説明

免震スリットカバー構造

【課題】地震時の挙動に追従しつつ、免震構造の構造物の内部に風雨が入るのを防止できる免震スリットカバー構造を提供すること。
【解決手段】免震スリットカバー構造は、略水平方向に延びる免震スリット10により上部が免震化された建物について、免震スリット10に形成された段差部13を覆う。段差部13には、矩形状の四方枠31と、この四方枠31の建物1の外部側に開閉可能に設けられ扉32と、が設けられる。四方枠31は、下枠41を含む第1フレーム40と上枠51を含む第2フレーム50とに、対角線に沿って分割されている。扉32は、第1フレーム40にスプリングヒンジ43で支持され、上枠51の中央よりもスプリングヒンジ43寄りの位置には、戸当り53が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震スリットカバー構造に関する。詳しくは、免震構造の構造物に設けられた免震スリットの段差部を覆う免震スリットカバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存建物の一部を免震化することが行われている。具体的には、既存建物の中間階の柱に積層ゴムなどの免震装置を設置し、同じ階の壁に水平に免震スリットを形成して、この免震スリットより上部を免震部分とし、下部を非免震部分とする(特許文献1参照)。この免震スリットの位置は、例えば、1階柱の柱頭部と2階床との間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3551816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建物の構造によっては、免震スリットを所定の高さの水平面のみに配することができず、一つの壁であっても、免震スリットの高さ位置が変化し、免震スリットの一部に段差部が形成される場合がある。この場合、段差部は、高さが異なり水平方向に延びる2本のスリットと、これら水平なスリットの端部同士を繋ぐ鉛直方向に延びるスリットと、で構成されることになる。地震時には、建物の免震部分が相対変位することにより段差部の幅が変化するため、鉛直方向に延びるスリットの幅は大きくなっており、これにより、段差部は矩形状となっている。
【0005】
以上のような矩形状の段差部を塞ぐ場合、ステンレス製やゴム製の蛇腹状のカバーで覆うことが多い。
しかしながら、外部に面した壁の段差部では、これらのカバーでは、風雨が建物内に入るのを十分に防ぐことができないため、この部分を建物の内部側に大きく窪ませたり、庇を大きく張り出したりして、風雨を防ぐ工夫が必要であった。
【0006】
一方、一般のスチール扉を段差部に設置すると、風雨が建物内に入るのを防ぐ効果は高いものの、地震時に生じる段差部の挙動に追従できずに損傷する可能性が高いうえに、扉がスリットに挟まって建物の免震性能を維持できないおそれもあった。
【0007】
本発明は、地震時の挙動に追従しつつ、免震構造の構造物の内部に風雨が入るのを防止できる免震スリットカバー構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の免震スリットカバー構造は、略水平方向に延びる免震スリットにより上部が免震化された構造物について、前記免震スリットに形成された段差部を覆う免震スリットカバー構造であって、前記段差部に取り付けられた矩形状の四方枠と、当該四方枠の前記構造物の外部側に開閉可能に設けられた扉と、を備え、前記四方枠は、下枠を含む第1フレームと上枠を含む第2フレームとに対角線に沿って分割され、前記扉は、前記第1フレームにヒンジで支持され、前記上枠の中央よりも前記ヒンジ寄りの位置には、戸当りが設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の免震スリットカバー構造は、略水平方向に延びる免震スリットにより上部が免震化された構造物について、前記免震スリットに形成された段差部を覆う免震スリットカバー構造であって、前記段差部に取り付けられた矩形状の四方枠と、当該四方枠の前記構造物の外部側に開閉可能に設けられた扉と、を備え、前記四方枠は、下枠を含む第1フレームと上枠を含む第2フレームとに対角線に沿って分割され、前記扉は、前記第2フレームにヒンジで支持され、前記下枠の中央よりも前記ヒンジ寄りの位置には、戸当りが設けられていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、四方枠を第1フレームと第2フレームとに分割したので、第1フレームを段差部の非免震部分に取り付け、第2フレームを段差部の免震部分に取り付けることで、地震時の挙動に追従できる。
また、四方枠を扉で塞ぐので、風雨が構造物の内部に入るのを防止できるうえに、防犯効果を高めることができる。
【0011】
また、扉を第1フレームで支持して、上枠の中央よりもヒンジ寄りの位置に戸当りを設ける。あるいは、扉を第2フレームで支持して、下枠の中央よりもヒンジ寄りの位置に戸当りを設ける。よって、地震時に第2フレームが相対変位して、この第2フレームにより扉が押圧されても、戸当りがあるために、扉の開き方向が規制されて構造物の外側に向かって開くことになる。よって、扉を含む段差部が損傷するのを防止できる。ひいては、地震時においても、構造物の免震性能を維持できる。
【0012】
請求項3に記載の免震スリットカバー構造は、前記下枠の上面は、内側よりも外側が低くなる傾斜面または段差を有することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、下枠の上面に、内側よりも外側が低くなる傾斜面または段差を設けた。よって、扉による密閉効果を高めるとともに、雨水が扉や下枠を伝って構造物の内部に浸入するのを防止できる。
【0014】
請求項4に記載の免震スリットカバー構造は、前記扉の戸先側の端面は、前記構造物の外側に向かうに従って吊元から離れるように傾斜していることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、戸先側の端面を、構造物の外側に向かうに従って吊元から離れるように傾斜させた。よって、地震時に第2フレームが相対変位して、この第2フレームにより扉が押圧されても、戸先側の端面が傾斜しているため、第2フレームの押圧力を内側に逃がして、構造物の外側に向かって開くことになる。よって、扉が損傷するのを防止できる。
【0016】
請求項5に記載の免震スリットカバー構造は、前記戸当りには、鉛直方向を回転軸として回転可能な滑車が設けられていることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、戸当りに滑車を設けたので、地震時に扉が戸当りに対して相対変位しても、扉が戸当りに対して円滑に摺動できる。
【0018】
請求項6に記載の免震スリットカバー構造は、前記ヒンジは、スプリングヒンジであることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、ヒンジをスプリングヒンジとしたので、このスプリングヒンジにより扉が閉じる方向に付勢されるから、扉が閉じた状態を容易に維持して、風雨が構造物の内部に入るのを確実に防止できるうえに、防犯効果がさらに高まる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、四方枠を第1フレームと第2フレームとに分割したので、第1フレームを段差部の非免震部分に取り付け、第2フレームを段差部の免震部分に取り付けることで、地震時の挙動に追従できる。また、四方枠を扉で塞ぐので、風雨が構造物の内部に入るのを防止できるうえに、防犯効果が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る免震スリットカバー構造が適用された建物のエントランス部分の正面図である。
【図2】前記実施形態に係る建物の段差部の正面図である。
【図3】前記実施形態に係る段差部の横断面図である。
【図4】前記実施形態に係る段差部の縦断面図である。
【図5】前記実施形態に係る段差部の地震前の状態を示す斜視図である。
【図6】前記実施形態に係る段差部の地震時の挙動を示す斜視図(その1)である。
【図7】前記実施形態に係る段差部の地震時の挙動を示す斜視図(その2)である。
【図8】前記実施形態に係る段差部の地震時の挙動を示す斜視図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る免震スリットカバー構造が適用された構造物としての建物1のエントランス部分の正面図である。
【0023】
建物1は、中間階で免震化された既存建物であり、この建物1の1階外壁の所定の高さ(床面からの高さA)には、免震スリット10が形成されている。これにより、この免震スリット10より上側が免震部分11であり、下側が非免震部分12となっている。この免震スリット10は、建物1を水平に切断するように全ての壁に形成され、外壁については、略水平に延びて、建物1の外周を一周している。
【0024】
建物1のエントランス部分には、大型の玄関サッシ20が取り付けられている。
玄関サッシ20は、ステンレス製であり、外枠21と、この外枠21に開閉可能に支持された玄関扉22と、を備える。
【0025】
この玄関サッシ20の外枠21の上端は、免震スリット10の所定の高さAよりも高い位置にある。そのため、玄関サッシ20部分の免震スリット10Aは、玄関サッシ20の外枠21上側(床面からの高さB)に位置している。
【0026】
よって、玄関サッシ20の両側には、床面からの高さAで水平方向に延びる免震スリット10と床面からの高さBで水平方向に延びる免震スリット10Aとの間で段差部13が形成される。
【0027】
以下、図1中左側の段差部13についてのみ説明するが、図1中右側の段差部13についても、この図1中左側の段差部13と同様の構成である。
図2は、段差部13の正面図、図3は、段差部13の横断面図、図4は、段差部13の縦断面図である。
【0028】
段差部13には、矩形状の四方枠31と、この四方枠31の建物1の外部側に開閉可能に設けられた扉32と、四方枠31の建物1の内部側に設けられた内カバー33と、四方枠31の内部に設けられた耐火材34と、が設けられている。
【0029】
四方枠31は、スチール製であり、対角線に沿って第1フレーム40と第2フレーム50とに二分割されている。
【0030】
第1フレーム40は、段差部13の非免震部分12に取り付けられ、略水平方向に延びる下枠41と、この下枠41の一端から上方に向かって延びる縦枠42と、を備える。
下枠41の上面は、建物1の外側に向かうに従って下方に向かう傾斜面と段差とを有している。これにより、下枠41の外側は、内側よりも低くなっている。
また、縦枠42には、スプリングヒンジ43が取り付けられている。
【0031】
扉32は、スチール製であり、スプリングヒンジ43を介して縦枠42に支持されている。この扉32は、スプリングヒンジ43により閉じる方向に付勢されている。
また、この扉32の下面には、扉32の内部に浸入した雨水を排出するための水抜き孔321が形成されている。
また、扉32の戸先側の端面32Aは、建物1の外側に向かうに従って吊元から離れるように傾斜している。
【0032】
第2フレーム50は、段差部13の免震部分11に取り付けられ、略水平方向に延びる上枠51と、この上枠51の一端から下方に向かって延びる縦枠52と、を備える。
第2フレーム50の上枠51の中央よりもスプリングヒンジ43寄りの位置には、戸当り53が設けられている。この戸当り53には、鉛直方向を回転軸として回転可能な滑車531が設けられている。
【0033】
また、第2フレーム50の縦枠52には、扉32を閉じた状態で保持するマグネットキャッチ54が設けられている。
【0034】
内カバー33は、スチール製であり、蛇腹状に形成されて水平方向に伸縮可能な構造である。この内カバー33の上下には、ゴム製の板材331が取り付けられている。この内カバー33は、四方枠31の建物1の内部側で、第1フレーム40の縦枠42と第2フレーム50の縦枠52とに跨って設けられている。
この内カバー33は、地震時に第1フレーム40の縦枠42と第2フレーム50の縦枠52とが相対変位しても、水平方向に伸縮することで、この地震時の建物1の挙動に追従できるようになっている。
【0035】
耐火材34は、セラミックファイバであり、蛇腹状に形成されて水平方向に伸縮可能な構造である。この耐火材34は、四方枠31の内部で第1フレーム40の縦枠42と第2フレーム50の縦枠52とに跨って設けられている。
この耐火材34は、地震時に第1フレーム40の縦枠42と第2フレーム50の縦枠52とが相対変位しても、水平方向に伸縮することで、この地震時の建物1の挙動に追従できるようになっている。
【0036】
次に、段差部13の扉32の地震時の動作について説明する。
地震前の状態では、図5に示すように、扉32は、スプリングヒンジ43により閉じる方向に付勢されて、戸当り53に当接しつつ、マグネットキャッチ54により保持されている。
【0037】
この状態から、免震部分11が建物1の外側に向かって相対変位する場合を想定する。この場合、図6に示すように、扉32が戸当り53に押されるので、この扉32は、マグネットキャッチ54から外れて開く。この状態でも、スプリングヒンジ43により閉じる方向に付勢されているので、扉32の開度が小さくなっている。
【0038】
次に、図5に示す状態から、免震部分11が建物1の外壁面に沿って第1フレーム40と第2フレーム50とが離隔する方向に相対変位する場合を想定する。この場合、図7に示すように、扉32がマグネットキャッチ54から外れるが、この状態でも、扉32が戸当り53に当接するため、扉32が四方枠31の内部側に入り込まないようになっている。
【0039】
次に、図5に示す状態から、免震部分11が建物1の外壁面に沿って第1フレーム40と第2フレーム50とが接近する方向に相対変位する場合を想定する。この場合、図8に示すように、扉32が第2フレーム50に押圧されるが、戸当り53および扉32の戸先側の端面32Aにより、扉32は建物1の外側に向かって開く。
【0040】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)四方枠31を第1フレーム40と第2フレーム50とに分割したので、第1フレーム40を段差部13の非免震部分12に取り付け、第2フレーム50を段差部13の免震部分11に取り付けることで、地震時の挙動に追従できる。
また、四方枠31を扉32で塞ぐので、風雨が建物1の内部に入るのを防止できるうえに、防犯効果を高めることができる。
【0041】
また、扉32を第1フレーム40で支持して、第2フレーム50の上枠51の中央よりもスプリングヒンジ43寄りに戸当り53を設けるとともに、扉32の戸先側の端面32Aを、建物1の外側に向かうに従って吊元から離れるように傾斜させた。よって、地震時に第2フレーム50が相対変位して、この第2フレーム50の縦枠52により扉32の端面が押圧されても、戸当り53により扉32の開き方向が規制されるとともに、扉32の戸先側の端面32Aが傾斜しているために、第2フレーム50の押圧力を内側に逃がすことになる。よって、扉32が四方枠31の内部側入り込まずに、建物1の外側に向かって開くことになる。よって、扉32を含む段差部13が損傷するのを防止できる。ひいては、地震時においても、建物1の免震性能を維持できる。
【0042】
(2)下枠41の上面に、内側よりも外側が低くなる傾斜面および段差を設けた。よって、扉32による密閉効果を高めるとともに、雨水が扉32や下枠41を伝って建物1の内部に浸入するのを防止できる。
【0043】
(3)戸当り53に滑車531を設けたので、地震時に扉32が戸当り53に対して相対変位しても、扉32が戸当り53に対して円滑に摺動できる。
【0044】
(4)ヒンジをスプリングヒンジ43としたので、このスプリングヒンジ43により扉32が閉じる方向に付勢されるから、扉32が閉じた状態を容易に維持して、風雨が建物1の内部に入るのを確実に防止できるうえに、防犯効果をさらに高めることができる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…建物(構造物)
10、10A…免震スリット
11…免震部分
12…非免震部分
13…段差部
20…玄関サッシ
21…外枠
22…玄関扉
31…四方枠
32…扉
32A…戸先側の端面
33…内カバー
34…耐火材
40…第1フレーム
41…下枠
42、52…縦枠
43…スプリングヒンジ
50…第2フレーム
51…上枠
53…戸当り
54…マグネットキャッチ
321…水抜き孔
331…板材
531…滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略水平方向に延びる免震スリットにより上部が免震化された構造物について、前記免震スリットに形成された段差部を覆う免震スリットカバー構造であって、
前記段差部に取り付けられた矩形状の四方枠と、
当該四方枠の前記構造物の外部側に開閉可能に設けられた扉と、を備え、
前記四方枠は、下枠を含む第1フレームと上枠を含む第2フレームとに対角線に沿って分割され、
前記扉は、前記第1フレームにヒンジで支持され、
前記上枠の中央よりも前記ヒンジ寄りの位置には、戸当りが設けられていることを特徴とする免震スリットカバー構造。
【請求項2】
略水平方向に延びる免震スリットにより上部が免震化された構造物について、前記免震スリットに形成された段差部を覆う免震スリットカバー構造であって、
前記段差部に取り付けられた矩形状の四方枠と、
当該四方枠の前記構造物の外部側に開閉可能に設けられた扉と、を備え、
前記四方枠は、下枠を含む第1フレームと上枠を含む第2フレームとに対角線に沿って分割され、
前記扉は、前記第2フレームにヒンジで支持され、
前記下枠の中央よりも前記ヒンジ寄りの位置には、戸当りが設けられていることを特徴とする免震スリットカバー構造。
【請求項3】
前記下枠の上面は、内側よりも外側が低くなる傾斜面または段差を有することを特徴とする請求項1または2に記載の免震スリットカバー構造。
【請求項4】
前記扉の戸先側の端面は、前記構造物の外側に向かうに従って吊元から離れるように傾斜していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の免震スリットカバー構造。
【請求項5】
前記戸当りには、鉛直方向を回転軸として回転可能な滑車が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の免震スリットカバー構造。
【請求項6】
前記ヒンジは、スプリングヒンジであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の免震スリットカバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−197613(P2012−197613A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62939(P2011−62939)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】