説明

内在化ペプチドに連結された薬剤と抗炎症剤との共投与

本発明は、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を送達する方法を提供し、前記内在化ペプチドにより誘導可能な炎症反応が抗炎症剤との共投与又は、ビオチン若しくはその類似分子を前記内在化ペプチドに連結することにより阻害される。そのような方法は、高投与量でのtatに連結された薬理学的薬剤の投与に、近接して炎症反応(マスト細胞脱顆粒、ヒスタミン放出、及び、ヒスタミン放出の典型的な後遺症(例:発赤、熱、腫脹、及び低血圧))が引き続いて起こるとする実施例に記載された結果を一部前提としている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は、2007年12月5日に出願された米国特許仮出願第60/992,678号の優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に引用される。
【0002】
<「配列リスト」の参照> 2008年11月18日に作成され、16,385バイトの容量を有するSEQLIST026373000910US.txtのファイル中に提供された配列リストは、その内容全体が参照により本明細書に引用される。
【0003】
<発明の背景> 多くの薬物は細胞により若しくは細胞を通過して取り込まれるか、及び/又は細胞のオルガネラにより取り込まれて、それらの意図する治療標的に到達する。多くのより大きな分子及びいくつかの小さな分子は、自身の力で細胞膜を通過する能力が限られている。前記細胞膜を通過する能力は、薬理学的薬剤を内在化ペプチド(タンパク質トランスダクションドメイン、又は膜透過ドメインとしても知られている)に連結することにより増加し得る。これらのペプチドには、tat、アンテナペディアペプチド、及びアルギニンリッチペプチドを含む。これらのペプチドは、多くの細胞内及びウイルスタンパク質に存在する短い塩基性ペプチドであり、膜透過を媒介するのに役立つ。これらのペプチドの共通の特徴は非常にカチオン性であることである。このようなペプチドは、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸並びに小分子及びナノ粒子と同様に、多くのさまざまなペプチド及びタンパク質の細胞への取り込みを促進することが報告されている。細胞及びオルガネラへの取り込み、並びに血液脳関門の通過が報告されている。
【0004】
内在化ペプチドの応用の一つとして、tatペプチドが、シナプス後肥厚部−95タンパク質(PSD-95)とNMDARsとの間の相互作用のペプチド阻害剤に連結された(Aarts外, Science 298, 846-850(2002))。結果として出来たキメラペプチドは、細胞及び脳卒中の動物モデルにおいてテストされた。前記キメラペプチドは神経細胞に取り込まれ、前記動物モデル中の虚血性脳損傷を減少させることがわかった。この結果により、PSD-95/NMDARのペプチド拮抗薬を内在化ペプチドに連結されたものを用いて、脳卒中及び他の疾患(興奮毒性により媒介されるもの)を治療することに用いるとする提案に至った。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
<発明の概要> 本発明は、薬理学的薬剤を被験体に送達する方法を提供する。この方法は、内在化ペプチドに連結された前記薬理学的薬剤を前記被験体に投与し、及び抗炎症剤を前記被験体に投与することを含む方法であって、前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害することを含む。任意ではあるが、前記抗炎症剤は、抗ヒスタミン又はコルチコステロイドである。任意ではあるが、前記内在化ペプチドは、tatペプチドである。任意ではあるが、前記tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号:1)、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)、FGRKKRRQRRR(配列番号:3)、又はGRKKRRQRRRPQ(配列番号:4)を含むアミノ酸配列を有する。任意ではあるが、前記薬理学的薬剤は、ペプチドである。任意ではあるが、前記薬理学的薬剤は、KLSSIESDV(配列番号:5)である。
【0006】
本発明はまた、薬理学的薬剤に連結された内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害するための、医薬の製造における抗炎症剤の使用を提供する。
【0007】
本発明はまた、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤と前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する抗炎症剤とを含むキットを提供する。
【0008】
本発明はまた、ビオチンを有しない内在化ペプチドに比べ、炎症反応を誘導する能力が減少した、前記ビオチンに連結された前記内在化ペプチドを提供する。
【0009】
本発明は薬理学的薬剤を被験体に送達する方法も提供し、この方法は、内在化ペプチドに連結された前記薬理学的薬剤を前記被験体に投与し、前記内在化ペプチドはビオチン化され、及び前記ビオチン化は、前記ビオチンを有しない前記内在化ペプチドに比べて、前記内在化ペプチドが炎症反応を誘導する能力を減少する方法である。
【0010】
本発明はまた、興奮毒性により媒介される疾患の治療又は予防に効力を及ぼす方法も提供し、前記方法は前記疾患の治療又は予防に効力を及ぼすのに効果がある投与計画において、PSD95とNDMAR2Bとの結合を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを、前記疾患を有する又はリスクのある被験体に投与すること、及び前記被験体に抗炎症剤を投与することを含み、それにより前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する。任意ではあるが、前記薬理学的薬剤はNMDAR受容体のPLペプチドである。任意ではあるが、前記内在化ペプチドは、tatペプチドである。任意ではあるが、前記内在化ペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号:1)、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)、FGRKKRRQRRR(配列番号:3)、又はGRKKRRQRRRPQ(配列番号:4)を含むアミノ酸配列を有する。任意ではあるが、前記被験体は雌である。任意ではあるが、前記疾患は、脳卒中である。いくつかの方法では、前記被験体は心臓手術を経験した結果、一過性脳虚血発作のリスクがある。
【0011】
本発明はさらに、興奮毒性により媒介される疾患の治療又は予防に効力を及ぼす方法を提供し、前記方法は前記疾患の治療又は予防に効力を及ぼすのに効果がある投与計画において、PSD95とNDMAR2Bとの結合を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを前記疾患を有する又はリスクのある被験体に投与することを含み、前記内在化ペプチドはビオチン化され、前記ビオチン化は前記内在化ペプチドが炎症反応を誘導する能力を減少させる。
【0012】
本発明はさらに、興奮毒性により媒介される疾患の治療又は予防に効力を及ぼす方法を提供し、前記方法は前記疾患の治療又は予防に効力を及ぼすのに効果がある投与計画において、PSD95とNDMAR2Bとの結合を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを、前記疾患を有する又はリスクのある雌被験体に投与することを含む。任意ではあるが、前記内在化ペプチドは、tatペプチドである。
【0013】
本発明はさらに、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を被験体に送達する方法の改良を提供し、前記内在化ペプチドがビオチン化されるか又は前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する免疫抑制剤と共に投与されるかのいずれかである。任意ではあるが、前記内在化ペプチドは、tatペプチドである。
【0014】
本発明はさらに、炎症反応を阻害する方法を提供し、前記方法は内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を投与された又はこれから投与される被験体に抗炎症剤を投与することを含む方法で、それにより前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する。
【0015】
本発明はさらに、薬理学的薬剤を被験体に送達する方法を提供し、前記方法は内在化ペプチドに連結された前記薬理学的薬剤を被験体に投与することを含む方法であって、前記被験体は抗炎症剤を投与された又はこれから投与され、それにより前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ラット脳卒中P3VOモデルにおける梗塞サイズの性差を示す図である。生理食塩水雄:生理食塩水で治療された雄脳卒中ラット(コントロール)。NA1雄:Tat-NR2B9c(すなわち、Tat配列とNR2Bサブユニットの9つのカルボキシ末端アミノ酸との両者を含むペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6))で治療された雄脳卒中ラット。生理食塩水雌:生理食塩水で治療された雌脳卒中ラット(コントロール)。NA1雌:Tat-NR2B9c(すなわち、Tat配列とNR2Bサブユニットの9つのカルボキシ末端アミノ酸との両者を含むペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6))で治療された雌脳卒中ラット。Y軸:梗塞サイズ。生理食塩水のみで治療された雄ラット中の梗塞サイズに相対化され(パーセント表示)測定された。
【0017】
【図2】Tat配列を含むペプチドがマスト細胞脱顆粒を引き起こすことを示す図である。CI:カルシウムイオノフォア(ポジティブコントロール)。NA-1:Tat-NR2B9c(すなわち、Tat配列とNR2Bサブユニットの9つのカルボキシ末端アミノ酸との両者を含むペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6))。NR2B9c:ペプチドKLSSIESDV(配列番号:5); NMDA NR2BサブユニットのPSD-95結合配列(Tat配列を含まない)。AA:ペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIEADA(配列番号:7);PSD-95結合ドメイン中に2カ所の点変異を有しPSD-95に結合できないことを除いてはTat-NR2B9cと同一である。脱顆粒は、相対的トリプターゼ活性(コントロールに対する%)により測定された。バーは3から6の独立した実験の平均±S.D.を示す。
【0018】
【図3】Tat配列を含むペプチドによるマスト細胞脱顆粒が用量依存的であることを示す図である。CI:カルシウムイオノフォア(ポジティブコントロール)。NA-1:Tat-NR2B9c(すなわち、Tat配列とNR2Bサブユニットの9つのカルボキシ末端アミノ酸との両者を含むペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6))。AA:ペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIEADA(配列番号:7);PSD-95結合ドメイン中に2カ所の点変異を有しPSD-95に結合できないことを除いてはTat-NR2B9Cと同一である。
【0019】
【図4】Tat配列変異体を含むペプチドによるマスト細胞脱顆粒を示す図である。CI:カルシウムイオノフォア(ポジティブコントロール)。Tat-NR2B9c:Tat配列とNR2Bサブユニットの9つのカルボキシ末端アミノ酸との両者を含むペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6)。TAT:Tatペプチド配列YGRKKRRQRRR(配列番号:2)。2B9c:ペプチドKLSSIESDV(配列番号:5); NMDA NR2BサブユニットのPSD-95結合配列(Tat配列を含まない)。AA:ペプチドYGRKKRRQRRRKLSSIEADA(配列番号:7);PSD-95結合ドメイン中に2カ所の点変異を有しPSD-95に結合できないことを除いてはTat-NR2B9cと同一である。F-Tat-NR2B9c:ペプチドFGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:8)。Tat-NR2B9c K>A:YGRKKRRQRRRALSSIESDV(配列番号:9)。F-Tat-NR2B9c K>A:FGRKKRRQRRRALSSIESDV(配列番号:10)。
【0020】
【図5】Tat配列を含むペプチドの抱合体がマスト細胞脱顆粒を誘発できないことを示す図である。
【0021】
【図6】ビーグル犬に50mg/kgのTat-NR2B9cを投与した後に観察された血圧の観察された低下を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<詳細な説明><定義> 「キメラペプチド」は、互いに自然状態では会合しない2つのコンポーネントのペプチドが、融合タンパク質として又は化学的連結により互いに連結されたペプチドを意味する。
【0023】
「融合」タンパク質又はポリペプチドは複合ポリペプチドを指し、すなわち、1つの連続したアミノ酸配列を指し、通常は1つのポリペプチド配列に融合されていない2つ(又はそれより多い)の異なる異種ポリペプチドの配列から構成される複合ポリペプチドを指す。
【0024】
「PDZドメイン」という用語は、約90アミノ酸のモジュラータンパク質ドメインを指し、脳のシナプスタンパク質PSD-95、ショウジョウバエの中隔結合タンパク質Discs-Large(DLG)、及び上皮のタイトジャンクションタンパク質ZO1(ZO1)と有意な配列同一性(例えば、少なくとも60%)を有することを特徴とする。PDZドメインはまた、Discs-Large相同性リピート(「DHRs」)及びGLGFリピートとしても知られている。PDZドメインは、一般にコアコンセンサス配列を維持するように見える(Doyle, D.A., 1996, Cell 85:1067-76)。例示的なPDZドメインを含むタンパク質とPDZドメイン配列は米国特許出願第10/714,537号明細書に開示され、それは参照によって本明細書中にその内容全体が引用される。
【0025】
「PLタンパク質」又は「PDZリガンドタンパク質」の用語は、PDZドメインと分子複合体を形成する天然のタンパク質、又は全長タンパク質から分離して発現された場合(例えば、3から25残基のペプチド断片、例えば、3、4、5、8、9、10、12、14、又は16残基のペプチド断片として)カルボキシ末端がそのような分子複合体を形成するタンパク質を指す。 前記分子複合体は、例えば米国特許出願第10/714,537号明細書に記載された「Aアッセイ」若しくは「Gアッセイ」を使ってインビトロで、又はインビボで観察され得る。
【0026】
「NMDA受容体」又は「NMDAR」という用語は、NMDAと相互作用することが知られる膜結合タンパク質を指す。前記用語は従って本明細書中に記載される様々なサブユニット形態を含む。このような受容体はヒト又は非ヒト(例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル)由来であってもよい。
【0027】
「PLモチーフ」は、PLタンパク質のC末端のアミノ酸配列(例えば、C末端3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、20又は25の連続した残基)(「C末端PL配列」)、又はPDZドメインに結合することが知られた内部配列(「内部PL配列」)を指す。
【0028】
「PLペプチド」は、PDZドメインに特異的に結合するPLモチーフを含むか若しくはそのモチーフからなる、又はそれ以外の場合にはPLモチーフに基づくペプチドである。
【0029】
「単離された」又は「精製された」の用語は、目的の種(例えば、ペプチド)が、サンプル(例:その目的の種を含む自然発生源から得られたサンプル)に存在する混入物から精製されてきたことを意味する。目的の種が単離され又は精製されれば、その目的の種がサンプル中に存在する主要な高分子(例えば、ポリペプチド)種となる。つまり、その種が、モルベースで、組成物中において、他の個々の種よりも多く含まれる。好ましくは、その目的の種は、モルベースで、存在する全ての高分子種の少なくとも約50%を占める。一般的には、単離された、精製された又は実質的に純粋な組成物は、組成物中にある全ての高分子種の80から90パーセントより多く含む。最も好ましくは、前記目的の種は実質的に均一に精製され(すなわち、混入された種は、従来の検出方法ではその組成物中に検出できない)、その組成物は、実質的に単一の高分子種からなる。単離された又は精製されたという用語は、単離された種と組み合わされて作用することを意図した他のコンポーネントの存在を必ずしも除外しない。例えば、内在化ペプチドを、活性ペプチドに連結されているにもかかわらず、単離されたものとして記載することができる。
【0030】
「ペプチド模倣剤」とは、天然のアミノ酸からなるペプチドと実質的に構造及び/又は機能的特性が同一の合成化学化合物を指す。前記ペプチド模倣剤は、完全に合成された非天然のアミノ酸類似体を含み得、又は部分的に天然のペプチドアミノ酸及び部分的に非天然のアミノ酸類似体を有するキメラ分子であってもよい。前記ペプチド模倣剤は、保守的置換が模倣剤の構造及び/又は阻害若しくは結合活性を実質的に変更しない限り、任意の量の天然のアミノ酸によるそのような保守的置換をも取り込んでもよい。ポリペプチド模倣剤の組成物は非天然構造コンポーネントの任意の組み合わせを含むことができ、典型的には3つの構造のグループからなる:a)天然アミド結合(「ペプチド結合」)連鎖以外の残基連鎖グループ;b)天然のアミノ酸残基の代わりの非天然残基;又はc)二次構造の模倣を誘導する残基、すなわち、二次構造(例えば、ベータターン、ガンマターン、ベータシート、アルファへリックス構造など)を誘導又は安定化するもの。活性ペプチド及び内在化ペプチドを含むキメラペプチドのペプチド模倣剤においては、その活性部分若しくはその内在化部分またはその両者がペプチド模倣剤であってもよい。
【0031】
「特異的結合」の用語は、二つの分子間の結合を指し、例えば、リガンドと受容体のことで、多くの他の様々な分子の存在下においても別の特異的分子(受容体)と結合する分子(リガンド)の能力(すなわち不均一な分子の混合物の中で一分子が他の分子に特異的に結合することを示すこと)を特徴とする。リガンドと受容体の特異的結合は、過剰量の非標識リガンドの存在下で検出可能に標識されたリガンドのその受容体への結合が減少することでも(すなわち、結合競合アッセイでも)証拠づけられる。
【0032】
興奮毒性とは、興奮性神経伝達物質グルタミン酸受容体(例:NMDA受容体(例:NMDAR2B))の過剰活性化によってニューロンが傷害及び死滅させられる病理学的プロセスである。
【0033】
「被験体」という用語は、ヒトと獣医学的動物(例:哺乳類)を含む。
【0034】
「薬剤」という用語には、任意の要素、化合物、又は実体を含み、限定はされないが、例えば、医薬的なもの、治療的なもの、薬理学的なもの、薬用化粧品、薬物、毒素、天然物、合成化合物、又は化学化合物を含む。
【0035】
「薬理学的薬剤」という用語は、薬理学的活性を有する薬剤を意味する。薬剤は、公知の薬物、薬理活性が確認されているがさらに治療法の評価を受けている化合物を含む。キメラ薬剤は内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を含む。薬剤は、活性剤が疾患の予防若しくは治療に有用である又はあるかもしれないことを示すスクリーニングシステムにおいて、それが活性を呈する場合、薬理学的活性を有するとして記述することができる。前記スクリーニングシステムは、インビトロ、細胞、動物、又はヒトにおけるものであり得る。薬剤は、さらなる試験が疾患の治療における実際の予防的又は治療的有用性を確立する必要があるかもしれないことにかかわらず、薬理学的活性を有するものとして記載されてもよい。
【0036】
tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号:1)を含む又はその配列からなるペプチドを意味し、それに連結されたペプチド又は他の薬剤を細胞中へ取り込みするのを促進する能力を保持する配列中に、5残基を超えない残基が削除、置換、又は挿入される。好ましくは任意のアミノ酸変化は保守的置換である。好ましくは、その集合体中の任意の置換、削除、又は内部挿入は、そのペプチドが正味カチオン荷電を有するままにされ、好ましくは前述の配列のものと同様なものである。tatペプチドのアミノ酸は、以下さらに記載するように、炎症反応を減少させるためにビオチン又は類似する分子を用いて誘導体化されてもよい。
【0037】
内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤と抗炎症剤との共投与とは、その2つの薬剤が十分近接した時間内に投与され、前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害することができることを意味する。
【0038】
統計学的に有意とは、<0.05、好ましくは<0.01、及び最も好ましくは<0.001であるp値を指す。
【0039】
<I. 一般> 本発明は内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を送達する方法を提供し、その方法においては、前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応が、抗炎症剤との共投与により又は前記内在化ペプチドをビオチン若しくは類似した分子に連結することにより阻害される。このような方法は、実施例で記載される結果を部分的に前提とし、その実施例では、tatに連結された薬理学的薬剤を高用量で投与することにより、マスト細胞脱顆粒、ヒスタミン放出、及びヒスタミン放出の典型的な後遺症(発赤、熱、腫脹、及び低血圧)を含む炎症反応が密接に引き続く。本発明の方法の実施はメカニズムの理解に依存していないが、マスト細胞脱顆粒は、IgE抗体反応により誘起されているというよりはむしろ、カチオン性のtatペプチドとマスト細胞との直接の相互作用により誘起されると信じられる。その炎症反応は抗炎症剤とtat又は他の内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤との共投与により阻害され得る。抗ヒスタミンとコルチコステロイドを含む、種々の広く用いられている抗炎症剤が適している。代わりに、発明者らは、内在化ペプチドが炎症反応を誘導する能力が、それらをビオチン又は類似分子に連結させることにより減少し得ることを見いだした。
【0040】
本発明はさらに、興奮毒性を特徴とする疾患(例:脳卒中)の治療をすること又は予防に効力を及ぼす方法を提供する。そのような疾患を、NMDARsとシナプス後肥厚部95タンパク質との相互作用を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを用いて治療することができる。好ましくは、そのような方法において、薬理学的薬剤は抗炎症剤と共投与されて、内在化ペプチドにより誘導される免疫反応を阻害するか、又は、前述した理由により、前記内在化ペプチドがビオチン若しくは類似分子に連結される。抗炎症剤若しくはビオチン化された内在化ペプチドがそのような方法において用いられるか否かにかかわらず、その治療又は予防は雄及び雌の被験体の両者に投与されてもよい。雌被験体への投与は、脳卒中のラットモデルにおいてその治療が少なくとも雄と同程度に雌被験体に効果があると分かった実施例に記載された結果を部分的に前提としている。雌被験体にPSD95とNMDARとの間の相互作用を阻害する薬理学的薬剤を投与することの実行可能性は、nNOSの阻害剤が雌被験体で興奮毒性疾患の治療に効果がないと分かった従前の結果と対照をなす。nNOS阻害剤の投与は、MCAOモデルにおいて、雄ラットの脳卒中の損傷効果を保護するが、雌ラットにおいては細胞傷害を増加させることが報告された。McCullough外, Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism, 25:502-512(2005).
【0041】
<II. 薬理学的薬剤> 内在化ペプチドは、任意の薬理学的薬剤に連結されて、前記薬剤を細胞膜、細胞内膜(例:核膜)、及び/又は血液脳関門を透過して取り込むことを促進することができる。内在化ペプチドを薬理学的薬剤に結合させることにより、前記薬理学的薬剤単独での使用に比べて、意図する部位での生物学的利用能が向上する。その結合した内在化ペプチドにより増加した送達は、薬理学的薬剤の用量の減少、特異的な細胞コンパートメント(例:核)への効果的なターゲッティング、及び/又は低用量の使用による毒性の減少を可能にする。
【0042】
内在化ペプチドは、細胞及び/又は核に進入することが必要な薬理学的薬剤に特に有用である。生物学的利用能が乏しく、高用量若しくは短い半減期を有する薬理学的薬剤、又は活性を発揮するために血液脳関門を越える必要がある神経活性薬物は、内在化ペプチドの結合に特に適している。ペプチドは、例えば、薬理学的薬剤に由来するアミノ酸配列及び内在化ペプチドのアミノ酸配列を含むキメラペプチドを生じるペプチド結合の使用を通じて、内在化を付与されやすい薬理学的薬剤の一つの型である。核酸、及び小さな有機分子(500Da未満)は、内在化ペプチドに連結され得る化合物の他の例である。
【0043】
薬理学的薬剤選択のいくつかのガイダンス、結合方法及びその使用は、内在化ペプチド(例:tat)に関連する科学及び特許文献によって提供される(米国特許第6,316,003号明細書及び米国特許第5,804,604号明細書を参照されたい)。次表は、薬理学的薬剤(そのいくつかは承認された薬物)の名前、前記薬剤が治療に有用な疾患、疾患が急性若しくは慢性かどうか、(確立された範囲内での)薬物の投与経路及び内在化ペプチドにより付与された改善された膜透過により部分的に克服され得る既存の薬物が有する問題に関するコメントを一覧表にする。
【表1】




【0044】
特に関心のある薬剤の1つのクラスは、PSD-95と1つ又は複数のNMDARsとの間の相互作用を阻害する。このような薬剤は、脳卒中及び他の神経学的状態(少なくても一部NMDAR興奮毒性により媒介されるもの)の有する損傷効果を縮小するのに有用である。このような薬剤には、NMDA受容体のPLモチーフ若しくはPSD95のPDZドメインを含む又はそれに基づくアミノ酸配列を有するペプチドが含まれる。このようなペプチドも、PSD-95とnNOS及び他のグルタミン酸受容体(例えば、カイナイト受容体やAMPA受容体)との相互作用を阻害することができる。好ましいペプチドは、シナプス後肥厚部95タンパク質(PSD-95)(ヒトのアミノ酸配列はStathakism、Genomics 44(1):71-82(1997)によって提供される)のPDZドメイン1及び2と、1つ又は複数のNMDA受容体2サブユニット(神経性N−メチル−D−アスパラギン酸受容体(Mandich外, Genomics 22, 216-8(1994))のNR2Bサブユニットを含む)のC末端PL配列との相互作用を阻害する。NMDAR2BはGenBank番号:4099612、C末端20アミノ酸FNGSSNGHVYEKLSSIESDV(配列番号:11)及びPLモチーフESDV(配列番号:12)を有する。好ましいペプチドは、ヒト型のPSD-95及びヒトのNMDAR受容体を阻害する。しかし、阻害はそのタンパク質の種変異体からでも示され得る。使用され得るNMDA及びグルタミン酸受容体のリストが下に表示される。
【表2】


【0045】
いくつかのペプチドはPSD-95と複数のNMDARサブユニットとの相互作用を阻害する。このような例では、そのペプチドの使用は、種々のNMDARのそれぞれによる興奮性神経伝達への貢献の理解を必ずしも必要とない。他のペプチドは単一のNMDARに特異的である。
【0046】
ペプチドは、任意の上記サブユニットのC末端からのPLモチーフを含み又はそれに基づいて、[S/T]-X-[V/L]を含むアミノ酸配列を有することができる。この配列は好ましくは、本発明のペプチドのC末端にある。好ましいペプチドは、[E/D/N/Q]-[S/T]-[D/E/Q/N]-[V/L](配列番号:38)をC末端に含むアミノ酸配列を有する。例示的なペプチドは、ESDV(配列番号:12)、ESEV(配列番号:29)、ETDV(配列番号:39)、ETEV(配列番号:40)、DTDV(配列番号:41)、及びDTEV(配列番号:42)をC末端アミノ酸として含む。二つの特に好ましいペプチドはKLSSIESDV(配列番号:5)及びKLSSIETDV(配列番号:43)である。このようなペプチドは通常、3〜25アミノ酸(内在化ペプチド無しに)を有し、5〜10アミノ酸のペプチド長、特に9アミノ酸(また、内在化ペプチド無しに)が好まれる。そのようなペプチドのいくつかにおいて、すべてのアミノ酸は、NMDA受容体のC末端からなる(内在化ペプチドからのアミノ酸を含まない)。
【0047】
PDS95とNDMARsとの相互作用を阻害する他のペプチドには、PSD-95のPDZドメイン1及び/若しくは2、又はPSD-95とNMDA受容体(例:NMDA2B)との相互作用を阻害する任意のペプチドのサブフラグメントを含む。このような活性ペプチドは、PSD-95のPDZドメイン1及び/又はPDZドメイン2からの少なくとも50、60、70、80、又は90アミノ酸を含む。それは、Stathakism, Genomics 44(l):71-82(1997)(ヒト配列)、若しくはNP_031890.1、GI:6681195(マウス配列)により提供されるPSD-95のアミノ酸約65〜248番、又は他の種変異体の、そのPSD-95のアミノ酸に対応する領域にある。
【0048】
ペプチド、ペプチド模倣剤又は他の薬剤の適切な薬理学的活性は、所望に応じて、実施例中に記載された動物モデルを使用して確認され得る。任意ではあるが、ペプチド又はペプチド模倣剤は、例えば、この参照により組み込まれる米国特許出願公開第20050059597号明細書に記載されるアッセイを使ってPSD-95とNMDAR2Bとの相互作用を阻害する能力をもスクリーニングされ得る。有用なペプチドは、このようなアッセイにおいて、通常5OμM、25μM、10μM、0.1μM又は0.01μM未満のIC50値を有する。好ましいペプチドは通常0.001〜1μM、より好ましくは0.05〜0.5又は0.05から0.1μMの間のIC50値を有する。
【0049】
これら直前に記載したようなペプチドは、阻害剤の結合親和性を向上させるために、阻害剤が細胞膜を透過して輸送される能力を改善するために、又は安定性を向上するために、任意ではあるが、誘導体化(例えば、アセチル化、リン酸化、及び/又はグリコシル化)され得る。具体的な例としては、C末端から3番目の残基がS又はTの阻害剤の場合、この残基はそのペプチドを使用する前にリン酸化されてもよい。
【0050】
薬理学的薬剤はまた、PSD95とNMDAR2Bとの間の相互作用、及び/又は上記した他の相互作用を阻害する小分子をも含む。適した小分子阻害剤は、同時係属国際出願PCT/US2006/062715号明細書及び2007年7月3日に出願された米国特許出願第60/947,892号明細書に記載され、それぞれは、その内容全体を参照により引用したものとする。これらの分子は、PSD95に結合する化合物ライブラリーのインシリコスクリーニングによって同定され、例示的な化合物の結合は実験的に確認された。
【0051】
多くの適切な化合物が米国特許仮出願第60/947,883号明細書に記載され、その内容全体が参照により本願明細書に引用されたものとする。適切な化合物の例示的なクラスは、次式である:
【化1】

(式中、R1は、0-4R7で置換されたシクロヘキシル、0-4R7で置換されたフェニル、-(CH2U-(CHR8R9)、分岐したC1-6アルキル(イソプロピル、イソブチル、1−イソプロピル−2−メチル−ブチル、1−エチループロピル)、及び-NH-C(O)-(CR10R11VHからなる群より選択されたメンバーであり;
各R7は、独立して、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、-C(O)R12、OH、COOH、-NO、N置換インドリン、及び細胞膜透過ペプチドからなる群より選択されたメンバーであり;
各R8及びR9は、独立して、H、OH、シクロヘキサン、シクロペンタン、フェニル、置換されたフェニル、及びシクロペンタジエンからなる群より選択され;
各R10及びR11は、独立して、H、シクロヘキサン、フェニル、及び細胞膜透過ペプチドからなる群より選択され;
R12は、C1-6アルキル及びアリールからなる群より選択され;
及び、u及びvのそれぞれは、独立して0から20であり;
式中、R2、R3、R4、R5及びR6の一つは-COOHで、式中R2、R3、R4、R5及びR6の残りは、それぞれ独立して、F、H、OCH3、及びCH3からなる群より選択される。)
【0052】
一つのそのような化合物は0620-0057で、その構造は次式である:
【化2】

【0053】
<III. 内在化ペプチド> 内在化ペプチドは、多くの細胞又はウイルスタンパク質が膜を透過することを可能にする相対的に短いペプチドのよく知られたクラスである。例としては、アンテナペディアタンパク質(Bonfanti, Cancer Res.57、1442-6(1997))(及びその変異体)、ヒト免疫不全ウイルスのtatタンパク質、タンパク質VP22、単純ヘルペスウイルス1型のUL49遺伝子産物、ペネトラチン(Penetratin)、SynB1及び3、トランスポータン、アンフィパシック(Amphipathic)、gp41NLS、ポリアルギニン、並びにいくつかの植物及び細菌性のタンパク質毒素(例:リシン、アブリン、モデシン(modeccin)、ジフテリア毒素、コレラ毒素、炭疽菌毒素、熱不安定性の毒素及び緑膿菌外毒素A(ETA))を含む。その他の例は、次の文献に記載される(Temsamani, Drug Discovery Today, 9(23):1012-1019, 2004;De Coupade, Biochem J., 390:407-418, 2005;Saalik Bioconjugate Chem.15:1246-1253, 2004;Zhao, Medicinal Research Reviews 24(1):1-12, 2004; Deshayes, Cellular and Molecular Life Sciences 62:1839-49, 2005)(すべての文献は参照により引用される)。
【0054】
好ましい内在化ペプチドはHIVウイルスのtatである。以前の研究で報告されたtatペプチドは、HIV Tatタンパク質に見いだされる標準的なアミノ酸配列YGRKKRRQRRR(配列番号:2)を含むか、又はそれからなる。このようなtatモチーフに隣接して付加する追加的な残基が(薬理学的薬剤のそばに)存在するならば、前記残基は例えば、tatタンパク質のこのセグメントに隣接して付加する天然のアミノ酸、スペーサー、若しくは二つのペプチドドメインを結合することに通常使用される種のリンカ―アミノ酸(例えば、gly(ser)4(配列番号:44)、TGEKP(配列番号:45)、GGRRGGGS(配列番号:46)、又はLRQRDGERP(配列番号:47)(例えば、Tang外(1996), J.Biol.Chem.271, 15682-15686;Hennecke外(1998), Protein Eng.11, 405-410を参照))であり、又は、前記残基はその隣接して付加する残基なしにその変異体を取り込む能力を有意に減少しない任意の他のアミノ酸であってもよい。 好ましくは、活性ペプチド以外の、隣接して付加するアミノ酸の数は、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)のいずれかの側に10を超えない。 YGRKKRRQRRR(配列番号:2)のC末端に隣接して付加する追加のアミノ酸残基を含む1つの適切なtatペプチドはYGRKKRRQRRRPQ(配列番号:48)である。しかしながら、好ましくは隣接して付加するアミノ酸は存在しない。
【0055】
N−型カルシウムチャンネルに結合する能力が減少した上述のtatペプチドの変異体は、03/02/2007に出願された米国特許出願第60/904507号明細書に記載されている。このような変異体は、アミノ酸配列XGRKKRRQRRR(配列番号:49)を含むか又はこのアミノ酸配列からなり、そのXは、Y以外のアミノ酸であってもよく、無くてもよい(Xがない場合、Gは、フリーのN末端残基である)。好ましいtatペプチドは、N末端のY残基がFで置換される。従って、FGRKKRRQRRR(配列番号:3)を含むか又はこのアミノ酸配列からなるtatペプチドが好まれる。別の好ましい変異体tatペプチドは、GRKKRRQRRR(配列番号:1)からなる。N型カルシウムチャンネルを阻害することなしに薬理学的薬剤の取り込みを促進する他のtatペプチドには、表3に示されたものを含む。
【表3】

【0056】
Xはフリーのアミノ末端、1つ又は複数のアミノ酸、又は抱合された部分を表すことができる。
【0057】
内在化ペプチドは従来法により薬理学的薬剤に結合され得る。例えば、前記薬剤は内在化ペプチドに、化学的連結(例:結合剤又は抱合剤を介するもの)を介して連結され得る。そのような多数の薬剤は、市販されており、S.S.Wong、蛋白質抱合とクロスリンクの化学(Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking)、CRCプレス(1991)によって概説される。クロスリンク試薬のいくつかの例には、J−サクシニミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)又はN、N’−(1,3−フェニレン)ビスマレイミド;N,N’−エチレン−ビス(イオドアセタミド)若しくは6から11の炭素メチレンブリッジを有する他の試薬(スルフヒドリル基に相対的特異的なもの);及び1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(これはアミノ基及びチロシン基と不可逆的なリンクを形成する)を含む。他のクロスリンク試薬には、p,p’−ジフルオロ−m,m’−ジニトロジフェニルスルフォン(これは、アミノ基及びフェノール系基と不可逆的なクロスリンクを形成する);ジメチルアジピミデート(これはアミノ基に特異的である);フェノール−1,4−ジスルフォニルクロライド(これは主にアミノ基と反応する);ヘキサメチレンジイソシアネート若しくはジイソチオシアネート、又はアゾフェニル−p−ジイソシアネート(これは主にアミノ基と反応する);グルタルアルデヒド(これはいくつかの異なる側鎖と反応する)及びジスジアゾベンジジン(これは主にチロシンとヒスチジンと反応する)を含む。
【0058】
ペプチドである薬理学的薬剤の場合、内在化ペプチドへの結合は、好ましくはN末端に内在化ペプチドが融合されたペプチド配列を含む融合タンパクを作製することにより達成され得る。
【0059】
任意ではあるが、tatペプチドに融合された薬理学的ペプチドは、固相合成又は遺伝子組換えの方法で合成され得る。ペプチド模倣剤は、科学文献及び特許文献に記載される様々な過程及び方法論を使って合成され得る。例えば、有機合成集(Organic Syntheses Collective Volumes)、Gilman外、(Eds) John Wiley&Sons,Inc.,NY、al-Obeidi(1998) Mol. Biotechnol.9:205-223;Hruby(1997) Curr.Opin.Chem.Biol.1:114-119;Ostergaard(1997) Mol.Divers.3:17-27;Ostresh(1996) Methods Enzymol.267:220-234.がある。
【0060】
<IV. 内在化ペプチドに対する炎症反応> 本発明者らは、内在化ペプチド(例:tat)が、被験体に投与される際に炎症反応を誘導する能力があることを見出した。前記炎症反応は、通常、ペプチド投与の1、5、10、20、30、又は60分以内に検出されるが、ペプチド投与の24時間以内には典型的に消失する(前記ペプチドは再投与されないと仮定する)。前記炎症反応は用量依存的である。炎症反応は前記ペプチドの再投与の際に同様な強度で典型的に再発する。
【0061】
前記炎症反応は、マスト細胞が脱顆粒されたり、その結果としてヒスタミン及び他の炎症媒介物(例:ケモカイン、サイトカイン、ロイコ トリエン、リパーゼ、プロテアーゼ、キニン、サイトカイン、アラキドン酸誘導体(例:プロスタグランジン)、インターロイキン、及び/又は一酸化窒素)が放出されたりすることを特徴とする。ヒスタミン及び/又は他の放出される炎症媒介物は、多くの炎症症状(皮膚の発赤、熱、腫脹、高血圧、及び/又は脈拍の減少を含む)を生じる。ヒスタミン放出は、血管拡張、気管支収縮、平滑筋の活性化、内皮細胞の分離(じん麻疹の原因)、疼痛、かゆみ、毛細血管の透過性の増加、腺の過分泌、平滑筋のけいれん、及び/又は炎症性細胞の組織浸潤(胃酸の分泌及び、神経伝達物質(例:ヒスタミン、アセチルコリン、ノルエピネフリン、セロトニン)の放出の減少とともに)をも生じることができる。
【0062】
<V. 抗炎症剤> 多種多様の抗炎症剤は、上記した炎症反応の型を阻害するために容易に入手できる(例えば、参照によって引用される米国特許第6,204,245号明細書を参照されたい)。抗炎症剤の1つのクラスは、抗ヒスタミン化合物である。このような薬剤は、ヒスタミンとその受容体との結合を阻害し、それによって上記した結果として生じる炎症の後遺症を阻害する。多くの抗ヒスタミンは市販されていて、いくつかは薬局カウンター越しに処方箋なしで買える。抗ヒスタミンの例は、アザタジン(azatadine)、アゼラスチン(azelastine)、バルフォロリン(burfroline)、セチリジン(cetirizine)、シプロヘプタジン(cyproheptadine)、ドクサントロゾール(doxantrozole)、エトドロキシジン(etodroxizine)、フォルスコリン(forskolin)、ヒドロキシジン(hydroxyzine)、ケトチフェン(ketotifen)、オキサトミド(oxatomide)、ピゾチフェン(pizotifen)、プロキシクロミル(proxicromil)、N,N’−置換ピペラジン類、又はテルフェナジン(terfenadine)である。抗ヒスタミンらは、末梢の受容体に選択性を有する第2及び第3世代の抗ヒスタミンを用いることで、末梢の受容体と同様にCNSでの抗ヒスタミンをブロックする能力にばらつきがある。アクリバスチン(Acrivastine)アステミゾール(Astemizole)セチリジン(Cetirizine)ロラタジン(Loratadine)ミゾラスチン(Mizolastine)レボセチリジン(Levocetirizine)デスロラタジン(Desloratadine)フェキソフェナジン(Fexofenadine)は、第2及び第3世代の抗ヒスタミンの例である。抗ヒスタミンは経口製剤及び局所製剤に広く使用される。
【0063】
免疫反応を阻害するのに有用な抗炎症剤の別のクラスはコルチコステロイドである。これらの化合物は転写制御因子であり、ヒスタミン及び他の化合物(マスト細胞脱顆粒から生じたもの)の放出の結果生じた炎症症状の強力な阻害剤である。コルチコステロイドの例は、コルチゾン(Cortisone)、ヒドロコルチゾン(コーテフ(Cortef))、プレドニゾン(Prednisone)(デルタゾン(Deltasone)、メチコーテン(Meticorten)、オラゾン(Orasone))、プレドニゾロン(Prednisolone)(デルタコーテフ、ペジアプレド(Pediapred)、プレロン(Prelone))、トリアムシノロン(Triamcinolone)(アリストコート(Aristocort)、ケナコート(Kenacort))、メチルプレドニゾロン(メドロール(Medrol))、デキサメタゾン(デカドロン(Decadron)、デクソン(Dexone)、ヘキサドロール(Hexadrol))、及びベタメタゾン(Betamethasone)(セレストン(Celestone))である。コルチコステロイドは、経口製剤、静脈製剤、及び局所製剤に広く使用される。
【0064】
抗炎症剤の別のクラスは、マスト細胞脱顆粒阻害剤である。このクラスの化合物には、2−カルボキシラトクロモン(charboxylatochromon)−5’−イルー2−ヒドロキシプロパン誘導体(例:ビス(アセトキシメチル)クロモグリケイト、クロモグリク酸二ナトリウム及びネドクロミル(nedocromil))を含む。
【0065】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)も使用され得る。このような薬には、アスピリン化合物(アセチルサリチル酸類)、非アスピリンサリチル酸類、ジクロフェナク(diclofenac)、ジフルニサル(diflunisal)、エトドラク(etodolac)、フェノプロフェン(fenoprofen)、フルルビプロフェン(flurbiprofen)、イブプロフェン(ibuprofen)、インドメタシン(indomethacin)、ケトプロフェン(ketoprofen)、メクロフェナメート(meclofenamate)、ナプロキセン(naproxen)、ナプロキセンナトリウム、フェニルブタゾン(phenylbutazone)、スリンダク(sulindac)、及びトメチン(tometin)を含む。しかし、そのような薬物の抗炎症作用は、抗ヒスタミンやコルチコステロイドのものよりも効果が弱い。
【0066】
より強力な抗炎症薬(例:アザチオプリン(azathioprine)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、リューケラン(leukeran)、シクロスポリン(cyclosporine))も使用することができるが、それらはゆっくりと作用し、及び/又は副作用に関係するので好ましくない。生物学的抗炎症剤(例:Tysabri(登録商標)又Humira(登録商標))も使用することができるが、同一の理由で好ましくない。
【0067】
<VI. 抱合> 内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を抑制する代替的な又は付加的な方法は、内在化ペプチドをビオチン又は類似分子に連結して抱合体を形成することである。前記抱合体は、連結された薬理学的薬剤の細胞への取り込みを促進する能力を保持するが、ビオチンを有しない同一の内在化ペプチドに比較して炎症反応の減少を誘導する。抱合された内在化ペプチドは、所望の取り込み及び結果として生じる免疫反応の欠如(減少)を確認するためにスクリーニングされ得る。
【0068】
内在化ペプチドの抱合体を形成するのに用いられ得るビオチンの代替物には、アセチル、ベンゾイル、アルキル基(脂肪族)、ピログルタミン酸、シクロアルキル基を末端に有するアルキル基、アルキルスペーサーを有するビオチン、(5,6)-FAMを含む。ビオチンまたは他の分子は、アミド化学、スルファミド化学、スルホン化学、及び/又はアルキル化化学を介して内在化ペプチドに連結されてもよい。tatのどこにビオチンを連結するのか、また如何にして。炎症反応を減少させるのに寄与することが疑われるビオチンの特性とは何か。
【0069】
<VII. 治療/予防を受け入れられる患者> 表1にリストされた薬理学的薬剤及び関連する状態により例示されるように、広い範囲の患者が本発明の方法による治療を受け入れられる。本方法は、内在化ペプチドにより生じた任意の炎症を悪化させるだろう状態を有するような患者(例:高血圧、脈拍の増加、又は炎症の他の兆候若しくは症状に罹患する患者)に特に有用である。本方法は、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を高用量必要とする治療方法に特に有用でもある。厳密には、もしあれば、炎症反応の存在と程度を決定するのは、連結された薬理学的薬剤というよりもむしろ内在化ペプチドの用量である。しかし、内在化ペプチドの用量は、もちろん連結された薬理学的薬剤の用量により決定される。例えば、炎症反応は、1.5mg/kgより多い内在化ペプチドの用量で、はっきりと分かるようになるかもしれない。いくつかの疾患の治療では、薬理学的薬剤及び結果として連結された内在化ペプチドの有効量は低すぎて、ほとんどの患者に炎症反応を誘導できない。それにもかかわらず、炎症反応に対する個々の患者の感度はばらつき、軽度の抗炎症剤(例:ヒスタミン)を用いた治療は今でも価値ある予防措置であることができる。
【0070】
特に関心のある患者の1つのクラスは、興奮毒性を特徴とする疾患若しくは状態を有する又はリスクのある患者である。このような疾患及び状態には、脳卒中、てんかん、低酸素、脳卒中に関連しない中枢神経系への外傷(例:外傷性脳障害及び脊髄損傷)、アルツハイマー病、及びパーキンソン病を含む。本発明の方法は、これらの疾患及び状態を有する又はリスクのある男性並びに女性患者の両者の治療に適している。
【0071】
脳卒中は、原因に関わらず中枢神経系において、血流障害から生じる状態である。可能性のある原因には、塞栓症、出血、血栓症を含む。いくつかの神経細胞は血流障害の結果すぐに死滅する。これらの細胞は、グルタミン酸を含むそのコンポーネントの分子を放出し、順次NMDA受容体を活性化し、細胞内カルシウムレベルを上げ、そして、さらなる神経細胞死を導くように細胞内酵素レベルを上げる(興奮毒性カスケード)。中枢神経系組織の死滅は梗塞と呼ばれる。梗塞容積(すなわち、脳卒中に起因する死滅した神経細胞の容積)は、脳卒中に起因する病理学的損傷の程度の指標として使用することができる。症候性の効果は、梗塞容積とそれが脳のどこに位置するかとの両者に依存する。障害指数は、症候性障害の基準(例:ランキンストローク予後スケール(Rankin, Scott Med J;2:200-15(1957))とバーセルインデックス)として使用され得る。以下のように、ランキンスケールは患者の全体的な状態を直接評価することに基づいている。
【表4】

【0072】
バーセルインデックスは、日常生活の10個の基本的活動を行うための患者の能力に関する一連の質問に基づいている。その結果、0と100との間のスコアになり、より低いスコアはより重い障害を示す(Mahoney外, Maryland State Medical Journal 14:56-61(1965))。
【0073】
代わりに、脳卒中重篤度/予後はNIH脳卒中スケールを用いて測定されてもよい(world wide web ninds.nih.gov/doctors/NIH_Stroke_Scale_Booklet.pdfで利用できる)。
【0074】
そのスケールは、患者の意識、運動機能、知覚機能、及び言語機能のレベルの評価を含む11のグループの機能を行う患者の能力に基づいている。
【0075】
虚血性脳卒中は、脳への血流の遮断が原因の脳卒中の型をより具体的には指す。この種の遮断の基礎となる状態は、最も一般的には血管壁の内層にある脂肪沈着の発生である。この状態はアテローム性動脈硬化症と呼ばれる。これらの脂肪沈着は、2種類の閉塞を生じることができる。脳血栓症は、血管の詰まった部分に発生する血栓(thrombusとblood clot)を指す。「脳塞栓症」は、一般的に循環器系(通常、心臓及び胸郭上部及び頚部の大動脈)の別の位置で形成する血栓を指す。血栓の一部は、それから緩んで分解し、血流に入り、そして小さすぎて通過できない血管に到着するまで脳の血管を移動する。塞栓症の2番目の重要な原因は、動脈細動として知られる不規則な心拍である。それは、血栓が心臓で形成し、取りはずれ、脳へ移動することができる状態を作りだす。虚血性脳卒中のさらに可能性のある原因は、出血、血栓症、動脈又は静脈の解離、心臓停止、出血を含む任意の原因のショック、及び医原性の原因(例:脳血管若しくは脳に通じる血管への直接的な外科的損傷又は心臓手術)である。虚血性脳卒中は、脳卒中のすべての症例の約83%を占める。
【0076】
一過性脳虚血発作(TIAs)は、軽微な又は警告脳卒中である。TIAでは、虚血性脳卒中を示す状態が存在し、典型的な脳卒中の警告兆候が発生する。しかしながら、閉塞(血栓)が短時間に起こり、通常のメカニズムを介してそれ自身を消散させる傾向がある。心臓手術を経験した患者は一過性脳虚血発作の特定のリスクがある。
【0077】
出血性脳卒中は、脳卒中症例の約17%を占める。それは、破裂し周辺の脳へ出血する弱くなった血管に起因する。血液は蓄積し、周囲の脳組織を圧迫する。出血性脳卒中の2つの一般的な型は、脳内出血及びくも膜下出血である。出血性脳卒中は、弱くなった血管の破裂に起因する。弱くなった血管の破裂の可能性のある原因には、高血圧性出血(そこでは、高い血圧が血管の破裂を引き起こす)、又は弱くなった血管の別の基礎的原因(例:破裂脳血管奇形(例:脳動脈瘤、動静脈奇形(AVM)、又は海綿状奇形))を含む。出血性脳卒中は、梗塞部位で血管を弱体化する虚血性脳卒中が出血性のものへ変化すること、又は異常に弱い血管を含む中枢神経系にある原発性腫瘍若しくは転移性腫瘍からの出血によっても生じることができる。出血性脳卒中は、医原性の原因(例:脳血管への直接的な外科的損傷)からも生じる可能性がある。動脈瘤は、血管の弱体化領域が肥大化したものである。放置した場合、その動脈瘤は、それが破裂して脳に出血するまで弱体化させ続ける。動静脈奇形(AVM)は、異常に形成された血管のクラスターである。海綿状奇形は、弱わくなった静脈構造からの出血を引き起こす可能性がある静脈異常である。これらの血管のいずれか一つが、破裂し、また脳に出血を引き起こす可能性がある。出血性脳卒中は、また物理的外傷に起因する可能性もある。脳の一部に起こる出血性脳卒中は、出血性脳卒中において失われた血液の不足を介して別の部分に虚血性脳卒中ができることに通じ得る。
【0078】
<VIII. 抗炎症剤と共の薬理学的薬剤の送達> 内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤が抗炎症剤と共に投与される方法において、その2つの実体が十分近接した時間内に投与され、前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導されうる炎症反応を阻害することができる。前記抗炎症剤は、薬理学的薬剤の前、同時、又は後に投与されてもよいが、好ましくは前に投与される。好ましい時間は、抗炎症剤の薬物動態及び薬動力学に一部依存する。抗炎症剤は、好ましくは薬理学的薬剤の前に間隔をおいて投与され、従って、前記抗炎症剤が薬理学的薬剤が投与される時に血清濃度が最大に近づくようになる。典型的には、抗炎症剤は、薬理学的薬剤投与の6時間前と1時間後との間に投与される。通常、抗炎症剤は、薬理学的薬剤投与後1時間の時間内のいくつかの時点で、検出できる血清濃度で存在する。多くの抗炎症剤の薬物動態は広く知られ、抗炎症剤の投与の相対的なタイミングは、それに応じて調整することができる。抗炎症剤は、通常、該当する薬剤に応じて、経口、静脈内、又は局所的に投与される。抗炎症剤が薬理学的薬剤と同時に投与される場合、その2つは複合製剤として、又は個別に投与されてもよい。
【0079】
炎症反応が抗炎症剤の非存在下で起こることが知られた状態の下で、内在化ペプチドに対する炎症反応を阻害するのに効果がある量、回数、及び経路からなる投与計画において、前記抗炎症剤は投与される。抗炎症剤投与の結果、炎症の兆候又は症状の任意の減少があった場合、炎症反応は阻害される。炎症反応の症状には、発赤、熱、腫脹、疼痛、チクチクする感じ、かゆみ、吐き気、発疹、口渇、しびれ感、及び気道うっ血を含む。兆候(例:血圧又は心拍数)を測定することにより、炎症反応はモニターされ得る。代わりに、炎症反応は、ヒスタミン又は他の化合物(マスト細胞脱顆粒により放出されるもの)の血漿中濃度を測定することによって評価されてもよい。実際問題として、上述した前記抗炎症剤のほとんどのものの投与における用量、投与計画、及び経路は、「Physicians' Desk Reference」の中、及び/又は製造元から利用でき、従って、このような抗炎症剤はそのような一般的なガイダンスと一致して本発明の方法中で使用され得る。
【0080】
<IX. 治療/予防の方法><a) 治療方法> 治療されている疾患を有する患者において少なくとも一つの疾患の兆候若しくは症状のさらなる悪化を治癒、減少、又は阻害するのに効果的な、投与の量、回数、及び経路において、内在化ペプチドに結合した薬理学的薬剤を含むキメラ薬剤は投与される。治療的に有効量とは、本発明のキメラ薬剤で治療していない疾患若しくは状態を罹患している患者(又は動物モデル)のコントロール群における損傷に比べて、本発明のキメラ薬剤で治療された疾患に罹患している患者(又は動物モデル)の群において、治療される疾患若しくは状態の少なくとも一つの兆候若しくは症状のさらなる悪化を治癒、減少、又は阻害するのに十分有意なキメラ薬剤の量を意味する。本発明の方法で治療しない比較対象の患者のコントロール群の平均予後よりも、個々の治療した患者がより好ましい予後を達成する場合、その量はまた、治療的に有効だと考えられる。治療的に有効な投与計画は、意図した目的を達成するのに必要な投与の回数及び経路で治療的に有効な用量の投与に関わる。
【0081】
脳卒中又はその他の虚血状態を罹患している患者の場合、脳卒中又は他の虚血状態の損傷効果を減少させるのに効果的な投与の量、回数及び経路を含む投与計画において、前記キメラ薬剤は投与される。治療を必要とする状態が脳卒中である場合、梗塞容積若しくは障害指数によって、その予後が測定され得る。個々の治療された患者がランキンスケールで2以下の障害若しくはバーセルスケールで75以上の障害を示す場合、又は治療された群が未治療の比較群よりも障害スケールのスコアの分布が有意に改善を示した(すなわち、より低い障害の)場合、投与量は治療的に有効であると考えられる(Lees外, N Engl J Med 2006;354:588-600を参照されたい)。単一用量のキメラ薬剤が、脳卒中の治療に通常十分である。
【0082】
<b)予防方法> 本発明はまた、疾患のリスクがある被験体において、前記疾患の予防のための方法及び組成物も提供する。通常このような被験体は、コントロール群に比べて、障害(例:状態、病気、障害、又は疾患)を発症する可能性の増大を示す。例えば、前記コントロール群は、障害と診断されたことがない、又は家族歴を有しない一般群(例えば、年齢、性別、人種、及び/又は民族から組み合わされて)から無作為に選択される1又は複数の個人を含むことができる。前記障害と関連する「リスク因子」が被験体と関連することが分かった場合、前記被験体は前記疾患にリスクがあると考えられてもよい。リスク因子には、例えば被験体群に関する統計学的若しくは疫学的調査を通して所定の障害と関連のある、任意の活性、体質、発症、又は性質を含む。従って、その基礎的リスク因子を同定する調査が具体的に被験体を含まなかった場合でさえも、被験体は前記障害のリスクを有するとして分類されてもよい。心臓手術を経験していない被験体群に比べて、それを経験した被験体群において、一過性脳虚血発作の頻度が増加するため、例えば、心臓手術を経験した被験体は一過性脳虚血発作のリスクがある。
【0083】
その他の脳卒中の共通するリスク因子には、年齢、家族歴、性別、脳卒中、一過性脳虚血発作若しくは心臓発作の先の発生、高血圧、喫煙、糖尿病、頸動脈若しくは他の動脈疾患、心房細動、他の心臓疾患(例:心臓疾患、心不全、拡張型心筋症、心臓弁膜症、及び/又は先天性心欠陥)、高血中コレステロール、及び食事(例:飽和脂肪、トランス脂肪、若しくはコレステロールの高い食事)を含む。
【0084】
疾患の少なくとも一つの兆候若しくは症状の発生を阻止、遅延、又は阻害するのに十分な量、回数、及び経路において、前記疾患を有してはいないが前記疾患のリスクがある患者に、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤が投与される。予防的な有効量とは、本発明のキメラ薬剤で治療していない疾患のリスクがある患者(又は動物モデル)のコントロール群に比べ、前記薬剤で相対的に治療された疾患のリスクがある患者(又は動物モデル)の群において、前記疾患の少なくとも一つの兆候若しくは症状を阻止、阻害、又は遅延するために十分有意なキメラ薬剤の量を意味する。本発明の方法で治療しない比較対象の患者のコントロール群の平均予後よりも、個々の治療した患者がより好ましい予後を達成する場合、その量はまた、予防的に有効だと考えられる。予防的に有効な投与計画は、意図した目的を達成するのに必要な投与の回数及び経路で予防的に有効な用量の投与に関わる。脳卒中の切迫したリスクを有する患者(例えば、心臓手術を経験した患者)における脳卒中の予防の場合、単一用量のキメラ薬剤が通常十分である。
【0085】
<X. 医薬組成物、投与量、及び投与経路> 本発明のキメラ薬剤は、医薬組成物の形で投与され得る。医薬組成物は、典型的にはGMP条件下で製造される。医薬組成物は、単位用量形態(すなわち、単一の投与のための投与量)で提供され得る。医薬組成物は、混合、溶解、造粒、糖衣錠形成、粉末化(levigating)、乳化、カプセル化、封入(entrapping)、又は凍結乾燥工程の通常の手段で製造され得る。例えば、凍結乾燥された本発明のキメラ薬剤が、以下で説明する処方及び組成物中で使用されてもよい。
【0086】
医薬組成物は、キメラ薬剤を医療用に使用され得る製剤へと加工することを促進する、一つ又は複数の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又は助剤を使って、従来の方法で処方され得る。適切な処方は、選択された投与経路に依存する。
【0087】
投与は、非経口、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、髄腔内、腹腔内、局所、鼻腔内、又は筋中であってもよい。静脈内投与が好ましい。
【0088】
非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは滅菌及び実質的に等張である。注射については、キメラ薬剤は水溶液中に処方されてもよく、好ましくはハンクス溶液、リンガー溶液、又は生理食塩水若しくは酢酸緩衝液(注射部位での不快感を軽減するため)などの生理的に相溶性のある緩衝液中である。その溶液は、調剤(例:懸濁剤、安定化剤、及び/又は分散剤)を含むことができる。
【0089】
キメラ薬剤は、別の形態では、使用前に、適切な媒体(例えば無菌で発熱物質フリーの水)と一緒にした組成にするように粉末状でもよい。
【0090】
経粘膜的な投与については、透過させる障壁に適切な浸透剤が、その処方中に使用される。この投与経路が、その化合物を鼻腔に運ぶため又は舌下投与のために使用されてもよい。
【0091】
経口投与については、治療される患者により経口摂取されるために、前記キメラ薬剤は、製薬上許容できる担体(例:錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液体、ジェル、シロップ、スラリー、及び懸濁液など)と共に処方されてもよい。経口固形製剤(例:粉末、カプセル及び錠剤)については、適切な賦形剤には、充填剤(例:糖質(例:ラクトース、ショ糖、マンニトール及びソルビトール));セルロース製剤(例:トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、ガムトラガント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP));顆粒剤;及び結合剤を含む。所望に応じて、崩壊剤(例:架橋したポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸若しくはその塩(例:アルギン酸ナトリウム))が加えられてもよい。所望に応じて、固形用量形態は標準的な手法を使用して糖衣又は腸溶コーティングされ得る。例えば、経口液体製剤(例:懸濁液、エリキシル剤、及び溶液)については、適した担体、賦形剤又は希釈剤には水、グリコール、オイル、アルコールを含む。さらに、香料、防腐剤、着色剤などを加えてもよい。
【0092】
前に記載した製剤に加えて、キメラ薬剤はまた、徐放性製剤として処方され得る。このような長期持続製剤は、移植(例えば、皮下又は筋中)又は筋肉注射によって投与されてもよい。従って、例えば、その化合物は適した高分子あるいは疎水性材料(例えば、許容されるオイル中のエマルジョンとして)若しくはイオン交換樹脂と共に、又は、中程度の水溶性誘導体(例:中程度の水溶性塩)として処方され得る。
【0093】
あるいは、他の医薬品送達システムを用いてもよい。キメラ薬剤を送達するのにリポソーム及びエマルジョンを使用してもよい。ある種の有機溶剤(例:ジメチルスルホキシド)を用いてもよい(但し、通常、より大きな毒性の犠牲を払う。)。さらに、上記化合物は徐放システム(例:治療剤を含む固体高分子の半透性マトリックス)を使用して送達可能である。
【0094】
徐放性カプセルは、その化学的性質に応じて、数週間から100日を越えてキメラ薬剤を放出することができる。治療剤の化学的性質及び生物学的安定性に応じて、タンパク質の安定化のためのさらなる戦略を採用することができる。
【0095】
本発明のキメラ薬剤は荷電側鎖又は末端を含むことができるので、それらは、遊離酸若しくは塩基、又は製薬上許容できる塩として任意の上記製剤に含まれてもよい。製薬上許容できる塩は、実質的に遊離塩基の生物学的活性を保持する及び無機酸と反応して調製されるそれらの塩である。医薬用の塩は、対応する遊離塩基形態よりも水溶液及びその他のプロトン性溶媒中により溶解する傾向がある。
【0096】
薬理学的薬剤に連結された内在化ペプチドを含むキメラ薬剤は、前記薬理学的薬剤単独のものとモルベースで同一若しくはより低い投与量で使用さてもよく、前記薬理学的薬剤単独の場合と同一の経路及び前記薬理学的薬剤単独の場合と同一の疾患の治療のために投与されてもよい。
【0097】
脳卒中の治療の場合、好ましい用量範囲は、患者の体重1kg当たり0.001から20μmolのキメラペプチド又はペプチド模倣剤を含み、任意ではあるが、患者の体重1kg当たり0.03から3μmolのキメラペプチドを含む。いくつかの方法では、患者の体重1kg当たり0.1から20μmolのキメラペプチド又はペプチド模倣剤が投与される。いくつかの方法では、患者の体重1kg当たり0.1〜10μmolキメラペプチド又はペプチド模倣剤、より好ましくは患者の体重1kg当たり約0.3μmolキメラペプチドである。他の実施例では、その用量範囲は、患者の体重1kg当たり0.005から0.5μmolのキメラペプチド又はペプチド模倣剤である。体重1kg当たりの投与量は、質量に対する異なる表面面積比率を補正するために6.2で割ることによってラットからヒトへ変換され得る。投与量は、キメラペプチド又はペプチド模倣剤の分子量を乗じることにより、モル単位からグラムへ変換され得る。ヒトに使用するキメラペプチド又はペプチド模倣剤の適切な投与量には、0.001から5mg/kg患者の体重、又はより好ましくは0.005から1mg/kg患者の体重、若しくは0.05から1mg/kg、あるいは0.09から0.9mg/kgを含む。75kgの患者の場合の絶対重量については、これらの投与量は0.075から375mg、0.375から75mg、又は3.75mgから75mg、若しくは6.7から67mgと計算される。例えば、患者の体重の変化を含むよう四捨五入すると、投与量は通常0.05から500mg以内に、好ましくは0.1から100mg、0.5から50mg、又は1から20mg以内である。
【0098】
キメラ薬剤の投与量は、治療される被験体に依存し、被験体の体重、苦痛の重症度、投与方法、及び処方する医師の判断に依存する。症状が検出可能な間、又はそれらが検出できない時であっても治療法は断続的に繰り返されてもよい。治療は単独で、又は他の薬物と組み合わせて提供されてもよい。脳卒中の治療の場合、内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤の投薬は、通常脳卒中の発症から24時間以内、好ましくは脳卒中の発症から6時間以内に投与される。
【0099】
<XI. キット> キットが、本発明の方法を実行するために提供される。前記キットは、内在化ペプチドに結合した、1つ又は複数の目的の薬理学的薬剤を含む。前記内在化ペプチドはビオチン化されてもよく、及び/又は前記キットは抗炎症剤を含んでもよい。インスタントキットは、任意ではあるが、薬理学的薬剤、及び/又は抗炎症剤を投与する手段を含む。前記キットは、また、1つ又は複数の緩衝液、添加剤、充填剤、又は希釈剤も含むことができる。前記キットは、投与及び引き続く投与量の投与計画に関する、1つ又は複数の印刷された説明書を提供してもよい。
【0100】
<XII. スクリーニング方法><A. 内在化活性の測定> 変異体(tat又は他の内在化ペプチドの変異体)は、動物中で透過活性をテストされ得る。内在化ペプチドは、単独で、又は活性薬剤(例えばKLSSIESDV(配列番号:5)のような活性ペプチド)に連結された場合にテストされてもよい。内在化ペプチド(任意ではあるが、活性薬剤(例:ペプチド)に連結されて)は、好ましくは、蛍光ラベル(例:塩化ダンシル)でラベルされる。内在化ペプチドは、それから動物(例:マウス)の末梢に注射される。例えば、腹腔内、又は静脈注射が適している。注射後約1時間に、マウスは犠牲にされ、固定液(生理食塩水中で、3%パラホルムアルデヒド、0.25%グルタルアルデヒド、10%ショ糖、10U/mLのヘパリン)で灌流される。脳は、その後、取り出され、冷凍され、そして切片にされる。切片は、共焦点顕微鏡を用いて蛍光解析される。任意ではあるが、ポジティブ及びネガティブコントロールに相対的に、内在化活性を蛍光から測定する。適切なポジティブコントロールは、テストされる内在化ペプチドとして、(もし存在すれば)同一の活性ペプチドに連結された標準tatペプチドである。適切なネガティブコントロールは、内在化ペプチドに連結されていない蛍光ラベルされた活性ペプチドである。ラベルされていない媒体もネガティブコントロールとして使用することができる。
【0101】
類似の実験を、細胞培養で変異体(tat又は他の内在化ペプチドの変異体)をテストするために実施することができる(米国特許出願公開第20030050243号明細書を参照されたい)。蛍光ラベル変異tatペプチド(任意ではあるが、活性ペプチドに連結される)が皮質神経細胞培養に添加される。添加後数分に渡って蛍光顕微鏡を用いて、取り込みが測定される。動物における取り込みに関する実験のために記載されるように、ポジティブ及びネガティブコントロールに相対的に、増加した取り込みを測定することができる。
【0102】
<2. 治療している脳卒中における活性の測定>
薬剤に連結された内在化ペプチドを含むキメラ薬剤の活性が、脳卒中の様々な動物モデルにおいてテストされ得る。そのようなモデルの一つにおいて、成体雄スプラーグドーリーラットを、90分間、腔内縫合法(36、37)により一過性の中大脳動脈閉塞(MCAO)にさらす。動物を一晩絶食し、硫酸アトロピン(0.5mg/kg IP)を注射する。10分後、麻酔を行う。ラットに口から挿管し、機械的に換気し、臭化パンクロニウム(0.6mg/kg IV)を用いて麻酔する。体温を、加熱灯を用いて36.5〜37.5℃で維持する。大腿動脈及び静脈においてポリエチレンカテーテルを用いて、継続的に血圧を測定し、及びガスとpH計測のために血液を採取する。一過性MCAOは、90分間、内頚動脈を介してウィリス動脈輪にポリ−L−リジンコートされた3-0モノフィラメントナイロン糸(Harvard Apparatus)を導入することで、効果的に中大脳動脈を閉塞することにより実現される。これは、大脳皮質及び大脳基底核を取り囲む広範な梗塞を作りだす。動物を、テスト対象のキメラ薬剤又はネガティブ若しくはポジティブコントロールのいずれかを用いて治療する。治療は、虚血を誘導する前、又は1時間後までのいずれかであってもよい。ネガティブコントロールは媒体であり得る。ポジティブコントロールは、先に効果があることが示されたtat-NR2B9cペプチド(YGRKKRRQRRRKLSSIESDV(配列番号:6))であり得る。キメラ薬剤を、MCAOの45分前に、単一の静脈内ボーラス投与により(3nmoles/g)送達する。動物に化合物を投与後、梗塞容積及び/又は障害指数を測定する。梗塞容積を、通常、治療24時間後に測定する。しかし、より遅延した時期(例:3、7、14、又は60日)に測定されてもよい。障害指数は、例えば、治療後2hr、治療後24hr、治療後1週間及び1ヶ月の時期にモニターされてもよい。化合物で治療していないコントロール動物に比べて、梗塞容積及び/又は障害指数が統計学的に有意に減少することを示すキメラ薬剤は、本発明の方法の実施に有用な活性を有するとして同定される。
【0103】
類似した実験を、恒久的虚血にさらされた動物において行うことができる。Forder外によって記述されるように、中大脳動脈軟膜血管の恒久的虚血を行うことができる(Am J Physiol Heart Circ Physiol 288:H1989-H1996(2005))。手短には、PE10ポリエチレンチューブを用いて右ECAにカテーテルを挿入する。頭蓋骨を正中切開を介して剥き出しにする、右体性感覚皮質(ブレグマから尾側2mm及び側方5mm)に6から8mmの頭蓋窓を作製する。通常の生理食塩水中に溶かした生体用色素パテントブルーバイオレット(10mMol/L;Sigma)の小さなボーラス(10〜20μL)をECAに注入することによって、軟膜動脈を可視化する。同一の3つの軟膜動脈MCA枝は電気焼灼され、焼灼動脈を通じての血流の中断を確実にするため、染料注射が繰り返される。その切開はその後閉じられ、動物はケージに戻され、そして餌と水に自由にアクセスできるようにする。この恒久的虚血モデルは、凝固した末端の軟膜動脈が基礎としてある皮質に限定した、再現性の高い小さな梗塞を生み出す。
【0104】
Longa(Stroke 20, 84-91 (1989))により記載された腔内縫合法によって、左中大脳動脈を閉塞することができる。手短には、正中頸部切開を介して左総頸動脈(CCA)を剥き出しにする。そして、周囲の神経及び帯膜を含まずに、その分岐部から頭蓋底にかけて解剖する。外頸動脈(ECA)の後頭動脈枝をそれから単離し、これらの分岐を解剖し及び凝固する。ECAはさらに遠方に解剖され、その後分かれている端末舌及び上顎動脈枝と共に凝固させられる。内頸動脈(ICA)を単離し、隣接する迷走神経から分離し、そして、翼口蓋動脈をその起点の近くで結紮する。3-0モノフィラメントナイロン縫合糸(Harvard Apparatus)の4センチの長さの先端は、0.33から0.36mmの先端径及び0.5から0.6mmの先端の長さを達成するために燃焼して丸められ、そして、ポリ−L−リジンでコートされた(Belayev外, 1996)。縫合糸をCCAを介して導入し、ICA、そしてそこからウィリス動脈輪(頸動脈分岐部から約18〜20mm)中に進め、効果的に中大脳動脈を閉塞する。腔内ナイロン縫合糸の周りで、それを締めるためにCCAの周囲で絹縫合糸を締め、中大脳動脈を恒久的に閉塞する。
【実施例】
【0105】
<実施例1><Tat-NR2B9cの神経保護効力に関する性差のインパクト> Tat-NR2B9cの神経保護効力を、脳卒中のインビボ軟膜3血管閉塞(P3VO)モデル(Forder JP, Munzenmaier DH, Greene AS、ラットにおけるアンジオテンシンIIタイプ1受容体遮断を有する局所虚血からの血管形成保護、Am J Physiol Heart Circ Physiol 2005 April;288(4):H1989-H1996)を用いて雄と雌ラットとの両者において評価した。
【0106】
<方法><動物> ウィスカー・バレル皮質上の中大脳動脈の3終枝に恒常的軟膜血管閉塞(P3VO)を施す前に、成体スプラーグドーリーラット(10〜12週齢)(雄〜300g、雌〜25Og)を、12〜18時間絶食させた。Tat-NR2B9cを、雄ラットで、生理食塩水コントロール群(各グループ、n=8)を加えてテストした。Tat-NR2b9c及び生理食塩水コントロールを、雌ラット(各グループ、n=8)でテストした。研究者は、手術時から梗塞サイズの解析の間、治療群に対して盲検した。
【0107】
<一般的手順> ラットは、0.5ml/kgの筋中注射(ケタミン(100mg/kg)、アセプロマジン(2mg/kg)及びキシラジン(5mg/kg)を、必要とされる初期用量の3分の1を添加)して麻酔した。肛門温度プローブを挿入して、動物は37℃に維持された加温パッドの上に動物を置いた。右外頸動脈(ECA)に、色素注射のためにPE10ポリエチレンチューブを用いて、カテーテルが挿入された。正中切開を介して頭蓋骨を剥き出しにし、組織を含まないよう表面をこすり、側頭筋は右側頭蓋骨から離断した。解剖顕微鏡と空気圧歯科用ドリルを使用して、硬膜を無傷のままに保ちながら頭蓋骨を4角形にドリルして頭蓋骨のその断片を持ち上げることにより、右体性感覚皮質(ブレグマから尾側2mm及び側方5mm)に6x4mmの頭蓋窓を作製した。人工脳脊髄液で洗った後、皮質の表面にある血管を介しての通過を実証するために、正常生理食塩水中に溶かした生体用色素パテントブルーバイオレット(10mmol/L;Sigma)の小さなボーラス(10〜20μL)を右外頸動脈に注射した。バレル皮質周囲にあるMCAの3つの重要な動脈枝が選択され、そして硬膜を通して電気焼灼した。 焼灼後、ボーラス注射及び色素通過を、焼灼された動脈を介した通過がブロックされたことを確実にするために繰り返した。頭蓋骨の前記4角形をその窓の上に置き、そして頭蓋骨を縫合した。カテーテルをECAから除去し、ECAを結紮し、そして前頸部を縫合した。局所閉塞の開始1時間後、0.3mlの薬物(3nMol/g体重)又は生理食塩水コントロールを、尾静脈から0.06ml/minの速度で注入した。ラットが十分に回復するまで、体温を維持するために加熱灯下の独立したケージに、各々のラットを戻した。餌と水を自由供給した。
【0108】
<脳組織の回収と梗塞サイズ解析> 手術24時間後、1mLのペントバルビタールで動物を再麻酔し、そして脳を速やかに回収した。梗塞領域から冠状切片を取り出し、2%塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)中で15分間37℃でインキュベートした。画像をスキャナーで取り込み、脳切片を-80℃で保管した。梗塞サイズを、この研究では、各ラットの半球のパーセントとして測定した。梗塞サイズの測定を行った後、その動物をそれぞれのグループに分けた。治療グループ間で平均±SEとして比較した。
【0109】
<結果及び結論> ラットにおける脳卒中のP3VOモデルは、雄と雌の両SDラット中で強く及び再現性のある梗塞を生じた。P3VO手術を行った24時間後に有意に減少した梗塞サイズが観察されるので、tat-NR2B9cペプチドは雄と雌との両者において神経保護的である(図1)。脳卒中の1時間後にTat-NR2B9c(3nM/g)を用いての治療は、両性の動物中で梗塞を劇的に減少させた(図1)。同等濃度のTat-NR2B9cで治療した雌ラットにおいて梗塞の完全な欠如が見られるので、この神経保護反応は雄よりも雌中でより明白に見えた。しかしながら、生理食塩水で治療したコントロールによると、雄ラットよりも雌ラット中で平均梗塞サイズは小さい(71%)ことを示している。
【0110】
<実施例2><Tat配列を含むペプチドはインビトロでヒスタミン放出を伴うマスト細胞脱顆粒を誘導する><方法><細胞培養> C57マウスを70%エタノールで滅菌し、そして皮膚と結合組織を除いて大腿骨を解離した。骨髄細胞を採取し、そして、OPTI-MEM(Gibco)(5%熱失活化FBS、6%WEHI条件培地(IL-3の供給源として)、及び55μM □-2メルカプトエタノールを含む)に再懸濁した。細胞は約1x106cells/mLで培養された。2日後、細胞を回収及び遠心分離し、そのペレットを新しい培地を用いて新しいプレートに蒔いた。新しいWEHI条件培地を各週で加えた。その細胞が>95%マスト細胞になった後、約4週間、その細胞を培養し、マスト細胞脱顆粒アッセイのために使用した。
【0111】
<マスト細胞脱顆粒アッセイ> マスト細胞脱顆粒アッセイキット(CHEMICON、Temecula、CA)を用いてトリプターゼ活性を測定した。単離後、その細胞を洗浄し、そして1Xアッセイバッファー中に約1x106cells/mLで再懸濁した。TAT-NR2B9C又は他のペプチドを用いた処理のため、以下の濃度の溶液(0.125mg/mL、1.25mg/mL、12.5mg/mL、又は125mg/mL)50μLをその細胞懸濁液に加えた。500nMのA23187(Calcimycin)(マスト細胞におけるトリプターゼ放出の誘導因子)をポジティブコントロールとして使用した。細胞を37℃、5%CO2で60分間インキュベートした。細胞懸濁液を700xgで遠心分離し、そしてその上清を注意深く回収した。アッセイ混合物(キット中で提供される)を96穴マイクロタイタープレート中に準備した。20μLのトリプターゼ基質を各実験及びコントロールウェルに加えることにより、比色反応を開始した。サンプルを37℃で60分間インキュベートした。マイクロプレートレーダー中、405nmで吸光度を測定した。
【0112】
マスト細胞脱顆粒を誘導するために、以下の処理を使用した。
1) ネガティブコントロール(任意のペプチドを含まないアッセイバッファー)
2) ポジティブコントロール(カルシウムイオノフォアA23187)
3) Tat-NR2B9C
4) PSD-95結合配列を含まないT-NR2B9CのTat由来配列
5) Tat配列を含まないが、TAT-NR2B9CのPSD-95結合配列を含むNR2B9C
6) AA(NMDA NR2Bサブユニットの9つのカルボキシ末端アミノ酸に融合したTat配列を含む20アミノ酸ペプチドであるが、PSD-95に結合することができなくさせる2アミノ酸変異を有する)
【0113】
以下に記載されるいくつかの動物実験中で10mg/kg用量のTat-NR2B9Cを受けたイヌで達成される最大血清濃度(総体重の8%を血液量と仮定することに基づく)に近似させるため、すべてのペプチドを125mg/mLの濃度で添加した。
【0114】
<結果及び結論> 図2に見られるように、Tatトランスダクションドメインを含むペプチドはすべて、マスト細胞脱顆粒を引き起こした。しかしながら、NR2B9cペプチド(Tat配列を含まない)はしなかった。インビトロのマスト細胞脱顆粒アッセイは、抗体の非存在下で行われた。従って、任意のマスト細胞脱顆粒は免疫現象によるものではあり得ない。特に、RT-PCR及びウエスタンブロットを使用して、我々はTat-NR2B9cの治療標的であるPSD-95をマスト細胞が含むかどうかを検討した。我々はこれらの細胞中にPSD-95を検出することができなかった(結果は示されない)。この結果は、マスト細胞脱顆粒がTAT-NR2B9cとPSD-95との相互作用により引き起こされていないようなだとするさらなる証拠を提供した。
【0115】
さらなる実験で、我々はTat-NR2B9cによるマスト細胞脱顆粒の程度とAAペプチドによるものが用量依存的であることを決定した。具体的には、Tat-NR2B9cの濃度がより増加すると、図3に示されるようにマスト細胞脱顆粒の増大を誘起する。
【0116】
さらなる実験で、我々はTat-NR2B9cの配列変異のマスト細胞脱顆粒への効果を検討した。同一のアッセイを使って、以下の化合物(すべて50uMで)をテストした。
【表5】

【0117】
図4に見られ得るように、Tat配列を含むすべての化合物及びTatペプチド配列は、マスト細胞脱顆粒を誘発した。しかし、NR2B9c単独ではこの反応を誘発しなかった。
【0118】
<実施例3><Tat配列を含むペプチドの抱合体は、インビトロにおけるマスト細胞脱顆粒を誘導できない> 実施例2に記載された方法を使って、Tat含有ペプチドへのある種の修飾(例:抱合)のマスト細胞脱顆粒における効果を調べた。修飾されたペプチドには、Tat-NR12B9c、Tat-NR2B9cのD−異性体(D-Tat-NR2B9cと名付けられる)、ビオチン抱合Tat-NR2B9c、ビオチン抱合AMP-KLSSIESDV(配列番号:5)を含む。図5に示されるように、ビオチン抱合Tat又はAMPペプチドは、マスト細胞脱顆粒を誘導できなかった。
【0119】
<実施例4><ビーグル犬を用いた動物試験において、Tat-NR2B9cは増加したヒスタミンレベルとヒスタミン反応を誘発する> 優良試験所基準(GLP)の静脈内投与による14日毒性試験を未処置のビーグル犬(3/性別/グループ)(CRM試験番号:501448)で実施した。その中で、動物に0、0.25、1.0、又は10mg/kgのTat-NR2B9cを毎日注射した。血液サンプル(約1mL)を、投与1、6、及び12日前、並びに注射5及び15分後にすべての動物から採取した。血液サンプルを、静脈穿刺(頸静脈、伏在静脈、及び橈側皮静脈)によって、EDTAを含むチューブに回収した。サンプルを、それから冷却遠心分離器(約4℃)中で、2700rpm、10分間遠心分離(回収の30分以内に)した。血漿を適切なラベルを付した第2のチューブに分離して、そしてCRMでの解析まで-80℃で保管した。血漿サンプルをヒスタミンレベルを検討するために用いた。Tat-NR2B9cを静脈内に投与された動物からのサンプルを、正当と認められる方法を使用して解析した。
【0120】
10mg/kgのTat-NR2B9cを投与されたすべての動物は、治療に関連した臨床兆候(鼻口部、歯肉(また蒼白であると記述される)、耳介、眼窩周囲領域、及び肢の発赤からなる)を呈し、しばしば腫脹と関連する。これらの作用は、嗜眠及び触知不可能な脈拍と関連し、担当獣医は重度の低血圧反応として特徴付けた。投薬の最初の日から始まり14日間の投薬期間を通し持続して、これらの作用を毎日観察したが、それらの動物に明白な順応はなかった。これらの作用は、抗体を基礎とする免疫応答の発生にはよらなかった。なぜなら、これらの動物は投薬の最初の日までTat-NR2B9cに暴露されず、そして、14日間の治療においてその反応の増加した重症度が観察されなかったからである。具体的には、これらの未処置ベーグル犬へのTat-NR2B9cの第一回投与にすぐに引き続いて、増加したヒスタミンレベルが観察された(イヌ血漿ヒスタミンレベルのサマリーについては表6を参照されたい)。これらの動物はTat-NR2B9cに一度も暴露されたことがなく、従ってTat-NR2B9cに対するメモリーT細胞又は循環抗体を保有していたはずはない。また、任意の用量レベルでの14日間反復投与毒性試験期間中、ヒスタミンレベルの一貫する増加は観察されず、抗原特異的応答の拡大はないことを示す。したがって、Tat-NR2B9cによるヒスタミンレベルの上昇が観察されたことは、抗原特異的抗体応答というよりはむしろマスト細胞の直接の脱顆粒の結果である。
【表6】


【0121】
<イヌにおけるヒスタミン放出を示すTat-NR2B9cの循環器系作用> 非拘束覚醒ビーグル犬におけるGLP循環器系遠隔計測試験(CRM試験番号:691106)において、投薬レベル間に3日間の休薬期間を持って、Tat-NR2B9cの用量を増加しながら(0.25、1.0、又は5.0mg/kgペプチド総量)、6匹の動物(雄3匹、雌3匹)に投与した。0.25又は1.0mg/kgでは、血圧への作用は観察されなかった。5mg/kgでは、6匹のイヌ中4匹で、血圧の一過的な降下が観察され、約30分持続した。血圧の降下が用量に関連している可能性があるかもしれないとする所見は、その降下が、アレルギー(抗体媒介)免疫応答によるものではなかったことを示す。さらに、低用量(0.25mg/kg)と高用量(5.0mg/kg)との間の時間フレームは約6日間である。すなわち、免疫応答を生じさせることを可能にするのには不十分な期間である。従って、その作用はヒスタミン放出を引き起こすマスト細胞の直接の脱顆粒により引き起こされる。
【0122】
14日間イヌ反復投与毒性試験でテストされる最も高い用量レベル(すなわち、10mg/kg)における詳細な循環器系の情報を得るために、非拘束覚醒ビーグル犬での追加的なGLP循環器系遠隔計測試験を行った(CRM試験番号:691429)。6匹の動物(雄3匹、雌3匹)は、午前中に媒体そして、同じ日の午後に10mg/kgのTat-NR2B9c(投薬間に少なくとも4時間)を受けた。治療された動物中で投薬後15分まで心拍数の増加が観察され、雄及び雌で10分において最大の作用が観察された。投薬後5から10分で、個々の動物において血圧値の減少(62%まで)が観察された。この追加的な循環器系試験で用いられた雌動物は、チャールスリバーのコロニーから取得され、Tat-NR2B9cの最初の循環器系試験(CRM試験番号:691106)で以前使用された処置済動物であった。CRM試験番号:691429中10mg/kgで観察された作用は、14日間イヌ毒性試験(CRM試験番号:501448)で観察された臨床兆候に相当するものであり、CRM試験番号:691106中でテストされた最も高い用量レベル(5mg/kg)で観察されたよりも、治療された動物に観察されたより重度の血圧作用を有していた。これらの結果は、マスト細胞の直接的な脱顆粒を再び指し示す。
【0123】
我々は、50mg/kgのTat-NR2B9cを受ける麻酔されたラット中の血圧に関するTat-NR2B9cの作用の非GLP試験を実施した。この用量が一回換気量、呼吸数、及びそれに由来する分時換気量を減少させるので、この用量をラットに対しても選択した。一つの実験では、5匹のスプラーグドーリーラットに、50mg/kgのTat-NR2B9cボーラス投薬を3分間与えた。大腿動脈カテーテルを介して血圧をモニターした。
【0124】
図6に示されるように平均動脈圧の一過的な減少がすべての動物に起こった。6匹の動物が同様にテストされた別の実験は、同様な結果を示した。イヌの場合において上記で議論されたように、Tat-NR2B9cに対して免疫応答を発生する任意の先行する機会がなかった未処置の動物においても、ラットにおけるこれらの反応がまた観察された。これらのデータは、Tat配列を含むペプチドによるマスト細胞脱顆粒の第2番目の種における証拠を提供する。
【0125】
<イヌ中のヒスタミン放出を示す炎症反応> 単一、低速静脈注射によりビーグル犬に投与されるTat-NR2B9cの用量範囲を調べるために、非GLP試験を実施した。2匹の動物(ビーグル犬雄一匹及び雌一匹)に、Tat-NR2B9cを7回静脈内投薬した。その投薬間には3〜4日間の休薬期間があった。第一回目の投薬は2.5mg/kgで与えた。その動物は毒性の任意の兆候を示さなかったので、2回目の投薬は7.5mg/kgで投与された。雄動物は、頭部軟部組織の血管神経性浮腫、及び特に腹部の腹側面のじん麻疹型反応を呈した。雌イヌでは反応がなかった。バイタルサイン(心拍数、血圧、呼吸数、及び体温)は、両動物において正常な生理学的範囲内に留まった。3回目の投薬は、12.5mg/kgで与えた。投薬後、血管神経性浮腫及びじん麻疹が、両動物で観察された。雄イヌの反応は中程度と評価され、雌動物では反応は軽度であった。その次の用量は20.0mg/kgにセットした。投薬後、雄動物はショックに落ち入り、血圧(BP)及び脈拍は検出されなかった。ベネドリルとデキサメタゾンのi.v.投与でその動物を治療した。投薬後5分のBPは、37/13mm Hg(イヌにおける正常なBPは〜160/90)として記録された。雌動物に投薬しないよう決定した。
【0126】
先行する投薬で見られた反応の型をよりよく理解するために、次の投薬を与えた。5回目と6回目の投薬は2.5と5.0mg/kgにセットした。2.5mg/kgで、雄イヌの耳及び顔面の発赤を除いては、いずれの動物においても他の副作用は観察されなかった。5.0mg/kgでは、雄動物に中程度の反応が見られたが、雌イヌでは反応はなかった。
【0127】
高用量Tat-NR2B9cは、著明な一過性低血圧及びじん麻疹様皮膚反応を誘導することができると結論した。これらの反応は用量依存的のように見え、雌動物よりも雄動物がテスト物により敏感であるように見えた。
【0128】
<実施例5><抗ヒスタミンを用いた治療は、イヌにおけるTat-NR2B9cにより誘導される症状を阻止する> Tat-NR2B9cの30分前に投与される1mg/kgのベネドリルを用いた前投与後、実施例4の両動物に、12.5mg/kgのTat-NR2B9cを投与した。雄動物中に、耳の真皮の軽微な発赤があった。Tat-NR2B9cの投与〜15〜20分後に、雄動物はまた、嘔吐した。雌イヌには反応が観察されなかった。従って、抗ヒスタミン薬ベネドリルの前投与は、両動物中に同一用量レベルのTat-NR2B9cで以前観察された血管神経性浮腫及びじん麻疹反応を阻止した。この結果は、抗ヒスタミン(例:ベネドリル)、及びコルチコステロイド(例:デキサメタゾン)が、マスト細胞脱顆粒の有害事象を効果的に治療することを示している。
【0129】
合わせて考えると、これらの結果は、Tat-NR2B9cの投与が実験動物の血中ヒスタミンレベルの上昇を誘発し、増加したヒスタミンレベルはマスト細胞脱顆粒によるものであり、そして、この応答を抗ヒスタミン医薬で及びコルチコステロイドで治療することはTat-NR2B9cとタンパク質トランスダクションドメイン(例:Tat)を含む他の化合物を投与するための有効な手段を構成するかもしれないことの直接的実験証拠を提供する。
【0130】
<実施例6><Tat-NR2B9cがヒトにおいて血中ヒスタミンの上昇を誘発するとする直接証拠><方法> 我々は、ヒトにおけるTat-NR2B9cの安全性、許容性、及び薬物動体試験を実施した。被験体は、18歳以上の正常、健康、非喫煙男性、又は閉経後若しくは外科的に生殖不能な女性被験体のいずれかであった。被験体は、点滴静脈内投与(10±1分)で、Tat-NR2B9c(ロット番号:124-134-001B)を投与されるか、又はプラセボ(リン酸緩衝生理食塩水)(ロット番号:124-134-001A)を与えられるかのいずれかであった。4人の被験体がコホート1から3の各々において投薬され、そして、10人の被験体がコホート4から8の各々において投薬された。62人の被験体のすべてが試験を完了した。各コホートの治療期間は以下である:コホート1:2006年9月14日、コホート2:2006年9月26日、コホート3:2006年10月6日、コホート4:2006年10月20日、コホート5:2006年11月6日、コホート6:2006年12月4日、コホート7:2006年12月17日、コホート8:2007年2月25日。
【0131】
<採血タイムポイント> 試験期間中、薬物動体解析のため、11の血液サンプルを各被験体から以下のタイムポイントで回収した:投薬後0.00(投薬前)、0.08(5分)、0.17から0.25(各々の独立した薬物点滴の終了から正確に10から15分)、0.33(20分)、0.50、0.75、1.00、2.00、6.00、12.00、および24.00時間。それに加え、ヒスタミン分析のため、各被験体から以下のタイムポイントで8つの血液サンプルを回収した:投薬後0.00(投薬前)、0.08(5分)、0.17(10分)、0.25、0.50、1.00、2.00、及び24.00時間。
【0132】
<安全性評価> 試験経過中少なくとも一回投薬を受けたすべての被験体において、安全性試験を行った。すべての有害事象(AEs)の発生数が、治療と被験体数により集計された。バイタルサインの絶対値、心電図(ECG)パラメータ、実験パラメータ及び身体診察も文書化され、正常範囲外の値に印をつけた。ベースライン値からのシフトを集計した。AEsを研究者用語及び調節活性のための医学事典(Medical Dictionary for Regulatory Activities)(MedDRA)用語を使って文書化した。
【0133】
<結果><パート1:血中ヒスタミンレベルへのTat-NR2B9cの作用> 投薬による異常ヒスタミン結果の要約が、表7で説明される。3.75mg/kg用量群での8被験体中7人は、NA1投与開始から10分後に10nmol/Lよりも高い(平均24.3nmol/L;最大39.8nmol/L)ヒスタミンレベルを有していた。前記被験体のうち3人は、NA1投与開始から15分後に10nmol/Lよりも高い(平均15.3nmol/L;最大20.3nmol/L)のヒスタミンレベルをまだ有していた。
【0134】
3.75mg/kg用量群の他は、どの治療群も有意に異常なレベルのヒスタミンを有していなかった。プラセボ群及び0.375mg/kg用量群は各々、1つのタイムポイントで上昇したヒスタミンレベルを有する1人の被験体を有していたが、これらの結果はそれぞれ、スクリーニング時及び投薬後2.00時間においてであった。すべての異常ヒスタミン結果は、薬物投与24.00時間以内に正常な範囲に戻った。
【表7】

【0135】
<パート11:安全性データ> 試験に参加した40人の被験体は前記試験中に総数168個の有害事象(AEs)を経験した。AEsの大半は重症度の軽度なものであった。プラセボ治療を受けた16人中6人の被験体(37.5%)は少なくとも1つのAEを経験した一方で、実薬治療を受けた46人中34人の被験体(73.9%)は少なくとも1つのAEを経験した。2.60及び3.75mg/kg用量群の被験体は、それより低い用量群の被験体よりも有意に多くのAEsを経験した。重度の有害事象(SAEs)は報告されなかった。Tat-NR2B9cを受けた被験体により経験された最も共通する有害事象は、熱感(46分の13; 28.3%)、そう痒症(46分の12; 26.1%)、潮紅(46分の10; 21.7%)、及び口渇(46分の9; 19.6%)であった。すべてのAEsは、2例の増加した血中グルコースを除いて消散し、被験体は経過観察できなかった。
【0136】
2.60及び3.75mg/kg用量群でのAEsの発生頻度は、プラセボ、0.02、0.08、0.20、0.375、0.75、及び1.50mg/kg用量群におけるAE発生率よりも高かった。Tat-NR2B9cの≧2.60mg/kgの用量においては、いくつかのAEsが頻繁に報告された。これらには、(1)血圧の減少、(2)ピリピリ感(知覚異常)、(3)しびれ感(低感覚)、(4)発赤(紅斑)、(5)発疹、(6)かゆみ(そう痒症)、(7)口渇、(8)悪心、(9)熱感、及び(10)潮紅を含む。これらの有害事象の発症は、試験薬物の投与と同時に起こり、そして、おそらく試験薬物に関連していた。
【0137】
Tat-NR2B9cを用いた前臨床試験では、上昇したヒスタミンレベルが高用量群で観察され、副作用(腫脹、発赤、及び低血圧を含む)の原因である可能性があった。現在の試験では、静脈内薬物投与の開始10分後で、最も高い用量群(3.75mg/kg)での8人中7人の被験体においてヒスタミンレベルが上昇し、そして、薬物投与の15分後においてもこれらの被験体中3人で上昇したままであり、その後レベルは正常範囲に回復した。 ヒスタミンレベルが上昇した同一のタイムフレーム中に、3.75mg/kg用量群におけるAEsのほとんどが観察された。このことは、上昇したヒスタミンレベルが最も頻繁に報告されたAEs(血圧の減少、ピリピリ感、しびれ感、発赤、発疹、かゆみ、口渇、悪心、熱感、及び潮紅)の原因であったことを示唆する。
【0138】
リストされた有害事象のほとんどはまた、動物前臨床試験で観察され、そこでは、最大許容用量(MTD)は、イヌ及びラットでそれぞれ12.5及び100mg/kgで確立された。2.60及び3.75mg/kg用量群におけるAEsのほとんどは観察されないか、又は0.02と1.50mg/kgとの間の用量群でたった1人の被験体に観察された。このことは、より高い用量のTat-NR2B9cで観察されたAEsは、これよりより低い用量範囲では最小限又は存在しなかったということを示唆する。
【0139】
本発明は、理解を明確にする目的のために詳細に記載されているものの、ある種の変更が添付した請求の範囲の範囲内で実践され得ることは明らかであろう。本出願で引用したすべての出版物及び特許文書は、それぞれが個々に示されると同程度に、参照によって全ての目的のためにその内容全体が本明細書中に組み込まれる。文脈から明らかでない限り、本発明の任意の要素、実施形態、工程、機能、又は態様は任意の他との組み合わせで行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬理学的薬剤を被験体に送達する方法であって、前記方法は、
内在化ペプチドに連結された前記薬理学的薬剤を前記被験体に投与し、
抗炎症剤を前記被験体に投与することを含み、
前記抗炎症剤は、前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する、方法。
【請求項2】
前記抗炎症剤が抗ヒスタミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗炎症剤がコルチコステロイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記内在化ペプチドがtatペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記tatペプチドがRKKRRQRRR(配列番号:51)又はGRKKRRQRRR(配列番号:1)を含むアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記tatペプチドがYGRKKRRQRRR(配列番号:2)を含むアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記tatペプチドがFGRKKRRQRRR(配列番号:3)を含むアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記tatペプチドがGRKKRRQRRRP(配列番号:4)を含むアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記薬理学的薬剤がペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記薬理学的薬剤がKLSSIESDV(配列番号:5)である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
薬理学的薬剤に連結された内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害するための、医薬の製造における抗炎症剤の使用。
【請求項12】
内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤と、前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する抗炎症剤とを含むキット。
【請求項13】
ビオチンを有しない内在化ペプチドに較べ、炎症反応を誘導する能力が減少した、前記ビオチンに連結された内在化ペプチド。
【請求項14】
薬理学的薬剤を被験体に送達する方法であって、前記方法は、内在化ペプチドに連結された前記薬理学的薬剤を前記被験体に投与することを含み、前記内在化ペプチドは、ビオチン化され、前記ビオチン化は、前記ビオチンを有しない前記内在化ペプチドに比べて、前記内在化ペプチドが炎症反応を誘導する能力を減少させる方法。
【請求項15】
興奮毒性により媒介される疾患の治療又は予防に効力を及ぼす方法であって、
前記疾患の治療又は予防に効力を及ぼすのに効果がある投与計画において、PSD95とNDMAR 2Bとの結合を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを、前記疾患を有する又はリスクのある被験体に投与し、
前記被験体に抗炎症剤を投与することを含み、それにより前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する、方法。
【請求項16】
前記薬理学的薬剤がNMDAR受容体のPLペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記内在化ペプチドがtatペプチドである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記内在化ペプチドがRKKRRQRRR(配列番号:51)、GRKKRRQRRR(配列番号:1)、YGRKKRRQRRR(配列番号:2)、FGRKKRRQRRR(配列番号:3)、又はGRKKRRQRRRPQ(配列番号:4)を含むアミノ酸配列を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記被験体が雌である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患が脳卒中である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記被験体が心臓手術を経験した結果一過性脳虚血発作のリスクがある、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
興奮毒性により媒介される疾患の治療又は予防に効力を及ぼす方法であって、
前記疾患の治療又は予防に効力を及ぼすのに効果がある投与計画において、PSD95とNDMAR 2Bとの結合を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを、前記疾患を有する又はリスクのある被験体に投与することを含み、
前記内在化ペプチドはビオチン化され、前記ビオチン化は前記内在化ペプチドが炎症反応を誘導する能力を減少させる、方法。
【請求項23】
興奮毒性により媒介される疾患の治療又は予防に効力を及ぼす方法であって、
前記疾患の治療又は予防に効力を及ぼすのに効果がある投与計画において、PSD95とNDMAR 2Bとの結合を阻害する薬理学的薬剤が内在化ペプチドに連結されたものを、前記疾患を有する又はリスクのある雌被験体に投与することを含む、方法。
【請求項24】
前記内在化ペプチドがtatペプチドである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を被験体に送達する方法において、その改良が、前記内在化ペプチドがビオチン化されるか又は前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する免疫抑制剤と共に投与されるかのいずれかである、方法。
【請求項26】
前記内在化ペプチドがtatペプチドである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
炎症反応を阻害する方法であって、前記方法は、
内在化ペプチドに連結された薬理学的薬剤を投与された又はこれから投与される被験体に抗炎症剤を投与することを含み、それにより前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する、方法。
【請求項28】
薬理学的薬剤を被験体に送達する方法であって、前記方法は、内在化ペプチドに連結された前記薬理学的薬剤を被験体に投与することを含み、前記被験体は抗炎症剤を投与された又はこれから投与され、それにより前記抗炎症剤が前記内在化ペプチドにより誘導される炎症反応を阻害する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−506328(P2011−506328A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537016(P2010−537016)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/085280
【国際公開番号】WO2009/076105
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(509011178)ノノ インコーポレイテッド (8)
【住所又は居所原語表記】88 Strath Avenue Toronto,Ontario Canada
【出願人】(505088020)アルボー ビータ コーポレーション (12)
【住所又は居所原語表記】6611 Dumbarton Circle Fremont, California United States of America
【Fターム(参考)】