説明

内燃機関のコンロッド軸受

【課題】コンロッド軸受に送られる潤滑油に付随する異物を速やかにコンロッド軸受から排出することが可能であり、さらに軸受摺動面への潤滑油の供給性に優れるコンロッド軸受を提供する。
【解決手段】内燃機関のクランク軸用コンロッド軸受において、コンロッド軸受が一対の半円筒形軸受から成る。少なくとも一方の半円筒形軸受において、前方側円周方向端面24Aから前方側円周方向溝24Cが形成されており、対向する半円筒形軸受において、後方側円周方向端面26Aから後方側円周方向溝26Cが形成されている。前方側円周方向溝24Cと後方側円周方向溝26Cと軸線方向溝24Eが連通する連通部において、前方側円周方向溝の深さが後方側円周方向溝の深さよりも大きくなっていることにより、円周方向溝の深さ方向の段差部27Aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸を支える主軸受の内周面に供給された潤滑油が、クランク軸の内部潤滑油路を経て、コンロッドとクランク軸を連結するクランクピンを回転自在に支承するコンロッド軸受(すべり軸受)の内周面に供給されるように構成された内燃機関のコンロッド軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半円筒形軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。主軸受に対しては、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された貫通口を通じて主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。また、ジャーナル部の直径方向に第1潤滑油路が貫通形成され、この第1潤滑油路の両端開口が前記潤滑油溝と連通し、さらにまた、ジャーナル部の直径方向第1潤滑油路から分岐してクランクアーム部を通る第2潤滑油路が形成され、この第2潤滑油路が、クランクピンの直径方向に貫通形成された第3潤滑油路に連通している。かくして、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された貫通口を通じて主軸受の内周面に形成された潤滑油溝内に送り込まれた潤滑油は、第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を経て、第3潤滑油路の端部出口(すなわち、クランクピンの外周面に存在する潤滑油出口)から、クランクピンとコンロッド軸受の摺動面間に供給される。
【0003】
内燃機関のシリンダブロックからクランク軸のジャーナル部を経てコンロッド軸受に送られる潤滑油は、各部分の潤滑油路内に存在する異物を伴う可能性がある。この異物が潤滑油に付随してクランクピンとコンロッド軸受の摺動面間に送られると、コンロッド軸受の摺動面に損傷を与える危惧がある。クランクピンとコンロッド軸受の摺動面間に進入した異物は、摺動面部分から速やかに外部に排出する必要がある。
【0004】
潤滑油に混入する異物対策として、一対の半円筒形軸受で構成される、クランク軸ジャーナル部を支承する主軸受のうち、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから直接潤滑油の供給を受ける貫通口を有する半円筒形軸受の内周面全長に亘って円周方向の潤滑油溝を設けて、潤滑油に付随する異物を排出することを企図した提案がある。この考え方をコンロッド軸受に適用すると、異物排出効果は得られず、コンロッド軸受の半円筒形軸受の内周面全長に亘って形成された円周方向潤滑油溝内に異物が滞留するだけでなく、軸受摺動面全体に亘って異物が分散して軸受の損傷が起こりやすくなり、むしろ逆効果であることが試験によって確認された。
この理由として、一般に、コンロッド軸受を保持するハウジングは、機関運転時の変形が大きいため、運転時におけるクランクピンとコンロッド軸受間の間隙が、クランク軸ジャーナル部と主軸受との間の間隙に比して大きく、潤滑油溝内に保持された異物が軸受摺動面全体に広がり易く、主荷重部になる「半円筒形軸受の円周方向中央部」における摺動面部分にも異物が分布し、前記円周方向潤滑油溝を設けない従来タイプのコンロッド軸受を使用した場合よりも、軸受損傷が増すからである。このことは試験によって確認された。
【0005】
このため、クランクピン表面の潤滑油出口から潤滑油と共にコンロッド軸受の摺動面に進入する異物を排出するために、コンロッド軸受を構成する一対の半円筒形軸受の少なくとも一方において、クランクピンの回転方向に対して前方側に位置付けられる前方側円周方向端面から軸受内周面に沿って前方側円周方向溝を形成し、さらに、この前方側円周方向溝に連通する軸線方向溝を軸受内周面に沿って軸線方向幅全長に亘って形成したコンロッド軸受が本発明者によって提案されている(特許文献3)。この構成によれば、クランクピンの外表面に存在する潤滑油出口から供給された潤滑油に付随する異物が、前方側円周方向溝に捕捉され、前方側円周方向溝に沿って潤滑油と共に円周方向端面付近まで送られる。そして、異物が、対向する半円筒形軸受の円周方向端面によって堰き止められ、対向する半円筒形軸受の摺動面に異物が進入することが防止されている。対向する半円筒形軸受の円周方向端面によって堰き止められた異物は、軸線方向溝に進入し、軸線方向溝を通って軸受外部に排出される。
【0006】
近年の内燃機関では、低燃費化を目的としてオイルポンプの小型化が図られており、軸受摺動面への潤滑油の供給量が従来の内燃機関に比して減少し、軸受摺動面に対する潤滑油の供給不足が起こるようになってきた。
内燃機関のコンロッド軸受は、異物排出性に優れると共に、軸受摺動面への潤滑油の供給性に優れることが要求される。
軸受摺動面への潤滑油の供給性を高めるために、上述の前方側円周方向溝に加えて、図13、図14に示すように、対向する半円筒形軸受にも、突き合わせた円周方向端面から軸受内周面に沿って、前方側円周方向溝と同一形状の円周方向溝を設けることも考えられる。この構成によると、対向する半円筒形軸受の軸受摺動面への潤滑油の供給量を多くできるが、異物排出性は多少低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】特開2005−69283号公報
【特許文献3】特開2009−174697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、内燃機関のシリンダブロックからクランク軸のジャーナル部を経てコンロッド軸受に送られる潤滑油に付随する異物を速やかにコンロッド軸受から排出することが可能であり、さらに軸受摺動面への潤滑油の供給性に優れるコンロッド軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的に照らし、本発明の第一の観点によれば、以下の内燃機関のクランク軸用コンロッド軸受が提供される。
内部潤滑油路を有するクランク軸のクランクピンを回転自在に支承する、内燃機関のクランク軸用コンロッド軸受において、
前記コンロッド軸受が一対の半円筒形軸受から成り、前記一対の半円筒形軸受は、それぞれ、前記クランクピンの回転方向に対して前方側に位置づけられる前方側円周方向端面、及び後方側に位置づけられる後方側円周方向端面を有し、一方の前記半円筒形軸受の前記前方側円周方向端面ともう一方の前記半円筒形軸受の前記後方側円周方向端面とが当接するようになっており、
少なくとも一方の前記半円筒形軸受において、前記前方側円周方向端面から軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で前方側円周方向溝が形成されており、
対向する前記半円筒形軸受において、前記後方側円周方向端面から軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で、前記前方側円周方向溝と連通する後方側円周方向溝が形成されており、
前記前方側円周方向溝及び前記後方側円周方向溝と連通する軸線方向溝が、軸受内周面に沿って軸線方向幅全長に亘って形成されており、
前記前方側円周方向溝と前記後方側円周方向溝と前記軸線方向溝が連通する連通部において、前記前方側円周方向溝の深さが前記後方側円周方向溝の深さよりも大きくなっていることにより、円周方向溝の深さ方向の段差部が形成されている、コンロッド軸受。
【0010】
本発明の一実施形態では、前記連通部において、前記後方側円周方向溝の深さ(D2)が、前記前方側円周方向溝の深さ(D1)の0.2〜0.9倍である。
ここで、円周方向溝の深さとは、軸受内周面から溝底までの距離である。軸線方向溝がある部分については、軸線方向溝がないと仮定した場合の軸受内周面から溝底までの距離である。
【0011】
本発明の別の実施形態では、前記連通部において、前記前方側円周方向溝の深さと前記後方側円周方向溝の深さと前記軸線方向溝の深さとが、次の関係式:
前方側円周方向溝の深さ(D1)>軸線方向溝の深さ(D3)>後方側円周方向溝の深さ(D2)
を満たす。
ここで、軸線方向溝の深さとは、軸線方向溝がないと仮定した場合の軸受内周面から溝底までの距離である。
【0012】
本発明の更に別の実施形態では、前記連通部において、前記コンロッド軸受の円周方向から見た前記前方側円周方向溝の溝断面積が、前記コンロッド軸受の軸線方向から見た前記軸線方向溝の溝断面積より大きくなっている。
【0013】
本発明の更に別の実施形態では、前記連通部において、前記前方側円周方向溝の溝幅が、前記後方側円周方向溝の溝幅よりも大きくなっていることにより、円周方向溝の溝幅方向の段差部が形成されている。
【0014】
本発明の更に別の実施形態では、前記前方側円周方向溝が形成された中心角度が、前記後方側円周方向溝が形成された中心角度よりも大きくなっている。
【0015】
本発明の更に別の実施形態では、前記軸線方向溝は、前記前方側円周方向溝が形成された前記前方側円周方向端面の軸受内周面側、または前記後方側円周方向溝が形成された前記後方側円周方向端面の軸受内周面側のうちの少なくとも一方が切除されることにより形成される。
【0016】
本発明の更に別の実施形態では、前記前方側円周方向溝の深さは、前記前方側円周方向端面から離れるに従って次第に小さくなっている。
【0017】
本発明の更に別の実施形態では、一方の前記半円筒形軸受にのみ、前記前方側円周方向溝が形成されている。
【0018】
本発明の更に別の実施形態では、両方の前記半円筒形軸受に、前記前方側円周方向溝が形成されている。
【0019】
本発明の第二の観点によれば、上記コンロッド軸受を含む内燃機関が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成とすることにより、コンロッド軸受に送られる潤滑油に付随する異物を速やかにコンロッド軸受から排出することが可能であり、さらに軸受摺動面への潤滑油の供給性に優れるコンロッド軸受が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図。
【図2】本発明の実施例1によるコンロッド軸受の正面図。
【図3】図2に示すコンロッド軸受の一方の半円筒形軸受を内周面側から見た平面図。
【図4】図2に示すコンロッド軸受の他方の半円筒形軸受を内周面側から見た平面図。
【図5】図2に示すコンロッド軸受の連通部を軸線方向から見た図。
【図6】図2に示すコンロッド軸受の機能説明図。
【図7】本発明の実施例2によるコンロッド軸受の連通部を軸線方向から見た図。
【図8】本発明の実施例3によるコンロッド軸受の連通部を軸受内周面側から見た機能説明図。
【図9】図8に示すコンロッド軸受の前方側円周端面を示す平面図。
【図10】図8に示すコンロッド軸受の後方側円周端面を示す平面図。
【図11】図8に示すコンロッド軸受の前方側円周方向溝から後方側円周方向溝を見た図。
【図12】本発明の実施例4によるコンロッド軸受の正面図。
【図13】比較例によるコンロッド軸受の正面図。
【図14】図13に示す比較例による半円筒形軸受を内周面側から見た平面図。
【実施例】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
図1は、内燃機関のクランク軸を、ジャーナル部およびクランクピン部でそれぞれ截断した模式図であり、ジャーナル10、クランクピン12およびコンロッド14を示す。これら三部材の紙面奥行き方向での位置関係は、ジャーナル10が紙面の最も奥側にあり、手前側にクランクピン12があって、クランクピン12が、他端にピストンを担持するコンロッド14の大端部ハウジング16で包囲されている。
ジャーナル10は、一対の半円筒形軸受18A、18Bを介して、内燃機関のシリンダブロック下部に支持されている。図面で上側に位置する半円筒形軸受18Aは、その内周面全長に亘って潤滑油溝18aが形成されている。
また、ジャーナル10は、その直径方向貫通孔10aを有し、ジャーナル10が矢印X方向に回転すると、貫通孔10aの両端開口が交互に潤滑油溝18aに連通する。
さらに、ジャーナル10、図示されないクランクアーム、および、クランクピン12を貫通して潤滑油路20が、クランク軸内部に形成されている。
【0023】
クランクピン12は、一対の半円筒形軸受24、26を介して、コンロッド14の大端部ハウジング16(これは、コンロッド側大端部ハウジング16Aとキャップ側大端部ハウジング16Bから成る)に保持されている。半円筒形軸受24、26は、それらの突き合せ端面を互いに突き合わせて組立てられ円筒形のコンロッド軸受22になされている。
【実施例1】
【0024】
図2〜図4に、コンロッド軸受22を構成する一対の半円筒形軸受24、26の詳細を示す。半円筒形軸受24は、クランクピン12の回転方向Zに対して前方側に位置づけられる前方側円周方向端面24A、及び後方側に位置づけられる後方側円周方向端面24Bを有する。半円筒形軸受26は、クランクピン12の回転方向Zに対して前方側に位置づけられる前方側円周方向端面26B、及び後方側に位置づけられる後方側円周方向端面26Aを有する。半円筒形軸受24の前方側円周方向端面24Aと半円筒形軸受26の後方側円周方向端面26Aとが当接するようになっており、半円筒形軸受26の前方側円周方向端面26Bと半円筒形軸受24の後方側円周方向端面24Bとが当接するようになっている。
【0025】
半円筒形軸受24において、前方側円周方向端面24Aから軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で前方側円周方向溝24Cが形成されている。また、半円筒形軸受24に対向する半円筒形軸受26において、後方側円周方向端面26Aから軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で後方側円周方向溝26Cが形成されている。後方側円周方向溝26Cは、前方側円周方向溝24Cと連通している。
【0026】
前方側円周方向溝24Cの軸受幅方向の位置は、潤滑油路20の出口開口から供給された潤滑油が、前方側円周方向溝24Cに流入するように決められる。本実施例では、前方側円周方向溝24Cおよび後方側円周方向溝26Cの軸受幅方向の位置は、前方側円周方向溝24Cおよび後方側円周方向溝26Cの幅方向の中心線が潤滑油路の出口開口中心と整合するように決められている。
【0027】
また、半円筒形軸受24の前方側円周方向端面24Aの軸受内周面側の一部が軸線方向幅全長に亘って切除され、傾斜面24Dが形成されている。さらに、半円筒形軸受26の後方側円周方向端面26Aの軸受内周面側の一部が軸線方向幅全長に亘って切除され、傾斜面26Dが形成されている。このように、傾斜面24D及び傾斜面26Dによって、軸線方向溝24Eが、軸受内周面に沿って軸線方向幅全長に亘って形成されている。軸線方向溝24Eは、前方側円周方向溝24C及び後方側円周方向溝26Cと連通している。
本実施例においては、円周方向端面24A、26Aの両方に傾斜面24D、26Dが設けられているが、円周方向端面24A、26Aのうちの一方にのみ傾斜面を設けてもよい。
また、本実施例においては、傾斜面24Dと26Dとが、円周方向端面に対して面対称形状に形成されているが、切除する寸法を変える等して、非対称形状に形成してもよい。
【0028】
図5は、前方側円周方向溝24Cと後方側円周方向溝26Cと軸線方向溝24Eが連通する連通部を軸線方向から見た図である。図5にも示すように、前方側円周方向溝24Cと後方側円周方向溝26Cと軸線方向溝24Eが連通する連通部において、前方側円周方向端面24Aにおける前方側円周方向溝24Cの深さ(D1)が、後方側円周方向端面26Aにおける後方側円周方向溝26Cの深さ(D2)よりも大きくなっていることにより、円周方向溝の深さ方向の段差部27Aが形成されている。
【0029】
本実施例においては、もう一方の突き合わせた円周方向端面にも同様の円周方向溝が形成されている。すなわち、半円筒形軸受26において、前方側円周方向端面26Bから軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で前方側円周方向溝26Fが形成されている。また、半円筒形軸受26に対向する半円筒形軸受24において、後方側円周方向端面24Bから軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で後方側円周方向溝24Fが形成されている。後方側円周方向溝24Fは、前方側円周方向溝26Fと連通している。
しかし、必ずしも突き合わせ端面の両方に円周方向溝を設ける必要はない。すなわち、一方の半円筒形軸受にのみ、前方側円周方向溝を形成してもよい。
【0030】
本実施例においては、半円筒形軸受26の前方側円周方向端面26Bの軸受内周面側の一部が軸線方向幅全長に亘って切除され、傾斜面26Gが形成されている。さらに、半円筒形軸受24の後方側円周方向端面24Bの軸受内周面側の一部が軸線方向幅全長に亘って切除され、傾斜面24Gが形成されている。このように、傾斜面24G及び傾斜面26Gによって、軸線方向溝26Hが、軸受内周面に沿って軸線方向幅全長に亘って形成されている。軸線方向溝26Hは、前方側円周方向溝26F及び後方側円周方向溝24Fと連通している。
本実施例においては、円周方向端面24B、26Bの両方に傾斜面24G、26Gを設けているが、円周方向端面24B、26Bのうちの一方にのみ傾斜面を設けてもよい。
また、本実施例においては、傾斜面24Gと26Gとが、円周方向端面に対して面対称形状に形成されているが、切除する寸法を変える等して、非対称形状に形成してもよい。
【0031】
また、上述の段差部27Aと同様に、前方側円周方向溝26Fと後方側円周方向溝24Fと軸線方向溝26Hが連通する連通部において、前方側円周方向溝26Fの深さが後方側円周方向溝24Fの深さよりも大きくなっていることにより、円周方向溝の深さ方向の段差部27Bが形成されている。
【0032】
本実施例のコンロッド軸受は、以上のように構成されており、以下、その機能について説明する。
機関作動中、ジャーナル10を支承する主軸受の軸受内周面に形成された潤滑油溝18a内に潤滑油が供給される。ジャーナル10が回転すると、ジャーナル10に形成された直径方向貫通孔10aの両端開口が潤滑油溝18aと間欠的に連通する。その連通時に、貫通孔10a内に潤滑油圧が作用し、更には貫通孔10aに連通する潤滑油路20にも潤滑油供給圧力が作用する。この潤滑油供給圧力によって、クランクピン12の外周面にある潤滑油路20の出口開口から、クランクピン12とコンロッド軸受22の間の摺動面に潤滑油が供給される。クランクピン12が回転して、潤滑油路20の出口開口が前方側円周方向溝24C、26Fに連通すると、前方側円周方向溝24C、26F内に潤滑油が直接流入する。流入した潤滑油は、これに付随する異物と共に、前方側円周方向溝内を前方側円周方向端面の方向へ流れる。
【0033】
図6は、連通部の断面図によって、円周方向溝内の潤滑油と異物の挙動を示す。潤滑油に対し比重の重い異物28は、遠心力によって前方側円周方向溝の溝底側を移動する。そのため、異物28は、クランクピン表面から十分に離間し、回転するクランクピン表面に付随する速い潤滑油流の影響を受け難くなる。前方側円周方向溝24Cと後方側円周方向溝26Cとの間には段差部27Aが形成されているため、前方側円周方向溝24C内を流れてきた潤滑油と異物28は、後方側円周方向溝26Cへそのまま流入することを妨げられる。潤滑油と異物28は、段差部27Aによって流れ方向を転換させられ、主に軸線方向溝24Eに流入し、軸受幅方向端面から軸受外部へ排出される。
【0034】
上述の通り、異物28は前方側円周方向溝24C内において溝底側へ分離されるので、前方側円周方向溝24Cの軸受内周面側には、異物がほとんどない潤滑油が流れることになる。この前方側円周方向溝24Cの軸受内周面側の清浄な潤滑油は、後方側円周方向溝26Cへそのまま流入する。したがって、この清浄な潤滑油が、軸線方向溝を通じて軸受外部へ排出されることなく、半円筒形軸受26の軸受摺動面へ供給される。
【0035】
本実施例においては、連通部において、後方側円周方向端面26Aにおける後方側円周方向溝26Cの深さ(D2)が、前方側円周方向端面24Aにおける前方側円周方向溝24Cの深さ(D1)の0.2〜0.9倍であることが好ましい。
前方側円周方向溝の溝底に沿って連通部まで移動してくる異物の速度を確実に低下させるために、後方側円周方向溝の深さ(D2)を前方側円周方向溝の深さ(D1)に対して90%以下とすることが好ましい。すなわち、前方側円周方向溝の深さの10%以上の段差部が、前方側円周方向溝内の潤滑油の流れを遮蔽するようになっていることが好ましい。一方、下流側の半円筒形軸受の軸受内周面に対する潤滑油の供給量を十分に確保するために、後方側円周方向溝の深さ(D2)は、前方円周方向油溝の深さ(D1)に対して20%以上とすることが好ましい。
【0036】
また、本実施例においては、連通部において、コンロッド軸受の円周方向から見た前方側円周方向溝24Cの溝断面積が、コンロッド軸受の軸線方向から見た軸線方向溝24Eの溝断面積より大きくなっている。
この構成とすることにより、前方側円周方向溝24C内を相対的に緩やかに流れてきた潤滑油および異物の流速が軸線方向溝24E内で増大するので、異物が軸線方向溝24E内へ流入しやすくなり、異物が軸受幅方向端面から軸受外部へ円滑に排出されるやすくなる。
【0037】
前方側円周方向溝の深さは、前方側円周方向端面から離れるに従って次第に小さくなっている。
この構成とすることにより、前方側円周方向溝24C、26F内を流れる潤滑油および異物28の流れが円周方向端面に向かって緩やかになり、異物が潤滑油の流れに付随して確実に軸線方向溝へ押し流される。また、軸線方向溝に接近した際の潤滑油および異物28の流速が緩やかであるため、慣性力によって、異物が軸線方向溝を乗り越えて相手側半円筒形軸受側へ進入することを防ぐことができる。本実施例においては、後方側円周方向溝の深さも、前方側円周方向端面から離れるに従って次第に小さくなっている。
しかし、前方側円周方向溝の深さを一定の深さにすることも可能であり、後方側円周方向溝の深さを一定の深さにすることも可能である。
【0038】
円周方向溝の溝幅、深さは、内燃機関の仕様により適宜選択される。例えば、乗用車用の小型内燃機関に用いられるコンロッド軸受の場合、溝幅1〜7mm、深さ0.1〜1mmとすればよい。
ここで、円周方向溝の溝幅は、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)×1/4以上、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)×2以下とすることが好ましい。さらに、円周方向溝の溝幅は、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)と同じとすることが好ましい。
また、軸線方向溝の寸法は、溝幅2mm未満、深さ0.1〜0.5mmであることが好ましい。潤滑油に混入する異物のサイズは、最大で長さが0.1mm程度であり、軸線方向溝の寸法は、異物排出性を考慮して決められる。
【0039】
本実施例では、好適例として、前方側円周方向溝24Cと前方側円周方向溝26F、後方側円周方向溝24Fと後方側円周方向溝26C、及び軸線方向溝24Eと軸線方向溝26Gが、それぞれコンロッド軸受22の軸線を中心に線対称形状に形成されている。
この構成とすることにより、半円筒形軸受24および26の部品共通化を図ることが可能である。しかし、本発明は本実施例に限定されず、前方側円周方向溝24Cと前方側円周方向溝26F、後方側円周方向溝24Fと後方側円周方向溝26C、及び軸線方向溝24Eと軸線方向溝26Hが、それぞれ軸受中心線に対して非対称形状に形成されてもよい。すなわち、前方側円周方向溝24Cと前方側円周方向溝26F、後方側円周方向溝24Fと後方側円周方向溝26C、及び軸線方向溝24Eと軸線方向溝26Hが、同じ寸法に形成されず、本発明の機能を維持する範囲において、円周方向長さ、溝幅、深さが異なっていても良い。
【実施例2】
【0040】
図7は、本発明の実施例2について、連通部の断面図を示す。この実施例では、連通部において、前方側円周方向溝の深さ(D1)と後方側円周方向溝の深さ(D2)と軸線方向溝の深さ(D3)とが、次の関係式:
前方側円周方向溝の深さ(D1)>軸線方向溝の深さ(D3)>後方側円周方向溝の深さ(D2)
を満たしている。
実施例1では、軸線方向溝の深さ(D3)と後方側円周方向溝の深さ(D2)の大小関係が逆になっており、軸線方向溝の深さ(D3)<後方側円周方向溝の深さ(D2)となっていた。後方側円周方向溝の深さ(D2)が軸線方向溝の深さ(D3)より大きい場合、前方側円周方向溝の溝底側を流れて連通部に達した異物の中には、軸線方向溝まで到達する前に後方側円周方向溝に進入してしまうものがある。
しかし、この実施例2の構成とすることにより、前方側円周方向溝34Cの溝底側を流れてきた潤滑油と異物は、段差部37Aによって堰き止められた後、まず軸線方向溝34Eに流入する。したがって、実施例1よりも異物は軸線方向溝34Eを通じて軸受外部に排出されやすくなり、後方側円周方向溝36Cには進入しにくくなるので、異物排出効果が向上する。
【実施例3】
【0041】
図8〜図11は、実施例3を示す。図8は、軸受内周面側から円周方向溝及び軸線方向溝を見た図である。図9は、前方側円周方向端面を円周方向から見た図である。図10は、後方側円周方向端面を円周方向から見た図である。図11は、前方側円周方向溝から後方側円周方向溝を見た様子を示す。
本実施例においては、連通部において、前方側円周方向溝44Cの溝幅(W1)が、後方側円周方向溝46Cの溝幅(W2)よりも大きくなっていることにより、円周方向溝の溝幅方向の段差部が形成されている(図11参照)。
この構成とすることにより、円周方向溝の深さ方向の段差部47Aに加えて、溝幅方向の段差部47Cが形成されるため、前方側円周方向溝の側壁に沿って移動してきた異物も堰き止める効果が生じる。これにより、さらに異物排出効果が向上する。
【0042】
本実施例では、円周方向溝の側壁は傾斜面となっており、溝底から軸受内周面に向かって溝幅が増すようになっている。したがって、円周方向溝の断面形状は台形形状となっている。実施例1及び2では、円周方向溝の断面形状は矩形形状となっていたが、実施例3では、円周方向端面に向かって円周方向溝の断面積の増加する割合がより大きい。したがって、実施例3の前方側円周方向溝に進入した異物の速度は、円周方向端面に向かってより緩やかになり、異物は軸線方向溝に進入しやすくなる。したがって、異物排出効果が向上する。
ここで、円周方向断面溝の断面形状について、台形形状の実施例を示したが、他にも、半円形形状、三角形形状など任意の断面形状とすることができる。異物排出効果を有する段差部が形成されるのであれば、任意の断面形状の円周方向溝を適用することができる。
【実施例4】
【0043】
図12は、実施例4を示す。前方側円周方向溝54Cが形成された中心角度(θ1)が、後方側円周方向溝56Cが形成された中心角度(θ2)よりも大きくなっている。
前方側円周方向溝が形成された中心角度(θ1)が大きいと、クランクピン12外周面の潤滑油路20の出口開口から排出される異物を前方側円周方向溝が捕らえる確率が大きくなる。すなわち、異物排出路である軸線方向溝の前で異物が捕捉されるので、異物排出効果が向上する。さらに、前方側円周方向溝が形成された中心角度(θ1)が大きいと、異物が前方側円周方向溝を流れる時間が長くなり、異物の移動速度が緩やかになり軸線方向溝から排出されやすくなる。
後方側円周方向溝が形成された中心角度(θ2)が小さいと、クランクピン12外周面の潤滑油路20の出口開口から異物が後方側円周方向溝へ排出される確率が小さくなる。後方側円周方向溝は、異物排出路である軸線方向溝の下流にあるので、後方側円周方向溝へ排出された異物は軸線方向溝から排出されない。すなわち、異物が後方側円周方向溝へ排出される可能性を低く抑えることで、結果的に異物排出効果が向上する。さらに、後方側円周方向溝が形成される中心角度(θ2)が小さくても、前方側円周方向溝からの油を下流側の軸受内周面へ供給する効果は十分に維持できる。
【0044】
前方側円周方向溝の中心角度(θ1)を大きくし、前方側円周方向溝の円周方向長さが、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)よりも大きくなるようにすることが好ましい。さらに、前方側円周方向溝の円周方向長さが、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)×2よりも大きくなるようにすることが好ましい。
後方側円周方向溝の中心角度(θ2)を小さくし、後方側円周方向溝の円周方向長さが、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)よりも小さくなるようにすることが好ましい。ただし、後方側円周方向溝の先の軸受摺動面への潤滑油の供給を確保するため、後方側円周方向溝の円周方向長さは、潤滑油路20の出口開口の穴径(φA)×0.5以上とすることが好ましい。
【0045】
また、本発明においては、一対の半円筒形軸受の各円周方向端面に隣接する軸受内周面にクラッシュリリーフを形成しても良い。ここで、クラッシュリリーフとは、一対の半円筒形状軸受の円周方向端面に近い部分の軸受壁を内周面側で除去することによって形成された、軸受内周面の曲率中心とは異なる曲率中心を有する軸受壁厚減少領域(円周方向端面に向かって次第に厚さを減じた領域を指し、SAE J506(項目3.26、項目6.4参照)、DIN1497、§3.2で規定されるとおりである)を意味する。
【符号の説明】
【0046】
10 ジャーナル
10a ジャーナルの直径方向貫通孔
12 クランクピン
14 コンロッド
16 大端部ハウジング
16A コンロッド側大端部ハウジング
16B キャップ側大端部ハウジング
18A 半円筒形軸受
18B 半円筒形軸受
18a 潤滑油溝
20 潤滑油路
22 コンロッド軸受
24 半円筒形軸受
24A 前方側円周方向端面
24B 後方側円周方向端面
24C 前方側円周方向溝
24D 傾斜面
24E 軸線方向溝
24F 後方側円周方向溝
24G 傾斜面
26 半円筒形軸受
26A 後方側円周方向端面
26B 前方側円周方向端面
26C 後方側円周方向溝
26D 傾斜面
26F 前方側円周方向溝
26G 傾斜面
26H 軸線方向溝
27A、27B、27C 段差部
28 異物
34C 前方側円周方向溝
34E 軸線方向溝
36C 後方側円周方向溝
37A 段差部
44A 前方側円周方向端面
44C 前方側円周方向溝
44E 軸線方向溝
46A 後方側円周方向端面
46C 後方側円周方向溝
47A、47C 段差部
54C 前方側円周方向溝
56C 後方側円周方向溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部潤滑油路を有するクランク軸のクランクピンを回転自在に支承する、内燃機関のクランク軸用コンロッド軸受において、
前記コンロッド軸受が一対の半円筒形軸受から成り、前記一対の半円筒形軸受は、それぞれ、前記クランクピンの回転方向に対して前方側に位置づけられる前方側円周方向端面、及び後方側に位置づけられる後方側円周方向端面を有し、一方の前記半円筒形軸受の前記前方側円周方向端面ともう一方の前記半円筒形軸受の前記後方側円周方向端面とが当接するようになっており、
少なくとも一方の前記半円筒形軸受において、前記前方側円周方向端面から軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で前方側円周方向溝が形成されており、
対向する前記半円筒形軸受において、前記後方側円周方向端面から軸受内周面に沿って最大中心角45度の範囲内で、前記前方側円周方向溝と連通する後方側円周方向溝が形成されており、
前記前方側円周方向溝及び前記後方側円周方向溝と連通する軸線方向溝が、軸受内周面に沿って軸線方向幅全長に亘って形成されており、
前記前方側円周方向溝と前記後方側円周方向溝と前記軸線方向溝が連通する連通部において、前記前方側円周方向溝の深さが前記後方側円周方向溝の深さよりも大きくなっていることにより、円周方向溝の深さ方向の段差部が形成されている、コンロッド軸受。
【請求項2】
前記連通部において、前記後方側円周方向溝の深さが、前記前方側円周方向溝の深さの0.2〜0.9倍である、請求項1に記載されたコンロッド軸受。
【請求項3】
前記連通部において、前記前方側円周方向溝の深さと前記後方側円周方向溝の深さと前記軸線方向溝の深さとが、次の関係式:
前方側円周方向溝の深さ>軸線方向溝の深さ>後方側円周方向溝の深さ
を満たす、請求項1または請求項2に記載されたコンロッド軸受。
【請求項4】
前記連通部において、前記コンロッド軸受の円周方向から見た前記前方側円周方向溝の溝断面積が、前記コンロッド軸受の軸線方向から見た前記軸線方向溝の溝断面積より大きくなっている、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項5】
前記連通部において、前記前方側円周方向溝の溝幅が、前記後方側円周方向溝の溝幅よりも大きくなっていることにより、円周方向溝の溝幅方向の段差部が形成されている、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項6】
前記前方側円周方向溝が形成された中心角度が、前記後方側円周方向溝が形成された中心角度よりも大きくなっている、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項7】
前記軸線方向溝は、前記前方側円周方向溝が形成された前記前方側円周方向端面の軸受内周面側、または前記後方側円周方向溝が形成された前記後方側円周方向端面の軸受内周面側のうちの少なくとも一方が切除されることにより形成される、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項8】
前記前方側円周方向溝の深さは、前記前方側円周方向端面から離れるに従って次第に小さくなっている、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項9】
一方の前記半円筒形軸受にのみ、前記前方側円周方向溝が形成されている、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項10】
両方の前記半円筒形軸受に、前記前方側円周方向溝が形成されている、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載されたコンロッド軸受を含む内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−57350(P2013−57350A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195543(P2011−195543)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】