説明

内燃機関のデポジット剥離量推定装置およびデポジット堆積量推定装置

【課題】燃料噴射孔近傍における、デポジット剥離量またはデポジット堆積量を正確に推定する。
【解決手段】燃料噴射弁22を備えた内燃機関において燃料噴射孔34の噴孔壁面に堆積しているデポジットの少なくとも一部を噴孔壁面から剥離させる力であるデポジット剥離力に影響を与える要因を表す複数のパラメータを用いてデポジット剥離量を算出することによってデポジット剥離量を推定する。複数のパラメータの少なくとも1つがデポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータであり、複数のパラメータの別の少なくとも1つが燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数Cdまたは該流量係数と相関関係のあるパラメータθs、Ls、dQ、QRである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のデポジット剥離量推定装置およびデポジット堆積量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料が燃焼室内に直接噴射されるように燃料噴射弁が配置された内燃機関が知られている。また、このような内燃機関では、燃料噴射弁の噴孔出口近傍壁面(すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁壁面)に燃焼生成物(すなわち、燃料の燃焼に関連して生成される物質)が堆積することも知られている。そして、このように噴孔出口近傍壁面に燃焼生成物が堆積すると、所期の量の燃料を燃料噴射弁に噴射させるための指令が燃料噴射弁に送られたとしても、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されないことがある。そして、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されない場合、内燃機関の出力特性や排気特性が低下することがある。したがって、燃料噴射弁から所期の量の燃料が噴射されない可能性があるか否かを知るために、噴孔出口近傍壁面に堆積している燃焼生成物の量を知ることは少なからず有用である。特許文献1には、噴孔出口近傍壁面に堆積している燃焼生成物の量(以下、噴孔出口近傍壁面に堆積している燃焼生成物を「デポジット」ともいい、このデポジットの量を「トータルデポジット堆積量」という)を推定する装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
ところで、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、上記燃焼生成物は次々に生成される。ここで、次々に生成される燃焼生成物が全て噴孔出口近傍壁面に堆積し且つ噴孔出口近傍壁面にいったん堆積した燃焼生成物(すなわち、デポジット)が噴孔出口近傍壁面から剥離されないのであれば、次々に生成される燃焼生成物の量を積算すれば、トータルデポジット堆積量を求めることができる。しかしながら、実際には、燃焼生成物が次々に生成される間にも、デポジットが噴孔出口近傍壁面から剥離することもある。したがって、トータルデポジット堆積量を求める場合、次々に生成される燃焼生成物の量を考慮するだけでなく、噴孔出口近傍壁面から剥離するデポジットの量も考慮する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の装置では、所定の期間が経過する度に、同所定期間中に生成された燃焼生成物の量(以下この量を「燃焼生成物の生成量」という)と、同所定の期間中に噴孔出口近傍壁面から剥離したデポジットの量(以下この量を「デポジット剥離量」という)とを求め、燃焼生成物の生成量からデポジット剥離量を差し引くことによって同所定の期間中に噴孔出口近傍壁面に新たに堆積した燃焼生成物の量(以下この量を「デポジット新規堆積量」という)を算出し、このデポジット新規堆積量を積算することによってトータルデポジット堆積量を算出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−57538号公報
【特許文献2】特開2008−231996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の装置では、上記所定の期間中の燃料噴射量(すなわち、燃料噴射弁から噴射された燃料の量)と同所定の期間中の燃焼生成物の生成量とを考慮してデポジット剥離量を求めている。しかしながら、デポジット剥離量をより正確に求め、ひいては、デポジット堆積量をより正確に求めるためには、デポジット剥離量の推定またはデポジット堆積量の推定にこれら燃料噴射量や燃焼生成物の生成量以外の要素を考慮する必要があることが本願の発明者の研究によって明らかになった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、デポジット剥離量またはデポジット堆積量を正確に推定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する壁面である噴孔画成壁面、該噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の入口近傍の燃料噴射弁の壁面、および、前記噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁の壁面の少なくとも1つから構成される噴孔壁面に堆積しているデポジットの少なくとも一部を前記噴孔壁面から剥離させる力であるデポジット剥離力に影響を与える要因を表す複数のパラメータを用いて前記噴孔壁面から剥離するデポジットの量であるデポジット剥離量を算出することによってデポジット剥離量を推定するデポジット剥離量推定装置に関する。そして、本発明では、前記複数のパラメータの少なくとも1つが前記デポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータであり、前記複数のパラメータの別の少なくとも1つが燃料噴射弁の燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータである。
【0009】
本発明によれば、デポジット剥離量を正確に推定することができる。すなわち、デポジット剥離量に影響する要因としてデポジット剥離力を変動させる要因を示すパラメータ(例えば、燃料噴射圧など)が挙げられる。つまり、このパラメータが変動すればデポジット剥離量も変動する。しかしながら、このパラメータが一定であっても噴孔壁面の形状に応じてデポジット剥離量が異なる。つまり、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用が異なる。この剪断作用の強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。さらに、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺のキャビテーションの発生が異なる。このキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。したがって、デポジット剥離量をより正確に推定しようとすれば、デポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を考慮すべきである。ここで、本願の発明者の研究により、流量係数がデポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を代表するパラメータであることが明らかになった。つまり、流量係数が小さいほどデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用の強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。また、流量係数が小さいほどデポジット周辺のキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。そして、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響と同デポジットの剥離量に対する流量係数の影響との間には非常に密接な相関関係があることに着目し、本発明では、燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータを用いてデポジット剥離量を算出するようにしている。このように、本発明では、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に影響する噴孔壁面の形状を代表する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータを用いてデポジット剥離量を算出していることから、本発明によれば、デポジット剥離量を正確に推定することができるのである。
【0010】
なお、本発明は燃料噴射弁の噴孔壁面から剥離するデポジットの量を推定するデポジット剥離量推定装置であるから、本発明は噴孔壁面にデポジットが堆積する燃料噴射弁を備えた内燃機関であれば如何なる内燃機関にも適用可能である。したがって、本発明における燃料噴射弁は、噴孔壁面にデポジットが堆積するのであれば、特定の燃料噴射弁に限定されず、例えば、燃料を燃焼室に直接噴射することができるようにその先端が燃焼室内に露出されているタイプの燃料噴射弁(いわゆる筒内噴射タイプの燃料噴射弁)であってもよいし、燃料を吸気ポート内に噴射することができるようにその先端が吸気ポート内に露出されているタイプの燃料噴射弁(いわゆるポート噴射タイプの燃料噴射弁)であってもよい。
【0011】
また、本発明におけるデポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータは、特定のパラメータに限定されないが、例えば、燃料噴射圧(すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の圧力)である。
【0012】
また、本願の別の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する壁面である噴孔画成壁面、該噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の入口近傍の燃料噴射弁の壁面、および、前記噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁の壁面の少なくとも1つから構成される噴孔壁面に堆積しているデポジットの量であるデポジット堆積量を算出することによってデポジット堆積量を推定するデポジット堆積量推定装置に関する。そして、本発明は、上記発明のデポジット剥離量推定装置を有する。そして、本発明では、デポジットを構成するデポジット構成物質の生成量がデポジット構成物質生成量として推定されると共に前記デポジット剥離量推定装置によってデポジット剥離量が推定される。そして、前記デポジット構成物質生成量から前記デポジット剥離量を差し引くことによってデポジット堆積量が算出される。
【0013】
本発明によれば、デポジット堆積量を正確に推定することができる。すなわち、上述したように、上記発明のデポジット剥離量推定装置によれば、デポジット堆積量を算出するために必要なデポジット剥離量を正確に推定することができる。そして、本発明では、上記発明のデポジット剥離量推定装置がデポジット剥離量の推定に利用される。したがって、デポジット堆積量を正確に推定することができるのである。
【0014】
また、本願のさらに別の発明は、燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する壁面である噴孔画成壁面、該噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の入口近傍の燃料噴射弁の壁面、および、前記噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁の壁面の少なくとも1つから構成される噴孔壁面に堆積しているデポジットの量であるデポジット堆積量を算出することによってデポジット堆積量を推定するデポジット堆積量推定装置に関する。そして、本発明では、デポジットを構成するデポジット構成物質として生成される物質の量がデポジット構成物質生成量として推定されると共に前記噴孔壁面に堆積しているデポジットの少なくとも一部を前記噴孔壁面から剥離させる力であるデポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータを用いて前記噴孔壁面から剥離するデポジットの量であるデポジット剥離量が推定される。そして、前記デポジット構成物質生成量から前記デポジット剥離量を差し引くことによって暫定的なデポジット堆積量が算出される。そして、燃料噴射弁の燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータを前記デポジット剥離力に影響を与える要因として考慮して前記暫定的なデポジット堆積量を補正することによって最終的なデポジット堆積量が算出される。
【0015】
本発明によれば、デポジット堆積量を正確に推定することができる。すなわち、デポジット剥離量に影響する要因としてデポジット剥離力を変動させる要因を示すパラメータ(例えば、燃料噴射圧など)が挙げられる。つまり、このパラメータが変動すればデポジット剥離量も変動する。しかしながら、このパラメータが一定であっても噴孔壁面の形状に応じてデポジット剥離量が異なる。つまり、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用が異なる。この剪断作用の強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。さらに、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺のキャビテーションの発生が異なる。このキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。したがって、デポジット堆積量をより正確に推定しようとすれば、デポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を考慮すべきである。ここで、本願の発明者の研究により、流量係数がデポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を代表するパラメータであることが明らかになった。つまり、流量係数が小さいほどデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用の強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。また、流量係数が小さいほどデポジット周辺のキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。そして、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響と同デポジットの剥離量に対する流量係数の影響との間には非常に密接な相関関係があることに着目し、本発明では、燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータを用いてデポジット堆積量を算出するようにしている。このように、本発明では、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に影響する噴孔壁面の形状を代表する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータを用いてデポジット堆積量を算出していることから、本発明によれば、デポジット堆積量を正確に推定することができるのである。
【0016】
なお、本発明は燃料噴射弁の噴孔壁面に堆積するデポジットの量を推定するデポジット堆積量推定装置であるから、本発明は噴孔壁面にデポジットが堆積する燃料噴射弁を備えた内燃機関であれば如何なる内燃機関にも適用可能である。したがって、本発明における燃料噴射弁は、噴孔壁面にデポジットが堆積するのであれば、特定の燃料噴射弁に限定されず、例えば、燃料を燃焼室に直接噴射することができるようにその先端が燃焼室内に露出されているタイプの燃料噴射弁(いわゆる筒内噴射タイプの燃料噴射弁)であってもよいし、燃料を吸気ポート内に噴射することができるようにその先端が吸気ポート内に露出されているタイプの燃料噴射弁(いわゆるポート噴射タイプの燃料噴射弁)であってもよい。
【0017】
また、本発明におけるデポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータは、特定のパラメータに限定されないが、例えば、燃料噴射圧(すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の圧力)である。
【0018】
また、本願のさらに別の発明では、上記発明において、前記流量係数と相関関係のあるパラメータが燃料噴霧角度、燃料噴霧到達距離、噴孔絞り期間における燃料噴射率、および、基準燃料噴射指令値に対する補正量のうちの少なくとも1つである。
【0019】
なお、本発明の燃料噴霧角度は、詳細には、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射されて形成される燃料噴霧が燃料噴射孔の出口を始点として拡がる角度である。また、本発明の燃料噴霧到達距離は、詳細には、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射されて形成される燃料噴霧が到達することができる燃料噴射孔の出口からの距離である。また、本発明の噴孔絞り期間は、詳細には、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の流れに対して主として燃料噴射孔によって絞りが加えられている期間であり、本発明の燃料噴射率は、詳細には、単位時間当たりに燃料噴射孔から噴射される燃料の量である。また、本発明の基準燃料噴射指令値は、詳細には、要求された量の燃料を燃料噴射弁から噴射させるために燃料噴射弁に与えるべき指令値として予め定められた指令値であり、本発明の基準燃料噴射指令値に対する補正量は、詳細には、要求燃料噴射量(すなわち、燃料噴射弁から噴射させる燃料の量として要求される燃料の量)と実際の燃料噴射量(すなわち、要求燃料噴射量に対応する基準燃料噴射指令値を燃料噴射弁に与えたときに燃料噴射弁から実際に噴射された燃料の量)との間に違いがある場合において実際の燃料噴射量が要求燃料噴射量になるように要求燃料噴射量に対応する基準燃料噴射指令値を補正する量である。
【0020】
本発明によれば、デポジット剥離量の正確な推定をより容易に行うことができる。すなわち、燃料噴霧角度、または、燃料噴霧到達距離、または、燃料噴射率を求めることは、燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数を求めることに比べて容易である。また、基準燃料噴射指令値に対する補正量はデポジット剥離量の算出とは別に基準燃料噴射指令値を補正するものとして用意されるものであるから、当該補正量を取得することは、燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数を求めることに比べて容易である。そして、これら燃料噴霧角度、燃料噴霧到達距離、燃料噴射率、および、基準燃料噴射指令値に対する補正量がそれぞれ流量係数と相関関係のあるパラメータであるのだから、上述した理由と同じ理由から、これらパラメータの少なくとも1つをデポジット剥離量の推定に用いることによってデポジット剥離量が正確に推定される。したがって、デポジット剥離量の正確な推定をより容易に行うことができるのである。
【0021】
また、本願のさらに別の発明では、上記発明において、前記燃料噴射率が噴孔絞り期間における最大燃料噴射率である。
【0022】
本発明によれば、デポジット剥離量の正確な推定をより容易に行うことができる。すなわち、燃料噴射率は、噴孔絞り期間において最大燃料噴射率となる。そして、最大燃料噴射率を求めることは、噴孔絞り期間における最大燃料噴射率以外の燃料噴射率を求めることに比べて容易である。そして、最大燃料噴射率も流量係数と相関関係のあるパラメータであるのだから、上述した理由と同じ理由から、最大燃料噴射率をデポジット剥離量の推定に用いることによってデポジット剥離量が正確に推定される。したがって、デポジット剥離量の正確な推定をより容易に行うことができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のデポジット剥離量推定装置またはデポジット堆積量推定装置が適用される内燃機関を示した図である。
【図2】図1に示された内燃機関の燃料噴射弁の先端部分を示した図である。
【図3】第1実施形態に従ったトータルデポジット堆積量の算出を実行するルーチンを示した図である。
【図4】第2実施形態に従ったトータルデポジット堆積量の算出を実行するルーチンを示した図である。
【図5】図1に示された内燃機関の燃料噴射弁の先端部分を示した図である。
【図6】(A)は流量係数Cdと燃料噴霧角度θsとの間の関係を示した図であり、(B)は流量係数Cdと燃料噴霧到達距離Lsとの間の関係を示した図であり、(C)は流量係数Cdと噴孔絞り期間における燃料噴射率dQとの間の関係を示した図であり、(D)は流量係数Cdと基準燃料噴射指令値に対する補正量QRとの間の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明のデポジット剥離量推定装置の実施形態について説明する。まず、本発明のデポジット剥離量推定装置が適用される内燃機関の構成について説明する。この内燃機関が図1に示されている。図1において、10は内燃機関の本体、11はシリンダブロック、12はシリンダヘッドをそれぞれ示している。シリンダブロック11内には、シリンダボア13が形成されている。シリンダボア13内には、ピストン14が配置されている。ピストン14は、コンロッド15を介してクランクシャフト16に接続されている。一方、シリンダヘッド12には、吸気ポート17と排気ポート18とが形成されている。また、シリンダヘッド12には、吸気ポート17を開いたり閉じたりするための吸気弁19と、排気ポート18を開いたり閉じたりするための排気弁20とが配置されている。また、ピストン14の上壁面とシリンダボア13の内周壁面とシリンダヘッド12の下壁面とによって燃焼室21が画成されている。
【0025】
なお、吸気ポート17は、吸気マニホルド(図示せず)を介して吸気管(図示せず)に接続され、吸気通路の一部を構成する。一方、排気ポート18は、排気マニホルド(図示せず)を介して排気管(図示せず)に接続され、排気通路の一部を構成する。
【0026】
また、シリンダヘッド12には、燃料噴射弁22が配置されている。燃料噴射弁22は、図2に示されているように、ノズル30とニードル31とを有する。ノズル30の内部には、空洞(以下「内部空洞」という)が形成されている。そして、この内部空洞内にニードル31がノズル30の中心軸線(すなわち、燃料噴射弁22の中心軸線)CAに沿って移動可能に収容されている。また、ニードル31の先端部は、テーパ形状にされている。そして、ニードル31がノズル30の内部空洞内に収容されたとき、ノズル30の内周壁面(すなわち、ノズル30の内部空洞を画成する壁面)とニードル31の外周壁面との間に燃料を通すための燃料通路32が形成される。また、ノズル30の先端部における燃料通路32は、いわゆるサック33を形成している(以下、燃料通路32とは、このサック33を除いた燃料通路のことを意味することとする)。さらに、ノズル30の先端部には、複数の燃料噴射孔34が形成されている。これら燃料噴射孔34は、ノズル30内(すなわち、燃料噴射弁22内)のサック33とノズル30の外部(すなわち、燃料噴射弁22の外部)とを連通している。
【0027】
そして、ニードル31のテーパ形状の先端部の外周壁面がノズル30の先端部の内周壁面に当接するようにニードル31がノズル30内に位置決めされたとき、サック33と燃料通路32との間の連通が遮断される。このときには燃料噴射弁22の燃料噴射孔34から燃料は噴射されない。一方、ニードル31のテーパ形状の先端部の外周壁面がノズル30の先端部の内周壁面から離れるようにニードル31がノズル30内において移動せしめられると、サック33と燃料通路32とが互いに連通し、燃料通路32かサック33に燃料が流入する。そして、サック33に流入した燃料は、燃料噴射孔34の入口を介して同燃料噴射孔34に流入し、同燃料噴射孔34を介してその出口から噴射される。
【0028】
また、燃料噴射弁22は、燃焼室21内に燃料を直接噴射するようにシリンダヘッド12に配置されている。云い方を換えれば、燃料噴射弁22は、その燃料噴射孔が燃焼室21内に露出するようにシリンダヘッド12に配置されている。
【0029】
また、燃料噴射弁22は、燃料供給通路23を介して蓄圧室(すなわち、いわゆるコモンレール)24に接続されている。蓄圧室24は、燃料供給通路25を介して燃料タンク(図示せず)に接続されている。蓄圧室24には、燃料タンクから燃料供給通路25を介して燃料が供給される。そして、蓄圧室24には、高圧の燃料が貯留されている。また、燃料噴射弁22には、蓄圧室24から燃料供給通路23を介して高圧の燃料が供給される。また、蓄圧室24には、その内部の燃料の圧力を検出するための圧力センサ26が配置されている。
【0030】
また、シリンダブロック11内には、冷却水を流すための冷却水通路27が形成されている。冷却水通路27は、シリンダボア13を包囲するように形成されている。したがって、少なくとも、冷却水通路27内を流れる冷却水によって燃焼室21内部が冷却される。また、シリンダブロック11には、冷却水通路27内を流れる冷却水の温度を検出するための温度センサ28が配置されている。
【0031】
また、内燃機関は、電子制御装置40を有する。電子制御装置40は、マイクロコンピュータからなり、双方向バス41によって互いに接続されたCPU(マイクロプロセッサ)42、ROM(リードオンリメモリ)43、RAM(ランダムアクセスメモリ)44、バックアップRAM45、および、インターフェース46を有する。インターフェース46は、燃料噴射弁22、圧力センサ26、および、温度センサ28に接続されている。電子制御装置40は、燃料噴射弁22の動作を制御すると共に、圧力センサ26から燃料の圧力に対応する出力値を受け取り、温度センサ28から冷却水の温度に対応する出力値を受け取る。
【0032】
次に、上述した内燃機関に適用される本発明のデポジット剥離量推定装置およびデポジット堆積量推定装置の実施形態について説明する。なお、以下の説明において「噴孔画成壁面」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する燃料噴射弁壁面」であり、「噴孔入口近傍壁面」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔の入口近傍において噴孔画成壁面に隣接する燃料噴射弁壁面」であり、「噴孔出口近傍壁面」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔の出口近傍において噴孔画成壁面に隣接する燃料噴射弁壁面」である。また「燃焼生成物」は「燃料の燃焼に関連して生成される物質」であり、「燃焼ガス」は「燃焼室内で燃料が燃焼することによって発生するガス」であり、「燃料噴射」とは「燃料噴射弁の燃料噴射孔からの燃料の噴射」であり、「燃料噴射圧」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の圧力」であり、「噴孔温度」は「燃料噴射弁の燃料噴射孔内部の温度」である。
【0033】
燃料が燃焼室内に直接噴射されるように燃料噴射弁が配置されている内燃機関では、燃料噴射弁の噴孔出口近傍壁面に燃焼生成物が堆積することが知られている。また、燃料中の金属成分(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなど)が燃焼ガスと反応することによって金属成分由来の燃焼生成物(例えば、低級カルボン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩などであり、以下この燃焼生成物を「金属由来生成物」という)が生成され、この金属由来生成物も噴孔出口近傍壁面に堆積することが本願の発明者の研究により明らかとなった。また、この金属由来生成物は噴孔画成壁面や噴孔入口近傍壁面にも堆積することが本願の発明者の研究により明らかとなった。以下、この金属由来生成物について簡単に説明する。
【0034】
従来、噴孔画成壁面や噴孔入口近傍壁面には燃焼生成物が堆積することはないものと認識されていた。しかしながら、本願の発明者の研究によれば、上述したように、噴孔出口近傍壁面だけでなく噴孔画成壁面や噴孔入口近傍壁面にも金属由来生成物の形態の燃焼生成物が堆積することが明らかとなった。このように噴孔画成壁面や噴孔入口近傍壁面にも金属由来生成物が堆積する理由は以下のように推察される。すなわち、燃料噴射弁が燃料を燃焼室内に直接噴射するように、すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔が燃焼室内部に露出するように燃料噴射弁が内燃機関に配置されている場合、燃焼ガスが燃料噴射孔に入り込み、この燃焼ガスが燃料噴射孔内およびその入口近傍において燃料と反応し、金属由来生成物が生成される。そして、この金属由来生成物の壁面への付着力が比較的強いことから、燃料噴射孔内およびその入口において強い燃料の流れがあるにも係わらず、噴孔画成壁面および噴孔入口近傍壁面に付着し堆積する。これが金属由来生成物が噴孔画成壁面や噴孔入口近傍壁面にも堆積する理由であると推察されるのである。
【0035】
ところで、このように噴孔出口近傍壁面、噴孔画成壁面、および、噴孔入口近傍壁面(以下これら壁面をまとめて「噴孔壁面」という)に金属由来生成物を含む燃焼生成物(以下、この燃焼生成物には金属由来生成物が含まれるものとする)が堆積していると、この噴孔壁面に堆積している燃焼生成物(以下このように噴孔壁面に堆積している燃焼生成物を「デポジット」という)が燃料の流れを阻害してしまう。したがって、本来であれば要求されている量(以下この量を「要求燃料噴射量」という)の燃料を燃料噴射弁に噴射させることができる指令値が燃料噴射弁に与えられたとしても、要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない可能性がある。
【0036】
そして、要求燃料噴射量の燃料が燃料噴射弁から噴射されない場合、内燃機関の出力特性や排気特性が低下してしまう可能性がある。したがって、こうした内燃機関の出力特性や排気特性の低下を抑制し或いは改善しようとする場合にはこうした特性の低下が生じる可能性の有無を知ることは不可欠であるし、こうした特性の低下が生じる可能性の有無を知ることは少なからず有用である。そして、こうした特性の低下が生じる可能性の有無を知るためには、噴孔壁面に堆積しているデポジットの量(以下この量を「トータルデポジット堆積量」という)を正確に知ることが必要である。
【0037】
ところで、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、燃料噴射弁から次々に燃料が噴射されるのであるから、燃焼生成物は次々に生成される。ここで、このように次々に生成される燃焼生成物が全て噴孔壁面に堆積し且つ噴孔壁面にいったん堆積した燃焼生成物(すなわち、デポジット)が噴孔壁面から剥離されないのであれば、次々に生成される燃料生成物の量を積算すれば、トータルデポジット堆積量を正確に求めることができる。
【0038】
しかしながら、実際には、燃焼生成物が次々に生成され、これら燃焼生成物が噴孔壁面に堆積する間にも、デポジットが噴孔壁面から剥離することがある。つまり、トータルデポジット堆積量を正確に求めようとする場合、次々に生成される燃焼生成物の量を考慮するだけでなく、噴孔壁面から剥離するデポジットの量も考慮する必要がある。
【0039】
そこで、本発明の実施形態の1つ(以下「第1実施形態」という)では、次式1に従って所定期間(すなわち、予め定められた期間)中のデポジット剥離量(以下このデポジット剥離量を「デポジット新規剥離量」という)Xrが算出される。なお、所定期間は、特に制限されるものではなく、任意に設定されればよく、例えば、特定の燃料噴射弁において連続する2回の燃料噴射の間の期間である。
【0040】
Xr=b×Pin+c×(1/Cd) …(1)
【0041】
なお、式1の「Pin」は「上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧(以下単に「燃料噴射圧」という)」である。この燃料噴射圧は、例えば、上記所定期間中の特定の時点における圧力センサ26の出力値から求められる。もちろん、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧に代えて、上記所定期間中の平均の燃料噴射圧が用いられてもよい。また、式1の「Cd」は「燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数(以下単に「流量係数」という)」である。この流量係数は、例えば、予め実験等によって求められる係数である。もちろん、機関運転中に流量係数を適宜測定する手段があるのであれば、斯くして測定される流量係数が用いられてもよい。また、式1の「b」は、燃料噴射圧Pinに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。また、式1の「c」は、流量係数に関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。式1に示されているように、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinに関連して把握可能なデポジット剥離量b×Pinと流量係数Cdに関連して把握可能なデポジット剥離量c×(1/Cd)との合計である。別の云い方をすれば、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinと流量係数Cdとの関数でもって算出される。そして、式1に従って算出されるデポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinが高いほど多く、流量係数Cdが小さいほど多い。
【0042】
ところで、第1実施形態では、次式2に従って上記所定期間中の燃焼生成物の生成量(以下この生成量を「燃焼生成物新規生成量」という)Xpが算出される。
【0043】
Xp=Cm×a×Tn …(2)
【0044】
なお、式2の「Cm」は「燃料中の金属成分の濃度(以下単に「金属成分濃度」という)である。この金属成分濃度は、例えば、予め測定された濃度でもよいし、機関運転中に適宜測定される濃度でもよい。また、式2の「Tn」は「上記所定期間中の特定の時点における噴孔温度(以下単に「噴孔温度」という)」である。この噴孔温度は、例えば、上記所定期間中の特定の時点における温度センサ28の出力値から求められる。もちろん、上記所定期間中の特定の時点における噴孔温度に代えて、上記所定期間中の平均の噴孔温度が用いられてもよい。また、式2の「Tn」は、この噴孔温度に制限されず、例えば、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射弁の燃料噴射孔の出口近傍の雰囲気の温度でもよいし、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射弁の燃料噴射孔の入口近傍の雰囲気の温度でもよい。もちろん、これら温度以外に燃焼生成物新規生成量に影響を与える温度であれば、如何なる温度が用いられてもよい。また、式2の「a」は、金属成分濃度Cmおよび噴孔温度Tnに関連する燃焼生成物新規生成量が正確に算出されるように適合された係数である。式2に示されているように、燃焼生成物新規生成量Xpは、金属成分濃度Cmと噴孔温度Tnとの積に基づいて算出される。別の云い方をすれば、燃焼生成物新規生成量Xpは金属成分濃度Cmと噴孔温度Tnとの関数でもって算出される。なお、式2に従って算出される燃焼生成物新規生成量Xpは、金属成分濃度Cmが高いほど多くなり、噴孔温度Tnが高いほど多い。
【0045】
そして、第1実施形態では、次式3に従って上記所定期間中のデポジット堆積量(以下このデポジット堆積量を「デポジット新規堆積量」という)Xdが算出される。
【0046】
Xd=Xp−Xr …(3)
【0047】
なお、式3の「Xp」は、式2に従って算出される燃焼生成物新規生成量である。式3の「Xr」は、式1に従って算出されるデポジット新規剥離量である。式3に示されているように、デポジット新規堆積量Xdは、燃焼生成物新規生成量Xpからデポジット新規剥離量Xrを差し引くことによって算出される。
【0048】
そして、第1実施形態では、次式4に従って現在のトータルデポジット堆積量TXdが算出される。
【0049】
TXd=TXd+Xd …(4)
【0050】
なお、式4の左辺の「TXd」は、式4に従って今回算出されるトータルデポジット堆積量である。また、式4の右辺の「TXd」は、式4に従って前回算出されたトータルデポジット堆積量である。また、式4の「Xd」は、式3に従って今回算出されたデポジット新規堆積量である。式4に示されているように、トータルデポジット堆積量TXdは、デポジット新規堆積量Xdを積算することによって算出される。
【0051】
第1実施形態によれば、デポジット新規剥離量を正確に推定することができる。すなわち、デポジット新規剥離量に影響する要因として燃料噴射圧が挙げられる。つまり、燃料噴射圧が高いほどデポジット新規剥離量が多くなる。しかしながら、燃料噴射圧が一定であっても噴孔壁面の形状に応じてデポジット新規剥離量が異なる。つまり、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用が異なる。この剪断作用の強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。さらに、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺のキャビテーションの発生が異なる。このキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。したがって、デポジット新規剥離量をより正確に推定しようとすれば、デポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を考慮すべきである。ここで、本願の発明者の研究により、流量係数がデポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を代表するパラメータであることが明らかになった。つまり、流量係数が小さいほどデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用の強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。また、流量係数が小さいほどデポジット周辺のキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。そして、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響と同デポジットの剥離量に対する流量係数の影響との間には非常に密接な相関関係があることに着目し、第1実施形態では、流量係数をパラメータとして含む式1に従ってデポジット新規剥離量を算出するようにしている。このように、第1実施形態では、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に影響する噴孔壁面の形状を代表する流量係数を用いてデポジット新規剥離量を算出していることから、第1実施形態によれば、デポジット新規剥離量を正確に推定することができるのである。
【0052】
また、第1実施形態によれば、デポジット新規剥離量の算出に噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を比較的容易に反映させることができるとも言える。すなわち、このデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を噴孔壁面の形状そのものを用いてデポジット新規剥離量の算出に反映させようとした場合、噴孔壁面の形状を数値として把握しなければならない。しかしながら、噴孔壁面の形状を数値として把握することは困難である。一方、燃料噴射孔を流れる燃料の流れに関する流量係数を求めることは噴孔壁面の形状を数値化することよりも容易である。ここで、第1実施形態では、この流量係数をデポジット新規剥離量の算出に反映させており、この流量係数が噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響と密接な相関関係があることから、第1実施形態によれば、デポジット新規剥離量の算出に噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を比較的容易に反映させることができると言えるのである。
【0053】
また、第1実施形態によれば、トータルデポジット堆積量を算出するために必要なデポジット剥離量を正確に推定することができることから、トータルデポジット堆積量を正確に推定することができる。
【0054】
なお、第1実施形態では、噴孔壁面に堆積しているデポジットの量であるトータルデポジット堆積量が推定されるが、第1実施形態に含まれる本発明の考え方は噴孔壁面に堆積しているデポジットの厚みを推定する場合にも適用可能である。
【0055】
また、第1実施形態では、噴孔出口近傍壁面、噴孔画成壁面、および、噴孔入口近傍壁面から剥離するデポジット新規剥離量が推定され、そして、これら壁面に堆積するデポジット新規堆積量およびトータルデポジット堆積量が推定されるが、第1実施形態に含まれる本発明の考え方は噴孔出口近傍壁面、噴孔画成壁面、および、噴孔入口近傍壁面のいずれか1つの壁面から剥離するデポジット新規剥離量を推定し、そして、当該1つの壁面に堆積するデポジット新規堆積量およびトータルデポジット堆積量を推定する場合にも適用可能である。
【0056】
また、燃焼生成物新規生成量を算出するために利用される式2に「燃料中の金属濃度」がパラメータとして含まれていることから、第1実施形態が噴孔壁面に堆積するデポジットの全て又は殆どが金属由来生成物から構成されていることを前提とした実施形態であることが判る。しかしながら、式2の代わりに、噴孔壁面に堆積するデポジットの全て又は殆どが金属由来生成物以外の燃焼生成物から構成されていることを前提にした場合において燃焼生成物新規生成量を算出するための式が用いられてもよいし、噴孔壁面に堆積するデポジットが金属由来生成物およびそれ以外の燃焼生成物から構成されていることを前提とした場合において燃焼生成物新規生成量を算出するための式が用いられてもよい。
【0057】
なお、噴孔壁面に堆積するデポジットの全て又は殆どが金属由来生成物から構成されている場合とは、燃料噴射圧(すなわち、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の圧力)が比較的高い場合である。つまり、従来、噴孔壁面に堆積するデポジットとして認識されている燃焼生成物は金属由来生成物(例えば、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどの低級カルボン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩など)とは異なる燃焼生成物であり、こうした燃焼生成物からなるデポジットは燃料噴射圧が実用の範囲内において比較的高い圧力であれば燃料噴射孔内を流れる燃料によって噴孔壁面から剥離せしめられる。しかしながら、金属由来生成物からなるデポジットは燃料噴射圧が実用の範囲内において比較的高い圧力であったとしても燃料噴射孔内を流れる燃料によって噴孔壁面から容易には剥離せしめられない。このため、噴孔壁面に堆積するデポジットの全て又は殆どが金属由来生成物から構成されている場合とは、燃料噴射孔が比較的高い場合なのである。
【0058】
また、デポジット新規堆積量を積算し続けることによってその時々のトータルデポジット堆積量を算出することができる。しかしながら、噴孔壁面に堆積可能なデポジットの量には限界がある。そして、この噴孔壁面に堆積可能なデポジットの量の限界値(以下この限界値を「飽和デポジット堆積量」という)は、燃料噴射圧に依存する。詳細には、燃料噴射圧が高いほど飽和デポジット堆積量が少なくなる。そこで、第1実施形態において、トータルデポジット堆積量を算出する毎に燃料噴射圧に応じた飽和デポジット堆積量を算出し、算出されたトータルデポジット堆積量が飽和デポジット堆積量以上であるときにはトータルデポジット堆積量を飽和デポジット堆積量に制限するようにしてもよい。
【0059】
また、デポジットを構成する金属由来生成物として、低級カルボン酸塩、炭酸塩、および、シュウ酸塩がある。これら金属由来生成物のうち炭酸塩は、その周囲の温度が或る温度以上になると分解してしまう。そこで、第1実施形態において、トータルデポジット堆積量を算出する毎にデポジットの周囲の温度を取得し、取得された温度が所定の温度(すなわち、炭酸塩の分解温度)以上であるときにトータルデポジット堆積量のうち炭酸塩からなるデポジットの量を零としてトータルデポジット堆積量を算出するようにしてもよい。なお、上記所定の温度は、炭酸塩が分解する温度として実験等によって求められ、予め定められた温度であれば如何なる温度でもよいが、一例を挙げれば、概ね300℃である。
【0060】
もちろん、このことを低級カルボン酸塩やシュウ酸塩に関して同様に適用してもよい。すなわち、デポジットを構成する低級カルボン酸塩が分解してしまう温度が予め判っているのであれば、第1実施形態において、トータルデポジット堆積量を算出する毎にデポジットの周囲の温度を取得し、取得された温度が所定の温度(すなわち、低級カルボン酸塩の分解温度)以上であるときにトータルデポジット堆積量のうち低級カルボン酸塩からなるデポジットの量を零としてトータルデポジット堆積量を算出するようにしてもよい。また、取得された温度が所定の温度(すなわち、シュウ酸塩の分解温度)以上であるときにトータルデポジット堆積量のうちシュウ酸塩からなるデポジットの量を零としてトータルデポジット堆積量を算出するようにしてもよい。
【0061】
次に、第1実施形態に従ったトータルデポジット堆積量の算出を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図3に示されている。なお、このルーチンは、上記所定期間が経過する毎に実行される。
【0062】
図3のルーチンが開始されると、ステップ100において燃料噴射圧Pin、噴孔温度Tn、金属成分濃度Cm、および、流量係数Cdが取得される。次いで、ステップ101において、ステップ100で取得された燃料噴射圧Pinに基づいて飽和デポジット堆積量TXdmaxが算出される。次いで、ステップ102において、ステップ100で取得された噴孔温度Tnおよび金属成分濃度Cmを上式2に適用することによって燃焼生成物新規生成量Xpが算出されると共に、ステップ100で取得された燃料噴射圧Pinおよび流量係数Cdを上式1に適用することによってデポジット新規剥離量Xrが算出される。
【0063】
次いで、ステップ103において、ステップ102で算出された燃焼生成物新規生成量Xpおよびデポジット新規剥離量Xrを上式3に適用することによってデポジット新規堆積量Xdが算出される。次いで、ステップ104において、ステップ103で算出されたデポジット新規堆積量Xdを上式4に適用することによってトータルデポジット堆積量TXdが算出される。
【0064】
次いで、ステップ105において、ステップ104で算出されたトータルデポジット堆積量TXdがステップ101で算出された飽和デポジット堆積量TXdmaxよりも少ない(TXd<TXdmax)か否かが判別される。ここで、TXd<TXdmaxであると判別されたときには、ルーチンはステップ106に進む。一方、TXd≧TXdmaxであると判別されたときには、ルーチンはステップ107に進む。
【0065】
ルーチンがステップ106に進むと、ステップ104で算出されたトータルデポジット堆積量TXdがそのまま現在のトータルデポジット堆積量とされ、ルーチンが終了する。
【0066】
一方、ルーチンがステップ107に進むと、ステップ101で算出された飽和デポジット堆積量TXdmaxが現在のトータルデポジット堆積量とされ、ルーチンが終了する。
【0067】
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、次式5に従って所定期間(すなわち、予め定められた期間)中のデポジット剥離量(すなわち、デポジット新規剥離量)Xrが算出される。なお、所定期間は、特に制限されるものではなく、任意に設定されればよく、例えば、特定の燃料噴射弁において連続する2回の燃料噴射の間の期間である。
【0068】
Xr=b×Pin …(5)
【0069】
なお、式5の「Pin」は「上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧(以下単に「燃料噴射圧」という)」である。この燃料噴射圧は、例えば、上記所定期間中の特定の時点における圧力センサ26の出力値から求められる。もちろん、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射圧に代えて、上記所定期間中の平均の燃料噴射圧が用いられてもよい。また、式5の「b」は、燃料噴射圧Pinに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。式5に示されているように、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射孔Pinに関連して把握可能なデポジット剥離量b×Pinである。別の云い方をすれば、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射孔Pinの関数でもって算出される。そして、式5に従って算出されるデポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射孔Pinが高いほど多い。
【0070】
そして、第2実施形態では、次式6に従って上記所定期間中の燃焼生成物の生成量(すなわち、燃焼生成物新規生成量)Xpが算出される。
【0071】
Xp=Cm×a×Tn …(6)
【0072】
なお、式6の「Cm」は「燃料中の金属成分の濃度(すなわち、金属成分濃度)」である。この金属成分濃度は、例えば、予め測定された濃度でもよいし、機関運転中に適宜測定される濃度でもよい。また、式6の「Tn」は「上記所定期間中の特定の時点における噴孔温度(以下単に「噴孔温度」という)」である。この噴孔温度は、例えば、上記所定期間中の特定の時点における温度センサ28の出力値から求められる。もちろん、上記所定期間中の特定の時点における噴孔温度に代えて、上記所定期間中の平均の噴孔温度が用いられてもよい。また、式2の「Tn」は、この噴孔温度に限定されず、例えば、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射弁の燃料噴射孔の出口近傍の雰囲気の温度でもよし、上記所定期間中の特定の時点における燃料噴射弁の燃料噴射孔の入口近傍の雰囲気の温度でもよい。もちろん、これら温度以外に燃焼生成物新規生成量に影響を与える温度であれば、如何なる温度が用いられてもよい。また、式6の「a」は、金属成分濃度Cmおよび噴孔温度Tnに関連する燃焼生成物新規生成量が正確に算出されるように適合された係数である。式6に示されているように、燃焼生成物新規生成量Xpは、金属成分濃度Cmと噴孔温度Tnとの積に基づいて算出される。別の云い方をすれば、燃焼生成物新規生成量Xpは、金属成分濃度Cmと噴孔温度Tnとの関数でもって算出される。そして、式6に従って算出される燃焼生成物新規生成量Xpは、金属成分濃度Cmが高いほど多く、噴孔温度Tnが高いほど多い。
【0073】
そして、第2実施形態では、次式7に従って上記所定期間中のデポジット堆積量(すなわち、暫定デポジット新規堆積量)PXdが算出される。
【0074】
PXd=Xp−Xr …(7)
【0075】
なお、式7の「Xp」は、式6に従って算出される燃焼生成物新規生成量である。また、式7の「Xr」は、式5に従って算出されるデポジット新規剥離量である。式7に示されているように、暫定デポジット新規堆積量PXdは、燃焼生成物新規生成量Xpからデポジット新規剥離量Xrを差し引くことによって算出される。
【0076】
そして、第2実施形態では、次式8に従って最終的なデポジット新規堆積量Xdが算出される。
【0077】
Xd=F(PXd,Cd) …(8)
【0078】
なお、式8の「PXd」は、式7に従って算出される暫定デポジット新規堆積量である。また、式8の「Cd」は「燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数(以下単に「流量係数」という)である。この流量係数は、例えば、予め実験等によって求められる係数である。もちろん、機関運転中に流量係数を適宜測定する手段があるのであれば、斯くして測定される流量係数が用いられてもよい。また、式8の「F(PXd,Cd)」は、暫定デポジット新規堆積量PXdと流量係数Cdとの関数であり、これら暫定デポジット新規堆積量と流量係数とに基づいてデポジット新規堆積量を正確に算出することができるように適合された関数である。そして、式8に従って算出されるデポジット新規堆積量Xdは、暫定デポジット新規堆積量多いほど多く、流量係数が小さいほど少ない(つまり、流量係数が小さいほどデポジットの剥離量が多い)。
【0079】
そして、第2実施形態では、次式9に従って現在のトータルデポジット堆積量TXdが算出される。
【0080】
TXd=TXd+Xd …(9)
【0081】
なお、式9の左辺の「TXd」は、式9に従って今回算出されるトータルデポジット堆積量である。また、式9の右辺の「TXd」は、式9に従って前回算出されたトータルデポジット堆積量である。また、式9の「Xd」は、式8に従って今回算出されたデポジット新規堆積量である。そして、式9に示されているように、トータルデポジット堆積量TXdは、デポジット新規堆積量Xdを積算することによって算出される。
【0082】
第2実施形態によれば、トータルデポジット堆積量を正確に推定することができる。すなわち、デポジット新規剥離量に影響する要因として燃料噴射圧が挙げられる。つまり、燃料噴射圧が高いほどデポジット新規剥離量が多くなる。しかしながら、燃料噴射圧が一定であっても噴孔壁面の形状に応じてデポジット新規剥離量が異なる。つまり、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用が異なる。この剪断作用の強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。さらに、噴孔壁面の形状に応じてデポジット周辺のキャビテーションの発生が異なる。このキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きければ噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多くなる。したがって、トータルデポジット堆積量をより正確に推定しようとすれば、デポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を考慮すべきである。ここで、本願の発明者の研究により、流量係数がデポジット剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を代表するパラメータであることが明らかになった。つまり、流量係数が小さいほどデポジット周辺を流れる燃料からデポジットに与えられる剪断作用の強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。また、流量係数が小さいほどデポジット周辺のキャビテーションにおけるエロ−ジョンの強度が大きく、したがって、噴孔壁面からのデポジットの剥離量が多い。そして、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響と同デポジットの剥離量に対する流量係数の影響との間には非常に密接な相関関係があることに着目し、第2実施形態では、式7に従って暫定的なデポジット新規堆積量として算出された暫定デポジット新規堆積量を式8に従って流量係数でもって補正することによって最終的なデポジット新規堆積量を算出するようにしている。このように、第2実施形態では、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に影響する噴孔壁面の形状を代表する流量係数を用いて最終的なデポジット新規堆積量を算出していることから、第2実施形態によれば、トータルデポジット堆積量を正確に推定することができるのである。
【0083】
また、第2実施形態によれば、トータルデポジット堆積量の算出に噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を比較的容易に反映させることができるとも言える。すなわち、このデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を噴孔壁面の形状そのものを用いてトータルデポジット堆積量の算出に反映させようとした場合、噴孔壁面の形状を数値として把握しなければならない。しかしながら、噴孔壁面の形状を数値として把握することは困難である。一方、燃料噴射孔を流れる燃料の流れに関する流量係数を求めることは噴孔壁面の形状を数値化することよりも容易である。ここで、第2実施形態では、この流量係数をトータルデポジット堆積量の算出に反映させており、この流量係数が噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響と密接な相関関係があることから、第2実施形態によれば、トータルデポジット堆積量の算出に噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響を比較的容易に反映させることができると言えるのである。
【0084】
なお、第2実施形態では、噴孔壁面に堆積しているデポジットの量であるトータルデポジット堆積量が推定されるが、第2実施形態に含まれる本発明の考え方は噴孔壁面に堆積しているデポジットの厚みを推定する場合にも適用可能である。
【0085】
また、第2実施形態では、噴孔出口近傍壁面、噴孔画成壁面、および、噴孔入口近傍壁面から剥離するデポジット新規剥離量が推定され、そして、これら壁面に堆積する暫定デポジット新規堆積量、最終的なデポジット新規堆積量、および、トータルデポジット堆積量が推定されるが、第2実施形態に含まれる本発明の考え方は噴孔出口近傍壁面、噴孔画成壁面、および、噴孔入口近傍壁面のいずれか1つの壁面から剥離するデポジット新規剥離量を推定し、そして、当該1つの壁面に堆積する暫定デポジット新規堆積量、最終的なデポジット新規堆積量、および、トータルデポジット堆積量を推定する場合にも適用可能である。
【0086】
なお、燃焼生成物新規生成量を算出するために利用される式6に「燃料中の金属濃度」がパラメータとして含まれていることから、第2実施形態が噴孔壁面に堆積するデポジットの全て又は殆どが金属由来生成物から構成されていることを前提とした実施形態であることが判る。しかしながら、式6の代わりに、噴孔壁面に堆積するデポジットの全て又は殆どが金属由来生成物以外の燃焼生成物から構成されていることを前提にした場合において燃焼生成物新規生成量を算出するための式が用いられてもよいし、噴孔壁面に堆積するデポジットが金属由来生成物およびそれ以外の燃焼生成物から構成されていることを前提とした場合において燃焼生成物新規生成量を算出するための式が用いられてもよい。
【0087】
また、デポジット新規堆積量を積算し続けることによってその時々のトータルデポジット堆積量を算出することができる。しかしながら、噴孔壁面に堆積可能なデポジットの量には限界がある。そして、この噴孔壁面に堆積可能なデポジットの量の限界値(以下この限界値を「飽和デポジット堆積量」という)は、燃料噴射圧に依存する。詳細には、燃料噴射圧が高いほど飽和デポジット堆積量が少なくなる。そこで、第2実施形態において、トータルデポジット堆積量を算出する毎に燃料噴射圧に応じた飽和デポジット堆積量を算出し、算出されたトータルデポジット堆積量が飽和デポジット堆積量以上であるときにはトータルデポジット堆積量を飽和デポジット堆積量に制限するようにしてもよい。
【0088】
また、デポジットを構成する金属由来生成物として、低級カルボン酸塩、炭酸塩、および、シュウ酸塩がある。これら金属由来生成物のうち炭酸塩は、その周囲の温度が或る温度以上になると分解してしまう。そこで、第2実施形態において、トータルデポジット堆積量を算出する毎にデポジットの周囲の温度を取得し、取得された温度が所定の温度(すなわち、炭酸塩の分解温度)以上であるときにトータルデポジット堆積量のうち炭酸塩からなるデポジットの量を零としてトータルデポジット堆積量を算出するようにしてもよい。なお、上記所定の温度は、炭酸塩が分解する温度として実験等によって求められ、予め定められた温度であれば如何なる温度でもよいが、一例を挙げれば、概ね300℃である。
【0089】
もちろん、このことを低級カルボン酸塩やシュウ酸塩に関して同様に適用してもよい。すなわち、デポジットを構成する低級カルボン酸塩が分解してしまう温度が予め判っているのであれば、第2実施形態において、トータルデポジット堆積量を算出する毎にデポジットの周囲の温度を取得し、取得された温度が所定の温度(すなわち、低級カルボン酸塩の分解温度)以上であるときにトータルデポジット堆積量のうち低級カルボン酸塩からなるデポジットの量を零としてトータルデポジット堆積量を算出するようにしてもよい。また、取得された温度が所定の温度(すなわち、シュウ酸塩の分解温度)以上であるときにトータルデポジット堆積量のうちシュウ酸塩からなるデポジットの量を零としてトータルデポジット堆積量を算出するようにしてもよい。
【0090】
次に、第2実施形態に従ったトータルデポジット堆積量の算出を実行するルーチンについて説明する。このルーチンの一例が図4に示されている。なお、このルーチンは、上記所定期間が経過する毎に実行される。
【0091】
図4のルーチンが開始されると、ステップ200において燃料噴射圧Pin、噴孔温度Tn、金属成分濃度Cm、および、流量係数Cdが取得される。次いで、ステップ201において、ステップ200で取得された燃料噴射圧Pinに基づいて飽和デポジット堆積量TXdmaxが算出される。次いで、ステップ202において、ステップ200で取得された噴孔温度Tnおよび金属成分濃度Cmを上式6に適用することによって燃焼生成物新規生成量Xpが算出されると共に、ステップ200で取得された燃料噴射圧Pinを上式5に適用することによってデポジット新規剥離量Xrが算出される。
【0092】
次いで、ステップ202Aにおいて、ステップ202で算出された燃焼生成物新規生成量Xpおよびデポジット新規剥離量Xrを上式7に適用することによって暫定デポジット新規堆積量PXdが算出される。次いで、ステップ203において、ステップ202Aで算出された暫定デポジット新規堆積量PXdおよびステップ200で取得された流量係数Cdを上式8に適用することによって最終的なデポジット新規堆積量Xdが算出される。次いで、ステップ204において、ステップ203で算出されたデポジット新規堆積量Xdを上式9に適用することによってトータルデポジット堆積量TXdが算出される。
【0093】
次いで、ステップ205において、ステップ204で算出されたトータルデポジット堆積量TXdがステップ201で算出された飽和デポジット堆積量TXdmaxよりも少ない(TXd<TXdmax)か否かが判別される。ここで、TXd<TXdmaxであると判別されたときには、ルーチンはステップ206に進む。一方、TXd≧TXdmaxであると判別されたときには、ルーチンはステップ207に進む。
【0094】
ルーチンがステップ206に進むと、ステップ204で算出されたトータルデポジット堆積量TXdがそのまま現在のトータルデポジット堆積量とされ、ルーチンが終了する。
【0095】
一方、ルーチンがステップ207に進むと、ステップ201で算出された飽和デポジット堆積量TXdmaxが現在のトータルデポジット堆積量とされ、ルーチンが終了する。
【0096】
ところで、上述した実施形態では、噴孔壁面からのデポジットの剥離量に対する噴孔壁面の形状の影響をトータルデポジット堆積量の算出に反映させるためにトータルデポジット堆積量の算出に流量係数を用いている。しかしながら、流量係数に代えて当該流量係数と密接な相関関係を有するパラメータを用いるようにしてもよい。このパラメータは、流量係数と密接な相関関係を有するものであればよく、特定のパラメータに限定されないが、例えば、燃料噴霧角度、燃料噴霧到達距離、噴孔絞り期間における燃料噴射率、基準燃料噴射指令値に対する補正量などである。
【0097】
ここで、燃料噴霧角度は、詳細には、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射されて形成される燃料噴霧が燃料噴射孔の出口を始点として拡がる角度(図5に参照符号θsで示されている角度)である。
【0098】
また、燃料噴霧到達距離は、詳細には、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射されて形成される燃料噴霧が到達することができる距離(図5に参照符号Lsで示されている距離)である。
【0099】
また、噴孔絞り期間における燃料噴射率は、詳細には、噴孔絞り期間において単位時間当たりに燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の量であり、噴孔絞り期間は、詳細には、燃料噴射弁の燃料噴射孔から噴射される燃料の流れに対して主として燃料噴射孔によって絞りが加えられている期間である。つまり、燃料噴射弁のニードルが燃料噴射孔からの燃料の噴射を遮断している状態(すなわち、ニードルのテーパ形状の先端部の外周壁面がノズルの先端部の内周壁面に当接するようにニードルがノズル内に位置決めされている状態であって、以下この状態を「全閉状態」という)にあるとき、燃料噴射率は零である。ニードルがこの全閉状態から全開状態(すなわち、ニードルのテーパ形状の先端部の外周壁面がノズルの先端部の内周壁面から最も離れた位置にあるようにニードルがノズル内に位置決めされている状態)に向かって移動され始めると、初期段階では、ニードルのテーパ形状の先端部の外周壁面とノズルの先端部の内周壁面との間の空間が燃料噴射孔から噴射される燃料の流れに対する絞りになる。しかしながら、ニードルが全開状態に向かって移動され続けると、ニードルのテーパ形状の先端部の外周壁面とノズルの先端部の内周壁面との間の空間が十分に大きくなることから、燃料噴射孔から噴射される燃料の流れに対する絞りがこの空間から徐々に燃料噴射孔に移行する。そして、やがては、燃料噴射孔から噴射される燃料の流れに対する絞りが主に燃料噴射孔となる。このように燃料噴射孔から噴射される燃料の流れに対する絞りが主に燃料噴射孔となっている期間が噴孔絞り期間である。そして、この噴孔絞り期間における単位時間当たりに燃料噴射孔から噴射される燃料の量が噴孔絞り期間における燃料噴射率である。
【0100】
なお、噴孔絞り期間における燃料噴射率は、噴孔絞り期間中の特定の時点における燃料噴射率であってもよいし、噴孔絞り期間中の平均の燃料噴射率であってもよい。また、噴孔絞り期間において燃料噴射率を求める場合、比較的容易に求められる燃料噴射率は最大燃料噴射率である。そこで、噴孔絞り期間における燃料噴射率として噴孔絞り期間における最大燃料噴射率が用いられてもよい。
【0101】
また、基準燃料噴射指令値に対する補正量は、詳細には、以下のように設定される補正量である。基準とする燃料噴射弁から要求燃料噴射量(すなわち、燃料噴射弁から噴射させる燃料の量として要求される燃料の量)の燃料を噴射させるために燃料噴射弁に与えるべき指令値が基準燃料噴射指令値として予め求められる。そして、個々の燃料噴射弁に基準燃料噴射指令値を与えたときの実際の燃料噴射量(すなわち、各燃料噴射弁から実際に噴射される燃料の量)と要求燃料噴射量との間に違いがある場合において、実際の燃料噴射量が要求燃料噴射量になるように要求燃料噴射量に対応する基準燃料噴射指令値を補正する量が設定される。この量が基準燃料噴射指令値に対する補正量である。
【0102】
なお、第1実施形態において流量係数の代わりに燃料噴霧角度が用いられる場合、式1の代わりに次式10が用いられる。
【0103】
Xr=b×Pin+c×θs …(10)
【0104】
なお、式10の「Pin」は、式1の「Pin」と同じ「燃料噴射圧」である。また、式10の「θs」が燃料噴霧角度である。なお、この燃料噴霧角度は、例えば、予め実験等によって求められる燃料噴霧角度であるが、機関運転中にこの燃料噴霧角度を適宜測定する手段があるのであれば、その手段によって測定される燃料噴霧角度が用いられてもよい。また、式10の「b」は、燃料噴射圧Pinに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。また、式10の「c」は、燃料噴霧角度θsに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。
【0105】
式10から判るように、燃料噴霧角度θsをデポジット新規剥離量Xrの算出に反映された場合、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinに関連して把握可能なデポジット剥離量b×Pinと燃料噴霧角度θsに関連して把握可能なデポジット剥離量c×θsとの合計である。別の云い方をすれば、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinと燃料噴霧角度θsとの関数でもって算出される。
【0106】
また、式10から判るように、燃料噴射圧Pinが高いほどデポジット新規剥離量Xrが多く、燃料噴霧角度θsが大きいほどデポジット新規剥離量Xrが多い。つまり、図6(A)に示されているように、燃料噴霧角度θsと流量係数Cdとの間には流量係数が小さいほど燃料噴霧角度が大きくなるという相関関係があることになる。そして、式10に従ってデポジット新規剥離量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する燃料噴霧角度がデポジット新規剥離量の算出に用いられることになるので、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規剥離量を正確に推定することができる。
【0107】
また、燃料噴霧角度を求めることは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式10によれば、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット剥離量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0108】
一方、第2実施形態において流量係数の代わりに燃料噴霧角度が用いられる場合、式8の代わりに次式11が用いられる。
【0109】
Xd=F(PXd,θs) …(11)
【0110】
なお、式11の「PXd」は、式7に従って算出される暫定デポジット新規堆積量である。また、式11の「θs」が「燃料噴霧角度」である。なお、この燃料噴霧角度は、例えば、予め実験等によって求められる燃料噴霧角度であるが、機関運転中にこの燃料噴霧角度を適宜測定する手段があるのであれば、その手段によって測定される燃料噴霧角度が用いられてもよい。また、式11の「F(PXd,θs)」は、暫定デポジット新規堆積量PXdと燃料噴霧角度θsとの関数であり、これら暫定デポジット新規堆積量と燃料噴霧角度とに基づいてデポジット新規堆積量を正確に算出することができるように適合された関数である。なお、式11に従って算出されるデポジット新規堆積量は、暫定デポジット新規堆積量PXdが多いほど多く、燃料噴霧角度が大きいほど少ない(つまり、燃料噴霧角度が大きいほどデポジットの剥離量が多い)。
【0111】
そして、式11に従ってデポジット新規堆積量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する燃料噴霧角度がデポジット新規堆積量の算出に用いられることになるので、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量を正確に推定することができる。
【0112】
また、燃料噴霧角度を求めることは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式11によれば、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0113】
また、第1実施形態において流量係数の代わりに燃料噴霧到達距離が用いられる場合、式1の代わりに次式12が用いられる。
【0114】
Xr=b×Pin+c×(1/Ls) …(12)
【0115】
なお、式12の「Pin」は、式1の「Pin」と同じ「燃料噴射圧」である。また、式12の「Ls」が燃料噴霧到達距離である。なお、この燃料噴霧到達距離は、例えば、予め実験等によって求められる燃料噴霧到達距離であるが、機関運転中にこの燃料噴霧到達距離を適宜測定する手段があるのであれば、その手段によって測定される燃料噴霧到達距離が用いられてもよい。また、式12の「b」は、燃料噴射圧Pinに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数であり、式12の「c」は燃料噴霧到達距離Lsに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。
【0116】
式12から判るように、燃料噴霧到達距離Lsをデポジット新規剥離量Xrの算出に反映された場合、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinに関連して把握可能なデポジット剥離量b×Pinと燃料噴霧到達距離Lsに関連して把握可能なデポジット剥離量c×(1/Ls)との合計である。別の云い方をすれば、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinと燃料噴霧到達距離Lsとの関数でもって算出される。
【0117】
また、式12から判るように、燃料噴射圧Pinが高いほどデポジット新規剥離量Xrが多く、燃料噴霧到達距離Lsが短いほどデポジット新規剥離量Xrが多い。つまり、図6(B)に示されているように、燃料噴霧到達距離Lsと流量係数Cdとの間には流量係数が小さいほど燃料噴霧到達距離が短くなるという相関関係があることになる。そして、式12に従ってデポジット新規剥離量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する燃料噴霧到達距離がデポジット新規剥離量の算出に用いられることになるので、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規剥離量を正確に推定することができる。
【0118】
また、燃料噴霧到達距離を求めることは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式12によれば、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット剥離量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0119】
一方、第2実施形態において流量係数の代わりに燃料噴霧到達距離が用いられる場合、式8の代わりに次式13が用いられる。
【0120】
Xd=F(PXd,Ls) …(13)
【0121】
なお、式13の「PXd」は、式7に従って算出される暫定デポジット新規堆積量である。また、式13の「Ls」が「燃料噴霧到達距離」である。なお、この燃料噴霧到達距離は、例えば、予め実験等によって求められる燃料噴霧到達距離であるが、機関運転中にこの燃料噴霧到達距離を適宜測定する手段があるのであれば、その手段によって測定される燃料噴霧到達距離が用いられてもよい。また、式13の「F(PXd,Ls)」は、暫定デポジット新規堆積量PXdと燃料噴霧到達距離Lsとの関数であり、これら暫定デポジット新規堆積量と燃料噴霧到達距離とに基づいてデポジット新規堆積量を正確に算出することができるように適合された関数である。なお、式13に従って算出されるデポジット新規堆積量は、暫定デポジット新規堆積量PXdが多いほど多く、燃料噴霧到達距離が短いほど少ない(つまり、燃料噴霧到達距離が短いほどデポジットの剥離量が多い)。
【0122】
そして、式13に従ってデポジット新規堆積量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する燃料噴霧到達距離がデポジット新規堆積量の算出に用いられることになるので、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量を正確に推定することができる。
【0123】
また、燃料噴霧到達距離を求めることは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式13によれば、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0124】
また、第1実施形態において流量係数の代わりに噴孔絞り期間における燃料噴射率が用いられる場合、式1の代わりに次式14が用いられる。
【0125】
Xr=b×Pin+c×(1/dQ) …(14)
【0126】
なお、式14の「Pin」は、式1の「Pin」と同じ「燃料噴射圧」である。また、式14の「dQ」が噴孔絞り期間における燃料噴射率である。なお、この燃料噴射率は、例えば、予め実験等によって求められる燃料噴射率であってもよいし、この燃料噴射率を測定する手段を内燃機関に備えている場合には機関運転中にその手段によって測定される燃料噴射率であってもよい。また、式14の「b」は、燃料噴射圧Pinに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数であり、式14の「c」は燃料噴射率dQに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。
【0127】
式14から判るように、燃料噴射率dQをデポジット新規剥離量Xrの算出に反映された場合、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinに関連して把握可能なデポジット剥離量b×Pinと燃料噴射率dQに関連して把握可能なデポジット剥離量c×(1/dQ)との合計である。別の云い方をすれば、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinと燃料噴射率dQとの関数でもって算出される。
【0128】
また、式14から判るように、燃料噴射圧Pinが高いほどデポジット新規剥離量Xrが多く、燃料噴射率dQが小さいほどデポジット新規剥離量Xrが多い。つまり、図6(C)に示されているように、燃料噴射率dQと流量係数Cdとの間には流量係数が小さいほど燃料噴射率が小さくなるという相関関係があることになる。そして、式14に従ってデポジット新規剥離量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する燃料噴射率がデポジット新規剥離量の算出に用いられることになるので、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規剥離量を正確に推定することができる。
【0129】
また、燃料噴射率を求めることは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式14によれば、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット剥離量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0130】
一方、第2実施形態において流量係数の代わりに噴孔絞り期間における燃料噴射率が用いられる場合、式8の代わりに次式15が用いられる。
【0131】
Xd=F(PXd,dQ) …(15)
【0132】
なお、式15の「PXd」は、式7に従って算出される暫定デポジット新規堆積量である。また、式15の「dQ」が「噴孔絞り期間における燃料噴射率」である。なお、この燃料噴射率は、例えば、予め実験等によって求められる燃料噴射率でもよいし、この燃料噴射率を測定する手段を内燃機関に備えている場合には機関運転中にその手段によって測定される燃料噴射率であってもよい。また、式15の「F(PXd,dQ)」は、暫定デポジット新規堆積量PXdと燃料噴射率dQとの関数であり、これら暫定デポジット新規堆積量と燃料噴射率とに基づいてデポジット新規堆積量を正確に算出することができるように適合された関数である。なお、式15に従って算出されるデポジット新規堆積量は、暫定デポジット新規堆積量PXdが多いほど多く、燃料噴射率が大きいほど少ない(つまり、燃料噴射率が大きいほどデポジットの剥離量が多い)。
【0133】
そして、式15に従ってデポジット新規堆積量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する燃料噴射率がデポジット新規堆積量の算出に用いられることになるので、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量を正確に推定することができる。
【0134】
また、燃料噴射率を求めることは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式15によれば、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0135】
また、第1実施形態において流量係数の代わりに基準燃料噴射指令値に対する補正量が用いられる場合、式1の代わりに次式16が用いられる。
【0136】
Xr=b×Pin+c×QR …(16)
【0137】
なお、式16の「Pin」は、式1の「Pin」と同じ「燃料噴射圧」である。また、式16の「QR」が基準燃料噴射指令値に対する補正量である。なお、この補正量は、燃料噴射量の制御において設定される補正量であり、この燃料噴射量の制御から取得される。また、式16の「b」は、燃料噴射圧Pinに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数であり、式16の「c」は基準燃料噴射指令値に対する補正量QRに関連するデポジット剥離量が正確に算出されるように適合された係数である。
【0138】
式16から判るように、基準燃料噴射指令値に対する補正量QRをデポジット新規剥離量Xrの算出に反映された場合、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinに関連して把握可能なデポジット剥離量b×Pinと基準燃料噴射指令値に対する補正量QRに関連して把握可能なデポジット剥離量c×QRとの合計である。別の云い方をすれば、デポジット新規剥離量Xrは、燃料噴射圧Pinと基準燃料噴射指令値に対する補正量QRとの関数でもって算出される。
【0139】
また、式16から判るように、燃料噴射圧Pinが高いほどデポジット新規剥離量Xrが多く、基準燃料噴射指令値に対する補正量QRが大きいほどデポジット新規剥離量Xrが多い。つまり、図6(D)に示されているように、基準燃料噴射指令値に対する補正量QRと流量係数Cdとの間には流量係数が小さいほど基準燃料噴射指令値に対する補正量が大きくなるという相関関係があることになる。そして、式16に従ってデポジット新規剥離量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する基準燃料噴射指令値に対する補正量がデポジット新規剥離量の算出に用いられることになるので、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規剥離量を正確に推定することができる。
【0140】
また、基準燃料噴射指令値に対する補正量は燃料噴射量の制御において設定される補正量であるので、この補正量を取得することは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式16によれば、第1実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット剥離量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0141】
一方、第2実施形態において流量係数の代わりに基準燃料噴射指令値に対する補正量が用いられる場合、式8の代わりに次式17が用いられる。
【0142】
Xd=F(PXd,QR) …(17)
【0143】
なお、式17の「PXd」は、式7に従って算出される暫定デポジット新規堆積量である。また、式17の「QR」が「基準燃料噴射指令値に対する補正量」である。なお、この補正量は、燃料噴射量の制御において設定される補正量であり、この燃料噴射量の制御から取得される。また、式17の「F(PXd,QR)」は、暫定デポジット新規堆積量PXdと基準燃料噴射指令値に対する補正量QRとの関数であり、これら暫定デポジット新規堆積量と基準燃料噴射指令値に対する補正量とに基づいてデポジット新規堆積量を正確に算出することができるように適合された関数である。なお、式17に従って算出されるデポジット新規堆積量は、暫定デポジット新規堆積量PXdが多いほど多く、基準燃料噴射指令値に対する補正量が大きいほど少ない(つまり、基準燃料噴射指令値に対する補正量が大きいほどデポジットの剥離量が多い)。
【0144】
そして、式17に従ってデポジット新規堆積量を算出することによって流量係数と密接な相関関係を有する基準燃料噴射指令値に対する補正量がデポジット新規堆積量の算出に用いられることになるので、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量を正確に推定することができる。
【0145】
また、基準燃料噴射指令値に対する補正量は燃料噴射量の制御に関連して設定される補正量であるので、この補正量を取得することは流量係数を求めることよりも容易である。したがって、式17によれば、第2実施形態に関連して説明した理由と同じ理由から、デポジット新規堆積量の算出にデポジットの剥離に対する噴孔壁面の形状の影響をより容易に反映させることができる。
【0146】
なお、流量係数に代えて燃料噴霧角度、燃料噴霧到達距離、噴孔絞り期間における燃料噴射率、および、基準燃料噴射指令値に対する補正量のいずれか1つをデポジット新規剥離量の算出またはトータルデポジット堆積量の算出に用いる実施形態について説明したが、これら燃料噴霧角度、燃料噴霧到達距離、噴孔絞り期間における燃料噴射率、および、基準燃料噴射指令値に対する補正量のうちの2つ又はそれ以上をデポジット新規剥離量の算出またはトータルデポジット堆積量の算出に用いるようにしてもよい。
【0147】
また、上述した実施形態では、デポジット新規剥離量の算出に燃料噴射圧を用いているが、燃料噴射圧に代えて燃料噴射圧と密接な相関関係があるパラメータを用いるようにしてもよい。
【0148】
また、燃料噴射弁の燃料噴射孔の出口周辺の雰囲気の圧力が異なると、燃料噴射圧が等しくても燃料噴射圧の影響を受けるデポジット剥離量も異なる。具体的には、燃料噴射孔の出口周辺の雰囲気の圧力が低いほど燃料噴射圧の影響を受けるデポジット剥離量が多くなる。したがって、上述した実施形態において、燃料噴射圧に加えて燃料噴射孔の出口周辺の雰囲気の圧力を用いて燃料噴射圧に関連するデポジット剥離量を算出するようにしてもよい。
【0149】
また、噴孔壁面に堆積しているデポジットの厚みが異なると、燃料噴射圧が等しくても燃料噴射圧の影響を受けるデポジット剥離量も異なる。具体的には、噴孔壁面に堆積しているデポジットの厚みが厚いほど燃料噴射圧の影響を受けるデポジット剥離量が多くなる。したがって、上述した実施形態において、燃料噴射圧に加えて噴孔壁面に堆積しているデポジットの厚み(或いは、当該厚みを代表することができるトータルデポジット堆積量)を用いて燃料噴射圧に関連するデポジット剥離量を算出するようにしてもよい。
【0150】
なお、上述した実施形態は、燃焼室内に燃料を直接噴射するように燃料噴射弁が配置された内燃機関に本発明を適用した場合の実施形態である。しかしながら、本発明は、吸気ポート内に燃料を噴射するように燃料噴射弁が配置された内燃機関にも適用可能である。
【符号の説明】
【0151】
10…内燃機関、21…燃焼室、22…燃料噴射弁、34…燃料噴射孔、Cd…流量係数、θs…燃料噴霧角度、Ls…燃料噴霧到達距離、dQ…噴孔絞り期間における燃料噴射率、QR…基準燃料噴射指令値に対する補正量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する壁面である噴孔画成壁面、該噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の入口近傍の燃料噴射弁の壁面、および、前記噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁の壁面の少なくとも1つから構成される噴孔壁面に堆積しているデポジットの少なくとも一部を前記噴孔壁面から剥離させる力であるデポジット剥離力に影響を与える要因を表す複数のパラメータを用いて前記噴孔壁面から剥離するデポジットの量であるデポジット剥離量を算出することによってデポジット剥離量を推定するデポジット剥離量推定装置であって、前記複数のパラメータの少なくとも1つが前記デポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータであり、前記複数のパラメータの別の少なくとも1つが燃料噴射弁の燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータであるデポジット剥離量推定装置。
【請求項2】
燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する壁面である噴孔画成壁面、該噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の入口近傍の燃料噴射弁の壁面、および、前記噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁の壁面の少なくとも1つから構成される噴孔壁面に堆積しているデポジットの量であるデポジット堆積量を算出することによってデポジット堆積量を推定するデポジット堆積量推定装置であって、請求項1に記載のデポジット剥離量推定装置を有し、デポジットを構成するデポジット構成物質の生成量がデポジット構成物質生成量として推定されると共に前記デポジット剥離量推定装置によってデポジット剥離量が推定され、前記デポジット構成物質生成量から前記デポジット剥離量を差し引くことによってデポジット堆積量が算出されるデポジット堆積量推定装置。
【請求項3】
燃料噴射弁を備えた内燃機関において、燃料噴射弁の燃料噴射孔を画成する壁面である噴孔画成壁面、該噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の入口近傍の燃料噴射弁の壁面、および、前記噴孔画成壁面以外の壁面であって燃料噴射孔の出口近傍の燃料噴射弁の壁面の少なくとも1つから構成される噴孔壁面に堆積しているデポジットの量であるデポジット堆積量を算出することによってデポジット堆積量を推定するデポジット堆積量推定装置であって、デポジットを構成するデポジット構成物質の生成量がデポジット構成物質生成量として推定されると共に前記噴孔壁面に堆積しているデポジットの少なくとも一部を前記噴孔壁面から剥離させる力であるデポジット剥離力を変動させる要因を表すパラメータを用いて前記噴孔壁面から剥離するデポジットの量であるデポジット剥離量が推定され、前記デポジット構成物質生成量から前記デポジット剥離量を差し引くことによって暫定的なデポジット堆積量が算出され、燃料噴射弁の燃料噴射孔内を流れる燃料に関する流量係数または該流量係数と相関関係のあるパラメータを前記デポジット剥離力に影響を与える要因として考慮して前記暫定的なデポジット堆積量を補正することによって最終的なデポジット堆積量が算出されるデポジット堆積量推定装置。
【請求項4】
前記流量係数と相関関係のあるパラメータが燃料噴霧角度、燃料噴霧到達距離、噴孔絞り期間における燃料噴射率、および、基準燃料噴射指令値に対する補正量のうちの少なくとも1つである請求項1に記載のデポジット剥離量推定装置あるいは請求項2または3に記載のデポジット堆積量推定装置。
【請求項5】
前記燃料噴射率が噴孔絞り期間における最大燃料噴射率である請求項4に記載のデポジット剥離量推定装置またはデポジット堆積量推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−229627(P2012−229627A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96784(P2011−96784)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】