内燃機関のピストンおよびその製造方法
【課題】ピン穴上方部分に発生する引張応力がより高くなってしまい、ピン穴上方部分の疲労劣化がより促進されてしまう。加えて、より下方の部分の厚みがより上方の部分の厚みよりも厚くなっているスカート部を有するピストンを製造する方法を提供する。
【解決手段】ピストン本体部11と、一対のスカート部12A、12Bと、一対のサイドウォール部13A、13Bと、ピン穴部14A、14Bとを有し、ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されている内燃機関のピストンに関する。本発明では、ピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴部の側方部分に隣接するサイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向に延在する隆起部分20がサイドウォール部の外壁面に設けられている。
【解決手段】ピストン本体部11と、一対のスカート部12A、12Bと、一対のサイドウォール部13A、13Bと、ピン穴部14A、14Bとを有し、ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されている内燃機関のピストンに関する。本発明では、ピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴部の側方部分に隣接するサイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向に延在する隆起部分20がサイドウォール部の外壁面に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に内燃機関のピストンが開示されている。このピストンは、円柱形のピストン本体部と、このピストン本体部から下方に延びる一対のスカート部と、これらスカート部を互いに連結する一対のサイドウォール部と、各サイドウォール部に設けられた一対のピン穴部とを有する。そして、このピストンのサイドウォール部は、その下方部分からその上方部分に向かって薄くなる厚みを有している。したがって、このピストンでは、サイドウォール部の上方部分の剛性が低く、サイドウォール部の下方部分の剛性が高くなっている。そして、サイドウォール部の剛性は、スカート部の剛性に影響し、剛性が低いサイドウォール部の部分に近いスカート部の部分の剛性は低く、剛性が高いサイドウォール部の部分に近いスカート部の部分の剛性は高くなっている。したがって、特許文献1に開示されているピストンでは、結果的に、スカート部の上方部分の剛性が低く、スカート部の下方部分の剛性が高くなっている。そして、これによって、以下の効果が得られる。
【0003】
すなわち、ピストンが内燃機関のシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転され、膨張行程において燃焼室内で燃料が燃焼したとき、ピストン本体部の頂壁面には、高い燃焼圧がかかる。ここで、一般的に、ピストン本体部の外周壁面とシリンダボア内周壁面との間、および、スカート部の外周壁面とシリンダボア内周壁面との間には、若干のクリアランスが存在する。したがって、この場合において、ピストン本体部の頂壁面に高い燃焼圧がかかると、ピストン中心軸線がシリンダボア中心軸線に対して傾くように、ピストンがピストンピン(すなわち、ピン穴部によって形成されるピン穴に挿入されるピストンピン)を中心軸として回転してしまう。そして、このようにピストンが回転した場合、一方のスカート部の上方部分と他方のスカート部の下方部分とがシリンダボア内周壁面に強く当たる。
【0004】
一方、膨張行程に続く排気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピストン本体部の頂壁面にかかる圧力が低くなる。このとき、ピストン中心軸線がシリンダボア中心軸線に一致するように、ピストンがピストンピンを中心として回転する。このようにピストンが回転した場合、シリンダボア内周壁面に強く当たっていた一方のスカート部の上方部分と他方のスカート部の下方部分とがシリンダボア内周壁面から離れる。
【0005】
すなわち、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、一方のスカート部の上方部分と他方のスカート部の下方部分とが繰り返しシリンダボア内周壁面に強く当たったりそこから離れたりする。
【0006】
ここで、スカート部の上方部分の剛性が高いと、その部分は変形しづらい。このため、スカート部の上方部分がシリンダボア内周壁面に強く当たったときに、スカート部の上方部分とシリンダボア内周壁面との間で、いわゆるスラップ音や油膜切れが発生してしまう。したがって、こうしたスラップ音や油膜切れの発生を抑制するためには、スカート部の上方部分がシリンダボア内周壁面に当たったときに同上方部分が変形しやすいように、スカート部の上方部分の剛性が低くなっていることが好ましい。上述したように、特許文献1に開示されているピストンでは、スカート部の上方部分の剛性が低くなっているので、スラップ音や油膜切れの発生が抑制されるという効果が得られる。
【0007】
また、スカート部の下方部分の剛性が低いと、その部分は変形しやすい。このため、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に強く当たったときに、スカート部の下方部分が大きく変形することから、シリンダボア中心軸線に対するピストン中心軸線の傾きが大きくなってしまう。そして、その結果、スカート部の上方部分がシリンダボア内周壁面にさらに強く当たることになってしまうことから、スラップ音や油膜切れが生じやすくなったりしてしまう。もちろん、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に強く当たったときにスカート部の下方部分が大きく変形するのであるから、スカート部の下方部分の変形の支点となる部分が疲労劣化しやすくなってしまう。したがって、こうした疲労劣化を抑制するためには、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に当たったときにスカート部の下方部分が変形しづらいように、スカート部の下方部分の剛性が高くなっていることが好ましい。上述したように、特許文献1に開示されているピストンでは、スカート部の下方部分の剛性が高くなっているので、スラップ音や油膜切れが発生しづらく、また、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に当たったときの同下方部分の変形の支点となる部分が疲労劣化しづらくなる。
【0008】
このように、サイドウォール部の厚みをサイドウォール部全体に亘って一定の厚みとするのではなく、サイドウォール部の厚みをサイドウォール部の部分毎に変えることによって、様々な効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平2−132834号公報
【特許文献2】実開平3−92544号公報
【特許文献3】実開平3−89958号公報
【特許文献4】特開平4−219570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ピストンが内燃機関のシリンダボア内に配置されると、ピストンのピン穴にはピストンピンが挿入され、ピストンピンにはコネクティングロッドの一端が接続され、コネクティングロッドの他端はクランクシャフトに接続される。そして、内燃機関が運転されると、膨張行程において燃焼室内で燃料が燃焼したとき、ピストン本体部の頂壁面には、燃焼圧による大きな荷重(以下この荷重を「燃焼圧荷重」という)がかかる。そして、この燃焼圧荷重は、ピストンピンを介してピストンからコネクティングロッドに伝達され、コネクティングロッドからクランクシャフトに伝達される。したがって、ピストン本体部の頂壁面が燃焼圧荷重を受けたとき、ピストンはその燃焼圧荷重をピン穴部で支持することになる。このため、大きな燃焼圧荷重によってピン穴部の上方部分(以下この部分を「ピン穴上方部分」という)の内周壁面がピストンピンの上方部分(以下この部分を「ピストンピン上方部分」という)の外周壁面に強く押しつけられ、これらピン穴上方部分の内周壁面とピストンピン上方部分の外周壁面との接触面が小さいことから、これら壁面の面圧が高面圧となる。その結果、ピン穴上方部分の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径がそれぞれピン穴の元の半径およびピストンピンの元の半径よりも大きくなるように、ピン穴上方部分とピストンピンとが共に変形してしまう。これによって、ピン穴上方部分に曲げが生じることから、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に引張応力が発生する。一方、膨張行程に続く排気行程および吸気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に発生していた引張応力が消滅する。そして、機関運転中、膨張行程と排気行程および吸気行程とは繰り返し行われるので、ピン穴上方部分が疲労劣化しやすくなる。
【0011】
また、ピストンの分野では、ピストンの軽量化やピストンに関連するフリクションの低減が要請されており、この要請を達成するためにピン穴の径を小さくすることがある。しかしながら、ピン穴の径を小さくすると、ピン穴上方部分の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径が小さくなる。このため、これら壁面がより小さな接触面にて互いに強く押しつけられることから、これら壁面の面圧がより高面圧となり、その結果、ピン穴上方部分に発生する引張応力がより高くなってしまい、ピン穴上方部分の疲労劣化がより促進されてしまう。
【0012】
そこで、本発明の1つの目的は、ピン穴上方部分の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができるピストンを提供することにある。
【0013】
ところで、内部に空洞を備えたピストンを型によって製造する場合、ピストンの空洞は、一般的に、中子を利用して形成される。詳細には、中子周りにピストン材料(すなわち、ピストンを構成する材料)が配置された状態でピストン材料が固化されることによって空洞が形成される。そして、空洞の形成後、中子が空洞から抜き出される。
【0014】
一方、上述したように、特許文献1に開示されているピストンでは、特定の目的(すなわち、サイドウォール部の上方部分の剛性を低くし且つサイドウォール部の下方部分の剛性を高くする目的)で、サイドウォール部の厚みをその下方部分からその上方部分に向かって薄くしている。ここで、例えば、或る特定の目的で、スカート部の厚みをその下方部分からその上方部分に向かって薄くすることもあり得る。そして、こうしたスカート部を有するピストンがその内部に空洞を備えており、このピストンを型によって製造する場合、上述した一般的な中子を利用して空洞を形成すると、空洞の形成後、中子を空洞から抜き出そうとしたときに、スカート部の下方部分が邪魔になって、中子を空洞から抜き出すことができない。
【0015】
そこで、本発明のもう1つの目的は、より下方の部分の厚みがより上方の部分の厚みよりも厚くなっているスカート部を有するピストンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本願の1番目の発明は、円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部に設けられた円環状のピン穴部であって前記サイドウォール部の延在平面に対して垂直な中心軸線を備えたピン穴部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されている内燃機関のピストンに関する。そして、本発明の内燃機関のピストンでは、前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴部の側方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向に延在する隆起部分が前記サイドウォール部に設けられている。
【0017】
この発明によれば、ピン穴部の上方部分の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができるピストンが提供される。すなわち、ピストンがシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、膨張行程において燃焼室内で燃料が燃焼したとき、ピストン本体部の頂壁面には、大きな燃焼圧荷重(すなわち、燃焼圧による大きな荷重)がかかる。そして、この大きな燃焼圧荷重によってピン穴上方部分(すなわち、ピン穴部の上方部分)の内周壁面がピストンピン上方部分(すなわち、ピン穴に挿入されているピストンピンの上方部分)の外周壁面に押しつけられ、その結果、ピン穴上方部分の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径がそれぞれピン穴の元の半径およびピストンピンの元の半径よりも大きくなるように、ピン穴上方部分とピストンピンとが共に変形してしまう。これによって、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に引張応力が発生する。一方、膨張行程に続く排気行程および吸気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に発生していた引張応力が消滅する。そして、機関運転中、膨張行程と排気行程および吸気行程とは繰り返し行われるので、ピン穴上方部分が疲労劣化しやすくなる。ここで、本発明では、サイドウォール部に隆起部分が設けられている。そして、この隆起部分は、ピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴部の側方部分に隣接するサイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向にサイドウォール部で延在している。したがって、この隆起部分は、燃焼圧荷重によるピストン本体部の撓みの力をピン穴部の側方部分に伝達する。そして、このピン穴部の側方部分に伝達された力によって、ピン穴部には、膨張行程における燃焼圧荷重によるピン穴上方部分の曲りを抑制する方向に力がかかることになる。これにより、ピン穴上方部分の曲りが抑制され、その結果、ピン穴部の上方部分に引張応力が発生することが抑制される。このため、たとえピン穴の径を小さくしたとしてもピン穴部の上方部分の疲労劣化が抑制される。したがって、本発明によれば、ピン穴部の上方部分の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができるピストンが提供される。
【0018】
また、本願の2番目の発明では、上記1番目の発明の内燃機関のピストンにおいて、前記隆起部分が突出する側とは反対側の前記サイドウォール部の壁面に前記隆起部分に沿って延在する溝が形成されている。
【0019】
この発明によれば、サイドウォール部の壁面に溝が形成されていることから、ピストンが軽量化される。
【0020】
また、本願の3番目の発明では、上記1または2番目の発明の内燃機関のピストンにおいて、前記ピン穴部の中心軸線と当該ピストンの中心軸線とを含む平面をピン穴縦平面と称し、該ピン穴縦平面近傍のピン穴部の部分であって前記ピン穴部の中心軸線に関して前記ピストン本体部側の部分をピン穴上方部分と称し、前記ピン穴部の中心軸線を含み且つ当該ピストンの中心軸線に対して垂直な平面をピン穴横平面と称し、該ピン穴横平面近傍のピン穴部の部分をピン穴横部分と称し、前記ピン穴上方部分と前記ピン穴横部分との略中間に位置するピン穴部の部分をピン穴斜め上方部分と称したとき、前記隆起部分が前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴斜め上方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かって略真っ直ぐに延在する。
【0021】
この発明によれば、ピン穴の径を小さくしたとしてもより確実にピン穴上方部分の疲労劣化が抑制される。すなわち、ピストン本体部の頂壁面に大きな燃焼圧荷重がかかると、上記1番目の発明に関連して説明したように、この大きな燃焼圧荷重によってピン穴部上方部分に引張応力が発生する。これに関し、ピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴斜め上方部分に力がかかると、ピン穴上方部分の曲げが良好に抑制され、その結果、ピン穴上方部分に引張応力が発生することが良好に抑制されることが本願の発明者の研究により判明した。ここで、本発明では、隆起部分がピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴斜め上方部分に隣接するサイドウォール部の外壁面の領域に向かって略真っ直ぐに延在している。このため、燃焼圧荷重によるピストン本体部の撓みの力がピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴斜め上方部分にかかることになる。このため、ピン穴の径を小さくしたとしてもより確実にピン穴上方部分の疲労劣化が抑制されることになる。
【0022】
また、上記目的を達成するために、本願の4番目の発明は、円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されており、前記スカート部のより下方の部分の厚みが同スカート部のより上方の部分の厚みよりも厚くなっているピストンを型を用いて製造する方法に関する。そして、本発明の方法では、一方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同一方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第1の中子と、他方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同他方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第2の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記一方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第3の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第3の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記他方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第4の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第4の中子と、前記第1の中子、前記第2の中子、前記第3の中子、および、前記第4の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分を規定する第5の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子と前記第3の中子と前記第4の中子との間に配置される第5の中子とによって、前記空洞がピストン内に形成される。
【0023】
この4番目の発明によれば、第1の中子〜第5の中子の外壁面によって構成される壁面によって、ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とが規定され、これによって、ピストン内に空洞が形成される。そして、各中子は、ピストンの空洞内の一部領域のみを占めていることから、これら全ての中子をピストンの空洞から抜き出すことができる。
【0024】
また、本願の5番目の発明では、上記4番目の発明の方法において、第1の中子、第2の中子、第3の中子、第4の中子、および、第5の中子によって前記空洞がピストン内に形成された後、始めに、第5の中子が抜き出され、次いで、第3の中子および第4の中子が抜き出され、次いで、第1の中子および第2の中子が抜き出される。
【0025】
この5番目の発明によれば、全ての中子をピストン内の空洞から容易に抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(A)は、第1実施形態のピストンの側面図であり、(B)は、同ピストンの底面図である。
【図2】図1(A)と同様の第1実施形態のピストンの側面図である。
【図3】図2の線X−Xに沿った第1実施形態のピストンの隆起部分の断面図である。
【図4】図1(A)と同様の図であるが、第1実施形態の隆起部分とは別の隆起部分を備えたピストンを示した側面図である。
【図5】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図6】図5と同様の図であって図5に示されている面を説明するための図である。
【図7】(A)は、図5の面Aに沿った第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面を示した図であり、同様に、(B)〜(G)は、それぞれ、図5の面B〜Gに沿った第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面を示した図であり、(H)は、第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との底端面を示した図である。
【図8】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図9】図8と同様の図であって図8に示されている面を説明するための図である。
【図10】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図11】図10と同様の図であって図10に示されている面を説明するための図である。
【図12】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図13】図12と同様の図であって図12に示されている面を説明するための図である。
【図14】(A)は、第1実施形態のピストンのスカート部周辺の縦断面図であり、(B)は、本発明の実施形態のピストンとは異なるピストンのスカート部周辺の縦断面図であり、(C)は、第1実施形態のピストンの変更例のスカート部周辺の縦断面図である。
【図15】(A)は、図1(A)と同様の図であって第2実施形態のピストンの側面図であり、(B)は、(A)の線Y−Yに沿った同ピストンのサイドウォール部の縦断面図である。
【図16】(A)は、図15(B)と同様の図であって第2実施形態のピストンがシリンダボア内に配置されたときに同ピストンの窪みにオイルが留められている様子を示した図であり、(B)は、図15(B)と同様の図であって同ピストンがシリンダボア内に配置されたときに同ピストンの窪みにおいてオイルが拡散する様子を示した図である。
【図17】図1(B)と同様の図であって第3実施形態のピストンの底面図である。
【図18】図1(B)と同様の図であって第4実施形態のピストンの底面図である。
【図19】(A)は、図3と同様の図であって第5実施形態のピストンの第1サイドウォール部に設けられた隆起部分の断面図であり、(B)は、図3と同様の図であって同ピストンの第2サイドウォール部に設けられた隆起部分の断面図である。
【図20】本発明の実施形態のピストンを底端面から見た図であって本発明の実施形態のピストンの空洞を形成するために利用される中子を示した図である。
【図21】図1(A)と同様の図であって第6実施形態または第7実施形態のピストンの側面図である。
【図22】(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第6実施形態のピストンのスカート部の横断面図であり、(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った同ピストンのスカート部の横断面図である。
【図23】(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第7実施形態のピストンのスカート部の横断面図であり、(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った同ピストンのスカート部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明のピストンの実施形態について説明する。図1に第1実施形態のピストンが示されている。図1(A)は、第1実施形態のピストンの側面図であり、図1(B)は、同ピストンの底面図である。図1に示されているように、ピストン10は、1つの本体部(以下「ピストン本体部」という)11と、一対のスカート部12A、12Bと、一対のサイドウォール部13A、13Bと、一対のピン穴部14A、14Bとを有する。
【0028】
なお、以下の説明において、「上方」という用語は、図1(A)の図面上における「上方」(例えば、ピン穴部14A、14Bを基準とした場合に、ピストン本体部11が配置されている側に向かう方向)を表し、「下方」という用語は、図1(A)の図面上における「下方」(すなわち、「上方」とは反対の方向)を表し、「側方」という用語は、下方から上方に向かう方向に対して垂直な方向を表し、「外方」という用語は、ピストン10の内部から同ピストンの外部に向かう方向を表し、「内方」という用語は、ピストン10の外部から同ピストンの内部に向かう方向(すなわち、「外方」とは反対の方向)を表す。また、「底端面」とは、下方を向いた端面である。
【0029】
ピストン本体部11は、ピストン中心軸線C1を中心とする円柱状の部分である。そして、ピストン本体部11は、ピストン中心軸線C1を中心とする円形の面をなして上方を向いた1つの壁面(以下この壁面を「ピストン本体頂壁面」という)111と、ピストン中心軸線C1を中心とする円形の面をなして下方を向いた1つの壁面(以下この壁面を「ピストン本体底壁面」という)112と、ピストン中心軸線C1を中心とする円筒状の面をなして外方を向いた1つの外周壁面(以下この壁面を「ピストン本体外周壁面」という)113とを有する。
【0030】
ピストン本体外周壁面113は、ピストン本体頂壁面111の外周端とピストン本体底壁面112の外周端とを互いに連結している。また、ピストン本体外周壁面113には、ピストン中心軸線C1を中心とする円環状の複数の溝114が形成されている。これら溝114には、それぞれ、円環状のオイルリング(図示せず)が収容される。また、ピストン本体頂壁面111には、キャビティ115が形成されている。
【0031】
各スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1を中心とする略部分円環状の部分である。そして、各スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1を中心とする略部分円筒状の面をなして外方を向いた1つの外周壁面(以下この壁面を「スカート外周壁面」という)121と、ピストン中心軸線C1を中心とする略部分円筒状の面をなして内方を向いた1つの内周壁面(以下この壁面「スカート内周壁面」ともいう)122とを有する。また、スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1に関して対称的に互いに反対側に配置されている。別の言い方をすれば、スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1に関して互いに反対側に位置するピストン本体底壁面112の部分円環状の外周領域から下方へピストン中心軸線C1に対して平行に延在している。なお、各スカート外周壁面121は、ピストン本体外周壁面113と略面一になっている。
【0032】
各サイドウォール部13A、13Bは、平坦な形状の部分である。そして、各サイドウォール部13A、13Bは、平坦な面をなして外方を向いた1つの外壁面(以下この壁面を「サイドウォール外壁面」ともいう)131と、平坦な面をなして内方を向いた1つの内壁面(以下この壁面を「サイドウォール内壁面」ともいう)132とを有する。また、サイドウォール部13A、13Bは、ピストン中心軸線C1に関して対称的に互いに反対側に配置されている。別の言い方をすれば、サイドウォール部13A、13Bは、ピストン中心軸線C1に関して互いに反対側に位置するピストン本体底壁面112の矩形の領域から下方へピストン中心軸線C1に対して平行に延在している。また、各サイドウォール部13A、13Bの側方端は、スカート部12の対応する側方端に接続されている。したがって、各サイドウォール部13A、13Bは、2つのスカート部12A、12B間に配置され、これら2つのスカート部12A、12Bを互いに連結している。
【0033】
各ピン穴部14A、14Bは、円環状の部分である。したがって、各ピン穴部14A、14Bには、貫通穴(以下「ピン穴」という)141が形成されている。これらピン穴141には、ピストン10をコンロッド(図示せず)に接続するための1つの共通のピストンピン(図示せず)が挿入される。また、各ピン穴部14A、14Bは、その中心軸線(すなわち、ピン穴141の中心軸線であり、以下この中心軸線を「ピン穴中心軸線」という)C2がサイドウォール部13A、13Bの延在平面に対して垂直となり且つサイドウォール部13A、13Bの略中央の部分を貫通するように設けられている。したがって、ピン穴中心軸線C2に対して平行な方向における各ピン穴部14A、14Bの一方の端部は、サイドウォール外壁面131から外方へ突出しており、ピン穴中心軸線C2に対して平行な方向における各ピン穴部14A、14Bの他方の端部は、サイドウォール内壁面132から内方へ突出している。
【0034】
なお、各ピン穴部14A、14Bは、一方のピン穴141の中心軸線C2が他方のピン穴141の中心軸線C2と一致するように配置されている。また、各ピン穴部14A、14Bがサイドウォール部13A、13Bに設けられており、各サイドウォール部13A、13Bがピストン本体底壁面112に接続されていることから、各サイドウォール部13A、13Bは、ピストン本体部11とピン穴部14A、14Bとを互いに連結する連結部であるとも言える。
【0035】
また、以下の説明では、図1(A)に参照符号143で示されているピン穴部14A、14Bの上方部分を「ピン穴上方部分」と称し、図1(A)に参照符号142で示されているピン穴部14A、14Bの側方部分を「ピン穴側方部分」と称する。
【0036】
各ピン穴部14A、14Bとピストン本体部11との間のサイドウォール外壁面131には、リブ30が設けられている。このリブ30は、ピストン中心軸線C1に対して平行に延在し、ピン穴上方部分143とピストン本体底壁面112とを連結している。
【0037】
ピストン10の内部には、空洞(以下「ピストン空洞」という)101が形成されている。このピストン空洞101は、概ね、ピストン本体底壁面112とスカート内周壁面122とサイドウォール内壁面132とによって画成されている。
【0038】
ピストン本体部11の内部には、ピストン本体部11を冷却するオイルを通すためのオイル通路(図示せず)が形成されている。
【0039】
そして、図1(B)に示されているように、一方のピン穴部(以下このピン穴部を「第1ピン穴部」という)14Aと一方のスカート部(以下このスカート部を「第1スカート部」という)12Aとの間の一方のサイドウォール部(以下このサイドウォール部を「第1サイドウォール部」という)13Aの内壁面132には、オイル導入通路画成壁103が設けられている。このオイル導入通路画成壁103は、第1サイドウォール部13Aの底端面近傍の領域から略上方へ第1ピン穴部14A近傍の領域を通過してピストン本体底壁面113まで延在する。また、オイル導入通路画成壁103は、ピストン本体部11の内部に形成されている上記オイル通路内にオイルを導入するためのオイル導入通路102を画成する。このオイル導入通路102は、ピストン本体底壁面113において上記オイル通路に接続されている。
【0040】
また、他方のピン穴部(以下このピン穴部を「第2ピン穴部」という)14Bと他方のスカート部(以下このスカート部を「第2スカート部」という)12Bとの間の他方のサイドウォール部(以下このサイドウォール部を「第2サイドウォール部」という)13Bの内壁面132には、オイル排出通路画成壁105が設けられている。このオイル排出通路画成壁105は、第2サイドウォール部13Bの底端面近傍の領域から略上方へ第2ピン穴部14B近傍の領域を通過してピストン本体底壁面113まで延在する。また、オイル排出通路画成壁105は、ピストン本体部11の内部に形成されている上記オイル通路内のオイルを排出するためのオイル排出通路104を画成する。このオイル排出通路104は、ピストン本体底壁面113において上記オイル通路に接続されている。
【0041】
したがって、これら画成壁103、105は、ピストン中心軸線C1に関して対称的にそれぞれ対応するサイドウォール内壁面132に設けられている。
【0042】
なお、以下の説明では、オイル導入通路画成壁103に近い方の第1サイドウォール部13Aの側方端を「第1側方端」と称し、オイル導入通路画成壁103から遠い方の第1サイドウォール部13Aの側方端を「第2側方端」と称し、オイル排出通路画成壁105に近い方の第2サイドウォール部13Bの側方端を「第1側方端」と称し、オイル排出通路画成壁105から遠い方の第2サイドウォール部13Bの側方端を「第2側方端」と称する。また、以下の説明では、第1サイドウォール部13Aの第1側方端に接続されている第1スカート部12Aの側方端を「第1側方端」と称し、第2サイドウォール部13Bの第2側方端に接続されている第1スカート部12Aの側方端を「第2側方端」と称し、第2サイドウォール部13Bの第1側方端に接続されている第2スカート部12Bの側方端を「第1側方端」と称し、第1サイドウォール部13Aの第2側方端に接続されている第2スカート部12Bの側方端を「第2側方端」と称する。
【0043】
第1サイドウォール部13Aには、2つの隆起部分20が設けられており、第2サイドウォール部13Bにも、2つの隆起部分20が設けられている。これら隆起部分20は、サイドウォール部13A、13Bの一部分であって、サイドウォール部13A、13Bの他の部分よりも外方へ突出した部分である。したがって、隆起部分20に対応する領域のサイドウォール外壁面131は、その領域以外の領域のサイドウォール外壁面131に比べて外方へ突出している。
【0044】
次に、これら隆起部分20について詳細に説明する。
【0045】
なお、以下の説明では、図2に参照符号AR1で示されている領域を「上方角領域」と称する。この領域は、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとの接続部分の上方端近傍のサイドウォール外壁面131の領域(すなわち、スカート部12A、12Bとピストン本体部11との接続部分近傍のサイドウォール外壁面131の領域)である。また、図2に参照符号AR2で示されている領域を「下方角領域」と称する。この領域は、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとの接続部分の下方端近傍のサイドウォール外壁面131の領域である。また、図2に参照符号AR3で示されている領域を「ピン穴側方領域」と称する。この領域は、ピン穴側方部分142近傍のサイドウォール外壁面131の領域である。
【0046】
各サイドウォール外壁面131には、それぞれ、2つの上方角領域AR1と2つの下方角領域AR2と2つのピン穴側方領域AR3がある。そして、各隆起部分20は、それぞれ、上方角領域AR1から同上方角領域AR1に近い方のピン穴側方領域AR3まで延在するようにサイドウォール部13A、13Bに設けられている。より詳細には、各隆起部分20は、図2で見てピン穴中心軸線に対して上方のピン穴部14Bの部分と同じく図2で見てピン穴中心軸線に対して左右のピン穴部14Bの部分との略中央の部分(以下この部分を「ピン穴斜め上方部分」という)に向かって上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3まで略真っ直ぐに延在する。別の表現をすれば、ピン穴中心軸線とピストン中心軸線とを含む平面をピン穴縦平面と称し、ピン穴中心軸線を含み且つピストン中心軸線に対して垂直な平面をピン穴横平面と称し、該ピン穴横平面近傍のピン穴部14Bの部分をピン穴横部分と称したとき、ピン穴上方部分143はピン穴縦平面近傍のピン穴部の部分であってピン穴中心軸線に関してピストン本体部11側の部分であり、ピン穴斜め上方部分はピン穴上方部分143とピン穴横部分との略中間に位置するピン穴部14Bの部分であり、隆起部分20は上方角領域AR1からピン穴斜め上方部分に隣接するピン穴側方領域AR3まで略真っ直ぐに延在する。また、各隆起部分20の外壁面は、図3に示されているように、隆起部分20の延在方向に沿ったラインを母線とする略部分円筒状の面をなすように突出している。
【0047】
また、各隆起部分20の内壁面(すなわち、隆起部分20に対応するサイドウォール内壁面132)は、図3に示されているように、隆起部分20の延在方向に沿ったラインを母線とする略部分円筒状の面をなすように窪んでいる。すなわち、サイドウォール内壁面132は、隆起部分20に対応する領域において隆起部分20に沿って窪んでいる。したがって、サイドウォール内壁面132には、上方角領域AR1から同上方角領域AR1に近い方のピン穴側方領域AR3まで延在する溝21が形成されている。
【0048】
サイドウォール部13A、13Bに隆起部分20が設けられることによって、以下の効果が得られる。
【0049】
すなわち、ピストン10が内燃機関のシリンダボア内に配置されると、ピストン本体頂壁面111とシリンダボア内周壁面(図示せず)とシリンダヘッド底壁面(図示せず)とによって燃焼室(図示せず)が形成される。また、ピン穴141にはピストンピン(図示せず)が挿入され、このピストンピンを介してピストン10がコンロッド(図示せず)に接続される。
【0050】
ここで、内燃機関が運転され、膨張行程において燃焼室内で燃料と空気との混合気が燃焼すると、ピストン本体頂壁面111には、大きな燃焼圧荷重(すなわち、燃焼圧による荷重)がかかる。そして、この大きな燃焼圧荷重によってピン穴上方部分143の内周壁面がピストンピン上方部分(すなわち、ピストンピンの上方部分)の外周壁面に押しつけられ、その結果、ピン穴上方部分143の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径がそれぞれピン穴141の元の半径およびピストンピンの元の半径よりも大きくなるように、ピン穴上方部分143とピストンピンとが共に変形してしまう。これによって、ピン穴上方部分143の内周壁面側の部分に引張応力が発生する。一方、膨張行程に続く排気行程および吸気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピン穴上方部分143の内周壁面側の部分に発生していた引張応力が消滅する。
【0051】
そして、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、膨張行程と排気行程および吸気行程とは繰り返し行われるので、ピン穴上方部分143が疲労によって劣化しやすくなってしまう(以下この疲労による劣化を「疲労劣化」という)。
【0052】
ここで、第1実施形態のピストンでは、サイドウォール部13A、13Bに隆起部分20が設けられている。そして、これら隆起部分20は、サイドウォール部13A、13Bにおいてピン穴斜め上方部分に向かって上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3まで略真っ直ぐに延在している。したがって、これら隆起部分20は、燃焼圧荷重によるピストン本体部11の撓みの力をピン穴側方部分142に伝達する。そして、このピン穴側方部分142に伝達された力によって、ピン穴部14Bには、膨張行程における燃焼圧荷重によるピン穴上方部分143の曲りを抑制する方向に力がかかることになる。これにより、ピン穴上方部分143の曲りが抑制され、その結果、ピン穴上方部分143に引張応力が発生することが抑制される。このため、たとえピン穴の径を小さくしたとしてもピン穴上方部分143の疲労劣化が抑制される。したがって、第1実施形態によれば、ピン穴上方部分143の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができる。
【0053】
ところで、第1実施形態の隆起部分20は、本発明の隆起部分の一例である。すなわち、本発明の隆起部分には、上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3に向かう方向に延在する如何なる隆起部分も含まれる。また、別の表現をすれば、本発明の隆起部分には、ピストン本体部11の撓みに起因したピストン本体外周部分116の変位によってサイドウォール部13A、13Bに加えられる圧縮力がサイドウォール部13A、13Bを伝わる経路に沿って上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3に向かう方向に延在する如何なる隆起部分も含まれる。また、別の表現をすれば、本発明の隆起部分には、ピストン本体頂壁面111が燃焼圧荷重を受けたときのピストン本体部11の撓みを抑制するように上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3に向かう方向に延在する如何なる隆起部分も含まれる。
【0054】
したがって、本発明の隆起部分には、図4に示されている形状の隆起部分20も含まれる。すなわち、図4に示されている各隆起部分20は、その延在方向においてその中央の部分が下方角領域AR2に向かって凸となっている略円弧状に延在している。別の云い方をすれば、各隆起部分20は、その中央の部分までは上方角領域AR1から略下方に向かって延在し、同中央の部分においてその延在方向をピン穴側方部分142に向かう方向へと徐々に変え、同中央の部分を越えるとピン穴側方部分142に向かって延在する。
【0055】
また、第1実施形態において、上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3まで延在する隆起部分20をサイドウォール部13A、13Bに設けるのに代えて、上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3までの領域の一部に延在する隆起部分をサイドウォール部13A、13Bに設けるようにしてもよい。
【0056】
また、第1実施形態において、連続的に延在する隆起部分20をサイドウォール部13A、13Bに設けるのに代えて、複数の部分に分割されて延在する隆起部分をサイドウォール部13A、13Bに設けるようにしてもよい。
【0057】
また、第1実施形態において、外方へ突出する隆起部分20をサイドウォール部13A、13Bに設けるのに代えて、内方へ突出する隆起部分をサイドウォール部13A、13Bに設けるようにしてもよい。この場合、第1実施形態において、隆起部分20に沿って延在する溝21をサイドウォール内壁面132に形成するのに代えて、隆起部分に沿って延在する溝がサイドウォール外壁面131に形成される。
【0058】
ところで、上述したように、隆起部分20に対応するサイドウォール内壁面132には、隆起部分20に沿って溝21が形成されている。このように溝21が形成されている場合、ピストン10が軽量化されるという効果が得られる。もちろん、この効果を必要としない場合、或いは、溝21がサイドウォール内壁面132に設けられていない方が好ましい場合には、溝21がサイドウォール内壁面132に形成されていなくてもよい。
【0059】
次に、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとの接続形態について説明する。
【0060】
なお、以下の説明において、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとをまとめて「ピストン下方壁」と称し、特定の面で切られたピストン下方壁の断面を「ピストン下方壁断面」と称し、このピストン下方壁の底端面を「ピストン下方壁底端面」と称し、ピストン下方壁断面またはピストン下方壁底端面におけるサイドウォール部とスカート部との接続部分を「ピストン下方壁接続部分」と称し、このピストン下方壁接続部分近傍のサイドウォール部の部分を「サイドウォール接続部分」と称し、ピストン下方壁接続部分近傍のスカート部の部分を「スカート接続部分」と称し、ピストン下方壁断面またはピストン下方壁底端面においてサイドウォール接続部分がピストン下方壁接続部分に向かって延在する方向を「サイドウォール延在方向」と称し、ピストン下方壁断面またはピストン下方壁底端面においてスカート接続部分がピストン下方壁接続部分に向かって延在する方向を「スカート延在方向」と称し、サイドウォール延在方向とスカート延在方向とが交差する角度を「ピストン下方壁交差角度」と称する。
【0061】
図5に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図6に示されているように、ピストン中心軸線C1に対して垂直な平面P1を「水平面」と称し、この水平面P1とピン穴中心軸線C2との間の距離D1を「水平面距離」と称したとき、図5に示されている面A〜Gは、水平面距離D1がそれぞれ異なる水平面P1である。
【0062】
図5に示されている例では、面Dの水平面距離D1は零である。そして、面Dに関し、面Aと面Gとが対称であり、面Bと面Fとが対称であり、面Cと面Eとが対称である。また、面A、Gの水平面距離D1が最も大きく、面B、Fの水平面距離D1が次に大きく、面C、Eの水平面距離D1がその次に大きく設定されている。
【0063】
これら面A〜Gに沿ってピストン下方壁を切って下方から見たときのピストン下方壁断面がそれぞれ図7(A)〜図7(G)に示されており、ピストン下方壁底端面が図7(H)に示されている。
【0064】
図7を参照すると判るように、ピストン10では、ピストン下方壁交差角度(図7に参照符号ANで示されている角度)は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0065】
したがって、スカート部12A、12Bの上方部分のピストン下方壁交差角度が比較的大きくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0066】
すなわち、ピストン10がシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、スカート部12A、12Bは、シリンダボア内周壁面からのいわゆるスラスト力を受ける。また、機関運転中、スカート部12A、12Bの上方部分(以下この部分を「スカート上方部分」ともいう)の温度はスカート部の中央部分(以下この部分を「スカート中央部分」という)およびスカート部の下方部分(以下この部分を「スカート下方部分」という)の温度よりも高くなる。このため、スカート上方部分の熱膨張の度合は、スカート中央部分およびスカート下方部分の熱膨張の度合よりも大きい。したがって、スカート上方部分のスラスト耐性(すなわち、スラスト力による変形に対する耐性)が高い場合、スカート上方部分がシリンダボア内周壁面に比較的強く押しつけられてしまういわゆる締り嵌めが生じる可能性が高い。一方、スカート上方部分のスラスト耐性が低い場合、スカート上方部分が熱膨張したとき、スカート上方部分はピストン中心軸線C1に関して径方向内方にも変形可能であることから、締り嵌めが生じる可能性は低い。したがって、締り嵌めを抑制するためには、スカート上方部分のスラスト耐性を低くすることが好ましい。
【0067】
ここで、ピストン下方壁交差角度が大きいほど、スカート部12A、12Bのスラスト耐性が低くなる。ピストン10では、ピストン下方壁交差角度がピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっていることから、スカート上方部分のピストン下方壁交差角度が比較的大きくなっている。したがって、スカート上方部分のスラスト耐性が低くなっているので、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0068】
また、ピストン10では、スカート下方部分のピストン下方壁交差角度が比較的小さくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0069】
すなわち、ピストン10がシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、ピストン10には、ピストン中心軸線C1がシリンダボア中心軸線に対して傾くようにピストン10を変位させる力が働き、これによって、スカート下方部分がシリンダボア内周壁面に押しつけられる。このとき、スカート下方部分の剛性が低いと、スカート下方部分が容易に内方に変形可能である。したがって、スカート下方部分がシリンダボア内周壁面に押しつけられたときに、スカート下方部分が内方に変形してしまう。一方、スカート下方部分の剛性が高ければ、スカート下方部分がシリンダボア内周壁面に押しつけられたとしても、スカート下方部分が内方に変形することはない。したがって、スカート下方部分が内方に変形することを抑制するためには、スカート下方部分の剛性を高くすることが好ましい。
【0070】
ここで、ピストン下方壁交差角度が小さいほど、スカート部12A、12Bの剛性が高くなる。ピストン10では、ピストン下方壁交差角度がピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっていることから、スカート下方部分のピストン下方壁交差角度が比較的小さくなっている。したがって、スカート下方部分の剛性が高くなっているので、スカート下方部分の内方への変形が抑制される。
【0071】
このように、ピストン10では、ピストン下方壁交差角度がピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっていることによって、スカート上方部分の締り嵌めの抑制とスカート下方部分の内方への変形の抑制とが同時に達成されている。
【0072】
ところで、ピストン10では、以下のように複数のピストン下方壁断面を取得し、これらピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したときにも、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0073】
すなわち、図8に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図9に示されているように、ピン穴中心軸線C2とピストン中心軸線C1とを含む平面P2を「基準平面」と称し、この基準平面P2の一方の側に延在する平面P3と基準平面P2の他方の側に延在する平面P4とによって構成される一対の平面P3、P4であって基準平面P2に関して対称であり且つ当該平面P3、P4同士が交差する線がピン穴中心軸線C2に一致する一対の平面を「対平面」と称し、この対平面P3、P4間の角度AN1を「平面間角度」と称したとき、図8に示されている面A〜Gは、平面間角度AN1がそれぞれ異なる対平面P3、P4である。
【0074】
図8に示されている例では、平面間角度AN1は対平面A〜Gの順で大きく設定されている。
【0075】
そして、これら対平面A〜Gに沿ってピストン下方壁を切ったときのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したとき、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0076】
また、ピストン10では、以下のように複数のピストン下方壁断面を取得し、これらピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したときにも、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0077】
すなわち、図10に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図11に示されているように、ピン穴中心軸線C2とピストン中心軸線C1とを含む平面P2を「基準平面」と称し、この基準平面P2の一方の側に延在する平面P5と基準平面P2の他方の側に延在する平面P6とによって構成される一対の平面P5、P6であって基準平面P2に関して対称な一対の平面P5、P6を「対平面」と称し、この対平面P5、P6間の角度AN2を「平面間角度」と称し、対平面P5、P6が交差する線とピン穴中心軸線C2との間の距離D2を「平面距離」と称したとき、図10に示されている面A〜Gは、平面間角度AN2および断平面距離D2がそれぞれ異なる対平面P5、P6である。
【0078】
図10に示されている例では、対平面Dの平面間角度は180°である。そして、対平面Dに関し、対平面A〜Cは上方側に配置され、対平面E〜Gは下方側に配置されている。また、対平面Dに関し、対平面Aと対平面Gとが対称であり、対平面Bと対平面Fとが対称であり、対平面Cと対平面Eとが対称である。そして、対平面A、Gの平面距離D2が最も大きく、対平面B、Fの平面距離D2が次に大きく、対平面C、Eの平面距離D2がその次に大きく設定されている。また、平面間角度AN2は、対平面A〜CおよびE〜Gの順で大きく設定されている。
【0079】
そして、これら対平面A〜Gに沿ってピストン下方壁を切ったときのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したとき、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0080】
また、ピストン10では、以下のように複数のピストン下方壁断面を取得し、これらピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したときにも、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0081】
すなわち、図12に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図13に示されているように、ピン穴中心軸線C2とピストン中心軸線C1とを含む平面P2を「基準平面」と称し、この基準平面P2上の中心軸線を中心とする円筒面P7を単に「円筒面」と称し、この円筒面P7と基準平面P2とが交差する線とピン穴中心軸線C2との間の距離D3を「円筒面距離」と称したとき、図12に示されている面A〜CおよびE〜Gは、曲率半径および断平面距離D3がそれぞれ異なる円筒面P7であり、図12に示されている面Dは、基準平面P2に対して垂直であってピン穴中心軸線C2を含む面である。
【0082】
図12に示されている例では、面Dに関し、円筒面A〜Cは上方側に配置され、円筒面E〜Gは下方側に配置されている。また、面Dに関し、円筒面Aと円筒面Gとが対称であり、円筒面Bと円筒面Fとが対称であり、円筒面Cと円筒面Eとが対称である。そして、円筒面A、Gの断平面距離D3が最も大きく、円筒面B、Fの断平面距離D3がその次に大きく、円筒面C、Eの断平面距離D3がその次に大きく設定されている。また、円筒面A、Gの曲率半径が最も小さく、円筒面B、Fの曲率半径が次に小さく、円筒面C、Eの曲率半径がその次に小さく設定されている。
【0083】
そして、これら円筒面A〜CおよびE〜Gならびに面D−Dに沿ってピストン下方壁を切ったときのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したとき、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0084】
以上、図5〜図13を参照して説明したピストン下方壁交差角度に関する特徴を包括的に表現すれば、ピストン10では、少なくとも、互いに交差しない2つのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度(または、1つのピストン下方壁断面とピストン下方壁底端面とにおけるピストン下方壁交差角度)を互いに比較したとき、より上方に位置するピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度は、より下方に位置するピストン下方壁断面(または、ピストン下方壁底端面)におけるピストン下方壁交差角度よりも大きくなっていると言える。
【0085】
ところで、図7を参照すると判るように、ピストン10では、サイドウォール接続部分(すなわち、ピストン下方壁接続部分近傍のサイドウォール部13A、13Bの部分)は、少なくとも、湾曲している。そして、このサイドウォール接続部分の曲率半径(以下この曲率半径を「サイドウォール曲率半径」という)は、サイドウォール部において下方から上方に向かって徐々に小さくなっている。
【0086】
なお、ピストン10において、ピストン下方壁底端面におけるサイドウォール接続部分が直線状に延在していてもよいし、より下方のピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるサイドウォール接続部分が直線状に延在していてもよい。
【0087】
上述したように、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっている。したがって、サイドウォール上方部分のサイドウォール曲率半径が比較的小さくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0088】
すなわち、上述したように、締り嵌めを抑制するためには、スカート上方部分のスラスト耐性を低くすることが好ましい。ここで、サイドウォール曲率半径が小さいほど、スカート部のスラスト耐性が低くなる。したがって、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっていることから、スカート上方部分のスラスト耐性が低く、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0089】
また、上述したように、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっている。したがって、サイドウォール下方部分のサイドウォール曲率半径が比較的大きくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0090】
すなわち、上述したように、スカート下方部分の内方への変形を抑制するためには、スカート下方部分の剛性を高くすることが好ましい。ここで、サイドウォール曲率半径が大きいほど、スカート部の剛性が高くなる。したがって、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっていることから、スカート下方部分の剛性が高く、スカート下方部分の内方への変形が抑制される。
【0091】
このように、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっていることによって、スカート上方部分の締り嵌めの抑制とスカート下方部分の内方への変形の抑制とが同時に達成されている。
【0092】
次に、ピストン中心軸線C1に対して垂直な方向に測ったときのスカート部12A、12Bの厚みについて説明する。
【0093】
ピストン10では、スカート部12A、12Bは、図14(A)に示されているように、スカート部において上方から下方に向かって徐々に大きくなる厚みを有している(以下、このスカート部の厚みを「スカート厚」ともいう)。これによれば、以下の効果が得られる。
【0094】
すなわち、スカート部12A、12Bはその上方端(以下この上方端を「スカート上方端」という)において剛性の高いピストン本体部11に接続されている。したがって、仮にスカート部12A、12Bが全体に亘って一定の厚みを有している場合、スカート部のスラスト耐性(すなわち、スラスト力による変形に耐える能力)は、スカート部の下方端(以下この下方端を「スカート下方端」という)からスカート上方端に向かって高くなる傾向にある。
【0095】
したがって、例えば、図14(B)に示されているように、スカート部12A、12Bがスカート上方端からスカート下方端に向かって徐々に薄くなる厚みを有している場合、スカート部の中央領域の部分(以下この部分を「スカート中央部分」ともいう)の厚みおよび同スカート部の下方領域の部分(以下この部分を「スカート下方部分」ともいう)の厚みが比較的薄くなっていることから、これら部分のスラスト耐性は大幅に低くなっていることになる。そして、この場合、スラスト力がスカート部12A、12Bにかかったとき、少なくとも、スカート中央部分が凹んでしまう。そして、この場合、スカート中央部分の凹んだ部分とスカート部の凹んでいない部分との境界部分に鋭角な角部が形成されてしまう。このような角部がスカート部12A、12Bに形成された場合、この角部においてスカート部とシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなってしまう。
【0096】
ところが、ピストン10のように、スカート部12A、12Bがスカート上方端からスカート下方端に向かって徐々に厚くなる厚みを有している場合、スカート中央部分の厚みおよびスカート下方部分の厚みが比較的厚くなっていることから、これら部分のスラスト耐性は比較的高くなっている。もちろん、スカート部12A、12Bの上方領域の部分(以下この部分を「スカート上方部分」という)の厚みは比較的薄くなっているが、この部分はピストン本体部11に近い部分であることから、この部分のスラスト耐性は比較的高くなっている。
【0097】
このように、ピストン10では、スカート部12A、12B全体のスラスト耐性が高くなっていることから、スラスト力によってスカート中央部分が凹むことがない(或いは、スカート中央部分が凹むように変形したとしても、その変形量は非常に小さく且つ凹む部分の面積は非常に狭い)。したがって、スカート部12A、12Bとシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなることが抑制される。
【0098】
ところで、上述したように、スカート上方部分のスラスト耐性が高い場合、スカート上方部分の締り嵌めが生じる可能性が高いことから、スカート上方部分の締り嵌めを抑制するためには、スカート上方部分のスラスト耐性を低くすることが好ましい。
【0099】
ここで、ピストン10では、上述したように、スカート部12A、12Bがスカート下方端からスカート上方端に向かって徐々に厚くなる厚みを有しており、スカート上方部分の厚みが比較的薄くなっている。したがって、スカート上方部分のスラスト耐性が低くなっていることから、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0100】
ところで、図14(A)に示されているように、スカート外周壁面121が概ねピストン中心軸線C1を中心とする部分円筒面ではあるがピストン中心軸線C1に関する径が大きい部分(以下この部分を「大径部分」という)がスカート外周壁面121にある場合、この大径部分には、大きなスラスト力がかかる。したがって、この大径部分は、スラスト力によって凹みやすいと言える。そして、上述したように、スカート部12A、12Bとシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなることを抑制するためには、スカート外周壁面121が凹むことを抑制することが好ましい。そこで、ピストン中心軸線C1に関するスカート外周壁面121の部分毎の径が異なる場合、各部分の厚みを該部分の径に比例して厚くするようにしてもよい。これによれば、スカート外周壁面121に大径部分がある場合であっても、スカート部12A、12Bとシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなることが抑制される。
【0101】
なお、このように、スカート部12A、12Bの各部分の厚みを該部分の径に比例して厚くする場合において、大径部分がスカート外周壁面121の中央領域にある場合、結果的には、スカート上方部分の厚みが薄くなっている。このため、スカート上方部分のスラスト耐性が低くなっていることから、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0102】
ところで、大径部分がスカート外周壁面121の中央領域にある場合、スカート外周壁面121がピストン中心軸線C1に対して径方向内方へ凹むことを抑制し且つスカート上方部分の締り嵌めを抑制するためには、少なくとも、スカート中央部分の厚みを比較的厚くすると共にスカート上方部分の厚みを比較的薄くすればよい。したがって、この場合、スカート下方部分の厚みは比較的薄くてもよい。したがって、大径部分がスカート外周壁面121の中央領域にある場合には、図14(C)に示されているように、スカート中央部分の厚みを比較的厚くし、スカート上方部分およびスカート下方部分の厚みを比較的薄くするようにしてもよい。
【0103】
この場合、スカート下方部分の厚みが比較的薄くされることから、ピストン10が軽量化されるという効果が得られる。
【0104】
ところで、上述したように、ピストン本体部11が撓んだ場合、サイドウォール部13A、13Bもピン穴上方部分143を支点として撓む。このように、ピン穴上方部分143は、サイドウォール部13A、13Bの撓みの支点となる。このため、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分の温度は、その他の部分の温度に比べて高くなりやすい。したがって、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分の疲労劣化を抑制するためには、これら部分を効率良く冷却することが望まれる。
【0105】
そこで、ピストン10において、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分を図15に示されているように構成してもよい。すなわち、図15に示されている実施形態(以下この実施形態を「第2実施形態」という)では、リブ30の両側において、ピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に窪み(図15(A)において参照符号31が付された網掛け部分)が設けられている。そして、各窪み31を画成する壁面は、少なくとも、ピン穴上方部分143に隣接した領域からサイドウォール部13A、13Bの内部に向かって内方であって且つ斜め上方へと延在する略上方を向いた壁面(以下この壁面を「窪み斜面」ともいう)32と、該窪み斜面32の内方端から外方へピストン中心軸線C1に対して略垂直に延在する壁面33とを有する。
【0106】
第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に窪み31が設けられていることによって、以下の効果が得られる。
【0107】
すなわち、第2実施形態のピストン10がシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されたとき、サイドウォール外壁面131とシリンダボア内周壁面との間の空間に、下方から冷却・潤滑用のオイルが吹き上げられる。そして、この吹き上げられたオイルは、サイドウォール外壁面131とシリンダボア内周壁面との間の空間を介してピン穴上方部分143およびその近傍の部分に到来する。
【0108】
ここで、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられていない場合、この部分に到来したオイルは、比較的早期にこの部分から流れ出てしまう。すなわち、オイルがピン穴上方部分143近傍の部分周辺に留まる時間が短い。
【0109】
一方、第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、以下の理由から、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間が長くなる。すなわち、図16(A)に示されているように、ピストン10がシリンダボア50内に配置されたとき、ピストン中心軸線C1が概ね鉛直方向に対して平行になる。したがって、ピストンがシリンダボア内に配置されたとき、窪み斜面32は、鉛直方向に対して斜めに配置される。このため、ピン穴上方部分近傍の部分に到来したオイルは、図16(A)に示されているように、窪み斜面32上に留まる。このため、ピン穴上方部分近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間が長くなる。
【0110】
そして、第2実施形態によれば、オイルがピン穴上方部分143近傍の部分周辺に留まる時間が長くなるので、ピン穴上方部分近傍の部分周辺のピストンの部分(すなわち、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分)が効率良く冷却される。
【0111】
さらに、第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、以下の理由からも、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間がさらに長くなる。すなわち、図16(B)に示されているように、ピストン10がシリンダボア50内に配置されたとき、窪み斜面32は、鉛直方向に対して斜めに配置される。このため、窪み斜面32は、そこに到来するオイルの拡散方向に対して傾斜している。したがって、図16(B)に矢印Aで示されているように、窪み斜面32は、そこに到来したオイルを上方へと跳ね返すことができる。このため、窪み斜面32に到来したオイルが窪み31内で飛散する。すなわち、ピン穴上方部分143近傍の部分に到来したオイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まることになる。このため、第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間がさらに長くなる。
【0112】
そして、第2実施形態によれば、オイルがピン穴上方部分143近傍の部分周辺に留まる時間がさらに長くなるので、ピン穴上方部分近傍の部分周辺のピストンの部分(すなわち、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分)がさらに効率良く冷却される。
【0113】
ところで、第2実施形態の窪み31は、本発明の窪みの一例である。すなわち、本発明の窪みには、ピン穴上方部分近傍の部分にオイルを留めておくことができる如何なる窪みも含まれる。
【0114】
したがって、第2実施形態のピストンにおいて、リブ30の両側のサイドウォール外壁面131に窪み31を設けるのに代えて、リブ30の一方の側のサイドウォール外壁面131にのみ窪みを設けるようにしてもよい。
【0115】
また、リブ30には、ピン穴上方部分143とピストン本体部11との間のサイドウォール部13A、13Bの剛性を高める効果がある。しかしながら、こうした効果よりも、ピン穴上方部分143近傍の領域にさらに多量のオイルを留めておくという効果を優先するのであれば、第2実施形態のピストンにおいて、リブ30の両側のサイドウォール外壁面131に窪み31を設けるのに加えて、ピン穴上方部分143近傍のリブ30の外壁面に、第2実施形態のピストン10の窪み31と同様の窪みを設けてもよい。
【0116】
もちろん、第2実施形態のピストンにおいて、リブ30の両側のサイドウォール外壁面131に窪み31を設けるのに代えて、ピン穴上方部分143近傍のリブ30の外壁面に、第2実施形態のピストン10の窪み31と同様の窪みを設けるようにしてもよい。
【0117】
また、第2実施形態の窪み斜面32は、本発明の窪み斜面の一例である。すなわち、本発明の窪み斜面には、ピストンがシリンダボア内に配置されているときにピン穴上方部分近傍の部分に到来するオイルを同部分に留めることができる如何なる壁面も含まれる。また、本発明の窪み斜面には、ピストンがシリンダボア内に配置されているときにピン穴上方部分近傍の部分に到来するオイルを上方へと跳ね返すことができる如何なる壁面も含まれる。
【0118】
したがって、第2実施形態のように、鉛直方向に対してサイドウォール外壁面131から斜め上方へ延在する窪み斜面31をピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に設けるのに代えて、ピン穴上方部分143近傍の領域からサイドウォール部13A、13Bの内部に向かってピストン中心軸線C1に対して斜め下方に延在する壁面をピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に設けるようにしてもよいし、ピン穴上方部分143近傍の領域からサイドウォール部13A、13Bの内部に向かってピストン中心軸線C1に対して垂直な方向に延在する壁面をピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に設けるようにしてもよい。
【0119】
ところで、図15(A)に示されているように、第2実施形態では、サイドウォール外壁面131に、第1実施形態の隆起部分20と同様の隆起部分20が設けられている。このため、以下の理由から、ピン穴上方部分143近傍の部分がオイルによってさらに効率良く冷却される。
【0120】
すなわち、第2実施形態の隆起部分20は、第1実施形態の隆起部分20と同様に、ピン穴側方領域AR3から上方角領域A1まで延在するようにサイドウォール部13A、13Bに設けられている。別の言い方をすれば、隆起部分20は、窪み31近傍(すなわち、窪み斜面32近傍)であって且つピン穴部14A、14B近傍のサイドウォール外壁面131の領域から、ピン穴部から離れる方向であって斜め上方へとサイドウォール外壁面131において延在する。さらに別の言い方をすれば、隆起部分20は、窪み31近傍(すなわち、窪み斜面32近傍)であって且つピン穴部14A、14B近傍のサイドウォール外壁面131の領域から、ピン穴部から離れる方向であって斜め上方へとピストン本体部11に隣接するサイドウォール外壁面131の領域まで延在する。
【0121】
したがって、ピストン中心軸線C1が鉛直方向に対して平行になるようにピストン10がシリンダボア内に配置された場合、隆起部分20の上方領域(すなわち、隆起部分20の外壁面をその延在方向に沿ってサイドウォール外壁面131に対して垂直な面によって2つの領域に分割したときに上方側に位置する領域)の外壁面は、少なくとも、鉛直方向に対して斜めになっている。このため、この外壁面は、窪み31から流出したオイルを捕捉して留めておくことができるし、隆起部分20よりも上方のサイドウォール外壁面131に到来するオイルも捕捉して留めておくことができる。すなわち、隆起部分20は、オイルをピン穴上方部分143近傍の部分およびその周辺の部分に留めておくことができる。そして、この留められたオイルによって、ピン穴上方部分143近傍の部分およびその周辺の部分が冷却される。このため、第2実施形態では、ピン穴上方部分143近傍の部分およびその周辺の部分がオイルによってさらに効率良く冷却されるのである。
【0122】
なお、上述した実施形態の窪み31は、オイルの粘性に関係なく、少なからずオイルを留めることができる。しかしながら、オイルの粘性が高いほど、窪み31は、より確実にオイルを留めることができる。また、上述した実施形態の隆起部分20も、オイルの粘性に関係なく、少なからずオイルを留めることができる。しかしながら、オイルの粘性が高いほど、隆起部分20は、より確実にオイルを留めることができる。
【0123】
ところで、図1(B)に示されているように、上述した実施形態では、第1サイドウォール部13Aの内壁面にオイル導入通路画成壁103が設けられ、第2サイドウォール部13Bの内壁面にオイル排出通路画成壁105が設けられている。次に、これら画成壁103、105について詳細に説明する。
【0124】
オイル導入通路画成壁103が図1(B)に示されているように設けられている場合、オイル導入通路画成壁103によって、第1サイドウォール部13Aの第1側方端近傍の部分の剛性が高められ、その結果、第1サイドウォール部13Aの第1側方端に接続されている第1スカート部12Aの第1側方端近傍の部分の剛性も高められる。しかしながら、第2サイドウォール部13Bの第2側方端近傍の部分には、同部分の剛性を高めるオイル導入通路画成壁103のような壁は設けられていないことから、第2サイドウォール部13Bの第2側方端に接続されている第1スカート部12Aの第2側方端近傍の部分の剛性は高められていない。したがって、第1スカート部12Aの第1側方端近傍の部分の剛性が第1スカート部12Aの第2側方端近傍の部分の剛性よりも高くなっている。
【0125】
ところで、ピストンがシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、スカート部12A、12Bは、シリンダボア内周壁面からスラスト力を受ける。そして、このスラスト力は、大きくなったり小さくなったりする。ここで、スラスト力が大きくなったときには、このスラスト力によってスカート部12A、12Bの少なくとも一部が変形せしめられる。そして、その後、スラスト力が小さくなると、変形していたスカート部12A、12Bの部分の形状が元の形状に戻る。
【0126】
ここで、オイル導入通路画成壁103によって第1スカート部12Aの第1側方端近傍の部分の剛性が第1スカート部12Aの第2側方端近傍の部分の剛性よりも高くなっている場合、スラスト力による第1スカート部12Aの第1側方端側の部分の変形度合は、同スラスト力による第1スカート部12Aの第2側方端側の部分の変形度合よりも小さい。すなわち、第1スカート部12Aにおいて、スラスト力による第1側方端側の部分の変形度合と同スラスト力による第2側方端側の部分の変形度合とが互いに異なる。そして、このように変形度合が互いに異なる場合、第1スカート部12Aがスラスト力を受けて変形するときに、第1スカート部12Aの一部分に大きな応力が発生してしまう。そして、その後、第1スカート部12Aが受けるスラスト力が小さくなると、第1スカート部12Aの変形していた部分の形状が元の形状に戻り、第1スカート部12Aの一部分に発生していた大きな応力が消滅する。このように第1スカート部12Aに大きな応力が発生したり、この大きな応力が消滅したりすることによって、第1スカート部12Aが疲労によって劣化してしまう。
【0127】
そこで、こうした第1スカート部12Aの疲労劣化を抑制するために、図17に示されているように、オイル導入通路画成壁103を設けずに、第1スカート部12Aの第1側方端と第1サイドウォール部13Aの第1側方端との接続部分の上方端近傍のピストン本体底壁面112の部分に、ピストン本体部11の内部のオイル通路にオイルを導入するオイル導入口104を設けるようにしてもよい。
【0128】
この図17に示されている実施形態(以下この実施形態を「第3実施形態」という)では、第1スカート部12Aの剛性が全体に亘って均一であることから、第1スカート部12Aの一部分に大きな応力が発生することが抑制される。このため、第1スカート部12Aの疲労劣化が抑制される。
【0129】
同様に、オイル排出通路画成壁105によって第2スカート部12Bの第1側方端近傍の部分の剛性が第2スカート部12Bの第2側方端近傍の部分の剛性よりも高くなっている場合、スラスト力による第2スカート部12Bの第1側方端側の部分の変形度合は、同スラスト力による第2スカート部12Bの第2側方端側の部分の変形度合よりも小さい。すなわち、第2スカート部12Bにおいて、スラスト力による第1側方端側の部分の変形度合と同スラスト力による第2側方端側の部分の変形度合とが互いに異なる。そして、このように変形度合が互いに異なる場合、第2スカート部12Bがスラスト力を受けて変形するときに、第2スカート部12Bの一部分に大きな応力が発生してしまう。そして、その後、第2スカート部12Bが受けるスラスト力が小さくなると、第2スカート部12Bの変形していた部分の形状が元の形状に戻り、第2スカート部12Bの一部分に発生していた大きな応力が消滅する。このように第2スカート部12Bに大きな応力が発生したり、この大きな応力が消滅したりすることによって、第2スカート部12Bが疲労によって劣化してしまう。
【0130】
そこで、こうした第2スカート部12Bの疲労劣化を抑制するために、図17に示されているように、オイル排出通路画成壁105を設けずに、第2スカート部12Bの第1側方端と第2サイドウォール部13Bの第1側方端との接続部分の上方端近傍のピストン本体部底壁面112の部分に、ピストン本体部11の内部のオイル通路からオイルを排出するオイル排出口105を設けるようにしてもよい。
【0131】
この図17に示されている第3実施形態では、第2スカート部12Bの剛性が全体に亘って均一であることから、第2スカート部12Bの一部分に大きな応力が発生することが抑制される。このため、第2スカート部12Bの疲労劣化が抑制される。
【0132】
ところで、上述した実施形態において、ピストンがシリンダボア内に配置されている場合、オイル導入口104には、サイドウォール底端面よりも下方からオイルが吹き付けられ、この吹き付けられたオイルがオイル導入口104に流入する。したがって、第3実施形態のように、オイル導入口104がピストン本体底壁面112に設けられている場合、オイルがオイル導入口104に効率良く流入しないことになってしまう。
【0133】
そこで、上述したスカート部12A、12Bの不均一な剛性に起因する同スカート部の疲労劣化を抑制しつつ、オイルをオイル導入口104に効率良く流入させるために、第2スカート部12Bがスラスト側に配置されることを条件として、図18に示されているように、第1ピン穴部14Aと第1スカート部12Aの第1側方端との間の第1サイドウォール部13Aの内壁面132に、第1サイドウォール部13Aの底端面からピストン本体底壁面112まで延在するオイル導入通路画成壁103を設けて該オイル導入通路画成壁103によって画成されるオイル導入通路をピストン10の内部のオイル通路に接続し、第2スカート部12Bの第1側方端と第2サイドウォール部13Bの第1側方端との接続部分の上方端近傍のピストン本体底壁面112の部分に、オイル排出口105を設けるようにしてもよい(すなわち、第2ピン穴部14Bと第2スカート部12Bの第1側方端との間の第2サイドウォール部13Bの内壁面には、オイル排出通路画成壁105は設けられない)。
【0134】
この図18に示されている実施形態(以下この実施形態を「第4実施形態」という)では、第2スカート部12Bがスラスト側に配置されるのであるから、機関運転中、第1スカート部12Aが受けるスラスト力は、第2スカート部12Bが受けるスラスト力よりも小さい。したがって、第1ピン穴部14Aと第1スカート部12Aの第1側方端との間の第1サイドウォール部13Aの内壁面132にオイル導入通路画成壁103が設けられ、その結果、第1スカート部12Aの第1側方端側の部分の剛性と第1スカート部12Aの第2側方端側の部分の剛性とが互いに異なっていたとしても、第1スカート部12Aが受けるスラスト力が比較的小さいのであるから、第1スカート部12Aの一部分に大きな応力が発生することはない。したがって、第1スカート部12Aの疲労劣化が抑制されている。
【0135】
そして、第4実施形態では、オイル導入通路画成壁103が第1サイドウォール部13Aの底端面からピストン本体底壁面112まで延在することから、オイル導入口104が第1サイドウォール部13Aの底端面近傍に形成されている。したがって、オイルがオイル導入口104に効率良く流入する。
【0136】
一方、第4実施形態では、第2ピン穴部14Bと第2スカート部12Bの第1側方端との間の第2サイドウォール部13Bの内壁面132にオイル排出通路画成壁105が設けられていないことから、第2スカート部12Bの剛性は全体に亘って均一である。したがって、第2スカート部12Bがスラスト側に配置され、第2スカート部12Bが受けるスラスト力が比較的大きいとしても、第2スカート部12Bの一部分に大きな応力が発生することはない。したがって、第2スカート部12Bの疲労劣化が抑制される。
【0137】
ところで、上述した実施形態において、ピストン頂壁面111とシリンダボア内周壁面とによって形成される燃焼室には、一般的に、該燃焼室に空気を導入する吸気ポートと燃焼室から排気ガスを排出する排気ポートとが接続されている。ここで、燃焼室から排出される排気ガスの温度は、燃焼室に導入される空気の温度よりも高い。したがって、吸気ポートに近い燃焼室内の領域の温度よりも、排気ポートに近い燃焼室内の領域の温度の方が高い。したがって、吸気ポートに近いシリンダボア内周壁面の部分の温度よりも、排気ポートに近いシリンダボア内周壁面の部分の温度の方が高い。したがって、上述した実施形態のピストンがシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、吸気ポートに近いピストンの部分の温度よりも排気ポートに近いピストンの部分の温度の方が高くなる。
【0138】
一方、上述した実施形態において、オイル導入口104から遠いピストンの部分におけるオイルによる冷却効果よりも、オイル導入口104に近いピストンの部分におけるオイルによる冷却効果の方が高い。
【0139】
したがって、オイルによってピストン全体を効率良く冷却するという観点からは、オイル導入口104に近い方のスカート部(すなわち、上述した実施形態では、第1スカート部12A)が排気ポートの近くに配置され且つオイル導入口104から遠い方のスカート部(すなわち、上述した実施形態では、第2スカート部12B)が吸気ポートの近くに配置されるように、上述した実施形態のピストンをシリンダボア内に配置することが好ましい。
【0140】
ところで、第1実施形態では、オイル導入通路102およびオイル排出通路104を形成するためにオイル導入通路画成壁103およびオイル排出通路画成壁105がサイドウォール内壁面132に設けられている。そして、このように画成壁103、105がサイドウォール内壁面132に設けられている場合、これら画成壁103、103がサイドウォール内壁面132に設けられていない場合に比べて、ピストンの重量が重くなる。一方、ピストンの分野では、ピストンの軽量化という要請がある。したがって、オイル導入通路102およびオイル排出通路104を形成する場合であっても、可能な限りピストンを軽量化することが望まれる場合がある。
【0141】
そこで、第1実施形態において、オイル導入通路102およびオイル排出通路104を形成したとしても可能な限りピストンを軽量化するために、これら通路102、104を図19に示されているように形成してもよい。
【0142】
すなわち、図19に示されている実施形態(以下この実施形態を「第5実施形態」という)では、図19(A)に示されているように、第1ピン穴部14Aと第1スカート部12Aの第1側方端との間の第1サイドウォール部13Aに設けられた隆起部分20の内壁面に同隆起部分20に沿って形成されている溝21を壁22によって塞ぐことによってオイル導入通路102が形成されている。すなわち、隆起部分20がオイル導入通路画成壁103の一部として利用される。
【0143】
このように、隆起部分20をオイル導入通路画成壁103の一部として利用した場合、隆起部分20をオイル導入通路画成壁103の一部として利用しない場合に比べて、ピストンが軽量化される。
【0144】
また、第5実施形態では、図19(B)に示されているように、第2ピン穴部14Bと第2スカート部12Bの第1側方端との間の第2サイドウォール部13Bに設けられた隆起部分20の内壁面に同隆起部分20に沿って形成されている溝21を壁23によって塞ぐことによってオイル排出通路が形成されている。すなわち、隆起部分20がオイル排出通路画成壁105の一部として利用される。
【0145】
このように、隆起部分20をオイル排出通路画成壁105の一部として利用した場合、隆起部分20をオイル排出通路画成壁105の一部として利用しない場合に比べて、ピストンが軽量化される。
【0146】
なお、隆起部分20をオイル導入通路画成壁103の一部として利用するという第5実施形態の考え方は、オイル排出通路画成壁105を設けずにオイル導入通路画成壁103のみを設ける第4実施形態にも適用可能である。
【0147】
ところで、第1実施形態のピストンは、サイドウォール内壁面132とスカート内周壁面122とピストン本体底壁面112とによって画成されるピストン空洞101を備えている。ここで、こうしたピストンを型を用いて製造する場合、ピストン空洞101に対応する形状の中子を利用してピストン空洞101が形成される。詳細には、中子周りにピストンを構成する材料(以下この材料を「ピストン材料」という)が配置された状態でピストン材料が固化されることによってピストン空洞101が形成される。
【0148】
ところで、中子周りにピストン材料が配置された状態でピストン材料が固化されることによってピストン空洞101を形成した場合、ピストン空洞101の形成後、中子をピストン空洞101から抜き出す必要がある。ここで、上述した実施形態のピストンとは異なり、スカート内周壁面がピストン中心軸線を中心とした部分円筒状の面となっている場合、または、スカート内周壁面がピストン中心軸線に関してスカート上方端からスカート下方端に向かって拡がる部分円錐状の面となっている場合(例えば、図14(B)に示されている場合)には、ピストン空洞の形成後、ピストン空洞から中子を容易に抜き出すことができる。
【0149】
しかしながら、図14(A)および図14(C)を参照して説明したように、スカート部12A、12Bの一部分の厚みをその他の部分の厚みよりも厚くした結果、スカート内周壁面122の一部分が内方へ突出している場合、ピストン空洞101の形成後、同ピストン空洞から中子を抜き出すことが極めて困難である。
【0150】
そこで、第1実施形態のピストンを型を用いて製造する場合、以下のようにピストン空洞101が形成され、同ピストン空洞の形成後、同ピストン空洞から中子が抜き出される。
【0151】
すなわち、本発明の実施形態では、ピストンにピストン空洞101を形成するために、図20に示されている中子が利用される。
【0152】
詳細には、(1)「第1サイドウォール部13Aの内壁面全体」と「第1スカート部12Aの第1側方端近傍の同第1スカート部12Aの内周壁面の部分」と「第2スカート部12Bの第2側方端近傍の同第2スカート部12Bの内周壁面の部分」と「第1サイドウォール部13Aの上方端近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第1中子41と、(2)「第2サイドウォール部13Bの内壁面全体」と「第1スカート部12Aの第2側方端近傍の同第1スカート部12Aの内周壁面の部分」と「第2スカート部12Bの第1側方端近傍の同第2スカート部12Bの内周壁面の部分」と「第2サイドウォール部13Bの上端近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第2中子42と、(3)「第1スカート部12Aの残りの内周壁面の部分」と「第1スカート部12Aの上方端の中間部分近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第3中子43と、(4)「第2スカート部12Bの残りの内周壁面の部分」と「第2スカート部12Bの上方端の中間部分近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第4中子44と、(5)「ピストン本体底壁面112の残りの部分」を規定する第5中子45と、からなる中子が利用される。
【0153】
そして、ピストン空洞101を形成するときには、第1中子41と第2中子42との間に第3中子43と第4中子44とをそれぞれ第1中子41と第2中子42とに接触するように配置すると共に、第1中子41と第2中子42との間であって第3中子43と第4中子44との間に第5中子45をこれら第1中子41〜第4中子44と接触するように配置する。そして、これら第1中子41〜第5中子45の外形形状は、これら中子41〜45が上述したように配置したときにこれら中子によって形成される外形形状がピストン空洞101を画成する壁面の形状に一致する形状とされている。
【0154】
そして、これら第1中子41〜第5中子45によってピストン空洞101が形成された後、第5中子45、第4中子44、第3中子43、第2中子42、第1中子41の順でピストン空洞101から抜き出せば、これら中子41〜45はピストン空洞101から容易に抜き出される。
【0155】
ところで、第1実施形態のピストンを型によって製造する場合においてピストン空洞101を形成する上述した考え方は、広くは、スカート内周壁面のより下方の部分に同スカート内周壁面のより上方の部分よりもピストン空洞に向かって突出する突出部分があるピストンを型によって製造する場合においてピストン空洞を形成する場合にも適用可能である。
【0156】
ところで、第1実施形態のピストンを型を用いて製造する場合において、上述した中子をピストン空洞から抜き出しやすくするために、スカート部12A、12Bの横断面形状を図22に示されている形状(以下、図22に示されている実施形態を「第6実施形態」という)または図23に示されている形状(以下、図23に示されている実施形態を「第7実施形態」という)としてもよい。
【0157】
すなわち、図22(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第6実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、図22(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った第6実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、第6実施形態のピストン10では、図22(A)に示されているように、第2スカート部12Bの上方部分は、第2スカート部12Bの周方向において中央領域の内周壁面12CNが同周方向において側方領域の内周壁面12LTよりも凹んでいる形状を有する。したがって、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122には、第2スカート部12Bの周方向において中央領域にピストン中心軸線C1に対して平行な方向に延びる帯状の溝123が形成されている。そして、この帯状の溝123が形成されている第2スカート部12Bの上方部分の中央領域と同上方部分の側方領域との間には、同側方領域の内周壁面12LTよりもピストン中心軸線C1に向かって突出した突出部分124が形成されている。
【0158】
一方、第6実施形態のピストン10では、図22(B)に示されているように、第2スカート部12Bの下方部分は、第2スカート部12Bの周方向において一定の厚みを有する。すなわち、第2スカート部12Bの下方部分には、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122に形成されている帯状の溝123や突出部分124は形成されていない。
【0159】
そして、第6実施形態のピストン10では、図示していないが、第1スカート部12Aも第2スカート部12Bの形状と同じ形状を有している。
【0160】
また、図23(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第7実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、図23(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った第7実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、第7実施形態のピストン10では、図23(A)に示されているように、第2スカート部12Bの上方部分は、第2スカート部12Bの周方向において中央領域の内周壁面12CNが同周方向において側方領域の内周壁面12LTよりも凹んでいる形状を有する。したがって、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122には、第2スカート部12Bの周方向において中央領域にピストン中心軸線C1に対して平行な方向に延びる帯状の溝123が形成されている。しかしながら、この帯状の溝123が形成されている第2スカート部12Bの上方部分の中央領域と同上方部分の側方領域との間には、同側方領域の内周壁面12LTよりもピストン中心軸線C1に向かって突出した突出部分は形成されていない。
【0161】
一方、第7実施形態のピストン10では、図23(B)に示されているように、第2スカート部12Bの下方部分は、第2スカート部12Bの周方向において一定の厚みを有する。すなわち、第2スカート部12Bの下方部分には、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122に形成されている帯状の溝123は形成されてない。
【0162】
そして、第7実施形態のピストン10では、図示していないが、第1スカート部12Aも第2スカート部12Bの形状と同じ形状を有している。
【0163】
ところで、上述した実施形態のピストンは、一対のピン穴部を有する。しかしながら、上述した実施形態のピストンが略円環状の1つのピン穴部を有していてもよい。この場合、ピン穴部は、両サイドウォール部13A、13Bを貫通するように設けられる。もちろん、このピン穴部の中心軸線は、両サイドウォール部13A、13Bの延在平面に対して垂直になっている。
【符号の説明】
【0164】
10…ピストン、11…ピストン本体部、12A、12B…スカート部、13A、13B…サイドウォール部、14A、14B…ピン穴部、20…隆起部分、21…溝、31…窪み、32…窪み斜面、41…第1中子、42…第2中子、43…第3中子、44…第4中子、45…第5中子、101…ピストンの空洞、112…ピストン本体部の底壁面、121…スカート部の外周壁面、122…スカート部の内周壁面、131…サイドウォール部の外壁面、132…サイドウォール部の内壁面、142…ピン穴部の側方部分、143…ピン穴部の上方部分、AR1…上方角領域、AR2…下方角領域、AR3…ピン穴側方領域、C1…ピストン中心軸線
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のピストンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に内燃機関のピストンが開示されている。このピストンは、円柱形のピストン本体部と、このピストン本体部から下方に延びる一対のスカート部と、これらスカート部を互いに連結する一対のサイドウォール部と、各サイドウォール部に設けられた一対のピン穴部とを有する。そして、このピストンのサイドウォール部は、その下方部分からその上方部分に向かって薄くなる厚みを有している。したがって、このピストンでは、サイドウォール部の上方部分の剛性が低く、サイドウォール部の下方部分の剛性が高くなっている。そして、サイドウォール部の剛性は、スカート部の剛性に影響し、剛性が低いサイドウォール部の部分に近いスカート部の部分の剛性は低く、剛性が高いサイドウォール部の部分に近いスカート部の部分の剛性は高くなっている。したがって、特許文献1に開示されているピストンでは、結果的に、スカート部の上方部分の剛性が低く、スカート部の下方部分の剛性が高くなっている。そして、これによって、以下の効果が得られる。
【0003】
すなわち、ピストンが内燃機関のシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転され、膨張行程において燃焼室内で燃料が燃焼したとき、ピストン本体部の頂壁面には、高い燃焼圧がかかる。ここで、一般的に、ピストン本体部の外周壁面とシリンダボア内周壁面との間、および、スカート部の外周壁面とシリンダボア内周壁面との間には、若干のクリアランスが存在する。したがって、この場合において、ピストン本体部の頂壁面に高い燃焼圧がかかると、ピストン中心軸線がシリンダボア中心軸線に対して傾くように、ピストンがピストンピン(すなわち、ピン穴部によって形成されるピン穴に挿入されるピストンピン)を中心軸として回転してしまう。そして、このようにピストンが回転した場合、一方のスカート部の上方部分と他方のスカート部の下方部分とがシリンダボア内周壁面に強く当たる。
【0004】
一方、膨張行程に続く排気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピストン本体部の頂壁面にかかる圧力が低くなる。このとき、ピストン中心軸線がシリンダボア中心軸線に一致するように、ピストンがピストンピンを中心として回転する。このようにピストンが回転した場合、シリンダボア内周壁面に強く当たっていた一方のスカート部の上方部分と他方のスカート部の下方部分とがシリンダボア内周壁面から離れる。
【0005】
すなわち、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、一方のスカート部の上方部分と他方のスカート部の下方部分とが繰り返しシリンダボア内周壁面に強く当たったりそこから離れたりする。
【0006】
ここで、スカート部の上方部分の剛性が高いと、その部分は変形しづらい。このため、スカート部の上方部分がシリンダボア内周壁面に強く当たったときに、スカート部の上方部分とシリンダボア内周壁面との間で、いわゆるスラップ音や油膜切れが発生してしまう。したがって、こうしたスラップ音や油膜切れの発生を抑制するためには、スカート部の上方部分がシリンダボア内周壁面に当たったときに同上方部分が変形しやすいように、スカート部の上方部分の剛性が低くなっていることが好ましい。上述したように、特許文献1に開示されているピストンでは、スカート部の上方部分の剛性が低くなっているので、スラップ音や油膜切れの発生が抑制されるという効果が得られる。
【0007】
また、スカート部の下方部分の剛性が低いと、その部分は変形しやすい。このため、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に強く当たったときに、スカート部の下方部分が大きく変形することから、シリンダボア中心軸線に対するピストン中心軸線の傾きが大きくなってしまう。そして、その結果、スカート部の上方部分がシリンダボア内周壁面にさらに強く当たることになってしまうことから、スラップ音や油膜切れが生じやすくなったりしてしまう。もちろん、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に強く当たったときにスカート部の下方部分が大きく変形するのであるから、スカート部の下方部分の変形の支点となる部分が疲労劣化しやすくなってしまう。したがって、こうした疲労劣化を抑制するためには、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に当たったときにスカート部の下方部分が変形しづらいように、スカート部の下方部分の剛性が高くなっていることが好ましい。上述したように、特許文献1に開示されているピストンでは、スカート部の下方部分の剛性が高くなっているので、スラップ音や油膜切れが発生しづらく、また、スカート部の下方部分がシリンダボア内周壁面に当たったときの同下方部分の変形の支点となる部分が疲労劣化しづらくなる。
【0008】
このように、サイドウォール部の厚みをサイドウォール部全体に亘って一定の厚みとするのではなく、サイドウォール部の厚みをサイドウォール部の部分毎に変えることによって、様々な効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平2−132834号公報
【特許文献2】実開平3−92544号公報
【特許文献3】実開平3−89958号公報
【特許文献4】特開平4−219570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ピストンが内燃機関のシリンダボア内に配置されると、ピストンのピン穴にはピストンピンが挿入され、ピストンピンにはコネクティングロッドの一端が接続され、コネクティングロッドの他端はクランクシャフトに接続される。そして、内燃機関が運転されると、膨張行程において燃焼室内で燃料が燃焼したとき、ピストン本体部の頂壁面には、燃焼圧による大きな荷重(以下この荷重を「燃焼圧荷重」という)がかかる。そして、この燃焼圧荷重は、ピストンピンを介してピストンからコネクティングロッドに伝達され、コネクティングロッドからクランクシャフトに伝達される。したがって、ピストン本体部の頂壁面が燃焼圧荷重を受けたとき、ピストンはその燃焼圧荷重をピン穴部で支持することになる。このため、大きな燃焼圧荷重によってピン穴部の上方部分(以下この部分を「ピン穴上方部分」という)の内周壁面がピストンピンの上方部分(以下この部分を「ピストンピン上方部分」という)の外周壁面に強く押しつけられ、これらピン穴上方部分の内周壁面とピストンピン上方部分の外周壁面との接触面が小さいことから、これら壁面の面圧が高面圧となる。その結果、ピン穴上方部分の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径がそれぞれピン穴の元の半径およびピストンピンの元の半径よりも大きくなるように、ピン穴上方部分とピストンピンとが共に変形してしまう。これによって、ピン穴上方部分に曲げが生じることから、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に引張応力が発生する。一方、膨張行程に続く排気行程および吸気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に発生していた引張応力が消滅する。そして、機関運転中、膨張行程と排気行程および吸気行程とは繰り返し行われるので、ピン穴上方部分が疲労劣化しやすくなる。
【0011】
また、ピストンの分野では、ピストンの軽量化やピストンに関連するフリクションの低減が要請されており、この要請を達成するためにピン穴の径を小さくすることがある。しかしながら、ピン穴の径を小さくすると、ピン穴上方部分の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径が小さくなる。このため、これら壁面がより小さな接触面にて互いに強く押しつけられることから、これら壁面の面圧がより高面圧となり、その結果、ピン穴上方部分に発生する引張応力がより高くなってしまい、ピン穴上方部分の疲労劣化がより促進されてしまう。
【0012】
そこで、本発明の1つの目的は、ピン穴上方部分の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができるピストンを提供することにある。
【0013】
ところで、内部に空洞を備えたピストンを型によって製造する場合、ピストンの空洞は、一般的に、中子を利用して形成される。詳細には、中子周りにピストン材料(すなわち、ピストンを構成する材料)が配置された状態でピストン材料が固化されることによって空洞が形成される。そして、空洞の形成後、中子が空洞から抜き出される。
【0014】
一方、上述したように、特許文献1に開示されているピストンでは、特定の目的(すなわち、サイドウォール部の上方部分の剛性を低くし且つサイドウォール部の下方部分の剛性を高くする目的)で、サイドウォール部の厚みをその下方部分からその上方部分に向かって薄くしている。ここで、例えば、或る特定の目的で、スカート部の厚みをその下方部分からその上方部分に向かって薄くすることもあり得る。そして、こうしたスカート部を有するピストンがその内部に空洞を備えており、このピストンを型によって製造する場合、上述した一般的な中子を利用して空洞を形成すると、空洞の形成後、中子を空洞から抜き出そうとしたときに、スカート部の下方部分が邪魔になって、中子を空洞から抜き出すことができない。
【0015】
そこで、本発明のもう1つの目的は、より下方の部分の厚みがより上方の部分の厚みよりも厚くなっているスカート部を有するピストンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本願の1番目の発明は、円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部に設けられた円環状のピン穴部であって前記サイドウォール部の延在平面に対して垂直な中心軸線を備えたピン穴部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されている内燃機関のピストンに関する。そして、本発明の内燃機関のピストンでは、前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴部の側方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向に延在する隆起部分が前記サイドウォール部に設けられている。
【0017】
この発明によれば、ピン穴部の上方部分の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができるピストンが提供される。すなわち、ピストンがシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、膨張行程において燃焼室内で燃料が燃焼したとき、ピストン本体部の頂壁面には、大きな燃焼圧荷重(すなわち、燃焼圧による大きな荷重)がかかる。そして、この大きな燃焼圧荷重によってピン穴上方部分(すなわち、ピン穴部の上方部分)の内周壁面がピストンピン上方部分(すなわち、ピン穴に挿入されているピストンピンの上方部分)の外周壁面に押しつけられ、その結果、ピン穴上方部分の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径がそれぞれピン穴の元の半径およびピストンピンの元の半径よりも大きくなるように、ピン穴上方部分とピストンピンとが共に変形してしまう。これによって、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に引張応力が発生する。一方、膨張行程に続く排気行程および吸気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピン穴上方部分の内周壁面側の部分に発生していた引張応力が消滅する。そして、機関運転中、膨張行程と排気行程および吸気行程とは繰り返し行われるので、ピン穴上方部分が疲労劣化しやすくなる。ここで、本発明では、サイドウォール部に隆起部分が設けられている。そして、この隆起部分は、ピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴部の側方部分に隣接するサイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向にサイドウォール部で延在している。したがって、この隆起部分は、燃焼圧荷重によるピストン本体部の撓みの力をピン穴部の側方部分に伝達する。そして、このピン穴部の側方部分に伝達された力によって、ピン穴部には、膨張行程における燃焼圧荷重によるピン穴上方部分の曲りを抑制する方向に力がかかることになる。これにより、ピン穴上方部分の曲りが抑制され、その結果、ピン穴部の上方部分に引張応力が発生することが抑制される。このため、たとえピン穴の径を小さくしたとしてもピン穴部の上方部分の疲労劣化が抑制される。したがって、本発明によれば、ピン穴部の上方部分の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができるピストンが提供される。
【0018】
また、本願の2番目の発明では、上記1番目の発明の内燃機関のピストンにおいて、前記隆起部分が突出する側とは反対側の前記サイドウォール部の壁面に前記隆起部分に沿って延在する溝が形成されている。
【0019】
この発明によれば、サイドウォール部の壁面に溝が形成されていることから、ピストンが軽量化される。
【0020】
また、本願の3番目の発明では、上記1または2番目の発明の内燃機関のピストンにおいて、前記ピン穴部の中心軸線と当該ピストンの中心軸線とを含む平面をピン穴縦平面と称し、該ピン穴縦平面近傍のピン穴部の部分であって前記ピン穴部の中心軸線に関して前記ピストン本体部側の部分をピン穴上方部分と称し、前記ピン穴部の中心軸線を含み且つ当該ピストンの中心軸線に対して垂直な平面をピン穴横平面と称し、該ピン穴横平面近傍のピン穴部の部分をピン穴横部分と称し、前記ピン穴上方部分と前記ピン穴横部分との略中間に位置するピン穴部の部分をピン穴斜め上方部分と称したとき、前記隆起部分が前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴斜め上方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かって略真っ直ぐに延在する。
【0021】
この発明によれば、ピン穴の径を小さくしたとしてもより確実にピン穴上方部分の疲労劣化が抑制される。すなわち、ピストン本体部の頂壁面に大きな燃焼圧荷重がかかると、上記1番目の発明に関連して説明したように、この大きな燃焼圧荷重によってピン穴部上方部分に引張応力が発生する。これに関し、ピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴斜め上方部分に力がかかると、ピン穴上方部分の曲げが良好に抑制され、その結果、ピン穴上方部分に引張応力が発生することが良好に抑制されることが本願の発明者の研究により判明した。ここで、本発明では、隆起部分がピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴斜め上方部分に隣接するサイドウォール部の外壁面の領域に向かって略真っ直ぐに延在している。このため、燃焼圧荷重によるピストン本体部の撓みの力がピストン本体部とスカート部とに隣接するサイドウォール部の外壁面の領域からピン穴斜め上方部分にかかることになる。このため、ピン穴の径を小さくしたとしてもより確実にピン穴上方部分の疲労劣化が抑制されることになる。
【0022】
また、上記目的を達成するために、本願の4番目の発明は、円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されており、前記スカート部のより下方の部分の厚みが同スカート部のより上方の部分の厚みよりも厚くなっているピストンを型を用いて製造する方法に関する。そして、本発明の方法では、一方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同一方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第1の中子と、他方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同他方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第2の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記一方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第3の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第3の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記他方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第4の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第4の中子と、前記第1の中子、前記第2の中子、前記第3の中子、および、前記第4の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分を規定する第5の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子と前記第3の中子と前記第4の中子との間に配置される第5の中子とによって、前記空洞がピストン内に形成される。
【0023】
この4番目の発明によれば、第1の中子〜第5の中子の外壁面によって構成される壁面によって、ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とが規定され、これによって、ピストン内に空洞が形成される。そして、各中子は、ピストンの空洞内の一部領域のみを占めていることから、これら全ての中子をピストンの空洞から抜き出すことができる。
【0024】
また、本願の5番目の発明では、上記4番目の発明の方法において、第1の中子、第2の中子、第3の中子、第4の中子、および、第5の中子によって前記空洞がピストン内に形成された後、始めに、第5の中子が抜き出され、次いで、第3の中子および第4の中子が抜き出され、次いで、第1の中子および第2の中子が抜き出される。
【0025】
この5番目の発明によれば、全ての中子をピストン内の空洞から容易に抜き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(A)は、第1実施形態のピストンの側面図であり、(B)は、同ピストンの底面図である。
【図2】図1(A)と同様の第1実施形態のピストンの側面図である。
【図3】図2の線X−Xに沿った第1実施形態のピストンの隆起部分の断面図である。
【図4】図1(A)と同様の図であるが、第1実施形態の隆起部分とは別の隆起部分を備えたピストンを示した側面図である。
【図5】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図6】図5と同様の図であって図5に示されている面を説明するための図である。
【図7】(A)は、図5の面Aに沿った第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面を示した図であり、同様に、(B)〜(G)は、それぞれ、図5の面B〜Gに沿った第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面を示した図であり、(H)は、第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との底端面を示した図である。
【図8】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図9】図8と同様の図であって図8に示されている面を説明するための図である。
【図10】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図11】図10と同様の図であって図10に示されている面を説明するための図である。
【図12】図1(A)と同様の図であって第1実施形態のピストンのサイドウォール部とスカート部との断面をとる複数の面を示した図である。
【図13】図12と同様の図であって図12に示されている面を説明するための図である。
【図14】(A)は、第1実施形態のピストンのスカート部周辺の縦断面図であり、(B)は、本発明の実施形態のピストンとは異なるピストンのスカート部周辺の縦断面図であり、(C)は、第1実施形態のピストンの変更例のスカート部周辺の縦断面図である。
【図15】(A)は、図1(A)と同様の図であって第2実施形態のピストンの側面図であり、(B)は、(A)の線Y−Yに沿った同ピストンのサイドウォール部の縦断面図である。
【図16】(A)は、図15(B)と同様の図であって第2実施形態のピストンがシリンダボア内に配置されたときに同ピストンの窪みにオイルが留められている様子を示した図であり、(B)は、図15(B)と同様の図であって同ピストンがシリンダボア内に配置されたときに同ピストンの窪みにおいてオイルが拡散する様子を示した図である。
【図17】図1(B)と同様の図であって第3実施形態のピストンの底面図である。
【図18】図1(B)と同様の図であって第4実施形態のピストンの底面図である。
【図19】(A)は、図3と同様の図であって第5実施形態のピストンの第1サイドウォール部に設けられた隆起部分の断面図であり、(B)は、図3と同様の図であって同ピストンの第2サイドウォール部に設けられた隆起部分の断面図である。
【図20】本発明の実施形態のピストンを底端面から見た図であって本発明の実施形態のピストンの空洞を形成するために利用される中子を示した図である。
【図21】図1(A)と同様の図であって第6実施形態または第7実施形態のピストンの側面図である。
【図22】(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第6実施形態のピストンのスカート部の横断面図であり、(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った同ピストンのスカート部の横断面図である。
【図23】(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第7実施形態のピストンのスカート部の横断面図であり、(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った同ピストンのスカート部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明のピストンの実施形態について説明する。図1に第1実施形態のピストンが示されている。図1(A)は、第1実施形態のピストンの側面図であり、図1(B)は、同ピストンの底面図である。図1に示されているように、ピストン10は、1つの本体部(以下「ピストン本体部」という)11と、一対のスカート部12A、12Bと、一対のサイドウォール部13A、13Bと、一対のピン穴部14A、14Bとを有する。
【0028】
なお、以下の説明において、「上方」という用語は、図1(A)の図面上における「上方」(例えば、ピン穴部14A、14Bを基準とした場合に、ピストン本体部11が配置されている側に向かう方向)を表し、「下方」という用語は、図1(A)の図面上における「下方」(すなわち、「上方」とは反対の方向)を表し、「側方」という用語は、下方から上方に向かう方向に対して垂直な方向を表し、「外方」という用語は、ピストン10の内部から同ピストンの外部に向かう方向を表し、「内方」という用語は、ピストン10の外部から同ピストンの内部に向かう方向(すなわち、「外方」とは反対の方向)を表す。また、「底端面」とは、下方を向いた端面である。
【0029】
ピストン本体部11は、ピストン中心軸線C1を中心とする円柱状の部分である。そして、ピストン本体部11は、ピストン中心軸線C1を中心とする円形の面をなして上方を向いた1つの壁面(以下この壁面を「ピストン本体頂壁面」という)111と、ピストン中心軸線C1を中心とする円形の面をなして下方を向いた1つの壁面(以下この壁面を「ピストン本体底壁面」という)112と、ピストン中心軸線C1を中心とする円筒状の面をなして外方を向いた1つの外周壁面(以下この壁面を「ピストン本体外周壁面」という)113とを有する。
【0030】
ピストン本体外周壁面113は、ピストン本体頂壁面111の外周端とピストン本体底壁面112の外周端とを互いに連結している。また、ピストン本体外周壁面113には、ピストン中心軸線C1を中心とする円環状の複数の溝114が形成されている。これら溝114には、それぞれ、円環状のオイルリング(図示せず)が収容される。また、ピストン本体頂壁面111には、キャビティ115が形成されている。
【0031】
各スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1を中心とする略部分円環状の部分である。そして、各スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1を中心とする略部分円筒状の面をなして外方を向いた1つの外周壁面(以下この壁面を「スカート外周壁面」という)121と、ピストン中心軸線C1を中心とする略部分円筒状の面をなして内方を向いた1つの内周壁面(以下この壁面「スカート内周壁面」ともいう)122とを有する。また、スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1に関して対称的に互いに反対側に配置されている。別の言い方をすれば、スカート部12A、12Bは、ピストン中心軸線C1に関して互いに反対側に位置するピストン本体底壁面112の部分円環状の外周領域から下方へピストン中心軸線C1に対して平行に延在している。なお、各スカート外周壁面121は、ピストン本体外周壁面113と略面一になっている。
【0032】
各サイドウォール部13A、13Bは、平坦な形状の部分である。そして、各サイドウォール部13A、13Bは、平坦な面をなして外方を向いた1つの外壁面(以下この壁面を「サイドウォール外壁面」ともいう)131と、平坦な面をなして内方を向いた1つの内壁面(以下この壁面を「サイドウォール内壁面」ともいう)132とを有する。また、サイドウォール部13A、13Bは、ピストン中心軸線C1に関して対称的に互いに反対側に配置されている。別の言い方をすれば、サイドウォール部13A、13Bは、ピストン中心軸線C1に関して互いに反対側に位置するピストン本体底壁面112の矩形の領域から下方へピストン中心軸線C1に対して平行に延在している。また、各サイドウォール部13A、13Bの側方端は、スカート部12の対応する側方端に接続されている。したがって、各サイドウォール部13A、13Bは、2つのスカート部12A、12B間に配置され、これら2つのスカート部12A、12Bを互いに連結している。
【0033】
各ピン穴部14A、14Bは、円環状の部分である。したがって、各ピン穴部14A、14Bには、貫通穴(以下「ピン穴」という)141が形成されている。これらピン穴141には、ピストン10をコンロッド(図示せず)に接続するための1つの共通のピストンピン(図示せず)が挿入される。また、各ピン穴部14A、14Bは、その中心軸線(すなわち、ピン穴141の中心軸線であり、以下この中心軸線を「ピン穴中心軸線」という)C2がサイドウォール部13A、13Bの延在平面に対して垂直となり且つサイドウォール部13A、13Bの略中央の部分を貫通するように設けられている。したがって、ピン穴中心軸線C2に対して平行な方向における各ピン穴部14A、14Bの一方の端部は、サイドウォール外壁面131から外方へ突出しており、ピン穴中心軸線C2に対して平行な方向における各ピン穴部14A、14Bの他方の端部は、サイドウォール内壁面132から内方へ突出している。
【0034】
なお、各ピン穴部14A、14Bは、一方のピン穴141の中心軸線C2が他方のピン穴141の中心軸線C2と一致するように配置されている。また、各ピン穴部14A、14Bがサイドウォール部13A、13Bに設けられており、各サイドウォール部13A、13Bがピストン本体底壁面112に接続されていることから、各サイドウォール部13A、13Bは、ピストン本体部11とピン穴部14A、14Bとを互いに連結する連結部であるとも言える。
【0035】
また、以下の説明では、図1(A)に参照符号143で示されているピン穴部14A、14Bの上方部分を「ピン穴上方部分」と称し、図1(A)に参照符号142で示されているピン穴部14A、14Bの側方部分を「ピン穴側方部分」と称する。
【0036】
各ピン穴部14A、14Bとピストン本体部11との間のサイドウォール外壁面131には、リブ30が設けられている。このリブ30は、ピストン中心軸線C1に対して平行に延在し、ピン穴上方部分143とピストン本体底壁面112とを連結している。
【0037】
ピストン10の内部には、空洞(以下「ピストン空洞」という)101が形成されている。このピストン空洞101は、概ね、ピストン本体底壁面112とスカート内周壁面122とサイドウォール内壁面132とによって画成されている。
【0038】
ピストン本体部11の内部には、ピストン本体部11を冷却するオイルを通すためのオイル通路(図示せず)が形成されている。
【0039】
そして、図1(B)に示されているように、一方のピン穴部(以下このピン穴部を「第1ピン穴部」という)14Aと一方のスカート部(以下このスカート部を「第1スカート部」という)12Aとの間の一方のサイドウォール部(以下このサイドウォール部を「第1サイドウォール部」という)13Aの内壁面132には、オイル導入通路画成壁103が設けられている。このオイル導入通路画成壁103は、第1サイドウォール部13Aの底端面近傍の領域から略上方へ第1ピン穴部14A近傍の領域を通過してピストン本体底壁面113まで延在する。また、オイル導入通路画成壁103は、ピストン本体部11の内部に形成されている上記オイル通路内にオイルを導入するためのオイル導入通路102を画成する。このオイル導入通路102は、ピストン本体底壁面113において上記オイル通路に接続されている。
【0040】
また、他方のピン穴部(以下このピン穴部を「第2ピン穴部」という)14Bと他方のスカート部(以下このスカート部を「第2スカート部」という)12Bとの間の他方のサイドウォール部(以下このサイドウォール部を「第2サイドウォール部」という)13Bの内壁面132には、オイル排出通路画成壁105が設けられている。このオイル排出通路画成壁105は、第2サイドウォール部13Bの底端面近傍の領域から略上方へ第2ピン穴部14B近傍の領域を通過してピストン本体底壁面113まで延在する。また、オイル排出通路画成壁105は、ピストン本体部11の内部に形成されている上記オイル通路内のオイルを排出するためのオイル排出通路104を画成する。このオイル排出通路104は、ピストン本体底壁面113において上記オイル通路に接続されている。
【0041】
したがって、これら画成壁103、105は、ピストン中心軸線C1に関して対称的にそれぞれ対応するサイドウォール内壁面132に設けられている。
【0042】
なお、以下の説明では、オイル導入通路画成壁103に近い方の第1サイドウォール部13Aの側方端を「第1側方端」と称し、オイル導入通路画成壁103から遠い方の第1サイドウォール部13Aの側方端を「第2側方端」と称し、オイル排出通路画成壁105に近い方の第2サイドウォール部13Bの側方端を「第1側方端」と称し、オイル排出通路画成壁105から遠い方の第2サイドウォール部13Bの側方端を「第2側方端」と称する。また、以下の説明では、第1サイドウォール部13Aの第1側方端に接続されている第1スカート部12Aの側方端を「第1側方端」と称し、第2サイドウォール部13Bの第2側方端に接続されている第1スカート部12Aの側方端を「第2側方端」と称し、第2サイドウォール部13Bの第1側方端に接続されている第2スカート部12Bの側方端を「第1側方端」と称し、第1サイドウォール部13Aの第2側方端に接続されている第2スカート部12Bの側方端を「第2側方端」と称する。
【0043】
第1サイドウォール部13Aには、2つの隆起部分20が設けられており、第2サイドウォール部13Bにも、2つの隆起部分20が設けられている。これら隆起部分20は、サイドウォール部13A、13Bの一部分であって、サイドウォール部13A、13Bの他の部分よりも外方へ突出した部分である。したがって、隆起部分20に対応する領域のサイドウォール外壁面131は、その領域以外の領域のサイドウォール外壁面131に比べて外方へ突出している。
【0044】
次に、これら隆起部分20について詳細に説明する。
【0045】
なお、以下の説明では、図2に参照符号AR1で示されている領域を「上方角領域」と称する。この領域は、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとの接続部分の上方端近傍のサイドウォール外壁面131の領域(すなわち、スカート部12A、12Bとピストン本体部11との接続部分近傍のサイドウォール外壁面131の領域)である。また、図2に参照符号AR2で示されている領域を「下方角領域」と称する。この領域は、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとの接続部分の下方端近傍のサイドウォール外壁面131の領域である。また、図2に参照符号AR3で示されている領域を「ピン穴側方領域」と称する。この領域は、ピン穴側方部分142近傍のサイドウォール外壁面131の領域である。
【0046】
各サイドウォール外壁面131には、それぞれ、2つの上方角領域AR1と2つの下方角領域AR2と2つのピン穴側方領域AR3がある。そして、各隆起部分20は、それぞれ、上方角領域AR1から同上方角領域AR1に近い方のピン穴側方領域AR3まで延在するようにサイドウォール部13A、13Bに設けられている。より詳細には、各隆起部分20は、図2で見てピン穴中心軸線に対して上方のピン穴部14Bの部分と同じく図2で見てピン穴中心軸線に対して左右のピン穴部14Bの部分との略中央の部分(以下この部分を「ピン穴斜め上方部分」という)に向かって上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3まで略真っ直ぐに延在する。別の表現をすれば、ピン穴中心軸線とピストン中心軸線とを含む平面をピン穴縦平面と称し、ピン穴中心軸線を含み且つピストン中心軸線に対して垂直な平面をピン穴横平面と称し、該ピン穴横平面近傍のピン穴部14Bの部分をピン穴横部分と称したとき、ピン穴上方部分143はピン穴縦平面近傍のピン穴部の部分であってピン穴中心軸線に関してピストン本体部11側の部分であり、ピン穴斜め上方部分はピン穴上方部分143とピン穴横部分との略中間に位置するピン穴部14Bの部分であり、隆起部分20は上方角領域AR1からピン穴斜め上方部分に隣接するピン穴側方領域AR3まで略真っ直ぐに延在する。また、各隆起部分20の外壁面は、図3に示されているように、隆起部分20の延在方向に沿ったラインを母線とする略部分円筒状の面をなすように突出している。
【0047】
また、各隆起部分20の内壁面(すなわち、隆起部分20に対応するサイドウォール内壁面132)は、図3に示されているように、隆起部分20の延在方向に沿ったラインを母線とする略部分円筒状の面をなすように窪んでいる。すなわち、サイドウォール内壁面132は、隆起部分20に対応する領域において隆起部分20に沿って窪んでいる。したがって、サイドウォール内壁面132には、上方角領域AR1から同上方角領域AR1に近い方のピン穴側方領域AR3まで延在する溝21が形成されている。
【0048】
サイドウォール部13A、13Bに隆起部分20が設けられることによって、以下の効果が得られる。
【0049】
すなわち、ピストン10が内燃機関のシリンダボア内に配置されると、ピストン本体頂壁面111とシリンダボア内周壁面(図示せず)とシリンダヘッド底壁面(図示せず)とによって燃焼室(図示せず)が形成される。また、ピン穴141にはピストンピン(図示せず)が挿入され、このピストンピンを介してピストン10がコンロッド(図示せず)に接続される。
【0050】
ここで、内燃機関が運転され、膨張行程において燃焼室内で燃料と空気との混合気が燃焼すると、ピストン本体頂壁面111には、大きな燃焼圧荷重(すなわち、燃焼圧による荷重)がかかる。そして、この大きな燃焼圧荷重によってピン穴上方部分143の内周壁面がピストンピン上方部分(すなわち、ピストンピンの上方部分)の外周壁面に押しつけられ、その結果、ピン穴上方部分143の内周壁面およびピストンピン上方部分の外周壁面の曲率半径がそれぞれピン穴141の元の半径およびピストンピンの元の半径よりも大きくなるように、ピン穴上方部分143とピストンピンとが共に変形してしまう。これによって、ピン穴上方部分143の内周壁面側の部分に引張応力が発生する。一方、膨張行程に続く排気行程および吸気行程では、燃焼室内の圧力が低くなることから、ピン穴上方部分143の内周壁面側の部分に発生していた引張応力が消滅する。
【0051】
そして、機関運転中(すなわち、内燃機関の運転中)、膨張行程と排気行程および吸気行程とは繰り返し行われるので、ピン穴上方部分143が疲労によって劣化しやすくなってしまう(以下この疲労による劣化を「疲労劣化」という)。
【0052】
ここで、第1実施形態のピストンでは、サイドウォール部13A、13Bに隆起部分20が設けられている。そして、これら隆起部分20は、サイドウォール部13A、13Bにおいてピン穴斜め上方部分に向かって上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3まで略真っ直ぐに延在している。したがって、これら隆起部分20は、燃焼圧荷重によるピストン本体部11の撓みの力をピン穴側方部分142に伝達する。そして、このピン穴側方部分142に伝達された力によって、ピン穴部14Bには、膨張行程における燃焼圧荷重によるピン穴上方部分143の曲りを抑制する方向に力がかかることになる。これにより、ピン穴上方部分143の曲りが抑制され、その結果、ピン穴上方部分143に引張応力が発生することが抑制される。このため、たとえピン穴の径を小さくしたとしてもピン穴上方部分143の疲労劣化が抑制される。したがって、第1実施形態によれば、ピン穴上方部分143の疲労劣化を抑制しつつピン穴の径を小さくすることができる。
【0053】
ところで、第1実施形態の隆起部分20は、本発明の隆起部分の一例である。すなわち、本発明の隆起部分には、上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3に向かう方向に延在する如何なる隆起部分も含まれる。また、別の表現をすれば、本発明の隆起部分には、ピストン本体部11の撓みに起因したピストン本体外周部分116の変位によってサイドウォール部13A、13Bに加えられる圧縮力がサイドウォール部13A、13Bを伝わる経路に沿って上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3に向かう方向に延在する如何なる隆起部分も含まれる。また、別の表現をすれば、本発明の隆起部分には、ピストン本体頂壁面111が燃焼圧荷重を受けたときのピストン本体部11の撓みを抑制するように上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3に向かう方向に延在する如何なる隆起部分も含まれる。
【0054】
したがって、本発明の隆起部分には、図4に示されている形状の隆起部分20も含まれる。すなわち、図4に示されている各隆起部分20は、その延在方向においてその中央の部分が下方角領域AR2に向かって凸となっている略円弧状に延在している。別の云い方をすれば、各隆起部分20は、その中央の部分までは上方角領域AR1から略下方に向かって延在し、同中央の部分においてその延在方向をピン穴側方部分142に向かう方向へと徐々に変え、同中央の部分を越えるとピン穴側方部分142に向かって延在する。
【0055】
また、第1実施形態において、上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3まで延在する隆起部分20をサイドウォール部13A、13Bに設けるのに代えて、上方角領域AR1からピン穴側方領域AR3までの領域の一部に延在する隆起部分をサイドウォール部13A、13Bに設けるようにしてもよい。
【0056】
また、第1実施形態において、連続的に延在する隆起部分20をサイドウォール部13A、13Bに設けるのに代えて、複数の部分に分割されて延在する隆起部分をサイドウォール部13A、13Bに設けるようにしてもよい。
【0057】
また、第1実施形態において、外方へ突出する隆起部分20をサイドウォール部13A、13Bに設けるのに代えて、内方へ突出する隆起部分をサイドウォール部13A、13Bに設けるようにしてもよい。この場合、第1実施形態において、隆起部分20に沿って延在する溝21をサイドウォール内壁面132に形成するのに代えて、隆起部分に沿って延在する溝がサイドウォール外壁面131に形成される。
【0058】
ところで、上述したように、隆起部分20に対応するサイドウォール内壁面132には、隆起部分20に沿って溝21が形成されている。このように溝21が形成されている場合、ピストン10が軽量化されるという効果が得られる。もちろん、この効果を必要としない場合、或いは、溝21がサイドウォール内壁面132に設けられていない方が好ましい場合には、溝21がサイドウォール内壁面132に形成されていなくてもよい。
【0059】
次に、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとの接続形態について説明する。
【0060】
なお、以下の説明において、サイドウォール部13A、13Bとスカート部12A、12Bとをまとめて「ピストン下方壁」と称し、特定の面で切られたピストン下方壁の断面を「ピストン下方壁断面」と称し、このピストン下方壁の底端面を「ピストン下方壁底端面」と称し、ピストン下方壁断面またはピストン下方壁底端面におけるサイドウォール部とスカート部との接続部分を「ピストン下方壁接続部分」と称し、このピストン下方壁接続部分近傍のサイドウォール部の部分を「サイドウォール接続部分」と称し、ピストン下方壁接続部分近傍のスカート部の部分を「スカート接続部分」と称し、ピストン下方壁断面またはピストン下方壁底端面においてサイドウォール接続部分がピストン下方壁接続部分に向かって延在する方向を「サイドウォール延在方向」と称し、ピストン下方壁断面またはピストン下方壁底端面においてスカート接続部分がピストン下方壁接続部分に向かって延在する方向を「スカート延在方向」と称し、サイドウォール延在方向とスカート延在方向とが交差する角度を「ピストン下方壁交差角度」と称する。
【0061】
図5に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図6に示されているように、ピストン中心軸線C1に対して垂直な平面P1を「水平面」と称し、この水平面P1とピン穴中心軸線C2との間の距離D1を「水平面距離」と称したとき、図5に示されている面A〜Gは、水平面距離D1がそれぞれ異なる水平面P1である。
【0062】
図5に示されている例では、面Dの水平面距離D1は零である。そして、面Dに関し、面Aと面Gとが対称であり、面Bと面Fとが対称であり、面Cと面Eとが対称である。また、面A、Gの水平面距離D1が最も大きく、面B、Fの水平面距離D1が次に大きく、面C、Eの水平面距離D1がその次に大きく設定されている。
【0063】
これら面A〜Gに沿ってピストン下方壁を切って下方から見たときのピストン下方壁断面がそれぞれ図7(A)〜図7(G)に示されており、ピストン下方壁底端面が図7(H)に示されている。
【0064】
図7を参照すると判るように、ピストン10では、ピストン下方壁交差角度(図7に参照符号ANで示されている角度)は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0065】
したがって、スカート部12A、12Bの上方部分のピストン下方壁交差角度が比較的大きくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0066】
すなわち、ピストン10がシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、スカート部12A、12Bは、シリンダボア内周壁面からのいわゆるスラスト力を受ける。また、機関運転中、スカート部12A、12Bの上方部分(以下この部分を「スカート上方部分」ともいう)の温度はスカート部の中央部分(以下この部分を「スカート中央部分」という)およびスカート部の下方部分(以下この部分を「スカート下方部分」という)の温度よりも高くなる。このため、スカート上方部分の熱膨張の度合は、スカート中央部分およびスカート下方部分の熱膨張の度合よりも大きい。したがって、スカート上方部分のスラスト耐性(すなわち、スラスト力による変形に対する耐性)が高い場合、スカート上方部分がシリンダボア内周壁面に比較的強く押しつけられてしまういわゆる締り嵌めが生じる可能性が高い。一方、スカート上方部分のスラスト耐性が低い場合、スカート上方部分が熱膨張したとき、スカート上方部分はピストン中心軸線C1に関して径方向内方にも変形可能であることから、締り嵌めが生じる可能性は低い。したがって、締り嵌めを抑制するためには、スカート上方部分のスラスト耐性を低くすることが好ましい。
【0067】
ここで、ピストン下方壁交差角度が大きいほど、スカート部12A、12Bのスラスト耐性が低くなる。ピストン10では、ピストン下方壁交差角度がピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっていることから、スカート上方部分のピストン下方壁交差角度が比較的大きくなっている。したがって、スカート上方部分のスラスト耐性が低くなっているので、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0068】
また、ピストン10では、スカート下方部分のピストン下方壁交差角度が比較的小さくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0069】
すなわち、ピストン10がシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、ピストン10には、ピストン中心軸線C1がシリンダボア中心軸線に対して傾くようにピストン10を変位させる力が働き、これによって、スカート下方部分がシリンダボア内周壁面に押しつけられる。このとき、スカート下方部分の剛性が低いと、スカート下方部分が容易に内方に変形可能である。したがって、スカート下方部分がシリンダボア内周壁面に押しつけられたときに、スカート下方部分が内方に変形してしまう。一方、スカート下方部分の剛性が高ければ、スカート下方部分がシリンダボア内周壁面に押しつけられたとしても、スカート下方部分が内方に変形することはない。したがって、スカート下方部分が内方に変形することを抑制するためには、スカート下方部分の剛性を高くすることが好ましい。
【0070】
ここで、ピストン下方壁交差角度が小さいほど、スカート部12A、12Bの剛性が高くなる。ピストン10では、ピストン下方壁交差角度がピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっていることから、スカート下方部分のピストン下方壁交差角度が比較的小さくなっている。したがって、スカート下方部分の剛性が高くなっているので、スカート下方部分の内方への変形が抑制される。
【0071】
このように、ピストン10では、ピストン下方壁交差角度がピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっていることによって、スカート上方部分の締り嵌めの抑制とスカート下方部分の内方への変形の抑制とが同時に達成されている。
【0072】
ところで、ピストン10では、以下のように複数のピストン下方壁断面を取得し、これらピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したときにも、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0073】
すなわち、図8に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図9に示されているように、ピン穴中心軸線C2とピストン中心軸線C1とを含む平面P2を「基準平面」と称し、この基準平面P2の一方の側に延在する平面P3と基準平面P2の他方の側に延在する平面P4とによって構成される一対の平面P3、P4であって基準平面P2に関して対称であり且つ当該平面P3、P4同士が交差する線がピン穴中心軸線C2に一致する一対の平面を「対平面」と称し、この対平面P3、P4間の角度AN1を「平面間角度」と称したとき、図8に示されている面A〜Gは、平面間角度AN1がそれぞれ異なる対平面P3、P4である。
【0074】
図8に示されている例では、平面間角度AN1は対平面A〜Gの順で大きく設定されている。
【0075】
そして、これら対平面A〜Gに沿ってピストン下方壁を切ったときのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したとき、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0076】
また、ピストン10では、以下のように複数のピストン下方壁断面を取得し、これらピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したときにも、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0077】
すなわち、図10に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図11に示されているように、ピン穴中心軸線C2とピストン中心軸線C1とを含む平面P2を「基準平面」と称し、この基準平面P2の一方の側に延在する平面P5と基準平面P2の他方の側に延在する平面P6とによって構成される一対の平面P5、P6であって基準平面P2に関して対称な一対の平面P5、P6を「対平面」と称し、この対平面P5、P6間の角度AN2を「平面間角度」と称し、対平面P5、P6が交差する線とピン穴中心軸線C2との間の距離D2を「平面距離」と称したとき、図10に示されている面A〜Gは、平面間角度AN2および断平面距離D2がそれぞれ異なる対平面P5、P6である。
【0078】
図10に示されている例では、対平面Dの平面間角度は180°である。そして、対平面Dに関し、対平面A〜Cは上方側に配置され、対平面E〜Gは下方側に配置されている。また、対平面Dに関し、対平面Aと対平面Gとが対称であり、対平面Bと対平面Fとが対称であり、対平面Cと対平面Eとが対称である。そして、対平面A、Gの平面距離D2が最も大きく、対平面B、Fの平面距離D2が次に大きく、対平面C、Eの平面距離D2がその次に大きく設定されている。また、平面間角度AN2は、対平面A〜CおよびE〜Gの順で大きく設定されている。
【0079】
そして、これら対平面A〜Gに沿ってピストン下方壁を切ったときのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したとき、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0080】
また、ピストン10では、以下のように複数のピストン下方壁断面を取得し、これらピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したときにも、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0081】
すなわち、図12に示されているように、ピストン下方壁断面をとるための複数の面A〜Gを設定する。ここで、図13に示されているように、ピン穴中心軸線C2とピストン中心軸線C1とを含む平面P2を「基準平面」と称し、この基準平面P2上の中心軸線を中心とする円筒面P7を単に「円筒面」と称し、この円筒面P7と基準平面P2とが交差する線とピン穴中心軸線C2との間の距離D3を「円筒面距離」と称したとき、図12に示されている面A〜CおよびE〜Gは、曲率半径および断平面距離D3がそれぞれ異なる円筒面P7であり、図12に示されている面Dは、基準平面P2に対して垂直であってピン穴中心軸線C2を含む面である。
【0082】
図12に示されている例では、面Dに関し、円筒面A〜Cは上方側に配置され、円筒面E〜Gは下方側に配置されている。また、面Dに関し、円筒面Aと円筒面Gとが対称であり、円筒面Bと円筒面Fとが対称であり、円筒面Cと円筒面Eとが対称である。そして、円筒面A、Gの断平面距離D3が最も大きく、円筒面B、Fの断平面距離D3がその次に大きく、円筒面C、Eの断平面距離D3がその次に大きく設定されている。また、円筒面A、Gの曲率半径が最も小さく、円筒面B、Fの曲率半径が次に小さく、円筒面C、Eの曲率半径がその次に小さく設定されている。
【0083】
そして、これら円筒面A〜CおよびE〜Gならびに面D−Dに沿ってピストン下方壁を切ったときのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度およびピストン下方壁底端面におけるピストン下方壁交差角度を互いに比較したとき、ピストン下方壁交差角度は、ピストン下方壁において下方から上方に向かって徐々に大きくなっている。
【0084】
以上、図5〜図13を参照して説明したピストン下方壁交差角度に関する特徴を包括的に表現すれば、ピストン10では、少なくとも、互いに交差しない2つのピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度(または、1つのピストン下方壁断面とピストン下方壁底端面とにおけるピストン下方壁交差角度)を互いに比較したとき、より上方に位置するピストン下方壁断面におけるピストン下方壁交差角度は、より下方に位置するピストン下方壁断面(または、ピストン下方壁底端面)におけるピストン下方壁交差角度よりも大きくなっていると言える。
【0085】
ところで、図7を参照すると判るように、ピストン10では、サイドウォール接続部分(すなわち、ピストン下方壁接続部分近傍のサイドウォール部13A、13Bの部分)は、少なくとも、湾曲している。そして、このサイドウォール接続部分の曲率半径(以下この曲率半径を「サイドウォール曲率半径」という)は、サイドウォール部において下方から上方に向かって徐々に小さくなっている。
【0086】
なお、ピストン10において、ピストン下方壁底端面におけるサイドウォール接続部分が直線状に延在していてもよいし、より下方のピストン下方壁断面およびピストン下方壁底端面におけるサイドウォール接続部分が直線状に延在していてもよい。
【0087】
上述したように、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっている。したがって、サイドウォール上方部分のサイドウォール曲率半径が比較的小さくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0088】
すなわち、上述したように、締り嵌めを抑制するためには、スカート上方部分のスラスト耐性を低くすることが好ましい。ここで、サイドウォール曲率半径が小さいほど、スカート部のスラスト耐性が低くなる。したがって、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっていることから、スカート上方部分のスラスト耐性が低く、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0089】
また、上述したように、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっている。したがって、サイドウォール下方部分のサイドウォール曲率半径が比較的大きくなっている。これによれば、以下の効果が得られる。
【0090】
すなわち、上述したように、スカート下方部分の内方への変形を抑制するためには、スカート下方部分の剛性を高くすることが好ましい。ここで、サイドウォール曲率半径が大きいほど、スカート部の剛性が高くなる。したがって、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっていることから、スカート下方部分の剛性が高く、スカート下方部分の内方への変形が抑制される。
【0091】
このように、ピストン10では、サイドウォール曲率半径がサイドウォール部13A、13Bにおいて下方から上方に向かって徐々に小さくなっていることによって、スカート上方部分の締り嵌めの抑制とスカート下方部分の内方への変形の抑制とが同時に達成されている。
【0092】
次に、ピストン中心軸線C1に対して垂直な方向に測ったときのスカート部12A、12Bの厚みについて説明する。
【0093】
ピストン10では、スカート部12A、12Bは、図14(A)に示されているように、スカート部において上方から下方に向かって徐々に大きくなる厚みを有している(以下、このスカート部の厚みを「スカート厚」ともいう)。これによれば、以下の効果が得られる。
【0094】
すなわち、スカート部12A、12Bはその上方端(以下この上方端を「スカート上方端」という)において剛性の高いピストン本体部11に接続されている。したがって、仮にスカート部12A、12Bが全体に亘って一定の厚みを有している場合、スカート部のスラスト耐性(すなわち、スラスト力による変形に耐える能力)は、スカート部の下方端(以下この下方端を「スカート下方端」という)からスカート上方端に向かって高くなる傾向にある。
【0095】
したがって、例えば、図14(B)に示されているように、スカート部12A、12Bがスカート上方端からスカート下方端に向かって徐々に薄くなる厚みを有している場合、スカート部の中央領域の部分(以下この部分を「スカート中央部分」ともいう)の厚みおよび同スカート部の下方領域の部分(以下この部分を「スカート下方部分」ともいう)の厚みが比較的薄くなっていることから、これら部分のスラスト耐性は大幅に低くなっていることになる。そして、この場合、スラスト力がスカート部12A、12Bにかかったとき、少なくとも、スカート中央部分が凹んでしまう。そして、この場合、スカート中央部分の凹んだ部分とスカート部の凹んでいない部分との境界部分に鋭角な角部が形成されてしまう。このような角部がスカート部12A、12Bに形成された場合、この角部においてスカート部とシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなってしまう。
【0096】
ところが、ピストン10のように、スカート部12A、12Bがスカート上方端からスカート下方端に向かって徐々に厚くなる厚みを有している場合、スカート中央部分の厚みおよびスカート下方部分の厚みが比較的厚くなっていることから、これら部分のスラスト耐性は比較的高くなっている。もちろん、スカート部12A、12Bの上方領域の部分(以下この部分を「スカート上方部分」という)の厚みは比較的薄くなっているが、この部分はピストン本体部11に近い部分であることから、この部分のスラスト耐性は比較的高くなっている。
【0097】
このように、ピストン10では、スカート部12A、12B全体のスラスト耐性が高くなっていることから、スラスト力によってスカート中央部分が凹むことがない(或いは、スカート中央部分が凹むように変形したとしても、その変形量は非常に小さく且つ凹む部分の面積は非常に狭い)。したがって、スカート部12A、12Bとシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなることが抑制される。
【0098】
ところで、上述したように、スカート上方部分のスラスト耐性が高い場合、スカート上方部分の締り嵌めが生じる可能性が高いことから、スカート上方部分の締り嵌めを抑制するためには、スカート上方部分のスラスト耐性を低くすることが好ましい。
【0099】
ここで、ピストン10では、上述したように、スカート部12A、12Bがスカート下方端からスカート上方端に向かって徐々に厚くなる厚みを有しており、スカート上方部分の厚みが比較的薄くなっている。したがって、スカート上方部分のスラスト耐性が低くなっていることから、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0100】
ところで、図14(A)に示されているように、スカート外周壁面121が概ねピストン中心軸線C1を中心とする部分円筒面ではあるがピストン中心軸線C1に関する径が大きい部分(以下この部分を「大径部分」という)がスカート外周壁面121にある場合、この大径部分には、大きなスラスト力がかかる。したがって、この大径部分は、スラスト力によって凹みやすいと言える。そして、上述したように、スカート部12A、12Bとシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなることを抑制するためには、スカート外周壁面121が凹むことを抑制することが好ましい。そこで、ピストン中心軸線C1に関するスカート外周壁面121の部分毎の径が異なる場合、各部分の厚みを該部分の径に比例して厚くするようにしてもよい。これによれば、スカート外周壁面121に大径部分がある場合であっても、スカート部12A、12Bとシリンダボア内周壁面との間の摩擦が大きくなることが抑制される。
【0101】
なお、このように、スカート部12A、12Bの各部分の厚みを該部分の径に比例して厚くする場合において、大径部分がスカート外周壁面121の中央領域にある場合、結果的には、スカート上方部分の厚みが薄くなっている。このため、スカート上方部分のスラスト耐性が低くなっていることから、スカート上方部分の締り嵌めが抑制される。
【0102】
ところで、大径部分がスカート外周壁面121の中央領域にある場合、スカート外周壁面121がピストン中心軸線C1に対して径方向内方へ凹むことを抑制し且つスカート上方部分の締り嵌めを抑制するためには、少なくとも、スカート中央部分の厚みを比較的厚くすると共にスカート上方部分の厚みを比較的薄くすればよい。したがって、この場合、スカート下方部分の厚みは比較的薄くてもよい。したがって、大径部分がスカート外周壁面121の中央領域にある場合には、図14(C)に示されているように、スカート中央部分の厚みを比較的厚くし、スカート上方部分およびスカート下方部分の厚みを比較的薄くするようにしてもよい。
【0103】
この場合、スカート下方部分の厚みが比較的薄くされることから、ピストン10が軽量化されるという効果が得られる。
【0104】
ところで、上述したように、ピストン本体部11が撓んだ場合、サイドウォール部13A、13Bもピン穴上方部分143を支点として撓む。このように、ピン穴上方部分143は、サイドウォール部13A、13Bの撓みの支点となる。このため、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分の温度は、その他の部分の温度に比べて高くなりやすい。したがって、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分の疲労劣化を抑制するためには、これら部分を効率良く冷却することが望まれる。
【0105】
そこで、ピストン10において、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分を図15に示されているように構成してもよい。すなわち、図15に示されている実施形態(以下この実施形態を「第2実施形態」という)では、リブ30の両側において、ピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に窪み(図15(A)において参照符号31が付された網掛け部分)が設けられている。そして、各窪み31を画成する壁面は、少なくとも、ピン穴上方部分143に隣接した領域からサイドウォール部13A、13Bの内部に向かって内方であって且つ斜め上方へと延在する略上方を向いた壁面(以下この壁面を「窪み斜面」ともいう)32と、該窪み斜面32の内方端から外方へピストン中心軸線C1に対して略垂直に延在する壁面33とを有する。
【0106】
第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に窪み31が設けられていることによって、以下の効果が得られる。
【0107】
すなわち、第2実施形態のピストン10がシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されたとき、サイドウォール外壁面131とシリンダボア内周壁面との間の空間に、下方から冷却・潤滑用のオイルが吹き上げられる。そして、この吹き上げられたオイルは、サイドウォール外壁面131とシリンダボア内周壁面との間の空間を介してピン穴上方部分143およびその近傍の部分に到来する。
【0108】
ここで、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられていない場合、この部分に到来したオイルは、比較的早期にこの部分から流れ出てしまう。すなわち、オイルがピン穴上方部分143近傍の部分周辺に留まる時間が短い。
【0109】
一方、第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、以下の理由から、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間が長くなる。すなわち、図16(A)に示されているように、ピストン10がシリンダボア50内に配置されたとき、ピストン中心軸線C1が概ね鉛直方向に対して平行になる。したがって、ピストンがシリンダボア内に配置されたとき、窪み斜面32は、鉛直方向に対して斜めに配置される。このため、ピン穴上方部分近傍の部分に到来したオイルは、図16(A)に示されているように、窪み斜面32上に留まる。このため、ピン穴上方部分近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間が長くなる。
【0110】
そして、第2実施形態によれば、オイルがピン穴上方部分143近傍の部分周辺に留まる時間が長くなるので、ピン穴上方部分近傍の部分周辺のピストンの部分(すなわち、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分)が効率良く冷却される。
【0111】
さらに、第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、以下の理由からも、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間がさらに長くなる。すなわち、図16(B)に示されているように、ピストン10がシリンダボア50内に配置されたとき、窪み斜面32は、鉛直方向に対して斜めに配置される。このため、窪み斜面32は、そこに到来するオイルの拡散方向に対して傾斜している。したがって、図16(B)に矢印Aで示されているように、窪み斜面32は、そこに到来したオイルを上方へと跳ね返すことができる。このため、窪み斜面32に到来したオイルが窪み31内で飛散する。すなわち、ピン穴上方部分143近傍の部分に到来したオイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まることになる。このため、第2実施形態のように、ピン穴上方部分143近傍の部分に窪み斜面32が設けられている場合、オイルがピン穴上方部分近傍の部分周辺に留まる時間がさらに長くなる。
【0112】
そして、第2実施形態によれば、オイルがピン穴上方部分143近傍の部分周辺に留まる時間がさらに長くなるので、ピン穴上方部分近傍の部分周辺のピストンの部分(すなわち、ピン穴上方部分143およびその近傍の部分)がさらに効率良く冷却される。
【0113】
ところで、第2実施形態の窪み31は、本発明の窪みの一例である。すなわち、本発明の窪みには、ピン穴上方部分近傍の部分にオイルを留めておくことができる如何なる窪みも含まれる。
【0114】
したがって、第2実施形態のピストンにおいて、リブ30の両側のサイドウォール外壁面131に窪み31を設けるのに代えて、リブ30の一方の側のサイドウォール外壁面131にのみ窪みを設けるようにしてもよい。
【0115】
また、リブ30には、ピン穴上方部分143とピストン本体部11との間のサイドウォール部13A、13Bの剛性を高める効果がある。しかしながら、こうした効果よりも、ピン穴上方部分143近傍の領域にさらに多量のオイルを留めておくという効果を優先するのであれば、第2実施形態のピストンにおいて、リブ30の両側のサイドウォール外壁面131に窪み31を設けるのに加えて、ピン穴上方部分143近傍のリブ30の外壁面に、第2実施形態のピストン10の窪み31と同様の窪みを設けてもよい。
【0116】
もちろん、第2実施形態のピストンにおいて、リブ30の両側のサイドウォール外壁面131に窪み31を設けるのに代えて、ピン穴上方部分143近傍のリブ30の外壁面に、第2実施形態のピストン10の窪み31と同様の窪みを設けるようにしてもよい。
【0117】
また、第2実施形態の窪み斜面32は、本発明の窪み斜面の一例である。すなわち、本発明の窪み斜面には、ピストンがシリンダボア内に配置されているときにピン穴上方部分近傍の部分に到来するオイルを同部分に留めることができる如何なる壁面も含まれる。また、本発明の窪み斜面には、ピストンがシリンダボア内に配置されているときにピン穴上方部分近傍の部分に到来するオイルを上方へと跳ね返すことができる如何なる壁面も含まれる。
【0118】
したがって、第2実施形態のように、鉛直方向に対してサイドウォール外壁面131から斜め上方へ延在する窪み斜面31をピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に設けるのに代えて、ピン穴上方部分143近傍の領域からサイドウォール部13A、13Bの内部に向かってピストン中心軸線C1に対して斜め下方に延在する壁面をピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に設けるようにしてもよいし、ピン穴上方部分143近傍の領域からサイドウォール部13A、13Bの内部に向かってピストン中心軸線C1に対して垂直な方向に延在する壁面をピン穴上方部分143近傍のサイドウォール外壁面131に設けるようにしてもよい。
【0119】
ところで、図15(A)に示されているように、第2実施形態では、サイドウォール外壁面131に、第1実施形態の隆起部分20と同様の隆起部分20が設けられている。このため、以下の理由から、ピン穴上方部分143近傍の部分がオイルによってさらに効率良く冷却される。
【0120】
すなわち、第2実施形態の隆起部分20は、第1実施形態の隆起部分20と同様に、ピン穴側方領域AR3から上方角領域A1まで延在するようにサイドウォール部13A、13Bに設けられている。別の言い方をすれば、隆起部分20は、窪み31近傍(すなわち、窪み斜面32近傍)であって且つピン穴部14A、14B近傍のサイドウォール外壁面131の領域から、ピン穴部から離れる方向であって斜め上方へとサイドウォール外壁面131において延在する。さらに別の言い方をすれば、隆起部分20は、窪み31近傍(すなわち、窪み斜面32近傍)であって且つピン穴部14A、14B近傍のサイドウォール外壁面131の領域から、ピン穴部から離れる方向であって斜め上方へとピストン本体部11に隣接するサイドウォール外壁面131の領域まで延在する。
【0121】
したがって、ピストン中心軸線C1が鉛直方向に対して平行になるようにピストン10がシリンダボア内に配置された場合、隆起部分20の上方領域(すなわち、隆起部分20の外壁面をその延在方向に沿ってサイドウォール外壁面131に対して垂直な面によって2つの領域に分割したときに上方側に位置する領域)の外壁面は、少なくとも、鉛直方向に対して斜めになっている。このため、この外壁面は、窪み31から流出したオイルを捕捉して留めておくことができるし、隆起部分20よりも上方のサイドウォール外壁面131に到来するオイルも捕捉して留めておくことができる。すなわち、隆起部分20は、オイルをピン穴上方部分143近傍の部分およびその周辺の部分に留めておくことができる。そして、この留められたオイルによって、ピン穴上方部分143近傍の部分およびその周辺の部分が冷却される。このため、第2実施形態では、ピン穴上方部分143近傍の部分およびその周辺の部分がオイルによってさらに効率良く冷却されるのである。
【0122】
なお、上述した実施形態の窪み31は、オイルの粘性に関係なく、少なからずオイルを留めることができる。しかしながら、オイルの粘性が高いほど、窪み31は、より確実にオイルを留めることができる。また、上述した実施形態の隆起部分20も、オイルの粘性に関係なく、少なからずオイルを留めることができる。しかしながら、オイルの粘性が高いほど、隆起部分20は、より確実にオイルを留めることができる。
【0123】
ところで、図1(B)に示されているように、上述した実施形態では、第1サイドウォール部13Aの内壁面にオイル導入通路画成壁103が設けられ、第2サイドウォール部13Bの内壁面にオイル排出通路画成壁105が設けられている。次に、これら画成壁103、105について詳細に説明する。
【0124】
オイル導入通路画成壁103が図1(B)に示されているように設けられている場合、オイル導入通路画成壁103によって、第1サイドウォール部13Aの第1側方端近傍の部分の剛性が高められ、その結果、第1サイドウォール部13Aの第1側方端に接続されている第1スカート部12Aの第1側方端近傍の部分の剛性も高められる。しかしながら、第2サイドウォール部13Bの第2側方端近傍の部分には、同部分の剛性を高めるオイル導入通路画成壁103のような壁は設けられていないことから、第2サイドウォール部13Bの第2側方端に接続されている第1スカート部12Aの第2側方端近傍の部分の剛性は高められていない。したがって、第1スカート部12Aの第1側方端近傍の部分の剛性が第1スカート部12Aの第2側方端近傍の部分の剛性よりも高くなっている。
【0125】
ところで、ピストンがシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、スカート部12A、12Bは、シリンダボア内周壁面からスラスト力を受ける。そして、このスラスト力は、大きくなったり小さくなったりする。ここで、スラスト力が大きくなったときには、このスラスト力によってスカート部12A、12Bの少なくとも一部が変形せしめられる。そして、その後、スラスト力が小さくなると、変形していたスカート部12A、12Bの部分の形状が元の形状に戻る。
【0126】
ここで、オイル導入通路画成壁103によって第1スカート部12Aの第1側方端近傍の部分の剛性が第1スカート部12Aの第2側方端近傍の部分の剛性よりも高くなっている場合、スラスト力による第1スカート部12Aの第1側方端側の部分の変形度合は、同スラスト力による第1スカート部12Aの第2側方端側の部分の変形度合よりも小さい。すなわち、第1スカート部12Aにおいて、スラスト力による第1側方端側の部分の変形度合と同スラスト力による第2側方端側の部分の変形度合とが互いに異なる。そして、このように変形度合が互いに異なる場合、第1スカート部12Aがスラスト力を受けて変形するときに、第1スカート部12Aの一部分に大きな応力が発生してしまう。そして、その後、第1スカート部12Aが受けるスラスト力が小さくなると、第1スカート部12Aの変形していた部分の形状が元の形状に戻り、第1スカート部12Aの一部分に発生していた大きな応力が消滅する。このように第1スカート部12Aに大きな応力が発生したり、この大きな応力が消滅したりすることによって、第1スカート部12Aが疲労によって劣化してしまう。
【0127】
そこで、こうした第1スカート部12Aの疲労劣化を抑制するために、図17に示されているように、オイル導入通路画成壁103を設けずに、第1スカート部12Aの第1側方端と第1サイドウォール部13Aの第1側方端との接続部分の上方端近傍のピストン本体底壁面112の部分に、ピストン本体部11の内部のオイル通路にオイルを導入するオイル導入口104を設けるようにしてもよい。
【0128】
この図17に示されている実施形態(以下この実施形態を「第3実施形態」という)では、第1スカート部12Aの剛性が全体に亘って均一であることから、第1スカート部12Aの一部分に大きな応力が発生することが抑制される。このため、第1スカート部12Aの疲労劣化が抑制される。
【0129】
同様に、オイル排出通路画成壁105によって第2スカート部12Bの第1側方端近傍の部分の剛性が第2スカート部12Bの第2側方端近傍の部分の剛性よりも高くなっている場合、スラスト力による第2スカート部12Bの第1側方端側の部分の変形度合は、同スラスト力による第2スカート部12Bの第2側方端側の部分の変形度合よりも小さい。すなわち、第2スカート部12Bにおいて、スラスト力による第1側方端側の部分の変形度合と同スラスト力による第2側方端側の部分の変形度合とが互いに異なる。そして、このように変形度合が互いに異なる場合、第2スカート部12Bがスラスト力を受けて変形するときに、第2スカート部12Bの一部分に大きな応力が発生してしまう。そして、その後、第2スカート部12Bが受けるスラスト力が小さくなると、第2スカート部12Bの変形していた部分の形状が元の形状に戻り、第2スカート部12Bの一部分に発生していた大きな応力が消滅する。このように第2スカート部12Bに大きな応力が発生したり、この大きな応力が消滅したりすることによって、第2スカート部12Bが疲労によって劣化してしまう。
【0130】
そこで、こうした第2スカート部12Bの疲労劣化を抑制するために、図17に示されているように、オイル排出通路画成壁105を設けずに、第2スカート部12Bの第1側方端と第2サイドウォール部13Bの第1側方端との接続部分の上方端近傍のピストン本体部底壁面112の部分に、ピストン本体部11の内部のオイル通路からオイルを排出するオイル排出口105を設けるようにしてもよい。
【0131】
この図17に示されている第3実施形態では、第2スカート部12Bの剛性が全体に亘って均一であることから、第2スカート部12Bの一部分に大きな応力が発生することが抑制される。このため、第2スカート部12Bの疲労劣化が抑制される。
【0132】
ところで、上述した実施形態において、ピストンがシリンダボア内に配置されている場合、オイル導入口104には、サイドウォール底端面よりも下方からオイルが吹き付けられ、この吹き付けられたオイルがオイル導入口104に流入する。したがって、第3実施形態のように、オイル導入口104がピストン本体底壁面112に設けられている場合、オイルがオイル導入口104に効率良く流入しないことになってしまう。
【0133】
そこで、上述したスカート部12A、12Bの不均一な剛性に起因する同スカート部の疲労劣化を抑制しつつ、オイルをオイル導入口104に効率良く流入させるために、第2スカート部12Bがスラスト側に配置されることを条件として、図18に示されているように、第1ピン穴部14Aと第1スカート部12Aの第1側方端との間の第1サイドウォール部13Aの内壁面132に、第1サイドウォール部13Aの底端面からピストン本体底壁面112まで延在するオイル導入通路画成壁103を設けて該オイル導入通路画成壁103によって画成されるオイル導入通路をピストン10の内部のオイル通路に接続し、第2スカート部12Bの第1側方端と第2サイドウォール部13Bの第1側方端との接続部分の上方端近傍のピストン本体底壁面112の部分に、オイル排出口105を設けるようにしてもよい(すなわち、第2ピン穴部14Bと第2スカート部12Bの第1側方端との間の第2サイドウォール部13Bの内壁面には、オイル排出通路画成壁105は設けられない)。
【0134】
この図18に示されている実施形態(以下この実施形態を「第4実施形態」という)では、第2スカート部12Bがスラスト側に配置されるのであるから、機関運転中、第1スカート部12Aが受けるスラスト力は、第2スカート部12Bが受けるスラスト力よりも小さい。したがって、第1ピン穴部14Aと第1スカート部12Aの第1側方端との間の第1サイドウォール部13Aの内壁面132にオイル導入通路画成壁103が設けられ、その結果、第1スカート部12Aの第1側方端側の部分の剛性と第1スカート部12Aの第2側方端側の部分の剛性とが互いに異なっていたとしても、第1スカート部12Aが受けるスラスト力が比較的小さいのであるから、第1スカート部12Aの一部分に大きな応力が発生することはない。したがって、第1スカート部12Aの疲労劣化が抑制されている。
【0135】
そして、第4実施形態では、オイル導入通路画成壁103が第1サイドウォール部13Aの底端面からピストン本体底壁面112まで延在することから、オイル導入口104が第1サイドウォール部13Aの底端面近傍に形成されている。したがって、オイルがオイル導入口104に効率良く流入する。
【0136】
一方、第4実施形態では、第2ピン穴部14Bと第2スカート部12Bの第1側方端との間の第2サイドウォール部13Bの内壁面132にオイル排出通路画成壁105が設けられていないことから、第2スカート部12Bの剛性は全体に亘って均一である。したがって、第2スカート部12Bがスラスト側に配置され、第2スカート部12Bが受けるスラスト力が比較的大きいとしても、第2スカート部12Bの一部分に大きな応力が発生することはない。したがって、第2スカート部12Bの疲労劣化が抑制される。
【0137】
ところで、上述した実施形態において、ピストン頂壁面111とシリンダボア内周壁面とによって形成される燃焼室には、一般的に、該燃焼室に空気を導入する吸気ポートと燃焼室から排気ガスを排出する排気ポートとが接続されている。ここで、燃焼室から排出される排気ガスの温度は、燃焼室に導入される空気の温度よりも高い。したがって、吸気ポートに近い燃焼室内の領域の温度よりも、排気ポートに近い燃焼室内の領域の温度の方が高い。したがって、吸気ポートに近いシリンダボア内周壁面の部分の温度よりも、排気ポートに近いシリンダボア内周壁面の部分の温度の方が高い。したがって、上述した実施形態のピストンがシリンダボア内に配置され、内燃機関が運転されると、吸気ポートに近いピストンの部分の温度よりも排気ポートに近いピストンの部分の温度の方が高くなる。
【0138】
一方、上述した実施形態において、オイル導入口104から遠いピストンの部分におけるオイルによる冷却効果よりも、オイル導入口104に近いピストンの部分におけるオイルによる冷却効果の方が高い。
【0139】
したがって、オイルによってピストン全体を効率良く冷却するという観点からは、オイル導入口104に近い方のスカート部(すなわち、上述した実施形態では、第1スカート部12A)が排気ポートの近くに配置され且つオイル導入口104から遠い方のスカート部(すなわち、上述した実施形態では、第2スカート部12B)が吸気ポートの近くに配置されるように、上述した実施形態のピストンをシリンダボア内に配置することが好ましい。
【0140】
ところで、第1実施形態では、オイル導入通路102およびオイル排出通路104を形成するためにオイル導入通路画成壁103およびオイル排出通路画成壁105がサイドウォール内壁面132に設けられている。そして、このように画成壁103、105がサイドウォール内壁面132に設けられている場合、これら画成壁103、103がサイドウォール内壁面132に設けられていない場合に比べて、ピストンの重量が重くなる。一方、ピストンの分野では、ピストンの軽量化という要請がある。したがって、オイル導入通路102およびオイル排出通路104を形成する場合であっても、可能な限りピストンを軽量化することが望まれる場合がある。
【0141】
そこで、第1実施形態において、オイル導入通路102およびオイル排出通路104を形成したとしても可能な限りピストンを軽量化するために、これら通路102、104を図19に示されているように形成してもよい。
【0142】
すなわち、図19に示されている実施形態(以下この実施形態を「第5実施形態」という)では、図19(A)に示されているように、第1ピン穴部14Aと第1スカート部12Aの第1側方端との間の第1サイドウォール部13Aに設けられた隆起部分20の内壁面に同隆起部分20に沿って形成されている溝21を壁22によって塞ぐことによってオイル導入通路102が形成されている。すなわち、隆起部分20がオイル導入通路画成壁103の一部として利用される。
【0143】
このように、隆起部分20をオイル導入通路画成壁103の一部として利用した場合、隆起部分20をオイル導入通路画成壁103の一部として利用しない場合に比べて、ピストンが軽量化される。
【0144】
また、第5実施形態では、図19(B)に示されているように、第2ピン穴部14Bと第2スカート部12Bの第1側方端との間の第2サイドウォール部13Bに設けられた隆起部分20の内壁面に同隆起部分20に沿って形成されている溝21を壁23によって塞ぐことによってオイル排出通路が形成されている。すなわち、隆起部分20がオイル排出通路画成壁105の一部として利用される。
【0145】
このように、隆起部分20をオイル排出通路画成壁105の一部として利用した場合、隆起部分20をオイル排出通路画成壁105の一部として利用しない場合に比べて、ピストンが軽量化される。
【0146】
なお、隆起部分20をオイル導入通路画成壁103の一部として利用するという第5実施形態の考え方は、オイル排出通路画成壁105を設けずにオイル導入通路画成壁103のみを設ける第4実施形態にも適用可能である。
【0147】
ところで、第1実施形態のピストンは、サイドウォール内壁面132とスカート内周壁面122とピストン本体底壁面112とによって画成されるピストン空洞101を備えている。ここで、こうしたピストンを型を用いて製造する場合、ピストン空洞101に対応する形状の中子を利用してピストン空洞101が形成される。詳細には、中子周りにピストンを構成する材料(以下この材料を「ピストン材料」という)が配置された状態でピストン材料が固化されることによってピストン空洞101が形成される。
【0148】
ところで、中子周りにピストン材料が配置された状態でピストン材料が固化されることによってピストン空洞101を形成した場合、ピストン空洞101の形成後、中子をピストン空洞101から抜き出す必要がある。ここで、上述した実施形態のピストンとは異なり、スカート内周壁面がピストン中心軸線を中心とした部分円筒状の面となっている場合、または、スカート内周壁面がピストン中心軸線に関してスカート上方端からスカート下方端に向かって拡がる部分円錐状の面となっている場合(例えば、図14(B)に示されている場合)には、ピストン空洞の形成後、ピストン空洞から中子を容易に抜き出すことができる。
【0149】
しかしながら、図14(A)および図14(C)を参照して説明したように、スカート部12A、12Bの一部分の厚みをその他の部分の厚みよりも厚くした結果、スカート内周壁面122の一部分が内方へ突出している場合、ピストン空洞101の形成後、同ピストン空洞から中子を抜き出すことが極めて困難である。
【0150】
そこで、第1実施形態のピストンを型を用いて製造する場合、以下のようにピストン空洞101が形成され、同ピストン空洞の形成後、同ピストン空洞から中子が抜き出される。
【0151】
すなわち、本発明の実施形態では、ピストンにピストン空洞101を形成するために、図20に示されている中子が利用される。
【0152】
詳細には、(1)「第1サイドウォール部13Aの内壁面全体」と「第1スカート部12Aの第1側方端近傍の同第1スカート部12Aの内周壁面の部分」と「第2スカート部12Bの第2側方端近傍の同第2スカート部12Bの内周壁面の部分」と「第1サイドウォール部13Aの上方端近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第1中子41と、(2)「第2サイドウォール部13Bの内壁面全体」と「第1スカート部12Aの第2側方端近傍の同第1スカート部12Aの内周壁面の部分」と「第2スカート部12Bの第1側方端近傍の同第2スカート部12Bの内周壁面の部分」と「第2サイドウォール部13Bの上端近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第2中子42と、(3)「第1スカート部12Aの残りの内周壁面の部分」と「第1スカート部12Aの上方端の中間部分近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第3中子43と、(4)「第2スカート部12Bの残りの内周壁面の部分」と「第2スカート部12Bの上方端の中間部分近傍のピストン本体底壁面112の部分」とを規定する第4中子44と、(5)「ピストン本体底壁面112の残りの部分」を規定する第5中子45と、からなる中子が利用される。
【0153】
そして、ピストン空洞101を形成するときには、第1中子41と第2中子42との間に第3中子43と第4中子44とをそれぞれ第1中子41と第2中子42とに接触するように配置すると共に、第1中子41と第2中子42との間であって第3中子43と第4中子44との間に第5中子45をこれら第1中子41〜第4中子44と接触するように配置する。そして、これら第1中子41〜第5中子45の外形形状は、これら中子41〜45が上述したように配置したときにこれら中子によって形成される外形形状がピストン空洞101を画成する壁面の形状に一致する形状とされている。
【0154】
そして、これら第1中子41〜第5中子45によってピストン空洞101が形成された後、第5中子45、第4中子44、第3中子43、第2中子42、第1中子41の順でピストン空洞101から抜き出せば、これら中子41〜45はピストン空洞101から容易に抜き出される。
【0155】
ところで、第1実施形態のピストンを型によって製造する場合においてピストン空洞101を形成する上述した考え方は、広くは、スカート内周壁面のより下方の部分に同スカート内周壁面のより上方の部分よりもピストン空洞に向かって突出する突出部分があるピストンを型によって製造する場合においてピストン空洞を形成する場合にも適用可能である。
【0156】
ところで、第1実施形態のピストンを型を用いて製造する場合において、上述した中子をピストン空洞から抜き出しやすくするために、スカート部12A、12Bの横断面形状を図22に示されている形状(以下、図22に示されている実施形態を「第6実施形態」という)または図23に示されている形状(以下、図23に示されている実施形態を「第7実施形態」という)としてもよい。
【0157】
すなわち、図22(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第6実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、図22(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った第6実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、第6実施形態のピストン10では、図22(A)に示されているように、第2スカート部12Bの上方部分は、第2スカート部12Bの周方向において中央領域の内周壁面12CNが同周方向において側方領域の内周壁面12LTよりも凹んでいる形状を有する。したがって、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122には、第2スカート部12Bの周方向において中央領域にピストン中心軸線C1に対して平行な方向に延びる帯状の溝123が形成されている。そして、この帯状の溝123が形成されている第2スカート部12Bの上方部分の中央領域と同上方部分の側方領域との間には、同側方領域の内周壁面12LTよりもピストン中心軸線C1に向かって突出した突出部分124が形成されている。
【0158】
一方、第6実施形態のピストン10では、図22(B)に示されているように、第2スカート部12Bの下方部分は、第2スカート部12Bの周方向において一定の厚みを有する。すなわち、第2スカート部12Bの下方部分には、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122に形成されている帯状の溝123や突出部分124は形成されていない。
【0159】
そして、第6実施形態のピストン10では、図示していないが、第1スカート部12Aも第2スカート部12Bの形状と同じ形状を有している。
【0160】
また、図23(A)は、図21の線Z1−Z1に沿った第7実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、図23(B)は、図21の線Z2−Z2に沿った第7実施形態のピストンの第2スカート部12Bの横断面図であり、第7実施形態のピストン10では、図23(A)に示されているように、第2スカート部12Bの上方部分は、第2スカート部12Bの周方向において中央領域の内周壁面12CNが同周方向において側方領域の内周壁面12LTよりも凹んでいる形状を有する。したがって、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122には、第2スカート部12Bの周方向において中央領域にピストン中心軸線C1に対して平行な方向に延びる帯状の溝123が形成されている。しかしながら、この帯状の溝123が形成されている第2スカート部12Bの上方部分の中央領域と同上方部分の側方領域との間には、同側方領域の内周壁面12LTよりもピストン中心軸線C1に向かって突出した突出部分は形成されていない。
【0161】
一方、第7実施形態のピストン10では、図23(B)に示されているように、第2スカート部12Bの下方部分は、第2スカート部12Bの周方向において一定の厚みを有する。すなわち、第2スカート部12Bの下方部分には、第2スカート部12Bの上方部分の内周壁面122に形成されている帯状の溝123は形成されてない。
【0162】
そして、第7実施形態のピストン10では、図示していないが、第1スカート部12Aも第2スカート部12Bの形状と同じ形状を有している。
【0163】
ところで、上述した実施形態のピストンは、一対のピン穴部を有する。しかしながら、上述した実施形態のピストンが略円環状の1つのピン穴部を有していてもよい。この場合、ピン穴部は、両サイドウォール部13A、13Bを貫通するように設けられる。もちろん、このピン穴部の中心軸線は、両サイドウォール部13A、13Bの延在平面に対して垂直になっている。
【符号の説明】
【0164】
10…ピストン、11…ピストン本体部、12A、12B…スカート部、13A、13B…サイドウォール部、14A、14B…ピン穴部、20…隆起部分、21…溝、31…窪み、32…窪み斜面、41…第1中子、42…第2中子、43…第3中子、44…第4中子、45…第5中子、101…ピストンの空洞、112…ピストン本体部の底壁面、121…スカート部の外周壁面、122…スカート部の内周壁面、131…サイドウォール部の外壁面、132…サイドウォール部の内壁面、142…ピン穴部の側方部分、143…ピン穴部の上方部分、AR1…上方角領域、AR2…下方角領域、AR3…ピン穴側方領域、C1…ピストン中心軸線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部に設けられた円環状のピン穴部であって前記サイドウォール部の延在平面に対して垂直な中心軸線を備えたピン穴部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されている内燃機関のピストンにおいて、前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴部の側方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向に延在する隆起部分が前記サイドウォール部に設けられている内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記隆起部分に対応する前記サイドウォール部の内壁面の部分に前記隆起部分に沿って延在する溝が形成されている請求項1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記ピン穴部の中心軸線と当該ピストンの中心軸線とを含む平面をピン穴縦平面と称し、該ピン穴縦平面近傍のピン穴部の部分であって前記ピン穴部の中心軸線に関して前記ピストン本体部側の部分をピン穴上方部分と称し、前記ピン穴部の中心軸線を含み且つ当該ピストンの中心軸線に対して垂直な平面をピン穴横平面と称し、該ピン穴横平面近傍のピン穴部の部分をピン穴横部分と称し、前記ピン穴上方部分と前記ピン穴横部分との略中間に位置するピン穴部の部分をピン穴斜め上方部分と称したとき、前記隆起部分が前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴斜め上方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かって略真っ直ぐに延在する請求項1または2に記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されており、前記スカート部のより下方の部分の厚みが同スカート部のより上方の部分の厚みよりも厚くなっているピストンを型を用いて製造する方法において、一方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同一方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第1の中子と、他方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同他方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第2の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記一方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第3の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第3の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記他方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第4の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第4の中子と、前記第1の中子、前記第2の中子、前記第3の中子、および、前記第4の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分を規定する第5の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子と前記第3の中子と前記第4の中子との間に配置される第5の中子とによって、前記空洞がピストン内に形成される方法。
【請求項5】
第1の中子、第2の中子、第3の中子、第4の中子、および、第5の中子によって前記空洞がピストン内に形成された後、始めに、第5の中子が抜き出され、次いで、第3の中子および第4の中子が抜き出され、次いで、第1の中子および第2の中子が抜き出される請求項4に記載の方法。
【請求項1】
円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部に設けられた円環状のピン穴部であって前記サイドウォール部の延在平面に対して垂直な中心軸線を備えたピン穴部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されている内燃機関のピストンにおいて、前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴部の側方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かう方向に延在する隆起部分が前記サイドウォール部に設けられている内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記隆起部分に対応する前記サイドウォール部の内壁面の部分に前記隆起部分に沿って延在する溝が形成されている請求項1に記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記ピン穴部の中心軸線と当該ピストンの中心軸線とを含む平面をピン穴縦平面と称し、該ピン穴縦平面近傍のピン穴部の部分であって前記ピン穴部の中心軸線に関して前記ピストン本体部側の部分をピン穴上方部分と称し、前記ピン穴部の中心軸線を含み且つ当該ピストンの中心軸線に対して垂直な平面をピン穴横平面と称し、該ピン穴横平面近傍のピン穴部の部分をピン穴横部分と称し、前記ピン穴上方部分と前記ピン穴横部分との略中間に位置するピン穴部の部分をピン穴斜め上方部分と称したとき、前記隆起部分が前記ピストン本体部と前記スカート部とに隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域から前記ピン穴斜め上方部分に隣接する前記サイドウォール部の外壁面の領域に向かって略真っ直ぐに延在する請求項1または2に記載の内燃機関のピストン。
【請求項4】
円柱状のピストン本体部と、該ピストン本体部の底壁面から下方へ該ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在する略部分円環状の一対のスカート部と、前記ピストン本体部の底壁面から下方へ前記ピストン本体部の中心軸線に対して平行に延在すると共に両スカート部を互いに連結する平坦な形状の一対のサイドウォール部とを有し、前記ピストン本体部の底壁面と両スカート部の内周壁面と両サイドウォール部の内壁面とによって空洞が形成されており、前記スカート部のより下方の部分の厚みが同スカート部のより上方の部分の厚みよりも厚くなっているピストンを型を用いて製造する方法において、一方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同一方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第1の中子と、他方のサイドウォール部の内壁面と該内壁面に隣接する前記ピストン本体部の底壁面の部分と同他方のサイドウォール部の内壁面に隣接する両スカート部の内周壁面の部分とを規定する第2の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記一方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第3の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第3の中子と、前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分と前記第1の中子および前記第2の中子によって規定されない前記他方のスカート部の内周壁面の部分とを規定する第4の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子との間に配置される第4の中子と、前記第1の中子、前記第2の中子、前記第3の中子、および、前記第4の中子によって規定されない前記ピストン本体部の底壁面の部分を規定する第5の中子であって前記第1の中子と前記第2の中子と前記第3の中子と前記第4の中子との間に配置される第5の中子とによって、前記空洞がピストン内に形成される方法。
【請求項5】
第1の中子、第2の中子、第3の中子、第4の中子、および、第5の中子によって前記空洞がピストン内に形成された後、始めに、第5の中子が抜き出され、次いで、第3の中子および第4の中子が抜き出され、次いで、第1の中子および第2の中子が抜き出される請求項4に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−31814(P2012−31814A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173530(P2010−173530)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390008822)アート金属工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390008822)アート金属工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
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