説明

内燃機関の吸入空気量算出装置、内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の始動時に、吸入空気量を早期にかつ精度良く求めることのできる内燃機関の吸入空気量算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】筒内圧センサの出力に基づいて、各気筒の筒内圧が検出される。その後、クランキングの開始から、クランク角が360°CA回転するまでの期間中における、各気筒の筒内圧のピーク値が算出される。複数の気筒間でピーク値が比較され、最も高いピーク値を示す気筒とそのタイミングが検出される。最大のピーク値を示す気筒(図1では#3気筒)の次にTDCを迎える気筒(図1では#4気筒)の、筒内圧ピーク値(図1ではPmax(#4))が検出される。ここで求めた#4気筒の筒内圧を吸入空気量算出に用いることにより、サージタンク圧の影響が無いことに起因して生ずる#3気筒の高い筒内圧を、除外することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の吸入空気量算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2004−116304号公報に開示されているように、エアフローメータの出力値を用いた吸入空気量算出装置が知られている。上記従来の吸入空気量算出装置では、始動時から所定期間経過後においてエアフローメータ出力値を利用した吸入空気量演算を行うことにより、始動時の吸入空気量を演算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−116304号公報
【特許文献2】特開2002−276451号公報
【特許文献3】特開2006−307696号公報
【特許文献4】特開2000−045823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の始動直後から、精度の高い吸入空気量算出値に基づいて各種制御(燃料噴射量制御や点火時期制御など)が的確に行われることが好ましい。しかしながら、内燃機関の始動制御の早い段階(具体的にはクランキング中)では、高精度の吸入空気量演算を行うための基礎として、エアフローメータの出力値を用いることができない。よって、上記従来の技術のようにエアフローメータ出力値に頼って吸入空気量を求めようとする場合、内燃機関始動直後に、吸入空気量を早期に且つ高精度に知ることは困難である。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、内燃機関の始動時に、吸入空気量を早期にかつ精度良く求めることのできる内燃機関の吸入空気量算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の吸入空気量算出装置において、
複数の気筒と、前記複数の気筒にそれぞれ備えられた筒内圧センサと、を有する内燃機関の吸入空気量を算出する算出装置であって、
前記内燃機関のクランキング中に、前記筒内圧センサのそれぞれの出力に基づいて、前記複数の気筒のそれぞれの筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記筒内圧検出手段で検出した筒内圧から、前記クランキング中における前記複数の気筒のそれぞれの筒内圧のピーク値を取得するピーク値取得手段と、
前記筒内圧検出手段で検出した複数の筒内圧値のうち前記筒内圧検出手段で検出した各気筒の筒内圧のうち最大のピーク値を有する筒内圧値を除いた他の筒内圧値に基づいて、前記内燃機関の吸入空気量を算出する吸入空気量算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明において、
前記吸入空気量算出手段が、
前記ピーク値取得手段で取得した筒内圧のピーク値に基づいて、吸入空気量を算出する手段と、
前記筒内圧検出手段で検出した複数の筒内圧値のうち最大のピーク値を有する筒内圧値を、吸入空気量の算出の基礎から除外する手段と、
を含むことを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、上記の目的を達成するため、
複数の気筒と、前記複数の気筒にそれぞれ備えられた筒内圧センサと、を有する内燃機関を制御する制御装置であって、
前記内燃機関の始動時に前記内燃機関の吸入空気量を算出する、上記第1または第2の発明にかかる内燃機関の吸入空気量算出装置と、
前記吸入空気量算出装置により算出された吸入空気量に基づいて、前記内燃機関の始動時の制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記内燃機関のクランキング開始前に、前記筒内圧センサの出力に基づいて、前記複数の気筒のそれぞれの筒内圧を検出するクランキング前筒内圧検出手段と、
前記クランキング前筒内圧検出手段で検出した筒内圧値のうち、前記複数の気筒の総数よりも少ない1つ以上の所定数の筒内圧値を最も高い値から相対的に低い値へと順番に除くことにより残された、一部の筒内圧値に基づいて、前記内燃機関の始動環境下における大気圧を求める大気圧値取得手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記内燃機関は、前記複数の気筒に連通する吸気通路と、前記吸気通路に設けられたスロットルバルブと、を有し、
前記大気圧値取得手段で取得した大気圧の値と、上記第1または第2の発明にかかる吸入空気量算出装置の前記吸入空気量算出手段で求めた吸入空気量と、に基づいて得られるスロットル開度に基づいて、前記内燃機関のスロットル開度の補正量を算出する開度補正量算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第6の発明は、第4または第5の発明において、
前記大気圧値取得手段で求めた前記大気圧の値に基づいて、上記第1または第2の発明にかかる吸入空気量算出装置の前記吸入空気量算出手段で求めた前記内燃機関の吸入空気量を補正する補正手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、内燃機関始動の際、早期に、精度良く吸入空気量を求めることができる。筒内圧センサはクランキング開始から気筒内の圧力に応じた出力を示すことができるので、筒内圧センサに基づいて早期に吸入空気量を算出することができる。また、サージタンク圧の影響が無いことに起因して生ずる高い筒内圧を除外することにより、精度良く吸入空気量を求めることができる。その結果、内燃機関始動の際、早期に、高い精度で吸入空気量を求めることができる。
【0013】
第2の発明によれば、クランクの絶対位置の確定前においても、高精度に吸入空気量の算出を行うことができる。
【0014】
第3の発明によれば、内燃機関始動の際、早期に、高い精度の吸入空気量を基礎にして、内燃機関の制御を行うことができる。
【0015】
第4の発明によれば、内燃機関始動前に、筒内圧センサの出力値を利用して、早期にかつ精度良く、内燃機関始動環境下における大気圧の値を求めることができる。
【0016】
第5の発明によれば、内燃機関始動前に、第1または第2の発明により求めた吸入空気量を利用して、目標スロットル開度に対する補正を行うことができる。よって、内燃機関始動直後から、良好な始動特性を得ることができる。
【0017】
第6の発明によれば、内燃機関始動時に、精度良く吸入空気量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
以下、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の吸入空気量算出装置、これを利用した内燃機関の制御装置の構成を、これらが適用される内燃機関の構成とともに説明する。実施の形態1は、車両用内燃機関に対して好適に適用される。以下の説明で前提とする内燃機関は、火花点火式の直列4気筒(L4)内燃機関であり、気筒の爆発順は1番気筒(#1気筒)→3番気筒(#3気筒)→4番気筒(#4気筒)→2番(#2気筒)であるものとする。この種の内燃機関の具体的構成は公知であるため、図示は省略する。
【0020】
内燃機関のハードウェア構成としては、シリンダブロック、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、シリンダヘッド、吸気バルブ、排気バルブ、それらを駆動する動弁機構(可変動弁機構でもよい)、燃料噴射弁、点火プラグといった基本構成が備えられている。シリンダヘッドの吸気ポートには、吸気枝管、サージタンク、電子制御スロットルバルブを含む吸気系が連通している。クランキングのためのスタータモータも備えられている。
【0021】
本実施形態の内燃機関は、ECU(Electronic Control Unit)を備えている。ECUは、スタータモータ、電子制御スロットルバルブ、燃料噴射弁、点火プラグ、動弁機構その他の内燃機関の各種構成と接続し、それらを制御する。また、本実施形態にかかる内燃機関には、筒内圧センサ、スロットルポジションセンサ、クランクポジションセンサ、エンジン水温センサその他の各種センサが備えられている。ECUはそれらのセンサと接続し、各センサの出力値を取得することができる。
【0022】
ECUは、始動要求(イグニションキー操作等)があった場合に内燃機関を始動するための、始動制御ルーチンを予め記憶している。この始動制御ルーチンには、スタータモータへの通電によりクランキングを行う処理が含まれる。また、この始動制御ルーチンには、クランクポジションセンサの出力に基づき、クランクシャフトの絶対位置を特定、つまりクランク角度の確定を行うルーチンも含まれる。
【0023】
本実施形態の内燃機関は、各気筒に、それぞれ筒内圧センサを備えている。筒内圧センサは、気筒内の圧力に応じた出力を発する。実施の形態1では、ECUが、クランキング中に、筒内圧センサの出力に基づいて、一定期間毎に(所定時間間隔で或いは所定クランク角度毎に)各気筒の筒内圧を検出するルーチンを実行することができる。
【0024】
実施の形態1では、ECUが実行する始動制御ルーチンに、内燃機関始動時に、クランク角度が確定する前であっても燃料噴射を開始可能なルーチンが含まれている。このルーチンは、具体的には、例えば、特開2005−120905号公報に開示されている技術にしたがって作成可能である。この種の技術は既に公知技術であり、新規な事項ではないため、ここではこれ以上の説明は行わない。
【0025】
[実施の形態1の動作]
以下、図1を用いて、実施の形態1の内燃機関の吸入空気量算出装置、これを利用した内燃機関の制御装置の動作について説明する。図1は、#1気筒〜#4気筒のそれぞれの、クランキング中における、筒内圧センサの出力に基づく筒内圧の推移を示したものである。#1、#3、#4、#2でクランクシャフトが720°回転した時点で、クランクの絶対位置が確定している。
なお、図1における判定閾値は、圧縮行程の気筒を判別するためのもので、クランキング開始から最初に圧縮行程となる気筒を判別するために、圧縮圧力(筒内圧)が所定値以上になった気筒を最初に圧縮行程となる気筒と判別するためのものである。なお、このような手法以外にも、例えば、筒内圧の変化率に基づいて判断しても良い。
【0026】
図1に示すように、筒内圧センサは、クランキング開始の直後から、各気筒の筒内圧に応じた出力を示すことができる。筒内圧のピーク値(筒内圧波形の最大値を意味し、「Pmax」とも称す)は、吸入空気量と相関がある。この点を利用すれば、エアフローメータが機能していない環境下であっても、筒内圧センサの出力に基づいて気筒内に流入する吸入空気量を算出することができる。
【0027】
各気筒に備えら得た筒内圧センサは、クランキング直後から、それぞれの気筒の筒内の圧力に応じた出力を示し始める。しかし、クランクの絶対位置が未だ確定していない場合には、筒内圧の値を検出できていても、その筒内圧の値がクランク角度の何度における筒内圧に対応するのかを、明確に特定できない。そこで、本実施形態では、TDCでの筒内圧、つまり筒内圧ピーク値Pmaxに着目することとした。Pmaxに着目すれば、クランク角度との関係を特定する必要がなく、単に圧力の最大値を検出すればよい。このように、筒内圧ピーク値Pmaxに着目することによって、クランクの絶対位置の確定前に、高精度に吸入空気量の算出を行うことができる。
【0028】
クランク角が確定した後の吸入空気量を精度良く予測するためには、図1における#1および#3の筒内圧の値は、計算の基礎として使用すべきではない。即ち、図1において、#1気筒は既にコンプレッション状態のまま停止していた気筒であり、筒内圧が低い値を示しており、#3気筒は、気筒内が大気圧状態のままコンプレッション状態(圧縮行程)を迎えることからサージタンク圧の影響を受けずに高い筒内圧を示している。このように#1、#3の筒内圧にはそれぞれ正常な吸入空気量測定を妨げる要因(いわばノイズ)が含まれているため、計算の基礎として使用すべきではない。
【0029】
そこで、実施の形態1では、一度排気行程を経過してサージタンクから空気が流入している図1の#4気筒を対象にしてPmaxを検出し、当該#4気筒のPmaxの値(図1におけるPmax(#4))を吸入空気量の算出に用いることとした。すなわち、本実施形態では、クランキング中に、図1の#3の如く、最も大きなピーク値を有する筒内圧を示す気筒については、その筒内圧値を吸入空気量の計算の基礎から除外する。そして、本実施形態では、筒内圧が最も大きなピーク値を示した気筒(実施の形態1では#3気筒)の次に圧縮行程を迎える気筒(実施の形態1では#4気筒)について、そのPmaxを吸入空気量の計算の基礎に用いる。
【0030】
以上説明したように、実施の形態1によれば、内燃機関始動の際、早期に、高い精度の吸入空気量を求めることができる。すなわち、筒内圧センサはクランキング開始から気筒内の圧力に応じた出力を示すことができるので、筒内圧センサに基づいて早期に吸入空気量を算出することができる。また、サージタンク圧の影響が無いことに起因して生ずる高い筒内圧を除外することにより、精度良く吸入空気量を求めることができる。その結果、内燃機関始動の際、早期に、高い精度の吸入空気量を求めることができる。
【0031】
[実施の形態1の具体的処理]
以下、本実施形態においてECUが実行する具体的処理を説明する。下記の処理は、内燃機関の始動要求があった後、クランキングが開始されるときに実行されるものとする。
【0032】
先ず、筒内圧センサの出力に基づいて、各気筒の筒内圧が検出される(ステップS100)。
【0033】
その後、クランキングの開始から、クランク角が360°CA回転するまでの期間中における、各気筒の筒内圧のピーク値が算出される(ステップS102)。具体的には、ステップS100における筒内圧検出の開始以降、一定時間間隔あるいは所定クランク角ごと(例えば10°CAごと)に、筒内圧センサの出力信号がサンプリングされる。このサンプリングを行うに当たっては、クランクの絶対値が不明でも、相対的な回転量はクランク角センサで検出できる。一定間隔ごとに取得された複数の出力信号に基づいて、図1に示す如く、各気筒の筒内圧波形が検出される。これにより、各気筒のそれぞれについて、筒内圧波形のピーク値が特定される。
【0034】
次いで、複数の気筒間でピーク値が比較され、最も高いピーク値を示す気筒とそのタイミングが検出される(ステップS104)。本実施形態では、最大のピーク値を示す気筒として#3気筒が選定される。
【0035】
なお、図1を用いて前述したように、筒内圧が、複数の気筒の間で、低いピーク値の筒内圧、過大なピーク値の筒内圧、本来の筒内圧の順番で表れるケースは、内燃機関の始動時においては多く見られる。よって、#1気筒の筒内圧ピーク値Pmax(#1)、#3気筒の筒内圧ピーク値Pmax(#3)、および#4気筒の筒内圧ピーク値Pmax(#4)が検出された時点で、#3気筒を、最大のピーク値を示す気筒として認定することもできる。
【0036】
次に、上記のうち最大のピーク値を示す気筒(図1では#3気筒)の次にTDCを迎える気筒(図1では#4気筒)の、筒内圧ピーク値(図1ではPmax(#4))が検出される(ステップS106)。ここで求めた#4気筒の筒内圧を吸入空気量算出に用いることにより、サージタンク圧の影響が無いことに起因して生ずる#3気筒の高い筒内圧を、除外することができる。
【0037】
Pmax(#4)が得られたら、続いて、下記の式に基づいて、始動時の吸入空気量を算出する(ステップS108)。
M = Pmax × TDC時の燃焼室容積 / R /エンジン水温
Mは空気の分子量、Rは気体定数であり、気体の状態方程式PV=MRTに基づくものである。或いは、予めPmax(#4)と#1気筒の吸入空気量との関係をマップとして作成しておき、必要に応じて読み出せるようにECUに記憶させておいてもよい。
【0038】
以上の処理により、内燃機関始動の際、早期に、高い精度の吸入空気量を求めることができる。また、筒内圧ピーク値Pmaxに着目することによって、クランクの絶対位置の確定前においても、高精度に吸入空気量の算出を行うことができる。
【0039】
吸入空気量が算出されたら、続いて、内燃機関の始動開始用の燃料噴射量および点火時期を決定する処理が実行される(ステップS110)。このステップでは、図1における#1気筒の燃料噴射量(図1の矢印A)および点火時期(図1の矢印B)を決定する。図1に示すように、#1気筒は、クランク角の確定以降に圧縮行程を迎える。#1気筒の噴射期間は、Pmax(#4)が特定された時点では未だ終了していない。つまり、図1の場面において、#1気筒は、吸入空気量算出完了時点で燃料噴射が間に合う、最も早期に燃焼を開始できる気筒だと考えることができる。
【0040】
なお、極低温時には、この時点で既に対象気筒への燃料噴射が開始されている可能性もある。その場合には、噴射終了時期や、噴射インターバル期間の算出を行うことができる。このインターバルが設定される理由は、低温時には燃料の気化が困難であるため、極力、吸気行程中に燃料噴射をすることが望ましいためである。
【0041】
以上の処理により、クランク角度が確定した直後に、実際の吸入空気量に応じた噴射量で、筒内への燃料噴射が完了している状態をつくりだすことができ、更に、適切な点火時期で点火を行うこともできる。また、本実施形態によれば、大気圧やエンジン水温といった始動条件が異なる場合であっても、その都度、適切な燃料噴射量および点火時期を設定することができる。
【0042】
なお、上述した実施の形態1においては、筒内圧センサの出力に基づいてECUが筒内圧を検出することにより、前記第1の発明における「筒内圧検出手段」が、ECUが上記ステップS102の処理を実行することにより、前記第1の発明における「ピーク値取得手段」が、ECUが上記ステップS104、S106およびS108の処理を実行することにより、前記第1の発明における「吸入空気量算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0043】
[実施の形態1の変形例]
(第1変形例)
実施の形態1では、気筒数が4つである内燃機関について本発明を適用した場合の実施形態を説明した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。複数の気筒、すなわち2気筒以上の例えば3気筒、6気筒の内燃機関に対しても、本願発明を適用することができる。
【0044】
なお、実施の形態1では、燃料噴射弁の具体的構成は述べなかったが、例えば、燃料噴射弁から燃焼室内に直接噴射するシステムでも、吸気通路の吸気ポートに噴射するシステムでも、それらのポート噴射および筒内噴射の両方を備えるシステムでもよい。筒内噴射システムは一般にポート噴射システムに比して噴射期間の終期が遅く、図1よりも噴射期間の終期は遅くなる。
【0045】
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2を説明する。以下、実施の形態2が実施の形態1で述べたハードウェア構成を有しているものとして、説明を行う。実施の形態2では、実施の形態1に対し下記にそれぞれ述べる手法を適用することにより、筒内圧センサがクランキング中でも筒内圧を精度良く検出できる利点を活かし、大気圧の算出および始動時の内燃機関の制御を行うことができる。
【0046】
[実施の形態2の動作]
(大気圧の算出)
実施の形態2では、模式図である図1の破線Cで示した時期において、クランキング前の筒内圧センサ出力に基づき、筒内圧の相対的に高い気筒を除いた残り筒内圧平均値から大気圧が推定される。
【0047】
実施の形態2では、ECUが、気筒毎の筒内圧平均値を算出する処理を有している。具体的には、気筒毎に、筒内圧センサの出力に基づいて、クランキング前の所定時間(例えば、数秒間程度)の筒内圧を検出する(ステップS200)。さらに、得られた筒内圧を時間で除して平均値を求める(ステップS202)。
【0048】
次に、実施の形態2では、クランキング前の各気筒の筒内圧値の中から、相対的に高い所定数(以下「N」で示す)の筒内圧値を取り除く(ステップS204)。
【0049】
所定数Nは、内燃機関の始動を開始するときに(言い換えれば、前回の停止後に)吸気バルブおよび排気バルブがともに閉じている気筒の数を設定する。所定数Nは、可能性として存在する最大の個数とすることが好ましく、具体的には、4気筒であればN=2、6気筒であればバルブタイミングにもよるもののN=2あるいはより安全に見てN=3、8気筒であればN=3と設定する。本実施形態では、4気筒の内燃機関を例にとっているためN=2とする。
【0050】
続いて、所定数の筒内圧値を取り除いた後の残りの筒内圧値の平均値を算出する(ステップS206)。本実施形態ではN=2としているため、相対的に高い2つの筒内圧値を除いた、残りの2つの筒内圧値の平均値を求める。
【0051】
この平均値を、今回の内燃機関始動環境下における大気圧として取り扱う(ステップS208)。以上により、内燃機関始動環境下における大気圧の値を算出できる。
【0052】
気筒によっては、吸気バルブおよび排気バルブがともに閉じた状態で停止しているものもある。その場合、その気筒内は大気圧相当ではないことが想定される。この点、実施の形態2にかかる大気圧算出手法によれば、そのような大気圧相当でない気筒の影響を排除することができるため、内燃機関始動前に、早期にかつ精度良く、大気圧を特定することができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、筒内圧センサを備える内燃機関において、大気圧センサを別に取り付ける必要がなく、簡易に大気圧を検出できる。
【0054】
(オフセットドリフト対策)
筒内圧センサの特性には、個体差がある。また、特に低圧域では筒内圧センサのオフセットドリフトの影響が大きいため、精度が低い。そこで、本実施形態では、筒内圧センサのオフセットドリフト対策として、前回運転時までのオフセット補正量を学習しておき、その学習した補正量に基づいて、始動前のセンサ出力に補正を行う。
【0055】
具体的には、実施の形態2では、ECUが、内燃機関の前回までの運転時における、各気筒の筒内圧センサのオフセット補正量を記憶している。実施の形態2では、上記ステップS200およびS202の処理で使用される筒内圧の値に対し、このオフセット補正量に応じた補正量を加算する。これにより、上記の大気圧の算出を、筒内圧センサのオフセットドリフトの影響を解消した上で、精度良く行うことができる。
【0056】
(スロットル開度設定)
実施の形態2では、さらに、上述した算出手法により求めた大気圧と、エンジン水温とに基づいて、目標とするスロットル開度を設定する。エンジン水温は、ECUがエンジン水温センサの出力に基づいて得た値を用いればよい。これにより、大気圧に応じた最適なスロットル開度をを設定でき、最適な空気量を気筒内に供給することができる。その結果、内燃機関の始動特性を良好なものとすることができる。
【0057】
なお、実施の形態2では、上述した所定数Nが前記第4の発明における「所定数の筒内圧値」に相当し、ECUがステップS200およびS202の処理を実行することにより、前記第4の発明における「クランキング前筒内圧検出手段」が、ECUがステップS204〜S208の処理を実行することにより、前記第4の発明における「大気圧値取得手段」が、それぞれ実現されている。
【0058】
なお、実施の形態2では、筒内圧センサのオフセットドリフト対策を行った上で、筒内圧センサを用いた大気圧算出を行った。しかしながら、これらの思想は必ずしも同時に用いられなくとも良い。筒内圧センサのオフセットドリフト対策のみを用いたり、筒内圧センサを用いた大気圧の算出のみを用いても良い。
【0059】
[実施の形態2の変形例]
上記のようにして求めた大気圧の値を利用して、実施の形態1で求めた吸入空気量に補正を行っても良い。これにより、吸入空気量算出の精度を向上することができる。
【0060】
実施の形態3.
以下、本発明の実施の形態3を説明する。以下、実施の形態3が実施の形態1で述べたハードウェア構成を有しているものとして、説明を行う。また、実施の形態3は、ECUが実施の形態2で述べた大気圧算出を実行可能であるものとする。
【0061】
実施の形態3では、実施の形態1において算出された吸入空気量と、実施の形態2において設定されたスロットル開度とに基づいて、両者の関係からスロットルの吸気特性を判定する。その判定結果に基づいて、目標スロットル開度の補正値を算出する。
【0062】
すなわち、スロットル特性が一定であるならば、一定温度環境下、一定大気圧環境下においては、一定のスロットル開度にてクランキングを実施した際に筒内に流入する空気量は一定である。しかしながら、この関係が、例えばスロットルバルブへのデポジット堆積による開口面積変化などに起因して、経時的に変化する場合がある。
【0063】
そこで、本実施形態では、スロットル開度と筒内流入空気量との関係から、スロットル特性を把握し、さらにその特性に応じた始動時スロットル開度を設定することとした。
【0064】
スロットルを通過する空気量を算出する式として、下記の式が、エアモデルなどで活用されている。
【数1】


上記の式において、それぞれの文字の下記の通りである。
Me スロットル通過空気量
S スロットル開口面積
Pim インテークマニホールド圧
P0 大気圧
【0065】
スロットル通過空気量Meは、実施の形態1で求めた吸入空気量により推定できる。インテークマニホールド圧Pimは、筒内圧センサ出力に基づき吸気行程中における筒内圧を求めることにより、推定できる。大気圧P0は、実施の形態2で求めた大気圧の値を代入すればよい。Rには気体定数、Tにはエンジン水温を入力すればよい。これにより、上記の式に従って、スロットル開口面積Sを算出することができる。
【0066】
一方、予め、モデルあるいは適合によりマップを作成しておくことなどにより、ECUがスロットル開度に対するスロットル開口面積の標準値S0を算出できるようにしておく。
【0067】
スロットル開口面積Sと標準値S0との差分ΔSが、デポジットの影響や機器の個体差バラツキに起因する開口面積のずれであると考えることができる。従って、このΔSを、スロットル開口面積の補正(スロットル開度補正)を行う際の補正項として利用できる。
【0068】
そこで、実施の形態3では、算出されたΔSを、次回の内燃機関始動時における実施の形態2の目標スロットル開度算出にあたり、補正項として加算する。その結果、デポジット影響などに起因するスロットル開度のずれを、修正することができる。
【符号の説明】
【0069】
#1 1番気筒
#2 2番気筒
#3 3番気筒
#4 4番気筒
A 燃料噴射量
B 点火時期
Pmax 筒内圧のピーク値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒と、前記複数の気筒にそれぞれ備えられた筒内圧センサと、を有する内燃機関の吸入空気量を算出する算出装置であって、
前記内燃機関のクランキング中に、前記筒内圧センサのそれぞれの出力に基づいて、前記複数の気筒のそれぞれの筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、
前記筒内圧検出手段で検出した筒内圧から、前記クランキング中における前記複数の気筒のそれぞれの筒内圧のピーク値を取得するピーク値取得手段と、
前記筒内圧検出手段で検出した複数の筒内圧値のうち前記筒内圧検出手段で検出した各気筒の筒内圧のうち最大のピーク値を有する筒内圧値を除いた他の筒内圧値に基づいて、前記内燃機関の吸入空気量を算出する吸入空気量算出手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の吸入空気量算出装置。
【請求項2】
前記吸入空気量算出手段が、
前記ピーク値取得手段で取得した筒内圧のピーク値に基づいて、吸入空気量を算出する手段と、
前記筒内圧検出手段で検出した複数の筒内圧値のうち最大のピーク値を有する筒内圧値を、吸入空気量の算出の基礎から除外する手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の吸入空気量算出装置。
【請求項3】
複数の気筒と、前記複数の気筒にそれぞれ備えられた筒内圧センサと、を有する内燃機関を制御する制御装置であって、
前記内燃機関の始動時に前記内燃機関の吸入空気量を算出する、請求項1または2にかかる内燃機関の吸入空気量算出装置と、
前記吸入空気量算出装置により算出された吸入空気量に基づいて、前記内燃機関の始動時の制御を行う制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関のクランキング開始前に、前記筒内圧センサの出力に基づいて、前記複数の気筒のそれぞれの筒内圧を検出するクランキング前筒内圧検出手段と、
前記クランキング前筒内圧検出手段で検出した筒内圧値のうち、前記複数の気筒の総数よりも少ない1つ以上の所定数の筒内圧値を最も高い値から相対的に低い値へと順番に除くことにより残された、一部の筒内圧値に基づいて、前記内燃機関の始動環境下における大気圧を求める大気圧値取得手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関は、前記複数の気筒に連通する吸気通路と、前記吸気通路に設けられたスロットルバルブと、を有し、
前記大気圧値取得手段で取得した大気圧の値と、請求項1または2にかかる吸入空気量算出装置の前記吸入空気量算出手段で求めた吸入空気量と、に基づいて得られるスロットル開度に基づいて、前記内燃機関のスロットル開度の補正量を算出する開度補正量算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
また、第6の発明は、第4または第5の発明において、
前記大気圧値取得手段で求めた前記大気圧の値に基づいて、請求項1または2にかかる吸入空気量算出装置の前記吸入空気量算出手段で求めた前記内燃機関の吸入空気量を補正する補正手段を備えることを特徴とする請求項4または5に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−111941(P2011−111941A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267591(P2009−267591)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】