説明

内燃機関のすべり軸受

【課題】異物排出性に優れた内燃機関用すべり軸受を提供する。
【解決手段】一対の半円筒形状軸受20,30を組み合わせて円筒形軸受10として使用する内燃機関のすべり軸受において、一方の軸受20の内周面20aに円周方向に延在する円周方向油溝22が形成される。軸受20の円周方向両端面24a,24bのうち、クランク軸の回転方向Rと同じ方向を向いた円周方向端面24aの軸線方向全長に沿って、該円周方向端面24aと他方の軸受30の対向する円周方向端面30aとの間に軸線方向溝Aが存在する。円周方向油溝22と軸線方向溝Aとが連通し、該連通部における円周方向油溝22と軸線方向溝Aの深さが異なり、円周方向油溝22の溝底が、軸線方向溝Aの溝底よりも軸受内周面20a側に偏った位置にある。連通部における円周方向油溝22の横断面積が軸線方向溝Aの横断面積よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の半円筒形状軸受を円筒形に組み合わせてクランク軸を支承する内燃機関のすべり軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のクランク軸用すべり軸受は、2つの半円筒形状軸受を組み合わせて円筒形にしたものを使用している。一対の半円筒形状軸受のうちの少なくとも一方の軸受内周面に、円周方向油溝が形成され、円周方向油溝を経てクランクピン外周面に対する給油が行なわれる。この円周方向油溝は、一定深さにするのが一般的である(特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年になって、潤滑油供給用オイルポンプの小型化に対応して、軸受端部からの潤滑油の漏れ量を減少させるべく、軸受中央部から軸受の端部に向かって油溝断面積を減少させる絞り部を形成する提案がなされている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開平4−219521号公報
【特許文献3】特開2005−69283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関用すべり軸受に対する潤滑油の供給については、まず、クランク軸用すべり軸受の外部からクランク軸用すべり軸受の内面に形成された円周方向油溝内に供給され、その潤滑油がクランク軸用すべり軸受の摺動面、および、クランクピン用すべり軸受の摺動面に供給される。
内燃機関の最初の運転時には、クランク軸用すべり軸受の円周方向溝に供給される潤滑油中に、潤滑油路内に残留した異物が混入しがちである。異物とは、油路を切削加工した時の金属加工屑や鋳造時の鋳砂等を意味する。この異物は、クランク軸の回転によって潤滑油の流れに付随し、従来の内燃機関用すべり軸受では、軸受円周方向端部に形成されるクラッシュリリーフや面取等の隙間部を通じて潤滑油と共に排出される。しかしながら、近年の内燃機関は、クランク軸の高回転化により、潤滑油よりも比重の大きな異物に作用する慣性力(異物が円周方向に沿って前進しようとする慣性力)が大きくなって、すべり軸受の組み合わせ端面(一対の半円筒形状軸受の各組み合わせ端面)における隙間部分から異物が排出されずに、油溝を有しない側のすべり軸受(他方の半円筒形状軸受)の摺動面部分に進入し、異物による軸受摺動面の損傷が発生しやすくなっている。
【0006】
一方、軸受円周方向端部からの潤滑油の漏れ量を減少させるために、半円筒形状軸受の円周方向端部における油溝内に絞り部分を形成したすべり軸受が提案されている(特許文献2、3参照)。これらのすべり軸受を、前記異物の観点で検討すると、潤滑油の流れ方向に対する絞り部分の下流側で潤滑油の流速が増大し、それに応じて潤滑油に付随する異物に作用する前記慣性力が更に大きくなり、軸受摺動面への異物混入の機会が更に増すという問題がある。
かくして、本発明の目的は、異物排出性に優れた内燃機関用すべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に照らし、本発明の第一の観点によれば、以下のすべり軸受が提供される。
一対の半円筒形状軸受のうち、一方の半円筒形状軸受の内周面に円周方向に延在する油溝が形成されている前記一対の半円筒形状軸受を円筒形に組み合わせてクランク軸を支承する内燃機関のすべり軸受において、
前記油溝は、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向長さの中央部を含み、
前記一方の半円筒形状軸受の円周方向両端面のうち、少なくとも、クランク軸の回転方向と同じ方向を向いた一方の前記円周方向端面の軸線方向全長に沿って、該円周方向端面と他方の半円筒形状軸受の対向する円周方向端面との間に軸線方向溝が存在しており、
前記円周方向油溝と前記軸線方向溝とが互いに連通し、該連通部における前記円周方向油溝と前記軸線方向溝の深さが異なり、前記一方の円周方向端面における前記円周方向油溝の溝底が、前記軸線方向溝の溝底よりも前記軸受内周面側に偏った位置にあり、
また、前記連通部における前記円周方向油溝の横断面積が前記軸線方向溝の横断面積よりも大きいことを特徴とする内燃機関のすべり軸受。
【0008】
本発明の第一の実施形態では、前記軸線方向溝の溝幅(L2)と溝深さ(L1)の関係が、L2<2×L1を満たす。
本発明の第二の実施形態では、前記軸線方向溝の溝幅(L2)と溝深さ(L1)の関係が、L2<L1を満たす。
本発明の第三の実施形態では、前記連通部における前記軸線方向溝の横断面積が、前記円周方向油溝の横断面積の1/2未満である。
本発明の第四の実施形態では、前記軸受内周面の円周方向長さ全体に亘って前記一方の半円筒形状軸受の前記内周面に形成され、前記円周方向油溝および前記軸線方向溝の形成形態が、前記すべり軸受の軸線、および、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向長さを2等分する位置を通る仮想平面を基準として面対称的になされる。
本発明の第五の実施形態では、前記円周方向油溝の溝深さが、前記円周方向長さの中央部位置で最大であり、前記円周方向両端面に向かって次第に小さくなされ、もって前記円周方向油溝の横断面積が前記円周方向長さの中央部位置で最大であり、前記円周方向両端面に向かって次第に小さくなされる。
本発明の第六の実施形態では、前記軸線方向溝が、一対の半円筒形状軸受の各円周方向端面に隣接する軸受内周面に沿って付与されるクラッシュリリーフを包含する構成になされる。ここで、クラッシュリリーフとは、一対の半円筒形状軸受の円周方向端面に近い部分の軸受壁を内周面側で除去することによって形成された、軸受内周面の曲率中心とは異なる曲率中心を有する減厚領域(円周方向端面に向かって厚さを減じた領域を指し、SAE J506(項目3.26、項目6.4参照)、DIN1497、§3.2で規定されるとおりである)を意味する。「前記軸線方向溝がクラッシュリリーフを包含する」とは、クラッシュリリーフによる減厚量を超える、仮想軸受内周面からの溝深さで前記軸線方向溝が形成されることを意味する。
【0009】
本発明の第二の観点によれば、前記すべり軸受の構成部品として用いられる半円筒形状軸受であって、前記円周方向油溝を有し、かつ、対をなして組み合わせ使用される相手方の半円筒形状軸受と協働して前記軸線方向溝を画成する半円筒形状軸受が提供される。
【0010】
作用
(1)内燃機関の作動時、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向略中央部で前記円周方向油溝内に供給された潤滑油は、クランク軸の回転に従って、主として円周方向油溝内に沿って、また、半円筒形状軸受の軸受内周面(すなわち、軸受摺動面)に沿って、軸受円周方向端部に向かって流れる。軸受円周方向端部に達した潤滑油は、円周方向油溝が形成されていない他方の半円筒形状軸受の軸受円周方向端面につき当たって、円周方向油溝と軸線方向溝との前記連通部にて直角方向に方向転換して軸線方向溝内を流れ、すべり軸受の軸線方向端部から軸受外部に流出する。
この間、潤滑油中に付随する異物も、潤滑油と共に円周方向油溝および軸線方向溝内を流れて、すべり軸受の軸線方向端部から軸受外部に排出される。潤滑油に比して比重の大きな異物は、円周方向油溝および軸線方向溝の溝底に沿って転動しながら移動する傾向がある。
ここで、連通部における円周方向油溝と一方の半円筒形状軸受の円周方向端面における軸線方向溝の深さが異なり、円周方向油溝の溝底が、軸線方向溝の溝底よりも軸受内周面側に偏った位置にある(すなわち、軸線方向溝の溝深さが円周方向油溝の溝深さに比して大きくなされている)ため、溝底に沿って移動する傾向のある異物は、連通部において軸線方向溝内に直接進入し、クランク軸の回転に従って軸受内周面に沿って円周方向に流れる潤滑油の流れの影響を受け難く、軸線方向溝内から異物が押出されて軸受内周面に移動することによりすべり軸受とクランク軸の摺動面間に進入する可能性が低減化される。すべり軸受とクランク軸の摺動面間に異物が進入すると、転動する異物によって、摺動面が傷つけられる惧れがあるので、前記のような本発明のすべり軸受における異物の挙動は有利である。仮に、連通部における軸線方向溝の溝底が、半円筒形状軸受の円周方向端面における円周方向油溝の溝底よりも軸受内周面側に偏った位置にある場合を想定すると、円周方向溝の開放部が、円周方向溝を形成した一方の半円筒形状軸受の円周方向端面で開放され、円周方向油溝の開放部(すなわち溝端)の一部(溝底側)が、円周方向油溝を形成しない他方の半円筒形状軸受の円周方向端面によって遮られるため、連通部に達した異物は、軸線方向溝内に直接進入することはできない。異物は、前記遮断部で形成される潤滑油の上昇流により軸受内周面側へ浮上した後に軸線方向溝内に進入することになるが、軸線方向溝への進入前に、クランク軸の回転に従って円周方向に流れる潤滑油の流れにより押し流されてすべり軸受とクランク軸の摺動面間に進入しやすい。また、連通部における円周方向油溝の横断面積が軸線方向溝の横断面積よりも大きくなされているため、円周方向油溝内の潤滑油の流速に比して、軸線方向溝内の潤滑油の流速が大きく、クランク軸の回転に従って軸受内周面に沿って円周方向に流れる潤滑油の流れの影響を異物が受け難く、軸線方向溝内から異物が押出されて軸受内周面に移動することによりすべり軸受とクランク軸の摺動面間に進入する可能性が低減化される(本発明の第三の実施形態も参照)。
(2)本発明の第一および第二の実施形態では、軸線方向溝の溝幅(L2)と溝深さ(L1)の関係がL2<2×L1、あるいは、L2<L1になされている。この構成によれば、軸線方向溝の溝底に沿って転動する異物が、クランク軸の回転に従って軸受内周面に沿って円周方向に流れる潤滑油の流れの影響を受け難く、軸線方向溝内から異物が押出されて軸受内周面に移動することによりすべり軸受とクランク軸の摺動面間に進入する可能性が低減化される。なお、L2≧2×L1の場合には、円周方向油溝の横断面積よりも軸線方向溝の横断面積を小さくして、軸線方向溝内の油流を増大させて異物排出効果を高めても、クランク軸の回転によるクランク軸表面近傍の円周方向への潤滑油の流れの影響を受け易く、軸線方向溝に沿って軸受外部に異物を排出させることが難しくなる。さらに、L2=3×L1程度にした場合には、異物排出効果をほとんど期待できない。また、L2≧3×L1の場合には、軸受内周面への異物の移動が促進されてしまう。
(3)本発明の第四の実施形態では、円周方向油溝が、軸受内周面の円周方向長さ全体に亘って前記一方の半円筒形状軸受の内周面に形成されており、円周方向油溝および軸線方向溝の形成形態が、すべり軸受の軸線、および、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向長さを2等分する位置を通る仮想平面を基準として面対称的になされている。この構成を採用すれば、円周方向油溝および軸線方向溝の形成形態が非面対称的である実施形態の場合に生じる可能性のある前記一対の半円筒形状軸受の組み付け方を誤まって、クランクケースに組み付けるという不具合をなくすことができる。換言すれば、第四の実施形態を採用しない構成において、前記一対の半円筒形状軸受を組み合わせてクランク軸を支承する時に、前記一方の半円筒形状軸受の軸線方向溝を形成した円周方向端面が、クランク軸の回転方向とは反対側を向いた状態になるようにすると、本発明で期待する作用効果が得られないが、第四の実施形態におけるがごとく対称形状である前記一方の半円筒形状軸受を採用すれば、前記一対の半円筒形状軸受を組み付ける際に、過度の注意を払わずともよいので、作業能率を向上させることができる。
(4)本発明の第五の実施形態では、円周方向油溝の溝深さが、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向長さの中央部位置で最大であり、円周方向両端面に向かって次第に小さくなされる。この構成を採用すれば、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向油溝の開放部(すなわち、溝端)を、軸線方向溝内に位置づけし易く、相手側半円筒形状軸受の円周方向端面によって前記開放部の一部が遮られて潤滑油の流れが上昇流となり、異物が浮上してクランク軸の回転に従って円周方向に流れる潤滑油の流れにより押し流され軸受内周面に移動するといった不具合発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係わる一対の半円筒形状軸受から成る内燃機関のすべり軸受の正面図。
【図2】図1に示す一対の半円筒形状軸受のうちの一方の半円筒形状軸受の内表面図。
【図3】図1に示す一対の半円筒形状軸受のうちの他方の半円筒形状軸受の内表面図。
【図4】本発明の実施例2に係わる一対の半円筒形状軸受から成る内燃機関のすべり軸受の正面図。
【図5】本発明の実施例3に係わる一対の半円筒形状軸受から成る内燃機関のすべり軸受の正面図。
【図6】本発明の実施例4に係わる一対の半円筒形状軸受から成る内燃機関のすべり軸受の正面図。
【図7】本発明すべり軸受の機能に関する補足説明図(軸受内周面の一部を示す)。
【図8】本発明すべり軸受の機能に関する別の補足説明図。 以下、添付図面を見ながら本発明の実施例および比較例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1〜図3は、本発明の実施例1に係わるすべり軸受10を示す。すべり軸受10は、一対の半円筒形状軸受20、30から成る。
半円筒形状軸受20は、後記傾斜面26から円周方向端面24bまでの概ね円周方向全長に亘って、軸受幅方向中央位置に、軸受内周面20aに沿う円周方向油溝22が形成されている。円周方向油溝22の溝底と軸受内周面20aとの距離(すなわち、溝深さ)は、円周方向油溝22の全長に亘って一定である。
【0013】
また、半円筒形状軸受20の円周方向端面24a(図1において矢印Rで示されるクランク軸の回転方向Rと同じ方向を向いた半円筒形状軸受20の円周方向端面である)において、軸受内周面20a側の角隅部(すなわち、軸受内側端縁部)が、軸受幅(W)全体に亘る欠截により傾斜面26になされている。一方、円周方向端面24aに当接する、半円筒形状軸受30の円周方向端面30aには、傾斜面26のような傾斜面は形成されていない。かくして、傾斜面26と半円筒形状軸受30の円周方向端面30aとで断面V字形の溝すなわち軸線方向溝Aが画成されている。軸線方向溝Aは、軸受の全幅に亘って存在する。円周方向油溝22は、その開放部(すなわち、溝端)が半円筒形状軸受20の円周方向端面24aの傾斜面26に開放するように形成されており、円周方向油溝22と軸線方向溝Aとは、半円筒形状軸受20、30の円周方向端面24a,30aの近傍で互いに連通する。この連通部において、円周方向油溝22と軸線方向溝Aとの関係は、連通部における円周方向油溝22の溝底が半円筒形状軸受20,30の円周方向端面24a,30aにおける軸線方向溝Aの溝底よりも軸受内周面20a側に偏位した位置にあり(すなわち、円周方向油溝22の溝深さが、軸線方向溝Aの溝深さよりも小さい)、かつ、円周方向油溝22の横断面積が、軸線方向溝Aの横断面積よりも大きくなされている。
【0014】
かかる構成において、内燃機関作動時に、すべり軸受10によって支承されるクランク軸が回転すると、クランク軸の回転(図1中の回転方向を示す矢印R参照)に伴って半円筒形状軸受20の円周方向油溝22内を前記矢印方向に潤滑油が流れる。この潤滑油は、前記連通部で、方向転換して軸線方向溝A内を流れて、軸線方向溝Aの両端開放部から軸受外部に放出される。この潤滑油の流れは、円周方向油溝22の横断面積が、軸線方向溝Aの横断面積よりも大きくなされているために、連通部で方向転換した後、流速が増す。故に、潤滑油の流れに付随して、円周方向油溝22内を移動して軸線方向溝A内に進入した異物粒子の移動が促進され、速やかに軸受外部に排出される。しかも、前記連通部において、円周方向油溝22の溝深さが、半円筒形状軸受20、30の円周方向端面24a,30aにおける軸線方向溝Aの溝深さよりも小さくなされており、潤滑油の流れに付随する異物粒子が直接軸線方向溝A内に進入するので、軸受外部への異物粒子の排出が促進され、軸受内周面(軸受摺動面)20aとクランク軸との間に進入して、両部材の摺動面を傷つける機会が低減化される。
なお、本実施例では、半円筒形状軸受20の円周方向端面24aにおける傾斜面26と半円筒形状軸受30の通常形状の円周方向端面30aとで軸線方向溝Aを画成したが、半円筒形状軸受30の円周方向端面30aにも傾斜面26と同様な傾斜面を対称的に形成して、両傾斜面によって軸線方向溝Aを画成してもよい。
【実施例2】
【0015】
図4は、本発明の実施例2に係わるすべり軸受10Aを示す。すべり軸受10Aは、一対の半円筒形状軸受20A、30Aから成る。
半円筒形状軸受20Aは、後記傾斜面26から円周方向端面24bまでの概ね円周方向全長に亘って、軸受幅方向中央位置に、軸受内周面20aに沿う円周方向油溝22Aが形成されている。円周方向油溝22Aの溝底と軸受内周面20aとの距離(すなわち、溝深さ)は、半円筒形状軸受20Aの円周方向長さの中央部で最大であり、円周方向端面24a、24bに向かって、それぞれ、次第に小さくなっている。
【0016】
また、半円筒形状軸受20Aの円周方向端面24aにおいて、軸受内周面20a側の角隅部(すなわち、軸受内側端縁部)が、軸受の全幅に亘る欠截により傾斜面26になされている。一方、円周方向端面24aに当接する、半円筒形状軸受30Aの円周方向端面30aにおいても、前記半円筒形状軸受20Aの傾斜面と対称的に同様な傾斜面36が形成されている。
【0017】
傾斜面26と36は互いに対面位置にあって、断面V字形の溝すなわち軸線方向溝Aを画成している。軸線方向溝Aは、軸受の全幅に亘って存在する。円周方向油溝22Aと軸線方向溝Aとは、円周方向油溝22の開放部(すなわち、溝端)が半円筒形状軸受20Aの円周方向端面24aの傾斜面26に開放するように形成され、半円筒形状軸受20A、30Aの円周方向端面24a,30aの近傍で互いに連通する。この連通部において、円周方向油溝22Aと軸線方向溝Aとの関係は、連通部における円周方向油溝22Aの溝底が半円筒形状軸受20A,30Aの円周方向端面24a,30aにおける軸線方向溝Aの溝底よりも軸受内周面20a側に偏位した位置にあり(すなわち、円周方向油溝22Aの溝深さが、軸線方向溝Aの溝深さよりも小さい)、かつ、円周方向油溝22Aの横断面積が、軸線方向溝Aの横断面積よりも大きくなされている。
傾斜面26,36のような傾斜面は、半円筒形状軸受20A、30Aの反対側の円周方向端面には存在しない。
【0018】
半円筒形状軸受20Aの円周方向長さの中央部には、軸受外部から軸受内部の円周方向油溝22A内に潤滑油を供給するための図示しない油穴(貫通穴)が形成されており、この油穴が存在する箇所で円周方向油溝22Aの溝深さが最大であるため、油穴を通じて円周方向油溝22A内に供給された潤滑油に付随する異物粒子が円周方向油溝22Aの外部に逸脱移動し難い。また、円周方向油溝22Aの溝深さが円周方向長さの中央部から円周方向端面24a、24bに向かって、それぞれ、次第に小さくなされているため、円周方向油溝22A内の潤滑油の流速は、円周方向端面24aに近い位置で大きく、潤滑油に付随する異物粒子の円周方向慣性力も大きいが、円周方向油溝22Aと軸線方向溝Aとの連通部において、連通部における軸線方向溝Aの溝深さが、半円筒形状軸受20A,30Aの円周方向端面24a,30aにおける円周方向油溝22Aの溝深さよりも大きいため、異物粒子が軸線方向溝A内に直接進入し、円周方向油溝22Aと軸線方向溝Aの横断面積差によって、潤滑油流速の大きな軸線方向溝A内での異物粒子の移動速度が大きく、異物粒子が迅速に軸受外部に排出される。なお、実施例では傾斜面26,36は、同一形状とする場合を図示したが、傾斜面26,36は必ずしも同一形状とする必要はない。
【実施例3】
【0019】
図5は、本発明の実施例3に係わるすべり軸受10Bを示す。すべり軸受10Bは、一対の半円筒形状軸受20B、30Aから成る。
半円筒形状軸受20Bは、後記傾斜面26から、他方の円周方向端面24bに近い位置まで、軸受幅方向中央位置に、軸受内周面20aに沿う円周方向油溝22Bが形成されている。円周方向油溝22Bは、その溝深さが半円筒形状軸受20Bの概ね円周方向長さの中央部から円周方向端面24a、24bに向かって、それぞれ、次第に小さくなされている。しかしながら、円周方向油溝22Bは、円周方向端面24aまで延在しているものの、円周方向端面24bまで達していない。これは、軸受外部から軸受内部の円周方向油溝22B内に潤滑油を供給するための図示しない油穴(貫通穴)が、半円筒形状軸受20Bの円周方向長さの中央部に形成されており、円周方向油溝22B内に供給された潤滑油が異物粒子を伴ない、図5に矢印で示されるクランク軸の回転方向Rと同方向に位置する円周方向端面24aに向かって流れるからである。
【0020】
また、半円筒形状軸受20Bの円周方向端面24aにおいて、軸受内周面20a側の角隅部(すなわち、軸受内側端縁部)が、軸受の全幅に亘る欠截により傾斜面26になされている。一方、円周方向端面24aに当接する、半円筒形状軸受30Aの円周方向端面30aにおいても、前記半円筒形状軸受20Bの傾斜面と対称的に同様な傾斜面36が形成されている。
【0021】
傾斜面26と36は互いに対面位置にあって、断面V字形の溝すなわち軸線方向溝Aを画成している。軸線方向溝Aは、軸受の全幅に亘って存在する。円周方向油溝22Bと軸線方向溝Aとは、円周方向油溝22の開放部(すなわち、溝端)が半円筒形状軸受20Bの円周方向端面24aの傾斜面26で開放するように形成され、半円筒形状軸受20B、30Aの円周方向端面24a,30aの近傍で互いに連通する。この連通部において、円周方向油溝22Bと軸線方向溝Aとの関係は、連通部における円周方向油溝22Bの溝底が半円筒形状軸受20B,30Aの円周方向端面24a,30aにおける軸線方向溝Aの溝底よりも軸受内周面20a側に偏位した位置にあり(すなわち、円周方向油溝22Bの溝深さが、軸線方向溝Aの溝深さよりも小さい)、かつ、円周方向油溝22Bの横断面積が、軸線方向溝Aの横断面積よりも大きくなされている。
傾斜面26,36のような傾斜面は、半円筒形状軸受20B、30Aの反対側の円周方向端面には存在しない。
【0022】
円周方向油溝22B、軸線方向溝Aを有する半円筒形状軸受20Bの作用効果は、実施例2の半円筒形状軸受20Bの作用効果と同等である。
【実施例4】
【0023】
図6は、本発明の実施例4に係わるすべり軸受10Cを示す。すべり軸受10Cは、一対の半円筒形状軸受20C、30Bから成る。
半円筒形状軸受20Cは、後記傾斜面26から28までの概ね円周方向全長に亘って、軸受幅方向中央位置に、軸受内周面20aに沿う円周方向油溝22Cが形成されている。円周方向油溝22Cは、実施例2における円周方向油溝22Aと同様に、その溝深さが円周方向長さの中央部から円周方向端面24a、24bに向かって、それぞれ、次第に小さくなされている。
【0024】
また、半円筒形状軸受20Cの円周方向端面24aにおいて、軸受内周面20a側の角隅部(すなわち、軸受内側端縁部)が、軸受の全幅に亘る欠截により傾斜面26になされている。一方、円周方向端面24aに当接する、半円筒形状軸受30Bの円周方向端面30aにおいても、半円筒形状軸受20Cの傾斜面26と対称的に同様な傾斜面36が形成されている。かくして、傾斜面26と36とで断面V字形の溝すなわち軸線方向溝Aが画成される。軸線方向溝Aは、軸受の全幅に亘って存在する。
【0025】
半円筒形状軸受20Cの軸受内周面に沿う各溝の形成形態は、図6において、左右対称であり、円周方向端面24a、30aとは反対側に位置する円周方向端面24b、30bにも傾斜面26、36と同様な傾斜面28、38が形成され、軸線方向溝Aと同様なV字形状の軸線方向溝Bが形成されている。
【0026】
すべり軸受10Cの意図する作用効果も前記実施例2、3の作用効果と同等である。半円筒形状軸受20C、30Bが図6において左右対称形状になされているのは、クランク軸に対する半円筒形状軸受20C、30Bの組み付け関係を間違えた場合、実施例2、3におけるすべり軸受10A,10Bのように、単一の軸線方向溝Aを設けた非対称構造であれば、潤滑油に付随する異物の軸受外部への排除という意図する作用効果が得られないからである。すなわち、軸線方向溝Bは、クランク軸の回転方向(図6における矢印R参照)とは逆方向を向いた半円筒形状軸受20Cの円周方向端面24bに沿って形成されているので、本発明で意図する作用効果は得られない。
【0027】
[本発明すべり軸受の機能に関する補足説明]
図7により説明する。図7は、例えば、図4に示すすべり軸受10Aの軸線方向溝A を軸受内面側から見た図面である。
図中、矢印Iは、半円筒形状軸受20Aの円周方向中央部に位置する油穴を通じて円周方向油溝22A内に供給された潤滑油が、クランク軸の回転に伴なって円周方向端面24aに向かって流れる方向を示す。潤滑油は、その全てが円周方向油溝22A内を流れるわけではなく、円周方向油溝22Aの外部である軸受内周面にも進入して、矢印Iで示すように流れる。矢印IIは、異物粒子Fの移動方向を示す。
【0028】
潤滑油に付随する異物粒子Fは、円周方向油溝22Aの溝底に沿って転動しながら、潤滑油と共に円周方向端面24aに向かって移動し、円周方向油溝22Aと軸線方向溝Aの連通部に至る。この連通部では、連通部における円周方向油溝22Aの溝深さに比して、半円筒形状軸受20の円周方向端面24aにおける軸線方向溝Aの溝深さが大きくなされており、円周方向油溝22の開放部(溝端)は傾斜面26にあるので、円周方向油溝を形成しない半円筒形状軸受30の円周方向端面30aによって、円周方向油溝の開放部(溝端)の一部(溝底側)が遮られるといった不具合がない。このため連通部に到達した異物は、軸受の内周面側に浮き上がることなく、直接軸線方向溝A内に進入する。また、連通部では、軸線方向溝Aの横断面積が、円周方向油溝22Aの横断面積よりも小さくなされているために、円周方向油溝22Aから軸線方向溝A内に方向転換して流れる潤滑油の流速が軸線方向溝A内で増大する。したがって、連通部に到達した異物粒子は、軸線方向溝A内で増大した潤滑油の流れに乗って速やかに軸受外部に排出される。斯様に軸線方向溝A内での異物粒子の移動速度が大きいため、矢印Iで示される軸受内周面20aに沿う潤滑油流の影響を受け難く、異物粒子が軸線方向溝Aから押出されて潤滑油流と共に半円筒形状軸受30側に移動するといった現象を抑制することができる。また、連通部において、軸線方向溝Aの溝深さを大きくし、および/または、軸線方向溝Aの溝幅を小さくすれば、それに応じて、異物粒子に対する潤滑油流Iの影響を低減化できる。
この状態を図8に示す。図中、Cはクランク軸であり、軸線方向溝Aの溝深さをL1、溝幅をL2として示した。L1とL2の関係を、2×L1>L2にして軸線方向溝の溝幅を小さく、かつ、軸線方向溝Aの溝深さを大きく設定すれば、軸線方向溝A内の異物粒子に対する潤滑油流Iの影響を十分に低減化でき、L1>L2に設定すれば、更に望ましい効果を得ることができる。なお、軸線方向溝の溝深さL1は0.15mm以上、溝幅L2は1mm以下の範囲で、前記L1とL2の関係を設定することが望ましい。
【符号の説明】
【0029】
10,10A,10B,10C すべり軸受
20,20A,20B,20C 半円筒形状軸受
20a 軸受内周面
22,22A,22B,22C 円周方向油溝
24a,24b 円周方向端面
28 傾斜面
26,26a 傾斜面
30,30A,30B 半円筒形状軸受
30a 円周方向端面
36,36a 傾斜面
38 傾斜面
A 軸線方向溝
C クランク軸
R クランク軸の回転方向
W 軸受幅
L1 軸線方向溝の溝深さ
L2 軸線方向溝の溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の半円筒形状軸受のうち、一方の半円筒形状軸受の内周面に円周方向に延在する円周方向油溝が形成されている前記一対の半円筒形状軸受を円筒形に組み合わせてクランク軸を支承する内燃機関のすべり軸受において、
前記円周方向油溝は、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向長さの中央部を含み、
前記一方の半円筒形状軸受の円周方向両端面のうち、少なくとも、クランク軸の回転方向と同じ方向を向いた一方の前記円周方向端面の軸線方向全長に沿って、該円周方向端面と他方の半円筒形状軸受の対向する円周方向端面との間に軸線方向溝が存在しており、
該軸線方向溝は、前記一対の半円筒形状軸受のうち、少なくとも前記一方の半円筒形状軸受の内周面および前記一方の円周方向端面に沿って、前記すべり軸受の軸線方向幅全体に亘って形成された傾斜面で規定されており、
前記円周方向油溝と前記軸線方向溝とが互いに連通し、該連通部における前記円周方向油溝と前記一方の円周方向端面における前記軸線方向溝の深さが異なり、前記円周方向油溝の溝底が、前記軸線方向溝の溝底よりも前記軸受内周面側に偏った位置にあり、
また、前記連通部における前記円周方向油溝の横断面積が前記軸線方向溝の横断面積よりも大きいことを特徴とする内燃機関のすべり軸受。
【請求項2】
前記軸線方向溝の溝幅(L2)と溝深さ(L1)の関係が、L2<L1を満たすことを特徴とする請求項1に記載された内燃機関のすべり軸受。
【請求項3】
前記連通部における前記軸線方向溝の横断面積が、前記円周方向油溝の横断面積の1/2未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された内燃機関のすべり軸受。
【請求項4】
前記円周方向油溝が、前記軸受内周面の円周方向長さ全体に亘って前記一方の半円筒形状軸受の前記軸受内周面に形成されており、
前記円周方向油溝および前記軸線方向溝の形成形態が、前記すべり軸受の軸線、および、前記一方の半円筒形状軸受の円周方向長さを2等分する位置を通る仮想平面を基準として面対称的になされていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された内燃機関のすべり軸受。
【請求項5】
前記円周方向油溝の溝深さが、前記円周方向長さの中央部位置で最大であり、前記円周方向両端面に向かって次第に小さくなされ、もって前記円周方向油溝の横断面積が前記円周方向長さの中央部位置で最大であり、前記円周方向両端面に向かって次第に小さくなっていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された内燃機関のすべり軸受。
【請求項6】
前記軸線方向溝が、一対の半円筒形状軸受の各円周方向端面に隣接する軸受内周面に沿って付与されるクラッシュリリーフを包含することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された内燃機関のすべり軸受。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された内燃機関のすべり軸受の構成部品として用いられる半円筒形状軸受であり、
前記円周方向油溝を有し、かつ、対をなして組み合わせ使用される相手方の半円筒形状軸受と協働して前記軸線方向溝を画成する半円筒形状軸受。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−237036(P2011−237036A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148876(P2011−148876)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【分割の表示】特願2009−142195(P2009−142195)の分割
【原出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】