説明

内燃機関の潤滑油供給装置

【課題】リリーフ圧力の切り替えが適切な時期になされないことに起因して潤滑油噴射機構による潤滑油の消費量が不必要に増大することと、リリーフ圧力の切り替えが適切な時期になされないことに起因して潤滑油噴射機構によるピストンの冷却度合が不足することを抑制する内燃機関の潤滑油供給装置を提供する。
【解決手段】このエンジン10の潤滑油供給装置40は、オイルジェット46と、供給油圧Pを制御する油圧制御機構50とを備えるものであって、同油圧制御機構50は、高圧側切替条件の成立に基づいてリリーフ圧力PXを第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2に切り替える。そして、高圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度TPが基準温度TPXよりも低い旨判定したとき、高圧側切替条件に基づく第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2への切り替え時期を遅延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンに対して潤滑油を噴射する潤滑油噴射機構と、この噴射機構に潤滑油を供給する供給通路の圧力を制御する油圧制御機構とを備える内燃機関の潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記潤滑油噴射機構を備える潤滑油供給装置としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。この文献に記載の装置では、供給通路を介してオイルパンから供給された潤滑油を潤滑油噴射機構(オイルジェット)によりピストンに向けて噴射し、これによりピストンの冷却を図るようにしている。
【0003】
また、上記油圧制御機構を備える潤滑油供給装置としては、例えば特許文献2に記載のものが知られている。この文献に記載の装置では、機関回転速度が低回転領域から高回転領域に移行したとき、これに基づいてリリーフ圧力を低圧側のリリーフ圧力から高圧側のリリーフ圧力に切り替え、機関回転速度が高回転領域から低回転領域に移行したとき、これに基づいてリリーフ圧力を高圧側のリリーフ圧力から低圧側のリリーフ圧力に切り替えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−40148号公報
【特許文献2】特開平5−026022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ピストン温度が機関運転状態毎に異なるものであることに鑑み、潤滑油噴射機構によるピストンの冷却をそうしたピストン温度の変化に応じたものにするための一案として、例えば特許文献2の潤滑供給装置に特許文献1の潤滑油噴射機構を設けることにより新たな潤滑油供給装置(以下、「組み合わせ装置」)を構成することが考えられる。
【0006】
そしてこうした組み合わせ装置によれば、機関回転速度が高回転領域にあることによりピストン温度が比較的高温となるときには、リリーフ弁のリリーフ圧力が高圧側のリリーフ圧力に設定されるため、潤滑油噴射機構によりそうした高温のピストンを適切に冷却することができるようになる。また一方、機関回転速度が低回転領域にあることによりピストン温度が比較的低温となるときには、リリーフ弁のリリーフ圧力が低圧側のリリーフ圧力に設定されるため、潤滑油噴射機構による潤滑油の消費量を低減することができるようになる。
【0007】
しかし、機関回転速度の変化のみに基づいてリリーフ圧力の切り替えを実行する上記組み合わせ装置においては、機関回転速度が低回転領域から高回転領域に移行したとき、次のことが問題となる。すなわち、機関回転速度が低回転領域から高回転領域に移行した直後、ピストン温度は機関回転速度の変化に対して遅れをもって上昇するため、上記組み合わせ装置においてはピストン温度が比較的低温であるにもかかわらずリリーフ圧力が高圧側のリリーフ圧力に切り替えられるようになる。そしてこの場合には、高圧側のリリーフ圧力への切り替えにともない、潤滑油噴射機構からピストンの冷却に必要とされる量を大きく上回る量の潤滑油が噴射されてしまうことにより、潤滑油の消費量が不要に増大するようになる。
【0008】
また、機関回転速度の変化のみに基づいてリリーフ圧力の切り替えを実行する上記組み合わせ装置においては、機関回転速度が高回転領域から低回転領域に移行したとき、次のことが問題となる。すなわち、機関回転速度が高回転領域から低回転領域に移行した直後、ピストン温度は機関回転速度の変化に対して遅れをもって下降するため、上記組み合わせ装置においてはピストン温度が比較的高温であるにもかかわらずリリーフ圧力が低圧側のリリーフ圧力に切り替えられるようになる。そしてこの場合には、低圧側のリリーフ圧力への切り替えにともない、潤滑油噴射機構からはピストンの冷却に必要とされる量を大きく下回る量の潤滑油しか噴射されないことにより、ピストンの冷却度合が不足するようになる。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、リリーフ圧力の切り替えが適切な時期になされないことに起因して潤滑油噴射機構による潤滑油の消費量が不必要に増大することを抑制することのできる内燃機関の潤滑油供給装置を提供することにあり、またその第2の目的は、リリーフ圧力の切り替えが適切な時期になされないことに起因して潤滑油噴射機構によるピストンの冷却度合が不足することを抑制することのできる内燃機関の潤滑油供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、ピストンに対して潤滑油を噴射する潤滑油噴射機構と、この噴射機構に潤滑油を供給する供給通路の圧力を制御する油圧制御機構とを備えるものであって、同油圧制御機構は、前記供給通路から当該制御機構に供給される潤滑油の圧力が所定のリリーフ圧力を超えるときに同潤滑油を所定部位にリリーフするとともに高圧側切替条件の成立に基づいて前記所定のリリーフ圧力を低圧側の第1リリーフ圧力から高圧側の第2リリーフ圧力に切り替えるものである内燃機関の潤滑油供給装置において、前記高圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度が基準温度よりも低い旨判定したとき、前記高圧側切替条件に基づく前記第1リリーフ圧力から前記第2リリーフ圧力への切り替え時期を遅延することを要旨としている。
【0011】
ここで、高圧側切替条件はピストン冷却度合の要求との関係のもとに設定されるものであり、高圧側切替条件が成立していない状態はピストン冷却度合の要求量が小さい状態を、また高圧側切替条件が成立している状態はピストン冷却度合の要求量が大きい状態をそれぞれ示すものとなる。
【0012】
そして、機関運転状態の変化にともない高圧側切替条件の不成立の状態から成立の状態に移行したとき、基本的にはピストン冷却度合の要求量もこれに応じて増大するようになる。とはいえ、先にも述べたようにピストン温度は機関運転状態の変化に対して遅れをもって上昇するものであるため、高圧側切替条件が成立してからしばらくは、実際に要求されるピストン冷却度合は高圧側切替条件の不成立の状態に対応したものに維持される。
【0013】
上記発明ではこうしたことに鑑み、高圧側切替条件が成立し且つピストン温度が基準温度よりも低いとき、すなわち高圧側切替条件の示す機関運転状態から把握されるピストン冷却度合の要求量と実際のピストン温度から把握されるピストン冷却度合の要求量との間に大きな乖離が生じているとともに後者が前者を下回る状態にあるときには、高圧側切替条件が成立しているものの第2リリーフ圧力への切り替えを遅延して第1リリーフ圧力を維持するようにしている。
【0014】
これにより、ピストン温度が比較的低温であるにもかかわらずリリーフ圧力が高圧側の第2リリーフ圧力に切り替えられることに起因して、潤滑油噴射機構からピストンの冷却に必要とされる量を大きく上回る量の潤滑油が噴射されてしまい、潤滑油の消費量が不要に増大することを抑制することができるようになる。
【0015】
(2)請求項2に記載の発明は、ピストンに対して潤滑油を噴射する潤滑油噴射機構と、この噴射機構に潤滑油を供給する供給通路の圧力を制御する油圧制御機構とを備えるものであって、同油圧制御機構は、前記供給通路から当該制御機構に供給される潤滑油の圧力が所定のリリーフ圧力を超えるときに同潤滑油を所定部位にリリーフするとともに低圧側切替条件の成立に基づいて前記所定のリリーフ圧力を高圧側の第2リリーフ圧力から低圧側の第1リリーフ圧力に切り替えるものである内燃機関の潤滑油供給装置において、前記低圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度が基準温度よりも高い旨判定したとき、前記低圧側切替条件に基づく前記第2リリーフ圧力から前記第1リリーフ圧力への切り替え時期を遅延することを要旨としている。
【0016】
この発明では、低圧側切替条件が成立し且つピストン温度が基準温度よりも高いとき、すなわち低圧側切替条件の示す機関運転状態から把握されるピストン冷却度合の要求量と実際のピストン温度から把握されるピストン冷却度合の要求量との間に大きな乖離が生じているとともに後者が前者を上回る状態にあるときには、低圧側切替条件が成立しているものの第1リリーフ圧力への切り替えを遅延して第2リリーフ圧力を維持するようにしている。
【0017】
これにより、ピストン温度が比較的高温であるにもかかわらずリリーフ圧力が低圧側の第1リリーフ圧力に切り替えられることに起因して、潤滑油噴射機構からはピストンの冷却に必要とされる量を大きく下回る量の潤滑油しか噴射されないことにより、ピストンの冷却度合が不足することを抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる内燃機関の潤滑油供給装置を具体化した第1実施形態について、この装置を備える内燃機関の構成を模式的に示す構成図。
【図2】同実施形態の潤滑油供給装置によるリリーフ圧力の切替態様を設定したマップ。
【図3】同実施形態の潤滑油供給装置による供給油圧の制御態様について、機関回転速度と供給油圧との関係の一例を示すグラフ。
【図4】同実施形態の電子制御装置により実行される「低圧側遅延制御処理」について、その処理手順を示すフローチャート。
【図5】本発明にかかる内燃機関の潤滑油供給装置を具体化した第2実施形態の潤滑油供給装置による供給油圧の制御態様について、機関回転速度と供給油圧との関係の一例を示すグラフ。
【図6】同実施形態の電子制御装置により実行される「高圧側遅延制御処理」について、その処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
図1〜図4を参照して本発明の第1実施形態について説明する。
図1に示すようにエンジン10は、空気及び燃料からなる混合気の燃焼を通じて動力を発生させるエンジン本体20と、潤滑油をエンジン10の各潤滑部位に供給する潤滑油供給装置40と、これら装置を統括的に制御する電子制御装置60とを備えている。
【0020】
エンジン本体20には、インジェクタ26を通じて燃焼室30に供給された燃料と吸気装置を通じて燃焼室30内に供給された空気との混合気を燃焼させるシリンダブロック21が設けられている。このシリンダブロック21には、それぞれ燃焼室30を形成する複数のシリンダ22が設けられている。このシリンダ22内には、ピストン23が設けられている。このピストン23には、その往復運動を回転運動に変換してクランクシャフト25に伝達するコネクティングロッド24が接続されている。
【0021】
シリンダブロック21の下部には、潤滑油を貯留するオイルパン41が設けられている。このオイルパン41の潤滑油は、クランクシャフト25により駆動されるオイルポンプ43を通じてエンジン本体20の各潤滑部位に供給される。
【0022】
シリンダブロック21においてシリンダ22の下方には、ピストン23の内側面に向けて潤滑油を噴射するオイルジェット46が設けられている。このオイルジェット46には、オイルポンプ43から吐出された潤滑油が供給される。
【0023】
潤滑油供給装置40は、オイルパン41の潤滑油を供給通路42によりエンジン本体20の各潤滑部位に供給する。この供給通路42の途中には、オイルパン41から潤滑油を汲み上げてこれを吐出するオイルポンプ43が設けられている。供給通路42の入口には、オイルパン41内の潤滑油に含まれる異物のうち比較的大きなものを濾過するオイルストレーナ44が設けられている。供給通路42においてオイルポンプ43下流側且つその近傍には、潤滑油内の微小な異物を濾過するオイルフィルタ45が設けられている。
【0024】
供給通路42には、オイルパン41からエンジン本体20の所定部位までにわたり潤滑油を流通させるメイン供給通路42Aと、このメイン供給通路42Aから分岐するオイルジェット用通路42Bが設けられている。
【0025】
オイルジェット用通路42Bは、オイルポンプ43により吐出されたメイン供給通路42Aの潤滑油をオイルジェット46に供給する。オイルジェット用通路42Bの途中には、同通路42Bを開閉するオイルジェット用バルブ47が設けられている。このバルブ47が開弁した状態にあるとき、オイルジェット用通路42Bの潤滑油がオイルジェット46に供給されるため、同ジェット46から潤滑油が噴射される。一方、オイルジェット用バルブ47が閉弁した状態にあるとき、オイルジェット用通路42Bの潤滑油はオイルジェット46には供給されないため、同ジェット46からの潤滑油の噴射は停止される。
【0026】
潤滑油供給装置40には、供給通路42においてオイルポンプ43から吐出された潤滑油を同ポンプ43の上流側に還流し、これにより供給通路42の潤滑油の圧力(以下、「供給油圧P」)を制御する油圧制御機構50が設けられている。
【0027】
この油圧制御機構50には、メイン供給通路42Aにおいてオイルポンプ43の上流側と下流側とを接続するリリーフ通路53が設けられている。このリリーフ通路53には、オイルポンプ43から吐出された潤滑油の圧力が所定のリリーフ圧力(以下、「リリーフ圧力PX」)以上となることに基づいて開弁し、これによりオイルポンプ43の下流側から上流側に潤滑油を還流するリリーフバルブ51が設けられている。またリリーフ通路53には、リリーフバルブ51の入口側の潤滑油を同バルブ51に供給する切替バルブ用通路54が接続されている。この切替バルブ用通路54には、同通路54の開閉状態を切り替える切替バルブ52が設けられている。
【0028】
切替バルブ52は、リリーフバルブ51のリリーフ圧力PXを切り替える。すなわち、切替バルブ52が開弁状態にあることによりリリーフバルブ51に潤滑油が供給されるとき、リリーフバルブ51のリリーフ圧力PXは低圧側の第1のリリーフ圧力(以下、「第1リリーフ圧力P1」)に設定され、切替バルブ52が閉弁状態にあることによりリリーフバルブ51への潤滑油の供給が遮断されるとき、リリーフバルブ51のリリーフ圧力PXは第1リリーフ圧力P1よりも大きい高圧側の第2のリリーフ圧力(以下、「第2リリーフ圧力P2」)に設定される。
【0029】
リリーフバルブ51は、リリーフ圧力PXが第1リリーフ圧力P1に設定されるとき、供給油圧Pがこの第1リリーフ圧力P1を超えることに基づいて開弁し、これによりオイルポンプ43から吐出された潤滑油を同ポンプ43の上流側にリリーフする。また、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に設定されるとき、供給油圧Pがこの第2リリーフ圧力P2を超えることに基づいて開弁し、これによりオイルポンプ43から吐出された潤滑油を同ポンプ43の上流側にリリーフする。
【0030】
なお潤滑油供給装置40は、オイルパン41及び供給通路42及びオイルポンプ43及びオイルストレーナ44及びオイルフィルタ45及びオイルジェット46及びオイルジェット用バルブ47及び油圧制御機構50を含めて構成されている。
【0031】
電子制御装置60は、アクセルポジションセンサ61、スロットルポジションセンサ62、クランクポジションセンサ63及びエアフロメータ64をはじめとする各種センサからの信号に基づいて機関運転状態及び車両走行状態及び運転者の要求を把握したうえで、例えば、次のような制御を行う。すなわち、吸気流量を調整するスロットル制御、及びインジェクタ26による燃料噴射量を調整する噴射制御、及び機関の各潤滑部位に供給する油圧を制御する油圧制御、及びオイルジェット46の噴射量を調整する冷却制御等の制御を行う。
【0032】
アクセルポジションセンサ61は、車両のアクセルペダルの踏み込み量に応じた信号を出力する。スロットルポジションセンサ62は、スロットルバルブの開度に応じた信号を出力する。クランクポジションセンサ63は、クランクシャフトの回転速度(以下、「機関回転速度NE」)に応じた信号を出力する。エアフロメータ64は、吸気通路を流れる吸気の質量流量に応じた信号を出力する。
【0033】
ここで、油圧制御においては、上記各種センサの信号をもとに把握される機関運転状態に適した油圧をエンジン本体20の各潤滑部位に供給すべく切替バルブ52の制御を行う。具体的には、機関回転速度NE及び機関負荷ELが低回転領域及び低負荷領域のいずれかにあるとき、切替バルブ52の制御を通じてリリーフ圧力PXを第1リリーフ圧力P1に設定する。一方、機関回転速度NE及び機関負荷ELが高回転領域及び高負荷領域のいずれかにあるとき、切替バルブ52の制御を通じてリリーフ圧力PXを第2リリーフ圧力P2に設定する。
【0034】
また冷却制御においては、オイルジェット46によるピストン23の冷却度合を機関運転状態に応じて調整すべくオイルジェット用バルブ47の開閉状態を制御する。具体的には、機関回転速度NEが低回転領域または中回転領域にあるとき、オイルジェット用バルブ47を閉弁状態に維持してオイルジェット46による潤滑油の噴射を停止する。一方、機関回転速度NEが高回転領域にあるとき、オイルジェット用バルブ47を開弁状態に維持してオイルジェット46による潤滑油の噴射を実行する。
【0035】
なお、機関負荷ELは、そのときどきにおいて燃焼室30に供給することのできる吸気量の最大値に対する実際の吸気量、あるいはインジェクタ26の噴射量の最大値に対する噴射量の実際値(噴射量の要求値)として算出することができる。
【0036】
図2を参照して、リリーフ圧力PXの切替態様の詳細について説明する。
油圧制御においては、図2に示されるマップに基づいてリリーフ圧力PXの切り替えを行う。このマップは、横軸に機関回転速度NE及び縦軸に機関負荷ELを設定し、これらに基づいてそのときどきの機関運転状態を特定するものである。また、機関回転速度NEが増加するにつれて機関負荷ELが次第に減少する傾向の曲線(以下、「切替ラインXL」)が予め設定され、機関回転速度NE及び機関負荷ELからなる機関運転領域が第1運転領域RA及び第2運転領域RBに区分されている。第1運転領域RAは、切替ラインXLに対して低回転及び低負荷側にある領域を示す。また第2運転領域RBは、切替ラインXLに対して高回転及び高負荷側にある領域を示す。
【0037】
リリーフ圧力PXは、上記マップに基づいて次のように設定される。
(A)機関回転速度NE及び機関負荷ELが第1運転領域RAにあるときには、第1リリーフ圧力P1に設定される。そして、機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2のラインLAに示されるように切替ラインXLをまたいで第1運転領域RAから第2運転領域RBに移行したとき、すなわち高圧側切替条件が不成立の状態から成立の状態に移行したときには、これに基づいて第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2に切り替えられる。
【0038】
(B)機関回転速度NE及び機関負荷ELが第2運転領域RBにあるときには、第2リリーフ圧力P2に設定される。そして、機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2のラインLBに示されるように切替ラインXLをまたいで第2運転領域RBから第1運転領域RAに移行したとき、すなわち低圧側切替条件が不成立の状態から成立の状態に移行したときには、これに基づいて第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1に切り替えられる。
【0039】
図3を参照して、機関回転速度NEと供給油圧Pとの関係について説明する。ここでは、同関係の一例として、機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2のマップ上においてラインLAにて示す態様をもって運転状態XAから運転状態XBまで変化した場合を取りあげている。
【0040】
供給油圧Pは、機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2のラインLAに沿って変化したとき図3のラインL1に示す態様をもって変化する。
機関回転速度NEが第1回転速度NE11よりも小さい領域にあるとき、供給油圧Pが第1リリーフ圧力P1未満であることにより、リリーフ圧力PXが第1リリーフ圧力P1に設定された状態にある。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない第1リリーフ圧力P1に向けて速やかに増大する傾向を示す。
【0041】
機関回転速度NEが第1回転速度NE11を上回るとき、供給油圧Pが第1リリーフ圧力P1よりも大きくなり、オイルポンプ43から吐出された潤滑油の一部は同ポンプ43の上流側にリリーフされる。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない増大するものの、リリーフバルブ51が開弁していることにより増大の度合は機関回転速度NEが第1回転速度NE11より小さい場合と比較して緩やかになる。
【0042】
機関回転速度NEが切替ラインXL上の第2回転速度NE12を上回るとき、リリーフ圧力PXが第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2に切り替えられる。これにより、リリーフバルブ51が閉弁して潤滑油のリリーフがなされなくなる。
【0043】
機関回転速度NEが第2回転速度NE12よりも大きく且つ第3回転速度NE13よりも小さい領域にあるとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2未満であることにより、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に設定された状態且つリリーフバルブ51が閉弁状態にある。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない速やかに増大する傾向を示す。
【0044】
機関回転速度NEが第3回転速度NE13を上回るとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2よりも大きくなり、リリーフバルブ51が開弁してオイルポンプ43から吐出された潤滑油の一部は同ポンプ43の上流側にリリーフされる。
【0045】
機関回転速度NEが第3回転速度NE13よりも大きい領域にあるとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2以上であることにより、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に設定された状態且つリリーフバルブ51が開弁した状態にある。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない増大するものの、リリーフバルブ51が開弁していることにより増大の度合は機関回転速度NEが第2回転速度NE12と第3回転速度NE13との間にある場合と比較して緩やかになる。
【0046】
ちなみに、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に固定される潤滑油供給装置においては、機関回転速度NEが所定回転速度NEZよりも小さい領域にあるとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2未満であることにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない第2リリーフ圧力P2に向けて速やかに増大する傾向を示す。そして、機関回転速度NEが所定回転速度NEZを上回るとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2よりも大きくなり、オイルポンプ43から吐出された潤滑油の一部は同ポンプ43の上流側にリリーフされる。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない増大するものの、リリーフバルブ51が開弁していることにより増大の度合は機関回転速度NEが所定回転速度NEZより小さい場合と比較して緩やかになる。
【0047】
ここで、高圧側切替条件はピストン冷却度合を含めた機関各潤滑部位の冷却度合の要求との関係のもとに設定されるものであり、高圧側切替条件が成立していない状態は機関各潤滑部位の冷却度合の要求量が小さい状態を、また高圧側切替条件が成立している状態は機関各潤滑部位の冷却度合の要求量が大きい状態をそれぞれ示すものとなる。
【0048】
そして、機関運転状態の変化にともない高圧側切替条件の不成立の状態から成立の状態に移行したとき、基本的にはピストン冷却度合の要求量もこれに応じて増大するようになる。とはいえ、ピストン23の温度(以下、「ピストン温度TP」)は機関運転状態の変化に対して遅れをもって上昇するものであるため、高圧側切替条件が成立してからしばらくは、実際に要求されるピストン冷却度合は高圧側切替条件の不成立の状態に対応したものに維持される。
【0049】
このため、機関回転速度NE及び機関負荷ELの変化のみに基づいてリリーフ圧力PXの切り替えを行うようにした場合においては、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第1運転領域RAから第2運転領域RBに移行したとき、次のことが問題となる。すなわち、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第1運転領域RAから第2運転領域RBに移行した直後、ピストン温度TPは機関運転状態の変化に対して遅れをもって上昇するため、当該切替え方法においてはピストン温度TPが比較的低温であるにもかかわらずリリーフ圧力PXが高圧側の第2リリーフ圧力P2に切替えられるようになる。そしてこの場合には、第2リリーフ圧力P2への切り替えにともない、オイルジェット46からピストン23の冷却に必要とされる量を大きく上回る量の潤滑油が噴射されてしまうことにより、潤滑油の消費量が不要に増大するようになる。
【0050】
そこで本実施形態では、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第1運転領域RAから第2運転領域RBに移行した旨、且つピストン温度TPが基準温度TPXよりも低い旨判定したとき、高圧側切替条件の成立に基づく第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2への切り替え時期を遅延するようにしている。すなわち、高圧側切替条件の示す機関運転状態から把握されるピストン冷却度合の要求量と実際のピストン温度TPから把握されるピストン冷却度合の要求量との間に大きな乖離が生じているとともに後者が前者を下回る状態にあるときには、高圧側切替条件が成立しているものの第2リリーフ圧力P2への切り替えを遅延して第1リリーフ圧力P1を維持するようにしている。
【0051】
これにより、ピストン温度TPが比較的低温であるにもかかわらずリリーフ圧力PXが高圧側の第2リリーフ圧力P2に切り替えられることに起因して、オイルジェット46からピストンの冷却に必要とされる量を大きく上回る量の潤滑油が噴射されてしまい、潤滑油の消費量が不要に増大することを抑制することができるようになる。
【0052】
以下、リリーフ圧力PXの切り替え時期の遅延制御についてその詳細を説明する。
本実施形態では、第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2への切り替えの遅延条件として、上記のピストン温度TPが基準温度TPXよりも低い旨の条件に加え、さらにピストン温度TPの上昇率(以下、「温度上昇率△TP」)が基準上昇率△TPXよりも小さい旨の条件を設定している。
【0053】
従って、潤滑油供給装置40においてのリリーフ圧力PXの切り替え遅延態様は次のようなものとなる。すなわち、高圧側切替条件が不成立の状態から成立の状態に変化したときにおいて、ピストン温度TPが基準温度TPXよりも低く且つ温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さいとき、高圧側切替条件の成立に基づくリリーフ圧力PXの切り替えを所定時間(以下、「遅延時間H」)だけ遅延する。一方、高圧側切替条件が不成立の状態から成立の状態に変化したときにおいて、ピストン温度TPが基準温度TPXよりも高いときまたは温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きいとき、高圧側切替条件の成立に基づいてリリーフ圧力PXの切り替えを実行する。
【0054】
ここで、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さいことを遅延条件として設定することの意義は次のとおりである。すなわち、ピストン温度TPが基準温度TPXよりも低いとき、上述したとおりピストン23に対する冷却度合の要求は小さいため、リリーフ圧力PXとしては第1リリーフ圧力P1を維持して潤滑油消費量の低減を図ることが望ましい状態にある。そこで、高圧側切替条件の成立時にピストン温度TPが基準温度TPXよりも低いときには、基本的にはリリーフ圧力PXの切り替えを遅延して遅延時間Hにわたり第1リリーフ圧力P1を維持する。
【0055】
しかし、高圧側切替条件が成立した時点での温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きい場合には、いかにそのときのピストン温度TPが基準温度TPXよりも低いとはいえ、リリーフ圧力PXの切り替えを遅延している期間中においてのピストン温度TPの上昇にともない、同期間中にピストン温度TPが基準温度TPXを超えてしまうことも想定される。そしてこの場合には、ピストン温度TPが基準温度TPXより大きい状態にあるものの、遅延時間Hが経過するまでは第1リリーフ圧力P1が維持されるため、オイルジェット46によるピストン23の冷却度合が実際のピストン温度TPに応じたものを下回るようになる。
【0056】
そこで本実施形態では、こうしたピストン23の冷却度合の不足が生じる頻度を低減するため、リリーフ圧力PXの切り替えの遅延条件として、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さい旨の条件を採用している。
【0057】
そして、以上の条件に基づいてリリーフ圧力PXを切替えるようにしているため、それによりリリーフ圧力PXを切替える遅延制御が行われないときには図3のラインL1に示すように、機関回転速度NEが切替ラインXL上の第2回転速度NE12を上回るときにリリーフ圧力PXが第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2に切替えられる。これにより、リリーフバルブ51が閉弁して潤滑油のリリーフがなされなくなる。
【0058】
上記の条件にてリリーフ圧力PXを切替える遅延制御が行われるとき、図3のラインL2に示すように、リリーフ圧力PXは第2回転速度NE12よりも大きいNE12Aで切替えられ、その後機関回転速度NEの上昇にともない、機関回転速度NEが回転速度NE12Aよりも大きく且つ回転速度NE13Aよりも小さい領域にあるとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2未満であることにより、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に設定された状態且つリリーフバルブ51が閉弁状態にある。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの上昇にともない速やかに増大する傾向を示す。
【0059】
図4を参照して、リリーフ圧力PX切り替え時期の遅延制御の具体的な処理手順を定めた「低圧側遅延制御処理」について、その内容を説明する。なお、この処理は、エンジン10の運転中において電子制御装置60により所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0060】
「低圧側遅延制御処理」ではまずステップS110において、ピストン温度TPが基準温度TPXより小さいか否かを判定する。ここでは、機関負荷ELが判定値ELXよりも小さいことをもってピストン温度TPが基準温度TPXより小さい旨判定する。
【0061】
ピストン温度TPが基準温度TPXより小さい旨判定したとき、次のステップS120にて、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さいか否か判定する。ここでは、その時点での機関負荷ELの増加率△ELが基準増加率△ELXよりも小さいことをもって温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さい旨判定する。
【0062】
温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXと同じまたはこれよりも大きい旨判定したときには、本処理を終了する。この場合、油圧制御を通じて第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2への切り替えが行われる。一方、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さい旨判定したとき、次のステップS130にて、高圧側切替条件が成立してから実際に第2リリーフ圧力P2への切り替えを行うまでの遅延時間Hを設定する。この遅延時間Hは換言すれば、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第1運転領域RAから第2運転領域RBに移行したときに、この機関運転状態の変化が生じてからこの変化に対するピストン温度TPの応答遅れが十分に解消されるまでの時間ということもできる。
【0063】
次のステップS140においては、遅延時間Hが経過したか否かを判定し、遅延時間Hが経過していない旨判定したときには遅延時間Hが経過するまで第1リリーフ圧力P1を維持する。そして、遅延時間Hが経過した旨判定したときに、本処理を終了する。このとき、油圧制御を通じて第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2への切り替えが行われる。
【0064】
本実施形態の内燃機関の潤滑油供給装置によれば以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、高圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度TPが基準温度TPXよりも低い旨判定したとき、高圧側切替条件に基づく第1リリーフ圧力P1から第2リリーフ圧力P2への切り替え時期を遅延するようにしている。これにより、ピストン温度TPが比較的低温であるにもかかわらずリリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に切り替えられることに起因して、オイルジェット46からピストン23の冷却に必要とされる量を大きく上回る量の潤滑油が噴射され、その消費量が不要に増大することを抑制することができるようになる。
【0065】
(第2実施形態)
図5及び図6を参照して、本発明にかかる内燃機関の潤滑油供給装置を車両用の電子制御式潤滑油供給装置として具体化した第2実施形態について説明する。先の第1実施形態では機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2の切替ラインXLをまたいで第1運転領域RAから第2運転領域RBに移行したときにおけるリリーフ圧力PXを切替える時期の遅延制御について説明した。これに対して本実施形態では、機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2の切替ラインXLをまたいで第2運転領域RBから第1運転領域RAに移行したときにおけるリリーフ圧力PXを切替える時期の遅延制御について説明する。なお、この点が第1実施形態と相違し、その他の点については同実施形態と同様の構成を採用しているため、この部分についての説明は省略する。
【0066】
図5を参照して、機関回転速度NEと供給油圧Pとの関係について説明する。ここでは、同関係の一例として、機関回転速度NE及び機関負荷ELが図2のマップ上においてラインLBにて示す態様をもって運転状態XBから運転状態XAまで変化した場合を取りあげている。
【0067】
機関回転速度NEが第3回転速度NE23を上回っているとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2よりも大きく、リリーフバルブ51が開弁してオイルポンプ43から吐出された潤滑油の一部は同ポンプ43の上流側にリリーフされている。
【0068】
機関回転速度NEが第3回転速度NE23よりも大きい領域にあるとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2以上であることにより、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2に設定された状態且つリリーフバルブ51が開弁した状態にある。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの下降にともない減少するものの、リリーフバルブ51が開弁していることにより減少の度合は緩やかになる。
【0069】
機関回転速度NEが切替ラインXL上の第3回転速度NE23を下回るとき、リリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1に切り替えられる。これにより、リリーフバルブ51が閉弁して潤滑油のリリーフがなされなくなる。
【0070】
機関回転速度NEが第3回転速度NE23よりも小さく且つ第2回転速度NE22よりも大きい領域にあるとき、供給油圧Pが第1リリーフ圧力P1以上であることにより、リリーフ圧力PXが第1リリーフ圧力P1に設定された状態且つリリーフバルブ51が閉弁状態にある。これにより、機関回転速度NEが第3回転速度NE23より大きい場合と比較して供給油圧Pは機関回転速度NEの下降にともない速やかに減少する傾向を示す。
【0071】
機関回転速度NEが第2回転速度NE22よりも小さく且つ第1回転速度NE21よりも大きい領域にあるとき、供給油圧Pが第1リリーフ圧力P1よりも大きいことにより、オイルポンプ43から吐出された潤滑油の一部は同ポンプ43の上流側にリリーフされる。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの下降にともない減少するものの、リリーフバルブ51が開弁していることにより減少の度合は緩やかになる。
【0072】
機関回転速度NEが第1回転速度NE21よりも小さい領域にあるとき、供給油圧Pが第1リリーフ圧力P1未満であることにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの下降にともない減少し、機関回転速度NEが第2回転速度NE22と第1回転速度NE21との間にある場合と比較して供給油圧Pは機関回転速度NEの下降にともない速やかに減少する傾向を示す。
【0073】
ここで、低圧側切替条件はピストン冷却度合を含めた機関各潤滑部位の冷却度合の要求との関係のもとに設定されるものであり、低圧側切替条件が成立していない状態は機関各潤滑部位の冷却度合の要求量が大きい状態を、また低圧側切替条件が成立している状態は機関各潤滑部位の冷却度合の要求量が小さい状態をそれぞれ示すものとなる。
【0074】
そして、機関運転状態の変化にともない低圧側切替条件の不成立の状態から成立の状態に移行したとき、基本的にはピストン冷却度合の要求量もこれに応じて減少するようになる。とはいえ、ピストン温度TPは機関運転状態の変化に対して遅れをもって下降するものであるため、低圧側切替条件が成立してからしばらくは、実際に要求されるピストン冷却度合は低圧側切替条件の不成立の状態に対応したものに維持される。
【0075】
このため、機関回転速度NE及び機関負荷ELの変化のみに基づいてリリーフ圧力PXの切り替えを行うようにした場合においては、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第2運転領域RBから第1運転領域RAに移行したとき、次のことが問題となる。すなわち、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第2運転領域RBから第1運転領域RAに移行した直後、ピストン温度TPは機関運転状態の変化に対して遅れをもって下降するため、当該切替え方法においてはピストン温度TPが比較的高温であるにもかかわらずリリーフ圧力PXが低圧側の第1リリーフ圧力P1に切替えられるようになる。そしてこの場合には、第1リリーフ圧力P1への切り替えにともない、オイルジェット46からはピストン23の冷却に必要とされる量を大きく下回る量の潤滑油しか噴射されないことにより、ピストン23の冷却度合が不足するようになる。
【0076】
そこで本実施形態では、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第2運転領域RBから第1運転領域RAに移行した旨、且つピストン温度TPが基準温度TPXよりも高い旨判定したとき、低圧側切替条件の成立に基づく第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1への切り替え時期を遅延するようにしている。すなわち、低圧側切替条件の示す機関運転状態から把握されるピストン冷却度合の要求量と実際のピストン温度TPから把握されるピストン冷却度合の要求量との間に大きな乖離が生じているとともに後者が前者を上回る状態にあるときには、低圧側切替条件が成立しているものの第1リリーフ圧力P1への切り替えを遅延して第2リリーフ圧力P2を維持するようにしている。
【0077】
これにより、ピストン温度TPが比較的高温であるにもかかわらずリリーフ圧力PXが低圧側の第1リリーフ圧力P1に切り替えられることに起因して、オイルジェット46からピストンの冷却に必要とされる量を大きく下回る量の潤滑油しか噴射されないことによるピストン23の冷却度合が不足することを抑制することができるようになる。
【0078】
以下、リリーフ圧力PXの切り替え時期の遅延制御についてその詳細を説明する。
本実施形態では、第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1への切り替えの遅延条件として、上記のピストン温度TPが基準温度TPXよりも高い旨の条件に加え、さらにピストン温度TPの上昇率(以下、「温度上昇率△TP」)が基準上昇率△TPXよりも大きい旨の条件を設定している。
【0079】
従って、潤滑油供給装置40においてのリリーフ圧力PXの切り替え遅延態様は次のようなものとなる。すなわち、低圧側切替条件が不成立の状態から成立の状態に変化たときにおいて、ピストン温度TPが基準温度TPXよりも高く且つ温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きいとき、低圧側切替条件の成立に基づくリリーフ圧力PXの切り替えを遅延時間Hだけ遅延する。一方、低圧側切替条件が不成立の状態から成立の状態に変化したときにおいて、ピストン温度TPが基準温度TPXよりも低いときまたは温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さいとき、低圧側切替条件の成立に基づいてリリーフ圧力PXの切り替えを実行する。
【0080】
ここで、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きいことを遅延条件として設定することの意義は次のとおりである。すなわち、ピストン温度TPが基準温度TPXよりも高いとき、上述したとおりピストン23に対する冷却度合の要求は大きいため、リリーフ圧力PXとしては第2リリーフ圧力P2を維持してピストン23の冷却を図ることが望ましい状態にある。そこで、低圧側切替条件の成立時にピストン温度TPが基準温度TPXよりも高いときには、基本的にはリリーフ圧力PXの切り替えを遅延して遅延時間Hにわたり第2リリーフ圧力P2を維持する。
【0081】
しかし、低圧側切替条件が成立した時点での温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも小さい場合には、いかにそのときのピストン温度TPが基準温度TPXよりも高いとはいえ、リリーフ圧力PXの切り替えを遅延している期間中においてのピストン温度TPの下降にともない、同期間中にピストン温度TPが基準温度TPXを下回ることも想定される。そしてこの場合には、ピストン温度TPが基準温度TPXより小さい状態にあるものの、遅延時間Hが経過するまでは第2リリーフ圧力P2が維持されるため、オイルジェット46からピストン23の冷却度合が実際のピストン温度TPに応じたものを上回る量の潤滑油が噴射され、潤滑油の消費量が不要に増大してしまう。
【0082】
そこで本実施形態では、こうした潤滑油の消費量が不要に増大してしまう頻度を低減するため、リリーフ圧力PXの切り替えの遅延条件として、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きい旨の条件を採用している。
【0083】
そして、以上の条件に基づいてリリーフ圧力PXを切替えるようにしているため、それによりリリーフ圧力PXを切替える遅延制御が行われないときには図5のラインL4に示すように、機関回転速度NEが切替ラインXL上の第3回転速度NE23を下回るときにリリーフ圧力PXが第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1に切替えられる。
【0084】
上記の条件にてリリーフ圧力PXを切替える遅延制御が行われるとき、図3のラインL5に示すように、リリーフ圧力PXは第3回転速度NE23よりも小さい回転速度NE23Aで切替えられ、その後機関回転速度NEの下降にともない、機関回転速度NEがNE23Aよりも小さく且つ機関回転速度NE22Aよりも大きい領域にあるとき、供給油圧Pが第2リリーフ圧力P2未満であることにより、リリーフ圧力PXが第1リリーフ圧力P1に設定された状態且つリリーフバルブ51が閉弁状態にある。これにより、供給油圧Pは機関回転速度NEの下降にともない速やかに減少する傾向を示す。
【0085】
図6を参照して、リリーフ圧力PX切り替え時期の遅延制御の具体的な処理手順を定めた「高圧側遅延制御処理」について、その内容を説明する。なお、この処理は、エンジン10の運転中において電子制御装置60により所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0086】
「高圧側遅延制御処理」ではまずステップS210において、ピストン温度TPが基準温度TPXより大きいか否かを判定する。ここでは、機関負荷ELが判定値ELXよりも大きいことをもってピストン温度TPが基準温度TPXより大きい旨判定する。
【0087】
ピストン温度TPが基準温度TPXより大きい旨判定したとき、次のステップS220にて、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きいか否か判定する。ここでは、その時点での機関負荷ELの増加率△ELが基準増加率△ELXよりも大きいことをもって温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きい旨判定する。
【0088】
温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXと同じまたはこれよりも小さい旨判定したときには、本処理を終了する。この場合、油圧制御を通じて第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1への切り替えが行われる。一方、温度上昇率△TPが基準上昇率△TPXよりも大きい旨判定したとき、次のステップS230にて、低圧側切替条件が成立してから実際に第1リリーフ圧力P1への切り替えを行うまでの遅延時間Hを設定する。この遅延時間Hは換言すれば、機関回転速度NE及び機関負荷ELが第2運転領域RBから第1運転領域RAに移行したときに、この機関運転状態の変化が生じてからこの変化に対するピストン温度TPの応答遅れが十分に解消されるまでの時間ということもできる。
【0089】
次のステップS240においては、遅延時間Hが経過したか否かを判定し、遅延時間Hが経過していない旨判定したときには遅延時間Hが経過するまで第2リリーフ圧力P2を維持する。そして、遅延時間Hが経過した旨判定したときに、本処理を終了する。このとき、油圧制御を通じて第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1への切り替えが行われる。
【0090】
本実施形態の内燃機関の潤滑油供給装置によれば以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、低圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度TPが基準温度TPXよりも高い旨判定したとき、低圧側切替条件に基づく第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1への切り替え時期を遅延するようにしている。これにより、ピストン温度TPが比較的高温であるにもかかわらずリリーフ圧力PXが低圧側の第1リリーフ圧力P1に切り替えられることに起因して、オイルジェット46からピストン23の冷却に必要とされる量を大きく下回る量の潤滑油しか噴射されないことによるピストン23の冷却度合が不足することを抑制することができるようになる。
【0091】
(2)さらに、第2リリーフ圧力P2から第1リリーフ圧力P1に切替えるタイミングを機関回転速度NE及び機関負荷ELに基づき予め設定されているタイミングよりも遅延時間H遅らせることでピストン23が十分に冷却されていることにより、減速復帰時において速やかに火花点火制御を行うことができ、エンジン10の性能を向上させることができる。
【0092】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更することもできる。
【0093】
・上記各実施形態では、機関回転速度NEが低回転領域または中回転領域にあるときにはオイルジェット46による潤滑油の噴射を停止する構成としたが、これらの回転速度領域においてオイルジェット46の潤滑油噴射を行うこともできる。この場合、機関回転速度NEが高回転領域にあるときに比較するとピストン23に冷却度合の要求は小さいため、これに応じてオイルジェット用バルブ47の開度を調整してオイルジェット46の潤滑油の噴射量を機関高回転時よりも少なくすることができる。
【0094】
・上記各実施形態では、機関負荷ELに基づいてピストン温度TPを推定したが、ピストン温度を推定する方法はこれに限られない。例えば、ピストン温度TPと相関を有する他の運転パラメータ(例えば、機関冷却水の温度)に基づいて推定する方法、あるいは温度センサによりピストン温度TPを直接的に監視する方法を採用することもできる。
【0095】
・上記各実施形態では、エンジン10の各部位に対してリリーフ圧力PXを第1リリーフ圧力P1及び第2リリーフ圧力P2の2段階に切替えることのできる油圧制御機構50を備えるようにしたが、第1リリーフ圧力P1及び第2リリーフ圧力P2を選択することのできるものであれば供給油圧Pの切替段階は2段階に限られるものではない。例えば油圧制御機構50として、リリーフ圧力PXを3段階以上に切り替えるものを採用することもできる。
【0096】
・本発明に係るリリーフバルブは上記実施形態において例示したリリーフバルブ51に限られるものではない。リリーフバルブとしては、オイルポンプ43から吐出される潤滑油の圧力が所定の開弁圧以上となると開弁して同潤滑油の一部をオイルポンプ43の上流側に逃がすものであればよい。
【0097】
・結局のところ、上記各変更が許容される範囲内の潤滑油供給装置であれば、いずれの潤滑油供給装置に対しても本発明の適用は可能であり、その場合にも上記実施形態の作用効果に準じた作用効果を奏することはできる。
【符号の説明】
【0098】
10…エンジン、20、エンジン本体、21…シリンダブロック、22…シリンダ、23…ピストン、24…コネクティングロッド、25…クランクシャフト、26…インジェクタ、30…燃焼室、40…潤滑油供給装置、41…オイルパン、42…供給通路、42A…メイン供給通路、42B…オイルジェット用油路、43…オイルポンプ、44…オイルストレーナ、45…オイルフィルタ、46…オイルジェット(潤滑油噴射機構)、47…オイルジェット用バルブ、50…油圧制御機構、51…リリーフバルブ、52…切替バルブ、53…リリーフ通路、54…切替バルブ用通路、60…電子制御装置、61…アクセルポジションセンサ、62…クランクポジションセンサ、63…スロットルポジションセンサ、64…エアフロメータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンに対して潤滑油を噴射する潤滑油噴射機構と、この噴射機構に潤滑油を供給する供給通路の圧力を制御する油圧制御機構とを備えるものであって、同油圧制御機構は、前記供給通路から当該制御機構に供給される潤滑油の圧力が所定のリリーフ圧力を超えるときに同潤滑油を所定部位にリリーフするとともに高圧側切替条件の成立に基づいて前記所定のリリーフ圧力を低圧側の第1リリーフ圧力から高圧側の第2リリーフ圧力に切り替えるものである内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記高圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度が基準温度よりも低い旨判定したとき、前記高圧側切替条件に基づく前記第1リリーフ圧力から前記第2リリーフ圧力への切り替え時期を遅延する
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。
【請求項2】
ピストンに対して潤滑油を噴射する潤滑油噴射機構と、この噴射機構に潤滑油を供給する供給通路の圧力を制御する油圧制御機構とを備えるものであって、同油圧制御機構は、前記供給通路から当該制御機構に供給される潤滑油の圧力が所定のリリーフ圧力を超えるときに同潤滑油を所定部位にリリーフするとともに低圧側切替条件の成立に基づいて前記所定のリリーフ圧力を高圧側の第2リリーフ圧力から低圧側の第1リリーフ圧力に切り替えるものである内燃機関の潤滑油供給装置において、
前記低圧側切替条件が成立している旨判定し且つピストン温度が基準温度よりも高い旨判定したとき、前記低圧側切替条件に基づく前記第2リリーフ圧力から前記第1リリーフ圧力への切り替え時期を遅延する
ことを特徴とする内燃機関の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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