説明

全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法およびその使用

【課題】全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの良好な成形性および耐熱性を損なうことなく、色相劣化を改善すること。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料を用い、アセチル化工程、溶融重縮合工程、該溶融重合工程の生成物を冷却し固化する冷却固化工程、固化物を粉砕する工程および固相重縮合工程をこの順序で含む全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを製造する方法であって、該冷却固化工程において窒素気流により冷却する手段を含み、かつ該溶融重縮合工程から生成物が抜出されてから20時間以内に50℃以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色相に優れた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法、その製造方法によって得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルおよびそのポリエステルを使用したLEDリフレクターに関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(以下「LED」という。)装置として、基板上の回路パターンに導電性接着剤、ハンダ等でLED素子が実装されており、ワイヤボンディングで必要な結線がされ、LEDの光利用率を上げるためにLED素子の周囲にリフレクター(反射枠)が設けられ、リフレクター内に位置するLED素子は透光性樹脂で封止されているものが使用されている。リフレクターとしては、白色顔料等を充填した樹脂が使用されている。白色LEDは各種のものが知られているが、例えば一般的には、緑(G)、青(B)、赤(R)等の複数のLEDを組み合わせて白色を得るようにしたもの、封止樹脂中に蛍光物質を配合して波長変換の作用を利用しているものもある。波長変換をする場合は紫外線発光LEDも光源として使用できる。
【0003】
LED素子を基板に実装する際のハンダ等の加熱工程、封止樹脂の熱硬化時の発熱、LED装置を他の部材に結合する場合の加熱、LED装置を使用する環境における加熱等の各種の加熱履歴が避けられないので、耐熱性が要求される。さらに、白色LEDにおいては、反射面の反射率、白色性が製造時および使用期間中に維持されることが要求される。この点から、融点が320℃を超える全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、LEDリフレクター用の樹脂として適していると考えられる。しかし、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、耐熱性、成形時の流動性に優れるが、LEDレフレクターとして使用するには色相劣化およびこれによる反射率の低下を改善することが求められている。
【0004】
融点が320℃を超える全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは芳香族ヒドロキシカルボン酸を含むモノマーを原料として用いるが、溶融重縮合工程のみで所望の分子量のポリエステルを得ることは、溶融状態の重合反応生成物を長時間にわたり300℃以上の高温環境下におくことになるので当該重合反応生成物の熱劣化が避け難いので好ましくない。製造工程における熱履歴は製品の色相劣化の原因となる。そこで、比較的高温かつ比較的短時間の溶融重縮合工程によってある程度の重合度まで反応を進行させ、生成物を反応槽から排出し、冷却・固化・粉砕した後に固相重縮合工程で所望の分子量まで重合度を上げることが工業的に好ましい方法として採用されている。この場合、溶融重縮合工程で生成する副生分解物、低分子量生成物および未反応モノマー等の低分子量化合物が成形品の色相劣化の原因であると考えられており、これらが製品中に含まれることを避けなければならない。
【0005】
モノマーをアセチル化して用いる方法は、溶融重縮合速度が大きいため溶融重縮合時の熱履歴の影響を低減できるので好ましいが、アセチル化工程で生成する酢酸系化合物が低分子量化合物として残存することがある。また、溶融重縮合工程の生産性を向上させるために、未アセチル化モノマーを溶融重縮合槽に仕込み、無水酢酸等を並存させて加熱下にエステル化反応によりアセチル化物を生成し、引き続いて溶融重縮合反応を実施する場合には、低分子量化合物の生成が増加する。
【0006】
低分子量化合物の系外への除去方法は、溶融重縮合工程中、固相重縮合工程中については従来から検討されている。しかし、それだけではLEDリフレクターなどの精密部品の色相劣化を解消するには不十分である。一方、溶融重縮合工程と固相重縮合工程との間における冷却・固化・粉砕工程に関しては、これまで主として冷却・固化工程自体の効率化に関する検討が行われてきたが、これらの工程における低分子量化合物の除去について、色相劣化との点からの十分な検討がなされていなかった。
【0007】
これまで、冷却・固化方法として、溶融重縮合槽から抜き出された重縮合反応途中の芳香族ポリエステルを、流路絞込みフィーダーを有する定量供給装置を通した後、二重式ベルト冷却機にて冷却固化する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、この方法では冷却固化が実質的に密閉系で行われるため、冷却固化工程下での低分子量化合物の系外への除去が十分ではない。また、表面に複数の溝を有するロールにより冷却固化する方法(例えば、特許文献2)が提案されているが、同様の問題がある。
【0008】
さらに、互いに平行な回転軸を有する一対の冷却ロールおよび、該一対の冷却ロール上に設けた一対の堰を有する冷却装置上に溶融物を供給し、該一対の冷却ロール上の該一対の堰とで形成された凹部に一時的に保持させつつ、その一部を回転する該一対の冷却ロール間を通過させて冷却固化する方法が提案されている(例えば、特許文献3)。この方法では冷却固化が開放系で行われるため、冷却固化工程下での低分子量化合物の系外への放出はある程度達成されるが、その効果は限定的であり、LEDリフレクター用樹脂に要求される性能を達成するとはいい難い。このように、冷却固化工程における低分子量化合物の除去に十分な効果を奏する具体的手段はいまだ提案されていない。
【0009】
【特許文献1】特開平6−256485号公報
【特許文献2】特開平2−86412号公報
【特許文献3】特開2002−179779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
芳香族ヒドロキシカルボン酸を含むモノマーを原料とし、アセチル化工程、溶融重縮合工程、冷却固化工程、粉砕工程および固相重縮合工程によって得られる全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの耐熱性、成形性を損なうことなく、成形品の色相劣化を防止することを課題とするものである。本発明者らは、色相劣化の主たる原因が、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル成形品中に含まれる低分子量化合物であるとの知見を得た。したがって、該低分子量化合物を除去することが求められる。しかし、従来の溶融重縮合工程および固相重縮合工程における低分子量化合物の除去だけでは、色相劣化防止の要求に十分にこたえることができない。本発明は、溶融重縮合工程および固相重縮合工程に加えて、冷却・固化工程において低分子量化合物の除去を効率的に行う方法を提供すること、および色相劣化に優れ、LEDリフレクターに適するポリエステルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料を用い、アセチル化工程、溶融重縮合工程、該溶融重合工程の生成物を冷却し固化する冷却固化工程、固化物を粉砕する工程および固相重縮合工程をこの順序で含む全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを製造する方法であって、該冷却固化工程において窒素気流により冷却する手段を含み、かつ該溶融重縮合工程から生成物が抜出されてから20時間以内に50℃以下とすることを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法である。
【0012】
本発明の第2は、本発明の第1において、前記アセチル化工程と前記溶融重縮合工程とが同一の反応槽内で行われることを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法である。
【0013】
本発明の第3は、本発明の第1あるいは第2のいずれかにおいて、前記冷却固化工程が、平行な回転軸を有する一対の冷却ロールおよび該冷却ロール上に一対の堰を有する装置を使用し、溶融状態にある溶融重縮合工程の反応物を、該冷却ロール上に溜まり部を形成しながら、該冷却ロール間を通過させる工程を含むことを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法である。
【0014】
本発明の第4は、本発明の第1〜第3のいずれかに記載の方法で得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルである。
【0015】
本発明の第5は、本発明の第4に係る全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを含むLEDリフレクターである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法よれば、冷却固化工程における窒素気流による冷却手段および所定温度に達する時間を制御することにより、従来の製造工程に大きな改造または変更を加えることなく、色相劣化が改善された全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを製造することができる。得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは耐熱性、色相劣化に関して条件が厳しいLEDリフレクターに特に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル)
LEDリフレクターとして使用するためには、本発明における全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、融点が320℃以上のものであることが好ましい。融点が320℃以上の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを得るには、原料モノマーとしてp−ヒドロキシ安息香酸を40モル%以上使用するとよい。これ以外は、公知の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジーオール、を任意に組み合わせて使用することができる。例えば、p−ヒドロキシ安息香酸や2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸のみから得られるポリエステル、さらにこれらとテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、および/またはハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,6−ジヒドロキシナフタレンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とから得られる液晶性ポリエステルなどが好ましいものとして挙げられる。
【0018】
特に好ましくは、p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を80〜100モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)(II)(III)のいずれかと脱縮合反応可能な他の芳香族化合物0〜20モル%を重縮合して得られる全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルである。
【0019】
(アセチル化工程)
上記のモノマーの水酸基を予めアセチル化した後に溶融重縮合を行う。アセチル化は反応槽中のモノマーに無水酢酸を供給して常法にて行うのが好ましい。このアセチル化工程を溶融重縮合工程と同じ反応槽を用いて行うのが好ましい。すなわち、反応槽中で原料モノマーと無水酢酸でアセチル化反応を行い、反応終了後昇温して重縮合反応に移行するのが好ましい。
【0020】
(溶融重縮合工程)
本発明においては、アセチル化されたモノマーの脱酢酸反応を伴いながら溶融重縮合反応を行う。反応槽はモノマー供給手段、酢酸排出手段、溶融ポリエステル取り出し手段および攪拌手段を備えた反応槽を用いて行うのが好ましい。このような反応槽(重縮合装置)は公知のものから適宜選択することができる。重合温度は好ましくは150℃〜350℃である。アセチル化反応終了後、重合開始温度まで昇温して重縮合を開始し、0.1℃/分〜2℃/分の範囲で昇温して、最終温度として280〜350℃まで上昇させるのが好ましい。重縮合反応の触媒として、Ge,Sn,Ti、Sb、Co,Mn、Mg 等の化合物を使用することができる。重縮合の進行により生成重合体の溶融温度が上昇するのに対応して重縮合温度も上昇する。固相重縮合工程に供する溶融重縮合反応物は、低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルであり、その流動点は、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃〜330℃である。
【0021】
(冷却固化工程)
上記流動点に相当する重合度に達したら、低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを溶融状態のまま重合槽から抜出し、スチールベルトやドラムクーラー等の冷却機へ供給し、冷却して固化させる。冷却固化工程の詳細については後記する。
【0022】
粉砕工程へ移行する前に、冷却効率を向上させるために、冷却途中の固化物を適宜の大きさに解砕することが好ましい。本発明においては、この解砕工程も冷却・固化工程の一部として含むものである。
【0023】
(粉砕工程)
ついで、固化した低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを、後続の固相重縮合に適した大きさに粉砕する。粉砕方法は特に限定されないが、例えば、ホソカワミクロン社製のフェザーミル、ビクトミル、コロプレックス、パルベラーザー、コントラプレックス、スクロールミル、ACMパルベラ-ザー等の衝撃式粉砕機、マツボー社製の架砕式粉砕機であるロールグラニュレーター等が挙げられる。特に好ましくは、ホソカワミクロン社製のフェザーミルである。本発明においては、粉砕物の粒径に特に制限はないが、工業フルイ(タイラーメッシュ)で4メッシュ通過〜2000メッシュ不通の範囲が好ましく、5メッシュ〜2000メッシュ(0.01〜4mm)にあればさらに好ましく、9メッシュ〜1450メッシュ(0.02〜2mm)にあれば最も好ましい。
【0024】
(固相重縮合工程)
ついで、粉砕工程で得られた粉砕物を固相重縮合工程に供して固相重縮合を行う。固相重縮合工程に使用する装置、運転条件には特に制限はなく、公知の装置および方法を用いることができる。LEDリフレクターとして使用するためには、融点が320℃以上のものが得られるまで固相重縮合反応を行う。
【0025】
(冷却固化工程の詳細)
本発明者らは、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの色相劣化の原因として、製造工程における熱履歴および/または製品ポリマー中の残存低分子化合物あるいはこれらの相互作用を考えている。特に、溶融重縮合反応槽から抜出された溶融状態にある重縮合反応物の初期温度が280℃〜350℃と高温であること、残存低分子化合物等が比較的多量に存在することから熱分解や酸化劣化反応等が生じやすい環境にあり、この段階での適切な対応が、後述する実施例および比較例に示した事実から明らかなように、最終的な全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの色相劣化を抑制するものである。
【0026】
本発明においては、溶融重縮合工程後に溶融重縮合反応槽から抜き出された低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを冷却固化する工程において、窒素気流を冷媒として用いて冷却する手段を含むことを特徴とする。この冷却手段は、自然冷却(放置)する以上の温度降下になるように窒素気流により強制冷却することに加えて、該低重合度の全芳香族液晶ポリエステルから放出される低分子量化合物等(特に酢酸系化合物)が窒素気流により移送されることが必要である。さらに、窒素の不活性性により酸化反応の抑制も達成される。ただし、必ずしも冷却固化工程の総ての段階が、窒素により完全に置換された密閉系で行われることを意味するものではない。窒素源としては、たとえば、化学工場内に常設されている窒素源からの窒素を用いることができる。
【0027】
本発明においては、溶融重縮合工程から生成物が抜出されてから、20時間以内に冷却固化物の温度を50℃以下にする。50℃以上の温度が20時間以上継続すると、リフレクター等に使用した場合に色相劣化問題を生じることがある。窒素気流の温度および流量は、被冷却物の量、形状あるいは装置の形状等により適宜選択できる。工場内の窒素源を用いる場合は、外気温または室温のものを用いることに支障はない。窒素気流の温度の上限は冷却効果があればよい。すなわち、被冷却物である溶融重縮合物、溶融重縮合固化物より低温であればよく、温度を逓減させて冷却してもよいが、最終的に50℃以下にすることから、50℃以下のものを用いることが好ましい。ただし、窒素気流中およびまたは環境中の水分が凝固する温度以下の窒素気流、特に、系内の水分を氷結させる0℃以下の窒素は好ましくない。
【0028】
本発明の冷却固化工程において、平行な回転軸を有する一対の冷却ロールおよび該冷却ロール上に一対の堰を有する装置を使用し、溶融状態にある溶融重縮合工程の反応物(低重合度の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル)を、該冷却ロール上に溜まり部を形成しながら、該冷却ロール間を通過させる工程を含むことが好ましい。このような工程としては、本発明者らの発明に係る特開2002−179779号公報に開示されているものが好ましく使用できる。この工程によるときは、ロール上に保持される溶融状態にある溶融重縮合反応物と外気との界面の更新が継続して行われるため、当該部分における本発明に係る窒素気流使用の効果が大きい。また、解砕した固化物について、窒素気流による冷却を行い所定時間内に所定の温度に到達させることも好ましい方法である。
【0029】
本発明の製造方法によって得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは、融点が320℃以上であって耐熱性に優れるだけでなく色相劣化が改良された新規なものである。
【0030】
本発明の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを含むLED用リフレクターは、周知の方法、たとえば、ルチル型酸化チタンを配合して組成物を得、これを射出成形等の成形手段によって成形することによって得られる。
【実施例】
【0031】
(溶融重縮合工程)
ダブルヘリカル型攪拌羽を有し、内容積が1.7m3の、SUS316L(ステンレス鋼)製の反応槽に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)298.3kg(2.16キロモル)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル(本州化学工業株式会社製)134.1kg(0.72キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)89.7kg(0.54キロモル)、イソフタル酸(エイジーインターナショナル社製)29.9kg(0.18キロモル)、触媒として酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.11kg、酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.04kgを仕込んだ。そして、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換した後、無水酢酸385.9kg(3.78キロモル)を添加し、攪拌翼の回転数45rpmで150℃まで1.5時間で昇温して還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で昇温して310℃まで昇温し、発生する酢酸を除去しながら重合反応を5時間20分行った。
【0032】
ついで、反応槽系を密閉し、その系内を窒素で14.7N/cm2(1.5kgf/cm2)に加圧し、反応槽内の質量約480kgの溶融重縮合反応生成物である低重合度全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを、反応槽の底部の抜出し口から抜出し後述の冷却固化装置に供給した。このときの溶融重縮合反応生成物の温度は310℃であった。
【0033】
(冷却固化工程)
冷却固化装置として、特開2002−179979に従い、直径630mmの一対の冷却ロール、ロール間距離2mm、距離1800mmの一対の堰を有する装置を用いた。該一対の冷却ロールを18rpmの回転数で対向回転させ、該一対の冷却ロールと該一対の堰とで形成された凹部に、重縮合反応槽から抜出された流動状態の溶融重縮合反応生成物を徐々に供給し、該凹部内に保持させつつ、該一対の冷却ロール内の冷却水の流量を調整してロール表面温度を調整し、ロール間を通過直後に冷却固化した低重合度サーモトロピック液晶ポリエステルの表面温度は220℃であった。得られた厚み2mmのシート状の固化物を解砕機(日空工業株式会社製)により、おおよそ50mm角に解砕した。
【0034】
コンテナ2基に上記解砕機で処理した固化物を約80容量%まで充填した。コンテナは1100mm×1100mm×1100mmの直方体で、下部より700mm部分が45°角錐状に切り取られた形状で、下部に窒素流入口を設け、上部には窒素の抜き出し口を設け、導管を接続させて酢酸系化合物トラップに接続した物を用いた。コンテナ下部から窒素を流入させ、解砕物の隙間を通過し、上部の窒素排出口から排出するように、窒素を流した。実施例1〜3および比較例1は表1に示す流量を用いた。比較例2は、窒素気流の代わりに空気(エアー)を用いた。比較例3は、窒素気流も空気を流さず、放冷した。
【0035】
コンテナ内に設置された、解砕物充填層の上部、中部、下部のそれぞれの温度を1時間毎に測定した。総ての温度が50℃以下になった時間を50℃到達時間とし、冷却固化工程を終了した。実施例、比較例の50℃到達時間を表1に示す。
【0036】
(粉砕工程および固相重縮合工程)
この解砕物を、ホソカワミクロン株式会社製のフェザーミルを用いて1mmメッシュで粉砕した、固相重縮合用原料を得た。粉砕物は、目開き1mmのメッシュを通過するものであった。該粉砕物をロータリーキルンに収納し、窒素雰囲気中で、窒素流通下、室温から170℃まで3時間かけて昇温した後、280℃まで5時間かけて昇温し、さらに、300℃まで3時間かけて昇温して固相重縮合を行い、全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを得た。
【0037】
(色相劣化の測定)
このようにして得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル70質量部、旭ファイバーグラス株社製ガラスファイバーPX−1(平均長さ3mm、平均系10μ)30質量部をリボンブレンダーで混合し2軸押出機(池貝鉄工株式会社製、PCM−30)で最高バレル温度370℃で溶融混練し、ペレタイズした。これを成形材料として、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH−1000)を使用してバレル温度350℃、金型温度80℃の成形条件で、60mm×60mm×1mmのΔE評価用サンプルを得た。ΔEの評価はJISZ8729に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示したように、冷却固化工程での窒素気流による冷却および50℃到達時間の両方の要件を満たした実施例1〜3は、これらの要件を満たさない比較例よりも色相劣化が改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルは従来の良好な成形性および耐熱性を損なうことなく、色相劣化が改善されたものであるので、これまで色相の問題で使用が限られていた光学部品の素材として利用可能性を拡大することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ヒドロキシカルボン酸を含む原料を用い、アセチル化工程、溶融重縮合工程、該溶融重合工程の生成物を冷却し固化する冷却固化工程、固化物を粉砕する工程および固相重縮合工程をこの順序で含む全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを製造する方法であって、該冷却固化工程において窒素気流により冷却する手段を含み、かつ該溶融重縮合工程から生成物が抜出されてから20時間以内に50℃以下とすることを特徴とする全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記アセチル化工程と前記溶融重縮合工程とが同一の反応槽内で行われることを特徴とする請求項1に記載の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記冷却固化工程が、平行な回転軸を有する一対の冷却ロールおよび該冷却ロール上に一対の堰を有する装置を使用し、溶融状態にある溶融重縮合工程の反応物を、該冷却ロール上に溜まり部を形成しながら、該冷却ロール間を通過させる工程を含むことを特徴とする請求項1あるいは請求項2のいずれかに記載の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の方法で得られた全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステル。
【請求項5】
請求項4記載の全芳香族サーモトロピック液晶ポリエステルを含むLEDリフレクター。

【公開番号】特開2007−182505(P2007−182505A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1675(P2006−1675)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】