説明

免震装置

【課題】免震機能と大変位抑制機能とのバランスを所望の状態に設定できる免震装置を提供する。
【解決手段】免震対象物Wが取り付けられる第1架台10と、第1架台10に重ねて配置され、第1架台10をX方向およびY方向(所定方向)にスライド可能に支持する第2架台20と、第2架台20に対して第1架台10をX方向およびY方向に弾性支持する複数の弾性部材30,40と、を備え、複数の弾性部材30,40は、並列接続された1次弾性部材30および2次弾性部材40を少なくとも備え、第1架台10と第2架台20とのX方向およびY方向の相対変位が所定値未満の場合には、1次弾性部材30のみが弾性変形し、相対変位が所定値以上の場合には、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、精密機器の製造装置等(請求項の「免震対象物」に相当)を地震等の振動から保護するための免震装置が知られている。
例えば、特許文献1には、下床スラブ(請求項の「第2架台」に相当。)と上床との間に、スベリ板とベースプレート(請求項の「第1架台」に相当。)とを備え、ベースプレートをバネ式水平動緩衝手段(請求項の「弾性部材」に相当。)により下床スラブに引張係止した免震装置が記載されている。
【0003】
特許文献1の免震装置によれば、振動荷重は、先ずスベリ板とベースプレートとの間におけるスベリで吸収され上床の振動は微少となり、次いで上床の振幅は水平動用コイルバネによって減衰が促進されるから、上床に設置した機械装置(免震対象物)への被害を最小となし得る利点を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−104323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、精密機器の製造装置等には、例えば製造装置内部から製造装置外部へ排液を行ったり、製造装置外部から製造装置内部へガスを導入したりするための配管等が接続されることがある。
【0006】
ここで、地震動が規則的な正弦波振動から不規則に変化したときには、免震装置上に設置された免震対象物と、免震装置の設置面との間に相対変位が発生する。このとき、ある程度の相対変位の範囲(以下、「許容範囲」という。)では、配管等が弾性変形するので配管等の破損が防止される。しかし、免震対象物と設置面との相対変位が許容範囲を超えた場合には、配管等の弾性変形により相対変位を吸収できず、配管等が破損することとなる。
【0007】
したがって、免震装置には、地震動が規則的な正弦波振動であるときに振動振幅を抑制する免震機能とともに、地震動が規則的な正弦波振動から不規則に変化したときの免震対象物と設置面との相対変位を抑制する機能(以下、「大変位抑制機能」という。)が要求される。
【0008】
しかしながら、従来技術にあっては、免震を目的としてコイルバネのバネ定数(請求項の「弾性定数」に相当。)を極めて小さく設定している。このため、地震動の振動振幅が不規則に変位したときには、コイルバネが大きく伸長して免震対象物と設置面との相対変位を抑制できず、大変位抑制機能が損なわれるおそれがある。
【0009】
なお、コイルバネのバネ定数を高く設定することで、振動振幅が不規則に変位したときでもコイルバネが大きく伸長することなく、大変位抑制機能を確保できると考えられる。しかし、バネ定数を高く設定すると免震装置の固有周波数も高くため、免震機能が損なわれるおそれがある。
【0010】
そこで本発明は、免震機能と大変位抑制機能とのバランスを所望の状態に設定できる免震装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の免震装置は、免震対象物が取り付けられる第1架台と、前記第1架台に重ねて配置され、前記第1架台を所定方向にスライド可能に支持する第2架台と、前記第2架台に対して前記第1架台を前記所定方向に弾性支持する複数の弾性部材と、を備え、前記複数の弾性部材は、並列接続された1次弾性部材および2次弾性部材を少なくとも備え、前記第1架台と前記第2架台との前記所定方向の相対変位が所定値未満の場合には、前記1次弾性部材のみが弾性変形し、前記相対変位が前記所定値以上の場合には、前記1次弾性部材および前記2次弾性部材が弾性変形することを特徴としている。
【0012】
本発明によれば、所望の免震機能が得られるように1次弾性部材の弾性定数を設定すれば、規則的な正弦波振動であって第1架台と第2架台との相対変位が所定値未満となる振動を免震できる。
また、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台と第2架台との相対変位が所定値以上となる場合には、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形する。ここで、1次弾性部材と2次弾性部材とは並列接続されているので、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形したとき、1次弾性部材が弾性変形したときよりも弾性定数を大きく確保できる。したがって、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台と第2架台との間に所定値以上の相対変位が発生したときには、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形して大変位抑制機能を発揮できる。しかも、所望の大変位抑制機能が得られるように2次弾性部材の弾性定数を設定すれば、免震対象物の相対変位を許容範囲内に抑制できる。
このように、弾性定数が段階的に変化するように複数の弾性部材を設けることで、免震機能と大変位抑制機能とのバランスを所望の状態に設定できる免震装置を提供できる。
【0013】
また、前記2次弾性部材は、前記1次弾性部材よりも大きな弾性定数を有することを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形したとき、1次弾性部材よりも弾性定数をさらに大きく確保できる。したがって、より良好に大変位抑制機能を発揮できる。
【0015】
また、前記第1架台および前記第2架台のいずれか一方から前記所定方向と交差する方向に立設された規制軸と、前記規制軸の前記所定方向に前記所定値のクリアランスを確保した状態で配置された可動部材と、を備え、前記2次弾性部材は、一端が前記可動部材に接続され、他端が前記第1架台および前記第2架台のいずれか他方に接続されていることを特徴としている。
【0016】
本発明によれば、第1架台および第2架台のいずれか一方から規制軸が立設され、第1架台および第2架台のいずれか他方に2次弾性部材と可動部材とが接続されている。ここで、規制軸と可動部材とは前記所定方向に前記所定値のクリアランスが確保されているので、第1架台および第2架台が前記所定方向に所定値以上の距離を相対変位すると、可動部材と規制軸との相対変位が規制されて、複数の2次弾性部材が弾性変形する。このように、可動部材と規制軸とのクリアランスを所定値に設定するだけで、第1架台と第2架台との間に所定値以上の相対変位が発生したときに、1次弾性部材および2次弾性部材を弾性変形させて大変位抑制機能を発揮できる。したがって、可動部材と規制軸とのクリアランスを所定値に設定するだけで、免震機能と大変位抑制機能とのバランスを所望の状態に容易に設定できる。
【0017】
また、前記2次弾性部材は、コイルバネであることを特徴としている。
【0018】
本発明によれば、コイルバネを使用することで、所望の弾性定数を有する2次弾性部材を簡単且つ低コストに形成できる。これにより、簡単且つ低コストに大変位抑制機能を所望の状態に設定できる。
【0019】
また、前記可動部材は、前記規制軸を囲繞して配置されたリング部材であり、前記2次弾性部材は、前記リング部材を中心として放射状に配置されていることを特徴としている。
【0020】
本発明によれば、リング部材の周方向全域にわたって2次弾性部材を配置しているので、リング部材の周方向全域にわたってバランスよく2次弾性部材を弾性変形させることができる。したがって、第1架台がスライド移動する所定方向をリング部材の周方向全域とすることができ、リング部材の周方向全域にわたって大変位抑制機能を発揮できる。
【0021】
また、前記規制軸の外面と前記リング部材の内周面との間に、緩衝部材を設けたことを特徴としている。
【0022】
本発明によれば、規制軸とリング部材とが衝突してリング部材の移動が規制軸により規制されたときに、衝撃を吸収できる。したがって免震対象物に伝達する衝撃を軽減して免震対象物の転落や破損を防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所望の免震機能が得られるように1次弾性部材の弾性定数を設定すれば、規則的な正弦波振動であって第1架台と第2架台との相対変位が所定値未満となる振動を免震できる。
また、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台と第2架台との相対変位が所定値以上となる場合には、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形する。ここで、1次弾性部材と2次弾性部材とは並列接続されているので、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形したとき、1次弾性部材が弾性変形したときよりも弾性定数を大きく確保できる。したがって、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台と第2架台との間に所定値以上の相対変位が発生したときには、1次弾性部材および2次弾性部材が弾性変形して大変位抑制機能を発揮できる。しかも、所望の大変位抑制機能が得られるように2次弾性部材の弾性定数を設定すれば、免震対象物の相対変位を許容範囲内に抑制できる。
このように、弾性定数が段階的に変化するように複数の弾性部材を設けることで、免震機能と大変位抑制機能とのバランスを所望の状態に設定できる免震装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態の免震装置の斜視図である。
【図2】第1架台の説明図である。
【図3】第1レールおよび第2レールの説明図である。
【図4】第2架台の説明図である。
【図5】1次弾性部材および2次弾性部材の拡大図である。
【図6】免震装置の復元力を示すグラフである。
【図7】免震装置の周波数特性のグラフである。
【図8】第1架台が所定値以上移動したときの説明図である。
【図9】大変位抑制機能の検討結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(免震装置)
次に、本実施形態の免震装置について説明する。
図1は、本実施形態の免震装置1の斜視図である。なお、図1では、分かり易くするために、免震装置1に取り付けられる免震対象物Wを二点鎖線で図示している。また、以下の説明では、免震装置1の長手方向をX方向とし、図1の右側を+X側とし、左側を−X側として説明する。また、免震装置1の短手方向をY方向とし、図1の紙面奥側を+Y側とし、紙面手前側を−Y側として説明する。また、X方向およびY方向と直交する方向(すなわち免震装置1の厚み方向)をZ方向とし、図1の上側を+Z側とし、下側を−Z側として説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の免震装置1は、Z方向から見て略矩形板状をした装置であり、免震対象物Wを設置面Gに設置する際に、免震対象物Wと設置面Gとの間に配置されるものである。
免震対象物Wは、例えば精密機器の製造装置等であり、免震対象物Wと設置面Gの間には、免震対象物Wの内部から免震対象物Wの外部へ排液を行ったり、免震対象物Wの外部から免震対象物Wの内部へガスを導入したりするための不図示の配管等が接続されている。
免震装置1は、免震対象物Wが取り付けられる第1架台10と、第1架台10に重ねて配置され、第1架台10をX方向およびY方向(請求項の「所定方向」に相当。)にスライド可能に支持する第2架台20(図4参照)と、を備えている。
【0027】
(第1架台)
図2は、第1架台10の説明図である。
図2に示すように、第1架台10は、Z方向から見て略長方形状の部材であり、第1架台フレーム13と、第1架台フレーム13の+Z側に配置されるプレート部材11と、を備えている。なお、図2では、分かり易くするために、プレート部材11を二点鎖線で図示している。
【0028】
第1架台フレーム13は、外枠構成部材15(15a,15b)と、内枠構成部材16(16a,16b)と、を備えている。
外枠構成部材15は、例えば鉄等の角パイプ材等からなり、外枠長尺部材15aおよび外枠長尺部材15aよりも短い外枠短尺部材15bを一対ずつ備えている。
一対の外枠長尺部材15aは、Y方向に所定間隔を空けて、延在方向がX方向に沿うように略平行に配置されている。
一対の外枠短尺部材15bは、外枠長尺部材15aのX方向両端部において、延在方向がY方向に沿うように略平行に配置されている。
【0029】
内枠構成部材16は、外枠構成部材15と同様に例えば鉄等の角パイプ材等からなり、一対の内枠長尺部材16aおよび内枠長尺部材16aよりも短い複数本(本実施形態では4本)の内枠短尺部材16bを備えている。
【0030】
一対の内枠長尺部材16aは、一対の外枠長尺部材15aのY方向内側において、Y方向に所定間隔を空けて、延在方向がX方向に沿うように略平行に配置されている。
また、4本の内枠短尺部材16bは、外枠短尺部材15bのX方向内側および一対の内枠長尺部材16aのY方向内側において、X方向に所定ピッチを空けて、延在方向がY方向に沿うように略平行に配置されている。
【0031】
隣接する内枠短尺部材16bの離間距離は、一対の内枠長尺部材16aの離間距離と略同一となるように形成される。これにより、内枠長尺部材16aと内枠短尺部材16bとで囲まれたZ方向から見て略正方形状の内枠18(18a,18b,18c)が、X方向に並んで3個形成される。3個の内枠18a,18b,18cのうち、X方向両側の内枠18a,18cには後述する1次弾性部材30が配置され、中央の内枠18bには後述する2次弾性部材40が配置される。
【0032】
第1架台フレーム13の+Z側には、プレート部材11が配置されている。プレート部材11は、例えば鉄等からなる平板部材であり、外形が第1架台フレーム13の外形と略同一に形成されている。なお、図1に示すように、プレート部材11の内枠18a,18b,18c(図2参照)に対応した位置に開口を形成し、この開口を覆う着脱可能なリッド11aを設けてもよい。これにより、リッド11aを外すだけで、1次弾性部材30および2次弾性部材40(いずれも図2参照)を容易にメンテナンスできる。
【0033】
図2に示すように、第1架台10は、第1レール19を備えている。第1レール19は、プレート部材11の−Z側面に固定され、−Z側に突出し、X方向に沿って延在して形成されている。第1レール19は、プレート部材11のY方向の両側に形成されており、外枠長尺部材15aと内枠長尺部材16aとの間においてY方向に沿って渡し掛けられた補強フレームの隙間14に、それぞれ配置されている。本実施形態の第1レール19は、隙間14内に配置可能なように、第1レール19a〜19dにX方向に4分割されており、X方向に略等間隔に配置されている。
【0034】
また、第1レール19のX方向両端部には、第1ストッパ17が形成されている。本実施形態の第1ストッパ17は、第1レール19a〜19dのうち、第1架台10のX方向中央を挟んで両側に配置された第1レール19b,19cに形成されている。第1ストッパ17は、後述する第1レール走行部材52(図3参照)と衝突することで、第1レール19および第1架台10と、第2架台20とのX方向における相対移動を規制している。
【0035】
図3は、第1レール19および後述する第2レール29の説明図である。なお、図3では、分かり易くするためにプレート部材11の図示を省略している。
図3に示すように、第1レール19には第1レール走行部材52が取り付けられている。第1レール走行部材52は、X方向から見て略U字形状に形成されており、+Z側に開口を有しX方向に沿った第1溝部52aを有している。第1溝部52aのY方向の幅は、第1レール19のY方向の幅よりも若干広く形成されている。また、第1溝部52aのZ方向の深さは、第1レール19のZ方向の突出高さよりも若干浅く形成されている。第1溝部52a内に第1レール19を配置することで、第1架台10と第1レール走行部材52とは、X方向に相対移動可能となっている。
【0036】
(第2架台)
図4は、第2架台20の説明図である。なお、図4では、分かり易くするために、第1架台10の図示を省略している。
図4に示すように、第2架台20は、第1架台10(図2参照)よりも外形が小さく形成されたZ方向から見て略矩形枠状の部材であり、支持部材21と、枠体構成部材25と、枠体補強部材26(26a,26b)と、を備えている。
【0037】
支持部材21は、例えば鉄等からなる長尺の平板部材である。支持部材21は4本設けられており、X方向に所定ピッチを空けて、延在方向がY方向に沿うように略平行に配置されている。本実施形態の支持部材21は、第1架台10の内枠短尺部材16bと同一のピッチで配置されている。支持部材21には、Z方向に沿って不図示の貫通孔が形成されており、設置面G(図1参照)に不図示のボルト等で固定可能となっている。
【0038】
枠体構成部材25は、例えば鉄等の角パイプ材等からなり、隣接する支持部材21間のY方向両端部において、延在方向がX方向に沿うように略平行に配置されている。本実施形態では、支持部材21と枠体構成部材25とにより、Z方向から見て略長方形状の3個の枠体28(28a,28b,28c)がX方向に並んで形成される。
【0039】
各枠体28a,28b,28cには、例えば鉄等の角パイプ材等からなる長尺枠体補強部材26aと短尺枠体補強部材26bが配置されている。
長尺枠体補強部材26aは、枠体28のY方向の中心を挟んで両側に、延在方向がX方向に沿うように2本配置されている。また、短尺枠体補強部材26bは、X方向に所定ピッチを空けて、延在方向がY方向に沿うように略平行に配置されている。そして、長尺枠体補強部材26aおよび短尺枠体補強部材26bは、略格子状に直交して配置されている。
【0040】
第2架台20は、第2レール29を備えている。第2レール29は、各支持部材21の+Z側面に固定され、+Z側に突出し、Y方向に沿って延在して形成されている。第2レール29は、Z方向から見て第1レール19(図2参照)と交差するように形成されている。本実施形態の第2レール29は、各支持部材21の+Z側面においてY方向に2分割されており、分割された2本の第2レール29a,29bのうち、一方の第2レール29aが長尺枠体補強部材26aよりも+Y側に配置され、他方の第2レール29bが長尺枠体補強部材26aよりも−Y側に配置されている。
【0041】
また、第2レール29a,29bのY方向端部には、第2ストッパ27が形成されている。本実施形態では、第2ストッパ27は、+Y側の第2レール29aの−Y側端部および−Y側の第2レール29bの+Y側端部に形成されている。第2ストッパ27は、後述する第2レール走行部材53(図3参照)と衝突することで、第1架台10と、第2レール29および第2架台20とのY方向における相対移動を規制している。
【0042】
図3に示すように、第2レール29には第2レール走行部材53が取り付けられている。
第2レール走行部材53は、Y方向から見て略U字形状に形成されており、−Z側に開口を有しY方向に沿った第2溝部53aを有している。第2レール29と第2溝部53aとの関係は、第1レール19と第1溝部52aとの関係と同様であるので、説明を省略する。第2溝部53a内に第2レール29を配置することで、第2架台20と第2レール走行部材53とは、Y方向に相対移動可能となっている。
【0043】
(スライダ)
図3に示すように、第1架台10と第2架台20とは、スライダ50を介してZ方向に重ねて配置されている。
スライダ50は、例えば鉄等からなる部材であり、平板状のベース部51を挟んで+Z側に前述の第1レール走行部材52を、−Z側に前述の第2レール走行部材53を固定することにより形成されている。
スライダ50は、第1レール19と第2レール29との間であって、Z方向から見て第1レール19と第2レール29とが交差する箇所に配置されており、本実施形態では8箇所に配置されている。
本実施形態では、スライダ50を介して+Z側に第1架台10が配置され、−Z側に第2架台20が配置されている。そして、第1架台10と第2架台20とは、X方向およびY方向に沿って相対移動可能となっている。
【0044】
(弾性機構)
図5は、1次弾性部材30および2次弾性部材40の拡大図である。なお、図5では、分かり易くするために、プレート部材11の図示を省略している。
本実施形態の免震装置1は、2組の1次弾性機構3と1組の2次弾性機構4とを備えている。1次弾性機構3および2次弾性機構4は、プレート部材11の−Z側且つ第2架台20の+Z側であって、X方向に沿って並んだ3個の内枠18a,18b,18cに配置されている。具体的には、3個の内枠18a,18b,18cのうち、X方向両側の内枠18a,18cには1次弾性機構3が配置され、中央の内枠18bには2次弾性機構4が配置される。すなわち、2組の1次弾性機構3と1組の2次弾性機構4とはX方向に沿って並んで配置されている。そして、1次弾性機構3を構成する2組の1次弾性部材30と、2次弾性機構4を構成する1組の2次弾性部材40とは、第1架台10と第2架台20との間で並列接続されている。
【0045】
(1次弾性機構)
1次弾性機構3は、接続部材24と、1次弾性部材30とを備えている。なお、−X側の内枠18aに配置される1次弾性機構3と、+X側の内枠18cに配置される1次弾性機構3とは同一の構造である。したがって、−X側の内枠18aに配置される1次弾性機構3についてのみ説明をし、+X側の内枠18cに配置される1次弾性機構3については、説明を省略している。
【0046】
接続部材24は、枠体28aの内側に形成されている。図5に示すように、接続部材24は、例えば鉄等からなる中空の略円筒形状をした部材であり、中心軸がZ方向に沿うように配置されている。接続部材24の−Z側は、長尺枠体補強部材26aおよび短尺枠体補強部材26bの+Z側面に板部材等を介して固定されている。
【0047】
また、接続部材24は、接続部材24の中心軸と第1架台10の内枠18aの中心軸とが略一致するように配置されており、内枠18aの4個の隅部から、接続部材24の外周面24aまでの最短距離がそれぞれ略同一となっている。
接続部材24には、円環金具24bが接続部材24の周方向に約90°ピッチで、且つ内枠18aの隅部への最短地点に設けられている。円環金具24bは、接続部材24の径方向外側から螺合されて固定されており、円環金具24bの円環部分が接続部材24の径方向外側に配置されている。円環金具24bには、後述する1次コイルバネ31の一端31aが接続されている。
【0048】
(1次弾性部材)
1次弾性部材30は、免震装置1に入力される地震動等の振動が規則的な正弦波振動であるときに、免震対象物W(図1参照)の振動振幅を抑制する免震機能の発揮を目的として設けられている。
【0049】
本実施形態の1次弾性部材30は、4本の1次コイルバネ31により形成されている。4本の1次コイルバネ31の自由長は、内枠18aの隅部から、接続部材24の円環金具24bまでの最短距離よりも短く形成されている。4本の1次コイルバネ31の一端31aは、内枠18aの中心に設けられた接続部材24に、円環金具24bを介してそれぞれ接続部材24の周方向に約90°ピッチで接続されている。また、4本の1次コイルバネ31の他端31bは、それぞれ第1架台10の内枠18aの隅部に接続されている。そして、4本の1次コイルバネ31は、所定の張力を有した状態で、内枠18aの対角線に沿って接続部材24を中心として放射状に配置される。
【0050】
1次弾性部材30の弾性定数は、所望の免震機能が得られるように設定される。1次弾性部材30の弾性定数は、免震対象物Wの重量や、第1架台10の重量、入力される振動の加速度等に応じて、所望の免震機能が得られるように種々設定できる。
【0051】
(2次弾性機構)
2次弾性機構4は、規制軸22と、リング部材48(可動部材)と、2次弾性部材40とを備えている。
規制軸22は、3個の枠体28a,28b,28cのうち、中央の枠体28bの内側に形成されている。規制軸22は、中心に配置された本体部22bと、本体部22bの周囲に配置された緩衝部材22aと、を備えている。
本体部22bは、例えば鉄等により形成された棒状部材であり、Z方向に沿って立設されている。規制軸22の−Z側端は、長尺枠体補強部材26aおよび短尺枠体補強部材26bの+Z側面に、接続部材24と同様に板部材等を介して固定されている。規制軸22は、第1架台10の内枠18bの中心軸と略一致するように配置されており、内枠18bの4個の隅部から、規制軸22までの距離がそれぞれ略同一となっている。
【0052】
緩衝部材22aは、例えばゴム等からなり、本体部22bの外面を覆うように形成されている。これにより、緩衝部材22aは、本体部22bと後述するリング部材48の内周面48aとの間に設けられている。緩衝部材22aは、後述するようにリング部材48の移動が規制軸22により規制されたときに、それぞれ金属で形成された本体部22bとリング部材48とが直接衝突するのを防止し、衝撃を吸収している。これにより、免震装置1から免震対象物Wに伝達する衝撃を軽減して免震対象物Wの転落や破損を防止できる。
【0053】
リング部材48は、中央の枠体28bの内側において、規制軸22を囲繞して配置されている。リング部材48は、鉄等からなる中空の略円筒形状をした部材であり、中心軸がZ方向に沿うように配置されている。リング部材48の外周面48bには、周方向に約90°ピッチで接続部48cが形成されている。
【0054】
各接続部48cには、後述する4本の2次コイルバネ41の一端41aがそれぞれ接続されている。そして、2次コイルバネ41の他端41bを内枠18bの隅部に接続することにより、2次コイルバネ41が内枠18bの対角線に沿って、リング部材48を中心として放射状に配置される。
【0055】
また、リング部材48は、2次コイルバネ41により内枠18bの対角線に沿って略均等に引っ張られている。このため、リング部材48は、規制軸22の周方向全周にわたって、規制軸22の外面(本実施形態では緩衝部材22aの外面に相当)とリング部材48の内周面48aとの間に所定値のクリアランスCを確保した状態で、規制軸22を囲繞して配置される。なお、規制軸22の外面とリング部材48の内周面48aとの間に所定値のクリアランスCを設けたときの作用については後述する。
【0056】
(2次弾性部材)
2次弾性部材40は、免震装置1に入力される地震動等の振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化したときに、免震対象物Wと設置面Gとの相対変位を抑制する大変位抑制機能の発揮を目的として設けられている。
【0057】
本実施形態の2次弾性部材40は、4本の2次コイルバネ41により形成されている。4本の2次コイルバネ41の自由長は、内枠18bの隅部から、リング部材48までの最短距離よりも短く形成されている。4本の2次コイルバネ41の一端41aは、内枠18aの中心に設けられたリング部材48の接続部48cに、リング部材48の周方向に約90°ピッチで接続されている。また、4本の2次コイルバネ41の他端41bは、それぞれ第1架台10の内枠18bの隅部に接続されている。そして、4本の2次コイルバネ41は、所定の張力を有した状態で、内枠18bの対角線に沿ってリング部材48を中心として放射状に配置される。このように、リング部材48の周方向全域にわたって2次コイルバネ41が配置されるので、リング部材48の周方向全域、すなわちZ方向に垂直な平面内でバランスよく2次弾性部材40を弾性変形させることができる。したがって、X方向およびY方向の全域にわたって大変位抑制機能を発揮できる。
【0058】
また、4本の2次コイルバネ41は、内枠18bの対角線に沿ってリング部材48を略均等に引っ張っているので、規制軸22の外面とリング部材48の内周面48aとの間には、前述のように所定値のクリアランスCが形成される。
ここで、第1架台10と第2架台20とがX方向およびY方向に相対変位すると、これに対応して第2架台20に形成された規制軸22、および第1架台10に2次コイルバネ41を介して接続されたリング部材48も相対変位する。そして、第1架台10および第2架台20が所定値以上の距離を相対変位すると、リング部材48と規制軸22との相対変位が規制され、2次コイルバネ41が弾性変形する。このように、リング部材48と規制軸22とのクリアランスCを所定値に設定するだけで、第1架台10と第2架台20との間に所定値以上の相対変位が発生したときに、1次弾性部材30および2次弾性部材40を弾性変形させて、大変位抑制機能を発揮できる。
【0059】
2次弾性部材40の弾性定数は、所望の大変位抑制機能が得られるように設定される。2次弾性部材40の弾性定数は、免震対象物Wの重量や、第1架台10の重量、入力される振動の加速度等に応じて、所望の大変位抑制機能が得られるように種々設定できる。
ここで、2次弾性部材40は、1次弾性部材30よりも大きな弾性定数を有するように形成されるのが望ましい。これにより、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形したとき、1次弾性部材30よりも弾性定数をさらに大きく確保できるので、より良好に大変位抑制機能を発揮できる。
【0060】
(作用)
続いて、以下に本実施形態の免震装置1の作用について説明をする。なお、以下の説明では、分かり易くするために第1架台10と第2架台20とが、X方向に相対変位する場合について説明する。
図6は、免震装置1の復元力を示すグラフである。なお、図6のグラフでは、横軸はX方向における第1架台10と第2架台20との相対変位を表し、縦軸は免震装置1の復元力を表している。
図7は、免震装置1の周波数特性のグラフである。なお、図7のグラフでは、横軸は周波数fを表し、縦軸は入力された振動振幅αに対する免震対象物Wの振動振幅βの応答比率β/αを表している。また、1次弾性部材30のみが弾性変形しているときの周波数特性を実線で表し、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形しているときの周波数特性を二点鎖線で表している。
【0061】
まず、入力される地震動が規則的な正弦波振動であって、第1架台10および第2架台20にはクリアランスC未満の相対変位が発生する場合について説明する。
第1架台10および第2架台20がX方向に相対変位すると、これに対応して規制軸22およびリング部材48も相対変位する。しかしながら、第1架台10および第2架台20の相対変位はクリアランスC未満であるので、リング部材48の内周面48aと規制軸22とが衝突することがない(例えば図5参照)。このため、リング部材48および規制軸22の相対変位が規制されることがないので、2次弾性部材40が弾性変形することなく1次弾性部材30のみが弾性変形する。
【0062】
図6に示すように、1次弾性部材30のみが弾性変形しているとき、第1架台10と第2架台20との相対変位が−Cから+Cの範囲(領域S1)において、免震装置1の復元力と相対変位とは比例関係となっている。
【0063】
ここで、1次弾性部材30のみが弾性変形しているときの免震装置1の周波数特性は、図7の実線で示される。入力される正弦波振動の周波数をfeとしたとき(以下「入力振動周波数fe」という。)、免震装置1の固有周波数f1を入力振動周波数feよりも十分小さく設定することで、免震対象物Wの振動振幅βを小さくできる(図7におけるP1)。したがって、免震装置1の固有周波数f1が入力振動周波数feよりも十分小さくなるように1次弾性部材30の弾性定数を設定することで、所望の免震機能を有する免震装置1が得られる。これにより、規則的な正弦波振動であって、第1架台10と第2架台20との相対変位が所定値のクリアランスC未満となる振動を免震できる。
【0064】
図8は、第1架台10が−X側へクリアランスC以上移動したときの説明図である。
次に、入力される地震動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台10および第2架台20にはクリアランスC以上の相対変位が発生する場合について説明する。
図8に示すように、例えば第1架台10が−X側に移動して第1架台10および第2架台20がX方向に相対変位すると、これに対応してリング部材48が−X側に移動して規制軸22およびリング部材48も相対変位する。
第1架台10および第2架台20の相対変位はクリアランスC以上であるので、リング部材48の内周面48aと規制軸22とが衝突する。そして、リング部材48と規制軸22との相対変位が規制された状態で、第1架台10がさらに−X側に変位する。これにより、1次弾性部材30に加えて2次弾性部材40が弾性変形するので、1次弾性部材30が弾性変形したときよりも弾性定数が大きく確保される。
【0065】
図6に示すように、1次弾性部材30に加えて2次弾性部材40も弾性変形しているときは、第1架台10および第2架台20の相対変位が−C以下および+C以上(領域S2)において、領域S1よりも傾斜が大きな比例関係となっている。すなわち、第1架台10および第2架台20の相対変位がクリアランスC以上となった時には、弾性定数が段階的に変化し、より大きな弾性定数が確保されている。
【0066】
ここで、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形しているときの免震装置1の周波数特性は、図7の二点鎖線で示される。上述のように弾性定数が大きく確保されるため、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形したときの免震装置1の固有周波数f2は、1次弾性部材30が弾性変形しているときの免震装置1の固有周波数f1よりも大きくなる。このため、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形しているときの免震装置1の免震対象物Wの振動振幅βは、1次弾性部材30のみ弾性変形しているときの免震対象物Wの振動振幅βよりも大きくなる(図7におけるP2)。
【0067】
しかしながら、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形することにより、免震装置1には大きな弾性定数が確保されている。これにより、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化したときには、弾性部材の弾性変形が抑制されるので、免震対象物Wの振動振幅βが若干増加するものの第1架台10および第2架台20の相対変位は抑制される。したがって、第1架台10および第2架台20の相対変位がクリアランスC以上となった時には、免震対象物Wの相対変位を許容範囲内に抑制して良好な大変位抑制機能を発揮できる。
【0068】
続いて、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形しているときの大変位抑制機能の検討を行った。具体的には、以下の設計条件で大変位抑制機能の検討を行った。
(設計条件)
免震装置1を設置面G(図1参照)に設置し、第1架台10に免震対象物W(図1参照)を載置して、設置面GをX方向およびY方向に振動させたときの、免震対象物Wの最大加速度および最大変位の検討を行った。検討に用いた免震対象物Wの重量を、8000kgとした。検討に用いた入力振動の最大加速度を158.0cm/sとした。
【0069】
(実施例および比較例の免震装置)
上述した設計条件のもと、以下の実施例および比較例の免震装置1を用いて大変位抑制機能の検討を行った。
【実施例】
【0070】
第1架台10の重量を、2600kgとした。
第1架台10と第2架台20とがスライド移動する際の摩擦係数を、0.005とした。
規制軸22とリング部材48の内周面48aとの間のクリアランスCを40mmとした。
弾性部材として、1次弾性部材30と2次弾性部材40とを設けた。
1次弾性部材30の弾性定数を1.12kgf/mm(11kN/m)とし、1次弾性部材30が弾性変形したときの免震装置1の固有周期を6秒とした。
1次弾性部材30と2次弾性部材40とが弾性変形したときの弾性定数を4.48kgf/mm(45kN/m)とし、1次弾性部材30と2次弾性部材40とが弾性変形したときの免震装置1の固有周期を3秒とした。
【比較例】
【0071】
第1架台10の重量を、2600kgとした。
第1架台10と第2架台20とがスライド移動する際の摩擦係数を、0.005とした。
弾性部材として、1次弾性部材30のみ設け、2次弾性部材40は設けていない。
1次弾性部材30の弾性定数を1.12kgf/mm(11kN/m)とし、1次弾性部材30が弾性変形したときの免震装置1の固有周期を6秒とした。
【0072】
(大変位抑制機能の検討結果)
図9は、大変位抑制機能の検討結果のグラフである。図9(a)は、免震装置1に振動が入力されたときの第1架台10に載置された免震対象物Wの最大加速度の検討結果を表し、図9(b)は、振動が入力されたときの第1架台10に載置された免震対象物Wの最大変位の検討結果を表している。
【0073】
図9(a)のデータから読み取れるように、最大加速度が158.0cm/sの振動が入力されたとき、実施例では、免震対象物Wの最大加速度が78.1cm/sとなった。これに対して、比較例では、免震対象物Wの最大加速度が55.0cm/sとなり、実施例のほうが免震対象物Wの最大加速度が大きくなった。
【0074】
この検討結果を考察するに、実施例の免震装置1は、並列配置された1次弾性部材30と2次弾性部材40とが弾性変形しているので、1次弾性部材30のみが弾性変形する比較例の免震装置1よりも、弾性定数が大きくなっている。これにより、実施例の免震装置1は、比較例の免震装置1よりも弾性部材の復元力が大きくなり、免震対象物Wの最大加速度が大きくなったと考えられる。
【0075】
また、図9(b)のデータから読み取れるように、最大加速度が158.0cm/sの振動が入力されたとき、実施例では、免震対象物Wの最大変位が19.7cmとなった。これに対して、比較例では免震対象物Wの最大変位が45.6cmとなり、実施例のほうが免震対象物Wの最大変位が小さくなった。
【0076】
この検討結果を考察するに、実施例の免震装置1は、並列配置された1次弾性部材30と2次弾性部材40とが弾性変形しているので、1次弾性部材30のみが弾性変形する比較例の免震装置1よりも、弾性定数が大きくなっている。これにより、実施例の免震装置1は、比較例の免震装置1よりも弾性部材の弾性変形が抑制され、免震対象物Wの最大変位が大幅に抑制されたと考えられる。
以上の検討結果から、実施例のように1次弾性部材30に加えて2次弾性部材40を弾性変形させることで、比較例のように1次弾性部材30のみを弾性変形させる場合よりも、良好な大変位抑制機能が得られることが確認できた。
【0077】
(効果)
本実施形態によれば、所望の免震機能が得られるように1次弾性部材30の弾性定数を設定すれば、規則的な正弦波振動であって第1架台10と第2架台20との相対変位が所定値未満となる振動を免震できる。
また、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台10と第2架台20との相対変位が所定値以上の場合には、2セットの1次弾性部材30および1セットの2次弾性部材40が弾性変形する。ここで、2個の1次弾性部材30と2次弾性部材40とは並列接続されているので、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形したとき、2個の1次弾性部材30が弾性変形したときよりも弾性定数を大きく確保できる。したがって、振動が規則的な正弦波振動から不規則に変化し、第1架台10と第2架台20との間に所定値以上の相対変位が発生したときには、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形して大変位抑制機能を発揮できる。しかも、所望の大変位抑制機能が得られるように2次弾性部材40の弾性定数を設定すれば、免震対象物Wの相対変位を許容範囲内に抑制できる。
このように、弾性定数が段階的に変化するように1次弾性部材30および2次弾性部材40を設けることで、免震機能と大変位抑制機能とのバランスを所望の状態に設定できる免震装置1を提供できる。
【0078】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0079】
実施形態の免震装置1は、第2架台20から規制軸22が立設され、第1架台10に2次弾性部材40とリング部材48とが接続されていたが、第1架台10から規制軸22が立設され、第2架台20に2次弾性部材40とリング部材48とが接続されていてもよい。
【0080】
実施形態の免震装置1は、可動部材として円環形状のリング部材48を採用しているが、可動部材はリング部材48に限られない。例えば、第1架台10と第2架台20との相対移動方向がX方向のみに限定される場合には、可動部材に平板部材を採用してもよい。
【0081】
実施形態の免震装置1は、コイルバネ(1次コイルバネ31および2次コイルバネ41)で弾性部材(1次弾性部材30および2次弾性部材40)を形成していたが、これに限られることはなく、例えばゴム部材で弾性部材を形成してもよい。ただし、所望の弾性定数を有する1次弾性部材30および2次弾性部材40を簡単且つ低コストに形成できる点で、実施形態に優位性がある。
【0082】
実施形態の免震装置1は、4本のコイルバネで1次弾性部材30および2次弾性部材40をそれぞれ形成していたが、コイルバネの本数は4本に限られることはない。
【0083】
実施形態の免震装置1は、2個の1次弾性部材30と、1個の2次弾性部材40とを備えていたが、1次弾性部材30の数は2個に限られない。また、−X側から+X側にむかって1次弾性部材30、2次弾性部材40、1次弾性部材30の順に並列配置されていたが、1次弾性部材30および2次弾性部材40の配置の順番はこれに限られない。
【0084】
実施形態の免震装置1は、第1架台10と第2架台20との間に1次弾性部材30を配置して、第1架台10をX方向およびY方向に弾性支持していた。しかし、例えば、第2架台20を第1架台10より大きく形成しつつ、第1架台10よりも外側に1次弾性部材30を配置して、第1架台10をX方向およびY方向に弾性支持してもよい。
【0085】
実施形態の免震装置1は、2次弾性部材40を備え、第1架台10と第2架台20との相対変位が所定値以上の場合には、1次弾性部材30および2次弾性部材40が弾性変形するように構成していた。しかし、例えば、2次弾性部材40に加えて3次弾性部材を備え、1次弾性部材30、2次弾性部材40および3次弾性部材が弾性変形するように構成してもよい。これにより、1次弾性部材30および2次弾性部材40により第1架台10と第2架台20との相対変位を抑制できない場合であっても、1次弾性部材30、2次弾性部材40および3次弾性部材を弾性変形させて、大変位抑制機能を発揮できる。
【0086】
実施形態の免震装置1は、規制軸22に、本体部22bの外面を覆う緩衝部材22aを設けていたが、例えばリング部材48に、リング部材本体の内周面を覆う緩衝部材を設けてもよい。これにより、実施形態と同様に免震装置1から免震対象物Wに伝達する衝撃を軽減して免震対象物Wの転落や破損を防止できる。ただし、規制軸22の本体部22bの外面は、リング部材48の内周面48aよりも面積が狭いので、緩衝部材22aの材料費を低減できる点で、実施形態に優位性がある。
【符号の説明】
【0087】
1・・・免震装置 10・・・第1架台 20・・・第2架台 22・・・規制軸 22a・・・緩衝部材 30・・・1次弾性部材 40・・・2次弾性部材 41・・・2次コイルバネ(コイルバネ) 41a・・・一端 41b・・・他端 48・・・可動部材、リング部材 48a・・・内周面 C・・・クリアランス W・・・免震対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震対象物が取り付けられる第1架台と、
前記第1架台に重ねて配置され、前記第1架台を所定方向にスライド可能に支持する第2架台と、
前記第2架台に対して前記第1架台を前記所定方向に弾性支持する複数の弾性部材と、
を備え、
前記複数の弾性部材は、並列接続された1次弾性部材および2次弾性部材を少なくとも備え、
前記第1架台と前記第2架台との前記所定方向の相対変位が所定値未満の場合には、前記1次弾性部材のみが弾性変形し、前記相対変位が前記所定値以上の場合には、前記1次弾性部材および前記2次弾性部材が弾性変形することを特徴とする免震装置。
【請求項2】
請求項1に記載の免震装置であって、
前記2次弾性部材は、前記1次弾性部材よりも大きな弾性定数を有することを特徴とする免震装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の免震装置であって、
前記第1架台および前記第2架台のいずれか一方から前記所定方向と交差する方向に立設された規制軸と、
前記規制軸の前記所定方向に前記所定値のクリアランスを確保した状態で配置された可動部材と、
を備え、
前記2次弾性部材は、一端が前記可動部材に接続され、他端が前記第1架台および前記第2架台のいずれか他方に接続されていることを特徴とする免震装置。
【請求項4】
請求項3に記載の免震装置であって、
前記2次弾性部材は、コイルバネであることを特徴とする免震装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の免震装置であって、
前記可動部材は、前記規制軸を囲繞して配置されたリング部材であり、
前記2次弾性部材は、前記リング部材を中心として放射状に配置されていることを特徴とする免震装置。
【請求項6】
請求項5に記載の免震装置であって、
前記規制軸の外面と前記リング部材の内周面との間に、緩衝部材を設けたことを特徴とする免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83311(P2013−83311A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223717(P2011−223717)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】