説明

免疫調節ペプチド

【課題】複雑な免疫応答を誘発する多くの複雑な細胞シグナリングを誘導するペプチドを明らかにすること。
【解決手段】ヒトのモノサイト又は好中球においてスーパーオキシド生成を誘導したり、ヒト末梢血モノサイト又は好中球による細胞内カルシウムの上昇を誘導したり、FPR又はFPRL1に結合したり、in vitroにおいてヒトモノサイト又は好中球の走化性移動を誘導したり、FPR又はFPRL1発現細胞において脱顆粒を誘導したり、FPR又はFPRL1の活性化を通じてERKのリン酸化を刺激したり、FPR又はFPRL1の活性化を通じてAktのリン酸化を刺激する、特定の配列のペプチド並びに該ペプチドの混合物よりなる群を特定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫調節ペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルミルペプチド受容体ファミリー(ホルミルペプチド受容体(formyl peptide receptor,FPR)とホルミルペプチド受容体様1(formyl peptide receptor−like1,FPRL1))は、好中球やモノサイトのような貪食細胞に発現しており、病原体の感染に対する宿主の防御において重要な役割を果たしている(1,2)。これら受容体は百日咳毒素に感受性があるGi蛋白質と結合することが知られている(1,2)。FPRの活性化は、GαiサブユニットからGβγサブユニットの分離を誘導し、そのβγサブユニットはホスホリパーゼCβあるいはホスホイノシチド3−キナーゼの活性化を誘導する(1,2)。このような影響を与える分子の活性化は、走化性による移動及び脱顆粒、スーパーオキシドの生成のような細胞間の反応を多様化にして複雑な下流のシグナリングを誘導する。
【0003】
多くのアゴニストは、結果として複雑な免疫応答を誘発する多くの複雑な細胞シグナリングを誘導する。免疫応答の間に、それらの多くは、侵入する病原体を排除するための宿主細胞の適した機能として必然的に必要とされたのだが、いくつかの応答は免疫応答で好ましくない面での影響を与える。薬剤開発の分野では、薬剤候補物質のその影響を減少させたり、あるいは、除去することが主要な関心事である。このため、多くの研究グループでいくつかのアプローチを通じて、特異的なレセプターに対する選択的な免疫応答調節因子あるいは選択的なアンタゴニストの開発が試みられている(3,4)。
【0004】
FPRに対する様々なアゴニストは、内因性の供給源又は人工的な合成により同定されてきた(1,2)。それらには、バクテリアのペプチド(N−formyl−methionyl−leucyl−phenylalanine,fMLF)やHIV−外皮ドメイン(T20及びT21)、宿主由来のアゴニスト(Annexin I及びAβ42)が含まれている(5−7)。以前、本発明者は、合成ペプチドリガンドであるTrp−Lys−Tyr−Met−Val−D−Met−NH2(以下、WKYMVmという)がモノサイト及び好中球のような白血球を刺激することを報告した(8−11)。Le等はWKYMVmがFPR及びFPRL1に結合することを報告した(12)。WKYMVmは広い範囲の受容体に対して高い親和性をもつ短いペプチドであるので、FPRあるいはFPRL1が介在するシグナリングの研究に対して、非常に有効な素材となりうる。しかしながら、特異的な受容体に対する選択的な免疫調節因子あるいは選択的なアンタゴニストを開発する研究は、分子の多様性を調べる研究と同様に、小さい化合物から構成されており、今までは非常に制限的に行われていたので、新規の化合物を同定することが望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Le, Y., Li, B., Gong, W., Shen, W., Hu, J., Dunlop, N. M.,Oppenheim, J. J., and Wang, J. M. (2000) Immunol Rev. 177, 185-194.
【非特許文献2】Le, Y., Oppenheim, J. J., and Wang, J. M. (2001) Cytokine Growth Factor Rev. 12, 91-105.
【非特許文献3】White, J. R., Lee, J. M., Young, P. R., Hertzberg, R. P., Jurewicz, A. J., Chaikin, M. A., Widdowson, K., Foley, J. J., Martin, L. D.,Griswold, D. E., and Sarau, H. M. (1998) J. Biol. Chem. 273, 10095-10098.
【非特許文献4】Zagorski, J., and Wahl, S. M. (1997) J. Immunol. 159, 1059-1062.
【非特許文献5】Prossnitz, E. R., and Ye, R. D. (1997) Pharmacol. Ther. 74, 73-102.
【非特許文献6】Su, S. B., Gong, W. H., Gao, J. L., Shen, W. P., Grimm, M. C., Deng, X., Murphy, P. M., Oppenheim, J. J., and Wang, J. M. (1999) Blood 93, 3885-3892.
【非特許文献7】Walther, A., Riehemann, K., and Gerke, V. (2000) Mol. Cell. 5, 831-840.
【非特許文献8】Baek, S. H., Seo, J. K., Chae, C. B., Suh, P. G., and Ryu, S. H. (1996) J. Biol. Chem. 271, 8170-8175.
【非特許文献9】Seo, J. K., Choi, S. Y., Kim, Y., Baek, S. H., Kim, K. T., Chae, C. B., Lambeth, J. D., Suh, P. G., and Ryu, S. H. (1997) J. Immunol. 158, 1895-1901.
【非特許文献10】Bae, Y. S., Ju, S. A., Kim, J. Y., Seo, J. K., Baek, S. H., Kwak, J. Y., Kim, B. S., Suh, P. G., and Ryu, S. H. (1999) J. Leukoc. Biol. 65, 241-248.
【非特許文献11】Bae,Y. S., Kim, Y., Kim, Y., Kim, J. H., Suh, P. G., and Ryu, S. H. (1999) J. Leukoc. Biol. 66, 915-922.
【非特許文献12】Le, Y., Gong, W., Li, B., Dunlop, N. M., Shen, W., Su, S. B., Ye, R. D., and Wang, J. M. (1999) J. Immunol. 163, 6777-6784.
【非特許文献13】He, R., Tan, L., Browning, D. D., Wang, J. M., and Ye, R. D. (2000) J. Immunol. 165, 4598-4605.
【非特許文献14】Bae, Y. S., Bae, H., Kim, Y., Lee, T. G., Suh, P. G., and Ryu, S. H. (2001) Blood 97, 2854-2862.
【非特許文献15】Grynkiewicz, G., Poenie, M., and Tsien, R. Y. (1986) J. Biol. Chem. 260, 3440-3450.
【非特許文献16】Hu, J. Y., Le, Y., Gong, W., Dunlop, N. M., Gao, J. L., Murphy, P. M., and Wang, J. M. (2001) J. Leukoc. Biol. 70, 155-1561.
【非特許文献17】King, J., and Laemmli, U. K. (1971) J. Mol. Biol. 62, 465-477.
【非特許文献18】Haribabu, B., Zhelev, D. V., Pridgen, B. C., Richardson, R. M., Ali, H., and Snyderman, R. (1999) J. Biol. Chem. 274, 37087-37092.
【非特許文献19】Franke, T. F., Yang, S. I., Chan, T. O., Datta, K., Kazlauskas, A., Morrison, D. K., Kaplan, D. R., and Tsichlis, P. N. (1995) Cell. 81, 727-736.
【非特許文献20】Jin, X., Shepherd, R. K., Duling, B. R., and Linden, J. (1997) J. Clin. Invest. 100, 2849-2857.
【非特許文献21】Thomas, W. G., Qian, H., Chang, C. S., and Karnik, S. (2000) J. Biol. Chem. 275, 2893-2900.
【非特許文献22】Palanche, T., Ilien, B., Zoffmann, S., Reck, M. P., Bucher, B., Edelstein, S. J., and Galzi, J. L. (2001) J. Biol. Chem. 276, 34853-34861.
【非特許文献23】Prossnitz, E. R., Quehenberger, O.,Cochrane, C. G., and Ye, R. D. (1993) Biochem. J. 294, 581-587.
【非特許文献24】Miettinen, H. M., Gripentrog, J. M., Mason, M. M., and Jesaitis, A. J. (1999) J Biol. Chem. 274, 27934-27942.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む新規の免疫調節ペプチド、又は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を提供することにある。
【0007】
本発明の第2の目的は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列をもつペプチド、又は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を含む医薬組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の第3の目的は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列をもつペプチドをコードする分離されたヌクレオチドを提供することにある。
【0009】
本発明の第4の目的は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列をもつペプチドをコードする分離されたヌクレオチドを含むベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明に係るペプチドは、
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のペプチドにおいて、
白血球を活性化し、分離され、実質的に純粋な形態で存在することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明に係るペプチドから誘導される物質は、
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のペプチドにおいて、
(a)ヒトのモノサイト又は好中球によりスーパーオキシド生成を誘導し、
(b)ヒト末梢血単核球又は好中球により細胞内カルシウムの上昇を誘導し、
(c)FPR又はFPRL1に結合し、
(d)in vitroにおいてヒトのモノサイト又は好中球の走化性による移動を誘導し、
(e)FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞において脱顆粒を誘導し、
(f)FPR又はFPRL1の活性化を通じてERKのリン酸化を刺激し、及び、
(g)FPR又はFPRL1の活性化を通じてAktのリン酸化を刺激する特性のうち、少なくとも1つの特性を有することを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明に係る医薬組成物は、
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチド、又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を含むことを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明に係るヌクレオチドは、
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドをコードする塩基配列を含む分離されたヌクレオチドであることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の発明に係るベクターは、
請求項6に記載のヌクレオチドを含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含む新規の免疫調節ペプチド、又は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を提供することができる。
また、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列をもつペプチド、又は、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を含む医薬組成物を提供することができる。
また、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列をもつペプチドをコードする分離されたヌクレオチドを提供することができる。
また、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列をもつペプチドをコードする分離されたヌクレオチドを含むベクターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の図面は組み込まれて明細書の一部を構成するものであり、発明の具体化を明らかにし、記述と共に発明の原理を説明するのに役立つものである。
【図1】図1は、WKYMVm及び本発明に係るペプチド(WKGMVm,WKRMVm,WKYMVE,WKYMVR)、fMLFのFPR発現RBL−2H3細胞(A)又はFPRL1発現RBL−2H3細胞(B)での遊離したカルシウムイオンの濃度に対する影響を示している。
【図2】図2は、WKYMVm及び本発明に係るペプチド(WKGMVm,WKRMVm,WKYMVE,WKYMVR)、fMLFにより、FPR又はFPRL1に結合した125I−標識化されたWKYMVmの置換を示している。
【図3】図3は、WKYMVm及び本発明に係るペプチド(WKGMVm,WKRMVm,WKYMVE,WKYMVR),fMLF,wkymvmのFPR発現RBL−2H3細胞又はFPRL1発現RBL−2H3細胞でのERKリン酸化における影響を示している。
【図4】図4は、WKYMVm及び本発明に係るペプチド(WKGMVm,WKRMVm,WKYMVE,WKYMVR),fMLF,wkymvmのFPR発現RBL−2H3細胞又はFPRL1発現RBL−2H3細胞でのAktリン酸化における影響を示している。
【図5】図5は、WKYMVmが、細胞内カルシウムの上昇を通じてFPR発現RBL−2H3細胞又はFPRL1発現RBL−2H3細胞でのエキソサイトーシスを刺激することを示している。
【図6】図6は、WKYMVm及び本発明に係るペプチド(WKGMVm,WKRMVm,WKYMVE,WKYMVR),fMLF,wkymvmのペプチドが誘導する遊離したカルシウムイオンの濃度上昇時のN−ホルミル−メチオニル−ロイシル−フェニルアラニン(fMLF)のエキソサイトーシスに対する影響を示している。
【図7】図7は、WKYMVmが、PI3K及びMEKの活性化を通じて、FPR発現RBL−2H3細胞又はFPRL1発現RBL−2H3細胞での走化性の移動を刺激することを示している。
【図8】図8は、WKYMVm及び本発明に係るペプチド(WKGMVm,WKRMVm,WKYMVE,WKYMVR),fMLF,wkymvmの走化性に与える影響を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の他の特徴及び利点は、付随する図面を以下の記述と考慮させることで明白になり、前記図面中において関連する符号は図を通じて同一又は類似の部分を示している。
【0020】
ホルミルペプチドレセプター(FPR)及びホルミルペプチドレセプター様1(FPRL1)は免疫応答で重要な役割を果たしている。本発明は、WKYMVmから誘導されるペプチドを提供するものである。多くのペプチドはFPR及びFPRL1を刺激してカルシウム上昇を引き起こすが、WKGMVm及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドのような本発明のペプチドは、FPRL1発現細胞においてカルシウムを上昇させるが、FPR発現細胞ではカルシウムを上昇させない。125I−WKYMVmを使用した競合分析では、FPR発現細胞において多くのペプチドがカルシウムを上昇させる効果をもつだけでなく、WKGMVm及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドも、FPRに対する結合で125I−WKYMVmと競合させることができることを示している。ホスホリパーゼCが介在するカルシウム上昇とは異なり、WKGMVm及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドは、FPR発現細胞において細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)とAktの活性化を刺激することができる。WKYMVmの機能的な影響を考えると、このペプチドは特にFPR細胞において、カルシウムイオン及びERK経路を通じて脱顆粒及び細胞の走化性を刺激する。しかしながら、WKGMVm及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドのようなペプチドは、FPR細胞を走化性移動の誘導により刺激するのであって、脱顆粒により刺激しない。これらを合わせて考えることで、重要な化学的誘引性の受容体として、FPRは、リガンド特異的な振る舞いにおいて異なるペプチドリガンドにより異なる調節がなされていることを初めて説明した。
【0021】
本発明の好ましい第一実施形態によると、下記に示す[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、本発明のペプチドは[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物のペプチドから誘導される物質を含む。[配列番号:1]から[配列番号:25]は、次のようである。
【0022】
Trp−Lys−Gly−Met−Val−D−Met−NH(WKGMVm;配列番号:1)及び、
Trp−Lys−Tyr−Met−Gly−D−Met−NH(WKYMGm;配列番号:2)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Val−Gly−NH(WKYMVG;配列番号:3)、
Trp−Arg−Tyr−Met−Val−D−Met−NH(WRYMVm;配列番号:4)、
Trp−Glu−Tyr−Met−Val−D−Met−NH(WEYMVm;配列番号:5)、
Trp−His−Tyr−Met−Val−D−Met−NH(WHYMVm;配列番号:6)、
Trp−Asp−Tyr−Met−Val−D−Met−NH(WDYMVm;配列番号:7)、
Trp−Lys−His−Met−Val−D−Met−NH(WKHMVm;配列番号:8)、
Trp−Lys−Glu−Met−Val−D−Met−NH(WKEMVm;配列番号:9)、
Trp−Lys−Trp−Met−Val−D−Met−NH(WKWMVm;配列番号:10)、
Trp−Lys−Arg−Met−Val−D−Met−NH(WKRMVm;配列番号:11)、
Trp−Lys−Asp−Met−Val−D−Met−NH(WKDMVm;配列番号:12)、
Trp−Lys−Phe−Met−Val−D−Met−NH(WKFMVm;配列番号:13)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Tyr−D−Met−NH(WKYMYm;配列番号:14)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Phe−D−Met−NH(WKYMFm;配列番号:15)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Val−Glu−NH(WKYMVE;配列番号:16)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Val−Val−NH(WKYMVV;配列番号:17)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Val−Arg−NH(WKYMVR;配列番号:18)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Val−Trp−NH(WKYMVW;配列番号:19)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Val−NH(WKYMV;配列番号:20)、
Lys−Tyr−Met−Val−D−Met−NH(KYMVm;配列番号:21
)、
Lys−Tyr−Met−Val−NH(KYMV;配列番号:22)、
Tyr−Met−Val−D−Met−NH(YMVm;配列番号:23)、
Met−Val−D−Met−NH(MVm;配列番号:24)、
Trp−Lys−Tyr−Met−Trp−D−Met−NH(WKYMWm;配列番号:25)である。
【0023】
[配列番号:1]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:24]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物のペプチドは分離された形態又は実質的に純粋な形態で存在する。
【0024】
前記ペプチドはカルボキシル基をアミノ基に選択的に置換されたアミノ酸残基を含む。
【0025】
本発明のペプチドは
(a)ヒトのモノサイト又は好中球によりスーパーオキシド生成を誘導し、
(b)ヒト末梢血モノサイト又は好中球により細胞内カルシウムの上昇を誘導し、
(c)FPR(ホルミルペプチド受容体)またはFPRL1(ホルミルぺプチド受容体様1)に結合し、
(d)in vivoにおいてヒトのモノサイト又は好中球の走化性移動を誘導し、
(e)FPR(ホルミルペププチド受容体)発現細胞またはFPRL1(ホルミルペプチド受容体様1)発現細胞において脱顆粒を誘導し、
(f)FPR(ホルミルペプチド受容体)またはFPRL1(ホルミルペプチド受容体様1)の活性化を通じて細胞外シグナル制御キナーゼを刺激し、
(g)FPR(ホルミルペプチド受容体)またはFPRL1(ホルミルペプチド受容体様1)の活性化を通じてAktのリン酸化を刺激する特性のうち少なくとも一つの特性を有する。
【0026】
本発明の好ましい第2実施形態によると、[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、本発明は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を含む医薬組成物を提供する。
【0027】
前記ペプチド又は前記物質を活性成分として含む前記医薬組成物は生理食塩水、緩衝液、デキストロース、水、グリセロール及びエタノールより選択される医薬用希釈剤のうち、1種以上含むことができるが、希釈剤はこれらに限定されない。
【0028】
前記医薬組成物は投与の目的及び疾病によって相異なるように適用できる。実質的に投与される活性成分の量は多様な要素、つまり処置される状態、患者の症状の程度、他の薬剤(例えば、化学的療法の薬剤)と共同投薬、患者個人の年齢、性別、体重、食べ物、投薬時間、投与経路、及び組成物の投与比率を考慮して決定しなければならない。前記組成物は投与量及び投与経路が疾病の形態及び程度によって調節できるが、1日に1回又は1〜3回に分けて投与できる。
【0029】
本発明のペプチド又は物質を含む組成物は経口又は非経口で投与できる。非経口投与とは、経口以外の投与経路、つまり、直腸、静脈、腹膜及び筋肉、動脈、経皮、鼻腔、吸入、眼球及び皮下を通じた薬剤の投与を意味する。
【0030】
前記ペプチド又は物質を含む医薬組成物はどのような形態で調合されてもよく、経口投与、あるいは注射可能な溶液、局所的な調合剤というような形態で調合されてもよい。前記組成物は経口投与、注射による投与(純粋な溶液又は懸濁液、乳化剤)に適するように調合するのが好ましく、最も好ましいのは錠剤、カプセル、軟質カプセル、水性薬剤、丸剤、顆粒等のような経口の形態に調合することである。
【0031】
前記組成物の調合において、前記ペプチドは賦形剤なく軟質カプセルに充填され、あるいは担体と混合されたり希釈された後に適当な形態をとる組成物に調合される。適当な担体の例としては、澱粉、水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース等があげられる。
【0032】
また、白血球の数又は白血球の活性化の状態の変化を伴ったり、そのような変化によって誘発される疾病を治療する方法を提供することができる。前記方法は[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を前記疾病の治療を必要とする宿主に治療に有効な量を投与することを含む。前記疾病はバクテリア、マイコプラズマ、酵母、カビ、ウィルスによる感染又は炎症であってもよい。
【0033】
また、宿主に白血球の数を増加させたり、白血球の活性化の状態を向上させる方法を提供することができる。前記方法は[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を白血球の数の増加又は白血球の高い活性化状態を必要とする宿主に治療に有効な量を投与することを含む。
【0034】
また、白血球での細胞外のカルシウムの上昇を誘導する治療を必要とする患者において、白血球での細胞外のカルシウムの上昇を誘導する方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0035】
また、ヒトモノサイト又は好中球によるスーパーオキシド生成を誘導する治療を必要とする患者において、ヒトモノサイト又は好中球によるスーパーオキシド生成を誘導する方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0036】
また、ヒトの末梢血単核細胞による走化性移動を誘導する治療を必要とする患者において、ヒトの末梢血単核細胞による走化性移動を誘導する方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0037】
また、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞での脱顆粒を誘導する治療を必要とする患者において、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞での脱顆粒を誘導する方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0038】
また、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞においてそれぞれFPR又はFPRL1の結合に対してWKYMVmとペプチドを競合させる治療を必要とする患者において、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞においてそれぞれFPR又はFPRL1の結合に対してWKYMVmとペプチドを競合させる方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0039】
また、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞において細胞外シグナル制御キナーゼを刺激する治療を必要とする患者において、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞において細胞外シグナル制御キナーゼを刺激する方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0040】
また、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞においてAktを刺激する治療を必要とする患者において、FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞においてAktを刺激する方法を提供することができる。前記方法は診断された患者に[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を治療又は予防のために誘導または脱感作を得るのに有効な量を投与することを含む。
【0041】
また、前記治療が施される宿主又は患者は感染によって誘発される疾病に患わされる場合があり、特に前記疾病はサイトメガロウィルス感染、リューマチ性関節炎、ライム関節炎、痛風、敗血症、異常高熱、潰瘍性結腸炎、全腸炎、骨粗鬆症、歯周疾患、糸球体腎炎、慢性非感染性肺炎、類肉腫症、呼吸細気管支炎、肉芽腫形成、肝繊維症、肺繊維症、移植拒絶、移植細胞対宿主病、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、腫瘍性疾患、気管支喘息、I型インシュリン非依存性糖尿病、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、乾癬、慢性Bリンパ球白血病、分類不能型免疫不全症、播種性血管内凝固症候群、全身性硬化症、脳脊髄炎、肺炎、高IgE免疫不全症候群、癌転移、癌成長、養子免疫療法、後天性呼吸窮(促)迫症候群、再潅流症候群、手術後の炎症、臓器移植、又は脱毛症である場合がある。
【0042】
本発明は[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドを有するペプチドをコードする分離されたヌクレオチドを提供する。
【0043】
本発明は[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドを有するペプチドをコードする分離されたヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0044】
本発明は[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち、[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを提供する。
【実施例】
【0045】
実施例に用いられた物質
Fmocアミノ酸はミリポア社(Millipore)(Bedford,MA)から購入した。Rapidamide樹脂はデュポン社(Dupont)(Boston,MA)から購入した。末梢血単核細胞(PBMC)分離培地(Histopaque−1077)、シトクロムc及びfMLFはシグマ社(Sigma)(St.Louis,MO)から購入した。フラ−2ペンタアセトキシメチルエステル(fura−2/AM)はモレキュラープローブ社(Molecular Probes)(Eugene,OR)から購入した。RPMI1640はライフテクノロジーズ社(Life Technologies)(GrandIsland,NY)から購入した。透析されたウシ胎児血清及び添加されたウシ血清はハイクローンラボラトリーズ社(Hyclone Laboratories Inc)(Logen,UT)から購入した。PTX,GF109203X及びPD98059はカルバイオケム社(Calbiochem)(San Diego,CA)から購入した。LY294002はバイオモルリサーチラボラトリーズ社(BIOMOL reserch laboratories,Inc)(Polymouth Meeting,PA)から購入した。
【0046】
ペプチドは先に記載されている固相法で合成した(8,9)。簡単に説明すると、ペプチドをRapidamide支持体樹脂上で合成して標準的なFmoc/t−butyl法により酸不安定性(acid−labile)リンカー上に組み立てた。ペプチドの組成は以前に記載されているようなアミノ酸分析法で確認した(8)。
【0047】
RBL−2H3、FPR発現RBL−2H3及びFPRL1発現RBL−2H3細胞は20%FBS及び200g/mlのG418が添加されたDMEMで培養した(13)。
【0048】
実施例1:好中球の分離
末梢血白血球濃縮液は蔚山赤十字血液センターから提供された。ヒト好中球は先に記載されているようなデキストラン沈降、赤血球の低浸透圧の溶解(hypotonic lysis)及び溶媒の勾配によるリンパ球分離を標準的な方法に従って分離した(9)。分離されたヒト好中球は直ちに用いられた。
【0049】
実施例2:ヒト好中球でのスーパーオキシド生成に対するペプチドの効果
WKYMVm、[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物のペプチド及びwkymvmのヒト好中球でのスーパーオキシド生成に与えるペプチドの活性を測定した。参考文献に記載されているように、スーパーオキシドアニオン生成をミクロタイタ96穴プレートELISAリーダ(microtiter 96−well plate ELISA reader)(Bio−Tekinstruments,EL312e,Winooski,VT)を使用してシトクロムcの還元を測定し定量を行った(14)。ヒト好中球(96穴プレートの各ウェル当たりに1×10細胞/100μlのRPMI1640培地)は37℃で1分間50μMシトクロムcと共に予め培養し、その後、表示された濃度のペプチドと共に培養した。スーパーオキシド生成は1分間隔で5分にわたって550nmでの光吸収における変化として測定した。少なくとも4回の独立した実験から各位置での活性アミノ酸を有するペプチドを選定した。これらの結果は表1に記載されている。
【0050】
多様な濃度のWKYMVmペプチドで好中球を刺激すると、濃度依存的にスーパーオキシド生成を引き起こし、100mMのペプチドで最大の活性を示した(データは省略。)。WRYMVm、WEYMVm、WKFMVm及びKYMVmのようないくつかのペプチドでは細胞内でスーパーオキシド生成を刺激しているのに対して、多くのペプチドでは100nMのペプチドでのスーパーオキシド生成に対して弱い活性を示した。
【0051】
【表1】

スーパーオキシド生成はシトクロムc還元を観測して測定する。
処理されたペプチドの濃度は100nMであり、WKWM(F/W)m−NHは、WKWMFm−NHとWKWMWm−NHの混合物である。
【0052】
また、10μM濃度のスーパーオキシド生成に対するペプチドの効果を測定して、その結果を表2に記載した。wkymvmを除いた全てのペプチドが10μM濃度のWKYMVmと同程度強力にスーパーオキシド生成を刺激した。その中でもWKWMVm,WKFMVm及びWKYMVWはWKYMVmより強い活性を示した。
【0053】
【表2】

aスーパーオキシド生成はシトクロムc還元を観測して測定する。
処理されたペプチドの濃度は10μMであり、WKWM(F/W)m−NHは、WKWMFm−NHとWKWMWm−NHの混合物である。
【0054】
実施例3:FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞での遊離したカルシウムイオンの濃度上昇に対するペプチドの効果
FPR発現RBL−2H3細胞で、WKYMVm、[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物のペプチド及びwkymvmのペプチドが遊離したカルシウムイオンの濃度上昇に与える活性を測定した。FPR発現RBL−2H3細胞を10μMのペプチドで刺激し、遊離したカルシウムイオンの濃度を測定した。遊離したカルシウムイオンの濃度の基準はfura−2/AMを使用してGrynkiewicz方法で蛍光測定して決定した(15)。準備した細胞を新鮮な無血清RPMI1640培地で継続して攪拌しながら50分間37℃で3μMのfura−2/AMで培養した。2×10細胞をカルシウムイオンが存在しないLocke´s溶液(154mMのNaCl、5.6mMのKCl、1.2mMのMgCl、5mMのHEPES、pH7.3、10mMのグルコース及び0.2mMのEGTA)で各分析に用いられるように分取した。340nm及び380nmでの二重励起波長の蛍光変化及び500nmでの発光波長を測定して、測定された蛍光率を遊離カルシウムイオンの濃度に互換し、上昇した遊離したカルシウムイオンの濃度のピークレベルを測定した。その結果を表3及び図1Aに示した。データは3つの独立した実験の代表値である。
【0055】
【表3】

細胞内カルシウムの増加はfura−2をロードした細胞から測定する。
WKWM(F/W)m−NHは、WKWMFm−NHとWKWMWm−NHの混合物である。
【0056】
FPR発現RBL−2H3細胞で、WKYMVmペプチドは濃度依存的に遊離したカルシウムイオンの濃度上昇を誘導しており、300nMで最大の活性を示した(データは省略する。)。FPR細胞内で遊離したカルシウムイオン濃度の上昇活性に対するWKYMVmのEC50は47nMであった(表3)。本発明のペプチドの中でWHYMVm、WKWMVm及びWKFMVmはWKYMVmペプチドに対抗し、FPRに対してより上昇した親和度を示したが、他のペプチドはWKYMVmほどの活性を示さなかった(表3)。特に、WKGMVm、WKYMGm及び6番目のD−Metを置換したペプチドはFPR発現RBL−2H3細胞で20μM処理時まで遊離したカルシウムイオンの濃度に影響を与えなかった(表3及び図1A)N末端又はC末端が切断されたペプチドはまたFPR細胞における遊離したカルシウムイオンの濃度の上昇活性に対して不活性を示した(表3)。これらの結果は遊離したカルシウムイオン濃度の上昇におけるFPRの活性化に対して3番目のTyr残基及び6番目のD−Met残基が重要であるという事実を示している。
【0057】
WKYMVm、[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物のペプチド及びwkymvmのペプチドが遊離したカルシウムイオンの濃度上昇に与える効果をFPRL1発現RBL−2H3細胞で調べた。FPRL1発現RBL−2H3細胞を10μMのペプチドで刺激し、遊離したカルシウムイオンの濃度を測定した。遊離したカルシウムイオンの濃度のレベルは前記と同様な方法で測定した。上昇した遊離カルシウムイオン濃度のピークレベルを測定した。その結果は表4及び図1Bに示した。データは3つの独立した実験の代表値である。
【0058】
FPRL1発現RBL−2H3細胞において、WKYMVmは10nMの濃度で最大の活性を示した(データは省略する)。FPRL1細胞における遊離したカルシウムイオン濃度の上昇活性に対してWKYMVmのEC50は0.6nMであった(表4)。FPR細胞とは異なり、全てのペプチドがFPRL1細胞における遊離したカルシウムイオン濃度の上昇活性に対して活性を示した(表4)。WRYMVm、WKWMVm、WKFMVm、WKYMYm並びにWKYMFm及びWKYMWmの混合物のようないくつかのペプチドはFPRL1に対してさらに高い親和度を示した(表4)。FPR細胞において遊離したカルシウムイオンの濃度上昇に影響を与えなかったWKGMVm、WKYMGm、6番目のD−Met残基を置換したペプチドも、FPRL1細胞における遊離したカルシウムイオン濃度の上昇活性を示し、FPRL1に対しわずかに親和度を有することが示された(表4及び図1B)。N末端又はC末端が切断されたペプチドも、FPRL1細胞における遊離したカルシウムイオン濃度の上昇を刺激する(表4)。これらの結果は3番目のTyr残基及び6番目のD−Met残基が遊離したカルシウムイオンの濃度上昇に帰着するFPRに対抗するFPRL1の活性化に対してほとんど重要性がないことを示している。
【0059】
【表4】

細胞内カルシウムの増加はfura−2をロードした細胞から測定する。
WKWM(F/W)m−NHは、WKWMFm−NHとWKWMWm−NHの混合物である。
【0060】
実施例4:FPR又はFPRL1に対する[125I]WKYMVmの結合におけるペプチドの効果
いくつかのペプチド(WKGMVm、WKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチド)が細胞質性のカルシウムの上昇を誘導することができないという事実から、前記ペプチドがFPR又はFPRL1に結合できるかどうかについて調べた。ペプチドによりFPR又はFPRL1に対して結合する[125I]が標識されたWKYMVmが置換される程度を測定した。標識されていないWKYMVm又は[配列番号:1]から[配列番号:25]のうち[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物のペプチドの非存在下、あるいはペプチドの存在下でこれらのペプチドの量を増加させた状態でFPR発現RBL−2H3細胞を[125I]WKYMVmと共に培養した。
【0061】
リガンド結合分析を従来から知られた方法に変更を加えて実施した(16)。簡単に述べると、放射線を発する125Iが標識されたWKYMVmはNEN Lifesciences(Boston,MA)から購入した。FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞を24ウェルプレートに1ウェル当たり1×105細胞播いて一晩培養した。細胞をブロッキングバッファー(33mM HEPES、pH7.5、0.1%BSA/RPMI)で2時間ブロッキングした後、50μMの標識されていないペプチドの存在あるいは非存在下で、バインディングバッファー(0.1%BSA/PBS)と共に単一濃度の125Iが標識されたWKYMVmを細胞に添加し、攪拌しながら4℃で3時間培養した。その次に、試料を氷冷のバインディングバッファーで5回洗浄した後、1ウェル当たりに200μlの溶解バッファー(20mM Tris、pH7.5、1%TritonX−100)を添加した。常温で20分溶解させた後、溶解物を集めた。結合した125Iが標識されたWKYMVmをγ線計測器にて放射性活性を測定した。
【0062】
リガンド結合の分析結果は図2に示した。図2に示したように、標識されていないWKYMVmだけでなく、WKGMVm及びWKRMVm、WKYMVmの6番目のD−Metを置換したペプチドまでもが、濃度依存的に[125I]WKYMVmの結合を阻害した。これらの結果は、WKGMVm又はWKRMVm、WKYMVmの6番目のD−Metを置換したペプチドはFPRに結合できるが、その全てのペプチドがFPR発現RBL細胞で細胞質性のカルシウム上昇を誘導できるわけではないという事実を示している。
【0063】
実施例5:FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞におけるERKリン酸化に対するペプチドの効果
i)ペプチドによる細胞の刺激
培養されたRBL−2H3細胞を2×106細胞分取して示された濃度のWKYMVm及び本発明のペプチドで示された時間刺激した。1μMのWKYMVmでFPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞を多様な時間で刺激した(図3A)。2つの細胞を1μMのWKYMVm処理前にビークル又は100ng/mlのPTX(24時間)、50μMのLY294002(15分)、5μMのGFX(15分)、10μMのBAPTA/AM(60分)、50μMのPD98059(60分)と共に予め培養した(図3B)。FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞を10μMの本発明のペプチドで2分又は5分間刺激した(図3C)。
【0064】
刺激後、細胞を無血清RPMIで洗浄して、溶解バッファー(20mM Hepes、pH7.2、10%グリセロール、150mM NaCl、1%TritonX−100、50mM NaF、1mM Na3VO4、10μg/ml leupeptin、10μg/ml aprotinin、1mM phenylmethylsulfonyl fluoride)で溶解した。溶解液中の不溶性物質を遠心分離(12,000×g,15分,4℃)してペレット化し、可溶性の上清分画を取り除き、−80℃で保管あるいは直ちに使用した。溶解物中でのタンパク質濃度をBradfordタンパク質分析試薬を用いて測定した。
【0065】
ii)電気泳動及び免疫ブロットの分析
各試料(30gペプチド)を10%SDS−PAGEで処理してリン酸化されたERKを抗リン酸化ERK抗体を用いた免疫ブロット法により決定した。タンパク質試料は濃縮された試料バッファーを添加して電気泳動用に準備した。試料のうち一部をLaemmliに記載されたバッファーシステムを使用して10%SDSポリアクリルアミドゲルによって分離した(17)。
【0066】
電気泳動に続いて、抗ERK2抗体でウェスタンブロット分析を実施し同一量の試料が実験に用いられたことを確認した。タンパク質はニトロセルロース膜にブロットされた。前記ニトロセルロース膜を5%脱脂粉乳を含むTBS(Tris−buffered saline、0.05%Tween−20)で培養してブロッキングした。その後、前記膜をTBSで洗浄された抗リン酸化ERK抗体、又は抗リン酸化Akt抗体、抗Akt抗体と共に培養した。PKCトランスロケーション分析の間、PKCアイソザイムに特異的な抗体が培養される。ホースラディッシュペルオキシダーゼに結合される1:5000希釈のゴート抗ラビットIgG、又はゴート抗マウスIgG抗体と共に膜を培養した後、高性能化学発光検出システムを使用して抗原抗体複合体を可視化した。
【0067】
iii)結果
FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞におけるFPR又はFPRL1を通じた細胞シグナリングに対するペプチドの効果を評価して、その結果を図3に示した。図3の結果は3回の独立した実験の代表値を表している。
【0068】
いくつかのペプチドはFPRに結合はできるが、PLCが介在するカルシウムの上昇を刺激させることはできないので、いくつかのGPCRsの下流においてPLCに依存しない他のシグナリング(ERKsとAkt)に与える効果を調べた。FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞を1μMのWKYMVmで刺激すると、ペプチド処理してから2分又は5分経過した後に最大の活性を示すERKsの一過性の活性化を誘導した(図3A)。FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞をWKYMVm刺激の前にいくつかの阻害剤で予め処理する場合、WKYMVmが誘導するERKsの活性化はPTX及びPD98059に感受性を示しており、このような現象はPTX感受性Gタンパク質及びMEK依存性であることを示している(図3B)。PI3K阻害剤(LY294002)、PKC阻害剤(GF109203X、又はRo-31-8220)、カルシウムキレート剤(BAPTA/AM)の前処理はWKYMVmが誘導するERK活性化に影響を与えない(図3B)。これは、この現象がPI3K、及びカルシウムイオン、PKCの活性化に依存しないということを示唆するものである。それゆえ、WKYMVmが独立的なシグナリング経路を通じて遊離したカルシウムイオンの濃度上昇及びERK活性化を誘導したかのようにみえる。ERK活性化に与える本発明のペプチドの効果を抗リン酸化ERKs抗体を利用したウェスタンブロット法で解析した。細胞質性のカルシウムの上昇活性とは異なり、ペプチド(WKGMVm、及びWKRMVm、WKYMVR、WKYMVE)はFPR発現RBL−2H3細胞においてERKsのリン酸化を刺激した(図3C)。注目すべきことは、前記ペプチドがPLCが介在する遊離したカルシウムイオンの濃度の上昇活性に影響を与えることができないということであり、これは非常に興味深い結果である。FPRL1発現RBL−2H3細胞をWKYMVm及び本発明のペプチドで刺激する場合、大部分のペプチドはまた、FPRL1細胞でERKsリン酸化を誘導した(図3C)。この結果は全てのペプチドがFPRL1発現細胞で細胞質性のカルシウム上昇を刺激することができるという先の結果(図1B)と相関している。
【0069】
実施例6:FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞におけるAktリン酸化に対するペプチドの効果
化学誘引物質受容体の活性化はPI3Kを通じて、Aktの活性化を誘導することはよく知られている(19)。前記ペプチドで細胞の刺激、及び電気泳動、免疫ブロット分析を実施例5と同一の方法で実施した。
【0070】
1μMのWKYMVmでFPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞を多様な時間で刺激した(図4A)。二つの細胞を1μMのWKYMVmで処理する前にビークル又は100ng/mlのPTX(24時間)、50μMのLY294002(15分)、5μMのGFX(15分)、10μMのBAPTA/AM(60分)又は50μMのPD98059(60分)で予め培養した(図4B)。FPR及びFPRL1発現RBL−2H3細胞を10μMのWKYMVm及び本発明のペプチドでそれぞれ2分又は5分刺激した(図4C)。各試料(30μgのタンパク質)を10%SDS−PAGEで処理し、リン酸化されたAktを抗リン酸化Akt抗体を用いて免疫ブロット分析により測定を行った。抗Akt抗体でウェスタンブロット分析を実施して、同一量の試料が実験に用いられたことを確認した。この結果は図4に示した。図4の結果は3つの独立した実験の代表値を示している。
【0071】
WKYMVmの刺激は、FPR及びFPRL1発現RBL−2H3細胞で時間依存的にAktのリン酸化を誘導した(図4A)。WKYMVmが誘導するAktのリン酸化はPTX、LY294002に感受性を示すが、GFX及びBAPTA/AMには感受性を示さなかった。これはPTX感受性Gタンパク質及びPI3K依存性であることを示している(図4B)。WKYMVmだけでなく、本発明のペプチド(WKGMVm及びWKRMVm、WKYMVE、WKYMVR)でFPR発現RBL−2H3細胞を刺激すると、Aktのリン酸化を誘導した(図4C)。WKYMVm及び本発明のペプチドはまた、FPRL1発現RBL−2H3細胞においてもAktのリン酸化を刺激した(図4C)。これらの結果は2種類の形態の細胞において、ペプチドによるERKsのリン酸化と相関する(図3C)。WKYMVmが誘導するERKs及びAktの活性化はPI3Kの活性化により介在されるので、WKGMVm及びWKRMVm、WKYMVE、WKYMVRはFPRの下流でPI3Kが介在するシグナリングを誘導するかのように思われる。
【0072】
実施例7:エキソサイトーシスに対するペプチドの効果
顆粒の分泌は肥満細胞で最も重要な作用の一つである(20)。顆粒分泌に与えるWKYMVmの効果を先に記載しているようなβ−ヘキソサミニダーゼ分泌の測定により調べた(18)。簡単に述べると、FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞(2×105/ウェル)を24ウェル組織培養プレートで一晩培養した。細胞をTyrode’sバッファー(137mM NaCl、12mM NaHCO3、5.6mM グルコース、2.7mM KCl、1mM CaCl2、0.5mM MgCl2、0.4mM NaH2PO4、0.1g/100ml BSA、25mM HEPES、pH7.4)で2回洗浄し、各ペプチドで刺激した。多様な濃度のWKYMVmがFPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞において処置された(図5A)。1μMのWKYMVmを10μMのBAPTA/AMの存在又は非存在下で二つの細胞株を刺激するために使用した(図5B)。刺激してから20分後に氷上にプレートを置くことにより反応を終了させた。β−ヘキソサミニダーゼの培養液中への分泌は50μlの上層液又は細胞溶解液を25μlの5mMのp−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミドと共に0.1mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.8)で37℃、2時間培養することにより測定された。培養の最後に50μlの0.4M Na2CO3を添加した。405nmでの吸光度を測定してその結果を図5に示した。データは3点測定を3回実施した実験の平均値±標準誤差(S.E.)である。数値(平均値±標準誤差)は細胞に存在するβ−ヘキソサミニダーゼの全体量に対する百分率で示した。
【0073】
FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞を多様な濃度のWKYMVmで刺激すると、濃度依存的にβ−ヘキソサミニダーゼの産生を誘導した(図5A)。FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞において100nM又は10nMのペプチドで刺激した時、最大の活性を示した(図5A)。細胞質性のカルシウム上昇はRBL−2H3のような肥満細胞で顆粒の分泌に非常に重要であると報告されている(18,20)。また、ペプチドの刺激前のBAPTA/AM処理による細胞内カルシウムのキレート化がWKYMVmが誘導する顆粒の分泌をほとんど完全に阻害することも確認された(図5B)。
【0074】
細胞質性のカルシウムの産生はWKYMVm及びWKYMVmの置換された多くのペプチドによって誘導されるが、これらの中でいくつかのペプチド(WKGMVm、WKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチド)はそうではないという新たな発見から、RBL細胞での顆粒分泌における前記ペプチドの効果を調べた。10μMの各ペプチドをFPR(図6A)及びFPRL1(図6B)発現RBL−2H3細胞に処置した。β−ヘキソサミニダーゼのペプチドが誘導する分泌は前記したように決定される。データは3点測定を3回実施した実験の平均値±標準誤差である。
【0075】
FPR細胞をペプチド(WKYMVm、WKGMVm、WKRMVm、WKYMVE、WKYMVR)で刺激する場合、WKGMVm、WKRMVm,6番目のD−Metを置換したペプチドを除いていくつかの置換ペプチドで顆粒の分泌が観察された(図6A)。WKGMVm、WKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドはFPR発現RBL−2H3細胞では顆粒分泌に影響を与えなかった(図6A)。このような結果はWKGMVm、及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドが細胞質性のカルシウム上昇を誘導できないという先の結果(図1A)と完全に相関している。FPR発現RBL−2H3細胞とは異なり、fMLF又はwkymvmを除いた全てのぺプチド(WKYMVm、WKGMVm、WKRMVm、WKYMVE,WKYMVR)はFPRL1発現RBL−2H3細胞において顆粒分泌を刺激した(図6B)。これもまた、FPRL1発現RBL−2H3細胞において前記ペプチドが細胞質性のカルシウムの上昇を刺激するという先の結果(図1B)と完全に相関している。
【0076】
実施例8:細胞の走化性に対するペプチドの効果
走化性分析はBoyden Chamberを修正した多重ウェルチャンバー(Neuroprobe Inc.,Gaithersburg,MD)を使用して実施した。簡単に述べると、ポリカーボネートフィルター(8μm孔径)をHEPESが緩衝剤として働くRPMI培地に50μg/mlのラットタイプIコラーゲン(Collaborative Biomedicals)で予めコーティングする。乾燥コーティングされたフィルターを異なる濃度のペプチドを含む96ウェルチャンバー上に置く。FPR又はFPRL1を発現するRBL−2H3細胞は1×106/mlの無血清RPMIの濃度でRPMIに懸濁され、その懸濁液のうち25μlを96ウェル走化性チャンバーの上側ウェル上に載せた。37℃で4時間培養した後、移動しなかった細胞を擦り落として除去し、フィルターを通過して移動した細胞を脱水、固定し、ヘマトキシリン(Sigma,St.Louis,MO)で染色した。染色された細胞を前記ウェル中で無作為に選択された5つの高倍率視野(400倍)で計数した。図7Aは前記走化性分析結果を示している。ビークル、50μMのLY294002(15分)、及び50μMのPD98059(60分)で予め処理された細胞は1μMのWKYMVmと共に走化性分析に使用され、その結果を図7Bに示した。移動した細胞の数を高倍率視野(400倍)で計数して決定した。データは各々2点測定を3回実施した実験の平均値±標準誤差を示している。
【0077】
WKYMVmがモノサイト及び好中球のような貪食細胞の走化性移動を誘導できるという事実は知られている(11)。Le等はFPR及びFPRL1への結合を通じてWKYMVmが誘導する細胞の走化性を明らかにした(12)。予想したようにWKYMVmはFPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞においてつり鐘状に濃度依存的な走化性移動の活性を示した(図7A)。WKYMVmが誘導する細胞走化性はLY294002及びPD98059に感受性を示した(図7B)。この結果はWKYMVmが誘導する細胞の走化性がPI3K及びMEK依存性であることを示唆する。WKYMVmはPI3K及びMEKの活性化を通じてFPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞の走化性移動を刺激する。
【0078】
FPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞における細胞の走化性について本発明のペプチドの効果を測定した。多様な濃度の各ペプチドをFPR又はFPRL1発現RBL−2H3細胞と共に走化性分析に使用した。移動した細胞の数は高倍率の視野(400倍)で計数を測定した。データは2点測定を2回実施した実験の平均値±標準誤差を示している。
【0079】
FPR発現RBL−2H3細胞では、WKYMVmだけでなく置換したペプチド(WKGMVm及びWKRMVm、WKYMVE、WKYMVR)も細胞間の走化性を誘導した(図8A)。置換したペプチドによる走化性に必要な濃度はWKYMVmによる場合より高かった(図8B)。置換したペプチドが誘導する走化性に関与するシグナリング経路で、PI3K及びMEKが介在するシグナリングの関与に対して解析した。FPR発現RBL−2H3細胞がLY294002又はPD98059で前処理される場合、WKYMVm及び置換したペプチドが誘導するRBL細胞の移動はほとんど完全に阻害された(図7B及びデータは示さない)。FPRL1発現RBL−2H3細胞では、WKYMVm及びペプチド(WKGMVm及びWKRMVm、WKYMVE、WKYMVR)はまた、濃度依存的に細胞の走化性を誘導した(図8B)。
【0080】
本発明ではFPRが異なるリガンドによって調節され、異なる細胞のシグナリング及び作用機能的な結果を導くという事実が初めて明らかになった。FPRのリガンド特異的な調節を知るために、多様なペプチド、FPRに対して影響を及ぼすリガンドを表1に記載するように作製した。前記ペプチドのうち、WKGMVm、WKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドはFPRに結合し、PI3Kが介在するAkt及びMEKが介在するERKsの活性化を誘導する細胞の走化性移動に帰着する。これらペプチドは細胞質性のカルシウムの上昇に影響を与えることができない。WKYMVmペプチドはERKs活性化だけでなく、細胞質性のカルシウムの上昇を刺激して走化性及び脱顆粒を導くので、FPRは異なるリガンドにより異なるように調節されうるということを示唆する。
【0081】
最近、いくつかの報告によると、GPCRsは互いに異なるリガンドにより調節されるという事実が記載されている(21,22)。GPCRのリガンド特異的な調節の過程において、異なるリガンドは受容体の互いに異なる構造的変化を誘導し、一定のエフェクター分子又はGタンパク質受容体の選択的結合を誘導するということが示唆されている。表3及び図1Aにおいて、WKGMVm及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチドは、FPR発現RBL−2H3細胞においてPLCが介在する細胞質性のカルシウムの上昇を刺激できないということが説明されている。しかし、これらペプチドはFPR発現RBL−2H3細胞においてERKs及びAktリン酸化を刺激した(図3C)。WKYMVm及び本発明のペプチドが介在する細胞のシグナリングでは、細胞質性のカルシウムの上昇はPLC−βの活性化を通じてのPIの加水分解によって誘導されるが、ERKs及びAktリン酸化はそれぞれMEK及びPI3Kの活性化により誘導される。これらの結果に注意を払うと、FPRに対するペプチドリガンドの結合はFPRに構造的な変化を誘導し、このような構造的な変化はGタンパク質が介在するPLC−β又はGタンパク質が介在するPI3Kと受容体の結合を従える。細胞質性のカルシウムの上昇を誘導できないいくつかの本発明のペプチド(WKGMVm及びWKRMVm、6番目のD−Metを置換したペプチド)はPI3K依存性の経路を通じてERKsリン酸化を刺激できるために、前記ペプチドはFPRに結合してPI3K及びMEKが介在するシグナリングの活性化に必要な構造変化を誘導してRBL−2H3細胞の走化性移動が行われるようにみえる。
【0082】
ホルミルペプチド受容体ファミリーの2つの互いに異なる受容体であるFPR及びFPRL1は、自然免疫応答において、重要な役割を果たすと報告されている(1,2)。現在まで、ホルミルペプチドリポキシンA4を含むいくつかの異なるリガンドの起源はFPR又はFPRL1に結合すると報告されてきた(1)。Le等はWKYMVmがFPR及びFPRL1に結合すると報告した(12)。
【0083】
本発明において、本発明者は3番目のTyr又は6番目のD−Metを他のアミノ酸に置換すると、FPRのPLCが介在する細胞質性のカルシウム上昇活性を消失するが、FPRL1の場合にはそうではないことを説明した(図1)。これらの結果は3番目のTyr及び6番目のD−MetがFPRによるPLCの活性化には重要であるが、FPRL1による場合にはそうではないことを示している。この結果からFPR及びFPRL1のリガンド結合箇所が互いに異なるということを導き出すことができる。
【0084】
FPRを含むGPCRsはヘテロ3量体Gタンパク質に対する結合を通じて細胞内シグナリングを誘導し、多くの研究グループではGタンパク質の結合に関与する受容体の重要なアミノ酸残基を明らかにすることが試みられている(23,24)。FPRにおいて、Miettinen等は35変異FPRsを作製してGタンパク質の結合及びFPRの細胞シグナリングに与える変異の影響を調べた。その論文によると、S63,及びD71,R123,C124/C126がFPRに対するGタンパク質の結合に重要であることが示された(24)。前記変異の中にはカルシウムの動員を介在させることができないR123A変異がfMLFによりERKsリン酸化の誘導を可能にしている(24)。また、Asp122及びArg123は、保存された(D/E)RYモチーフ(FPRにおけるDRC)を形成するものであるが、これらは受容体の不活性の構造を安定化させる水素結合ネットワークに関与すると仮定されている(24)。その仮定において、受容体に対するリガンドの結合は水素結合ネットワークの変形を引き起こし、さらに一定のアミノ酸残基、例えばDRYモチーフにおけるアルギニンが露出されてGタンパク質と相互作用することができるようになる(24)。WKGMVmのようないくつかのペプチドはERKsのリン酸化を誘導するが、カルシウムの動員は誘導できないことが示された。FPRに対してWKYMVm又はWKGMVmの結合がレセプターの構造の変化を異なるように誘導するかどうか、すなわちWKYMVmがDRYモチーフの水素結合の変形を含むFPRの構造的変化を誘導するが、WKGMVmは単にDRYの水素結合に影響を与えずに受容体の特徴的な構造変化だけを誘導するかどうかを決定することが重要である。FPRL1の場合には、DRYモチーフを含む(FPRL1におけるDRC)が、Gタンパク質結合での役割は確認されなかった。この結果として、WKYMVmだけでなくWKGMVmもFPRL1発現RBL−2H3細胞でカルシウムの動員を誘導した(図1B)。これらの結果はWKYMVm又はWKGMVmがFPR又はFPRL1においてDRYモチーフの水素結合に影響を与えないことを示唆する。他の結合ポケットがペプチドの結合に関与し、さらなる働きとして、FPRに対するWKYMVm又はWKGMVmの異なる結合パターンに関与する残基を同定することが重要になるだろう。
【0085】
現在まで一定の天然リガンドがFPRを互いに異なるように調節することは報告されていない。免疫系において脱顆粒又は走化性移動の異なる調節はさらに限定された調節を必要とする。このような観点において本発明のようにFPRを異なるように調節するリガンドを同定することが重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド。
【請求項2】
白血球を活性化し、分離され、実質的に純粋な形態で存在することを特徴とする請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質。
【請求項4】
(a)ヒトのモノサイト又は好中球によりスーパーオキシド生成を誘導し、
(b)ヒト末梢血単核球又は好中球により細胞内カルシウムの上昇を誘導し、
(c)FPR又はFPRL1に結合し、
(d)in vitroにおいてヒトのモノサイト又は好中球の走化性による移動を誘導し、
(e)FPR発現細胞又はFPRL1発現細胞において脱顆粒を誘導し、
(f)FPR又はFPRL1の活性化を通じてERKのリン酸化を刺激し、及び、
(g)FPR又はFPRL1の活性化を通じてAktのリン酸化を刺激する特性のうち、少なくとも1つの特性を有することを特徴とする請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチド、又は[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドから誘導される物質を含む医薬組成物。
【請求項6】
[配列番号:2]から[配列番号:14]、[配列番号:16]から[配列番号:19]並びに[配列番号:15]及び[配列番号:25]の混合物よりなる群から選択されるアミノ酸配列のペプチドをコードする塩基配列を含む分離されたヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のヌクレオチドを含んでいることを特徴とするベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−77(P2010−77A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164090(P2009−164090)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【分割の表示】特願2003−564067(P2003−564067)の分割
【原出願日】平成15年1月28日(2003.1.28)
【出願人】(502258417)ポスコ (73)
【出願人】(503367099)ポステック ファンデーション (15)
【Fターム(参考)】