説明

共重合体の製造方法

【課題】
本発明は、水中で加熱攪拌することによりハンドリング性の良い大きさに造粒した粒子から、粒子がゲル化したり固着したりすることを抑えて、溶媒を効率よく除去することである。
【解決手段】本発明に係る共重合体の製造方法は、(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体(A)を製造するに際し、重合工程(I)および洗浄工程(II)の2つの工程を有し、洗浄工程(II)において、重合工程(I)で得られた共重合体(A)のスラリーを固液分離した後、得られた共重合体(A)に水を添加し、50℃以上120℃未満の温度で洗浄し、該洗浄液から、遠心分離機を用いて、加速度が50〜200Gの条件で再度固体液体分離し、共重合体(A)を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の重合溶媒中で精密に制御された共重合組成および分子量分布を有するカルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体を製造し、引き続いて、特定の溶媒中、特定温度で洗浄操作を実施した後、遠心分離機を用いて、特定の加速度で固液分離し、該共重合体を、ハンドリング性に優れ、溶媒が十分に除去された粒子として取り出す製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(以下PMMA樹脂とも言う)や(メタ)アクリル酸エステル単量体の共重合物(AC樹脂とも言う)、ポリスチレン(以下PS樹脂とも言う)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(以下AS樹脂とも言う)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂(以下ABS樹脂とも言う)などは、一般に、工業的に製造される場合には、その大部分が塊状重合、懸濁重合、乳化重合で製造され、ごく一部が溶液重合で製造されている。
【0003】
塊状重合、懸濁重合、乳化重合は、大量に生産する場合には好都合の製造方法であるが、重合形式から容易に推察されるとおり、共重合組成、分子量分布の制御が困難である場合が多い。さらに言えば、懸濁重合、乳化重合のように、水を媒体とする重合方法では、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有する不飽和単量体を共重合することが困難であり、ポリマーに機能性や他ポリマーとの相溶性を付与することができず、機能性ポリマーとしての展開やポリマーアロイとして物理的な性質、化学的な性質を改善することを困難としていた。さらに、塊状重合、懸濁重合、乳化重合では、重合速度の制御がきわめて難しく、巨大分子量ポリマーの生成を抑制することが困難である。このため、ポリマー中には異物としてこれら巨大分子量ポリマーが混在し、膜や成形物としたとき、この巨大分子量ポリマーを核とする欠点(ブツ、フィッシュアイなど)が発生することがある。したがって、塊状重合、懸濁重合、乳化重合で製造されたポリマーは、透明性、均一性が高度に要求される光学用途では使用が制限されるといった問題点があった。
【0004】
一方、溶液重合では、共重合組成および分子量分布の制御が比較的容易であり、前記水溶性官能基を有する不飽和単量体の共重合も可能となるが、生成した共重合体を有機溶剤溶液から分離、回収するのがきわめて困難であり、多大な労力とエネルギーが必要になるといった問題点があった。
【0005】
このような問題を解決する方法として、カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体を製造するに際し、単量体混合物は混合し、かつ共重合体の溶解度が1/100g以下である有機溶媒中で共重合し、共重合体スラリーを得る技術が知られている(特許文献1参照)。また、この特許文献1に示された技術は、重合工程で得られた共重合体のスラリーを固液分離した後、得られた共重合体に水を添加し、50〜120℃の温度で洗浄し、該洗浄液から、50〜120℃にて再度固液分離を行うものである。この重合工程および洗浄工程により、共重合体の分子量分布や組成分布が溶液重合法と同様にコントロール可能であり、異物(不溶不融の巨大分子量ポリマーや、原料モノマーの単独重合体など)の混入を最小限に押さえることが可能であり、さらには、得られる共重合体はハンドリング性、熱安定性に優れる。
【0006】
また、重合溶液を貧溶媒に添加してポリマーを析出させ、遠心分離機で溶媒を除去する技術も開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−265543号公報
【特許文献3】特開2006−199764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のように、共重合体に水を添加し、50〜120℃の温度で洗浄することで、未反応モノマーや低分子量の共重合体が除去され、また粒子がハンドリング性の良い大きさに造粒されるが、粒子が大きいため、例えばその粒子を加圧濾過により分離した後、棚段式乾燥機で乾燥する場合、内部まで乾燥するには時間がかかる。また、乾燥効率を向上させようとして急激に加熱すると、粒子が膨らみ形状が歪になることがある。
【0008】
また特許文献2では、遠心分離機により400〜700Gの条件で溶媒を除去しているが、この方法は、特許文献2の方法で得られる粒子のように粒子径が比較的小さい場合に有効であり、特許文献1のように造粒した粒子に同様に遠心分離操作を行うと、加圧濾過した場合と比較して溶媒は除去されやすいが、粒子がゲル化したり固着したりすることがある。
【0009】
したがって本発明の課題は、カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体を製造するに際し、重合工程において、分子量分布や組成分布をコントロールすること、洗浄工程において、粒子から未反応モノマーや低分子量の共重合体を除去し、また粒子をハンドリング性の良い大きさに造粒すること、さらに洗浄工程後の固液分離において、粒子がゲル化したり固着したりすることを抑え、かつ溶媒を十分に除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、カルボキシル基含有アクリル系単位を含有する共重合体を製造するに際し、特定の重合溶媒によって得られた共重合体を特定温度の水中で洗浄した後、遠心分離機を用い特定の加速度で固液分離することによって、従来の知見では成し得ることができなかった、粒子がゲル化したり合着したりすることを抑え、かつ溶媒を十分に除去できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明は、
[1](i)カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体(A)を製造するに際し、下記重合工程(I)および洗浄工程(II)を含むことを特徴とする共重合体の製造方法。
(I)重合工程
芳香族基を含有しない有機溶媒であって、カルボキシル基含有アクリル単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物は溶解し、かつ、(i)カルボキシル基含有アクリル単量体単位を含む共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で共重合し、共重合体スラリーを得る重合工程
(II)洗浄工程
前記重合工程(I)で得られた共重合体(A)のスラリーを固液分離した後、得られた共重合体(A)に水を添加し、50℃以上120℃未満の温度で洗浄し、該洗浄液から、遠心分離機を用いて、加速度が50〜200Gの条件で再度固体液体分離し、共重合体(A)を得る工程
[2]洗浄後の固液分離を、30℃以上50℃未満で行うこと特徴とする[1]記載の共重合体の製造方法。
[3]前記洗浄工程(II)における洗浄液中の共重合体(A)の濃度が1〜50重量%であることを特徴とする[1]または[2]記載の共重合体の製造方法。
[4]前記重合工程(I)を、共重合体(A)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上である条件下で行うことを特徴とする[1]〜[3]いずれかに記載の共重合体の製造方法。
[5]前記重合工程(I)で用いる有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上であることを特徴とする[1]〜[4]いずれかに記載の共重合体の製造方法。
[6]前記重合工程(I)で用いる有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素およびカルボン酸エステルの混合物であることを特徴とする[1]〜[5]いずれかに記載の共重合体の製造方法。
[7]前記重合工程(I)で用いる有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素およびカルボン酸エステルの混合物であり、その重量比が5/95〜70/30であることを特徴とする[6]記載の共重合体の製造方法。
[8]前記共重合体(A)が(i)下記一般式(1)で表されるカルボキシル基含有アクリル系単量体単位および(ii)下記一般式(2)で表されるアクリル系単量体単位を含む共重合体であることを特徴とする[1]〜[7]いずれかに記載の共重合体の製造方法。
【0012】
【化1】

【0013】
(ただし、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0014】
【化2】

【0015】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
[9]前記共重合体(A)中に、(i)上記一般式(1)で表されるカルボキシル基含有アクリル系単量体単位を15〜50重量%含有する[8]記載の共重合体の製造方法。
[10][8]または[9]記載の共重合体の製造方法により共重合体(A)を製造(第一工程)した後、引き続いて、該共重合体(A)を加熱処理し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応よる分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、(iii)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位および(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(C)を製造することを特徴とするグルタル酸無水物単位含有熱可塑性共重合体の製造方法。
【0016】
【化3】

【0017】
(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
本発明によれば、カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体を製造するに際し、重合工程において、分子量分布や組成分布をコントロールすること、洗浄工程において、粒子から未反応モノマーや低分子量の共重合体を除去し、また粒子をハンドリング性の良い大きさに造粒すること、さらに洗浄工程後の固液分離において、粒子がゲル化したり固着したりすることを抑え、かつ溶媒を十分に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の製造方法について具体的に説明する。
【0019】
本発明においてカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は該共重合体を含む有機溶媒スラリーを製造する重合工程(I)と該スラリーを固液分離し、特定温度の水中で洗浄し、遠心分離機を用いて、特定の加速度で再度固液分離し、共重合体(A)を得る洗浄工程(II)により製造することができる。
【0020】
本発明で製造するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)とは、カルボキシル基含有アクリル系単量体を共重合して得られるものであれば特に制限はなく、該カルボキシル基含有アクリル系単量体は、その他のアクリル系単量体と共重合させることが可能ないずれのカルボキシル基含有アクリル系単量体も使用可能である。好ましいカルボキシル基含有アクリル系単量体としては、下記一般式(4)
【0021】
【化4】

【0022】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
で表される化合物、マレイン酸、及びさらには無水マレイン酸の加水分解物などが挙げられるが、特に熱安定性が優れる点でアクリル酸、メタクリル酸が好ましく、より好ましくはメタクリル酸である。これらはその1種または2種以上用いることができる。
【0023】
本発明で使用されるカルボキシル基含有アクリル系単量体と共重合可能なその他のアクリル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ドデシル、トリフルオロエチルメタクリレート、などのアクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステルあるいはそれらの(フルオロ)アルキルエステル単量体が例示できる。中でも、光学特性、熱安定性に優れる点で、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルがさらに好ましく、とりわけメタクリル酸メチルが好ましい。これらは単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0024】
また、必要であれば、上記アクリル系単量体以外に、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリルなどの共重合可能なその他のビニル系単量体を使用してもよい。該その他の不飽和単量体は単独でも、もしくは2種類以上の混合物であってもよい。
【0025】
また、本発明のカルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体(A)は、前述のカルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合することにより得られ、(i)下記一般式(1)で表されるカルボキシル基含有アクリル系単量体単位および(ii)下記一般式(2)で表されるアクリル系単量体単位を含む共重合体である。
【0026】
【化5】

【0027】
(ただし、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0028】
【化6】

【0029】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、通常のアクリル重合体の顔料分散性を改善し、ナイロン(以下NYとも言う)、ポリカーボネート(以下PCとも言う)などのポリマーとの相溶性を向上し、機能ポリマーアロイの実現を可能とする。さらには、カルボキシル基を利用した高分子反応により、アクリル重合体に感光性や現像性を付与するために有効な官能基として機能する。また、アクリル重合体の分子内反応を利用し耐熱性の向上や屈折率の調整が可能となる。
【0030】
カルボキシル基含有アクリル系単量体は、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の酸価が、好ましくは、5〜300mgKOH、より好ましくは5〜250mgKOHとなるような量で共重合されるのが望ましい。そして、共重合体(A)中にカルボキシル基含有アクリル系単量体単位を15〜50重量%含有することが望ましい。
【0031】
本発明の製造方法における(I)重合工程は、芳香族基を含有しない有機溶媒であって、かつ原料である不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体および不飽和カルボン酸単量体を含む単量体混合物は溶解し、共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で、前記単量体混合物を共重合し、共重合体スラリーを得るものである。上記重合工程は、原料であるカルボキシル基含有アクリル系単量体を含む単量体混合物は溶解し、(i)カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下であることを特徴とする有機溶媒(B)を用いることを特徴とするカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を沈殿させる、いわゆる「沈殿重合法」で行うものである。尚、ここで、「カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度」とは、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の有機溶媒(B)100gに対する、23℃で24時間、攪拌した後の溶解量を意味する。
【0032】
本発明に使用される有機溶媒(B)としては、前述の沈殿重合法を可能とし、さらに芳香族を含まないことが必要である。具体的には、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトン、エーテル、アルコール類から選ばれる1種以上などを挙げることができる。中でも、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上が好ましい。特に、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステルから選ばれる1種以上が好ましい。
【0033】
本発明に使用される脂肪族炭化水素としては、炭素数が5〜10の直鎖状炭化水素、側鎖を有する脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素を挙げることができる。具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカンおよびそれらの種々の異性体を挙げることができる。
【0034】
本発明に好ましく使用されるカルボン酸エステルとしては、飽和脂肪族カルボン酸および飽和アルコールからなるエステルが挙げることができ、飽和カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを、また飽和アルコールとしては炭素数1〜10で直鎖状および分岐状のものを挙げることができる。好ましいカルボン酸エステルとしては、ギ酸−n−プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸−n−ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸−n−ペンチル、ギ酸−n−ヘキシル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−n−ペンチル、酢酸−n−ヘキシル、酢酸−n−ヘプチル、酢酸−n−オクチル、酢酸−n−ノニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−n−ペンチル、プロピオン酸−n−ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸−n−ブチル、酪酸イソブチル、酪酸−n−ペンチル、酪酸−n−ヘキシルなどの種々の異性体を挙げることができる。
【0035】
本発明に使用されるケトンとしては、炭素数1〜10で直鎖状および分岐状の飽和脂肪族基からなるケトンであり、具体例としては、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトンなどを挙げることができる。
【0036】
中でも、本発明では、脂肪族炭化水素およびカルボン酸エステルの混合物が好ましく使用することができる。この場合、脂肪族炭化水素とカルボン酸エステルの好ましい混合比は、特に制限はないが、重量比で5/95〜70/30の範囲が好ましく、10/90〜50/50の範囲がより好ましく、とりわけ20/80〜40/60の範囲が好ましい。混合比が5/95より小さいと、重合中に生成した共重合体が反応槽へ固着する傾向が見られる。また、混合比が70/30より大きいと、共重合組成を精密に制御しにくくなる傾向が見られる。
【0037】
なお、本発明の製造方法において沈殿重合する際、その重合反応系に水を用いると共重合組成を精密に制御しにくくなる場合があり、水は共重合組成の制御が可能な範囲にとどめるべきであり、有機溶媒等重合反応系に用いる成分が不純物として水を極く少量含む場合を除き、水は積極的に添加しないことが最も好ましい。
【0038】
重合温度については、任意に設定することが可能であるが、好ましくは使用する有機溶媒の沸点以下の温度が好ましい。中でも、100℃以下の重合温度で重合することが好ましく、90℃以下の重合温度で重合することがより好ましい。また、重合温度の下限は、重合が進行する温度であれば、特に制限はないが、重合速度を考慮した生産性の面から、通常50℃以上、好ましくは60℃以上である。また重合時間は、必要な重合率を得るのに十分な時間であれば特に制限はないが、生産効率の点から60〜360分間の範囲が好ましく、90〜240分間の範囲が特に好ましい。
【0039】
また、重合液中の溶存酸素濃度を5ppm以下に制御することが、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の熱安定性を向上させる点で好ましい。さらに好ましい溶存酸素濃度の範囲は0.01〜3ppmであり、さらに好ましくは0.01〜1ppmである。ここで、本発明における、溶存酸素濃度は、重合液中の溶存酸素を溶存酸素計(例えばガルバニ式酸素センサである飯島電子工業株式会社製、DOメーターB−505)を用いて測定した値である。溶存酸素濃度を5ppm以下にする方法については、重合容器中に窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを通じる方法、重合液に直接不活性ガスをバブリングする方法、重合開始前に不活性ガスを重合容器に加圧充填した後、放圧を行う操作を1回若しくは2回以上行う方法、単量体混合物を仕込む前に密閉重合容器内を脱気した後、不活性ガスを充填する方法、重合容器中に不活性ガスを通じる方法を例示することができる。
【0040】
カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の好ましい割合は、該単量体混合物を100重量%として、カルボキシル基含有アクリル系単量体が15〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%である。カルボキシル基含有アクリル系単量体の共重合量が15重量%未満の場合には、共重合による改質や、高分子反応他への展開が困難となる場合がある。カルボキシル基含有アクリル系単量体の共重合量が50重量%を超える場合には、共重合組成のコントロールや、分子量分布のコントロールが所望するものからはずれやすくなる傾向にある。また、高分子反応を実施し感光性樹脂として使用することを考えた場合、顔料との間で親和性や水素結合性などが強くなりすぎ、顔料のシーディング(凝集)が起こりやすくなる場合がある。また、露光部、未露光部の現像液に対する感度差が小さくなり、微細で明瞭な現像パターンが形成され難くなる傾向にある。
【0041】
また、これらの単量体混合物は、有機溶媒中に一括で仕込んで共重合しても良く、分割添加、逐次添加しながら共重合しても良い。より好ましくは、生成するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を構成する単量体単位の組成分布を低減する目的で、単量体混合物中の重量組成比を任意に設定して、分割添加あるいは逐次添加する方法が挙げられる。
【0042】
共重合は重合開始剤の存在下あるいは非存在下で行うことができるが、重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を使用することが好ましく、ラジカル重合開始剤としては、通常使用されるあらゆる開始剤が使用できるが、中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系化合物、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物が好適に使用することができる。
【0043】
使用される重合開始剤の量は、共重合に用いられる単量体混合物100重量部に対して、0.001〜2.0重量部が好ましく、とりわけ0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0044】
また、本発明においては、分子量を制御する目的で、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加することができる。
【0045】
本発明においては、容易にカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を沈殿・析出させるため、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)と有機溶媒(B)に対する溶解度のバランスを考慮する必要がある。その観点から、各成分の溶解度パラメーターを考慮し、共重合種、共重合組成、反応溶媒等重合条件の設計を行うことが好ましい。
【0046】
カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターδpは、7.0〜12.0の範囲にあることが好ましく、7.5〜10.5であることがより好ましい。δpが7.0未満の場合には、耐ガソリン性や耐油性が劣るものとなり、実用上多くの制限を受ける場合がある。δpが12.0を超える場合には、ポリマーの凝集力が強くなりすぎ、成形品に加工したり、溶解して使用する際に粘度が高くなりすぎて取り扱い性が悪化する傾向にある。
【0047】
ここで言う溶解度パラメーターは、「塗料用合成樹脂入門」、北岡協三著、p23−p31、高分子刊行会(1986)、表2−8、表2−9を参考に、Smallの方法で算出したものである。
【0048】
すなわち、smallの方法により与えられた特定の原子及び原子団の凝集エネルギー定数F(cal1/2cc1/2/mol)、密度をs(g/cc)、基本分子量をMとし、δ=(sΣF)/Mで算出される値を溶解度パラメーターδとする。なお、本発明において凝集エネルギーFはsmallの数値を用いるものとする。
【0049】
(1)単量体の溶解度パラメーター
一例として、メタクリル酸メチル(密度 0.944 g/cc)の算出例を示す。
【0050】
メタクリル酸メチルを構成する各成分のFは
【0051】
【表1】

【0052】
となる。したがって、メタクリル酸メチルの溶解度パラメーターδmは、
δm=0.944×947÷100=8.94
となる。
【0053】
本算出方法により求めた代表的な単量体の溶解度パラメーターは
【0054】
【表2】

【0055】
である。
【0056】
(2)カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターδp
本発明では、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターδpを以下の式に従い算出した。すなわち、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)中の各単量体のモル分率Xi(%)、各単量体の溶解度パラメーターδiから、下記式により、算出されるものである。
【0057】
δp=Σ(δi × Xi/100)
従って、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターδpを上記範囲にするためには、使用する単量体の溶解度パラメーターを考慮して組成を調整すればよい。
【0058】
(3)有機溶媒(B)の溶解度パラメーターδs
有機溶媒(B)の溶解度パラメーターδsは、前記カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターδpの算出方法と同様にして求められる。n−ヘプタンの例を以下に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
δs=0.676×1093÷100=7.39
また、有機溶媒(B)が2種類以上の混合物である場合の溶解度パラメーターδsは、混合有機溶媒中の各溶媒成分のモル分率Xi(%)、各溶媒成分の溶解度パラメーターδiから、下記式により算出されるものである。
【0061】
δp=Σ(δi × Xi/100)
本発明においては、カルボキシル基含有アクリル系単量体を共重合する際、上記のカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上となるような共重合組成、溶媒種を選択することが好ましい。より好ましくは1.1以上であり、特に1.2以上の条件で重合を行うことが、重合中の重合槽壁面への付着がなく、さらに生成する共重合体を粉体として容易に取り出す上で好ましい。また、上記のΔSPが1.0〜1.9の範囲、より好ましくは、1.2〜1.8の範囲、さらに好ましくは1.5〜1.7の範囲で重合条件を設計することにより、重合開始前の仕込み単量体混合物組成と生成する共重合体の共重合組成に大きなずれを生じさせない精密な制御を行うこと、および分子量分布のより狭い、均一性の高い分子量制御を行うことができる点でより望ましい。
【0062】
本発明においては、(I)重合工程において得られた、特定の重合溶媒で重合したカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を含む有機溶媒スラリー(以下共重合体(A)スラリーと呼ぶ)を、以下の(II)洗浄工程において精製することが必要である。すなわち、前記重合工程(I)で得られた共重合体(A)のスラリーを固液分離(以下、第一ろ過と呼ぶ)した後、得られた共重合体(A)に水を添加し、50℃以上120℃未満の温度で洗浄し、該洗浄液から、遠心分離機を用いて、加速度が50〜200Gの条件で再度固液分離(以下、第二ろ過と呼ぶ)する。このような(II)洗浄工程を経ることにより揮発成分が少なく、ハンドリング性に優れる共重合体(A)粒子を得ることができる。
【0063】
第一ろ過における共重合体(A)スラリーの固液分離の方法については、特に制限はなく、通常の遠心分離機、加圧ろ過機、吸引ろ過機、ベルトフィルターなどを好ましく用いることにより、共重合体ケークを得ることができる。固液分離後の共重合体ケーク中の揮発分含有量は、特に制限はなく、通常50〜90重量%である。
【0064】
次に、第一ろ過によって分離・分別されて得られた共重合体(A)のケークに水を添加し、攪拌下加熱することにより、共重合体(A)を洗浄するとともに、ポリマー粒子を凝集させる。洗浄時に添加する水の量は前記第一ろ過で得られたケーク100重量部に対して、200〜2,000重量部であり、好ましくは200〜1,000重量部、最も好ましくは200〜600重量部である。水の添加量が200重量部以下の場合、十分な洗浄効果が得られないだけでなく、粒子の凝集が不十分となり、ハンドリング性が低下し好ましくない。水の添加量が2,000重量部を超える場合、廃水処理負荷が大きくなるため、好ましくない。
【0065】
第一ろ過によって得られた共重合体ケークと水の比率を上記範囲とすることにより、洗浄液中の共重合体(A)の濃度を0.1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは1〜20重量%とすることができる。ここで、洗浄液中の共重合体(A)の濃度は以下のように計算される。
【0066】
洗浄液中の共重合体(A)の濃度(重量%)
=100×(1−α/100)×(共重合体ケーク量(重量部))/(共重合体ケーク量(重量部)+水添加量(重量部))。
α:共重合体ケークの揮発分含有量(重量%)
なお、共重合体ケーク中の揮発分含有量(重量%)は該ケークを真空乾燥機中、80℃にて12時間加熱した時の重量変化より、下式にて算出した値である。
【0067】
共重合体ケーク中の揮発分含有量(重量%)=重量減少率(%)=[(加熱処理前重量−加熱処理後重量)/加熱処理前重量]×100。
【0068】
また、本発明においては、洗浄時に、共重合体(A)の濃度が上記を満たす範囲において、共重合体(A)を溶解しない溶媒を添加しても良い。
【0069】
本発明においては、洗浄温度を50℃以上120℃未満、好ましくは60以上110℃未満、より好ましくは70℃以上100℃未満の範囲で行う。洗浄温度が50℃未満の温度の場合は、洗浄効果が十分でなく、得られる共重合体(A)の熱安定性が低下する傾向にあり、好ましくない。また、粒子の凝集が不十分であるため、得られる共重合体(A)が微粉末状となり、ハンドリング性に劣る傾向にある。また、120℃を越える場合、共重合体粒子同士が合着し、塊状となるため、粒子としての取り出しが困難となり、いずれの場合も、本発明の目的を達成できない。
【0070】
上記洗浄操作を実施する装置については、洗浄温度を上記範囲内に制御できるものであれば、特に制限はなく、通常の攪拌機を備えたオートクレーブ等を使用することができる。なお、洗浄に際しては共重合体(A)のスラリー及び/またはそれに添加する水を予熱しておくことも可能である。
【0071】
また、本発明においては、遠心分離機を用いて第二ろ過を実施する。遠心分離機は通常の型式のものを用いることができる。
【0072】
また、本発明においては、加速度が、50〜200G、好ましくは80〜170G、さらに好ましくは、100〜150Gの条件で第二ろ過を実施する。加速度が50Gより小さいと、粒子内部の溶媒を十分に除去することができず、例えば続けて棚段乾燥機で乾燥する場合に、長時間を要する。加速度が200Gより大きいと、粒子同士が合着してしまう。
【0073】
また、本発明においては、第二ろ過温度を好ましくは30℃以上50℃以下、より好ましくは35℃以上45℃未満の範囲で行う。この温度範囲で第二ろ過を実施することで、粒子のゲル化や合着もなく、溶媒をきわめて効率よく除去することができる。
【0074】
上記洗浄操作によって得られたカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)ケークは、棚段式乾燥機などにより容易に乾燥することができる。
【0075】
かくして得られる本発明で製造するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の数平均粒子径は、150μm以上、50,000μm以下であり、好ましい態様においては、数平均粒子径は、150μm以上、10,000μm以下であり、より好ましい態様においては、数平均粒子径は250μm以上、10,000μm以下である。上記の範囲にある数平均粒子径を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)粒子は、ハンドリング性に優れる傾向にあり、好ましく使用することができる。尚、ここで言う数平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、150倍または1万倍で観察し、1次粒子径を画像解析して算出した数平均粒子径を表す。
【0076】
また、本発明で得られるカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、前記好ましい態様の製造方法において、重量平均分子量(以下Mwとも言う)が2,000〜1,000,000範囲にあるものを得ることができ、より好ましい様態においては、5,000〜500,000の範囲にあるものを得ることが可能である。Mwが2,000未満の場合には、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)を有機溶媒(B)中に分散質として沈殿、析出できない場合があり、本発明の目的に沿わないことがある。また、重合体が脆く、機械的な性質が劣悪になる傾向にある。Mwが1,000,000を超える場合には、溶融成形や溶液塗工した製品に十分に溶融、または溶解しない高分子量物が異物として残りやすくなる傾向にありフィッシュアイやハジキの欠点が出やすくなる傾向にある。尚、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。本発明のカルボキシルキ含有アクリル共重合体(A)の分子量を上記好ましい範囲に制御する方法は、前述の通り、アルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤を添加する方法を好適に用いることができる。これら連鎖移動剤の中でもアルキルメルカプタンを好適に用いることができ、さらにはアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられる。また、最も好ましい態様においては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが用いられる。これらアルキルメルカプタンの添加量としては、好ましい分子量に制御するために、単量体混合物の全量100重量部に対して、0.2〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜4.0重量部、さらに好ましくは0.4〜3.0重量部である。
【0077】
また、本発明では、特定の共重合組成、溶媒種を選択することにより、均質な分子量分布を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体が得られる。カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)の分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、前記好ましい態様の製造方法によれば、1.5〜5.0の範囲にあるものを得ることができ、より好ましい態様においては、1.7〜4.0の範囲にあるものを得ることができ、とりわけ好ましい態様においては、2.0〜3.5の範囲の範囲にあるものを得ることが可能である。このような分子量分布を有するカルボキシル基含有アクリル共重合体(A)は、成形加工性に優れる傾向があり、好ましく使用することができる。
【0078】
また、本発明においては、カルボキシル基含有アクリル共重合体(A)が、下記一般式(1)で表される(i)カルボキシル基含有アクリル系単位および(ii)下記一般式(2)で表されるアクリル系単量体単位を含む共重合体(A)である場合、続いて、かかる共重合体(A)を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し(イ)脱水及び/又は(ロ)脱アルコールによる分子内環化反応を行わせる工程(第二工程)を経ることにより、無色透明性と熱安定性に優れるグルタル酸無水物単位含有熱可塑性共重合体(C)を製造することが可能であることを見出した。
【0079】
【化7】

【0080】
(上記式中、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【0081】
【化8】

【0082】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R3は無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)。
【0083】
なお、前記一般式(1)で表される(i)カルボキシル基含有アクリル系単位は下記一般式(4)で表されるカルボキシル基含有アクリル系単量体を共重合することにより得られる。
【0084】
【化9】

【0085】
(上記式中、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)。
また、前記(2)で表されるアクリル系単量体単位は下記一般式(5)で表されるアクリル系単量体を共重合することにより得ることができる。
【0086】
【化10】

【0087】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、R8は無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)。
本発明におけるグルタル酸無水物単位含有熱可塑性共重合体(C)とは、(iii)下記一般式(3)で表されるグルタル酸無水物単位および(ii)上記一般式(2)で表されるアクリル系単量体単位を含む熱可塑性共重合体であり、これらは一種または二種以上で用いることができる。
【0088】
【化11】

【0089】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
この場合、典型的には、共重合体(A)を加熱することにより2単位の(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体単位のカルボキシル基が脱水され、あるいは、隣接する(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体単位と(ii)アクリル系単量体単位からアルコールの脱離により1単位の前記グルタル酸無水物単位が生成される。
【0090】
本発明により製造されたグルタル酸無水物単位含有熱可塑性共重合体(C)は、その優れた耐熱性、無色透明性および滞留安定性を活かして、電気・電子部品、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、各測定および評価は次の方法で行った。
【0092】
(1)重量平均分子量・分子量分布
得られた共重合体をテトラヒドロフランに溶解して、測定サンプルとした。テトラヒドロフランを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて、重量平均分子量(絶対分子量)、数平均分子量(絶対分子量)を測定した。分子量分布は、重量平均分子量(絶対分子量)/数平均分子量(絶対分子量)で算出した。
【0093】
(2)各成分組成
重ジメチルスルフォキシド中、30℃でH−NMRを測定し、各共重合単位の組成決定を行った。
【0094】
(3)溶解度パラメータ差(ΔSP値)
「塗料用合成樹脂入門」、北岡協三著、p23−p31、高分子刊行会(1986)、表2−8、表2−9を参考に、Smallの方法で、下記(a)、(b)に従い、共重合体の溶解度パラメーターδpおよび有機溶媒の溶解度パラメーターδs算出し、その差の絶対値を溶解度パラメータ差として求めた。
【0095】
(a)共重合体の溶解度パラメーターδp
共重合体中の各単量体単位のモル分率Xi、各単量体の溶解度パラメーターδiから、下記式により、算出した。
【0096】
δp=Σ(δi × Xi/100)
(b)有機溶媒の溶解度パラメーターδs
前記共重合体の溶解度パラメーターδpの算出方法と同様にして算出した。また、有機溶媒が2種類以上の混合物である場合の溶解度パラメーターδsは、混合有機溶媒中の各溶媒成分のモル分率Xi(%)、各溶媒成分の溶解度パラメーターδiから、下記式により算出した。
【0097】
δp=Σ(δi × Xi/100)
(4)溶解度
得られた共重合体を共重合に使用した有機溶媒100gに添加し、23℃で24時間攪拌して溶解試験を行った後の溶液状態を目視観察し、溶解する共重合体の重量を評価した。
【0098】
(5)ケーク中の揮発分含有量
第一ろ過の共重合体ケークおよび第二ろ過後の共重合体ケークをそれぞれ真空乾燥機中80℃にて12時間加熱した時の重量変化を測定し、下式より算出した重量減少率を揮発分含有量として評価した。
【0099】
共重合体ケーク中の揮発分含有量(重量%)
=重量減少率(重量%)=[(加熱処理前重量−加熱処理後重量)/加熱処理前重量]×100。
【0100】
(6)数平均粒子径
<第一ろ過の共重合体ケーク>
得られた共重合体ケークを走査型電子顕微鏡(以下SEMとも言う)を用い、1万倍で観察し、1次粒子径を画像解析(使用ソフト:Scion Corporation社製画像解析ソフト「Scion Image」)して算出した。
【0101】
<第二ろ過の共重合体ケーク>
SEMの拡大倍率を150倍に変更した以外は、第一ろ過の共重合体ケークと同様に算出した。
【0102】
(a)重合工程:
<重合>
容量が20リットルで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、下記(イ)の混合物質を供給して、250rpmで攪拌しながら溶解し、系内を10L/分の窒素ガスで15分間バブリングした。次に、窒素ガスを5L/分の流量でフローし、反応系を攪拌しながら95℃に昇温した。下記(ロ)の混合物質を40分間で逐次添加し、さらに60分間保った後、重合を終了し、共重合体スラリー(a)を得た。重合は、重合初期から共重合体が分散質としてスラリー状に分散した不均一系で、重合槽壁面への付着なども見られず、良好に重合が進行した。
【0103】
混合物質(イ):
メタクリル酸 20重量部、
メタクリル酸メチル 80重量部、
n−ヘプタン 175重量部、
酢酸ブチル 525重量部、
混合物質(ロ):
n−ヘプタン 25重量部、
酢酸ブチル 75重量部、
ラウロリルパーオキサイド 0.8重量部。
【0104】
得られたスラリー少量を定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過し(第一ろ過)、80℃で12時間乾燥を行い、パウダー状の共重合体ケーク(a’−1)を得た。Mwは、120,000、分子量分布(Mw/Mn)は、3.03であった。共重合組成はMMA/MAA(重量比)=72/28であり、共重合体(A)(δp=9.20)と有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値ΔSPは、1.65であった。。平均粒子径は5.0μmであった。
【0105】
<第一ろ過>
重合工程で得られた共重合体スラリー(a)を加圧ろ過機(三菱化工機械社製)にて25℃で固液分離し(第一ろ過)、共重合体ケーク(a’−2)を得た。揮発分含有量は78重量%であった。
【0106】
(b)洗浄工程
<洗浄>
共重合体ケーク(a’−2)をバッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製の洗浄槽に供給し、ケーク100部に対して400部のイオン交換水を添加し、25℃、回転速度250rpmにて攪拌を開始した。この混合物を引き続き250rpmにて攪拌しながら、60分間かけて80℃に昇温し、内温が80℃に到達した時点から60分間洗浄操作を行い、共重合スラリー(a’’)を得た。
【0107】
共重合スラリー(a’’)少量を定性濾紙No.1を用いて吸引ろ過し(第二ろ過)、粒子状の共重合体ケーク(A’)を得た。揮発分含有量は23重量%であった。数平均粒子径は520μmであった。また、GPC測定によるMwは120,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.14であった。共重合体(A’)の共重合組成はMMA/MAA(重量比)=72/28であった。
【0108】
<第二ろ過>
実施例1:
共重合スラリー(a’’)を、温度が40℃の状態で、遠心分離機「LAC−21」(松本機械販売(株)社製)に供給し、加速度が90Gで第二ろ過を実施し、実施例1の共重合ケークを得た。揮発分含有量は50重量%であった。数平均粒子径は530μmであった。また、粒子のゲル化や合着は見られなかった。
【0109】
実施例2:
加速度を90Gから125Gに変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例2の共重合体を得た。揮発分含有量は45重量%であった。数平均粒子径は540μmであった。また、粒子のゲル化や合着は見られなかった。
【0110】
実施例3:
加速度を90Gから160Gに変更した以外は実施例1と同様の方法で実施例3の共重合体を得た。揮発分含有量は35重量%であった。数平均粒子径は560μmであった。また、粒子のゲル化や合着は見られなかった。
【0111】
実施例4:
温度を40℃から25℃に変更した以外は実施例2と同様の方法で実施例4の共重合体を得た。揮発分含有量は50重量%であった。数平均粒子径は860μmであった。また、粒子のゲル化が一部見られたが、実用上問題ないレベルであった。
【0112】
実施例5:
温度を40℃から90℃に変更した以外は実施例2と同様の方法で実施例5の共重合体を得た。揮発分含有量は40重量%であった。数平均粒子径は900μmであった。また、粒子の合着が一部見られたが実用上問題ないレベルであった。
【0113】
比較例1:
加速度を75Gから30Gに変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例1の共重合体を得た。揮発分含有量は70重量%であった。また、粒子のゲル化が見られ、実用上問題があった。
【0114】
比較例2:
加速度を75Gから250Gに変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例2の共重合体を得た。揮発分含有量は32重量%であった。また、粒子の合着が見られ、実用上問題があった。
【0115】
比較例3:
加速度を75Gから300Gに変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例3の共重合体を得た。揮発分含有量は30重量%であった。また、粒子の合着が見られ、実用上問題があった。
実施例1〜5および比較例1〜3の結果を纏めたものを表5に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
実施例1〜5および比較例1〜3の比較から、特定温度の水中で洗浄することにより造粒したカルボキシル基含有アクリル共重合体のスラリーを、遠心分離機を用いて、特定の加速度で遠心分離することによって、粒子がゲル化したり合着したりすることを抑え、粒子から溶媒を効率よく除去することができることがわかる。
【0118】
実施例1で得られた共重合体のケーク100重量部に、触媒として酢酸リチウム0.2重量部を配合し、を38mmφ二軸・単軸複合型連続混練押出機(HTM38(CTE社製、L/D=47.5、ベント部:2箇所)に供給した。ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数75rpm、原料供給量10kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のグルタル酸無水物含有熱可塑性共重合体を得た。この方法により、滞留時も発生ガス量の少ない高度な耐熱性、熱安定性を有しながら、とりわけ無色透明性に優れたグルタル酸無水物含有熱可塑性共重合体を製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物を共重合し、(i)カルボキシル基含有アクリル系単量体単位を含む共重合体(A)を製造するに際し、下記重合工程(I)および洗浄工程(II)を含むことを特徴とする共重合体の製造方法。
(I)重合工程
芳香族基を含有しない有機溶媒であって、カルボキシル基含有アクリル単量体およびこれと共重合可能なその他のアクリル系単量体を含む単量体混合物は溶解し、かつ、(i)カルボキシル基含有アクリル単量体単位を含む共重合体(A)の溶解度が1g/100g以下である有機溶媒(B)中で共重合し、共重合体スラリーを得る重合工程
(II)洗浄工程
前記重合工程(I)で得られた共重合体(A)のスラリーを固液分離した後、得られた共重合体(A)に水を添加し、50℃以上120℃未満の温度で洗浄し、該洗浄液から、遠心分離機を用いて、加速度が50〜200Gの条件で再度固体液体分離し、共重合体(A)を得る工程
【請求項2】
洗浄後の固液分離を、30℃以上50℃未満で行うこと特徴とする請求項1記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程(II)における洗浄液中の共重合体(A)の濃度が1〜50重量%であることを特徴とする請求項1または2記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合工程(I)を、共重合体(A)の溶解度パラメーターと有機溶媒(B)の溶解度パラメーターの差の絶対値(ΔSP)が、1.0以上である条件下で行うことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合工程(I)で用いる有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素、カルボン酸エステル、ケトンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記重合工程(I)で用いる有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素およびカルボン酸エステルの混合物であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記重合工程(I)で用いる有機溶媒(B)が、脂肪族炭化水素およびカルボン酸エステルの混合物であり、その重量比が5/95〜70/30であることを特徴とする請求項6記載の共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記共重合体(A)が(i)下記一般式(1)で表されるカルボキシル基含有アクリル系単量体単位および(ii)下記一般式(2)で表されるアクリル系単量体単位を含む共重合体であることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の共重合体の製造方法。
【化1】

(ただし、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)
【化2】

(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基若しくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【請求項9】
前記共重合体(A)中に、(i)上記一般式(1)で表されるカルボキシル基含有アクリル系単量体単位を15〜50重量%含有する請求項8記載の共重合体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9記載の共重合体の製造方法により共重合体(A)を製造(第一工程)した後、引き続いて、該共重合体(A)を加熱処理し、(イ)脱水および/または(ロ)脱アルコール反応よる分子内環化反応を行う工程(第二工程)により、(iii)下記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位および(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位を含む熱可塑性共重合体(C)を製造することを特徴とするグルタル酸無水物単位含有熱可塑性共重合体の製造方法。
【化3】

(ただし、R、Rは、同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表す)

【公開番号】特開2008−239851(P2008−239851A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84005(P2007−84005)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】