説明

共重合体ラテックス

【課題】塗料の乾燥性、耐チッピング性に優れ、基材への密着性、塗膜のクラック性をバランスよく両立する低温乾燥型の水性塗料用組成物を実現可能な、耐チッピング塗料用共重合体ラテックスを提供する。
【解決手段】(a)共役ジエン系単量体30質量%〜70質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1質量%〜15質量%、(c)1種又は複数種からなる他の共重合可能な単量体15質量%〜69.9質量%を含む単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のトルエン不溶分が95質量%〜100質量%であり、前記トルエン不溶分の乾燥物の質量に対するトルエン不溶分のトルエン湿潤物の質量の比(トルエン膨潤度)が6.6〜10.0であり、前記共重合体ラテックスの数平均粒子径が200nm〜500nmであり、示差走査熱量測定において、前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のガラス転移開始温度が−70℃〜−20℃の範囲、ガラス転移終了温度が10℃〜100℃の範囲にあることを特徴とする、前記共重合体ラテックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料用として好ましく使用される共重合体ラテックスに関する。更に詳しくは、塗料の乾燥性と塗膜の耐チッピング性に優れ、同時に基材となる電着板等への密着性等に優れた水性塗料用組成物を実現することが可能な、共重合体ラテックスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体外板や外装部品に塗装される塗膜には、走行中の飛び石や砂利の衝突によって傷が付く、いわゆるチッピングと称される現象が生じる事が知られている。このチッピング現象から塗膜や基材を保護することを目的として、例えば自動車の床裏部においては、カチオン電着塗装が行われた鋼板表面に塩化ビニルプラスチックゾル組成物系の塗料を塗装することが従来行われている。しかしながら、ポリ塩化ビニルを含有している塩化ビニルプラスチックゾル組成物は、廃自動車鋼板の焼却処理工程において塩化水素ガスが発生し、焼却炉を損傷する場合がある。
【0003】
また、床裏部以外、例えば自動車ボディの側面等においては、通常、カチオン電着塗装が行われた鋼板表面に、耐チッピング性を具備した中塗り塗料を塗装する。このような中塗り塗料としては、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂を主成分とし、溶媒として有機溶剤が使用された塗料が一般に用いられる。しかしながら、有機溶剤が使用された塗料は、塗料安定性や塗装作業性の観点からは好まれるものの、環境負荷(VOC等)の観点からは好ましくなく、改良が求められている。
【0004】
このような事情の下、近年、塩化ビニルプラスチックゾル組成物や有機溶剤系塗料に代わる塗料として、水性塗料用組成物が提案されている。
しかし、水性塗料用組成物は、水を分散媒とするため、特に高温(約90〜160℃)での乾燥時に水分の蒸発に起因する塗膜の膨れ(ブリスター)を生じ易い、という問題がある。
【0005】
こうした高温での乾燥時における塗膜の膨れの問題を解決する為、低温(30℃〜85℃)で塗料を乾燥する方法が提案されている。
しかし、低温で塗料を乾燥させるには、乾燥時間を長くする必要があり、生産性の面からは好ましくなく、市場では乾燥時間を短くできる低温乾燥型の水系塗料用組成物の開発が望まれている。
【0006】
こうした水系塗料用組成物の課題を解決する為、数多くの先行技術が開示されている。例えば、原料単量体の添加方法を工夫する事によって各種性能を改良した共重合体ラテックス(特許文献1)が提案されている。更に、エポキシ基等の原料単量体を含む共重合体ラテックスが提案されている(特許文献2)。また低温乾燥型の耐チッピング塗料組成物が提案されている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−53950号公報
【特許文献2】特開2000−178497号公報
【特許文献3】特開平7−216261号公報
【特許文献4】特開平10−183017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、塗料の乾燥性を向上させつつ、同時に塗料としての各種課題、例えば耐チッピング性、基材への密着性等をバランスよく両立する低温乾燥型の水系塗料用組成物を実現する観点からは、まだ十分満足できるものが得られていないのが実情である。
そこで本発明は、塗料の乾燥性に優れ、同時に、塗膜の耐チッピング性、基材への密着性等に優れた低温乾燥型の水性塗料用組成物を実現可能な共重合体ラテックスを提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、自動車用水性塗料の構成材料として用いられる共重合体ラテックスに関し、共役ジエン系単量体を必須成分とし、特定のトルエン不溶分、特定のトルエン膨潤度、特定の粒子径、及び特定のガラス転移温度を有する共重合体ラテックスを用いること等に着目し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の共重合体ラテックスを提供する。
【0011】
(1)(a)共役ジエン系単量体30質量%〜70質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1質量%〜15質量%、(c)1種又は複数種からなる他の共重合可能な単量体15質量%〜69.9質量%を含む単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のトルエン不溶分が95質量%〜100質量%であり、前記トルエン不溶分の乾燥物の質量に対するトルエン不溶分のトルエン湿潤物の質量の比(トルエン膨潤度)が6.6〜10.0であり、前記共重合体ラテックスの数平均粒子径が200nm〜500nmであり、示差走査熱量測定において、前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のガラス転移開始温度が−70℃〜−20℃の範囲、ガラス転移終了温度が10℃〜100℃の範囲にあることを特徴とする、前記共重合体ラテックス。
【0012】
(2)前記数平均粒子径が220nm〜450nmである、前記(1)に記載の共重合体ラテックス。
【0013】
(3)前記数平均粒子径が240nm〜400nmである、前記(1)に記載の共重合体ラテックス。
【0014】
(4)前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のトルエン不溶分が95質量%を超えて100質量%までの範囲である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の共重合体ラテックス。
【0015】
(5)前記(c)他の共重合可能な単量体として、シアン化ビニル系単量体を、前記単量体混合物中に1質量%〜30質量%含むことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の共重合体ラテックス。
【0016】
(6)前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の共重合体ラテックスを含む、水性塗料用組成物。
【0017】
(7)前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の共重合体ラテックスを含む、耐チッピング塗料用組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明の共重合体ラテックスを自動車水性塗料の構成材料として用いることにより、低温乾燥型の水系塗料における課題である、塗料の乾燥性を向上させることが可能である。同時に、塗膜の耐チッピング性、基材との密着性等の物性が優れた塗料組成物を実現し得る。また、本発明の共重合体ラテックスを用いることにより、低温乾燥工程において水系塗料の使用が可能になり、有機溶剤に起因して発生するVOC問題等や、乾燥時間の短縮による生産性の改善や乾燥エネルギーコストの削減が可能であり、廃自動車鋼板の焼却処理工程における塩化水素の発生問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は共重合体ラテックスの示差走査熱量曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
本発明は、共役ジエン系単量体、及び当該共役ジエン系単量体と共重合可能な単量体を乳化重合して形成することができる。共役ジエン系単量体成分は、共重合体に柔軟性を与え、塗膜の耐チッピング性を付与するために重要な成分である。
【0022】
共役ジエン系単量体の好ましい例としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
共役ジエン系単量体成分が、単量体混合物中に占める割合としては、通常30質量%〜70質量%、好ましくは35質量%〜65質量%である。共役ジエン系単量体成分の使用量を上記範囲に設定する事により、共重合体ラテックスに適度の柔軟性と弾性を付与して塗膜の耐チッピング性を向上させることができる。
【0024】
本発明のエチレン系不飽和カルボン酸単量体は、共重合体ラテックスに必要な分散安定性を与え、顔料との結合作用を高めるために好ましく使用される成分である。
【0025】
ここで、前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等の一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
また、前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体が、前記単量体混合物中に占める割合としては、通常0.1質量%〜15質量%、好ましくは0.2質量%〜10質量%、より好ましくは0.3質量%〜5質量%、さらに好ましくは0.4質量%〜3質量%である。エチレン系不飽和カルボン酸単量体の使用量を上記範囲に設定する事により、得られる共重合体ラテックスの分散安定性を良好に保つ事ができる。また、共重合体ラテックス、又はこれを利用した水性塗料の粘度を取り扱いに支障がない適度な範囲に調整する事ができる。
【0027】
本発明の他の共重合可能な単量体は、その種類を適宜選択することにより、共重合体ラテックスにさまざまな特性を付与できる。他の共重合可能な単量体の好ましい例としては、例えば、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、ヒドロキシアルキル基を有する単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体、等が挙げられ、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記シアン化ビニル系単量体は、共重合体の凝集力を高めると同時に、基材への優れた密着性を付与する目的で好ましく使用される成分である。
【0029】
ここで、前記シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、前記シアン化ビニル系単量体が、前記単量体混合物中に占める割合としては、好ましくは1質量%〜30質量%、より好ましくは2質量%〜27質量%である。シアン化ビニル系単量体の使用量を当該範囲に設定する事により、重合安定性を低下させることなく、塗膜の耐チッピング性と基材との密着性を向上させることができる。
前記芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
前記ヒドロキシアルキル基を有する単量体としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル系単量体、アリルアルコール、及びN−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル系単量体としてより具体的には、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
前記単量体混合物には、上述した各種単量体以外にも、種々の他の共重合可能な単量体を配合することができる。そのような単量体としては、例えば、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;ジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能ビニル系単量体;等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いる事ができる。
【0034】
得られる共重合体ラテックスの安定性、塗膜の耐チッピング性、基材との密着性、塗料の乾燥性の観点からは、他の共重合可能な単量体として、スチレン、アクリロニトリルを配合することが好ましい。
【0035】
上記重合には連鎖移動剤を用いる。連鎖移動剤は特に限定されないが、好ましい例としては、例えば、核置換α−メチルスチレンの二量体のひとつであるα−メチルスチレンダイマー;n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類;テトラメチルチウラジウムジスルフィド、テトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類;四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化誘導体、2−エチルヘキシルチオグリコレートなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
連鎖移動剤の使用量は、前記全単量体混合物100質量部に対し、割合としては好ましくは0.40質量部〜0.70質量部、さらに好ましくは0.40質量部を超えて0.65質量部までである。連鎖移動剤の使用量を上記範囲に設定することにより、本実施の形態の共重合体ラテックスを使用した塗料は優れた塗料の乾燥性と密着性と塗膜のクラック性を発現する。
【0037】
連鎖移動剤の添加方法としては、例えば、一括添加、回分添加、連続添加、あるいはこれらの組み合わせなど公知の添加方法が用いられる。
【0038】
本実施の形態において、本願発明の共重合体中のトルエン不溶分(ゲル分率)としては、通常95質量%〜100質量%、好ましくは95質量%を超えて100質量%まで、より好ましくは96質量%〜99質量%である。この範囲にトルエン不溶分を調整することにより、本実施の形態の共重合体ラテックスを使用した塗料は、塗料の乾燥性と塗膜の耐チッピング性を向上させる事ができる。トルエン不溶分は公知の方法で制御できるが、連鎖移動剤の量により調整することが重要である。
【0039】
本実施の形態において、共重合体ラテックス乾燥物のトルエンに対する膨潤度(トルエン膨潤度)を特定の範囲に制御することは、優れた塗料の乾燥性や、基材への密着性を発現する上で重要である。トルエン膨潤度は、共重合体ラテックスの架橋密度の尺度となるものだが、トルエン膨潤度が低い、即ち架橋密度が高いと、塗料の乾燥性が向上する。また、トルエン膨潤度が高い、即ち架橋密度が低いと、基材への密着性が向上する。好ましいトルエン膨潤度の範囲は、通常6.6〜10.0、好ましくは6.7〜9.8、さらに好ましくは6.8〜9.5である。トルエン膨潤度がこの範囲にあると、塗料の乾燥性、基材への密着性、塗膜のクラック性に優れた共重合体ラテックスを得ることができる。ここで、トルエンに対する膨潤度(トルエン膨潤度)とは、測定対象物の乾燥物に対して飽和状態にまでトルエンで膨潤させた場合の質量と、乾燥物の質量との質量比を意味している。
【0040】
トルエン膨潤度は、共重合過程においてジエン系単量体の架橋反応を抑制する条件を選ぶことにより、大きくすることができる。架橋反応を抑制する条件としては、重合温度を低くする、重合系中の単量体濃度を高くする、等が挙げられるが、重合系中の単量体濃度の制御はトルエン膨潤度を制御する方法として有効である。重合系中の単量体濃度は、重合系中への単量体添加法により、変化する。従って、単量体添加法を適切に選択することで、単量体濃度を制御することができる。例えば、単量体添加時間を短くするほど重合系中の単量体濃度は高くなる。本実施の形態の共重合体ラテックスにおいては、多段重合法を用い、前記の連鎖移動剤を用いて、第一工程の単量体混合物の重合コンバージョンが50質量%〜95質量%の範囲になった後に、第二工程以降の単量体混合物を添加することが好ましい。
【0041】
本実施の形態における共重合体ラテックスは、示差走査熱量測定において、ガラス転移開始温度が−70℃〜−20℃の範囲にあり、ガラス転移終了温度が10℃〜100℃の範囲にあることが好ましい。
【0042】
通常、示差走査熱量計を用いてサンプルから発生する熱量を測定し、測定温度を連続的に変化させた場合、示差走査熱量曲線においてガラス転移領域は階段状変化、すなわち曲線がそれまでのベースラインから離れ新しいベースラインに移行する、という変化として観察される。ガラス転移開始温度とは、低温側のベースラインに対し、ガラス転移の階段状変化が始まり、曲線がベースラインから外れ始める温度とする。また、ガラス転移終了温度とは、高温側のベースラインに対し、階段状変化が終わって曲線がベースラインに戻る時の温度とする(図1を参照)。
【0043】
本ガラス転移開始温度の好ましい温度範囲は、−70℃〜−20℃、より好ましい範囲は−65℃〜−25℃である。また、ガラス転移終了温度の好ましい温度範囲は10℃〜100℃であり、より好ましくは15℃〜90℃である。
【0044】
共重合体ラテックスが、上記範囲のガラス転移開始温度、及びガラス転移終了温度を有することにより、本実施の形態の共重合体ラテックスを使用した塗料は、耐チッピング性と、塗料の乾燥性、塗膜のクラック性を向上させることができる。
【0045】
本実施の形態における共重合体ラテックスは、特定のガラス転移開始温度、及びガラス転移終了温度を有するが、いわゆるガラス転移温度(Tg)の数は限定されない。ガラス転移温度は、示差走査熱量曲線の微分曲線(温度−電力/時間曲線)におけるピークとして検出することができるが、ピークが1点のもの、2点以上あるもの、又は明確なピークを示さず台形状の曲線を示すもの、いずれでも構わない。
【0046】
本実施の形態における特定のガラス転移開始温度、及びガラス転移終了温度を有する共重合体ラテックスは、2段階以上の重合を行うことにより製造することができる。特に、各工程の単量体等混合物の組成を調整して製造することにより、所望のガラス転移開始温度、及びガラス転移終了温度に制御することが出来る。例えば、共役ジエン系単量体の含有率が40質量%以上の単量体混合物を重合する工程と、共役ジエン系単量体の含有量が40質量%以下の単量体混合物を重合する工程を有する2段重合法で製造することができる。また、2段階ではなく、3段階、又はそれ以上の重合工程を有する重合法で製造することもできる。
【0047】
本実施の形態の共重合体ラテックスを製造するに際し、乳化重合の系内に単量体混合物を添加する方法についても種々の方法を採用し得る。例えば、単量体混合物の一部を一括して予め乳化重合系内に仕込み重合した後、残りの単量体混合物を連続的もしくは間欠的に仕込む方法が挙げられる。また、単量体混合物を各重合段の最初から連続的又は間欠的に仕込む方法が挙げられる。これらの重合方法は組み合わせることも可能である。
【0048】
また単量体混合物を添加する工程において、単量体混合物の組成が連続的に変化するような、いわゆるパワーフィード法を用いることも可能である。
【0049】
本実施の形態において、共重合体ラテックスの数平均粒子径としては、通常200nm〜500nmであり、好ましくは210nm〜470nm、より好ましくは220nm〜450nm、さらに好ましくは230nm〜430nm、最も好ましくは240nm〜400nmである。数平均粒子径がこの範囲にあることにより、本実施の形態の共重合体ラテックスを使用した塗料は優れた塗料の乾燥性と、塗膜の優れた耐チッピング性とクラック性を発現する。
【0050】
数平均粒子径は、乳化重合により製造する際の、乳化剤の使用量を調節する方法や公知のシード重合法を用いることで調整することが可能である。シード重合法としては、シードを作製後同一反応系内で共重合体ラテックスの重合を行うインターナルシード法、別途作製したシードを用いるエクスターナルシード法などの方法を、適宜選択して用いることができる。
【0051】
本実施の形態において、共重合体ラテックスの製造法については、例えば、水性媒体中で乳化剤の存在下、ラジカル開始剤により重合を行う等の方法を採用することができる。
【0052】
ここで、使用する乳化剤としては、従来公知のアニオン、カチオン、両性及び非イオン性の乳化剤を用いることができる。好ましい乳化剤の例としては、例えば、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン性乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性乳化剤;が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。使用される乳化剤の量としては、単量体100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜2.0質量部、より好ましくは0.1質量部を超えて1.3質量部まで、さらに好ましくは0.2質量部〜0.8質量部である。
【0053】
また、分子中にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などのラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を用いることも何ら差し支えない。
【0054】
ラジカル開始剤としては、熱又は還元剤の存在下でラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用することが可能である。好ましい開始剤の例としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などを挙げることができる。
【0055】
このような開始剤としてより具体的には、例えば、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
また、酸性亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸やその塩、エリソルビン酸やその塩、ロンガリットなどの還元剤を上述の重合開始剤と組み合わせて用いる、いわゆるレドックス重合法を用いることもできる。
【0057】
共重合体ラテックスを製造する場合の重合温度としては、例えば、40℃〜100℃である。ここで、生産効率と、得られる共重合体ラテックスの衝撃吸収性等の品質の観点から、重合開始時から単量体混合物の添加終了時までの期間における重合温度として、好ましくは45℃〜95℃、より好ましくは55℃〜90℃である。
【0058】
また、全単量体を重合系内に添加終了後に、各単量体の重合転化率を引き上げる為に重合温度を上げる方法(いわゆるクッキング工程)を採用する事も可能である。このような工程における重合温度としては、好ましくは80℃〜100℃である。
【0059】
共重合体ラテックスを製造する場合の重合固形分濃度(重合が完結した際の固形分濃度。乾燥により得られた固形分質量の、元の共重合体ラテックス(水等を含む)質量に対する割合をいう。)としては、生産効率と、乳化重合時の粒子径制御の観点から、好ましくは35質量%〜60質量%、より好ましくは40質量%〜57質量%である。
【0060】
前記共重合体ラテックスの製造に際しては、必要に応じて公知の各種重合調整剤を乳化重合時又は乳化重合終了時に用いることができる。例えばpH調整剤、キレート化剤、などを使用することができる。
【0061】
pH調整剤の好ましい例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、モノエタノールアミンやトリエタノールアミンなどのアミン類等が挙げられる。また、キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0062】
本実施の形態の共重合体ラテックスは、通常、溶媒中に分散された状態で最終製品として提供される。この場合の固形分濃度としては、好ましくは30質量%〜60質量%である。
【0063】
ここで、本実施の形態の共重合体ラテックスには、その効果を損ねない限り、必要に応じて各種添加剤を添加したり、あるいは他のラテックスを混合して用いたりすることができる。例えば乳化剤、分散剤、消泡剤、老化防止剤、耐水化剤、殺菌剤、増粘剤、保水剤、印刷適性剤、滑剤、架橋剤などを添加することができる。また、アルカリ感応型ラテックス、有機顔料、ウレタン樹脂ラテックス、アクリル樹脂系ラテックスなどを混合して用いることもできる。なお、本発明の効果を損なわない範囲で、他の(ジエン系)共重合体ラテックスを併用してもよい。
【0064】
本実施の形態の共重合体ラテックスは、各種充填剤、添加剤、他種エマルジョン、有機材料等が添加されて、塗料として使用される。
【0065】
塗料中に用いられる充填剤の例としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、珪藻土、シリカ、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、セピオライト、アルミナ、酸化チタン、硫酸バリウム、ベンガラ等の無機顔料;ガラスビーズ、発泡ガラスビーズ、火山ガラス中空体、ガラス繊維等のガラス材料;
カーボンブラック等の有機顔料が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して使用することができる。
【0066】
また、塗料中に用いられる充填剤の添加量としては、共重合体ラテックスの固形分100質量部に対し、好ましくは50質量部〜400質量部である。このような範囲とする事で、得られた塗料は、優れた塗料の乾燥性と塗膜の耐チッピング性が得られる。
塗料中に用いられる添加剤としては、例えば、可塑剤、タレ防止剤、増粘剤、消泡剤、分散剤、発泡剤、コロイド安定剤、防腐剤、PH調整剤、老化防止剤、着色剤、架橋剤、硬化剤、保水剤等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して使用する事が可能である。
【0067】
塗料中に用いられる増粘剤としては、例えば、ポリカルボン酸塩類、ウレタン会合型、ポリエーテルタイプ、セルロースエーテル、ポリアクリル型、ポリアクリルアミド等を挙げることができる。
【0068】
塗料中に用いられる架橋剤・硬化剤としては、例えば、多官能エポキシ化合物、ブロックイソシアネート、メラミン樹脂、オキソザリン化合物等を挙げることができる。
【0069】
塗料中に用いられる発泡剤としては、例えば、重曹、炭酸アンモニウム、ニトロソ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の化合物を挙げる事ができる。
【0070】
塗料中に用いられる他種エマルジョンとしては、例えば、天然ゴムラテックス、アクリル樹脂系ラテックス、酢酸ビニル系ラテックス、ウレタン樹脂ラテックス、エポキシ樹脂ラテックス等が挙げられる。
【0071】
また、塗料中に用いられる有機材料としては、例えば、各種樹脂粉末、ゴム粉末、ポリエチレングリコール、カーボンブラック、ホワイトカーボン、セルロースパウダー、澱粉等を挙げる事ができる。
【0072】
本実施の形態の共重合体ラテックスを用いて塗料を調製する場合、従来公知の各種分散装置を用いることができる。分散装置としては、例えばバタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ロータリーミキサー、ニーダー、ディゾルバー、ペイントコンディショナー等を使用する事ができる。
【0073】
また、本実施の形態の共重合体ラテックスを使用した塗料は、従来公知の方法、例えば、ヘラ、刷毛、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン、ロール塗工機等を用いて基材に塗布する事が可能である。
【0074】
本実施の形態の共重合体ラテックスは、水性塗料用として好ましく用いる事ができるが、さらに好ましくは水性耐チッピング塗料用として用いる事ができる。また、他の用途として船底防汚塗料、防錆塗料、カーペットバッキング剤、接着剤、各種塗料、塗工紙用バインダー、各種コーティング剤などにも用いる事ができる。
【実施例】
【0075】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、各物性の評価は、以下の通りの方法で行った。
【0076】
(1)トルエン不溶分(ゲル分率)、トルエン膨潤度:
固形分濃度を50%、pH8に調製した共重合体ラテックスを130℃で30分間乾燥し、乾燥物(ラテックスフィルム)を得た。このラテックスフィルム0.5gをトルエン30mlと混合して3時間振とうした後、目開き32μmの金属網にてろ過し、残留物の湿潤質量と乾燥質量を秤量した。もとのラテックスフィルム質量に対する残留物の乾燥質量の割合をトルエン不溶分(質量%)とした。また、上記残留物の乾燥質量に対する上記湿潤質量の比をトルエン膨潤度とした。
【0077】
(2)ガラス転移開始温度、及びガラス転移終了温度の測定:
固形分濃度を50%、pH8に調製した共重合体ラテックスを130℃で30分間乾燥し、乾燥物(ラテックスフィルム)を得た。示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製;DSC6220)を使用し、ASTM法に準じ、温度−120℃から+160℃まで、20℃/min.の速度で昇温し、本発明共重合体ラテックスの示差走査熱量曲線を得た。これにより、低温側のベースラインに対し、ガラス転移の階段状変化が始まり、曲線がベースラインから外れ始めた温度をガラス転移開始温度とした。また、高温側のベースラインに対し、階段状変化が終わって曲線がベースラインに戻る時の温度をガラス転移終了温度とした。なお、示差走査熱量曲線の例を図1に示す。
【0078】
(3)ラテックスの数平均粒子径:
共重合体ラテックスの数平均粒子径を動的光散乱法により、光散乱光度計(シーエヌウッド社製、モデル6000)を用いて、初期角度45度−測定角度135度で測定した。
【0079】
(4)耐チッピング性評価(チッピング強度):
電着板上に、乾燥膜厚が500μmとなるよう各塗料を塗布し、熱風乾燥機を用いて、80℃で30分間乾燥し、乾燥塗膜を得た。各塗料が塗装された電着板を、電着板上の乾燥塗膜を水平面に対し60度の角度で固定した。次いで塗膜面の上に高さ2mのポリ塩化ビニル製パイプ(内径20mm)を垂直に固定した。その後、該パイプを通して、M−4ナットを2mの高さから塗膜面に連続的に落下、衝突させ、下地の電着板が露出するまでに要した、ナットの総質量(Kg)を測定した。その総質量をチッピング強度(Kg)として表した。
【0080】
(5)塗料の乾燥性:
電着板の重量を秤量した。秤量した電着板上に、乾燥膜厚が500μmとなるよう固形分濃度が75%の各塗料を塗布し、塗布直後の塗料が塗布された電着板の質量を秤量した。熱風乾燥機を用いて、温度80℃、湿度20%で5分間乾燥し、得られた乾燥塗膜と電着板の質量を秤量した。乾燥前の塗料中の水分の質量に対する乾燥後の塗料中から蒸発した水分の質量を塗料の乾燥性(%)とした。塗料の乾燥性は水分の蒸発割合のことで、水分が速く蒸発する方が好ましいという観点から、数値が大きい程良い。塗料の乾燥性は65%以上であることが好ましい。
【0081】
(6)塗膜の密着性
電着板上の乾燥塗膜の表面に、カッターナイフを用いて等間隔でクロスカットを入れた。この場合、電着板と乾燥塗膜との界面までナイフが入るようにした。次にクロスカット部の中心にセロハンテープを貼り付け、一定の力で引き剥がした。引き剥がした後の電着板の状態を目視にて観察し、以下のような基準の5点法で採点した。電着板上に残ったクロスカット部の多いものほど良好と判断し、高い点数を付けた。塗膜の密着性は3点以上であることが好ましい。
5:全てのクロスカットが剥がれず、テスト板上に残っていた。
4:全クロスカットのうち、ごく一部のクロスカットのみが、テスト板上から剥がれていた。
3:約半数のクロスカットが、テスト板上から剥がれていた。
2:大半のクロスカットが、テスト板状から剥がれていた。
1:全てのクロスカットが、テスト板上から剥がれていた。
【0082】
(7)塗膜のクラック性(クラック):
電着板上に、乾燥膜厚が500μmとなるよう各塗料を塗布し、熱風乾燥機を用いて、80℃で30分間乾燥し、乾燥塗膜を得た。得られた乾燥塗膜について割れの有無を目視で確認した。割れが認められないものを○(良)、割れが認められるものを×(不可)で表した。
【0083】
[製造例A1]
耐圧反応容器に重合初期の原料として水67質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.1質量部、及び数平均粒子径40nmのポリスチレン製シードラテックス0.2質量部を含む重合初期原料を一括して仕込み、75℃にて十分に攪拌した。次いで、表1記載の第一重合工程単量体と連鎖移動剤との混合物(以下、「単量体等混合物」と略記する)を、6時間かけてこの耐圧容器内に連続的に添加した。一方、この第一重合工程の単量体混合物の添加開始から10分後より、水20質量部、水酸化ナトリウム0.1質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.1質量部、及びペルオキソ二硫酸ナトリウム1.0質量部からなる水系混合物の添加を開始し、重合反応を開始させた。この水系混合物については、9時間20分かけて連続的に添加した。
【0084】
第一重合工程の単量体等混合物の添加が終了してから1時間後、重合温度を80℃に昇温し、第二重合工程の単量体等混合物を2時間で連続的にこの耐圧容器内に添加し、重合反応を継続させた。
【0085】
水系混合物の添加終了後、耐圧容器内の温度を90℃に昇温させ、重合反応を継続させて重合転化率を高めた。重合反応を終了した時の重合転化率は95%以上であった。
この共重合体ラテックスに、水酸化カリウムを添加してpHを8.0に調整し、スチームストリッピング法で未反応の単量体を除去した後、最後に固形分濃度を50質量%に調整した。この共重合体ラテックスを325メッシュのフィルターを通過させて濾過し、共重合体ラテックスA1を得た。共重合体ラテックスA1の各物性の評価結果を表1に記載する。
【0086】
[製造例A2−A5、B1−B9]
重合初期の原料、各重合段の単量体等混合物の組成を、表1に記載した通りに変更した事以外は、全て製造例A1と同じ手順で共重合体ラテックスA2−A5、B1−B9を製造した。これらの各物性の評価結果を表1に記載する。
【0087】
[実施例1]
共重合体ラテックスA1と以下の構成材料とを使用し、均一に混合して水性塗料組成物を調製した。尚、以下の配合(質量部)は、水を除いて、全て固形分に換算した値である。
共重合体ラテックス(A1) 100質量部
重質炭酸カルシウム 250質量部
消泡剤 0.1質量部
増粘剤 0.7質量部
なお、重質炭酸カルシウムとしては商品名BF−300(白石カルシウム工業社製)、消泡剤としては商品名SNデフォーマー777(サンノプコ社製)、増粘剤としては商品名SNシックナー634(サンノプコ社製)をそれぞれ使用した。この塗料の固形分濃度は75%であった。
【0088】
次いで、このようにして得られた水性塗料組成物を、乾燥後の塗膜の膜厚が500μmになるように、電着板上にヘラを用いて塗装した。熱風乾燥機を使用して80℃で5分間乾燥して塗膜を形成させ、塗料の乾燥性の評価に用いた。また、塗膜の耐チッピング性と基材への密着性と塗膜のクラック性には、熱風乾燥機を使用して80℃で30分間乾燥して塗膜を形成させ、評価に用いた。結果を表2に記載する。
【0089】
実施例1で得られた塗膜は、耐チッピング性、基材への密着性、塗料の乾燥性、塗膜のクラック性をバランスよく両立する塗膜であった。
【0090】
[実施例2〜5]
共重合体ラテックスをA1に代えてA2〜A5に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。実施例2〜5で得られた塗膜は、耐チッピング性、基材への密着性、塗料の乾燥性、塗膜のクラック性をバランスよく両立する塗膜であった。
【0091】
[比較例1]
共重合体ラテックスをA1に代えてB1に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例1で得られた塗膜は、特に塗料の乾燥性が劣る塗膜であった。
【0092】
[比較例2]
共重合体ラテックスをA1に代えてB2に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例2で得られた塗膜は、特に塗料の乾燥性が劣る塗膜であった。
【0093】
[比較例3]
共重合体ラテックスをA1に代えてB3に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例3で得られた塗膜は、特に基材への密着性と塗膜のクラック性が劣る塗膜であった。
【0094】
[比較例4]
共重合体ラテックスをA1に代えてB4に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例4で得られた塗膜は、特に耐チッピング性と基材への密着性と塗膜のクラック性が劣る塗膜であった。
【0095】
[比較例5]
共重合体ラテックスをA1に代えてB5に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例5で得られた塗膜は、特に塗料の乾燥性が劣る塗膜であった。
【0096】
[比較例6]
共重合体ラテックスをA1に代えてB6に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例6で得られた塗膜は、特に耐チッピング性が劣る塗膜であった。
【0097】
[比較例7]
共重合体ラテックスをA1に代えてB7に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例7で得られた塗膜は、特に耐チッピング性が劣る塗膜であった。
【0098】
[比較例8]
共重合体ラテックスをA1に代えてB8に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例8で得られた塗膜は、特に耐チッピング性と基材への密着性と塗膜のクラック性が劣る塗膜であった。
【0099】
[比較例9]
共重合体ラテックスをA1に代えてB9に変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で塗料を調製し、乾燥させて塗膜を形成させた。結果を表2に記載する。比較例9で得られた塗膜は、特に耐チッピング性が劣る塗膜であった。
【表1】


【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)共役ジエン系単量体30質量%〜70質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1質量%〜15質量%、(c)1種又は複数種からなる他の共重合可能な単量体15質量%〜69.9質量%を含む単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のトルエン不溶分が95質量%〜100質量%であり、前記トルエン不溶分の乾燥物の質量に対するトルエン不溶分のトルエン湿潤物の質量の比(トルエン膨潤度)が6.6〜10.0であり、前記共重合体ラテックスの数平均粒子径が200nm〜500nmであり、示差走査熱量測定において、前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のガラス転移開始温度が−70℃〜−20℃の範囲、ガラス転移終了温度が10℃〜100℃の範囲にあることを特徴とする、前記共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記数平均粒子径が220nm〜450nmである、請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
前記数平均粒子径が240nm〜400nmである、請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
前記共重合体ラテックスを乾燥させた乾燥物のトルエン不溶分が95質量%を超えて100質量%までの範囲である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の共重合体ラテックス。
【請求項5】
前記(c)他の共重合可能な単量体として、シアン化ビニル系単量体を、前記単量体混合物中に1質量%〜30質量%含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の共重合体ラテックス。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の共重合体ラテックスを含む、水性塗料用組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の共重合体ラテックスを含む、耐チッピング塗料用組成物。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−42727(P2011−42727A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191049(P2009−191049)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】