説明

免疫グロブリングリコシル化パターン分析

本発明は、サブクラスIgG1又はIgG4のヒト免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG3のマウス免疫グロブリンのグリコシル化パターンの決定のための方法に関し、以下の工程:a)酵素IdeSを用いた酵素消化により前記免疫グロブリンをフラグメントに切断すること、b)酵素消化により得られる前記免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること、c)工程b)において得られる前記免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメトリー分析に供すること、及びd)前記免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、工程c)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンFcフラグメントのグリコシル化パターンの決定のための方法に関する。また、Fabグリコシル化免疫グロブリンのグリコシル化パターンの決定のための方法ならびに免疫グロブリンFabフラグメントを産生するための方法が提示される。
【0002】
発明の背景
医薬産業は、近年、とりわけ、酵素、抗体、及びサイトカイン(例えば、エリスロポエチン、インターフェロン、プラスミノーゲンアクチベーターなど)に基づく産物を用いて非常に成功しており、世界でのタンパク質治療用薬剤の需用は毎年増加している。治療用モノクローナル抗体(mAb、モノクローナル抗体)は、タンパク質治療法内で重要な群である。それらはモノクローナルと呼ばれる。なぜなら、ポリクローナル抗体とは対照的に、それらは単一の抗体形成細胞に由来する免疫細胞(細胞クローン)により分泌されるからである。モノクローナル抗体の特徴は、それらの各々が、免疫原性物質の1つのエピトープに対して向けられるだけであり、従って、疾患の処置において非常に特異的に使用することができることである。タンパク質治療法の例は、モノクローナル抗体トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)、ダクリズマブ(商品名:ゼナパックス)、及びリツキシマブ(商品名:マブセラ)であり、Rocheにより製造され、とりわけ乳癌の処置のために(トラスツズマブ)、臓器拒絶反応のために(ダクリズマブ)、及び非ホジキンリンパ腫のために(リツキシマブ)成功裏に使用されてきた。
【0003】
治療用モノクローナル抗体は、複雑なバイオテクノロジープロセスを用いて得られる。分解産物は、それらの産生、製剤化、及び保存の間に形成されうるが、それらは、しばしば、酸化及び脱アミドならびにタンパク質分解的切断などのプロセスに起因する(Yan, B., et al., J. Chromatogr. A 1164 (2007) 153-161)。バイオ医薬品産物の品質、即ち、純度、完全性、凝集状態及びグリコシル化パターンは、その作用に加えて重要である。
【0004】
ヒト病原体ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)からのシステインエンドプロテアーゼIdeS(免疫グロブリン分解酵素S)は、Mac−1又はsib−38とも呼ばれ、免疫グロブリンG型(IgG)の抗体の重鎖を特異的に切断するシステインプロテアーゼである。IgGは、現在まで、IdeSの唯一の公知の基質である(Vincents, B., et al., Biochem. 43 (2004) 15540-15549)。IdeSは、29のアミノ酸を含むシグナルペプチドを含む339のアミノ酸からなる(von Pawel-Rammingen, U., et al., EMBO J. 21 (2002) 1607-1615)。IdeSは、ヒトIgGサブクラスIgG1、IgG3、及びIgG4を、認識配列(LL)GGPに含まれるアミノ酸236と237(Gly−Gly)の間で切断する。ヒトIgG2は、認識モチーフPVAGP中のアミノ酸アラニンとグリシンの間で切断される。IgG2a、IgG2b、及びIgG3型のマウス抗体ならびにウサギIgG(LLGGPS)も切断される(例、Vincents, B., et al., Biochem. 43 (2004) 15540-15549; Wenig, K., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (2004) 17371-17376を参照のこと)。
【0005】
Hess et al.(Hess, J. K., et al., J. Microbiol. Meth. 70 (2007) 284-291)は、SELDI−TOFマススペクトロメトリーの補助を用いた、IdeSの酵素活性を決定するためのマススペクトロメトリー方法を報告する。S. pyogenesから単離され、IgGシステインプロテアーゼ活性を有するポリペプチドが、US 2007/0237784に報告されている。抗体のFc又はFabフラグメントを形成するための方法が、EP 1 458 861 Aに報告されている。A. streptococci群からのIdeSプロテアーゼが、WO 2006/131347に報告されている。
【0006】
例えば、ポリペプチドのグリコシル化プロファイルは、多くの組換え産生された治療用ポリペプチドについての重要な特徴である。グリコシル化ポリペプチドは、糖タンパク質とも呼ばれ、真核生物(例、ヒト)、及び一部の原核生物における多くの必須の機能(触媒、シグナル伝達、細胞間連絡、免疫系の活性、ならびに分子識別及び会合を含む)を媒介する。それらは、真核生物における非細胞質タンパク質の大半を構成する(Lis, H., et al., Eur. J. Biochem. 218 (1993) 1-27)。タンパク質へのオリゴ糖の形成/付着は翻訳時又は翻訳後修飾であり、したがって、遺伝的に制御されない。オリゴ糖の生合成は、いくつかの酵素を含む多段階プロセスであり、それは基質について互いに競合する。結果的に、グリコシル化ポリペプチドは、オリゴ糖のミクロ不均一アレイを含み、同じアミノ酸骨格を含む一連の異なるグリコフォームを生じる。
【0007】
共有結合したオリゴ糖は、それぞれのポリペプチドの物理的な安定性、折り畳み、プロテアーゼ攻撃への耐性、免疫系との相互作用、生物活性、及び薬物動態に影響を与える。さらに、一部のグリコフォームは抗原性であり得、規制当局が、組換えグリコシル化ポリペプチドのオリゴ糖構造の分析を要求することを促している(例、Paulson, J. C., Trends Biochem. Sci. 14 (1989) 272-276; Jenkins, N., et al., Nature Biotechnol.14 (1998) 975-981を参照のこと)。グリコシル化ポリペプチドの末端シアリル化は、例えば、血中半減期を増加すると報告されており、末端ガラクトース残基を伴うオリゴ糖構造を含むグリコシル化ポリペプチドは、循環からの増加したクリアランスを示す(Smith, P. L., et al., J. Biol. Chem. 268 (1993) 795-802)。
【0008】
免疫グロブリンは、それらのグリコシル化パターンにおいて他の組換えポリペプチドとは異なる。免疫グロブリンG(IgG)は、例えば、抗原結合に関与する2つの同一のFabフラグメント及びエフェクター機能のためのFcフラグメントからなる分子量約150kDaの対称的な多機能性グリコシル化ポリペプチドである。グリコシル化は、IgG分子においてAsn−297で高度に保存される傾向があり、それはFc重鎖のC2ドメインの間に埋められており、C2内のアミノ酸残基と広範な接触を形成する(Sutton and Phillips, Biochem. Soc. Trans. 11 (1983) 130-132)。Asn−297連結オリゴ糖構造は不均一にプロセシングされ、IgGが複数のグリコフォームで存在する。変動が、Asn−297残基の部位占有において(マクロ不均一性)又はグリコシル化部位でのオリゴ糖構造における変動(ミクロ不均一性)により存在する。例えば、Jenkins, N., et al., Nature Biotechnol. 14 (1996) 975-981を参照のこと。
【0009】
パルスアンペロメトリック検出を伴う高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型マススペクトロメトリー(MALDI−TOF MS)を使用し、グリコシル化ポリペプチドの糖成分が分析されてきた(例、Fukuda, M., (ed.) Glycobiology: A Practical Approach, IRL Press, Oxford; Morelle, W. and Michalsky, J.C., Curr. Pharmaceut. Design 11 (2005) 2615-2645を参照のこと)。Hoffstetter-Kuhn et al.(Electrophoresis 17 (1996) 418-422)はキャピラリー電気泳動及びMALDI−TOF MS分析を使用し、NグリコシダーゼF(PNGaseF)を用いた抗体の脱グリコシル後にモノクローナル抗体のオリゴ糖媒介性の不均一性をプロファイリングした。
【0010】
組換えグリコシル化ポリペプチドの機能的特性に対するグリコシル化の重要性及び十分に定義された一貫した産物産生プロセスの必要性を考えると、発酵プロセスの間での組換え産生されたグリコシル化ポリペプチドのグリコシル化パターンのオンライン又はアドライン分析が高く望ましい。Papac et al.(Glycobiol. 8 (1998) 445-454)は、フッ化ポリビニリデン膜上でのグリコシル化ポリペプチドの固定化、酵素消化、及びグリコシル化プロファイルのMALDI−TOF MS分析を含む方法を報告した。組換え産生されたmAbの分析及び分子特徴付け(いくつかのクロマトグラフィー工程を含む)が、Bailey, M., et al., J. Chromat. 826 (2005) 177-187に報告されている。
【0011】
哺乳動物細胞により産生された免疫グロブリンは、2〜3質量%の糖を含む(Taniguchi, T., et al., Biochem. 24 (1985) 5551-5557)。これは、例えば、クラスG(IgG)の免疫グロブリンにおいて、マウス由来のIgGにおける2.3の糖残基(Mizuochi, T., et al., Arch. Biochem. Biophys. 257 (1987) 387-394)及びヒト由来のIgGにおける2.8の糖残基(Parekh, R. B., et al., Nature 316 (1985) 452-457)と等価であり、一般的にその2つがFc領域においてAsn−297に、残りが可変領域において位置づけられる(Saba, J. A., et al., Anal. Biochem. 305 (2002) 16-31)。
【0012】
クラスG(IgG)の免疫グロブリンについて、例えば、オリゴ糖をアミノ酸骨格に結合させる又は結合させることができる異なるNグリコシル化部位が公知である。IgGのFc領域において、オリゴ糖残基を、Nグリコシル化を介して、アミノ酸残基297(アスパラギンである)(Asn−297と表示される)に導入することができる。Youings et al.は、さらなるNグリコシル化部位がFab領域中の15〜20%のポリクローナルIgGにおいて存在することを示している(Youings, A., et al., Biochem. J., 314 (1996) 621-630;例、Endo, T., et al., Mol. Immunol. 32 (1995) 931-940も参照のこと)。
【0013】
不均質、即ち、非対称オリゴ糖プロセッシングに起因して、免疫グロブリンの複数の糖構造アイソフォームが存在する(Patel, T.P., et al., Biochem. J. 285 (1992) 839-845; Yu-Ip, C. C., et al., Arch. Biochem. Biophys. 308 (1994) 387-399; Lund, J., et al., Immunol. 30 (1993) 741-748)。同時に、オリゴ糖の構造及び分布は、高度に再現可能(即ち、非ランダム)で部位特異的である(Dwek, R. A., et al., J. Anat. 187 (1995) 279-292)。
【0014】
免疫グロブリンの一部の特徴は、Fc領域のグリコシル化(例、Dwek, R. A., et al., J. Anat. 187 (1995) 279-292; Lund, J., et al., J Immunol. 157 (1996) 4963-4969 and FASEB J. 9 (1995) 115-119; Wright, A., and Morrison, S. L., J. Immunol. 160 (1998) 3393-3402を参照のこと)、例えば熱安定性及び可溶性(West, C. M., Mol. Cell. Biochem. 72 (1986) 3-20)、抗原性(Turco, S. J., Arch. Biochem. Biophys. 205 (1980) 330-339)、免疫原性(Bradshaw, J. P., et al., Biochim. Biophys. Acta 847 (1985) 344-351;Feizi,T.,and Childs, R. A.,Biochem. J. 245 (1987)1-11; Schauer, R., Adv. Exp. Med. Biol. 228 (1988) 47-72)、クリアランス速度/循環半減期(Ashwell, G., and Harford, J., Ann. Rev. Biochem. 51 (1982) 531-554; McFarlane, I. G., Clin. Sci. 64 (1983) 127-135; Baenziger, J. U., Am. J. Path. 121 (1985) 382-391; Chan, V. T., and Wolf, G., Biochem. J. 247 (1987) 53-62; Wright, A., et al., Glycobiology 10 (2000) 1347-1355; Rifai, A., et al., J. Exp. Med. 191 (2000) 2171-2182; Zukier, L. S., et al., Cancer Res. 58 (1998) 3905-3908)、及び生物学的な比活性(Jefferis, R., and Lund, J., in Antibody Engineering, ed. by Capra, J. D., Chem. Immunol. Basel, Karger, 65 (1997) 111-128)に直接的に関連する。
【0015】
ハイブリッド四重極飛行時間型マススペクトロメトリーと一体となった液体クロマトグラフィーを使用した2つのN連結グリコシル化部位を伴う治療用の組換えモノクローナル抗体のグリコシル化プロファイリングが、Lim, A., et al., Anal. Biochem. 375 (2008) 163-172に報告されている。Nandakumar, K. S. and Holmdahl, R., Trends. Immunol. 29 (2008) 173-178は、酵素の注射によりインビボでIgGを切断又は改変する可能性を報告している。ストレプトコッカスのプロテアーゼIdesは、細菌のIgGFc結合を調節し、多形核白血球を予備刺激する能力を伴う1/2Fcフラグメントを生成し、Soderberg, J. J. and von Pawel-Rammingen, U., Mol. Immunol. 45 (2008) 3347-3353により報告されている。Bennet, K. L., et al., Anal. Biochem. 245 (1997) 17-27は、エレクトロスプレイイオン化マススペクトロメトリーによるモノクローナル抗体のパパイン消化のモニタリングを報告している。
【0016】
発明の概要
本発明の一局面は、サブクラスIgG1(huIgG1)又はIgG2(huIgG2)又はIgG4(huIgG4)のヒト免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a(muIgG2a)又はIgG2b(muIgG2b)又はIgG3(muIgG3)のマウス免疫グロブリンのグリコシル化パターン又は部位特異的グリコシル化パターンの決定のための方法であって、以下の工程:
a)免疫グロブリンを、酵素IdeSを用いて消化すること、
b)a)において得られる免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること、
c)b)において得られる免疫グロブリンの分離フラグメントをマススペクトロメトリー分析に供すること、及び
d)免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、c)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む。
【0017】
一実施態様において、本発明の方法は、以下の工程b)及びc):
b)免疫グロブリンのフラグメントを、サイズ排除クロマトグラフィーにより脱塩すること、
c)脱塩されたフラグメントをマススペクトロメトリー分析に直接的に適用すること
を含む。
【0018】
さらなる実施態様において、本発明の方法は工程a):
a)酵素IdeSを用いた酵素消化により免疫グロブリンをフラグメントに切断すること、及び、免疫グロブリンフラグメントを、カルボキシペプチダーゼBを用いて処理すること
を含む。
【0019】
別の実施態様において、本発明の方法は、工程a)の後及び工程b)の前に工程ab)を含み、それは以下:
ab)工程a)の消化された免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること
である。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、サブクラスIgG1(huIgG1)又はIgG2(huIgG2)又はIgG4(huIgG4)のヒト免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a(muIgG2a)又はIgG2b(muIgG2b)又はIgG3(muIgG3)のマウス免疫グロブリンのグリコシル化パターンの決定のための方法に関する。
【0021】
IdeSの使用は、非還元条件下でさえ、高度に再現可能な切断を提供することが見出されている。さらに、TFA(トリフルオロ酢酸)の添加は、マススペクトロメトリー分析について省略することができ、即ち、マススペクトロメトリー分析はトリフルオロ酢酸の非存在において実施される。さらに、IdeSの使用は限定されない。例えば、それを使用し、溶液中の免疫グロブリンを消化することができる。
【0022】
ESI−MS技術は、一般的に、インタクトな免疫グロブリン又は免疫グロブリン重鎖のレベルで実施され、より大きなタンパク質についてより低い質量分解能を提供する。パパイン消化された免疫グロブリンのESI−MS分析は、酵素の低い特異性及びその活性化のためのシステインの要求性のために限定され、それらは、例えば還元反応による副産物(即ち、データ分析において干渉するアーキファクト)の形成を起こす。ペプチドマップ技術において、比較的複雑なサンプル調製を実施しなければならず、定量分析は、とりわけ、塩付加物の形成のために困難である。
【0023】
一般的に、全てのクロマトグラフィー方法で物質の標識が要求され、特定のグリカンの共溶出を避けることはできない。加えて、FcフラグメントならびにFabフラグメントにおいてグリコシル化された免疫グロブリンのグリコシル化パターンを区別することは可能ではない。
【0024】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合により一緒に連結されたアミノ酸からなるポリマーである。それは、酵素的に又は合成的に産生することができる。20未満のアミノ酸を含むポリペプチドも「ペプチド」と呼ばれる。「タンパク質」は、2つ又はそれ以上のポリペプチドを含む高分子である。あるいは、それは100を上回るアミノ酸で構成されるポリペプチドである。ポリペプチドは、また、非ペプチド成分(例、糖など)を含むことができる。非ペプチド修飾が、ポリペプチドを発現する細胞により導入され、従って、細胞型に依存する。本願において、ポリペプチドは、それらのアミノ酸配列により定義される。修飾(例えば糖など)は明確に記載されないが、しかし、常に存在しうる。
【0025】
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本願内で同義的に使用され、少なくとも2つの軽ポリペプチド鎖(軽鎖、LC)及び2つの重ポリペプチド鎖(重鎖、HC)を含む分子を表示する。軽鎖及び重鎖の各々は、可変領域(通常、鎖のアミノ末端)を含み、それは抗原の結合のための結合ドメインを含む。重鎖及び軽鎖の各々は、定常領域(通常、鎖のカルボキシ末端)を含み、それは異なる受容体への抗体の結合を媒介する。軽鎖は、通常、可変ドメインVL及び定常ドメインCLで構成される。重鎖は、通常、可変ドメインV及び定常領域で構成され、それは次にドメインC1、ヒンジ、C2、C3、及び、場合によりC4を含む。抗体は多数の形態、例えば、Fv、Fab、及びF(ab)2ならびに単鎖(scFv)として生じうる(例、Huston, J. S., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85 (1988) 5879-5883; Bird, R. E., et al., Science 242 (1988) 423-426;及びHood, L. E., et al., Immunology, Benjamin N. Y., 2nd Edition (1984) and Hunkapiller, T. and Hood, L., Nature 323 (1986) 15-16)。免疫グロブリンは、重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存してクラスに分けられる:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM。これらのクラスの一部は、さらに、サブクラス(アイソタイプ)に細分類される(例、IgGがIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4に又はIgAがIgA1及びIgA2に)。重鎖の定常領域は、抗体が属するクラスに依存して、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)、及びμ(IgM)と呼ばれる。
【0026】
一般的なクロマトグラフィー方法が当業者に公知である(例、Chromatography, 5th edition, Part A: Fundamentals and Techniques, Heftmann, E. (ed.), Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992); Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Deyl, Z. (ed.), Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands, (1998); Chromatography Today, Poole, D. F. and Poole, S. K., Elsevier Science Publishing Company, New York, (1991); Scopes, R. K., Protein Purification: Principles and Practice (1982); Sambrook, J., et al. (ed.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y., 1989;又はCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M., et al. (eds.), John Wiley & Sons, Inc., New York)。
【0027】
免疫グロブリン分解酵素IdeS(GP(S)モチーフで高度に特異的にIgGを切断するシステインプロテアーゼ)を、LC−MS(マススペクトロメトリーと組み合わせた液体クロマトグラフィー)との組み合わせで、免疫グロブリンの詳細な部位特異的グリコシル化パターンの特徴付けのために使用することができることが見出されている。
【0028】
2時間の消化処置において、IdeSは抗体を切断し、2つのHC−Fcフラグメント(HC−Fcフラグメント(免疫グロブリン重鎖のC末端部分を含む)とも呼ばれる)及びFabフラグメント(Fabフラグメント(免疫グロブリン重鎖及び免疫グロブリン軽鎖のN末端部分を含む)とも呼ばれる)をもたらすことが見出されている。この方法は、Fcフラグメントにおいてグリコシル化された又はFcフラグメント及びFabフラグメントにおいてグリコシル化された免疫グロブリンのグリコシル化パターンの分析に特に適する。第2のグリコシル化部位の分析のために、IdeS消化物を還元させることができる。分解産物を、この方法を用いて分析することも可能である。酵素処理後、サンプルを、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を含むLC−MS分析及びQTOF機器(四重極飛行時間型マススペクトロメトリー)でのオンラインMS分析に供する。本発明の方法を、例えば、バッチ特徴付けのため、下流のプロセシング工程のモニタリングのため、ならびにサンプル精製なしでの発酵プロセスのモニタリングのために使用することができる。
【0029】
免疫グロブリンのC2ドメインのN末端領域中のGP(S)モチーフが、IdeSを用いた消化のために必須である。本明細書で使用するHC−Fcフラグメントという用語は、IdeS消化により得られる免疫グロブリン重鎖のC末端フラグメントを指し、Fabフラグメントという用語は、IdeS消化により得られる完全な軽鎖を含む免疫グロブリンのN末端フラグメントを指す。従って、一実施態様において、本発明の方法は、キメラ又はヒト化IgG、即ち、サブクラスIgG1、IgG2、又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリン、あるいはその変異体について、及び、マウスIgGの特定のサブクラスについて、即ち、サブクラスIgG2a、IgG2b、又はIgG3のマウス免疫グロブリン、あるいはその変異体を特徴付けるためにある。一実施態様において、消化を弱塩基性pHで2時間にわたり実施する。Fabフラグメントにおけるグリコシル化プロファイルの分析のために、酸性条件下でTCEPを0.5時間にわたり使用した追加の還元工程を、一実施態様において実施する。サンプルを、その後、以下及び実施例において記載する通りにLC−MS分析に供する。
【0030】
インタクトな免疫グロブリン重鎖又はさらにインタクトな免疫グロブリンのレベルでのグリコシル化パターン分析とは対照的に、この方法は、より高い質量精度、分解能、及び感度の利点を有することが見出されている。他の酵素(パパインなど)又は限定されたLysC消化と比較して、IdeSは、固有の切断部位を有するという利点を示し、従って、高度に特異的であり、同様の効率で異なるサブクラスを切断する。過度の切断というリスクは存在せず、システインは酵素の活性化のために要求されない。分解産物の分析のために、IdeS消化物を還元させ、3つの抗体フラグメントを産出する:全長免疫グロブリン軽鎖、2つの重鎖Fabフラグメント(HC Fabフラグメント)、及び重鎖Fcフラグメント(HC Fcフラグメント)。3種をクロマトグラフィーにより分離し、個々に分析することができる。このアプローチは、分解(例えば酸化、脱アミド、又はフラグメンテーションなど)が、免疫グロブリンのFcフラグメント又はFabフラグメントにおいて存在する/生じるか否かを決定するための簡単で迅速な方法である。特定の分解反応(例えば酸化など)が、保持時間におけるわずかなシフトに導き、従って、製剤からのサンプルの迅速なモニタリング及びUV吸収検出(それも本発明の局面である)を使用することによる安定性試験のために使用することができる。一実施態様において、本発明の方法は、脱塩された分子混合物の直接的なマススペクトロメトリー分析を伴うサイズ排除クロマトグラフィーを使用した脱塩工程を含む。
【0031】
免疫グロブリンの特異的な切断
モノクローナル免疫グロブリンは非常に大きなタンパク質であり、さらに、それらの重鎖の糖構造のため極めて不均一(ミクロ不均一性)である。分解産物の形成について及び/又は修飾について免疫グロブリンのグリコシル化パターンを検討するために、糖構造分析の前にそれらをより小さなフラグメントに切断することが好都合である。
【0032】
ジスルフィド架橋の切断
免疫グロブリン分子において生じる全てのジスルフィド架橋を、還元により切断することができる。免疫グロブリンの遊離の重鎖及び軽鎖が、還元の間に得られる。トリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィン(TCEP)が、しばしば使用される還元剤である。なぜなら、免疫グロブリンの全てのジスルフィド架橋が短時間内に完全に切断され、その還元は全pH範囲において生じるからである(例、Hau, J. C. and Hau, C. Y., Anal. Biochem. 220 (1994) 5-10を参照のこと)。一実施態様において、pH範囲はpH1.5〜pH8.5である。ジチオトレイトール(DTT)は、また、ジスルフィド架橋の迅速な切断により特徴付けられる。しかし、酸性環境におけるDTT還元は、非常に不十分に進行するだけである。変性工程が、通常、重鎖と軽鎖の解離を完了するために必要である。変性によって、加えて、ジスルフィド基がより接近可能になる。一実施態様における変性は、例えば、グアニジン/HCl又はギ酸の助けで行うことができる。
【0033】
酵素切断
パパイン(システインプロテアーゼ)は、アルギニン(R)、リジン(K)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、グリシン(G)、及びチロシン(Y)の後で比較的、非特異的にペプチド結合を切断する。インキュベーション期間が十分に長い又は長過ぎる場合、パパイン消化は免疫グロブリンの全体の加水分解に導く。しかし、免疫グロブリンを、それらのヒンジ領域において、限定的なタンパク質分解により比較的、選択的に切断することができる(Lottspeich, F. and Engels, J. W., Bioanalytik Spektrum Akademischer Verlag, Munich, 2nd Edition (2006) 201-214)。切断は、2つの重鎖を連結するジスルフィド架橋のN末端側で生じる。ジスルフィド架橋はこのプロセスにおいて保持され、3つのフラグメント(2つのFabフラグメント、1つのFcフラグメント)が得られる。2つのN末端フラグメントは抗原結合フラグメント(Fabフラグメント、Fab、抗原結合フラグメント)と呼ばれ、C末端フラグメントはクリスタリンフラグメント(Fcフラグメント、Fc、結晶化フラグメント)と呼ばれる。各Fabフラグメントは、完全な軽鎖及び重鎖のアミノ末端半分で構成される。Fcフラグメントは、重鎖の2つのカルボキシ末端半分で構成され、それらは依然としてジスルフィド架橋により一緒に連結されている。
【0034】
IdeS(S. pyogenesの免疫グロブリンG分解酵素)は、病原性細菌ストレプトコッカス・ピオゲネスから単離することができる細胞システインプロテアーゼである。この酵素は、配列GP(SVFLFP)、即ち、GP(S)モチーフの直前で高い特異性を伴いヒトIgGを切断する。この配列は、2つの重鎖(HC)を一緒に連結するジスルフィド架橋のC末端側に位置付けられる。切断は、2つの重鎖(2つのHC−Fcフラグメント)のC末端及びジスルフィド架橋により連結される軽鎖及び重鎖のFabフラグメントを含むFabフラグメントをもたらす(図1)(von Pawel-Rammingen, U., et al., EMBO Journal 21 (2002) 1607-1615)。免疫グロブリンのIdeS切断により得られるフラグメントが、消化後にDTT又はTCEPを用いて還元される場合、抗体の2つの軽鎖(2つのLC)及び重鎖のN末端フラグメント(2つのHC Fabフラグメント)が、Fabフラグメントの代わりに得られる。重鎖のC末端(HC−Fc)は、還元により影響を受けない。
【0035】
免疫グロブリン切断のための一般的に用いられる酵素パパインは、ヒンジ領域のN末端を切断する。従って、パパイン消化物は還元を必要とし、Abの全ての3つのフラグメント(Fc、LC、及びHC Fab)がマススペクトルにおいて同じm/z範囲で現れる。
【0036】
本発明の第1の局面は、サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンあるいはその変異体のグリコシル化パターンの決定のための方法であって、以下の工程:
a)酵素IdeSを用いた処理により免疫グロブリンを消化すること、
b)酵素消化により得られる免疫グロブリンの酵素切断フラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること、
c)工程b)において得られる免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメトリー分析に供すること、及び
d)免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、工程c)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む。
【0037】
例えば、LysC又はパパインを用いた限定タンパク質分解の代わりに、特異的に切断する酵素IdeSの使用によって、免疫グロブリンの定義されたフラグメントを得ることができることが見出されており、それらは免疫グロブリンのグリコシル化パターンの決定に非常に適している。
【0038】
「グリコシル化パターン」という用語は、本願内で使用される通り、免疫グロブリン中の1つ又は複数の特定のアミノ酸残基に付着されているオリゴ糖全体を表示する。細胞のグリコシル化不均一性のため、組換え産生された免疫グロブリンは、特定のアミノ酸残基に単一の定義されたN又はO連結オリゴ糖を含むだけでなく、ポリペプチドの混合物でもあり、各々が同じアミノ酸配列を有するが、しかし、特定のアミノ酸位置に異なる構成のオリゴ糖を含む。このように、上の用語は、組換え産生された免疫グロブリンの1つ又は複数の特定のアミノ酸位置に付着したオリゴ糖の群(即ち、付着したオリゴ糖の不均一性)を表示する。「オリゴ糖」という用語は、本願内で使用される通り、2つ又はそれ以上の共有結合した単糖単位を含む重合糖類を表示する。
【0039】
本発明の方法において、グリコシル化パターンを決定しなければならない免疫グロブリンは、最初の工程において、HC Fcフラグメント及びFabフラグメントにおいて酵素IdeSを用いて酵素的に消化/切断される。Fabフラグメント中のグリコシル化部位のグリコシル化パターンを決定しなければならない場合、還元剤を用いた免疫グロブリンジスルフィド結合の還元を、本発明の方法の一実施態様において実施する。酵素切断及び任意の還元工程後、溶液を、2つの重鎖Fcフラグメントの解離を誘導するために、酸性化させる。一実施態様において、酸性化は、免疫グロブリンジスルフィド結合の還元と同じ工程中である。得られるフラグメントを逆相HPLC(RP−HPLC)により分離する。グリコシル化パターンの決定のために、解離した重鎖Fcフラグメント及び場合により免疫グロブリンのFab又はFabフラグメントを含むサンプルを、マススペクトロメトリー(MS)分析に供する。MS分析の結果を用いて、免疫グロブリンのグリコシル化パターンを決定する。一実施態様において、MS分析を、RP−HPLC(オフライン)とは別の分離された工程において実施する。別の実施態様において、MS分析を、RP−HPLC(オンライン)の直後に実施する。即ち、RP−HPLCの溶出液をMS機器中に直接導入する。
【0040】
オフラインの方法において、Fcグリコシル化パターンの決定は、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)脱塩工程及びマススペクトロメーター中へのサンプルの直接注入を含む。この方法は、極めて迅速であり、ハイスループットについて可能であり、免疫グロブリンのHC Fcフラグメントのレベルでのオリゴ糖分析の高分解能、精度、及び感度から利益を得る。グリコシル化HC Fcフラグメントが800〜2000のm/z範囲中のマススペクトルにおいて現れるのに対し(例、図2を参照のこと)、Fabフラグメントはその二倍の重量のために1900〜3000m/zの範囲において現れる(例、図3を参照のこと)。免疫グロブリンの2つのフラグメントは、従って、マススペクトロメトリーにより分離することができ、それは、データ解釈を促す効果である。
【0041】
このように、本発明の一局面は、サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンあるいはその変異体のグリコシル化パターンの決定のための方法であって、以下の工程:
a)酵素IdeSを用いた処理により免疫グロブリンを消化すること、
b)酵素消化により得られる免疫グロブリンの酵素切断フラグメントを、サイズ排除クロマトグラフィーにより脱塩すること、
c)工程b)において得られる免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメトリー分析に供すること、及び
d)免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、工程c)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む。
【0042】
一実施態様において、本発明の方法は、工程a)として以下の工程:
a)酵素IdeS及び酵素カルボキシペプチダーゼBを用いた処理により免疫グロブリンを消化すること
を含む。
【0043】
この実施態様において、免疫グロブリンを、HC Fcフラグメント及びFabフラグメントを得るために、酵素IdeSにより切断し、同じ工程において、免疫グロブリン重鎖のC末端リジンを、免疫グロブリンの不均一性を低下させるために、即ち、グリコシル化パターンに影響を与えることなくより不均一なサンプルを得るために、除去する。
【0044】
「Fabフラグメント」という用語は、本願内で使用される通り、酵素IdeSを用いた酵素切断により得られる免疫グロブリンのN末端部分を表示する。「HC Fcフラグメント」という用語は、本願内で使用される通り、酵素IdeSを用いた酵素切断により得られる免疫グロブリンのC末端部分を表示する。このフラグメントは、2つの非共有結合ポリペプチド、即ち、重鎖の各々のC末端フラグメントを含む。酵素IdeSは、酵素パパイン及びペプシンとは異なる位置及び免疫グロブリンの単一部位で免疫グロブリンを切断するため、わずか2つの、しかし、十分に定義された免疫グロブリンのフラグメントが得られる。
【0045】
別の実施態様において、方法は、工程a)の後及び工程b)の前に工程a1)を含み、それは以下:
a1)工程a)の酵素消化により得られる免疫グロブリンの酵素切断フラグメントを、ギ酸を用いて処理すること
である。
【0046】
この実施態様において、酵素IdeSを用いた切断により免疫グロブリンから得られるFcフラグメントは、互いに共有結合されていないポリペプチドを含み、2つのpFcフラグメントにおいて分離される。「pFcフラグメント」という用語は、本願内で使用される通り、酵素IdeSを用いた酵素切断後に免疫グロブリン重鎖から得られる単一のC末端ポリペプチドを表示する。
【0047】
別の実施態様において、本発明の方法の工程a1)は以下:
a1)工程a)の酵素消化により得られる免疫グロブリンの酵素切断フラグメントを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること
である。
【0048】
この実施態様において、酵素IdeSを用いた免疫グロブリンの酵素切断後に得られるFabフラグメントを、2つのFabフラグメントにおいて、連結ジスルフィド結合の還元によりさらに分離する。一実施態様において、ギ酸は、還元剤の添加と同時に加えられる。別の実施態様において、前記還元剤はTCEP溶液である。この実施態様において、ギ酸及びTCEP溶液は両方ともインキュベーション前に加えられ、そのため両成分が単一工程の間に存在する。
【0049】
本発明の方法は、免疫グロブリンを含むサンプルのインキュベーションを含み、それから、グリコシル化パターンを、異なる酵素及び薬剤を用いて決定しなければならない。これらの化合物及び薬剤を使用し、サンプル中に含まれる免疫グロブリンを、定義されたフラグメントに変換する。方法の一実施態様において、IgG特異的システインプロテアーゼIdeSは、ストレプトコッカス・ピオゲネス又はトレポネーマ・デンティコラから得られるIdeSである。さらなる好ましい実施態様において、IgG特異的システインプロテアーゼは、アミノ酸配列配列番号1を有する。IgG特異的システインプロテアーゼを用いた酵素切断は、一実施態様において、pH5.5〜pH8.5の間のpH範囲において起こる。一実施態様において、酵素切断はpH7.0〜pH8.0のpH範囲における。また、IgG特異的システインプロテアーゼと免疫グロブリン分子のモル比が1:25〜1:2500の間、別の実施態様において1:25〜1:100にすべきであることが見出された。
【0050】
本発明の方法の一実施態様において、逆相高速液体クロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーの溶出液をマススペクトロメーターに直接注入する。
【0051】
本発明の方法において、免疫グロブリンのFabフラグメントのグリコシル化パターンを決定しなければならない場合、方法は以下の工程:
a)酵素IdeSを用いた処理により免疫グロブリンを消化すること、
b)工程a)の酵素切断された免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること、
c)得られる前記免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること及び/又は得られるフラグメントをサイズ排除クロマトグラフィーにより脱塩すること、
d)工程c)において得られる免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメーター中への直接注入によるマススペクトロメトリー分析に供すること、及び
e)免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、工程d)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む。
【0052】
本発明の別の局面は、サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4の組換え産生されたヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンのグリコシル化パターンの決定のための方法であって、以下の工程:
a)組換え産生された免疫グロブリンのサンプルを提供すること、
b)酵素IdeSを用いた処理により免疫グロブリンを消化すること、
c)工程b)の酵素切断された免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること、
d)得られる前記免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること及び/又は得られるフラグメントをサイズ排除クロマトグラフィーにより脱塩すること、
e)工程d)において得られる免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメーター中への直接注入によるマススペクトロメトリー分析に供すること、及び
f)免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、工程e)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む。
【0053】
本発明の別の局面は、サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンのFabフラグメント又はFabフラグメントの産生のための方法であって、以下の工程:
a)Fabフラグメント又はFabフラグメントが得られる免疫グロブリンを提供すること、
b)酵素IdeSを用いた消化により前記免疫グロブリンを切断すること、
c)Fabフラグメントが産生される場合、工程b)の酵素切断された前記免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること、
d)前記Fabフラグメント又は前記Fabフラグメントを、プロテインAクロマトグラフィー又はサイズ排除樹脂を用いたクロマトグラフィーにより産生すること
を含む。
【0054】
組換え産生された異種免疫グロブリンの精製のために、しばしば、異なるカラムクロマトグラフィー工程の組み合わせが用いられる。一実施態様において、プロテインA親和性クロマトグラフィーの後に、1つ又は2つの追加のクロマトグラフィー分離工程(例、イオン交換クロマトグラフィー工程)が続く。最終の精製工程は、いわゆる「ポリッシング工程」であり、微量の不純物及び混入物(凝集した免疫グロブリン、残留HCP(宿主細胞のタンパク質)、DNA(宿主細胞の核酸)、ウイルス、及び/又はエンドトキシンなど)の除去のためである。このポリッシング工程のために、しばしば、フロースルー様式の陰イオン交換クロマトグラフィー材料が使用される。
【0055】
様々な方法が、タンパク質回収及び精製のために、十分に確立され、広範に使用されている。例えば、微生物タンパク質を用いた親和性クロマトグラフィー(例、プロテインA又はプロテインG親和性クロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー(例、陽イオン交換(カルボキシメチル樹脂)、陰イオン交換(アミノエチル基樹脂)、及び混合モード交換)、チオフィリック吸着(例、ベータ−メルカプトエタノール及び他のSHリガンドを伴う)、疎水的相互作用又は芳香族吸着クロマトグラフィー(例、フェニル基−セファロース、アザ−アレノフィリック樹脂、又はm−アミノフェニルボロン酸を伴う)、金属キレート親和性クロマトグラフィー(例、Ni(II)及びCu(II)親和性材料を伴う)、サイズ排除クロマトグラフィー、及び電気泳動方法(例えばゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動など)など(Vijayalakshmi, M. A., Appl. Biochem. Biotech. 75 (1998) 93-102)。
【0056】
一実施態様において、方法は、免疫グロブリンをコードする核酸を含む真核細胞を、異種免疫グロブリンの発現に適した条件下で培養することを含む。「免疫グロブリンの発現に適した状態下で」という用語は、免疫グロブリンを発現する哺乳動物細胞の培養のために使用され、当業者により公知である又は簡単に決定することができる条件を表示する。また、これらの条件が、培養される哺乳動物細胞の型及び発現される免疫グロブリンの型に依存して変動しうることが当業者に公知である。一般的に、哺乳動物細胞を、免疫グロブリンの効果的なタンパク質産生を可能にするための温度(例、20℃〜40℃の間)で、十分な期間(例、4〜28日)にわたり培養する。
【0057】
本発明の別の局面は、本発明の方法を使用することにより、組換え産生された免疫グロブリンのグリコシル化パターンをモニタリングするための方法である。
【0058】
本発明のさらなる局面は、以下の工程:
a)タンパク質−免疫グロブリン融合タンパク質を、酵素IdeSを用いて酵素切断し、それによりタンパク質を産生すること
を含むタンパク質を産生するための方法である。
【0059】
以下の実施例、配列リスト、及び図を提供し、本発明の理解を助け、その真の範囲が、添付の特許請求の範囲に示される。本発明の精神から逸脱することなく、示した手順に改変を施すことができることが理解される。
【0060】
配列リストの説明
配列番号1 ストレプトコッカス・ピオゲネスからのIdeSのアミノ酸配列。
配列番号2 C1で始まり、C2で終わるマウスIgG2a免疫グロブリン配列。
配列番号3 C1で始まり、C2で終わるマウスIgG3免疫グロブリン配列。
配列番号4 ヒトIgG1定常領域。
配列番号5 ヒトIgG4定常領域。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】IgG1免疫グロブリンのIdeS消化の概略図。
【図2】SEC及びマススペクトロメーター中への直接注入により分析されたIdeS切断ヒトIgG1のマススペクトル。スペクトルは、グリコシル化Fcフラグメントだけを示す。
【図3】SEC及びマススペクトロメーター中への直接注入により分析されたIdeS切断ヒトIgG1のマススペクトル。スペクトルは、グリコシル化Fcフラグメント及びFabフラグメントを示す。
【図4】IdeS消化及び還元されたマウスIgG3免疫グロブリンのクロマトグラム。
【図5】マウスIgG3免疫グロブリンのヒンジ領域におけるOグリコシル化を伴う重鎖Fabフラグメントのズームマススペクトル。
【図6】マウスIgG3免疫グロブリンのNグリコシル化を伴う重鎖Fcフラグメントのズームマススペクトル。
【図7】LC−MSから得られるOグリコシル化トリプシンペプチド(IPKPSTPPGSSCPPGNILGGPSVFIFPPKPK(HC=重鎖、アミノ酸(aa)217−247;S及びT:可能なOグリコシル化部位)のデコンボリューションマススペクトル。
【図8】IdeS消化ヒト化IgG4免疫グロブリンのクロマトグラム。
【図9】ヒト化IgG4免疫グロブリンのNグリコシル化を伴う重鎖Fcフラグメントのズームマススペクトル。
【図10】IdeS消化ヒト化IgG1免疫グロブリンのクロマトグラム。
【図11】ヒト化IgG1免疫グロブリンのNグリコシル化を伴う重鎖Fcフラグメントのズームマススペクトル。
【図12】培養の上清及びプロテインA精製サンプルから取られたIdeS消化ヒト化IgG1免疫グロブリンのクロマトグラムのオーバーレイ。
【図13】培養の上清及びプロテインA精製サンプルから取られたIdeS消化ヒト化IgG1免疫グロブリンのマススペクトルのオーバーレイ(保持時間:16.8分)。
【図14】培養の上清及びプロテインA精製サンプルから取られたIdeS消化ヒト化IgG1免疫グロブリンのマススペクトルのズームオーバーレイ(保持時間:16.8分)。
【図15】完全な免疫グロブリン、Fabフラグメント、及びスタンダードの分析サイズ排除クロマトグラムオーバーレイ。
【0062】
実施例1
抗体濃度の決定:
抗体濃度を、タイプUVIKON XL(Goebel Company)の分光光度計で、280nmでの吸収測定を用いて決定した。使用された抗体の消衰係数は1.55ml/(mg*cm)であり、Pace, C. N., et al.(Protein Sci. 4 (1995) 2411-2423)の方法に従って算出した。
【0063】
実施例2
一般的な方法A(IgG1、IgG3用)
Fcフラグメントにおけるグリコシル化パターンの分析のためのIdeS消化:
100μg(0.66nmol)の免疫グロブリンを、50mM TRIS/HCl緩衝液(pH8.0)中で最終濃度1mg/mlに希釈し、2μl(c=1mg/ml、0.06nmol)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS、MW 345890Da)を加えて、酵素に免疫グロブリンの重量比1:50を与える。溶液を、使用された免疫グロブリンに依存し、2〜5時間にわたり37℃でインキュベートする。サイズ排除クロマトグラフィー及びマススペクトロメーター中への直接注入を用いた分析のために、酵素活性を、溶液への等容積の1%ギ酸の添加により停止させる。
【0064】
Fabフラグメントにおけるグリコシル化パターンの追加分析のためのIdeS消化免疫グロブリンの還元:
還元のために、サンプルの半分を、64μlの100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を用いて希釈し、最終容積115μlを与える。次に、60μlの0.5M TCEP(トリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィン、Pierce)(4M塩酸グアニジンの容積中に溶解)及び50mlの8M塩酸グアニジンを加える。その後、サンプルを30分間にわたり37℃でインキュベートする。反応を、5μlの20%(v/v)ギ酸の添加により停止する。
【0065】
実施例3
一般的な方法B(IgG1、IgG3、IgG4用)
組み合わせたIdeS及びCpB消化:
100μg(0.66nmol)の免疫グロブリンを、50mM TRIS/HCl緩衝液(pH8.0)中で最終濃度1mg/mlに希釈し、2μl(c=1mg/ml、0.06nmol)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS、MW 345890Da)を加えて、酵素に免疫グロブリンの重量比1:50を与える。溶液を、使用された免疫グロブリンに依存し、2〜5時間にわたり37℃でインキュベートする。1μl(1mg/ml)のカルボキシペプチダーゼB(CpB、Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を、IdeSインキュベーション時間終了の30分前に溶液に加え、酵素と免疫グロブリンの重量比1:25を与える。
【0066】
実施例4
一般的な方法C(複雑なグリコシル化パターンを伴うIgG用)
組み合わせたIdeS及びEndoH消化:
25μg(0.17nmol)の免疫グロブリンを、リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)中で最終濃度0.5mg/mlに希釈し、2.5μl(c=2.5U/500μl)のエンドペプチダーゼH(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を加えて、18時間にわたり37℃でインキュベートし、オリゴ糖構造を切断する。続いて、pHを、25μlの0.1M TRIS/HCl緩衝液(pH8.0)を加えることにより8.0に調整する。切断は、0.5μl(c=1mg/ml、0.02nmol)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS、MW 345890Da)の添加及び2時間にわたる37℃でのインキュベーションにより達成する。
【0067】
実施例5
一般的な方法D(培養上清用)
組み合わせたIdeS及びCpB消化:
50μg(0.33nmol)の免疫グロブリン発現真核細胞の培養での培養上清を、3分間にわたり10,800rcf(相対遠心力)で遠心し、50mM TRIS/HCl緩衝液(pH8.0)中で最終濃度0.7mg/mlに希釈する。1μl(c=1mg/ml、0.06nmol)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS、MW 345890Da)を加えて、酵素と免疫グロブリンの重量比1:50を与える。溶液を、使用された免疫グロブリンに依存し、2〜5時間にわたり37℃でインキュベートする。1μl(1mg/ml)のカルボキシペプチダーゼB(CpB、Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を、IdeSインキュベーション時間終了の30分前に溶液に加え、酵素と免疫グロブリンの重量比1:25を与える。
【0068】
実施例6
RP−HPLC−MS方法
LC−MSを、QTOF II(Micromass/Waters)に連結したAgilent Cap LC1100で実施する。クロマトグラフィー分離を、Phenomenex Jupiter C18カラム(5μm粒径、300A口径、1×250mmカラム)で実施する。溶出液Aは0.5%ギ酸である。溶出液Bは、70%イソプロパノール、20%アセトニトリル、9.5%水、及び0.5%ギ酸である。流速は40μl/分である。分離を75℃で実施する。実施例2〜5の1つの方法を用いて得られる2μg(10μl)の免疫グロブリンを、カラム上に注射する。以下の勾配を適用する:
【0069】
【表1】

【0070】
最初の7分間に、溶離液を廃物に向け、マススペクトロメーターイオン供給源を塩汚染から予防する。280nm(参照360nm)でのUVシグナルが記録される。MSスペクトルが、キャピラリー電圧2,700V、コーン電圧30Vを使用して、質量範囲600〜2000m/zにおいて、陽イオンモード中で、脱溶媒和温度120℃及びソース温度80℃を使用して得られる。MSデータが7〜50分に得られる。
【0071】
実施例7
直接注入によるIdeS切断抗体の糖分析
サイズ排除クロマトグラフィー:
実施例2〜5の1つの方法を用いて得られる45μg(90μl)のIdeS切断免疫グロブリンを、2%ギ酸、40%アセトニトリルを用いて平衡化したSephadex G25セルフパックECO SRカラム(5×250mm)(KronLab)上に流速0.5ml/分で30分間にわたり注射する。タンパク質を、2%ギ酸、40%アセトニトリルを用いた流速1ml/分での8分間のイソクラティック溶出を使用して脱塩する。脱塩タンパク質の溶出をUV(280nm)により記録する。サンプルを、分画コレクターを介して、マイクロタイタープレート中に回収する。マイクロタイタープレートをTriversaNanoMate(Advion)システム中に挿入することができる。MSスペクトルを自動的に記録する。又は、サンプルを金属コートガラスニードル(Proxeon Biosystems Nano ESI-needles, cat# ES387)中に手動でピペッティングし、マススペクトロメーター中にスプレーすることができる。
【0072】
QTOF II機器(Micromass/Waters)での直接注入についてのMSパラメーター:
MSスペクトルが、キャピラリー電圧800V、コーン電圧33Vを使用して、質量範囲600〜2000m/z(グリコシル化Fcフラグメント)において、陽イオンモード中で、脱溶媒和温度120℃及びソース温度80℃を使用して得られる。MSデータが約2分にわたり得られる。
【0073】
実施例8
マウスIgG3免疫グロブリンの糖分析
本発明の方法が、この実施例に例示されており、マウスIgG3免疫グロブリンを伴う。この免疫グロブリンは2つのグリコシル化部位(1つがFabフラグメント中及び1つがFcフラグメント中)を有する。
【0074】
IdeS消化及び還元マウスIgG3免疫グロブリンのクロマトグラムを図4に示す。ヒンジ領域中のOグリコシル化を伴う重鎖Fabフラグメントのマススペクトルのズームを図5に示すのに対し、Nグリコシル化部位を伴う重鎖Fcフラグメントのマススペクトルのズームを図6に示す。図7には、Oグリコシル化トリプシンペプチドのデコンボリューションマススペクトルが、グリコシル化パターンを伴い示される。
【0075】
実施例9
ヒト化IgG4免疫グロブリンの糖分析
本発明の方法が、この実施例において例示されており、ヒト化免疫グロブリンがヒトIgG4免疫グロブリン定常領域を含む。この免疫グロブリンは、Fcフラグメント中に1つのNグリコシル化部位を有する。
【0076】
IdeS消化ヒト化IgG4免疫グロブリンのクロマトグラムを図8に示す。Nグリコシル化部位を伴う重鎖Fcフラグメントのマススペクトルのズームを図9に示す。
【0077】
実施例10
ヒト化IgG1免疫グロブリンの糖分析
本発明の方法が、この実施例において例示されており、ヒト化免疫グロブリンがヒトIgG1免疫グロブリン定常領域を含む。この免疫グロブリンは、Fcフラグメント中に1つのNグリコシル化部位を有する。
【0078】
IdeS消化ヒト化IgG1免疫グロブリンのクロマトグラムを図10に示す。Nグリコシル化部位を伴う重鎖Fcフラグメントのマススペクトルのズームを図11に示す。
【0079】
実施例11
培養上清からのヒト化IgG1免疫グロブリンの糖分析
本発明の方法が、この実施例において例示されており、ヒト化免疫グロブリンがヒトIgG1免疫グロブリン定常領域を含み、それにより分析のためのサンプルが、さらなる精製なしに培養の培養上清から直接的に得られた。この免疫グロブリンは、Fcフラグメント中に1つのNグリコシル化部位を有する。この実施例は、真核細胞の培養の間にグリコシル化をモニタリングするためのオンラインツールとして本発明の方法を使用することが可能であることを示す。
【0080】
培養上清からのIdeS消化サンプルのクロマトグラムを、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製されたサンプルと比較し、図12に示す。重鎖Fcフラグメントがクロマトグラムの同じ点で溶出されることを見ることができる。プロテインA精製サンプルのクロマトグラムは、免疫グロブリンの軽鎖を含まない。なぜなら、軽鎖は、プロテインAクロマトグラフィーの間に除去されるからである。
【0081】
実施例12
ヒト化IgG1のFabフラグメントの産生
10mgの免疫グロブリンを、50mM TRIS/HCl緩衝液(pH8.0)中で最終濃度1mg/mlに希釈し、18μl(c=11.3mg/ml)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS、MW 345890Da)を加えて、酵素に免疫グロブリンの重量比1:50を与える。溶液を、0.5〜2時間にわたり37℃で撹拌しながらインキュベートする。IdeSを用いたインキュベーションの直後、プロテインAカラムクロマトグラフィーを、プロテインAHPハイトラップカラムを使用して実施した。緩衝液Aはリン酸緩衝食塩水(pH7.4)であった。緩衝液Bは、流速1ml/分を伴う100mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.8)であった。Fabフラグメントがカラムのフロースルーから得られるのに対し、Fcフラグメントは緩衝液Bを用いた溶出により得られる。得られる分画は、サイズ排除クロマトグラフィーにより決定された場合、純度84%〜95%を有する。Superdex75HighLoad16/60カラム(容積120ml)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを使用したさらなる精製工程を実施することができる。緩衝液として、20mMのリン酸ナトリウム緩衝液(140mMの塩化ナトリウムを伴う)(pH6.0)を流速1ml/分で使用した。図15から見られる通り、本来の完全抗体が、そのFabフラグメントに変換されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンあるいはこれらの変異体のグリコシル化パターンの決定のための方法であって、以下の工程:
a)酵素IdeSを用いた酵素消化により該免疫グロブリンをフラグメントに切断すること、
b)酵素消化により得られる該免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること、
c)工程b)において得られる該免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメトリー分析に供すること、及び
d)該免疫グロブリンのグリコシル化パターンを、工程c)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む、方法。
【請求項2】
サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンのFabフラグメントのグリコシル化パターンの決定のための方法であって、以下の工程:
a)酵素IdeSを用いた酵素処理により該免疫グロブリンをフラグメントに切断すること、
b)工程a)の酵素消化された該免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること、
c)得られる該免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーにより分離すること、
d)工程b)において得られる該免疫グロブリンの分離フラグメントを、マススペクトロメーター中への直接注入によるマススペクトロメトリー分析に供すること、及び
e)該Fabフラグメントのグリコシル化パターンを、工程c)において得られるマススペクトロメトリーデータから決定すること
を含む、方法。
【請求項3】
サブクラスIgG1又はIgG2又はIgG4のヒト又はヒト化免疫グロブリンあるいはサブクラスIgG2a又はIgG2b又はIgG3のマウス免疫グロブリンのFabフラグメント又はFabフラグメントの産生のための方法であって、方法が以下の工程:
a)Fabフラグメント又はFabフラグメントが得られる免疫グロブリンを提供すること、
b)酵素IdeSを用いた酵素消化により該免疫グロブリンをFabフラグメント及びHC−FCフラグメントに切断すること、
c)Fabフラグメントが産生される場合、工程b)の酵素切断された該免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること、
d)b)又はc)において得られるフラグメントのプロテインAクロマトグラフィー樹脂を用いたクロマトグラフィーにより該Fabフラグメント又は該Fabフラグメントを産生すること
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項4】
以下の工程:
a)サンプルを期間にわたり保存すること、
b)酵素IdeSを用いた酵素消化により該免疫グロブリンをフラグメントに切断すること、
c)酵素消化により得られる該免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィーにより分離すること、
d)工程c)の酵素切断された該免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること、
e)得られる該免疫グロブリンのフラグメントを、逆相高速液体クロマトグラフィー又はサイズ排除クロマトグラフィーにより分離すること、
f)フラグメントの保持時間のシフトにより、工程b)〜e)を用いて処理された参照サンプルと比較して、分解産物の存在を決定すること
を含む、サンプルをモニタリングするための方法。
【請求項5】
分離工程が以下:
− 得られる免疫グロブリンのフラグメントをサイズ排除クロマトグラフィーにより脱塩すること
であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
分離工程が以下:
− 酵素IdeSを用いた酵素消化により免疫グロブリンをフラグメントに切断すること、及び、該免疫グロブリンフラグメントを、カルボキシペプチダーゼBを用いて処理すること
であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
方法が切断工程の後及び精製工程の前に以下:
− 酵素切断された免疫グロブリンを、ギ酸及び還元剤を用いて処理すること
を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
切断がpH5.5〜pH8.5の間のpH範囲で実施される、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
切断が2時間にわたり実施されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
還元剤がトリス(2−カルボキシエチル)−ホスフィンであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
IdeSの免疫グロブリン分子に対するモル比が1:25〜1:2500の間であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法。

【図2】
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【図5】
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【図9】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−517585(P2012−517585A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548608(P2011−548608)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000710
【国際公開番号】WO2010/089126
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(506153815)ロシュ グリクアート アクチェンゲゼルシャフト (25)
【Fターム(参考)】