプローブ素子131は、光照射検出部105の音響信号検出部を兼ねていてもよい。すなわち、光を音響信号で変換させる部分で変換された、生体組織に光が照射されたことを表す音響信号をプローブ素子131で検出してもよい。
【0067】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の光音響画像化装置及び方法は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
100:光音響画像化装置
101:レーザドライバ
102:レーザ光源
103:超音波探触子
104:領域選択部
105:光照射検出部
106:同期補正処理部
107:信号取込み部
108:素子データメモリ
109:画像構築部
110:画像メモリ
111:画像表示部
112:マルチプレクサ
131:プローブ素子
132:光照射部
133:光検出器
134:光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の画像化する範囲に対応して設けられ、それぞれが音響信号を検出する複数のプローブ素子を含む超音波探触子と、
前記画像化する範囲が複数の部分領域に分割されており、該分割された複数の部分領域を順次に選択する領域選択部と、
前記画像化する範囲のうち、少なくとも選択された部分領域を含む範囲に光を照射する光照射部と、
前記光照射部から前記生体組織に光が照射されたことを検出する光照射検出部と、
前記選択された部分領域に対応するプローブ素子が検出した音響信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、素子データメモリに格納する信号取り込み部と、
前記複数のプローブ素子それぞれからの複数回のサンプリングデータを前記素子データメモリから読み出し、該読み出したデータに基づいて前記生体組織の断層画像を構築する画像構築部と、
前記光照射検出部が光が照射されたことを検出したタイミングの差を前記部分領域間で求め、該求めたタイミング差に基づいて、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する同期補正処理部とを備える光音響画像化装置。
【請求項2】
前記同期補正処理部が、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸において、各部分領域への光照射が検出されたタイミングが前記部分領域間で一致するように、前記時間軸を補正するものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響画像化装置。
【請求項3】
前記同期補正処理部が、前記信号取込み部が前記素子データメモリに複数回のサンプリングデータを格納する際に、前記タイミング差に基づいて前記部分領域ごとに時間軸をずらして前記複数回のサンプリングデータを格納させるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響画像化装置。
【請求項4】
前記同期補正処理部が、前記画像構築部が前記素子データメモリから前記複数回のサンプリングデータを読み出す際に、前記タイミング差に基づいて前記部分領域ごとに時間軸をずらして前記複数回のサンプリングデータを読み出させるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光音響画像化装置。
【請求項5】
前記同期補正処理部が、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸の補正に代えて、部分領域間で、前記光照射検出部が光照射を検出してから前記信号取込み部がサンプリングを開始するまでの間の時間が同じになるように、各部分領域でのサンプリング開始タイミングを制御するものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響画像化装置。
【請求項6】
前記光照射検出部が、光を検出する光検出器を含むことを特徴とする請求項1から5何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項7】
前記光検出器が、前記部分領域のそれぞれに対応して設けられているものであることを特徴とする請求項6に記載の光音響画像化装置。
【請求項8】
前記光照射検出部が、前記光照射部が照射した光を音響信号に変換させる部分で変換された音響信号を検出する音響信号検出部を含むものであることを特徴とする請求項1から5何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項9】
各部分領域に対応するプローブ素子の数が、前記信号取込み部が並列にサンプリング可能なデータの数以下である請求項1から8何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項10】
各部分領域の幅が、前記信号取込み部が並列にサンプリング可能なデータの数のプローブ素子に対応する領域の幅であることを特徴とする請求項1から9何れかに記載の光音響画像化装置。
【請求項11】
生体組織の画像化する範囲が複数の部分領域に分割されており、該分割された部分領域を順次に選択するステップと、
前記画像化する範囲のうち、少なくとも前記選択された部分領域を含む範囲に光を照射するステップと、
複数のプローブ素子を含む超音波探触子を用いて、前記選択された部分領域からの音響信号を検出するステップと、
前記光が前記選択された部分領域に照射されるタイミングを検出するステップと、
前記検出された音響信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、素子データメモリに格納するステップと、
前記複数のプローブ素子それぞれからの複数回のサンプリングデータを前記素子データメモリから読み出し、該読み出したデータに基づいて前記生体組織の断層画像を構築するステップと、
前記部分領域への光照射のタイミングの差を前記部分領域間で計測し、該計測したタイミング差に基づいて、前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正するステップとを有することを特徴とする光音響画像化方法。
【請求項12】
前記素子データメモリにおけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正するステップに代えて、部分領域への光照射が検出されてから前記音響信号のサンプリングが開始されるまでの間の時間が部分領域間で同じになるように、各部分領域でのサンプリング開始タイミングを制御するステップを有することを特徴とする請求項11に記載の光音響画像化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図4】
image rotate