説明

内燃機関のピストンのためのピン孔幾何学形状の経過

本発明は、ピストンボス(1)を備えたピストンであって、ピストンボス(1)内に、ピストンピンを受容するためのピン孔(2)が配置されており、該ピン孔(2)がピストン内側領域(4)の方向で、拡幅する経過を有している形式のものに関する。本発明では、ピストン行程軸(11)に関して、孔軸(3)の上側での拡幅が、孔軸(3)の下側での拡幅よりも小さいか、またはその逆であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載した特徴を備えた、ピン孔を有するピストンスカートを備えたピストン、すなわち、ピストンボスを備えたピストンであって、ピストンボス内に、ピストンピンを受容するためのピン孔が配置されており、該ピン孔がピストン内側領域の方向で、拡幅する経過を有している形式のものに関する。
【0002】
ピン孔がピストンスカート内に成形孔(Formbohrung)として設けられる、内燃機関のためのピストンスカートを備えたピストンは、原則公知である。ピストンをコンロッドに結合するピンが存在するピン孔内面の負荷に基づいて、運転時、極端に高い負荷が、ピストンの運動時のピンの変形に基づいて生じる。ピン孔(ボス孔)の変形を補償するためには、従来技術(例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第2152462号明細書、ドイツ連邦共和国特許第3036062号明細書、ドイツ連邦共和国特許第4141279号明細書、ドイツ連邦共和国特許出願公開第4441450号明細書またはドイツ連邦共和国特許出願公開第10231233号明細書)では、ピン孔の外套線(Mantellinie)に沿って、セグメント状もしくは区分的に、このボス孔を卵形、円形または円筒形に設計することが公知である。しかし、このことから、ある形状を有するある区分から別の形状を有する別の区分への移行時に、段を形成する移行部が生じる。この段は、不都合な形式で、ボス孔およびその中に配置されたピンの付加的な負荷に至る。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第2152462号明細書またはドイツ連邦共和国特許第2756878号明細書から、ピン孔がピストンの内側領域の方向で、ピン軸線に関して均等に拡幅する(略ラッパ状の)経過を有することが公知である。ドイツ連邦共和国特許第3036062号明細書では、孔軸の上側にのみ、拡幅が存在している。ピストンの内側領域に向かっての軸方向での、ピン孔の拡幅する経過により、確かに既にピン孔の表面へのピンのより良好な載置が、ピンがピストンの運転中に変形したときに達成される。しかし、内燃機関内でのピストンの運転中に相応の燃焼温度および燃焼圧を生じる遵守したい燃費および排ガスエミッションに関する昨今の内燃機関への要求に基づいて、ピン孔とピストンピンとからなる系の総負荷は今なお極めて高く、ピン孔内でのピストンピンの支持は最適とは言えない。
【0004】
それゆえ本発明の課題は、ピストンの、成形孔として形成されるピン孔を改良して、冒頭で述べた欠点が回避される、すなわちピストン全体のより高い負荷が達成可能であり、ボス孔とピンとからなる系の付加的なもしくは全体的な負荷が減少されるピン孔を提供することである。
【0005】
この課題は、請求項1の特徴部に記載した特徴により解決されている。
【0006】
本発明によれば、ピストン内側領域に向かっての軸方向での、ピストン行程軸に関して、ピン孔の孔軸の上側でのピン孔の拡幅が、孔軸の下側での拡幅よりも小さいか、またはその逆である。これにより、ピン孔の幾何学形状に基づいて、ピン孔内のピストンピンの載置面が、特に内燃機関のシリンダ内でのピストンの昇降運動時のピストン行程軸の方向で、ピストンピンの変形に適合されているという状況が享受される。さらに、ピン孔のこの特別な拡幅は、ピストンピンの変形だけでなく、内燃機関内での運転中のピストン自体の変形をも考慮する。このことはこれまで従来技術では考慮されずにいた。運転中のピストンならびにピストンピンの、ピン軸線の上側および下側でそれぞれ異なる変形に基づいて、本発明は今や、ピストンピンのこの負荷を均等にピン孔の載置面に(特にその頂点およびピストン行程軸に関してその周りの領域に)分配し、ひいてはピン孔とピンとからなる系の総負荷を減少することを可能にする。これにより、全体的に、ピストンのより高い負荷が達成可能である。それというのも、本発明により、負荷時のピストンピンの変形が、ピストン自体(もしくはそのピン孔)の変形に適合されているからである。
【0007】
本発明の別の有利な構成では、ピン孔の外套線が円形または卵形である。軸方向延在長さにわたっての孔幾何学形状におけるこの自由度により、負荷時のピストンおよびピストンピンの変形へのさらなる適合が行われ得る。
【0008】
本発明の別の有利な構成では、今度はピストン外側領域の方向で、ピストン行程軸に関して、孔軸の上側での拡幅が、孔軸の下側での拡幅よりも小さいか、またはその逆である。変形時に最大の面圧は、ピン孔の、ピストン内側領域側の部分内で生じるとはいえ、作用する力のさらなる捕捉のために、ピン孔はピン外側領域の方向で、ピン軸線に関して非対称的な本発明による拡幅を有していてもよい。
【0009】
本発明の別の有利な構成では、ピストンボスが、梯形のボスとして形成されている。梯形のボスのこの構造形式のためにも、ピストン行程軸に関して、孔軸の上側での拡幅が、孔軸の下側での拡幅よりも小さいか、またはその逆であることが成立する。このことは、本発明がピストンボスの特定の構造形式に限定されるものではないことを意味する。
【0010】
本発明の別の有利な構成では、第1の形状付与を有する区分から別の形状付与を有する次の区分への移行部が連続的に形成されている。これにより、本発明は有利な形式で、これまで公知のピン孔の区分的な形状付与が、加工時に例えば円形から円筒形、円形から卵形、円筒形から卵形、卵形から円形、第1の半径を有する卵形の形状付与から別の半径を有する卵形の形状付与およびこれに類するものの連続的な移行部を形成することによって解消されることを達成する。ただし、直前の列挙は例にすぎず、これに限定されるものではない。さらに、有利な形式で、それぞれの幾何学形状に孔周囲を介して移行する形状は、それぞれ異なる半径を示すので、所定の形状付与を有するそれぞれの区分の長軸は、ピストン軸線に対して垂直にも平行にも、周囲にわたって異なる広がりを備えて設計される。例えば、卵形の幾何学形状に孔周囲を介して移行する形状は、それぞれ異なる半径を示すので、個々の卵形線の長軸は、ピストン軸線(=ピストン行程軸)に対して垂直にも平行にも、周囲にわたって異なる広がりを備えて設計される。ピン孔の軸方向の延在長さ(=孔長さ)ならびにその周囲にわたっての、区分的な幾何学形状、ひいては全体的な幾何学形状における構造上かつ加工上の自由度は、これによりまず、内燃機関の燃焼室内でのピストンの運転中のピン孔もしくはピンの変形への正確かつ精確な適合を許可する。
【0011】
本発明の特別な構成はその際、ピン孔の頂点から、ピストンの、内燃機関の燃焼室側の領域の方向で、外套線が、軸方向の延在長さおよびピン孔の周囲にわたって楕円形に変化する半径を備えて形成されている。例えば、ピン孔の形状(幾何学形状)は、卵形、円形(円筒形)、再び卵形の幾何学的形状を、無段階に、卵形線軸の、自由に選択された方向および長さを備えて有することができる。卵形線軸の方向および長さはその際、ピストンの幾何学形状、特にピンの軸方向の延在長さおよび直径ならびに特にピストンの直径およびピストン高さに合わせて選択されている。
【0012】
全体として本発明は、全周面にわたってのピストンピンの潤滑を同時に保証した、ピンボス内の摩擦を最小化するための、ピン孔の最適化された、すなわち変形力に適合された形状付与を提供する。ここでは特に、本発明が全周面にわたってのピストントップの潤滑を可能にすることが重要である。このことは、従来技術によるこれまでの実施形態では不可能であった。さらに、ピン孔の幾何学形状の本発明による構成は、ピストンもしくはピストンピンの破損の危険の減少、強度を保ちながらの重量軽減ならびに摩擦力のさらなる減少に至る。
【0013】
本発明の実施例を以下に図1および図2を参照しながら説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
図1には内燃機関のピストンの一部が切り取られて示されている。その際、このワンピースまたはマルチピースのピストンは、自体公知の形式で、概略的に示されたピストンボス1を有する。
【0015】
ピストンボス1内にはピン孔2が設けられている。ピン孔2は孔軸3を有する。ピストン内側領域は符号4で示されているので、図示していないピストンボスは、図1で見て右側に、ピストンのピストントップの下側でのピストンボスの対称的な配置に基づいて存在する。図1には、ピン孔2がピストン内側領域4の方向で拡幅し、特にラッパ状の経過を有することが極めて良好に認識可能である。拡幅したピン孔2の外套線5または6は、異なるディメンジョンを有し、ピストン幾何学形状に応じて、軸方向の経過(ピストン内側領域4および/またはピストン外側領域9の方向での経過)中変化する直径を有する円形もしくは変化する大小の半軸を有する卵形である。本発明にとって、孔軸3に関して上側の上軸7が、孔軸3に関して下側の下軸8よりも小さい(またはその逆)ことが重要である。同じことは、ピストン外側領域9の方向でのピン孔の経過にも言える。この場合、孔軸3の上側でのピン孔2の拡幅は、孔軸3の下側でのピン孔2の拡幅よりも大きい。ピン孔の、ピストン内側領域4の方向かつ/またはピストン外側領域9の方向でのそれぞれ異なって拡幅する経過により、図示しないピストンピンが、内燃機関の運転中、その自らの変形ならびにピストンボス1の領域でのピストンの変形の考慮下で、最適にピン孔2内で、特にピストン内側領域4の方向で支持されることが可能となる。この支持は特にピン孔2の頂点の領域でかつピストン行程軸11に関してその周りで行われる。図1には点線でさらに別の内壁10がピストンボス1内に暗示されている。これにより、本発明が梯形のピストンボスでも、例えば段状のピストンボスのようなピストンボス1の別の形状と同様に利用されることが明らかである。
【0016】
図2は概略的に断面図で、ワンピースまたはマルチピースのピストンとして形成されているピストンのピストンボス1を示す。ピストンがマルチピースのピストンであるとき、ピストンはまず2つ以上の部分からなることができる。これらの部分は接合され、その後、ピストンスカートを有する完成したワンピースのピストンを形成する。「マルチピースのピストン」という概念はしかし、ピストン上側部分がピストン下側部分(=スカート部分)にピンを介して結合されるスカート揺動形のピストン(Pendelschaftkolben)、つまりアーティキュレイトタイプピストンと呼ばれるピストンと解されてもよい。
【0017】
ピストンのピストンボス1は、内燃機関内でのピストンの使用に適合されている任意の幾何学形状を有する。それにより、ピストンピンを受容するためのピン孔が存在するピストンボス1は、ピストンの外側の表面(摺動面)まで延在していても、奥まっていてもよい(「ボックスデザイン(Kastendesign)」)。
【0018】
図2の実施例では、ピン孔の経過は軸方向で3つの区分I,II,IIIに分割されている。その際、3つよりも多いまたは3つよりも少ない区分が存在していてもよい。これらの3つの区分I〜IIIは、図1に示し、ここで既に説明した必要な幾何学形状、特に卵形、円形、円筒形またはこれに類する形状に形成されている幾何学形状を有する。この場合、移行部は第1の形状付与を有する区分Iから別の形状付与を有する次の区分IIへ連続的に形成されていることが重要である。同じことは、区分IIから区分IIIへの移行部にも言える。「形状付与」という概念はその際、例えば2つの接続した区分が、同じ幾何学形状、例えば卵形を有することができるが、それぞれの卵形線の異なる半径を有することと解されるべきである。補足的に、「形状付与」という概念はしかし、ある区分が例えば卵形に形成されており、接続する区分が円形に形成されていることと解されてもよい。ここではつまり、その幾何学形状および負荷の考慮の下、ピン孔内でのピストンピンの装入のために可能なすべての幾何学形状および寸法が考慮される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】内燃機関のピストンの一部の断面図である。
【図2】ピストンのピストンボスの概略断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ピストンボス
2 ピン孔
3 孔軸
4 ピストン内側領域
5 第1の外套線
6 別の外套線
7 上軸
8 下軸
9 ピストン外側領域
10 内壁
11 ピストン行程軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンボス(1)を備えたピストンであって、ピストンボス(1)内に、ピストンピンを受容するためのピン孔(2)が配置されており、該ピン孔(2)がピストン内側領域(4)の方向で、拡幅する経過を有している形式のものにおいて、ピストン行程軸(11)に関して、孔軸(3)の上側での拡幅が、孔軸(3)の下側での拡幅よりも小さいか、またはその逆であることを特徴とする、ピストン。
【請求項2】
ピストン外側領域(9)の方向で、ピストン行程軸(11)に関して、孔軸(3)の上側での拡幅が、孔軸(3)の下側での拡幅よりも小さいか、またはその逆である、請求項1記載のピストン。
【請求項3】
ピストン内側領域(4)の方向および/またはピストン外側領域(9)の方向での拡幅がラッパ状に形成されている、請求項1または2記載のピストン。
【請求項4】
ピン孔(2)の外套線(5,6)が円形または卵形である、請求項1から3までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項5】
ピストンボス(1)が、梯形または段状のボスとして形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項6】
第1の形状付与を有する区分から別の形状付与を有する次の区分への移行部が連続的に形成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項7】
第1の区分(I)が円形に、第2の区分(II)が円筒形に、第3の区分(III)が卵形に形成されている、請求項6記載のピストン。
【請求項8】
少なくとも3つの区分(I),(II),(III)が卵形に形成されており、卵形線の互いに異なる半径を有する、請求項6または7記載のピストン。
【請求項9】
ピン孔(2)の頂点から、ピストンの、燃焼室側の領域の方向で、外套線が、軸方向の延在長さおよびピン孔(2)の周囲にわたって楕円形に変化する半径を備えて形成されている、請求項6から8までのいずれか1項記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−507163(P2009−507163A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528414(P2008−528414)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008479
【国際公開番号】WO2007/025733
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(504233247)カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
【住所又は居所原語表記】Karl−Schmidt−Strasse, D−74172 Neckarsulm, Germany
【Fターム(参考)】