説明

内燃機関のノック制御装置

【課題】本発明は、コストの上昇を抑制しつつ、ノッキングの発生を抑制することのできる内燃機関のノック制御装置を提供する。
【解決手段】ノッキングが発生すると(S10)、ノッキングが吸気側で発生しているのか、排気側で発生しているのかを判別する(S12)。そして、吸気側で発生している場合には、圧縮行程後半にある気筒の吸気側の酸素吸蔵部材に、或いは排気側でノッキングが発生している場合には、圧縮行程後半にある気筒の排気側の酸素吸蔵部材にプラスの所定電圧を印加する(S14-S16,S26-S28)。そして、圧縮行程後半にあった気筒が膨張行程前半になると、吸気側の酸素吸蔵部材或いは排気側の酸素吸蔵部材にマイナスの所定電圧を印加するようにしている(S18-S24,S30-S34)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のノック制御装置に係り、特に高負荷運転におけるノッキングの発生の防止に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の出力及び燃費の向上には、熱効率の向上が必要であることが知られている。そして、熱効率向上の手法の一つとして、圧縮比の高圧縮比化がある。
ところが、圧縮比が高圧縮比化されると、内燃機関の圧縮行程で燃焼室内の混合気の圧力が高圧となる。そして、内燃機関のピストンが圧縮上死点近傍で、点火プラグにより燃焼室内の高圧の混合気に点火されると、点火プラグを中心に火炎が広がるように混合気が燃焼及び膨張する。混合気が燃焼及び膨張すると、点火プラグから遠い燃焼室外周部の混合気(エンドガス)が燃焼ガスにより燃焼室壁面に押し付けられる。そして、エンドガスは、更に高温高圧となり一気に自己着火し、衝撃波を発するノッキングが発生する。当該ノッキングは、衝撃波により金属製の音の発生やシリンダヘッド、ピストン及びシリンダブロックの破損に繋がり好ましいことではない。したがって、圧縮比の高圧縮比化にはノッキングの発生により限界がある。
【0003】
このようなことから、特許文献1では、シリンダヘッドに予備燃焼用の燃料を噴射する予備燃焼用噴射ノズルと、ピストンのトップランドに予備燃焼用噴射ノズルより噴射された燃料を自己着火温度より低い温度で燃焼させる予備燃焼を行う触媒層とを設けて、燃焼室内にノッキングの原因となるエンドガスの発生を防止している。
このようにして、エンドガスの発生を防止してノッキングの発生を防止し、高圧縮比化を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−326541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、シリンダヘッドに予備燃焼用燃料を噴射する予備燃焼用噴射ノズルを設ける必要があり、例えば既存の内燃機関に上記特許文献1の技術を適用するには、予備燃焼用噴射ノズルを設けるためにシリンダヘッドの大幅な変更を要する。よって、シリンダヘッドの変更は、コストの上昇に繋がり好ましいことではない。
【0006】
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、コストの上昇を抑制しつつ、ノッキングの発生を防止することのできる内燃機関のノック制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の内燃機関のノック制御装置では、内燃機関のシリンダが形成されるシリンダブロックと、前記シリンダ内を摺動するピストンと、前記シリンダブロックに取り付けられて前記ピストンとの間に燃焼室が形成されるとともに、前記燃焼室と連通する吸気通路と排気通路とが形成されるシリンダヘッドと、を有する内燃機関のノック制御装置において、前記燃焼室の壁面に配設され、印加される電圧が変更すると酸素の吸蔵性能が変化する酸素吸蔵部材と、前記酸素吸蔵部材に電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、少なくとも前記内燃機関の圧縮行程の後半であるときに、前記電圧印加手段により前記酸素吸蔵部材に印加する電圧を変更して前記酸素吸蔵部材の酸素吸蔵性能を高めることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の内燃機関のノック制御装置では、請求項1において、前記酸素吸蔵部材は、前記シリンダヘッド側の前記燃焼室の壁面で、かつ、前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックとの境界近傍であるエンドガス部に配設されることを特徴とする。
また、請求項3の内燃機関のノック制御装置では、請求項1或いは2において、前記酸素吸蔵部材は、吸蔵した酸素を放出する酸素放出性能を有し、前記電圧印加手段は、膨張行程の前半であるときに前記電圧印加手段により前記酸素吸蔵部材に印加する電圧を変更して前記酸素吸蔵部材の酸素放出性能を高めることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4の内燃機関のノック制御装置では、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記電圧印加手段は、前記圧縮行程後半から前記膨張行程前半までの行程でのみ、電圧の印加を行うことを特徴とする。
また、請求項5の内燃機関のノック制御装置では、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段を備え、前記酸素吸蔵部材は、前記内燃機関の運転状態に基づきノッキングの発生する所定位置に複数に分割して配設され、前記電圧印加手段は、前記内燃機関の運転状態におけるノッキング発生位置が記憶され、前記運転状態検出手段にて検出される前記内燃機関の運転状態と記憶された前記ノッキング発生位置に基づいて、前記複数の酸素吸蔵部材のいずれかに電圧を印加することを特徴とする。
【0010】
また、請求項6の内燃機関のノック制御装置では、請求項1乃至5のいずれかにおいて、ノッキングを検出するノッキング検出手段を備え、前記電圧印加手段は、前記ノッキング検出手段にてノッキングが検出されると電圧の印加を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、燃焼室の壁面に印加される電圧が変えられると酸素の吸蔵性能が変化する酸素吸蔵部材を配設し、酸素吸蔵部材に電圧を印加する電圧印加手段を備え、少なくとも圧縮行程の後半であるときに酸素吸蔵部材に印加する電圧を変更して酸素吸蔵性能を高めるようにしている。
従って、圧縮行程の後半に燃焼室内の混合気の酸素濃度を確実に低下させることができるので、自己着火によるノッキングの発生を抑制することが可能となる。また、シリンダヘッドの燃焼室への酸素吸蔵部材の配設と電圧印加手段から酸素吸蔵部材への電力を供給する配線を追加するのみでシリンダヘッドを大幅に変更する必要がないので、コストの上昇を抑制することができる。
【0012】
また、請求項2の発明によれば、酸素吸蔵部材をシリンダヘッド側の燃焼室の壁面で、かつ、シリンダヘッドとシリンダブロックとの境界近傍であるエンドガス部に配設しており、ノッキングの発生箇所となりやすいエンドガス部に酸素吸蔵部材を配設することで、エンドガス部の酸素濃度を低下させ、より確実にノッキングの発生を抑制することができる。
【0013】
また、請求項3の発明によれば、膨張行程の前半であるときに酸素吸蔵部材に印加する電圧を変更して酸素吸蔵部材の酸素放出性能を高めるようにしており、膨張行程の前半で酸素吸蔵部材の酸素放出性能を高めることができるので、吸蔵した酸素を確実に放出して混合気の燃焼を促進させてエンジンの高出力を得ることができる。また、空燃比を適切な空燃比とし燃焼させることができるので、排気への未燃燃料や煤等の排出を防止することができる。
【0014】
また、請求項4の発明によれば、圧縮行程後半から膨張行程前半までの行程でのみ、電圧の印加を行うようにしているので、ノッキングの防止及び排気への未燃燃料及び煤などの排出の防止に影響を与えることなく、電圧印加手段の電力の消費を抑制することができる。
また、請求項5の発明によれば、酸素吸蔵部材を内燃機関の運転状態に基づく燃焼室内でのノッキング発生位置に対応して複数に分割して配設し、運転状態検出手段にて検出される内燃機関の運転状態に基づいて、複数の酸素吸蔵部材のいずれかに電圧を印加するようにしており、運転状態によって変化するノッキングの発生箇所に対応する部分にだけ電圧を印加することができるので、電圧印加手段の電力の消費を抑制することができる。
【0015】
また、請求項6の発明によれば、ノッキング検出手段にてノッキングが検出されると酸素吸蔵部材に電圧の印加を行うようにしているので、ノッキングの発生時のみに電圧の印加を行っているので、更に電圧印加手段の電力の消費を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る内燃機関のノック制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
【図2】図1のA−A線での断面図である。
【図3】本発明に係る内燃機関のノック制御装置が適用されたエンジンでのノック防止制御時におけるエンジンの行程、吸気側及び排気側の酸素吸蔵部材への電圧の印加の一例を時系列で示す図である。
【図4】本発明に係るノック制御装置でのノッキング防止制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、内燃機関のノック制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。また、図2は、図1のA−A線での断面図である。図2中の斜線部分は、酸素吸蔵部材の取り付け位置を示す。
図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、吸気マニホールド25、またはシリンダヘッド3に配設された燃料噴射弁(燃料噴射手段)26から吸気バルブ17が閉弁している排気行程中に吸気ポート(吸気通路)15内へ燃料を噴射する4サイクル直列4気筒型ガソリンエンジンである。そして、エンジン1は、エンジン1及び図示しない車両を制御する電子コントロールユニット(ECU)30と、酸素吸蔵部材12,13と印加電圧制御装置(電圧印加手段)31とバッテリ(電圧印加手段)32とからなるノック制御装置とを含んで構成されている。
【0018】
図1にはエンジン1の1つの気筒についての縦断面が示されている。なお、他の気筒についても同様の構成をしているものとして図示及び説明を省略する。
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック2にシリンダヘッド3が載置されて構成されている。
シリンダブロック2には、エンジン1を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサ4とノッキングを検出するノックセンサ(ノッキング検出手段)5とが設けられている。また、シリンダブロック2に形成されているシリンダ6内には上下摺動可能にピストン7が設けられている。当該ピストン7はコンロッド8を介してクランクシャフト9に連結されている。また、シリンダブロック2には、当該エンジン1の回転速度及びクランクシャフト9の位相を検出するクランク角センサ(運転状態検出手段)10が設けられている。また、シリンダヘッド3とシリンダ6とピストン7で燃焼室11が形成されている。
【0019】
シリンダヘッド3の燃焼室11を形成する壁面の外周部、即ち、エンジン1の組み立て後のシリンダブロック2との境界近傍となるエンドガス部には、図2に示すように予め試験等でノッキングの発生が確認された吸気バルブ17側或いは排気バルブ18側に、酸素を吸蔵及び放出可能な酸素吸蔵部材12,13を帯状の半円形形状にそれぞれ配設されている。そして、シリンダヘッド3と酸素吸蔵部材12,13とには、酸素吸蔵部材12,13への電圧の印加を制御する印加電圧制御装置31が電力供給線33a,33b,33cを介して接続されている。そして、酸素吸蔵部材12,13には、例えば、希土類オキシ硫酸塩(Ln22SO4)が用いられている。希土類オキシ硫酸塩は、H2(水素)、CO(一酸化炭素)、C36(プロピレン)などによって、Ln22SOへと還元され(酸素放出)、O2(酸素)などによって可逆的に再酸化Ln22SO4(酸素吸蔵)される。また、酸素吸蔵部材12,13は、導体或いは半導体で形成され、酸素イオンと反対のプラス電圧を印加されると酸素を吸蔵し、マイナス電圧を印加されると酸素を放出する特性を有する。
【0020】
また、シリンダヘッド3には、燃焼室11に臨むようにして点火プラグ14が設けられている。そして、シリンダヘッド3には、燃焼室11からシリンダヘッド3の一側面に向かって吸気ポート15が形成されており、燃焼室11からシリンダヘッド3の他側面に向かって排気ポート(排気通路)16が形成されている。更に、シリンダヘッド3には、燃焼室11と吸気ポート15との連通及び遮断を行う吸気バルブ17と、燃焼室11と排気ポート16との連通及び遮断を行う排気バルブ18がそれぞれ設けられている。
【0021】
また、シリンダヘッド3上部には吸気バルブ17を駆動する吸気カム19を有した吸気カムシャフト21と、排気バルブ18を駆動する排気カム20を有した排気カムシャフト22とがそれぞれ設けられている。そして、シリンダヘッド3の上部には、吸気カムシャフト21の位相を検出するカム角センサ(運転状態検出手段)23と排気カムシャフト22の位相を検出するカム角センサ(運転状態検出手段)24とが設けられている。
【0022】
また、シリンダヘッド3の一側面には吸気ポート15と連通するように吸気マニホールド25が接続されている。そして、吸気マニホールド25には、吸気ポート15内に臨むように燃料噴射弁26が設けられている。一方、シリンダヘッド3の吸気マニホールド25が接続された側面とは反対側の側面には、排気ポート16と連通するように排気マニホールド27が接続されている。
【0023】
燃料噴射弁26には、図示しない燃料配管を介して図示しない燃料タンク内の燃料を供給するフィードポンプが接続されている。
吸気マニホールド25の吸気上流端には図示しない吸気管、吸入空気流量を調節する図示しない電子制御スロットルバルブが設けられている。そして、電子制御スロットルバルブには、スロットルバルブの開き度合を検出する図示しないスロットルポジションセンサが備えられている。また、電子制御スロットルバルブの上流側の吸気管には吸入空気流量を検出する図示しないエアフローセンサ(運転状態検出手段)が設けられているとともに、吸気管の吸気上流端には図示しないエアクリーナが設けられている。
【0024】
また、排気マニホールド27の排気下流端には、図示しない排気管を介して三元触媒等の排気浄化触媒が備えられている。
印加電圧制御装置31には、電力供給線33a,33b,33cを介して、電力を蓄電するバッテリ32が接続されている。そして、印加電圧制御装置31は、電力供給線34を介してバッテリ32より電力の供給を受け、ノッキングが発生すると酸素吸蔵部材12,13へプラス電圧或いはマイナス電圧を印加するノッキング防止制御を行う。また、印加電圧制御装置31には、予め試験等で確認されたエンジン1の運転状態に対応したノッキング発生位置が記憶されている。例えばノッキング発生位置は、エンジン回転速度が低回転時には吸気側に、高回転時には排気側として記憶されている。
【0025】
そして、上記水温センサ4、ノックセンサ5、クランク角センサ10、カム角センサ23,24、吸気圧センサ、スロットルポジションセンサ、エアフローセンサ及び車両の車速を検出する図示しない車速センサ等の各種センサ類は、車両に搭載されているECU30の入力側に電気的に接続されており、これらセンサ類からの検出情報がECU30に入力される。
【0026】
一方、ECU30の出力側には、上記点火プラグ14、燃料噴射弁26、印加電圧制御装置31、電子制御スロットルバルブ等の各種装置が電気的に接続されており、これら各種装置には各種センサ類からの検出情報に基づき演算された点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度及びエンジン回転速度、エンジン負荷や行程等のエンジン1の運転状態等がそれぞれ出力される。
【0027】
次に印加電圧制御装置31でのノック防止制御について説明する。
図3は、ノック防止制御時におけるエンジンの行程、吸気側の酸素吸蔵部材12及び排気側の酸素吸蔵部材13への電圧の印加の一例を時系列で示す図であり、エンジン1の運転状態よりノッキングが吸気側で発生している場合を示している。また、図4は、ノック制御装置でのノッキング防止制御のフローチャートである。
【0028】
図4に示すルーチンは、エンジン運転時に繰り返し行なわれる。また、複数の気筒を有するエンジンに於いては、ノックセンサ5にてノッキングが検出されると圧縮行程後半もしくは膨張行程前半の気筒に対して当該ルーチンを行えばよい。
始めにステップS10では、ノックセンサ5の検出情報よりノッキングが発生しているか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でノッキングが発生していれば、ステップS12に進む。また、判別結果が否(No)でノッキングが発生していなければ、本ルーチンを抜ける。
【0029】
ステップS12では、クランク角センサ10やエアフローセンサ等の検出情報に基づいてECU30にて算出され、印加電圧制御装置31に出力されるエンジン回転速度や負荷等のエンジン1の運転状態情報と、予め印加電圧制御装置31にて記憶されたエンジン1の運転状態でのノッキング発生位置とに基づき、ノッキングの発生位置が吸気側であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でノッキングの発生位置が吸気側であれば、ステップS14に進む。また、判別結果が否(No)でノッキングの発生位置が吸気側でなければ、ステップS26に進む。
【0030】
ステップS14では、クランク角センサ10及びカム角センサ23,24の検出情報に基づいてECU30にて算出されるエンジン1の行程が圧縮行程の後半であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1が圧縮行程の後半であれば、ステップS16に進む。また、判別結果が否(No)でエンジン1が圧縮行程の後半でなければ、再度ステップS14の処理を行う。
【0031】
ステップS16では、吸気側に配設される酸素吸蔵部材12にプラスの所定電圧を印加する(図3A)。そして、ステップS18に進む。
ステップS18では、エンジン1の行程が膨張行程の前半であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1が膨張行程の前半であれば、ステップS20に進む。また、判別結果が否(No)でエンジン1が膨張行程の前半でなければ、ステップS16へ戻る。
【0032】
ステップS20では、吸気側に配設される酸素吸蔵部材12にマイナスの所定電圧を印加する(図3B)。そして、ステップS22に進む。
ステップS22では、再度エンジン1の行程が膨張行程の前半であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1が膨張行程の前半であれば、ステップS20へ戻り、継続して酸素吸蔵部材12にマイナス電圧を印加する。また、判別結果が否(No)でエンジン1が膨張行程の前半でなければ、ステップS24に進む。
【0033】
ステップS24では、酸素吸蔵部材12,13への電圧の印加を終了する。そして、本ルーチンをリターンする。
また、ステップS26では、クランク角センサ10及びカム角センサ23,24の検出情報に基づいてECU30にて算出されるエンジン1の行程が圧縮行程の後半であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1が圧縮行程の後半であれば、ステップS28に進む。また、判別結果が否(No)でエンジン1が圧縮行程の後半でなければ、再度ステップS26の処理を行う。
【0034】
ステップS28では、排気側に配設される酸素吸蔵部材13にプラスの所定電圧を印加する。そして、ステップS30に進む。
ステップS30では、エンジン1の行程が膨張行程の前半であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1が膨張行程の前半であれば、ステップS32に進む。また、判別結果が否(No)でエンジン1が膨張行程の前半でなければ、ステップS28へ戻る。
【0035】
ステップS32では、排気側に配設される酸素吸蔵部材13にマイナスの所定電圧を印加する。そして、ステップS34に進む。
ステップS34では、再度エンジン1の行程が膨張行程の前半であるか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)でエンジン1が膨張行程の前半であれば、ステップS32へ戻り、継続して酸素吸蔵部材13にマイナス電圧を印加する。また、判別結果が否(No)でエンジン1が膨張行程の前半でなければ、ステップS24に進む。
【0036】
このように本発明に係る内燃機関のノック制御装置では、ノックセンサ5にてノッキングが検出されると、クランク角センサ10やエアフローセンサ等の検出情報に基づいてECU30にてエンジン回転速度や負荷等のエンジン1の運転状態情報が算出される。そして、算出されたエンジン1の運転状態情報と、予め印加電圧制御装置31にて記憶されたエンジン1の運転状態でのノッキング発生位置とに基づき、ノッキングが吸気側で発生しているのか、排気側で発生しているのかを判別する。そして、吸気側でノッキングが発生していると判別される場合には、吸気側の酸素吸蔵部材12に圧縮行程の後半である期間中プラスの所定電圧を印加し、或いは、排気側でノッキングが発生していると判別される場合には、排気側の酸素吸蔵部材13に圧縮行程の後半である期間中プラスの所定電圧を印加する。そして、圧縮行程後半から膨張行程前半となると、吸気側の酸素吸蔵部材12にプラスの所定電圧を印加していた場合には、吸気側の酸素吸蔵部材12に膨張行程の前半である期間中マイナスの所定電圧を印加し、或いは、排気側の酸素吸蔵部材13にプラスの所定電圧を印加していた場合には、排気側の酸素吸蔵部材13に膨張行程の前半である期間中マイナスの所定電圧を印加するようにしている。
【0037】
従って、ノッキング発生時に吸気側の酸素吸蔵部材12或いは排気側の酸素吸蔵部材13にプラス電圧を印加することで燃焼室11の外周部に滞留する予混合ガスの酸素を吸蔵し、当該部位に滞留する予混合ガスの空燃比を燃料の濃いリッチ状態とする、即ち、確実に酸素濃度を低下させることで、予混合ガスの自己着火によるノッキングの発生を抑制することが可能となる。また、シリンダヘッド3の燃焼室11への酸素吸蔵部材12,13の配設と印加電圧制御装置31から酸素吸蔵部材12,13への電力を供給する電力供給線33a,33b,33cを追加するのみでシリンダヘッド3を大幅に変更する必要がないので、コストの上昇を抑制することができる。
【0038】
また、酸素吸蔵部材12をシリンダヘッド3の燃焼室11を形成する壁面の外周部、即ち、エンジン1の組み立て後のシリンダブロック2との境界近傍となるエンドガス部に配設しており、ノッキングの発生箇所となりやすいエンドガス部に酸素吸蔵部材12を配設することで、エンドガス部の酸素濃度を低下させ、より確実にノッキングの発生を抑制することができる。
【0039】
また、膨張行程の前半であるときに吸気側の酸素吸蔵部材12或いは排気側の酸素吸蔵部材13へマイナス電圧を印加し、酸素吸蔵部材12或いは酸素吸蔵部材13に吸蔵した酸素を放出するようにしており、膨張行程の前半で酸素吸蔵部材の酸素放出性能を高めることで、燃焼室3の外周部近傍に吸蔵した酸素を確実に放出して混合気の燃焼を促進させてエンジン1の高出力を得ることができる。また、空燃比を適切な空燃比とすることができるので、排気への未燃燃料や煤等の排出を防止することができる。
【0040】
また、圧縮行程後半から膨張行程前半までの行程でのみ、酸素吸蔵部材12或いは酸素吸蔵部材13に電圧の印加を行うようにしているので、ノッキングの防止及び排気への未燃燃料及び煤などの排出の防止に影響を与えることなく、バッテリ32の電力の消費を抑制することができる。
また、ノックセンサ5にてノッキングが検出されると酸素吸蔵部材12或いは酸素吸蔵部材13に電圧を印加しているので、更にバッテリ32の電力の消費を抑制することができる。
【0041】
また、予め試験等でノッキングの発生が確認された吸気バルブ17側或いは排気バルブ18側に酸素吸蔵部材12,13をそれぞれ配設し、エンジン1の運転状態に基づいて、当該エンジン1の運転状態でノッキングが発生する酸素吸蔵部材12或いは酸素吸蔵部材13のいずれかに電圧を印加しており、ノッキングの発生する位置にある酸素吸蔵部材12或いは酸素吸蔵部材13のいずれかに電圧を印加することで確実にノッキングの発生を防止し、他の位置にある酸素吸蔵部材への電圧の印加は不要となり、更にバッテリ32の電力の消費を抑制することができる。
【0042】
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、発明の形態は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態は、酸素吸蔵部材を吸気側と排気側との2箇所に分割して配設するようにしているが、これに限定されるものではなく、更に酸素吸蔵部材を複数に分割しても、或いは酸素吸蔵部材を一つにまとめて単数としもよい。酸素吸蔵部材を複数に分割することで酸素吸蔵部材の容量が減少するので酸素吸蔵部材へ印加する所定電圧を低くすることができるのでバッテリ32に電力消費を抑制することができる。また、酸素吸蔵部材を単数とすることでエンジン1の運転状態よりノッキングの発生位置を判別する必要がなくなり、制御を容易にすることができる。
【0043】
ノッキング発生時に一定の電圧である所定電圧を酸素吸蔵部材12,13へ印加するようにしているが、これに限定されるものではなく、エンジン1の回転速度或いは負荷によって酸素吸蔵部材12,13へ印加する電圧を可変させるようにしても良く、例えば、エンジン1の回転速度上昇により圧縮行程後半の期間及び膨張行程前半の期間が短くなったり、エンジン1の負荷の上昇により燃焼室11内への空気の流入量が増加したりしても、エンジ1の回転速度或いは負荷が上昇するとともに電圧も上昇させることで、酸素吸蔵部材12,13への酸素の吸蔵量を確保することができ、確実にノッキングの発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 エンジン(内燃機関)
3 シリンダヘッド
5 ノックセンサ(ノッキング検出手段)
7 ピストン
10 クランク角センサ(運転状態検出手段)
11 燃焼室
12 酸素吸蔵部材
13 酸素吸蔵部材
23 カム角センサ(運転状態検出手段)
24 カム角センサ(運転状態検出手段)
25 吸気マニホールド
26 燃焼噴射弁
31 印加電圧制御装置(電圧印加手段)
32 バッテリ(電圧印加手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダが形成されるシリンダブロックと、前記シリンダ内を摺動するピストンと、前記シリンダブロックに取り付けられて前記ピストンとの間に燃焼室が形成されるとともに、前記燃焼室と連通する吸気通路と排気通路とが形成されるシリンダヘッドと、を有する内燃機関のノック制御装置において、
前記燃焼室の壁面に配設され、印加される電圧が変更すると酸素の吸蔵性能が変化する酸素吸蔵部材と、
前記酸素吸蔵部材に電圧を印加する電圧印加手段と、を備え、
少なくとも前記内燃機関の圧縮行程の後半であるときに、前記電圧印加手段により前記酸素吸蔵部材に印加する電圧を変更して前記酸素吸蔵部材の酸素吸蔵性能を高めることを特徴とする内燃機関のノック制御装置。
【請求項2】
前記酸素吸蔵部材は、前記シリンダヘッド側の前記燃焼室の壁面で、かつ、前記シリンダヘッドと前記シリンダブロックとの境界近傍であるエンドガス部に配設されることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関のノック制御装置。
【請求項3】
前記酸素吸蔵部材は、吸蔵した酸素を放出する酸素放出性能を有し、
前記電圧印加手段は、膨張行程の前半であるときに前記電圧印加手段により前記酸素吸蔵部材に印加する電圧を変更して前記酸素吸蔵部材の酸素放出性能を高めることを特徴とする、請求項1或いは2に記載の内燃機関のノック制御装置。
【請求項4】
前記電圧印加手段は、前記圧縮行程後半から前記膨張行程前半までの行程でのみ、電圧の印加を行うことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関のノック制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段を備え、
前記酸素吸蔵部材は、前記内燃機関の運転状態に基づく前記燃焼室内でのノッキング発生位置に対応して複数に分割して配設され、
前記電圧印加手段は、前記運転状態検出手段にて検出される前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記複数の酸素吸蔵部材のいずれかに電圧を印加することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の内燃機関のノック制御装置。
【請求項6】
ノッキングを検出するノッキング検出手段を備え、
前記電圧印加手段は、前記ノッキング検出手段にてノッキングが検出されると電圧の印加を行うことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の内燃機関のノック制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−100727(P2013−100727A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243680(P2011−243680)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】