説明

内燃機関の制御装置

【課題】エンジンブレーキが作動した場合に乗員に加速感を与えることを抑制できる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の制御装置(50)は、内燃機関の吸気2弁のうち一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じになるように吸気2弁の位相を制御した状態で内燃機関に対するエンジンブレーキの作動要求を検出した場合に、第1の制御および第2の制御をこの順に行う制御部(54)を備え、第1の制御において制御部は、エンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して内燃機関の吸入空気量が減少してゼロより大きい値になるように吸入空気量を制御し且つ吸気2弁の位相が遅角するように吸気2弁の位相を制御し、第2の制御において制御部は、吸気2弁の位相が進角するように吸気2弁の位相を制御してから吸入空気量がゼロになるように吸入空量を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一つの気筒に対して配置された2つの吸気弁(以下、吸気2弁と称する場合がある)の位相を独立して変更可能な内燃機関が知られている。例えば特許文献1には、吸気2弁の位相を独立して変更可能な二重軸構造のカム軸を備える内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−144521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸気2弁の位相を独立して変更可能な内燃機関において、内燃機関の運転状態を最適化するために一方の吸気弁を他方の吸気弁に対して遅閉じにすることがある。従来、一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じにされた状態で内燃機関に対してエンジンブレーキの作動要求があった場合、内燃機関の吸入空気量をゼロにするとともに吸気2弁の位相を遅角させることでエンジンブレーキの効きを強くし、その後、吸入空気量をゼロにしたままの状態で吸気2弁の位相を進角させることでエンジンブレーキの効きを弱くしていた。しかしながら、この場合、エンジンブレーキの効きの強い状態からエンジンブレーキの効きの弱い状態に移行するときに、内燃機関が搭載された車両の乗員は加速感を感じてしまう。
【0005】
本発明は、エンジンブレーキが作動した場合に乗員に加速感を与えることを抑制できる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、一つの気筒に対して配置された2つの吸気弁である吸気2弁の位相を独立して変更可能な内燃機関の前記吸気2弁のうち一方の前記吸気弁が他方の前記吸気弁に対して遅閉じになるように前記吸気2弁の位相を制御した状態で前記内燃機関に対するエンジンブレーキの作動要求を検出した場合に、第1の制御および第2の制御をこの順に行う制御部を備え、前記第1の制御において前記制御部は、前記エンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して前記内燃機関の吸入空気量が減少してゼロより大きい値になるように前記吸入空気量を制御し且つ前記吸気2弁の位相が遅角するように前記吸気2弁の位相を制御し、前記第2の制御において前記制御部は、前記吸気2弁の位相が進角するように前記吸気2弁の位相を制御してから前記吸入空気量がゼロになるように前記吸入空量を制御することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、エンジンブレーキの効きの強さは、第1の制御が行われたときのエンジンブレーキの効きの強さ、第2の制御において吸入空気量がゼロにならない状態で吸気2弁の位相が進角したときのエンジンブレーキの効きの強さ、第2の制御において吸入空気量がゼロになったときのエンジンブレーキの効きの強さの順番に大きくなる。その結果、エンジンブレーキの効きを時間の経過とともに段階的に強くすることができる。それにより、エンジンブレーキが作動した場合に乗員に加速感を与えることを抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジンブレーキが作動した場合に乗員に加速感を与えることを抑制できる内燃機関の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)は、実施例1に係る制御装置を備える内燃機関が搭載された車両を示す模式図である。図1(b)は、吸気弁および排気弁の配置状態を示す図であり、気筒を上方側から見た様子を模式的に図示している。図1(c)は、吸気2弁の位相および吸入空気量を制御する制御装置の機能をブロックで図示したものである。
【図2】図2は、可変動弁機構の詳細を説明するための模式図である。
【図3】図3(a)は、エンジンブレーキの効きの強さを説明するための図である。図3(b)は、実施例1に係る制御装置による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御内容を説明するための図である。
【図4】図4(a)〜図4(f)は、実施例1に係る制御装置による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御の一例を説明するための図である。
【図5】図5は、実施例1に係る制御装置による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御のフローチャートの一例を示す図である。
【図6】図6(a)〜図6(f)は、比較例に係る制御装置による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御内容を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【実施例1】
【0011】
図1(a)は、本発明の実施例1に係る制御装置50を備える内燃機関10が搭載された車両100を示す模式図である。車両100は、内燃機関10を動力発生源の一つとして備える車両であれば特に限定されるものではない。例えば車両100はハイブリッド車両であってもよい。内燃機関10は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、ピストン13、吸気通路14、排気通路15、吸気弁16a,16b、排気弁17a,17b、スロットル18、可変動弁機構30、各種センサおよび制御装置50を備えている。
【0012】
シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上方に配置されている。ピストン13は、シリンダブロック11の気筒19内に配置されている。気筒19の数は特に限定されず、一つでもよく、複数でもよい。ピストン13は、内燃機関10のクランク軸にコンロッドを介して接続されている。ピストン13が気筒19内を上下動することで、クランク軸は回転する。シリンダブロック11とシリンダヘッド12とピストン13とによって囲まれた領域に、燃焼室20が形成されている。燃焼室20は、燃料と空気とが混合した混合気が燃焼するための空間である。なお、本実施例において上方および下方は、必ずしも重力方向における上方および下方と一致している必要はない。例えば、本実施例における上方および下方は水平方向であってもよい。
【0013】
吸気通路14は、燃焼室20に流入する吸気が通過するための通路である。排気通路15は、燃焼室20から排出された排気が通過するための通路である。吸気弁16aおよび吸気弁16bは、吸気通路14を開閉するための弁である。排気弁17aおよび排気弁17bは、排気通路15を開閉するための弁である。
【0014】
図1(b)は、吸気弁16a,16bおよび排気弁17a,17bの配置状態を示す図であり、気筒19を上方側から見た様子を模式的に図示している。図1(b)において、内燃機関10のクランク軸の軸線であるクランク軸線21が図示されている。本実施例に係る内燃機関10は、一つの気筒19に対して2つの吸気弁(吸気弁16aおよび吸気弁16b)を備えている。以下、一つの気筒19に対して配置された2つの吸気弁である吸気弁16aおよび吸気弁16bを吸気2弁と称する場合がある。また内燃機関10は、一つの気筒19に対して2つの排気弁(排気弁17aおよび排気弁17b)を備えている。以下、一つの気筒19に対して配置された2つの排気弁である排気弁17aおよび排気弁17bを排気2弁と称する場合がある。吸気2弁は気筒19のクランク軸線21を挟んで一方の側に配置され、排気2弁は気筒19のクランク軸線21を挟んで他方の側に配置されている。但し吸気2弁および排気2弁の配置状態は、図1(b)の配置状態に限定されるものではない。
【0015】
図1(a)を参照して、スロットル18は、吸気通路14の吸気2弁よりも吸気の流動方向上流側に配置されている。スロットル18は制御装置50によって制御されて吸気通路14の開口率を調整することで、内燃機関10の燃焼室20に吸入される吸入空気量を調整する。すなわち、スロットル18は、吸入空気量を調整する吸入空気量調整機構としての機能を有している。可変動弁機構30は、吸気2弁の位相を独立して変更可能な可変動弁機構である。可変動弁機構30は制御装置50によって制御される。可変動弁機構30の詳細は後述する。
【0016】
各種センサは、制御装置50の動作に必要な各種情報を検出するためのセンサである。図1(a)においては各種センサの一例として、クランクポジションセンサ40、スロットルポジションセンサ41、カム軸ポジションセンサ42およびアクセルポジションセンサ43が図示されている。クランクポジションセンサ40は、内燃機関10のクランク軸の位置を検出し、検出結果を制御装置50に伝える。制御装置50はクランクポジションセンサ40の検出結果に基づいて、内燃機関10のクランク角を取得する。内燃機関10の吸気行程、圧縮行程等の各行程、ピストン13の位置、吸気弁16a,16bおよび排気弁17a,17bの位置等の内燃機関10の運転状態を示す指標は、クランク角を基準単位として設定されている。したがって制御装置50は、クランク角を取得することで内燃機関10の運転状態を取得することができる。
【0017】
スロットルポジションセンサ41は、スロットル18の位置を検出し、検出結果を制御装置50に伝える。制御装置50は、スロットルポジションセンサ41の検出結果に基づいて、スロットル18の開度(以下、スロットル開度と称する)を取得する。なお、本実施例においてスロットル開度がゼロの場合、内燃機関10の吸入空気量はゼロになり、スロットル開度がゼロより大きい値の場合、内燃機関10の吸入空気量はゼロより大きい値になる。したがって制御装置50は、スロットル開度に基づいて内燃機関10の吸入空気量を取得することができる。
【0018】
カム軸ポジションセンサ42は、可変動弁機構30の後述する内部カム軸32および外部カム軸33の位置を検出し、検出結果を制御装置50に伝える。制御装置50は、カム軸ポジションセンサ42の検出結果に基づいて、可変動弁機構30の後述するカム35aおよびカム35bの位相を取得するとともに、吸気弁16aおよび吸気弁16bの位相を取得する。
【0019】
アクセルポジションセンサ43は、車両100が有するアクセル101の位置を検出し、検出結果を制御装置50に伝える。制御装置50は、アクセルポジションセンサ43の検出結果に基づいて、ドライバーによるアクセル101の踏み込み量(以下、アクセル踏み込み量と称する)を取得する。
【0020】
本実施例に係る制御装置50は、アクセル踏み込み量に基づいて内燃機関10に対するエンジンブレーキの作動要求の有無を検出する。具体的には制御装置50は、アクセル踏み込み量がゼロより大きい値からゼロに変化した場合、内燃機関10に対してエンジンブレーキの作動要求があったと判定する。但し、内燃機関10に対するエンジンブレーキの作動要求の検出手法は、アクセル踏み込み量に基づく手法に限定されるものではない。例えば制御装置50は、アクセル踏み込み量に代えて、またはアクセル踏み込み量とともに、スロットル開度、車両100が有するブレーキの踏み込み量等に基づいてエンジンブレーキの作動要求を検出してもよい。
【0021】
制御装置50としては、電子制御装置(Electronic Control Unit)を用いることができる。本実施例においては、制御装置50として、CPU(Central Processing Unit)51、ROM(Read Only Memory)52およびRAM(Random Access Memory)53を備える電子制御装置を用いる。制御装置50は、各種センサの検出結果に基づいて可変動弁機構30を制御することで、吸気2弁の位相を制御する。また、制御装置50は、各種センサの検出結果に基づいてスロットル18を制御することで、内燃機関10の吸入空気量を制御する。
【0022】
図1(c)は、吸気2弁の位相および吸入空気量を制御する制御装置50の機能をブロックで図示したものである。吸気2弁の位相および吸入空気量を制御する制御装置50の機能は、制御部54および記憶部55によって実現することができる。制御部54は、吸気2弁の位相および吸入空気量を制御する機能を有している。本実施例に係る制御部54は、可変動弁機構30を制御することで吸気2弁の位相を制御し、スロットル18を制御することで吸入空気量を制御する。記憶部55は、制御部54の制御に必要なデータ等を記憶する機能を有している。制御部54は、記憶部55に記憶されたデータ等を適宜参照しながら、吸気2弁の位相および吸入空気量を制御する。制御部54の機能はCPU51によって実行され、記憶部55の機能はROM52およびRAM53によって実行される。但し、制御部54の機能を実行するハードウエアはCPU51に限定されるものではなく、記憶部55の機能を実行するハードウエアはROM52およびRAM53に限定されるものではない。
【0023】
続いて可変動弁機構30の詳細について説明する。図2は、可変動弁機構30の詳細を説明するための模式図である。可変動弁機構30は、吸気2弁の位相を独立して変更可能な機構であれば特に限定されるものではない。本実施例に係る可変動弁機構30は、一例として、二重カム軸31、アクチュエータ36aおよびアクチュエータ36bを備えている。二重カム軸31は、外部カム軸33および内部カム軸32を備えている。外部カム軸33は、内部カム軸32の外側に内部カム軸32と同一の回転中心線34を有して配置されている。外部カム軸33および内部カム軸32は、互いに独立して時計方向および反時計方向に所定の角度回転できるように構成されている。
【0024】
外部カム軸33はカム35aを有している。内部カム軸32はカム35bを有している。カム35aは吸気弁16aに対応している。カム35bは吸気弁16bに対応している。なお、気筒19が複数ある場合には、可変動弁機構30は、回転中心線34の線の方向が気筒19の配列方向になるようにして内燃機関10に配置され、二重カム軸31は、一組のカム35a,35bを気筒19の数に対応した数だけ備えることになる。
【0025】
カム35aの外部カム軸33への接続方法およびカム35bの内部カム軸32への接続方法は、外部カム軸33および内部カム軸32が互いに独立して所定の角度回転できるのであれば、特に限定されるものではない。本実施例においてカム35aは、外部カム軸33の外表面にピン、ボルト等の締結部材を用いて接続されている。カム35bは、締結部材を用いて内部カム軸32に接続されている。具体的には、カム35bは、締結部材をカム35bの例えばカムヒール側から少なくとも内部カム軸32に至る部分にまで挿入することで、内部カム軸32に接続されている。この場合、外部カム軸33には、内部カム軸32が回転したときにカム35b用の締結部材が移動するための溝が形成されている。内部カム軸32が回転したとき、カム35bは外部カム軸33に対して摺動しながら回転する。
【0026】
アクチュエータ36aは、外部カム軸33の位相を制御するための動力発生装置である。アクチュエータ36bは、内部カム軸32の位相を制御するための動力発生装置である。本実施例においてはアクチュエータ36aおよびアクチュエータ36bの一例として、ベーン式のアクチュエータを用いる。この場合、アクチュエータ36aは、ベーン37aとベーン37aを収容するハウジング38aとを備えている。アクチュエータ36bも、ベーン37bとベーン37bを収容するハウジング38bとを備えている。ベーン37aおよびベーン37bは、それぞれ制御部54に制御されることでハウジング38aおよびハウジング38bに対して相対的に回転する。なお、ベーン37aおよびベーン37bの回転中心線は回転中心線34と一致している。
【0027】
ベーン37aが回転することで、ベーン37aに接続した外部カム軸33は内部カム軸32に対して相対的に回転する。その結果、外部カム軸33の位相は内部カム軸32の位相に対して独立して変更される。それにより、カム35aによって駆動される吸気弁16aの位相も、吸気弁16bの位相に対して独立して変更される。ベーン37bが回転することで、ベーン37bに接続した内部カム軸32は外部カム軸33に対して相対的に回転する。その結果、内部カム軸32の位相は外部カム軸33の位相に対して独立して変更される。それにより、カム35bによって駆動される吸気弁16bの位相も、吸気弁16aの位相に対して独立して変更される。
【0028】
なお、本実施例においてアクチュエータ36aは二重カム軸31の回転中心線34の一方の端部側に配置され、アクチュエータ36bは他方の端部側に配置されているが、アクチュエータ36aの動力を外部カム軸33に伝達でき、アクチュエータ36bの動力を内部カム軸32に伝達できる構造であれば、これに限定されるものではない。例えば可変動弁機構30は、二重カム軸31の一方の端部側にアクチュエータ36a,36bが配置された構造を有していてもよい。
【0029】
続いて、本実施例に係る制御装置50の吸気2弁の位相および吸入空気量の制御の詳細について説明する。まず、制御装置50の制御部54は、内燃機関10の運転状態に基づいて吸気2弁のうち一方の吸気弁を他方の吸気弁に対して遅閉じにする。その結果、一方の吸気弁は相対的に早く開き、他方の吸気弁は相対的に遅く開くことになる。本実施例においては、一例として吸気弁16aを早く開く吸気弁(以下、早開き弁と称し)とし、吸気弁16bを遅く開く吸気弁(以下、遅開き弁と称する)とする。
【0030】
このように一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じに設定された場合、内燃機関10のエンジンブレーキの効きの強さ(すなわち、エンジンブレーキによって生じる負トルクの大きさ)は、吸入空気量および吸気2弁のバルブタイミングによって変化する。図3(a)は、エンジンブレーキの効きの強さを説明するための図である。状態Aは、スロットル開度がゼロ(すなわち吸入空気量がゼロ)に制御された状態であり且つ早開き弁および遅開き弁のそれぞれの位相が最大に遅角するように制御された状態である。状態Bは、スロットル開度がゼロに制御された状態であり且つ早開き弁および遅開き弁のそれぞれの位相が進角するように制御された状態である。状態Cは、スロットル開度がゼロよりも大きい値に制御された状態であり且つ早開き弁および遅開き弁のそれぞれの位相が最大に遅角するように制御された状態である。
【0031】
吸入空気量が少なくなるほど内燃機関10のポンプ損失が大きくなることから、エンジンブレーキの効きは強くなる。吸入空気量を一定と仮定して吸気2弁の位相が遅角した状態と進角した状態とを比較すると、遅角した状態の方がエンジンブレーキの効きは強くなる。したがって、内燃機関10のエンジンブレーキの効きは、状態C、状態Bおよび状態Aの順に強くなる。
【0032】
図3(b)は、本実施例に係る制御装置50による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御内容を説明するための図である。前述したように、制御部54は、吸気2弁のうち一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じになるように吸気2弁の位相を制御する。さらに制御部54は、内燃機関10に対するエンジンブレーキの作動要求を検出する。制御部54は、吸気2弁のうち一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じになるように吸気2弁の位相を制御した状態で内燃機関10に対するエンジンブレーキの作動要求を検出した場合には、以下に説明する第1制御および第2制御をこの順に行う。
【0033】
第1制御において制御部54は、エンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して吸入空気量が減少してゼロより大きい値になるように吸入空気量を制御し、且つ吸気2弁の位相が遅角するように吸気2弁の位相を制御する。第2制御において制御部54は、吸気2弁の位相が進角するように吸気2弁の位相を制御してから吸入空気量がゼロ(スロットル開度がゼロ)になるように吸入空気量を制御する。
【0034】
なお、第1制御において吸気2弁の位相が遅角された後に第2制御において吸気2弁の位相が進角される結果、第1制御において吸気2弁の位相が遅角した状態は、吸気2弁の位相が最大に遅角した状態となる。すなわち、本実施例に係る制御部54は、第一制御において、エンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して吸入空気量が減少してゼロより大きい値になるように吸入空気量を制御し且つ吸気2弁の位相が最遅角状態となるように吸気2弁の位相を制御している。また制御部54は第2制御において、吸気2弁の位相が最遅角状態から進角するように吸気2弁の位相を制御した後に、吸入空気量がゼロになるように吸入空気量を制御している。
【0035】
第1の制御が行われたときのエンジンブレーキの効きの強さを第1の値とし、第2の制御において吸入空気量がゼロ(スロットル開度がゼロ)にならない状態で吸気2弁の位相が進角したときのエンジンブレーキの効きの強さを第2の値とし、第2の制御において吸入空気量がゼロになったときのエンジンブレーキの効きの強さを第3の値とした場合、第1〜第3の値は第1の値、第2の値、第3の値の順番に大きくなる。その結果、本実施に係る制御装置50によれば、エンジンブレーキの効きを時間の経過とともに段階的に強くすることができる。
【0036】
続いて制御装置50の制御の一例をグラフを用いてさらに具体的に説明する。図4(a)〜図4(f)は、本実施例に係る制御装置50による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御の一例を説明するための図である。図4(a)〜図4(f)の横軸は時間を示している。図4(a)の縦軸はアクセル踏み込み量を示し、グラフの上方に行く程、アクセル踏み込み量は大きくなる。図4(b)の縦軸はブレーキ踏み込み量を示し、縦軸の上方に行く程、ブレーキ踏み込み量は大きくなる。図4(c)の縦軸はスロットル開度を示し、縦軸の上方に行く程、スロットル開度は大きくなり、その結果、吸入空気量も多くなる。図4(d)の縦軸は早開き弁の開時期(IVO)を示し、縦軸の上方に行く程、遅角度合いが増し、縦軸の下方に行く程、進角度合いが増すことになる。図4(e)の縦軸は遅開き弁の閉じ時期(IVC)を示し、縦軸の上方に行く程、遅角度合いが増し、縦軸の下方に行く程、進角度合いが増すことになる。図4(f)の縦軸は、車両100の乗員が感じる減速感を示し、縦軸の上方に行く程、減速感は強くなる。
【0037】
図4(a)に示すように、制御部54は、ゼロより大きい値のアクセル踏み込み量がゼロになったときに内燃機関10に対するエンジンブレーキの作動要求を検出する。なお、図4(b)に示すブレーキ踏み込み量はゼロである。制御部54は、エンジンブレーキの作動要求を検出した場合、第1制御を行う。
【0038】
第1制御において制御部54は、図4(c)に示すようにスロットル開度をエンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して減少させてゼロよりも大きい所定値に制御する。所定値は記憶部55が記憶しておき、制御部54は記憶部55の所定値を参照しながらスロットル18を制御する。その結果、吸入空気量もエンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して減少してゼロより大きい値に制御される。
【0039】
さらに第1制御において制御部54は、図4(d)および図4(e)に示すように、早開き弁および遅開き弁のそれぞれの位相を遅角させる。このときの遅角量は記憶部55が記憶しておき、制御部54は記憶部55のデータを参照しながら吸気2弁の遅角制御を行う。第1の制御が行われる結果、吸気2弁の位相は最遅角状態になる。第1制御が行われた状態(第2制御が行われる前の状態)は、図3(a)の状態Cに対応している。
【0040】
第1制御の後、制御部54は第2制御を行う。第2制御において制御部54は、図4(d)および図4(e)に示すように早開き弁および遅開き弁のそれぞれの位相を進角させてから、図4(c)に示すようにスロットル開度をゼロにする。このときの進角量は記憶部55が記憶しておき、制御部54は記憶部55のデータを参照しながら吸気2弁の進角を行う。第2制御においてスロットル開度がゼロになった状態は、図3(a)の状態Bに対応している。
【0041】
以上のような第1制御および第2制御が行われることで、図3(b)において前述したようにエンジンブレーキの効きが時間の経過とともに段階的に強くなることから、図4(f)に示すように減速感は段階的に強くなる。
【0042】
図5は、本実施例に係る制御装置50による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御のフローチャートの一例を示す図である。制御装置50は、図5のフローチャートを所定の周期で繰り返し実行する。なお、図5のフローチャートは、吸気2弁のうち一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じになっている状態からスタートする。
【0043】
まず制御部54は、内燃機関10に対するエンジンブレーキの作動要求の有無を検出する(ステップS10)。本実施例に係る制御部54は、一例として、アクセルポジションセンサ43の検出結果に基づいてアクセル踏み込み量を取得し、取得されたアクセル踏み込み量がゼロより大きい値からゼロに変化した場合にエンジンブレーキの作動要求が有ると検出する。ステップS10においてエンジンブレーキの作動要求が検出されなかった場合、制御部54はフローチャートの実行を終了する。
【0044】
ステップS10においてエンジンブレーキの作動要求が検出された場合、制御部54は第1制御を行う(ステップS20)。具体的には制御部54は、エンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して吸入空気量が減少してゼロより大きい値になるように吸入空気量を制御し且つ吸気2弁の位相が遅角するように吸気2弁の位相を制御する。
【0045】
次いで制御部54は、第2制御のうち吸気2弁の位相制御を行う(ステップS30)。具体的には制御部54は、吸気2弁の位相が進角するように可変動弁機構30を制御する。
【0046】
次いで制御部54は、第2制御のうち吸入空気量の制御を行う(ステップS40)。具体的には制御部54は、スロットル18の開度をゼロに制御することで吸入空気量をゼロに制御する。次いで制御部54はフローチャートの実行を終了する。
【0047】
本実施例に係る制御装置50の作用効果を、比較例に係る制御装置と比較しつつ説明する。図6(a)〜図6(f)は、比較例に係る制御装置による吸気2弁の位相および吸入空気量の制御内容を説明するための図である。図6(a)〜図6(f)は、それぞれ図4(a)〜図4(f)に対応している。比較例に係る制御装置は、本実施例に係る第1制御および第2制御を行っていない点において、本実施例に係る制御装置50と異なっている。
【0048】
具体的には、比較例に係る制御装置の制御部は、吸気2弁のうち一方の吸気弁が他方の吸気弁に対して遅閉じになるように吸気2弁の位相を制御した状態で内燃機関に対するエンジンブレーキの作動要求を検出した場合には、図6(c)に示すようにスロットル開度をゼロに制御することで吸入空気量をゼロに制御するとともに、図6(d)および図6(e)に示すように早開き弁および遅開き弁の位相を遅角させる。その結果、図3(a)の状態Aが得られる。次いで比較例に係る制御部は、図6(c)に示すようにスロットル開度をゼロに制御した状態で、図6(d)および図6(e)に示すように早開き弁および遅開き弁の位相を進角させる。その結果、図3(a)に示す状態Bが得られる。
【0049】
このような制御を行う比較例に係る制御装置では、エンジンブレーキの効きの相対的に強い状態(状態A)からエンジンブレーキの効きの相対的に弱い状態(状態B)に移行する際に、図6(f)に示すように、乗員に加速感を与えてしまう。この場合、乗員は、アクセル踏み込み量をゼロにしてエンジンブレーキがかかることで車両が段階的に減速することを期待していたにもかかわらず加速感を感じる結果、違和感を覚えてしまう。その結果、車両の乗り心地が悪くなってしまう。
【0050】
これに対して本実施例に係る制御装置50によれば、第1制御および第2制御が行われることで、図3(b)において前述したように、エンジンブレーキの効きを時間の経過とともに段階的に強くすることができる。その結果、図4(f)に示すように、エンジンブレーキが作動した場合に乗員に加速感を与えることを抑制できる。それにより車両100の乗り心地の悪化を抑制できる。
【0051】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 内燃機関
14 吸気通路
16 吸気弁
18 スロットル
30 可変動弁機構
31 二重カム軸
40 クランクポジションセンサ
41 スロットルポジションセンサ
43 アクセルポジションセンサ
50 制御装置
54 制御部
100 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの気筒に対して配置された2つの吸気弁である吸気2弁の位相を独立して変更可能な内燃機関の前記吸気2弁のうち一方の前記吸気弁が他方の前記吸気弁に対して遅閉じになるように前記吸気2弁の位相を制御した状態で前記内燃機関に対するエンジンブレーキの作動要求を検出した場合に、第1の制御および第2の制御をこの順に行う制御部を備え、
前記第1の制御において前記制御部は、前記エンジンブレーキの作動要求が検出される前に比較して前記内燃機関の吸入空気量が減少してゼロより大きい値になるように前記吸入空気量を制御し且つ前記吸気2弁の位相が遅角するように前記吸気2弁の位相を制御し、
前記第2の制御において前記制御部は、前記吸気2弁の位相が進角するように前記吸気2弁の位相を制御してから前記吸入空気量がゼロになるように前記吸入空量を制御することを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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