説明

共役ジオレフィンの製造方法

【課題】炭素数4以上のモノオレフィンを、酸素と特定の触媒を存在させた流動層反応器内で接触酸化脱水素反応させて共役ジオレフィンを製造する方法において、流動床反応器の濃厚層の温度を一定に維持することができ、且つ、共役ジオレフィンを高い収率で安定に製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】金属酸化物を担体に担持した触媒と、酸素と、が内部に存在する流動層反応器内で、前記触媒に炭素数4以上のモノオレフィンを接触させて共役ジオレフィンを製造する方法であって、
前記流動床反応器の濃厚層の温度を320〜400℃の範囲に、希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−50〜+20℃の範囲に制御することを含む、共役ジオレフィンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物触媒を用いた、流動層反応方式による共役ジオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
n−ブテンやイソペンテンなどの炭素数が4以上のモノオレフィンと酸素の接触酸化脱水素反応により、これらのモノオレフィンに対応する共役ジオレフィン、例えば、1,3−ブタジエンやイソプレンを製造する方法はよく知られており、その酸化脱水素反応に用いられる触媒は多数提案されている。
化学工業において重要な反応は、ガス−固体といった二相が関わる不均一反応であり、アンモニア合成、エチレンオキサイド合成、石油の接触分解などが、工業的に酸化物触媒を用いた不均一反応として知られている。
酸化物触媒が用いられる反応方式には、固定層、流動層及び移動層がある。これらの中で、固定層反応方式は、ガスの流動状態が押し出し流れに近く、反応収率を高くできるという利点を活かし、工業的に多く採用されている。ところが、固定層反応方式は伝熱性が低く、除熱や加熱が必要な発熱反応や吸熱反応には不向きであり、特に酸化反応のような激しい発熱反応では、温度が急激に上昇し制御困難に陥り、反応が暴走するおそれがあるという問題がある。さらに、こうした急激な温度上昇によって、触媒がダメージを受け、早期に劣化してしまうという問題もある。
これに対し、流動層反応方式は、反応器内を触媒粒子が激しく流動することで(1)伝熱性が高く、大きな発熱や吸熱を伴う反応時も反応器内温度をほぼ均一に保ち、過度の反応進行を抑制できる、(2)エネルギーの局所蓄積が抑制されるため、爆発範囲内の原料ガスを反応させることが可能で、原料濃度を高めて生産性を向上させられる、という利点がある。従って、流動層反応方式は強度の発熱反応である炭化水素の酸化脱水素反応に適した反応方式である。例えば、ブテンから1,3−ブタジエンを合成する酸化脱水素反応は、約30kcal/molの発熱反応である。
【0003】
以上のような流動層反応方式の有利な点が知られているにも拘らず、一般に不飽和炭化水素をジオレフィンに転化する場合、固定床触媒の使用が好ましいと記載された文献が多数ある。これは、目的生成物である共役ジオレフィンの反応性が非常に高いため、共役ジオレフィンが反応器出口に到達するまでに反応器内で燃焼分解を受け易いという問題が、生成物が触媒に接触してしまう流動層反応方式においては一層顕著になってしまうためであると推察される。この問題に対し、特許文献1には、特定の金属を含む触媒を使用し、反応器温度、反応器出口ガス中の酸素濃度を特定の範囲に調整することで、流動層反応により炭素数4以上のモノオレフィンからジオレフィンを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたような、特定の金属を含む触媒を使用し、工業的にスケールアップが可能な流動床反応器を用いて、反応温度、反応器出口ガス中の酸素濃度を特定の範囲に調整して反応させた場合、n−ブテンから1,3−ブタジエンを得ることができるが、反応温度である反応器の濃厚層の温度と、反応器出口ガス中の酸素濃度を特定の範囲にするだけでは、反応を安定に継続した状態で共役ジオレフィンを製造する観点からは不十分であることが判った。
上記事情に鑑み、本発明は、炭素数4以上のモノオレフィンを、酸素と特定の触媒を存在させた流動層反応器内で接触酸化脱水素反応させて共役ジオレフィンを製造する方法において、流動床反応器の濃厚層の温度を一定に維持することができ、且つ、共役ジオレフィンを高い収率で安定に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素数4以上のモノオレフィンから流動層反応により共役ジオレフィンを製造する際に、金属酸化物を担体に担持した酸化物触媒を使用し、流動床反応器の濃厚層の温度を特定の範囲に制御することに加えて、希薄層の温度を濃厚層に対して特定の範囲に制御することにより、流動層反応方式において、流動床反応器の濃厚層の温度を一定に維持することができ、且つ、生成物である共役ジオレフィンを高い収率で安定に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
金属酸化物を担体に担持した触媒と、酸素と、が内部に存在する流動層反応器内で、前記触媒に炭素数4以上のモノオレフィンを接触させて共役ジオレフィンを製造する方法であって、
前記流動床反応器の濃厚層の温度を320〜400℃の範囲に、希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−50〜+20℃の範囲に制御することを含む、共役ジオレフィンの製造方法。
[2]
前記流動床反応器の濃厚層に配置された冷却管の外表面積に対して、前記希薄層に配置された冷却管の外表面積の比率が0.5〜4.0である、上記[1]記載の共役ジオレフィンの製造方法。
[3]
前記流動床反応器の出口ガス中の酸素濃度が0.05〜1.5容量%の範囲である、上記[1]又は[2]記載の共役ジオレフィンの製造方法。
[4]
前記炭素数4以上のモノオレフィンがn−ブテン又はイソペンテンである、上記[1]〜[3]のいずれか記載の共役ジオレフィンの製造方法。
[5]
前記流動床反応器の濃厚層の温度を330〜390℃の範囲に、前記希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−40〜+15℃の範囲に制御することを含む、上記[1]〜[4]のいずれか記載の共役ジオレフィンの製造方法。
[6]
前記流動床反応器の濃厚層の温度を340〜380℃の範囲に、前記希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−30〜+10℃の範囲に制御することを含む、上記[1]〜[5]のいずれか記載の共役ジオレフィンの製造方法。
[7]
前記金属酸化物が下記実験式(1)で表される、上記[1]〜[6]のいずれか記載の共役ジオレフィンの製造方法。
Mo12BipFeqabcdex (1)
(式(1)中、Aはニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Bはアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Cはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びマンガンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Dは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Eはクロム、インジウム及びガリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、a、b、c、d、e、及びxはそれぞれモリブデン12原子に対するビスマス、鉄、A、B、C、D、E及び酸素の原子比を示し、0.1≦p≦5、0.5≦q≦8、0≦a≦10、0.02≦b≦2、0≦c≦5、0≦d≦5、0≦e≦5であり、xは他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素数4以上のモノオレフィンを、酸素と特定の触媒を存在させた流動層反応器内で接触酸化脱水素反応させて共役ジオレフィンを製造する方法において、流動床反応器の濃厚層の温度を一定に維持することができ、且つ、共役ジオレフィンを高い収率で安定に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態の共役ジオレフィンの製造方法は、
金属酸化物を担体に担持した触媒と、酸素と、が内部に存在する流動層反応器内で、前記触媒に炭素数4以上のモノオレフィンを接触させて共役ジオレフィンを製造する方法であって、
前記流動床反応器の濃厚層の温度を320〜400℃の範囲に、希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−50〜+20℃の範囲に制御することを含む製造方法である。
【0011】
本実施の形態の製造方法において、「濃厚層」とは、触媒密度が350kg/m3以上の領域を言い、「希薄層」とは、触媒密度が150kg/m3以下の領域を言う。触媒密度の測定は反応器内の高さ方向に取り付けたノズルを用いて2点の気体の圧力を測定し、その2点間の差圧をノズル間の距離で除することにより算出する。ここで、2点間の差圧は水を用いたマノメータにより測定することができる。例えば、流動床下部から1mと2mの位置の差圧が4.9kPa(500kgf/cm2)であれば、この間の触媒密度は500kg/m3と計算される。
【0012】
[1]共役ジオレフィンの製造方法
(1)原料
本実施の形態の製造方法における原料は、炭素数4以上のモノオレフィン(以下、単に「モノオレフィン」とも言う。)を含む。モノオレフィンは、炭素−炭素二重結合を一つのみ有し、通常は官能基を有しない有機化合物であって、直鎖及び/又は分岐鎖の炭化水素である。炭素数の上限は特に限定されないが、反応性の観点から、6以下であることが好ましい。炭素数4以上のモノオレフィンとしては、例えば、n−ブテン(1−ブテン、2−ブテン)、1−ペンテン、2−ペンテン、イソペンテン(2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン)、1−ヘキセン、2−ヘキセン、2,3−ジメチルブテンが挙げられる。1種のモノオレフィンを原料として用いてもよいし、2種以上のモノオレフィンを原料として用いてもよい。加圧下において常温(5〜35℃)で液状のモノオレフィンは、スチームや伝熱コイルなどの加熱部を有するガス化装置を用いてガス化した後、反応に供することが好ましい。
【0013】
原料である炭素数4以上のモノオレフィンは必ずしも高純度である必要はなく、任意の混合物や工業グレードを使用することができる。例えば、n−ブテンの場合、ナフサ熱分解で副生するC4留分から1,3−ブタジエンを抽出した残留成分やさらにイソブチレンを抽出した残留成分、重油留分を触媒の作用によって分解し、低沸点の炭化水素に変換する流動接触分解(FCC)で副生するC4留分、n−ブタンの脱水素反応、又は、酸化脱水素反応により得られるブテン留分、またエタン熱分解やバイオマスエタノールの脱水反応により得られるエチレンの接触転化反応で副生するC4留分を使用することができる。バイオマスエタノールは植物資源から得られるエタノールであり、具体的には、サトウキビやトウモロコシ等の発酵により得られるエタノールや廃材、間伐材、稲わら、農作物等の木質資源から得られるエタノールが挙げられる。
【0014】
原料中のモノオレフィン濃度は、共役ジオレフィンの生産性の観点から、モノオレフィンと空気を含む原料混合ガス100容量%に対して2容量%以上であることが好ましく、触媒への負荷を抑える観点から30容量%以下であることが好ましい。原料中のモノオレフィン濃度は、より好ましくは3〜25容量%である。モノオレフィン濃度が30容量%を超えると、反応生成物の蓄積やコークの析出が増加することにより触媒が劣化し、触媒寿命が短くなる傾向にある。モノオレフィン濃度が2容量%未満であると、共役ジオレフィンの製造量が少なく生産性が悪化する傾向にある。
【0015】
原料混合ガスは、パラフィン、水、スチーム、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素等を含んでいてもよい。パラフィンとしては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンを挙げることができる。また、反応生成物から目的生成物である共役ジオレフィンを分離した後、未反応モノオレフィンの少なくとも一部を、流動層反応器にリサイクルすることもできる。また、原料ガス中に、水を好ましくは40容量%以下、より好ましくは30容量%以下、更に好ましくは20容量%以下で供給することも好ましい方法の一つである。原料ガス中に上記特定量の水を供給すると、触媒への炭素質の付着が抑制される傾向にある。
【0016】
(2)反応器
炭素数4以上のモノオレフィンの酸化脱水素反応による共役ジオレフィンの製造は、流動層反応器を用いた流動層反応方式で行われる。流動層反応器は、反応器内にガス分散器・内挿物・サイクロンをその主要構成要素として有し、触媒を流動させつつ、原料であるガスと接触させる構造を有する。本実施の形態の製造方法においては、例えば、流動床ハンドブック(株式会社培風館刊、1999年)等に記載された流動層反応器であれば使用可能であるが、特に気泡流動層方式の反応器が適している。また、発生する反応熱の除熱は反応器に設置した冷却管を用いて行う。この冷却管は濃厚層及び希薄層に配置され、目的の温度を実現するために制御される。
【0017】
本実施形態の製造方法においては、流動床反応器の濃厚層に配置された冷却管の外表面積に対して、希薄層に配置された冷却管の外表面積の比率は0.5〜4.0であることが好ましく、より好ましくは0.7〜3.0、更に好ましくは1.0〜2.5である。濃厚層に配置された冷却管の外表面積に対して希薄層に配置された冷却管の外表面積の比率を上記範囲にすることにより、長期の運転において濃厚層及び希薄層の温度を目的の温度に制御することが容易となる傾向にある。また、濃厚層に配置する冷却管の外表面積は、装置の大きさ、除去すべき熱量、on/offによる冷却管使用のローテーションに対する余裕度などを考慮して設定すればよい。
【0018】
なお、濃厚層に配置された冷却管とは、その外表面積の50%以上が濃厚層に存在する冷却管のことを言い、希薄層に配置された冷却管とは、その外表面積の50%未満が濃厚層に存在する冷却管のことを言う。
【0019】
触媒密度が150〜350kg/m3の遷移領域においても温度を制御することは重要であり、この領域にも冷却管を存在させることが好ましい。冷却管は通常の円形の配管を用いることができ、反応器内部の濃厚層、希薄層及び遷移領域に複数本を設置し、流動床内部の温度を本実施の形態の範囲に制御する。また、冷却管による熱移動の効率を高めるために、円形の配管の外部に複数のフィンを取り付けた形状の冷却管を用いることも好ましい方法の一つである。
【0020】
流動床反応器の濃厚層及び希薄層の温度は、反応器内に取り付けた複数の熱電対によって測定できる。通常は、濃厚層及び希薄層のそれぞれに、半径方向及び高さ方向に複数の温度測定点を設け、測定値の平均を反応温度として採用する。希薄層の温度はサイクロン入口のガス温度で代表させることも可能である。また、熱電対の不具合などによる明らかに異常な測定値は排除して計算することが好ましい。
【0021】
(3)反応条件
本実施の形態の製造方法においては、原料混合ガスとして、モノオレフィンと酸素が反応に供される。酸素源としては、通常、空気を用いるが、酸素を空気と混合するなどして酸素濃度を高めたガス、空気と窒素、ヘリウムなどの不活性ガスを混合するなどして酸素濃度を低めたガス、酸素分離膜などを用いた分離方法により製造した酸素濃度を高めたガス又は酸素濃度を低めたガスなどを用いることもできる。酸素とモノオレフィンのモル比は、酸素/モノオレフィン比として0.5〜1.5(空気/モノオレフィン比として2.5〜7.5)とするのが好ましく、より好ましくは0.6〜1.3(空気/モノオレフィン比として3.0〜6.5)の範囲である。
【0022】
モノオレフィンと酸素の導入方法は特に限定されず、触媒を充填した反応器へ、モノオレフィンを含むガスと、空気、又は酸素濃度を高めたガス若しくは酸素濃度を低めたガスを予め混合して導入してもよいし、それぞれ独立して導入してもよい。反応に供するガスは反応器に導入した後に所定の反応温度に昇温することもできるが、連続して効率的に反応させるために、通常は予熱して反応器に導入する。
【0023】
本実施の形態の製造方法においては、流動床反応器の濃厚層の温度を320〜400℃の範囲に、希薄層の温度を濃厚層の温度に対して−50〜+20℃の範囲になるように制御する。濃厚層温度を320℃以上にすることにより、濃厚層温度を維持し易く、モノオレフィンの転化率を良好に保ちながら、安定に運転を継続できる。また、濃厚層温度を400℃以下にすることにより、生成した共役ジオレフィンの燃焼分解を抑制することができる。流動床反応器の濃厚層の温度は、好ましくは330〜390℃であり、より好ましくは340〜380℃である。一方、希薄層の温度が濃厚層の温度に対して−50℃未満であると、流動床反応器内の濃厚層の熱バランスの維持が難しくなる傾向にあり、+20℃を超えると、生成物である共役ジオレフィンの燃焼分解が加速される傾向にある。流動床反応器の希薄層の温度は、濃厚層の温度に対して、好ましくは−40℃〜+15℃であり、より好ましくは−30℃〜+10℃である。流動床反応器の濃厚層及び希薄層の温度は、冷却管による反応熱の除去、加熱装置による給熱、供給する原料ガスの余熱などにより、上記範囲となるように制御する。
【0024】
反応圧力は0.01〜0.4MPa/Gが好ましく、より好ましくは0.02〜0.3MPa/G、更に好ましくは0.03〜0.2MPa/Gである。原料混合ガスと触媒との接触時間は0.5〜20g・sec/ccが好ましく、より好ましくは1〜10g・sec/ccである。
【0025】
触媒と原料混合ガスとが反応器内で接触することにより、供給したモノオレフィンに対応する共役ジオレフィンが生成する。例えば、モノオレフィンがn−ブテンの場合、主生成物は1,3-ブタジエンであり、モノオレフィンがイソペンテンの場合、主生成物はイソプレンである。
【0026】
生成した共役ジオレフィンを含むガスは、反応器出口から流出する。反応器出口ガス中の酸素濃度は、反応器内における目的生成物の分解や二次反応に影響するので、後述する特定の範囲に制御することが好ましい。反応器出口ガス中の酸素濃度は、反応器に供給する原料ガスであるモノオレフィンの量、酸素供給源となるガスの量、反応温度、反応器内の圧力、触媒量、反応器に供給する全ガス量などを変更することによって、調整することができる。中でも、反応器に供給する酸素供給源となるガス、例えば、空気の量を制御することによって調整することが好ましい。
反応器出口ガス中の酸素濃度は0.05〜1.5容量%に維持することが好ましく、上記範囲に維持することにより反応器内における触媒の還元及び目的生成物の分解を有効に防止でき、安定に目的生成物を製造できる傾向にある。反応器出口ガス中の酸素濃度は、好ましくは0.1〜1.0容量%であり、より好ましくは0.2〜0.7容量%の範囲である。反応器出口ガス中の酸素濃度が0.05容量%未満であると、触媒が還元されるためモノオレフィンの転化率が低くなる傾向にあり、1.5容量%を超えると、生成した共役ジオレフィンの燃焼分解や二次反応による含酸素化合物の生成が増加し、共役ジオレフィンの収率が低下する傾向にある。反応器出口ガス中の酸素濃度は、熱伝導型検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0027】
(4)精製
流動層反応で得られた反応生成物は公知の技術、例えば、特公昭45−17407号、特開昭60126235号、特公平3−48891号、及びPETROTECH、第二巻、第四号(59〜65頁、1978年)に記載の方法によって精製することができる。精製後の反応生成物中の共役ジオレフィン濃度が99%以上の高純度の共役ジオレフィンは、合成ゴムなどの原料として好適に用いることができる。
【0028】
[2]触媒
(1)構造
本実施の形態における金属酸化物を担体に担持した触媒は、流動層反応により比較的高い収率で共役ジオレフィンを得る観点から、担体と、Mo、Bi及びFeを含むのが好ましい。Mo、Bi及びFeの組成は合目的な金属酸化物を形成するように設計されており、この金属酸化物中の格子酸素によって、モノオレフィンから共役ジオレフィンの酸化脱水素反応が行われると考えられる。一般に、触媒中の格子酸素が酸化脱水素反応に消費されると、金属酸化物中に酸素空孔が生じる結果、反応の進行に伴って金属酸化物の還元も進行し、触媒活性が失活していくので、触媒活性を維持するためには、還元を受けた金属酸化物を速やかに再酸化することが必要である。Mo、Bi及びFeを含む金属酸化物は、モノオレフィンから共役ジオレフィンの酸化脱水素反応に対する反応性に加え、気相中の酸素を解離吸着して酸化物内に取り込み、消費された格子酸素の再生を行う再酸化作用にも優れていると考えられる。従って、長期にわたって反応を行う場合でも、格子酸素の再酸化作用が維持され、触媒は失活することなく、モノオレフィンから共役ジオレフィンを安定に製造できるものと考えられる。
【0029】
Mo、Bi及びFeを含む金属酸化物を担体に担持した触媒を、流動層方式による共役ジオレフィンの製造に用いると、生成物である共役ジオレフィンの燃焼分解や二次反応による含酸素化合物の生成の抑制に有利であり、高い収率で共役ジオレフィンを得ることができる傾向にある。その理由としては、詳細は不明ではあるが、(1)触媒の酸性度が好適であるため、触媒上における共役ジオレフィンの燃焼分解や二次反応が起こりにくい、(2)生成した共役ジオレフィンに対する反応活性点の吸着能が小さいため、共役ジオレフィンが生成した後、反応活性点において分解や反応を受ける前に速やかに脱離する、ことなどが考えられる。
【0030】
Mo、Bi及びFeが上述した合目的な金属酸化物を形成し易くなる観点から、これらの組成比は、Moの原子比12に対して、Biの原子比p、Feの原子比qが、それぞれ0.1≦p≦5、0.5≦q≦8であることが好ましい。
【0031】
本実施の形態における金属酸化物としては、下記実験式(1)で表されるものが好ましい。
Mo12BipFeqabcdex (1)
(式(1)中、Aはニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Bはアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Cはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びマンガンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Dは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Eはクロム、インジウム及びガリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、a、b、c、d、e、及びxはそれぞれモリブデン12原子に対するビスマス、鉄、A、B、C、D、E及び酸素の原子比を示し、0.1≦p≦5、0.5≦q≦8、0≦a≦10、0.02≦b≦2、0≦c≦5、0≦d≦5、0≦e≦5であり、xは他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数を示す。)
【0032】
本明細書中、「実験式」は、当該式に含まれる金属の原子比と、その原子比及び酸化数の総計に応じて要求される酸素とからなる組成を表す。様々な酸化数をとりうる金属を含む酸化物において、酸素の原子数を特定することは実質的に不可能であるため、酸素の数は形式的に「x」で表すこととしている。例えば、Mo化合物、Bi化合物及びFe化合物を含むスラリーを調製し、それを乾燥及び/又は焼成して酸化物を得る場合、スラリーに含まれる金属の原子比と、得られる酸化物中の金属の原子比とは実質的に同じと考えてよいので、スラリーの仕込み組成にOxを付加したものが、得られる酸化物の実験式となる。なお本明細書中、上述のスラリーの仕込み組成のように、意図的にコントロールした成分とその比率を表す式を「組成式」と呼ぶので、上述の例の場合、実験式からOxを除いたものが「組成式」である。
【0033】
A、B、C、D及びEで表される成分の役割は限定的ではないが、Mo、Bi及びFeを必須成分とする酸化物触媒の分野では、概ね次のように推定されている。すなわち、A及びEは触媒の活性を向上させ、B及びCはMo、Bi及びFeを含む合目的な金属酸化物の構造を安定化させ、Dは金属酸化物の再酸化という影響を与えると考えられている。p、q、a、b、c、d、eが上記好ましい範囲であると、これらの効果が一層高くなることが期待できる。
【0034】
上記実験式において、より好ましい組成としては、0.1≦p≦0.5、1.5≦q≦3.5、1.7≦a≦9、0.02≦b≦1、0.5≦c≦4.5、0.02≦d≦0.5、0≦e≦4.5であり、さらに好ましい組成としては、Bがルビジウム、カリウム又はセシウム、Cがマグネシウム、Dがセリウムであると同時に、0.15≦p≦0.4、1.7≦q≦3、2≦a≦8、0.03≦b≦0.5、1≦c≦3.5、0.05≦d≦0.3、0≦e≦3.5である。Aがニッケル、Bがルビジウム、カリウム又はセシウム、Cがマグネシウム、Dがセリウムの場合、共役ジオレフィン収率がより高くなり、かつその燃焼分解が良好に抑制され、また触媒に対して還元劣化に対する優れた耐性を付与することができる傾向にある。
【0035】
本実施の形態における触媒は、金属酸化物が担体に担持された触媒(以下、「担持触媒」とも言う。)である。触媒に含まれる担体は、担体と金属酸化物の合計に対して、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%の範囲で有効に用いることができる。Mo、Bi及びFeを含有する金属酸化物を含む担持触媒は、公知の方法、例えば、原料スラリーを調製する第1の工程、該原料スラリーを噴霧乾燥する第2の工程、及び第2の工程で得られた乾燥粒子を焼成する第3の工程を包含する方法によって得ることができる。
【0036】
担体としては、特に限定されないが、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが好ましく、より好適な担体はシリカである。シリカは他の担体に比べて不活性な担体であり、目的生成物に対する触媒の活性や選択性を低下させることなく、金属酸化物と良好な結合作用を有する。加えて、金属酸化物を担体に担持することによって、粒子形状・大きさ・分布、流動性、機械的強度などの、流動層反応に好適な物理的特性を付与することできる。
【0037】
(2)製造方法
次に、原料スラリーを調製する第1の工程、該原料スラリーを噴霧乾燥する第2の工程、及び第2の工程で得られた乾燥粒子を焼成する第3の工程を含む、触媒の製造方法の好ましい態様について、Mo、Bi及びFeを含む触媒を例にとって説明する。
【0038】
第1の工程では、触媒原料を調合して原料スラリーを得るが、モリブデン、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、アルカリ金属元素、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、マンガン、希土類元素、クロム、インジウム、ガリウムの各元素の元素源としては、水又は硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩などを挙げることができる。特にモリブデン源としてはアンモニウム塩が、ビスマス、鉄、ニッケル、アルカリ元素、マグネシウム、亜鉛、マンガン、希土類元素、各元素の元素源としては、それぞれの硝酸塩が好ましい。
【0039】
上述したとおり、金属酸化物の担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物を用いることができるが、好適な担体としてはシリカが用いられ、そのシリカ源としてはシリカゾルが好ましい。シリカゾルに含まれる不純物に関しては、ケイ素100原子当たり0.04原子以下のアルミニウムを含むシリカソゾルを用いることが好ましく、ケイ素100原子当たり0.02原子以下のアルミニウムを含むシリカゾルを用いることがより好ましい。上記特定量以下のアルミニウムを含むシリカゾルを用いることにより、酸点の生成が抑制され、収率の向上が期待できるという利点を有する。
【0040】
原料スラリーの調製は、例えば、水に溶解させたモリブデンのアンモニウム塩をシリカゾルに添加し、次に、ビスマス、希土類元素、鉄、ニッケル、マグネシウム、亜鉛、マンガン、アルカリ元素の各元素の硝酸塩を水又は硝酸水溶液に溶解させた溶液を加えることによって行うことができる。その際、上記各元素の添加順序を適宜変えることもできる。
【0041】
第2の工程では、上記の第1工程で得られた該原料スラリーを噴霧乾燥して、乾燥粒子を得る。原料スラリーの噴霧化は、通常工業的に実施される遠心方式、二流体ノズル方式、及び高圧ノズル方式等の方法によって行うことができるが、特に遠心方式で行うことが好ましい。次に、噴霧化で得られた粒子を乾燥するが、乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが好ましい。乾燥機入口の温度は、好ましくは100〜400℃、より好ましくは150〜300℃である。
【0042】
第3の工程では、第2の工程で得られた乾燥粒子を焼成することで所望の触媒を得る。乾燥粒子の焼成は、必要に応じて150〜500℃で前焼成を行い、その後500〜700℃、好ましくは520〜700℃の温度範囲で1〜20時間、本焼成を行うのが好ましい。焼成は回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。得られる触媒の平均粒子径は好ましくは40〜70μmであり、触媒粒子の90%以上の粒子が20〜100μmの範囲に分布していることが好ましい。ここで、触媒の平均粒子径は、株式会社堀場製作所製レーザー回折/3段式粒度分布測定装置LA−300を用いて測定することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明するが、本実施の形態は以下に記載の実施例によって制限されるものではない。
【0044】
実施例及び比較例において、反応成績を表すために用いたn−ブテン転化率、1,3−ブタジエン選択率及び収率は次式で定義される。
n−ブテン転化率(%)=(反応したn−ブテンのモル数)/(供給したn−ブテンのモル数)*100
1,3−ブタジエン選択率(%)=(生成した1,3−ブタジエンのモル数)/(反応したn−ブテンのモル数)*100
1,3−ブタジエン収率(%)=(生成した1,3−ブタジエンのモル数)/(供給したn−ブテンのモル数)*100
【0045】
流動層反応器として、内径0.6m、高さ17mで、内部に2段型のサイクロンと、高さ方向に対してほぼ均等に4段に分けて設置した複数の冷却管を有する炭素鋼製の反応器を用いた。濃厚層に配置した冷却管の外表面積に対して、希薄層に配置した冷却管の外表面積の比率は2.28で、濃厚層の温度は流動床下部から0.25m〜0.5mの位置に設置した熱電対4点による測定値の平均値とし、希薄層温度はサイクロン入口(流動床下部から16.0m)と同一高さに設置した熱電対の測定値を採用した。
【0046】
触媒密度の測定は、反応器内の高さ方向に取り付けたノズルを用いて2点の気体の圧力を測定し、その2点間の差圧をノズル間の距離で除することにより算出した。ここで、2点間の差圧は水を用いたマノメーターにより測定した。
【0047】
接触時間は次式で定義される。
接触時間(g・sec/cc)=W/F*3.6*273.15/(273.15+T1)*(P*1000+101.325)/101.325
式中、Wは触媒充填量(kg)、Fは原料混合ガス流量(m3/Hr、NTP換算)、T1は濃厚層の温度(℃)、Pは反応圧力(MPa/G)を表す。
【0048】
出口酸素の分析は、ガスクロマトグラフィー(GC−8A(島津製作所製)、分析カラム:ZY1(信和化工製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:75℃一定、TCD設定温度:80℃)を用いて行った。
【0049】
ブテン及び1,3−ブタジエンの分析は、ガスクロマトグラフィー(GC−2010(島津製作所製)、分析カラム:HP−ALS(J&W製)、キャリアガス:ヘリウム、カラム温度:ガス注入後、100℃で8分間保持した後、10℃/分で195℃になるまで昇温し、その後195℃で40分間保持、TCD・FID(水素炎イオン検出器)設定温度:250℃)用いて行った。
【0050】
(実施例1)
(a)触媒の調製
実験式がMo12Bi0.60Fe1.8Ni5.00.09Rb0.05Mg2.0Ce0.75xで表される金属酸化物が、触媒全体に対して50質量%のシリカに担持された触媒を、以下のとおりに調製した。
30質量%のSiO2を含むシリカゾル183.5kgに、16.6質量%の硝酸41.3kgに5.9kgの硝酸ビスマス〔Bi(NO33・5H2O〕、6.6kgの硝酸セリウム〔Ce(NO33・6H2O〕、14.7kgの硝酸鉄〔Fe(NO33・9H2O〕、29.3kgの硝酸ニッケル〔Ni(NO32・6H2O〕、10.4kgの硝酸マグネシウム〔Mg(NO32・6H2O〕、0.18kgの硝酸カリウム〔KNO3〕及び0.15kgの硝酸ルビジウム〔RbNO3〕を溶解させた液を加え、最後に水86.1kgに42.7kgのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕を溶解させた液を加えた。得られた原料調合液を噴霧乾燥器に供給し、入口空気温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。原料調合液の噴霧化は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。得られた乾燥粉体は、電気式回転炉で、空気雰囲気下、約350℃で1時間の前焼成の後、590℃で2時間本焼成することにより触媒を得た。この触媒調製を繰り返して必要量の触媒を製造した。製造した触媒の平均粒子径は50.5μmであった。
【0051】
(b)1,3−ブタジエン製造反応
(a)得られた触媒500kgを、上述の反応器に充填し、モル比組成が1−ブテン/空気/窒素=1/5.6/バランスの原料混合ガス(1−ブテン濃度=8容量%)を供給し、接触時間3.0g・sec/cc、濃厚層の温度T1=355℃、希薄層の温度T2=355℃(T2−T1=0℃)、反応圧力P=0.05MPa/Gの条件で反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は405kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)はそれぞれ121kg/m3、85kg/m3、13kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は99.2%、ブタジエンの選択率は87.0%、ブタジエン収率は86.3%、出口酸素濃度は1.1容量%であり、7日間にわたり安定に運転することができた。
なお、上記「バランス」とは、1−ブテン濃度を8容量%にするために必要となる窒素の量を示す。
【0052】
(実施例2)
原料混合ガスのモル比組成を1−ブテン/空気/ヘリウム=1/5.2/バランスとし、冷却管を操作して希薄層温度T2=342℃(T2−T1=−13℃)としたこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は410kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)は、それぞれ118kg/m3、83kg/m3、12kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は99.0%、ブタジエンの選択率は87.4%、ブタジエン収率は86.5%、出口酸素濃度は1.0容量%であり、7日間にわたり安定に運転することができた。
【0053】
(実施例3)
原料混合ガスのモル比組成を1−ブテン/空気/ヘリウム=1/5.9/バランスとし、冷却管を操作して希薄層温度T2=365℃(T2−T1=+10℃)としたこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は403kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)は、それぞれ122kg/m3、86kg/m3、13kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は99.4%、ブタジエンの選択率は86.1%、ブタジエン収率は85.6%、出口酸素濃度は1.0容量%であり、7日間にわたり安定に運転することができた。
【0054】
(比較例1)
希薄層温度T2が300℃(T2−T1=−55℃)になるように冷却管を操作し、且つ、出口酸素濃度を1.0容量%に保つために空気/1−ブテン比を下げる操作を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行ったが、徐々に濃厚層の温度が355℃から低下する現象が見られたため、この運転操作を終了した。
【0055】
(比較例2)
希薄層温度T2が385℃(T2−T1=+30℃)になるように冷却管を操作し、且つ、出口酸素濃度を1.0容量%に保つために空気/1−ブテン比を上げる操作を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行ったが、出口酸素濃度が徐々に1.0容量%から低下し、且つ、希薄層の温度T2も徐々に上昇する現象が見られたため、この運転操作を終了した。
【0056】
(参考例1)
出口酸素濃度を2.0容量%にするために原料混合ガスのモル比組成を1−ブテン/空気/ヘリウム=1/7.9/バランスとしたこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は404kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)は、それぞれ122kg/m3、87kg/m3、14kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は99.9%、ブタジエンの選択率は78.5%、ブタジエン収率は78.4%であった。
【0057】
(実施例4)
原料混合ガスのモル比組成を1−ブテン/空気/ヘリウム=1/5.4/バランスとし、接触時間を3.2g・sec/ccとし、冷却管を操作して希薄層温度T2=310℃(T2−T1=−45℃)としたこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は432kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)はそれぞれ113kg/m3、80kg/m3、11kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は98.9%、ブタジエンの選択率は87.0%、ブタジエン収率は86.0%、出口酸素濃度は1.4容量%であり、7日間にわたり安定に運転することができた。
【0058】
(実施例5)
原料混合ガスのモル比組成を1−ブテン/空気/ヘリウム=1/4.9/バランスとしたこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は406kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)は、それぞれ121kg/m3、85kg/m3、14kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は98.5%、ブタジエンの選択率は91.7%、ブタジエン収率は90.3%、出口酸素濃度は0.6容量%であり、7日間にわたり安定に運転することができた。
【0059】
(実施例6)
原料混合ガスのモル比組成を1−ブテン/空気/ヘリウム=1/4.7/バランスとし、冷却管を操作して希薄層温度T2=346℃(T2−T1=−9℃)としたこと以外は、実施例1と同様の方法により反応を行った。この時、濃厚層(流動床下部からの高さ0.05m〜1.25m間)の触媒密度は405kg/m3、希薄層の触媒密度(流動床下部からの高さ1.25m〜4.5m間、4.5m〜11.0m間、11.0m〜16.4m間)は、それぞれ123kg/m3、86kg/m3、13kg/m3であった。また、1−ブテンの転化率は98.0%、ブタジエンの選択率は92.9%、ブタジエン収率は91.0%、出口酸素濃度は0.6容量%であり、7日間にわたり安定に運転することができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の製造方法により、n−ブテンやイソペンテンなどの炭素原子数4以上のモノオレフィンと酸素とを接触酸化脱水素反応させ、モノオレフィンに対応する共役ジオレフィンである1,3−ブタジエンやイソプレンを流動床反応器により製造するに際し、1,3−ブタジエンやイソプレンを高い収率で、安定に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を担体に担持した触媒と、酸素と、が内部に存在する流動層反応器内で、前記触媒に炭素数4以上のモノオレフィンを接触させて共役ジオレフィンを製造する方法であって、
前記流動床反応器の濃厚層の温度を320〜400℃の範囲に、希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−50〜+20℃の範囲に制御することを含む、共役ジオレフィンの製造方法。
【請求項2】
前記流動床反応器の濃厚層に配置された冷却管の外表面積に対して、前記希薄層に配置された冷却管の外表面積の比率が0.5〜4.0である、請求項1記載の共役ジオレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記流動床反応器の出口ガス中の酸素濃度が0.05〜1.5容量%の範囲である、請求項1又は2記載の共役ジオレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記炭素数4以上のモノオレフィンがn−ブテン又はイソペンテンである、請求項1〜3のいずれか1項記載の共役ジオレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記流動床反応器の濃厚層の温度を330〜390℃の範囲に、前記希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−40〜+15℃の範囲に制御することを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の共役ジオレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記流動床反応器の濃厚層の温度を340〜380℃の範囲に、前記希薄層の温度を前記濃厚層の温度に対して−30〜+10℃の範囲に制御することを含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の共役ジオレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物が下記実験式(1)で表される、請求項1〜6のいずれか1項記載の共役ジオレフィンの製造方法。
Mo12BipFeqabcdex (1)
(式(1)中、Aはニッケル及びコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Bはアルカリ金属元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Cはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛及びマンガンから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Dは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Eはクロム、インジウム及びガリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、a、b、c、d、e、及びxはそれぞれモリブデン12原子に対するビスマス、鉄、A、B、C、D、E及び酸素の原子比を示し、0.1≦p≦5、0.5≦q≦8、0≦a≦10、0.02≦b≦2、0≦c≦5、0≦d≦5、0≦e≦5であり、xは他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数を示す。)

【公開番号】特開2012−72076(P2012−72076A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216964(P2010−216964)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】