説明

免疫療法のための組成物および方法

感染性疾患、主として特に転移性新生物性疾患、例えば限定されないが、ヒト肉腫、癌腫および黒色腫の予防および処置のための方法および組成物が提供される。特に、疾患組織または疾患細胞の細胞表面上の特定のあるリガンドの存在によって媒介および/または指示される感染性疾患および癌の予防および処置を記載する。これらにより、該組織または細胞は免疫療法に対して感受性となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、免疫療法の分野に関する。より詳しくは、本発明は、感染性疾患、主として特に、転移性新生物性疾患、例えば限定されないが、ヒト肉腫、癌腫および黒色腫の予防および処置のための方法および組成物に関する。本発明によれば、感染性疾患および癌の予防および処置の実施は、疾患組織または疾患細胞の細胞表面上の特定のあるリガンドの存在によって媒介および/または指示され、該リガンドは該組織または細胞を免疫療法、特にナチュラルキラー(NK)細胞系療法に対して感受性にする。
【背景技術】
【0002】
腫瘍免疫学の時代は、メチルコラントレン(MCA)誘導型肉腫上の抗原が、移植アッセイにおいて、マウスの正常組織ではこの抗原が検出され得なかった点で腫瘍特異的であることを示したPrehnおよびMainの実験とともに始まった(Prehnら,J.Natl.Cancer Inst.1(1957),769 778)。この概念は、MCA誘導型腫瘍に対する腫瘍特異的抵抗性が、自発性(autochthonous)宿主、すなわち腫瘍が最初に発生したマウスにおいて誘発され得ることを示すさらなる実験によって確認された。放射線は癌療法において、単独レジメンとして、または細胞増殖抑制薬との組み合わせで放射線化学療法としてのいずれかで、高頻度に使用されている。しかしながら、照射抵抗性腫瘍クローンは、治療効率を制限している。
【0003】
ストレス誘導性熱ショックタンパク質(HSP)70は、アポトーシスに対して細胞を保護することがよく知られた分子シャペロンである(1)。HSP70の過剰発現は、種々の腫瘍で報告されており、腫瘍形成性の増強および治療抵抗性と関連していることがわかった(2)。このような知見と一致して、腫瘍細胞におけるHSP70の実験的下方調節により、動物モデルにおいて腫瘍後退が増強されることが報告された(3〜5)。しかしながら、数例の他の動物モデルでは、反対の観察結果が得られた。HSP70発現は、腫瘍後退と関連していることがわかった(6〜9)。これらの場合では、HSP70は、腫瘍の免疫原性を増大させるようであった。数多くの研究において、HSP70は、先天免疫反応および養子免疫反応を活性化させることが示されている(10,11)。HSP70は、抗原性ペプチドをシャペロン輸送し、受容体媒介型様式で、プロフェッショナル抗原提示細胞の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI提示経路内にチャネル通過させ、次いで、ペプチド特異的CTLをプライムする。したがって、腫瘍由来のHSP70調製物は、腫瘍特異的ワクチン接種に使用され得る(10,11)。HSP70はまた、先天免疫細胞からのプロ炎症性サイトカインの放出を誘発し、共刺激分子の発現を増大させる(10,11)。さらに、HSP70は、ナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、細胞表面にHSP70を発現する腫瘍細胞を特異的に死滅させることが示されている(12)。これらの特徴により、HSP70は、内因性アジュバントおよび免疫学的危険シグナルとみなされている(13,14)。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、免疫学の技術分野、ならびに疾患組織または疾患細胞の細胞表面上のNK受容体NKG2Dリガンド、例えば主要組織適合遺伝子複合体クラスI鎖関連(MIC)A分子およびB分子などの存在によって媒介および/または指示される疾患の処置に関する。特に、本発明は、ストレス誘導性内因性危険シグナルであるHSP70とMICA/Bが腫瘍に対してNK細胞を相乗的に活性化させるという驚くべき知見を利用する。
【0005】
HSP70は抗アポトーシス性であるがCTL応答を惹起し得ることが知られているため、提示された1つの疑問は、HSP70が腫瘍細胞を、CTLによって媒介されるアポトーシスから保護するかどうかに関することであった。ヒト黒色腫細胞株Geのモデルにおいて、以前に、MHC連鎖ストレス誘導性HSP70の構成的過剰発現では、顆粒エキソサイトーシス経路においてCTLによって媒介されるアポトーシスに対する防御はなされないことが示された(15)。急性的なHSP70過剰発現は、インビトロでCTLに対する感受性を増大させることすらあり得る(15,16)。免疫系は、別様式の防御的ストレス応答を受けている標的細胞を死滅させることができるようである。
【0006】
本発明の目的は、養子免疫伝達されたCTLに対するGe黒色腫細胞の感受性に対するHSP70発現のインビボでの効果を調べることであった。しかしながら、BおよびTリンパ球が欠損した重症複合免疫不全(SCID)マウスでは、HSP70過剰発現腫瘍の増殖は、いずれの養子免疫療法前であっても、対照腫瘍と比べて低減された。より印象的なことには、浸潤性の増殖および局所転移は、非HSP70過剰発現対照腫瘍を有する動物でのみ観察された。本発明によれば、驚くべきことに、ストレス誘導性危険シグナルHSP70が、SCIDマウスにおいてマウスNK細胞を、ならびにヒトNK細胞をインビトロで活性化し、これによって腫瘍細胞上の第2のストレス誘導性危険シグナルであるMHCクラスI鎖関連(MIC)A分子およびB分子が認識されることを示すことができた。MICAおよびMICB遺伝子はMHC内にコードされており、ストレス誘導性であり、腸上皮細胞および腫瘍に限定された様式で発現される(17)。MICAおよびMICBは、活性化NK受容体NKG2Dのリガンドである(18)。内因性ストレス誘導性危険シグナルであるHSP70とMICA/Bはともに、腫瘍細胞に対するNK細胞媒介型免疫応答を相乗的に惹起した。動物モデルにおいて、この2つの危険シグナル誘導型先天免疫応答によって、原発腫瘍の増殖が低減され、転移を抑制することができた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、本発明は、対象における疾患の処置のための医薬組成物の調製のためのNK細胞、好ましくは活性化NK細胞またはNK細胞の活性化因子に関し、前記疾患は、細胞表面上のNK細胞受容体NKG2Dに対するリガンドを発現するか、または該リガンドを発現するように誘導された細胞が関与する。好ましくは、前記リガンドはMHCクラスI鎖関連(MIC)AまたはBであり、前記NK細胞は、患者への投与前に活性化されるか、またはNK細胞の活性化因子、例えば、HSP70またはこれに由来するペプチドとともに投与されるように設計される。
【0008】
本発明による化合物の使用は、インターロイキン、インターフェロンまたは他の抗癌薬などのさらなる治療用薬剤の使用を伴い得る。さらに、本発明の医薬組成物は、細胞表面上の前記リガンドの発現の誘導因子、例えば、ヒストンデアセチラーゼ阻害因子、例えばトリコスタチンAまたはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)などを含み得るか、または該因子とともに投与されるように設計され得る。
【0009】
本発明のさらなる目的は、望ましくない細胞に対する免疫応答、すなわち、NK細胞の細胞溶解的攻撃を誘導および/または増強するための医薬組成物の調製のためのNKG2Dのリガンド、前記リガンドをコードする核酸分子、または細胞表面上の前記リガンドの発現の誘導因子の使用を提供することである。前記医薬組成物には、さらに、前記望ましくない細胞の細胞表面上でのHSP70の発現を誘導または増強するための薬剤を含めてもよい。
【0010】
本発明のさらなる目的は、対象における腫瘍または感染性疾患の処置のための医薬組成物の調製のためのNK細胞またはNK細胞の活性化因子の使用を提供することであり、該疾患は、細胞表面上のNKG2Dのリガンドを過剰発現する細胞を根拠に陽性と判定されている。前記NK細胞は、対象への投与前に活性化させてもよく、あるいはNK細胞の活性化因子とともに投与されるように設計される。好ましくは、前記活性化因子はHsp70のペプチドを含む。さらに、疾患細胞が実質的に細胞表面上でのHSP70の発現を欠く場合、前記細胞をまた、細胞表面上にHSP70を発現するように誘導してもよい。
【0011】
また、本発明は、NKG2Dのリガンド、前記リガンドをコードする核酸分子、または細胞表面上の前記リガンドの発現の誘導因子を、NK細胞の活性化因子、例えば、HSP70またはこれに由来するペプチドおよび/または細胞表面上でのHSP70の発現を誘導し得る薬剤との組み合わせで含む、腫瘍または感染性疾患の標的化および/または処置に有用な併用調製物に関する。
【0012】
当然、該医薬組成物は、化学療法剤などの他の薬物と組み合わせて投与してもよい。好適な化学療法剤は、当業者には公知であり、アントラサイクリン類、例えば、ダウノマイシンおよびドキソルビシン、タクソール、メトトレキサート、ビンデシン、ネオカルチノスタチン、シスプラチン(cis−platinum)、クロラムブシル、シトシンアラビノシド、5−フルオロウリジン、メルファラン、リシンおよびカリケアマイシンが挙げられる。その選択は、処置が意図される疾患に依存性であり得る。
【0013】
ほとんどの実施形態は、医学的用途との関連で記載したが、本発明の範囲、したがって添付の特許請求の範囲には、研究目的のみの細胞/組織培養方法および動物試験もまた包含されることは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、Hsp70過剰発現黒色腫細胞由来の腫瘍の増殖が遅く、局所転移が起こらないことを示す図である。Ge−Hsp70またはGe−con細胞をSCIDマウスの側腹に皮下注射した(PBS中1×10細胞/動物)。腫瘍増殖が観察されたSCIDマウスの腫瘍の大きさの平均±SD。
【図2】図2は、Ge−Hsp70およびGe−con細胞の増殖およびアポトーシス速度は、インビトロで異ならないことを示す図である。Aは、Ge−con(Ge−TCR−C、Ge−GFP−B)およびGe−Hsp70(Ge−Hsp70−A、Ge−Hsp70−C)細胞のインビトロでの増殖を、[3H]−チミジン取り込みによってアッセイした。3つの独立したアッセイの代表的な実験の3連のcpmの平均±SDを示す。Bは、黒色腫細胞を、低酸素雰囲気中またはグルコース無含有培地中で24時間培養した。アポトーシス細胞の割合(DNAヒストグラムのサブG1のピークにおける細胞の%)を、フローサイトメトリーによって、処理前(pre)ならびに処理の2、24および48時間後に測定した。4つの独立した実験のアポトーシス細胞の平均+SDを示す。
【図3】図3は、NK細胞が、SCIDマウスにおけるHsp70過剰発現黒色腫細胞の増殖の低減を担うことを示す図である。Aは、脾臓中のNK細胞の割合の平均+SD。抗DX5 mAを使用した。フローサイトメトリーによって検出。Ge−conもしくはGe−Hsp70腫瘍を有するSCIDマウス、または腫瘍細胞が拒絶された(腫瘍なし)動物間で著しく異ならない。Bは、種々のエフェクター標的比における、Ge−con腫瘍を有する3匹のSCIDマウスおよびGe−Hsp70腫瘍を有する3匹のSCIDマウス由来の脾細胞によるYAC−1標的細胞の3連の特異的溶解の平均±SD。ここに示した実験は、5つの独立したアッセイの代表である。Cは、Ge−Hsp70またはGe−con細胞を、SCID/ベージュマウスの側腹に皮下注射した(PBS中1×10細胞/動物)。腫瘍増殖が観察された動物の腫瘍の大きさの平均±SD。
【図4】図4は、細胞表面にHSP70を発現しない腫瘍が、エキソソーム内でHSP70を放出すること示す図である。エキソソームは、Ge−Hsp70およびGe−con細胞から調製した。10μgのエキソソームタンパク質がSDS−PAGEによって分離され、HSP70の存在について、誘導性HSP70に特異的なmAb C92を用いたイムノブロットによって解析した。抗Rab4 Abを、エキソソームタンパク質の負荷対照として使用した。
【図5】図5は、LAK細胞が容易にMICAトランスフェクト標的細胞を溶解することを示す図である。Aは、MICAトランスフェクトL−MICA細胞および親L細胞上でのMICAおよびHSP70発現のフローサイトメトリーによる解析。MICA細胞表面発現は、抗アカゲザルMICA抗血清、ヒトMICAおよびMICBに対する2種類のモノクローナル抗体での染色によって、ならびに組換えヒトNKG2D−Fc融合タンパク質の結合によって示される。それぞれ一次試薬(黒線)およびFITC標識二次試薬のみ(破線)での染色を、非染色細胞(点線)とともに示す。抗アカゲザルMICA抗血清について、免疫前血清+二次抗体(破線)での染色を対照として示す。結果は、3つより多くの独立した実験の代表である。ともにヒトMICAおよびMICBと反応するクローンBAMO3およびIIIC1由来のハイブリドーマの上清みを使用した。抗アカゲザルMICA抗血清は、FVB/Nマウスを、トランスジェニックFVB/Nマウスに由来し、アカゲザルのMICA遺伝子を有するコスミドA158を含むMICA発現リンパ球で免疫処置することにより生成した。Bは、インビトロで4日間IL−2(100U/ml)によって刺激した同じドナー由来の新鮮単離PBMCまたはLAK細胞によるK562、LおよびL−MICA標的細胞の3連の特異的溶解の平均+SD。Cは、8つの独立した実験で測定した、PBMCまたはLAKエフェクター細胞によるK562、L−MICAおよびL標的細胞の相対溶解の平均+SD。最大エフェクター標的比(100:1)でのPBMCによるK562細胞の溶解割合を各試験において100%に調整し、種々のエフェクター:標的比でのPBMCおよびLAK細胞による種々の標的細胞の相対溶解を計算した。各細胞型について別々にANOVAによって解析したように、L−MICA細胞は、ヒトLAK細胞によって非刺激PBMCよりも有意に良好に死滅された(p=00003)が、古典的なNK標的細胞株K562は、PBMCによって、より容易に溶解された(p=0.0121)。
【図6】図6は、MICA/B発現が、細胞表面にHSP70を発現しない腫瘍において誘導されることを示す図である。Aは、Ge−conおよびGe−Hsp70由来腫瘍から単離した細胞上でのHSP70細胞表面発現のフローサイトメトリーによる解析。陽性細胞の割合を示す。図示した実験は、SCID由来の8つの腫瘍およびSCID/ベージュマウス由来の10個の腫瘍の代表である。K562細胞を陽性対照として供した。Bは、ノザンブロット解析および濃度測定により、β−アクチンに対する比として測定した、MICA、MICB、ヒトHSP70−2およびラットHsp70−1 mRNA発現の平均+SD。本発明者らは、SCIDマウス由来の18個のGe−con腫瘍および21個のGe−Hsp70腫瘍、ならびにSCID/ベージュマウス由来の16個のGe−con腫瘍および14個のGe−Hsp70腫瘍を解析した。インビトロでの該細胞株データは、7〜12の個々の実験から収集した。Cは、Ge−con由来腫瘍から単離した細胞上でのMICA/B(mAb BAMO−1)、HSP70(mAb RPN 1197)およびNKG2Dリガンド細胞表面発現のフローサイトメトリーによる解析。95%より多くのゲート(gated)細胞がヒト黒色腫細胞であり、これは、ヒトMHCクラスI分子(mAb W6/32)に対して陽性であった。上側パネルと下側パネルは、異なる個体の腫瘍に由来する。
【図7】図7は、LAK細胞がHSP70およびHSP70由来ペプチドTKDによって刺激され、MICA発現標的細胞を死滅させることを示す図である。Aは、インビトロで7日間、IL−2のみ(100U/ml)またはIL−2+組換えHSP70(2μg/ml)またはHSC70(2μg/ml)で刺激したPBMCによるL−MICA(黒記号)またはL(白記号)標的細胞の3連の特異的溶解の平均±SD。図示した実験は、3つの独立した実験の代表である。Bは、6つの独立した実験で測定した、IL−2(100U/ml)、IL−2+HSP70(2μg/ml)またはIL−2+LPS(10ng/ml)で7日間刺激したLAK細胞によるL−MICAおよびL標的の相対溶解の平均+SD。最大エフェクター標的比(50:1)でのIL−2刺激PBMCによるL−MICA細胞の溶解割合を各試験において100%に調整し、種々のエフェクター:標的比での種々のエフェクター細胞による標的細胞の相対溶解を計算した。Cは、6つの独立した実験で測定した、IL−2(100U/ml)またはIL−2+TKD(2μg/ml)で7日間刺激したLAK細胞によるL−MICAおよびL標的の相対溶解の平均+SD。
【図8】図8は、NK細胞がHSP70由来ペプチドTKDによって刺激され、MICA発現標的細胞を死滅させることを示す図である。Aは、PBMC(MACS分離前)およびNK細胞富化(NK)ならびにNK細胞枯渇(NK)細胞集団のフローサイトメトリーによる解析。7つの独立した実験のマーカー陽性細胞の割合の平均+SDを示す。Bは、IL−2(100U/ml)またはIL−2+TKD(2μg/ml)によりインビトロで5日間刺激した単離NK細胞(NK)またはNK細胞枯渇PBMC(NK)によるL−MICAおよびL標的細胞の3連の特異的溶解の平均±SD。図示した実験は、NKの3つの実験およびエフェクター細胞としてのNK細胞の7つの実験の代表である。Cは、7つの独立した実験で測定した、IL−2(100U/ml)またはIL−2+TKD(2μg/ml)で5日間刺激したNK細胞によるL−MICAおよびL標的の相対溶解の平均+SD。
【図9】図9は、Ge−conおよびGe−Hsp70黒色腫細胞でのMICA/Bの誘導により、LAK細胞媒介型細胞傷害性に対する感受性が増大することを示す図である。Aでは、HSP70(mAb RPN 1197)、MICA/MICB(mAb BAMO1)、およびNKG2Dリガンド(ヒトまたはマウスNKG2D−IgG−Fc融合タンパク質)の細胞表面発現に対するGe−con細胞のフローサイトメトリーによる解析を行なった。細胞は、標準条件下で培養する(co)か、または試験前に20時間10μMのSAHAに曝露するかのいずれかとした。9つの独立した実験で得たMICA/B、ヒトNKG2Dのリガンド、およびHSP70の細胞表面発現を示す細胞の平均+SD、ならびにGe−conおよびGe−HSP70細胞の平均蛍光強度(MIF)+SD。Bは、IL−2(100U/ml)で4日間刺激したPBMCによるGe−conおよびGe−Hsp70細胞の相対溶解の平均+SD。標的細胞は、標準条件下で培養する(co)か、または試験前に20時間10μMのSAHAに曝露するかのいずれかとした。最大エフェクター標的比(100:1)でのLAK細胞によるそれぞれの細胞の溶解割合を、各試験(n=4)において100%に調整し、種々のエフェクター:標的比での種々のエフェクター細胞による標的細胞の相対溶解を計算した。SAHA処理細胞は、未処理細胞よりも有意に良好に溶解された(p=0.0030、処理に対して三元配置ANOVA、標的細胞型およびエフェクター:標的比は100:1および50:1)。標的細胞型はまた、SAHA処理との組み合わせにおいても重要であったため(p=00006)、細胞型による層化ANOVAを行ない、両方の標的細胞株に対してこの結果を確認した(Ge−TCR−C:p=0.0075およびGe−Hsp70−A:p=0.0045)。
【図10】図10は、NK細胞のHSP70ペプチドTKD処理と、Ge−con標的細胞におけるMICA/B誘導との併用により、死滅が相乗的に増大されることを示す図である。これは、TKDでの刺激後、増大量のグランザイムBの発現のためである可能性がある。Aは、TKD(2μg/ml)を併用して、または併用せずにIL−2(100U/ml)とともに、またはなしで5日間培養したNK細胞によるGe−con標的細胞の3連の特異的溶解の平均±SD。標的細胞は、標準条件下で培養する(co)か、または試験前に20時間10μMのSAHAに曝露するかのいずれかとした。Bは、4つの独立した実験で測定した、TKD(2μg/ml)を併用して、または併用せずにIL−2(100U/ml)で5日間刺激したNK細胞によるGe−con細胞の相対溶解の平均+SD。標的細胞は、標準条件下で培養する(co)か、または試験前に20時間10μMのSAHAに曝露するかのいずれかとした。Cは、IL−2(100U/ml)またはIL−2(100U/ml)+TKD(2μg/ml)との5日間の培養前(NK)および培養後のMACS富化NK細胞のフローサイトメトリーによる解析。7つの独立した実験のマーカー陽性細胞の割合の平均+SDを示す。Dは、細胞内染色後、フローサイトメトリーによって測定した、5つの独立した実験のグランザイムBの平均蛍光強度(MFI)+SDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、原発性および転移性新生物性疾患および感染性疾患の研究、予防および処置のため、および哺乳動物、特にヒト個体の所望の標的細胞に対して免疫応答を惹起するための方法および組成物に関する。特に、本発明の一態様によれば、対象における疾患の処置のための医薬組成物の調製のためのNK細胞またはNK細胞の活性化因子の使用が提供され、前記疾患は、細胞表面上のNK細胞受容体NKG2Dに対するリガンドを発現するか、または該リガンドを発現するように誘導された細胞が関与する。
【0016】
本発明は、腫瘍の免疫原性を増大させてCTL応答を誘導し得る内因性危険シグナルとして機能を果たすことが公知であるストレス誘導性熱ショックタンパク質(HSP)70が、腫瘍細胞上のストレス誘導性主要組織適合遺伝子複合体クラスI鎖関連(MIC)A分子およびB分子を認識するナチュラルキラー(NK)細胞を、活性化NK受容体NKG2Dにより活性化させることもできるという観察結果に基づく。後述する実施例に示すように、HSP70過剰発現ヒト黒色腫細胞からの腫瘍の大きさおよび転移速度は、T細胞およびB細胞欠損SCIDマウスにおいて低下したが、機能性NK細胞がさらに欠損したSCID/ベージュマウスでは低下しなかった。HSP70過剰発現腫瘍におけるMICA/B発現に対する対抗選択は、SCIDマウスにおいて観察されたが、SCID/ベージュマウスでは観察されなかった。腫瘍由来HSP70は、MICA/B発現腫瘍細胞を死滅させると思われるSCIDマウスにおいてNK細胞を活性化させることができた。この動物モデルにおける観察結果に従い、完全長HSP70およびHSP70由来ペプチドは、インビトロでヒトNK細胞を活性化し、MICA/B発現を薬理学的手段によって誘導させたMICAトランスフェクト標的細胞および黒色腫細胞を死滅させることができた。したがって、2つのストレス誘導性危険シグナルであるHSP70とMICA/Bの相乗作用的活性によってNK細胞の活性化増強がもたらされ、腫瘍増殖の低減および転移の抑制がもたらされる。
【0017】
NK細胞およびHSP70は、それぞれ、感染性疾患の対処にも関与することが公知であるため、本発明は、腫瘍および感染性疾患に対して実施され得る。したがって、原則的には本発明により、細胞表面上にNKG2Dリガンドを発現する所望の細胞または望ましくない細胞を作製することにより、任意の標的細胞が免疫療法に対して感受性となり得る。
【0018】
「NK細胞」は、本明細書で用いる場合、典型的には、細胞表面マーカーとして発現されたCD16および/またはNCAMおよび/またはCD56分子を有するがCD3を発現しないリンパ球、好ましくはヒト起源のリンパ球をいう。NK細胞は、哺乳動物のインビボで存在する細胞またはインビトロで精製細胞集団の形態で存在する細胞をいう。NK細胞活性化剤」または「NK細胞の活性化因子」は、本明細書で用いる場合、哺乳動物の癌細胞またはウイルス感染細胞の休止(または未処置)NK細胞の細胞溶解活性を増強または増大させることができる薬剤をいう。かかる薬剤としては、限定されないが、1種類以上のToll受容体を活性化させる薬剤、例えば、グランザイムAまたはグランザイムB、種々のインターロイキン、例えばIL−2、IL−12 IL−15など、およびインターフェロン、例えばIFN−α、IFN−βなどが挙げられる。
【0019】
NK細胞受容体NKG2Dの(に対する)リガンドは、当業者には周知であり、例えば、MICA、MICB、およびUL16結合タンパク質ファミリーの構成員(ULBP)1〜4が包含される;例えば、Frieseら、Cancer Research 63(2003)、8996−9006を参照のこと。NKG2D受容体のヒトリガンドであるULBPもまた特徴付けされており、Sutherlandら、Blood 108(2006)、1313−1319に記載されている。また、国際特許出願WO2005/080426には、UL16およびNKG2D受容体に高い親和性で結合するRAET1/ULBPタンパク質ファミリーの新規な構成員(RAET1G)が記載されている。
【0020】
さらに、NKG2D細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体などの人工リガンドを使用してもよい。例えば、国際特許出願WO02/068615を参照のこと。これには、とりわけ、人工的に操作された細胞集団を含むNKG2D受容体を発現する細胞を刺激するための抗NKG2D抗体およびリガンド誘導体の使用が記載されている。これに関連して、本発明によれば、標的細胞は、所与の細胞が本発明の処置および使用に対して感受性となるように、NKG2Dの天然または人工リガンドを新たに、または誘導/増強レベルでのいずれかで発現するように遺伝子操作されてもよいことは理解されよう。
【0021】
用語「処置」、「処置すること」などは、本明細書では、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを一般的に意味するために用いる。該効果は、疾患もしくはその症状を完全にまたは一部防ぐ点から予防的であり、ならびに/あるいは疾患および/もしくは疾患に起因する有害効果が完全にまたは一部治癒する点から治療的であり得る。用語「処置」は、本明細書で用いる場合、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患の素因を有する可能性があるがまだ該疾患を有すると診断されていない対象において該疾患が発症するのを予防すること;(b)疾患を抑止すること、すなわち、その進行を停止させること;または(c)疾患を軽減させること、すなわち、該疾患の後退をもたらすことが挙げられる。
【0022】
さらに、用語「対象」は、本明細書で用いる場合、免疫療法、例えば、新生物性または感染性疾患の改善、処置および/または予防を必要とする動物に関する。最も好ましくは、前記対象はヒトである。
【0023】
本発明の医薬組成物は、当該技術分野でよく知られた方法に従って製剤化され得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照のこと。好適な医薬用担体の例は、当該技術分野でよく知られており、リン酸緩衝生理食塩溶液、水、エマルジョン、例えば油/水エマルジョンなど、種々の型の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。かかる担体を含む組成物は、よく知られた慣用的な方法によって製剤化され得る。このような医薬組成物は、対象に適当な用量で投与され得る。適当な組成物の投与は、種々の様式によって、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所的または皮内投与によって行なわれ得る。エーロゾル製剤、例えば経鼻スプレー製剤などには、活性薬剤の精製水溶液または他の溶液が、保存剤および等張剤とともに含まれる。かかる製剤は、好ましくは、鼻の粘膜と適合するpHと等張性状態に調整される。経直腸または経膣投与のための製剤は、適当な担体を有する坐剤として提示され得る。
【0024】
投薬レジメンは、主治医および臨床因子によって決定される。医学分野でよく知られているように、任意のある患者に対する投薬量は、多くの要素、例えば、患者の体格、体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、投与の期間および経路、一般健康状態、ならびに同時に投与される他の薬物に依存する。典型的な用量は、例えば、0.001〜1000μgの範囲内(この範囲内での発現もしくは発現の阻害のための核酸)であり得る。しかしながら、特に上記の要素を考慮して、この例示的な範囲より下または上の用量も想定される。一般的に、医薬組成物の規則的な投与としてのレジメンは、1μg〜10mg単位/日の範囲内であるのがよい。レジメンが連続注入である場合でも、それぞれ、1μg〜10mg単位/キログラム体重/分の範囲内であるのがよい。進行は、定期的な評価によってモニターされ得る。
【0025】
非経口投与のための調製物には、滅菌された水溶液または非水溶液、懸濁液およびエマルジョンが含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物性油、例えばオリーブ油など、および注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルなどである。水性担体としては、水、アルコール性/水性の溶液、エマルジョンまたは懸濁液、例えば、生理食塩水および緩衝媒体が挙げられる。非経口用ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液または固定油が挙げられる。静脈内用ビヒクルとしては、体液および栄養分補給物質、電解質補給物質(リンゲルデキストロース系のものなど)などが挙げられる。また、保存剤および他の添加剤、例えば、抗菌薬、抗酸化剤、キレート試薬および不活性ガスなどを存在させてもよい。さらに、本発明の医薬組成物の意図される用途に応じて、該医薬組成物にインターロイキンまたはインターフェロンなどのさらなる薬剤を含めてもよい。さらに、例えば、本発明の医薬組成物に受動免疫処置のためのNKG2Dのリガンドが含まれる場合、医薬組成物はワクチンとしても製剤化され得る。
【0026】
また、他の薬剤の共投与または逐次投与が望ましいことがあり得る。治療有効用量または治療有効量は、症状または病状が改善されるのに充分な活性成分の量をいう。かかる化合物の治療有効性および毒性は、細胞培養物または実験動物での標準的な製薬手順によって、例えば、ED50(集団の50%において治療上有効な用量)およびLD50(集団の50%に対して致死性の用量)によって決定され得る。治療効果と毒性効果との用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比で示され得る。
【0027】
本発明による医薬組成物は、免疫応答障害に関連する疾患の処置、好ましくは感染性疾患、敗血症、糖尿病の処置、または腫瘍の処置のために使用され得る。好ましくは、処置される腫瘍は、婦人科腫瘍、例えば前立腺腫瘍など、神経膠芽腫、髄芽腫、星状細胞腫、未分化神経外胚葉性腫、脳幹神経膠腫癌、結腸癌、気管支の癌、扁平上皮癌、肉腫、黒色腫、結腸、頚部または膵臓の癌、頭部/首部の癌、T細胞リンパ腫、B細胞リンパ腫、中皮腫、白血病、黒色腫、婦人科腫瘍、例えば前立腺など、および髄膜癌腫(meningeoma)からなる群より選択される。
【0028】
上記および後の実施例に示すように、本発明の基礎をなす概念は、MHCクラスI鎖関連(MIC)AとBをそれぞれ、NKG2Dのリガンドとして用いて確認した。したがって、MICA/Bまたは機能的に等価な分子は、本発明に従って使用される好ましいリガンドである。
【0029】
ヒトMHCクラスIポリペプチド関連配列A(MICA)のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は、先行技術に示されており、GenBankなどの公的データベースで容易に検索することができる。例えば、GenBank受託番号XM_001124652(NM_000247)および、例えば、VernetらによるImmunogenetics 38(1993),47−53などの刊行物を参照のこと。同様に、MICBのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列も、公的に入手可能である。例えば、GenBank受託番号NM_005931およびBC044218ならびに例えば、BahramらによるProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91(1994),6259−6263;Immunogenetics 45(1996),161−162;ならびにImmunogenetics 43(1996),230−233などの刊行物を参照のこと。
【0030】
対象由来の試料において、MICポリペプチド、MICAもしくはMICBのいずれかまたは両方の存在を調べるための手段および方法は、当業者には周知である。例えば、国際特許出願WO03/089616を参照のこと。このような方法は、本発明の医学的用途、例えば、疾患細胞上のMICポリペプチドについてアッセイすることにより対象において癌を検出すること、および次いで、本明細書に記載の癌療法剤を投与することを伴う癌療法のために実施され得る。
【0031】
前記NK細胞は、患者への投与前に活性化させてもよく、NK細胞の活性化因子とともに投与されるように設計されてもよい。好ましくは、前記活性化因子は、Hsp70のペプチドを含み、これは、後の実施例で、この目的に最も有効であることが示された。さらに、Hsp70タンパク質またはその断片の使用によるNK細胞の活性化方法、およびそのようにして得られる生成物の医学的適用、例えば、Hsp70タンパク質もしくはその断片または活性化NK細胞を含有する調合薬、医薬品または医薬用アジュバントなどが、国際特許出願WO99/49881に記載されている。さらに、Hsp70タンパク質由来の免疫調節ペプチドおよびNK細胞活性の刺激のためのかかるペプチドの使用が、国際特許出願WO02/22656に開示されている。本発明の特に好ましい実施形態において、NK活性化剤は、実質的にアミノ酸配列TKDNNLLGRFELSG(配列番号:5)からなるHSP70ペプチドである。後の実施例も参照のこと。
【0032】
本発明の医薬組成物は、さらなる免疫調節性の薬剤、好ましくは、IL−2および/またはIL−15などのインターロイキンとともに投与され得る。実施例に示すように、インターロイキンIL−2の使用は、悪性細胞の処置のために免疫細胞を活性化させるのに好都合であり、したがって好ましく使用される。
【0033】
本発明の範囲において行なった実験によって、さらに、Ge黒色腫細胞においてNKG2Dのリガンド、すなわちMICA/Bの発現を薬理学的に誘導すると、これらは、HSP70活性化型ヒトNK細胞の標的となり得ることが明らかになった。後の実施例9を参照。したがって、本発明の医薬組成物は、好ましくは、細胞表面上のNKG2Dのリガンドの発現の誘導因子を含むか、または該誘導因子とともに投与されるように設計される。好ましくは、前記誘導因子はヒストンデアセチラーゼ阻害因子、例えば、実施例で使用したトリコスタチンAまたはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)である。しかしながら、細胞表面上のNKG2Dのリガンドの発現の他の誘導因子、例えば、バルプロ酸ナトリウム(Armeanuら,Cancer Res.65(2005),6321)、電離放射線、マイトマイシンC、ヒドロキシ尿素、5−フルオロウラシル(fluoruracil)、アフィジコリン、クロロキン(Gasserら Nature 463(2005),1186)も同様に使用され得る。
【0034】
さらに、NKG2Dのリガンドは、NK細胞によって媒介される細胞溶解的攻撃の標的認識構造として提供され得る。したがって、さらなる実施形態において、本発明は、望ましくない細胞に対するNK細胞の細胞溶解的攻撃を誘導および/または増強するための医薬組成物の調製のための、NKG2Dのリガンド、前記リガンドをコードする核酸分子、または細胞表面上の前記リガンドの発現の誘導因子の使用に関する。前記NK細胞は、対象への投与前に活性化させてもよく、あるいはNK細胞の活性化因子とともに投与されるように設計される。好ましくは、前記活性化因子はHsp70のペプチドを含む。前掲参照。さらに、疾患細胞が実質的に細胞表面上でのHSP70の発現を欠く場合、前記細胞を、細胞表面上にHSP70を発現するように誘導してもよい。
【0035】
したがって、前記医薬組成物は、さらに、前記望ましくない細胞の細胞表面上でのHSP70の発現を誘導または増強するための薬剤を含み得る。
【0036】
さらに、前記医薬組成物は、免疫応答を増強する少なくとも1種類の化合物をさらに含むか、またはかかる化合物とともに投与されるように設計され得る。また、前掲も参照のこと。好ましくは、処置対象の前記望ましくない細胞は、腫瘍細胞または感染細胞である。すでに先に記載のように、前記医薬組成物は、望ましくない細胞がNK活性化剤に曝露される前、曝露中または曝露後に投与されるように設計され得る。
【0037】
本明細書において先に記載のように、疾患細胞または疾患組織の細胞表面上に発現されたNKG2Dのリガンドは、NK細胞の細胞溶解的攻撃の有効な標的化のための新規な認識構造を提供する。細胞溶解的攻撃に対する腫瘍細胞上でのHSP70と該リガンド、すなわちMICA/Bの存在の相乗作用効果が観察されたため、細胞表面上で該クラスの分子の発現/存在をともに示す細胞および組織は好ましい標的細胞であるが、NKG2Dのリガンドの存在だけで、望ましくない細胞/所望の細胞をNK細胞の細胞溶解的攻撃に対して感受性にするのに既に充分である。
【0038】
したがって、本発明の使用、方法および医薬組成物は、細胞表面上でのHSP、例えば、HSP40、60、70、90および/または110の発現を欠き、したがって、これまで免疫療法によってアプローチがなされ得なかった、または効率的にアプローチがなされ得なかった疾患細胞の処置にもまた好適である。好ましい実施形態において、処置される細胞は、細胞表面上でのHSP70の発現を実質的に欠いていることを特徴とする。
【0039】
このような状況下、疾患細胞または疾患組織もしくは疾患臓器と関連する細胞の細胞表面上でのHSP、特にHSP70の発現を誘導または増強し、該細胞に対してNK細胞を相乗的に活性化させることは特に好ましい。HSP70の発現の誘導は、高体温、化学療法、放射線療法またはその任意の組み合わせによって達成され得る。また、HSP70に関連して言及した先行技術(前掲)も参照のこと。腫瘍に対する化学療法は、この疾患に非常に多くの異なる形態が存在するため種々である。処置は、単独抗癌薬物療法、すなわち単独薬剤での化学療法に依存し得るか、またはいくつかの異なる抗癌薬との併用化学療法を含み得る。かかる薬物は癌細胞を、急速な増殖および分裂を妨げることにより崩壊させる。本発明の好ましい実施形態では、前記細胞傷害的アプローチによりアポトーシスが誘導される。細胞の内在的死滅プログラムであり組織恒常性の重要な調節因子であるアポトーシスに関する概要は、例えば、FuldaおよびDebatin,Curr.Med.Chem.Anti−Canc.Agents 3(2003),253−262に示されている。国際特許出願WO03/086383には、腫瘍/感染細胞の細胞表面上でのHSP70発現の誘導による腫瘍、細菌感染もしくはウイルス感染の処置のための医薬組成物の調製のための、細胞内タンパク質凝集を誘導し得る薬物、特にビンクリスチンおよびパクリタキセルの使用が記載されている。これらの薬物は抗腫瘍剤であるため、この実施形態は、相乗作用効果を奏するはずである併用療法のさらなる利点を提供する。
【0040】
したがって、本発明ではまた、細胞傷害性の第2の薬剤の活性に対して腫瘍細胞を感作させるための、記載された医薬組成物の使用が想定される。この実施形態により、他の場合ではあまり有効でないか、さらには全く有効でない化学療法剤の有効性が改善されるレジメンが可能になる。したがって、本発明はまた、化学療法薬、γ−照射およびデス受容体、例えばCD95などの誘発による細胞傷害性のアプローチ、例えばアポトーシス誘導などの活性に対して、腫瘍細胞および感染細胞を感作させるための上記の医薬組成物の使用に関する。また、前掲も参照のこと。特に、本発明は、化学療法剤の活性に対して腫瘍細胞、特に、細胞表面上のNKG2Dに対する/NKG2Dのリガンド、特にMICA/Bおよび/またはHSP、好ましくはHSP70の存在について陽性と判定された細胞を感作させるための医薬組成物に関する。同様のアプローチが、疾患組織または疾患細胞の細胞表面上での抗アポトーシス性のBcl−2関連アタノジーン(athanogene)(Bag)ファミリーの構成員、特に、Bag4およびHSPの存在および共局在に関して、特に、使用される化学療法剤に関して国際特許出願WO2005/054868に記載されており、その開示内容は、引用により本明細書に組み込まれる。免疫原性特性を有する抗原提示細胞および膜小胞を感作させるための別の方法、ならびにインビトロまたはインビボで抗原を媒介および提示するためのその使用、ならびに癌、感染性疾患、寄生虫病または自己免疫疾患を処置するための方法または組成物が、特にWO99/03499に記載される。
【0041】
他の併用療法は、例えば、サイトカイン、インターロイキンまたは好ましくはグランザイムBの使用を含み得る。特に、グランザイムBは、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染症または炎症性疾患の処置に最も有効であることが示されており、この場合、腫瘍細胞または前記感染もしくは炎症に冒された細胞は、その細胞表面上にHsp70を発現する。国際特許出願WO2004/018002および後の実施例10を参照のこと。
【0042】
本明細書に記載の知見をさらに、誘導性NKG2Dリガンドを発現する腫瘍に対するマウスNK細胞の活性が熱ショックタンパク質HSP70によって促進されることが実証されたマウスモデルを用いて確認した。Elsnerら,J.Immunol.179(2007),5523−5533を参照のこと。これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0043】
本明細書において先に記載し、後の実施例に例証した知見に基づき、本発明はまた、NKG2Dのリガンド、前記リガンドをコードする核酸分子または本明細書において先に定義した誘導因子を、NK活性化剤および/または細胞表面上でのHSP70の発現を誘導し得る薬剤との組み合わせで含む併用調製物に関する。例えば、一実施形態において、該調製物は、ヒストンデアセチラーゼ阻害因子とHSP70ペプチドを含み得る。
【0044】
本発明は、さらに、対象に、治療有効量の上記の医薬組成物の任意の1種類を投与すること、および/または上記の薬物療法計画を適用することを含む、本明細書において定義した疾患と関連する望ましくない状態を有する対象の処置方法を提供する。記載のように、原則的には、免疫療法に対して感受性である任意の疾患、最も顕著なものの例を挙げると、感染性疾患、ウイルス疾患、癌などが、本発明の薬物療法に従って処置され得る。
【0045】
本発明の方法によって処置または予防され得る感染性疾患は、感染性因子、例えば限定されないが、ウイルス、細菌、真菌、原生動物および寄生虫によって引き起こされる。本発明の方法によって処置または予防され得る細菌性疾患は、細菌、例えば限定されないが、マイコバクテリア リケッチア、マイコプラスマ、ナイセリアおよびレジオネラによって引き起こされる。本発明の方法によって処置または予防され得る原生動物疾患は、原生動物、例えば限定されないが、リーシュマニア、コクジジオア(kokzidioa)、およびトリパノソーマによって引き起こされる。本発明の方法によって処置または予防され得る寄生虫疾患は、寄生虫、例えば限定されないが、クラミジアおよびリケッチアによって引き起こされる。
【0046】
本発明の方法によって処置または予防され得るウイルス疾患としては、限定されないが、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、インフルエンザ、水痘、アデノウイルス、単純疱疹I型(HSV−I)、単純疱疹II型(HSV−II)、牛疫、ライノウイルス、エコーウイルス、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、乳頭腫ウイルス、パポーバウイルス、サイトメガロウイルス、エキノ(echino)ウイルス、アルボウイルス、フンタ(hunta)ウイルス、コクサッキー(coxsachie)ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、ヒト免疫不全ウイルスI型(HIV−I)、およびヒト免疫不全ウイルスII型(HIV−II)によって引き起こされるものが挙げられる。
【0047】
本発明の方法によって処置または予防され得る癌としては、限定されないが、ヒト肉腫および癌腫、例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、頭部/首部の癌、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、ヘパトーム、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、頚部癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、神経膠芽腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、脳室上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、網膜芽腫;白血病、例えば、急性リンパ性白血病および急性骨髄性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性および赤白血病);慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球性)白血病および慢性リンパ性白血病);ならびに真性赤血球増加症、リンパ腫(ホジキン病および非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ならびに重鎖病が挙げられる。
【0048】
具体的な実施形態では、癌は転移性である。別の具体的な実施形態では、癌を有する対象は、本発明の組成物の投与前に抗癌療法(例えば、化学療法放射線)を受けたという理由で免疫抑制されている。
【0049】
これらおよび他の実施形態は、本発明の説明および実施例によって開示および包含される。本発明に従って使用される材料、方法、使用および化合物のいずれか1つに関するさらなる文献は、例えば電子デバイスを用いて、公共の図書館およびデータベースから検索され得る。例えば、公的データベース「Medline」が利用され得、このホストは、国立生物工学情報センターおよび/または米国立衛生研究所のアメリカ医学図書館である。さらなるデータベースおよびウェブアドレス、例えば欧州分子生物学研究所(EMBL)の一部門である欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)のものなどは、当業者には公知であり、また、インターネット検索エンジンを用いて入手することもできる。バイオテクノロジーにおける特許情報の概観ならびに回顧的検索およびカレント・アウェアネス(current awareness)に有用な関連特許情報源の調査は、Berks,TIBTECH 12(1994),352−364に示されている。
【0050】
上記の開示は、本発明を一般的に記載する。以下の具体的な実施例を参照することにより、より完全な理解を得ることができよう。いくつかの文献を、場合によっては、括弧書きで番号を引用して本明細書の本文中に挙げている。すべての引用書誌は、本明細書の最後、特許請求の範囲の直前を見るとよい。引用したすべての参考文献(例えば、本出願書類中に引用した参照文献、発行済特許、公開された特許出願および製造業者の仕様書、使用説明書など)の内容は、引用により明示的に本明細書に組み込まれる。しかしながら、引用した文献が、本発明に関する先行技術であることを自認するものではない。
【実施例】
【0051】
以下の実施例によって本発明をさらに説明するが、なんら本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。本明細書において使用されたものなどの慣用的な方法の詳細な説明は、引用した文献を見るとよい。また、“The Merck Manual of Diagnosis and Therapy”第17版、BeersおよびBerkow編(Merck&Co.,Inc.2003)も参照のこと。
【0052】
本発明の実施には、特に記載のない限り、当該技術分野における技能の範囲内である細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の慣用的な手法が使用される。本明細書に挙げたすべての参考文献は、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0053】
分子遺伝学および遺伝子操作における方法は、現行版のMolecular Cloning:A Laboratory Manual(Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press);DNA Cloning,第I巻および第II巻(Glover編,1985);Oligonucleotide Synthesis(Gait編,1984);Nucleic Acid Hybridization(HamesおよびHiggins編 1984);Transcription And Translation(HamesおよびHiggins編 1984);Culture Of Animal Cells(FreshneyおよびAlan,Liss,Inc.,1987);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(MillerおよびCalos編);Current Protocols in Molecular Biology and Short Protocols in Molecular Biology,第3版(Ausubelら編);ならびにRecombinant DNA Methodology(Wu編,Academic Press)。Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(MillerおよびCalos編,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Methods In Enzymology,第154巻および第155巻(Wuら編);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);学術論文Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(MayerおよびWalker編,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,第I〜IV巻(WeirおよびBlackwell編,1986)に一般的に記載されている。本開示において言及した遺伝子操作のための試薬、クローニングベクターおよびキットは、BioRad、Stratagene、InvitrogenおよびClontechなどの市販の販売元から入手可能である。細胞培養および培地回収における一般的な手法は、Large Scale Mammalian Cell Culture(Huら,Curr.Opin.Biotechnol.8(1997),148);Serum−free Media(Kitano,Biotechnology 17(1991),73);Large Scale Mammalian Cell Culture(Curr.Opin.Biotechnol.2(1991),375);およびSuspension Culture of Mammalian Cells(Birchら,Bioprocess Technol.19(1990),251);Extracting information from cDNA arrays,Herzelら,CHAOS 11(2001),98−107に概略が示されている。
【0054】
実験手順
動物実験
SCID(C.B−17/Ztm−scid)マウスとSCID/ベージュ(C.B−17/IcrHsd−scid−bg)マウスを、個々に換気孔を設けたケージ内で病原体なしの状態下、そのままの群で繁殖させた。SCIDマウスは、初めにH.J.Hedrich博士(Medizinische Hochschule Hannover,Germany)から入手し、SCID/ベージュマウスは、Harlan Winkelmann(Borchen,Germany)から入手した。ケージ、床敷きおよび水はオートクレーブ処理し、殺菌処理した実験用齧歯類飼料を与えた。すべての操作は、層流フードを使用した無菌条件下で行なった。ELISAを用いて血清免疫グロブリンを測定することにより漏出性の(leaky)マウスを除外した後、12〜20週齢の雌および雄のマウスを実験に使用した。動物実験はすべて、地方自治体によって承認されたものであり、動物愛護機関のガイドラインに従った。腫瘍細胞(100μlのPBS中1×10)をマウスの側腹内に皮下注射した。腫瘍の増殖を触診によって2日毎にモニターし、大きさを線型カリパスを用いて記録した。腫瘍体積を、式V=πabc/2(式中、a、b、cは、直交する直径である)によって計算した。動物を、腫瘍体積が1cmに達する前に致死させたが、このとき、10%より大きい体重減少が起こるか、またはなんらかの痛みもしくは苦しみの行動的徴候が観察された。すべての動物について剖検を行ない、腹および胸腔を転移の存在について体系的に調べた。SCIDマウスの脾臓を取り出し、後の免疫学的解析用に細胞培養培地中に入れた。原発腫瘍の一部を遺伝子発現解析用に、液体窒素中で即座に凍結した。腫瘍組織および転移が疑われる組織をリン酸緩衝4%ホルマリン中に16時間入れ、次いで、パラフィン中に包埋した。組織切片(2.5μm)を、常套的な組織学的検査のためにヘマトキシリンとエオシンで染色し、肉眼検査の観察結果を確認した。増殖マーカーKi67の免疫組織化学的染色を既報のとおりに行なった(19)。腫瘍細胞のフローサイトメトリー解析では、腫瘍組織を小片に切断し、5mg/mlのコラゲナーゼ溶液(Sigma)中、37℃で90分間インキュベートした。単離細胞を遠心分離によって回収し、PBS中に再懸濁した後染色した。
【0055】
遺伝子発現解析
既報のとおりに、RNAを調製し、ノザンブロットを[32P]dCTP標識プローブとハイブリダイズさせた(20)。濃度測定のためにオートラジオグラフをスキャンした(Epson GT−8000 Scanner,ScanPack software,Biometra,Goettingen,Germany)。MHC連鎖ラットHsp70−1(2875〜3070位;受託番号X77207)(21)およびヒトHSP70−2遺伝子(2225〜2407位、受託番号M59830)(22)に特異的なハイブリダイゼーションプローブを、それぞれの遺伝子の3’非翻訳領域からゲノムのPCR増幅によって誘導した。エキソン2〜5(23)を含むアカゲザルMIC3遺伝子から誘導した遺伝子プローブを用いて、大きさによって識別され得るMICAとMICBの転写物を検出した。ヒトMIC遺伝子とアカゲザルMIC遺伝子の類似性は約90%であり、したがって、プローブは、ノザンブロットハイブリダイゼーションにおいて交差反応性である。ヒトβ−アクチンcDNAは、Clontech(Heidelberg,Germany)から購入した。
【0056】
標的細胞株および細胞培養
ヒト黒色腫細胞株GeであるGe−Hsp70ならびに該細胞株から誘導したGe−con亜株(クローンGe−Hsp70−A、Ge−Hsp70−C、Ge−TCR−C、およびGe−GFP−B)(15)、マウス線維芽細胞L細胞、ならびにトランスフェクトL細胞を、37℃で10%CO雰囲気中で、組織培養用ペトリ皿(Sarstedt,Nuembrecht,Germany)内の10%FCS(Biochrom,Berlin,Germany)、2mMのL−グルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、50μMの2−メルカプトエタノールおよび抗生物質(100U/mlのペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン)(Sigma)を補給したNaHCO緩衝DMEM中で維持した。ヒト赤白血病K562およびマウスリンパ腫YAC−1細胞を、同じ条件下にて懸濁細胞用ペトリ皿(Sarstedt)内に維持した。MICAとMICBの発現を誘導するため、試験前に、Ge細胞を、10μMのヒストンデアセチラーゼ阻害因子スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)を含むDMEM中で20時間培養した(24)。L細胞を、ヒトMICAに対してオーソロガスであるアカゲザル(Macaca mulatta)のMIC3遺伝子を含む30μgのコスミドA158(25)、およびジェネティシン(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)に対する耐性を付与する1μgのdsREDベクター(Clontech,Mountain View,USA)でのエレクトロポレーションによってコトランスフェクトした。ジェネティシン(geniticin)(1mg/ml)での選択後、安定なクローンを限界希釈によって確立し、特異的プライマー(5’−GCT TGC ATT CCC TCC AGG A−3’(配列番号:1)および5’−TGG ACC CTC TGC AGC TGA TGT−3’(配列番号:2)、特異的PCR産物の長さ1396bp)を用いたPCRによってコスミド存在について試験した。MICA mRNAの発現をノザンブロットによっておよび細胞表面発現をフローサイトメトリーによって解析した。4つの独立したクローンを標的細胞として、ヒトおよびアカゲザルリンホカイン活性化型キラー(LAK)細胞について試験すると結果は類似し、MICA発現がLAK細胞に対して感受性を付与することが確認された。クローンK43(L−MICA)をさらなる試験に選択した。
【0057】
Ge黒色腫細胞の増殖およびアポトーシス
Ge−Hsp70およびGe−con細胞のインビトロ増殖を、[メチル−3H]チミジン取り込みの測定によって解析した。200μlのDMEM中2×10細胞/ウェルを、細胞培養用マイクロタイタープレート(Sarstedt)に、各時点での測定(12、24、48および72時間)に対して3連で播種した。採取12時間前、1μCiの[メチル−3H]−チミジン(比活性5Ci/mmol、Amersham)を、50μlのDMEM中それぞれのウェルに添加した。3連のものは、Titertek細胞採取装置550(Flow Laboratories,Irvine,UK)を用いて採取した。取り込まれた放射能は、Wallac MicroBeta Triluxカウンターを用いた液体シンチレーション計数によって測定した。該黒色腫細胞において、アポトーシスを低酸素状態およびグルコース飢餓によって誘導した。細胞を低酸素性条件に曝露するため、ペトリ皿を、通常嫌気性細菌の培養に供されるGasPak 100システム(Becton Dickinson)内に入れた。2時間後、該システム内のO濃度は1%未満となり、CO濃度は10%に達する(Seip,W.F.およびEvans,G.L.1980.Atmospheric analysis and redox potentials of culture media in the GasPak System.J.Clin.Microbiol.11(1980),226−233)。GasPakシステムを37℃のインキュベーター内に24時間入れた。グルコース飢餓のため、該黒色腫細胞を、標準的なDMEMと同様の補給物を添加したグルコース無含有DMEM(Sigma)中で24時間培養した。DNAヒストグラムのサブG1のピークに出現したヨウ化プロピジウム陽性死細胞およびアポトーシス細胞を、既報のとおりに測定した(20)。
【0058】
エキソソームの調製およびイムノブロットブロット解析
Ge−Hsp70およびGe−con細胞株を約80%コンフルエンスまで培養した後、新鮮なDMEM中で72時間培養した。トリパンブルー排除で測定したところ、バイアビリティは>95%であった。上清みを採取し、エキソソームを既報のとおりに調製し(26)、SDS−PAGEによって解析した。Hsp70の誘導性形態に特異的な抗体(Ab)(クローンC92F3A−5,マウスIgG1,SPA−810,StressGen,Biomol,Hamburg,Germany)、およびRab4に対する抗体(sc−312,ウサギAb,Santa Cruz,Biotechnology,Santa Cruz,USA)を用いて、イムノブロッティングを行った(26)。
【0059】
組換えタンパク質
ラットHsp70−1遺伝子から誘導されるHisタグ化組換えHSP70タンパク質は、以前に報告された(20)。ラットHsc70遺伝子を、ラットリンパ球cDNAから、PCR(フォワード:5’−GGATCCATGTCTAAGGGACCTGCAGTT−3’(配列番号:3)およびリバース5’−GAATTCGACTTAATCGACCTCTTCAATGGT−3’(配列番号:4))によって増幅した。フォワードプライマーにはBamHIを、リバースプライマーにはEcoRI制限部位をこれらの5’末端に含めた。増幅産物を、BamHIおよびEcoRIによってpGEX−4T−2発現ベクター(Amersham Biosciences,Braunschweig,Germany)内にクローニングした。BamHI/SalI制限断片をこのベクターから単離し、Hisタグ化組換えタンパク質を生成するために、pQE30−1発現ベクター(Qiagen,Hilden,Germany)内に再クローニングした。この構築物を配列決定し、ミスセンス変異を排除した。大腸菌株M15(Qiagen)をこの構築物で形質転換し、Hisタグ化タンパク質の過剰発現用の宿主として使用した。該タンパク質の誘導および精製は、既報のようにして行なった(20)。組換えヒトHSP70(ESP−555、内毒素濃度<50EU/mg)は、Stressgenから購入した。
【0060】
エフェクター細胞およびエフェクター細胞の培養
Tenbroeckホモジナイザーを用いてSCIDマウス由来の脾細胞を得、溶解バッファー(155mMのNHCl、10mMのKHCO、0.1mMのEDTA、pH 7.4−7.8)中での5分間のインキュベーションによって赤血球を除去した。その後、細胞を、細胞傷害性エフェクター細胞として直接使用するか、または10%FCSおよびコンカナバリンA刺激リンパ球由来の20%上清みを含むDMEM中で24時間培養した後、51クロム放出アッセイに使用するかのいずれかとした。ヒトエフェクター細胞を、健常な実験共同作業者うちの志願者の末梢血から、Biocoll分離溶液(Biochrom)での密度勾配遠心分離によって得た。NK細胞を末梢血単核細胞(PBMC)から、陰性選択キット(NK細胞単離キットII、130−091−152;Miltenyi Biotec,Bergisch−Gladbach,Germany)を用いた磁気細胞分取(MACS)によって単離した。このキットには、CD3、CD4、CD14、CD15、CD19、CD36、CD123およびCD235aに対する抗体のカクテルが含まれる。LAK細胞を得るため、PBMCを、5ml容組織培養用ペトリ皿(Sarstedt)内で、100U/mlのIL−2(Proleukin,Chiron,Amsterdam、Netherlands)を補給したDMEM中、5〜10×10細胞/mlの密度で4〜7日間培養した。MACSが富化されたNK細胞を、組織培養用24ウェルプレート(Sarstedt)内で、2×10細胞/mlの密度で培養した。一部の培養物には、2μg/mlの組換えHSP70、組換えHSC70、またはHSP70由来ペプチドTKD(Bachem,Bubendorf,Switzerland)を添加した。TKDは、ヒトHSP70のC末端基質結合ドメインの適正製造基準(GMP)等級の14量体ペプチド(TKDNNLLGRFELSG(配列番号:5)、aa450〜463)である(27)。大腸菌由来のリポ多糖(LPS)は、Sigma製(L4391)であり、10ng/mlの濃度で一部の培養物に添加した。
【0061】
51クロム放出アッセイ
標的細胞を、100μlのFCSを含有する200μlのHEPES緩衝DMEM中1×10細胞と50μCiのNa51CrO(ICN Biomedicals,Eschwege,Germany)とを1時間37℃でインキュベートすることにより標識し、HEPES緩衝DMEMで3回洗浄した。エフェクター細胞を5×1051Cr標識標的細胞に3連で、200μlのHEPES緩衝DMEM/10%FCS/丸底マイクロタイタープレートのウェル中、LAK細胞には約100:1〜1.5:1の比率で、NK細胞には10:1〜0.6:1の比率でで添加した。自発的放出を、エフェクター細胞の非存在下での標的細胞のインキュベーションによって測定した。マイクロタイタープレートを40×gで5分間遠心分離し、37℃で4時間インキュベートした後、再度遠心分離し、上清みと沈降物を別々に取り出し、各ウェル内の放射能を、Wallac MicroBeta Trilux counter(PerkinElmer Life Sciences,Koeln,Germany)を用いて測定した。特異的溶解割合を、自発的51Cr放出パーセントを差し引くことにより計算した(20)。
【0062】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーは、CellQuestソフトウェアを使用し、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson,Heidelberg,Germany)において行なった。それぞれGe−Hsp70およびGe−conクローンにおける細胞内HSP70、T細胞受容体(TCR)β、および緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を、フローサイトメトリーによって既報(15)のようにして定期的に制御した。HSP70の細胞表面発現を、原形質膜上のHSP70を検出することが報告されている(28)モノクローナル抗体(mAb)(RPN 1197、マウスIgG1、多免疫、Regensburg,Germany)によってヨウ化プロピジウム陰性細胞において調べた。MICA/B細胞表面発現は、ヒトMICAおよびMICB(マウスIgG1、Immatics,Tuebingen,Germany)と反応するmAb BAMO1を用いて調べた。ヒトMHCクラスI分子の染色には、mAb W6/32(マウスIgG1、Serotec,Duesseldorf,Germany)を使用した。細胞内グランザイムB発現を、HSP70について既報(15)のとおりに0.25%サポニンでの細胞の透過処理後、mAb B18.1(マウスIgG1、Alexis Biochemicals,Gruenberg,Germany)を用いて解析した。この非標識マウスIgG抗体の二次試薬は、ポリクローナルFITCコンジュゲートヤギ抗マウスIgG(115−095−062;Jackson Laboratories,Dianova,Hamburg,Germany)とした。組換えヒトおよびマウスNKG2D−Fcキメラタンパク質(1299−NK、139−NK)をR&D Systems(Wiesbaden,Germany)から購入し、NKG2Dリガンドの細胞表面発現を検出した。このとき、ポリクローナルFITCコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(109−095−098;Jackson Laboratories,Dianova)を二次試薬として使用した。SCIDマウスの脾臓中のNK細胞の割合を、pan−NK細胞マーカーDX5(ラットIgM、PEコンジュゲート、Caltag Laboratories,Hamburg,Germany)を用いて測定した。ヒトPBMCおよびNK細胞富化および枯渇画分は、CD3(クローンMEM 57、マウスIgG2a、FITCコンジュゲート、Immunotools,Friesoythe,Germany)CD4(クローンS3.5、マウスIgG2a、PEコンジュゲート、Caltag)、CD8(クローン3B5、マウスIgG2a、TCコンジュゲート、Caltag)、CD14(クローンTuek4、マウスIgG2a、PEコンジュゲート、Caltag)、CD16(クローン3G3、マウスIgG1−TCコンジュゲート、Caltag)、CD56(クローンMEM 188、マウスIgG2a、PEコンジュゲート、Caltag)、CD94(クローンHP−3D9、マウスIgG1、FITCコンジュゲート、Becton Dickinson)、NKG2D(クローン149810、マウスIgG1、PEコンジュゲート、R&D Systems)に対する抗体を特徴とした。アイソタイプ対照(マウスIgG1、IgG2a、およびラットIgM)は、Caltagから購入した。
【0063】
統計
すべてのデータは、ソフトウェアSASバージョン9.1を用いて解析した。すべての設計実験で、反復測定の分散解析(ANOVA)を行なった。種々の要素を、相互作用を伴う二元配置または三元配置ANOVAに組み込んだ。一部の実験ではサンプルサイズが限定的であったため、一部の要素については、サブグループの解析(生物学的に最も興味深い要素レベルのみ)または層別解析(要素レベルによる)しか行なうことができなかった。α=0.05の有意性レベルを使用した。
【0064】
その他
化学薬品は、特に記載のない限り、Sigma(Munich,Germany)、Merck(Darmstadt,Germany)またはRoth(Karlsruhe,Germany)製のものとした。
【0065】
実施例1:HSP70過剰発現黒色腫細胞の腫瘍増殖の低減
ヒト黒色腫細胞株Geをレトロウイルスによって形質導入し、通常ストレス誘導性のMHC連鎖ラットHsp70−1(Hspa1)遺伝子を構成的に過剰発現させた。ラットおよびヒトのMHC連鎖誘導性HSP70タンパク質は、96.3%同一で98.4%類似しているが、これらは、3’非翻訳領域に特異的なプローブによってmRNAレベルで識別され得る。対照細胞クローン(Ge−con)は、同じベクター由来のラットTCRβまたはGFP発現構築物での形質導入によって得た。Ge−Hsp70およびGe−conクローンはともに、既報のものであり、インビトロ解析によって詳細に特徴付けられた(15)。Ge−Hsp70およびGe−con細胞を、TおよびBリンパ球が欠損したSCIDマウスの側腹に皮下注射した。これらの実験には、Ge−Hsp70細胞の2種類のクローン(Ge−Hsp70−AおよびGe−Hsp70−C)対照細胞の2種類のクローン(Ge−TCR−CおよびGe−GFP−B)を使用した。原発腫瘍の進行的増殖を継続させ、第26日に、最初の動物を致死させた。驚いたことに、HSP70過剰発現腫瘍の増殖は、対照腫瘍と比べて低減した(表1)。Ge−Hsp70細胞の注射後、最初の動物を致死させる前の第24日に採取した(take)腫瘍は、Ge−con細胞(86%)と比べてわずかに縮小した(73%)。ほとんどの腫瘍は局所的に増殖したが、数例において、原発腫瘍の浸潤性の増殖および腸間膜内への局所転移が観察された。ある程度の転移が、さらに横隔膜および限局リンパ節において観察された。興味深いことに、転移の頻度(表1)は、Ge−conで21%および親Ge腫瘍で18%であったが、Ge−Hsp70腫瘍はいずれも転移が起こっていなかった。したがって、恒常的HSP70過剰発現により、Ge黒色腫細胞の悪性度が低下するようであった。さらに、腫瘍がGe−Hsp70細胞から発生したとしても、その増殖速度は、Ge−con細胞由来の腫瘍と比べて有意に低かった(p=0.0039、ANOVA)(図1)。
【0066】
実施例2:増殖およびアポトーシスに対して構成的HSP70過剰発現の効果はない
増殖マーカーKi67を用いた腫瘍の組織病理学的評価および染色では、Ge−Hsp70由来腫瘍とGe−con派生腫瘍との間になんら大きな違いは示されなかった。また、インビトロ増殖も、[3H]チミジン取り込み(図2A)および細胞計数にて測定されるようにHSP70過剰発現クローンと対照クローンとの間で異ならなかった。したがって、HSP70過剰発現腫瘍の増殖の低減は、増殖速度の差では説明され得なかった。したがって、腫瘍において出現する条件、例えば、低酸素状態およびグルコース飢餓に細胞を曝露した後の細胞死とアポトーシスを解析した。この場合も、Ge−Hsp70細胞とGe−con細胞との間に差は観察されなかった。このとき、低酸素状態またはグルコース無含有培地に24時間曝露後、アポトーシスはサブG1のピーク測定(図2B)によって、または細胞死はヨウ化プロピジウム染色によって評価した。
【0067】
実施例3:HSP70過剰発現腫瘍を有するSCIDマウスにおけるNK細胞活性の増大
次いで、SCIDマウスに依然として存在する先天免疫系が、HSP70過剰発現黒色腫の増殖の制御の一部に寄与し得るという仮説をたてた。この疑問に取り組むため、NK細胞の数および細胞傷害活性を、HSP70過剰発現腫瘍または対照腫瘍を有するマウスで解析した。腫瘍が拒絶されたマウスとGe−Hsp70またはGe−con腫瘍が増殖したマウスの脾臓NK細胞の割合は、著しくは異ならなかった(図3A)。その代わり、Hsp70過剰発現腫瘍を有するマウス由来の脾細胞の細胞傷害活性は、図3Bに例証するように、NK細胞感受性標的細胞株YAC−1と比べて増大した。SCIDマウス由来の脾細胞の細胞傷害活性は、Ge−Hsp70およびGe−con細胞と比べてインビトロで一般的に低いが、この結果は、Ge−Hsp70腫瘍の増殖の制御におけるNK細胞の役割を示した。
【0068】
実施例4:HSP70過剰発現黒色腫細胞の腫瘍の増殖は、SCID/ベージュマウスにおいて低減されない
インビボでのNK細胞の役割をさらに確認するため、前述のものと同じ細胞クローンを、TおよびBリンパ球に加えて機能性NK細胞も欠損したSCID/ベージュマウスに注射した。このとき、採取した腫瘍(表2)およびこれらのマウスにおける腫瘍の増殖(図3C)は、Ge−Hsp70細胞とGe−con細胞の注射後、類似していた。Ge−Hsp70細胞由来の腫瘍では、Ge−con細胞からの腫瘍と同じ頻度で転移に至る(表2)。これらの結果により、SCIDマウスにおいて観察された差は、Ge−Hsp70由来腫瘍の増殖を一部制御し、転移を完全に抑制するというNK細胞の活性によるものであることが明白に示された。
【0069】
実施例5:HSP70含有エキソソームは、HSP70過剰発現黒色腫細胞から放出される
細胞外HSP70は、NK細胞を活性化し、HSP70細胞表面陽性腫瘍細胞を特異的に溶解させることが示されている(12)。したがって、HSP70が黒色腫細胞から放出されているか否かを調べた。腫瘍細胞などの細胞は、熱ショックタンパク質を含有するエキソソームを放出させ得ることが知られている(26,29)。Ge−con細胞とは対照的に生存能力のあるGe−Hsp70細胞は、実際に、誘導性HSP70を含有するエキソソームを放出した(図4)。また、HSP70は、腫瘍内に通常存在する壊死性領域からもインビボで放出されている可能性がある。
【0070】
実施例6:腫瘍においてHSP70細胞表面はないがMICA/B発現は起こる
HSP70がNK細胞の標的構造としても機能を果たし得る(12)か否かを調べるため、黒色腫細胞上でのHSP70の発現を、HSP70細胞表面染色に適した抗体を用いて解析した。培養Ge−Hsp70細胞ならびにGe−con細胞は、HSP70細胞表面染色に対して陰性であった(図5A、7B)。SCIDまたはSCID/ベージュマウス由来の新鮮な調製腫瘍から得た細胞もまた、細胞表面においてHSP70の発現を示さなかった(図6A)が、トランスジェニックラットHsp70−1 mRNAは、依然としてGe−Hsp70由来腫瘍において強く発現されていることがわかった(図6B)。したがって、NK受容体を活性化させるための他のリガンドが腫瘍上に存在しているのかどうかという問いが生じた。MICAおよびMICB分子を選択した。とりわけ、これらのヒトリガンドは、マウスの活性化NK受容体NKG2Dとも相互作用することが示されていた(30〜32)。MICAおよびMICB mRNAの発現は、Ge−Hsp70、Ge−conおよび親Ge細胞において、インビトロで非常に低かった(図6B)。この観察結果により、SCIDマウスから得たNK細胞のインビトロで観察された低い細胞傷害活性が説明され得る。しかしながら、腫瘍では、両方のMIC遺伝子の発現が明らかに誘導された(図6B)。興味深いことに、MICAおよびMICB mRNA発現は、SCIDマウスにおいて増殖した腫瘍と比べ、SCID/ベージュにおいて増殖した腫瘍において高かった(MICA:p=0.0146およびMICB:p<00001)。Ge−Hsp70対Ge−con腫瘍におけるMICB mRNAの差示的発現は、宿主によって変更された。これは、SCIDマウスでは低減されたが、かかる変更はSCID/ベージュマウスでは見られ得なかった(相互作用:p=0.0437)。類似しているが統計学的に有意でない効果が、MICA mRNA発現に対しても存在しているようであった。同様にストレス誘導性の内因性ヒトHSP70−2 mRNAの発現も同じように変化しなかったため、MICA/B発現におけるこのような差が、種々の腫瘍における細胞のストレスのレベルの違いのためであった可能性は低い(図6B)。後者の実験では、MICA/B分子は腫瘍細胞の細胞表面にてインビボで発現されることが、腫瘍由来の単独の細胞懸濁液を、抗MICA/B mAbまたは組換えヒトおよびマウスNKG2Dで染色することにより確認された(図6C)。
【0071】
これらのデータにより、腫瘍でのMICA/B発現の機能的役割が示された。SCIDマウスでは、MICA/Bを発現する腫瘍細胞がNK細胞の標的となると考えた。したがって、MICAおよびMICB発現腫瘍細胞に対する選択が、SCIDでは起こったがNK細胞欠損SCID/ベージュマウスでは起こらず、SCIDマウスの腫瘍においてMICAおよびMICB mRNA発現のレベルの低下がもたらされたのかもしれない。HSP70が腫瘍に対してNK細胞を活性化させるようであるため、この淘汰圧は、明らかに対照腫瘍よりもHSP70過剰発現腫瘍にとって、より重要である。これらの知見を総合すると、HSP70過剰発現腫瘍細胞から放出されたHSP70により、NK細胞が活性化されてMICA/B発現腫瘍細胞を死滅させ、腫瘍増殖の低減と転移の抑制がもたらされ得ることが示された。
【0072】
実施例7:HSP70およびHSP70由来ペプチドTKDは、インビトロでヒトPBMCを活性化し、MICA発現標的細胞を死滅させる
次に、動物実験から推論された仮説を、マウス細胞の代わりにヒトエフェクター細胞を用いて試験した。したがって、一連のインビトロ実験を行なった。先の実験から、アカゲザル(Macaca mulatta)由来のMICA遺伝子を含むコスミドでトランスフェクトしたマウスL細胞が利用可能であった。このL−MICA細胞は、細胞表面にMICAを発現する(図5A)。しかしながら、該細胞は、原形質膜においてHSP70を発現しない(図5A)。L−MICA細胞は、ヒトLAK細胞によって死滅され得るが、非刺激PBMCではほとんど死滅され得ない(図5B、5C)。同様の結果が、MICA遺伝子を含むコスミドまたはMICA cDNA発現構築物でトランスフェクトしたさらなるクローンで得られた。これらの実験では、ベクターでトランスフェクトした対照細胞だけが親L細胞と異ならなかった。さらなる実験では、MICA発現L細胞を、HSP70活性化型キラー細胞の標的として使用した。
【0073】
ヒトPBMCを、低用量のIL−2(100U/ml)の存在下で7日間培養し、並行培養物である組換えHSP70分子、2μg/mlのストレス誘導性HSP70または構成的発現HSC70のいずれかに添加した。IL−2処理PBMCは、MICA発現L細胞を溶解したが、対照L細胞はほとんど溶解しなかった(図7A)。HSP70処理では、HSC70処理とは対照的に、さらなる刺激効果が提供され、IL−2処理PBMCによるL−MICA細胞の溶解のさらなる増大がもたらされた(図7A)。したがって、HSP70は、PBMCがMICA発現標的細胞を死滅させるようにさらに活性化することができたが、HSC70はできなかった。タンパク質HSP70およびHSC70はともに、大腸菌内で組換えタンパク質として調製されたが、LPSが混入していることが予測され得る。したがって、さらに組換え「低内毒素」(<50EU/mg)ヒトHSP70を使用すると、同様の効果が観察された。さらに、並行して、LAK細胞刺激に対するHSP70とLPS(10ng/ml)の効果を試験した。これらの試験において、HSP70処理により、LAK細胞がL−MICA細胞を死滅させる能力が有意に増大した(p=0.0374)(図7B)。HSP70調製物のLPS混入を完全に回避するため、GMP条件下で化学合成によって作製されるHSP70由来ペプチドTKD(TKDNNLLGRFELSG)を使用した。ペプチドTKDは、以前に、NK細胞を刺激してHSP70細胞表面陽性標的細胞を溶解する能力において、完全長HSP70と同等であることが示された(27)。IL−2およびTKD(2μg/ml)で7日間刺激したPBMCは、IL−2のみとともに培養した細胞よりも、L−MICA細胞を有意に良好に(p=0.0012)溶解することがわかり、組換え完全長HSP70で得られたデータが確認された。
【0074】
実施例8:NK細胞は、インビトロでHSP70ペプチドTKDによって活性化されてMICA発現標的細胞を死滅させるエフェクター細胞である
上記に示したインビボデータに基づき、NK細胞は、IL−2+HSP70またはIL−2+TKDによって活性化されるPBMCの中でも細胞傷害性エフェクター細胞であると考えた。しかしながら、CD8 T細胞またはγδT細胞などの他の細胞は、MICAおよびMICB受容体NKG2Dを発現することができ、インビトロで観察された効果に寄与している可能性がある。この仮説を試験するため、インビトロ培養前に、MACSによってボランティアドナーの末梢血からNK細胞を単離した(図8A)。並行して、NK細胞枯渇細胞集団の細胞傷害活性を試験した。NK細胞富化画分は、L細胞よりもずっと良好にL−MICA細胞を死滅させ(図8B)、TKD刺激により、L−MICA細胞に対するNK細胞の活性が有意に改善され得た(p<00001)(図8C)。IL−2またはIL−2+TKDによるNK細胞枯渇PBMCの刺激では、L−MICA細胞を死滅させ得る細胞集団は得られなかった(図8B)。高いエフェクター:標的比(200:1まで)でさえ、L−MICAならびにL細胞の溶解は、非常に低いままであった。したがって、NK細胞は、MICA発現標的細胞に対してTKD効果を奏するのに必要な細胞傷害細胞であった。
【0075】
実施例9:Ge黒色腫細胞上でのMICA/B発現およびNK細胞のHSP70ペプチドTKD活性化により、相乗的に腫瘍細胞の高い死滅性がもたらされる
次に、インビボ実験に使用したMICA/B発現ヒトGe黒色腫細胞が、HSP70活性化型ヒトNK細胞の標的となり得るか否かを調べた。これらの細胞は、以前に、MHCクラスI分子を実際に発現することが示された(15,16)。しかしながら、活性化NK細胞受容体NKG2DのリガンドとしてのMICAまたはMICBの発現により、NK細胞のMHCクラスI媒介型阻害が克服され得ることが知られている(18,33)。MICA/Bを、Ge−con細胞ならびにGe−Hsp70細胞において、トリコスタチンAまたはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)などのヒストンデアセチラーゼ阻害因子(24)によって誘導した(図9A)。重要なことに、HSP70細胞表面発現は、この処理後では見られなかった。処理細胞は未処理細胞よりも、LAK細胞による溶解に対して有意により感受性であった(図9B)。
【0076】
単離NK細胞を、IL−2なし、IL−2とともに、またはIL−2+TKDとともに5日間培養した後、該細胞を、事前に標準条件下で培養したGe−con標的細胞、またはヒストンデアセチラーゼ阻害因子(10μM SAHA)の存在下で20時間培養したGe−con標的細胞のエフェクター細胞として使用した。図10Aに示されるように、IL−2は、Ge−con黒色腫細胞を死滅させ得るNK細胞を得るのに不可欠であった。NK細胞のTKD処理により、標的細胞を溶解する能力が増大した(p=0.0055;このパラグラフの結果については、すべて三元配置ANOVAを使用し、エフェクター:標的比は2.5:1および1.25:1)。Ge標的細胞のSAHA処理により、NK細胞に対する感受性が増大した(p<00001)。NK細胞のTKD処理と標的細胞のSAHA処理を併用すると、これらの実験では、特に低エフェクター:標的比で、相乗的作用が生じ(相互作用のp値はp=00003)、標的細胞の死滅の増大がもたらされた(図10B)。同様の結果が、完全長組換えHSP70でのNK細胞の刺激後、および標的細胞としてのGe−Hsp70細胞で得られた。したがって、マウスのインビボ実験と一致して、HSP70とMICA/Bは協働して、インビトロでヒトNK細胞による腫瘍細胞の死滅を増大させ得る。
【0077】
実施例10:NK細胞のHSP70ペプチドTKD刺激により、グランザイムBの発現が増大する
NK細胞に対するHSP70ペプチドTKDの効果をさらに解析するため、新鮮な単離NK細胞上でのNK細胞マーカーCD56、CD94、CD16、およびNKG2Dの発現を調べた。IL−2またはIL−2+TKDの存在下で5日間の培養後(図10C)、CD56陽性細胞の割合は増大した。しかしながら、IL−2処理とIL−2+TKD処理とで、差は観察されなかった。NKG2DおよびCD94の平均蛍光強度はともに、IL−2およびTKD処理後に増大したが、IL−2刺激単独と比べて、有意差は検出され得なかった。したがって、これらのマーカーでは、TKDとの培養中、NK細胞の表現型の大きな変化は観察されなかった。同様の結果が、完全長組換えHSP70によるNK細胞の刺激後で得られた。次いで、TKD処理により、活性化NK細胞において細胞傷害性エフェクター分子の発現が増大されるかもしれないと推測した。実際、細胞内グランザイムBのフローサイトメトリーによる解析で、IL−2刺激単独と比べ、IL−2+TKD刺激による発現増大の傾向が示された(図10D)。したがって、観察されたNK細胞に対するHSP70の効果は、少なくとも一部、細胞傷害性エフェクター分子の発現増大によって説明され得る。
【0078】
考察
先天免疫および養子免疫の成分は、進化的にずっと古いストレス応答系に関与していた。このストレス応答は、有害な環境条件に曝露された細胞の生存を維持するように運命づけられている。正常に機能するためには、免疫系は、細胞保護のために開始されたストレス応答が進行中であっても、標的細胞を破壊できる必要がある。さらに、被ストレス細胞、例えばウイルス感染細胞または腫瘍細胞は、通常、ストレスのない細胞よりも、免疫系の細胞傷害性エフェクター細胞のより適切な標的となるようである。以前に、種々の有害な条件に対して細胞を効率的に保護することが公知のHSP70は、インビトロで顆粒エキソサイトーシス経路において媒介されるCTLの特異的細胞傷害性エフェクター機構に対して保護しないことが示されていた(15,16,20)。したがって、細胞性免疫系の細胞傷害性エフェクター機構は、防御的ストレス応答を支配しているようである。この考えと一致して、ストレス応答系の一部のある成分が、免疫応答の開始を誘発する「危険シグナル」としての機能を果たすことが示された(13,14)。典型的な外因性危険シグナルは、病原体会合分子パターン(PAMP)であり、これは、先天免疫系の細胞上のPAMP受容体によって認識される。内因性危険シグナルは、その生物体が危険に曝されることによって生成される。これは、細胞表面に出現され得、放出された状態となり得る。細胞ストレス応答の一部の要素、例えば、ストレス誘導性HSP70などは、実際に、先天免疫反応および養子免疫反応の両方を活性化することができ、これらに関連しているようであり(10,11)、内因性危険シグナルの基準を満たす。潜在的内因性危険シグナルのさらなる例は、NKG2D受容体のリガンドである。NKG2Dは、腫瘍に対するNK細胞応答を誘発する活性化受容体として供されることが示されており(18)、腫瘍でのNKG2Dリガンドの発現により、腫瘍拒絶が誘導されることが報告された(32,34,35)。NKG2Dリガンドとしては、ヒトMICAおよびMICBが挙げられる(include in)。これらおよびさらなるNKG2Dリガンドは、細胞ストレス(17)または遺伝子毒性ストレス(36)に応答して上方調節され、免疫系に潜在的に危険な細胞の存在をシグナル伝達する(37)ようである。
【0079】
本発明に従って行なった実験は、2つのストレス誘導性内因性危険シグナルHSP70とMICA/Bによって、腫瘍細胞に対するNK細胞の細胞傷害活性が相乗的に改善されることを示す。HSP70の存在下で培養したヒトPBMCは、NKG2DリガンドMICAを発現するようにトランスフェクトしたか、または内因性MICA/Bを薬理学的手段によって誘導したかのいずれかである腫瘍細胞に対し、細胞傷害活性の増大を獲得した。後者の実験により、両方の処理の併用によって相乗効果が奏され、標的細胞の死滅の有意な増強がもたらされることが示された。細胞分離実験では、細胞傷害効果の奏功にNK細胞が必要とされることが明白に示され、該効果はHSP70によって刺激された。HSP70は、直接NK細胞に対して(38)、または他の細胞に対してのいずれかで作用し得る。例えば、樹状細胞は、熱ショックタンパク質受容体を発現すること(10,11)およびNK細胞とクロストークすること(39)が公知である。
【0080】
NK細胞に対するHSP70の刺激効果は、刺激アッセイでの組換えHSP70とHSC70の直接比較によって示されるように、構成的発現HSC70とは対照的に、ストレス誘導性HSP70の特異的な性質のようである。この観察結果と一致して、HSP70に由来しHSC70タンパク質中には存在しないペプチドTKD(27)は、完全長HSP70タンパク質の代わりに使用することができた。
【0081】
免疫系の細胞に対する組換えタンパク質の効果は、常に、LPS混入によって引き起こされたものであることが疑われる。しかしながら、HSP70と同じ条件下で生成されたHSC70は、NK細胞に対して同じ効果を有しなかった。さらに、市販の「低内毒素」HSP70は、依然としてNK細胞を刺激することができた。さらにより重要なことには、GMP条件下で化学合成によって作製したHSP70ペプチドTKDもまた、NK細胞を刺激し、LPS効果のみが観察されたというのは排除された。
【0082】
この点において、どのようにしてHSP70またはペプチドTKDがNK細胞を活性化させるのかは、解明の余地がある。IL−2のみと比べ、IL−2+TKDとのNK細胞の培養中で、NKG2D陽性細胞集団の有意な増加は観察されなかった。また、NKG2Dの発現レベルは、フローサイトメトリーによる解析でも、有意に増大しなかった。NKG2Dは、主に、NK細胞顆粒媒介型細胞傷害性の受容体として供されることが示されている(18)。一貫して、TKDに曝露されたNK細胞では、細胞傷害性エフェクターであるプロテアーゼグランザイムBの発現レベルが高い傾向がみとめられた。HSP70およびTKDは、細胞傷害性エフェクター分子の発現を誘導することにより、NK細胞の細胞傷害活性を増大させている可能性がある。しかしながら、これが、HSP70によってNK細胞の活性が増大され得る唯一または主要な機構であるのかどうかは明らかでない。
【0083】
それでもなお、MICA/B発現標的細胞に対するHSP70によるNK細胞の活性化は、腫瘍免疫監視機構に対し、インビボでも関連性があるようである。HSP70過剰発現Ge黒色腫細胞の増殖は、SCIDマウスにおいて有意に低減された。さらに、これらの腫瘍は、対照腫瘍とは対照的に、浸潤的に増殖せず、局所転移は起こらなかった。このような効果は、HSP70過剰発現腫瘍の腫瘍増殖および転移速度が、BおよびTリンパ球に加えて機能性NK細胞も欠損したSCID/ベージュマウスにおける対照腫瘍とは異ならなかったため、明らかにSCIDマウスのNK細胞に起因するものであり得る。
【0084】
以前に、HSP70過剰発現Ge黒色腫細胞が、代償的にHSC70発現を下方調節することが示された(15)。したがって、これらの細胞では、HSC70発現は、基本的にHSP70発現の方向にシフトされる(15)。
【0085】
本実験によると、ここに、HSP70含有エキソソームがHSP70過剰発現黒色腫細胞から放出されることが示され得る。HSP70の放出量が増大すると、NK細胞は、HSC70ではなくHSP70によって活性化されるようであるため、続いて、HSP70過剰発現腫瘍を有するマウスにおいて、NK細胞のより良好な活性化がもたらされ得る。腫瘍中に存在するHSP70はすべて真核生物供給源のものであったことに注目することは重要である。したがって、LPSの効果が、動物モデルで見られた観察結果に関連性がある可能性は排除され得る。
【0086】
Ge黒色腫細胞は、MICAとMICBをインビボで発現するが、インビトロではほどんど発現しない。腫瘍におけるこの発現は、両方の遺伝子MICAおよびMICBの発現レベルがSCID/ベージュマウスと比べ、SCIDで増殖させたHSP70過剰発現腫瘍において低減されたため、SCIDマウスにおいて機能的に関連性があるようである。このMICA/B発現の低減は、Schreiberおよび共同作業者(40)によって示された「癌の免疫編集(immunoediting)」の一例として解釈される。MICA/B過剰発現腫瘍細胞は、SCIDマウスに存在するHSP70活性化NK細胞の優先的標的となり、その減少がもたらされる。このNK細胞活性により、HSP70過剰発現腫瘍の大きさの縮小が説明される。MICA/Bの発現の低減もまた、潜在的な免疫逸出(escape)機構を示すが、原発腫瘍におけるHSP70過剰発現およびその後のNK細胞の活性化(これによりMICA/B過剰発現腫瘍細胞が死滅され得る)は、浸潤性の増殖および局所転移を完全に抑制するのに明らかに充分であった。
【0087】
NKD2DリガンドMICA/Bの発現が本モデルの腫瘍において内因的に調節され得たことは、重要であり得る。NKG2D発現細胞の過剰刺激、ならびに連続してNKG2Dの下方調節およびNK細胞とCD8 T細胞の不活性をもたらすMICA/Bの強い異所性発現が報告された(41〜43)。
【0088】
数多くの試験で、腫瘍由来熱ショックタンパク質、例えば、グルコース調節タンパク質(GRP)94(gp96、HSP96)およびHSP70が免疫療法に使用された(10)。CTL応答の誘導に重点が置かれていたが、NK細胞枯渇によってgp96またはHSP70での免疫処置の有効性が無効となり得ることもまた注目されている(44)。さらに、パーフォリン依存性NK細胞活性は、gp96を分泌するように操作された腫瘍細胞のCTL媒介型拒絶の誘導に必要とされることが報告された(45)。また、NK細胞は、CTL応答の誘導におけるHSP70のアジュバント様活性に必要であると思われる(46)。これらの報告と一致して、最近、自己腫瘍由来のHSP96で処置した患者は、NK細胞活性の有意な刺激を受けることが観察された(47)。したがって、腫瘍細胞の初期のNK細胞媒介型溶解および/またはNK放出サイトカインは、腫瘍特異的CTLの効率的なプライミングに必要である可能性がある。興味深いことに、以前に、HSP70(48)およびHSP70由来ペプチドTKD(27)は、NK細胞を刺激して、HSP70を原形質膜に発現する腫瘍細胞を特異的に溶解し得ることが記載された(12)。HSP70は、この場合、刺激分子として、およびNK細胞の標的構造としての機能を果たしているが、原形質膜内でHSP70がどのようにして発現されるのかは明らかでない。HSP70とTKDによるNK細胞の活性化を示す本結果は、このデータと整合する。しかしながら、ここで解析された腫瘍細胞は、インビトロでもインビボでも細胞表面でHSP70を発現しなかった。その代わり、充分に定義された活性化NK受容体NKG2Dのリガンドである膜貫通タンパク質MICA/Bは、HSP70/TKD刺激NK細胞の標的構造として供され得ることが示されている。
【0089】
TKD活性化NK細胞の養子免疫伝達は、原形質膜にHSP70を発現する腫瘍に対する新しい有望な免疫療法であり、これは、前臨床動物モデルにおいて(49)、また第I期臨床試験において(50)、好成績で評価されている。すべての腫瘍が細胞表面にHSP70を発現するわけではないため、HSP70刺激NK細胞によってNKG2Dリガンドが標的構造として使用され得るという本発明の知見によって、この種の免疫療法の恩恵を得る患者の範囲が実質的に広がる。腫瘍細胞に対するHSP70とNKG2Dリガンド発現の併用によって治療成績が改善されるか否かを評価しなければならない。HSP70を誘導するための高体温と、MICA/Bを誘導するためのヒストンデアセチラーゼ阻害因子による薬物療法との併用(24)もまた、腫瘍に対するNK細胞活性を改善するための有望なストラテジーであり得る。重要なことに、NK細胞は、細胞傷害性エフェクター細胞としての機能を果たすだけでなく、その後のCTL応答の誘導に本質的に寄与しているようである(39,45,46)。したがって、腫瘍細胞からのどのシグナルの組み合わせでNK細胞の最良の活性化がもたらされるかを理解することは、さらにより必要である。2つの危険シグナルの存在下でNK細胞活性が増強されたという本結果によって、癌免疫療法のストラテジーの改善が補助され得よう。さらに、腫瘍生物学におけるHSP70とMICA/Bの種々の役割に対する洞察が提供される。
【0090】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における疾患の処置のための医薬組成物の調製のためのNK細胞またはNK細胞の活性化因子の使用であって、前記疾患は、細胞表面上のNK細胞受容体NKG2Dに対するリガンドを発現するか、または該リガンドを発現するように誘導された細胞が関与するものである、使用。
【請求項2】
前記疾患が腫瘍または感染性疾患である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記リガンドがMHCクラスI鎖関連(MIC)AまたはBである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記NK細胞が、患者への投与前に活性化されるか、またはNK細胞の活性化因子とともに投与されるように設計される、請求項1〜3いずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記活性化因子が、HSP70またはこれに由来するペプチドを含む、請求項1〜4いずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記ペプチドが、実質的にアミノ酸配列TKDNNLLGRFELSG(配列番号:5)からなる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬組成物が、インターロイキンとともに投与されるように設計される、請求項1〜6いずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記インターロイキンがインターロイキンIL−2および/またはIL−15を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記医薬組成物が、細胞表面上の前記リガンドの発現の誘導因子を含むか、または該誘導因子とともに投与されるように設計される、請求項1〜8いずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記誘導因子がヒストンデアセチラーゼ阻害因子である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記ヒストンデアセチラーゼ阻害因子(inhibtor)が、トリコスタチンAまたはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
望ましくない細胞に対するNK細胞の細胞溶解的攻撃を誘導および/または増強するための医薬組成物の調製のための、請求項1〜11いずれか1項に記載のリガンド、前記リガンドをコードする核酸分子、または請求項9〜11いずれか1項に記載の誘導因子の使用。
【請求項13】
前記医薬組成物がさらに、前記望ましくない細胞の細胞表面上でのHSP70の発現を誘導または増強するための薬剤を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記医薬組成物がさらに、免疫応答を増強する少なくとも1種類の化合物を含むか、またはかかる化合物とともに投与されるように設計される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記望ましくない細胞が腫瘍細胞または感染細胞である、請求項12〜14いずれか1項に記載の使用。
【請求項16】
前記医薬組成物が、望ましくない細胞が請求項4〜11いずれか1項に記載の活性化因子に曝露される前、曝露中または曝露後に投与されるように設計される、請求項12〜15いずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記細胞(複数または1つ)が、細胞表面上でのHSP70の発現を実質的に欠いていることを特徴とする、請求項1〜16いずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記細胞(複数または1つ)が、細胞表面上でのHSP70を発現するように誘導される、請求項1〜16いずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
HSP70の発現が、高体温、化学療法、放射線療法またはその任意の組合せによって誘導される、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項1〜11いずれか1項に記載のリガンド、前記リガンドをコードする核酸分子、または請求項9〜11いずれか1項に記載の誘導因子を、請求項4〜11いずれか1項に記載の活性化因子および/または細胞表面上でのHSP70の発現を誘導し得る薬剤との組み合わせで含む、併用調製物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【公表番号】特表2010−509257(P2010−509257A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535637(P2009−535637)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009857
【国際公開番号】WO2008/058728
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(509079581)
【Fターム(参考)】