説明

全身的な癌処置のためのEGFRホーミング二本鎖RNAベクター

二本鎖RNA (dsRNA)分子とEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとを含む上皮成長因子受容体(EGFR)ホーミングベクターが、EGFRを過剰発現する癌の免疫細胞と組み合わせた処置における使用のために開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌治療の分野におけるものであり、EGFR過剰発現癌細胞にdsRNAを特異的に標的化し、その結果、EGFR過剰発現腫瘍の処置のために免疫系を動員することが可能なEGFR結合剤と二本鎖RNA (dsRNA)とを含むベクターに関する。
【0002】
略称: dsRNA: 二本鎖RNA; EGF: 上皮成長因子; EGFR: EGF受容体; PBMC: 末梢血単核球細胞; PEG: ポリ(エチレングリコール); PEI: ポリエチレンイミン; pIC、ポリIC: ポリイノシン酸-ポリシチジル酸二本鎖RNA; pIC/MPPE: ポリIC/メリチン-分岐ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-EGF; pIC/PPE: ポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-EGF; pIC/PPGE11: ポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-(ペプチド)GE11。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
上皮成長因子受容体(EGFR)は、非小細胞肺癌、乳癌、膠芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、結腸直腸癌、腺癌、卵巣癌、膀胱癌および前立結腸直腸癌を含む種々の固形ヒト腫瘍において過剰発現している(Hynes et al., 2009)。米国癌協会の新規癌症例および死亡プロジェクトの年間概算によると、2008年に米国において1,437,180件の新規癌症例が存在し、565,650人が癌により死亡している。多くの癌による死亡の原因は、癌の内部器官への転移であり、それは、事実上、慣用的な方法により処置することが困難である。すべての癌関連死のかなりの割合は、EGFRの過剰発現を伴う。したがって、EGFRは、標的化癌治療のための最も重要な候補の1つである。
【0004】
2つの最も進んだEGFR標的化治療は、小膜透過(small membrane permeable)EGFRキナーゼ阻害剤および抗EGFR抗体であり、それは、受容体活性を妨害し、および/または受容体の下方調節を生じる。これらの試薬は、一時的もしくは部分的な緩和を誘導し、いくらかの生存ベネフィットを与えるが、実際に患者を治癒しない。これは、多くの場合に、EGFRが標的化癌細胞の生存のために重要ではないとの理由によるものであり得る。
【0005】
合成ポリイノシン酸-ポリシチジル酸二本鎖RNAであるポリICは、既知の細胞毒性剤である。非標的化ポリICの腫瘍内もしくは腫瘍周辺への投与は、抗腫瘍免疫治療おいて有効であることが示されている(Fujimura et al., 2006)。癌を処置するための非標的化ポリICの全身適用の試みにより示されているとおり、そのような処置は、局所的腫瘍のみに限定される。生存ベネフィットは最低であり、深刻な全身毒性が観察された(Butowski et al., 2009; Salazar et al., 1996)。弱い効果は、おそらく十分な量のポリICの腫瘍細胞への導入の失敗により生じるものであった。非標的化ポリICの多くは、おそらく正常な組織を介してまき散らされ、非癌細胞に入り込み、毒性反応を誘導する。
【0006】
我々は、最近、EGFRの活性自体ではなく、腫瘍の唯一の弱点としてEGFRの高発現レベルを利用する戦略を開発した。これは、ポリICで標識されたEGFRホーミング化学的ベクターを用いて達成された(Shir et al., 2006; WO 04/045491)。頭蓋内で増殖したEGFR過剰発現膠芽細胞腫 (〜1× 106 受容体/細胞)ならびにヌードマウスにおいて異種移植片として増殖させたEGFR過剰発現乳癌および表皮癌へのポリIC/メリチン-ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-EGF (ポリIC/MPPE)の腫瘍内適用は、これらの局所的腫瘍を完全に消失させ、マウスを治癒させた。さらに、野生型EGFRを過剰発現する細胞およびベクターを内在化しない突然変異体EGFRvIIIを有する細胞の1:1混合物を含む腫瘍がまた完全に根絶された。この「バイスタンダー効果(bystander effect)」は、ポリIC/MPPEを投与された腫瘍細胞により腫瘍部位において産生される抗増殖性サイトカイン、例えば、インターフェロン-αによるものであった。
【発明の概要】
【0007】
発明の要約
本発明は、二本鎖RNA (dsRNA)分子とEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとを含む、EGFRを過剰発現する癌の免疫細胞と組み合わせた処置における使用のための上皮成長因子受容体(EGFR)ホーミングベクターに関する。
【0008】
本発明はさらに、EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌を処置する方法であって、
(i) EGFRを過剰発現する腫瘍細胞にベクターを標的化することが可能なEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとdsRNA分子とを含むEGFRホーミングベクター; および
(ii) 免疫細胞
の組み合わせを、それを必要とする患者に全身投与することを含む、方法に関する。
【0009】
特定の態様において、本発明は、薬学的に許容される担体および二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターを含む、全身投与用医薬組成物を提供する。
【0010】
他の特定の態様において、本発明は、EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌を処置する方法であって、二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターの有効量を、それを必要とする患者に全身投与することを含む、方法を提供する。
【0011】
特定の態様において、EGFRホーミングベクターはさらに、例えばポリエチレングリコール(PEG)と共有結合したポリエチレンイミン(PEI)からなる核酸担体を含み、dsRNAは、担体のPEI部分と非共有結合したポリICであり、EGFR結合ペプチドまたはポリペプチドは、EGFまたは担体のPEG部分と共有結合したペプチドGE11である。
【0012】
本発明のベクター、組成物および方法は、非小細胞肺癌、乳癌、膠芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、結腸直腸癌、腺癌、卵巣癌、膀胱癌および前立結腸直腸癌、ならびにその転移癌からなる群から選択される癌の処置のためであることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】図1A-Cは、PBMCがポリIC/MPPE導入MDA-MB-468およびA431細胞の培地により選択的に活性化されることを示す棒グラフである。「方法」において記載されたとおり、500,000個のPBMCを24ウェルプレートに播種し、0.5 mlの培地中、一晩増殖させた。次いで、ポリIC/ PEI-PEG-EGF+PEI-Melを導入したA431、MDA-MB-468、U87MGまたはU138MG細胞から、導入の48時間後に取り出された0.5 mlの培地を用いて、PBMCをチャレンジした。チャレンジの24および48時間後にPBMC培地を回収し、ELISAアッセイを用いて、IFN-γ、IL-2およびTNF-αを測定した。(1A) チャレンジの24および48時間後におけるPBMCの培地中のIL-2の発現。(1B) チャレンジの48時間後におけるPBMCの培地中のIFN-γの発現。(1C) チャレンジの48時間後におけるPBMCの培地中のTNF-αの発現。「処理なし」は、非チャレンジPBMCにおけるサイトカインの発現を示す。「UT」は、非導入細胞の培地を用いてチャレンジされたPBMCによるサイトカインの発現を示す。コントロールとして、ポリグルタミン酸(pGlu)/MPPEを適用した。
【図1−2】図1A-Cは、PBMCがポリIC/MPPE導入MDA-MB-468およびA431細胞の培地により選択的に活性化されることを示す棒グラフである。「方法」において記載されたとおり、500,000個のPBMCを24ウェルプレートに播種し、0.5 mlの培地中、一晩増殖させた。次いで、ポリIC/ PEI-PEG-EGF+PEI-Melを導入したA431、MDA-MB-468、U87MGまたはU138MG細胞から、導入の48時間後に取り出された0.5 mlの培地を用いて、PBMCをチャレンジした。チャレンジの24および48時間後にPBMC培地を回収し、ELISAアッセイを用いて、IFN-γ、IL-2およびTNF-αを測定した。(1A) チャレンジの24および48時間後におけるPBMCの培地中のIL-2の発現。(1B) チャレンジの48時間後におけるPBMCの培地中のIFN-γの発現。(1C) チャレンジの48時間後におけるPBMCの培地中のTNF-αの発現。「処理なし」は、非チャレンジPBMCにおけるサイトカインの発現を示す。「UT」は、非導入細胞の培地を用いてチャレンジされたPBMCによるサイトカインの発現を示す。コントロールとして、ポリグルタミン酸(pGlu)/MPPEを適用した。
【図2】図2A-Dは、免疫細胞がポリIC/MPPE+PBMC処理EGFR過剰発現腫瘍に浸潤するが、U138MG細胞(EGFRの発現なし)には浸潤しないことを示す。SCID-NODマウスの右脇腹にA431 (2A)またはMDA-MB-468 (2B)細胞を、左脇腹にU138MG (2C-2D)を皮下投与(s.c.)した(図2Aと図2Cを比較し、図2Bと図2Dを比較する)。腫瘍が約100 mm3に達したときに、3回の5 μg/マウス/日のポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理を開始した。最後のポリIC/MPPE投与の24時間後に、3百万個のPBMCを腹腔内投与し、24時間後に腫瘍を抽出し、4% ホルマリンで固定した。次いで、パラフィン切片を調製し、H&Eで染色し、組織病理学的解析にかけた。破線は、免疫細胞浸潤の領域を示す。
【図3−1】図3A-Dは、PBMC仲介バイスタンダー効果を示す。(図3A) PBMC仲介バイスタンダー効果を証明するために、100,000個のMDA-MB-468細胞を6ウェルプレートに播種し、2 mlの培地中、一晩増殖させた(Shir et al., 2006)。次いで、既定の濃度でポリIC/MPPEを細胞に導入した。導入の48時間後、0.5 mlの導入細胞からの培地(「条件培地」)を、24時間前に24ウェルプレートに播種され、0.5 mlの培地中で増殖させた500,000個のPBMCに加えた。次いで、0.1 mlのチャレンジされたPBMCからの培地を、24時間前に播種された0.1 mlのさらなる非導入MDA-MB-468細胞(「指標細胞」)からの培地で交換した。PBMCからの培地でのチャレンジの48時間後に、これらの細胞の生存をメチレンブルーアッセイにより決定した(グラフ中の黒色のバー)。同時に、直接のバイスタンダー効果を示すために、0.1 mlの条件培地を用いて、24時間前に96ウェルプレートに播種され、0.2 mlの培地で増殖させた非導入MDA-MB-468細胞(「指標細胞」)からの0.1 mlの培地と置換した。これらの細胞の生存を、メチレンブルーを用いて、条件培地の添加の48時間後に決定した(斜線のバー)。図3Bは、非導入U138MG細胞についてのポリIC導入MDA-MB-468細胞のバイスタンダー効果を示し、図3C-3Dは、非導入A431細胞および非導入U138MG細胞それぞれについてのポリIC導入A431細胞のバイスタンダー効果を示す。「処理なし」は、培地交換が全く行われなかった指標細胞の生存を示す。「PBMC UT」は、非チャレンジPBMCからの培地で処理された指標細胞の生存を示す。「UT」は、非導入細胞の培地によりチャレンジされたPBMCからの培地で処理された指標細胞の生存を示す。「PBMCなし」(灰色のバー)は、条件培地をPBMCの非存在下でPBMC増殖培地に加えたときの生存を示し、これを用いて、48時間後に指標細胞をチャレンジした。この最後のコントロールを用いて、PBMCの非存在下、PBMC培地でのインキュベーション後の条件培地の考えられる残りの直接のバイスタンダー効果を検出した。
【図3−2】図3A-Dは、PBMC仲介バイスタンダー効果を示す。(図3A) PBMC仲介バイスタンダー効果を証明するために、100,000個のMDA-MB-468細胞を6ウェルプレートに播種し、2 mlの培地中、一晩増殖させた(Shir et al., 2006)。次いで、既定の濃度でポリIC/MPPEを細胞に導入した。導入の48時間後、0.5 mlの導入細胞からの培地(「条件培地」)を、24時間前に24ウェルプレートに播種され、0.5 mlの培地中で増殖させた500,000個のPBMCに加えた。次いで、0.1 mlのチャレンジされたPBMCからの培地を、24時間前に播種された0.1 mlのさらなる非導入MDA-MB-468細胞(「指標細胞」)からの培地で交換した。PBMCからの培地でのチャレンジの48時間後に、これらの細胞の生存をメチレンブルーアッセイにより決定した(グラフ中の黒色のバー)。同時に、直接のバイスタンダー効果を示すために、0.1 mlの条件培地を用いて、24時間前に96ウェルプレートに播種され、0.2 mlの培地で増殖させた非導入MDA-MB-468細胞(「指標細胞」)からの0.1 mlの培地と置換した。これらの細胞の生存を、メチレンブルーを用いて、条件培地の添加の48時間後に決定した(斜線のバー)。図3Bは、非導入U138MG細胞についてのポリIC導入MDA-MB-468細胞のバイスタンダー効果を示し、図3C-3Dは、非導入A431細胞および非導入U138MG細胞それぞれについてのポリIC導入A431細胞のバイスタンダー効果を示す。「処理なし」は、培地交換が全く行われなかった指標細胞の生存を示す。「PBMC UT」は、非チャレンジPBMCからの培地で処理された指標細胞の生存を示す。「UT」は、非導入細胞の培地によりチャレンジされたPBMCからの培地で処理された指標細胞の生存を示す。「PBMCなし」(灰色のバー)は、条件培地をPBMCの非存在下でPBMC増殖培地に加えたときの生存を示し、これを用いて、48時間後に指標細胞をチャレンジした。この最後のコントロールを用いて、PBMCの非存在下、PBMC培地でのインキュベーション後の条件培地の考えられる残りの直接のバイスタンダー効果を検出した。
【図3−3】図3A-Dは、PBMC仲介バイスタンダー効果を示す。(図3A) PBMC仲介バイスタンダー効果を証明するために、100,000個のMDA-MB-468細胞を6ウェルプレートに播種し、2 mlの培地中、一晩増殖させた(Shir et al., 2006)。次いで、既定の濃度でポリIC/MPPEを細胞に導入した。導入の48時間後、0.5 mlの導入細胞からの培地(「条件培地」)を、24時間前に24ウェルプレートに播種され、0.5 mlの培地中で増殖させた500,000個のPBMCに加えた。次いで、0.1 mlのチャレンジされたPBMCからの培地を、24時間前に播種された0.1 mlのさらなる非導入MDA-MB-468細胞(「指標細胞」)からの培地で交換した。PBMCからの培地でのチャレンジの48時間後に、これらの細胞の生存をメチレンブルーアッセイにより決定した(グラフ中の黒色のバー)。同時に、直接のバイスタンダー効果を示すために、0.1 mlの条件培地を用いて、24時間前に96ウェルプレートに播種され、0.2 mlの培地で増殖させた非導入MDA-MB-468細胞(「指標細胞」)からの0.1 mlの培地と置換した。これらの細胞の生存を、メチレンブルーを用いて、条件培地の添加の48時間後に決定した(斜線のバー)。図3Bは、非導入U138MG細胞についてのポリIC導入MDA-MB-468細胞のバイスタンダー効果を示し、図3C-3Dは、非導入A431細胞および非導入U138MG細胞それぞれについてのポリIC導入A431細胞のバイスタンダー効果を示す。「処理なし」は、培地交換が全く行われなかった指標細胞の生存を示す。「PBMC UT」は、非チャレンジPBMCからの培地で処理された指標細胞の生存を示す。「UT」は、非導入細胞の培地によりチャレンジされたPBMCからの培地で処理された指標細胞の生存を示す。「PBMCなし」(灰色のバー)は、条件培地をPBMCの非存在下でPBMC増殖培地に加えたときの生存を示し、これを用いて、48時間後に指標細胞をチャレンジした。この最後のコントロールを用いて、PBMCの非存在下、PBMC培地でのインキュベーション後の条件培地の考えられる残りの直接のバイスタンダー効果を検出した。
【図4】図4A-Cは、活性化PBMCによるインビトロ癌細胞殺傷を示す。「方法」において記載されたとおり、細胞を増殖させた。次いで、0.1 μg/mlでのポリIC/MPPEを細胞に導入した。24時間後に、500,000個のPBMC/ウェルを癌細胞に加えて、さらに24時間、共インキュベートした。Annexin-V-Biotinキット(Biosource, Inc.)を用いて、アポトーシス細胞(明るい点)を視覚化した。腫瘍細胞をPBMCと区別するために、腫瘍細胞をFITC共役EGFR抗体(Biosource, Inc.)で標識した(灰色の細胞)。蛍光顕微鏡で細胞を視覚化し、デジタルカメラで写真を撮った。A431細胞、MDA-MB-468細胞およびU138MG細胞をそれぞれ図4A、4Bおよび4Cに示す。
【図5−1】図5A-Eは、播種性腫瘍を有するマウスの生存についてのポリIC/MPPE/PBMCの効果を示す。「方法」において記載されたとおり、播種性腫瘍を確立した。(5A) 処理開始時(細胞注入の15日後)におけるマウス肺の組織病理学的解析。矢印は、肺毛細血管における腫瘍を示す。(5B、5C) 細胞注入の15日後に、無作為に動物を群に分けて(5匹のマウス/群)、24時間間隔で、4回の20μgのポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理を開始した。最後のポリIC注入の24時間後、4百万個のPBMCを1回、該動物に注入した。(5B)は、A431腫瘍を有する動物の生存を示す。(5C)は、MDA-MB-468腫瘍を有する動物の生存を示す。pGlu/MPPEは、ポリグルタミン酸/MPPEを示し、UTは、非処理を示す。(5D、5E) 細胞注入の10日後に、無作為に動物を群に分けて(5匹のマウス/群)、24時間間隔で、3または4回の20μgのポリIC/MPPEの連続的静脈内投与(3サイクル)で処理を開始した(全10回の注入)。サイクルの間隔は、48時間であった。この手順は、体重減少のような処理の毒性効果を除去した(データは、示していない)。コントロール群は、pGlu/MPPE (ポリグルタミン酸/MPPE)で処理されたマウスを含んでおり、ポリICなしの複合体およびHBG緩衝液(Hepes緩衝液グルコース)(2)の効果を決定した。(5D)は、A431腫瘍を有する動物の生存を示す。 (5E)は、MDA-MB-468腫瘍を有する動物の生存を示す。UTは、非処理を示す。
【図5−2】図5A-Eは、播種性腫瘍を有するマウスの生存についてのポリIC/MPPE/PBMCの効果を示す。「方法」において記載されたとおり、播種性腫瘍を確立した。(5A) 処理開始時(細胞注入の15日後)におけるマウス肺の組織病理学的解析。矢印は、肺毛細血管における腫瘍を示す。(5B、5C) 細胞注入の15日後に、無作為に動物を群に分けて(5匹のマウス/群)、24時間間隔で、4回の20μgのポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理を開始した。最後のポリIC注入の24時間後、4百万個のPBMCを1回、該動物に注入した。(5B)は、A431腫瘍を有する動物の生存を示す。(5C)は、MDA-MB-468腫瘍を有する動物の生存を示す。pGlu/MPPEは、ポリグルタミン酸/MPPEを示し、UTは、非処理を示す。(5D、5E) 細胞注入の10日後に、無作為に動物を群に分けて(5匹のマウス/群)、24時間間隔で、3または4回の20μgのポリIC/MPPEの連続的静脈内投与(3サイクル)で処理を開始した(全10回の注入)。サイクルの間隔は、48時間であった。この手順は、体重減少のような処理の毒性効果を除去した(データは、示していない)。コントロール群は、pGlu/MPPE (ポリグルタミン酸/MPPE)で処理されたマウスを含んでおり、ポリICなしの複合体およびHBG緩衝液(Hepes緩衝液グルコース)(2)の効果を決定した。(5D)は、A431腫瘍を有する動物の生存を示す。 (5E)は、MDA-MB-468腫瘍を有する動物の生存を示す。UTは、非処理を示す。
【図6】図6は、ベクターpIC/MPPEおよびpIC/PPEを導入された細胞の生存について該ベクターの効果を示す用いられた細胞は、異なるレベルのEGFRを発現するU87MGおよびMDA-MB468 (各4000個の細胞) (U87MGは、1x105個のEGFRを発現し、MDA-MB468は、2x106個のEGFRを発現する)ならびにEGFRを発現しないU138MG (3000個の細胞)であった。細胞を96ウェルプレートに播種し、一晩増殖させた。次いで、複合体MP25BrPEまたはP22lPEで製剤化されたpICを細胞に導入した。導入の48時間後、細胞の生存をメチレンブルーアッセイにより解析した。UTは、非処理細胞を示す。pGluは、ポリグルタミン酸処理細胞を示す。
【図7】図7は、ベクターpIC/PPEおよびpIC/PPGE11が導入された細胞の生存について該ベクターの効果を示す。使用された細胞は、異なるレベルのEGFRを発現するMCF7、MDA-MB231 (MDA231)、U87MG、U87MGwtEGFRおよびMDA-MB468 (MDA468) (各4000個の細胞) (MDA231は3-7x105個、U87MGは1x105個、MDA468は2x106個のEGFRを発現する)、ならびにEGFRを発現しないU138MG (3000個の細胞)であった。96ウェルプレートに細胞を播種し、一晩増殖させた。次いで、複合体P25lPEまたはP25lPGE11で製剤化されたpICを細胞に導入した。導入の48時間後にメチレンブルーアッセイにより細胞の生存を解析した。UTは、非処理細胞である。
【図8−1】図8A-Bは、ヌードマウス内の皮下投与されたA431増殖についてインビボにおける異なるベクター(pGlu/MPPE、pGlu/PPE、pIC/MPPEおよびpIC/PPE)の効果を示す。図8Aで示される実験のために、雌の4-5週齢マウスに200 μl PBS中の2百万個のA431細胞(高レベルのEGFRを発現するヒト上皮癌細胞株)を皮下投与した。腫瘍が〜80 mm3に達したときに、マウスを5つの群に分けた(5匹/群)。48時間毎に既定の複合体で製剤化された10 μgのpICを静脈内投与した。図8Bで示される実験のために、雌の6-7週齢マウスに100 μl PBS中の2百万個のU138MG細胞を皮下投与した。腫瘍が〜75 mm3に達したときに、マウスを3つの群に分けた(9匹/群)。次いで、既定量のpIC/P22lPEをマウスに静脈内投与した(48時間毎に1回、10または25 μg/マウス)。pGluは、ポリグルタミン酸を示す。
【図8−2】図8A-Bは、ヌードマウス内の皮下投与されたA431増殖についてインビボにおける異なるベクター(pGlu/MPPE、pGlu/PPE、pIC/MPPEおよびpIC/PPE)の効果を示す。図8Aで示される実験のために、雌の4-5週齢マウスに200 μl PBS中の2百万個のA431細胞(高レベルのEGFRを発現するヒト上皮癌細胞株)を皮下投与した。腫瘍が〜80 mm3に達したときに、マウスを5つの群に分けた(5匹/群)。48時間毎に既定の複合体で製剤化された10 μgのpICを静脈内投与した。図8Bで示される実験のために、雌の6-7週齢マウスに100 μl PBS中の2百万個のU138MG細胞を皮下投与した。腫瘍が〜75 mm3に達したときに、マウスを3つの群に分けた(9匹/群)。次いで、既定量のpIC/P22lPEをマウスに静脈内投与した(48時間毎に1回、10または25 μg/マウス)。pGluは、ポリグルタミン酸を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
特定の態様において、本発明は、細胞毒性能および細胞貫通能について既知の薬剤であるdsRNA分子とEGFRを過剰発現する腫瘍細胞にベクターを標的化することが可能なEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとを含む、EGFR過剰発現腫瘍の免疫細胞と組み合わせた処置における使用のためのEGFRホーミングベクターを提供する。
【0015】
特定の他の態様において、本発明は、EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌を処置する方法であって、
(i) EGFRを過剰発現する腫瘍細胞にベクターを標的化することが可能なEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとdsRNA分子とを含むEGFRホーミングベクター; および
(ii) 免疫細胞
の組み合わせを、それを必要とする患者に全身投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
本発明における使用のためのdsRNA分子は、各鎖において異なるが、好ましくは同じ数のリボヌクレオチドを含み得る合成二本鎖分子である。dsRNA分子の各鎖は、イノシネート(I)、シチジレート(C)、アデニレート(A)、グアニレート(G)およびウリジレート(U)を含む、同じであるか、または異なる型のリボヌクレオチドを含み得る。特定の好ましい態様において、各鎖は、単一型のリボヌクレオチドからなり、より好ましくは、2つの鎖のリボヌクレオチドは、一致するリボヌクレオチド対、例えば、アデニレート-ウリジレートまたはイノシネート-シチジレート対である。
【0017】
特定の好ましい態様において、dsRNAは、完全に一致するリボヌクレオチド対からなり、より好ましくは、イノシネート(I)-シチジレート(C)対からなる。したがって、dsRNA分子は、ポリイノシン酸鎖およびポリシチジル酸鎖を含み、本明細書において「pIC」の「ポリIC」として示される。ポリICは、細胞毒性サイトカインの放出を刺激することができ、インターフェロン-γ産生を誘導することにより種々の免疫造血細胞の数および殺腫瘍活性を増大させ得る。
【0018】
本発明のベクターのポリICは、RNA鎖からなり得て、各鎖は、少なくとも22個、好ましくは少なくとも85個のリボヌクレオチドを含み得る。特定の態様において、各鎖は、100-300個の範囲内のリボヌクレオチドの数を有する。
【0019】
EGFRを過剰発現する腫瘍細胞にベクターを標的化することが可能なEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドは、ポリペプチド、例えば、EGF自体であり得る。特定の態様において、EGFR結合ペプチドは、EGFRのためのペプチドリガンドであり、例えば、ファージライブラリーから単離され、合成され、EGFと競合的にEGFRに結合することが示された配列YHWYGYTPQNVIの12-merのペプチドGE11である(Li et al., 2005; Song et al., 2008)。
【0020】
dsRNAは、好ましくは、ベクターの標的化部分と非共有結合している。これは、標的化細胞/組織への到達および腫瘍細胞/組織への内在化後に標的化部分からのdsRNAの解離を促進し、免疫細胞を腫瘍部位に動員するケモカインの産生を生じる。
【0021】
ポリICと標的化分子との非共有結合は、好ましくは、dsRNA分子と標的化部分の両方に結合する核酸担体により達成される。
【0022】
核酸担体は、ポリカチオン性ポリマーおよび/または非イオン性水溶性ポリマーを含んでいてもよい。
【0023】
核酸担体として使用され得るポリカチオン性ポリマーは、ポリ-L-リシン、または好ましくは、ポリエチレンイミン(PEI)を含む。PEIは、二本鎖RNA分子のポリアニオン的な性質のために二本鎖RNA分子と非共有的に結合する能力を有するポリカチオン性ポリマーであり、それによりdsRNA分子の負帯電を中和し、その結果、アニオン性分子と化学的に相互作用するdsRNAの任意の傾向を弱める。細胞にポリヌクレオチドを導入することにおけるポリエチレンイミンの使用は、当分野において既知であるが、その伝統的な使用において、ポリエチレンイミンは、細胞膜にdsRNAを送達し、該細胞膜に接着し、エンドソーム取り込みを受け、次いで、エンドソーム膜が破壊されるとdsRNAの細胞質送達を受ける。対照的に、本発明において、dsRNAの癌細胞表面上のEGFR受容体への標的化および結合は、dsRNAの内在化のための主な手段である。
【0024】
本発明における核酸担体としての使用のための非イオン性水溶性ポリマーは、好ましくは、生体適合性があり、かつ、生物学的に不活性であり、インビボで薬剤を送達するために広く使用されているポリ(エチレングリコール) (PEG)である。
【0025】
特定の好ましい態様において、本発明において使用されるdsRNA担体は、ポリエチレンイミン(PEI)およびPEIと共有結合したポリエチレングリコール(PEG)を含む。PEGは、該複合体に優れた水溶性および組織分布を与えて、その血清半減期を増大させる。
【0026】
PEIは、分岐または直鎖であってもよく、約1-25 kDa、約5-23 kDa、約15-25 kDaから選択される分子量を有し、PEGは、約0.3-50 kDa、約1-20 kDa、約3-10 kDaから選択される分子量を有する。特定の態様において、dsRNA担体は、25 kDaの分岐PEIを含む。特に好ましい態様において、dsRNA担体は、3、4 kDaのPEGと共有結合した22 kDaの直鎖PEIからなる。
【0027】
ベクターの標的化部分、すなわち、EGFR結合ペプチドまたはポリペプチドは、好ましくは、PEI-PEG複合体のPEG部分と共有結合し、ポリICは、例えばイオン会合によりPEI部分と非共有結合する。
【0028】
特定の態様において、核酸担体はさらに、エンドソーム膜の分解を促進し、その結果、標的細胞/組織エンドソームから細胞質(そこで、dsRNAは、最適には細胞毒性を仲介する)へのdsRNA分子の放出を促進することが可能な化合物を含む。特定の態様において、この化合物は、メリチンまたはメリチン誘導体であり、好ましくは、dsRNA担体のポリエチレンイミンと共有結合する。
【0029】
本発明により使用され得るEGFRホーミングベクターは、例えば、本明細書においてpIC/MPPE (Shir et al., 2006およびWO 04/045491に記載されたポリIC/メリチン-分岐25kDa PEI-PEG-mEGFを含む)ならびに新規ベクターpIC/PPE (ポリIC/直鎖22kDa PEI-PEG-mEGFを含む)およびpIC/PPGE11 (ポリIC/直鎖22kDa PEI-PEG-ペプチドGE11を含む)として示されたベクターを含むが、これらに限定されない。
【0030】
したがって、特定の態様において、本発明は、本明細書において第2世代ベクター(それに対して、第1世代ベクターは、例えば、WO 04/045491に記載されたpIC/MPPEである)として特徴づけられた新規EGFRホーミングベクターpIC/PPEおよびpIC/PPGE11を提供する。
【0031】
第2世代ベクターは、メリチンを含まず、分岐PEIの代わりに直鎖PEIを含む。さらに、第2世代ベクターの1つにおいて、組み換えマウスEGF (mEGF)が12-merペプチドGE11で置換された。第1世代と比較した場合に第2世代の作製手順が単純化されたことに加えて、本発明者等はまた、分岐PEIの直鎖PEIでの置換が癌細胞の殺傷においてより高い効率を与えることを見出した。第2世代ベクターにおいて各直鎖PEI分子上に1個のみのEGF分子が存在するのに対して、第1世代ベクターの分岐PEI上にはいくつかのEGFが存在しており、第2世代ベクターについてEGFRに対するより弱い親和性が予期され得るので、この事実はかなり驚くべきことである。
【0032】
腫瘍が確立されるためには、それが免疫系による除去を避けなければならない。多くの癌は、免疫学的監視を妨害する機構を開発し、癌抗原を認識する免疫リンパ球の存在下においてさえ成長することができる。多くの理論が検証されているが、この局所的阻害の機構は明らかではない。有力なアジュバントであるポリICおよび強力な免疫アクチベーターであるインターフェロンは、この局所的阻害を克服するのに十分であり、他の免疫細胞を動員して活性化するのに加えて、既存の癌特異的免疫リンパ球を活性化し得る。
【0033】
我々は、以前に、EGFR標的化ポリICを導入した癌細胞が、免疫細胞を動員することが知られているサイトカインGro-α (成長制御癌遺伝子-α)およびIP-10を分泌することを示した(Shir et al., 2006)。しかしながら、これらのサイトカインが、実際に免疫細胞が癌細胞の部位に蓄積するのに十分な量で分泌されるか否かは明らかではなかった。
【0034】
本発明により、標的化ポリICにより誘導されるこれらのサイトカインが、トランスフェクションされた腫瘍に免疫細胞を動員し、癌細胞が殺傷される効率を強力に促進することが見出された。これは、低用量のEGFR標的化ポリICを用いて遠方から処理されたときでさえ、顕著な相乗効果を誘導し、播種性腫瘍の完全な除去を生じる(実施例6を参照のこと)。活性化された免疫細胞は、異種癌の殺傷を促進し得るIFN-αにより引き起こされるバイスタンダー効果を強力に促進する(実施例4を参照のこと)。ポリIC/MPPEは選択的に癌細胞に標的化されるので、我々は、かなりの全身性免疫毒性反応が生じることを予期しない。マウスに注入されたヒトPBMCが任意の移植片対宿主反応を誘導しないが、強力な抗腫瘍反応を誘導するという事実は、この仮説を支持する。
【0035】
上記のとおり、非標的化ポリICの腫瘍内もしくは腫瘍周辺への投与は、抗腫瘍免疫治療において有効であることが証明されている(Fujimura et al., 2006)。そのような処置は、局所的腫瘍のみに限定される。対照的に、EGFR標的化ポリICは、局所的治療による処置が不可能な播種性腫瘍の処置において有効である。
【0036】
したがって、EGFR標的化ポリICは、本発明により示されるとおり、いくつかの癌免疫療法と組み合わせることができる。これらの癌免疫療法は、癌ワクチンおよび癌標的化(改変もしくは抽出された)T細胞を含む。インビボにおける抗腫瘍効果を仲介するために、癌標的化T細胞は、腫瘍部位に輸送され、循環血液から溢血し、次いで、エフェクター機能を仲介し、癌細胞の破壊を生じなければならない(Rosenberg, 2008)。腫瘍細胞特異的に標的化ポリICにより強力に誘導されるIP-10およびGro-αは(表2、3)、腫瘍への輸送および溢血を促進し得て、一方でインターフェロンは、T細胞仲介癌殺傷を仲介し得る。
【0037】
さらに、移植片対宿主反応を活性化する同種異系免疫細胞移植(Ciceri et al., 2007)は、本明細書に示された本発明のEGFRホーミングベクターと組み合わせることができる。本発明におけるポリIC/MPPE処理マウスへの外因性PBMCの注入は(図5B、C)、実際にそのような組み合わせに類似する。移植免疫細胞は、患者自身の免疫細胞よりも強力な抗腫瘍効果を与え得る。
【0038】
本発明のEGFRホーミングベクターと組み合わせて使用される免疫細胞の例は、腫瘍浸潤T細胞(TIL)、腫瘍特異的改変T細胞、または末梢血単核球細胞(PBMC)である。改変T細胞は、「Tボディ(T-bodies)」として既知の抗体様腫瘍認識能力を提示する腫瘍反応性T細胞受容体(TCR)またはキメラTCR分子を発現するように遺伝学的にリプログラミングさるか、または「リダイレクト(redirected)」された細胞である。Tボディ法は、抗体認識とT細胞エフェクター機能を組み合わせる。それは、リンパ球誘導分子と結合したそれらの細胞外認識エレメントとしての抗体誘導化FvまたはscFvからなるキメラ受容体を発現するT細胞に基づく。抗体とは異なり、T細胞は、固形腫瘍に侵入し、それを破壊するのに十分に適している。
【0039】
免疫細胞は、ベクターと同時に投与され得るが、好ましくは、ベクターおよび免疫細胞は、連続して投与される。特定の好ましい態様において、ベクターが最初に全身投与され、次いで、免疫細胞が望まれる間隔で投与される。重要なのは、ベクターおよび免疫細胞が腫瘍細胞の殺傷において相乗効果を示すことである。
【0040】
本発明のベクターとPBMCとの組み合わせを用いてマウスにおいて得られた実験結果の観点で、この組み合わせ療法は有益であり得て、機能的免疫系を有する癌患者において完全な治癒を生じ得る。
【0041】
したがって、我々は、初めて本明細書において、SCIDマウス(その免疫系は、ヒト末梢血リンパ球(PBMC)で再構成される)でのEGFR過剰発現播種性腫瘍を根絶するための戦略を示す。4日間のメリチン-ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-EGF (ポリIC/MPPE)の静脈内投与、次いで5日目に4百万個のPMBCの1回の腹腔内投与は、副作用を生じることなく、あらかじめ確立されたEGFR過剰発現播種性腫瘍を有するSCID-NODマウスの完全な治癒を誘導した。免疫細胞およびそれらが産生するサイトカインは、処理された動物の腫瘍部位に局在する。処理停止の12ヶ月後、処理されたマウスは、癌が消失し、健全である。我々はさらに、免疫系が内在化ポリICにより産生されるケモカインのために腫瘍部位に局在することを証明し、これは、ポリICを搭載したEFGRホーミングベクターが、EGFR過剰発現播種性腫瘍を有する患者を処置および場合により治癒するために免疫系を動員することを示す。
【0042】
本発明のEGFRホーミングベクター/免疫細胞の組み合わせは、EGFRの発現により特徴づけられる癌の処置において使用され得る。本明細書で使用される「発現」なる用語はまた、「過剰発現」なる用語を含むものとして理解されるべきであり、それは、その性質上、例えば表1に示されたとおり、相対的な遺伝子増幅または正常細胞上に存在する受容体の数と比較した場合の癌細胞上に存在する受容体の数を測定することによりしばしば当業者に評価される相対的な用語である。したがって、過剰発現は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、または免疫組織化学(IHC)アッセイにおける抗EGFR抗体を用いた陽性(1+、2+または3+)染色により決定されるとおり、2倍またはそれ以上のEGFR遺伝子の増幅として定義され得る。過剰発現を決定するために当分野にいて用いられる他の基準は、特異的抗体で標識された細胞膜の画分であり、したがって、EGFRの過剰発現は、少なくとも1%の膜染色および1+の強度、または少なくとも10%の膜染色として定義され得る。さらに、細胞は、EGFRを発現しないか、もしくは検出不能なレベルのEGFRを有する細胞、低レベル(約1000〜約100,00受容体/細胞)のEGFRを発現する細胞、中程度のレベル(約10,000〜約100,000受容体/細胞)のEGFRを発現する細胞および高レベル(約1x106またはそれ以上の受容体/細胞)のEGFRを発現する細胞に分類され得る。したがって、本発明の組み合わせを用いた処置に感受性のある癌は、EGFR遺伝子の2倍またはそれ以上の増幅、陽性(1+、2+または3+)IHCアッセイ、少なくとも1%または少なくとも10%の膜染色、中程度のレベルのEGFRにより特徴づけられる癌であり、好ましくは、高レベルのEGFRにより特徴づけられる癌細胞である。
【0043】
本明細書において使用される「癌を処置すること」なる用語は、癌細胞の成長の阻害を意味する。好ましくは、そのような処置はまた、腫瘍成長の退行、すなわち、サイズの減少または腫瘍の完全な退行を生じる。好ましい態様において、該用語は、播種性腫瘍、すなわち、転移癌の処置および軽減または完全な治癒を意味する。
【0044】
「腫瘍」および「癌」なる用語は、本明細書において交換して使用可能である。特に、本発明の組み合わせは、非小細胞肺癌、乳癌、膠芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、結腸直腸癌、腺癌、卵巣癌、膀胱癌および前立結腸直腸癌、ならびにその転移癌からなる群から選択されるEGFRを過剰発現する癌の処置において有用である。
【0045】
表1. さまざまな臨床試験におけるHER1/EGFR過剰発現/増幅の有病率
【表1】

【0046】
第1世代ベクターを用いた我々の以前の開示において(Shir et al., 2006)、我々は、ポリIC-EGFR標的化ベクターの腫瘍内注入による局所的腫瘍の根絶の成功を示した。これは、治療上有効量のベクターが腫瘍に到達し得るか否かについて全く不明であるために、ベクターの全身投与により播種性腫瘍を処置することが可能であり得ることを我々に示唆するものではない。
【0047】
我々は、現在、EGFR標的化ポリICの全身投与が驚くべき程低い濃度(10ng/ml pIC程の低用量)においてさえ腫瘍の根絶に有効である(当業者は、腫瘍において治療上有効なレベルで蓄積するのに十分な程の高用量であることを予期し得ない)ことを見出し、下記の実施例において初めてそれを示す。さらに、EGFR標的化ポリICの他の利点は、正常細胞には害を与えずに、癌細胞のみに作用することである。
【0048】
我々が以前に示したとおり、EGFR標的化ポリICベクターは、強力なバイスタンダー効果、すなわち、それがEGFR過剰発現細胞および周囲の腫瘍細胞(それらがEGFRまたはその突然変異型EGFRvIIIを発現するか否かに関わらない)を殺傷する作用を及ぼす。EGFR標的化ポリICが導入されたEGFR過剰発現細胞が、おそらくはバイスタンダー効果の少なくとも一部を生じる抗増殖性サイトカインIFN-αを分泌することが示された。EGFRの強い過剰発現を示す腫瘍においてさえ一般にはEGFR発現について異種であるので、これは極めて重要である。同時に、EGFR標的化ポリICは、極めて腫瘍細胞に特異的であり、周囲の正常組織および遠位の正常組織について最小限の毒性効果を示す。標的化ポリICは、迅速に複数の抗増殖/アポトーシス促進経路を活性化し、薬剤耐性を生じる突然変異の可能性を最小限にする。
【0049】
したがって、特定の態様において、本明細書に開示されるEGFRホーミングベクター(第1世代および第2世代ベクター)は、全身投与が意図される。
【0050】
したがって、本発明はさらに、薬学的に許容される担体および二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターを含む全身投与用医薬組成物を提供する。
【0051】
本発明はまたさらに、EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌を処置する方法であって、二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターの有効量を、それを必要とする患者に全身投与することを含む、方法を提供する。
【0052】
特定の態様において、本発明は、免疫系の動員によりEGFR過剰発現により特徴づけられる癌を処置する方法であって、二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターの治療上有効量を、それを必要とする対象に全身投与し、その結果、免疫細胞を腫瘍部位に動員するサイトカインを産生し、腫瘍細胞殺傷の効率を促進することを含む、方法に関する。
【0053】
本発明による使用のための医薬組成物は、賦形剤および助剤を含む1個またはそれ以上の薬学的に許容される担体を用いた慣用的な方法で製剤化され得る。製剤化および薬剤の投与のための技術は、例えば、“Remington's Pharmaceutical Sciences”, Mack Publishing Co., Easton, PA,の最新版において見出され得る。
【0054】
本発明の医薬組成物は、任意の適当な経路による全身投与のために、例えば筋肉内、静脈内、皮下、髄腔内もしくは腹腔内投与を含む非経腸送達のために製剤化される。
【0055】
本発明の方法において使用されるすべての組成物について、治療上有効量もしくは用量は、最初にインビトロおよび細胞培養アッセイから概算され得る。例えば、用量は、望まれる濃度または力価を達成するように動物モデルにおいて製剤化され得る。そのような情報は、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定するために使用され得る。下記の実施例において示されるとおり、5 μgベクター/マウス/日の用量が、マウスにおいてあらかじめ確立された腫瘍を根絶するのに十分であった。ヒトへの投与のための予期されるおよその等価用量(equivalent dose)は、既知の数式を用いて計算することができ、60 kgの成人について20 μg/kgまたは1.2mg/日、100 kgの成人について2.0mg/日であり得る。したがって、ヒトにおける全身投与の用量は、0.1 mg/日から20 mg/日の範囲内にあるべきである。
【0056】
本発明は、本明細書において下記の非限定的な実施例により例示される。
【実施例】
【0057】
実施例
下記の実施例において、ベクターは、略称で記載される。
【0058】
材料および方法
(i) 試薬およびアッセイ
Sigma (Rehovot, Israel)からポリICを入手した。分子量は、90,000から1,400,000の範囲においてロット間で変動し得て、平均200,000から500,000であり得る。一塩基対は、680 DaのMwを有するので、90,000 Da=133bp; 1,400,000 Da=2059bp; 200,000 Da=294bp; および500,000 Da= 735bp (Sigmaのウェブサイトから入手されたMW情報)である。それをジエチルピロカーボネート(DEPC)で処理された再蒸留H2Oに溶解した。ポリエチレンイミン(PEI)、PEI25、分岐およびスクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)をSigma-Aldrich (Munich, Germany)から購入した。NHS-PEG-MAL (MW 1/4 3400)をNektar Therapeutics (Huntsville, Alabama, USA)から入手し、組み換えマウスEGF (mEGF)をPepro Tech EC Ltd. (London, UK)から入手した。405 nmでのTNBSアッセイにより、複合体中のPEI量を分光学的に決定した。PEI中のジチオピリジンリンカーの量を、ジチオスレイトール(DTT)を用いたアリコートの還元、それに続く343 nmでの放出されたピリジン-2-チオンの吸収測定の後に決定した。mEGF:ジチオピリジンのモル比を、280および340 nmで分光学的に決定した。[6,7]に記載されたとおり、ジチオピリジンの量を決定した。下記の2つの式により、mEGF (mg)の収量を計算した。式1: A280 (a) = DTTでのA340 x 5.1/8.1。式2: A280 修正 = A280-A280 (a)。式2の結果は、mgでのmEGFの量であった。mEGF-SH中のメルカプト基を決定するために、Ellmanアッセイを用いた。Amersham Biosciences (Little Chalfont, UK)からのAeKTA基本系を用いて、複合体の液体クロマトグラフィーを行った。IRIS Biotech GmbH (Marktredwitz, Germany)からメリチン(Mel) (D-Mel-SH; e280 1/4 5570, MW 1/4 2893.6)を購入した。Sigma-Aldrichから直鎖PEIを含むすべての他の化学製品を購入した。
【0059】
pIC: 担体複合体構成要素
100-300リボヌクレオチド長のRNA鎖を有する合成ポリイノシン酸-ポリシチジル酸複合体(pIC)の形態でのdsRNAを、Pharmacia-Amershamから入手した。ベクターの作製のために、ポリICを本明細書に記載された複合体MPPE、PPEまたはPEGE11と混合する。RocheからFuGENE6トランスフェクション試薬を入手した。共有結合ポリエチレンイミン(PEI)2s-ポリ(エチレングリコール)(PEG)-上皮成長因子(EGF)およびPEh-メリチン(MEL)dsRNA担体を下記のとおり合成した。
【0060】
共有結合したPEI25-PEG-EGF担体(PPE)の作製
共有結合したPEI2s-PEG-EGF担体を製造するための一般的な手引きは、Current Protocols In Human Genetics, Supplement 11, Chapter: Vectors for Gene Therapy, 12.3.17; 12.3.18. John Wiley & Sons, Inc., 1996.において提供される。
【0061】
試薬
光散乱(PEh)およびSPDPにより決定された平均MW 25 kDaの分岐PElをSigma-Aldrich (Munich, Germany)から購入した。Nektar TherapeuticsからN-ヒドロキシスクシンイミジルポリエチレングリコールマレイミド(NHS-PEG-MAL, MW= .4 kDa)を入手した。適当な反応基を有する部分とPEGを結合させるために、化合物NHS-PEG-MALを用いる。Pepro Tech EC Ltd. (London, UK)から組み換えマウスEGFを購入した。
【0062】
液体クロマトグラフィー
Waters 626ポンプおよび996ダイオードアレイ検出器を用いて、液体クロマトグラフィーを行った。
【0063】
PElの定量
以前に記載されたとおり(Snyder and Sobocinski, 1975. Anal. Biochem. 64, 284-288)、405 nmでの2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)アッセイにより、複合体のPEl量を分光学的に決定した。
【0064】
ジチオピリジンリンカーの量の決定
複合体のためにPEI25で作製され得るジチオピリジンリンカーの量を、ジチオスレイトール(DTT)を用いたアリコートの還元、それに続く343 nmでの放出されたピリジン-2-チオンの吸収測定(8 = 80801M cm)の後に決定した。
【0065】
NHS-PEG-MAL中の反応性マレイミド基の定量
NHS-PEG-MAL中のマレイミド反応基の量を300 nmでの吸光度の関数として(A300)分光学的に計算した。水中、1 mg/ml NHS-PEG-MALの溶液は、1 cmの経路長について0.15のOD300を有する。同様に、PEI25-PEG-MAL複合体中のマレイミド反応基の量を、100μlのサンプルへの10μlの1モルDTT溶液の添加の前後において、A300での差異により計算した(DTTの添加は、電子の非局在化によるA300のマレイミド基を除去する)。
【0066】
EGF濃度の定量
280 nmでのEGFの吸光度を測定することにより、可溶性組み換えEGFの濃度を計算した(水中、1 mg/ml EGFの溶液は、3.1のODを生じる(1 cm 経路長))。EGF-PDP複合体中のEGFとジチオピリジンのモル比を、280および340 nmで分光学的に決定する。ジチオピリジンの量については、340 nmの吸光度で測定する(上記を参照のこと)。複合体の最初の吸光度を280 nmで測定し(A280)、280 nmでのジチオピリジンの吸光度を補正するために、この値を下記の式により補正する。
【0067】
式1: A280 a = DTTでのA340 x 5.1/8.1。
【0068】
式2: A280修正 = A280 - A280 a。
【0069】
EGFの最終濃度を計算するために、式2の結果を使用する。EGF-SH中のメルカプト基を決定するために、Ellmanアッセイを用いる。
【0070】
PEI25-PEG-MALの合成
ゲルろ過(Sephadex G-25, superfine; Amersham Biosciences)により得られた、0.25 M NaC1に溶解した1.6マイクロモルのPEI25のアリコートを、注意深いHClの添加によりpH 4.4に調整した。0.4 mlの水に溶解した6.4マイクロモルのNHS-PEG-MALのアリコートを加えて、室温で1時間後、塩濃度を1 M NaClに調整した。この混合物を陽イオン交換カラム(Macro-prep High S; 10/1 0; BioRad, Munich, Germany)に載せて、0.5 ml/分の流速を用いて、20 mM 酢酸ナトリウム(pH 4.5)中、1-3 M NaClの塩勾配で分画した。下記のとおりの緩衝液A (20 mM 酢酸ナトリウム pH 4.5)および緩衝液B (3 M NaCl、20 mM 酢酸ナトリウム pH 4.5)を用いて分画を行った: Time = 0-15分: 56 % 緩衝液A、44 % 緩衝液B; Time = 15-20分: 44-100 % 緩衝液B; Time = 20-60分: 100 % 緩衝液B。検出器を240および300 nmに設定し、生成物をTime = 40-50分で溶出した。PEI25とマレイミド反応基のモル比は、1: 1.6であった。
【0071】
EGF-PDPの合成
5 mgのEGF (MW=6 kDa)のアリコートを20 mM HEPES pH 7.1 (アルゴンで脱ガス化されている)で一晩透析した。100 %エタノール中、10 mMストックからの0.5マイクロモルのEGFのアリコートと5マイクロモルのSPDPのアリコートを混合した。混合物中のエタノールの濃度は、約33 % (v/v)であった。室温で3時間後、反応混合物をゲルろ過カラム(G-10; 5 HR10/30カラム, Amersham Biosciences, Germany; 20 mM HEPES, pH 7.1(20 % エタノールを含む))に載せた。300 nmで検出された生成物(4 ml)をTime = 18-26分で溶出した。0.77マイクロモルのジチオピリジンで修飾されたEGFについての収量は、3.36 mgであった。
【0072】
EGF-SHの合成
0.56マイクロモルのEGFのアリコートを100 μlの水中の50当量のDTTと混合した。室温で5分後、反応混合物をゲルろ過カラム(G-10; HR10/30カラム, Amersham Biosciences, Germany; 20 mM HEPES, pH 7.1(20 % エタノールを含む))に載せた。280 nmで検出された生成物(5.5 ml)をTime = 17-28分で溶出した。EGFと-SH基のモル比は、1:1.82であった。
【0073】
PEI25-PEG-EGF (PPE)の合成
アルゴンの存在下、0.51マイクロモルのチオール基を含む0.28マイクロモルのEGFのアリコートを0.51マイクロモルのマレイミド反応基を含むPEI2s-PEG-MALと混合した。反応混合物の最終pHは、6であり、最終塩濃度は、0.3 M NaClであった。室温で26時間のインキュベーション後、反応混合物の塩濃度を3 M NaClで0.5 Mに調整し、反応混合物を陽イオン交換カラム(Macro-prep High S; 1011 0; BioRad, Munich, Germany)に載せて、0.5 ml/分の流速および280 nmに設定された検出器を用いて、20 mM HEPES(pH 7.1)中、0.5-3M NaClの塩勾配で分画した。下記のとおりの緩衝液A (20 mM HEPES pH 7.1)および緩衝液B (20 mM HEPES pH 7.1, 3 M NaCI)を用いて分画を行った: Time = 0-20分: 78 % 緩衝液A、22 % 緩衝液B; Time = 20-80分: 22-100 % 緩衝液B; Time = 80-90分: 100 % 緩衝液B。2.4-3 M NaCIで複合体を溶出した(10 mlのプール)。定組成部分(isocratic part)中の画分(Time = 10-28分、生成物B)をまたプールした(9 ml)。生成物を、HBS緩衝液(20 mM HEPES pH 7.1, 150 mM NaCl)、pH 7.3(アルゴンで脱ガス化されている)で、4℃で一晩透析した。複合体(0.65 mg)および生成物B (0.98 mg)中のEGFの量を、280 nmで分光学的に決定した。複合体(136 nmol)および生成物B (38 nmol)中のPEI25の濃度を、TNBSアッセイにより405 nmで分光学的に決定した。複合体中のEGFとPEI25のモル比は、0.8: 1であった。
【0074】
Mel-PEI25-PEG-mEGFの合成
アルゴンの存在下、mEGF-PEG-PEI25 (83 nmol PEI)をSPDP (100%エタノール中、664 nmol)と混合した。室温で3時間後、約2 mlの混合物をゲルろ過カラム(Sephadex G25 superfine; HR10/30; 20mM HEPES [pH 7.1], 0.5M NaCl; Amersham Biosciences)に載せた。309 nmolのPDPを含む精製されたPDP(ピリジルジチオプロピオニル)-機能性(functionalized)複合体(5 ml)を、高速真空により1.5 mlまで濃縮した。メリチン(Mel)との反応のために、464 nmolのMelを計り取り、アルゴンで脱ガス化した0.5 mlの0.5 M NaCl, 100mM HEPES [pH 7.4]に溶解した。アルゴンの存在下、両成分を混合した。室温で20時間後、ゲルろ過によりmEGF-PEG-PEI25-Melを精製した。複合体をゲルろ過するために、PEI25で調整されたSuperdex 75 prep gradeカラム10/30 (10 mgのPEI25/60 mlのゲル材料)を使用した。HBSでの一晩の透析後(MWCO 14000; Visking type 27/32; Roth, Karlsruhe, Germany)、6 mlのmEGF-PEG-PEI25-Mel (MPPE)複合体を得て、これらは、66 nmol PEI (1.64 mg)、350 nmol Mel、および70 nmol EGFを含んでいた。
【0075】
細胞
A431 (ATCC(登録商標)番号CRL-1555(商標))、MDA-MB-468 (ATCC(登録商標)番号HTB-132(商標))、U-138 MG (ATCC(登録商標)番号HTB-16(商標))、MCF7、MDA-MB-231 (ATCC(登録商標)番号HTB-26(商標))、U87MG (ATCC(登録商標)番号HTB-14(商標))、およびU87MGwtEGFR細胞。
【0076】
PBMC抽出
健常なヒトドナーからのPBMCをFicoll Plaque (Pharmacia)で分離し、50mlのRPMI 1640培地で2回洗浄し、4x106/mlの濃度で再懸濁し、10% ウシ胎児血清、100ユニット/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシンを補充した培地で培養した。
【0077】
サイトカイン測定
サイトカイン特異的ELISA (Biosource, Inc)を用いて、Gro-α、IP-10、IFN-β、IFN-γ、IL-2、TNF-αを測定した。
【0078】
腫瘍および血液におけるサイトカインの発現
SCID/NODマウスの右脇腹(A431またはMDA-MB-468)および左脇腹(U138MG)に細胞を皮下投与した。17日後、腫瘍が約100 mm3に達したときに、3回の5 μg/マウス/日のポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理を開始した。最後のポリIC/MPPE投与の24時間後に、4百万個の新鮮なPBMCを腹腔内投与した。48時間後に腫瘍を抽出し、ホモジナイザーを用いて、1.5 mL抽出緩衝液(10 mM Tris pH 7.4, 150 mM NaCl, 1% Triton X-100を含む)/組織 gで均質化した。ホモジネートを、4℃で10分間、13,000Xgで遠心分離し、-70℃で保存し、次いで、ELISAにかけた。また、最後のポリIC/MPPE投与の24時間後(「3日後の血液」)およびPBMC注入の48時間後(「血液」)に得られた血液サンプルについてELISAを行った。数字は、組織1gあたりのサイトカイン(pg)を示す(1mlの血液=1gr)。
【0079】
PBMC仲介バイスタンダー効果
100,000個のMDA-MB-468細胞またはA431細胞を6ウェルプレートに播種し、ウェルあたり2 mlの培地で一晩増殖させた(2)。次いで、0.1または0.5 μg/mlの最終濃度で、ポリIC/MPPEを細胞に導入した。導入の48時間後、0.5 mlの導入細胞からの培地(「条件培地」)を、24時間前に24ウェルプレートに播種され、0.5 mlの培地中で増殖させた500,000個のPBMCに加えた。次いで、0.1 mlのチャレンジされたPBMCからの培地を、24時間前に96ウェルプレートに播種されたさらなる非導入MDA-MB-468細胞およびU138MG細胞(「指標細胞」)からの0.1 mlの培地で置換した。PBMCからの培地でのチャレンジの48時間後、メチレンブルーアッセイ(2)によりこれらの細胞の生存を決定した。
【0080】
同時に、直接のバイスタンダー効果を示すために、0.1 mlの条件培地を用いて、24時間前に96ウェルプレートに播種され、0.2 mlの培地で増殖させた非導入指標細胞からの0.1 mlの培地と置換した。条件培地の添加の48時間後、メチレンブルーを用いてこれらの細胞の生存を決定した。
【0081】
活性化PBMCによるインビトロ癌細胞殺傷
20,000個のA431、30,000個のMDA-MB-468または20,000個のU138MG細胞を24ウェルプレートに播種し、10% FCSおよび抗生物質を補充した1 mlのRPMI培地で一晩増殖させた。次いで、0.1 mg/mlでポリIC/MPPEを細胞に導入した。24時間後、500,000 PBMC/ウェルを癌細胞に加え、さらに24時間、共インキュベートした。Annexin-V-Biotinキット(Biosource, Inc.)を用いて、アポトーシス細胞(赤色蛍光)を視覚化した。腫瘍細胞とPBMCを区別するために、腫瘍細胞をFITC共役EGFR抗体(Biosource, Inc.)で標識した(緑色蛍光)。細胞を蛍光顕微鏡で視覚化し、デジタルカメラで写真を撮った。
【0082】
播種性腫瘍を有するマウスの生存についてのポリIC/MPPE/PBMC処理の効果
200 μlのPBSに懸濁された1百万個のA431またはMDA-MB-468細胞を雌のSCID-NODマウス(Harlan)に静脈内投与した。10または15日後に、無作為に動物を群に分けて(5匹のマウス/群)、一連の20μgのポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理を開始した。最後のポリIC注入の24時間後、4百万個のPBMCを1回、該動物に注入した。
【0083】
実施例1. ポリIC/MPPEは、A431およびMDA-MB-468細胞において免疫反応性サイトカインの発現を誘導する
我々の以前の研究において(2)、我々は、低用量のEGFR標的化ポリICは、EGFR過剰発現膠芽細胞腫細胞においてIFN-α、IP-10およびGro-αの発現を誘導するが(U87MGwtEGFR)、低レベルのEGFRを用いた場合には誘導しない(U87MG)ことを示した。これらのデータは、細胞が、特定の閾値レベルのdsRNAが内在化された場合にのみこれらのサイトカインを産生し、この用量は、EGFR過剰発現細胞においてのみ達成されるという考えを支持する。この研究において、我々は、該解析を2つのさらなるEGFR過剰発現癌細胞株: A431 (外陰部癌)およびMDA-MB-468 (乳癌)にまで拡張した。これらの細胞にポリIC/MPPE (2.5 μg/ml)を導入すると、我々は、5.1 pg/mlまでのIFN-β; 148 pg/mlのGro-αおよび188 pg/mlのIP-10を検出した(表2)。Gro-αおよびIP-10は、それらが発現する領域にT細胞を動員することに関与するケモカインである。したがって、A431およびMDA-MB-468細胞は、U87MGwtEGFR細胞と同様に、ポリIC/MPPEでのチャレンジ後に培地中にサイトカインを分泌する。
【0084】
表2. ポリIC/MPPE導入細胞の培地中のサイトカインの発現
【表2】

【0085】
実施例2. ヒト免疫細胞のインビトロ活性化
上記の結果を前提として、我々は、ポリIC/MPPEで処理されたA431およびMDA-MB-468細胞由来のサイトカインリッチ培地が免疫系を刺激し得るのではないかとの仮説を立てた。我々は、健常なヒト末梢血単核球細胞(PBMC)について、ポリIC導入癌細胞からの培地の効果を調べることによりこの仮説を調べた。PBMCは、いくつかの型の免疫細胞(NK、T細胞、NK-T細胞、マクロファージ)からなる。これらの細胞は、活性化されると毒性のサイトカイン、例えば、種々の癌細胞に対して有効であることが既知なIFN-γおよびTNF-αを産生する。PBMCはまた互いに相互作用し、相乗的で高い抗増殖性効果を生じる。例えば、活性化T細胞およびNK細胞は、IFN-γを産生し、それは、マクロファージを活性化し、TNF-αの産生を刺激する。培地中へのIL-2の放出は、PBMC活性化と直接相関し、ELISAにより慣用的に定量され得る。したがって、PBMCは、ポリIC導入腫瘍細胞に対する選択的免疫反応を試験するための便利な系である。
【0086】
PBMCをポリIC/MPPE導入癌細胞からの培地でチャレンジした。この目的のために、方法において記載されたとおり、500,000個のPBMCを24ウェルプレートに播種し、0.5 mlの培地中で一晩増殖させた。次いで、ポリIC/ PEI-PEG-EGF+PEI-Melが導入されたA431、MDA-MB-468、U87MGまたはU138MG細胞から導入の48時間後に回収された0.5 mlの培地でPBMCをチャレンジした。チャレンジの24および48時間後にPBMC培地を回収し、ELISAアッセイを用いてIFN-γ、IL-2およびTNF-αを測定した。図1Aは、チャレンジの24および48時間後での、PBMCによるIL-2発現の誘導を示す。ポリIC/MPPE (0.1 μg/ml)が導入されたA431およびMDA-MB-468細胞からの培地は、PBMCによる165 pg/mlまでのIL-2の産生を生じた。対照的に、ポリIC/MPPE処理U87MG細胞(A431およびMDA-MB-468細胞よりも12倍低いEGFRの発現を有する)またはU138MG細胞(EGFR発現なし)からの培地は、PBMCに影響を与えなかった。同様の結果は、他のサイトカインの発現を調べた場合においても得られ、IFN-γ (図1B)およびTNF-α (図1C)は、ポリIC/MPPE導入A431およびMDA-MB-468細胞からの培地でチャレンジされたPBMCにおいて誘導されるが、0.1 μg/mlのポリIC/MPPEが導入されたポリIC/MPPE導入U87MGおよびU138MG細胞からの培地では誘導されなかった。
【0087】
実施例3. インビボにおけるPBMCの活性化
EGFR過剰発現腫瘍におけるこれらのサイトカインの選択的な発現をまた、インビボにおいて確認した(表3)。右脇腹におけるEFGR過剰発現皮下腫瘍および左脇腹におけるU138MG腫瘍を有するSCID-NODマウスを、1日に4回のポリIC/MPPEの連続的静脈内投与、次いで1回の4百万個のPMBCの腹腔内投与で処理した。発現は、EGFR過剰発現腫瘍において極めて高い濃度であった(Expression of and, at much higher concentrations, in the EGFR overexpressing tumors)(表3)。これらのサイトカインは、EGFR過剰発現腫瘍(そこで、PMBCは、活性化され得る)に選択的にPMBCを動員することが予測された。
【0088】
表3 インビボサイトカイン発現パターン
【表3】

【0089】
次いで、我々は、ベクター導入EGFR過剰発現腫瘍におけるサイトカインの濃度が実際に免疫細胞を動員し、活性化するのに十分に高い濃度であるのかという疑問を抱いた。別々の実験において、SCID-NODマウスの右脇腹(A431またはMDA-MB-468)および左脇腹(U138MG)に細胞を皮下投与した。腫瘍が約100 mm3に達したときに、3回の5 μg/マウス/日のポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理を開始した。最後のポリIC/MPPE投与の24時間後に、3百万個のPBMCを腹腔内投与し、24時間後に腫瘍を抽出し、4% ホルマリンで固定した。次いで、パラフィン切片を調製し、H&Eで染色し、組織病理学的解析にかけた。図2における破線は、免疫細胞浸潤の領域を示し、そこで、ポリIC/+PBMC処理動物のEGFR過剰発現腫瘍へのPBMCの浸潤が検出された。免疫細胞浸潤は、EGFRを過剰発現しないU138MG腫瘍において検出されなかった。
【0090】
実施例4. PBMC仲介バイスタンダー効果
有力な抗腫瘍サイトカインであるIFN-γおよびTNF-αの発現は、非導入癌細胞の直接的なバイスタンダー殺傷を仲介する。次なる疑問は、サイトカインのレベルが免疫細胞を動員するだけでなく、それらを活性化するのに十分高いレベルであるかということである。PBMC仲介バイスタンダー効果を調べるために、最初に、A431またはMDA-MB-468細胞にポリIC/MPPEを導入し、48時間後に、導入細胞からの培地でPBMCをチャレンジした(方法)。さらに48時間後、チャレンジしたPBMCからの培地を新たに播種した非導入細胞に加えた(図3)。培地交換の24および48時間後にPBMC仲介バイスタンダー効果を調べて、ポリIC/MPPE処理A431およびMDA-MB-468細胞からの培地により仲介される「直接の」バイスタンダー効果と比較した(図3Aおよび3C)。直接のバイスタンダー効果およびPBMC仲介バイスタンダー効果を図3に明確に示す。PBMC仲介効果は、特に強力であり、90%までの非導入細胞を殺傷する。EGFRを全く発現しないU138MG細胞はまた、両方の型の培地により効率的に阻害された(図3Bおよび3D)。pICをグルタミン酸(pGlu) (MPPEと同様に粒子を形成するが、免疫応答を誘導しない)で置換した場合に、効果は観察されなかった。これらの結果は、ポリIC/MPPEおよびPBMCの組み合わせが癌細胞を効率的に殺傷することについて相乗作用を与え得ることを示した。
【0091】
実施例5. PBMCは、インビトロにおいてポリIC/MPPE癌細胞殺傷を強力に促進する
相乗的癌殺傷効果を調べるために、腫瘍細胞(「方法」において記載されているとおりに増殖させる)に低用量(0.1 μg/ml)のポリIC/MPPEを導入した。24時間後、500,000個のPBMC/ウェルに癌細胞を加えて、PBMCの添加後さらに24時間、共インキュベートした(図4)。腫瘍細胞とPBMCを区別するために、腫瘍細胞をFITC共役EGFR抗体(Green fluorescence)で標識した。アポトーシスを受けた腫瘍細胞をAnnexin-V-Biotin kit, Biosource Inc. (Red fluorescence)で検出した。ポリIC/MPPE単独またはPBMC単独で処理された細胞は、極めて弱いアポトーシスシグナルを示した。対照的に、EGFR過剰発現細胞をポリIC/MPPEおよびPBMCで処理した場合に、強いアポローシスシグナルが得られた(図4A、B)。U138MG細胞は、検出可能なアポトーシスを示さなかった(図4C)。したがって、PBMCのポリIC/MPPE処理腫瘍細胞への添加は、腫瘍細胞のアポトーシスを強力に促進した。
【0092】
実施例6. PBMCと組み合わせたポリIC/MPPEの全身適用は、播種性腫瘍を有するマウスを治癒する
ポリIC搭載EGFRホーミングベクターは、組織培養またはインビボにおける正常な脳細胞に関して毒性効果を示さないという我々の以前の知見(Shir et al., 2006)の観点で、我々は、EGFR標的化ポリIC/MPPEがインビボにおける播種性EGFR過剰発現腫瘍の処置のために全身適用され得るか否かを調べた。EGFR過剰発現腫瘍の存在しないマウスモデルにおいて、我々は、「方法」に示されたとおり、2百万個のヒトA431またはMDA-MB-468細胞をSCID-NODマウスに投与した。細胞投与の10日後、1日に20μgのポリIC/MPPEの投与で、3日に2回のサイクルおよび4日に1回のサイクルで処理を開始した(各サイクルは、24時間間隔) (すなわち、12日間にわたる全10回の投与)。この手順は、体重減少のような処理の毒性効果を除去した(データは、示していない)。ポリIC/MPPEを投与されたA431を有するマウスは、非処理マウスと比較して少なくとも3倍長く生存し、3匹のマウスは、完全に治癒した(図5D)。ポリIC/MPPEで処理されたMDA-MB-468腫瘍を有するマウスは、非処理マウスの2倍長く生存した(図5E)。
【0093】
PBMCがインビトロにおいてポリIC/MPPEの効果を強力に促進するという知見と組み合わせて、これらの結果は、我々が、PBMCが同様にインビボにおいてポリIC/MPPEの効果を促進し得るか否かを試験することを促した。これらの実験のために、我々は、A431またはMDA-MB-468細胞のSCID-NODマウスへの注入後15日間待ち、その時点において、500 μmまでの大きな腫瘍が肺において検出された(図5)。次いで、マウスを1日に4回の20μgのポリIC/MPPEの連続的静脈内投与で処理した。コントロール群は、ポリICなしの複合体の効果を決定するために、pGlu/MPPE(ポリグルタミン酸/MPPE)で処理されたマウスを含んでいた。最後のポリIC注入の24時間後、4百万個のヒトPBMCを1回マウスに注入した。ヒトPBMCを用いたSCID-NODマウス免疫系の「再構築」は、一般に行われることである。より以前の実験において示されたとおり、A431腫瘍を有するポリIC/MPPE処理マウスは、非処理マウスよりも長く生存した。ポリIC/MPPEおよびヒトPBMCで処理されたマウスは、1年以上の間生存し、腫瘍の兆候を全く示さなかった(図5B)。同様に、ポリIC/MPPE単独で処理されたMDA-MB-468腫瘍を有するマウスは、非処理マウスの2倍まで生存し、一方で、ポリIC/MPPEおよびPBMCで処理されたマウスは、1年以上の間生存し、腫瘍の兆候を全く示さなかった(図5C)。顕著な毒性、体重の減少または異常な行動は、処置中または処置後において観察されなかった。したがって、ヒトPBMCを導入することにより、我々は、顕著に、ポリIC/MPPEの投与量を減少させることができ、確立された播種性腫瘍を除去することができた。したがって、PBMCは、腫瘍根絶において重要な役割を果たす。
【0094】
実施例7. 第2世代ベクターと第1世代ベクターの比較
本発明により提供される改良された第2世代ベクター(本明細書においてpIC/P22lPEおよびpIC/P22lPGE11)は、各々、複合体P22lPEおよびP22lPGE11と共役したポリICからなる。これらの複合体は、第1世代ベクターの複合体MPPE中の分岐ポリエチレンイミンの代わりに、直鎖ポリエチレンイミン、PEGおよびEGFまたはペプチドGE11を含み、かなり容易に作製され、大容量の統一バッチにおいて産生することができ、生じたベクターは、第1世代ベクターよりも改善された癌細胞殺傷活性を示す。
【0095】
7.1 新規複合体P22lPEおよびP22lPGE11の作製
新規複合体の合成のために、二官能性PEG (Nektar Therapeutics, USAからのNHS-PEG2k-OPSS)を用いて、それは、一端において直鎖PEIをPEG化し、ジスルフィド架橋によりOPSS (オルト-ピリジルジスルフィド)部分で、遠位末端においてHS-mEGFまたはHS-GE11と結合する。この単純な2つの工程手順は、MPPEの合成のために適用される冗長な精製工程を回避し、より高い全収量を生じる(上記、「方法」、項目(ii)を参照)。
【0096】
ペプチドGE11は、当分野において既知の組み換え法により合成されるか、または既知の化学合成技術を用いて、例えば自動化合成機(例えば、Applied Biosystems, Germanyから入手可能)を用いるか、例えばt-ブチルオキシカルボニル(t-Boc)技術についての会社のプロトコールを用いることにより合成され得る。精製は、逆相HPLCにより行うことができる。
【0097】
ポリICと複合体PPEまたはPPGE11を混合することにより、ベクターpIC/P22lPE (pIC/PPE)およびpIC/P22lPGE11 (pIC.PPGE)を得る。
【0098】
7.2 インビトロにおける第1および第2世代ベクターの比較
本発明のベクターに対する細胞の感受性は、EGFR発現レベルの関数であったので、さまざまなレベルのEGFR発現を有する細胞を殺傷するための異なるベクターの能力を評価することは興味深かった。この目的のために、表4に示される3000個のU138MG細胞および4000個の各々の他の細胞株を96ウェルプレートに播種し、一晩増殖させた。次いで、既定の複合体で製剤化されたpICを細胞に導入した。導入の48時間後、メチレンブルーアッセイにより細胞の生存を解析した。下記の表4は、使用される細胞およびEGFR発現のレベルを示す。
【0099】
表4. 使用される細胞株およびそれらのEGFR発現レベル
【表4】

【0100】
図6から明らかなとおり、新規第2世代ベクターpIC/P22lPEは、高発現のEGFRを有する細胞(MDA-MB-468)についていくらかのより強力な効果を示し、第1世代ベクターpIC/MPPEと比較した場合に、より低い発現のEGFRを有する細胞(U87MG)についてより強力な顕著な効果を示す。したがって、pIC/P22lPEは、相対的に低い発現のEGFRを有する腫瘍についてかなり有益であり得る。
【0101】
7.3 インビトロにおけるPPEとPPGE11の比較
標的化部分としてEGFの代わりにEGFR結合ペプチドを有するベクターpIC/P22lPGE11の細胞殺傷能力を、pIC/P22lPEの細胞殺傷能力と比較した。図7から明らかなとおり、0.01 μg/mlのpICで、極めて効率的にMDA-MB-468細胞の90%までを殺傷した。このpICの濃度で、EGFRの低い発現を有するか、またはその発現を有さない細胞において効果は見られなかった。pIC/P22lPGE11は、いくらか低い効率であった。また、80%までのMDA-MB468細胞は、コントロール細胞について最小限の効果を有する0.1 μg/mlで、pIC/PPGE11により殺傷され得る。
【0102】
7.4 インビボにおける第1および第2世代ベクターの効果
pIC/P22lPEおよびpIC/MPPEの効果をさらにインビボにおいて比較した。PBS中の2百万個のA431細胞を雌マウスに皮下投与した。腫瘍が約75-80 mm3のサイズに達したときに、マウスを5つの群に分けた。既定の複合体で製剤化されたpICを48時間ごとに静脈内投与した。pIC/PPEは、pIC/MPPEと比較した場合にA431腫瘍の増殖におけるより強力な効率を示し(図8A)、pIC/PPEは、高用量においてさえU138MG腫瘍(EGFRを発現していない)の増殖における影響の欠如から明らかなとおり、その選択性を維持した(図8B)。
【0103】
参照
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二本鎖RNA (dsRNA)分子とEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとを含む、EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌の免疫細胞と組み合わせた処置における使用のための上皮成長因子受容体(EGFR)ホーミングベクター。
【請求項2】
dsRNA分子がポリイノシン酸鎖およびポリシチジル酸鎖から構成され(ポリIC)、各鎖が少なくとも22個のリボヌクレオチドを有する、請求項1に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項3】
ポリICの各鎖が85-300個のリボヌクレオチドを有する、請求項2に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項4】
さらにdsRNA担体を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項5】
dsRNA分子がdsRNA担体と非共有結合により結合している、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項6】
dsRNA担体が、ポリカチオン性ポリマーおよび/または非イオン性水溶性ポリマーである、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項7】
ポリカチオン性ポリマーがポリエチレンイミンまたはポリ-L-リジンであり、非イオン性水溶性ポリマーがポリ(エチレングリコール) (PEG)である、請求項6に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項8】
dsRNA担体がPEGと共有結合したポリエチレンイミンである、請求項5に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項9】
EGFR結合ペプチドまたはポリペプチドがdsRNA担体と共有結合している、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項10】
EGFR結合ポリペプチドがEGFである、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項11】
EGFR結合ペプチドが配列YHWYGYTPQNVIのペプチドGE11である、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項12】
さらにエンドソーム膜の分解を促進することが可能な化合物を含む、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項13】
化合物がメリチンである、請求項12に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項14】
ベクターが、ポリIC/メリチン分岐ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-mEGF (pIC/MPPE)、ポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-mEGF (pIC/PPE)、およびポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-ペプチドGE11 (pIC/PPGE11)から選択される、請求項4に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項15】
免疫細胞が、腫瘍浸潤T細胞(T-TIL)、腫瘍特異的改変T細胞、または末梢血単核球細胞(PBMC)である、請求項1から14のいずれか1項に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項16】
ベクターおよび免疫細胞が連続して投与される、請求項15に記載のEGFRホーミングベクター。
【請求項17】
癌が、非小細胞肺癌、乳癌、膠芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、結腸直腸癌、腺癌、卵巣癌、膀胱癌または前立結腸直腸癌、ならびにその転移癌である、請求項1に記載のベクター。
【請求項18】
EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌を処置する方法であって、
(i) EGFRを過剰発現する腫瘍細胞にベクターを標的化することが可能なEGFR結合ペプチドまたはポリペプチドとdsRNA分子とを含むEGFRホーミングベクター; および
(ii) 免疫細胞
の組み合わせを、それを必要とする患者に全身投与することを含む、方法。
【請求項19】
癌が、非小細胞肺癌、乳癌、膠芽細胞腫、頭頸部扁平上皮癌、結腸直腸癌、腺癌、卵巣癌、膀胱癌または前立結腸直腸癌、ならびにその転移癌である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
薬学的に許容される担体および二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターを含む、全身投与用医薬組成物。
【請求項21】
EGFR過剰発現細胞により特徴づけられる癌を処置する方法であって、二本鎖dsRNA分子とEGFR結合ポリペプチドとを含むEGFRホーミングベクターの有効量を、それを必要とする患者に全身投与することを含む、方法。
【請求項22】
ベクターが、ポリIC/メリチン分岐ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-mEGF (pIC/MPPE)、ポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-mEGF (pIC/PPE)、およびポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-ペプチドGE11 (pIC/PPGE11)から選択される、請求項20に記載の医薬組成物または請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-mEGF (pIC/PPE)またはポリIC/直鎖ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-ペプチドGE11 (pIC/PPGE11)から選択される、EGFRホーミングベクター。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【公表番号】特表2012−513210(P2012−513210A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542970(P2011−542970)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/IL2009/001210
【国際公開番号】WO2010/073247
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(500155660)イッサム リサーチ ディヴェロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム エルティーディー (5)
【Fターム(参考)】