説明

共押出多層フィルム、その製造方法及びこれを用いる蓋材

【課題】 従来の蓋材に求められている易開封性の性能を損なうことなく、その他の基材のラミネート等を行なわずに単体での使用を可能とする、即ちヒートシール時の熱板への融着を防止でき、且つ開封時のフィルムの伸びが発生しないような高い剛性や強度を有するフィルムを共押出法で簡便に製造することを提供すること。
【解決手段】 融点が190℃以上のポリエステル樹脂(a1)又はポリアミド樹脂(a2)を樹脂成分として50質量%以上含有する最外層(A)と、酸変性ポリオレフィン(b1)を含有する接着層(B)と、融点が120℃以上のプロピレン系樹脂(c1)を樹脂成分として60質量%以上含有する基材層(C)と、イージーピール層(D)と、が積層してなる全厚30〜150μmの共押出多層フィルムであり、最外層(A)と接着層(B)と基材層(C)との合計の厚みが全厚の70〜95%であることを特徴とする共押出多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や医療用用具用の易開封性包装材として好適に使用できる共押出多層フィルムとその製造方法、及びこの共押出多層フィルムを単体で用いてなる蓋材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品包装や医療用具包装等の包装用フィルム分野では、包装体をより容易に開封できる易開封性フィルムへの要求が高まっている。中でも、容器の蓋材等に使用される、容易に剥がすことができるイージーピールフィルムの要求が特に強い。
【0003】
一般的にイージーピールフィルムを用いた蓋材は、イージーピールフィルムと基材フィルムとを接着剤等を介して積層接着されて使用される。これは、ヒートシール時の熱板への溶着防止や、機械強度の向上、バリア性等の機能付加の目的で使用されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0004】
前記特許文献1に於いては、イージーピールフィルムの補強材として50μmの無延伸ポリプロピレンフィルムと60μmの無延伸ナイロンフィルムとをラミネートすることによって、蓋材としている。前記特許文献2においても、2軸延伸ナイロン(ONY)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、紙、不織布などの基材フィルムをラミネートして易開封性蓋材としている。このような基材フィルムを貼り合せるには、一般的にドライラミネート法による接着積層法が用いられるが、接着剤に含まれる有機溶剤の排出や、工程の煩雑さ、残留溶剤による内容物への臭気の移行等の問題があり、更なる改良方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−005935号公報
【特許文献2】特開2004−314449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記のような問題に鑑みなされたものであり、従来の蓋材に求められている易開封性の性能を損なうことなく、その他の基材のラミネート等を行なわずに単体での使用を可能とする、即ちヒートシール時の熱板への融着を防止でき、且つ開封時のフィルムの伸びが発生しないような高い剛性や強度を有するフィルムを共押出法で簡便に製造することを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の性能を有するポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂を最外層とし、これと共押出法でプロピレン単独重合体を主成分とする基材層と、イージーピール層とを積層し、且つこれらの層の厚み構成を特定の範囲にすることによって、従来蓋材に求められていた易開封性を損なわずに、単体での使用が可能となる積層フィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、融点が190℃以上のポリエステル樹脂(a1)又はポリアミド樹脂(a2)を樹脂成分として50質量%以上含有する最外層(A)と、酸変性ポリオレフィン(b1)を含有する接着層(B)と、融点が120℃以上のプロピレン系樹脂(c1)を樹脂成分として60質量%以上含有する基材層(C)と、イージーピール層(D)と、が積層してなる全厚30〜150μmの共押出多層フィルムであり、最外層(A)と接着層(B)と基材層(C)との合計の厚みが全厚の70〜95%であることを特徴とする共押出多層フィルムとその製造方法、及び該フィルムからなる蓋材を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層フィルムは、高い剛性と機械的な強度を有し、単体での使用が可能で、従来と同様の易開封性を発現する。又、ヒートシール時にシールバーへの汚染も無い。従って、各種プラスチック性保存容器の蓋材として好適に用いることができる。更に、本発明の積層フィルムは共押出法を適用して製造するため、従来のイージーピールフィルムと基材フィルムとをラミネートする工程を必要とせず、一般的な接着剤に含まれる有機溶剤の残存による臭気等の発生もないことから、食品用や医療用の容器等への応用も可能である。更に本発明の積層フィルムの最外層は、ガスバリア性や保香性をも有するポリエステルやポリアミドを用いていることにより、食品の保存用容器や芳香剤・消臭剤等の容器の蓋材としても好適に用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層フィルムにおける最外層(A)には、融点が190℃以上のポリエステル樹脂(a1)又はポリアミド樹脂(a2)を樹脂成分として50質量%以上含有することを必須とする。尚、本願でいう融点とは、示差走査熱量計(DSC)で測定したときの、ピークトップの値を言うものである。
【0011】
一般的にヒートシールする方法としては、フィルムの上部から加温したシールバーをシールする部分に密着させて数秒放置することによって行なわれている。即ち、フィルムの最外層は加温されたシールバーと接するため、その温度で最外層が融解してしまうと、シールバーへの汚染が生じ、製造サイクルを乱すことになったり、シール後の外観が損なわれたりする。従って、イージーピールフィルムを単体で使用するためには最外層の耐熱性を高める必要がある。
【0012】
本発明では、このために最外層(A)に用いる樹脂を前記特定のポリエステル樹脂(a1)又はポリアミド樹脂(a2)とするものである。より好ましくは融点が200℃以上のポリエステル樹脂又はポリアミド樹脂を樹脂成分として用いることであり、特にこれらの樹脂を85質量%以上含有させることが好ましい。
【0013】
前記ポリエステル樹脂(a1)としては、通常は2万〜35万、好ましくは3万〜30万の範囲内にある、ジカルボン酸とジオールとの重縮合によって得られるポリエステルを挙げることができる。ここで使用されるジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルカルボン酸等の芳香族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。また、ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。これらのジカルボン酸、ジオールは、単一のもの同士を重縮合したものであっても、それぞれを2種以上併用して重縮合したものであっても良い。
【0014】
最外層(A)の耐熱性を向上させ、シール強度を高める必要がある場合などは、当該ポリエステル樹脂(a1)として結晶性を有するものを用いることが好ましく、例えば、ジカルボン酸として芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸を併用し、またジオール成分として、比較的炭素鎖の長いジオール成分を用いて縮重合したポリエステルを用いることが好ましい。
【0015】
上記のような観点から、最外層(A)に用いるポリエステル樹脂(a1)としては、ポリブチレンテレフタレートホモポリマーを樹脂成分として50質量%以上で用いることが好ましい。前記ポリブチレンテレフタレートホモポリマーは、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを重縮合して合成されるポリエステルである。このポリブチレンテレフタレートホモポリマーとしては、その固有粘度が0.7dl/g以上であることが好ましい。0.7dl/gよりも低いと、共押出法を適用した時に合流部において、接着層(B)、基材層(C)及びイージーピール層(D)との流動性が合致しにくいことがありフィルム表面の外観不良の原因となる場合がある。
【0016】
この様なポリブチレンテレフタレートホモポリマーの市販品としては、例えば、三菱エンジニアリングプラスチック製NOVADURAN 5020(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度1.20dl/g)、またはウィンテックポリマー株式会社製ジュラネックス500FP(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂、固有粘度0.875dl/g)等が挙げられる。
【0017】
又、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体を、前述のホモポリマーと併用することもできる。その固有粘度としても、前記と同様の理由により、0.7dl/g以上であることが好ましい。また、前記ポリブチレンテレフタレート系共重合体の融点としては170℃以上であるか、またはガラス転移点が25℃以上であることが、最外層(A)の耐熱性を維持し、シール時のシールバーへの汚染を防ぐ上で好ましい。
【0018】
前記テレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られるポリブチレンテレフタレート系共重合体の市販品としては、例えば、ウィンテックポリマー株式会社製ジュラネックス400LP(固有粘度:0.765 融点:170℃ ガラス転移点:27℃)等が挙げられる。
【0019】
前記ポリブチレンテレフタレートホモポリマーやポリブチレンテレフタレート系共重合体を最外層(A)用の樹脂として用いると、これらの樹脂が本来有している保香性を、得られる共押出積層フィルムに付与することができる。従って、特に臭気を有する芳香剤や消臭剤等を保管する容器の蓋材として好適に用いることができる。
【0020】
又、最外層(A)に用いるポリアミド樹脂(a2)としては、ポリカプラミド(ナイロン−6)、ポリ−ω−アミノヘプタン酸(ナイロン−7)、ポリ−ω−アミノノナン酸(ナイロン−9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン−11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン−2,6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン−4,6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン−6,10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン−6,12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン−8,6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン−10,8)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン−6/12)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン−6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−6/6,6)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−12/6,6)、エチレンジアミンアジパミド/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン−2,6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6,6/6,10)、エチレンアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン−6/6,6/6,10)などの脂肪族ポリアミド樹脂や、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン等の芳香族ジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応で得られる結晶性芳香族ポリアミド樹脂、更には、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンとテレフタル酸、イソフタル酸等のジカルボン酸又はその誘導体との重縮合反応で得られる非晶性芳香族ポリアミド等が挙げられ、単独でも、2種以上を併用しても良い。
【0021】
この様なポリアミド樹脂(a2)を最外層(A)用の樹脂として用いることにより、得られる共押出積層フィルムにガスバリア性を付与させることが可能となる。従って、食品保存容器用の蓋材として好適に用いることができる。
【0022】
これらのポリアミド樹脂(a2)の中でも、ナイロン−6、ナイロン-6,6、ナイロン−6/6,6(ナイロン6とナイロン6,6の共重合体)を用いることが、工業的に入手が容易であり、また得られるフィルムに耐ピンホール性や強靭性を賦与できる点等から好ましいものである。
【0023】
本発明の接着層(B)に用いる樹脂は、前述の最外層(A)と、後記する基材層(C)とを接着させ、接着後の剥離強度を向上させるために用いるものであり、且つ、これらの層に用いる樹脂層と共押出できるものであることが必須である。これらの観点から、酸変性ポリオレフィン(b1)を含有させることが必須であり、好ましくは、樹脂分として85質量%以上含有することである。
【0024】
前記酸変性ポリオレフィン(b1)としては、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸又はその誘導体を共重合(例えば、グラフト共重合)した変性重合体を挙げることができる。ポリオレフィンとしては、オレフィン類の単独重合体、相互共重合体、他の共重合可能なモノマー(例えば、他のビニル系モノマー)との共重合体を例示できる。具体的には、例えば、ポリエチレン(LDPE、LLDPEなど)、ポリプロピレン、ポリブテン、これらの相互共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等を例示できる。不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸、その酸無水物、そのエステル又はその金属塩等が例示できる。これらのなかでも、マレイン酸変性ポリオレフィンを用いることが好ましく、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂として市販されているものとして、例えば、三井化学株式会社製のアドマーSF730、SF731、SF740、SE800等が挙げられる。
【0025】
本発明の基材層(C)に用いる樹脂は、融点が120℃以上のプロピレン系樹脂(c1)を樹脂成分として60質量%以上含有する事を必須とする。前記プロピレン系樹脂(c1)としては、プロピレン由来構造を有するオレフィン系樹脂であれば良く、例えば、プロピレン単独重合体やプロピレン−エチレン共重合体等のプロピレンとその他のオレフィンとの共重合体等が挙げられる。これらの中でもより好ましくは、融点が140℃以上のプロピレン系樹脂であり、又マルチサイト触媒を用いて重合されたものが好ましい。更に、基材層(C)に用いる樹脂として、当該プロピレン系樹脂(c1)を60質量%以上含有する事が好ましい。更に又、MFR(230℃)が0.5〜30.0g/10分であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃)が2.0〜15.0g/10分のものである。MFRがこの範囲であれば、シール時のフィルムの収縮が少なく、更にフィルムの成膜性も向上する。
【0026】
前記基材層(C)には、本発明の効果を損なわない範囲において、プロピレン系樹脂(c1)と相溶するその他の樹脂を混合しても良い。このとき使用できるその他の樹脂としては、例えば、エチレン系樹脂、ブテン系樹脂、環状オレフィン系樹脂などのオレフィン系樹脂が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよく、又、プロピレン系樹脂の再生品を混合して用いても良い。
【0027】
本発明において、前記最外層(A)と接着層(B)と基材層(C)の合計の厚みが、フィルム全厚の70〜95%であることを必須とするものである。この範囲にすることによって、得られる共押出積層フィルムの剛性を維持することが容易となり、引き剥がした際のフィルムの伸びが抑えられると共に、蓋材としての強度も維持できるものである。より好ましくは、共押出積層フィルムの全厚に対して、80〜90%の厚みに調整することである。更に、基材層(C)の厚みとして、全厚の40〜65%に調整することが、得られる共押出積層フィルムの強度(剛性)の観点から好ましい。
【0028】
本発明においては、前述の最外層(A)と接着層(B)と基材層(C)に加え、易開封性を付与するためのイージーピール層(D)を積層することが必須である。
【0029】
前記イージーピール層(D)は、フィルムを蓋材等として使用する場合、容器の最外層と密着させ、所望の部位に温度をかけることによって、接着させることを一つの目的とし、更に、引き剥がした際に容易に凝集破壊又は界面剥離されることが必要である。又、本発明においては共押出法によってフィルムを製造することから、前述の最外層(A)と接着層(B)と基材層(C)と共押出可能な樹脂種であることが必須である。
【0030】
これらの観点から、イージーピール層(D)に用いることができる樹脂種としては、プロピレン系樹脂(d1)とエチレン系樹脂(d2)との混合樹脂であることが好ましい。
【0031】
前記プロピレン系樹脂(d1)としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、たとえばプロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体、メタロセン触媒系ポリプロピレンなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。得られる積層フィルムにおける易開封性が良好である点、シール強度の調整が容易である点等の観点から、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体又はシングルサイト触媒を用いて重合されたエチレン−プロピレン共重合体を用いることが好ましい。
【0032】
また、これらのプロピレン系樹脂(d1)は、MFR(230℃)が0.5〜30.0g/10分で、融点が120〜165℃であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃)が2.0〜15.0g/10分で、融点が125〜162℃のものである。MFR及び融点がこの範囲であれば、シール時のフィルムの収縮が少なく、更にフィルムの成膜性も向上する。
【0033】
又、前記エチレン系樹脂(d2)としては、例えば、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリエチレン樹脂や、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(E−EA−MAH)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン−アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン−メタクリル酸共重合体のアイオノマー等が挙げられる。これらの中でも、前述のプロピレン系樹脂(d1)と併用した際の相溶性の観点から、容易に凝集破壊又は界面剥離が可能であること、並びに剥がれた後の表面外観性等の観点から、密度が0.91〜0.93g/cmの低密度ポリエチレン、又は密度が0.94〜0.96g/cmの高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。更に、メルトフローレート(190℃、21.18N)が1g/10分以上であることが成膜性の観点からは好ましいものである。
【0034】
更に、前記プロピレン系樹脂(d1)と前記エチレン系樹脂(d2)との使用割合としては、(d1)/(d2)で表される質量比として60〜90/40〜10の範囲であることが容易に易開封性を発現できる点から好ましく、特に70〜85/15〜30の範囲であることが好ましい。
【0035】
又、本発明のイージーピール層(D)には、更に易開封性を容易にしたり、シール強度を調整したりする観点から、ポリブテン系樹脂等のその他のオレフィン系樹脂を併用しても良い。
【0036】
本発明の積層フィルムにおけるイージーピール層(D)の厚みは、前述のようにフィルムの剛性・強度等の観点から全厚の5〜30%の範囲であることを必須とし、10〜20%の範囲であることが好ましい。
【0037】
又、本発明の共押出積層フィルムの全厚は、30〜150μmの範囲であることを必須とし、特に単体で使用する場合の強度の観点からは、40μm以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の共押出積層フィルムは、前述の特定の最外層(A)、接着層(B)、基材層(C)、イージーピール層(D)を積層してなるものであること以外には何ら限定されるものではなく、各層には、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分を添加することができる。
【0039】
本発明の積層フィルムの製造方法としては、共押出法であれば特に限定されるものではなく、例えば、最外層(A)、接着層(B)、基材層(C)、イージーピール層(D)に用いる各樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で(A)/(B)/(C)/(D)の順で積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する方法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られる。さらに、本発明のイージーピール層(D)で用いるプロピレン系樹脂(d1)と、エチレン系樹脂(d2)には、両者間で融点の差が大きいため、共押出加工時にフィルム外観が劣化する場合がある。このような劣化を抑制するためには、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
【0040】
本発明の共押出積層フィルムは、上記の製造方法によって、実質的に無延伸の多層フィルムとして得られるため、真空成形による深絞り成形等の二次成形も可能となる。
【0041】
さらに、最外層(A)に印刷等を行なう場合には、印刷インキとの接着性等を向上させるため、前記最外層(A)に表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理、あるいはサンドブラスト等の表面凹凸処理を挙げることができるが、好ましくはコロナ処理である。
【0042】
本発明の共押出積層フィルムの用途としては特に限定されないが、食品、薬品、工業部品、雑貨、雑誌等の用途に用いる包装容器の蓋材等に好適に用いることが可能である。特に当該包装容器の最外層(本発明の共押出積層フィルムのイージーピール層と接着する部分)が各種プロピレン系樹脂を含有するものであることが、易開封性とシール強度とのバランスの観点から好ましい。
【実施例】
【0043】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳しく説明する。以下、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0044】
実施例1
イージーピール層(D)用の樹脂として、プロピレン−エチレンランダム共重合体(以下COPPという)〔メルトフローレート(以下MFRという)(230℃) 7g/10min〕80質量%と、低密度ポリエチレン(以下LDPEという)〔密度0.91g/cm、MFR(190℃) 7g/10min〕20質量%との混合物を用い、基材層(C)としてMFR(230℃)が8g/10minのプロピレン単独重合体〔以下HOPPという〕を用い、接着層(B)として、MFR(190℃)が4g/10minの酸変性ポリオレフィンエラストマー(以下、接着性樹脂1という)を用い、最外層(A)用の樹脂としてポリブチレンテレフタレートホモポリマー(融点224℃。以下、PBTという)を用い、イージーピール層用押出機(口径50mm)、基材層用押出機(口径50mm)、接着層用押出機(口径40mm)、最外層用押出機(口径40mm)とのそれぞれに樹脂を供給し、共押出法により押出温度280℃でTダイから(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが10μm/10μm/20μm/10μmになるように押出し、40℃の水冷金属冷却ロールで冷却し、ロールに巻き取り、35℃の熟成室で48時間熟成させて、全厚が50μmの本発明の積層フィルムを得た。
【0045】
実施例2
(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが、6μm/6μm/12μm/6μmになるように押出した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の積層フィルムを得た。
【0046】
実施例3
最外層(A)用の樹脂として、PBTと、テレフタル酸とイソフタル酸とを用いて得られたポリブチレンテレフタレート系共重合体(融点185℃。以下、PBT共重合体という。)を質量比70/30となるように混合して用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3の積層フィルムを得た。
【0047】
実施例4
最外層(A)用の樹脂として、PBTとPBT共重合体とを質量比60/40となるように混合して用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の積層フィルムを得た。
【0048】
実施例5
イージーピール層(D)用の樹脂として、COPP80質量%と、LDPEを10質量%と、高密度ポリエチレン(以下、HDPEという)〔MFR(190℃)が15g/10min、密度0.958g/cm〕10質量%とを混合して用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5の積層フィルムを得た。
【0049】
実施例6
イージーピール層(D)用の樹脂として、プロピレン−エチレン−ブテン三元共重合体(以下、EPBという。)〔MFR(230℃)6g/10min、密度0.89g/cm〕70質量%と、LDPE30質量%を混合して用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の積層フィルムを得た。
【0050】
実施例7
イージーピール層(D)用の樹脂として、メタロセン触媒を用いて合成されたプロピレン−エチレンランダム共重合体(以下、メタロセンCOPPという)〔(MFR(230℃)6g/10min、密度0.89g/cm〕70質量%と、LDPE30質量%を混合して用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例7の積層フィルムを得た。
【0051】
実施例8
接着層(C)として、MFR(230℃)が4g/10minの酸変性ポリプロピレン(以下、接着性樹脂2という)を用い、最外層(A)用の樹脂としてナイロン−6(宇部興産製UBEナイロン1022FDX04 融点 220℃)を用い、(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが、16μm/16μm/32μm/16μmになるように押出した以外は、実施例1と同様にして実施例8の積層フィルムを得た。
【0052】
実施例9
(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが、10μm/10μm/20μm/10μmになるように押出した以外は、実施例8と同様にして実施例9の積層フィルムを得た。
【0053】
実施例10
(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが、6μm/6μm/12μm/6μmになるように押出した以外は、実施例8と同様にして実施例10の積層フィルムを得た。
【0054】
実施例11
最外層(A)用の樹脂として、ナイロン−6とナイロン6とナイロン6,6との共重合体(宇部興産製UBEナイロン5033FDX57 融点 192℃ 以下、6−6,6ナイロンという)とを質量比50/50となるように混合して用いた以外は、実施例9と同様にして、実施例11の積層フィルムを得た。
【0055】
実施例12
最外層(A)用の樹脂として、6−6,6ナイロンを単独で用いた以外は、実施例9と同様にして、実施例12の積層フィルムを得た。
【0056】
実施例13
イージーピール層(D)用の樹脂として、COPP80質量%と、LDPEを10質量%と、HDPE10質量%とを混合して用いた以外は、実施例9と同様にして、実施例13の積層フィルムを得た。
【0057】
実施例14
イージーピール層(D)用の樹脂として、EPB70質量%と、LDPE30質量%を混合して用いた以外は、実施例9と同様にして、実施例14の積層フィルムを得た。
【0058】
実施例15
イージーピール層(D)用の樹脂として、メタロセンCOPP70質量%と、LDPE30質量%を混合して用いた以外は、実施例9と同様にして、実施例15の積層フィルムを得た。
【0059】
比較例1
最外層(A)として、PBTとPBT共重合体とを質量比30/70となるように混合して用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の積層フィルムを得た。
【0060】
比較例2
(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが、4μm/4μm/8μm/4μmになるように押出した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の積層フィルムを得た。
【0061】
比較例3
(A)/(B)/(C)/(D)の各層の厚さが、4μm/4μm/8μm/4μmになるように押出した以外は、実施例8と同様にして比較例3の積層フィルムを得た。
【0062】
得られたフィルムに対しての評価は、下記の手法にて行なった。結果を表1〜3にてまとめて記す。
【0063】
ヒートシールテスト:
得られた共押出多層フィルムを、10cm×10cmに切り出し、厚さ0.3mmのポリプロピレン製シートと、ヒートシール面がポリプロピレンシート側に来るように重ね合わせて、ヒートシールテスタ(テスター産業製精密ヒートシーラー)を用いて、所定の温度に調節された上部ヒートシールバーが、共押出積層フィルムの最外層側にくるようにセットし、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールした。
【0064】
ヒートシールバーへのベタツキ評価:
ヒートシールテストをしたときの挙動について、次の基準で評価した。
○:シールバーにベタつかなかった。
△:最外層がシールバーにわずかにベタついた。
×:最外層がシールバーにベタつき、シールバーに溶着した。またはフィルム全体が溶け切れた。
【0065】
剥離強度の評価:
ヒートシールされた部分と垂直方向に15mm幅の短冊状のサンプルを切り出し、引張試験機を用いて、300mm/minの速度で剥離したときの最大強度を剥離強度とした。
【0066】
剥離性の評価:
ヒートシールされたサンプルを剥離したときの挙動について、以下の基準で評価した。
○:フィルムの伸びがなく、スムーズに剥離できた。
△:僅かにフィルムの伸びがあったものの、比較的容易に剥離できた。
×:フィルムが伸びてしまい、容易に剥離できなかった。
【0067】
剛性:
ASTM D882に従って、1% Secant Modulusを23℃、相対湿度50%の雰囲気で測定した。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が190℃以上のポリエステル樹脂(a1)又はポリアミド樹脂(a2)を樹脂成分として50質量%以上含有する最外層(A)と、
酸変性ポリオレフィン(b1)を含有する接着層(B)と、
融点が120℃以上のプロピレン系樹脂(c1)を樹脂成分として60質量%以上含有する基材層(C)と、
イージーピール層(D)と、が積層してなる全厚30〜150μmの共押出多層フィルムであり、
最外層(A)と接着層(B)と基材層(C)との合計の厚みが全厚の70〜95%であることを特徴とする共押出多層フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂(a1)がポリブチレンテレフタレートホモポリマーである請求項1記載の共押出多層フィルム。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂(a2)が、ナイロン−6、ナイロン-6,6、又はナイロン6とナイロン6,6との共重合体である請求項1記載の共押出多層フィルム。
【請求項4】
前記イージーピール層(D)が、プロピレン系樹脂(d1)とエチレン系樹脂(d2)との混合樹脂層である請求項1〜3の何れか1項記載の共押出多層フィルム。
【請求項5】
前記プロピレン系樹脂(d1)がエチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1三元共重合体又はシングルサイト触媒を用いて重合されたエチレン−プロピレン共重合体である請求項4記載の共押出多層フィルム。
【請求項6】
前記エチレン系樹脂(d2)が高密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンである請求項4又は5記載の共押出多層フィルム。
【請求項7】
前記プロピレン系樹脂(d1)と前記エチレン系樹脂(d2)との使用割合が、(d1)/(d2)で表される質量比として60〜90/40〜10の範囲である請求項4〜6の何れか1項記載の共押出多層フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項記載の共押出多層フィルムからなることを特徴とする蓋材。
【請求項9】
プロピレン系樹脂層を最外層とする容器用である請求項8記載の蓋材。
【請求項10】
融点が190℃以上のポリエステル樹脂(a1)又はポリアミド樹脂(a2)を樹脂成分として50質量%以上含有する樹脂層(I)と、
酸変性ポリオレフィンを含有する樹脂層(II)と、
融点が120℃以上のプロピレン系樹脂(c1)を樹脂成分として60質量%以上含有する樹脂層(III)と、
プロピレン系樹脂(d1)とエチレン系樹脂(d2)との混合樹脂層(IV)とが、
(I)/(II)/(III)/(IV)の順で積層されてなる、全厚が30〜150μmであり、且つ層(I)と層(II)と層(III)の合計厚みが70〜95%の積層フィルムを、共押出法で製造することを特徴とする積層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−45885(P2012−45885A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192139(P2010−192139)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】