説明

入力装置、及び電子機器

【課題】指示体の位置を検出することができる入力装置、及び電子機器を提供すること。
【解決手段】本発明の入力装置10は、超音波の反射率が異なる複数の領域を有する指示体によって情報を入力する入力装置であって、超音波を発信する複数の発信素子と、超音波の指示体からの反射波を受信する受信素子と、発信素子に電気信号を供給し、指示体が配置された領域に超音波を発信させた後、指示体のうち、第1の反射率を有する第1の反射領域からの反射波の強度と、第2の反射率を有する第2の反射領域からの反射波の強度との違いに基づいて第1の反射領域の位置座標を検出し、これを情報と判断する制御部40Aと、を備えていることをことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力装置、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超音波を発信して障害物により反射された超音波を受信する超音波センサーが知られている。このような超音波センサーとして、自動車に搭載された障害物センサーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の超音波センサーは、超音波の送受信が可能な素子から超音波を送信して、被検出体に当って反射された超音波をこの素子によって受信する。これにより、自動車の周囲にある物体の位置測定又は距離測定や、その物体の2次元形状または3次元形状の測定などを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−99103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、PDA(Personal Data Assistance)や、PC(Personal Computer)等の電子機器の入力装置に超音波センサーを用いることが検討されているが、未だ具体的な構成は提案されていない。しかしながら、仮に上記従来の超音波センサーを入力装置に用いたとしても以下のような課題がある。
【0005】
特許文献1の超音波センサーは車載用として用いられ、比較的遠距離に存在する大きな障害物の位置、距離、形状等を検出するためのものである。超音波センサーによって遠距離の障害物を測定するためには、超音波の減衰を避けるため周波数を低く設定し、波長を長くする必要がある。
ところが、超音波の波長が長くなると、検出対象の3次元的な位置の測定や動作を検出する分解能が低下する。したがって、このような超音波センサーでは、入力動作を実行する支持体として、例えば人の手の動きや入力用のペン等の動作等、近距離に存在する比較的小さな検出対象の3次元的な位置、形状、速度を正確に検出することができないという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、指示体の位置を正確に検出することができる入力装置、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の入力装置は、超音波の反射率が異なる複数の領域を有する指示体によって情報を入力する入力装置であって、前記超音波を発信する複数の発信素子と、前記超音波の前記指示体からの反射波を受信する受信素子と、前記発信素子に電気信号を供給し、前記指示体が配置された領域に超音波を発信させた後、前記指示体のうち、第1の反射率を有する第1の反射領域からの反射波の強度と、第2の反射率を有する第2の反射領域からの反射波の強度との違いに基づいて前記第1の反射領域の位置座標を検出し、これを前記入力情報と判断する制御部と、を備えていることを特徴とする
【0008】
この構成によれば、制御部は、超音波の反射率の違いによって指示体の第1の反射領域と第2の反射領域とを判別することができるので、単に指示体の大雑把な位置座標を検出するのではなく、指示体の中の特定の部位の位置を検出でき、第1の反射領域の位置座標を入力情報として正確に検出することができる入力装置を提供することができる。
【0009】
前記制御部は、前記第1の反射領域を基準として前記第2の反射領域の位置座標を検出することにより前記指示体の延在方向を検出することが好ましい。
これによれば、指示体の延在方向が検出されることにより、指示体の第1の反射領域付近の概略形状を認識することができるので、第1の反射領域の位置座標だけでなく、支持体の延在方向を入力情報とすることが可能である。したがって、入力情報を増やすことができ、より複雑な入力操作を実現可能な入力装置を提供することができる。
【0010】
複数の前記発信素子を備え、前記制御部は、前記複数の発信素子に、前記領域の一方向に向けて同位相の前記超音波を発信させる前記信号を出力することが好ましい。
これによれば、指向性を高めた超音波を発信することができるので、分解能を向上させた入力装置を提供することができる。
【0011】
前記制御部は、前記発信素子と対向する走査領域を複数の部分領域に分割し、それぞれの前記部分領域に向けて前記超音波を間欠的に順次発信させることが好ましい。
これによれば、超音波の発信回数を抑えながら走査領域を走査することができるので、短時間で指示体の位置座標を検出することが可能な入力装置を提供することができる。
【0012】
前記制御部は、前記受信素子と前記指示体との間の距離に応じて前記反射波の振幅を規格化し、規格化された前記反射波の振幅が所定の振幅以上を示す前記第1の反射領域の位置座標を検出することが好ましい。
これによれば、受信素子からの距離が変わることによって変動する反射波の振幅を補正することができるので、指示体の第1の反射領域と第2の反射領域とを確実に判別することができる入力装置を提供することができる。
【0013】
前記制御部は、規格化された前記反射波の振幅が所定の振幅以上を示す前記第1の反射領域の位置座標を検出した後、該第1の反射領域の位置座標付近の局所領域内を前記超音波で走査させて、前記指示体の前記第1及び第2の反射領域の詳細な位置座標と、詳細な前記延在方向とを検出することが好ましい。
これによれば、走査領域の全域を走査することによって指示体の第1の反射領域のおおよその位置座標を検出したのち、第1の反射領域を含む狭い領域のみを超音波で詳細に走査するので、指示体の第1及び第2の反射領域の詳細な位置座標を検出することができる。また、第1の反射領域付近における指示体の概略形状を容易に検出することが可能な入力装置を提供することができる。
【0014】
前記制御部は、検出した前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向の有効性を判定し、前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向が有効であると判定した場合には、前記局所領域内を前記超音波で走査させることによって前記指示体の位置座標を再検出することが好ましい。
ここで言う「第1の反射領域の位置座標及び指示体の延在方向の有効性」とは、入力装置が要求する情報に適合する入力情報(第1の反射領域の位置座標、指示体の延在方向)を検出したということである。
したがって、有効な入力情報が検出されると、直前に設定された局所領域のみを走査することによって指示体の動きを検出すればよいので、短時間で指示体の動きを追跡することが可能な入力装置を提供することができる。
【0015】
前記制御部は、検出した前記第1の反射領域の座標及び前記指示体の延在方向の有効性を判定し、前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向が有効でないと判定した場合には、前記走査領域の全域を走査することによって前記指示体の位置座標を再検出することが好ましい。
これによれば、指示体が直前に設定された局所領域から外れた位置座標に移動した場合でも指示体の動きを検出することができるので、確実に指示体の動きを追跡することが可能な入力装置を提供することができる。
【0016】
前記発信素子と対向して複数の前記指示体が配置され、前記制御部は、それぞれの前記指示体の前記第1の反射領域の位置座標を検出し、これらを前記情報と判断することが好ましい。
これによれば、複数の指示体の入力情報を検出することができるので、例えば複数の指示体の相互の位置関係など、より複雑な入力動作を実現可能な入力装置を提供することができる。
【0017】
前記制御部は、前記指示体として指を検出し、前記第1の反射領域として爪、及び前記第2の反射領域として皮膚を検出することが好ましい。
これによれば、硬度が大きく反射率が高い爪の位置座標、すなわち指先の位置座標を検出することによって入力動作を実行することができるので、入力動作用の指示体を別途必要とせず、入力動作が簡素化される。
【0018】
本発明の電子機器は、先に記載の入力装置を備えていることを特徴とする。
これによれば、入力装置が指示体の位置座標を検出することによって入力動作を実行することができるので、入力動作を簡素化した電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】PDAの斜視図である。
【図2】入力装置の斜視図である。
【図3】発信素子及び受信素子の配置例を示す平面図である。
【図4】図2におけるA−A’断面図である。
【図5】制御部の回路ブロック図である。
【図6】発信素子に入力されるパルスの一例を示す図である。
【図7】領域の座標系の説明図である。
【図8】指の位置検出に係るフローチャート図である。
【図9】領域を複数の部分領域に分割する方法の一例を示す図である。
【図10】規格化された反射波の一例を示す図である。
【図11】局所領域の拡大図である。
【図12】規格化された反射波の一例を示す図である。
【図13】円周領域における反射波を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面を用いて、本発明に係る入力装置について説明する。
なお、以下の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成部材をわかりやすくするために、各構成部材の縮尺や数等を実際の構成とは異ならせている。
【0021】
図1は、本発明の入力装置を備えた電子機器の一例であるPDA100を模式的に示す斜視図である。PDA100は、図1に示すように、本体30、表示部20、及び入力装置10を有している。
表示部20は、画像表示を行う領域であり、本体30と一体で構成されている。
入力装置10は、表示部20の周辺の本体30上に配置されている。入力装置10は、表示部20上方の走査領域Rに超音波を発信し、走査領域Rに配置された指(指示体)Fからの反射波を受信することによって、指Fの座標を検出する。
したがって、例えば表示部20に複数の選択ボタンが表示された場合、使用者は選択したいボタンの上方に指先を持っていくことにより任意のボタンを選択することができる。また、指先の座標と指の皮膚の座標とを検出することにより、指Fの延在方向を検出することによって任意のボタンを選択することができる。さらには、指の動きを検出することによって任意のボタンを選択することができる。
【0022】
次に、入力装置10について詳しく説明する。
図2は、入力装置10の詳細な構成を模式的に示す斜視図である。図3は、超音波センサー1における発信素子1a及び受信素子1bの配置例を模式的に示す平面図である。図4は、図2におけるA−A’に沿った断面形状を模式的に示す図である。図5は、制御部40Aの回路ブロック図である。図6は、発信素子1aに入力されるパルスの一例を示す図である。
【0023】
入力装置10は、図2に示すように、超音波センサーユニット1Aと制御部40Aとを有する。超音波センサーユニット1Aは、基板11と超音波センサー1とを備えている。
超音波センサー1は、図3に示すように、基板11の表面11A上に複数の発信素子1a及び複数の受信素子1bがマトリクス状に配置された構成となっている。
本実施形態においては、図3に示すように、受信素子1bが超音波センサー1の角部の4箇所、及び中央部の4箇所に配置され、それ以外の位置に発信素子1aが配置された構成である。
【0024】
断面視における発信素子1a及び受信素子1bは、図4に示すように、いずれも同様の構成を有し、振動板2と、下部電極4と、圧電体3と、上部電極5とを備えている。
基板11は、矩形状の単結晶シリコンで構成されている。基板11の全面のうち、発信素子1a及び受信素子1bに対応する部分には開口部11aが形成されている。
基板11の表面11Aのほぼ全面に、SiO(二酸化ケイ素)で形成された第1酸化膜2aと、ZrO(ジルコニア)で形成された第2酸化膜2bとが積層された積層膜が形成されている。積層膜のうち、開口部11aの上方に相当する部分が振動板2として機能する。
第1酸化膜2aは、単結晶シリコン基板の表面を熱酸化させることによって形成され、膜厚はおよそ3μmである。第2酸化膜2bは、CVD法(化学気相成長法)などで形成され、膜厚はおよそ400nmである。
【0025】
下部電極4は、振動板2上に形成されている。より詳しくは、下部電極4の膜が第2酸化膜2bのほぼ全面に形成され、超音波センサー1を構成するすべての発信素子1a及び受信素子1bの共通電極となっている。下部電極4は、Ir(イリジウム)などの導電性金属材料で形成され、膜厚はおよそ200nmである。
【0026】
圧電体3は、下部電極4の全面のうち、開口部11aの上方にあたる領域にのみ形成されている。圧電体3は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、BaTiO(チタン酸バリウム)などで形成され、膜厚はおよそ1.4μmである。
上部電極5は、圧電体3上に形成されている。上部電極5は、例えば、Ir(イリジウム)などの導電性金属材料で形成され、膜厚はおよそ50nmである。
【0027】
フレキシブルプリント基板12は、図2に示すように、超音波センサーユニット1Aと制御部40Aとを接続している。具体的には、超音波センサーユニット1の端子部11Tと、制御部40Aの制御基板13の表面13aに形成された端子部13Tとを電気的に接続している。
【0028】
制御部40Aは、図2に示すように、制御基板13と制御回路40とを備えている。
制御回路40は、制御基板13の表面13aに実装され、超音波センサー1の制御を行う。
ここで、制御回路40について詳しく説明する。制御回路40は、図5に示すように、制御演算部41、記憶部42、超音波発生部43、及び超音波検出部44を有している。
【0029】
制御演算部41は、それぞれの発信素子1aを駆動する信号を超音波発生部43に出力するとともに、受信素子1bで受信され、記憶部42を介して入力された反射波の信号(以下では反射信号と表記する)に基づいて指Fの位置、延在方向を検出する。そして、検出した情報に基づいて、指Fによる入力情報を取得して図1の本体30に出力する。
【0030】
超音波発生部43は、サイン波発生部43aと、位相部43bと、ドライバー43cとを有し、超音波発生用の電気信号を発信素子1aに出力する。
サイン波発生部43aは、サイン波状のパルス(電気信号)を生成し、位相部43bに出力する。
位相部43bは、制御演算部43bから入力された発信信号に基づいてパルスの位相をシフトさせる。そして、位相をシフトさせたパルスの振幅をドライバー43cで増幅させた後、パルスを発信素子1aに出力する。
【0031】
超音波受信部44は、指Fで反射された反射波を受信し制御演算部41に出力する。超音波受信部44は、増幅部44aと、A/D変換部44bとを有している。
増幅部44aは、受信素子1bで受信した反射信号の振幅を増幅し、A/D変換部44bに出力する。
A/D変換部44bは、増幅部44aから入力された反射信号を、デジタル信号に変換してA/D変換部44bに出力する。
【0032】
記憶部42は、A/D変換部44bによりデジタル変換された受信素子1bの反射信号、超音波の発信方向及び発信時刻、反射波の受信時刻などの各種データが格納されている。また、記憶部42には、入力装置10を制御するためのプログラム、設定値などが格納されている。
【0033】
以下、制御回路40の動作について説明する。
発信素子1aに図6に示すパルスが入力されると、パルスの振幅に応じて下部電極4と上部電極5との間に電位差が発生する。これにより、圧電体3は、基板11の表面11Aの法線方向に伸縮して振動板2を振動させる。そうすると、開口部11aの空気が振動して、図1の表示部20上方の走査領域Rに超音波が発信される。
一方、指Fで反射した反射波が受信素子1bで受信されると、振動板2が振動して圧電体3が基板11の表面11Aの法線方向に伸縮する。そうすると、下部電極4と上部電極5との間に電位差が発生してパルス状の電気信号が超音波受信部44に出力される。
【0034】
ここで、走査領域Rに配置された指Fの座標を規定するための座標系について説明する。図7は、走査領域Rの座標系の説明図である。
まず、超音波センサーユニット1Aの中心の点Oを基準点として、点Oと走査領域R内の点Tとを結ぶ線分OTの距離をd座標とする。
次に、図7に示すように、点Oから引いた法線と走査領域Rとの交点をO1とする。点Oと点O1とを結ぶ線分を基準軸O−O1と称する。
そして、線分OTをx軸上に投影した線分OT1が基準軸O−O1となす角度をθ座標とし、線分OTをy軸上に投影した線分OT2が基準軸O−O1となす角度をΦ座標とする。このように、走査領域Rの座標(d,θ,Φ)を規定する。
【0035】
次に、このような構成を有する入力装置10における、指Fの座標検出に係る動作について説明する。
図8は、指Fの位置検出に係るフローチャート図である。指Fの座標検出は、走査領域Rの全面を超音波で走査するステップS10と、指Fで反射された反射波の反射信号を受信素子1bからの距離に応じて規格化するステップS20と、規格化された反射波から指先の座標を検出するステップS30と、指先を含む狭い領域のみを超音波で詳細に走査するステップS40と、指先付近の反射波のデータから爪の詳細な座標を検出するステップS50と、指先の皮膚の詳細な座標と、指の延在方向とを検出するステップS60と、検出した爪の座標及び指の延在方向の有効性を判定するステップS70と、有効であると判定した爪の座標及び指の延在方向の情報を本体30に出力するステップS80と、を実行する。
【0036】
まず、ステップS10では、走査領域Rの全面を超音波で走査して反射波のデータを取得する。本実施形態では、走査領域Rをθ方向及びΦ方向に沿って複数の部分領域に分割し、それぞれの部分領域に向けて超音波を発信することによって走査領域Rを走査する。
図9は、走査領域Rを複数の部分領域に分割する方法の一例を示す図である。図9で示した走査領域Rは、θ方向に8分割(θ1,…,θm,…,θ8)、及びΦ方向に8分割(Φ1,…,Φn,…Φ8)されている。これらの部分領域は、θ方向の列番号mとΦ方向の行番号nとを用いてr(m、n)と表記する。
【0037】
制御回路部41は、超音波発生部43の位相部43bに発信信号を出力する。制御回路部41は、部分領域r(m,n)に到達した超音波が同位相となるように、発信素子1aごとに位相を異ならせた発信信号を形成する。このように、指向性を向上させた超音波を形成することによって走査領域Rを走査する。
【0038】
指Fで反射された反射波は受信素子1bで受信される。そして、受信素子1bにおいて反射波がパルス状の電気信号(反射信号)に変換された後、超音波検出部44に出力される。反射信号は、超音波検出部44のA/D変換部44bにおいてデジタル変換され、記憶部42を介して制御回路部41に出力される。
【0039】
次に、ステップS20に移行する。ステップS20では、受信した反射信号の振幅を規格化する。規格化とは、反射波の振幅を受信素子1bと指Fとの距離に応じて補正することをいう。超音波のエネルギー密度は超音波センサーユニット1Aからの距離の2乗に反比例する。すなわち、超音波センサーユニット1Aから指Fまでの距離が延びると超音波振幅が減少する。そこで、減衰した分の振幅を補正することで振幅を規格化する。
【0040】
規格化を実行するためには、まず、それぞれの超音波の発信時刻、発信方向、及び反射波の受信時刻などの情報を記憶部42から読み出す。
そして、超音波の発信時刻、反射波の受信時刻、及び超音波の音速から、超音波を反射した指Fまでの距離d(θ,Φ)を検出する。そして、反射信号の振幅をI(θ,Φ)、規格化された振幅をInrm(θ,Φ)とすれば、Inrm(θ,Φ)=I(θ,Φ)/d(θ,Φ)の式によって、反射波の振幅が規格化される。
このように、反射波の振幅を規格化すると、ステップS30に移行する。
【0041】
ステップS30では、規格化された振幅Inrm(θ,Φ)から爪を含んだ指先の座標を検出する。
ここで、図10は、規格化された反射波の波形の一例を示す図である。図10は、爪を含んだ指先の反射波を破線で表示し、爪を含まない指の皮膚からの反射波を実線で表示している。爪のほうが皮膚よりも硬度が大きく、爪の反射率(第1の反射率)は皮膚の反射率(第2の反射率)よりも高いので、図10に示すように、指先からの反射波は皮膚からの反射波よりも振幅が大きい。
【0042】
そこで、皮膚の反射波の振幅より大きく、爪の反射波の振幅よりも小さい振幅を基準振幅Vsに設定し、制御回路部41は、基準振幅Vsよりも大きい振幅を示す部分領域(第1の反射領域)と、基準振幅Vsよりも小さい振幅を示す部分領域(第2の反射領域)の座標を検出する。そして、第1の反射領域である部分領域r(m、n)の座標を指先座標P01(θ,Φ),…,P05(θ,Φ)として検出する。ここで示された指先座標P01〜P05は、5本の指それぞれに対応させたものである。
本実施形態では、部分領域r(4,5)、すなわち、θ方向でθ4、Φ方向でΦ5の方向で指先が検出された場合を例にして以下のステップの説明を行なう。
【0043】
ステップS30で検出した指先座標P01(θ,Φ)は、走査領域Rの全域を走査して検出したものであって、爪の位置と指先の皮膚の位置とを詳細に判別したものではなく指先のおおよその位置を検出したものである。そこで、以降のステップで指先付近の狭い領域のみを超音波で詳細に走査して正確な爪座標と皮膚座標とを検出する。
【0044】
ステップS40に移行すると、ステップS30で検出した指先座標P01(θ,Φ)を含んだ狭い領域のみからなる局所領域R1を超音波で走査して、指先付近の局所領域からの詳細な反射波の情報を取得する。
ここでは、図9に示すように、局所領域R1を、指先座標P01(θ,Φ)を含んだ部分領域r(4,5)と、部分領域r(4,5)を取り囲む部分領域とで構成される領域を局所領域R1と規定している。すなわち、局所領域R1は、9つの部分領域で構成されている。
【0045】
図11は、局所領域R1を拡大して示す平面図である。局所領域R1は、図11に示すように、θ方向及びΦ方向に沿った複数の微小領域r1に分割されており、それぞれの部分領域r(m,n)がより小さく分割されている。
そして、それぞれの微小領域r1に向けて順次超音波を発信し、局所領域R1の全域を詳細に走査する。その際、ステップS10と同様に、超音波の発信方向、及び発信時刻が記憶部42に記憶される。
一方、指Fからの反射波は受信素子1bで受信され、超音波受信部44においてデジタル変換された反射信号が、記憶部42を介して制御回路部41に入力される。また、反射波の受信時刻が記憶部42に記憶される。
このように、局所領域R1の走査を完了すると、ステップS50に移行する。
【0046】
ステップS50では、ステップS40で取得した局所領域R1からの反射信号に基づいて詳細な爪の座標を検出する。
制御回路部41は、それぞれの超音波の発信時刻、微小領域Rの座標情報、反射信号及び反射波の受信時刻などの情報を記憶部42から読み出し、受信信号の振幅を規格化する。
【0047】
図12は、規格化された局所領域R1からの反射波の一例を示す図である。図12において、縦軸は規格化された反射波の振幅Inrm(θ,Φ)を示し、横軸は角度θを示している。すなわち、図12は、あるΦ方向に配置された微小領域r1からの反射波の振幅を示している。
反射波の振幅は、図12に示すように、振幅が大きい爪からの反射波である領域Z1と、振幅が小さい皮膚からの反射波である領域Z2とに分類される。なお、図12において、複数の領域Z1が表示されているのは、局所領域R1において複数の指が検出されたことを示している。制御回路部41は、領域Z1における最大の振幅を示す座標を爪座標P11(θ,Φ)として検出する。
このように、爪座標P11(θ,Φ)を検出すると、ステップS60に移行する。
【0048】
ステップS60は、ステップS40で取得した局所領域R1からの反射信号に基づいて指Fの延在方向を検出する。
指Fの延在方向を検出するには、まず、図11に示すように、爪座標P11(θ,Φ)から一定距離だけ離れた環状の領域Circleを設定する。そして、領域Circle上の微小領域r1の反射信号のうちで最大の振幅を示す方向を指Fの延在方向とする。
【0049】
図13は、円周領域Circleにおける反射波の振幅を示す図である。図13では、縦軸が規格化された反射波の振幅を示し、横軸が図11で示した角度ρを示している。ここで角度ρは、θ軸方向を基準として、線分P11Q1がθ軸となす角度で規定される。図13に示すように、円周領域Circleにおける反射波は、角度ρ1方向にある微小領域において最大の振幅を有している。したがって、図13から爪座標P1(θ,Φ)を基準として角度ρ1方向に指Fが延在していることがわかる。そこで、指Fの延在方向を示すベクトルV1(θ,Φ)を、V1(θ,Φ)=Q1(θ,Φ)−P11(θ,Φ)によって規定する。
【0050】
このように、1つの指Fで爪座標P11(θ,Φ)及びベクトルV1(θ,Φ)を検出すると、ステップS40〜S60を繰り返し、それぞれの指に対応した爪座標P21(θ,Φ)〜P51(θ,Φ)、及びベクトルV2(θ,Φ)〜V5(θ,Φ)を検出する。
このように、すべての指に対応した爪座標P1(θ,Φ)(P11(θ,Φ)〜P15(θ,Φ))及びベクトルV(θ,Φ)(V1(θ,Φ)〜V5(θ,Φ))を検出するとステップS70に移行する。
【0051】
ステップS70では、ステップS50,S60で検出した爪座標P(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)の有効性を判定するステップである。
ここで、爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が有効であると判定されるのは、検出した爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が適切な入力情報であると判断された場合である。
具体的には、入力装置が検出した入力情報によって表示部20に表示されたボタンを選択し、入力動作が実行される場合である。
このように、爪座標P(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が適切な入力情報(有効)と判断されるとステップS80に移行する。
【0052】
これに対して、爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が適切な入力情報ではない(無効)と判断されるとステップS10に戻り、走査領域Rの全域を再走査して爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を再検出する。
具体的に爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が無効と判断されるのは、検出した入力情報によって表示部20に表示されたボタンを選択することができず、入力操作が実行されない場合、あるいは、ステップS40において指先を詳細に走査する際に、指Fが局所領域R1から外れた領域に移動して、爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が検出されなかった場合などである。
再検出した結果、適切な爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)が検出された場合にはステップS80に移行する。
【0053】
ステップS80では、爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を本体30に出力する。本体30では、入力装置10から出力された爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)に基づいた処理が行われる。
そして、必要に応じてステップS40に移行して指先を追跡して位置検出動作を引き続き行って、指の動きを検出する。ステップS40に移行すると、直前に規定した局所領域R1のみを再走査して新たな爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を検出する。また、指先が局所領域R1から外れても、検出した爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)がステップS70において無効であると判断されて、ステップS10に移行して走査領域Rの全域を再走査することによって指先の追尾を行い、指の動きを検出する。
【0054】
このような構成を備えた入力装置10は、以下の効果を得ることができる。
まず、本発明の入力装置10は、爪(第1の反射領域)における超音波の反射率(第1の反射率)と、皮膚(第2の反射領域)における超音波の反射率(第2の反射率)との違いを判別することによって、爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を検出している。これにより、比較的小さい検出対象である指先の位置が超音波によっても検出することができるので、爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を入力情報とすることができる。また、爪座標P1(θ,Φ)だけでなくベクトルV(θ,Φ)を入力情報として判断することによって、入力装置10が検出する入力情報を増大させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、ベクトルV(θ,Φ)によって指の延在方向を規定し、指のおおよその形状を認識している。これによれば、3次元的な指の詳細な形状を認識するよりも、容易に指の概略的な形状を認識することができる。したがって、入力情報としての指の延在方向のデータを容易に取得することができる。
【0056】
また、本実施形態では、ステップS10において、走査領域Rを複数の部分領域r(m,n)に分割し、それぞれの部分領域r(m,n)を走査することによって走査領域Rの全域を走査している。そして、ステップS40において、走査領域Rの全面走査で検出された指先座標P0(θ,Φ)付近の局所領域のみを詳細に走査することによって、爪座標P1(θ,Φ)及び皮膚座標Q(θ,Φ)を検出している。
これによれば、走査領域Rの全域を詳細に走査するよりも短時間で爪座標P1(θ,Φ)及び皮膚座標Q(θ,Φ)を検出することができる。
【0057】
また、本実施形態では、ステップS70において検出した爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)の有効性を判定し、適切な入力情報と判定された爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を本体30に出力する。そして、不適切な入力情報が検出された場合には爪座標P1(θ,Φ)及びベクトルV(θ,Φ)を再検出させるようになっている。これによれば、入力装置10からは適切な入力情報のみが本体30に出力されるので、入力装置10の検出精度を向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態では、入力情報を本体30に出力した後、直前に設定した局所領域R1のみを詳細に再走査して指Fの位置を追跡する。これによれば、改めて走査領域Rの全域を走査しなくても指Fの詳細な位置を検出することができるので、指Fの追跡を短時間で行うことができる。
【0059】
また、本実施形態では、爪座標P1(θ,Φ)及び指の延在方向を示すベクトルV(θ,Φ)を検出しているが、ステップS30までを実行して指先座標P0(θ,Φ)を入力情報としてもよい。この場合には、ステップS40以降の指先の詳細な走査を実行する必要がないので、入力情報の検出をより短時間で実行することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、指示体として指Fを例示しているが、指F以外のものを指示体として使用することができる。例えば、ペンや棒などの棒状部材であって、先端が異なる材質で構成されているものが好ましい。このような構成を有していれば、先端とそれ以外の領域での反射率が異なり、先端の位置を正確に検出することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、ステップS10において走査領域Rの全面を走査した後、ステップS40において指先付近を詳細に走査しているが、走査領域Rの全面走査のみを実行して入力情報を検出するようにしてもよい。この場合には、指先座標P0(θ,Φ)によって入力情報の有効性を判断するようにすればよい。
【0062】
なお、本実施形態では、発信素子1a及び受信素子1bを複数個配置しているが、それぞれが単数であってもよい。この場合であっても、指Fの位置検出が可能である。
【0063】
なお、上記の電子機器は、本発明の電子機器を例示するものであって、本発明の技術範囲を限定するものではない。例えば、PC、携帯電話、携帯用オーディオ機器、及び表示装置などの表示部にも本発明の入力装置を好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0064】
1…超音波センサー、2…振動板、3…圧電体、4…下部電極、5…上部電極、1A…超音波センサーユニット、1a…発信素子、1b…受信素子、10…入力装置、11…基部、12…フレキシブルプリント基板、13…制御基板、14…制御部、40…制御回路、41…制御演算部、42…記憶部、43…超音波発生部、43a…サイン波発生部、43b…位相部、44…超音波検出部、44b…A/D変換部、100…PDA(電子機器)、R…走査領域、R1…局所領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の反射率が異なる複数の領域を有する指示体によって情報を入力する入力装置であって、
前記超音波を発信する複数の発信素子と、
前記超音波の前記指示体からの反射波を受信する受信素子と、
前記発信素子に電気信号を供給し、前記指示体が配置された領域に超音波を発信させた後、前記指示体のうち、第1の反射率を有する第1の反射領域からの反射波の強度と、第2の反射率を有する第2の反射領域からの反射波の強度との違いに基づいて前記第1の反射領域の位置座標を検出し、これを前記入力情報と判断する制御部と、
を備えていることを特徴とする入力装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の反射領域の位置座標を基準として前記第2の反射領域の位置座標を検出することにより前記指示体の延在方向を検出することを特徴とする請求項1に記載の入力装置。
【請求項3】
複数の前記発信素子を備え、
前記制御部は、前記複数の発信素子に、前記領域の一方向に向けて同位相の前記超音波を発信させる前記電気信号を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の入力装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記発信素子と対向する走査領域を複数の部分領域に分割し、それぞれの前記部分領域に向けて前記超音波を間欠的に順次発信させる前記電気信号を出力することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の入力装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記受信素子と前記指示体との間の距離に応じて前記反射波の振幅を規格化し、規格化された前記反射波の振幅が所定の振幅以上を示す前記第1の反射領域の位置座標を検出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の入力装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の反射領域の位置座標を検出した後、該第1の反射領域の位置座標付近の局所領域内に前記超音波を走査させ、前記指示体の前記第1及び第2の反射領域の詳細な座標と、詳細な前記延在方向とを検出することを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の入力装置。
【請求項7】
前記制御部は、検出した前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向の有効性を判定し、前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向が有効であると判定した場合には、前記局所領域のみに前記超音波を走査させることによって前記指示体の位置座標を再検出することを特徴とする請求項6に記載の入力装置。
【請求項8】
前記制御部は、検出した前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向の有効性を判定し、前記第1の反射領域の位置座標及び前記指示体の延在方向が有効でないと判定した場合には、前記走査領域の全域を走査させることによって前記指示体の位置座標を再検出することを特徴とする請求項6に記載の入力装置。
【請求項9】
前記発信素子と対向して複数の前記指示体が配置された場合に、
前記制御部は、それぞれの前記指示体の前記第1の反射領域の位置座標を検出し、これらを前記入力情報と判断することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の入力装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記指示体として指を検出し、前記第1の反射領域として爪、及び前記第2の反射領域として皮膚を検出することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の入力装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の入力装置を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−218365(P2010−218365A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65921(P2009−65921)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】