説明

免疫系の再生方法

細胞表面上にCCR5受容体を発現できない造血幹細胞の単離及び精製された細胞株(CCR5Δ32)細胞)を、治療を必要とする対象において免疫系を再生するために、特に、ヒト免疫欠損ウイルス(HIV)で感染された対象を治療するために使用される。本方法は、CCR5Δ32をレシピエント対象中に移植することにより行われる。なぜなら、CCR5Δ32細胞から生成される成熟免疫細胞は、機能的CCR5受容体を発現できず、HIV及び細胞に感染するためヒトCCR5受容体を用いる他の病原体による感染に対して抵抗性であるからである。本発明の実施態様は、CCR5Δ32細胞の移植について条件を最適化する患者への栄養療法を投与することを含む。本発明の別の組合せは、移植されたHSCの成長と発達を高めるために、HSCと供に間充織細胞を共移植することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫系の再生、そして特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した対象の治療、並びに治療を行うための単離及び精製された幹細胞株に関する。
【0002】
本出願は、2005年6月28日に出願された米国出願番号60/703,073号の優先権の利益を主張する。当該出願の内容は、本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
同種又は自家造血幹細胞(HSC)の移植は、様々な血液学的疾患及び代謝障害の確立された治療である。移植後に、HSCは機能的免疫細胞に分化し、そして前に損傷された免疫系を再生又は再構成する。しかしながら、幹細胞移植は、再生された免疫細胞が連続して疾患を引き起こす生物により感染された場合、疾患を調節するのに効果的でなくなる。
【0004】
例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、免疫系の細胞、例えばT細胞、マクロファージ、及び樹状細胞に主に感染する。当該ウイルスは、細胞受容体CD4及びコレセプター(初期HIV感染ではCDR5受容体である)を介して免疫細胞に感染する。両方の受容体は、ウイルスが複製される細胞へとウイルスが進入するために必要とされる。感染の初期段階では、ウイルスは迅速に複製し、全身、特にリンパ系器官、の細胞に感染する。この感染は、免疫系を刺激して感染細胞を攻撃し、そしてHIVレベルを低下させるが、ウイルスは免疫の攻撃を避けるように迅速に変異し、そしてHIV感染は残る。感染器官においてHIVが連続的に複製しているにも関わらず、感染したヒトは、数年間感染の症状を伴わない潜伏期に留まる。
【0005】
例えば異なる病原体によるか又は感染リンパ系器官におけるCD4+T細胞の活性化により、感染の間に免疫系が刺激された場合に、潜伏が破られる。HIV感染T細胞は結果として破壊され、大量のウイルスが産生され、そして細胞から放出される。ある条件では、感染及び非感染T細胞の両方においてアポトーシスが引き起こされることもあり、そうしてさらにT細胞集合を枯渇させる。多くの機能性T細胞が急激に低下するので、免疫機能が失われ、そしてAIDS(後天性免疫不全症候群)の症状が現れる。AIDSの経過は、CD4+T細胞の破壊及び生産との間の合計の変化として特徴的に記載される。
【0006】
AIDSの経過は、HIVのレベル(ウイルス量)が血流中で増加するにつれて迅速に進行する。治療は、高活性高レトロウイルス治療(HAART)についての薬剤カクテルを投与することによりHIV複製を抑制することに焦点が当てられてきた。これらの治療が疾患を遅くするか又は一時的に停止することができる一方、HIVによる免疫系の更なる感染を予防することはできない。疾患が進行するにつれて、リンパ組織、例えば胸腺、骨髄及びリンパ節が感染されそして損傷され、HAART治療後に機能的免疫細胞を産生及び再生する免疫系の能力がさらに低下する。
【0007】
AIDS患者へのHSC移植は、HAARTと組合わされた場合でさえ、限定的にしか有用でない。移植後に、HSCは造血前駆細胞へと分化し、これらは幾つかのタイプの免疫細胞を生じさせる。T細胞を生じさせる前駆細胞は、胸腺に移動し、ここでT細胞分化が行われる。CD4及びCCR5受容体を有する成熟T細胞は、次に胸腺から放出される。こうして、胸腺の健康状態及び機能は、成熟T細胞の形成に決定的である。HSC自身はHIVに感染しない一方、これらの成熟T細胞は当該ウイルスにより容易に感染する。AIDSの症状は、健常な免疫細胞が再生するのでHSC移植により一時的に減少するが、再生された細胞が感染するので元に戻ってしまう。
【0008】
さらに、HSC移植の成功は、移植された細胞の免疫拒絶を予防するためにストリンジェントな免疫抑制治療に高度に依存する。従来、HSCを移植する前にレシピエントの免疫細胞を破壊するために放射線及び/又は化学療法が使用されてきた。こうして、HIV感染によりすでに免疫系が弱められているヒトが免疫細胞をさらに枯渇させ、そして次の感染に対して防御がない状態に患者をする治療にかけられる。
【発明の開示】
【0009】
従来技術の欠点を克服するために、免疫系を再生する新たな方法が提供される。本発明の総括的実施態様によると、免疫系の再生を必要とする対象に免疫系を再生する方法は、機能的CCR5表面受容体を発現できない単離及び精製された複数の造血幹細胞を患者に移植することを含み、ここで当該移植された細胞は、成熟免疫細胞へと分化する。
【0010】
本発明の別の実施態様では、当該総括的実施態様に加えて、対象の栄養状態を改善する1以上の化合物及び1以上の抗菌性化合物を含む栄養療法(nutritional regimen)を当該対象に投与することを含む。当該栄養療法は、1以上の抗炎症性化合物及び当該対象の胸腺の増殖及び機能のうちの1又は両方を刺激する1以上の化合物をさらに含み、そしてこのような化合物は、造血幹細胞の移植と同時に、そして当該移植に続いて投与される。
【0011】
本発明の別の実施態様では、HIVで感染された対照を治療する方法は、機能的CCR5表面受容体を発現できない単離及び精製された複数の造血幹細胞を当該対象に移植することを含み、ここで、移植された細胞は成熟免疫細胞に分化する。
【0012】
本発明の別の実施態様では、本発明の総括的実施態様又はHIVで感染された対象を治療する方法に加えて、本方法は、複数の間充織幹細胞を対象に移植することをさらに含む。
【0013】
前述の総括的記載及び以下の詳細な記載の両方が本発明の例示であるが、制限的ではないということが理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、細胞表面上で機能的CCR5受容体を発現できない造血幹細胞(HRC)(CCR5Δ32細胞)の単離及び精製された細胞株に関する。本発明は、さらに、CCR5Δ32をレシピエント対象に移植することにより免疫系を再生する必要のある対象の免疫系を再生する方法にさらに関する。CCR5Δ32細胞から派生された成熟免疫細胞が、機能的CCR5受容体を発現できないので、これらの細胞は、HIV及び他の病原体であって、細胞に感染するのにCCR5受容体を使用する病原体による感染に抵抗性であろう(Agrawalら、J. Virology 78: 2277-2287, 2004; McNchollら, Emerging Inectious Diseases 3: 262-271, 1997、両文献は本明細書に援用される)。CCR5Δ32細胞の分化は、免疫系を再生し、そしてCCR5受容体を介して細胞に感染する病原体による免疫細胞の次なる感染を妨げる。1の実施態様では、免疫系の再生方法は、CCR5Δ32細胞移植について条件を最適化する栄養療法を患者に投与することを含む。
【0015】
本説明において使用される主な語句を以下のように定義する:
AIDS - 後天性免疫不全症候群。
CCR5受容体 - HIVが宿主細胞に感染するために利用される細胞表面タンパク質、HIVが宿主細胞に感染するためにCD4受容体も必要とすることからコレセプターと呼ばれることが多い。
CD4受容体 - HIVが宿主細胞に感染するために利用される細胞表面タンパク質。
分化 - 未分化細胞がその成熟型及び機能を獲得する過程。
発現する、発現 - タンパク質の産生、つまり細胞が当該タンパク質を合成する場合、タンパク質を「発現」し;受容体などのタンパク質は、細胞により合成された場合に「発現」され;そして「受容体発現」は、受容体タンパク質の合成である。
移植片対宿主反応 - 宿主へと移植されたドナー細胞による宿主細胞の検出。
HIV - ヒト免疫不全ウイルス。
HSC-ヒト造血幹細胞 - 免疫系細胞の全てのタイプへと分化できる骨髄における血液形成幹細胞。T細胞及びB細胞は、これらの幹細胞から生じる。
宿主対移植片反応 - 宿主に移植されたドナー細胞の宿主免疫細胞による破壊。
免疫細胞 - 免疫応答をできる細胞。
免疫応答 - 外来物質に対する免疫系によりなされる反応、移植拒絶、抗体産生、炎症、及び抗原に対する抗原特異的リンパ球の応答を含む。
免疫系 - 免疫応答を作り出すことにより外来物質、細胞、及び組織から体を保護し、特に胸腺、脾臓、リンパ節、(消化管及び骨髄中に存在する)リンパ組織の別途保管場所(special deposits of lymphoid tissue)、B細胞及びT細胞を含むリンパ球、及び抗体を含む、体のシステム。
免疫抑制 - 免疫応答の阻止、減少、又は遅延。
成熟免疫細胞 - 別の細胞タイプへと分化できない免疫系の細胞。
MSC-間充織幹細胞 - 軟骨、骨、筋肉、腱、靭帯、及び脂肪組織を作成する能力を有する多能性前駆細胞であるヒト骨髄間質幹細胞。
栄養補助食品 - ヒトの健康に有利な効果を有すると考えられている食品又は天然補助食品。
前駆細胞 - 分化により幹細胞から生じた細胞であって、さらに他の細胞型に分化できる細胞。
再生 - 新たな細胞又は組織の形成により置き換えること。
幹細胞 - 継続的増殖が可能であり、かつ他の細胞型に分化可能である未分化細胞。
T細胞 - 胸腺において成熟し、その細胞表面での受容体を通して特異的ペプチド抗原を認識できる任意のリンパ球、Tリンパ球とも呼ばれる。
移植 - ドナー幹細胞をレシピエントへと移す過程。
ウイルス量 - 血流中のウイルス濃度。
【0016】
CCR5Δ32細胞株
HSC細胞株CCR5Δ32は、染色体3上で、CCR5遺伝子のコード領域に32塩基対の欠失を有するヒト胎児から生成されたヒト造血幹細胞である。当該欠失は、Mcnichollらの「Host genes and HIV: the role of the chemokine receptor gene CCR5 and its allele(Δ32 CCR5)」、Emerging Infectious Diseases 3: 261-271, 1997及び米国特許6,692,938号に記載される。両文献は本明細書に援用される。
【0017】
CCR5Δ32細胞は、CCR5受容体を欠失する機能的免疫細胞へと分化する。当該細胞がCCR5受容体を発現しないので、細胞に感染するのにCCR5受容体を必要とするHIV及び小ポックスウイルス(small pox virus)などの病原体は、これらの細胞に進入できず、そして細胞内で複製することができない。結果として、例えばCCR5Δ32HSCがHIV感染/AIDS患者に移植された後に、CCR5Δ32HSCから分化するT細胞は、HIV感染に抵抗性であろう。時間をかけて、レシピエントの感染T細胞は、CCR5Δ32HSC由来の抵抗性T細胞により置換され、それにより、HIV感染及びウイルス複製が低減される。再生された免疫系が増殖するにつれ、抵抗性免疫細胞は、HIV感染の結果として損傷された組織及び器官、例えば胸腺、骨髄、及びリンパ組織の修復及び再生を助け、それにより健常な免疫細胞の継続したソースを提供する。さらに、再生された免疫系がドナー細胞から生じるので、ドナーHSCの同じソースからの次なる移植は、再生された免疫系により拒絶されない。
【0018】
栄養療法
治療方法の1の好ましい実施態様では、特殊化した栄養療法が、HSC移植の前、間、及び後にレシピエントに投与されて、当該レシピエントにおいてCCR5Δ32HSCが定着することを助ける条件を最適化し、そして免疫抑制に関連する外傷を低減する。HIV感染対象では、栄養療法は、さらにウイルス量を低減しうる。栄養療法のステップは、
(1)移植された細胞が定着する健常な環境を有するように、レシピエントの栄養状態を最適化する栄養物質を投与し;(2)レシピエントにおいて感染を取り除きそして予防する抗菌性化合物を投与し;(3)レシピエントに移植されたHSCの定着を高めるためにレシピエントの炎症を低減する栄養物質を投与し;そして(4)継続的増殖及び移植されたHSCの分化を可能にする胸腺の機能及び大きさを刺激する化合物を投与する
を含む。
【0019】
栄養療法は3つの部分を有する;移植前段階、HSC移植の当日、及び移植後段階である。移植前フェーズ及びHSC移植の当日では、栄養療法は、ステップ(1)及び(2):移植レシピエントの栄養状態を改善し、そしてレシピエントからの任意の感染を除去することに焦点を当てる。ステップ(1)で投与される栄養化合物は、抗酸素物質、例えばアセチル-1-カルニチン;αリポ酸;酵素、例えば補酵素Q10;ビタミン類、例えばビタミンC及びE;胸腺抽出物;及び栄養補助食品、例えば未変性乳清タンパク質、ブルーベリー抽出物及びレスベラトロルを含みうる。ステップ(2)で投与される抗微生物化合物は、天然抗菌薬、例えばアリシン、オレガバイオティック(oregabiotic)、銀コロイド、オレガノ油、シトラス種抽出物を伴うアルテメシア(Artemesia);及びオゾンを含む。
【0020】
移植後の段階では、栄養療法は、4つのステップ全てを含み、そして移植手術の後少なくとも4ヶ月から最大で1年間、およそ30日毎の選択された間隔で投与される。移植後段階では、ステップ(1)及び(2)について上記化合物がここでも投与され、そして胸腺を刺激し、そして炎症を抑制する化合物が補われる(ステップ3及び4)。胸腺の増殖及び機能を刺激する化合物として、脂肪酸、例えばα及びγリノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、及びリノレン酸;ホスファチジルコリン;グルタチオン;カロテノイド;メチルコバラミン;胸腺刺激薬、例えばチロイドホルモン及びチロイド抽出物;ビタミンA及びD;ミネラル、例えば亜鉛、カルシウム、マグネシウム、カリウム、クロム、セレン、ゲルマニウム、ルビジウム;ヒト成長ホルモン;アミノ酸;アデノシン一リン酸;及びアルキルグリセロール、例えばサメ肝油が挙げられる。抗炎症性化合物として、ブトリン(butryn)、シナモン桂皮、クルクミン、カプレックス(kaprex)、RPR、クェルシチン(quercitin)、必須脂肪酸、及びビタミンC及びEが挙げられる。
【0021】
与えられる各化合物の治療量は、当業者に知られており、そして各段階について、量、具体的化合物、及び各化合物の投与の方法及びタイミングは、レシピエント用に最適化されうる。
【0022】
移植前段階及び移植後段階
栄養療法の1の実施態様では、移植前段階は、最初の移植手術の2日前に始まる。同じ療法は、HSC移植の当日(単数又は複数)に投与される。移植前段階及び移植後段階では、以下の化合物:
ビタミンC、50000mg/日
メトカルバモール、750mg/日
ビタミンE、1000ユニット/日
補酵素Q10、400mg/日
アセチル-1-カルニチン、3g/日
α-リポ酸、1000mg/日
オゾン、20mlを1日あたり3回
マイルドプロテイン銀(mild silver protein)又は銀コロイド、5%ブドウ糖液中で投与される5〜10ml
が静脈内輸液を介してレシピエントに毎日投与される。
【0023】
以下の化合物:
アリシン、450mg、1日あたり3〜4回
アルテメシア、150mg/日
オレガバイオティック、500mg、1日あたり1〜4回
レスベラトール、50〜100mg/日
ARMOUR(商標)チロイド、0.5〜1グレイン(Forest Pharmaceuticals, Inc.)、これは2mu/mlより多い
が毎日経口投与される。
【0024】
移植後段階
移植後段階の1の実施態様において、以下の化合物のいずれかが、胸腺を刺激するために、移植後20、29、61、90、118、及び365日後に投与される。
ビタミンC、50000mg、静脈内。
Super Immune、500mlの水溶液、静脈内。25000mgのビタミンC、200mgのビタミンB6、1ccのビタミンB複合体、10ccの10%グルコン酸カルシウム、2000mgの硫酸マグネシウム、750mgパントテン酸、15mgの葉酸、400μgのセレン、2ccのアデノシン一リン酸、又は7ccのグリチルリチン、10ccのグルタチオン、10ccの50mg/mlタウリン、2ccのヒドロキシカルバルアミン(Hydroxycobalamine)又はメチルコバラミン(methylcobalamine)、2ccの微量マルチミネラル、及び5ccの亜鉛を含む。
ビタミンA、50,000i.u.、筋中。
混合カロテノイド類、200,000i.u.、経口。
亜鉛、150ミリグラム、経口。
ホスファチジルコリン、500mgを、1500mgのグルタチオンを含むタンドムスロー静脈内プッシュ(tandom slow intravenous push)。
ヒト成長ホルモン、8ユニット、皮下。
アデノシン一リン酸、40ミリグラム、静脈内。
ジピリダモール、50mg、2-3回/日、経口。
N-アセチルシステイン、8000mg/日、経口。
ブトリン、3回/日、経口。
未変性乳清タンパク質、一さじ、2回/日、経口。
L-グルタミン、5g、3回/日、経口。
L-アルギニン、6g、経口。
ビタミンD3、10,000i.u.、筋中。
混合必須脂肪酸、1000mg、3回/日、経口。
ARMOUR(商標)チロイド(チロイド抽出物)(Forest Pharmaceuticals, Inc.)、2mu/mlの濃度超で1グレイン、経口。
メチルカルバミン、5mg、4回/日、経口。
葉酸、15mg、経口。
ビタミンE、1000i.u.、経口。
アルキルグリセロール(サメ肝油)400mg、90日118日、及び365日目、経口。
クエルシチン、3回/日、経口。
カプレックス(商標)(Metagenics)、1日あたり3回、1錠、経口。
シナモン桂皮、3回/日、経口。
クルクミン、3回/日、経口。
【0025】
免疫抑制
移植片対宿主反応が、反応性T細胞を含まないHSCの移植において生じない一方、ドナーHSC細胞の宿主拒絶反応は生じうるままである。移植された細胞の宿主による拒絶は、全ての非適合性同種移植片で生じうる。その結果、HSC移植の前に宿主免疫細胞を抑制することが必要である。骨髄移植のレシピエントは、一般的に患者自身の造血細胞を破壊するために化学療法及び放射線などの毒性の免疫抑制方法(toxic method of immunosuppression)にかけられる。これらの方法は、貧血、好中球減少、及び感染への高い罹患性を生じうる。重篤な免疫抑制の後の感染は、レシピエントの死を招きうる。
【0026】
ドナー細胞の移植を可能にするが、患者自身の造血細胞の全てを破壊しない低毒性の免疫抑制法が使用できる。これらの危険性の少ない条件では、移植されたレシピエントは、レシピエントのHSCがドナーHSCと共存する「混合キメラ(mixed chimerism)」を発達させる。混合キメラでは、ドナーHSCとレシピエントのHSCが、胸腺で分化し、そしてドナーHSCを「自己」と認識しない全ての反応性T細胞を破壊する樹状細胞を形成する。結果として、新たに形成されたT細胞は、免疫細胞上のドナーとレシピエントの抗原の両方を寛容し、レシピエント対象の免疫細胞は、ドナー細胞を破壊せず、そして同じドナー元からの次回の細胞移植は、更なる免疫抑制を必要としなくなる(Shizuru, J. A.ら、「Purified hematopoietic stem cell grafts induce tolerance to alloantigens and can mediate positive and negative T cell selection.」P.N.A.S. USA 97: 9555-9560, 2000; Nikolic, B.ら、「Mixed hematopoietic chimerism allows cure of autoimmune diabetes through allogenic tolerance and reversal of autoimmunity.」 Diabetes 53: 376-383, 2004; Donckier, V.ら、「Donor stem cell infusion after non-myeloablative conditioning for tolerance induction to HL-A mismatched adult living-donor liver graft.」 Transpl., Immunol. 13: 139-146, 2004、これらの文献の全てを本明細書に援用する)。
【0027】
その結果、免疫抑制が当業者に知られている任意の方法により達成されうる一方、外傷が少ない方法が、混合キメラを促進し、そして移植レシピエントへの外傷を最小化するのに好ましい。移植されたHSCの増殖及び発達を支援する免疫抑制の1の好ましい方法は、ビタミンDの投与と組み合わせてミコフェノール酸モフェチルで短い期間処理すること、並びにHSCを間充織幹細胞(MSC)と共移植することである。この実施態様では、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は、HSC移植が行われる各日において、移植前の2〜4時間にわたり1〜3gの用量でレシピエントに静脈内投与される。最後の移植手術後に、1〜3g/日の用量のMMFが、経口でレシピエントに13日間投与される。ビタミンDはまた、MMFが投与される各日において、50,000IUで投与される。
【0028】
MSCは免疫抑制活性を有し、そしてレシピエントにおいてドナーHSCの定着を高めるようである。K. Le Blancら、「Mesenchymal stem cells inhibit and stimulate mixed lymphocyte cultures and mitogenic responses independently of the major histocompatibility complex.」 Scandinavian J. Immunol. 57: 11-20, 2003;A. Bacigalupo、「Mesenchymal stem cells and hematopoietic stem cell transplantation.」 Best Practice & Research Clinical Haematology 17: 387-399, 2004; W. E. Fibbe及びW.A. Noort、「Mesenchymal stem cells and hematopoietic stem cell transplantation.」 Ann. N.Y. Acad. Set. 996: 235-244 (2003)を参照のこと。これらの文献の全てが本明細書に援用される。
【0029】
本実施態様では、MSCは、成人骨髄から単離され、培養で増殖され、そして例えばK. Le Blancら、「Mesenchymal stem cells inhibit and stimulate mixed lymphocyte cultures and mitogenic responses independently of the major histocompatibility complex.」 Scandinavian J. Immunol. 57: 11-20, 2003; O.N. Kogら、「Allogeneic mesenchymal stem cell infusion for treatment of metachromatic leukodystrophy (MLD) and Hurler syndrome (MPSOIH).」 Bone Marrow Transplantation 30: 215-222, 2002; Kern, S.ら、「Comparative analysis of mesenchymal stem cells from bone marrow, umbilical cord blood, or adipose tissue.」 Stem Cells 24: 1294-1301, 2006に記載され、そして、A. Bacigalupo、「Mesenchymal stem cells and haematopoietic stem cell transplantation.」 Best Practice & Research Clinical Haematology 17: 387-399, 2004に総説される様に移植用に調製されてもよい。MSCは、Cambrex Bio Science Rockland, Inc., Rockland, Maineなどの幹細胞バンクを通して移植研究用に市販もされている。
【0030】
使用されうるほかの免疫抑制法として、非限定的に、シクロスポリン、ブスルファン、クロホスファミド、メトトレキサートなどの化学療法薬の投与、並びにアレムツズマブ又は他の抗体の投与抗体の投与を含む。好ましくは、本発明の方法は、対象に使用される全ての放射線の必要性を低減するか又は取り除く方法で行われる。
【0031】
CCR5Δ32HSCの移植
CCR5Δ32HSCは、当該技術分野に知られている任意の適切な方法、例えば末梢;骨髄内注射により(例えば、Castelloら、「Intra- bone marrow injection of bone marrow and cord blood cells: An alternative way of transplantation associated with a higher seeding efficiency. Experimental Hematology 32: 782-787, 2004);くも膜下内注射の標準方法により、胸腺内注射により(例えば、Traniら、「CD25+ immunoregulatory CD4 T cells mediate acquired central transplantation tolerance.」J. Immunology 170: 279-286, 2003);直接的な器官内注射により、又は他の適切な手段により移植されうる。異なる方法の組合せが、HSCがレシピエント内に定着されるようになる可能性を増加させるために、一連の移植に使用されてもよい。
【0032】
CCR5Δ32HSCの連続移植は、移植された細胞が、定着し、そしてレシピエントの免疫系を再生する可能性を高めるために行われよう。免疫抑制は、キメラ形成を促進するためにCCR5Δ32HSCの初回移植に必要とされるが、その後のCCR5Δ32HSCの移植には必要とされない可能性がある。1の実施態様では、CCR5Δ32HSCは、3日間連続して毎日移植されよう。異なる移植方法は、各移植日に使用されてもよい。例えば、IBMI及び抹消移植は、同日に行われてもよいし、又はIBMIは、初回移植に使用されてもよく、そして胸腺内注射又は末梢移植は、2回目及び3回目の移植に使用されてもよい。
【0033】
CCR5Δ32HSCの次回の移植は、必要に応じて1年後になされてもよい。移植の数及びCCR5Δ32の投与様式は各レシピエントについて最適化されうる。
【0034】
CR5Δ32HSCの骨髄への移植(IBMI)
1の実施態様では、CCR5AΔ32HSCの移植は、連続3日間毎日行われてもよい。CCR5AΔ32HSCの3回の移植のうちの少なくとも1回は骨髄に移植される。レシピエントは、局所浸潤及び軽度の全身麻酔/無痛手術の両方を用いて麻酔される。胸骨又は他の骨髄部位を通して骨髄に侵入するために骨髄カニューレを用いる。95%PBS+5%DMSOの1ml溶液中の約4×105〜1×106のCCR5Δ32HSCを骨髄に注射する。
【0035】
CCR5Δ32HSC移植の代わりの経路
別の実施態様では、CCR5Δ32HSCの代替移植方法として使用されうる。レシピエントは、IBMIについて記載される様に準備される。針を胸腺へとガイドするために超音波が使用され、そして1〜10×106CCR5Δ32HSCを直接胸腺に注射する。この外科的手術のあいだに、1mlの95%PBS+5%DMSOの溶液中の2〜10×106をレシピエントに静脈内移植する。
【0036】
CCR5Δ32HSCは、既知の方法に従って末梢的に移植されてもよい。この方法では、7〜9×106CCR5Δ32HSC細胞を静脈内投与する。
【0037】
MSCの共移植
好ましい実施態様では、MSCは、CCR5Δ32HSC細胞と同時に移植される。この外科的手術の間に、3×106MSCを100mlの0.9%の通常生理食塩水中に懸濁し、そしてレシピエントへと静脈内移植する。
【0038】
結果のモニタリング
ドナーとレシピエントの免疫細胞の両方が存在するキメラの形成を確認するために、一塩基多型(SNP)分析を使用してHSC移植後にドナー血液細胞:レシピエント血液細胞の比をモニターしてもよい。SNP分析は、Harries, Lら、「Analysis of haematopoietic chimaerism by quantitative real-time polymerase chain reaction.」、Bone Marrow Transplantation 35: 283-290, 2005. に従って行われてもよい。ドナーHSCの分化は、CD8、CD4、及びCD45RA受容体を標的とするフローサイトメトリーによりモニターされてもい。CD4及びCD45RA受容体の相対的増加は、HSCの分化を示す。胸腺T細胞結果は、例えば、Weinberg, K.ら、「Factors affecting thymic function after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation.」 Transplantation 97: 1458-1466, 2001.に記載されるTREC(T細胞受容体切除環(Tcell Receptor Excision Circles))定量により計測されてもよい。
【0039】
機能的免疫システムがCCR5Δ32HSCから再生され、そして維持されることが予期される。レシピエントの健康は改善し、そしてHIV/AIDS症状が減少するであろう。レシピエントは依然としてHIVを有する一方、ウイルス量は、衰弱症状を予防するのに十分に減少されるであろう。
【0040】
AIDS患者の治療が、CCR5Δ32HSC移植の重要な1の用途である一方、当該細胞は、細胞に進入するためにCCR5受容体を用いるほかの病原体により引き起こされる疾患と戦う際にも有用である可能性がある。例えば、CCR5欠損マウスは、マイコバクテリウム ツベルクロシスにより感染された場合に肺炎を発達させず、その代わりに当該疾患の発達を防止する感染に対する保護的免疫応答を引き起こす(Algond, H.M.S.及びFlynn, J.L.、「CCR5-deficient mice control Mycobacterium tuberculosis infection despite increased pulmonary lymhphocytic infiltration.」 J. Immunol. 173: 3287-3296. 2004、本明細書に援用される)。さらに、CCR5Δ32変異は、小ポックスに対する保護的メカニズムとして進化してきたと考えられる(Galvani, A. P.及び Slatkin, M.、「Evaluating plague and smallpox as historical selective pressures for the CCR5Δ32 HIV-resistance allele.」、P.N.A.S. USA 100: 15276-15279, 2003、当該文献は本明細書に援用される)。
【実施例】
【0041】
1.CCR5Δ32細胞株の発達及び維持
細胞株を単離及び生成する方法に従って、当該細胞株は、CCR5受容体遺伝子において32塩基対の欠失についてホモ接合性である胎児肝臓組織から単離、精製、及び増殖することができる。本方法及び標準細胞単離技術を用い、胎児肝臓組織をワイヤメッシュの篩を通して圧力をかけて、細胞を分離し、次に培養液中に配置した。HSCを、標準組織培養技術を用いて、2〜3回の継代をとおして選択培地中で培養及び増殖させることにより、肝臓細胞から単離した。選択培地(CCR5Δ32培地)は、グルコース及びL-グルタミン、29.4%胎児ウシ血清(FBS)、ペニシリン/ストレプトマイシン、リンパ球阻害因子(LIF)20ng/ml、塩基性線維芽細胞(FGF)100ng/ml、及び幹細胞因子(SCF)4ng/mlを含むるダルベッコ改変イーグル培地(1倍)から構成された。培地に4.2%非必須アミノ酸、L-グルタミン2.34mg/ml、2-メルカプトエタノール2.22mg/ml及びピルビン酸ナトリウム0.22mg/mlを添加した。培地のpHを実質的に7.4に維持した。
【0042】
CCR5Δ32培地を、CCR5AΔ32細胞の増殖に使用した。周知の細胞培養技術を用いて、細胞を0.2マイクロメーターの換気キャップを備える75cm2フラスコ中で1.8×105細胞/cm2で蒔いた。培養物を37℃で95%空気及び5℃CO2を含む加湿インキュベーター内に維持し、そしてコンフルエントになるまで培養した。
【0043】
使用又は貯蔵するために、透析により培地から抽出した。細胞を含む培地をMWCO250000透析チューブ中に配置し、そしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液に対して透析した。長期間の貯蔵のために、細胞を95%PBS/5%DMSO中に凍結し、そして液体窒素中で貯蔵した。
【0044】
特定の具体的実施態様について本明細書に記載されそして示されたが、それにも関わらず本発明は、示された詳細に制限されることを意図しない。むしろ、特許請求の範囲及び特許請求の均等の範囲内で、そして本発明の本質から逸脱することなく、様々な変更が詳細においてなされてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的細胞表面CCR5受容体を発現できない造血幹細胞を含む、単離及び精製された造血幹細胞株。
【請求項2】
免疫系の再生を必要とする対象における免疫系の再生方法であって、機能的CCR5表面受容体を発現できない単離及び精製された複数の造血幹細胞を対象に移植することを含み、ここで移植された細胞が成熟免疫細胞へと分化する、前記方法。
【請求項3】
免疫系の再生を必要とする対象における免疫系の再生方法であって、請求項1に記載の造血幹細胞を対象に移植することを含み、ここで移植された細胞が成熟免疫細胞に分化する、前記方法。
【請求項4】
対象の栄養状態を改善する1以上の化合物及び1以上の抗菌性化合物を含む栄養療法を対象に投与することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記移植ステップの後に、前記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物、1以上の抗菌性化合物、1以上の抗炎症性化合物、及び当該対象の胸腺の増殖及び機能の1又は両方を刺激する1以上の化合物を含む栄養療法を当該対象に投与することをさらに含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
機能的CCR5表面受容体を発現できない単離及び精製された複数の造血幹細胞を対象に移植することを含み、ここで移植された細胞が成熟免疫細胞へと分化する、HIVで感染された対象を治療する方法。
【請求項7】
HIVで感染された対象において免疫系を再生する方法であって、当該対象に請求項1に記載の造血幹細胞を移植することを含み、ここで移植された細胞が成熟免疫細胞へと分化する、前記方法。
【請求項8】
前記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物及び1以上の抗菌性化合物を含む栄養療法を当該対象に投与することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記移植ステップの後に、前記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物、1以上の抗菌性化合物、1以上抗炎症性化合物、及び当該対象の胸腺の増殖及び機能のうちの1又は両方を刺激する1以上の化合物を含む栄養療法を、当該対象に投与することをさらに含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象を免疫抑制剤で又は放射線療法で治療するステップをさらに含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記対象をミコフェノール酸モフェチル又はシクロスポリンAからなる免疫抑制剤で治療することをさらに含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記移植が、末梢投与、骨髄内注射、胸腺内注射、及びくも膜下内注射からなる群から選ばれる方法により行われる、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記造血幹細胞が、CCR5Δ32細胞である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項14】
前記対象に複数の間充織幹細胞を移植することをさらに含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記間充織幹細胞が、骨髄又は臍帯血に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記移植された幹細胞の成熟免疫細胞への分化をモニタリングすることをさらに含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
免疫系の再生を必要とする対象において、免疫系を再生する方法であって、以下のステップ:
(a) 上記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物及び1以上の抗菌性化合物を含む栄養療法を当該対象に投与し;
(b) 機能的CCR5表面受容体を発現できない単離及び精製された複数の造血幹細胞を上記対象に移植し、ここで当該移植された造血幹細胞が成熟免疫細胞へと分化する;
(c) 上記対象に単離された複数の間充織幹細胞を移植し;
(d) 続いて、上記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物、1以上の抗菌性化合物、1以上の抗炎症性化合物、及び当該対象の胸腺の増殖及び機能のうちの1又は両方を刺激する1以上の化合物を含む栄養療法を当該対象に投与する
からなる、前記方法。
【請求項18】
前記造血幹細胞及び前記間充織幹細胞がおよそ同じ時間で移植される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記造血幹細胞及び前記間充織幹細胞が、3日連続で移植される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物及び前記1以上の抗菌性化合物が、造血幹細胞の移植の前2日間投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記対象の栄養状態を改善する1以上の化合物及び前記1以上の抗菌性化合物が、造血幹細胞の移植が行われる日に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記対象の前記栄養状態を改善する1以上の化合物、1以上の抗菌性化合物、1以上の抗炎症性化合物、及び当該対象の胸腺の増殖及び機能のうちの1又は両方を刺激する1以上の化合物を含む栄養療法を投与する前記ステップが、少なくとも4ヶ月そして多くとも1年間、30日に一回行われる、請求項17に記載の方法。

【公表番号】特表2009−502176(P2009−502176A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524210(P2008−524210)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/029483
【国際公開番号】WO2007/016372
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508028760)イーデン バイオテック リミティド (1)
【Fターム(参考)】