全体的な心臓のサイズ変更および再形成のための心筋内パターン形成
心筋症は、1つ以上の心腔の周りに、あるパターンで心筋内に空間占拠性薬剤を分布させることによって治療され得、そのために、空間修正剤は、心腔の周囲の心臓壁の少なくとも一部に溶け込み、かつそれを肥厚して、全体的に壁応力を低減し、心腔サイズを安定させるか、または低減さえする。一部のパターンはまた、心腔の有益な全体的再形成も引き起こす。これらのシステムおよび方法によって治療可能な、具体的な心臓の状態は、拡張型心筋症(顕性動脈瘤形成を伴うか、または伴わない)、うっ血性心不全、および心室性不整脈、心筋梗塞、代表的に広範囲貫壁性心筋梗塞に応じて形成するような心室壁の顕性動脈瘤、および非従順僧帽弁による僧帽弁逆流を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/843,475号(2006年9月8日出願)の利益を主張するものであり、この出願は、その全体を参考として、本明細書に援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、生物における心臓の状態の治療に関し、より具体的には、全体的な心臓のサイズ変更および再形成のための心筋内のパターン形成に関し、なおより具体的には、左心室の全体的なサイズ変更および再形成のための重合性薬剤を用いた心筋内パターン形成の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
心臓血管疾患(「CVD」)は、米国における主な死亡原因である。例えば、C.Lenfant,Fixing the Failing Heart,Circulation,Vol.95,1997,pages771−772;American Heart Association,Heart and Stroke Statistical Update,2001;C.Lenfant,Cardiovascular Research:An NIH Perspective,Cardiovasc.Surg.,Vol.5,1997;pages4−5;J.N.Cohn et al.,Report of the National Heart,Lung,and Blood Institute Special Emphasis Panel on Heart Failure Research,Circulation,Vol.95,1997,pages766−770を参照されたい。
【0004】
心不全(「HF」)は、概して、典型的な徴候および症状を伴う、心臓のポンプ機能の変化として定義される。これらの症状は、概して、息切れまたは疲労を含む。心不全は、通常は両心室がある程度関与する心室機能障害の症候群である。左心室不全は、典型的には、息切れおよび疲労を引き起こし、右心室不全は、典型的には、末梢および腹部の液体貯留を引き起こす。心不全は、進行性疾患であり、それにより、臨床的には明白な有害事象がないにもかかわらず、患者の血行動態および症候性状態は、経時的に悪化する。症状の悪化は、しばしば、進行性左心室(「LV」)腔再造形を伴い、全体的にはLV腔サイズおよび形状の変化によって、および細胞レベルでは、心筋細胞の継続する欠損、筋細胞肥大、および間質性線維症によって特徴付けられる過程である。筋細胞欠損、肥大、および間質区画でのコラーゲンの蓄積は、進行性LV機能障害の重要な決定因子である一方で、増加したLVサイズおよび心腔球形度は、機能性僧帽弁逆流(MR)の主要な決定因子であり、その重症度によっては、心不全においてすでに低下しているLV一回の心拍出量の低減に主要な影響を及ぼし得る状態である。進行性LV拡張はまた、LV壁応力および心筋伸張にもつながり得る。LV壁応力の増加は、心筋酸素消費量の増加につながり、心筋伸張は、不適応な心筋細胞肥大の発現において重要な役割を果たす場合がある、伸張応答タンパク質を活性化し得る。LV拡張および増加したLV球形度はまた、不良な長期結果の鋭敏な指標でもある。
【0005】
これらの理由により、再造形の予防または逆転が、心筋症の治療において望ましいものとして浮上している。心筋症は、例えば、虚血性、高血圧性、拡張型、肥大性、浸潤性、拘束性、ウイルス性、分娩後、弁膜性、または突発性であり得る、根底にある病因にかかわらない、心筋の疾患の総称である。心筋症は、典型的には、心不全をもたらす。様々な種類の心筋症の例は、次のとおりである。肺性心は、肺動脈高血圧症を生じる肺疾患に続発する、右心室拡大である。右心室不全が続いて起こる場合がある。拡張型うっ血性心筋症は、心室拡張および収縮機能障害が優勢である、心不全を生じる心筋機能障害である。肥大性心筋症は、拡張機能障害を伴うが、増加した後負荷を伴わない、著しい心室肥大によって特徴付けられる、先天性または後天性疾患である。例は、大動脈弁狭窄、大動脈の縮窄、全身性高血圧症を含む。拘束性心筋症は、拡張期充満に抵抗する非従順心室壁によって特徴付けられる。左心室が最も一般的に罹患するが、両心室が罹患する場合がある。
【0006】
現在、末期心不全の患者に対する最も効果的な治療は、心臓移植である。しかしながら、ドナー心臓の慢性的な不足を考えると、心不全患者の生命を改善するために代替策が必要とされる。さらに、移植は、軽度の疾患の患者にとっては、最も適した治療選択肢ではない。
【0007】
別の治療アプローチは、ネガティブな左心室の再造形を限定、停止、または逆転さえする機械的な外的拘束の使用を含む。以前に開示された研究の1つは、LV拡張およびMI後のLV機能の低下を予防する外部支援を提供するという意図された目的のために、心外膜面に高分子メッシュを縫合するステップを含んでいた。非特許文献1を参照されたい。研究中の別の以前に開示された装置は、張力を受けた心室を横断して開胸手技で移植される、複数の縫合を提供し、心室形状の変化および心腔直径の減少を提供する。この経空洞縫合ネットワークは、心室の半径を減少させ、したがって、心室壁応力を低減することを目的としている。臨床試験中の、別の以前に開示された装置は、概して、心臓の周囲の外被として移植され、開胸手術中にぴったりとした嵌合を提供するように調整されるメッシュ構造である。外被が、さらなる拡大から心臓を抑制することを目的としている。例えば、非特許文献2を参照されたい。研究中のさらに別のアプローチは、上記のものと同様の外部拘束装置として、ニチノールメッシュを提供する。しかしながら、超弾性システムは、収縮期の収縮を補助することを目的とし、概して、胸腔鏡誘導の低侵襲送達を介した使用を目的としている。調査中のさらに別のシステムは、心室への別の外部拘束装置として開胸手術中に移植される、剛体リングを含む。このリングは、半径を低減して心室の形状を修正することによって、心室の壁応力を減少させ、心臓のさらなる拡大を予防することを目的としている。上記のもののうちの1つ以上と同様の装置および方法の例は、「Acorn」、「Myocor」、「Paracor」、「Cardioclasp」および「Hearten」を含む、様々な企業によって開示されている。Cardioclasp装置は、Abul Kashemらによる論文、非特許文献3において開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kelley ST,Malekan R,Gorman JH 3rd et al.,Restraining infarct expansion preserves left ventricule geometry and function after acute anteroapical infarction,Circulation 1999;99:135−42
【非特許文献2】Hani N.Sabbah,Reversal of Chronic Molecular and Cellular Abnormalities Due to Heart Failure by Passive Mechanical Ventricular Containment,Circ.Res.,Vol.93,2003,pages1095−1101;Sharad Rastogi et al.,Reversal of Maladaptive Gene Program in Left Ventricular Myocardium of Dogs with Heart Failure Following Long−Term Therapy with the Acorn Cardiac Support Devide,Heart Failure Reviews,Vol.10,2005,pages157−163
【非特許文献3】CardioClasp:A New Passive Device to Re−Shape Cardiac Enlargement,ASAIO Journal,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの従来技術には、ある程度の成功が見られる。例えば、Acorn Cardiac Support Deviceによる長期治療法は、進行性左心室拡張を止め、かつ駆出分画を改善したと報告されている。この全体的なLV機能の改善は、少なくとも部分的には、伸張応答タンパク質の下方調節、心筋細胞肥大の減衰、および筋小胞体カルシウム循環の改善によるものとして報告された。心不全の治療の進歩にもかかわらず、治療の速度、ならびに治療技術および装置の複雑性および侵襲性のさらなる改善が望ましい。
【0010】
心筋梗塞(「MI」)は、心臓の血液供給の一部が、突然かつ大幅に低減または中断される医学的な緊急事態であり、その酸素供給が奪われるために、心筋の死を引き起こす。心筋梗塞は、進行的に心不全へと進む場合がある。梗塞領域の瘢痕組織形成および動脈瘤菲薄化が、しばしば、心筋梗塞を克服する患者において発生する。心筋細胞の死は、残りの生存心筋の壁応力の増加につながる、ネガティブな左心室(LV)再造形をもたらすと考えられている。この過程は、LV拡張につながる、一連の分子、細胞、および生理反応をもたらす。ネガティブなLV再造形は、概して、心不全の進行の独立した原因と考えられる。
【0011】
僧帽弁逆流(「MR」)は、収縮期中に左心室(LV)から左心房の中への流動を引き起こす、僧帽弁の機能不全である。一般的な原因は、僧帽弁逸脱、虚血性乳頭筋機能不全、リウマチ熱、ならびにLV収縮機能障害および拡張に続発する輪拡張を含む。
【0012】
動脈瘤菲薄化および僧帽弁逆流の治療の進歩にもかかわらず、特に心不全の治療と併せて、治療技術および装置の改善が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位に生体適合性の重合性薬剤の用量を導入するステップを備える、患者の心臓内の拡張した左心室を治療する方法であって、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、該用量は、心筋を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、および左心室の機能を改善するための、治療に有効な量である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、生体適合性の重合性薬剤源と、左心室の心筋内の少なくとも3箇所の注射部位に生体適合性の重合性薬剤の用量を導入するための手段とを備える、患者の拡張した心腔を治療するためのキットであって、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、該用量は、心筋を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、および左心室の機能を改善するための、治療に有効な量である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、左心室を例示する、心不全における心臓のサイズ変更のための作用機構の概略図である。
【図2】図2は、左心室の長軸および短軸が示される、心臓の断面図である。
【図3A】図3Aは、注射部位の4つの縦線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図3B】図3Bは、図3Aの心臓の後面図である。
【図4A】図4Aは、注射部位の4つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図4B】図4Bは、図4Aの心臓の後面図である。
【図5A】図5Aは、注射部位の1つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図5B】図5Bは、図5Aの心臓の後面図である。
【図6A】図6Aは、注射部位の2つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図6B】図6Bは、図6Aの心臓の後面図である。
【図7A】図7Aは、注射部位の3つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図7B】図7Bは、図7Aの心臓の後面図である。
【図8A】図8Aは、注射部位の1つの円周線、1つの縦線のパターンが識別される、心臓の前面図である。
【図8B】図8Bは、図8Aの心臓の後面図である。
【図9】図9は、注射前のイヌ左心室の拡張終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査装置である。
【図10】図10は、注射前のイヌ左心室の収縮終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査装置である。
【図11】図11は、注射後のイヌ左心室の拡張終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査装置である。
【図12】図12は、注射後のイヌ左心室の収縮終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査である。
【図13A】図13Aは、長軸図であり、そして、図13Bは、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、例示的なイヌの心臓の短軸図である。
【図13B】図13Aは、長軸図であり、そして、図13Bは、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、例示的なイヌの心臓の短軸図である。
【図14】図14は、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、左心室の最大幅点近傍の平面における、例示的なイヌの心臓の短軸図である。
【図15】図15は、様々な研究における動物に対する拡張終期容積(ミリリットル単位のΔEDV)の変化を示すグラフである。
【図16】図16は、様々な研究における動物に対する収縮期終期容積(ミリリットル単位のΔESV)の変化を示すグラフである。
【図17】図17は、様々な研究における動物に対する駆出分画(パーセント単位のΔEF)の変化を示すグラフである。
【図18】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図19】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図20】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図21】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図22】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図23】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図24】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図25】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図26】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図27】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図28】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図29】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図30】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図31】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図32A】図32Aは、心臓の下位部全体を包囲する注射部位の3つの円周線パターンが識別される、心臓の前面図である。
【図32B】図32Bは、図32Aの心臓の後面図である。
【図33】図33は、血管壁を通して梗塞域へ薬剤を注射するための針を含有する、拡張可能バルーンの計画図面である。
【図34】図34は、動脈瘤の両側に位置する注射部位の2つの縦線パターンが識別される、心臓の前面図である。
【図35】図35は、注射部位の3つの縦線パターンが識別され、そのうちの1つが動脈瘤を通過する、心臓の前面図である。
【図36】図36は、Torrent−Guasp二重ループ概念に従った、心臓の前面の概略図である。
【図37】図37は、心筋の横紋に平行である線が、動脈瘤を通って動脈瘤の両側の健常組織の中へ延在する、心臓の前面図である。
【図38】図38は、僧帽弁逆流を治療するための、僧帽弁輪近傍の注射/移植部位を示す、ヒト心臓の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で記載されるように、心筋症は、1つ以上の心腔の周りに、あるパターンで心筋内で空間占拠性薬剤を分布させることによって治療され得、そのために、空間修正剤は、心腔の周囲の心臓壁の少なくとも一部に溶け込み、かつそれを肥厚して、全体的に壁応力を低減して、心腔サイズを安定させるか、または低減さえする。一部のパターンはまた、心腔の有益な全体的再形成をも引き起こす。これらの変化は迅速に起こり、持続可能であって、心臓機能に急速かつ持続可能な治療効果を及ぼす。経時的に、壁応力の緩和は、酸素消費量を低減し、治癒を推進する。さらに、様々な長期的治療効果が、他の治療用物質との組み合わせを含む、空間占拠性薬剤の性質に応じて実現されてもよい。これらのシステムおよび方法によって治療可能な、具体的な心臓の状態は、例えば、拡張型心筋症(顕性動脈瘤形成を伴う、または伴わない)、うっ血性心不全、および心室性不整脈を含む。
【0017】
図1は、左心室を例示して、作用機構を分かりやすく概略的に図示する。壁応力「S」は、心臓が血液を拍出するためにどの程度激しく動かなければならないかを示す指標である。ラプラスの原理が適用されて、壁応力は、次式によって、直径および壁の厚さに対して導出される:
S=(D/T)P (1)
ここで、「D」は心腔直径、「T」は心腔壁の厚さ、および「P」は心腔内の圧力である。正常状態の心臓(参照番号2)は、概して、拍出に対して効率的な形状である、細長い円錐形の左心室(図面に図示せず)を有している。しかしながら、心不全患者においては、心臓は、左心室の直径がさらに大きくなって壁がさらに薄くなる状態(参照番号4)に全体的に悪化する。同じ圧力Pを達成するために、壁応力「S」は上昇し、これは心臓がさらに激しく動くことを意味する。さらに、左心室の形状(図面に図示せず)は、円錐から、拍出に効率的な形状ではない球形に変化する。あいにく、増加した壁応力は、進行性再造形を引き起こす事象の連鎖につながる。増加した壁応力に起因する再造形刺激は、サイトカイン、神経ホルモン、および酸化的ストレスを含む。これらの再造形刺激は、筋細胞肥大および変性間質マトリクスによる心室拡大、ならびに、胎児性遺伝子発現、変性カルシウム処理タンパク質、および筋細胞死による、収縮および拡張機能障害を引き起こす。
【0018】
空間占拠性薬剤が適切なパターンで心筋内に分布されると、心臓は、左心室の壁が肥厚して心腔直径が減少する状態(参照番号6)に全体的に改善する。厚さが上昇して、直径が低下するにつれて、壁応力「S」が低減される。進行性再造形をもたらす事象の連鎖は中断され、進行性再造形は、停止または逆転さえされる。
【0019】
一部のパターンはまた、心腔の有益な再形成をも引き起こし、心不全の治療のためにLV再造形を効果的に逆転する。左心室の形状は、例えば、「収縮終期球形度指数」を使用して大まかに定量化されてもよく、それは、図2に示されるように、長軸の長さ「L」対中央空洞直径「D」の比率であり、両方とも収縮終期に測定される。左心室が理想的な円錐形から逸脱して球形に近づくにつれて、常態心臓の球形度指数は減少する。より生理学的な楕円形、特に円錐形に再形成することが望ましい。
【0020】
全体的なサイズ変更のための、心筋内の空間占拠性薬剤の分布のパターンは、心筋梗塞、一般的には、広範囲貫壁性心筋梗塞に応じて形成するような心室壁の顕性動脈瘤、および非従順僧帽弁による僧帽弁逆流等の、局所的な状態を治療するために使用または増強してもよい。これらの技術はまた、未だ心筋症にまで進行していないような局所的な状態を治療するために使用してもよい。
【0021】
(空間占拠性薬剤の分布のパターン)
全体的効果を有する治療のために、注射または移植部分(または両方)の成形分布として、またはさらに簡単に、注射または移植部分(または両方)の1つ以上の線(弧を含む)として、想定され得るパターンで、空間占拠性薬剤が心筋の中へ注射または移植される。パターンは、心臓全体、心臓の1つ以上の心室、または心臓の1つ以上の心房に対して想定され、心臓またはその様々な心腔のうちの1つ以上の全体的サイズ変更および/または再形成を生じてもよい。1つの適切なパターンでは、心房および心室等の1つ以上の心腔の全体または一部の周囲において円周方向に延在する、1つ以上の線が想定されてもよい。左心室の場合、例えば、左心室の拡大の程度に応じて、1つ以上のそのような線を使用してもよい。円周線あたりの注射または移植部位の数は、心臓のサイズおよび線の場所に依存するが、例示的には、2つから8つの部位、好ましくは、5つから7つの部位を伴ってもよい。別の適切なパターンでは、心房および心室等の1つ以上の心腔の全体または一部の周囲において円周方向に延在する、心尖近位から基底近位までの距離の全体または一部の距離を縦方向に延在する線が想定されてもよい。左心室の場合、例えば、左心室の拡大の程度に応じて、2つ以上のそのような線を使用してもよい。縦線あたりの注射または移植部位の数は、心臓のサイズおよび線の場所に依存するが、例示的に、2つから7つの部位、好ましくは、4つから6つの部位を伴ってもよい。注射が使用される場合、注射は、必ずしも、心筋内で均一な用量および間隔および深度である必要はない。注射部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。移植片が使用される場合、移植片は、必ずしも、心筋内で同じサイズおよび間隔および深度である必要はない。移植部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。典型的には、心筋中の深度とともに異なる、心筋線維の収縮方向が、注射または移植片の深度を決定する際に考慮されてもよい。
【0022】
パターン内の注射液または移植片はまた、伝導遮断、または伝導を強化あるいは減衰させることのいずれかによる、心筋における伝導の修正によって伝導異常を治療するために有効であり得る。注射または移植片は、伝導路を途絶する可能性があるが、このことは催不整脈性にならない。リエントリー性または他の伝導異常が途絶される程度まで、心臓電気活動に対する注射線の効果が有益である。心筋における伝導修正は、Leeらの2006年4月20日に公開された、米国特許出願公報第2006/0083717号、Leeらの2006年1月5日に公開された、米国特許出願公報第2006/0002898号、Leeらの2004年1月8日に公開された、米国特許出願公報第2004/0005295号、Leeの2003年6月5日に公開された、米国特許出願公報第2003/0104568号、およびFeldらの2005年1月13日に公開された、米国特許出願公報第2005/0008628号を含む、様々な文書において開示されており、その全ては、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる。
【0023】
局所的なパターン形成は、それ単独で、または全体的治療の一部としてのいずれかで、僧帽弁逆流をもたらす心筋梗塞または僧帽弁輪障害に起因する動脈瘤等の、局所的な心臓異常を治療するために使用してもよい。局所的な心臓異常の場所を識別するためにマッピングまたは撮像を行ってもよいが、全体的治療に必要ではない。全体的治療と共に使用される場合、局所パターンは、一般化パターンとは別に想定されるか、または一般化パターンに組み込まれてもよい。注射が使用される場合、注射は、必ずしも、心筋内で均一な用量および間隔および深度である必要はない。注射部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。移植片が使用される場合、移植片は、心筋内で同じサイズおよび間隔および深度であってもよいが、必ずしもそうである必要はない。移植部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。
【0024】
図3Aは、心臓30の前面図であり、図3Bは、心臓30の後面図である。心臓30における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、上下に離間しており、この画像においては、前面および前方側面から、この図の後ろをまわって図3Bに示される心臓30の後方側面へと続き、左心室自由壁と交差して分割される、4つの線31、32、33、および34のパターンとして想定されてもよい。心臓30の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断によって均等な分布から逸脱する場合がある。部位を心臓30においてより良好に識別することができるように、線31、32、33、および34は、注射部位からわずかに離れて離間している。
【0025】
図4Aは、心臓40の前面図であり、図4Bは、心臓40の後面図である。心臓40における注射部位は、その概略位置は白い点として表されているが、この画像においては、前面および前方側面から、この図の後ろをまわって図4Bに示される心臓40の後方側面へと続き、左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、4つの離間している線41、42、43、および44のパターンとして想定されてもよい。心臓40の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断によって均等な分布から逸脱する場合がある。部位を心臓40においてより良好に識別することができるように、線41、42、43、および44は、注射部位からわずかに離れて離間している。
【0026】
図5Aは、心臓50の前面図であり、図5Bは、心臓50の後面図である。心臓50における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、心室のほぼ最大幅の部分において左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、1つの線51のパターンとして想定されてもよい。この画像では、自由壁は、前面および前方側面から、この図の後ろをまわって図5Bに示される心臓50の後方側面へと続く。心臓50の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。部位を心臓50においてより良好に識別することができるように、線51は、注射部位からわずかに離れて離間している。
【0027】
図6Aは、心臓60の前面図であり、図6Bは、心臓60の後面図である。心臓60における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、心室のほぼ最大幅の部分に近接して左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、2つの線61および62のパターンとして想定されてもよい。心臓60の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。
【0028】
図7Aは、心臓70の前面図であり、図7Bは、心臓70の後面図である。心臓70における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、3つの線71、72、および73のパターンとして想定されてもよい。線71が心室のほぼ最大幅の部分に近接していてもよい一方で、線72および73は、心尖に向かって離間していてもよい。あるいは、線71および72が、両方とも心室のほぼ最大幅の部分に近接している一方で、線73が、心尖に向かって離間していてもよい。心臓70の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。
【0029】
図8Aは、心臓80の前面図であり、図8Bは、心臓80の後面図である。心臓80における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、心室のほぼ最大幅の部分で左心室自由壁を横断して円周方向にまたがる1つの線81、および心尖近傍から基底近傍までの全距離を縦方向に延在する1つの線82のパターンとして想定されてもよい。この画像では、自由壁は、前面および前外側から、この図の後ろをまわって図8Bに示される心臓80の後外側面へと続く。心臓80の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。
【0030】
全体的再形成、全体的再造形、または全体的再形成および再造形の両方に対する心筋内パターン形成は、注射剤、移植型装置、またはそれらの組み合わせにより達成される。注射または移植したパターンおよび用量(注射剤に対する)、サイズおよび構成(移植型装置に対する)、ならびに、例えば、剛性、可塑性、弾力性、吸水等の他の物質性のための物質が、意図した治療効果に基づいて選択される。注射剤が使用される場合、用量は、均一であってもよく、または所望に応じて、変化してもよい(例えば、心尖に向かって減少してもよい)。移植型装置が使用される場合、有効断面がパターンに沿って変化できるように、異なる断面の装置を使用してもよい。治療効果が主にサイズ変更および再形成である場合、適切な物質は、好ましくは、急速な構造支持を提供し、経時的に消散してもよい。アルギン酸塩、キトサン、フィブリン接着剤、コラーゲン、PEG、および他のそのような物質が、この目的での適切な物質の実例である。長期的構造支持が望まれる場合、物質は、好ましくは、身体による吸収または分解に対して耐性がある。金属、高分子、シリコーン、および形状記憶材料が、この目的に対する実例である。サイズ変更、再形成、および逆再造形が望まれる場合には、物質は、ある期間の支持を提供した後に再吸収され、筋細胞、血管等に置換されて所望の逆再造形を提供するように設計されてもよい。線維芽細胞、線維細胞、幹細胞、筋細胞、成長因子、間質細胞由来の因子等の細胞、または細胞を誘引する他の物質および/またはサイトカイン、またはその両方と併用される注射可能な生体高分子が、この目的に対して適している。再形成および/または再造形に有用な物質は、生物学的適合性高分子(ヒドロゲル、自己集合性ペプチド、PLGA、およびヒト移植用の任意のFDA承認高分子を含む)、生細胞(例えば、線維芽細胞、線維細胞、または前線維化血液前駆細胞、幹細胞、および筋細胞を含む)、成長因子(例えば、VEGF、FGF、およびHGF等の血管新生因子、化学誘引物質、幹細胞由来因子、およびTGF−bを含む)、ペプチド、タンパク質、ならびに、金属、高分子(プラスチックおよびシリコーンを含む)、ニチノール等の形状記憶材料、物質の組み合わせ、および同類のもので作られている機械装置を含む。
【0031】
注射剤が使用される場合、個々の注射は、互いとの連係が本質的にないように離間していてもよく、治療効果は、最初に注射による心筋壁の肥厚を介して達成される。あるいは、注射は、より近接して離間していてもよく、個々の注射の用量は、注射間の間隔に関連し、治療効果を実現するために、注射間の物理的、化学的、または物理的と化学的との両方の連係を達成する。
【0032】
治療用内部構造を形成して心臓再形成を推進するように、心臓構造の中へ注射剤を送達するために注射器を使用してもよく、治療用内部構造を形成して心臓再形成を促進するために移植型装置を移植してもよい。多くの異なる種類の注射器が当技術分野において知られており、手術の種類(侵襲的または低侵襲的)、使用に望ましい薬剤の種類、および注射によって達成されることが望まれるパターンに応じて、それらから選択してもよい。適切な注射器は、参照することによって、その全体が本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631号に記載されているものを含む。多重注射管腔アレイが、参照することによりその全体が本願に組み込まれる、Palasisに対して2004年2月10日に発行された、米国特許第6,689,103号に記載されている。適切な注射器は、低侵襲手技用の注射カテーテル、開胸手技用の手持ち式シリンジ(単一または複数管腔を伴う、単一または複数の部品)を含む。
【0033】
(予備的実験)
心不全のイヌにおける左心室機能障害および再造形の進行に対する、アルギン酸塩およびフィブリン封止剤の直接注射の効果を知るために、予備実験を行った。6匹の雑種犬が、直径77〜102μmのポリスチレンラテックス微小球による複数の連続冠動脈内塞栓術を受け、35パーセント以下のLV駆出率を達成した。最後の塞栓術の2週間後、イヌのうちの3匹が、パターン化した一連のアルギン酸塩注射を受け、イヌのうちの3匹が、概して中央領域内の左心室の自由心筋壁の中へと直接、パターン化した一連のフィブリン封止注射を受けることにより、拡張終期容積を約15パーセント低減することによって、LV形状を十分に修復できたか否かを判定した。図3のパターンを使用し、各注射は、約0.20から0.25ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩またはフィブリン封止剤のいずれかを含有した。アルギン酸塩注射液は、1735 Market Street,Philadelphia,PA 19103のNovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporationより入手可能な、Ca−アルギン酸塩/Na−アルギン酸塩の自己ゲル化アルギン酸塩製剤であった。フィブリン封止剤注射液は、材料にトランスエキサム酸が添加された、Evicelフィブリン封止剤(ヒト)を使用した調剤であった。Evicelフィブリン封止剤は、Somerville,New Jersey,USAのJohnson & Johnsonによって流通されている。図15、図16、および図17の棒グラフを参照して、予備実験の結果を後述する。
【0034】
図3Aは、その主要な解剖学的特徴を強調する、イヌの心臓30の前面像の美術的表現を示す。拡大した左心室という以前から存在する状態を伴う、鼓動しているイヌの心臓を治療する実行可能性を評価するために、標準IRB承認下での臨床評価を行った。調査対象の動物は、イヌの心臓の心尖近傍の左心室における前方隆起(拡張)を提示した。手術プロトコルは、皮下注射針を介して、拡張領域近傍の心筋組織に直接、かつ場合により、拡張領域の中へ、生体適合性物質を注射するように設計した。
【0035】
アルギン酸塩溶液の外科的注射の前に、超音波経食道心エコー検査を行い、左心室拡張の程度および規模を特徴付けた。注射前心エコー検査の結果は、心室拡大の範囲を見ることができる、イヌの左心室の側面図を示す。図9および10はそれぞれ、アルギン酸塩注射の前の拡張終期の状態および収縮終期の状態を示す。自己ゲル化アルギン酸塩溶液を調製し、次いで、図3Aおよび図3Bに示されたパターンで、18ゲージ皮下注射針を介して、イヌの左心室領域の前方領域および後方領域の両方に注射した。本臨床評価では、18ゲージ針を介した注射の前に、アルギン酸塩物質をカルシウム陽イオン(Ca2+)と前もって混合した。
【0036】
図3Aは、白い円で示されるような、イヌの左心室の前方領域中のアルギン酸塩注射場所を示す。図3Aは、8個の別個のアルギン酸塩注射を示し、幾何学的に、4つの注射の約2本の直線のように見え、それぞれ心尖から心臓の基底領域へと続いている。本研究では、各注射は、約0.20から0.25ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩溶液を含有し、各注射の側方分離は、約10から15ミリメートルに及んだ。同様に、図3Bは、イヌの左心室の後方領域における8個の別個のアルギン酸塩注射を示し、以前のように、それぞれ4つの注射の約2本の直線であり、各注射は、約0.20から0.25ミリリットルのアルギン酸塩溶液を含有し、各注射の側方分離は、約10から15ミリメートルに及んだ。
【0037】
イヌの左心室領域の中へのアルギン酸塩溶液の注射の直後に、注射後経食道心エコー検査を行い、治療した心筋領域に対するアルギン酸塩の効果を特徴付けた。図11および12はそれぞれ、アルギン酸塩注射の直後の拡張終期の状態および収縮終期の状態を示す、イヌの左心室領域の側面を表す。図11および図12に見られるように、拡張したLV心腔は、より厚い心腔壁およびより平滑に画定された心腔を形成することによって、治療に反応した。
【0038】
(有効性確認実験)
左心室への、生体適合性高分子、具体的にはアルギン酸塩の直接注射が、慢性心不全があるイヌにおいて、左心室機能障害および心腔再造形の進行を予防するという仮説を試験するために、有効性確認実験を行った。12匹の雑種犬が、直径77〜102μmのポリスチレンラテックス微小球による複数の連続冠動脈内塞栓術を受け、35パーセント以下のLV駆出分画を達成した。最後の塞栓術の2週間後、イヌのうちの6匹が、アルギン酸塩の注射を受け、イヌのうちの6匹(対照)が、図4のパターンを使用して、概して中央領域内である、左心室の自由心筋壁の中へと直接、生理食塩水の注射を受けた。各注射は、0.3ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩または食塩水のいずれかを含有した。図15、図16、および図17の棒グラフを参照して、有効性確認実験の結果を後述する。
【0039】
図13Aは、長軸図であり、図13Bは、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、例示的なイヌの心臓90の短軸図である。図4のパターンを使用した。長軸図(図13A)では、注射の部位91〜95は、心尖から基底の縦線に沿って、左心室の自由壁内の中間にある。短軸図では、注射の他の部位96〜102は、円周線に沿って、左心室の自由壁内の中間にある。
【0040】
図13Bの短軸図が、隔壁の中への注射の配置の不足を示すことに注目されたい。所望に応じて、注射および移植を隔壁の中に行ってもよく、心室中の血液プール等の意図しない標的の注射を回避するために注意するのであれば、当業者に周知の画像誘導技術(例えば、心エコー検査)を、隔壁注射および移植に使用してもよい。
【0041】
心筋の中央に示されているが、注射部位は、心内膜または外膜の近傍を含む、心筋内の任意の深度であってもよい。
【0042】
(パターン実験)
慢性心不全があるイヌにおいて、左心室機能障害および心腔再造形の進行を防ぐ際の、アルギン酸塩注射の正確なパターン、すなわち図5のパターンの効果を試験するために、パターン実験を行った。3匹の雑種犬が、直径77〜102μmのポリスチレンラテックス微小球による複数の連続冠動脈内塞栓術を受け、35パーセント以下のLV駆出分画を達成した。最後の塞栓術の2週間後、イヌは、図5のパターンを使用して、概して中央領域内である、左心室の自由心筋壁の中へと直接、アルギン酸塩の注射を受けた。各注射は、約0.3ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩を含有した。図15、図16、および図17の棒グラフを参照して、有効性確認実験の結果を後述する。
【0043】
図14は、アルギン酸塩の注射の部位が示される、左心室の最大幅点の近傍の平面における、例示的なイヌの心臓110の短軸図である。図5のパターンを使用した。短軸図では、注射の部位103〜109は、心室のほぼ最大幅の部分において円周線に沿う、左心室の自由壁内の中間にある。その意図は、その最大幅の点で心腔を縮小することである。「側面から隔壁」の寸法は、「LS」で示され、「前方から後方」の寸法はAPで示される。
【0044】
心筋の中央に示されているが、注射部位は、心内膜または外膜の近傍を含む、心筋内の任意の深度であってもよい。
【0045】
(実験の考察)
生体適合性高分子は、左心室収縮終期および拡張終期の容積変化ならびに左心室球形度変化を介して評価されるので、予備、有効性確認、およびパターンの実験を評価することにより、生体適合性高分子が、全体的左心室機能を改善し、進行性左心室心腔再造形を予防するかどうかを判定した。全動物について平均して、予備的試験における、HF塞栓症前処置の前およびHF塞栓症前処置の後の、拡張期容積(「EDV」)、収縮終期容積(「ESV」)、および駆出分画(「EF」)の基礎値を下記の表1に示した。表中において、括弧内の値は標準偏差である。
【0046】
【表1】
図15、16、および17はそれぞれ、有効性確認実験において多重線パターンで注射された対照動物(「CTRL」)、予備的実験において多重線パターンでフィブリン封止剤を注射された動物(「FS−ML」)、予備的および有効性確認実験において多重線パターンでアルギン酸塩を注射された動物(「A−ML」)、およびパターン実験において単一の円周線パターンでアルギン酸塩を注射された動物(「A−1CL」)に対する、拡張終期容積(ミリリットル単位のΔEDV)の変化、収縮終期容積の変化(ミリリットル単位のΔESV)、および駆出分画(パーセント単位のΔEF)の変化を示す。パターン実験についての12週間のデータはまだ入手可能ではなかった。前処置値と比べたEDVの変化を下記の表2に示す。
【0047】
【表2】
前処置値と比べたESVの変化を下記の表3に示す。
【0048】
【表3】
前処置値と比べたEFの変化を下記の表4に示す。
【0049】
【表4】
対照動物は、2週間、6週間、および12週間の区間において、EDV、ESV、およびEFの進行性の悪化を示している。対照動物における拡張終期容積および収縮終期容積は、経時的に増加した。これは心不全の「通常の」経過である。
【0050】
多重線パターンを使用してフィブリン封止剤で治療された動物は、EDVのいくらか軽度の悪化、ESVの持続的改善、およびEFの短期的改善を示した。それにもかかわらず、EDVの結果が、対照動物と比べてLV拡張の有意な遅延を表した一方で、ESVの結果は、対照動物と比べて収縮期におけるLV拡張の有意な遅延、また収縮期におけるわずかに小さい心腔を表した。
【0051】
多重線パターンを使用してアルギン酸塩で治療された動物は、EDVのわずかではあるが顕著で持続的な減少、ESVの非常に顕著で持続的な改善、および約5パーセントのEFの良好で持続的な改善を示した。収縮期の心腔サイズと拡張期において顕著な中等度の改善との相違は、LVの機構および機能の改善によって説明されるかもしれない。この介入の理論は、壁応力が低減されるということである。したがって、論理上の相関は、より「強制的な」収縮があるということかもしれない。次に、このことは、収縮期のより良好な収縮および小容積につながる場合がある。
【0052】
単一円周線パターンを使用してアルギン酸塩で治療された動物は、EDVの大幅な持続的改善、ESVの大幅な進行性改善、EFの大幅な進行性改善、および、より望ましい円錐形への心腔の有意な再形成を呈する、最高の改善を示した。改善は、弛んだ球形の心腔を最も効果的なポンプである円錐形に本質的に「締めて」戻す、単一円周方向線注射の作用に起因すると考えられる。
【0053】
改善は、図18〜23に示される心室撮影で見ることができ、図24〜31の表に示される球形度指数値で定量化される。イヌ07−039に対する、前処置、2週間、および6週間の心室撮影を、拡張終期について図18、および収縮終期について図18に示す。イヌ07−052に対する、前処置、2週間、および6週間の心室撮影を、拡張終期について図20、および収縮終期について図21に示す。イヌ06−114に対する、前処置および2週間の心室撮影を、拡張終期について図22、および収縮終期について図23に示す。
【0054】
単一円周線パターンに対する、図18〜23に見られる形状の改善は、図24〜25の球形度指数表で定量化される。図24は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、3匹全てのイヌに対する、基礎、前処置、2週間、および6週間における拡張終期球形度指数を示す。全てのイヌが、前処置と比較してEDSIの有意な改善を呈し、改善は、データを有するイヌについて、6週間通して持続された。平均前処置EDSIは、1.57であり、6週間後に2.00まで改善した。図25は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、3匹全てのイヌに対する、基礎、前処置、2週間、および6週間における収縮終期球形度指数を示す。全てのイヌが、前処置と比較してESSIの有意な改善を呈し、改善は、データを有するイヌについて、6週間通して持続された。平均前処置ESSIは、1.60であり、6週間後に2.65まで改善した。
【0055】
図26および27は、予備的および有効性確認実験における、6匹のアルギン酸塩イヌに対する球形度指数データを示す。図26は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における拡張終期球形度指数を示す。概して、EDSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置EDSIは1.5であり、6週間EDSIも1.5であった。図27は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における収縮終期球形度指数を示す。一部の動物が改善を呈した一方で、概して、ESSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置ESSIは1.6であり、6週間ESSIは1.7であった。
【0056】
EDSIおよびESSIの結果における少ししかない改善にもかかわらず、予備的および有効性確認実験におけるアルギン酸塩イヌは、拡張終期容積のさらなる低下を回避し(図15のA−MLの棒を参照)、収縮終期容積の有意な改善を持続し(図16のA−MLの棒を参照)、駆出分画の有意な改善を持続した(図17のA−MLの棒を参照)。劇的な形状の改善がなくても、拡張終期容積と比較した収縮終期容積の改善は、より高い心室ポンプ能力を示唆する望ましい結果であると考えられる。
【0057】
図28および29は、予備的実験における、3匹のフィブリン封止剤イヌに対する球形度指数データを示す。図28は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における拡張終期球形度指数を示す。一部の動物が改善を呈した一方で、概して、EDSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置EDSIは1.5であり、6週間EDSIは1.6であった。図29は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における収縮終期球形度指数を示す。一部の動物が改善を呈した一方で、概して、ESSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置ESSIは1.7であり、6週間ESSIは1.8であった。
【0058】
EDSIおよびESSIの結果における少ししかない改善にもかかわらず、予備的および有効性確認実験におけるフィブリン封止剤は、拡張終期容積の非常にわずかな低下のみを呈し(図15のFS−MLの棒を参照)、収縮終期容積の有意な改善を維持し(図16のFS−MLの棒を参照)、駆出分画の様々な改善を呈した(図17のFS−MLの棒を参照)。劇的な形状の改善がなくても、拡張終期容積と比較した収縮終期容積の改善は、より高い心室ポンプ能力を示唆する望ましい結果であると考えられる。
【0059】
図30および31は、有効性確認実験における、対照イヌに対する球形度指数データを示す。図30は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における拡張終期球形度指数を示す。概して、EDSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置EDSIは1.5で、6週間EDSIは1.5であった。図31は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における収縮終期球形度指数を示す。概して、ESSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置ESSIは、1.7であり、6週間時点で1.6まで低下した。
【0060】
EDSIおよびESSIの結果における少ししかない改善とともに、低下する拡張終期容積(図15のCTRLの棒を参照)、低下する収縮終期容積(図16のCTRLの棒を参照)、および低下する駆出分画(図17のCTRLの棒を参照)によって示されるように、対照イヌは、進行性のHFを経験した。
【0061】
(全体的サイズ変更および再形成に対する他のパターン)
実験が左心室に焦点を当ててきた一方で、他の心腔、または心臓全体にさえも該技術を使用してもよい。心房を再形成および/または再造形するために、および特に拡大した左心房において、心房細動および他の心房関連症状の予防を補助するために、該技術を使用してもよい。
【0062】
該技術は、心臓全体に使用してもよい。図32Aおよび32Bは、左右心室を含む、心臓の下位部全体を円周方向に包囲するために、3つの円周線322、324、および326が使用される、治療を示す。
【0063】
(空間占拠性薬剤)
上記の臨床評価は、イヌの心筋組織の中への、注射可能な生体適合性物質としての自己ゲル化アルギン酸塩の使用に焦点を当てた。しかしながら、一部は注射可能であり、一部は移植可能である、多くの種類の生体適合性物質が適切であり、使用されてもよい。例えば、適切な注射可能な生体適合性物質は、アルギン酸ビーズ、共有結合ペプチドを伴うアルギン酸塩物質、キトサン物質で被覆されたアルギン酸ビーズ、キトサンビーズ、フィブリン接着剤、線維芽細胞、線維細胞、幹細胞、成長因子、およびそれらの組み合わせを含んでもよい。上記に記載の生体適合性高分子材料は、例えば、1735 Market Street,Philadelphia,PA 19103のNovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporation、および630 5th Avenue,22nd Floor,New York,NY 10111のOmrix Biopharmaceuticalsを含む、数々の供給源より市販されている。様々な物質は、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631号にも記載されている。他の適切な物質は、単糖類、二糖類、および三糖類等の糖類を含む。
【0064】
概して、生体適合性高分子は、主に3つの理由により、すなわち、(1)心臓壁を肥厚して再造形の進行を停止する、物理的支持または充填材を即時に提供し、場合によっては、再造形を再形成および逆転する、(2)一部の高分子に対して、機能性組織の再生のために細胞の内方成長を推進する、原位置での組織成長を可能にする基質を形成する、および(3)投与が極めて柔軟であり、カテーテルを使用する低侵襲技法から開胸手技に及ぶため、空間占拠性薬剤としての使用に好まれる。
【0065】
第1の理由に関して、生物高分子の構造的性質は、損傷した左心室の壁応力の減少に至り、次に、それは心腔寸法の減少に加えて、有益な心臓機構を生じる。心臓壁応力の所望の減少は、投与される生物高分子の量および物質自体の剛性の両方によって影響される。量に関しては、例示的には約4.5%以上である付随的な量より多く、全壁容積を増加させることが、容積/圧力の有意で有益な変化を生じさせると我々は考える。剛性に関しては、心筋に移植される、心筋と等しい、またはわずかに高い剛性の非収縮性物質が、壁応力(線維応力を指す)を減少させると我々は考える。参考までに、正常な心筋が1〜10kPaの線維応力を示す一方で、梗塞および境界域の心筋組織は、20〜30kPaの範囲で線維応力を示す
第2の理由に関して、適切な多孔性および構造を有する基質よって、自然発生的に、あるいは領域の中へのケモカイン、成長因子、または細胞の適用を介して生じることができる、正常組織から壁の梗塞域の中への心筋細胞の内方成長が可能にされる。
【0066】
心臓のサイズ変更および再形成に対する望ましい高分子の性質は次のとおりである。
【0067】
起源/純度。理想的には、生物高分子は、合成物であって、完全に画定され、一貫している。フィブリン封止剤、ウシコラーゲン等のヒトまたは動物源高分子は、適切であるが、規制的および/または経済的に不利となる場合がある。
【0068】
無菌。適切な生物高分子は、無菌であり、シリンジ中(開胸手術用途)およびカテーテル中(低侵襲手技)の両方で、手術室への提示に適している。
【0069】
血栓形成。適切な物質は、非血栓形成性である。
【0070】
免疫原生。単純な機械的効果を実現するために、不活性で非免疫原生の物質が好ましい。しかしながら、組織内方成長を誘発する成長因子等の、生物反応性ペプチドまたはタンパク質を含有する物質が、非常に有益となり得る。
【0071】
調製。解凍および予混合等の最小限の処理が望ましい。生成物は、好ましくは、シリンジ(開胸手術)およびカテーテルシステム(低侵襲)の両方にあらかじめ充填されるか、または搭載される。
【0072】
投与/ゲル化時間。生物高分子の重合またはゲル化特性は、線の数および線当たりの注射の数に依存する。約20の注射(用量)を伴うパターンについては、期間は約20分であってもよい。わずか2または3個の注射、好ましくはわずか7または8個の注射を伴ってもよい、単一円周線等のパターンについては期間はかなり短い。高分子は、単一塊または微小球として送達されてもよい。
【0073】
硬度/密度。高分子は、好ましくは、正常な心筋よりも若干硬くなる性質(応力・ひずみ関係)を有するべきであると我々は考える。正常な心筋は、1〜10kPaの線維応力を示す。
【0074】
効果持続期間。生物高分子の支持効果を維持するための期間は、まだ判定されていないが、少なくとも6ヶ月、および場合によっては1年以上となり得る。
【0075】
可塑性/多孔性。多孔性は、剛性、濃度、または分解率に付随するべきである。しかしながら、300〜420μmの気孔が、心臓組織用途に適正であってもよい。
【0076】
生物分解。理想的には、壁応力の恒久的緩和、心室容積の増大、再形成、駆出分画の改善、および長期的に、自然組織再生によって支持される再造形の逆転を提供するために、物質は、ゆっくりと分解するべきである。例示的には、生物高分子の実質的な存在および機能は、少なくとも6ヶ月間、好ましくはそれより長く持続するべきである。
【0077】
保存および安定性。好ましくは、生物高分子は、室温で保存されてもよく、1年から2年間安定している。
【0078】
多くの異なる種類の生体適合性高分子が適切である。New York,New YorkのOmrix Pharmaceuticalsより入手可能なCrosseal(登録商標)およびQuixil(登録商標)フィブリン封止剤、およびSarosota,FloridaのHaemacure Corporationより入手可能なHemaSeelフィブリン封止剤等の、適切なフィブリン封止剤が、種々の製造業者より入手可能である。適切なフィブリン接着剤はまた、被験者自身の血漿から調製される自己フィブリノゲン源である、寒冷沈降物から作られてもよい。他の適切な高分子は、合成吸収性自己硬化ヒドロゲル物質を含む。1つのそのような物質は、Waltham,MassachusettsのConfluent Surgicalより入手可能なDuraSeal(登録商標)封止剤である。DuraSeal封止剤は、ポリエチレングリコールを用いた封止剤である。別のそのような物質は、Vancouver,British Columbia,CanadaのAngiotech PharmaceuticalsおよびFremont,CaliforniaのBaxter Healthcare Corporationより入手可能なCoSeai(登録商標)外科用封止剤である。CoSeal外科用封止剤は、2つの合成ポリエチレングリコールまたはPEG、希釈塩化水素溶液、およびリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム溶液でできている。投与時、混合PEGおよび溶液は、組織に付着するヒドロゲルを形成する。DuraSealおよびCoSeal封止剤の両方は、数秒以内に重合し、加水分解により数週間以内に体内で分解される。他の適切な高分子は、シアノアクリレート接着剤を含む。他の適切な高分子は、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、PEO−ポリ−l−乳酸(「PLLA−PEOブロック共重合体」)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリル酸)(「ポリ(NIPAAm−co−Aac)」)、プルロニック剤、およびポリ−(N−ビニル−2−ピロリドン)(「PVP」)を含む。他の適切な高分子は、セルロース等の多糖類を含む。アルギン酸塩として概して知られる物質の部類は、適切な高分子である。他の適切な高分子は、単独で注射されて神経シグナル伝達を機械的に妨害してもよい、または他の物質とともに注射されて、機械的妨害とともに治療を投与してもよい、様々なビーズおよびヒドロゲルを含む。高分子を用いたビーズおよびヒドロゲルは、高分子材料のみを含んでもよく、または、幹細胞、線維芽細胞、または骨細胞等の細胞、タンパク質、プラスミド、または遺伝子、タンパク質またはプラスミドのいずれかの形の成長因子、化学誘引物質、フィブリン因子(または断片)E、RDG結合部位、様々な医薬組成物、新組織、または他の治療的有益な物質、または前述のものの任意の組み合わせを含んでもよい。ビーズおよびヒドロゲルに対する適切な高分子は、フィブリン接着剤、コラーゲン、アルギン酸塩、およびキトサンを含む。他の適切な高分子は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、および他の製剤、ScandinaviaのQ−MedまたはMedicis Aesthetics Holdings Inc.より入手可能なRestylane Injectable Gel、およびGensymeより入手可能なSynviscヒアルロン酸を含む。本明細書で記載される高分子材料は、概して、特定のより広い部類の材料を図示し、その部類は、当業者に明白となるような追加代替案を提供してもよい。ここで化合物が、本明細書で記載される1つ以上の実施形態に関して識別される場合、その前駆体または類似体または誘導体が、さらに検討される。例えば、体内で代謝あるいは変化されてそのような化合物を形成する、物質構造が、検討される。または、そのような化合物を形成する物質の組み合わせが、検討される。同様に検討される追加物質は、そのような指定化合とごくわずかに異なる分子構造を有する、あるいは本明細書で検討される意図された使用に関して、それと略同様の生物活性を有する(例えば、そのような生物活性機能に関して非官能基を排除または変更する)ものである。そのような化合物群、およびそのようなその前駆体または類似体または誘導体は、本明細書では「化合物剤」と呼ばれる。同様に、例えば、「高分子剤」または「フィブリン接着剤」等の、他の形態の「剤」への言及は、例えば、高分子またはフィブリン接着剤等の実際の最終生成物をそれぞれ含むか、または、一緒に、あるいは協調的に送達されて、結果として生じる物質を形成する、1つ以上の前駆体物質を含んでもよい。
【0079】
自己ゲル化ヒドロゲルは、適切な生物高分子である。そのような自己ゲル化ヒドロゲルは、Ca2+、Be2+、Mg2+、またはSr2+等の二価陽イオンの存在下で、アルギン酸塩物質から形成されてもよい。二価陽イオンが高分子鎖中のブロック間のイオン結合に関与して3次元ネットワークを生じさせると、ゲル化が起こる。1つのアプローチでは、アルギン酸塩混合物の混合化合物を注射して生体内でゲル化するために、単管注射針に合流する二腔シリンジを使用してもよい。1つの構成要素は、H2O等の水溶液中で完全溶解されたアルギン酸ナトリウムであってもよい。他の構成要素は、溶液中で分散された(好ましくは溶解されない)上記の二価陽イオンのうちの1つであってもよい。化合物は、任意の適切な方法で混合されてもよい。注射の前に、例えば、シリンジに取着されるT型アダプタを設定して化合物の混合を提供し、ゲル化作用を開始し、次いで、ゲル化を起こすアルギン酸塩混合物が管腔に進入して着目心臓組織に注射されることを可能にしてもよい。アルギン酸塩混合物は、即時に注射されてもよく、または、注射の前にヒドロゲルの粘性を増加させるために、シリンジ中で部分的に事前硬化することを可能にされてもよい。場合によっては、事前に硬化した製剤は、注射後に粘性の低いヒドロゲルが着目組織領域から離れて拡散または移動し得る可能性を低減してもよい。注射部位から離れた拡散/移動を限定または最小限化するために、300,000を超える分子量を伴うアルギン酸塩物質を利用することが有益であってもよい。別のアプローチでは、アルギン酸ナトリウム溶液および分散した陽イオンを外部混合室で前もって混合し、単管シリンジの中へ吸引してもよく、それを着目心臓組織の中へ注射してもよい。別のアプローチでは、二価陽イオンとの混合の前に、アルギン酸塩へのペプチドの共有結合のために、アルギン酸ナトリウム溶液を適切なペプチド(例えば、RGDまたはGREDVY)と前もって混合してもよい。
【0080】
有利なことには、イオンで架橋したアルギン酸ヒドロゲルの物質性質は、様々な方法で制御されてもよい。ゲル化後剛性からゲル化前溶液の粘性を制御および減結合するための分子量分布を変える技術は、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、H.Kong et al.,Controlling material properties of ionically cross−linked alginate hydrogels by varying molecular weight distribution,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.711,2002,pagesGG5.7.1−GG5.7.4に開示されている。その一部がポリエチレングリコールまたはPEG物質に適用できる、他の技術は、Pathakらに対して2003年5月20日に発行された米国特許第6,566,406号、Pathakに対して2005年5月3日に発行された米国特許第6,887,974号、およびPathakらの2004年2月5日に公開された米国特許出願公報第2004/0023842号で開示されており、その全ては、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる。
【0081】
特に、ゲル状態になる身体組織内の沈着の前に、液相を維持することが可能な、架橋高分子の水溶液である、注射用架橋高分子調剤の別の例は、Cohenらの2006年4月20日に公開された米国特許出願公報第2006/0083721号、およびCohenらの2005年1月6日に公開された米国特許出願公報第2005/0003010号で開示されており、その全ては、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる。
【0082】
参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Wallaceらに対して2000年5月16日に発行された米国特許第6,063,061号は、標的部位における開口部を通してゲルを押し出すことによる、患者の体内の標的部位への分子ゲルの適用を開示している。Wallaceらは、押し出し性、周辺生体液の吸収性、凝集性、空間を満たす能力、膨張能力、および組織部位に付着する能力を含む、ヒドロゲルのいくつかの機能性質に対する、高分子の架橋結合の程度の影響を考慮した。高分子ゲル組成物の架橋結合の程度は、架橋剤の濃度を調整する、架橋放射線への暴露を制御する、単または多不飽和単量体の相対量を変更する、反応条件を変える、および同様のことによって、制御されてもよい。さらに、性質はまた、ヒドロゲルを機械的に妨害して、それが送達されている空間を満たして詰める能力を強化するサイズを有する、ヒドロゲルの複数のサブユニットを作成してもよい。
【0083】
参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Bellらの2003年11月13日に公開された米国特許出願公報第2003/0211793号は、軸が線維の軸に実質的に平行である生物高分子小線維から組み立てられる、生物高分子線維を備える、注射可能な生体適合性物質を開示している。
【0084】
空間占拠性薬剤の別の例は、多糖スポンジであり、その例は、その全体において本願に組み込まれる、Shapiroらに対して2002年1月1日に発行された米国特許第6,334,968号、およびShapiroらに対して2002年7月30日に発行された米国特許第6,425,918号で開示されている。
【0085】
別の適切な治療薬は、キトサン物質で被覆されたアルギン酸ビーズであり、それは特に、注射の隣接領域にアルギン酸ビーズを固着することが望ましくてもよい場合に、適切である。この場合、被覆の内側のアルギン酸塩表面に化学的に結合される、および外側で心筋組織に同時に結合される被覆で、アルギン酸ビーズを上塗りすることが望ましくてもよい。アルギン酸塩表面および心筋組織の両方に、利用可能な負の結合部位があることを考えると、正電荷密度による上塗りが適切であってもよい。キトサンがそのような物質である。キトサンは、線状多糖類であり、その正電荷密度から考えて、粘膜等の負に帯電した表面に容易に結合する、生体接着剤である。キトサン上塗りは、浸漬被覆または他の既知の手順によって塗布されてもよく、キトサンは、アルギン酸塩表面上の利用可能な負の部位にイオン結合してもよい。このことから考えて、キトサンは、固着部の役割を果たして、ビーズを負に帯電した心筋組織に固定してもよく、注射部位において一時的な機械的完全性を生じる。キトサン上塗りが最終的には酵素的に溶解されるという意味で、一時的である。「固着時間」は、キトサン上塗りの厚さを増加させることによって、延長されてもよい。ビーズおよびヒドロゲルは、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Leeらの2007年6月13日に出願された米国特許出願第11/818,220号、およびLeeらの2006年6月13日に出願された米国特許出願第60/813,184号に記載されている。
【0086】
注射可能な物質の性質は、間質区画(個々の細胞間の空間、および細胞束間の空間)の特性を考慮して調整され、壁の肥厚の強化または注射部位間の連係の強化のいずれかを行うように、空間を占有してもよい。
【0087】
粒子、棒、球体、拡張可能な小型バルーン、および支柱等の移植型機械装置もまた、空間占拠性の作用因子として使用されてもよい。参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Santamoreらの2005年4月14日に公開された米国特許出願公報第2005/0080402号は、心筋を硬化させるための様々な移植型装置を開示している。機械的支柱は、ステンレス鋼、チタン、または他の既知の生物学適合性の剛性金属あるいは他の剛体材料でできていてもよく、長さが長いか、または短くてもよく、かつ、心臓外科の分野で周知の技術によって移植されてもよい。支柱が導入されてもよいチャネルを作成する際の使用に適した1つの器具は、患者の心臓の壁にチャネルを形成するためにレーザを使用する。このチャネルは、上記の種類の機械的支柱を移植するためのアクセスを提供するために使用してもよい。適切な器具は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Payneらに対して2000年10月17日に発行された米国特許第6,132,451号に開示されている。移植型機械装置はまた、さらなる治療を投与する薬剤溶出性であってもよい。
【0088】
心筋に配置された後に膨張する注射液および移植片は、投与を複雑にすることなく壁の肥厚を強化するのに効果的である。特に、注射または移植からの外傷が最小限にされてもよい。膨潤性高分子を使用してもよい。さらに、心筋の中への移植または注射の後に拡張する、膨潤性高分子でできている微小球および棒等の硬い物体は、心臓壁の肥厚の程度の微調整を可能にする、特定の拡張サイズに設計されてもよい。拡張の速度は、分解を管理するように制御されてもよい。
【0089】
急成長細胞および急成長推進生物製剤も、天然または遺伝子組み換えにかかわらず、空間占拠性薬剤として使用してもよい。
【0090】
(局所的な状態の治療)
全体的サイズ変更のための心筋内の空間占拠性薬剤の分布のパターンはまた、心筋梗塞、心室壁の顕性動脈瘤、および僧帽弁逆流等の局所的な状態を増強または治療するために使用してもよい。これらの技術はまた、まだ心筋症に進行していないかもしれない局所的な状態を治療するために使用してもよい。
【0091】
適切なパターンは、肺静脈を取り囲む線、肺静脈から僧帽弁輪へ延在する線、迷路手技に使用されるもののようなパターン、および回廊手技に使用されるもののようなパターンを含む。治療を必要とする薄壁領域または動脈瘤等の、様々な心臓疾患を識別するための適切な技術は、MRI、エコー、および他の画像診断法と結びつけられてもよい。所定のパターンは、短い支柱または格子であってもよい。適切な格子は、十字交差または織り合わされた機械的支柱、あるいは複数の注射から形成されてもよい。複数の注射は、例えば、2次元格子のグリッド等の規則的な分布で行われてもよく、または、不規則に分布されてもよいが、注射は、概して治療効果を達成するのに十分な程度に接近している。識別した心臓疾患は、交差していても、していなくてもよいが、パターンは、好ましくは、正常な健常心臓組織の中へ延在する。注射剤が使用される場合、用量は、均一であってもよく、または所望に応じて、変化してもよい(例えば、心尖に向かって減少してもよい)。移植型装置が使用される場合、効果的な断面がパターンに沿って変化できるように、異なる断面の装置を使用してもよい。
【0092】
参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631A1号は、治療的機械足場が心臓組織自体の内側に形成されるように、心臓組織の中へ注射可能な高分子剤を注射することによって、心臓組織を治療するステップを開示している。特に、注射可能な足場剤は、フィブリン接着剤であり、虚血組織または梗塞等の損傷した心筋の領域の中へ注射される。LV壁機能障害もまた、LV壁の中へ足場剤を注射することによって治療されてもよい。細胞療法は、フィブリン接着剤または他の注射可能な高分子足場剤の注射と組み合わせられてもよい。薬剤の高分子型は、心臓組織内の原位置において重合する前駆体物質として注射可能であってもよい。他の様態では、治療的血管形成を提供するために、または、注射した領域内の細胞の沈着を誘発するために、高分子にそれぞれ断片EまたはRDG結合部位を提供すること等によって、高分子剤が注射される。
【0093】
前述のLeeらの’631号公開特許出願はまた、経血管送達を介して心室の虚血領域への内部分子足場を形成するためのシステムも開示している。場所は、概して、冠状動脈または静脈等の血管と接している領域においてであってもよい。例えば、閉鎖血管の再疎通後に、下流の血流が、しばしば、梗塞と直接関連している。そのような血管は、梗塞域に拡張可能バルーン400(図33)を送達するために使用してもよく、バルーンは、血管壁を通して、または他の特定の様態で注射する針440を含有する。さらに、冠状静脈洞等の他の経路、または再度静脈を使用してもよい。また、そのようなバルーンは、注射される壁の部分にバルーンの針送達部分を押し付けるための拡張を使用して、心室内での使用のために修正されてもよい。1つの観点として、損傷した心臓組織領域の一部を横断するステップは、それらがまたがる領域を支持するリブとして機能する、足場の注射「指」等の、治療的足場支持を提供するのに十分であってもよい。損傷した心臓組織領域に沿った完全またはほぼ完全な注射は、非常に有益な実施形態であり、多くの場合において最適な結果を提供すると考えられる。
【0094】
図34は、縦線312と314とが互いにほぼ平行し、かつ動脈瘤310の両側に位置する治療を示す。この構成では、縦線312および314は、局所的な治療のために、心尖から基底への方向に沿った短い距離のみに延在する。あるいは、動脈瘤の両側の縦線は、本質的に、心尖から基底までの全距離に延在してもよい。あるいは、2つの円周線が動脈瘤310の両側に位置し、心臓壁に沿った短い距離だけに延在してもよい。あるいは、2つの円周線は、動脈瘤310の両側に位置し、本質的に、左心室の自由壁全体にわたって延在してもよい。
【0095】
図35は、線352、354、および356が、全体的なサイズ変更のために、基本的に心臓の心尖から基底へと延在するが、線354は、また、局所的治療のために動脈瘤350を通過する治療を示す。あるいは、縦線(図示せず)は、動脈瘤350をまたがってもよいが、そうでなければ、両端が健常組織内にあるように、基底に対して心尖の方向に、ごく一部のみに延在してもよい。全体的なサイズ変更のための線は、使用しても、しなくてもよい。あるいは、円周線(図示せず)は、動脈瘤350をまたがってもよく、かつ、周囲の健常組織の中へ両端が短い距離だけ延在しているか、または全体的なサイズ変更および再形成のために心室自由壁にわたって延在してもよい。
【0096】
図36は、Torrent−Guasp二重ループ概念に従った、心臓の前面の概略図である。描写360は、基底ループの右区分361、基底ループの左区分362、心尖ループの下降区分363、および心尖ループの上昇部分364を示す。様々な区分361、362、363、および364における横紋が、心筋の筋線維束を表すことに注目されたい。Torrent−Guasp二重ループ概念は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、F.Torrent−Guasp et al.,Towards new understanding of the heart structure and function,European Journal of Cardio−thoracic Surgery,Vol.27,2005,pages 191−201で開示されている。横紋は、次のような方法で治療を改善するために使用してもよい。
【0097】
図37は、動脈瘤371を有する心臓370を示す。線372は、動脈瘤371を通って、動脈瘤371の両側の健常組織の中へ延在する。線372は、横紋に平行して走り、したがって、線352に沿って行われる注射または移植により、最大収縮と弛緩とのベクトルに沿って、動脈瘤351との心筋の健常組織の最大結合を提供する。心筋線維の方向は、一般的には、心筋の深度とともに変化するため、線372に沿った注射または移植は心筋において行われるが、好ましくは、中心よりもむしろ心外膜の近傍においてである。所望に応じて、左心室の全体的なサイズ変更および再形成を提供するために、心筋の中心に注射または移植を伴う円周線373を使用してもよい。
【0098】
僧帽弁逆流の治療のために、例えば、僧帽弁輪は、補強されて、僧帽弁輪の一部または全体に最も近い、またはそれを円周方向に包囲する、注射可能または移植型パターンを使用することによって、心室収縮中の完全な弁閉鎖を可能にしてもよい。
【0099】
空間占拠性薬剤を利用する別の用途は、心臓の僧帽弁が十分にきつく閉じないことによって、血液が逆方向に流れることを可能にする状態である僧帽弁逆流の治療におけるものである。この用途においては、僧帽弁を再形成して、左心室が収縮を行っている間に、弁がさらにきつく閉鎖して左心房の中への逆流に対して封鎖することを可能にするために、空間占拠性薬剤を利用してもよい。図38は、ヒト心臓の断面図を示し、僧帽弁輪近傍の注射/移植部位510は、僧帽弁逆流を治療する空間占拠性薬剤の導入に適している。図38はまた、心臓に血液を運ぶ主要な動脈である大動脈502、肺に血液を運ぶ肺動脈504、肺から心臓の中へ血液を運び込む肺静脈506、左心房508、大動脈弁512、左心室516、右心室518、三尖弁520、身体から心臓の中へ血液を運び込む主要な静脈である下大静脈522、右心房524、頭頸部から心臓の中へ血液を運び込む主要な静脈である上大静脈526、および肺動脈弁528を含む。生体適合性高分子注射または機械的支柱移植を行う手順は、僧帽弁が容易に暴露される心臓切開手術中に行われてもよく、または、注射手技は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631号で開示されているような、静脈系を通した経皮経管アプローチを介して、非切開心臓で行われてもよい。該手技はまた、経皮的および心外膜的に行われてもよい。
【0100】
本明細書で説明されるような、その用途および利点を含む、本発明の説明は、例示的であり、特許請求の範囲で説明される本発明の範囲を限定することを目的としない。本明細書で開示される実施形態の変更および修正が可能であり、実施形態の様々な要素の実用的な代替案および同等物は、本特許文書を検討することによって、当業者に理解されるであろう。本発明の範囲および精神を逸脱しない限り、実施形態の様々な要素の代替案および同等物を含む、本明細書で開示される実施形態の、これらおよび他の変更および修正を行ってもよい。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/843,475号(2006年9月8日出願)の利益を主張するものであり、この出願は、その全体を参考として、本明細書に援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、生物における心臓の状態の治療に関し、より具体的には、全体的な心臓のサイズ変更および再形成のための心筋内のパターン形成に関し、なおより具体的には、左心室の全体的なサイズ変更および再形成のための重合性薬剤を用いた心筋内パターン形成の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
心臓血管疾患(「CVD」)は、米国における主な死亡原因である。例えば、C.Lenfant,Fixing the Failing Heart,Circulation,Vol.95,1997,pages771−772;American Heart Association,Heart and Stroke Statistical Update,2001;C.Lenfant,Cardiovascular Research:An NIH Perspective,Cardiovasc.Surg.,Vol.5,1997;pages4−5;J.N.Cohn et al.,Report of the National Heart,Lung,and Blood Institute Special Emphasis Panel on Heart Failure Research,Circulation,Vol.95,1997,pages766−770を参照されたい。
【0004】
心不全(「HF」)は、概して、典型的な徴候および症状を伴う、心臓のポンプ機能の変化として定義される。これらの症状は、概して、息切れまたは疲労を含む。心不全は、通常は両心室がある程度関与する心室機能障害の症候群である。左心室不全は、典型的には、息切れおよび疲労を引き起こし、右心室不全は、典型的には、末梢および腹部の液体貯留を引き起こす。心不全は、進行性疾患であり、それにより、臨床的には明白な有害事象がないにもかかわらず、患者の血行動態および症候性状態は、経時的に悪化する。症状の悪化は、しばしば、進行性左心室(「LV」)腔再造形を伴い、全体的にはLV腔サイズおよび形状の変化によって、および細胞レベルでは、心筋細胞の継続する欠損、筋細胞肥大、および間質性線維症によって特徴付けられる過程である。筋細胞欠損、肥大、および間質区画でのコラーゲンの蓄積は、進行性LV機能障害の重要な決定因子である一方で、増加したLVサイズおよび心腔球形度は、機能性僧帽弁逆流(MR)の主要な決定因子であり、その重症度によっては、心不全においてすでに低下しているLV一回の心拍出量の低減に主要な影響を及ぼし得る状態である。進行性LV拡張はまた、LV壁応力および心筋伸張にもつながり得る。LV壁応力の増加は、心筋酸素消費量の増加につながり、心筋伸張は、不適応な心筋細胞肥大の発現において重要な役割を果たす場合がある、伸張応答タンパク質を活性化し得る。LV拡張および増加したLV球形度はまた、不良な長期結果の鋭敏な指標でもある。
【0005】
これらの理由により、再造形の予防または逆転が、心筋症の治療において望ましいものとして浮上している。心筋症は、例えば、虚血性、高血圧性、拡張型、肥大性、浸潤性、拘束性、ウイルス性、分娩後、弁膜性、または突発性であり得る、根底にある病因にかかわらない、心筋の疾患の総称である。心筋症は、典型的には、心不全をもたらす。様々な種類の心筋症の例は、次のとおりである。肺性心は、肺動脈高血圧症を生じる肺疾患に続発する、右心室拡大である。右心室不全が続いて起こる場合がある。拡張型うっ血性心筋症は、心室拡張および収縮機能障害が優勢である、心不全を生じる心筋機能障害である。肥大性心筋症は、拡張機能障害を伴うが、増加した後負荷を伴わない、著しい心室肥大によって特徴付けられる、先天性または後天性疾患である。例は、大動脈弁狭窄、大動脈の縮窄、全身性高血圧症を含む。拘束性心筋症は、拡張期充満に抵抗する非従順心室壁によって特徴付けられる。左心室が最も一般的に罹患するが、両心室が罹患する場合がある。
【0006】
現在、末期心不全の患者に対する最も効果的な治療は、心臓移植である。しかしながら、ドナー心臓の慢性的な不足を考えると、心不全患者の生命を改善するために代替策が必要とされる。さらに、移植は、軽度の疾患の患者にとっては、最も適した治療選択肢ではない。
【0007】
別の治療アプローチは、ネガティブな左心室の再造形を限定、停止、または逆転さえする機械的な外的拘束の使用を含む。以前に開示された研究の1つは、LV拡張およびMI後のLV機能の低下を予防する外部支援を提供するという意図された目的のために、心外膜面に高分子メッシュを縫合するステップを含んでいた。非特許文献1を参照されたい。研究中の別の以前に開示された装置は、張力を受けた心室を横断して開胸手技で移植される、複数の縫合を提供し、心室形状の変化および心腔直径の減少を提供する。この経空洞縫合ネットワークは、心室の半径を減少させ、したがって、心室壁応力を低減することを目的としている。臨床試験中の、別の以前に開示された装置は、概して、心臓の周囲の外被として移植され、開胸手術中にぴったりとした嵌合を提供するように調整されるメッシュ構造である。外被が、さらなる拡大から心臓を抑制することを目的としている。例えば、非特許文献2を参照されたい。研究中のさらに別のアプローチは、上記のものと同様の外部拘束装置として、ニチノールメッシュを提供する。しかしながら、超弾性システムは、収縮期の収縮を補助することを目的とし、概して、胸腔鏡誘導の低侵襲送達を介した使用を目的としている。調査中のさらに別のシステムは、心室への別の外部拘束装置として開胸手術中に移植される、剛体リングを含む。このリングは、半径を低減して心室の形状を修正することによって、心室の壁応力を減少させ、心臓のさらなる拡大を予防することを目的としている。上記のもののうちの1つ以上と同様の装置および方法の例は、「Acorn」、「Myocor」、「Paracor」、「Cardioclasp」および「Hearten」を含む、様々な企業によって開示されている。Cardioclasp装置は、Abul Kashemらによる論文、非特許文献3において開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kelley ST,Malekan R,Gorman JH 3rd et al.,Restraining infarct expansion preserves left ventricule geometry and function after acute anteroapical infarction,Circulation 1999;99:135−42
【非特許文献2】Hani N.Sabbah,Reversal of Chronic Molecular and Cellular Abnormalities Due to Heart Failure by Passive Mechanical Ventricular Containment,Circ.Res.,Vol.93,2003,pages1095−1101;Sharad Rastogi et al.,Reversal of Maladaptive Gene Program in Left Ventricular Myocardium of Dogs with Heart Failure Following Long−Term Therapy with the Acorn Cardiac Support Devide,Heart Failure Reviews,Vol.10,2005,pages157−163
【非特許文献3】CardioClasp:A New Passive Device to Re−Shape Cardiac Enlargement,ASAIO Journal,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの従来技術には、ある程度の成功が見られる。例えば、Acorn Cardiac Support Deviceによる長期治療法は、進行性左心室拡張を止め、かつ駆出分画を改善したと報告されている。この全体的なLV機能の改善は、少なくとも部分的には、伸張応答タンパク質の下方調節、心筋細胞肥大の減衰、および筋小胞体カルシウム循環の改善によるものとして報告された。心不全の治療の進歩にもかかわらず、治療の速度、ならびに治療技術および装置の複雑性および侵襲性のさらなる改善が望ましい。
【0010】
心筋梗塞(「MI」)は、心臓の血液供給の一部が、突然かつ大幅に低減または中断される医学的な緊急事態であり、その酸素供給が奪われるために、心筋の死を引き起こす。心筋梗塞は、進行的に心不全へと進む場合がある。梗塞領域の瘢痕組織形成および動脈瘤菲薄化が、しばしば、心筋梗塞を克服する患者において発生する。心筋細胞の死は、残りの生存心筋の壁応力の増加につながる、ネガティブな左心室(LV)再造形をもたらすと考えられている。この過程は、LV拡張につながる、一連の分子、細胞、および生理反応をもたらす。ネガティブなLV再造形は、概して、心不全の進行の独立した原因と考えられる。
【0011】
僧帽弁逆流(「MR」)は、収縮期中に左心室(LV)から左心房の中への流動を引き起こす、僧帽弁の機能不全である。一般的な原因は、僧帽弁逸脱、虚血性乳頭筋機能不全、リウマチ熱、ならびにLV収縮機能障害および拡張に続発する輪拡張を含む。
【0012】
動脈瘤菲薄化および僧帽弁逆流の治療の進歩にもかかわらず、特に心不全の治療と併せて、治療技術および装置の改善が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位に生体適合性の重合性薬剤の用量を導入するステップを備える、患者の心臓内の拡張した左心室を治療する方法であって、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、該用量は、心筋を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、および左心室の機能を改善するための、治療に有効な量である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、生体適合性の重合性薬剤源と、左心室の心筋内の少なくとも3箇所の注射部位に生体適合性の重合性薬剤の用量を導入するための手段とを備える、患者の拡張した心腔を治療するためのキットであって、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、該用量は、心筋を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、および左心室の機能を改善するための、治療に有効な量である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、左心室を例示する、心不全における心臓のサイズ変更のための作用機構の概略図である。
【図2】図2は、左心室の長軸および短軸が示される、心臓の断面図である。
【図3A】図3Aは、注射部位の4つの縦線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図3B】図3Bは、図3Aの心臓の後面図である。
【図4A】図4Aは、注射部位の4つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図4B】図4Bは、図4Aの心臓の後面図である。
【図5A】図5Aは、注射部位の1つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図5B】図5Bは、図5Aの心臓の後面図である。
【図6A】図6Aは、注射部位の2つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図6B】図6Bは、図6Aの心臓の後面図である。
【図7A】図7Aは、注射部位の3つの円周線パターンが示される、心臓の前面図である。
【図7B】図7Bは、図7Aの心臓の後面図である。
【図8A】図8Aは、注射部位の1つの円周線、1つの縦線のパターンが識別される、心臓の前面図である。
【図8B】図8Bは、図8Aの心臓の後面図である。
【図9】図9は、注射前のイヌ左心室の拡張終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査装置である。
【図10】図10は、注射前のイヌ左心室の収縮終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査装置である。
【図11】図11は、注射後のイヌ左心室の拡張終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査装置である。
【図12】図12は、注射後のイヌ左心室の収縮終期状態を示す、超音波経食道心エコー検査である。
【図13A】図13Aは、長軸図であり、そして、図13Bは、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、例示的なイヌの心臓の短軸図である。
【図13B】図13Aは、長軸図であり、そして、図13Bは、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、例示的なイヌの心臓の短軸図である。
【図14】図14は、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、左心室の最大幅点近傍の平面における、例示的なイヌの心臓の短軸図である。
【図15】図15は、様々な研究における動物に対する拡張終期容積(ミリリットル単位のΔEDV)の変化を示すグラフである。
【図16】図16は、様々な研究における動物に対する収縮期終期容積(ミリリットル単位のΔESV)の変化を示すグラフである。
【図17】図17は、様々な研究における動物に対する駆出分画(パーセント単位のΔEF)の変化を示すグラフである。
【図18】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図19】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図20】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図21】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図22】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図23】図18〜23は、パターン研究における動物に対する、経時的な拡張期終期および収縮期終期における心臓の心室撮影である。
【図24】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図25】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図26】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図27】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図28】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図29】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図30】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図31】図24〜31は、様々な研究における動物に対する球形度指数値の表である。
【図32A】図32Aは、心臓の下位部全体を包囲する注射部位の3つの円周線パターンが識別される、心臓の前面図である。
【図32B】図32Bは、図32Aの心臓の後面図である。
【図33】図33は、血管壁を通して梗塞域へ薬剤を注射するための針を含有する、拡張可能バルーンの計画図面である。
【図34】図34は、動脈瘤の両側に位置する注射部位の2つの縦線パターンが識別される、心臓の前面図である。
【図35】図35は、注射部位の3つの縦線パターンが識別され、そのうちの1つが動脈瘤を通過する、心臓の前面図である。
【図36】図36は、Torrent−Guasp二重ループ概念に従った、心臓の前面の概略図である。
【図37】図37は、心筋の横紋に平行である線が、動脈瘤を通って動脈瘤の両側の健常組織の中へ延在する、心臓の前面図である。
【図38】図38は、僧帽弁逆流を治療するための、僧帽弁輪近傍の注射/移植部位を示す、ヒト心臓の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で記載されるように、心筋症は、1つ以上の心腔の周りに、あるパターンで心筋内で空間占拠性薬剤を分布させることによって治療され得、そのために、空間修正剤は、心腔の周囲の心臓壁の少なくとも一部に溶け込み、かつそれを肥厚して、全体的に壁応力を低減して、心腔サイズを安定させるか、または低減さえする。一部のパターンはまた、心腔の有益な全体的再形成をも引き起こす。これらの変化は迅速に起こり、持続可能であって、心臓機能に急速かつ持続可能な治療効果を及ぼす。経時的に、壁応力の緩和は、酸素消費量を低減し、治癒を推進する。さらに、様々な長期的治療効果が、他の治療用物質との組み合わせを含む、空間占拠性薬剤の性質に応じて実現されてもよい。これらのシステムおよび方法によって治療可能な、具体的な心臓の状態は、例えば、拡張型心筋症(顕性動脈瘤形成を伴う、または伴わない)、うっ血性心不全、および心室性不整脈を含む。
【0017】
図1は、左心室を例示して、作用機構を分かりやすく概略的に図示する。壁応力「S」は、心臓が血液を拍出するためにどの程度激しく動かなければならないかを示す指標である。ラプラスの原理が適用されて、壁応力は、次式によって、直径および壁の厚さに対して導出される:
S=(D/T)P (1)
ここで、「D」は心腔直径、「T」は心腔壁の厚さ、および「P」は心腔内の圧力である。正常状態の心臓(参照番号2)は、概して、拍出に対して効率的な形状である、細長い円錐形の左心室(図面に図示せず)を有している。しかしながら、心不全患者においては、心臓は、左心室の直径がさらに大きくなって壁がさらに薄くなる状態(参照番号4)に全体的に悪化する。同じ圧力Pを達成するために、壁応力「S」は上昇し、これは心臓がさらに激しく動くことを意味する。さらに、左心室の形状(図面に図示せず)は、円錐から、拍出に効率的な形状ではない球形に変化する。あいにく、増加した壁応力は、進行性再造形を引き起こす事象の連鎖につながる。増加した壁応力に起因する再造形刺激は、サイトカイン、神経ホルモン、および酸化的ストレスを含む。これらの再造形刺激は、筋細胞肥大および変性間質マトリクスによる心室拡大、ならびに、胎児性遺伝子発現、変性カルシウム処理タンパク質、および筋細胞死による、収縮および拡張機能障害を引き起こす。
【0018】
空間占拠性薬剤が適切なパターンで心筋内に分布されると、心臓は、左心室の壁が肥厚して心腔直径が減少する状態(参照番号6)に全体的に改善する。厚さが上昇して、直径が低下するにつれて、壁応力「S」が低減される。進行性再造形をもたらす事象の連鎖は中断され、進行性再造形は、停止または逆転さえされる。
【0019】
一部のパターンはまた、心腔の有益な再形成をも引き起こし、心不全の治療のためにLV再造形を効果的に逆転する。左心室の形状は、例えば、「収縮終期球形度指数」を使用して大まかに定量化されてもよく、それは、図2に示されるように、長軸の長さ「L」対中央空洞直径「D」の比率であり、両方とも収縮終期に測定される。左心室が理想的な円錐形から逸脱して球形に近づくにつれて、常態心臓の球形度指数は減少する。より生理学的な楕円形、特に円錐形に再形成することが望ましい。
【0020】
全体的なサイズ変更のための、心筋内の空間占拠性薬剤の分布のパターンは、心筋梗塞、一般的には、広範囲貫壁性心筋梗塞に応じて形成するような心室壁の顕性動脈瘤、および非従順僧帽弁による僧帽弁逆流等の、局所的な状態を治療するために使用または増強してもよい。これらの技術はまた、未だ心筋症にまで進行していないような局所的な状態を治療するために使用してもよい。
【0021】
(空間占拠性薬剤の分布のパターン)
全体的効果を有する治療のために、注射または移植部分(または両方)の成形分布として、またはさらに簡単に、注射または移植部分(または両方)の1つ以上の線(弧を含む)として、想定され得るパターンで、空間占拠性薬剤が心筋の中へ注射または移植される。パターンは、心臓全体、心臓の1つ以上の心室、または心臓の1つ以上の心房に対して想定され、心臓またはその様々な心腔のうちの1つ以上の全体的サイズ変更および/または再形成を生じてもよい。1つの適切なパターンでは、心房および心室等の1つ以上の心腔の全体または一部の周囲において円周方向に延在する、1つ以上の線が想定されてもよい。左心室の場合、例えば、左心室の拡大の程度に応じて、1つ以上のそのような線を使用してもよい。円周線あたりの注射または移植部位の数は、心臓のサイズおよび線の場所に依存するが、例示的には、2つから8つの部位、好ましくは、5つから7つの部位を伴ってもよい。別の適切なパターンでは、心房および心室等の1つ以上の心腔の全体または一部の周囲において円周方向に延在する、心尖近位から基底近位までの距離の全体または一部の距離を縦方向に延在する線が想定されてもよい。左心室の場合、例えば、左心室の拡大の程度に応じて、2つ以上のそのような線を使用してもよい。縦線あたりの注射または移植部位の数は、心臓のサイズおよび線の場所に依存するが、例示的に、2つから7つの部位、好ましくは、4つから6つの部位を伴ってもよい。注射が使用される場合、注射は、必ずしも、心筋内で均一な用量および間隔および深度である必要はない。注射部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。移植片が使用される場合、移植片は、必ずしも、心筋内で同じサイズおよび間隔および深度である必要はない。移植部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。典型的には、心筋中の深度とともに異なる、心筋線維の収縮方向が、注射または移植片の深度を決定する際に考慮されてもよい。
【0022】
パターン内の注射液または移植片はまた、伝導遮断、または伝導を強化あるいは減衰させることのいずれかによる、心筋における伝導の修正によって伝導異常を治療するために有効であり得る。注射または移植片は、伝導路を途絶する可能性があるが、このことは催不整脈性にならない。リエントリー性または他の伝導異常が途絶される程度まで、心臓電気活動に対する注射線の効果が有益である。心筋における伝導修正は、Leeらの2006年4月20日に公開された、米国特許出願公報第2006/0083717号、Leeらの2006年1月5日に公開された、米国特許出願公報第2006/0002898号、Leeらの2004年1月8日に公開された、米国特許出願公報第2004/0005295号、Leeの2003年6月5日に公開された、米国特許出願公報第2003/0104568号、およびFeldらの2005年1月13日に公開された、米国特許出願公報第2005/0008628号を含む、様々な文書において開示されており、その全ては、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる。
【0023】
局所的なパターン形成は、それ単独で、または全体的治療の一部としてのいずれかで、僧帽弁逆流をもたらす心筋梗塞または僧帽弁輪障害に起因する動脈瘤等の、局所的な心臓異常を治療するために使用してもよい。局所的な心臓異常の場所を識別するためにマッピングまたは撮像を行ってもよいが、全体的治療に必要ではない。全体的治療と共に使用される場合、局所パターンは、一般化パターンとは別に想定されるか、または一般化パターンに組み込まれてもよい。注射が使用される場合、注射は、必ずしも、心筋内で均一な用量および間隔および深度である必要はない。注射部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。移植片が使用される場合、移植片は、心筋内で同じサイズおよび間隔および深度であってもよいが、必ずしもそうである必要はない。移植部位は、所望に応じて、心筋の中央、または心内膜あるいは心外膜の近傍であってもよい。
【0024】
図3Aは、心臓30の前面図であり、図3Bは、心臓30の後面図である。心臓30における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、上下に離間しており、この画像においては、前面および前方側面から、この図の後ろをまわって図3Bに示される心臓30の後方側面へと続き、左心室自由壁と交差して分割される、4つの線31、32、33、および34のパターンとして想定されてもよい。心臓30の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断によって均等な分布から逸脱する場合がある。部位を心臓30においてより良好に識別することができるように、線31、32、33、および34は、注射部位からわずかに離れて離間している。
【0025】
図4Aは、心臓40の前面図であり、図4Bは、心臓40の後面図である。心臓40における注射部位は、その概略位置は白い点として表されているが、この画像においては、前面および前方側面から、この図の後ろをまわって図4Bに示される心臓40の後方側面へと続き、左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、4つの離間している線41、42、43、および44のパターンとして想定されてもよい。心臓40の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断によって均等な分布から逸脱する場合がある。部位を心臓40においてより良好に識別することができるように、線41、42、43、および44は、注射部位からわずかに離れて離間している。
【0026】
図5Aは、心臓50の前面図であり、図5Bは、心臓50の後面図である。心臓50における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、心室のほぼ最大幅の部分において左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、1つの線51のパターンとして想定されてもよい。この画像では、自由壁は、前面および前方側面から、この図の後ろをまわって図5Bに示される心臓50の後方側面へと続く。心臓50の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。部位を心臓50においてより良好に識別することができるように、線51は、注射部位からわずかに離れて離間している。
【0027】
図6Aは、心臓60の前面図であり、図6Bは、心臓60の後面図である。心臓60における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、心室のほぼ最大幅の部分に近接して左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、2つの線61および62のパターンとして想定されてもよい。心臓60の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。
【0028】
図7Aは、心臓70の前面図であり、図7Bは、心臓70の後面図である。心臓70における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、左心室自由壁の大部分を横断して円周方向にまたがる、3つの線71、72、および73のパターンとして想定されてもよい。線71が心室のほぼ最大幅の部分に近接していてもよい一方で、線72および73は、心尖に向かって離間していてもよい。あるいは、線71および72が、両方とも心室のほぼ最大幅の部分に近接している一方で、線73が、心尖に向かって離間していてもよい。心臓70の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。
【0029】
図8Aは、心臓80の前面図であり、図8Bは、心臓80の後面図である。心臓80における注射部位は、その概略位置が白い点として表されているが、心室のほぼ最大幅の部分で左心室自由壁を横断して円周方向にまたがる1つの線81、および心尖近傍から基底近傍までの全距離を縦方向に延在する1つの線82のパターンとして想定されてもよい。この画像では、自由壁は、前面および前外側から、この図の後ろをまわって図8Bに示される心臓80の後外側面へと続く。心臓80の左心室自由壁を横断する注射の分布は、均等な分布であってもよいが、実際には、注射手技の制限により何らかの逸脱の可能性があり、外科医が独自の判断で均等な分布から逸脱する場合がある。
【0030】
全体的再形成、全体的再造形、または全体的再形成および再造形の両方に対する心筋内パターン形成は、注射剤、移植型装置、またはそれらの組み合わせにより達成される。注射または移植したパターンおよび用量(注射剤に対する)、サイズおよび構成(移植型装置に対する)、ならびに、例えば、剛性、可塑性、弾力性、吸水等の他の物質性のための物質が、意図した治療効果に基づいて選択される。注射剤が使用される場合、用量は、均一であってもよく、または所望に応じて、変化してもよい(例えば、心尖に向かって減少してもよい)。移植型装置が使用される場合、有効断面がパターンに沿って変化できるように、異なる断面の装置を使用してもよい。治療効果が主にサイズ変更および再形成である場合、適切な物質は、好ましくは、急速な構造支持を提供し、経時的に消散してもよい。アルギン酸塩、キトサン、フィブリン接着剤、コラーゲン、PEG、および他のそのような物質が、この目的での適切な物質の実例である。長期的構造支持が望まれる場合、物質は、好ましくは、身体による吸収または分解に対して耐性がある。金属、高分子、シリコーン、および形状記憶材料が、この目的に対する実例である。サイズ変更、再形成、および逆再造形が望まれる場合には、物質は、ある期間の支持を提供した後に再吸収され、筋細胞、血管等に置換されて所望の逆再造形を提供するように設計されてもよい。線維芽細胞、線維細胞、幹細胞、筋細胞、成長因子、間質細胞由来の因子等の細胞、または細胞を誘引する他の物質および/またはサイトカイン、またはその両方と併用される注射可能な生体高分子が、この目的に対して適している。再形成および/または再造形に有用な物質は、生物学的適合性高分子(ヒドロゲル、自己集合性ペプチド、PLGA、およびヒト移植用の任意のFDA承認高分子を含む)、生細胞(例えば、線維芽細胞、線維細胞、または前線維化血液前駆細胞、幹細胞、および筋細胞を含む)、成長因子(例えば、VEGF、FGF、およびHGF等の血管新生因子、化学誘引物質、幹細胞由来因子、およびTGF−bを含む)、ペプチド、タンパク質、ならびに、金属、高分子(プラスチックおよびシリコーンを含む)、ニチノール等の形状記憶材料、物質の組み合わせ、および同類のもので作られている機械装置を含む。
【0031】
注射剤が使用される場合、個々の注射は、互いとの連係が本質的にないように離間していてもよく、治療効果は、最初に注射による心筋壁の肥厚を介して達成される。あるいは、注射は、より近接して離間していてもよく、個々の注射の用量は、注射間の間隔に関連し、治療効果を実現するために、注射間の物理的、化学的、または物理的と化学的との両方の連係を達成する。
【0032】
治療用内部構造を形成して心臓再形成を推進するように、心臓構造の中へ注射剤を送達するために注射器を使用してもよく、治療用内部構造を形成して心臓再形成を促進するために移植型装置を移植してもよい。多くの異なる種類の注射器が当技術分野において知られており、手術の種類(侵襲的または低侵襲的)、使用に望ましい薬剤の種類、および注射によって達成されることが望まれるパターンに応じて、それらから選択してもよい。適切な注射器は、参照することによって、その全体が本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631号に記載されているものを含む。多重注射管腔アレイが、参照することによりその全体が本願に組み込まれる、Palasisに対して2004年2月10日に発行された、米国特許第6,689,103号に記載されている。適切な注射器は、低侵襲手技用の注射カテーテル、開胸手技用の手持ち式シリンジ(単一または複数管腔を伴う、単一または複数の部品)を含む。
【0033】
(予備的実験)
心不全のイヌにおける左心室機能障害および再造形の進行に対する、アルギン酸塩およびフィブリン封止剤の直接注射の効果を知るために、予備実験を行った。6匹の雑種犬が、直径77〜102μmのポリスチレンラテックス微小球による複数の連続冠動脈内塞栓術を受け、35パーセント以下のLV駆出率を達成した。最後の塞栓術の2週間後、イヌのうちの3匹が、パターン化した一連のアルギン酸塩注射を受け、イヌのうちの3匹が、概して中央領域内の左心室の自由心筋壁の中へと直接、パターン化した一連のフィブリン封止注射を受けることにより、拡張終期容積を約15パーセント低減することによって、LV形状を十分に修復できたか否かを判定した。図3のパターンを使用し、各注射は、約0.20から0.25ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩またはフィブリン封止剤のいずれかを含有した。アルギン酸塩注射液は、1735 Market Street,Philadelphia,PA 19103のNovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporationより入手可能な、Ca−アルギン酸塩/Na−アルギン酸塩の自己ゲル化アルギン酸塩製剤であった。フィブリン封止剤注射液は、材料にトランスエキサム酸が添加された、Evicelフィブリン封止剤(ヒト)を使用した調剤であった。Evicelフィブリン封止剤は、Somerville,New Jersey,USAのJohnson & Johnsonによって流通されている。図15、図16、および図17の棒グラフを参照して、予備実験の結果を後述する。
【0034】
図3Aは、その主要な解剖学的特徴を強調する、イヌの心臓30の前面像の美術的表現を示す。拡大した左心室という以前から存在する状態を伴う、鼓動しているイヌの心臓を治療する実行可能性を評価するために、標準IRB承認下での臨床評価を行った。調査対象の動物は、イヌの心臓の心尖近傍の左心室における前方隆起(拡張)を提示した。手術プロトコルは、皮下注射針を介して、拡張領域近傍の心筋組織に直接、かつ場合により、拡張領域の中へ、生体適合性物質を注射するように設計した。
【0035】
アルギン酸塩溶液の外科的注射の前に、超音波経食道心エコー検査を行い、左心室拡張の程度および規模を特徴付けた。注射前心エコー検査の結果は、心室拡大の範囲を見ることができる、イヌの左心室の側面図を示す。図9および10はそれぞれ、アルギン酸塩注射の前の拡張終期の状態および収縮終期の状態を示す。自己ゲル化アルギン酸塩溶液を調製し、次いで、図3Aおよび図3Bに示されたパターンで、18ゲージ皮下注射針を介して、イヌの左心室領域の前方領域および後方領域の両方に注射した。本臨床評価では、18ゲージ針を介した注射の前に、アルギン酸塩物質をカルシウム陽イオン(Ca2+)と前もって混合した。
【0036】
図3Aは、白い円で示されるような、イヌの左心室の前方領域中のアルギン酸塩注射場所を示す。図3Aは、8個の別個のアルギン酸塩注射を示し、幾何学的に、4つの注射の約2本の直線のように見え、それぞれ心尖から心臓の基底領域へと続いている。本研究では、各注射は、約0.20から0.25ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩溶液を含有し、各注射の側方分離は、約10から15ミリメートルに及んだ。同様に、図3Bは、イヌの左心室の後方領域における8個の別個のアルギン酸塩注射を示し、以前のように、それぞれ4つの注射の約2本の直線であり、各注射は、約0.20から0.25ミリリットルのアルギン酸塩溶液を含有し、各注射の側方分離は、約10から15ミリメートルに及んだ。
【0037】
イヌの左心室領域の中へのアルギン酸塩溶液の注射の直後に、注射後経食道心エコー検査を行い、治療した心筋領域に対するアルギン酸塩の効果を特徴付けた。図11および12はそれぞれ、アルギン酸塩注射の直後の拡張終期の状態および収縮終期の状態を示す、イヌの左心室領域の側面を表す。図11および図12に見られるように、拡張したLV心腔は、より厚い心腔壁およびより平滑に画定された心腔を形成することによって、治療に反応した。
【0038】
(有効性確認実験)
左心室への、生体適合性高分子、具体的にはアルギン酸塩の直接注射が、慢性心不全があるイヌにおいて、左心室機能障害および心腔再造形の進行を予防するという仮説を試験するために、有効性確認実験を行った。12匹の雑種犬が、直径77〜102μmのポリスチレンラテックス微小球による複数の連続冠動脈内塞栓術を受け、35パーセント以下のLV駆出分画を達成した。最後の塞栓術の2週間後、イヌのうちの6匹が、アルギン酸塩の注射を受け、イヌのうちの6匹(対照)が、図4のパターンを使用して、概して中央領域内である、左心室の自由心筋壁の中へと直接、生理食塩水の注射を受けた。各注射は、0.3ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩または食塩水のいずれかを含有した。図15、図16、および図17の棒グラフを参照して、有効性確認実験の結果を後述する。
【0039】
図13Aは、長軸図であり、図13Bは、アルギン酸塩の注射の部位が識別される、例示的なイヌの心臓90の短軸図である。図4のパターンを使用した。長軸図(図13A)では、注射の部位91〜95は、心尖から基底の縦線に沿って、左心室の自由壁内の中間にある。短軸図では、注射の他の部位96〜102は、円周線に沿って、左心室の自由壁内の中間にある。
【0040】
図13Bの短軸図が、隔壁の中への注射の配置の不足を示すことに注目されたい。所望に応じて、注射および移植を隔壁の中に行ってもよく、心室中の血液プール等の意図しない標的の注射を回避するために注意するのであれば、当業者に周知の画像誘導技術(例えば、心エコー検査)を、隔壁注射および移植に使用してもよい。
【0041】
心筋の中央に示されているが、注射部位は、心内膜または外膜の近傍を含む、心筋内の任意の深度であってもよい。
【0042】
(パターン実験)
慢性心不全があるイヌにおいて、左心室機能障害および心腔再造形の進行を防ぐ際の、アルギン酸塩注射の正確なパターン、すなわち図5のパターンの効果を試験するために、パターン実験を行った。3匹の雑種犬が、直径77〜102μmのポリスチレンラテックス微小球による複数の連続冠動脈内塞栓術を受け、35パーセント以下のLV駆出分画を達成した。最後の塞栓術の2週間後、イヌは、図5のパターンを使用して、概して中央領域内である、左心室の自由心筋壁の中へと直接、アルギン酸塩の注射を受けた。各注射は、約0.3ミリリットルの自己ゲル化アルギン酸塩を含有した。図15、図16、および図17の棒グラフを参照して、有効性確認実験の結果を後述する。
【0043】
図14は、アルギン酸塩の注射の部位が示される、左心室の最大幅点の近傍の平面における、例示的なイヌの心臓110の短軸図である。図5のパターンを使用した。短軸図では、注射の部位103〜109は、心室のほぼ最大幅の部分において円周線に沿う、左心室の自由壁内の中間にある。その意図は、その最大幅の点で心腔を縮小することである。「側面から隔壁」の寸法は、「LS」で示され、「前方から後方」の寸法はAPで示される。
【0044】
心筋の中央に示されているが、注射部位は、心内膜または外膜の近傍を含む、心筋内の任意の深度であってもよい。
【0045】
(実験の考察)
生体適合性高分子は、左心室収縮終期および拡張終期の容積変化ならびに左心室球形度変化を介して評価されるので、予備、有効性確認、およびパターンの実験を評価することにより、生体適合性高分子が、全体的左心室機能を改善し、進行性左心室心腔再造形を予防するかどうかを判定した。全動物について平均して、予備的試験における、HF塞栓症前処置の前およびHF塞栓症前処置の後の、拡張期容積(「EDV」)、収縮終期容積(「ESV」)、および駆出分画(「EF」)の基礎値を下記の表1に示した。表中において、括弧内の値は標準偏差である。
【0046】
【表1】
図15、16、および17はそれぞれ、有効性確認実験において多重線パターンで注射された対照動物(「CTRL」)、予備的実験において多重線パターンでフィブリン封止剤を注射された動物(「FS−ML」)、予備的および有効性確認実験において多重線パターンでアルギン酸塩を注射された動物(「A−ML」)、およびパターン実験において単一の円周線パターンでアルギン酸塩を注射された動物(「A−1CL」)に対する、拡張終期容積(ミリリットル単位のΔEDV)の変化、収縮終期容積の変化(ミリリットル単位のΔESV)、および駆出分画(パーセント単位のΔEF)の変化を示す。パターン実験についての12週間のデータはまだ入手可能ではなかった。前処置値と比べたEDVの変化を下記の表2に示す。
【0047】
【表2】
前処置値と比べたESVの変化を下記の表3に示す。
【0048】
【表3】
前処置値と比べたEFの変化を下記の表4に示す。
【0049】
【表4】
対照動物は、2週間、6週間、および12週間の区間において、EDV、ESV、およびEFの進行性の悪化を示している。対照動物における拡張終期容積および収縮終期容積は、経時的に増加した。これは心不全の「通常の」経過である。
【0050】
多重線パターンを使用してフィブリン封止剤で治療された動物は、EDVのいくらか軽度の悪化、ESVの持続的改善、およびEFの短期的改善を示した。それにもかかわらず、EDVの結果が、対照動物と比べてLV拡張の有意な遅延を表した一方で、ESVの結果は、対照動物と比べて収縮期におけるLV拡張の有意な遅延、また収縮期におけるわずかに小さい心腔を表した。
【0051】
多重線パターンを使用してアルギン酸塩で治療された動物は、EDVのわずかではあるが顕著で持続的な減少、ESVの非常に顕著で持続的な改善、および約5パーセントのEFの良好で持続的な改善を示した。収縮期の心腔サイズと拡張期において顕著な中等度の改善との相違は、LVの機構および機能の改善によって説明されるかもしれない。この介入の理論は、壁応力が低減されるということである。したがって、論理上の相関は、より「強制的な」収縮があるということかもしれない。次に、このことは、収縮期のより良好な収縮および小容積につながる場合がある。
【0052】
単一円周線パターンを使用してアルギン酸塩で治療された動物は、EDVの大幅な持続的改善、ESVの大幅な進行性改善、EFの大幅な進行性改善、および、より望ましい円錐形への心腔の有意な再形成を呈する、最高の改善を示した。改善は、弛んだ球形の心腔を最も効果的なポンプである円錐形に本質的に「締めて」戻す、単一円周方向線注射の作用に起因すると考えられる。
【0053】
改善は、図18〜23に示される心室撮影で見ることができ、図24〜31の表に示される球形度指数値で定量化される。イヌ07−039に対する、前処置、2週間、および6週間の心室撮影を、拡張終期について図18、および収縮終期について図18に示す。イヌ07−052に対する、前処置、2週間、および6週間の心室撮影を、拡張終期について図20、および収縮終期について図21に示す。イヌ06−114に対する、前処置および2週間の心室撮影を、拡張終期について図22、および収縮終期について図23に示す。
【0054】
単一円周線パターンに対する、図18〜23に見られる形状の改善は、図24〜25の球形度指数表で定量化される。図24は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、3匹全てのイヌに対する、基礎、前処置、2週間、および6週間における拡張終期球形度指数を示す。全てのイヌが、前処置と比較してEDSIの有意な改善を呈し、改善は、データを有するイヌについて、6週間通して持続された。平均前処置EDSIは、1.57であり、6週間後に2.00まで改善した。図25は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、3匹全てのイヌに対する、基礎、前処置、2週間、および6週間における収縮終期球形度指数を示す。全てのイヌが、前処置と比較してESSIの有意な改善を呈し、改善は、データを有するイヌについて、6週間通して持続された。平均前処置ESSIは、1.60であり、6週間後に2.65まで改善した。
【0055】
図26および27は、予備的および有効性確認実験における、6匹のアルギン酸塩イヌに対する球形度指数データを示す。図26は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における拡張終期球形度指数を示す。概して、EDSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置EDSIは1.5であり、6週間EDSIも1.5であった。図27は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における収縮終期球形度指数を示す。一部の動物が改善を呈した一方で、概して、ESSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置ESSIは1.6であり、6週間ESSIは1.7であった。
【0056】
EDSIおよびESSIの結果における少ししかない改善にもかかわらず、予備的および有効性確認実験におけるアルギン酸塩イヌは、拡張終期容積のさらなる低下を回避し(図15のA−MLの棒を参照)、収縮終期容積の有意な改善を持続し(図16のA−MLの棒を参照)、駆出分画の有意な改善を持続した(図17のA−MLの棒を参照)。劇的な形状の改善がなくても、拡張終期容積と比較した収縮終期容積の改善は、より高い心室ポンプ能力を示唆する望ましい結果であると考えられる。
【0057】
図28および29は、予備的実験における、3匹のフィブリン封止剤イヌに対する球形度指数データを示す。図28は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における拡張終期球形度指数を示す。一部の動物が改善を呈した一方で、概して、EDSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置EDSIは1.5であり、6週間EDSIは1.6であった。図29は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における収縮終期球形度指数を示す。一部の動物が改善を呈した一方で、概して、ESSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置ESSIは1.7であり、6週間ESSIは1.8であった。
【0058】
EDSIおよびESSIの結果における少ししかない改善にもかかわらず、予備的および有効性確認実験におけるフィブリン封止剤は、拡張終期容積の非常にわずかな低下のみを呈し(図15のFS−MLの棒を参照)、収縮終期容積の有意な改善を維持し(図16のFS−MLの棒を参照)、駆出分画の様々な改善を呈した(図17のFS−MLの棒を参照)。劇的な形状の改善がなくても、拡張終期容積と比較した収縮終期容積の改善は、より高い心室ポンプ能力を示唆する望ましい結果であると考えられる。
【0059】
図30および31は、有効性確認実験における、対照イヌに対する球形度指数データを示す。図30は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における拡張終期球形度指数を示す。概して、EDSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置EDSIは1.5で、6週間EDSIは1.5であった。図31は、平均値、標準偏差、および平均値の標準誤差とともに、基礎、前処置、2週間、6週間、および12週間以降における収縮終期球形度指数を示す。概して、ESSIは、前処置と比較して少ししか変化しなかった。平均前処置ESSIは、1.7であり、6週間時点で1.6まで低下した。
【0060】
EDSIおよびESSIの結果における少ししかない改善とともに、低下する拡張終期容積(図15のCTRLの棒を参照)、低下する収縮終期容積(図16のCTRLの棒を参照)、および低下する駆出分画(図17のCTRLの棒を参照)によって示されるように、対照イヌは、進行性のHFを経験した。
【0061】
(全体的サイズ変更および再形成に対する他のパターン)
実験が左心室に焦点を当ててきた一方で、他の心腔、または心臓全体にさえも該技術を使用してもよい。心房を再形成および/または再造形するために、および特に拡大した左心房において、心房細動および他の心房関連症状の予防を補助するために、該技術を使用してもよい。
【0062】
該技術は、心臓全体に使用してもよい。図32Aおよび32Bは、左右心室を含む、心臓の下位部全体を円周方向に包囲するために、3つの円周線322、324、および326が使用される、治療を示す。
【0063】
(空間占拠性薬剤)
上記の臨床評価は、イヌの心筋組織の中への、注射可能な生体適合性物質としての自己ゲル化アルギン酸塩の使用に焦点を当てた。しかしながら、一部は注射可能であり、一部は移植可能である、多くの種類の生体適合性物質が適切であり、使用されてもよい。例えば、適切な注射可能な生体適合性物質は、アルギン酸ビーズ、共有結合ペプチドを伴うアルギン酸塩物質、キトサン物質で被覆されたアルギン酸ビーズ、キトサンビーズ、フィブリン接着剤、線維芽細胞、線維細胞、幹細胞、成長因子、およびそれらの組み合わせを含んでもよい。上記に記載の生体適合性高分子材料は、例えば、1735 Market Street,Philadelphia,PA 19103のNovaMatrix Unit of FMC Biopolymer Corporation、および630 5th Avenue,22nd Floor,New York,NY 10111のOmrix Biopharmaceuticalsを含む、数々の供給源より市販されている。様々な物質は、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631号にも記載されている。他の適切な物質は、単糖類、二糖類、および三糖類等の糖類を含む。
【0064】
概して、生体適合性高分子は、主に3つの理由により、すなわち、(1)心臓壁を肥厚して再造形の進行を停止する、物理的支持または充填材を即時に提供し、場合によっては、再造形を再形成および逆転する、(2)一部の高分子に対して、機能性組織の再生のために細胞の内方成長を推進する、原位置での組織成長を可能にする基質を形成する、および(3)投与が極めて柔軟であり、カテーテルを使用する低侵襲技法から開胸手技に及ぶため、空間占拠性薬剤としての使用に好まれる。
【0065】
第1の理由に関して、生物高分子の構造的性質は、損傷した左心室の壁応力の減少に至り、次に、それは心腔寸法の減少に加えて、有益な心臓機構を生じる。心臓壁応力の所望の減少は、投与される生物高分子の量および物質自体の剛性の両方によって影響される。量に関しては、例示的には約4.5%以上である付随的な量より多く、全壁容積を増加させることが、容積/圧力の有意で有益な変化を生じさせると我々は考える。剛性に関しては、心筋に移植される、心筋と等しい、またはわずかに高い剛性の非収縮性物質が、壁応力(線維応力を指す)を減少させると我々は考える。参考までに、正常な心筋が1〜10kPaの線維応力を示す一方で、梗塞および境界域の心筋組織は、20〜30kPaの範囲で線維応力を示す
第2の理由に関して、適切な多孔性および構造を有する基質よって、自然発生的に、あるいは領域の中へのケモカイン、成長因子、または細胞の適用を介して生じることができる、正常組織から壁の梗塞域の中への心筋細胞の内方成長が可能にされる。
【0066】
心臓のサイズ変更および再形成に対する望ましい高分子の性質は次のとおりである。
【0067】
起源/純度。理想的には、生物高分子は、合成物であって、完全に画定され、一貫している。フィブリン封止剤、ウシコラーゲン等のヒトまたは動物源高分子は、適切であるが、規制的および/または経済的に不利となる場合がある。
【0068】
無菌。適切な生物高分子は、無菌であり、シリンジ中(開胸手術用途)およびカテーテル中(低侵襲手技)の両方で、手術室への提示に適している。
【0069】
血栓形成。適切な物質は、非血栓形成性である。
【0070】
免疫原生。単純な機械的効果を実現するために、不活性で非免疫原生の物質が好ましい。しかしながら、組織内方成長を誘発する成長因子等の、生物反応性ペプチドまたはタンパク質を含有する物質が、非常に有益となり得る。
【0071】
調製。解凍および予混合等の最小限の処理が望ましい。生成物は、好ましくは、シリンジ(開胸手術)およびカテーテルシステム(低侵襲)の両方にあらかじめ充填されるか、または搭載される。
【0072】
投与/ゲル化時間。生物高分子の重合またはゲル化特性は、線の数および線当たりの注射の数に依存する。約20の注射(用量)を伴うパターンについては、期間は約20分であってもよい。わずか2または3個の注射、好ましくはわずか7または8個の注射を伴ってもよい、単一円周線等のパターンについては期間はかなり短い。高分子は、単一塊または微小球として送達されてもよい。
【0073】
硬度/密度。高分子は、好ましくは、正常な心筋よりも若干硬くなる性質(応力・ひずみ関係)を有するべきであると我々は考える。正常な心筋は、1〜10kPaの線維応力を示す。
【0074】
効果持続期間。生物高分子の支持効果を維持するための期間は、まだ判定されていないが、少なくとも6ヶ月、および場合によっては1年以上となり得る。
【0075】
可塑性/多孔性。多孔性は、剛性、濃度、または分解率に付随するべきである。しかしながら、300〜420μmの気孔が、心臓組織用途に適正であってもよい。
【0076】
生物分解。理想的には、壁応力の恒久的緩和、心室容積の増大、再形成、駆出分画の改善、および長期的に、自然組織再生によって支持される再造形の逆転を提供するために、物質は、ゆっくりと分解するべきである。例示的には、生物高分子の実質的な存在および機能は、少なくとも6ヶ月間、好ましくはそれより長く持続するべきである。
【0077】
保存および安定性。好ましくは、生物高分子は、室温で保存されてもよく、1年から2年間安定している。
【0078】
多くの異なる種類の生体適合性高分子が適切である。New York,New YorkのOmrix Pharmaceuticalsより入手可能なCrosseal(登録商標)およびQuixil(登録商標)フィブリン封止剤、およびSarosota,FloridaのHaemacure Corporationより入手可能なHemaSeelフィブリン封止剤等の、適切なフィブリン封止剤が、種々の製造業者より入手可能である。適切なフィブリン接着剤はまた、被験者自身の血漿から調製される自己フィブリノゲン源である、寒冷沈降物から作られてもよい。他の適切な高分子は、合成吸収性自己硬化ヒドロゲル物質を含む。1つのそのような物質は、Waltham,MassachusettsのConfluent Surgicalより入手可能なDuraSeal(登録商標)封止剤である。DuraSeal封止剤は、ポリエチレングリコールを用いた封止剤である。別のそのような物質は、Vancouver,British Columbia,CanadaのAngiotech PharmaceuticalsおよびFremont,CaliforniaのBaxter Healthcare Corporationより入手可能なCoSeai(登録商標)外科用封止剤である。CoSeal外科用封止剤は、2つの合成ポリエチレングリコールまたはPEG、希釈塩化水素溶液、およびリン酸ナトリウム/炭酸ナトリウム溶液でできている。投与時、混合PEGおよび溶液は、組織に付着するヒドロゲルを形成する。DuraSealおよびCoSeal封止剤の両方は、数秒以内に重合し、加水分解により数週間以内に体内で分解される。他の適切な高分子は、シアノアクリレート接着剤を含む。他の適切な高分子は、ポリエチレンオキシド(「PEO」)、PEO−ポリ−l−乳酸(「PLLA−PEOブロック共重合体」)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−アクリル酸)(「ポリ(NIPAAm−co−Aac)」)、プルロニック剤、およびポリ−(N−ビニル−2−ピロリドン)(「PVP」)を含む。他の適切な高分子は、セルロース等の多糖類を含む。アルギン酸塩として概して知られる物質の部類は、適切な高分子である。他の適切な高分子は、単独で注射されて神経シグナル伝達を機械的に妨害してもよい、または他の物質とともに注射されて、機械的妨害とともに治療を投与してもよい、様々なビーズおよびヒドロゲルを含む。高分子を用いたビーズおよびヒドロゲルは、高分子材料のみを含んでもよく、または、幹細胞、線維芽細胞、または骨細胞等の細胞、タンパク質、プラスミド、または遺伝子、タンパク質またはプラスミドのいずれかの形の成長因子、化学誘引物質、フィブリン因子(または断片)E、RDG結合部位、様々な医薬組成物、新組織、または他の治療的有益な物質、または前述のものの任意の組み合わせを含んでもよい。ビーズおよびヒドロゲルに対する適切な高分子は、フィブリン接着剤、コラーゲン、アルギン酸塩、およびキトサンを含む。他の適切な高分子は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、および他の製剤、ScandinaviaのQ−MedまたはMedicis Aesthetics Holdings Inc.より入手可能なRestylane Injectable Gel、およびGensymeより入手可能なSynviscヒアルロン酸を含む。本明細書で記載される高分子材料は、概して、特定のより広い部類の材料を図示し、その部類は、当業者に明白となるような追加代替案を提供してもよい。ここで化合物が、本明細書で記載される1つ以上の実施形態に関して識別される場合、その前駆体または類似体または誘導体が、さらに検討される。例えば、体内で代謝あるいは変化されてそのような化合物を形成する、物質構造が、検討される。または、そのような化合物を形成する物質の組み合わせが、検討される。同様に検討される追加物質は、そのような指定化合とごくわずかに異なる分子構造を有する、あるいは本明細書で検討される意図された使用に関して、それと略同様の生物活性を有する(例えば、そのような生物活性機能に関して非官能基を排除または変更する)ものである。そのような化合物群、およびそのようなその前駆体または類似体または誘導体は、本明細書では「化合物剤」と呼ばれる。同様に、例えば、「高分子剤」または「フィブリン接着剤」等の、他の形態の「剤」への言及は、例えば、高分子またはフィブリン接着剤等の実際の最終生成物をそれぞれ含むか、または、一緒に、あるいは協調的に送達されて、結果として生じる物質を形成する、1つ以上の前駆体物質を含んでもよい。
【0079】
自己ゲル化ヒドロゲルは、適切な生物高分子である。そのような自己ゲル化ヒドロゲルは、Ca2+、Be2+、Mg2+、またはSr2+等の二価陽イオンの存在下で、アルギン酸塩物質から形成されてもよい。二価陽イオンが高分子鎖中のブロック間のイオン結合に関与して3次元ネットワークを生じさせると、ゲル化が起こる。1つのアプローチでは、アルギン酸塩混合物の混合化合物を注射して生体内でゲル化するために、単管注射針に合流する二腔シリンジを使用してもよい。1つの構成要素は、H2O等の水溶液中で完全溶解されたアルギン酸ナトリウムであってもよい。他の構成要素は、溶液中で分散された(好ましくは溶解されない)上記の二価陽イオンのうちの1つであってもよい。化合物は、任意の適切な方法で混合されてもよい。注射の前に、例えば、シリンジに取着されるT型アダプタを設定して化合物の混合を提供し、ゲル化作用を開始し、次いで、ゲル化を起こすアルギン酸塩混合物が管腔に進入して着目心臓組織に注射されることを可能にしてもよい。アルギン酸塩混合物は、即時に注射されてもよく、または、注射の前にヒドロゲルの粘性を増加させるために、シリンジ中で部分的に事前硬化することを可能にされてもよい。場合によっては、事前に硬化した製剤は、注射後に粘性の低いヒドロゲルが着目組織領域から離れて拡散または移動し得る可能性を低減してもよい。注射部位から離れた拡散/移動を限定または最小限化するために、300,000を超える分子量を伴うアルギン酸塩物質を利用することが有益であってもよい。別のアプローチでは、アルギン酸ナトリウム溶液および分散した陽イオンを外部混合室で前もって混合し、単管シリンジの中へ吸引してもよく、それを着目心臓組織の中へ注射してもよい。別のアプローチでは、二価陽イオンとの混合の前に、アルギン酸塩へのペプチドの共有結合のために、アルギン酸ナトリウム溶液を適切なペプチド(例えば、RGDまたはGREDVY)と前もって混合してもよい。
【0080】
有利なことには、イオンで架橋したアルギン酸ヒドロゲルの物質性質は、様々な方法で制御されてもよい。ゲル化後剛性からゲル化前溶液の粘性を制御および減結合するための分子量分布を変える技術は、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、H.Kong et al.,Controlling material properties of ionically cross−linked alginate hydrogels by varying molecular weight distribution,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.711,2002,pagesGG5.7.1−GG5.7.4に開示されている。その一部がポリエチレングリコールまたはPEG物質に適用できる、他の技術は、Pathakらに対して2003年5月20日に発行された米国特許第6,566,406号、Pathakに対して2005年5月3日に発行された米国特許第6,887,974号、およびPathakらの2004年2月5日に公開された米国特許出願公報第2004/0023842号で開示されており、その全ては、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる。
【0081】
特に、ゲル状態になる身体組織内の沈着の前に、液相を維持することが可能な、架橋高分子の水溶液である、注射用架橋高分子調剤の別の例は、Cohenらの2006年4月20日に公開された米国特許出願公報第2006/0083721号、およびCohenらの2005年1月6日に公開された米国特許出願公報第2005/0003010号で開示されており、その全ては、参照することにより、その全体において本願に組み込まれる。
【0082】
参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Wallaceらに対して2000年5月16日に発行された米国特許第6,063,061号は、標的部位における開口部を通してゲルを押し出すことによる、患者の体内の標的部位への分子ゲルの適用を開示している。Wallaceらは、押し出し性、周辺生体液の吸収性、凝集性、空間を満たす能力、膨張能力、および組織部位に付着する能力を含む、ヒドロゲルのいくつかの機能性質に対する、高分子の架橋結合の程度の影響を考慮した。高分子ゲル組成物の架橋結合の程度は、架橋剤の濃度を調整する、架橋放射線への暴露を制御する、単または多不飽和単量体の相対量を変更する、反応条件を変える、および同様のことによって、制御されてもよい。さらに、性質はまた、ヒドロゲルを機械的に妨害して、それが送達されている空間を満たして詰める能力を強化するサイズを有する、ヒドロゲルの複数のサブユニットを作成してもよい。
【0083】
参照することにより、その全体において本願に組み込まれる、Bellらの2003年11月13日に公開された米国特許出願公報第2003/0211793号は、軸が線維の軸に実質的に平行である生物高分子小線維から組み立てられる、生物高分子線維を備える、注射可能な生体適合性物質を開示している。
【0084】
空間占拠性薬剤の別の例は、多糖スポンジであり、その例は、その全体において本願に組み込まれる、Shapiroらに対して2002年1月1日に発行された米国特許第6,334,968号、およびShapiroらに対して2002年7月30日に発行された米国特許第6,425,918号で開示されている。
【0085】
別の適切な治療薬は、キトサン物質で被覆されたアルギン酸ビーズであり、それは特に、注射の隣接領域にアルギン酸ビーズを固着することが望ましくてもよい場合に、適切である。この場合、被覆の内側のアルギン酸塩表面に化学的に結合される、および外側で心筋組織に同時に結合される被覆で、アルギン酸ビーズを上塗りすることが望ましくてもよい。アルギン酸塩表面および心筋組織の両方に、利用可能な負の結合部位があることを考えると、正電荷密度による上塗りが適切であってもよい。キトサンがそのような物質である。キトサンは、線状多糖類であり、その正電荷密度から考えて、粘膜等の負に帯電した表面に容易に結合する、生体接着剤である。キトサン上塗りは、浸漬被覆または他の既知の手順によって塗布されてもよく、キトサンは、アルギン酸塩表面上の利用可能な負の部位にイオン結合してもよい。このことから考えて、キトサンは、固着部の役割を果たして、ビーズを負に帯電した心筋組織に固定してもよく、注射部位において一時的な機械的完全性を生じる。キトサン上塗りが最終的には酵素的に溶解されるという意味で、一時的である。「固着時間」は、キトサン上塗りの厚さを増加させることによって、延長されてもよい。ビーズおよびヒドロゲルは、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Leeらの2007年6月13日に出願された米国特許出願第11/818,220号、およびLeeらの2006年6月13日に出願された米国特許出願第60/813,184号に記載されている。
【0086】
注射可能な物質の性質は、間質区画(個々の細胞間の空間、および細胞束間の空間)の特性を考慮して調整され、壁の肥厚の強化または注射部位間の連係の強化のいずれかを行うように、空間を占有してもよい。
【0087】
粒子、棒、球体、拡張可能な小型バルーン、および支柱等の移植型機械装置もまた、空間占拠性の作用因子として使用されてもよい。参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Santamoreらの2005年4月14日に公開された米国特許出願公報第2005/0080402号は、心筋を硬化させるための様々な移植型装置を開示している。機械的支柱は、ステンレス鋼、チタン、または他の既知の生物学適合性の剛性金属あるいは他の剛体材料でできていてもよく、長さが長いか、または短くてもよく、かつ、心臓外科の分野で周知の技術によって移植されてもよい。支柱が導入されてもよいチャネルを作成する際の使用に適した1つの器具は、患者の心臓の壁にチャネルを形成するためにレーザを使用する。このチャネルは、上記の種類の機械的支柱を移植するためのアクセスを提供するために使用してもよい。適切な器具は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Payneらに対して2000年10月17日に発行された米国特許第6,132,451号に開示されている。移植型機械装置はまた、さらなる治療を投与する薬剤溶出性であってもよい。
【0088】
心筋に配置された後に膨張する注射液および移植片は、投与を複雑にすることなく壁の肥厚を強化するのに効果的である。特に、注射または移植からの外傷が最小限にされてもよい。膨潤性高分子を使用してもよい。さらに、心筋の中への移植または注射の後に拡張する、膨潤性高分子でできている微小球および棒等の硬い物体は、心臓壁の肥厚の程度の微調整を可能にする、特定の拡張サイズに設計されてもよい。拡張の速度は、分解を管理するように制御されてもよい。
【0089】
急成長細胞および急成長推進生物製剤も、天然または遺伝子組み換えにかかわらず、空間占拠性薬剤として使用してもよい。
【0090】
(局所的な状態の治療)
全体的サイズ変更のための心筋内の空間占拠性薬剤の分布のパターンはまた、心筋梗塞、心室壁の顕性動脈瘤、および僧帽弁逆流等の局所的な状態を増強または治療するために使用してもよい。これらの技術はまた、まだ心筋症に進行していないかもしれない局所的な状態を治療するために使用してもよい。
【0091】
適切なパターンは、肺静脈を取り囲む線、肺静脈から僧帽弁輪へ延在する線、迷路手技に使用されるもののようなパターン、および回廊手技に使用されるもののようなパターンを含む。治療を必要とする薄壁領域または動脈瘤等の、様々な心臓疾患を識別するための適切な技術は、MRI、エコー、および他の画像診断法と結びつけられてもよい。所定のパターンは、短い支柱または格子であってもよい。適切な格子は、十字交差または織り合わされた機械的支柱、あるいは複数の注射から形成されてもよい。複数の注射は、例えば、2次元格子のグリッド等の規則的な分布で行われてもよく、または、不規則に分布されてもよいが、注射は、概して治療効果を達成するのに十分な程度に接近している。識別した心臓疾患は、交差していても、していなくてもよいが、パターンは、好ましくは、正常な健常心臓組織の中へ延在する。注射剤が使用される場合、用量は、均一であってもよく、または所望に応じて、変化してもよい(例えば、心尖に向かって減少してもよい)。移植型装置が使用される場合、効果的な断面がパターンに沿って変化できるように、異なる断面の装置を使用してもよい。
【0092】
参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631A1号は、治療的機械足場が心臓組織自体の内側に形成されるように、心臓組織の中へ注射可能な高分子剤を注射することによって、心臓組織を治療するステップを開示している。特に、注射可能な足場剤は、フィブリン接着剤であり、虚血組織または梗塞等の損傷した心筋の領域の中へ注射される。LV壁機能障害もまた、LV壁の中へ足場剤を注射することによって治療されてもよい。細胞療法は、フィブリン接着剤または他の注射可能な高分子足場剤の注射と組み合わせられてもよい。薬剤の高分子型は、心臓組織内の原位置において重合する前駆体物質として注射可能であってもよい。他の様態では、治療的血管形成を提供するために、または、注射した領域内の細胞の沈着を誘発するために、高分子にそれぞれ断片EまたはRDG結合部位を提供すること等によって、高分子剤が注射される。
【0093】
前述のLeeらの’631号公開特許出願はまた、経血管送達を介して心室の虚血領域への内部分子足場を形成するためのシステムも開示している。場所は、概して、冠状動脈または静脈等の血管と接している領域においてであってもよい。例えば、閉鎖血管の再疎通後に、下流の血流が、しばしば、梗塞と直接関連している。そのような血管は、梗塞域に拡張可能バルーン400(図33)を送達するために使用してもよく、バルーンは、血管壁を通して、または他の特定の様態で注射する針440を含有する。さらに、冠状静脈洞等の他の経路、または再度静脈を使用してもよい。また、そのようなバルーンは、注射される壁の部分にバルーンの針送達部分を押し付けるための拡張を使用して、心室内での使用のために修正されてもよい。1つの観点として、損傷した心臓組織領域の一部を横断するステップは、それらがまたがる領域を支持するリブとして機能する、足場の注射「指」等の、治療的足場支持を提供するのに十分であってもよい。損傷した心臓組織領域に沿った完全またはほぼ完全な注射は、非常に有益な実施形態であり、多くの場合において最適な結果を提供すると考えられる。
【0094】
図34は、縦線312と314とが互いにほぼ平行し、かつ動脈瘤310の両側に位置する治療を示す。この構成では、縦線312および314は、局所的な治療のために、心尖から基底への方向に沿った短い距離のみに延在する。あるいは、動脈瘤の両側の縦線は、本質的に、心尖から基底までの全距離に延在してもよい。あるいは、2つの円周線が動脈瘤310の両側に位置し、心臓壁に沿った短い距離だけに延在してもよい。あるいは、2つの円周線は、動脈瘤310の両側に位置し、本質的に、左心室の自由壁全体にわたって延在してもよい。
【0095】
図35は、線352、354、および356が、全体的なサイズ変更のために、基本的に心臓の心尖から基底へと延在するが、線354は、また、局所的治療のために動脈瘤350を通過する治療を示す。あるいは、縦線(図示せず)は、動脈瘤350をまたがってもよいが、そうでなければ、両端が健常組織内にあるように、基底に対して心尖の方向に、ごく一部のみに延在してもよい。全体的なサイズ変更のための線は、使用しても、しなくてもよい。あるいは、円周線(図示せず)は、動脈瘤350をまたがってもよく、かつ、周囲の健常組織の中へ両端が短い距離だけ延在しているか、または全体的なサイズ変更および再形成のために心室自由壁にわたって延在してもよい。
【0096】
図36は、Torrent−Guasp二重ループ概念に従った、心臓の前面の概略図である。描写360は、基底ループの右区分361、基底ループの左区分362、心尖ループの下降区分363、および心尖ループの上昇部分364を示す。様々な区分361、362、363、および364における横紋が、心筋の筋線維束を表すことに注目されたい。Torrent−Guasp二重ループ概念は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、F.Torrent−Guasp et al.,Towards new understanding of the heart structure and function,European Journal of Cardio−thoracic Surgery,Vol.27,2005,pages 191−201で開示されている。横紋は、次のような方法で治療を改善するために使用してもよい。
【0097】
図37は、動脈瘤371を有する心臓370を示す。線372は、動脈瘤371を通って、動脈瘤371の両側の健常組織の中へ延在する。線372は、横紋に平行して走り、したがって、線352に沿って行われる注射または移植により、最大収縮と弛緩とのベクトルに沿って、動脈瘤351との心筋の健常組織の最大結合を提供する。心筋線維の方向は、一般的には、心筋の深度とともに変化するため、線372に沿った注射または移植は心筋において行われるが、好ましくは、中心よりもむしろ心外膜の近傍においてである。所望に応じて、左心室の全体的なサイズ変更および再形成を提供するために、心筋の中心に注射または移植を伴う円周線373を使用してもよい。
【0098】
僧帽弁逆流の治療のために、例えば、僧帽弁輪は、補強されて、僧帽弁輪の一部または全体に最も近い、またはそれを円周方向に包囲する、注射可能または移植型パターンを使用することによって、心室収縮中の完全な弁閉鎖を可能にしてもよい。
【0099】
空間占拠性薬剤を利用する別の用途は、心臓の僧帽弁が十分にきつく閉じないことによって、血液が逆方向に流れることを可能にする状態である僧帽弁逆流の治療におけるものである。この用途においては、僧帽弁を再形成して、左心室が収縮を行っている間に、弁がさらにきつく閉鎖して左心房の中への逆流に対して封鎖することを可能にするために、空間占拠性薬剤を利用してもよい。図38は、ヒト心臓の断面図を示し、僧帽弁輪近傍の注射/移植部位510は、僧帽弁逆流を治療する空間占拠性薬剤の導入に適している。図38はまた、心臓に血液を運ぶ主要な動脈である大動脈502、肺に血液を運ぶ肺動脈504、肺から心臓の中へ血液を運び込む肺静脈506、左心房508、大動脈弁512、左心室516、右心室518、三尖弁520、身体から心臓の中へ血液を運び込む主要な静脈である下大静脈522、右心房524、頭頸部から心臓の中へ血液を運び込む主要な静脈である上大静脈526、および肺動脈弁528を含む。生体適合性高分子注射または機械的支柱移植を行う手順は、僧帽弁が容易に暴露される心臓切開手術中に行われてもよく、または、注射手技は、参照することによりその全体において本願に組み込まれる、Leeらの2005年12月8日に公開された、米国特許出願公報第2005/0271631号で開示されているような、静脈系を通した経皮経管アプローチを介して、非切開心臓で行われてもよい。該手技はまた、経皮的および心外膜的に行われてもよい。
【0100】
本明細書で説明されるような、その用途および利点を含む、本発明の説明は、例示的であり、特許請求の範囲で説明される本発明の範囲を限定することを目的としない。本明細書で開示される実施形態の変更および修正が可能であり、実施形態の様々な要素の実用的な代替案および同等物は、本特許文書を検討することによって、当業者に理解されるであろう。本発明の範囲および精神を逸脱しない限り、実施形態の様々な要素の代替案および同等物を含む、本明細書で開示される実施形態の、これらおよび他の変更および修正を行ってもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓における拡張した左心室の治療のために心筋壁を肥厚するのに有効な生体適合性の重合性薬剤の使用であって、該治療は、左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位に該生体適合性の重合性薬剤を注射することによりなされ、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、そして、各々が、心筋壁を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、そして、左心室の機能を改善するための治療に有効な量の該重合性薬剤を含む、使用。
【請求項2】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在する第1の線を備える、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記第1の線が、概して左心室のほぼ最大幅の部分の周囲にある、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線に対して概して平行で離間している第2の線を備える、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも2つの概して平行で離間している線を備える、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも3つの概して平行で離間している線を備える、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記線の各々が、少なくとも4つの実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記重合性薬剤がアルギン酸を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記重合性薬剤がポリエチレングリコールを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
患者の心臓における拡張した左心室を治療する方法であって、該方法は、左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位にある用量の生体適合性の重合性薬剤を注射する工程を包含し、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、そして、該用量は、心筋壁を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、そして、左心室の機能を改善するための治療に有効な量である、方法。
【請求項14】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在する第1の線を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の線が、概して左心室のほぼ最大幅の部分の周囲にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パターンが前記第1の線に限られる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の注射部位を含み、該注射部位の少なくともいくつかは、実質的に均等に離間していない、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線に対して概して平行で離間している第2の線を備える、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線および前記第2の線に対して概して平行で離間している第3の線を備える、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも2つの概して平行で離間している線を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記線の各々が、少なくとも4つの実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記線の各々が、少なくとも4つの注射部位を含み、該注射部位のいくつかは、実質的に均等に離間していない、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも3つの概して平行で離間している線を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記重合性薬剤がアルギン酸を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記重合性薬剤がポリエチレングリコールを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
患者の心臓における拡張した左心室を治療するためのキットであって、該キットは、
生体適合性の重合性薬剤の供給源;および
ある用量の生体適合性の重合性薬剤を左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位に注射するための注射器であって、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、そして、該用量は、心筋を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、そして、左心室の機能を改善するための治療に有効な量である、注射器
を備える、キット。
【請求項30】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在する第1の線を備える、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記第1の線が、概して左心室のほぼ最大幅の部分の周囲にある、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線に対して概して平行で離間している第2の線を備える、請求項30に記載のキット。
【請求項34】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも2つの概して平行で離間している線を備える、請求項29に記載のキット。
【請求項35】
前記線の各々が、少なくとも4つの実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも3つの概して平行で離間している線を備える、請求項29に記載のキット。
【請求項37】
前記重合性薬剤がアルギン酸を含む、請求項29に記載のキット。
【請求項38】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記重合性薬剤がポリエチレングリコールを含む、請求項29に記載のキット。
【請求項40】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項39に記載のキット。
【請求項1】
患者の心臓における拡張した左心室の治療のために心筋壁を肥厚するのに有効な生体適合性の重合性薬剤の使用であって、該治療は、左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位に該生体適合性の重合性薬剤を注射することによりなされ、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、そして、各々が、心筋壁を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、そして、左心室の機能を改善するための治療に有効な量の該重合性薬剤を含む、使用。
【請求項2】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在する第1の線を備える、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記第1の線が、概して左心室のほぼ最大幅の部分の周囲にある、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線に対して概して平行で離間している第2の線を備える、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも2つの概して平行で離間している線を備える、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも3つの概して平行で離間している線を備える、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記線の各々が、少なくとも4つの実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記重合性薬剤がアルギン酸を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記重合性薬剤がポリエチレングリコールを含む、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
患者の心臓における拡張した左心室を治療する方法であって、該方法は、左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位にある用量の生体適合性の重合性薬剤を注射する工程を包含し、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、そして、該用量は、心筋壁を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、そして、左心室の機能を改善するための治療に有効な量である、方法。
【請求項14】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在する第1の線を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の線が、概して左心室のほぼ最大幅の部分の周囲にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記パターンが前記第1の線に限られる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の注射部位を含み、該注射部位の少なくともいくつかは、実質的に均等に離間していない、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線に対して概して平行で離間している第2の線を備える、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線および前記第2の線に対して概して平行で離間している第3の線を備える、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも2つの概して平行で離間している線を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記線の各々が、少なくとも4つの実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記線の各々が、少なくとも4つの注射部位を含み、該注射部位のいくつかは、実質的に均等に離間していない、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも3つの概して平行で離間している線を備える、請求項13に記載の方法。
【請求項25】
前記重合性薬剤がアルギン酸を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記重合性薬剤がポリエチレングリコールを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項28】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
患者の心臓における拡張した左心室を治療するためのキットであって、該キットは、
生体適合性の重合性薬剤の供給源;および
ある用量の生体適合性の重合性薬剤を左心室の心筋壁内の少なくとも3箇所の注射部位に注射するための注射器であって、該注射部位は、治療に有効なパターンで配置され、そして、該用量は、心筋を肥厚し、左心室の収縮期容積を低減し、そして、左心室の機能を改善するための治療に有効な量である、注射器
を備える、キット。
【請求項30】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在する第1の線を備える、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記第1の線が、概して左心室のほぼ最大幅の部分の周囲にある、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
前記第1の線が、少なくとも5箇所の実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記パターンが、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って円周方向に延在し、かつ、前記第1の線に対して概して平行で離間している第2の線を備える、請求項30に記載のキット。
【請求項34】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも2つの概して平行で離間している線を備える、請求項29に記載のキット。
【請求項35】
前記線の各々が、少なくとも4つの実質的に均等に離間している注射部位を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記パターンが、左心室の基底近傍から左心室の心尖近傍へと、ほぼ左心室自由壁の大部分に沿って縦方向に延在する、少なくとも3つの概して平行で離間している線を備える、請求項29に記載のキット。
【請求項37】
前記重合性薬剤がアルギン酸を含む、請求項29に記載のキット。
【請求項38】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記重合性薬剤がポリエチレングリコールを含む、請求項29に記載のキット。
【請求項40】
前記重合性薬剤がさらに、生細胞、成長因子、ペプチド、タンパク質、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項39に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32A】
【図32B】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32A】
【図32B】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【公表番号】特表2010−502371(P2010−502371A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527435(P2009−527435)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/019575
【国際公開番号】WO2008/030578
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(508340097)シンフォニー メディカル, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/019575
【国際公開番号】WO2008/030578
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(508340097)シンフォニー メディカル, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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