内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置
【課題】保持器によりコントロールシャフトの回転位置を機械的に保持し続けると、コントロールシャフト自身を含む周辺の構造物の弾性変形により、その軸受部分で微動が発生し、フレッチング磨耗を招くことを低減・回避する。
【解決手段】シリンダ12内を往復動するピストン14とクランクシャフト16のクランクピン17とを連係する複数のリンク21,22からなるリンク列と、駆動部33により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフト23と、このコントロールシャフト23と上記リンク列とを連係するコントロールリンク25と、を有し、コントロールシャフト23の回転位置に応じてピストン行程が変化する。機関運転状態に応じて目標圧縮比を設定する。低圧縮比での定常運転状態では、目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、コントロールシャフト23を回転方向に揺動させる揺動制御を行う。
【解決手段】シリンダ12内を往復動するピストン14とクランクシャフト16のクランクピン17とを連係する複数のリンク21,22からなるリンク列と、駆動部33により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフト23と、このコントロールシャフト23と上記リンク列とを連係するコントロールリンク25と、を有し、コントロールシャフト23の回転位置に応じてピストン行程が変化する。機関運転状態に応じて目標圧縮比を設定する。低圧縮比での定常運転状態では、目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、コントロールシャフト23を回転方向に揺動させる揺動制御を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントロールシャフトの回転位置に応じてピストン行程を変化させる内燃機関の可変圧縮比機構の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストン行程を変化させることによって機関圧縮比を可変とする可変圧縮比機構が特許文献1などに記載されている。この機構では、シリンダ内を往復動するピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連係する複数のリンクからなるリンク列と、モータ等の駆動部により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフトの偏心軸部と、をコントロールリンクにより連係し、コントロールシャフトの回転位置に応じてコントロールリンクによるロアリンクの運動拘束条件が変化することでピストン行程が変化するようになっている。駆動部からコントロールシャフトへの動力伝達経路には、筒内圧等に起因する荷重がリンク列を介して駆動部へ逆入力することを遮断するためのクラッチが介装されている。また、クラッチからコントロールシャフトへの動力伝達経路に減速機構が介装されている。上記のクラッチは、機関圧縮比に対応するコントロールシャフトの回転位置を機械的に保持する保持器として機能している。
【特許文献1】特開2007−239520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の保持器は、滑りを伴わない方式の場合、コントロールシャフトの回転位置を機械的に厳密に固定する。従って圧縮比一定での定常運転状態では、コントロールシャフトは回転せず、一定角度で機関側から筒内圧等の負荷を受け続ける。ここで、コントロールシャフトの主軸をシリンダブロック等の機関本体側に回転可能に支持する軸受部分では、コントロールシャフトの回転を機械的に固定していても、コントロールシャフト自身を含む周辺の構造物が僅かな弾性変形により軸受部分の表面において僅かに回転方向に動いてしまう微動状態が避けらない。このように軸受部分での微動が発生すると、この微動がフレッチング(表面傷)の発生を誘起し、コントロールシャフトのフレッチング磨耗を促進してしまう、という問題が生じる。このフレッチング磨耗は、一般的に時間と共に磨耗量が累積されていくため、耐久性を考慮した場合、避けなければならない不具合現象である。また、コントロールシャフトを同一位置に固定していると、荷重作用位置が同一箇所に集中し、局部的な摩耗を招き易い。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、このようなコントロールシャフトの微動によるフレッチング磨耗の発生・促進を低減・回避することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シリンダ内を往復動するピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連係する複数のリンクからなるリンク列と、駆動部により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフトと、このコントロールシャフトと上記リンク列とを連係するコントロールリンクと、を有し、上記コントロールシャフトの回転位置に応じてピストン行程が変化する内燃機関の可変圧縮比機構の制御に関する。そして、機関運転状態に応じて目標圧縮比を設定し、かつ、上記目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行うことによって、コントロールシャフトの軸受部分への潤滑油の介入が促進され、潤滑性能が向上することにより、コントロールシャフトの微動によるフレッチング磨耗の発生・促進を効果的に低減・回避することができる。また、コントロールシャフトを同一位置に機械的に固定する場合に比して、荷重作用位置が同一箇所に集中することがなく、局部的に摩耗が進行することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関の可変圧縮比機構を示しており、直列エンジンの気筒中心を通るクランクシャフト軸直角方向の断面図に相当する。
【0008】
シリンダブロック11には、各気筒毎に円筒状のシリンダ12が形成されると共に、各シリンダ12の周囲にウォータージャケット13が形成されている。各シリンダ12内にはピストン14が昇降可能に配設されており、各ピストン14のピストンピン15と、クランクシャフト16のクランクピン17とは、複数のリンクからなるリンク列、具体的にはアッパリンク22とロアリンク21とにより機械的に連係されている。尚、符号18はクランクシャフト16のカウンターウエイトである。具体的には、可変圧縮比機構は、クランクピン17に相対回転可能に取り付けられるロアリンク21と、このロアリンク21とピストンピン15とを連結するアッパリンク22と、クランクシャフト16と平行に気筒列方向へ延びるコントロールシャフト23と、このコントロールシャフト23に偏心して設けられた外周円形の偏心軸部24と、この偏心軸部24とロアリンク21とを連結するコントロールリンク25と、コントロールシャフト23を所定の制御範囲内で回転駆動する駆動部としての電動モータ(以下、『駆動部』とも呼ぶ)33を含むアクチュエータユニット30と、を備えている。
【0009】
ロッド状をなすアッパリンク22の上端部はピストン14のピストンピン15に相対回転可能に取付けられており、下端部は第1連結ピン26を介してロアリンク21に相対回転可能に連結されている。コントロールリンク25の一端はロアリンク21に第2連結ピン27を介して相対回転可能に連結されており、コントロールリンク25の他端は偏心軸部24の円筒面をなす外周に相対回転可能に取り付けられている。コントロールシャフト23は、図2にも示すように、シリンダブロック11の下部に回転可能に支持される複数の主軸29を有している。主軸29の回転中心Qに対して偏心軸部24の回転中心Pは所定量偏心している。
【0010】
機関運転状態に応じてアクチュエータユニット30によりコントロールシャフト23を回動することにより、偏心軸部24に外嵌するコントロールリンク25の揺動支点の位置が変化し、ロアリンク21及びアッパリンク22の姿勢が変化して、ピストン14の上方に画成される燃焼室の圧縮比が可変制御される。このような可変圧縮比機構は、機関圧縮比を連続的に変更可能なことに加えて、ピストンとクランクピンとを一本のコンロッドで連結した単リンク機構に比してピストンストローク特性そのものを好ましい特性(例えば、単振動に近い特性)に設定できる。また、ロアリンク21にコントロールリンク25を連結しているために、コントロールリンク25やコントロールシャフト23及びアクチュエータユニット30を比較的スペースに余裕のあるクランクシャフト16の下側の領域に配置することができ、上記の特開2005−30234号公報に記載されているようなものに比して、機関搭載性に優れている。
【0011】
図3は、アクチュエータユニット30を単体で示す断面図である。このアクチュエータユニット30は、シリンダブロック11の下側に固定され、ボルト42Aやピン42等により互いに固定される複数の部品40A〜40Cからなるケーシング40を主体としている。このケーシング40には、上記のモータ33が取り付けられるとともに、コントロールシャフト23に係合するアクチュエータシャフト32が軸方向に往復動・摺動可能に支持されており、後述するように、このアクチュエータシャフト32を介してモータ33の駆動トルクがコントロールシャフト23へ伝達されるようになっている。なお、図示していないが、シリンダブロック11及びケーシング40の下方には潤滑油を貯留するオイルパンが取付けられており、このオイルパンの上方に潤滑部品としてのクランクシャフト16等が配設されるクランク室19が形成されている。そして、ケーシング40はシリンダブロック11の側壁とともにクランク室19を液密に画成するクランク室19の外壁として機能しており、このケーシング40によって、アクチュエータシャフト32が、その先端をクランク室19内に臨ませた姿勢で摺動可能に保持されているとともに、モータ33がシリンダブロック11の外側に保持されている。
【0012】
そして、アクチュエータユニット30には、モータ33からコントロールシャフト23への動力伝達経路に、コントロールシャフト23側から駆動部33側への逆入力を遮断するクラッチ(以下、『保持器』とも呼ぶ)43が介装されている。このクラッチ43は、機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持する保持器として機能する。そして、モータ33からクラッチ43への動力伝達経路に、第1減速機構44が介装されているとともに、クラッチ43からコントロールシャフト23への動力伝達経路に、第2減速機構45及び最終減速機構46が介装されている。
【0013】
第1減速機構44は、モータ33の出力軸(ピニオン軸)33Aに固定される第1入力側ギヤ44Aとクラッチ43の入力軸2に固定され、上記の第1入力側ギヤ44Aと噛み合う第1出力側ギヤ44Bと、により構成される減速ギヤ列である。第2減速機構45は、クラッチ43の出力軸3に固定される第2入力側ギヤ45Aと、最終歯車36の外周に設けられ、第2入力側ギヤ45Aと噛み合う第2出力側ギヤ45Bと、により構成される減速ギヤ列である。これのギヤは、圧入や平行キー等を用いて固定される。
【0014】
最終減速機構46は、最終歯車36の回転運動をアクチュエータシャフト32の往復運動に変換する送りねじ機構47と、アクチュエータシャフト32の往復運動をコントロールシャフト23の回転運動に変換するスライダクランク機構48と、を有している。図2にも示すように、送りねじ機構47は、アクチュエータシャフト32のモータ側の端部に形成される雄ねじ35と、最終歯車36の内周面に形成され、上記の雄ねじ35に噛み合う雌ねじ37と、を有し、最終歯車36の回転運動をアクチュエータシャフト32の往復運動に変換して伝達する。スライダクランク機構48は、ピン39を介してアクチュエータシャフト32の往復動をコントロールシャフト23の回転運動に変換して伝達する。上記のピン39には、円筒形状をなすアクチュエータシャフト32の一端(先端)に回転可能に嵌合する大径部39Aの両側に小径部39Bが設けられている。この小径部39Bが、コントロールシャフト23の一端に設けられる一対の制御プレート41Aに形成された径方向に延びるスリット41に摺動可能に嵌合している。従って、アクチュエータシャフト32が往復動すると、ピン39のスリット41内での摺動動作を伴いながら、制御プレート41Aを介してコントロールシャフト23が所定の方向に回転する。
【0015】
クラッチ43は、特開2003−343601号公報にも開示されているように公知であり、簡単に説明すると、ケーシング40Bに固定される静止側部材としての固定外輪1に対し、モータ側の入力軸2とコントロールシャフト23側の出力軸3とを、転がり軸受4A〜4Dを介して正逆回転自在に支承した構造となっている。入力軸2とモータ33の出力軸33Aとは上記の第1減速機構44を介して接続されており、出力軸3と最終歯車36とは上記の第2減速機構45を介して接続されている。固定外輪1は、ケーシング40に圧入ないしは平行キー等を用いて安定的に固定される。
【0016】
図4及び図5にも示すように、入力軸2には、軸中心から径方向外側へずれた位置に軸方向に沿う貫通孔6が穿設され、出力軸3には、入力軸2と対向する端面に径方向に沿う凹溝7が形成されている。入力軸2の貫通孔6にピン8を挿入し、そのピン8の先端を出力軸3と対向する端面から突出させて、出力軸3の端面に形成された凹溝7に嵌入させることにより、入力軸2からの回転トルクを出力軸3に伝達可能としている。入力軸2の出力軸側端部には径方向外側へ拡径したフランジ部2aが一体的に形成され、そのフランジ部2aの外周から軸方向の出力軸側へ連続して延びる保持器としての複数の柱部2bが円周方向等間隔に形成されている。この円周方向に隣接する柱部2b間の空間は、軸方向の一方に向かって開口した形態のポケット9を構成し、各ポケット9に一対のローラ10a,10bがそれぞれ配される。出力軸3の入力軸側外周には、前述した入力軸2の柱部2b間に位置するポケット9と対応させて複数対のカム面(楔面)9a,9bが円周方向等間隔に形成されている。この出力軸3のカム面9a,9bと固定外輪1の内周面との間に、複数対のローラ10a,10bがそれぞれ配され、入力軸2の柱部2b間に形成されたポケット9に収容される。一対のローラ10a,10b間にはばね等の弾性部材5が介挿され、その弾性部材5が一対のローラ10a,10bを互いに離れる方向に弾性的に押圧する。各弾性部材5は、入力軸2、出力軸3および固定外輪1とは独立して一対のローラ10a,10b間に挿入配置されている。
【0017】
この逆入力遮断クラッチ43では、図6(A)に拡大して示す中立状態で、出力軸3に時計方向の逆入力トルクが入力されると、弾性部材5の弾性力により反時計方向(回転方向後方)のローラ10aがその方向の楔隙間と係合して、出力軸3が固定外輪1に対して時計方向にロックされる。逆に、出力軸3に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、弾性部材5の弾性力により時計方向(回転方向後方)のローラ10bがその方向の楔隙間と係合して、出力軸3が固定外輪1に対して反時計方向にロックされる。従って、出力軸3からの逆入力トルクは、一対のローラ10a,10bによって正逆両回転方向にロックされる。
【0018】
一方、入力軸2に回転トルクが入力されて例えば時計方向に回動すると、図6(B)に拡大して示すように、まず、入力軸2の反時計方向(回転方向後方)の柱部2bがその方向(回転方向後方)のローラ10aと係合して、これを弾性部材5の弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ10aがその方向の楔隙間から離脱して、出力軸3のロック状態が解除されてその出力軸3が時計方向に回動可能となる。入力軸2がさらに時計方向へ回動すると、図6(C)に示すように、入力軸2のピン8が出力軸3の凹溝7の壁面に当接することにより、入力軸2からの時計方向の回転トルクがピン8と凹溝7との係合部分を介して出力軸3に伝達され、出力軸3が時計方向に回動する。この時、時計方向(回転方向前方)のローラ10bは、その方向の楔隙間と係合せず、出力軸3のカム面と固定外輪1の内周面に接触した状態で空転する。入力軸2に反時計方向の回転トルクが入力された場合は、前述とは逆の動作で出力軸3が反時計方向に回動する。従って、入力軸2からの正逆両回転方向の回転トルクは、ピン8と凹溝7との係合部分を介して出力軸3に伝達され、出力軸3が正逆両回転方向に回動する。
【0019】
ここで、ロック解除の際には、前述のようにローラを楔隙間より離脱させる必要があるが、この動作の際、出力軸が過度に滑らかに回転可能であると、ローラが楔隙間より離脱することなく出力軸と共回りしてしまい、ロック解除に至らないおそれがある。このため、ロック解除動作を円滑に行うために、出力軸3に対して所定量の回転方向の抵抗(摩擦力など)を付加する。図7の例では、オイルシール49を出力軸3側に配設し、回転方向の抵抗を付加する構成としている。このオイルシール49は、基本的には出力軸3に固定される第2減速機構45の第2入力側ギヤ45Aの外周とケーシング40との間に介装され、この部分をシールするものであって、このオイルシール49を利用した簡素な構成で上記の回転方向の抵抗付加を実現している。
【0020】
このように第1減速機構44、第2減速機構45、及び最終減速機構46によってモータ33の出力軸33Aの回転を十分に減速してコントロールシャフト23へ伝達するようになっているため、コントロールシャフト側からモータ33へ作用する逆入力トルクを大幅に抑制して、モータ33の小型化・低出力化を図ることができるとともに、クラッチ43によりコントロールシャフト23側からモータ33側への逆入力を遮断することができる。そして本実施例では、クラッチ43とコントロールシャフト23との間に第2減速機構45と最終減速機構46とを介装しているために、コントロールシャフト23側からクラッチ43側への逆入力を抑制することができる。従って、クラッチ43の遮断能力・信頼性・耐久性を確保しつつ、クラッチ43を小型化して、機関搭載性を向上することができる。
【0021】
また、送りねじ機構47による螺進作用によって、コントロールシャフト23からの逆入力によりアクチュエータシャフト32が不用意に回転することを更に確実に阻止することができる。
【0022】
上記のクラッチ43及び減速機構44〜46は、クランク室19内に突出するアクチュエータシャフト32の先端部を除き、ケーシング40内に収容配置されている。そして、アクチュエータシャフト32の外周には、ケーシング40Aの円筒状をなす内周との隙間をシールするシール部材50が取付けられている。このシール部材として、例えば図示するようなOリングの他、オイルシールやリップシール、さらにはラビリンスパッキンなど様々なものを用いることができる。このようなシール部材50、更には上記のオイルシール49によって、クラッチ43及び減速機構44〜46が配設されるケーシング40の内部空間が、クランク室19内から液密に隔てられている。従って、クラッチ43及び減速機構44〜46が配設されるケーシング40の内部空間を、クランク室19内に飛散するエンジンオイル(潤滑油)とは別に、グリース等の専用の潤滑剤を用いて潤滑することができ、クランクシャフト等と同様にエンジンオイルで潤滑する場合に比して、クラッチ43及び減速機構44〜46の潤滑性能を大幅に改善することができる。従って、クラッチ43の荷重遮断能力を確保してモータ33側への負担を最小限に抑えつつ、更なるクラッチ43の小型化を図ることができる。
【0023】
制御部51は、各種センサ類により検出される機関回転数や機関負荷等に基づいて、燃料噴射制御や点火時期制御等の各種機関制御処理を記憶及び実行する機能を有するものであり、機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の回転位置を検出する制御軸センサ52の検出信号に基づいて、駆動部としての電動モータ33へ制御信号を出力し、後述するような機関圧縮比つまりコントロールシャフト23の回転位置の制御を行う。
【0024】
次に、本実施例の特徴である機関圧縮比の制御について説明する。図7は、燃焼荷重等の筒内圧によるコントロールシャフトトルクの発生要因を示す説明図であり、図7(A)は可変圧縮比機構のスケルトン図を示している。ピストン14の冠面に作用するシリンダ軸線下方向の燃焼荷重F0は、アッパリンク22を介してロアリンク21に、クランクピン17周りのトルクF1として作用する。このトルクF1の回転方向は、クランクピン17に対する第2連結ピン26の位置により定まり、図の例では反時計周り方向となる。ロアリンク21はアッパリンク22と連結していない側の端部でコントロールリンク25と連結しており、前述のロアリンク21に作用するトルクF1は、このコントロールリンク25の軸線方向に沿う斜め上方の荷重F2として作用する。ここで、コントロールリンク25のロアリンク21と連結していない側の端部は、コントロールシャフト23の偏心軸部24に揺動自在に軸支されており、この偏心軸部24は、コントロールシャフト23の主軸29に対して所定量偏心している。
【0025】
図7(B)に、機関圧縮比に応じた偏心軸部24の位置関係を示す。図示のように、各圧縮比における偏心軸部24には、筒内圧による荷重に起因する力F2が機関の斜め上方に作用するため、最高圧縮比から最低圧縮比に変更する方向で、筒内圧がコントロールシャフトトルクF3として作用する。なお、このコントロールシャフトトルクF3は図7(B)に示す方向のみならず、例えばシリンダ上方への運動部品の慣性力に起因する力が支配的な場合、反対方向(反時計回り方向)のトルクとしても作用する。このようにコントロールシャフト23には機関側から回転方向のトルクF3を受けるために、目標圧縮比tεを一定に維持するような定常運転状態では、このトルクF3に抗してコントロールシャフト23を所定位置に保持する必要がある。
【0026】
図8は、可変圧縮比機構の目標圧縮比tεの設定に用いられる圧縮比制御マップの一例を示している。同図に示すように、目標圧縮比tεは、機関回転数と機関負荷(負荷トルク)に応じて設定され、基本的に、低回転低負荷側では燃費向上を図るために高圧縮比とされ、高回転高負荷側ではノッキングを生じることのないように低圧縮比とされる。図中左下の領域が通常の街乗り運転などで主に使用される運転領域となる。このような低〜中速回転、かつ低〜中負荷の領域では、高圧縮比に設定される。このような高圧縮比の設定では、コントロールシャフト23の回転角度に対して機関圧縮比の変化の感度が高いことから、高圧縮比の設定が維持される定常運転状態では、後述するように保持器43により機関圧縮比を機械的に固定する。
【0027】
一方、高回転・高負荷側の領域では最低圧縮比に設定される。そして、この最低圧縮比の設定が維持される定常運転状態では、後述するように、目標圧縮比tεを含む所定の許容偏差領域Δtεを設定し、この許容偏差領域Δtε内でコントロールシャフト23を回転方向に揺動させる揺動制御を行う。従って、最低圧縮比付近の制御は、保持器43を用いた機械的なコントロールシャフト23の固定は行わず、モータ33の正転・逆転の繰返し動作によって、機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の回転位置を許容偏差領域Δtε内で周期的に変動させつつ、この許容偏差領域Δtε内にコントロールシャフト23の回転位置を保持する形態とする。
【0028】
図9は、コントロールシャフト23の回転角度と機関圧縮比との関係を示している。複リンク式可変圧縮比機構の特徴として、コントロールシャフト23の回転角度の変化に対して、機関圧縮比の変化は非線形特性を呈する。具体的には、高圧縮比側ほどピストン上死点位置の変化に対する圧縮比の変化割合の感度が高くなることから、低圧縮比側ほどコントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比の変化割合が減少する特性を有している。これはすなわち、最低圧縮比の近傍では、コントロールシャフト23の回転角度に対して圧縮比変化が非常に鈍感な領域であり、コントロールシャフト23の回転角度の制御が高圧縮比側に比して曖昧でも機関出力等の運転性能に影響が少ないことを意味している。従って、上述したように低圧縮比側で揺動制御を行っても、機関出力等の運転性能への跳ね返りが小さく、搭乗者に違和感を与えることはない。
【0029】
図10は、許容偏差領域Δtεの設定と機関運転条件の関係について、許容偏差領域Δtεの幅の大小関係とともに示している。上述したように、機関圧縮比が低くなるほどコントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比変化が鈍感となることから、機関運転性能へ影響を与えることがない範囲で、機関圧縮比が低くなるほど許容偏差領域Δtεの幅を大きく設定している。言い換えると、高回転高負荷側ほど許容偏差領域Δtεの幅を大きくしている。
【0030】
一方、最高圧縮比及びその近傍の設定状態では、許容偏差領域Δtεが十分に小さいものとなり、許容偏差領域Δtε内での揺動動作が困難であるため、揺動動作を行わず、保持器43により機関圧縮比εに対応するコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持する。ここで、最高圧縮比及びその近傍の設定状態が用いられる運転領域は、モード運転に代表される低回転・低負荷側の運転領域であり、コントロールシャフト23の偏心軸部24に作用するトルクF3(図7参照)も比較的低いことから、保持器43の小型化を図れることに加え、保持器43によりコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持しても、フレッチング発生の可能性は低い。
【0031】
図11は、駆動部としての一般的な電動モータ33における効率及び出力に対する電流の関係曲線例を示す。一般的に、電動モータ33は電流を印加し、出力軸33Aを回転させて出力を取り出す。印加電流の大きさによって、使用されるモータ回転数や出力・効率を調整・選択することができる。上述したような可変圧縮比機構において、仮に保持器43を用いることなくモータ33によりコントロールシャフト23の回転位置を一箇所に固定しようとすると、コントロールシャフト23の回転数は0(ゼロ)又はその近傍となるため、駆動源である電動モータ33の出力軸33Aの回転数もゼロ又はその近傍となる。図11中に示すストール点が、この回転数ゼロの状態に相当し、このストール点では効率もゼロとなってしまう。効率ゼロとは、印加した電流が出力として反映されず、全て自己発熱として消費されてしまう状態であり、モータの使用方法としては非常に望ましくない。
【0032】
これに対して本実施例では、特にコントロールシャフト23の回転角度が圧縮比の変化代に鈍感な低圧縮比側において、圧縮比の保持を保持器43を用いることなくモータ33のみで行う際に、あえてモータ33の出力軸33Aを停止させずに所定の許容偏差領域Δtε内で繰返し回動つまり揺動させることで、前述のストール点付近よりも相対的に効率の高い領域でモータ33を使用することができるために、モータ33による保持能力が向上し、低圧縮比におけるモータ33のみによる圧縮比保持を良好に実現することができる。
【0033】
図12は、このような本実施例の制御の流れを示すフローチャートである。
【0034】
ステップS1では、後述する制御軸センサ52のセンサ出力の基準位置学習制御の実行中であるかを判定する。センサ基準位置学習制御中であれば、本ルーチンを終了する。
【0035】
ステップS2では、目標圧縮比tεが一定の定常運転状態であるか、あるいは加速時や減速時等の目標圧縮比tεが変化する過渡運転状態であるかを判定する。この判定は、例えば駆動部33の出力軸33Aの回転速度に基づいて判定され、あるいは目標圧縮比Δtεの変化に応じて判定される。目標圧縮比Δtεが変化する過渡運転状態であれば、後述する揺動制御や保持器43による保持を行うことなく、本ルーチンを終了する。この場合、目標圧縮比tεへ向けた通常の圧縮比制御が行われることとなる。定常運転状態と判定された場合、ステップS3へ進む。
【0036】
ステップS3では、目標圧縮比tεを読み込む。この目標圧縮比tεは、例えば機関回転数及び機関負荷に基づいて図8に示す制御マップを参照して設定され、図8に示すように低回転低負荷側では燃費向上を図るために高圧縮比とされ、高回転高負荷側ではノッキングを生じることのないように低圧縮比とされる。
【0037】
ステップS4では、揺動制御を行うか否かを判定する。例えば、図10に示すように機関回転数や機関負荷が所定の判定値αよりも大きい高回転・高負荷側であれば、揺動制御の実行領域であると判定する。あるいは、目標圧縮比tεが所定の判定値よりも小さい低圧縮比側であれば、揺動制御を行う領域であると判定しても良い。
【0038】
揺動制御を行う領域ではないと判定された場合、ステップS4からステップS5へ進み、保持器43によりコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持する。なお、制御軸センサ52により検出される実圧縮比と目標圧縮比tεとの偏差が大きい場合には、実圧縮比を目標圧縮比tεに十分に近づけてから、保持器43による保持を行う。この保持器43による保持を行う場合には、電動モータ33への電圧印加を停止して、消費エネルギーの低減化を図る。
【0039】
揺動制御を行う領域と判定された場合、ステップS6へ進み、揺動制御における許容偏差領域Δtεを設定する(許容偏差領域設定手段)。つまり、揺動制御における制御目標値の最大値εMAXと最小値εMINとを設定する。例えば図10に示すように、目標圧縮比tεに対する高圧縮側の幅Δεuと低圧縮比側の幅Δεdとを同一に設定することによって、目標圧縮比tεに対する実際の機関圧縮比のずれ・偏差を抑制することができる。あるいは、ノッキングに対する圧縮比の余裕度が小さいような場合には、目標圧縮比tεに対する低圧縮比側の幅Δεdを相対的に大きくし、高圧縮比側の幅Δεuを相対的に小さくするか又はゼロにしても良い。
【0040】
また、上述したように目標圧縮比tεの大きさに応じて許容される偏差幅の大きさも変化するため、目標圧縮比tεに応じて許容偏差領域Δtεの幅自体も調整する。具体的には図10に示すように、目標圧縮比tεが低くなるほど、圧縮比変化に対するコントロールシャフト23の感度も鈍くなることから、許容偏差領域Δtεの幅を大きくする。
【0041】
続くステップS7では、後述するように各気筒の最大燃焼荷重が同一箇所に集中することのないように、揺動制御における目標圧縮比tεの最大値εMAXと最小値εMINとの切換周期を設定する。
【0042】
そして、ステップS8では、揺動制御を実行する。つまり、ステップS7で設定された切換周期で、駆動部33へ出力される制御目標値を、ステップS6で設定された許容偏差領域Δtεの最大値εMAXと最小値εMINとに交互に切り換える。このように制御目標値を最大値εMAXと最小値εMINとに交互かつステップ的に切換制御することで、実際のコントロールシャフト23は応答遅れを伴って許容偏差領域Δtε内を回転方向に揺動することとなる。
【0043】
次に、本発明の特徴的な構成及びその作用効果について、上記実施例を参照して以下に列記する。
【0044】
[1]シリンダ12内を往復動するピストン14とクランクシャフト16のクランクピン17とを連係する複数のリンク21,22からなるリンク列と、駆動部33により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフト23と、このコントロールシャフト23と上記リンク列とを連係するコントロールリンク25と、を有し、上記コントロールシャフト23の回転位置に応じてピストン行程が変化する内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置において、機関運転状態に応じて目標圧縮比tεを設定する目標圧縮比設定手段と、上記目標圧縮比tεを含む所定の許容偏差領域Δtε内で、コントロールシャフト23を回転方向に揺動させる揺動制御を行う揺動制御手段と、を有している。
【0045】
このように、目標圧縮比tεを含む所定の許容偏差領域Δtεで上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行うことによって、コントロールシャフト23の回転を一箇所に固定する場合と比較して、コントロールシャフト23を支持する軸受部分の表面に潤滑油が介入し易くなり、上述したフレッチング磨耗の発生頻度を低下させることができ、信頼性・耐久性を向上することができる。
【0046】
また、コントロールシャフト23を許容偏差領域Δtεで揺動させることによって、上記軸受部分への荷重作用位置が同一箇所に集中することがなく、局所的な摩耗の進行を抑制することができるとともに、ストール点付近よりも相対的に効率の高い領域を使用することができるために(図11参照)、駆動部としての電動モータ33による保持能力が向上し、ひいては駆動源である電動モータ33の小型化を図ることができる。
【0047】
[2]上記揺動制御では、上記許容偏差領域Δtεの最大値tεMAXと最小値tεMINとを交互に制御目標値として設定する。これにより、制御目標値を最大値tεMAXと最小値tεMINとに交互かつステップ的に切り換えるという簡素な制御でありながら、許容偏差領域Δtεの幅を最大限に利用して積極的にコントロールシャフト23の正転・逆転の作動を行うことができ、上述したような軸受部分への潤滑油の介入を促進して潤滑性能を向上することができる。
【0048】
[3]図7にも示すように、コントロールシャフト23の主軸29の軸受部分には、機関の筒内圧や運動部品の慣性力に起因する荷重F3が作用する。これらの荷重のうち、圧縮上死点近傍における筒内圧による最大燃焼荷重F0は、最も荷重が大きく、コントロールリンク25を介してコントロールシャフト23に曲げ荷重F3として作用する。従って、複数の気筒の面圧最大点が主軸29の軸受部分の同一箇所に集中すると、その部分での局所的な摩耗や焼きつきの進行を招くおそれがある。
【0049】
そこで、このように複数の気筒の最大燃焼荷重が同一箇所に集中することのないように、揺動制御における振動周期、つまり制御目標値の最大値tεMAXと最小値tεMINとの切換周期が設定されている。具体的には、切換周期を、複数の気筒の点火間隔と一致することのないように設定している。別言すると、揺動制御の揺動角速度を、コントロールシャフト23の主軸29の軸受部分の面圧最大点が気筒の点火順序の少なくとも連続する2回の燃焼時期に対して重複することがない角速度以上に設定されている。これによって、軸受部分における同一箇所に連続的に最大面圧が作用することがなく、前述の不具合を解消し、信頼性・耐久性を向上することができる。
【0050】
[4]上述したようなピストン14の冠面高さ位置つまり上死点位置を変えることで機関圧縮比を変更する複リンク式の可変圧縮比機構においては、ピストン上死点位置の変化に対する圧縮比の変化の感度が高圧縮比側ほど高く低圧縮比側ほど低いこと、また、低圧縮比側では高圧縮比側に比してコントロールシャフト23の単位角度当たりのピストン冠面高さの変化代が小さいことから、図9にも示すように、最低圧縮比近傍においては、最高圧縮比近傍に比して、コントロールシャフトの回転角度に対する圧縮比の変化代が非常に小さくなる。
【0051】
ここで、上述したように目標圧縮比tεの前後に許容偏差領域Δtεを設定することは、ミクロ的に言えば圧縮比を繰返し変更させる作動を行うことと同義である。特にコントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比の変化感度が高い最高圧縮比付近において、前述のような許容偏差領域Δtεを設定してコントロールシャフト23の揺動制御を行うと、実際の機関圧縮比の変動が相対的に大きくなって、機関出力の変動が大きくなり、運転性を阻害するおそれがある。
【0052】
そこで、コントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比変化感度が高い最高圧縮比付近では、上記の揺動制御を禁止し、コントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比変化感度が低い最低圧縮比付近に目標圧縮比が維持される定常運転状態のときにのみ、許容偏差領域Δtεを設けた揺動制御を行う。この最低圧縮比付近では、コントロールシャフト23の回転に対する圧縮比の変化の感度が低いことから、上記揺動制御を行っても機関出力への影響は少なく、機関運転性を阻害することはない。
【0053】
[5]一方、最高圧縮比付近においては、コントロールシャフト23の回転に対する圧縮比の変化の感度が非常に高いことから、仮にコントロールシャフト23の揺動制御を行うと、による機関圧縮比つまり機関出力の変動が大きく、機関性能に悪影響を与えることとなる。そこで、目標圧縮比が最高圧縮比付近に維持される定常運転状態では、揺動制御を行わず、保持器43によりコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持することで、安定した圧縮比保持を行うことができる。
【0054】
また、最高圧縮比付近の運転領域は、高負荷領域ではなく、モード領域に代表される低〜中速,低〜中負荷までの運転領域であり、機関の筒内圧や運動部品の慣性力に起因する機関側からコントロールシャフト23に作用するトルクF3自体が低い運転状態である。従って、保持器43による保持を行う運転領域を最高圧縮比近傍のみに限定することで、保持器43による保持を全運転領域で行う場合と比較して、より低負荷側のみに対応する保持器43とすれば良く、保持器43の小型化・低コスト化を図ることができる。
【0055】
[6]図10に示すように、目標圧縮比tεの大きさに応じて許容される偏差幅の大きさも変化するため、好ましくは、機関運転状態に応じて許容偏差領域Δtεの幅を調整する。
【0056】
[7]より具体的には、目標圧縮比tεが低いほど許容偏差領域Δtεの幅を大きくする。これによって、圧縮比の変動に伴う機関出力の変動による運転性の低下を招くことなく、低圧縮比側では許容偏差領域Δtεの幅を大きくしてコントロールシャフト23を大きく揺動することができ、フレッチング発生頻度を更に低減させることができる。
【0057】
なお、過給機付きの内燃機関の場合、最低圧縮比付近で過給圧を制御する。但し過給圧の立ち上がりには時間遅れがあるため、同じ圧縮比の設定状態においても、過給圧の掛かり具合に応じて、機関が出力する負荷荷重が異なるものとなる。特に過給圧が高圧となるほど、ノッキングなどの異常燃焼の発生頻度が高まるので、上記負荷荷重が高くなるほど、許容偏差領域Δtεを狭めて圧縮比を厳密に制御する必要がある。一方、過給が行われていない領域では、機関が出力する負荷荷重が低く、ノッキングを生じる可能性も低いので、圧縮比は比較的緩慢な制御でも構わない。このように、過給圧すなわち機関が出力する負荷荷重に応じて、適宜、許容偏差領域の大小を変更することで、ノッキング等の不具合を生じることなく、コントロールシャフトを大きく揺動する制御を行い、フレッチング発生頻度を低減させることができる。
【0058】
[8]イグニッションスイッチの投入直後の機関始動直後には、一般的に、実際の機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の実回転位置と、このコントロールシャフト23の回転位置を検出する制御軸センサ52の検出信号との相互関係を補正・学習するために、この制御軸センサ52のセンサ出力を用いた基準位置学習制御(イニシャライズ制御)が行われる。この基準位置学習制御中は、コントロールシャフト23の回転位置関係を厳密に学習・校正する必要があるため、上述したような許容偏差領域Δtεが存在すると、基準位置学習制御を良好に行うことができない。そこで、このような基準位置学習制御中は、許容偏差領域Δtεをゼロに設定し、揺動制御を禁止することで、基準位置学習制御を円滑に行うことができる。
【0059】
[9]上記リンク列が、クランクシャフト16のクランクピン17に回転可能に取り付けられるロアリンク21と、このロアリンク21とピストン14とを連係するアッパリンク22と、により構成され、上記コントロールリンク25は、一端がロアリンク21に連結され、他端が上記コントロールシャフト23に偏心して設けられた偏心軸部24に連結されている。
【0060】
このような構造によれば、機関圧縮比を連続的に変更可能なことに加えて、ピストンとクランクピンとを一本のコンロッドで連結した単リンク機構に比してピストンストローク特性そのものを好ましい特性、例えば、振動特性に優れた優れた単振動に近い特性に設定できる。また、ロアリンク21にコントロールリンク25を連結しているために、コントロールリンク25やコントロールシャフト23及びアクチュエータユニット30等を比較的スペースに余裕のあるクランクシャフト16の下方領域に配置することができ、機関搭載性に優れている。
【0061】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形・変更を含むものである。例えば、上記実施例ではコントロールシャフトの回転位置を機械的に保持する機構としてクラッチ43を用いているが、コギングブレーキ等の他の機構を用いても良い。
【0062】
また、揺動制御としては、上述したような制御目標値を許容偏差領域Δtεの最大値εMAXと最小値εMINとに交互かつステップ的に切換制御するものに限らず、制御目標値を許容偏差領域Δtε内で多段階又は連続的に変化させるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る内燃機関の可変圧縮比機構の一実施例を示す断面図。
【図2】上記可変圧縮比機構の最終減速機構を示す分解斜視図。
【図3】上記可変圧縮比機構のアクチュエータユニットを示す断面図。
【図4】保持器としてのクラッチを示す図5のZ−Z線に沿う断面図。
【図5】上記クラッチを示す図4のY−Y線に沿う断面図。
【図6】上記クラッチの作動説明図。
【図7】筒内圧によるコントロールシャフトに作用するトルクの形態を示す説明図。
【図8】目標圧縮比の制御マップの一例を示す説明図。
【図9】コントロールシャフトの角度と機関圧縮比との関係を示す説明図。
【図10】許容偏差領域の一例を示す説明図。
【図11】電動モータの効率・出力曲線の一例を示す特性図。
【図12】本実施例に係る制御の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0064】
12…シリンダ
14…ピストン
16…クランクシャフト
17…クランクピン
21…ロアリンク
22…アッパリンク
23…コントロールシャフト
24…偏心軸部
25…コントロールリンク
33…電動モータ(駆動部)
43…クラッチ(保持器)
51…制御部
52…制御軸センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントロールシャフトの回転位置に応じてピストン行程を変化させる内燃機関の可変圧縮比機構の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストン行程を変化させることによって機関圧縮比を可変とする可変圧縮比機構が特許文献1などに記載されている。この機構では、シリンダ内を往復動するピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連係する複数のリンクからなるリンク列と、モータ等の駆動部により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフトの偏心軸部と、をコントロールリンクにより連係し、コントロールシャフトの回転位置に応じてコントロールリンクによるロアリンクの運動拘束条件が変化することでピストン行程が変化するようになっている。駆動部からコントロールシャフトへの動力伝達経路には、筒内圧等に起因する荷重がリンク列を介して駆動部へ逆入力することを遮断するためのクラッチが介装されている。また、クラッチからコントロールシャフトへの動力伝達経路に減速機構が介装されている。上記のクラッチは、機関圧縮比に対応するコントロールシャフトの回転位置を機械的に保持する保持器として機能している。
【特許文献1】特開2007−239520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の保持器は、滑りを伴わない方式の場合、コントロールシャフトの回転位置を機械的に厳密に固定する。従って圧縮比一定での定常運転状態では、コントロールシャフトは回転せず、一定角度で機関側から筒内圧等の負荷を受け続ける。ここで、コントロールシャフトの主軸をシリンダブロック等の機関本体側に回転可能に支持する軸受部分では、コントロールシャフトの回転を機械的に固定していても、コントロールシャフト自身を含む周辺の構造物が僅かな弾性変形により軸受部分の表面において僅かに回転方向に動いてしまう微動状態が避けらない。このように軸受部分での微動が発生すると、この微動がフレッチング(表面傷)の発生を誘起し、コントロールシャフトのフレッチング磨耗を促進してしまう、という問題が生じる。このフレッチング磨耗は、一般的に時間と共に磨耗量が累積されていくため、耐久性を考慮した場合、避けなければならない不具合現象である。また、コントロールシャフトを同一位置に固定していると、荷重作用位置が同一箇所に集中し、局部的な摩耗を招き易い。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、このようなコントロールシャフトの微動によるフレッチング磨耗の発生・促進を低減・回避することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シリンダ内を往復動するピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連係する複数のリンクからなるリンク列と、駆動部により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフトと、このコントロールシャフトと上記リンク列とを連係するコントロールリンクと、を有し、上記コントロールシャフトの回転位置に応じてピストン行程が変化する内燃機関の可変圧縮比機構の制御に関する。そして、機関運転状態に応じて目標圧縮比を設定し、かつ、上記目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行うことによって、コントロールシャフトの軸受部分への潤滑油の介入が促進され、潤滑性能が向上することにより、コントロールシャフトの微動によるフレッチング磨耗の発生・促進を効果的に低減・回避することができる。また、コントロールシャフトを同一位置に機械的に固定する場合に比して、荷重作用位置が同一箇所に集中することがなく、局部的に摩耗が進行することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係る内燃機関の可変圧縮比機構を示しており、直列エンジンの気筒中心を通るクランクシャフト軸直角方向の断面図に相当する。
【0008】
シリンダブロック11には、各気筒毎に円筒状のシリンダ12が形成されると共に、各シリンダ12の周囲にウォータージャケット13が形成されている。各シリンダ12内にはピストン14が昇降可能に配設されており、各ピストン14のピストンピン15と、クランクシャフト16のクランクピン17とは、複数のリンクからなるリンク列、具体的にはアッパリンク22とロアリンク21とにより機械的に連係されている。尚、符号18はクランクシャフト16のカウンターウエイトである。具体的には、可変圧縮比機構は、クランクピン17に相対回転可能に取り付けられるロアリンク21と、このロアリンク21とピストンピン15とを連結するアッパリンク22と、クランクシャフト16と平行に気筒列方向へ延びるコントロールシャフト23と、このコントロールシャフト23に偏心して設けられた外周円形の偏心軸部24と、この偏心軸部24とロアリンク21とを連結するコントロールリンク25と、コントロールシャフト23を所定の制御範囲内で回転駆動する駆動部としての電動モータ(以下、『駆動部』とも呼ぶ)33を含むアクチュエータユニット30と、を備えている。
【0009】
ロッド状をなすアッパリンク22の上端部はピストン14のピストンピン15に相対回転可能に取付けられており、下端部は第1連結ピン26を介してロアリンク21に相対回転可能に連結されている。コントロールリンク25の一端はロアリンク21に第2連結ピン27を介して相対回転可能に連結されており、コントロールリンク25の他端は偏心軸部24の円筒面をなす外周に相対回転可能に取り付けられている。コントロールシャフト23は、図2にも示すように、シリンダブロック11の下部に回転可能に支持される複数の主軸29を有している。主軸29の回転中心Qに対して偏心軸部24の回転中心Pは所定量偏心している。
【0010】
機関運転状態に応じてアクチュエータユニット30によりコントロールシャフト23を回動することにより、偏心軸部24に外嵌するコントロールリンク25の揺動支点の位置が変化し、ロアリンク21及びアッパリンク22の姿勢が変化して、ピストン14の上方に画成される燃焼室の圧縮比が可変制御される。このような可変圧縮比機構は、機関圧縮比を連続的に変更可能なことに加えて、ピストンとクランクピンとを一本のコンロッドで連結した単リンク機構に比してピストンストローク特性そのものを好ましい特性(例えば、単振動に近い特性)に設定できる。また、ロアリンク21にコントロールリンク25を連結しているために、コントロールリンク25やコントロールシャフト23及びアクチュエータユニット30を比較的スペースに余裕のあるクランクシャフト16の下側の領域に配置することができ、上記の特開2005−30234号公報に記載されているようなものに比して、機関搭載性に優れている。
【0011】
図3は、アクチュエータユニット30を単体で示す断面図である。このアクチュエータユニット30は、シリンダブロック11の下側に固定され、ボルト42Aやピン42等により互いに固定される複数の部品40A〜40Cからなるケーシング40を主体としている。このケーシング40には、上記のモータ33が取り付けられるとともに、コントロールシャフト23に係合するアクチュエータシャフト32が軸方向に往復動・摺動可能に支持されており、後述するように、このアクチュエータシャフト32を介してモータ33の駆動トルクがコントロールシャフト23へ伝達されるようになっている。なお、図示していないが、シリンダブロック11及びケーシング40の下方には潤滑油を貯留するオイルパンが取付けられており、このオイルパンの上方に潤滑部品としてのクランクシャフト16等が配設されるクランク室19が形成されている。そして、ケーシング40はシリンダブロック11の側壁とともにクランク室19を液密に画成するクランク室19の外壁として機能しており、このケーシング40によって、アクチュエータシャフト32が、その先端をクランク室19内に臨ませた姿勢で摺動可能に保持されているとともに、モータ33がシリンダブロック11の外側に保持されている。
【0012】
そして、アクチュエータユニット30には、モータ33からコントロールシャフト23への動力伝達経路に、コントロールシャフト23側から駆動部33側への逆入力を遮断するクラッチ(以下、『保持器』とも呼ぶ)43が介装されている。このクラッチ43は、機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持する保持器として機能する。そして、モータ33からクラッチ43への動力伝達経路に、第1減速機構44が介装されているとともに、クラッチ43からコントロールシャフト23への動力伝達経路に、第2減速機構45及び最終減速機構46が介装されている。
【0013】
第1減速機構44は、モータ33の出力軸(ピニオン軸)33Aに固定される第1入力側ギヤ44Aとクラッチ43の入力軸2に固定され、上記の第1入力側ギヤ44Aと噛み合う第1出力側ギヤ44Bと、により構成される減速ギヤ列である。第2減速機構45は、クラッチ43の出力軸3に固定される第2入力側ギヤ45Aと、最終歯車36の外周に設けられ、第2入力側ギヤ45Aと噛み合う第2出力側ギヤ45Bと、により構成される減速ギヤ列である。これのギヤは、圧入や平行キー等を用いて固定される。
【0014】
最終減速機構46は、最終歯車36の回転運動をアクチュエータシャフト32の往復運動に変換する送りねじ機構47と、アクチュエータシャフト32の往復運動をコントロールシャフト23の回転運動に変換するスライダクランク機構48と、を有している。図2にも示すように、送りねじ機構47は、アクチュエータシャフト32のモータ側の端部に形成される雄ねじ35と、最終歯車36の内周面に形成され、上記の雄ねじ35に噛み合う雌ねじ37と、を有し、最終歯車36の回転運動をアクチュエータシャフト32の往復運動に変換して伝達する。スライダクランク機構48は、ピン39を介してアクチュエータシャフト32の往復動をコントロールシャフト23の回転運動に変換して伝達する。上記のピン39には、円筒形状をなすアクチュエータシャフト32の一端(先端)に回転可能に嵌合する大径部39Aの両側に小径部39Bが設けられている。この小径部39Bが、コントロールシャフト23の一端に設けられる一対の制御プレート41Aに形成された径方向に延びるスリット41に摺動可能に嵌合している。従って、アクチュエータシャフト32が往復動すると、ピン39のスリット41内での摺動動作を伴いながら、制御プレート41Aを介してコントロールシャフト23が所定の方向に回転する。
【0015】
クラッチ43は、特開2003−343601号公報にも開示されているように公知であり、簡単に説明すると、ケーシング40Bに固定される静止側部材としての固定外輪1に対し、モータ側の入力軸2とコントロールシャフト23側の出力軸3とを、転がり軸受4A〜4Dを介して正逆回転自在に支承した構造となっている。入力軸2とモータ33の出力軸33Aとは上記の第1減速機構44を介して接続されており、出力軸3と最終歯車36とは上記の第2減速機構45を介して接続されている。固定外輪1は、ケーシング40に圧入ないしは平行キー等を用いて安定的に固定される。
【0016】
図4及び図5にも示すように、入力軸2には、軸中心から径方向外側へずれた位置に軸方向に沿う貫通孔6が穿設され、出力軸3には、入力軸2と対向する端面に径方向に沿う凹溝7が形成されている。入力軸2の貫通孔6にピン8を挿入し、そのピン8の先端を出力軸3と対向する端面から突出させて、出力軸3の端面に形成された凹溝7に嵌入させることにより、入力軸2からの回転トルクを出力軸3に伝達可能としている。入力軸2の出力軸側端部には径方向外側へ拡径したフランジ部2aが一体的に形成され、そのフランジ部2aの外周から軸方向の出力軸側へ連続して延びる保持器としての複数の柱部2bが円周方向等間隔に形成されている。この円周方向に隣接する柱部2b間の空間は、軸方向の一方に向かって開口した形態のポケット9を構成し、各ポケット9に一対のローラ10a,10bがそれぞれ配される。出力軸3の入力軸側外周には、前述した入力軸2の柱部2b間に位置するポケット9と対応させて複数対のカム面(楔面)9a,9bが円周方向等間隔に形成されている。この出力軸3のカム面9a,9bと固定外輪1の内周面との間に、複数対のローラ10a,10bがそれぞれ配され、入力軸2の柱部2b間に形成されたポケット9に収容される。一対のローラ10a,10b間にはばね等の弾性部材5が介挿され、その弾性部材5が一対のローラ10a,10bを互いに離れる方向に弾性的に押圧する。各弾性部材5は、入力軸2、出力軸3および固定外輪1とは独立して一対のローラ10a,10b間に挿入配置されている。
【0017】
この逆入力遮断クラッチ43では、図6(A)に拡大して示す中立状態で、出力軸3に時計方向の逆入力トルクが入力されると、弾性部材5の弾性力により反時計方向(回転方向後方)のローラ10aがその方向の楔隙間と係合して、出力軸3が固定外輪1に対して時計方向にロックされる。逆に、出力軸3に反時計方向の逆入力トルクが入力されると、弾性部材5の弾性力により時計方向(回転方向後方)のローラ10bがその方向の楔隙間と係合して、出力軸3が固定外輪1に対して反時計方向にロックされる。従って、出力軸3からの逆入力トルクは、一対のローラ10a,10bによって正逆両回転方向にロックされる。
【0018】
一方、入力軸2に回転トルクが入力されて例えば時計方向に回動すると、図6(B)に拡大して示すように、まず、入力軸2の反時計方向(回転方向後方)の柱部2bがその方向(回転方向後方)のローラ10aと係合して、これを弾性部材5の弾性力に抗して時計方向(回転方向前方)に押圧する。これにより、反時計方向(回転方向後方)のローラ10aがその方向の楔隙間から離脱して、出力軸3のロック状態が解除されてその出力軸3が時計方向に回動可能となる。入力軸2がさらに時計方向へ回動すると、図6(C)に示すように、入力軸2のピン8が出力軸3の凹溝7の壁面に当接することにより、入力軸2からの時計方向の回転トルクがピン8と凹溝7との係合部分を介して出力軸3に伝達され、出力軸3が時計方向に回動する。この時、時計方向(回転方向前方)のローラ10bは、その方向の楔隙間と係合せず、出力軸3のカム面と固定外輪1の内周面に接触した状態で空転する。入力軸2に反時計方向の回転トルクが入力された場合は、前述とは逆の動作で出力軸3が反時計方向に回動する。従って、入力軸2からの正逆両回転方向の回転トルクは、ピン8と凹溝7との係合部分を介して出力軸3に伝達され、出力軸3が正逆両回転方向に回動する。
【0019】
ここで、ロック解除の際には、前述のようにローラを楔隙間より離脱させる必要があるが、この動作の際、出力軸が過度に滑らかに回転可能であると、ローラが楔隙間より離脱することなく出力軸と共回りしてしまい、ロック解除に至らないおそれがある。このため、ロック解除動作を円滑に行うために、出力軸3に対して所定量の回転方向の抵抗(摩擦力など)を付加する。図7の例では、オイルシール49を出力軸3側に配設し、回転方向の抵抗を付加する構成としている。このオイルシール49は、基本的には出力軸3に固定される第2減速機構45の第2入力側ギヤ45Aの外周とケーシング40との間に介装され、この部分をシールするものであって、このオイルシール49を利用した簡素な構成で上記の回転方向の抵抗付加を実現している。
【0020】
このように第1減速機構44、第2減速機構45、及び最終減速機構46によってモータ33の出力軸33Aの回転を十分に減速してコントロールシャフト23へ伝達するようになっているため、コントロールシャフト側からモータ33へ作用する逆入力トルクを大幅に抑制して、モータ33の小型化・低出力化を図ることができるとともに、クラッチ43によりコントロールシャフト23側からモータ33側への逆入力を遮断することができる。そして本実施例では、クラッチ43とコントロールシャフト23との間に第2減速機構45と最終減速機構46とを介装しているために、コントロールシャフト23側からクラッチ43側への逆入力を抑制することができる。従って、クラッチ43の遮断能力・信頼性・耐久性を確保しつつ、クラッチ43を小型化して、機関搭載性を向上することができる。
【0021】
また、送りねじ機構47による螺進作用によって、コントロールシャフト23からの逆入力によりアクチュエータシャフト32が不用意に回転することを更に確実に阻止することができる。
【0022】
上記のクラッチ43及び減速機構44〜46は、クランク室19内に突出するアクチュエータシャフト32の先端部を除き、ケーシング40内に収容配置されている。そして、アクチュエータシャフト32の外周には、ケーシング40Aの円筒状をなす内周との隙間をシールするシール部材50が取付けられている。このシール部材として、例えば図示するようなOリングの他、オイルシールやリップシール、さらにはラビリンスパッキンなど様々なものを用いることができる。このようなシール部材50、更には上記のオイルシール49によって、クラッチ43及び減速機構44〜46が配設されるケーシング40の内部空間が、クランク室19内から液密に隔てられている。従って、クラッチ43及び減速機構44〜46が配設されるケーシング40の内部空間を、クランク室19内に飛散するエンジンオイル(潤滑油)とは別に、グリース等の専用の潤滑剤を用いて潤滑することができ、クランクシャフト等と同様にエンジンオイルで潤滑する場合に比して、クラッチ43及び減速機構44〜46の潤滑性能を大幅に改善することができる。従って、クラッチ43の荷重遮断能力を確保してモータ33側への負担を最小限に抑えつつ、更なるクラッチ43の小型化を図ることができる。
【0023】
制御部51は、各種センサ類により検出される機関回転数や機関負荷等に基づいて、燃料噴射制御や点火時期制御等の各種機関制御処理を記憶及び実行する機能を有するものであり、機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の回転位置を検出する制御軸センサ52の検出信号に基づいて、駆動部としての電動モータ33へ制御信号を出力し、後述するような機関圧縮比つまりコントロールシャフト23の回転位置の制御を行う。
【0024】
次に、本実施例の特徴である機関圧縮比の制御について説明する。図7は、燃焼荷重等の筒内圧によるコントロールシャフトトルクの発生要因を示す説明図であり、図7(A)は可変圧縮比機構のスケルトン図を示している。ピストン14の冠面に作用するシリンダ軸線下方向の燃焼荷重F0は、アッパリンク22を介してロアリンク21に、クランクピン17周りのトルクF1として作用する。このトルクF1の回転方向は、クランクピン17に対する第2連結ピン26の位置により定まり、図の例では反時計周り方向となる。ロアリンク21はアッパリンク22と連結していない側の端部でコントロールリンク25と連結しており、前述のロアリンク21に作用するトルクF1は、このコントロールリンク25の軸線方向に沿う斜め上方の荷重F2として作用する。ここで、コントロールリンク25のロアリンク21と連結していない側の端部は、コントロールシャフト23の偏心軸部24に揺動自在に軸支されており、この偏心軸部24は、コントロールシャフト23の主軸29に対して所定量偏心している。
【0025】
図7(B)に、機関圧縮比に応じた偏心軸部24の位置関係を示す。図示のように、各圧縮比における偏心軸部24には、筒内圧による荷重に起因する力F2が機関の斜め上方に作用するため、最高圧縮比から最低圧縮比に変更する方向で、筒内圧がコントロールシャフトトルクF3として作用する。なお、このコントロールシャフトトルクF3は図7(B)に示す方向のみならず、例えばシリンダ上方への運動部品の慣性力に起因する力が支配的な場合、反対方向(反時計回り方向)のトルクとしても作用する。このようにコントロールシャフト23には機関側から回転方向のトルクF3を受けるために、目標圧縮比tεを一定に維持するような定常運転状態では、このトルクF3に抗してコントロールシャフト23を所定位置に保持する必要がある。
【0026】
図8は、可変圧縮比機構の目標圧縮比tεの設定に用いられる圧縮比制御マップの一例を示している。同図に示すように、目標圧縮比tεは、機関回転数と機関負荷(負荷トルク)に応じて設定され、基本的に、低回転低負荷側では燃費向上を図るために高圧縮比とされ、高回転高負荷側ではノッキングを生じることのないように低圧縮比とされる。図中左下の領域が通常の街乗り運転などで主に使用される運転領域となる。このような低〜中速回転、かつ低〜中負荷の領域では、高圧縮比に設定される。このような高圧縮比の設定では、コントロールシャフト23の回転角度に対して機関圧縮比の変化の感度が高いことから、高圧縮比の設定が維持される定常運転状態では、後述するように保持器43により機関圧縮比を機械的に固定する。
【0027】
一方、高回転・高負荷側の領域では最低圧縮比に設定される。そして、この最低圧縮比の設定が維持される定常運転状態では、後述するように、目標圧縮比tεを含む所定の許容偏差領域Δtεを設定し、この許容偏差領域Δtε内でコントロールシャフト23を回転方向に揺動させる揺動制御を行う。従って、最低圧縮比付近の制御は、保持器43を用いた機械的なコントロールシャフト23の固定は行わず、モータ33の正転・逆転の繰返し動作によって、機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の回転位置を許容偏差領域Δtε内で周期的に変動させつつ、この許容偏差領域Δtε内にコントロールシャフト23の回転位置を保持する形態とする。
【0028】
図9は、コントロールシャフト23の回転角度と機関圧縮比との関係を示している。複リンク式可変圧縮比機構の特徴として、コントロールシャフト23の回転角度の変化に対して、機関圧縮比の変化は非線形特性を呈する。具体的には、高圧縮比側ほどピストン上死点位置の変化に対する圧縮比の変化割合の感度が高くなることから、低圧縮比側ほどコントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比の変化割合が減少する特性を有している。これはすなわち、最低圧縮比の近傍では、コントロールシャフト23の回転角度に対して圧縮比変化が非常に鈍感な領域であり、コントロールシャフト23の回転角度の制御が高圧縮比側に比して曖昧でも機関出力等の運転性能に影響が少ないことを意味している。従って、上述したように低圧縮比側で揺動制御を行っても、機関出力等の運転性能への跳ね返りが小さく、搭乗者に違和感を与えることはない。
【0029】
図10は、許容偏差領域Δtεの設定と機関運転条件の関係について、許容偏差領域Δtεの幅の大小関係とともに示している。上述したように、機関圧縮比が低くなるほどコントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比変化が鈍感となることから、機関運転性能へ影響を与えることがない範囲で、機関圧縮比が低くなるほど許容偏差領域Δtεの幅を大きく設定している。言い換えると、高回転高負荷側ほど許容偏差領域Δtεの幅を大きくしている。
【0030】
一方、最高圧縮比及びその近傍の設定状態では、許容偏差領域Δtεが十分に小さいものとなり、許容偏差領域Δtε内での揺動動作が困難であるため、揺動動作を行わず、保持器43により機関圧縮比εに対応するコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持する。ここで、最高圧縮比及びその近傍の設定状態が用いられる運転領域は、モード運転に代表される低回転・低負荷側の運転領域であり、コントロールシャフト23の偏心軸部24に作用するトルクF3(図7参照)も比較的低いことから、保持器43の小型化を図れることに加え、保持器43によりコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持しても、フレッチング発生の可能性は低い。
【0031】
図11は、駆動部としての一般的な電動モータ33における効率及び出力に対する電流の関係曲線例を示す。一般的に、電動モータ33は電流を印加し、出力軸33Aを回転させて出力を取り出す。印加電流の大きさによって、使用されるモータ回転数や出力・効率を調整・選択することができる。上述したような可変圧縮比機構において、仮に保持器43を用いることなくモータ33によりコントロールシャフト23の回転位置を一箇所に固定しようとすると、コントロールシャフト23の回転数は0(ゼロ)又はその近傍となるため、駆動源である電動モータ33の出力軸33Aの回転数もゼロ又はその近傍となる。図11中に示すストール点が、この回転数ゼロの状態に相当し、このストール点では効率もゼロとなってしまう。効率ゼロとは、印加した電流が出力として反映されず、全て自己発熱として消費されてしまう状態であり、モータの使用方法としては非常に望ましくない。
【0032】
これに対して本実施例では、特にコントロールシャフト23の回転角度が圧縮比の変化代に鈍感な低圧縮比側において、圧縮比の保持を保持器43を用いることなくモータ33のみで行う際に、あえてモータ33の出力軸33Aを停止させずに所定の許容偏差領域Δtε内で繰返し回動つまり揺動させることで、前述のストール点付近よりも相対的に効率の高い領域でモータ33を使用することができるために、モータ33による保持能力が向上し、低圧縮比におけるモータ33のみによる圧縮比保持を良好に実現することができる。
【0033】
図12は、このような本実施例の制御の流れを示すフローチャートである。
【0034】
ステップS1では、後述する制御軸センサ52のセンサ出力の基準位置学習制御の実行中であるかを判定する。センサ基準位置学習制御中であれば、本ルーチンを終了する。
【0035】
ステップS2では、目標圧縮比tεが一定の定常運転状態であるか、あるいは加速時や減速時等の目標圧縮比tεが変化する過渡運転状態であるかを判定する。この判定は、例えば駆動部33の出力軸33Aの回転速度に基づいて判定され、あるいは目標圧縮比Δtεの変化に応じて判定される。目標圧縮比Δtεが変化する過渡運転状態であれば、後述する揺動制御や保持器43による保持を行うことなく、本ルーチンを終了する。この場合、目標圧縮比tεへ向けた通常の圧縮比制御が行われることとなる。定常運転状態と判定された場合、ステップS3へ進む。
【0036】
ステップS3では、目標圧縮比tεを読み込む。この目標圧縮比tεは、例えば機関回転数及び機関負荷に基づいて図8に示す制御マップを参照して設定され、図8に示すように低回転低負荷側では燃費向上を図るために高圧縮比とされ、高回転高負荷側ではノッキングを生じることのないように低圧縮比とされる。
【0037】
ステップS4では、揺動制御を行うか否かを判定する。例えば、図10に示すように機関回転数や機関負荷が所定の判定値αよりも大きい高回転・高負荷側であれば、揺動制御の実行領域であると判定する。あるいは、目標圧縮比tεが所定の判定値よりも小さい低圧縮比側であれば、揺動制御を行う領域であると判定しても良い。
【0038】
揺動制御を行う領域ではないと判定された場合、ステップS4からステップS5へ進み、保持器43によりコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持する。なお、制御軸センサ52により検出される実圧縮比と目標圧縮比tεとの偏差が大きい場合には、実圧縮比を目標圧縮比tεに十分に近づけてから、保持器43による保持を行う。この保持器43による保持を行う場合には、電動モータ33への電圧印加を停止して、消費エネルギーの低減化を図る。
【0039】
揺動制御を行う領域と判定された場合、ステップS6へ進み、揺動制御における許容偏差領域Δtεを設定する(許容偏差領域設定手段)。つまり、揺動制御における制御目標値の最大値εMAXと最小値εMINとを設定する。例えば図10に示すように、目標圧縮比tεに対する高圧縮側の幅Δεuと低圧縮比側の幅Δεdとを同一に設定することによって、目標圧縮比tεに対する実際の機関圧縮比のずれ・偏差を抑制することができる。あるいは、ノッキングに対する圧縮比の余裕度が小さいような場合には、目標圧縮比tεに対する低圧縮比側の幅Δεdを相対的に大きくし、高圧縮比側の幅Δεuを相対的に小さくするか又はゼロにしても良い。
【0040】
また、上述したように目標圧縮比tεの大きさに応じて許容される偏差幅の大きさも変化するため、目標圧縮比tεに応じて許容偏差領域Δtεの幅自体も調整する。具体的には図10に示すように、目標圧縮比tεが低くなるほど、圧縮比変化に対するコントロールシャフト23の感度も鈍くなることから、許容偏差領域Δtεの幅を大きくする。
【0041】
続くステップS7では、後述するように各気筒の最大燃焼荷重が同一箇所に集中することのないように、揺動制御における目標圧縮比tεの最大値εMAXと最小値εMINとの切換周期を設定する。
【0042】
そして、ステップS8では、揺動制御を実行する。つまり、ステップS7で設定された切換周期で、駆動部33へ出力される制御目標値を、ステップS6で設定された許容偏差領域Δtεの最大値εMAXと最小値εMINとに交互に切り換える。このように制御目標値を最大値εMAXと最小値εMINとに交互かつステップ的に切換制御することで、実際のコントロールシャフト23は応答遅れを伴って許容偏差領域Δtε内を回転方向に揺動することとなる。
【0043】
次に、本発明の特徴的な構成及びその作用効果について、上記実施例を参照して以下に列記する。
【0044】
[1]シリンダ12内を往復動するピストン14とクランクシャフト16のクランクピン17とを連係する複数のリンク21,22からなるリンク列と、駆動部33により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフト23と、このコントロールシャフト23と上記リンク列とを連係するコントロールリンク25と、を有し、上記コントロールシャフト23の回転位置に応じてピストン行程が変化する内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置において、機関運転状態に応じて目標圧縮比tεを設定する目標圧縮比設定手段と、上記目標圧縮比tεを含む所定の許容偏差領域Δtε内で、コントロールシャフト23を回転方向に揺動させる揺動制御を行う揺動制御手段と、を有している。
【0045】
このように、目標圧縮比tεを含む所定の許容偏差領域Δtεで上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行うことによって、コントロールシャフト23の回転を一箇所に固定する場合と比較して、コントロールシャフト23を支持する軸受部分の表面に潤滑油が介入し易くなり、上述したフレッチング磨耗の発生頻度を低下させることができ、信頼性・耐久性を向上することができる。
【0046】
また、コントロールシャフト23を許容偏差領域Δtεで揺動させることによって、上記軸受部分への荷重作用位置が同一箇所に集中することがなく、局所的な摩耗の進行を抑制することができるとともに、ストール点付近よりも相対的に効率の高い領域を使用することができるために(図11参照)、駆動部としての電動モータ33による保持能力が向上し、ひいては駆動源である電動モータ33の小型化を図ることができる。
【0047】
[2]上記揺動制御では、上記許容偏差領域Δtεの最大値tεMAXと最小値tεMINとを交互に制御目標値として設定する。これにより、制御目標値を最大値tεMAXと最小値tεMINとに交互かつステップ的に切り換えるという簡素な制御でありながら、許容偏差領域Δtεの幅を最大限に利用して積極的にコントロールシャフト23の正転・逆転の作動を行うことができ、上述したような軸受部分への潤滑油の介入を促進して潤滑性能を向上することができる。
【0048】
[3]図7にも示すように、コントロールシャフト23の主軸29の軸受部分には、機関の筒内圧や運動部品の慣性力に起因する荷重F3が作用する。これらの荷重のうち、圧縮上死点近傍における筒内圧による最大燃焼荷重F0は、最も荷重が大きく、コントロールリンク25を介してコントロールシャフト23に曲げ荷重F3として作用する。従って、複数の気筒の面圧最大点が主軸29の軸受部分の同一箇所に集中すると、その部分での局所的な摩耗や焼きつきの進行を招くおそれがある。
【0049】
そこで、このように複数の気筒の最大燃焼荷重が同一箇所に集中することのないように、揺動制御における振動周期、つまり制御目標値の最大値tεMAXと最小値tεMINとの切換周期が設定されている。具体的には、切換周期を、複数の気筒の点火間隔と一致することのないように設定している。別言すると、揺動制御の揺動角速度を、コントロールシャフト23の主軸29の軸受部分の面圧最大点が気筒の点火順序の少なくとも連続する2回の燃焼時期に対して重複することがない角速度以上に設定されている。これによって、軸受部分における同一箇所に連続的に最大面圧が作用することがなく、前述の不具合を解消し、信頼性・耐久性を向上することができる。
【0050】
[4]上述したようなピストン14の冠面高さ位置つまり上死点位置を変えることで機関圧縮比を変更する複リンク式の可変圧縮比機構においては、ピストン上死点位置の変化に対する圧縮比の変化の感度が高圧縮比側ほど高く低圧縮比側ほど低いこと、また、低圧縮比側では高圧縮比側に比してコントロールシャフト23の単位角度当たりのピストン冠面高さの変化代が小さいことから、図9にも示すように、最低圧縮比近傍においては、最高圧縮比近傍に比して、コントロールシャフトの回転角度に対する圧縮比の変化代が非常に小さくなる。
【0051】
ここで、上述したように目標圧縮比tεの前後に許容偏差領域Δtεを設定することは、ミクロ的に言えば圧縮比を繰返し変更させる作動を行うことと同義である。特にコントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比の変化感度が高い最高圧縮比付近において、前述のような許容偏差領域Δtεを設定してコントロールシャフト23の揺動制御を行うと、実際の機関圧縮比の変動が相対的に大きくなって、機関出力の変動が大きくなり、運転性を阻害するおそれがある。
【0052】
そこで、コントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比変化感度が高い最高圧縮比付近では、上記の揺動制御を禁止し、コントロールシャフト23の回転角度に対する圧縮比変化感度が低い最低圧縮比付近に目標圧縮比が維持される定常運転状態のときにのみ、許容偏差領域Δtεを設けた揺動制御を行う。この最低圧縮比付近では、コントロールシャフト23の回転に対する圧縮比の変化の感度が低いことから、上記揺動制御を行っても機関出力への影響は少なく、機関運転性を阻害することはない。
【0053】
[5]一方、最高圧縮比付近においては、コントロールシャフト23の回転に対する圧縮比の変化の感度が非常に高いことから、仮にコントロールシャフト23の揺動制御を行うと、による機関圧縮比つまり機関出力の変動が大きく、機関性能に悪影響を与えることとなる。そこで、目標圧縮比が最高圧縮比付近に維持される定常運転状態では、揺動制御を行わず、保持器43によりコントロールシャフト23の回転位置を機械的に保持することで、安定した圧縮比保持を行うことができる。
【0054】
また、最高圧縮比付近の運転領域は、高負荷領域ではなく、モード領域に代表される低〜中速,低〜中負荷までの運転領域であり、機関の筒内圧や運動部品の慣性力に起因する機関側からコントロールシャフト23に作用するトルクF3自体が低い運転状態である。従って、保持器43による保持を行う運転領域を最高圧縮比近傍のみに限定することで、保持器43による保持を全運転領域で行う場合と比較して、より低負荷側のみに対応する保持器43とすれば良く、保持器43の小型化・低コスト化を図ることができる。
【0055】
[6]図10に示すように、目標圧縮比tεの大きさに応じて許容される偏差幅の大きさも変化するため、好ましくは、機関運転状態に応じて許容偏差領域Δtεの幅を調整する。
【0056】
[7]より具体的には、目標圧縮比tεが低いほど許容偏差領域Δtεの幅を大きくする。これによって、圧縮比の変動に伴う機関出力の変動による運転性の低下を招くことなく、低圧縮比側では許容偏差領域Δtεの幅を大きくしてコントロールシャフト23を大きく揺動することができ、フレッチング発生頻度を更に低減させることができる。
【0057】
なお、過給機付きの内燃機関の場合、最低圧縮比付近で過給圧を制御する。但し過給圧の立ち上がりには時間遅れがあるため、同じ圧縮比の設定状態においても、過給圧の掛かり具合に応じて、機関が出力する負荷荷重が異なるものとなる。特に過給圧が高圧となるほど、ノッキングなどの異常燃焼の発生頻度が高まるので、上記負荷荷重が高くなるほど、許容偏差領域Δtεを狭めて圧縮比を厳密に制御する必要がある。一方、過給が行われていない領域では、機関が出力する負荷荷重が低く、ノッキングを生じる可能性も低いので、圧縮比は比較的緩慢な制御でも構わない。このように、過給圧すなわち機関が出力する負荷荷重に応じて、適宜、許容偏差領域の大小を変更することで、ノッキング等の不具合を生じることなく、コントロールシャフトを大きく揺動する制御を行い、フレッチング発生頻度を低減させることができる。
【0058】
[8]イグニッションスイッチの投入直後の機関始動直後には、一般的に、実際の機関圧縮比に対応するコントロールシャフト23の実回転位置と、このコントロールシャフト23の回転位置を検出する制御軸センサ52の検出信号との相互関係を補正・学習するために、この制御軸センサ52のセンサ出力を用いた基準位置学習制御(イニシャライズ制御)が行われる。この基準位置学習制御中は、コントロールシャフト23の回転位置関係を厳密に学習・校正する必要があるため、上述したような許容偏差領域Δtεが存在すると、基準位置学習制御を良好に行うことができない。そこで、このような基準位置学習制御中は、許容偏差領域Δtεをゼロに設定し、揺動制御を禁止することで、基準位置学習制御を円滑に行うことができる。
【0059】
[9]上記リンク列が、クランクシャフト16のクランクピン17に回転可能に取り付けられるロアリンク21と、このロアリンク21とピストン14とを連係するアッパリンク22と、により構成され、上記コントロールリンク25は、一端がロアリンク21に連結され、他端が上記コントロールシャフト23に偏心して設けられた偏心軸部24に連結されている。
【0060】
このような構造によれば、機関圧縮比を連続的に変更可能なことに加えて、ピストンとクランクピンとを一本のコンロッドで連結した単リンク機構に比してピストンストローク特性そのものを好ましい特性、例えば、振動特性に優れた優れた単振動に近い特性に設定できる。また、ロアリンク21にコントロールリンク25を連結しているために、コントロールリンク25やコントロールシャフト23及びアクチュエータユニット30等を比較的スペースに余裕のあるクランクシャフト16の下方領域に配置することができ、機関搭載性に優れている。
【0061】
以上のように本発明を具体的な実施例に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形・変更を含むものである。例えば、上記実施例ではコントロールシャフトの回転位置を機械的に保持する機構としてクラッチ43を用いているが、コギングブレーキ等の他の機構を用いても良い。
【0062】
また、揺動制御としては、上述したような制御目標値を許容偏差領域Δtεの最大値εMAXと最小値εMINとに交互かつステップ的に切換制御するものに限らず、制御目標値を許容偏差領域Δtε内で多段階又は連続的に変化させるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る内燃機関の可変圧縮比機構の一実施例を示す断面図。
【図2】上記可変圧縮比機構の最終減速機構を示す分解斜視図。
【図3】上記可変圧縮比機構のアクチュエータユニットを示す断面図。
【図4】保持器としてのクラッチを示す図5のZ−Z線に沿う断面図。
【図5】上記クラッチを示す図4のY−Y線に沿う断面図。
【図6】上記クラッチの作動説明図。
【図7】筒内圧によるコントロールシャフトに作用するトルクの形態を示す説明図。
【図8】目標圧縮比の制御マップの一例を示す説明図。
【図9】コントロールシャフトの角度と機関圧縮比との関係を示す説明図。
【図10】許容偏差領域の一例を示す説明図。
【図11】電動モータの効率・出力曲線の一例を示す特性図。
【図12】本実施例に係る制御の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0064】
12…シリンダ
14…ピストン
16…クランクシャフト
17…クランクピン
21…ロアリンク
22…アッパリンク
23…コントロールシャフト
24…偏心軸部
25…コントロールリンク
33…電動モータ(駆動部)
43…クラッチ(保持器)
51…制御部
52…制御軸センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連係する複数のリンクからなるリンク列と、駆動部により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフトと、このコントロールシャフトと上記リンク列とを連係するコントロールリンクと、を有し、上記コントロールシャフトの回転位置に応じてピストン行程が変化する内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置において、
機関運転状態に応じて目標圧縮比を設定する目標圧縮比設定手段と、
上記目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行う揺動制御手段と、
を有することを特徴とする内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項2】
上記揺動制御手段は、上記許容偏差領域の最大値と最小値とを交互に制御目標値として設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項3】
上記制御目標値の切換周期が、複数の気筒の点火間隔と一致することのないように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項4】
上記目標圧縮比が最低圧縮比付近に維持される定常運転状態のときに、上記揺動制御手段による揺動制御が実行されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項5】
上記揺動制御手段による揺動制御が行われていない運転領域において、上記コントロールシャフトの回転位置を機械的に保持する保持器を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項6】
機関運転状態に応じて上記許容偏差領域の幅を調整する許容偏差領域設定手段を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項7】
上記許容偏差領域設定手段は、上記目標圧縮比が低いほど許容偏差領域の幅を大きくすることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項8】
上記コントロールシャフトの回転位置を検出する制御軸センサを備え、
上記制御軸センサのセンサ出力の基準位置学習制御の実行中には、上記許容偏差領域の偏差量をゼロとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項9】
上記リンク列が、クランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられるロアリンクと、このロアリンクとピストンとを連係するアッパリンクと、により構成され、
上記コントロールリンクは、一端がロアリンクに連結され、他端が上記コントロールシャフトに偏心して設けられた偏心軸部に連結されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項1】
シリンダ内を往復動するピストンとクランクシャフトのクランクピンとを連係する複数のリンクからなるリンク列と、駆動部により回転位置が変更・保持されるコントロールシャフトと、このコントロールシャフトと上記リンク列とを連係するコントロールリンクと、を有し、上記コントロールシャフトの回転位置に応じてピストン行程が変化する内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置において、
機関運転状態に応じて目標圧縮比を設定する目標圧縮比設定手段と、
上記目標圧縮比を含む所定の許容偏差領域内で、上記コントロールシャフトを回転方向に揺動させる揺動制御を行う揺動制御手段と、
を有することを特徴とする内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項2】
上記揺動制御手段は、上記許容偏差領域の最大値と最小値とを交互に制御目標値として設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項3】
上記制御目標値の切換周期が、複数の気筒の点火間隔と一致することのないように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項4】
上記目標圧縮比が最低圧縮比付近に維持される定常運転状態のときに、上記揺動制御手段による揺動制御が実行されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項5】
上記揺動制御手段による揺動制御が行われていない運転領域において、上記コントロールシャフトの回転位置を機械的に保持する保持器を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項6】
機関運転状態に応じて上記許容偏差領域の幅を調整する許容偏差領域設定手段を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項7】
上記許容偏差領域設定手段は、上記目標圧縮比が低いほど許容偏差領域の幅を大きくすることを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項8】
上記コントロールシャフトの回転位置を検出する制御軸センサを備え、
上記制御軸センサのセンサ出力の基準位置学習制御の実行中には、上記許容偏差領域の偏差量をゼロとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項9】
上記リンク列が、クランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられるロアリンクと、このロアリンクとピストンとを連係するアッパリンクと、により構成され、
上記コントロールリンクは、一端がロアリンクに連結され、他端が上記コントロールシャフトに偏心して設けられた偏心軸部に連結されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−36467(P2013−36467A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−203863(P2012−203863)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2008−286041(P2008−286041)の分割
【原出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2008−286041(P2008−286041)の分割
【原出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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