全熱交換器用シート
【課題】全熱交換器に用いるシートとして、従来の透湿膜による全熱交換器用シートよりも、顕熱及び潜熱の伝導率が高いシートを提供する。
【解決手段】 親水性繊維を30重量%以上100重量%以下含有する、紙又は不織布からなる多孔質シートに、親水性高分子を含有する液を、塗布又は含浸により塗工して、前記多孔質シートの表面、内部、又はその両方に、前記親水性高分子を水不溶化させた親水性高分子加工シートを全熱交換器用シートとして用いる。
【解決手段】 親水性繊維を30重量%以上100重量%以下含有する、紙又は不織布からなる多孔質シートに、親水性高分子を含有する液を、塗布又は含浸により塗工して、前記多孔質シートの表面、内部、又はその両方に、前記親水性高分子を水不溶化させた親水性高分子加工シートを全熱交換器用シートとして用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、全熱交換器に用いるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、室内で目や喉に痛みを生じたり、めまいや吐き気を覚えたりするシックハウス症候群が問題となりつつある。これは、建材や家具、日用品等から発散する揮発性の有機化合物による可能性が指摘されている。このような問題が生じる原因の一つとして、建築物の気密性が高くなり、また、冷暖房が普及してライフスタイルが変化したことで換気がされにくくなり、揮散した有機化合物が屋内にとどまりやすくなったことが挙げられる。この状況に対応するため、近年改正された建築基準法によって、建築物に換気設備を設置することが義務づけられるようになった。また、家庭用エアコンにも換気機能を付加したりして、建築物の換気が促進されている。
【0003】
ただ、建築物の換気を促進しようとすると、冷暖房を行っても熱が維持しにくくなり、エネルギーの消費が大きくなりすぎてしまう。そのため、換気を行いつつも、熱又は冷熱は外部に放出しにくくしてエネルギー消費を抑える全熱交換器が注目されている。
【0004】
この全熱交換器としては、吸湿性のあるローターの回転によって排気から吸気に熱回収する回転型全熱交換器や、図3のような静止型全熱交換器がある。この静止型全熱交換器は、波板状に配されたガスバリア性のある全熱交換器用素子3が、換気により交換される外部の新鮮な供給空気1と室内の汚濁した排出空気2とを分けながら、顕熱を移動させると同時に、湿気を透過させることによって水が有する潜熱を排出空気2から供給空気1へ透過することで、外部への熱又は冷熱の放出を抑えるものである。
【0005】
静止型全熱交換器の全熱交換器用素子3に用いる全熱交換器用シートは、顕熱を移動可能であるとともに、湿気を透過させることで潜熱も移動可能であると、熱交換効率が高くなる。このようなシートとしては、例えば和紙やパルプ製難燃紙、ガラス繊維混抄紙、無機粉末含有混抄紙などを用いた全熱交換器用シートが挙げられる。しかし、通常の紙であると空気も透過してしまうので、例えば特許文献1の実施例に記載の、ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレンなどを素材とする多孔質シートの片面に水蒸気を透過させ得る非水溶性の親水性高分子薄膜を形成した複合透湿膜などのように、透湿膜を有するシートとして用いることが行われている。
【0006】
【特許文献1】特許第2639303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のようにポリエチレンなどからなるシート上に透湿膜を形成させるコーティングを行うと、その膜自体が有する熱伝導抵抗により、顕熱の熱伝導率が低下するとともに、透湿膜であっても透湿性はそれほど高くないために、湿気の透過は十分ではなく、潜熱の熱伝導率の向上も不十分なものとなっていた。また、特許文献1の[0008]段落に記載のように、不織布等に直に非水溶性親水性高分子を塗布すると膜厚が厚くなり、一方で薄くするとピンホールが出来やすくなると考えられていた。
【0008】
そこでこの発明は、全熱交換器に用いるシートとして、従来の透湿膜による全熱交換器用シートよりも、顕熱及び潜熱の伝導率が高いシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、親水性繊維を30重量%以上100重量%以下含有する、紙、不織布又は織布からなる多孔質シートに、親水性高分子を含有する水溶液を、塗布又は含浸により塗工して、前記多孔質シートの表面、内部、又はその両方に、前記親水性高分子を水不溶化させた親水性高分子加工シートを全熱交換器用シートとして用いることで、上記の課題を解決したのである。
【0010】
すなわち、親水性繊維を30重量%以上含む多孔質シートは、親水性高分子との親和性が高いため、塗工した親水性高分子を水不溶化させることで基材表面に薄い膜を作ってもピンホールが生じにくく、あるいは、親水性高分子水溶液に多孔質シートを浸漬した後にシート内部で親水性高分子を凝固させることで、膜を生じさせることなく基材内部の孔を埋めたりすることができる。このように、親水性繊維と親水性高分子とを組み合わせることにより、厚い膜を形成させなくても、多孔質シートの孔を塞ぐことができる。この薄い親水性高分子の隔壁を湿気が通ることで、潜熱の透過を十分に確保するとともに、その隔壁が薄いものであるため、顕熱による熱の直接移動も妨げられにくく、全熱交換器用シートとして用いるのに優れた熱交換能力を持つシートが得られる。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、繊維と高分子とがともに親水性であり、内部に入り込んでいるので、接着剤などを用いなくても層間剥離を起こしにくく、全熱交換効率が剥離により損なわれる可能性は少なくて済む。また、多孔質シートの孔を塞ぐ親水性高分子量が少なくて済み、基本的な物性は多孔質シートの物性に準じるために、耐水性や機械的強度などの物性を、使用する元の多孔質シートの選択によって自由に調整することができる。さらに、このシートを全熱交換器用シートとして用いることで、高い熱伝導率を確保でき、全熱交換器の熱利用効率を向上させることが出来る。特に、親水性高分子としてビスコースから再生したセルロースを用いると、得られた親水性高分子加工シートは極めて高い透湿性を示すことから、このシートを全熱交換器用シートとして用いることで、極めて高い湿度交換効率及び全熱交換効率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、多孔質シートに親水性高分子水溶液を塗布又は含浸により塗工した親水性高分子加工シートからなる全熱交換器用シートである。この全熱交換器用シートとは、全熱交換器で、熱交換に使用されるシートをいう。
【0013】
上記多孔質シートとは、パルプや合成繊維からなる、紙や不織布、織布などの、細かい孔を有するシートをいう。これらの中でも、紙や不織布を用いると加工が容易で、コスト的にも有利であるのでより好ましい。
【0014】
また、この多孔質シートは、セルロースからなる木材パルプ、レーヨン、綿、麻等や羊毛等、セルロース誘導体であるセルロースアセテート等、またはポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記する。)からなるビニロンやポリビニルアルコール系繊維、無機材料からなるガラス繊維などの親水性繊維を、30重量%以上有していることが必要であり、50重量%以上有しているとより好ましい。30重量%未満であると、上記親水性高分子との親和性が不十分で、塗工した親水性高分子が剥離してしまったり、親水性高分子を含有する水溶液が一様に広がらず、親水性高分子が塊としてシート上に分布してしまったりするおそれがある。なお、濡れ性の点からは、親水性繊維は多いほど好ましく、100重量%であると最も好ましい。親水性繊維以外の成分としては、例えば、外観や質感を変更したり、強度を向上させたりするために、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維などの繊維を含んだものでもよい。ただし、多孔質シートの孔を塞ぐ樹脂などを含浸したものでないことが必要である。
【0015】
さらには、紙や湿式不織布の場合には、繊維を水に分散した層を形成し、その二層以上を湿潤時に一体化させるという抄き合わせを行うことができ、強度向上など目的に応じて各層の組成を変化させてもよい。ただし、上記親水性高分子水溶液を塗工する面の表層は親水性繊維を30重量%以上有している必要がある。例えば、親水性繊維と非親水性繊維を混合した二層の抄き合わせ紙を多孔質シートとして用いたとき、各層の親水性繊維の含有量を変えて親水性繊維が多い層に上記親水性高分子を塗工すると、親水性高分子が親水性繊維の多い層に多く分布し、少量の塗工量で多孔質シートの孔を塞ぐことができる場合があり好ましい。
【0016】
このような多孔質シートの具体例としては、例えば、ポリエチレン繊維とレーヨン繊維との混抄不織布、木材パルプ繊維とマニラ麻との混抄紙、クラフト紙などが挙げられる。ここで、上記親水性繊維はそれぞれ、レーヨン繊維、木材パルプ繊維及びマニラ麻、木材パルプ繊維である。これらのうち、例えば片艶クラフト紙のような、片面をカレンダー処理した多孔質シートを用いると、少量の親水性高分子で多孔質シートの孔を塞ぐことができるのでより好ましい。また、木材パルプとマニラ麻との混抄紙のように、上記親水性繊維が複数種の繊維からなるものでもよいし、上記親水性繊維でない繊維が複数種の繊維からなるものでもよい。
【0017】
この多孔質シートに、上記親水性高分子を含有する水溶液を塗工する。この親水性高分子を含有する水溶液としては、ビスコース、セルロース銅アンモニア溶液などのセルロース水溶液の他、上記親水性高分子としてポリビニルアルコールや、キトサンを酢酸水溶液に溶解させた液などが挙げられる。
【0018】
ここで用いる水溶液の好ましい濃度としては、1.0重量%以上であると好ましく、2.0重量%以上であるとより好ましい。1.0重量%未満であると、塗工される量が少ないために、上記多孔質シートの孔を塞ぎきれないおそれがある。一方で30重量%以下であると好ましく、10重量%以下であるとより好ましい。30重量%を超えると、水溶液の粘度が高くなって取り扱いが難しくなるだけでなく、必要以上に上記親水性高分子が付着して、場合によっては層となって剥離しやすくなるおそれがあるためである。
【0019】
上記水溶液を上記多孔質シートに塗工する方法としては、塗布又は含浸が挙げられ、具体的には、上記水溶液中に上記多孔質シートを浸漬させる方法や、上記水溶液で濡れたローラに上記多孔質シートを接触させたり、さらに接触させた後に両面からローラで圧力をかけて絞ることで上記多孔質シート全体を水溶液に濡らしたりする方法などが挙げられる。このとき、上記多孔質シートの大部分が親水性繊維であるので、上記水溶液ははじかれたりすることなく、均一に表面を濡らして覆うことができる。
【0020】
このように塗工された上記親水性高分子の、シート上における塗工量は、0.5g/m2以上であると好ましく、1.0g/m2以上であるとより好ましい。0.5g/m2未満であると、上記親水性高分子が足りないために、上記多孔質シートの孔を塞ぎきることができず、孔が残ってしまうおそれがある。一方で、30g/m2以下であると好ましく、10g/m2以下であるとより好ましい。30g/m2を超えると塗工量が多すぎて表面の膜厚が厚くなりすぎてしまい、潜熱の移動を妨げてしまうことがあり、熱交換効率が低下してしまうおそれがあるためである。ここで塗工量とは、上記親水性高分子水溶液を多孔質シートに塗工した後に、水不溶化されてシート状に付着した上記親水性高分子の単位面積当たりの量をいう。
【0021】
このように塗工した上記水溶液から、ビスコースならば酸等で反応させてセルロースを再生させたり、PVAならば架橋剤を添加して加熱して反応させたりすることによって、上記親水性高分子を水不溶化させて、上記多孔質シートの塗工した表面を全体的に覆う膜を生じさせたりすることで、上記多孔質シートの孔を塞いだ親水性高分子加工シートが得られる。また別の方法としては、上記のビスコースやPVAを上記多孔質シートの内部の孔に染みこませて、上記多孔質シートの表面や内部でそれらの親水性高分子を水不溶化させて、上記多孔質シートの孔を塞いだ親水性高分子加工シートを得る方法もある。なお、上記塗工が塗布のみである場合には塗布された表面を膜が覆いやすく、上記塗工が浸漬である場合には、孔の内部で上記親水性高分子が固まって孔を閉塞しやすい。ここで膜を生じさせる場合、親水性高分子であるので、親水性繊維が30重量%以上である多孔質シートとの間で親和性が高く、剥離する可能性を低く抑えることができ、特に接着剤などを必要とせずに膜で覆うことができる。
【0022】
なお、上記親水性高分子としてビスコースを用いる場合は、ビスコースを塗工した上記多孔質シートをさらに硫酸水溶液で処理し、ビスコースからセルロースを再生させることで、上記多孔質シートの孔を再生セルロースにより閉塞させた親水性高分子加工シートを得ることができる。この処理する方法としては、例えば、ビスコースを含浸させた親水性高分子加工シートを、連続的に硫酸水溶液中に浸漬させる方法が挙げられる。このとき、セルロース再生後に反応副生物を除去するため、硫化ナトリウム水溶液による脱硫処理や次亜塩素酸ナトリウム水溶液による漂白処理を行っても良い。
【0023】
また、上記親水性高分子としてPVAを用いる場合は、反応性の高いカルボニル基等の官能基を有するPVAと架橋剤とを混合した水溶液を上記多孔質シートに塗工し、それを加熱して乾燥させることで、PVAと架橋剤とを反応させて水不溶化することにより、多孔質シートの孔を閉塞させた親水性高分子加工シートを得ることができる。
【0024】
このようにして得られた親水性高分子加工シートは、元の多孔質シートが有していた孔が膜や孔閉塞により塞がる。これにより、気体の流通を遮ることができ、全熱交換器で温度の異なる気体が混合しないように仕切りとして用いることができる。また、その孔を塞いでいるのは、浸透した上記親水性高分子の薄い膜や閉塞物であるので、それを顕熱が伝達することは容易に可能であり、また、上記親水性高分子は親水性であるために湿気を通しやすいため、湿気により運ばれる潜熱も容易に透過させることができる。
【0025】
すなわち、潜熱と顕熱を十分に効率良く伝達することができるとともに、空気の混合を防ぐことができるので、この親水性高分子加工シートは、全熱交換器用シートとして好適に用いることができる。
【0026】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、難燃処理を施したものであると好ましい。特に、この発明にかかる全熱交換器用シートを建築物に備える全熱交換器に用いる場合には、JIS A 1322の「建築用薄物材料の難燃性試験方法」において防炎3級に合格する難燃性を有すると好ましい。なお、防炎2級や防炎1級に合格する難燃性を有するとより好ましい。
【0027】
この難燃処理とは、例えば、上記親水性高分子加工シートに難燃剤を塗工する方法が挙げられ、具体的には、上記の親水性高分子を塗工した上記親水性高分子加工シートの表面に難燃剤を塗布又は噴霧する方法や、難燃剤の溶液に上記親水性高分子加工シートを浸漬する方法や、予め難燃剤を混合した親水性高分子液を用いてシートを加工する方法が挙げられる。また、上記親水性高分子としてビスコースを用いた場合は、硫酸水溶液で処理した後に、例えば乾燥前の工程で難燃処理することも可能である。
【0028】
この発明に用いることのできる難燃剤としては、無機系難燃剤、無機リン系化合物、含窒素化合物、塩素系化合物、臭素系化合物などがあり、例えば、ホウ砂とホウ酸の混合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸アミド、塩素化ポリオレフィン、臭化アンモニウム、非エーテル型ポリブロモ環状化合物等の水溶液若しくは水に分散可能である難燃剤が挙げられ、水不溶化した上記親水性高分子の透湿性を阻害しないよう難燃剤の種類や付着量を選んで用いられる。
【0029】
上記難燃剤の含有量としては、全熱交換器用シートの2重量%以上であると好ましく、5重量%以上であるとより好ましい。2重量%未満だと難燃性が不十分となるおそれがあるためである。一方で、70重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であるとより好ましい。難燃剤が70重量%よりも多すぎると、上記親水性高分子加工シートの透湿性に影響を及ぼすおそれがある。また、親水性高分子を含有する水溶液を塗工する前の多孔質シートとして、製造時に水酸化アルミニウムを多量に配合するなどして、予め難燃性を付与したものを使用しても良い。
【0030】
また、この発明にかかる全熱交換器用シートは、耐水処理したものであることが好ましい。この耐水処理の手段としては、親水性高分子を含有する水溶液を塗工する前の多孔質シートの製造時にサイズ剤や湿潤紙力増強剤を添加したり、後加工で耐水処理を行ったりしても良いが、親水性高分子を含有する水溶液を塗工する関係上、親水性高分子加工シートに耐水処理剤を塗布又は含浸するのが好ましい。この耐水処理は、例えば、フッ素系高分子化合物、ワックスエマルジョン、脂肪酸樹脂系、あるいはそれらの混合物等の耐水処理剤を上記親水性高分子加工シートに塗布又は含浸させることで行う。なお、この耐水処理は、原紙製造段階で行ってもよく、また上記難燃処理の前または後に連続して、又は同時に行っても良い。
【0031】
さらに、この発明にかかる全熱交換器用シートは、全熱交換性能を高めるため、吸湿処理したものであることが好ましい。この吸湿処理の手段としては、吸湿剤溶液を上記親水性高分子加工シートに塗工または噴霧する方法や、吸湿剤溶液に上記加工シートを浸漬する方法や、予め吸湿剤を混合した親水性高分子液を用いてシートを加工する方法が挙げられる。吸湿剤を含浸させることにより、得られる全熱交換器用シートの透湿度が向上し、潜熱の移動が容易になり、熱交換性能を向上させることが出来る。
【0032】
上記吸湿処理に用いることのできる吸湿剤としては、無機酸塩、有機酸塩、無機質填量、多価アルコール、尿素類、吸湿(吸水)性高分子などがあり、例えば、無機酸塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、有機酸塩としては、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、無機質填量としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪藻土、セピオライト、シリカゲル、活性炭、多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリグリセリン、尿素類としては尿素、ヒドロキシエチル尿素、高分子として、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びそれらの塩または架橋物、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、寒天、キサンタンガム、ヒアルロン酸、グアーガム、アラビアゴム、澱粉およびそれらの架橋物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、コラーゲン、アクリルニトリル系重合体ケン化物、デンプン/アクリル酸塩グラフト共重合体、酢酸ビニル/アクリル酸塩共重合体ケン化物、澱粉/アクリルニトリルグラフト共重合体、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール/無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド系、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、多糖類/アクリル酸塩グラフト自己架橋体等の吸湿剤が挙げられ、目的とする透湿度に応じて種類や付着量を選んで用いられる。なお、前記無機質填量とは、無機鉱物や無機塩などであって、増量剤、嵩高剤などの目的で使用するものをいう。
【0033】
さらに、この発明にかかる全熱交換器用シートは、上記難燃剤や耐水処理剤以外にも、この発明にかかる全熱交換器用シートに必要となる透湿性やガスバリア性を妨げない範囲で、任意の添加剤を含んでいても良い。この添加剤としては、全熱交換器用シートに柔軟性を付与して加工適性を向上させるために、柔軟剤としてのトリエチレングリコールやグリセリンなどが挙げられる。
【0034】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、厚さが100μm以下であることが好ましく、80μm以下であるとより好ましい。100μmを超えると、厚くなりすぎて透湿性が十分でなくなるおそれがある。一方で、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であるとより好ましい。15μm未満であると、強度が十分ではなく、加工中や使用中に破れるおそれが高まるためである。
【0035】
具体的には、この発明にかかる全熱交換器用シートのガスバリア性は、透気度が紙パルプ技術協会規格JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法による測定で、透湿度等の全熱交換器用シートに求められる物性を妨げない限り、高ければ高いほど好ましい。現実的には3000秒以上であると好ましく、10000秒以上であるとより好ましい。3000秒未満となるほど透気度が低いと、全熱交換器に用いた際に、仕切るべき供給気体と排出気体とが混合されてしまうおそれが高くなる。
【0036】
また、この発明にかかる全熱交換器用シートの透湿性は、JIS L 1099の「繊維製品の透湿度試験方法」のB−2法により、30℃の空気を循環させた環境で、水温約23℃に設定して測定した、24時間あたりの湿度透過量が5000g/m2以上であると好ましく、10000g/m2以上であるとより好ましい。透湿性が5000g/m2未満であると、湿気の移動が十分ではないため、水蒸気の潜熱による熱交換が不十分となるおそれがある。一方、透湿性は高いほど好ましいが、200000g/m2を超えることは現実的でない。
【0037】
さらに、この発明にかかる全熱交換器用シートの熱伝導率は、0.005W/(m・K)以上であると好ましく、0.01W/(m・K)以上であるとより好ましい。0.005W/(m・K)未満であると、全熱交換器に用いるには熱交換性能が不十分となるためである。なお、熱伝導性は高いほど好ましいが、0.1W/(m・K)を超えることは構造や材質上困難である。なお、この熱伝導率(K)の値は、下記の式(1)のように、熱流の測定値(W)、サンプルの厚み(D)、伝熱面積(A)、温度差(ΔT)より計算して得られる。
【0038】
K=W×D/(A×ΔT) (1)
【0039】
また、この発明にかかる全熱交換器用シートの引張強度は、0.3kN/m以上であると好ましく、0.5kN/m以上であるとより好ましい。0.3kN/m未満であると、強度が不十分で、破れるおそれがあるためである。一方で、5.0kN/mを超えることは、加工適性などの全熱交換器用シートとしての他の物性を損なうおそれがあり現実的ではない。
【0040】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、その他の板紙やシートなどに積層することなく、また、接着剤等を用いて貼り合わせることなく、このシートのみで、全熱交換器を通過する二種類の気流を仕切り、かつ熱交換を行う仕切り材として用いる全熱交換器用シートとして作用することができる。なお、前記の二種類の気体とは温度、湿度、又はそれらの両方が異なる二種類の気体をいう。この二種類の気体の間では、高温である気体から低温である気体へ、上記全熱交換器用シートを伝導して顕熱が移動し、また、高湿である気体から低湿である気体へ、上記全熱交換器用シートを湿気が透過することで潜熱が移動する。
【0041】
このような二種類の気体としては、例えば、建築物の外部へ排出する排出気体と、建築物の内部に供給する供給気体が挙げられる。この発明にかかる全熱交換器用素子は、例えば、図1(a)乃至(c)に記載のような全熱交換器用素子14を用いることができる。これらは、この発明にかかる全熱交換器用シート11を通して、供給気体12と排出気体13との間で湿気16による潜熱と顕熱15とを移行させて、建築物内の熱又は冷熱を保持しつつ換気を行うものである。
【0042】
この発明にかかる全熱交換器用シート11を、温度、湿度、又はそれらの両方が異なる二種類の空気を仕切る仕切り板として使用した全熱交換器用素子14を用いた全熱交換器は、この発明にかかる全熱交換器用シート11の透湿度が高く、また、厚い膜に覆われておらず、薄い膜を有するか、または孔が埋まっているだけの多孔質シートだけで空気を仕切るために顕熱の伝導もしやすいので、優秀な熱交換能を示す。さらに、空気を仕切っている閉塞部分が薄いために、従来の全熱交換器用シートよりも湿気を透過しやすいので、湿度を保持する効果も高くなる。
【0043】
図1に記載のような全熱交換器用素子14の具体的な利用方法としては、例えば、図2のように、全熱交換器用素子14を、供給ファン21及び排出ファン22と組み合わせた全熱交換器が挙げられる。供給ファン21によって、外気などである供給気体12が全熱交換器用素子14に吸い込まれて、全熱交換器用素子14内に組みこまれた全熱交換器用シート11に接触する。一方で、排出ファン22によって、室内空気などの排出気体13が全熱交換器用素子14に吸い込まれて、同様に、全熱交換器用シート11に接触する。全熱交換器用シート11越しに接触した供給気体12と排出気体13とは、温度及び湿度に応じて、図1(a)乃至(c)のいずれかの挙動を示して熱交換を行う。熱交換された供給気体12は供給ファン21に吹き込んで、例えば室内に取り込まれたりする。一方で、熱交換された排出気体13は排出ファン22に吹き込んで、例えば、屋外に排出されたりする。なお、図1及び図2において、「in」及び「out」とは、新鮮な気体を取り入れる方向を「in」とし、汚濁した気体を排出する方向を「out」と表記したものである。
【0044】
なお、上記二種類の気流のうち、取り込んで熱又は冷熱を与える新鮮な気体である供給気体12は、必ずしも建築物外から取り込む空気に限るものではない。例えば、恒温かつ気体の混合比の状態を維持すべき研究施設において、窒素及び酸素、アルゴン、二酸化炭素などを供給用ボンベから供給して混合した混合気体に対して、この発明を用いることもできる。また、屋内にさらに気体環境を分けた部屋を設けた場合には、部屋外である屋内から空気を取り込むこともありうる。
【0045】
この発明にかかる全熱交換器用素子14を外気と建築物との間に設置した場合における熱交換作用について具体的に説明する。まず、図1(a)の状況について説明する。これは例えば、温暖湿潤気候の夏場のような高温多湿の外気を供給気体12として建築物内に取り込み、一方で、冷房で冷却されるとともに揮散性有機化合物や二酸化炭素が増加した室内の低温である空気を排出気体13として排出する際に、全熱交換器用素子14を用いた場合である。このとき、供給気体12から排出気体13へ、全熱交換器用シート11を伝導して顕熱15が移動するとともに、暖かい湿気16も移動することで潜熱も移動する。これにより、供給気体12から熱が奪われ、冷房により得られた冷熱の放出を抑えることができる。
【0046】
次に、図1(b)の状況について説明する。これは例えば、冬季の低温で含水蒸気量の少ない外気を供給気体12として建築物内に取り込み、一方で、暖房で暖められるとともに揮散性有機化合物や二酸化炭素が増加した室内の高温である空気を排出気体13として排出する際に、全熱交換器用素子14を用いた場合である。このとき、排出気体13から供給気体12へ、全熱交換器用シート11を伝導して顕熱が移動する。また、暖房とともに加湿器などを併用したり、暖房として石油ストーブなどを使用したりすることで、室内の暖かい空気が湿気を多く含むようになっていると、湿気16も全熱交換器用シート11を透過して排出気体13から供給気体12へ移動することで潜熱も移動する。これにより、供給気体12が暖められるとともに、含水蒸気量が増加し、暖房による熱が逃げるのを抑えるとともに、湿気の放出も抑えることができる。
【0047】
さらに、図1(c)の状況について説明する。これは例えば、砂漠気候や、地中海性気候の夏場のような、高温乾燥の外気を供給気体12として建築物内に取り込み、冷房による冷却と加湿とを行った屋内の空気を排出気体13として排出する際に、全熱交換器用素子14を用いた場合である。このとき、供給気体12から排出気体13へ、全熱交換器用シート11を伝導して顕熱が移動する。また、湿気のある排出気体13から全熱交換器用シート11を透過して、乾いた供給気体12へ湿気16が移動するが、このとき、通る湿気16は低温であるために、排出気体13から供給気体12へ冷熱が移動することとなり、供給気体12が冷やされることとなる。また、湿気16が大量である場合、全熱交換器用シート11の供給気体12側表面で水が蒸発することによる気化熱によっても供給気体12が冷やされる。
【0048】
この発明にかかる全熱交換器用シート11を使用した全熱交換素子である全熱交換器用素子14を、単数又は複数備えた全熱交換器を用いて全熱交換を行うと、効率的な熱交換が行え、建築物内の熱又は冷熱の放出を抑制しつつ、揮散性の有機化合物を含み二酸化炭素が増加した内部の空気を排出する換気を行いつつ冷暖房による熱効果を維持する全熱交換器の効率をより高めることができる。
【0049】
また、全熱交換器用シート11が薄いために、全熱交換器用素子14を従来よりも薄くできるため、従来の全熱交換器よりもコンパクトな全熱交換器を製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げてこの発明をより具体的に示す。まず、全熱交換器用シートとして必要な特性の試験方法について説明する。
【0051】
[透湿度試験方法]
それぞれのシートについて、JIS L 1099に記載のB−2法により、30℃の空気を循環させた環境で、水温23℃に設定して測定した24時間あたりの透湿度(g/m2・24h)の結果を表1に示す。
【0052】
[透気度試験方法]
紙パルプ技術協会規格JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法「紙及び板紙−平滑度及び透気度試験方法−第2部:王研法」に従い、それぞれのシートの透気度を、旭精工(株)製:王研式透気度試験機KG1−55を用いて測定した。
【0053】
[熱伝導率試験方法]
室温20℃、湿度65%RHの雰囲気下で、100mm×100mmの大きさに切り出したそれぞれのシートを上部29.9℃、下部22.3℃の試験板(50mm×50mm)に挟み、60秒間の熱流をカトーテック(株)製:精密迅速熱物性測定装置:KES−F7 THERMO LABOIIを用いて測定した。その値から熱伝導率を計算した。
【0054】
[引張強度試験方法]
室温20度、湿度65%RHの雰囲気下で、一晩放置して調湿したシートを、15mm幅の短冊状に裁断し、それぞれのシートの縦方向(MD)と横方向(TD)の引張強度を(株)東洋ボールドウィン製、万能試験機:UTM−IIIを用いて測定した。
【0055】
[厚さ測定方法]
上記と同様に調湿したシートを、オートマティクマイクロメーター(ハイブリッジ製作所(株)製)にて、それぞれのシートについて幅方向10点で厚みを測定し平均値を算出した。
【0056】
<全熱交換器用シートの作製>
次に、それぞれの全熱交換器用シートの作成方法について説明する。
(実施例1)
親水性繊維としてレーヨンパルプが100重量%の層と、レーヨンパルプ50重量%と非親水性繊維であるポリエチレン繊維を50重量%含む層を、等量で二層抄き合わせた混抄不織布(親水性繊維:非親水性繊維=75重量%:25重量%;中尾製紙(株)製:MPE−5−35、坪量35g/m2、厚さ71.0μm)に、セルロース濃度が4.8重量%のビスコースをロールコーターにより塗布し、濃度11%の硫酸水溶液浴に連続的に浸漬させてセルロースを再生させ、その後、水洗工程を経て、各々0.6重量%の水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合水溶液浴により脱硫処理を行い、0.6重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液浴により漂白処理を行って、十分水洗後乾燥させて親水性高分子加工シートを得た。このシートのセルロース塗工量を、使用した原紙との重量比較により求めたところ、6.3g/m2で、厚さは75.0μmであった。このシートを、全熱交換器用シートとして用いて、上記の試験を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】
【表2】
【0058】
この親水性高分子加工シートについて、まず、ビスコースを塗布する前の表面の拡大写真を図4に、ビスコースを用いて加工した親水性高分子加工シート表面の拡大写真を図5に示す。ビスコースから再生されたセルロースが、シート全体に均一に分布していることが示されている。
【0059】
この高分子加工シートのビスコースを塗布する前の原紙の断面を写したスコープによる1500倍の拡大写真を図6に示す。また、ビスコースを用いて加工した親水性高分子加工シートの断面を写したスコープによる1500倍の拡大写真を図7に示す。なおここでは、親水性高分子の分布状況を分かり易くするため、ビスコースに青色顔料(大日精化工業(株)製:TL−500BLUE−R)を混合して得た親水性高分子加工シートをサンプルとして観察しており、元の原紙に存在していた繊維と繊維の隙間が、セルロースによって埋まって、孔が塞がっていることがわかる。
【0060】
さらに、この高分子加工シートの断面を、電子走査顕微鏡で撮影した写真を図8に示す。ここで、図中真ん中で左右に伸びるのが親水性高分子加工シートであり、セルロースが繊維と一体化して区別がつけられないことがわかる。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、セルロース濃度2.9重量%のビスコースを同様に塗布し、同様の手順によりセルロース塗工量3.0g/m2の親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1及び表2に示す。
【0062】
(実施例3)
親水性繊維100%で、木材パルプとマニラ麻とからなる混抄紙(日本大昭和板紙(株)製:ケーク原紙A、坪量20g/m2、厚さ41.2μm)に、セルロース濃度7.5重量%のビスコースを実施例1と同様に塗布して、同様の処理を行い、セルロース塗工量11.2g/m2、厚さ50.9μmの親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
親水性繊維として木材パルプを100%含有する、片面をカレンダー処理された片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量65g/m2、厚さ91.3μm)に、セルロース濃度が4.8重量%のビスコースを実施例1と同様に塗布して、同様の処理を行い、セルロース塗工量2.2g/m2、厚さ94.0μmの親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
疎水性繊維として、ポリエチレンテレフタレートを芯とし、ポリエチレンで芯の周囲を覆った複合繊維からなる不織布(ユニチカ(株)製:エルベス、厚さ104.5μm)に、実施例1と同様の手順により、セルロース濃度4.8重量%のビスコースを塗布して、同様の硫酸酸性浴にてセルロースを凝固再生させ、脱硫処理と漂白処理を行ってセルロース皮膜が剥離したシートを得た。
【0065】
この比較例1のシートについて、ビスコースを塗布する前の多孔質シートの表面写真を図9に、ビスコースを用いて加工した親水性高分子加工シートの表面写真を図10に示す。ビスコースが表面に均一に広がらずに島となって一部のみ覆うこととなってしまい、多孔質シートの孔を塞ぎきれなくなっている。
【0066】
さらに、比較例1のシートについて、断面の電子顕微鏡写真を図11に示す。中央の繊維がポリエチレンテレフタレート繊維の芯であり、その周囲を取り巻いているのがポリエチレン繊維である。その上方に、セルロースの膜が繊維から剥離して折りたたまれているのが示されている。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、ビスコースの代わりに、カルボニル基を有するポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製:DF−17)の15重量%水溶液95部と架橋剤として10重量%アジピン酸ジヒドラジド水溶液5部からなる混合水溶液をロールコーターにて塗布し、100℃で30分間加熱乾燥することで架橋剤を反応させ、ポリビニルアルコール塗工量が14.7g/m2、厚さ93.6μmである親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1に示す。
【0068】
(実施例6)
実施例1で得た親水性高分子加工シートを、スルファミン酸グアニジン系難燃剤((株)三和ケミカル製:アピノン−101)の20重量%水溶液に浸漬し、乾燥することで、難燃剤含有量が22.9重量%の難燃処理した親水性高分子加工シートを得た。そのシートについて、JIS A 1322の「建築用薄物材料の難燃性試験方法」に従って難燃性試験を行い、炭化長、残炎、残じんを観測した結果、防炎2級と判定された。
【0069】
(実施例7、耐水処理)
実施例1と同様にして親水性高分子加工シートを得る過程で、乾燥前にワックスエマルジョン系撥水剤(ジョンソンポリマー(株)製:ジョンワックス26:固形分25重量%)を水で希釈して固形分濃度を5重量%とした液に浸漬し、プレスロールで絞って乾燥することで、撥水剤付着量が1.2g/m2の耐水処理した親水性高分子加工シートを得た。そのシートと実施例1で得られたシートについて、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法「紙及び板紙−撥水性試験方法」に従って、傾斜した第に試験片を貼り付け、そこに水滴を落として流下の跡を観察し、表3の基準により判定する撥水試験を行ったところ、それぞれ本実施例のシートはR4、実施例1のシートはR0と判定された。親水性高分子加工シートの製造中であるため、大量の耐水化剤を担持させることは難しいが、わずかな担持量でもR4の撥水度が得られた。
【0070】
【表3】
【0071】
(実施例8)
実施例4において用いる片艶クラフト紙を、厚さがより薄い片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量35g/m2、厚さ53μm)に変えた以外は実施例4と同様の処理を行い、セルロース塗工量2.5g/m2、厚さ52μmの親水性高分子加工シートを得た。この親水性高分子加工シートについて、実施例4と同様に透湿度、透気度の測定を行うとともに、実施例6と同様の難燃性試験を行った。その結果を表4に示す。また、処理を行う前の原紙についての測定結果を同様に表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
(実施例9、難燃処理)
実施例8で得た親水性高分子加工シートを、リン酸アンモニウム及びスルファミン酸アンモニウムの混合品(日華化学(株)製、ニッカファイノン900)の20重量%水溶液に浸漬し、マングルで搾った後、乾燥することで、難燃剤含有量9.6重量%の難燃処理した親水性高分子加工シートを得た。実施例8と同様に行った測定結果を表4に示す。
【0074】
(実施例10、吸湿処理)
実施例8で得た親水性高分子加工シートを、塩化リチウム(本荘ケミカル(株)製)の20重量%水溶液に浸漬し、マングルで搾った後、乾燥することで、吸湿剤含有量12.4重量%の吸湿処理した親水性高分子加工シートを得た。実施例8と同様に行ったその測定結果を表4に示す。
【0075】
(実施例11)
パルプ−麻混合不織布(日本大昭和板紙(株)製:FB−18:坪量18g/m2、厚さ51μm)に、セルロース濃度9.1%ビスコース(レンゴー(株)製)と粉末水酸化アルミニウム(日本軽金属(株)製:BF013)とを重量比100:5で混合したスラリーを、実施例1におけるビスコースの代わりとして実施例1と同様に塗布、処理を行い、セルロース塗工量11g/m2、水酸化アルミニウム塗工量6g/m2である難燃処理した親水性加工シートを得た。JIS A 1322に準拠して実施例6と同様に難燃性を測定したところ、防炎2級と判定された。
【0076】
(実施例12)
片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量35g/m2、厚さ53μm)にポリビニルアルコール((株)クラレ製:PVA−117完全ケン化)8重量%水溶液をロールコーターで塗布し、乾燥することで、ポリビニルアルコール塗工量2.7g/m2、透気度15,000秒/100cc、透湿度20,000g/m2/24hの親水性高分子加工シートを得た。
【0077】
(実施例13)
実施例12で用いた片艶クラフト紙に、ケン化度約88%のポリビニルアルコール(日本合成(株)製、ゴーセランL−3266)15重量%をロールコーターで塗布し、乾燥した後、塩化リチウムの20重量%水溶液に浸漬し、乾燥させた。その結果、ポリビニルアルコール塗工量11g/m2、吸湿剤含有量10.8重量%、透気度30,000秒/100cc、透湿度48,000g/m2/24hの親水性高分子加工シートを得た。
【0078】
(実施例14)
実施例9で得た親水性高分子加工シートと、段成形した片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量65g/m2)とを貼り合わせ、図3により例示される静止型全熱交換器(190mm×190mm×350mm, 134段)を作成した。JIS B 8628に準拠し、熱交換率を測定したところ、全熱交換率は74%であった。
【0079】
(実施例15)
実施例10で得た親水性高分子加工シートを用いた以外は、実施例14と同様に行い静止型全熱交換器を作成し、熱交換率を測定したところ、全熱交換率は82%であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明にかかる全熱交換器用シートを用いた全熱交換器の作用例を示す概略図
【図2】この発明にかかる全熱交換器用シートを用いた全熱交換器の使用例を示す概略図
【図3】従来の静止型全熱交換器の例を示す概略図
【図4】実施例1における多孔質シートにビスコースを塗布する前の表面写真
【図5】実施例1における多孔質シートにビスコースを塗布した後の表面写真
【図6】実施例1におけるビスコース加工前の多孔質シートの断面のスコープによる拡大写真
【図7】実施例1におけるビスコース加工後の高分子加工シートの断面のスコープによる拡大写真
【図8】実施例1におけるビスコース加工後の断面の電子顕微鏡写真
【図9】比較例1における多孔質シートにビスコースを塗布する前の表面写真
【図10】比較例1における多孔質シートにビスコースを塗布した後の表面写真
【図11】比較例1における多孔質シートにビスコースを塗布した後の電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0081】
1 供給空気
2 排出空気
3 全熱交換器用素子
11 全熱交換器用シート
12 供給気体
13 排出気体
14 全熱交換器用素子
15 顕熱
16 湿気
21 供給ファン
22 排出ファン
【技術分野】
【0001】
この発明は、全熱交換器に用いるシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、室内で目や喉に痛みを生じたり、めまいや吐き気を覚えたりするシックハウス症候群が問題となりつつある。これは、建材や家具、日用品等から発散する揮発性の有機化合物による可能性が指摘されている。このような問題が生じる原因の一つとして、建築物の気密性が高くなり、また、冷暖房が普及してライフスタイルが変化したことで換気がされにくくなり、揮散した有機化合物が屋内にとどまりやすくなったことが挙げられる。この状況に対応するため、近年改正された建築基準法によって、建築物に換気設備を設置することが義務づけられるようになった。また、家庭用エアコンにも換気機能を付加したりして、建築物の換気が促進されている。
【0003】
ただ、建築物の換気を促進しようとすると、冷暖房を行っても熱が維持しにくくなり、エネルギーの消費が大きくなりすぎてしまう。そのため、換気を行いつつも、熱又は冷熱は外部に放出しにくくしてエネルギー消費を抑える全熱交換器が注目されている。
【0004】
この全熱交換器としては、吸湿性のあるローターの回転によって排気から吸気に熱回収する回転型全熱交換器や、図3のような静止型全熱交換器がある。この静止型全熱交換器は、波板状に配されたガスバリア性のある全熱交換器用素子3が、換気により交換される外部の新鮮な供給空気1と室内の汚濁した排出空気2とを分けながら、顕熱を移動させると同時に、湿気を透過させることによって水が有する潜熱を排出空気2から供給空気1へ透過することで、外部への熱又は冷熱の放出を抑えるものである。
【0005】
静止型全熱交換器の全熱交換器用素子3に用いる全熱交換器用シートは、顕熱を移動可能であるとともに、湿気を透過させることで潜熱も移動可能であると、熱交換効率が高くなる。このようなシートとしては、例えば和紙やパルプ製難燃紙、ガラス繊維混抄紙、無機粉末含有混抄紙などを用いた全熱交換器用シートが挙げられる。しかし、通常の紙であると空気も透過してしまうので、例えば特許文献1の実施例に記載の、ポリエチレンやポリテトラフルオロエチレンなどを素材とする多孔質シートの片面に水蒸気を透過させ得る非水溶性の親水性高分子薄膜を形成した複合透湿膜などのように、透湿膜を有するシートとして用いることが行われている。
【0006】
【特許文献1】特許第2639303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のようにポリエチレンなどからなるシート上に透湿膜を形成させるコーティングを行うと、その膜自体が有する熱伝導抵抗により、顕熱の熱伝導率が低下するとともに、透湿膜であっても透湿性はそれほど高くないために、湿気の透過は十分ではなく、潜熱の熱伝導率の向上も不十分なものとなっていた。また、特許文献1の[0008]段落に記載のように、不織布等に直に非水溶性親水性高分子を塗布すると膜厚が厚くなり、一方で薄くするとピンホールが出来やすくなると考えられていた。
【0008】
そこでこの発明は、全熱交換器に用いるシートとして、従来の透湿膜による全熱交換器用シートよりも、顕熱及び潜熱の伝導率が高いシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、親水性繊維を30重量%以上100重量%以下含有する、紙、不織布又は織布からなる多孔質シートに、親水性高分子を含有する水溶液を、塗布又は含浸により塗工して、前記多孔質シートの表面、内部、又はその両方に、前記親水性高分子を水不溶化させた親水性高分子加工シートを全熱交換器用シートとして用いることで、上記の課題を解決したのである。
【0010】
すなわち、親水性繊維を30重量%以上含む多孔質シートは、親水性高分子との親和性が高いため、塗工した親水性高分子を水不溶化させることで基材表面に薄い膜を作ってもピンホールが生じにくく、あるいは、親水性高分子水溶液に多孔質シートを浸漬した後にシート内部で親水性高分子を凝固させることで、膜を生じさせることなく基材内部の孔を埋めたりすることができる。このように、親水性繊維と親水性高分子とを組み合わせることにより、厚い膜を形成させなくても、多孔質シートの孔を塞ぐことができる。この薄い親水性高分子の隔壁を湿気が通ることで、潜熱の透過を十分に確保するとともに、その隔壁が薄いものであるため、顕熱による熱の直接移動も妨げられにくく、全熱交換器用シートとして用いるのに優れた熱交換能力を持つシートが得られる。
【発明の効果】
【0011】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、繊維と高分子とがともに親水性であり、内部に入り込んでいるので、接着剤などを用いなくても層間剥離を起こしにくく、全熱交換効率が剥離により損なわれる可能性は少なくて済む。また、多孔質シートの孔を塞ぐ親水性高分子量が少なくて済み、基本的な物性は多孔質シートの物性に準じるために、耐水性や機械的強度などの物性を、使用する元の多孔質シートの選択によって自由に調整することができる。さらに、このシートを全熱交換器用シートとして用いることで、高い熱伝導率を確保でき、全熱交換器の熱利用効率を向上させることが出来る。特に、親水性高分子としてビスコースから再生したセルロースを用いると、得られた親水性高分子加工シートは極めて高い透湿性を示すことから、このシートを全熱交換器用シートとして用いることで、極めて高い湿度交換効率及び全熱交換効率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、多孔質シートに親水性高分子水溶液を塗布又は含浸により塗工した親水性高分子加工シートからなる全熱交換器用シートである。この全熱交換器用シートとは、全熱交換器で、熱交換に使用されるシートをいう。
【0013】
上記多孔質シートとは、パルプや合成繊維からなる、紙や不織布、織布などの、細かい孔を有するシートをいう。これらの中でも、紙や不織布を用いると加工が容易で、コスト的にも有利であるのでより好ましい。
【0014】
また、この多孔質シートは、セルロースからなる木材パルプ、レーヨン、綿、麻等や羊毛等、セルロース誘導体であるセルロースアセテート等、またはポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記する。)からなるビニロンやポリビニルアルコール系繊維、無機材料からなるガラス繊維などの親水性繊維を、30重量%以上有していることが必要であり、50重量%以上有しているとより好ましい。30重量%未満であると、上記親水性高分子との親和性が不十分で、塗工した親水性高分子が剥離してしまったり、親水性高分子を含有する水溶液が一様に広がらず、親水性高分子が塊としてシート上に分布してしまったりするおそれがある。なお、濡れ性の点からは、親水性繊維は多いほど好ましく、100重量%であると最も好ましい。親水性繊維以外の成分としては、例えば、外観や質感を変更したり、強度を向上させたりするために、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維などの繊維を含んだものでもよい。ただし、多孔質シートの孔を塞ぐ樹脂などを含浸したものでないことが必要である。
【0015】
さらには、紙や湿式不織布の場合には、繊維を水に分散した層を形成し、その二層以上を湿潤時に一体化させるという抄き合わせを行うことができ、強度向上など目的に応じて各層の組成を変化させてもよい。ただし、上記親水性高分子水溶液を塗工する面の表層は親水性繊維を30重量%以上有している必要がある。例えば、親水性繊維と非親水性繊維を混合した二層の抄き合わせ紙を多孔質シートとして用いたとき、各層の親水性繊維の含有量を変えて親水性繊維が多い層に上記親水性高分子を塗工すると、親水性高分子が親水性繊維の多い層に多く分布し、少量の塗工量で多孔質シートの孔を塞ぐことができる場合があり好ましい。
【0016】
このような多孔質シートの具体例としては、例えば、ポリエチレン繊維とレーヨン繊維との混抄不織布、木材パルプ繊維とマニラ麻との混抄紙、クラフト紙などが挙げられる。ここで、上記親水性繊維はそれぞれ、レーヨン繊維、木材パルプ繊維及びマニラ麻、木材パルプ繊維である。これらのうち、例えば片艶クラフト紙のような、片面をカレンダー処理した多孔質シートを用いると、少量の親水性高分子で多孔質シートの孔を塞ぐことができるのでより好ましい。また、木材パルプとマニラ麻との混抄紙のように、上記親水性繊維が複数種の繊維からなるものでもよいし、上記親水性繊維でない繊維が複数種の繊維からなるものでもよい。
【0017】
この多孔質シートに、上記親水性高分子を含有する水溶液を塗工する。この親水性高分子を含有する水溶液としては、ビスコース、セルロース銅アンモニア溶液などのセルロース水溶液の他、上記親水性高分子としてポリビニルアルコールや、キトサンを酢酸水溶液に溶解させた液などが挙げられる。
【0018】
ここで用いる水溶液の好ましい濃度としては、1.0重量%以上であると好ましく、2.0重量%以上であるとより好ましい。1.0重量%未満であると、塗工される量が少ないために、上記多孔質シートの孔を塞ぎきれないおそれがある。一方で30重量%以下であると好ましく、10重量%以下であるとより好ましい。30重量%を超えると、水溶液の粘度が高くなって取り扱いが難しくなるだけでなく、必要以上に上記親水性高分子が付着して、場合によっては層となって剥離しやすくなるおそれがあるためである。
【0019】
上記水溶液を上記多孔質シートに塗工する方法としては、塗布又は含浸が挙げられ、具体的には、上記水溶液中に上記多孔質シートを浸漬させる方法や、上記水溶液で濡れたローラに上記多孔質シートを接触させたり、さらに接触させた後に両面からローラで圧力をかけて絞ることで上記多孔質シート全体を水溶液に濡らしたりする方法などが挙げられる。このとき、上記多孔質シートの大部分が親水性繊維であるので、上記水溶液ははじかれたりすることなく、均一に表面を濡らして覆うことができる。
【0020】
このように塗工された上記親水性高分子の、シート上における塗工量は、0.5g/m2以上であると好ましく、1.0g/m2以上であるとより好ましい。0.5g/m2未満であると、上記親水性高分子が足りないために、上記多孔質シートの孔を塞ぎきることができず、孔が残ってしまうおそれがある。一方で、30g/m2以下であると好ましく、10g/m2以下であるとより好ましい。30g/m2を超えると塗工量が多すぎて表面の膜厚が厚くなりすぎてしまい、潜熱の移動を妨げてしまうことがあり、熱交換効率が低下してしまうおそれがあるためである。ここで塗工量とは、上記親水性高分子水溶液を多孔質シートに塗工した後に、水不溶化されてシート状に付着した上記親水性高分子の単位面積当たりの量をいう。
【0021】
このように塗工した上記水溶液から、ビスコースならば酸等で反応させてセルロースを再生させたり、PVAならば架橋剤を添加して加熱して反応させたりすることによって、上記親水性高分子を水不溶化させて、上記多孔質シートの塗工した表面を全体的に覆う膜を生じさせたりすることで、上記多孔質シートの孔を塞いだ親水性高分子加工シートが得られる。また別の方法としては、上記のビスコースやPVAを上記多孔質シートの内部の孔に染みこませて、上記多孔質シートの表面や内部でそれらの親水性高分子を水不溶化させて、上記多孔質シートの孔を塞いだ親水性高分子加工シートを得る方法もある。なお、上記塗工が塗布のみである場合には塗布された表面を膜が覆いやすく、上記塗工が浸漬である場合には、孔の内部で上記親水性高分子が固まって孔を閉塞しやすい。ここで膜を生じさせる場合、親水性高分子であるので、親水性繊維が30重量%以上である多孔質シートとの間で親和性が高く、剥離する可能性を低く抑えることができ、特に接着剤などを必要とせずに膜で覆うことができる。
【0022】
なお、上記親水性高分子としてビスコースを用いる場合は、ビスコースを塗工した上記多孔質シートをさらに硫酸水溶液で処理し、ビスコースからセルロースを再生させることで、上記多孔質シートの孔を再生セルロースにより閉塞させた親水性高分子加工シートを得ることができる。この処理する方法としては、例えば、ビスコースを含浸させた親水性高分子加工シートを、連続的に硫酸水溶液中に浸漬させる方法が挙げられる。このとき、セルロース再生後に反応副生物を除去するため、硫化ナトリウム水溶液による脱硫処理や次亜塩素酸ナトリウム水溶液による漂白処理を行っても良い。
【0023】
また、上記親水性高分子としてPVAを用いる場合は、反応性の高いカルボニル基等の官能基を有するPVAと架橋剤とを混合した水溶液を上記多孔質シートに塗工し、それを加熱して乾燥させることで、PVAと架橋剤とを反応させて水不溶化することにより、多孔質シートの孔を閉塞させた親水性高分子加工シートを得ることができる。
【0024】
このようにして得られた親水性高分子加工シートは、元の多孔質シートが有していた孔が膜や孔閉塞により塞がる。これにより、気体の流通を遮ることができ、全熱交換器で温度の異なる気体が混合しないように仕切りとして用いることができる。また、その孔を塞いでいるのは、浸透した上記親水性高分子の薄い膜や閉塞物であるので、それを顕熱が伝達することは容易に可能であり、また、上記親水性高分子は親水性であるために湿気を通しやすいため、湿気により運ばれる潜熱も容易に透過させることができる。
【0025】
すなわち、潜熱と顕熱を十分に効率良く伝達することができるとともに、空気の混合を防ぐことができるので、この親水性高分子加工シートは、全熱交換器用シートとして好適に用いることができる。
【0026】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、難燃処理を施したものであると好ましい。特に、この発明にかかる全熱交換器用シートを建築物に備える全熱交換器に用いる場合には、JIS A 1322の「建築用薄物材料の難燃性試験方法」において防炎3級に合格する難燃性を有すると好ましい。なお、防炎2級や防炎1級に合格する難燃性を有するとより好ましい。
【0027】
この難燃処理とは、例えば、上記親水性高分子加工シートに難燃剤を塗工する方法が挙げられ、具体的には、上記の親水性高分子を塗工した上記親水性高分子加工シートの表面に難燃剤を塗布又は噴霧する方法や、難燃剤の溶液に上記親水性高分子加工シートを浸漬する方法や、予め難燃剤を混合した親水性高分子液を用いてシートを加工する方法が挙げられる。また、上記親水性高分子としてビスコースを用いた場合は、硫酸水溶液で処理した後に、例えば乾燥前の工程で難燃処理することも可能である。
【0028】
この発明に用いることのできる難燃剤としては、無機系難燃剤、無機リン系化合物、含窒素化合物、塩素系化合物、臭素系化合物などがあり、例えば、ホウ砂とホウ酸の混合物、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸アミド、塩素化ポリオレフィン、臭化アンモニウム、非エーテル型ポリブロモ環状化合物等の水溶液若しくは水に分散可能である難燃剤が挙げられ、水不溶化した上記親水性高分子の透湿性を阻害しないよう難燃剤の種類や付着量を選んで用いられる。
【0029】
上記難燃剤の含有量としては、全熱交換器用シートの2重量%以上であると好ましく、5重量%以上であるとより好ましい。2重量%未満だと難燃性が不十分となるおそれがあるためである。一方で、70重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であるとより好ましい。難燃剤が70重量%よりも多すぎると、上記親水性高分子加工シートの透湿性に影響を及ぼすおそれがある。また、親水性高分子を含有する水溶液を塗工する前の多孔質シートとして、製造時に水酸化アルミニウムを多量に配合するなどして、予め難燃性を付与したものを使用しても良い。
【0030】
また、この発明にかかる全熱交換器用シートは、耐水処理したものであることが好ましい。この耐水処理の手段としては、親水性高分子を含有する水溶液を塗工する前の多孔質シートの製造時にサイズ剤や湿潤紙力増強剤を添加したり、後加工で耐水処理を行ったりしても良いが、親水性高分子を含有する水溶液を塗工する関係上、親水性高分子加工シートに耐水処理剤を塗布又は含浸するのが好ましい。この耐水処理は、例えば、フッ素系高分子化合物、ワックスエマルジョン、脂肪酸樹脂系、あるいはそれらの混合物等の耐水処理剤を上記親水性高分子加工シートに塗布又は含浸させることで行う。なお、この耐水処理は、原紙製造段階で行ってもよく、また上記難燃処理の前または後に連続して、又は同時に行っても良い。
【0031】
さらに、この発明にかかる全熱交換器用シートは、全熱交換性能を高めるため、吸湿処理したものであることが好ましい。この吸湿処理の手段としては、吸湿剤溶液を上記親水性高分子加工シートに塗工または噴霧する方法や、吸湿剤溶液に上記加工シートを浸漬する方法や、予め吸湿剤を混合した親水性高分子液を用いてシートを加工する方法が挙げられる。吸湿剤を含浸させることにより、得られる全熱交換器用シートの透湿度が向上し、潜熱の移動が容易になり、熱交換性能を向上させることが出来る。
【0032】
上記吸湿処理に用いることのできる吸湿剤としては、無機酸塩、有機酸塩、無機質填量、多価アルコール、尿素類、吸湿(吸水)性高分子などがあり、例えば、無機酸塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、有機酸塩としては、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、無機質填量としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪藻土、セピオライト、シリカゲル、活性炭、多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリグリセリン、尿素類としては尿素、ヒドロキシエチル尿素、高分子として、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びそれらの塩または架橋物、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、寒天、キサンタンガム、ヒアルロン酸、グアーガム、アラビアゴム、澱粉およびそれらの架橋物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、コラーゲン、アクリルニトリル系重合体ケン化物、デンプン/アクリル酸塩グラフト共重合体、酢酸ビニル/アクリル酸塩共重合体ケン化物、澱粉/アクリルニトリルグラフト共重合体、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール/無水マレイン酸共重合体、ポリエチレンオキサイド系、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、多糖類/アクリル酸塩グラフト自己架橋体等の吸湿剤が挙げられ、目的とする透湿度に応じて種類や付着量を選んで用いられる。なお、前記無機質填量とは、無機鉱物や無機塩などであって、増量剤、嵩高剤などの目的で使用するものをいう。
【0033】
さらに、この発明にかかる全熱交換器用シートは、上記難燃剤や耐水処理剤以外にも、この発明にかかる全熱交換器用シートに必要となる透湿性やガスバリア性を妨げない範囲で、任意の添加剤を含んでいても良い。この添加剤としては、全熱交換器用シートに柔軟性を付与して加工適性を向上させるために、柔軟剤としてのトリエチレングリコールやグリセリンなどが挙げられる。
【0034】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、厚さが100μm以下であることが好ましく、80μm以下であるとより好ましい。100μmを超えると、厚くなりすぎて透湿性が十分でなくなるおそれがある。一方で、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であるとより好ましい。15μm未満であると、強度が十分ではなく、加工中や使用中に破れるおそれが高まるためである。
【0035】
具体的には、この発明にかかる全熱交換器用シートのガスバリア性は、透気度が紙パルプ技術協会規格JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法による測定で、透湿度等の全熱交換器用シートに求められる物性を妨げない限り、高ければ高いほど好ましい。現実的には3000秒以上であると好ましく、10000秒以上であるとより好ましい。3000秒未満となるほど透気度が低いと、全熱交換器に用いた際に、仕切るべき供給気体と排出気体とが混合されてしまうおそれが高くなる。
【0036】
また、この発明にかかる全熱交換器用シートの透湿性は、JIS L 1099の「繊維製品の透湿度試験方法」のB−2法により、30℃の空気を循環させた環境で、水温約23℃に設定して測定した、24時間あたりの湿度透過量が5000g/m2以上であると好ましく、10000g/m2以上であるとより好ましい。透湿性が5000g/m2未満であると、湿気の移動が十分ではないため、水蒸気の潜熱による熱交換が不十分となるおそれがある。一方、透湿性は高いほど好ましいが、200000g/m2を超えることは現実的でない。
【0037】
さらに、この発明にかかる全熱交換器用シートの熱伝導率は、0.005W/(m・K)以上であると好ましく、0.01W/(m・K)以上であるとより好ましい。0.005W/(m・K)未満であると、全熱交換器に用いるには熱交換性能が不十分となるためである。なお、熱伝導性は高いほど好ましいが、0.1W/(m・K)を超えることは構造や材質上困難である。なお、この熱伝導率(K)の値は、下記の式(1)のように、熱流の測定値(W)、サンプルの厚み(D)、伝熱面積(A)、温度差(ΔT)より計算して得られる。
【0038】
K=W×D/(A×ΔT) (1)
【0039】
また、この発明にかかる全熱交換器用シートの引張強度は、0.3kN/m以上であると好ましく、0.5kN/m以上であるとより好ましい。0.3kN/m未満であると、強度が不十分で、破れるおそれがあるためである。一方で、5.0kN/mを超えることは、加工適性などの全熱交換器用シートとしての他の物性を損なうおそれがあり現実的ではない。
【0040】
この発明にかかる全熱交換器用シートは、その他の板紙やシートなどに積層することなく、また、接着剤等を用いて貼り合わせることなく、このシートのみで、全熱交換器を通過する二種類の気流を仕切り、かつ熱交換を行う仕切り材として用いる全熱交換器用シートとして作用することができる。なお、前記の二種類の気体とは温度、湿度、又はそれらの両方が異なる二種類の気体をいう。この二種類の気体の間では、高温である気体から低温である気体へ、上記全熱交換器用シートを伝導して顕熱が移動し、また、高湿である気体から低湿である気体へ、上記全熱交換器用シートを湿気が透過することで潜熱が移動する。
【0041】
このような二種類の気体としては、例えば、建築物の外部へ排出する排出気体と、建築物の内部に供給する供給気体が挙げられる。この発明にかかる全熱交換器用素子は、例えば、図1(a)乃至(c)に記載のような全熱交換器用素子14を用いることができる。これらは、この発明にかかる全熱交換器用シート11を通して、供給気体12と排出気体13との間で湿気16による潜熱と顕熱15とを移行させて、建築物内の熱又は冷熱を保持しつつ換気を行うものである。
【0042】
この発明にかかる全熱交換器用シート11を、温度、湿度、又はそれらの両方が異なる二種類の空気を仕切る仕切り板として使用した全熱交換器用素子14を用いた全熱交換器は、この発明にかかる全熱交換器用シート11の透湿度が高く、また、厚い膜に覆われておらず、薄い膜を有するか、または孔が埋まっているだけの多孔質シートだけで空気を仕切るために顕熱の伝導もしやすいので、優秀な熱交換能を示す。さらに、空気を仕切っている閉塞部分が薄いために、従来の全熱交換器用シートよりも湿気を透過しやすいので、湿度を保持する効果も高くなる。
【0043】
図1に記載のような全熱交換器用素子14の具体的な利用方法としては、例えば、図2のように、全熱交換器用素子14を、供給ファン21及び排出ファン22と組み合わせた全熱交換器が挙げられる。供給ファン21によって、外気などである供給気体12が全熱交換器用素子14に吸い込まれて、全熱交換器用素子14内に組みこまれた全熱交換器用シート11に接触する。一方で、排出ファン22によって、室内空気などの排出気体13が全熱交換器用素子14に吸い込まれて、同様に、全熱交換器用シート11に接触する。全熱交換器用シート11越しに接触した供給気体12と排出気体13とは、温度及び湿度に応じて、図1(a)乃至(c)のいずれかの挙動を示して熱交換を行う。熱交換された供給気体12は供給ファン21に吹き込んで、例えば室内に取り込まれたりする。一方で、熱交換された排出気体13は排出ファン22に吹き込んで、例えば、屋外に排出されたりする。なお、図1及び図2において、「in」及び「out」とは、新鮮な気体を取り入れる方向を「in」とし、汚濁した気体を排出する方向を「out」と表記したものである。
【0044】
なお、上記二種類の気流のうち、取り込んで熱又は冷熱を与える新鮮な気体である供給気体12は、必ずしも建築物外から取り込む空気に限るものではない。例えば、恒温かつ気体の混合比の状態を維持すべき研究施設において、窒素及び酸素、アルゴン、二酸化炭素などを供給用ボンベから供給して混合した混合気体に対して、この発明を用いることもできる。また、屋内にさらに気体環境を分けた部屋を設けた場合には、部屋外である屋内から空気を取り込むこともありうる。
【0045】
この発明にかかる全熱交換器用素子14を外気と建築物との間に設置した場合における熱交換作用について具体的に説明する。まず、図1(a)の状況について説明する。これは例えば、温暖湿潤気候の夏場のような高温多湿の外気を供給気体12として建築物内に取り込み、一方で、冷房で冷却されるとともに揮散性有機化合物や二酸化炭素が増加した室内の低温である空気を排出気体13として排出する際に、全熱交換器用素子14を用いた場合である。このとき、供給気体12から排出気体13へ、全熱交換器用シート11を伝導して顕熱15が移動するとともに、暖かい湿気16も移動することで潜熱も移動する。これにより、供給気体12から熱が奪われ、冷房により得られた冷熱の放出を抑えることができる。
【0046】
次に、図1(b)の状況について説明する。これは例えば、冬季の低温で含水蒸気量の少ない外気を供給気体12として建築物内に取り込み、一方で、暖房で暖められるとともに揮散性有機化合物や二酸化炭素が増加した室内の高温である空気を排出気体13として排出する際に、全熱交換器用素子14を用いた場合である。このとき、排出気体13から供給気体12へ、全熱交換器用シート11を伝導して顕熱が移動する。また、暖房とともに加湿器などを併用したり、暖房として石油ストーブなどを使用したりすることで、室内の暖かい空気が湿気を多く含むようになっていると、湿気16も全熱交換器用シート11を透過して排出気体13から供給気体12へ移動することで潜熱も移動する。これにより、供給気体12が暖められるとともに、含水蒸気量が増加し、暖房による熱が逃げるのを抑えるとともに、湿気の放出も抑えることができる。
【0047】
さらに、図1(c)の状況について説明する。これは例えば、砂漠気候や、地中海性気候の夏場のような、高温乾燥の外気を供給気体12として建築物内に取り込み、冷房による冷却と加湿とを行った屋内の空気を排出気体13として排出する際に、全熱交換器用素子14を用いた場合である。このとき、供給気体12から排出気体13へ、全熱交換器用シート11を伝導して顕熱が移動する。また、湿気のある排出気体13から全熱交換器用シート11を透過して、乾いた供給気体12へ湿気16が移動するが、このとき、通る湿気16は低温であるために、排出気体13から供給気体12へ冷熱が移動することとなり、供給気体12が冷やされることとなる。また、湿気16が大量である場合、全熱交換器用シート11の供給気体12側表面で水が蒸発することによる気化熱によっても供給気体12が冷やされる。
【0048】
この発明にかかる全熱交換器用シート11を使用した全熱交換素子である全熱交換器用素子14を、単数又は複数備えた全熱交換器を用いて全熱交換を行うと、効率的な熱交換が行え、建築物内の熱又は冷熱の放出を抑制しつつ、揮散性の有機化合物を含み二酸化炭素が増加した内部の空気を排出する換気を行いつつ冷暖房による熱効果を維持する全熱交換器の効率をより高めることができる。
【0049】
また、全熱交換器用シート11が薄いために、全熱交換器用素子14を従来よりも薄くできるため、従来の全熱交換器よりもコンパクトな全熱交換器を製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げてこの発明をより具体的に示す。まず、全熱交換器用シートとして必要な特性の試験方法について説明する。
【0051】
[透湿度試験方法]
それぞれのシートについて、JIS L 1099に記載のB−2法により、30℃の空気を循環させた環境で、水温23℃に設定して測定した24時間あたりの透湿度(g/m2・24h)の結果を表1に示す。
【0052】
[透気度試験方法]
紙パルプ技術協会規格JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法「紙及び板紙−平滑度及び透気度試験方法−第2部:王研法」に従い、それぞれのシートの透気度を、旭精工(株)製:王研式透気度試験機KG1−55を用いて測定した。
【0053】
[熱伝導率試験方法]
室温20℃、湿度65%RHの雰囲気下で、100mm×100mmの大きさに切り出したそれぞれのシートを上部29.9℃、下部22.3℃の試験板(50mm×50mm)に挟み、60秒間の熱流をカトーテック(株)製:精密迅速熱物性測定装置:KES−F7 THERMO LABOIIを用いて測定した。その値から熱伝導率を計算した。
【0054】
[引張強度試験方法]
室温20度、湿度65%RHの雰囲気下で、一晩放置して調湿したシートを、15mm幅の短冊状に裁断し、それぞれのシートの縦方向(MD)と横方向(TD)の引張強度を(株)東洋ボールドウィン製、万能試験機:UTM−IIIを用いて測定した。
【0055】
[厚さ測定方法]
上記と同様に調湿したシートを、オートマティクマイクロメーター(ハイブリッジ製作所(株)製)にて、それぞれのシートについて幅方向10点で厚みを測定し平均値を算出した。
【0056】
<全熱交換器用シートの作製>
次に、それぞれの全熱交換器用シートの作成方法について説明する。
(実施例1)
親水性繊維としてレーヨンパルプが100重量%の層と、レーヨンパルプ50重量%と非親水性繊維であるポリエチレン繊維を50重量%含む層を、等量で二層抄き合わせた混抄不織布(親水性繊維:非親水性繊維=75重量%:25重量%;中尾製紙(株)製:MPE−5−35、坪量35g/m2、厚さ71.0μm)に、セルロース濃度が4.8重量%のビスコースをロールコーターにより塗布し、濃度11%の硫酸水溶液浴に連続的に浸漬させてセルロースを再生させ、その後、水洗工程を経て、各々0.6重量%の水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合水溶液浴により脱硫処理を行い、0.6重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液浴により漂白処理を行って、十分水洗後乾燥させて親水性高分子加工シートを得た。このシートのセルロース塗工量を、使用した原紙との重量比較により求めたところ、6.3g/m2で、厚さは75.0μmであった。このシートを、全熱交換器用シートとして用いて、上記の試験を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】
【表2】
【0058】
この親水性高分子加工シートについて、まず、ビスコースを塗布する前の表面の拡大写真を図4に、ビスコースを用いて加工した親水性高分子加工シート表面の拡大写真を図5に示す。ビスコースから再生されたセルロースが、シート全体に均一に分布していることが示されている。
【0059】
この高分子加工シートのビスコースを塗布する前の原紙の断面を写したスコープによる1500倍の拡大写真を図6に示す。また、ビスコースを用いて加工した親水性高分子加工シートの断面を写したスコープによる1500倍の拡大写真を図7に示す。なおここでは、親水性高分子の分布状況を分かり易くするため、ビスコースに青色顔料(大日精化工業(株)製:TL−500BLUE−R)を混合して得た親水性高分子加工シートをサンプルとして観察しており、元の原紙に存在していた繊維と繊維の隙間が、セルロースによって埋まって、孔が塞がっていることがわかる。
【0060】
さらに、この高分子加工シートの断面を、電子走査顕微鏡で撮影した写真を図8に示す。ここで、図中真ん中で左右に伸びるのが親水性高分子加工シートであり、セルロースが繊維と一体化して区別がつけられないことがわかる。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、セルロース濃度2.9重量%のビスコースを同様に塗布し、同様の手順によりセルロース塗工量3.0g/m2の親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1及び表2に示す。
【0062】
(実施例3)
親水性繊維100%で、木材パルプとマニラ麻とからなる混抄紙(日本大昭和板紙(株)製:ケーク原紙A、坪量20g/m2、厚さ41.2μm)に、セルロース濃度7.5重量%のビスコースを実施例1と同様に塗布して、同様の処理を行い、セルロース塗工量11.2g/m2、厚さ50.9μmの親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1に示す。
【0063】
(実施例4)
親水性繊維として木材パルプを100%含有する、片面をカレンダー処理された片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量65g/m2、厚さ91.3μm)に、セルロース濃度が4.8重量%のビスコースを実施例1と同様に塗布して、同様の処理を行い、セルロース塗工量2.2g/m2、厚さ94.0μmの親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
疎水性繊維として、ポリエチレンテレフタレートを芯とし、ポリエチレンで芯の周囲を覆った複合繊維からなる不織布(ユニチカ(株)製:エルベス、厚さ104.5μm)に、実施例1と同様の手順により、セルロース濃度4.8重量%のビスコースを塗布して、同様の硫酸酸性浴にてセルロースを凝固再生させ、脱硫処理と漂白処理を行ってセルロース皮膜が剥離したシートを得た。
【0065】
この比較例1のシートについて、ビスコースを塗布する前の多孔質シートの表面写真を図9に、ビスコースを用いて加工した親水性高分子加工シートの表面写真を図10に示す。ビスコースが表面に均一に広がらずに島となって一部のみ覆うこととなってしまい、多孔質シートの孔を塞ぎきれなくなっている。
【0066】
さらに、比較例1のシートについて、断面の電子顕微鏡写真を図11に示す。中央の繊維がポリエチレンテレフタレート繊維の芯であり、その周囲を取り巻いているのがポリエチレン繊維である。その上方に、セルロースの膜が繊維から剥離して折りたたまれているのが示されている。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、ビスコースの代わりに、カルボニル基を有するポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール(株)製:DF−17)の15重量%水溶液95部と架橋剤として10重量%アジピン酸ジヒドラジド水溶液5部からなる混合水溶液をロールコーターにて塗布し、100℃で30分間加熱乾燥することで架橋剤を反応させ、ポリビニルアルコール塗工量が14.7g/m2、厚さ93.6μmである親水性高分子加工シートを得た。その測定結果を表1に示す。
【0068】
(実施例6)
実施例1で得た親水性高分子加工シートを、スルファミン酸グアニジン系難燃剤((株)三和ケミカル製:アピノン−101)の20重量%水溶液に浸漬し、乾燥することで、難燃剤含有量が22.9重量%の難燃処理した親水性高分子加工シートを得た。そのシートについて、JIS A 1322の「建築用薄物材料の難燃性試験方法」に従って難燃性試験を行い、炭化長、残炎、残じんを観測した結果、防炎2級と判定された。
【0069】
(実施例7、耐水処理)
実施例1と同様にして親水性高分子加工シートを得る過程で、乾燥前にワックスエマルジョン系撥水剤(ジョンソンポリマー(株)製:ジョンワックス26:固形分25重量%)を水で希釈して固形分濃度を5重量%とした液に浸漬し、プレスロールで絞って乾燥することで、撥水剤付着量が1.2g/m2の耐水処理した親水性高分子加工シートを得た。そのシートと実施例1で得られたシートについて、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法「紙及び板紙−撥水性試験方法」に従って、傾斜した第に試験片を貼り付け、そこに水滴を落として流下の跡を観察し、表3の基準により判定する撥水試験を行ったところ、それぞれ本実施例のシートはR4、実施例1のシートはR0と判定された。親水性高分子加工シートの製造中であるため、大量の耐水化剤を担持させることは難しいが、わずかな担持量でもR4の撥水度が得られた。
【0070】
【表3】
【0071】
(実施例8)
実施例4において用いる片艶クラフト紙を、厚さがより薄い片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量35g/m2、厚さ53μm)に変えた以外は実施例4と同様の処理を行い、セルロース塗工量2.5g/m2、厚さ52μmの親水性高分子加工シートを得た。この親水性高分子加工シートについて、実施例4と同様に透湿度、透気度の測定を行うとともに、実施例6と同様の難燃性試験を行った。その結果を表4に示す。また、処理を行う前の原紙についての測定結果を同様に表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
(実施例9、難燃処理)
実施例8で得た親水性高分子加工シートを、リン酸アンモニウム及びスルファミン酸アンモニウムの混合品(日華化学(株)製、ニッカファイノン900)の20重量%水溶液に浸漬し、マングルで搾った後、乾燥することで、難燃剤含有量9.6重量%の難燃処理した親水性高分子加工シートを得た。実施例8と同様に行った測定結果を表4に示す。
【0074】
(実施例10、吸湿処理)
実施例8で得た親水性高分子加工シートを、塩化リチウム(本荘ケミカル(株)製)の20重量%水溶液に浸漬し、マングルで搾った後、乾燥することで、吸湿剤含有量12.4重量%の吸湿処理した親水性高分子加工シートを得た。実施例8と同様に行ったその測定結果を表4に示す。
【0075】
(実施例11)
パルプ−麻混合不織布(日本大昭和板紙(株)製:FB−18:坪量18g/m2、厚さ51μm)に、セルロース濃度9.1%ビスコース(レンゴー(株)製)と粉末水酸化アルミニウム(日本軽金属(株)製:BF013)とを重量比100:5で混合したスラリーを、実施例1におけるビスコースの代わりとして実施例1と同様に塗布、処理を行い、セルロース塗工量11g/m2、水酸化アルミニウム塗工量6g/m2である難燃処理した親水性加工シートを得た。JIS A 1322に準拠して実施例6と同様に難燃性を測定したところ、防炎2級と判定された。
【0076】
(実施例12)
片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量35g/m2、厚さ53μm)にポリビニルアルコール((株)クラレ製:PVA−117完全ケン化)8重量%水溶液をロールコーターで塗布し、乾燥することで、ポリビニルアルコール塗工量2.7g/m2、透気度15,000秒/100cc、透湿度20,000g/m2/24hの親水性高分子加工シートを得た。
【0077】
(実施例13)
実施例12で用いた片艶クラフト紙に、ケン化度約88%のポリビニルアルコール(日本合成(株)製、ゴーセランL−3266)15重量%をロールコーターで塗布し、乾燥した後、塩化リチウムの20重量%水溶液に浸漬し、乾燥させた。その結果、ポリビニルアルコール塗工量11g/m2、吸湿剤含有量10.8重量%、透気度30,000秒/100cc、透湿度48,000g/m2/24hの親水性高分子加工シートを得た。
【0078】
(実施例14)
実施例9で得た親水性高分子加工シートと、段成形した片艶クラフト紙(城山製紙(株)製:OP、坪量65g/m2)とを貼り合わせ、図3により例示される静止型全熱交換器(190mm×190mm×350mm, 134段)を作成した。JIS B 8628に準拠し、熱交換率を測定したところ、全熱交換率は74%であった。
【0079】
(実施例15)
実施例10で得た親水性高分子加工シートを用いた以外は、実施例14と同様に行い静止型全熱交換器を作成し、熱交換率を測定したところ、全熱交換率は82%であった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】この発明にかかる全熱交換器用シートを用いた全熱交換器の作用例を示す概略図
【図2】この発明にかかる全熱交換器用シートを用いた全熱交換器の使用例を示す概略図
【図3】従来の静止型全熱交換器の例を示す概略図
【図4】実施例1における多孔質シートにビスコースを塗布する前の表面写真
【図5】実施例1における多孔質シートにビスコースを塗布した後の表面写真
【図6】実施例1におけるビスコース加工前の多孔質シートの断面のスコープによる拡大写真
【図7】実施例1におけるビスコース加工後の高分子加工シートの断面のスコープによる拡大写真
【図8】実施例1におけるビスコース加工後の断面の電子顕微鏡写真
【図9】比較例1における多孔質シートにビスコースを塗布する前の表面写真
【図10】比較例1における多孔質シートにビスコースを塗布した後の表面写真
【図11】比較例1における多孔質シートにビスコースを塗布した後の電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0081】
1 供給空気
2 排出空気
3 全熱交換器用素子
11 全熱交換器用シート
12 供給気体
13 排出気体
14 全熱交換器用素子
15 顕熱
16 湿気
21 供給ファン
22 排出ファン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維を30重量%以上100重量%以下含有する多孔質シートに、親水性高分子を含有する水溶液を塗工し、前記多孔質シートの表面、内部、又はその両方で前記親水性高分子を水不溶化させて前記多孔質シートの孔を塞いだ親水性高分子加工シートからなる、全熱交換器用シート。
【請求項2】
上記親水性高分子がビスコースから再生されたセルロースである、請求項1に記載の全熱交換器用シート。
【請求項3】
上記親水性高分子の上記多孔質シート上における塗工量が、0.5g/m2以上30g/m2以下である、請求項1又は2に記載の全熱交換器用シート。
【請求項4】
上記親水性高分子加工シートを難燃処理した、請求項1乃至3のいずれかに記載の全熱交換器用シート。
【請求項5】
上記親水性高分子加工シートを耐水処理した、請求項1乃至4のいずれかに記載の全熱交換器用シート。
【請求項6】
上記親水性高分子加工シートを吸湿処理した、請求項1乃至5のいずれかに記載の全熱交換器用シート。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の全熱交換器用シートを、温度、湿度、又はその両方が異なる二種類の気流を仕切る仕切り材として用いた全熱交換素子。
【請求項8】
請求項7に記載の全熱交換素子を用いた全熱交換器。
【請求項1】
親水性繊維を30重量%以上100重量%以下含有する多孔質シートに、親水性高分子を含有する水溶液を塗工し、前記多孔質シートの表面、内部、又はその両方で前記親水性高分子を水不溶化させて前記多孔質シートの孔を塞いだ親水性高分子加工シートからなる、全熱交換器用シート。
【請求項2】
上記親水性高分子がビスコースから再生されたセルロースである、請求項1に記載の全熱交換器用シート。
【請求項3】
上記親水性高分子の上記多孔質シート上における塗工量が、0.5g/m2以上30g/m2以下である、請求項1又は2に記載の全熱交換器用シート。
【請求項4】
上記親水性高分子加工シートを難燃処理した、請求項1乃至3のいずれかに記載の全熱交換器用シート。
【請求項5】
上記親水性高分子加工シートを耐水処理した、請求項1乃至4のいずれかに記載の全熱交換器用シート。
【請求項6】
上記親水性高分子加工シートを吸湿処理した、請求項1乃至5のいずれかに記載の全熱交換器用シート。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の全熱交換器用シートを、温度、湿度、又はその両方が異なる二種類の気流を仕切る仕切り材として用いた全熱交換素子。
【請求項8】
請求項7に記載の全熱交換素子を用いた全熱交換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−14623(P2008−14623A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130852(P2007−130852)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【出願人】(594167211)フロンティア産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000115980)レンゴー株式会社 (502)
【出願人】(594167211)フロンティア産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】
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