説明

内外装壁のタイル剥落防止工法

【課題】地震時に内外装壁のタイルが剥落せず、且つ内外装壁のタイルの剥落防止が後から容易に施工できると共にタイル貼りの内外壁の風合いを損なわず、見た目が悪くならない内外装壁のタイル剥落防止工法を提供する。
【解決手段】壁面全体に1m間隔で縦横に線を引き、各交点付近と各中央部との目地部2に穿設するイ)穴あけ工程を行い、該穴に鞘を挿入するロ)鞘取付け工程を行う。そして下塗りを行い、ガラス繊維入りのアクリルシリコン樹脂で第1回目の中塗りを行うハ)第1塗膜形成工程が行われ、第1塗膜形成後、鞘に、第1塗膜を突抜いてピン3が目地部2と面一に打込まれるニ)塗膜固定工程を行う。更に目地部2と同色でピン3の頭部が塗布されるホ)着色工程を行い、前記塗料で第2回目の中塗りが行われるヘ)第2塗膜形成工程を行う。次にト)仕上げ工程を行って完成させる内外装壁のタイル剥落防止工法と成す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内外装用タイル貼り面の上から施工して、内外装面からタイルが剥離して落下させないための内外装壁のタイル剥落防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に外装壁の仕上げ材としてタイル貼り仕上げすると、高級感があふれ、耐久性にも優れているので、タイル貼り仕上げされたマンションが多く見受けられる。このマンションは建設後10年経過すると、躯体へ地震による影響やコンクリートの収縮等により、ひびが入り表層のタイルまでひび割れが発生し、雨水がコンクリート内部まで浸入して白いエフロレッセンスを流出して汚れたものが多く見受けられる。又、長期間に渡る紫外線,雨水,酸性ガス,地震などのさまざまな影響によりタイル面の汚れ,ひび割れ,浮き,剥離,目地部のエフロレッセンスの流出,コンクリートの中性化の進行、そして漏水によるさまざまな劣化現象が見られ、タイル貼り面の適切な補修処置は重要になってきている。この外壁用タイル貼り面の修復工法としては、本発明者が特願2002−162524で提案したところである。
【0003】
一方、近年に於いて、地震時にタイル貼りした外壁面からタイルが剥離して落下する事故が頻繁に発生しているため、タイル剥落防止工法が多種提案されている。しかしながら、これらの提案は建築する際に、コンクリート打設面の形状を工夫して地震時にタイルの剥落防止が可能とするものであった。他方、建築済みのタイル貼り面の上から施工する外壁タイル剥落防止工法としては、浮きの発生した場所を確認し、そのタイルや石の中央に孔をあけ、孔内の清掃を行った後、アンカーピンをセットすると共にエポキシ樹脂の接着剤を注入して浮いた空間部に充填させる。そして、外壁タイルを洗い、下塗り(シーラー塗布)が行われ、1層目の剥落防止材を塗る。その後、2層目を塗り、上塗りが行われて仕上げられていた。
【0004】
しかしながら、後施工の前記タイル剥落防止工法はタイルや石の中央に孔をあける際、タイルや石が割れ易く、硬質のものに対しては非常に時間が掛かるものとなっていると共に見た目も悪いものとなっていた。また中央の孔からエポキシ樹脂の接着剤を注入して浮いた空間部に充填させると、タイルの周囲が浮き上がってしまうことがあり、見た目が悪いものとなっていた。更にアンカーピンによって壁側に固定されたタイルは、浮きの発生した場所の補修範囲の剥落防止が可能となっても、補修範囲以外のタイルの剥落の恐れが依然として解消されないものであった。このため、浮きの発生した場所の補修が完了した後に、外壁一面に剥落防止材を塗布する場合も見受けられるが、タイルの剥離強さは、始めに施工した際の壁側との固定状態によって決まり、タイルの貼着力だけが頼りとなり、地震時にタイルが壁側と剥離されると、タイルが個々に落下することはないが、タイル全体の落下或いはタイルの部分的な落下と共に固化した剥落防止材も一緒に落下してしまい、タイルの剥落を完全に防止することは難しいものであった。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は地震時にタイル貼りした内外装壁のタイルが震動に耐えて剥落せず、且つ現存のタイル貼りした内外装壁のタイルの剥落防止が後から容易に施工できると共にタイルの内外壁の風合いを損なわず、施工後、見た目が悪くならない内外装壁のタイル剥落防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記欠点を解消するために成されたものであり、つまり、イ)穴あけ工程としてタイル貼り面全体に1m間隔で縦横に線を引き、各交点付近と各中央部との目地部にアンカーピンの鞘用穴を穿設する。次にロ)鞘取付け工程として穴に鞘を挿入する。またハ)第1塗膜形成工程として壁全面に下塗りを行い、剥落防止材であるガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第1回目の中塗りを行う。そして、ニ)塗膜固定工程として、乾燥させて第1塗膜が形成された後、鞘に、第1塗膜を突抜いてピンを目地部と面一に打込む。又、ホ)着色工程として、目地部と同じ色の水性シリコンをピンの頭部に塗布する。更にヘ)第2塗膜形成工程として、ガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第2回目の中塗りを行う。次にト)仕上げ工程として、透明なアクリルシリコン樹脂トップコートで上塗りが行われると共に各工程を順次行うことにより完成される内外装壁のタイル剥落防止工法と成す。この時、前記アンカーピンとしてステンレス製を用い、第1回目の中塗りにゴム鏝を用いると共に第2回目の中塗りに砂骨ローラーを用いるのが好ましい。尚、本発明で言う「タイル」とは、外装や内装の仕上げ材として貼り面に取付けるものを指し、陶磁器製タイル以外に、レンガや石のブロック或いは板なども含まれるものとする。又、本発明で言う「砂骨ローラー」とは、塗膜を厚くゆず肌状態に塗る場合に使用する穴あきローラーを指す。
【発明の効果】
【0007】
請求項1のようにイ)穴あけ工程として、タイル貼り面全体に、1m間隔で縦横に線を引き、各交点付近と各中央部との目地部(2)にアンカーピン(3)の鞘(31)の穴を穿設する。次にロ)鞘取付け工程として穴に鞘(31)を挿入する。またハ)第1塗膜形成工程として、全面に下塗りを行い、剥落防止材であるガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第1回目の中塗りを行う。そして、ニ)塗膜固定工程として、第1塗膜形成後、鞘(31)に、第1塗膜を突抜いてピン(32)を目地部(2)と面一に打込む。又、ホ)着色工程として、目地部(2)と同じ色の水性シリコンをピン(32)の頭部に塗布する。更にヘ)第2塗膜形成工程として、ガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第2回目の中塗りを行う。次にト)仕上げ工程として、透明なアクリルシリコン樹脂トップコートで上塗りを行い、完成させることにより、従来の如きタイル(1)や石の中央に孔をあけず、目地部(2)に穴を穿設するため、タイル(1)や石が割れる恐れはなくなり、且つタイル(1)や石が硬質であっても穿設加工に影響しないものとなり、イ)穴あけ工程がスムーズに行えるものとなると共に穴が目立たないので、見た目も悪くならないものとなった。また従来生じていた接着剤の注入による充填時のタイル(1)の周囲を浮き上げることがなくなり、それによる見た目の悪さも解消される。更にアンカーピン(3)は第1塗膜形成後に壁側へ固定させるため、第2塗膜は第1塗膜に密着固定して一体化するものとなり、剥落防止材の塗膜全体はアンカーピン(3)によって壁側へ固定されたものとなる。例えばタイル(1)が多数剥離した場合を従来工法と比較すると、従来方法で形成された塗膜は密着力だけでそれらのタイル(1)を保持するものとなるが、本発明による塗膜は密着力と共にアンカーピン(3)による塗膜全体の保持力が大きくなるので、従来よりも遥かにタイル(1)の落下する危険性は小さなものとなる。従って、本発明は地震時にタイル貼りした内外装壁のタイル(1)が震動に耐えて剥落せず、且つ現存のタイル貼りした内外装壁のタイル(1)の剥落防止が後から容易に施工できると共にタイル(1)の内外壁の風合いを損なわず、見た目が悪くならないタイル剥落防止工法となる。
【0008】
請求項2のようにアンカーピン(3)にステンレス製を用いることにより、錆の発生が防げるので、長期間に渡って安定したタイル(1)の剥落防止効果が有効に働くものとなり、第1回目の中塗りにゴム鏝を用いることにより、表面に凹凸があってもその凹凸に対応して塗布することが簡単に出来るものとなる。第2回目の中塗りに砂骨ローラーを用いることにより、厚く且つ均一できれいな塗布面が得られるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1、図2は本発明の実施形態を示す図であり、この図番について説明する。(1)は内外装壁に貼着されたタイルであるが、貼着されたものとしては、タイルに限定されるものではなく、例えば、レンガや石板などでも良い。(2)はタイル(1)とタイル(1)の間の目地部であり、該目地部(2)は一般的なものである。(2)はステンレス製のアンカーピンであり、該アンカーピン(3)には、外径6〜8mm前後で長さ50〜100mm前後のステンレス製筒状の鞘(31)と、外径5.5〜7.5mm前後で長さ50〜100mm前後の頭付きステンレス製棒状のピン(32)とから成されている。尚、前記ピン(32)の先端には、鞘(31)に挿入し易くするために図示しない尖り部が設けられている。
【0010】
次に本発明の工程を図1、図2に基づいて説明する。先ず始めにタイル貼りの壁面全体に1m間隔で縦横にマスキングテープで図1の図中の極細線に示すようにマーキングして線を引き、桝目を描く。その桝目の各交点付近A〜Dと各中央部Eとの目地部(2)にドリルで鞘用穴をあけるイ)穴あけ工程が行われる。この時の穴の深さは60mm以上確保することが好ましい。また前記線引きは、マスキングテープを使用しなくとも、交点が分れば、水性マジックなどの筆記具を使用しても良い。尚、壁面としては一面全体でも良いが、四方向の壁面全体に渡って施工するのが好ましい。次に前記穴にステンレス製アンカーピン(3)の鞘(31)だけが鞘用穴に挿入されるロ)鞘取付け工程を行う。この場合、図2(a)に示すように鞘(31)は目地部(2)と面一になるまで挿入する。その後、表面全体に下塗りとしてシーラー塗布を図2(b)のように行うと共に、剥落防止材であるガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第1回目の中塗りが図2(c)のように行われるハ)第1塗膜形成工程を行う。この時、ガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂塗料としては、例えば株式会社セブンケミカルの商品名セブン系を用いるのが好ましい。また前記シーラー塗布作業はウールローラーで0.1〜0.15Kg/m塗布するのが好ましく、又、第1回目の中塗りとしては、ガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂をゴム鏝で0.2〜0.4Kg/m塗布するのが好ましい。このゴム鏝を用いることにより、タイル(1)に凹凸があっても均一に塗布することが可能となる。
【0011】
乾燥して第1塗膜が形成された後、予め挿入した前記鞘(31)に、アンカーピン(3)のピン(32)を差込み、ピン(32)の頭部が図2(d)に示すように目地部(2)と略面一になるように打込むニ)塗膜固定工程を行う。この時、ピン(32)を打込むことによって、鞘(31)内部に、形成された第1塗膜とシーラー塗膜の一部が前記ピン(32)と一緒に引込まれると共に鞘(31)の図示しない下部が広がって壁面と固定する。その後、打込まれたピン32)の頭部上面に、目地部(2)と同じ色の水性シリコンが塗布されるホ)着色工程を行う。次にガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第2回目の中塗りが図2(e)のように行われるヘ)第2塗膜形成工程を行う。この時、砂骨ローラーを用いて0.6〜0.8Kg/m塗布する。そして透明なアクリルシリコン樹脂トップコートがウールローラーで縦方向と横方向1回ずつ合計0.2〜0.4Kg/m塗布して仕上げるト)仕上げ工程を行い、壁面全体のタイル剥落防止工程は完了するのである[図2(f)参照]。この時、ガラス繊維は光に透けるとそれが分ってしまうため、気になる場合には、ガラス繊維をぼやかす役目として、ヘ)第2塗膜形成工程の後、艶消しの透明なアクリルシリコン樹脂を第2塗膜の上に塗布すると良い。このように本実施形態の剥落防止材であるアクリルシリコン樹脂透明塗膜は、第1塗膜がピン(32)によって鞘(31)内部に引込まれており、且つ第2塗膜は第1塗膜と一体化されているため、剥落防止用の塗膜がアンカーピン(3)を介して壁側としっかりと固定された状態となるため、地震時にタイル(1)の剥落はガラス繊維入りの強度の強い塗膜によって防止出来るものとなるのである。尚、前記塗膜は一般の透明な特殊アクリル樹脂よりも引張強度は2倍以上、引き裂き強度は7倍以上向上するものであるため、震動に耐えるばかりでなく、この塗膜には高い防水性能が期待できるため、従来の如きタイル面のひび割れ,浮き,剥離,目地部のエフロレッセンスの流出,コンクリートの中性化の進行、そして漏水によるさまざまな劣化現象が殆ど防止可能となる。更にタイル貼り仕上げしたマンションの四方向の壁面全体が、本発明のタイル剥落防止工法を行えば、一面のみの場合と比べ、タイル面に加わる衝撃力が全方向に分散されるため、より強固なタイル剥落防止が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は内外装壁のタイル貼り面だけでなく、タイル(1)の剥落する危険がある箇所、例えば天井面などのタイル剥落防止工法としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の要部を示す説明図である。
【図2】本実施形態のアンカーピンが取付けられる要部工程を示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0014】
1 タイル
2 目地部
3 アンカーピン
31 鞘
32 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イ)タイル貼り面全体に、1m間隔で縦横に線を引き、各交点付近と各中央部との目地部(2)にアンカーピン(3)の鞘(31)の穴を穿設する穴あけ工程。
ロ)前記穴に前記鞘(31)を挿入する鞘取付け工程。
ハ)全面に下塗りを行い、剥落防止材であるガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第1回目の中塗りを行う第1塗膜形成工程。
ニ)第1塗膜形成後、前記鞘(31)に、第1塗膜を突抜いてピン(32)を目地部(2)と面一に打込む塗膜固定工程。
ホ)前記目地部(2)と同じ色の水性シリコンを前記ピン(32)の頭部に塗布する着色工程。
ヘ)ガラス繊維入りで且つ透明なアクリルシリコン樹脂で第2回目の中塗りを行う第2塗膜形成工程。
ト)透明なアクリルシリコン樹脂トップコートで上塗りを行う仕上げ工程。
少なくとも以上の工程が順次行われることを特徴とする内外装壁のタイル剥落防止工法。
【請求項2】
前記アンカーピン(3)がステンレス製であり、第1回目の中塗りにゴム鏝を用い、第2回目の中塗りに砂骨ローラーを用いた請求項1記載の内外装壁のタイル剥落防止工法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−348687(P2006−348687A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179180(P2005−179180)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(302027664)株式会社ヤグチ技工 (14)
【Fターム(参考)】