説明

内燃機関のすべり軸受

【課題】異物排出性および潤滑性に優れた内燃機関用すべり軸受の提供。
【解決手段】一対の半円筒形軸受から成る内燃機関のクランク軸用すべり軸受。一方の半円筒形軸受30の内周面に円周方向油溝32が形成され、2つの円周方向端面のうち、少なくとも一方である、クランク軸の相対回転方向と同一方向を向いた第一の円周方向端面34aで、円周方向油溝が開放溝端になっている。他方の半円筒形軸受40の2つの円周方向端面のうち、少なくとも一方である、クランク軸の相対回転方向に対して反対側を向いた第二の円周方向端面44aに開放溝端を有する円周方向部分溝42が、他方の半円筒形軸受の内周面に形成される。円周方向油溝と円周方向部分溝とが流体連通関係にあり、同連通部において、円周方向部分溝の溝底が円周方向油溝の溝底よりも、すべり軸受の軸線側に偏位する。第一、第二の円周方向端面の相互突き合わせ接触界面に沿って軸線方向溝Gが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の半円筒形軸受を組み合わせた円筒形状体として、内燃機関のクランク軸ジャーナル部を支承するすべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のクランク軸ジャーナル部を支承するすべり軸受は、2つの半円筒形軸受を組み合わせて円筒形状体として使用されている。このすべり軸受では、一対の半円筒形軸受のうちの少なくとも一方の内周面に円周方向油溝が形成され、円周方向油溝を経てクランクピン外周面に対する給油が行なわれる。この円周方向油溝は、一定深さにするのが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年になって、潤滑油供給用オイルポンプの小型化に対応して、軸受円周方向端部からの潤滑油の漏れ量を減少させるべく、軸受円周方向中央部から軸受円周方向端部に向かって油溝断面積を減少させる絞り部を形成する提案がなされている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開平4−219521号公報
【特許文献3】特開2005−69283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関用すべり軸受に対する潤滑油の供給については、まず、クランク軸ジャーナル部用すべり軸受の外部から該すべり軸受の内面に形成された円周方向油溝内に供給され、その潤滑油がクランク軸ジャーナル部用すべり軸受の摺動面、および、クランクピン用すべり軸受の摺動面に供給される。
内燃機関の最初の運転時には、クランク軸ジャーナル部用すべり軸受の円周方向油溝に供給される潤滑油中に、潤滑油路内に残留した異物が混入しがちである。異物とは、油路を切削加工した時の金属加工屑や鋳造時の鋳砂等を意味する。この異物は、クランク軸の回転によって潤滑油の流れに付随し、従来の内燃機関用すべり軸受では、軸受円周方向端部領域に形成されるクラッシュリリーフや面取等の隙間部を通じて潤滑油と共に排出される。しかしながら、近年の内燃機関は、クランク軸の高回転化により、潤滑油よりも比重の大きな異物に作用する慣性力(異物が円周方向に沿って前進しようとする慣性力)が大きくなって、すべり軸受の突き合せ端面(一対の半円筒形状軸受の各突き合せ端面)における隙間部分から異物が排出されずに、円周方向油溝を有しない側のすべり軸受(他方の半円筒形状軸受)の摺動面部分に進入し、異物による軸受摺動面の損傷が発生しやすくなっている。
【0006】
一方、軸受円周方向端部からの潤滑油の漏れ量を減少させるために、半円筒形軸受の円周方向端部領域における円周方向油溝内に絞り部分を形成したすべり軸受が提案されている(特許文献2、3参照)。これらのすべり軸受を、前記異物の観点で検討すると、潤滑油の流れ方向に対する絞り部分の下流側で潤滑油の流速が増大し、それに応じて潤滑油に付随する異物に作用する前記慣性力が更に大きくなり、軸受摺動面への異物混入の機会が更に増すという問題がある。
【0007】
このため、一対の半円筒形軸受の円周方向端部領域に円周方向油溝と連通するようにクラッシュリリーフを形成し、そのクラッシュリリーフ面とクランク軸表面との間の隙間の面積を半円筒形軸受の突き合せ面(円周方向端面)における円周方向油溝の横断面積よりも相対的に大きくする提案がある(特許文献3)。この軸受は、クラッシュリリーフ面とクランク軸表面との間の隙間から、軸受の幅方向端部を経て外部に漏れる油量が多くなり、円周方向油溝の下流側に位置する相手側半円筒形軸受の内周面への油の供給量が減少し潤滑性が低下してしまうという問題がある。
【0008】
かくして、本発明の目的は、異物排出性および潤滑性に優れた内燃機関用すべり軸受を提供することである。
【0009】
かかる目的の下で、以下のすべり軸受が提供される。
一対の半円筒形軸受を組み合わせた円筒形状体として、内燃機関のクランク軸ジャーナル部を支承するすべり軸受において、
一方の半円筒形軸受の内周面に円周方向油溝が形成され、
一方の前記半円筒形軸受の2つの円周方向端面のうち、少なくとも一方、すなわち、クランク軸の相対回転方向と同一方向を向いた第一の円周方向端面で、前記円周方向油溝が開放溝端になっており、
他方の前記半円筒形軸受の2つの円周方向端面のうち、少なくとも一方、すなわち、クランク軸の相対回転方向に対して反対側を向いた第二の円周方向端面に開放溝端を有する円周方向部分溝が、前記他方の半円筒形軸受の内周面に形成され、
前記円周方向油溝と前記円周方向部分溝の溝幅中心が互いに整合して、前記円周方向油溝と前記円周方向部分溝とが互いに流体連通する関係にあり、該流体連通部において、前記円周方向部分溝の溝底が、前記円周方向油溝の溝底よりも、すべり軸受の軸線側に偏位しており、
また、前記第一の円周方向端面と前記第二の円周方向端面との突き合わせ接触界面に沿って、前記第一および第二の円周方向端面の軸受内周面側に位置する2つの角縁部のうち少なくとも一方が傾斜面状に欠截されて、前記円周方向油溝に流体連通する軸線方向溝が形成され、該軸線方向溝は、すべり軸受の軸線方向幅全体に亘って存在することを特徴とするすべり軸受。
【0010】
本発明の一好適形態によれば、円周方向部分溝が、第二の円周方向端面から円周角θ(ただし、円周角θの最小値=5°、円周角θの最大値=45°)の範囲に形成される。
【0011】
本発明の別の好適形態によれば、流体連通部において、円周方向油溝の溝幅(W1)が円周方向部分溝の溝幅(W2)よりも大きくなされる。溝幅(W1)と溝幅(W2)の好適な関係は、関係式W2=(0.50〜0.90)×W1で表される。
【0012】
本発明の別の好適形態によれば、流体連通部において、円周方向油溝の溝深さ(D1)と、円周方向部分溝の溝深さ(D2)とが、関係式D2=(0.50〜0.90)×D1を満たす。
【発明の効果】
【0013】
(1)本発明によれば、円周方向油溝と円周方向部分溝の溝幅中心が互いに整合して、円周方向油溝と円周方向部分溝とが互いに流体連通する関係にあり、該流体連通部において、円周方向部分溝の溝底が、円周方向油溝の溝底よりも、すべり軸受の軸線側に偏位している。この構造では、互いに接触状態にある2つの円周方向端面に位置する、円周方向油溝の開放溝端の一部である溝底面側領域が、円周方向部分溝を有する半円筒形軸受の円周方向端面で塞がれる。したがって、開放溝端の一部遮蔽構造が、円周方向油溝の溝底に沿って開放溝端まで移動してくる、潤滑油に比して比重の大きな異物に対する障壁になり、異物の円周方向移動速度が低下し、異物の直進運動の慣性力が低下する。
一方、第一の円周方向端面と第二の円周方向端面との突き合わせ接触界面に沿って、第一および第二の円周方向端面の軸受内周面側に位置する2つの角縁部のうち少なくとも一方が傾斜面状に欠截されて、すべり軸受の軸線方向幅全体に亘る軸線方向溝が形成されている。この構造により、円周方向油溝と、これに連通する軸線方向溝に沿って流れる潤滑油に、円周方向移動速度の低下した前記異物が付随し易く、異物が潤滑油と共にすべり軸受の軸線方向端部から円滑に排出される。
軸線方向溝については、この横断面積を過大にすると、潤滑油の漏れ量が増大するため、異物の排出が可能な限りにおいて、可及的に横断面積を小さくすることが好ましい。具体的には、乗用車用等に搭載される小型内燃機関の場合には、軸線方向溝の溝幅を、0.2mm〜1mm、溝深さを0.2mm〜1mmにすることが好ましい。ただし、円周方向油溝の幅や深さの寸法は内燃機関の仕様によって決まるものであり、本発明で規定される円周方向部分溝との関係が成立する限り、前記円周方向油溝に制約はない。
【0014】
(2)すべり軸受に対する相対的なクランク軸の回転に伴って、主として円周方向油溝内を流れる潤滑油は、異物を伴っており、潤滑油に比して比重の大きな異物は、円周方向油溝内を移動する間、遠心力の作用で溝底に沿う。そのため、円周方向油溝の上部領域(溝底に近い下部領域ではなく、クランク軸に近い側の上部領域)を流れる潤滑油中の異物量が少ない。この円周方向油溝の上部領域を流れる異物量の少ない潤滑油は、円周方向油溝と流体連通する円周方向部分溝内に円滑に流れ、円周方向部分溝を有する相手側半円筒形軸受の内周面(クランク軸との摺動面)に対して拡がって、相手側半円筒形軸受に対する良好な潤滑を企図できる。以上は、円周方向油溝の溝深さ(D1)と、円周方向部分溝の溝深さ(D2)とが、D1>D2を満たす関係の場合であるが、D1≦D2の場合には、円周方向油溝の溝底面に沿って移動する異物が、円周方向部分溝内に進入して、相手側半円筒形軸受の内周面に送られ易い。また、D1>D2を満たす場合であっても、本発明のすべり軸受と異なって、円周方向油溝に流体連通する軸線方向溝が存在しない場合には、円周方向油溝の開放溝端に到達した異物が相手側半円筒形軸受の円周方向部分溝内に進入して、相手側半円筒形軸受の内周面に送られ易い。
【0015】
(3)本発明のすべり軸受では、円周方向油溝と円周方向部分溝との流体連通部分において、円周方向油溝の開放溝端の一部である溝底面側領域が、円周方向部分溝を有する半円筒形軸受の円周方向端面で塞がれる構造になっており、この構造が、円周方向油溝の溝底に沿って開放溝端まで転動してくる異物に対する遮断効果を発揮する。この遮断効果を最大限にするために、円周方向油溝および円周方向部分溝の溝底幅が十分に大きくなるように、溝底を平坦面にすることが好ましい。
【0016】
(4)本発明の好適形態として、円周方向部分溝が、第二の円周方向端面から円周角θの範囲(ただし、円周角θの最小値=5°、円周角θの最大値=45°)に形成された場合について説明する。円周角θを5°以上にすると、円周方向部分溝を有する半円筒形軸受の内周面への潤滑油の供給を十分に行なって、内周面に対する潤滑性を高めることができる。円周角θを5°未満にすると、この効果が不十分である。円周角θの最大値を45°にした理由は、円周方向部分溝を有する半円筒形軸受の主荷重受部(クランク軸から大きな荷重が作用する、半円筒形軸受の円周方向中央領域)を避けて円周方向部分溝を形成し、大きな作用荷重に対する半円筒形軸受の強度を確保するためである。
【0017】
(5)本発明の好適形態として、流体連通部において、円周方向油溝の溝深さ(D1)と、円周方向部分溝の溝深さ(D2)とが、関係式D2=(0.50〜0.90)×D1を満たす構成を採用したことについて説明する。円周方向油溝の溝底に沿って前記流体連通部位置まで移動してくる異物の速度を低下させるため、円周方向部分溝の溝深さ(D2)を円周方向油溝の溝深さ(D1)に対して90%以下にして、円周方向油溝の溝深さの10%以上が、円周方向部分溝を有する相手側半円筒形軸受の円周方向端面によって遮蔽されるようにすることが好ましい。一方、円周方向油溝の下流側の相手側半円筒形軸受の内周面に対する潤滑油の供給量を十分に確保するために、円周方向部分溝の溝深さ(D2)は、円周方向油溝の溝深さ(D1)に対して50%以上とし、流体連通部において、円周方向油溝の溝深さ(D1)の50%以上を円周方向部分溝の溝深さ(D2)に対して開放状態にすることが好ましい。なお、円周方向油溝の幅、深さの寸法は内燃機関の仕様によって決まるものであり、本発明で規定される周方向部分溝との関係が成立する限り、前記円周方向油溝の幅、深さの寸法に制約はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図。
【図2】本発明の実施例1に係るクランクジャーナル用すべり軸受の正面図。
【図3】図2に示すすべり軸受の一方の半体である半円筒形軸受の内周面を見た平面図。
【図4】図2に示すすべり軸受の他方の半体である半円筒形軸受の内周面を見た平面図。
【図5】図2に示すすべり軸受の機能説明図。
【図6】図2〜図4に示すすべり軸受の前記一方の半体である半円筒形軸受の円周方向端面を示す図(図5におけるVI−VI線矢視図)。
【図7】図2〜図4に示すすべり軸受の前記他方の半体である半円筒形軸受の円周方向端面を示す図(図5におけるVII−VII線矢視図)。
【図8】本発明の実施例2に係るクランクジャーナル用すべり軸受の一方の半体である半円筒形軸受の内周面を見た、図3と同様な平面図。
【図9】図8に示す半円筒形軸受と対をなす他方の半円筒形軸受の内周面を見た、図4と同様な平面図。
【図10】図8、図9に示すすべり軸受の機能説明図。
【図11】本発明の実施例3に係るクランクジャーナル用すべり軸受の正面図。
【図12】図11に示すすべり軸受の一方の半体である半円筒形軸受の内周面を見た平面図。
【図13】図11に示すすべり軸受の他方の半体である半円筒形軸受の内周面を見た平面図。
【図14】本発明すべり軸受に形成される円周方向油溝および円周方向部分溝の溝断面形状の一例を示す図。
【実施例1】
【0019】
図1は、内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図であり、クランクジャーナル10、クランクピン12およびコンロッド14を示す。これら三部材の紙面奥行き方向での位置関係は、ジャーナル10が紙面の最も奥側にあり、手前側にクランクピン12があって、クランクピン12が、他端にピストンを担持するコンロッド14の大端部ハウジング16で包囲されている。
クランクジャーナル10は、上側半円筒形軸受30および下側半円筒形軸受40から成る円筒形すべり軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に支持されている。図面で上側に位置する上側半円形軸受30には、その内周面全長に亘って円周方向油溝32が形成されている。
また、クランクジャーナル10は、その直径方向貫通孔10aを有し、クランクジャーナル10が矢印X方向に回転すると、貫通孔10aの両端開口が交互に円周方向油溝32に連通する。
さらに、クランクジャーナル10、図示されないクランクアーム、および、クランクピン12を貫通して潤滑油路18が、クランク軸内部に形成されている。
【0020】
クランクピン12は、一対の半円筒形軸受20、22を介して、コンロッド14の大端部ハウジング16(これは、コンロッド側大端部ハウジング16Aとキャップ側大端部ハウジング16Bから成る)に保持されている。半円形軸受20、22は、それらの突き合せ端面を互いに突き合わせて組立て、円筒形のコンロッド軸受になされている。
【0021】
機関作動中、シリンダブロックに設けたオイルギャラリーから、クランクジャーナル10を支承する主軸受を構成する上側半円筒形軸受30および下側半円筒形軸受40のうち、内周面に円周方向油溝32が形成された上側半円筒形軸受30の壁を貫通して形成された開口を通じて、円周方向油溝32内に潤滑油が供給される。回転するクランクジャーナル10に形成された直径方向貫通孔10aの両端開口が円周方向油溝32と間欠的に連通するが、その連通時に貫通孔10a内に潤滑油圧が作用し、更には貫通孔10aに連通する潤滑油路18にも潤滑油供給圧力が作用し、クランクピン12の外周面に存在する、潤滑油路18の出口(開口)から、クランクピン12とコンロッド軸受20、22の間の摺動面部に潤滑油が供給される。
【0022】
図2〜図4に、上側半円筒形軸受30および下側半円筒形軸受40から成る、クランクジャーナル10用円筒形すべり軸受を示す。両軸受30、40は、それらの円周方向端面34a、34bと44a、44bとが互いに突き合わされる。
円周方向油溝32は、円周方向端面34aから34bまで、上側半円形軸受30の円周方向全体に亘って形成されている。したがって、円周方向油溝32は、円周方向端面34a、34bに開放溝端を有する。なお、円周方向油溝32の溝底は図6に示されるように平坦である。
また、クランク軸回転方向(矢印X参照)と同方向を向いた円周方向端面34aの内側(すべり軸受の軸線側)に位置する角縁部が、軸受幅方向全体に亘って面取り状に欠截されて傾斜面36になっている。
【0023】
下側半円筒形軸受40の内周面には、円周方向端面44aから測定して円周角θの範囲に、円周方向長さの短尺な円周方向部分溝42が形成されている。円周方向部分溝42の
溝幅中心と、円周方向油溝32の溝幅中心とは、突き合わされた円周方向端面34a、44aにおいて、互いに整合する。なお、円周方向部分溝42の溝底は図7に示されるように平坦である。
また、クランク軸回転方向(矢印X参照)と反対方向を向いた円周方向端面44aの内側(すべり軸受の軸線側)に位置する角縁部が、軸受幅方向全体に亘って面取り状に欠截されて傾斜面46になっている。
この傾斜面46は、前記傾斜面36と対をなし、すべり軸受の軸線方向幅全体に亘って延在する断面V字形の軸線方向溝Gを画成する。
【0024】
以上の構成により、互いに接触する円周方向端面34a、44aにおいて、円周方向油溝32と円周方向部分溝42とが流体連通し、また、これら両溝32、42と、軸線方向溝Gとが流体連通する。
【0025】
円周方向油溝32と円周方向部分溝42の寸法関係
(1)円周方向油溝32および円周方向部分溝42の溝幅: 両溝32、42の溝幅W1、W2は互いに等しい(W1=W2)(図3、図4参照)。
(2)円周方向油溝32および円周方向部分溝42の溝深さ: 互いに接触する円周方向端面34a、44a位置には、軸線方向溝Gが存在するので、円周方向端面34a、44a位置における溝32、42の深さを直接規定できない。しかしながら、軸線方向溝Gが存在しない場合のすべり軸受の仮想内周面を基準とした時、円周方向油溝32の溝深さ(D1)と、円周方向部分溝42の溝深さ(D2)との間には、D1>D2なる関係が設定されている。D1>D2なる関係を別の表現にすると、「円周方向部分溝42の溝底が、円周方向油溝32の溝底よりも、すべり軸受の軸線側に偏位している」と云える。
【0026】
上側半円筒形軸受30と下側半円筒形軸受40の斯かる構成によれば、突き合わされた円周方向端面34a、44aにおいて、円周方向油溝32と円周方向部分溝42とが流体連通状態にあるが、円周方向油溝32と円周方向部分溝42の溝深さの関係が、前記のとおり、D1(円周方向油溝32の溝深さ)>D2(円周方向部分溝42の溝深さ)であるから、円周方向油溝32の開放溝端の一部、すなわち溝底に隣接する領域が、下側半円筒形軸受40の円周方向端面44aによって遮蔽される。この遮蔽作用によって、円周方向油溝32の溝底に沿って移動する異物Fの移動速度が、円周方向端面34aへの接近に伴って次第に低下する。円周方向油溝32と円周方向部分溝42との連通部における、異物Fの円周方向への直進慣性力低下により、円周方向油溝32から軸線方向溝Gに流れる潤滑油に付随して、異物Fが、すべり軸受の軸線方向端部から容易に軸受外部に排出される。
一方、円周方向油溝32の溝底から離れた溝上部領域を流れる潤滑油中の異物量は少ないが、その潤滑油は、円周方向油溝32と流体連通する円周方向部分溝42を経て下側半円筒形軸受40の摺動面へ流れるので、良好な潤滑効果を企図できる。
【実施例2】
【0027】
図8〜図10に示された実施例2について説明する。実施例2は、一部を除いて、実施例1と同じ構成を有する。以下、相違点についてのみ説明する。
円周方向油溝32(上側半円筒形軸受30Aの溝)の溝幅(W1)と、円周方向部分溝42(下側半円筒形軸受40Aの溝)の溝幅(W2)とが、関係式:W2<W1を満たす。
W1とW2の好適な関係は、0.50×W1<W2<0.90×W1である。
W2<0.90×W1なる関係は、円周方向油溝32の溝内両側の各5%以上の溝幅領域であって、溝底に隣接する領域が、円周方向端面44aによって遮蔽されるように構成することが好ましいということを意味する。
また、0.50×W1<W2なる関係は、円周方向油溝32から円周方向部分溝42に十分な量の潤滑油を供給するための流路断面積を確保するために必要な関係である。
【0028】
かかる構成によれば、円周方向油溝32と円周方向部分溝42の流体連通部近傍において、円周方向油溝32内を流れる潤滑油が、特に溝底に隣接する領域で、下側半円筒形軸受40Aの円周方向端面44aにぶつかって、軸線方向溝Gに沿って流れて軸受軸線方向両端部に向かう。円周方向油溝32の溝底に沿って、潤滑油と共に円周方向端面34aに向かう異物Fは、円周方向油溝32と円周方向部分溝42の流体連通部近傍において、軸線方向溝Gに向かう潤滑油の流れに付随して、図10に示すように両溝側面に接近する態様で円周方向端面44aにぶつかって、軸線方向溝Gに沿って移動して軸受軸線方向両端部から潤滑油と共に外部に排出される。
なお、実施例1、2において、上側半円筒形軸受30、30Aの円周方向端面34bにも、傾斜面36と同様な傾斜面を付して、上側半円筒形軸受30、30Aを左右対称形状にしてもよい。同じく、下側半円筒形軸受40、40Aの円周方向端面44b側に、円周方向部分溝42および傾斜面46と同様な円周方向部分溝および傾斜面を設けて、下側半円筒形軸受40、40Aを左右対称形状にしてもよい。このような左右対称形状を採用することにより、すべり軸受の誤まった組立作業を未然に防止できる。
【実施例3】
【0029】
図11〜図13に示す、すべり軸受は、上側半円筒形軸受30Bおよび下側半円筒形軸受40から成る。下側半円筒形軸受40は、実施例1における下側半円筒形軸受40と同一品である。上側半円筒形軸受30Bは、以下の点で、実施例1における上側半円筒形軸受30と違っている。円周方向油溝32Bの開放溝端は、円周方向端面34aにのみ存在する。すなわち、円周方向油溝32Bは、円周方向端面34aから円周方向端面34bに近い位置まで延在し、円周方向端面34b側に開放溝端は存在しない。ただし、上側半円筒形軸受30Bの円周方向形成範囲と、下側半円筒形軸受40の円周方向部分溝42の円周方向形成範囲との和(=円周角θ2)を180°以上にすることが好ましい。円周角θ2が180°以上であれば、図1に示すクランク軸(クランクジャーナル10)の内部に形成された、クランクピンに対する潤滑油供給のための内部潤滑油路10aが、常時、円周方向油溝32Bおよび円周方向部分溝42と連通し、クランクピン表面に安定的に潤滑油が供給される。
また、円周方向油溝32Bの溝深さは、円周方向端面34bに近い位置にある溝端から、円周方向端面34aに向かって徐々に大きくなっている。そして、実施例1の場合と同様に、円周方向油溝32Bの溝幅(W1)と、円周方向部分溝42の溝幅(W2)とは互いに等しくなされている(W1=W2)。
【0030】
以上の実施例において、円周方向油溝および円周方向部分溝の横断面形状を、図14に示すように逆台形状、すなわち両側面を傾斜面にして、溝底幅に比して溝頂部幅を大きくしてもよい。ただし、この場合の円周方向油溝および円周方向部分溝の溝幅(W1、W2)は、溝底で測定する値である。
また、実施例1、2では、円周方向油溝の溝深さを、上側半円筒形軸受の円周方向の全体に亘って一定にしたが、本発明すべり軸受は、これに限定されず、例えば、円周方向油溝の深さを、上側半円筒形軸受の円周方向中央部分から円周方向両端面に向かって次第に小さくなるように、または、大きくなるように形成してもよく、あるいはまた、円周方向端面34b側から円周方向端面34aへ向かって次第に溝深さが小さくなるように、または、大きくなるように形成してもよい。
さらに、一対の半円筒形軸受の各円周方向端面に隣接する軸受内周面に、周知のクラッシュリリーフを形成してもよい。ここで、クラッシュリリーフとは、一対の半円筒形軸受の円周方向端面に近い部分の軸受壁を内周面側で除去することによって形成された、軸受内周面の曲率中心とは異なる曲率中心を有する減厚領域(円周方向端面に向かって厚さを減じた領域を指し、SAE J506(項目3.26、項目6.4参照)、DIN1497、§3.2で規定されるとおりである)を意味する。
【符号の説明】
【0031】
10 クランクジャーナル
12 クランクピン
14 コンロッド
16 大端部ハウジング
18 潤滑油路
20 半円筒形軸受
22 半円筒形軸受
30 上側半円筒形軸受
30A 上側半円筒形軸受
32 円周方向油溝
34a 円周方向端面
34b 円周方向端面
36 傾斜面
40 下側半円筒形軸受
40A 下側半円筒形軸受
42 円周方向部分溝
44a 円周方向端面
44b 円周方向端面
46 傾斜面
F 異物
G 軸線方向溝
θ 円周角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の半円筒形軸受を組み合わせた円筒形状体として、内燃機関のクランク軸ジャーナル部を支承するすべり軸受において、
一方の半円筒形軸受の内周面に円周方向油溝が形成され、
一方の前記半円筒形軸受の2つの円周方向端面のうち、少なくとも一方、すなわち、クランク軸の相対回転方向と同一方向を向いた第一の円周方向端面で、前記円周方向油溝が開放溝端になっており、
他方の前記半円筒形軸受の2つの円周方向端面のうち、少なくとも一方、すなわち、クランク軸の相対回転方向に対して反対側を向いた第二の円周方向端面に開放溝端を有する円周方向部分溝が、前記他方の半円筒形軸受の内周面に形成され、
前記円周方向油溝と前記円周方向部分溝の溝幅中心が互いに整合して、前記円周方向油溝と前記円周方向部分溝とが互いに流体連通する関係にあり、該流体連通部において、前記円周方向部分溝の溝底が、前記円周方向油溝の溝底よりも、すべり軸受の軸線側に偏位しており、
また、前記第一の円周方向端面と前記第二の円周方向端面との突き合わせ接触界面に沿って、前記第一および第二の円周方向端面の軸受内周面側に位置する2つの角縁部のうち少なくとも一方が傾斜面状に欠截されて、前記円周方向油溝に流体連通する軸線方向溝が形成され、該軸線方向溝は、すべり軸受の軸線方向幅全体に亘って存在することを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記円周方向部分溝が、前記第二の円周方向端面から円周角θ(ただし、円周角θの最小値=5°、円周角θの最大値=45°)の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1に記載されたすべり軸受。
【請求項3】
前記流体連通部において、前記円周方向油溝の溝幅(W1)が前記円周方向部分溝の溝幅(W2)よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたすべり軸受。
【請求項4】
前記円周方向油溝の溝幅(W1)と、前記円周方向油溝の溝幅(W1)とが、
関係式W2=(0.50〜0.90)×W1を満たすことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたすべり軸受。
【請求項5】
前記流体連通部において、前記円周方向油溝の溝深さ(D1)と、前記円周方向部分溝の溝深さ(D2)とが、関係式D2=(0.50〜0.90)×D1を満たすことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−214638(P2011−214638A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82418(P2010−82418)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】