説明

免震装置

【課題】振動や衝撃に起因した機能の低下を抑制しつつ、転動体の耐食性の向上を達成することが可能な免震装置を提供する。
【解決手段】それぞれ第1保持部11Aおよび第2保持部12Aを有し、第1保持部11Aおよび第2保持部12Aが互いに対向するように配置された第1保持部材11および第2保持部材12と、第1保持部材11および第2保持部材12の間において第1保持部11Aおよび第2保持部12Aに接触し、第1保持部11Aおよび第2保持部12A上を転動可能に配置された玉13とを備えた免震装置1を構成する玉13は、Si6−ZAl8−Zの組成式で表され、0.5≦z≦3.0を満たすβサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成され、ヤング率が180GPa以上270GPa以下となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置に関し、より特定的には、βサイアロンを主成分とする焼結体からなる構成部品を備えた免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免震装置は、建造物などの構造体と建造物の基礎などの土台との間に配置され、土台に伝達された地震などの振動が構造体に伝達されることを抑制する機能を有する。この免震装置としては、保持部を有し、当該保持部が互いに対向するように配置された一対の保持部材と、一対の保持部材の間において保持部に接触し、保持部上を転動可能に配置された転動体である鋼球とを備えるものが提案されている。このような構成によれば、鋼球が転動することにより、土台側の一方の保持部材に伝達された振動が、他方の保持部材に伝達されることが抑制される(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平3−228940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、特に建造物に使用される免震装置は、長期間その機能を保持することが求められる。しかしながら、保持部材の間に鋼球を配置した上記構成では、長期間の使用中において、保持部材と点接触する鋼球に腐食が発生するおそれがある。
【0004】
これに対し、上記鋼球に代えて、窒化珪素(Si)やアルミナ(Al)などのセラミックスの転動体を採用する対策が考えられる。セラミックスは、鋼に比べて耐食性に優れている。そのため、上記対策は、腐食の対策として有効である。
【0005】
一方、窒化珪素やアルミナは、鋼に比べてヤング率が大きく、弾性変形しにくいという特徴がある。そのため、鋼球に代えて窒化珪素やアルミナなどからなるセラミックスのボール(転動体)を採用した場合、転動体と保持部材との接触面積は小さくなり、接触面圧が大きくなる傾向にある。したがって、免震装置の転動体として窒化珪素やアルミナなどからなる転動体が採用されている場合、振動や衝撃が作用すると、保持部材に圧痕などの損傷が発生しやすくなる。そして、保持部材に圧痕などの損傷が発生した場合、転動体のスムーズな転動が妨げられ、免震装置の機能が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、振動や衝撃に起因した機能の低下を抑制しつつ、転動体の耐食性の向上を達成することが可能な免震装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った免震装置は、保持部を有し、当該保持部が互いに対向するように配置された一対の保持部材と、一対の保持部材の間において保持部に接触し、保持部上を転動可能に配置された転動体とを備えている。そして、転動体は、窒化珪素からなる場合に比べて保持部材に対する衝撃を抑制することが可能なセラミックスからなっている。より具体的には、たとえば転動体は、窒化珪素からなる場合に比べてヤング率が小さくなるセラミックスからなっている。
【0008】
本発明の免震装置によれば、衝撃が作用した場合でも保持部材における損傷が抑制されるため、振動や衝撃に起因した機能の低下を抑制しつつ、転動体の耐食性の向上を達成することが可能な免震装置を提供することができる。
【0009】
本発明の一の局面における免震装置は、保持部を有し、当該保持部が互いに対向するように配置された一対の保持部材と、一対の保持部材の間において保持部に接触し、保持部上を転動可能に配置された転動体とを備えている。そして、転動体は、βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成される。
【0010】
本発明の他の局面における免震装置は、保持部を有し、当該保持部が互いに対向するように配置された一対の保持部材と、一対の保持部材の間において保持部に接触し、保持部上を転動可能に配置された転動体とを備えている。そして、転動体は、βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる焼結体から構成される。
【0011】
本発明の一の局面における免震装置においては、耐食性に優れたセラミックスであるβサイアロン焼結体(βサイアロンを主成分とする焼結体)が採用されている。そのため、転動体の耐食性の向上が達成される。さらに、βサイアロン焼結体は、窒化珪素(Si)やアルミナ(Al)などの一般的なセラミックスからなる焼結体に比べてヤング率が小さい。そのため、ヤング率が高いことに起因した振動や衝撃による保持部材の損傷が抑えられ、免震装置の機能の低下を抑制することができる。以上のように、本発明の一の局面における免震装置によれば、振動や衝撃に起因した機能の低下を抑制しつつ、転動体の耐食性の向上を達成することが可能な免震装置を提供することができる。
【0012】
また、本発明の他の局面における免震装置は、基本的には上記本発明の一の局面における免震装置と同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。しかし、本発明の他の局面における免震装置では、焼結体が焼結助剤を含む点で上記本発明の一の局面における免震装置とは異なっている。本発明の他の局面における免震装置によれば、焼結助剤の採用により、焼結体の気孔率を低下させやすくなり、十分な耐久性を安定して確保することが可能な免震装置を容易に提供することができる。
【0013】
なお、焼結助剤としては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、希土類元素の酸化物、窒化物、酸窒化物のうち少なくとも一種類以上を採用することができる。また、上記本発明の一の局面における免震装置と同等の作用効果を奏するためには、焼結助剤は、焼結体のうち20質量%以下とすることが望ましい。
【0014】
上記免震装置において好ましくは、上記βサイアロンは、Si6−ZAl8−Zの組成式で表され、0.5≦z≦3.0を満たす。
【0015】
本発明者は、振動や衝撃が作用する環境下における免震装置の耐久性とβサイアロンの組成との関係を詳細に調査した。その結果、以下の知見が得られた。βサイアロンは、燃焼合成を含む製造工程を採用することにより、上記zの値(以下、z値という)が0.1以上となる種々の組成を有するものを安価に製造することができる。そして、一般に転動体の耐久性に大きな影響を与える硬度は、製造の容易なz値4.0以下の範囲において、ほとんど変化しない。しかしながら、振動や衝撃が作用する環境下における免震装置の耐久性とz値との関係を詳細に調査したところ、z値が3.0を超えると免震装置の耐久性が低下することが分かった。
【0016】
より具体的には、z値が0.5以上3.0以下の範囲においては、耐久性はほぼ同等で、試験時間が所定時間を超えると、保持部材の表面に剥離が発生して破損する。これに対し、z値が3.0を超えると転動体の表面に損傷が発生しやすくなり、これに起因して耐久性が低下する。したがって、βサイアロン焼結体からなる転動体の損傷を抑制し、免震装置の耐久性を向上させるためには、z値を3.0以下とすることが好ましい。
【0017】
一方、z値が0.5未満となると、保持部材に損傷が発生し易くなり、免震装置の耐久性が低下することが分かった。したがって、保持部材の損傷を抑制し、免震装置の耐久性を向上させるためには、z値は0.5以上とすることが好ましい。以上のように、上記βサイアロンを0.5≦z≦3.0を満たすものとすることにより、振動や衝撃が作用する環境下における耐久性に優れた免震装置を提供することができる。
【0018】
上記免震装置において好ましくは、上記βサイアロンは、Si6−ZAl8−Zの組成式で表され、1.0≦z≦2.0を満たす。
【0019】
これにより、免震装置の内部に硬質の異物が侵入する環境下における免震装置の耐久性を向上させることができる。
【0020】
上記免震装置において好ましくは、上記転動体のヤング率は180GPa以上270GPa以下である。
【0021】
転動体のヤング率が高くなると、転動体を構成する素材(βサイアロン焼結体)の強度が上昇する傾向にある。しかし、その反面、転動体のヤング率が高くなると、転動体が弾性変形しにくくなるため、保持部材との接触面積が小さくなり、接触面圧が高くなる。その結果、保持部材に損傷が発生し易くなる。一方、転動体のヤング率が低くなると、転動体が弾性変形しやすくなるため、保持部材との接触面積が大きくなり、接触面圧が低くなる。しかし、その反面、転動体のヤング率が低くなると、これに伴って転動体を構成する素材の強度が低下する傾向にある。そのため、転動体のヤング率は、転動体を構成する素材の強度と保持部材との間における接触面圧の低減とのバランスを確保可能な範囲とすることが必要である。
【0022】
より具体的には、βサイアロン焼結体からなる転動体のヤング率が180GPa未満の場合、転動体を構成する素材の強度低下の影響が接触面圧の低減の効果を上回り、転動体の耐久性が低下する。また、保持部材との接触面積が増大することに伴い、保持部材との間に作用する摩擦力が増加して振動の伝達を抑制するという免震装置の機能が低下するという問題も発生する。したがって、βサイアロン焼結体からなる転動体のヤング率は、180GPa以上であることが好ましく、220GPa以上であることがより好ましい。ここで、硬質の異物とは、たとえば泥水に含まれる砂などであって、HV550以上の硬度を有する固形物をいう。
【0023】
一方、βサイアロン焼結体からなる転動体のヤング率が270GPaを超えると、接触面圧の増加の影響が転動体を構成する素材の強度上昇の効果を上回り、保持部材の接触面に圧痕などの損傷が発生しやすくなる。したがって、βサイアロン焼結体からなる転動体のヤング率は、270GPa以下であることが好ましく、260GPa以下であることが好ましい。
【0024】
上記免震装置においては、保持部材は鋼からなるものとすることができる。この場合、当該保持部材の表面硬度はHV680以上であることが好ましい。これにより、振動や衝撃が作用した場合、あるいは免震装置内に硬質の異物が侵入した場合における保持部材の損傷を抑制することができる。
【0025】
上記免震装置において好ましくは、上記転動体は、保持部材と接触する面である接触面を含む領域に、内部よりも緻密性の高い層である緻密層を有している。
【0026】
上述のβサイアロン焼結体からなる転動体においては、その緻密性が耐久性に大きく影響する。これに対し、上記構成によれば、接触面を含む領域に内部よりも緻密性の高い層である緻密層が形成されていることにより、耐久性が向上する。その結果、十分な耐久性を安定して確保することが可能な免震装置を提供することができる。
【0027】
ここで、緻密性の高い層とは、焼結体において空孔率の低い(密度の高い)層であって、たとえば以下のように調査することができる。まず、βサイアロン焼結体からなる転動体の表面に垂直な断面において転動体を切断し、当該断面を鏡面ラッピングする。その後、鏡面ラッピングされた断面を光学顕微鏡の斜光(暗視野)にて、たとえば50〜100倍程度で撮影し、300DPI(Dot Per Inch)以上の画像として記録する。このとき、白色の領域として観察される白色領域は、空孔率の高い(密度の低い)領域に対応する。したがって、白色領域の面積率が低い領域は、当該面積率が高い領域に比べて緻密性が高い。そして、記録された画像を、画像処理装置を用いて輝度閾値により2値化処理した上で白色領域の面積率を測定し、当該面積率により、撮影された領域の緻密性を知ることができる。
【0028】
つまり、上記免震装置において好ましくは、上記焼結体は、接触面を含む領域に内部よりも白色領域の面積率の低い層である緻密層が形成されている。なお、上記撮影は、ランダムに5箇所以上で行ない、上記面積率は、その平均値で評価することが好ましい。また、上記焼結体の内部における上記白色領域の面積率は、たとえば15%以上である。また、βサイアロン焼結体からなる転動体の耐久性を一層向上させるためには、上記緻密層は100μm以上の厚みを有していることが好ましい。
【0029】
上記免震装置において好ましくは、緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は7%以下である。
【0030】
白色領域の面積率が7%以下となる程度に上記緻密層の緻密性を向上させることで、βサイアロン焼結体からなる転動体の耐久性がより向上する。したがって、上記構成により、本発明の免震装置の耐久性を一層向上させることができる。
【0031】
上記免震装置において好ましくは、緻密層の表面を含む領域には、緻密層内の他の領域よりもさらに緻密性の高い層である高緻密層が形成されている。
【0032】
緻密性のさらに高い高緻密層が緻密層の表面を含む領域に形成されることにより、βサイアロン焼結体からなる転動体の耐久性がより向上し、免震装置の耐久性を一層向上させることができる。
【0033】
上記免震装置において好ましくは、高緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は3.5%以下である。
【0034】
白色領域の面積率が3.5%以下となる程度に上記高緻密層の緻密性を向上させることで、βサイアロン焼結体からなる転動体の耐久性がより向上する。したがって、上記構成により、本発明の免震装置の耐久性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から明らかなように、本発明の免震装置によれば、振動や衝撃に起因した機能の低下を抑制しつつ、転動体の耐食性の向上を達成することが可能な免震装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0037】
図1は、本発明の一実施の形態における免震装置の構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の線分II−IIに沿う概略断面図である。図1および図2を参照して、本発明の一実施の形態における免震装置について説明する。
【0038】
図1および図2を参照して、本実施の形態における免震装置1は、建造物の基礎21上に固定された第2保持部材12と、突出部15を有し、突出部15が建造物の底壁22に形成された凹部23に嵌め込まれるように配置された第1保持部材11と、第1保持部材11と第2保持部材12との間に配置された転動体としての玉13とを備えている。
【0039】
第2保持部材12は、基礎21に面する側とは反対側の面に形成された凹部である第2保持部12Aを有し、ボルトなどの固定部材により、基礎21に対して固定されている。第1保持部材11は、建造物の底壁22に面する側とは反対側の面に形成された凹部である第1保持部11Aを有し、弾性体としてのばね16を挟んで建造物の底壁22と対向するように配置されている。つまり、ばね16は、建造物の底壁22と第1保持部材11との間において、建造物の底壁22および第1保持部材11に接触するように配置されている。また、建造物の底壁22に形成された凹部23の上面23Aと第1保持部材11に形成された突出部15の上面15Aとの間にギャップ23Bが形成されるように、第1保持部材11は配置されている。
【0040】
さらに、第1保持部11Aと第2保持部12Aとが対向するように、第1保持部材11および第2保持部材12は配置されている。そして、玉13は、第1保持部11Aおよび第2保持部12Aに、その表面である玉接触面13Aにおいて接触するように配置されることにより、第1保持部11Aおよび第2保持部12A上を転動可能となっている。また、第1保持部11Aは、円形状の平坦な面である平坦部11A1と、平坦部11A1を取り囲むように配置され、平坦部11A1に対して傾斜した面である傾斜部11A2とを含んでいる。この傾斜部11A2は、平坦部11A1から離れるに従って、平坦部11A1に対する傾斜が大きくなるように形成されている。一方、第2保持部12Aも、上記第1保持部11Aと同様に、円形状の平坦な面である平坦部12A1と、平坦部12A1を取り囲むように配置され、平坦部12A1に対して傾斜した面である傾斜部12A2とを含んでいる。この傾斜部12A2は、平坦部12A1から離れるに従って、平坦部12A1に対する傾斜が大きくなるように形成されている。つまり、第1保持部11Aおよび第2保持部12Aは、外周部において、その深さが徐々に浅くなるように形成されている。
【0041】
そして、玉13は、第1保持部11Aの平坦部11A1の中央と、第2保持部12Aの平坦部12A1の中央とに接触するように配置されている。以上の構成により、第1保持部材11と第2保持部材12とは、玉13との接触を維持しつつ、平坦部11A1および平坦部12A1に平行な種々の方向に対して互いに相対的に変位することができる。つまり、免震装置1は、それぞれ保持部としての第1保持部11Aおよび第2保持部12Aを有し、第1保持部11Aおよび第2保持部12Aが互いに対向するように配置された一対の保持部材としての第1保持部材11および第2保持部材12と、第1保持部材11および第2保持部材12の間において第1保持部11Aおよび第2保持部12Aに接触し、第1保持部11Aおよび第2保持部12A上を転動可能に配置された転動体としての玉13とを備えている。
【0042】
次に、免震装置1の動作について説明する。地震などの振動が基礎21に伝達されると、基礎21に固定された第2保持部材12は基礎21とともに振動する。このとき、玉13は、ばね16の弾性により第1保持部11Aおよび第2保持部12Aに接触した状態を維持しつつ、第1保持部11Aおよび第2保持部12A上を転動する。これにより、第2保持部材12から第1保持部11Aに伝達される振動が抑制される。その結果、基礎21から建造物の底壁22に伝達される振動が抑制され、底壁22上の建造物の振動が低減される。さらに、玉13が第1保持部11Aおよび第2保持部12A上を転動し、傾斜部11A2,12A2に接触する位置にまで変位すると、玉13を平坦部11A1,12A1に接触する位置に戻そうとする力が作用する。その結果、上記振動が減衰する。
【0043】
次に、転動体としての玉13について説明する。図1および図2を参照して、本実施の形態における転動体としての玉13は、Si6−ZAl8−Zの組成式で表され、0.5≦z≦3.0を満たすβサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成され、ヤング率が180GPa以上270GPa以下となっている。さらに、図1を参照して、玉13の接触面である玉接触面13Aを含む領域には、内部13Cよりも緻密性の高い層である玉緻密層13Bが形成されている。この玉緻密層13Bの断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は7%以下である。そのため、本実施の形態における免震装置1は、振動や衝撃に起因した機能の低下を抑制しつつ、転動体の耐食性の向上を達成することが可能な免震装置となっている。上記不純物は、原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものを含む不可避的不純物を含む。
【0044】
さらに、図1を参照して、玉緻密層13Bの表面である玉接触面13Aを含む領域には、玉緻密層13B内の他の領域よりもさらに緻密性の高い層である玉高緻密層13Dが形成されている。玉高緻密層13Dの断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は3.5%以下となっている。これにより、玉13の耐久性がより向上し、免震装置1の耐久性が一層向上している。
【0045】
なお、上記本実施の形態においては、免震装置1を構成する玉13は、βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる焼結体から構成されていてもよい。焼結助剤を含むことで、焼結体の気孔率を低下させやすくなり、十分な耐久性を安定して確保することが可能な免震装置1を、容易に提供することができる。上記不純物は、原料に由来するもの、あるいは製造工程において混入するものを含む不可避的不純物を含む。
【0046】
次に、本実施の形態における免震装置の製造方法について説明する。図3は、本発明の一実施の形態における免震装置の製造方法の概略を示す図である。また、図4は、本発明の一実施の形態におけるβサイアロン焼結体からなる転動体の製造方法の概略を示す図である。
【0047】
図3を参照して、本実施の形態における免震装置の製造方法においては、まず、保持部材を製造する保持部材製造工程と、転動体を製造する転動体製造工程とが実施される。具体的には、保持部材製造工程では、第1保持部材11、第2保持部材12などが製造される。一方、転動体製造工程では、玉13などが製造される。
【0048】
そして、保持部材製造工程において製造された保持部材と、転動体製造工程において製造された転動体とを組み合わせることにより、免震装置を組立てる組立工程が実施される。具体的には、たとえば第1保持部材11および第2保持部材12と、玉13とを組み合わせることにより、免震装置1が組立てられる。そして、転動体製造工程は、たとえば以下のβサイアロン焼結体からなる転動体の製造方法を用いて実施される。
【0049】
図4を参照して、本実施の形態におけるβサイアロン焼結体からなる転動体の製造方法においては、まず、βサイアロンの粉末を準備するβサイアロン粉末準備工程が実施される。βサイアロン粉末準備工程においては、たとえば燃焼合成法を採用した製造工程により、安価にβサイアロンの粉末を製造することができる。
【0050】
次に、βサイアロン粉末準備工程において準備されたβサイアロンの粉末に、焼結助剤を添加して混合する混合工程が実施される。この混合工程は、焼結助剤を添加しない場合、省略することができる。
【0051】
次に、図4を参照して、上記βサイアロンの粉末またはβサイアロンの粉末と焼結助剤との混合物を、転動体の概略形状に成形する成形工程が実施される。具体的には、上記βサイアロンの粉末またはβサイアロンの粉末と焼結助剤との混合物に、プレス成形、鋳込み成形、押し出し成形、転動造粒などの成形手法を適用することにより、玉13などの概略形状に成形された成形体が作製される。
【0052】
次に、上記成形体の表面が加工されることにより、当該成形体が焼結後に所望の転動体の形状により近い形状になるよう成形される焼結前加工工程が実施される。具体的には、グリーン体加工などの加工手法を適用することにより、上記成形体が焼結後に玉13などの形状により近い形状になるように加工される。この焼結前加工工程は、成形工程において上記成形体が成形された段階で、焼結後に所望の転動体の形状に十分近い形状が得られる状態である場合には省略することができる。
【0053】
次に、図4を参照して、上記成形体が焼結される焼結工程が実施される。具体的には、上記成形体が、たとえば1MPa以下の圧力下でヒータ加熱、マイクロ波やミリ波による電磁波加熱などの加熱方法により加熱されて焼結されることにより、玉13などの概略形状を有する焼結体が作製される。焼結は、不活性ガス雰囲気中または窒素と酸素との混合ガス雰囲気中において、1550℃以上1800℃以下の温度域に上記成形体が加熱されることにより実施される。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素などが採用可能であるが、製造コスト低減の観点から、窒素が採用されることが好ましい。
【0054】
次に、焼結工程において作製された焼結体の表面が加工され、当該表面を含む領域が除去される仕上げ加工が実施されることにより、転動体を完成させる仕上げ工程が実施される。具体的には、焼結工程において作製された焼結体の表面を研磨することにより、転動体としての玉13などを完成させる。以上の工程により、本実施の形態におけるβサイアロン焼結体からなる転動体は完成する。
【0055】
ここで、上記焼結工程における焼結により、焼結体の表面から厚み500μm程度の領域には、内部よりも緻密性が高く、断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率が7%以下である緻密層が形成される。さらに、焼結体の表面から厚み150μm程度の領域には、緻密層内の他の領域よりもさらに緻密性が高く、断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率が3.5%以下である高緻密層が形成される。したがって、仕上げ工程においては、除去される焼結体の厚みは、特に接触面となるべき領域において150μm以下とすることが好ましい。これにより、玉接触面13Aを含む領域に、高緻密層を残存させ、玉13の耐久性を向上させることができる。
【0056】
なお、上記焼結工程は、βサイアロンの分解を抑制するため、0.01MPa以上の圧力下で行なうことが好ましく、低コスト化を考慮すると大気圧以上の圧力下で行なうことがより好ましい。また、製造コストを抑制しつつ緻密層を形成するためには、焼結工程は1MPa以下の圧力下で行なうことが好ましい。また、βサイアロン焼結体からなる転動体のヤング率を180GPa以上270GPa以下の所望の値に調整するためには、たとえばβサイアロン粉末準備工程において準備されるβサイアロン粉末のz値を、0.5≦z≦3.0の範囲で調節すればよい。より具体的には、z値を増加させることにより、βサイアロン焼結体のヤング率を低下させることができる。
【0057】
また、上記実施の形態における第1保持部材11および第2保持部材12の素材としては、たとえばJIS規格SUJ2などの高炭素クロム軸受鋼、SCM420などの機械構造用合金鋼、S53Cなどの機械構造用炭素鋼などの鋼を採用することができる。
【0058】
上記実施の形態においては、転動体の一例として玉が採用される場合について説明したが、本発明の免震装置はこれに限られず、転動体はころであってもよい。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明の実施例1について説明する。種々のz値を有するβサイアロン焼結体からなる転動体を有する転がり軸受を作製し、当該転がり軸受に対して衝撃が作用する環境下におけるz値と耐久性との関係を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0060】
まず、試験の対象となる試験軸受の作製方法について説明する。はじめに、燃焼合成法でz値を0.5〜3.0の範囲で作製したβサイアロンの粉末を準備し、上記実施の形態において図4に基づいて説明した転動体の製造方法と基本的に同様の方法で、z値が0.5〜3.0である転動体を作製した。具体的な作製方法は以下のとおりである。まず、サブミクロンに微細化されたβサイアロン粉末と、焼結助剤としての酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、AKP30)および酸化イットリウム(H.C.Starck社製、Yttriumoxide grade C)とをボールミルを用いて湿式混合により混合した。その後、スプレードライヤーにて造粒を実施し、造粒粉を製造した。当該造粒粉を金型で球体に成形し、さらに冷間静水圧成形(CIP)で加圧を行ない、球状の成形体を得た。
【0061】
引き続き当該成形体に対して1次焼結として常圧焼結を行なった後、圧力200MPaの窒素雰囲気中でHIP(Hot Isostatic Press;熱間静水圧焼結)処理することで、焼結球体を製造した。次に、当該焼結球体にラッピング加工を行ない、3/8インチセラミック球(JIS等級 G5)とした。そして、別途準備した軸受鋼(JIS規格SUJ2)製の軌道輪(保持部材)と組み合わせて、JIS規格6206型番の軸受を作製した(実施例A〜J)。また、比較のため、窒化珪素からなる転動体、すなわちz値が0である転動体も上記βサイアロンからなる転動体と同様の方法で作製し、同様に軸受に組立てた(比較例A)。
【0062】
次に、試験条件について説明する。上述のように作製されたJIS規格6206型番の軸受に対し、最大接触面圧Pmax:2.5GPa、軸受回転数:500rpm、潤滑:タービン油VG68循環給油、加振条件:2500N(50Hz)、試験温度:室温の条件の下で運転する加振衝撃疲労試験を行なった。そして、振動検出装置により運転中の軸受の振動を監視し、軸受に破損が発生して軸受の振動が所定値を超えた時点で試験を中止するとともに、運転開始から中止までの時間を当該軸受の寿命として記録した。また、試験中止後、軸受を分解して軸受の破損状態を確認した。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に本実施例の試験結果を示す。表1においては、各欄内の上段に各実施例および比較例における寿命が、軌道輪の材質をSUJ2とした場合の比較例A(窒化珪素)の寿命を1とした寿命比で表されている。また、各欄内の下段には、軸受の破損部位(軌道輪または玉)が記載されている。
【0065】
表1を参照して、z値が0.5以上3.0以下となっている本発明の実施例C〜Hは、窒化珪素(比較例A)と比較して明確に長寿命となっている。ここで、表1に示すように、破損部位は窒化珪素の場合と同様に保持部材(軌道輪)となっており、破損形態は剥離であった。これに対し、z値が3.0を超える実施例IおよびJでは、寿命が低下するとともに、転動体(玉)の破損(剥離)が先行する。すなわち、z値が3.25である実施例Iでは、衝撃の影響によりβサイアロン焼結体からなる転動体(玉)に損傷が生じ、寿命が低下したものと考えられる。さらに、z値が3.5である実施例Jおいては、さらに短時間に転動体の剥離が生じ、転がり軸受の耐久性が一層低下している。
【0066】
一方、z値が0.5より小さい実施例AおよびBでは、寿命が比較例Aとほぼ同じ程度にまで低下するとともに、保持部材の破損(剥離)が先行する。すなわち、z値が0.25である実施例Bでは、z値が0(窒化珪素)である比較例Aとの物性の差が小さくなる。そのため、βサイアロン焼結体からなる玉と、当該玉に相対する保持部材との衝突によって、一方的に保持部材側に損傷が生じ、窒化珪素焼結体からなる玉を採用した比較例A並みにまで寿命が低下したものと考えられる。
【0067】
さらに、表1を参照して、z値が0.5以上3.0以下となっている場合であっても、相対する軌道輪の硬度(表面硬度)がHV680未満である場合、軌道輪の硬度がHV680以上の場合に比べて寿命が低下する傾向にある。これは、軌道輪の硬度が低い場合、βサイアロン焼結体からなる玉と、当該玉に相対する保持部材との衝突によって、保持部材側に損傷が生じ易くなるためであると考えられる。
【0068】
以上のように、z値が3.0を超えるとβサイアロン焼結体からなる転動体自身が破損し易くなる一方、z値が0.5未満では、相手部材との間の接触面圧が増加し、相手部材に損傷が発生しやすくなる。そして、z値を0.5以上3.0以下とすることにより、転動体を構成する素材の強度と、保持部材との間の接触面圧の低減とのバランスが確保される。その結果、軸受に対して衝撃が作用する環境下において、βサイアロン焼結体からなる転動体を含む転がり軸受の寿命が向上することが確認された。特に、保持部材が鋼からなる場合、保持部材の物性と転動体の物性とがほどよく調和して、衝撃、振動等による損傷の発生を抑制することができる。以上の結果から、転動体を構成するβサイアロンのz値を0.5以上3.0以下とすることにより、振動や衝撃が作用した場合における免震装置の機能の低下を抑制可能であると考えられる。
【0069】
また、保持部材が鋼からなる場合、当該保持部材の損傷を抑制するため、保持部材の表面硬度はHV680以上とすることが好ましいと考えられる。
【実施例2】
【0070】
以下、本発明の実施例2について説明する。種々のz値を有するβサイアロン焼結体からなる転動体を有する転がり軸受を作製し、当該内部に硬質の異物が侵入する環境下におけるz値と耐久性との関係を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0071】
まず、試験の対象となる試験軸受の作製方法について説明する。はじめに、燃焼合成法でz値を0.1〜2.5の範囲で作製したβサイアロンの粉末を準備し、上記実施例1と同様の方法で、z値が0.1〜2.5である転動体を作製した。そして、別途準備した様々な鋼材を素材として製作した軌道輪と組み合わせて、JIS規格6206型番の軸受を作製した(実施例A〜J)。軌道輪を構成する鋼としては、JIS規格SUJ2、SCM420、SCr420、S53C、S45C、S40CおよびAISI規格M50を採用した。また、比較のため、窒化珪素からなる転動体、すなわちz値が0である転動体も上記βサイアロンからなる転動体と同様の方法で作製し、同様に軸受に組立てた(比較例A)。
【0072】
次に、試験条件について説明する。上述のように作製されたJIS規格6206型番の軸受に対し、最大接触面圧Pmax:2.5GPa、軸受回転数:2000rpm、潤滑:タービン油VG68、試験温度:室温の条件の下、潤滑油にガスアトマイズにより作製したKHA30の粉末(粒径108〜180μm;硬質の異物)を0.4g/Lの割合で添加した状態で運転する疲労試験を行なった。そして、振動検出装置により運転中の軸受の振動を監視し、軸受に破損が発生して軸受の振動が所定値を超えた時点で試験を中止するとともに、運転開始から中止までの時間を当該軸受の寿命として記録した。また、試験中止後、軸受を分解して軸受の破損状態を確認した。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に本実施例の試験結果を示す。表2においては、各欄内の上段に各実施例および比較例における寿命が、軌道輪の材質をSUJ2とした場合の比較例A(窒化珪素)の寿命を1とした寿命比で表されている。また、各欄内の下段には、軸受の破損部位(軌道輪または玉)が記載されている。
【0075】
表2を参照して、z値が1.0以上2.0以下となっている本発明の実施例D〜Hは、窒化珪素(比較例A)と比較して明確に長寿命となっている。ここで、表2に示すように、破損部位は窒化珪素の場合と同様に保持部材(軌道輪)となっており、破損形態は剥離であった。これに対し、z値が2.0を超える実施例IおよびJでは、寿命が低下するとともに、転動体(玉)の破損(剥離)が先行する。すなわち、z値が2.25である比較例Iでは、硬質の異物の影響によりβサイアロン焼結体からなる転動体(玉)に損傷が生じ、寿命が低下したものと考えられる。さらに、z値が2.5である比較例Jにおいては、一層短時間に転動体の剥離が生じ、転がり軸受の耐久性がさらに低下している。
【0076】
一方、z値が1.0より小さい実施例A〜Cでは、寿命が比較例Aとほぼ同じ程度にまで低下するとともに、保持部材の破損(剥離)が先行する。すなわち、z値が0.75である実施例Cでは、z値が0(窒化珪素)である比較例Aとの物性の差が小さくなる。そのため、βサイアロン焼結体からなる玉と、当該玉に相対する保持部材との間に侵入した硬質の異物による損傷が保持部材側に集中し、これに起因して、窒化珪素焼結体からなる玉を採用した比較例A並みにまで寿命が低下したものと考えられる。
【0077】
さらに、表2を参照して、z値が1.0以上2.0以下となっている本発明の範囲であっても、相対する軌道輪の硬度(表面硬度)がHV680未満である場合、軌道輪の硬度がHV680以上の場合に比べて寿命が低下する傾向にある。これは、軌道輪の硬度が低い場合、βサイアロン焼結体からなる玉と、当該玉に相対する保持部材との間に侵入した硬質の異物によって、保持部材側に損傷が生じ易くなるためであると考えられる。
【0078】
以上のように、z値が2.0を超えるとβサイアロン焼結体からなる転動体自身が破損し易くなる一方、z値が1.0未満では、相手部材との間の接触面圧が増加し、相手部材に損傷が発生しやすくなる。そして、z値を1.0以上2.0以下とすることにより、転動体を構成する素材の強度と、保持部材との接触面圧の低減とのバランスが確保される。その結果、内部に硬質の異物が侵入する環境下において、βサイアロン焼結体からなる転動体を含む転がり軸受の寿命が向上することが確認された。特に、保持部材が鋼からなる場合、保持部材の物性と転動体の物性とがほどよく調和して、硬質の異物による損傷の発生を抑制することができる。以上の結果から、z値を1.0以上2.0以下とすることにより、内部に硬質の異物が侵入した場合における免震装置の機能の低下を抑制可能であると考えられる。
【0079】
また、保持部材が鋼からなる場合、当該保持部材の損傷を抑制するため、保持部材の表面硬度はHV680以上とすることが好ましいと考えられる。
【実施例3】
【0080】
以下、本発明の実施例3について説明する。本発明の免震装置を構成するβサイアロンからなる転動体の緻密層および高緻密層の形成状態を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0081】
はじめに、燃焼合成法で作製した組成がSiAlONであるβサイアロンの粉末(株式会社イスマンジェイ製、商品名メラミックス)を準備し、上記実施の形態において図4に基づいて説明した転動体の製造方法と同様の方法で、一辺が約10mmの立方体試験片を作製した。具体的な製造方法は次のとおりである。まず、サブミクロンに微細化されたβサイアロン粉末と、焼結助剤としての酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、AKP30)および酸化イットリウム(H.C.Starck社製、Yttriumoxide grade C)とをボールミルを用いて湿式混合により混合した。その後、スプレードライヤーにて造粒を実施し、造粒粉を製造した。当該造粒粉を金型で所定の形状に成形し、さらに冷間静水圧成形(CIP)で加圧を行ない、成形体を得た。引き続き当該成形体を圧力0.4MPaの窒素雰囲気中で1650℃に加熱して焼結することで(常圧焼結)、上記立方体試験片を製造した。
【0082】
その後、当該試験片を切断し、切断された面をダイヤモンドラップ盤でラッピングした後、酸化クロムラップ盤による鏡面ラッピングを実施することにより、立方体の中心を含む観察用の断面を形成した。そして、当該断面を光学顕微鏡(株式会社ニコン製、マイクロフォト−FXA)の斜光で観察し、倍率50倍のインスタント写真(フジフイルム株式会社製 FP−100B)を撮影した。その後、得られた写真の画像を、スキャナーを用いて(解像度300DPI)パーソナルコンピューターに取り込んだ。そして、画像処理ソフト(三谷商事株式会社製 WinROOF)を用いて輝度閾値による2値化処理を行なって(本実施例での2値化分離閾値:140)、白色領域の面積率を測定した。
【0083】
次に、試験結果について説明する。図5は、試験片の上記観察用の断面を光学顕微鏡の斜光で撮影した写真である。また、図6は、図5の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理した状態を示す一例である。また、図7は、図5の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理して白色領域の面積率を測定する際に、画像処理を行なう領域(評価領域)を示す図である。図5において、写真上側が試験片の表面側であり、上端が表面である。
【0084】
図5および図6を参照して、上記実施の形態と同様の製造方法により作製された本実施例における試験片は、表面を含む領域に内部よりも白色領域の少ない層が形成されていることがわかる。そして、図7に示すように、撮影された写真の画像を試験片の最表面からの距離に応じて3つの領域(最表面からの距離が150μm以内の領域、150μmを超え500μm以内の領域、500μmを超え800μm以内の領域)に分け、領域毎に画像解析を行なって白色領域の面積率を算出したところ、表3に示す結果が得られた。表3においては、図7に示した各領域を1視野として、無作為に撮影された5枚の写真から得られる5視野における白色領域の面積率の、平均値と最大値とが示されている。
【0085】
【表3】

【0086】
表3を参照して、本実施例における白色領域の面積率は、内部において18.5%であったのに対し、表面からの深さが500μm以下である領域においては3.7%、表面からの深さが150μm以下の領域においては1.2%となっていた。このことから、上記実施の形態と同様の上記製造方法により作製された本実施例における試験片においては、表面を含む領域に内部よりも白色領域の少ない緻密層および高緻密層が形成されていることが確認された。
【実施例4】
【0087】
以下、本発明の実施例4について説明する。本発明の免震装置を構成するβサイアロン焼結体からなる転動体の耐久性を確認する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
【0088】
まず、試験の対象となる試験軸受の作製方法について説明する。はじめに、燃焼合成法で作製した組成がSiAlONであるβサイアロンの粉末(株式会社イスマンジェイ製、商品名メラミックス)を準備し、上記実施の形態において図4に基づいて説明した転動体の製造方法と同様の方法で直径9.525mmの3/8インチセラミック球を作製した。具体的な製造方法は次のとおりである。まず、サブミクロンに微細化されたβサイアロン粉末と、焼結助剤としての酸化アルミニウム(住友化学株式会社製、AKP30)および酸化イットリウム(H.C.Starck社製、Yttriumoxide grade C)とをボールミルを用いて湿式混合により混合した。その後、スプレードライヤーにて造粒を実施し、造粒粉を製造した。当該造粒粉を金型で球体に成形し、さらに冷間静水圧成形(CIP)で加圧を行ない球状の成形体を得た。
【0089】
次に、当該成形体に対して焼結後の加工代が所定の寸法となるようにグリーン体加工を行ない、引き続き当該成形体を圧力0.4MPaの窒素雰囲気中で1650℃に加熱して焼結することで、焼結球体を製造した。次に、当該焼結球体にラッピング加工を行ない、3/8インチセラミック球(転動体;JIS等級 G5)とした。そして、別途準備した軸受鋼(JIS規格SUJ2)製の軌道輪と組み合わせて、JIS規格6206型番の軸受を作製した。ここで、上記焼結球体に対するラッピング加工により除去される焼結球体の厚み(加工代)を8段階に変化させ、8種類の軸受を作製した(実施例A〜H)。一方、比較のため、窒化珪素および焼結助剤からなる原料粉末を用いて加圧焼結法により焼結した焼結球体(日本特殊陶業株式会社製 EC141)に対して、上述と同様にラッピング加工を行ない、別途準備した軸受鋼(JIS規格SUJ2)製の軌道輪と組み合わせて、JIS規格6206型番の軸受を作製した(比較例A)。ラッピング加工による加工代は0.25mmとした。
【0090】
次に、試験条件について説明する。上述のように作製されたJIS規格6206型番の軸受に対し、最大接触面圧Pmax:3.2GPa、軸受回転数:2000rpm、潤滑:タービン油VG68(清浄油)の循環給油、試験温度:室温、の条件の下で運転する疲労試験を行なった。そして、振動検出装置により運転中の軸受の振動を監視し、転動体に破損が発生して軸受の振動が所定値を超えた時点で試験を中止するとともに、運転開始から中止までの時間を当該転動体の寿命として記録した。なお、試験数は実施例、比較例ともに15個ずつとし、そのL10寿命を算出した上で、比較例Aに対する寿命比で耐久性を評価した。
【0091】
【表4】

【0092】
表4に本実施例の試験結果を示す。表4を参照して、実施例の転動体の寿命は、その製造コスト等を考慮するといずれも良好であるといえる。そして、加工代を0.5mm以下とすることにより転動体の表面に緻密層を残存させた実施例D〜Gの軸受の寿命は、比較例Aの寿命の1.5〜2倍程度となっていた。さらに、加工代を0.15mm以下とすることにより転動体の表面に高緻密層を残存させた実施例A〜Cの転動体の寿命は、比較例Aの寿命の3倍程度となっていた。このことから、本発明の免震装置を構成する転動体は、耐久性において優れていることが確認された。そして、本発明の転動体は、加工代を0.5mm以下として表面に緻密層を残存させることにより耐久性が向上し、加工代を0.15mm以下として表面に高緻密層を残存させることにより耐久性がさらに向上することが分かった。
【0093】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の免震装置は、耐久性の向上が求められる免震装置に、特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の一実施の形態における免震装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の線分II−IIに沿う概略断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における免震装置の製造方法の概略を示す図である。
【図4】本発明の一実施の形態におけるβサイアロン焼結体からなる転動体の製造方法の概略を示す図である。
【図5】試験片の観察用の断面を光学顕微鏡の斜光で撮影した写真である。
【図6】図5の写真の画像を、画像処理ソフトを用いて輝度閾値により2値化処理した状態を示す一例である。
【図7】画像処理を行なう領域(評価領域)を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 免震装置、11 第1保持部材、11A 第1保持部、11A1,12A1 平坦部、11A2,12A2 傾斜部、12 第2保持部材、12A 第2保持部、13 玉、13A 玉接触面、13B 玉緻密層、13C 内部、13D 玉高緻密層、15 突出部、15A 上面、21 基礎、22 建造物の底壁、23 凹部、23A 上面、23B ギャップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持部を有し、前記保持部が互いに対向するように配置された一対の保持部材と、
前記一対の保持部材の間において前記保持部に接触し、前記保持部上を転動可能に配置された転動体とを備え、
前記転動体は、窒化珪素からなる場合に比べて前記保持部材に対する衝撃を抑制することが可能なセラミックスからなっている、免震装置。
【請求項2】
前記転動体は、βサイアロンを主成分とし、残部不純物からなる焼結体から構成される、請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記転動体は、βサイアロンを主成分とし、残部焼結助剤および不純物からなる焼結体から構成される、請求項1に記載の免震装置。
【請求項4】
前記βサイアロンは、Si6−ZAl8−Zの組成式で表され、0.5≦z≦3.0を満たす、請求項2または3に記載の免震装置。
【請求項5】
前記βサイアロンは、Si6−ZAl8−Zの組成式で表され、1.0≦z≦2.0を満たす、請求項2または3に記載の免震装置。
【請求項6】
前記転動体のヤング率は180GPa以上270GPa以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項7】
前記転動体のヤング率は220GPa以上260GPa以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項8】
前記保持部材は鋼からなり、
前記保持部材の表面硬度はHV680以上となっている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項9】
前記転動体は、前記保持部材と接触する面である接触面を含む領域に、内部よりも緻密性の高い層である緻密層を有している、請求項1〜8のいずれか1項に記載の免震装置。
【請求項10】
前記緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は7%以下である、請求項9に記載の免震装置。
【請求項11】
前記緻密層の表面を含む領域には、前記緻密層内の他の領域よりもさらに緻密性の高い層である高緻密層が形成されている、請求項9または10に記載の免震装置。
【請求項12】
前記高緻密層の断面を光学顕微鏡の斜光にて観察した場合、白色の領域として観察される白色領域の面積率は3.5%以下である、請求項11に記載の免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−1991(P2010−1991A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161905(P2008−161905)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】