説明

全姿勢自動溶接ヘッドとその動作方法

【課題】狭隘な間隙であっても溶接ヘッドのトーチ部分を、被溶接チューブの外周部の円周方向と上下移動方向に容易に移動できる溶接ヘッドを提供すること。
【解決手段】トーチ7を支持するトーチ台10を先端部に設け、被溶接チューブ22の中心軸と一致させてチューブ22の外周を回転するトーチ回転用リング1と該リング1の内側でリング1と同心円上に配置されたトーチ上下移動用リング2と、リング1をチューブ22の回りに回転駆動させる第1の歯車群及び第1の歯車群と並列配置され、リング2をチューブ22の回りに回転駆動させる第2の歯車群及び前記2組の歯車群を共に駆動させる駆動軸27と該駆動軸27を駆動させるトーチ回転用モータ4と、リング2をチューブ22の回りに回転駆動させ、かつトーチ7を上下移動させるために第1の歯車群と等速又は第1の歯車群より高速又は低速で、リング1に対して同方向又は逆方向に回転しながらリング2を駆動可能な第2の歯車群と該第2の歯車群を駆動させるトーチ上下移動用モータ5とを備えた溶接ヘッドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定チューブの突き合わせ溶接技術に係わり、特に隣接するチューブと被溶接部材との間隙が狭い溶接に適用し、一周の全姿勢溶接を行うことができる全姿勢自動溶接ヘッドとその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全姿勢自動溶接装置は、溶接電源、トーチを有する溶接ヘッド、溶接ヘッドなどを駆動制御する制御装置及びトーチ冷却用の冷却水循環用ポンプなどの溶接に必要な機器を全て備えている。全姿勢自動溶接装置の中で例えば図10〜図12に示す被溶接チューブ22にクランプし、溶接トーチ7を移動させる機械である溶接ヘッドの中で、特に自動TIG溶接ヘッドは、トーチ7を有する溶接ヘッドを固定チューブ22へクランプし、トーチ7を前記チューブ22の外周の溶接部に沿ってワイヤを挿入しながら回転させ(以後、回転方向ということがある。)、同時にトーチ7を固定チューブ22の外周においてチューブ22の半径方向へ移動(以後、上下方向への移動又は単に上下移動ということがある。)させることでアーク長を調整しながら、多層盛り溶接を行う。このため溶接ヘッドにはトーチ7の移動機構が必要となる。
【0003】
前記全姿勢自動溶接ヘッドを用いるチューブ22の突き合わせ溶接の代表例はボイラの火炉壁を構成する水壁管の溶接である。図14に示すように火炉壁の水壁管(ボイラパネル)は多数のチューブ22を並列配置し、隣接した2つのチューブ22の間にメンブレンバー44を配置してこれを溶接して得られる。この水壁管を火炉壁構造の仕様に従って複数個作製し、これらの水壁管を火炉壁面になるように組み立て、水壁管同士の突き合わせ部を全姿勢自動溶接ヘッドAで溶接接続して火炉壁とする。
【0004】
図14に示すように隣接する2つの水壁管の端部のチューブ22,22同士を突き合わた溶接部は、両方のチューブ22,22に開先加工がされていて、メンブレンバー44が存在しない2つのチューブ22,22の間隙に溶接ヘッドAを取り付け、トーチ7で両方のチューブ22,22の突き合わせ部分を溶接するが、この突き合わ溶接は溶接ヘッドAのトーチ7の部分をチューブ22の外周に沿って回転させながら一層ごと溶接を繰り返して多層に溶接することで行われる。
【0005】
すなわち、図15にチューブ22の外周に沿った多層溶接する場合のトーチ7の動作軌跡に示すように、溶接装置に付属するトーチ7の部分の冷却を行う冷却水ホース又は溶接用電力供給用電線がチューブ22または溶接ヘッドAに複数回巻き付かないようにするために、チューブ22の外周を一層分溶接する毎にアークを切り、トーチ7をチューブ22の外周に沿って逆転させて溶接開始位置に戻して次層の溶接を行う。この操作を繰り返して多層溶接するが、このとき各層分の溶接時にアーク長の調整と次層溶接時のトーチ高さの調整を行うために、溶接ヘッドAはチューブ22の上下方向へ移動する動作が行われる。
【0006】
前記水壁管の溶接時には、一つの水壁管を構成する隣接した2つのチューブ22,22の間隙が、例えば17mmと非常に狭隘な間隙であるため、この狭い間隙内でもチューブ22外周面を前記上下方向への移動が自在であることが要求される。
【0007】
このような狭隘な間隙にあるチューブ22の円周方向と上下方向への移動が可能なトーチ7を備えた自動溶接ヘッドAの従来技術として、特開平9−271939号公報及び特開2001−225165号公報記載の発明がある。
【特許文献1】特開平9−271939号公報
【特許文献2】特開2001−225165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開平9−271939号公報記載の溶接ヘッドは、溶接ヘッドのトーチ部分のチューブの円周方向の移動はチューブを跨ぐように配置したトーチを取り付けた馬蹄形リングをチューブ上を回転するように移動させて溶接する構成である。前記馬蹄形リングのチューブ上の回転運動は該リング外周面に設けた歯車と噛合する歯車をチューブを把持する溶接ヘッド本体内に設け、この歯車駆動用のモータで駆動させる構成である。また前記トーチのチューブの前記上下方向への移動は、トーチヘッド部分に固定されたガイドシャフトをウオームギアと送りネジなどを介してヘッド上下駆動用のマイクロモータで行うものである。
【0009】
上記特開平9−271939号公報記載の溶接ヘッドのトーチ部分のチューブの円周方向の回転駆動装置は、チューブ上の溶接ヘッド本体にあるので、その大きさが制限されないが、トーチの上下移動用の部品は、狭隘な隣接チューブの間隙内を上下方向へ移動する構成になっているため、サイズを小さくする必要がある。そのため前記上下移動用部品にはマイクロモータを使用している。また、前記マイクロモータで駆動されるトーチヘッドのガイドシャフト、ウオームギア及び送りネジなども前記狭隘な間隙を通過できるサイズにしなければならないため、これらの部品が高価になり、またメンテナンスに手間どることがある。
【0010】
また、本出願人の開発した特開2001−225165号公報記載の溶接ヘッドは前記マイクロモータなどの超小型部品を使用しないので、比較的低コストでメンテナンス性も良い。この溶接ヘッドは、トーチ7部分の回転用のリングと上下移動用のリングを重ね合わせてチューブ22と同心円上に配置する構成であるが、前記トーチ部分の上下移動は、前記回転用リングと上下移動用リングのチューブ回りの相対回転速度を変化させて行う構成であり、回転用リングと上下移動用リングは、別々のモータによりそれぞれ独立して駆動される駆動系を備えている。
【0011】
従って前記回転用リングと上下移動用リングの動作速度を正確に制御する必要がある。特に回転リング動作中は、上下移動用リングの回転速度を回転用リングの回転速度に合わせる必要があり、前記各々独立した駆動系の制御が複雑になる。また、回転用リングを作動させている最中にトーチ部分を上下方向に移動させるためには上下移動用リングは回転用リングと同速度で回転しているので、回転用リングより高速又は低速で正転させるか又は逆転させる必要がある。とくに上下移動用リングの上下移動用リングを逆転させる場合には、回転用リングと同速度で回転している上下移動用リングをトーチ部分を上下移動させるときだけ、逆転させて、その後、元の回転方向に戻し、しかもこのとき回転用リングと同速度となるように制御する必要がある。
【0012】
このような上下移動用リングを前記逆転方向から元の回転方向へ回転方向を戻すときに、リング駆動系のバックラッシュによる回転遅れや適切なトーチ7の上下移動量を得ることが難しいことがあった。
【0013】
本発明の課題は、狭隘な間隙であっても溶接ヘッドのトーチ部分を、被溶接チューブの外周部の円周方向と上下移動方向に容易に移動でき、かつその移動量の調整も容易に行えるチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドとその動作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記課題は次の解決手段で解決される。
請求項1記載の発明は、溶接用のトーチ7と、該トーチ7を支持するトーチ台10と、トーチ台10の一端部を先端部で支持し、かつ被溶接チューブ22の中心軸と一致させて該チューブ22の外周を回転する馬蹄形のトーチ回転用リング1と、該トーチ回転用リング1の内側で、トーチ台10の他端部を先端部で支持し、かつトーチ回転用リング1と同心円上に配置された馬蹄形のトーチ上下移動用リング2と、前記トーチ回転用リング1を被溶接チューブ22の回りに回転可能な第1の歯車群(30,27a,27b,24a,23,29a,29c,29e,29d,29f)及び該第1の歯車群と並列配置され、かつ前記トーチ上下移動用リング2を前記第1の歯車群の一部歯車(30,27a)と共に被溶接チューブ22の回りに回転可能な第2の歯車群(27c,24b,29b,29g,29i,29h,29j)及び前記第1の歯車群と第2の歯車群を共に駆動可能な駆動軸27と該駆動軸27を駆動させるトーチ回転用モータ4とを備えたトーチ回転用リング兼トーチ上下移動用リング駆動機構と、トーチ上下移動用リング2を前記歯車27cを除く第2の歯車群と共に被溶接チューブ22の回りに回転駆動させ、かつ前記第1の歯車群が駆動中に第1の歯車群より高速又は低速で前記リング2を前記リング1の回転方向と同じ方向又は逆転方向に駆動可能な第3の歯車群(35,28)と該第3の歯車群を駆動させる駆動用のトーチ上下移動用モータ5とを備えたトーチ上下移動用リング駆動機構と、前記トーチ回転用リング駆動機構とトーチ上下移動用リング駆動機構をそれぞれ駆動制御させる制御装置100と、トーチ7の近傍へフィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給機構20と、前記2つの馬蹄形リング1,2とは別の位置で被溶接チューブ22を把持するクランプ機構を備えたチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0015】
請求項2記載の発明は、前記トーチ回転用リング1を被溶接チューブ22の回りに回転可能な第1の歯車群は、トーチ回転用リング用モータ4の回転軸に直結した歯車30と、該歯車30に噛合する駆動軸27の端部に設けられた歯車27aと、該駆動軸27の軸上に設けられた太陽歯車27bと、該太陽歯車27bの回転駆動力により駆動される遊星歯車24aと、該遊星歯車24aに噛合する内周側の歯車を有し、回転不能の内歯歯車23と、前記該遊星歯車24aの回転軸25aを側面に遊嵌させ、駆動軸27の回りの遊星歯車24aの公転で回転する歯車29aと、該歯車29aからの駆動力を順次に伝達する1以上の歯車29c、29eの組と歯車29d、29fの組と、該歯車29e,29fに噛合する前記トーチ回転用リング1の外周に設けられた歯車とを備え、前記トーチ上下移動用リング2を前記第1の歯車群の一部の歯車30,27aと共に被溶接チューブ22の回りに回転可能な第2の歯車群は、トーチ回転用リング用モータ4で駆動される駆動軸27に設けられた太陽歯車27cと、該太陽歯車27cの回転駆動力により駆動される遊星歯車24bと、該遊星歯車24bの回転軸25bを側面に遊嵌させ、駆動軸27の回りの遊星歯車24bの公転で回転する歯車29bと、該歯車29bからの駆動力を順次に伝達する1以上の歯車29g、29iの組と29h、29jの組と、該歯車29i,29jに噛合する前記トーチ上下移動用リング2の外周に設けられた歯車とを備え、トーチ上下移動用リング2を前記太陽歯車27cを除く第2の歯車群と共に被溶接チューブ22の回りに回転駆動可能な第3の歯車群は、トーチ上下移動用モータ5の回転軸に直結した歯車35と、外周側の歯車で前記歯車35を噛合させ、また内周側の歯車で前記遊星歯車24bを噛合させる回転可能なトーチ上下移動用伝達歯車28とを備え、駆動軸27で駆動される第1の歯車群の遊星歯車24aと第2の歯車群の遊星歯車24bの組と、第1の歯車群の歯車29aと第2の歯車群の歯車29bの組と、第1の歯車群の歯車29c,29d,第2の歯車群の歯車29g,29hの組と、第1の歯車群の歯車29e,29f,第2の歯車群の歯車29i,29jの組はそれぞれ同一半径を有する求項1に記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0016】
請求項3記載の発明は、トーチ回転用リング1はトーチ回転用モータ4で駆動され、トーチ上下移動用リング2はトーチ回転用モータ4及び/又はトーチ上下移動用モータ5で駆動される歯車機構を備えた請求項1又は2に記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0017】
請求項4記載の発明は、トーチ上下移動用伝達歯車28は1回転以下の回転となるように、その回転範囲が制限された構成からなる請求項1ないし3のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0018】
請求項5記載の発明は、前記トーチ回転用モータ4の回転軸に直結した歯車30と噛合する駆動軸27の歯車27aは共に傘歯車であり、前記トーチ上下移動用モータ5の回転軸に直結した歯車35は円筒ウォームギアであり、該歯車35に噛合するトーチ上下移動用伝達歯車28はウォームホイールギアであり、前記2つのモータ4,5の回転軸が前記2つのリング1,2の中心軸に直交する方向に配置される請求項1ないし4にいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0019】
請求項6記載の発明は、前記トーチ回転用リング1の馬蹄形の一方の先端部にトーチ7を支持する円弧形状のトーチ台10の一端をトーチ支持ピン11で支持させ、トーチ台10の他端をトーチ上下移動用リング2の馬蹄形の一方の先端部にトーチ上下用ピン12で支持させ、前記トーチ支持ピン11又はトーチ上下用ピン12をトーチ台10の上下動の揺動軸とする請求項1ないし5のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0020】
請求項7記載の発明は、クランプ機構は、トーチ回転用リング1と同一円心上に被溶接チューブ22の軸心が配置されるように被溶接チューブ22を把持する構成である請求項1ないし6のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0021】
請求項8記載の発明は、トーチ回転用リング1の基部側と前記トーチ上下移動用リング2の基部側を下方に開口した開口部の内部に収納し、かつ前記リング1,2の駆動用の前記第1〜第3の歯車群とモータ4,5を収納するトーチ駆動用ボディ3を設け、該ボディ3には、前記リング1,2の基部側に該リング1,2の中心軸に直交する方向に沿って設けた溝1a,2a内をそれぞれ摺動する突起部3a,3bを設けた請求項1ないし7のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドである。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ回転用リング1をトーチ回転用モータ4で駆動させ、トーチ上下移動用リング2をトーチ回転用モータ4及び/又はトーチ上下移動用モータ5で駆動させる全姿勢溶接ヘッドの動作方法である。
【0023】
請求項10記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を、トーチ回転用モータ4だけの駆動で等速で回転させる全姿勢溶接ヘッドの動作方法である。
【0024】
請求項11記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ上下移動用リング2をトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の駆動力の和になるような回転方向と回転速度で回転させる全姿勢溶接ヘッドの動作方法である。
【0025】
請求項12記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ上下移動用モータ5を停止させた状態でトーチ7を時計回り又は反時計回りに回転させるようにトーチ回転用モータ4を駆動させて、トーチ7の被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向又は近づく方向である下方向への移動が停止された状態でトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を等速回転させて所定位置にトーチ7を到達させ、その後、トーチ回転用モータ4を停止させた状態でトーチ上下移動用リング2を時計回り又は反時計回りに回転させるようにトーチ上下移動用モータ5を回転させて、トーチ7を前記上方向又は下方向へ移動させて溶接前のトーチ7の位置合わせを行う全姿勢溶接ヘッドの動作方法である。
【0026】
請求項13記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、溶接中には、フィラーワイヤの挿入方向に合致する方向にトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を一定速度でトーチ回転用モータ4により回転させてトーチ7を被溶接チューブ22の回りを回転させながら、(a)アーク長が適切である場合には、トーチ上下移動用モータ5を停止させて前記両リング1、2を等速で前記方向に回転させ、被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向又は近づく方向である下方向へのトーチ7の移動を停止させた状態で溶接し、(b)アーク長が短い場合には、トーチ上下移動用リング2がフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に又はその反対の方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させ、被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向にトーチ7を移動させながら溶接し、(c)アーク長が長い場合には、トーチ上下移動用リング2がフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させ、被溶接チューブ22に対して近づく方向である下方向にトーチ7を移動させながら溶接する全姿勢溶接ヘッドの動作方法である。
【0027】
請求項14記載の発明は、トーチ回転用リング1を一定速度で回転させ、それに対してトーチ上下移動用リング2の回転速度を変更する場合であって、(a)トーチ上下移動用リング2をフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に回転させ、トーチ7を前記上方向に移動させる場合には、トーチ上下移動用リング2の回転速度をトーチ回転用リング1の回転速度より遅くし、(b)トーチ上下移動用リング2をフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に回転させ、トーチ7を前記下方向に移動させる場合には、トーチ上下移動用リング2の回転速度をトーチ回転用リング1の回転速度より速くする請求項13記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法である。
【0028】
(作用)
請求項1〜14記載の発明によれば、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2の(1)溶接前のトーチ位置合わせ等の機能動作と(2)溶接中のトーチの機能動作は、大略次のようになる。なお、リング1,2の作動方向又はトーチ7の作動方向は図6、図9に示された矢印A,Bの方向とする。
(1)溶接前のトーチ7の位置合わせ等の機能動作
(a)トーチ上下移動用モータ5を停止させた状態でトーチ7が矢印A方向に回転するようにトーチ回転用モータ4を駆動させると、トーチ7の上下方向への移動が停止された状態で、リング1、2は矢印A方向に等速回転する。
【0029】
(b)トーチ上下移動用モータ5を停止させた状態でトーチ7が矢印B方向に回転するようにトーチ回転用モータ4を駆動させると、トーチ7の上下方向への移動が停止された状態で、両方のリング1、2は矢印B方向に等速回転する。
【0030】
(c)トーチ回転用モータ4を停止させた状態でトーチ上下移動用リング2が矢印A方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を回転させると、トーチ7は回転を停止したまま、上方向に移動する。このとき、トーチ上下移動用リング2の回転速度が速い程トーチ7の上方向への移動速度が速くなる。
【0031】
(d)トーチ回転用モータ4を停止させた状態でトーチ上下移動用リング2を矢印B方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を回転させると、トーチ7は回転を停止したまま、下方向に移動する。このとき、トーチ上下移動用リング2の回転速度が速い程トーチ7の下方向への移動速度が速くなる。
【0032】
(2)溶接中のトーチ7の機能動作
溶接前のトーチ7の位置合わせが終わると溶接を始めるが、ワイヤの挿入方向が溶接進行方向になる。すなわち矢印B方向が溶接方向になるので、溶接中はトーチ回転用リング1とトーチ移動用リング2は矢印B方向に回転させる。また、トーチ回転用リング1の回転速度が溶接速度になり、溶接速度を変更しない限り、常にトーチ回転用リング1は一定速度で回転させる。
【0033】
(a)アーク長が適切である場合には、トーチ上下移動用モータ5を停止させて前記両リング1、2を等速で矢印B方向に回転させながら、被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向又は近づく方向である下方向へのトーチ7の移動を停止させた状態で溶接する。
【0034】
(b)アーク長が短い場合には、トーチ上下移動用リング2が矢印B方向あるいはA方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させ、被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向にトーチ7を移動させながら溶接する。
【0035】
このとき、トーチ上下移動用リング2が矢印B方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させる場合には、リング1,2の回転速度はリング2<リング1とする。なお、リング1と2の回転速度差が大きい程、トーチ7の上方向への移動速度が速くなる。
【0036】
また、トーチ上下移動用リング2が矢印A方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させると、トーチ7の上方向への移動速度がより速くなる。
【0037】
(c)アーク長が長い場合には、トーチ上下移動用リング2が矢印B方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させ、被溶接チューブ22に対して近づく方向である下方向にトーチ7を移動させながら溶接する。
このとき、リング1,2の回転速度はリング2>リング1とする。なお、リング1とリング2の回転速度差が大きい程、トーチ7の下方向への移動速度が速くなる。
【0038】
請求項1記載の発明におけるリング1,2と歯車群の駆動動作を具体的に説明する。
トーチ回転用モータ4が駆動し、トーチ上下移動モータ5が停止していると、トーチ回転用モータ4が歯車(30,27a)を介して駆動軸27を駆動させると、該駆動軸27に連動するトーチ回転用リング1を駆動させる歯車30、27a,23を除く第1の歯車群(27b,24a,29a,29c,29e,29d,29f)も駆動させ、トーチ回転用リング1が被溶接チューブ22の回りを回転する。また駆動軸27は第1の歯車群の一部の歯車(30,27a)を介してトーチ上下移動用リング2を駆動させる第2の歯車群(27c,24b,29b,29g,29i,29h,29j)も前記第1の歯車群と等速で駆動させるので、トーチ上下移動用リング2もトーチ回転用リング1と被溶接チューブ22の回りを回転する。
【0039】
また、トーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5が共に回転し、しかも太陽歯車27cを除く第2の歯車群(24b,29b,29g,29i,29h,29j)と第3の歯車群(35,28)により駆動するトーチ上下移動用リング2が前記第1の歯車群により駆動するトーチ回転用リング1より高速又は低速で、トーチ回転用リング1の回転方向に対して同じ方向又は逆転方向に前記リング2を駆動する場合には、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2の回転速度がずれることにより、トーチ7は被溶接チューブ22に対して上下方向に移動させることができる。こうしてチューブ22の回りをトーチ7が回転し、また、被溶接チューブ22とトーチ7間の上下方向移動が可能になり、アーク長の長さを調整しながら溶接を行うことができる。
【0040】
また、トーチ回転用モータ4が駆動停止しているときに、トーチ上下移動用モータ5が回転していると駆動軸27が駆動停止しているためトーチ回転用リング1は回転しない。しかし、トーチ上下移動用リング2を回転させる太陽歯車27cを除く第2の歯車群(24b,29b,29g,29i,29h,29j)と第3の歯車群(35,28)は、前記リング2を駆動させるため、トーチ7を被溶接チューブ22に対して上下方向に移動させることができる。
【0041】
請求項2、3記載の発明によれば、トーチ回転用モータ4が駆動していると、歯車30と噛合する傘歯車27aを一端部に設けた駆動軸27が回転し、駆動軸27の太陽歯車27b,27cがそれぞれ遊星歯車24aと遊星歯車24bとを駆動軸27の回りに公転させる。遊星歯車24aの公転により歯車29aが駆動軸27を中心に回転し、歯車29a→歯車29c→歯車29eと歯車29a→歯車29d→歯車29fに伝達される駆動力がトーチ回転用リング1を回転させる。また遊星歯車24bの公転により歯車29bが駆動軸27を中心に回転し、歯車29b→歯車29g→歯車29iと歯車29b→歯車29h→歯車29jにより順次伝達される駆動力がトーチ上下移動用リング2を回転させる。
【0042】
このとき、トーチ上下移動用モータ5が停止していると、トーチ上下移動用伝達歯車28が、ボディ3に固定された内歯歯車23と同様に回転不能となるため、トーチ上下移動用伝達歯車28の内周側の歯車に噛合する遊星歯車24bが駆動軸27の回りを公転する速度は、遊星歯車24aが駆動軸27の回りを公転する速度と等しくなる。従って、トーチ回転用モータ4のみが駆動していると、トーチ回転用リング1の回転とトーチ上下移動用リング2が共に等速で、チューブ22の回りを回転する。
【0043】
また、トーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5が共に駆動していると、第1の歯車群の内歯歯車23は常に回転不能であるので、トーチ回転用リング1はトーチ回転用モータ4の駆動力だけで回転するが、トーチ上下移動用モータ5の駆動力で駆動されるトーチ上下移動用伝達歯車28は駆動軸27の回りを自転可能であるため、遊星歯車24bが駆動軸27を中心に公転する速度が遊星歯車24aが駆動軸27を中心に公転する速度より高速又は低速で遊星歯車24aと同じ方向又は遊星歯車24aと反対方向に回転する。
【0044】
従って、トーチ上下移動用リング2はトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の駆動力の和になる回転方向と回転速度で回転する。すなわち、トーチ上下移動用リング2はトーチ回転用リング1より高速又は低速で、トーチ回転用リング1と同じ方向又は逆方向に回転する。その結果、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2との間に回転速度差が発生し、トーチ7が被溶接チューブ22に対して上下方向に移動する。
【0045】
また、トーチ回転用モータ4が駆動停止しているときに、トーチ上下移動用モータ5が回転していると、駆動軸27が駆動停止しているためトーチ回転用リング1は回転しないが、トーチ上下移動用伝達歯車28が回転しているので、該歯車28の内歯歯車に噛合する遊星歯車24bが駆動軸27を中心に公転する。遊星歯車24bの公転により、平歯車29bが回転し、平歯車29b→平歯車29g→平歯車29iと平歯車29b→平歯車29h→平歯車29jに、順次駆動力が伝達され、平歯車29iと平歯車29jによりトーチ上下移動用リング2が回転される。このときトーチ回転用リング1は不動であるので、トーチ上下移動用リング2の回転方向に応じてトーチ7は上又は下方向に移動する。こうしてチューブ22の回りをトーチ7を回転させない状態でチューブ22とトーチ7間の上下方向移動が行われ、溶接スタート位置の調整などを行うことができる。
【0046】
なお、本発明は、リング1をトーチ上下移動用リングとし、リング2をトーチ回転用リングとし歯車23を回転可能にした上で、その内歯歯車をトーチ上下移動用モータ5で駆動し、トーチ上下移動用伝達歯車28の内歯歯車をトーチ駆動用ボディ3に固定する構造にしても良い。
【0047】
請求項4記載の発明によれば、トーチ上下移動用伝達歯車28は1回転せずに、例えば1/3回転しか回転しないようにリミットスイッチ38などで、その回転範囲を制限することができ、トーチ7の上下方向への移動量は所定の範囲内に限定される。
【0048】
請求項5記載の発明によれば、トーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の回転軸は被溶接チューブ22を把持する2つのリング1,2の中心軸に直交する方向に配置されているため、サイズの大きなモータ4、5とその関連部品が被溶接チューブ22を把持するクランプ機構(クランプブロック17、クランプ18など)と干渉することなく配置できる。
【0049】
請求項6記載の発明によれば、トーチ支持ピン11とトーチ上下用ピン12をトーチ7の上下動の揺動軸とすることができので、トーチ7と被溶接チューブの間の距離を変えることができる。
【0050】
請求項7記載の発明によれば、クランプ機構により2つのリング1,2と同一円心上に被溶接チューブ22の軸心が配置されるように被溶接チューブ22を把持することができ、被溶接チューブ22の突き合わせ部の円周方向の溶接が可能になる。
【0051】
請求項8記載の発明によれば、2つのリング1,2の基部側の外周面上に該リング1,2の回転する方向に沿って設けた溝1a,2a内をトーチ駆動用ボディ3の突起部3a,3bがそれぞれ摺動できるので、リング1,2はその中心軸方向には移動不能で、径方向に回転可能にトーチ駆動用ボディ3に支持される。
【0052】
請求項9〜14は、請求項1〜8記載のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドのトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2をトーチ回転用モータ4及び/又はトーチ上下移動用モータ5の駆動制御できるので、被溶接チューブ22の回りに自在にトーチ7を回転及び/又は上下移動させることができる
【発明の効果】
【0053】
請求項1〜3及び請求項9〜14記載の発明によれば、狭隘な間隙しかない被溶接チューブ22,22の突き合わせ部であっても、その円周方向の溶接が容易に行える。とくに被溶接チューブ22,22の突き合わせ部の上下方向の移動量の調節が従来技術に比べて容易になるので、溶接作業性のよい低コストで高品質の溶接チューブが得られる。
【0054】
請求項4記載の発明によれば、請求項1、2記載の発明の効果に加えて、トーチ7の上下方向への移動量を限定できるので、トーチ7を隣接するチューブ22に接触させること又は動作限界を超えて動作させることにより、モータ4,5及び歯車を壊すといったトラブルを防止できる。
【0055】
請求項5記載の発明によれば、請求項1、2記載の発明の効果に加えて、被溶接チューブ22を把持するクランプ機構に干渉しない位置にトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5などのサイズの大きな部品を配置することができるので、設計の自由度が高くなり、比較的低コストの部品を用いることができる。
【0056】
請求項6記載の発明によれば、トーチ7と被溶接チューブ22の間の距離を、トーチ台10の揺動で行うことができるので、部品点数を多くすることなく、安定したトーチ7の上下移動動作を行うことができ、比較的低コストの溶接ヘッドが得られる。
【0057】
請求項7記載の発明によれば、被溶接チューブ22を把持するクランプ機構をトーチ回転用リング1の近傍に配置しないので、溶接部とクランプ機構が比較的離れた位置に配置され、クランプ機構を耐熱性の高い部材で構成する必要がなく、比較的低コストの溶接ヘッドが得られる。
【0058】
請求項8記載の発明によれば、トーチ駆動用ボディ3は、部品点数を節約しながら、リング1,2を回転方向及び上下方向に自由度をもって把持し、しかもリング1,2を、その回転方向には自在に回転可能に把持し、リング1,2の軸方向には移動不能な状態で支持するので、溶接作業性のよい低コストの溶接ヘッドが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
本発明の実施例を図面と共に説明する。
本実施例のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドの側面図を図10に、平面図を図11に、背面図を図12にそれぞれ示す。また図11のA−A線断面矢視図の一部を図1に示し、図1のA−A線断面矢視図を図2に示し、図1のB−B線断面矢視図を図3に示し、図1のC−C線断面矢視図を図4に示し、図1のD−D線断面矢視図を図5に示す。図1のE−E線断面矢視図を図6に示し、図4のF−F線断面矢視図を図7に示し、図6のG−G線断面矢視図を図8に示し、図11の一部拡大図を図9(a)に示し、図9(a)の矢印S方向からの矢視図を図9(b)に示す。
なお、本明細書ではトーチ駆動部ボディ3に接続したトーチ台10のある方を前方と呼び、トーチ駆動部ボディ3に対してトーチ台10の反対側を後方と呼ぶことにする。
【0060】
トーチ駆動部ボディ3の前方下部側にチューブ22を挟み込む馬蹄形状の円筒状のトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を同一円心上に取り付ける。このときリング1をリング2に上側に重ねて互いに回転自在に設ける。従ってクランプ機構(クランクブロック27,クランプ28及びハンドノブ29など)で把持されるチューブ22はトーチ上下移動用リング2内に遊嵌されるように配置される。
【0061】
また、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2の後半分は図3,図4に示すようにトーチ駆動部ボディ3の下端開放部内に抱え込まれるように遊嵌支持され、またリング1とリング2のそれぞれに設けられた溝1a,2a内にトーチ駆動部ボディ3の下方から突出した突起部3a,3bを入れているので、リング1,2はその回転方向には自在に回転可能であるが、前後方向に抜け出ない構成になっている。
【0062】
トーチ駆動部ボディ3はリング1,2を回転方向に自由度をもって把持し、しかもリング1,2は、その回転方向には自在に回転可能であるが、リング1,2の軸方向には移動不能な状態で支持できるので低コストの溶接ヘッドが得られる。
【0063】
さらに、前記トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2の駆動用の歯車機構がトーチ駆動部ボディ3内に配置されている。また前記歯車機構の前方には前記ボディ3の開口部を覆うカバー16が設けられている。また前記歯車機構の駆動力源となるトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5がトーチ駆動部ボディ3内の上方部に収納されている。
【0064】
また、馬蹄形のトーチ回転用リング1の前方部には円弧形状のトーチ台10が設けられ、該トーチ台10の一端部の前後方向をトーチ支持ピン11とトーチ支持ピン固定ブロック14でトーチ回転用リング1に固定し、トーチ台10の前方にはトーチ7が固定され、該トーチ7の底面に非消耗電極8を取付けている。
【0065】
さらに、馬蹄形のトーチ上下移動用リング2の前方部の前後方向にトーチ台10の他端部をトーチ上下移動用ピン12とトーチ上下移動用ピン固定ブロック15で固定している。
【0066】
従って、後述する駆動機構により上下移動用リング2を回転させると、トーチ上下移動用ピン12で上下移動用リング2に端部が支持されたトーチ台10はトーチ支持ピン11又はトーチ上下移動用ピン12を支点として揺動する。このトーチ台10のトーチ支持ピン11を支点とする揺動によりトーチ7の電極8とチューブ22の表面との間隔が変動する。
【0067】
本溶接ヘッドはTIG溶接用のものであるので、トーチ7には非消耗電極8の固定位置周辺に図示しないシールドガス吐出口を設け、その吐出口に金網等のガスレンズを取り付けることでアーク周辺に均一にシールドガスを吐出することができ、安定したアークが形成可能な構造となっている。
【0068】
また、トーチ7の肉厚を薄くするために非消耗電極8はトーチ7の側面から止めネジ9で固定する構造となっている。
さらに、本溶接ヘッドのリング1、2の後方部位にチューブ22を把持するためのクランプ機構が設けられており、該クランプ機構はトーチ駆動部ボディ3の後側下方部に接続されている。
【0069】
前記クランプ機構は下方が開放したクランプブロック17とその一端に設けられた開閉自在のアーム18とハンドノブ19を有し、該アーム18をハンドノブ19の回転操作で揺動させて、チューブ22を抱え込んだ後、クランプブロック17の下方の開放領域を狭くしてチューブ22を把持するものである。このクランプ機構によりチューブ22をトーチ上下移動用リング2と同一円心上に配置することができる。
【0070】
また、トーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の回転軸は被溶接チューブ22を把持する2つのリング1,2の中心軸に直交する方向に配置されているため、サイズの大きなモータ4、5とその関連部品が被溶接チューブ22を把持するクランプ機構(クランプブロック17、クランプ18など)と干渉することなく配置できる。
そのため、トーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5などのサイズの大きな部品の設計の自由度が高くなり、比較的低コストの部品を用いることができる。
【0071】
また、被溶接チューブ22を把持するクランプ機構をトーチ回転用リング1の近傍に配置しないので、溶接部とクランプ機構が比較的離れた位置に配置され、クランプ機構を耐熱性の高い部材で構成する必要がなく、比較的低コストの溶接ヘッドが得られる。
【0072】
また、クランプ機構に隣接させて、ワイヤ送給機構20とワイヤリール21を設けている。ワイヤ送給機構20によりトーチ7の近傍のワイヤノズル13にワイヤ(図示せず)が送られる。
【0073】
図1に示すようにトーチ回転用モータ4の回転軸には止めネジ31aで着脱される傘歯車30が取り付けられており、該傘歯車30と噛合する傘歯車27aを一端部に設けた駆動軸27はリング1,2をそれぞれ駆動するための太陽歯車27b(図2),27c(図5)も備えている。太陽歯車27b,27cを有する駆動軸27は太陽歯車27b,27cを介して図2に示すトーチ回転用リング1を回転させるための遊星歯車24aと図5に示すトーチ上下移動用リング2を回転させるための遊星歯車24bとにそれぞれトーチ回転用モータ4から駆動力を伝達する。
なお、駆動軸27はトーチ駆動部ボディ3にベアリング26a,26fを介して回転自在に支持されている。
【0074】
また、図6に示すようにトーチ上下移動用モータ5の回転軸には止めネジ31d,31eでカプラ33bが接続しており、該カプラ33bにはトーチ上下移動用軸36を介してトーチ上下移動用軸36と一体のウオームギア35が接続している。ウオームギア35の上側と下側のトーチ上下移動用軸36とトーチ駆動部ボディ3との間にはそれぞれベアリング26t,26sが設けられている。またトーチ上下移動用軸36の下端にはトーチ上下移動用モータ5などの故障時にマニュアル操作でトーチ7を上下動させるためのハンドノブ37が設けられている。
【0075】
前記ウオームギア35はトーチ上下移動用伝達歯車(ウオームホイールギア)28に噛合してトーチ上下移動用モータ5の駆動力をトーチ上下移動用伝達歯車28に伝達する。トーチ上下移動用伝達歯車28はトーチ駆動部ボディ3に、その外周部がベアリング26d,26e(図1)を介して回転自在に支持されているので、駆動軸27が停止していても駆動軸27の回りを回転可能である。
【0076】
しかし、図6に示すように、トーチ上下移動用伝達歯車28はトーチ上下移動用モータ5が停止していると、該モータ5の回転軸と直結したウオームギア35と噛合しているため回転不能となり、駆動軸27の回転中はトーチ上下移動用伝達歯車28の内周側の歯車に噛合する遊星歯車24bが駆動軸27の回りを回転するだけである。このとき、上下移動用伝達用歯車28は反力を受けて回転しようとするが、ウォームギア35の抵抗が大きくて回転不能となる。
【0077】
また、トーチ上下移動用リング2の外周面とトーチ回転用リング1の外周面にはそれぞれ歯車が設けられている。前記リング1,2の外周面の歯車は図3と図4に示すようにそれぞれ複数の平歯車29a,29c,29d,29e,29fと複数の平歯車29b,29g,29h,29i,29jを順次経由してリング1,2に各モータ4,5からの駆動力が伝達される。
【0078】
すなわち、駆動軸27の太陽歯車27b,27cから遊星歯車24a,24bにリング1,2用のモータ4,5からの駆動力がそれぞれ伝達されと、該遊星歯車24a,24bが回転する。遊星歯車24a,24bの回転軸であるピン25a,25bは、それぞれ平歯車29a,29bの側面に差し込まれているので遊星歯車24a,24bが回転すると平歯車29a,29bはベアリング26b,26cを介して駆動軸27の回りをそれぞれ回転する。
【0079】
また、遊星歯車24a,24bの組、歯車29c,29d,歯車29g,29hの組、歯車29e,29f,歯車29i,29jの組の各組はそれぞれ互いに同一半径を有している。
【0080】
また平歯車29c,29eはそれぞれベアリング26g,26iを介してトーチ駆動部ボディ3に設けられたシャフト34a,34cに支持され、平歯車29d,29fはそれぞれベアリング26h,26jを介してトーチ駆動部ボディ3に設けられたシャフト34b,34dに支持されている。同様に平歯車29g,29iはそれぞれベアリング26k,26mを介してトーチ駆動部ボディ3に設けられたシャフト34a,34cに支持され、平歯車29h,29jはそれぞれベアリング26l,26nを介してトーチ駆動部ボディ3に設けられたシャフト34b,34dに支持されている。
【0081】
図7には平歯車29d,29f及び平歯車29h,29jの駆動機構を示しているが、トーチ駆動部ボディ3に設けられたシャフト34bに平歯車29d,29hがそれぞれベアリング26h,26jを介して回転自在に支持され、トーチ駆動部ボディ3に設けられたシャフト34dにそれぞれベアリング26i,26nを介して平歯車29fと29jが回転自在に支持されている。
【0082】
また、図3、図6、図8に示すように平歯車29eに噛合するエンコーダ軸32aはベアリング26o,26pを介してトーチ駆動部ボディ3に支持されている。またエンコーダ軸32aは、該エンコーダ軸32aに噛合するエンコーダ軸32bとエンコーダ軸32bを止めネジ31b,31cで固定しているカプラ33aを介してトーチ回転用エンコーダ6に接続しているので、平歯車29eの回転数、すなわちトーチ回転用リング1の回転数はエンコーダ6で制御でき、エンコーダ6による前記制御によりチューブ22の突き合わせ部の円周方向の溶接速度及び回転位置の制御が可能になる。
【0083】
なお、トーチ7の上下方向の上下限移動位置は、図6に示すようにトーチ上下用伝達歯車28の周辺部に設けた短径部を摺動するリミットスイッチ38の作動で上下動の限度を制限し、溶接電圧が一定値になるようにトーチ7を上下動させてアーク長を一定にする。本実施例ではトーチ上下用伝達歯車28はその外周の約1/3にしか歯車が形成されてなく、ウォーム歯車35により駆動させる範囲は限定されている。リミットスイッチ38の端子38aは図6に示すように歯車28の短径部の歯車のない外周側面に当接しているが、この状態では歯車28は回転できるが、溶接時に、例えば矢印B方向に歯車28か回転してその短径部の外周側面の端にくるとリミットスイッチ38が歯車28の長径部に当たると、トーチ7は作動下限位置であり、モータ5の作動を停止させる。また、例えば矢印A方向に歯車28か回転してその短径部の外周側面の端にくると、トーチ7は作動上限位置であり、リミットスイッチ38の端子38aが歯車28の長径部に当たり、モータ5の作動を停止させる。
【0084】
また、図2、図5に示すように4つの遊星歯車24aは内歯歯車23に噛合し、4つの遊星歯車24bはトーチ上下移動用伝達歯車28の内周歯車に噛合している。また、図2に示す内歯歯車23はトーチ駆動部ボディ3に、その外周部が固定されているので回転不能であるのに対して図1に示すトーチ上下移動用伝達歯車28はトーチ駆動部ボディ3に、その外周部がベアリング26d,26eを介して回転自在に支持され、トーチ駆動部ボディ3に固定されていないため駆動軸27が回転停止していても、トーチ上下移動用モータ5が駆動していると駆動軸27の回りを回転可能である。
【0085】
また、トーチ回転用モータ4が駆動していると、傘歯車30と噛合する傘歯車27aを一端部に設けた駆動軸27が回転し、駆動軸27の太陽歯車27b,27cが遊星歯車24aと遊星歯車24bとを駆動軸27の回りを共に公転させる。遊星歯車24aの公転により平歯車29aが駆動軸27を中心に回転し、平歯車29a→平歯車29c→平歯車29eと平歯車29a→平歯車29d→平歯車29fに伝達される駆動力がトーチ回転用リング1を回転させる。また遊星歯車24bの公転により平歯車29bが駆動軸27を中心に回転し、平歯車29b→平歯車29g→平歯車29iと平歯車29b→平歯車29h→平歯車29jにより順次伝達される駆動力がトーチ上下移動用リング2を回転させる。
【0086】
このとき、トーチ上下移動用モータ5が停止していると、トーチ上下移動用伝達歯車28が、ボディ3に固定された内歯歯車23と同様に回転不能となるため、トーチ上下移動用伝達歯車28の内周側の歯車に噛合する遊星歯車24bが太陽歯車27cを介して駆動軸27の回りを公転する速度は、遊星歯車24aが太陽歯車27bを介して駆動軸27の回りを公転する速度と等しくなる。
従って、トーチ回転用モータ4のみが駆動していると、トーチ回転用リング1の回転とトーチ上下移動用リング2が共に等速で、チューブ22の回りを回転する。
【0087】
また、トーチ上下移動用モータ5が駆動すると、その回転軸に設けられたウオームギア35と噛合するトーチ上下移動用伝達歯車28に前記モータ5の駆動力が伝達され、該歯車28が駆動軸27の回りを回転する。遊星歯車24bが回転停止した太陽歯車27cに噛合しながら駆動軸27を中心を公転することにより平歯車29b→平歯車29g→平歯車29iと平歯車29b→平歯車29h→平歯車29jにより順次駆動力が伝達され、トーチ上下移動用リング2が回転する。
【0088】
このとき、トーチ回転用モータ4も回転していると前述のように、トーチ回転用リング1も回転する。しかし、内歯歯車23は常に回転不能であるのに対して、トーチ上下移動用モータ5が駆動するとトーチ上下移動用伝達歯車28が駆動軸27の回りを自転可能であるため、遊星歯車24bが駆動軸27を中心に公転する速度が遊星歯車24aが駆動軸27を中心に公転する速度より高速又は低速で遊星歯車24aと同じ方向又は遊星歯車24aと反対方向に回転する。
【0089】
従って、平歯車29b→平歯車29g→平歯車29iと平歯車29b→平歯車29h→平歯車29jの駆動により回転させられるトーチ上下移動用リング2の回転速度が、平歯車29a→平歯車29c→平歯車29eと平歯車29a→平歯車29d→平歯車29fの駆動により回転させられるトーチ回転用リング1の回転速度より高速又は低速で回転し、両リング1,2は同じ方向又は反対方向に回転する。
【0090】
以上のように、トーチ上下移動用リング2の駆動はトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の駆動力の和で回転し、トーチ上下移動用リング2はトーチ回転用リング1より高速又は低速で、トーチ回転用リング1と同じ方向又は逆方向に回転する。その結果、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2との間に回転速度差が発生し、トーチ7が被溶接チューブ22に対して上下方向に移動する。
【0091】
図13には本実施例のトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の動力電源と駆動制御の設定条件などをリモコンボックス91から入力した情報に基づき制御装置100により溶接ヘッドAの動作の制御をする構成と溶接ヘッドAへ供給するシールドガス用のホース92及びトーチ7に冷却水を供給する冷却水ホース93、溶接ヘッドAへの電力へ溶接電源94からの電力供給ようのパワーケーブル95、リモコンボックス91と制御装置を接続する信号ケーブル96および溶接ヘッドAのモータ4,5およびエンコーダ6の制御用の制御ケーブル97などの構成図を示す。
【0092】
以上例示したようにトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2の(1)溶接前のトーチ位置合わせ等の機能動作と(2)溶接中のトーチの機能動作について、以下にまとめて記す。リング1,2の作動方向は図9に示された矢印A,Bの方向とする。
(1)溶接前のトーチ7の位置合わせ等の機能動作
(a)トーチ7を矢印A方向に回転(上下移動は停止)
トーチ回転用リング1 矢印A方向の回転
トーチ上下移動用リング2 矢印A方向の回転
リング1と2の回転速度は等速
トーチ回転用モータ4 駆動
トーチ上下移動用モータ5 停止
【0093】
(b)トーチ7を矢印B方向に回転(上下移動は停止)
トーチ回転用リング1 矢印B方向の回転
トーチ上下移動用リング2 矢印B方向の回転
リング1と2の回転速度は等速
トーチ回転用モータ4 駆動
トーチ上下移動用モータ5 停止
【0094】
(c)トーチ7を上方向に移動、回転は停止
トーチ回転用リング1 停止
トーチ上下移動用リング2 矢印A方向の回転
トーチ上下移動用リング2の回転速度が速い程、トーチ7の上移動速度が速くなる。
トーチ回転用モータ4 停止
トーチ上下移動用モータ5 駆動
【0095】
(d)トーチ7を下方向に移動、回転は停止
トーチ回転用リング1 停止
トーチ上下移動用リング2 矢印B方向の回転
トーチ上下移動用リング2の回転速度が速い程、トーチ7の下移動速度が速くなる。
トーチ回転用モータ4 停止
トーチ上下移動用モータ5 駆動
【0096】
(2)溶接中のトーチ7の機能動作
ワイヤの挿入方向が溶接進行方向になる。すなわち矢印B方向が溶接方向になる。
【0097】
トーチ回転用リング1の回転速度が溶接速度になり、リング1は一定速度で回転する。
【0098】
(a)トーチ7を上下移動停止
トーチ回転用リング1 矢印B方向の回転
トーチ上下移動用リング2 矢印B方向の回転
リング1と2の回転速度は等速
トーチ回転用モータ4 駆動
トーチ上下移動用モータ5 停止
【0099】
(b)トーチ7を上方向に移動
トーチ回転用リング1 矢印B方向の回転
トーチ上下移動用リング2 矢印B方向あるいはA方向の回転
リング2が矢印B方向に回転する場合には回転速度はリング2<リング1とする。なお、リング1と2の回転速度差が大きい程、トーチ7の上方向移動速度が速くなる。また、リング2が矢印A方向に回転する場合にはトーチ7の上方向移動速度がより速くなる。
トーチ回転用モータ4 駆動
トーチ上下移動用モータ5 駆動
【0100】
(c)トーチ7を下方向に移動
トーチ回転用リング1 矢印B方向の回転
トーチ上下移動用リング2 矢印B方向の回転
リング1とリング2の回転速度はリング1<リング2
リング1とリング2の回転速度差が大きい程、トーチ7の下方向移動速度が速くなる。
トーチ回転用モータ4 駆動
トーチ上下移動用モータ5 駆動
【0101】
本実施例によれば、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2の溶接前のトーチ位置合わせ及び溶接中のトーチの機能動作が可能であるので、被溶接チューブ22の回りをトーチ7は回転させながら、チューブ22とトーチ7間の上下方向移動の制御も容易に行うことができ、チューブ22の突き合わせ部の安定した高品質の溶接を能率的に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、ボイラの水壁管などの管の突き合わせ部の狭隘な間隙だけでなく、その他の狭隘な円筒管の溶接接続に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の実施例のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドを示す図10のA−A線断面図である。
【図2】図1のA−A線断面の一部矢視図である。
【図3】図1のB−B線断面矢視図である。
【図4】図1のC−C線断面矢視図である。
【図5】図1のD−D線断面矢視図である。
【図6】図1のE−E線断面矢視図である。
【図7】図4のF−F線断面矢視図である。
【図8】図6のG−G線断面矢視図である。
【図9】図9(a)は図11の一部拡大図であり、図9(b)の図9(a)の矢印S方向からの矢視図である。
【図10】本発明の実施例のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドの側面図である。
【図11】図10のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドの平面図である。
【図12】図10のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッドの背面図である。
【図13】本発明の実施例のトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の駆動制御機構図である。
【図14】全姿勢自動溶接ヘッドを用いる火炉壁の水壁管の多数のチューブの突き合わせ溶接の説明図である。
【図15】チューブの突き合わせ溶接時の溶接ヘッドの溶接動作の軌跡を表す図である。
【符号の説明】
【0104】
1 トーチ回転用リング 2 トーチ上下移動用リング
4 トーチ回転用モータ 5 トーチ上下移動用モータ
7 トーチ 11 トーチ支持ピン
17 クランプブロック 18 クランプ18
22 被溶接チューブ 24a,24b 遊星歯車
27 駆動軸 28 トーチ上下移動用伝達歯車
35 ウォームギア
30,27a,27b,24a,23,29a,29c,29e,29d,29f
第1の歯車群
27c,24b,29b,29g,29i,29h,29j 第2の歯車群
35,28 第3の歯車群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接用のトーチ7と、
該トーチ7を支持するトーチ台10と、
トーチ台10の一端部を先端部で支持し、かつ被溶接チューブ22の中心軸と一致させて該チューブ22の外周を回転する馬蹄形のトーチ回転用リング1と、
該トーチ回転用リング1の内側で、トーチ台10の他端部を先端部で支持し、かつトーチ回転用リング1と同心円上に配置された馬蹄形のトーチ上下移動用リング2と、
前記トーチ回転用リング1を被溶接チューブ22の回りに回転可能な第1の歯車群(30,27a,27b,24a,23,29a,29c,29e,29d,29f)及び該第1の歯車群と並列配置され、かつ前記トーチ上下移動用リング2を前記第1の歯車群の一部歯車(30,27a)と共に被溶接チューブ22の回りに回転可能な第2の歯車群(27c,24b,29b,29g,29i,29h,29j)及び前記第1の歯車群と第2の歯車群を共に駆動可能な駆動軸27と該駆動軸27を駆動させるトーチ回転用モータ4とを備えたトーチ回転用リング兼トーチ上下移動用リング駆動機構と、
トーチ上下移動用リング2を前記歯車27cを除く第2の歯車群と共に被溶接チューブ22の回りに回転駆動させ、かつ前記第1の歯車群が駆動中に第1の歯車群より高速又は低速で前記リング2を前記リング1の回転方向と同じ方向又は逆転方向に駆動可能な第3の歯車群(35,28)と該第3の歯車群を駆動させる駆動用のトーチ上下移動用モータ5とを備えたトーチ上下移動用リング駆動機構と、
前記トーチ回転用リング駆動機構とトーチ上下移動用リング駆動機構をそれぞれ駆動制御させる制御装置100と、
トーチ7の近傍へフィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給機構20と、
前記2つの馬蹄形リング1,2とは別の位置で被溶接チューブ22を把持するクランプ機構を備えたことを特徴とするチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項2】
前記トーチ回転用リング1を被溶接チューブ22の回りに回転可能な第1の歯車群は、トーチ回転用リング用モータ4の回転軸に直結した歯車30と、該歯車30に噛合する駆動軸27の端部に設けられた歯車27aと、該駆動軸27の軸上に設けられた太陽歯車27bと、該太陽歯車27bの回転駆動力により駆動される遊星歯車24aと、該遊星歯車24aに噛合する内周側の歯車を有し、回転不能の内歯歯車23と、前記該遊星歯車24aの回転軸25aを側面に遊嵌させ、駆動軸27の回りの遊星歯車24aの公転で回転する歯車29aと、該歯車29aからの駆動力を順次に伝達する1以上の歯車29c、29eの組と歯車29d、29fの組と、該歯車29e,29fに噛合する前記トーチ回転用リング1の外周に設けられた歯車とを備え、
前記トーチ上下移動用リング2を前記第1の歯車群の一部の歯車30,27aと共に被溶接チューブ22の回りに回転可能な第2の歯車群は、トーチ回転用リング用モータ4で駆動される駆動軸27に設けられた太陽歯車27cと、該太陽歯車27cの回転駆動力により駆動される遊星歯車24bと、該遊星歯車24bの回転軸25bを側面に遊嵌させ、駆動軸27の回りの遊星歯車24bの公転で回転する歯車29bと、該歯車29bからの駆動力を順次に伝達する1以上の歯車29g、29iの組と29h、29jの組と、該歯車29i,29jに噛合する前記トーチ上下移動用リング2の外周に設けられた歯車とを備え、
トーチ上下移動用リング2を前記太陽歯車27cを除く第2の歯車群と共に被溶接チューブ22の回りに回転駆動可能な第3の歯車群は、トーチ上下移動用モータ5の回転軸に直結した歯車35と、外周側の歯車で前記歯車35を噛合させ、また内周側の歯車で前記遊星歯車24bを噛合させる回転可能なトーチ上下移動用伝達歯車28とを備え、
駆動軸27で駆動される第1の歯車群の遊星歯車24aと第2の歯車群の遊星歯車24bの組と、第1の歯車群の歯車29aと第2の歯車群の歯車29bの組と、第1の歯車群の歯車29c,29d,第2の歯車群の歯車29g,29hの組と、第1の歯車群の歯車29e,29f,第2の歯車群の歯車29i,29jの組はそれぞれ同一半径を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項3】
トーチ回転用リング1はトーチ回転用モータ4で駆動され、トーチ上下移動用リング2はトーチ回転用モータ4及び/又はトーチ上下移動用モータ5で駆動される歯車機構を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項4】
トーチ上下移動用伝達歯車28は1回転以下の回転となるように、その回転範囲が制限された構成からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項5】
前記トーチ回転用モータ4の回転軸に直結した歯車30に噛合する駆動軸27の歯車27aは共に傘歯車であり、前記トーチ上下移動用モータ5の回転軸に直結した歯車35は円筒ウォームギアであり、該歯車35に噛合するトーチ上下移動用伝達歯車28はウォームホイールギアであり、前記2つのモータ4,5の回転軸が前記2つのリング1,2の中心軸に直交する方向に配置されることを特徴とする請求項1ないし4にいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項6】
前記トーチ回転用リング1の馬蹄形の一方の先端部にトーチ7を支持する円弧形状のトーチ台10の一端をトーチ支持ピン11で支持させ、トーチ台10の他端をトーチ上下移動用リング2の馬蹄形の一方の先端部にトーチ上下用ピン12で支持させ、前記トーチ支持ピン11又はトーチ上下用ピン12をトーチ台10の上下動の揺動軸とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項7】
クランプ機構は、トーチ回転用リング1と同一円心上に被溶接チューブ22の軸心が配置されるように被溶接チューブ22を把持する構成であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項8】
トーチ回転用リング1の基部側と前記トーチ上下移動用リング2の基部側を下方に開口した開口部の内部に収納し、かつ前記リング1,2の駆動用の前記第1〜第3の歯車群とモータ4,5を収納するトーチ駆動用ボディ3を設け、該ボディ3には、前記リング1,2の基部側に該リング1,2の中心軸に直交する方向に沿って設けた溝1a,2a内をそれぞれ摺動する突起部3a,3bを設けたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のチューブ突き合わせ溶接用全姿勢溶接ヘッド。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ回転用リング1をトーチ回転用モータ4で駆動させ、トーチ上下移動用リング2をトーチ回転用モータ4及び/又はトーチ上下移動用モータ5で駆動させることを特徴とする全姿勢溶接ヘッドの動作方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を、トーチ回転用モータ4だけの駆動で等速で回転させることを特徴とする全姿勢溶接ヘッドの動作方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ上下移動用リング2をトーチ回転用モータ4とトーチ上下移動用モータ5の駆動力の和になるような回転方向と回転速度で回転させることを特徴とする全姿勢溶接ヘッドの動作方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、トーチ上下移動用モータ5を停止させた状態でトーチ7を時計回り又は反時計回りに回転させるようにトーチ回転用モータ4を駆動させて、トーチ7の被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向又は近づく方向である下方向への移動が停止された状態でトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を等速回転させて所定位置にトーチ7を到達させ、その後、トーチ回転用モータ4を停止させた状態でトーチ上下移動用リング2を時計回り又は反時計回りに回転させるようにトーチ上下移動用モータ5を回転させて、トーチ7を前記上方向又は下方向へ移動させて溶接前のトーチ7の位置合わせを行うことを特徴とする全姿勢溶接ヘッドの動作方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法であって、溶接中には、フィラーワイヤの挿入方向に合致する方向にトーチ回転用リング1とトーチ上下移動用リング2を一定速度でトーチ回転用モータ4により回転させてトーチ7を被溶接チューブ22の回りを回転させながら、
(a)アーク長が適切である場合には、トーチ上下移動用モータ5を停止させて前記両リング1、2を等速で前記方向に回転させ、被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向又は近づく方向である下方向へのトーチ7の移動を停止させた状態で溶接し、
(b)アーク長が短い場合には、トーチ上下移動用リング2がフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に又はその反対の方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させ、被溶接チューブ22に対して離れる方向である上方向にトーチ7を移動させながら溶接し、
(c)アーク長が長い場合には、トーチ上下移動用リング2がフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に回転するようにトーチ上下移動用モータ5を駆動させ、被溶接チューブ22に対して近づく方向である下方向にトーチ7を移動させながら溶接する
ことを特徴とする全姿勢溶接ヘッドの動作方法。
【請求項14】
トーチ回転用リング1を一定速度で回転させ、それに対してトーチ上下移動用リング2の回転速度を変更する場合であって、
(a)トーチ上下移動用リング2をフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に回転させ、トーチ7を前記上方向に移動させる場合には、トーチ上下移動用リング2の回転速度をトーチ回転用リング1の回転速度より遅くし、
(b)トーチ上下移動用リング2をフィラーワイヤの挿入方向に合致する方向に回転させ、トーチ7を前記下方向に移動させる場合には、トーチ上下移動用リング2の回転速度をトーチ回転用リング1の回転速度より速くする
ことを特徴とする請求項13記載の全姿勢溶接ヘッドの動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−110571(P2006−110571A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298353(P2004−298353)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】