説明

内燃機関の過給補助方法及び内燃機関

【課題】制御装置が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができて、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができる内燃機関の過給補助方法及び内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関1、1Aの排気ガスGの一部Geをシリンダ内に再循環するためのEGR通路17と、内燃機関1、1Aの排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCをガス圧縮装置25で圧縮して蓄ガス容器27に蓄圧し、該蓄ガス容器27の蓄圧ガスCを用いて、内燃機関1、1Aの過渡状態で過給補助を行う内燃機関の過給補助方法において、内燃機関1、1Aの運転状態が過渡状態であると判定したときに、前記蓄ガス容器27からの蓄圧ガスCを用いて過給補助を行うのみならず、手動操作により、過給補助起動スイッチがONされたときにおいても過給補助を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の過渡状態のときに、蓄ガス容器に蓄圧された蓄圧ガスをシリンダ内に供給してEGR率を高めることができる内燃機関の過給補助方法及び内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気ガス中のNOx(窒素酸化物)を低減するEGR(排気再循環)においては、過給システムを備えた内燃機関では、高圧EGR方式と低圧EGR方式とがある。この高圧EGR方式では、例えば、図9に示すように、高圧EGRシステムを備えた内燃機関1Xでは、ターボ式過給機14よりもエンジン本体11側にEGR通路17が設けられており、エンジン本体11の排気マニホールド11bから吸気マニホールド11aにEGR通路17経由でEGRガスGeを還流している。また、低圧EGR方式では、例えば、図10に示すように、低圧EGRシステムを備えた内燃機関1Yでは、ターボ式過給機14よりもエンジン本体11とは反対側にEGR通路17が設けられており、タービン14bの下流側からコンプレッサ14aの上流側にEGR通路17経由でEGRガスGeを還流している。
【0003】
これらのいずれのEGR方式でも、EGRガス量の制御には、MAF制御方式が一般的に使用されている。このMAF制御方式では、EGR無しでエンジンのシリンダ内に吸入される新気量(空気量)をMoとし、EGRを行うことでシリンダ内に吸入される新気量をMeとすると、還流されるEGRガス量のMegrがMegr=Mo−Meとなるので、これに基づいて、EGR弁21の弁開度により新気量Meを制御することで、EGRガス量Megrを制御している。
【0004】
つまり、エンジンの回転速度Neと燃料負荷Qをパラメータにして、各エンジンの運転状態に対する新気量Meを予め設定して作成した新気量Meのデータマップを基に、実際のエンジン運転時の回転速度Neと燃料負荷Qから目標の新気量Metを算出して、実際の新気量Meをこの目標の新気量Metになるように制御することで、EGRガス量Megrを制御している。
【0005】
しかしながら、ターボ式過給機を使用する場合には排気ガスのエネルギー(エンタルピ)を用いて過給を行うため、ターボ式過給機の応答遅れ(ターボラグ)を無くすことは不可能であり、このMAF制御方式では、このターボラグに起因する次のような問題がある。ターボラグにより負荷が急激に増加する過渡運転状態では、過給圧が定常運転時に設定した圧力まで上昇しないため、エンジンの吸入空気量が低下する。つまり、ターボ式過給機付きエンジンでも無過給エンジンと同程度の吸気量となってしまう。
【0006】
従って、定常運転条件で設定した目標のEGR量に達成することができず、図11に示すように、急激な過渡運転を行う際にNOxの排出量が増加する。また、煤の発生量を制限するために、過給圧があるレベルより上がらない場合には煤が増加しない領域内に燃料の投入量が抑えられるというスモークリミット制御が行われる。その結果、図12及び図13に示すように、燃料噴射量Qと空気量(Mo、Me)が共に点線で示されるように抑えられ、加速時のパワーが抑えられてしまうという問題がある。そのために、加速時等の負荷が急激に増加する過渡運転時には、NOx排出量の増加や燃費の悪化が発生する。
【0007】
一方、エンジンのクランクシャフト等によって、過給機を直接駆動して過給を行う機械式過給装置を使用する場合では、過給の応答遅れをなくす事ができるが、エンジンの回転速度が決まると燃料量の多少に関わらず、過給量が決まるために、また、駆動に要する仕事量が大きいために、燃費が悪化するという問題がある。
【0008】
この対策として、近年では、図14に示すような蓄ガス供給システムを備えた内燃機関1Zが研究されており、この蓄ガス供給システムでは、内燃機関1Zから排出される排気ガスGの一部Gpを空気Aaと混合した混合ガスCを容積型コンプレッサ(排気圧縮器)25で圧縮して高圧化し、この高圧化した混合ガスCを蓄ガス容器(圧力容器)27内に溜め込み、過渡時に放出電磁弁36を開弁して混合ガスCを調圧弁29経由で吸気弁(吸気スロットル)35の下流の吸気通路12に放出し、これにより、内燃機関1Zのシリンダ内への吸気量を過給機付きエンジン並みに増加させると共に、EGRの効果によるNOxの低減を図り、ターボラグの問題を解消している過給制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この蓄ガス供給システムを採用した場合は、過渡時に加圧された混合ガスCをエンジン1Zの吸気通路12内に放出することで過給圧を上げて、シリンダ内への空気量を増加させることができるので燃料量も増やすことができる。その結果、加速性能が向上し、煤の排出も抑えることができる。また、過給圧は排気マニホールド11bの内圧よりも高くなるので、内燃機関1Zのポンピング損失が低下し燃費の向上を図ることができる。
【0010】
また、一方で、近年、内燃機関を高出力化する際に、車両の内燃機関を従来の排気量の内燃機関から小排気量で且つ高出力化した内燃機関に載せ換える、いわゆるダウンサイジングの動きが大きな流れになっている。ところが、このダウンサイジングされた車両では、小排気量の内燃機関に伴う発進性の悪化も起こるので、この蓄ガス供給システムは、極めて有効な手段である。
【0011】
しかしながら、この蓄ガス供給システムでは、発進性の改良と燃費低減には有効であるが、定常走行状態から追い越しのために加速する場合に、例えば、対向車の登場により緊急に衝突の危険を防止するために高速から更に急激に加速が必要となる場合に、過給補助の制御が難しくなるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2011−21558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡状態のときに蓄圧ガスをシリンダ内に一時的に供給して、過渡状態におけるNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる内燃機関において、制御装置が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができて、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができる内燃機関の過給補助方法及び内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するための本発明の内燃機関の過給補助方法は、内燃機関の排気ガスの一部をシリンダ内に再循環するためのEGR通路と、内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮するガス圧縮装置と、該ガス圧縮装置で圧縮された前記ガスを貯蓄する蓄ガス容器と、該蓄ガス容器と吸気系通路を流路切替装置を介して接続する蓄ガス供給通路を備えた内燃機関の過給補助方法において、内燃機関の運転状態が過渡状態であると判定したときに、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行うと共に、手動操作により、過給補助起動スイッチがONされたときにおいても、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行うことを特徴とする方法である。
【0015】
この方法によれば、制御装置が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができるので、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができるようになる。
【0016】
上記の内燃機関の過給補助方法において、排気ガスの一部の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が通常運転時に行い、空気の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が制動状態であるときにのみ行う方法を採用すると、空気の蓄ガス容器への充填を制動状態のときに行うので、制動エネルギーを回生して充填を行うことができ、燃費を向上させることができる。
【0017】
そして、上記の目的を達成するための内燃機関は、上記の内燃機関の過給補助方法を実施できる内燃機関であり、内燃機関の排気ガスの一部をシリンダ内に再循環するためのEGR通路と、内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮するガス圧縮装置と、該ガス圧縮装置で圧縮された前記ガスを貯蓄する蓄ガス容器と、該蓄ガス容器と吸気系通路を流路切替装置を介して接続する蓄ガス供給通路を備えた内燃機関において、EGR弁と吸気弁と前記流路切替装置を制御する制御装置と手動の過給補助起動スイッチを備えて、該制御装置が、内燃機関の運転状態が過渡状態であると判定したときに、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行うと共に、手動操作により、過給補助起動スイッチがONされたときにおいても、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行う制御をするように構成される。
【0018】
この構成によれば、制御装置が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができるので、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができるようになる。
【0019】
上記の内燃機関において、前記制御装置が、排気ガスの一部の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が通常運転時に行い、空気の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が制動状態であるときにのみ行う制御をするように構成すると、空気の蓄ガス容器への充填を制動状態のときに行うので、制動エネルギーを回生して充填を行うことができ、燃費を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る内燃機関の過給補助方法及び内燃機関によれば、ガス圧縮装置を用いて、内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡状態のときに蓄圧ガスをシリンダ内に一時的に供給して、過渡状態のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる内燃機関において、制御装置が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができて、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関の構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の過給補助方法の制御の一例を示す図である。
【図4】図3のステップS20の蓄ガス制御の詳細を示す図である。
【図5】図3のステップS30の過給補助制御の詳細を示す図である。
【図6】蓄ガス用のガス圧縮装置の駆動を説明するための図である。
【図7】三方切替弁で構成された流路切替装置の構造を吸気ラインが連通された状態で示す図である。
【図8】三方切替弁で構成された流路切替装置の構造を蓄ガス供給ラインが連通された状態で示す図である。
【図9】従来技術の高圧EGR方式の内燃機関の構成を示す図である。
【図10】従来技術の低圧EGR方式の内燃機関の構成を示す図である。
【図11】車速の変化と瞬時NOx排出量の関係を示す図である。
【図12】全負荷における燃料噴射量の特性と過渡時の動きを示す図である。
【図13】過渡時のターボ式過給機の応答遅れとEGRの関係を示す図である。
【図14】先行技術の内燃機関の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関の過給補助方法及び内燃機関について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1に示すように、本発明に係る第1の実施の形態のエンジン(内燃機関)1は、エンジン本体11と吸気マニホールド11aに接続する吸気通路12と排気マニホールド11bに接続する排気通路13を有して構成される。この吸気マニホールド11aと吸気通路12とで吸気系通路を形成し、排気マニホールド11bと排気通路13とで排気系通路を形成する。
【0024】
吸気通路12には、上流側から順にエアマスフローセンサ(MAFセンサ)52と吸気弁(インテークスロットル)51とターボ式過給機14のコンプレッサ14aが設けられ、排気通路13には、ターボ式過給機14のタービン14bと、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)装置15とNOx吸蔵還元型触媒等で形成されるNOx浄化触媒16が設けられている。
【0025】
また、タービン14bの上流側の排気通路13からEGR通路17が分岐され、コンプレッサ14aの上流側の吸気通路12にEGR合流部18で合流している。このEGR通路17には上流側から、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)装置19とEGRクーラ20とEGR弁21が設けられている。
【0026】
更に、NOx浄化触媒16の下流側の排気通路13から分岐して、排気ガス導入通路22が設けられている。この排気ガス導入通路22にはEGRクーラ23と三方弁24が設けられ、この排気ガス導入通路22は機械式の容積型過給機(往復動式が望ましい)等で形成されるガス圧縮装置25に接続されている。このガス圧縮装置25は、圧縮ガス供給通路26により圧力容器等で形成される蓄ガス容器27に接続されている。また、この蓄ガス容器27は蓄ガス供給通路28により吸気通路12と接続されている。この排気ガス導入通路22と圧縮ガス供給通路26と蓄ガス供給通路28で蓄圧ガス系通路を形成する。
【0027】
図6に示すように、このガス圧縮装置25は、エンジン1を搭載した車両の車軸31から歯車32、33と、電磁クラッチ34を経由してガス圧縮装置25の駆動軸に動力を伝達する。この電磁クラッチ34をONにして接続することにより、ガス圧縮装置25を駆動して、排気ガス導入通路22からの排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCを、圧縮して高圧化して蓄ガス容器27に供給し、貯蔵する。このとき、三方弁24で、排気ガスGの一部Gpの量と空気Aaの量を調整して、蓄ガス容器27で貯蔵される蓄圧ガスCにおける酸素濃度を略一定に保つことが好ましく、これにより、EGRを行うときの制御を単純化することができる。また、図1に示すように、蓄ガス供給通路28には、電磁弁29が配置され、流路切替装置30への蓄圧ガスCの供給を制御する。
【0028】
なお、図1に示すように、この蓄ガス容器27の内部の最大圧を調整する調整弁27aを、蓄ガス容器27に設けて、ガス圧縮装置25を駆動している時には、常に仕事が発生するように調整弁27aを調整する。なお、図1では、調整弁27aを蓄ガス容器27に設けているが、調整弁27aを蓄ガス容器27とガス圧縮装置25の間の圧縮ガス供給通路26に設けてもよい。
【0029】
つまり、エンジン1は、排気ガスGの一部Geをシリンダ内に再循環するためのEGR通路17と、エンジン1の排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCを圧縮するガス圧縮装置25と、このガス圧縮装置25で圧縮されたガスCを貯蓄する蓄ガス容器27と、この蓄ガス容器27と吸気通路12を接続する蓄ガス供給通路28を備えて構成される。
【0030】
そして、吸気通路12と蓄ガス供給通路28は流路切替装置30を介して接続される。図1に示すように、この流路切替装置30をEGR通路17と吸気通路12との合流部であるEGR合流部18よりも下流側に配置する。また、流路切替装置30は吸気通路12の下流側の通路側を開放したまま、蓄ガス供給通路28側と吸気通路12の上流側の通路側とを切り替えるように構成される。この流路切替装置30は、図7及び図8に示すような三方切替弁で構成することができる。
【0031】
図7及び図8に示す流路切替装置30では、駆動用ガスApを入れてピストンの背面の空気Aeを抜くことで、駆動用高速シリンダ30aのロッド30bを移動させることにより、シャッター部30cを移動させて、図7に示すように、蓄ガス供給通路28側を閉じて、吸気通路12の上流側12aと下流側12bを連通させ、また、図8に示すように、吸気通路12の上流側12a側を閉じて、蓄ガス供給通路28と吸気通路12の下流側12bを連通させる。
【0032】
そして、エンジン1の運転の全般及び上記の機器類の制御を行うために、エンジンコントロールユニット(ECU)と呼ばれる制御装置40を設け、図6に示すように、この制御装置40で吸気マニホールド11a内の圧力や蓄ガス容器27内の圧力P0やエンジン回転速度Neやアクセル開度α等を検出して、その結果に基づいて電磁クラッチ34や三方弁24を制御して、蓄ガス容器27内の蓄圧ガスCの量(圧力P0)と排気ガスGpと空気Aaの混合比率を調整制御する。
【0033】
更に、手動の過給補助起動スイッチ(図示しない)をこのエンジン1を搭載した車両の運転席に設けて、ドライバーが、急加速時などで、更に、過給補助が必要であると判断したときに、ドライバーがこの過給補助起動スイッチをONにすると、制御装置40により過渡状態の判定に関係なく、過給補助を行うように構成する。
【0034】
次に、本発明に係る第2の実施の形態のエンジン(内燃機関)1Aについて説明する。図2に示すように、この第2の実施の形態のエンジン1Aでは、EGR通路17がNOx浄化触媒16の下流側の排気通路13から分岐している点が、EGR通路17がターボ式過給機14のタービン14bの上流側の排気通路13から分岐している第1の実施の形態と異なっている。その他の点は、第1の実施の形態と同じである。
【0035】
つまり、EGR通路17に流入する排気ガスGeが、第1の実施の形態のエンジン1では、ターボ式過給機14のタービン14bを通過する前の排気ガスGの一部となっているのに対して、この第2の実施の形態のエンジン1Aでは、ターボ式過給機14のタービン14bを通過した後の排気ガスGの一部となっている。言い換えれば、第1の実施の形態のエンジン1では、高圧EGR方式が採用されており、第2の実施の形態のエンジン1Aでは低圧EGR方式が採用されている。
【0036】
次に、エンジン(内燃機関)1、1Aの制御装置40で行う、内燃機関の過給補助方法について説明する。この内燃機関の過給補助方法は、上記の構成のエンジン1、1A等で実施できる方法である。この内燃機関の過給補助方法は、エンジン1、1Aの排気通路(排気系通路)13の排気ガスGの一部Gpと空気Aaとこれらの混合ガスのいずれかのガスCを圧縮して貯蓄する。
【0037】
それと共に、過給補助方法では、エンジン1、1Aの運転状態が過渡状態でないときには、エンジン1、1Aの排気ガスGの一部Geを、EGR通路17を経由してシリンダ内に再循環し、エンジン1、1Aが過渡状態であるときには、蓄圧ガスCを一時的に吸気通路(吸気系通路)12に供給する過給補助を行う。つまり、エンジン1、1Aが過渡状態であるときには、EGR通路17からのEGRガスGeと、吸気通路12からの新気Aとを流路切替装置30で遮断して、蓄圧ガスCのみを吸気通路12に供給する。
【0038】
また、この内燃機関の過給補助方法において、EGRガスGeと新気Aとの遮断、及び蓄圧ガスCの供給を、図7と図8で示すような三方切替弁で構成した流路切替装置30で行う。
【0039】
これらの制御においては制御装置40で、エンジン回転速度Ne、エンジン空気量(Mo、Me)、エンジン燃料量(燃料噴射量)Q、蓄ガス容器27の内部の圧力P0等の検出値等に基づいて、電磁弁29とEGR弁21と流路切替装置30を制御する。
【0040】
次に、本発明における過給補助方法について説明する。この過給補助方法は、上記の第1の実施の形態のエンジン1と第2の実施の形態のエンジン1Aにおける制御方法であり、制御装置40によって実施される。
【0041】
この過給補助方法は、図3に例示するような制御フローに沿って行われる。この図3の制御フローでは、エンジンがスタートすると、図3の制御フローが上位の制御フローから呼ばれてスタートする。最初のステップS11で蓄ガス容器27内の蓄ガス圧力P0を測定し、次のステップS12で蓄ガス圧力P0の判定をする。
【0042】
この判定で、蓄ガス圧力P0と目標ガス圧力Ptとを比較し、蓄ガス圧力P0が目標ガス圧力Ptより低い(P0<Pt)場合には(NO)、蓄ガス圧力P0を目標ガス圧力Ptにする必要があるとして、ステップS20の蓄ガス制御に行き、排気ガスGの一部Gpまたは空気Aaを充填する。また、この判定で、蓄ガス圧力P0が目標ガス圧力Pt以上(P0≧Pt)の場合には(YES)、蓄圧ガスCによる過給補助の条件が整っているとして、ステップS30の過給補助制御に行き、蓄圧ガスCによる過給補助を行う。
【0043】
ステップS20又はステップS30を終了するとステップS11に戻り、ステップS11〜S20又はステップS11〜S30を繰り返し、エンジンの停止と共に割り込みが生じてリターンに行き、上級の制御フローに戻り、上級の制御フローの終了とともにこの図3の制御フローも終了する。
【0044】
ステップS20の蓄ガス制御では、図4に示すように、最初のステップS21で、排気ガスGの一部Gpを充填する暫定目標圧力(絶対圧、以下同様)Pmeを算出する。蓄ガス容器27の蓄ガス圧力(容器内残圧)P0を目標ガス圧力Pt(=P0+ΔP)とするとこの暫定目標圧力Pmeは「P0+Cgt×(Pt−P0)=P0+(Pt−P0)×(Ptg/Pt)」で算出される。
【0045】
つまり、蓄ガス容器27内に供給するガスCにおける排気ガスGpの比率をCgとすると、排気ガスGpの目標分圧Ptgは「Pt×Cgt」となり、追加充填分の分圧ΔPgは「ΔP×Cgt」となる。また、空気Aaの目標分圧Ptaは「Pt×Cga=Pt×(1−Cgt)」となり、追加充填分の分圧ΔPaは「ΔP×(1−Cgt)」となる。これらの排気ガスGpの分圧ΔPgと空気Aaの分圧ΔPaの比「Cg/(1−Cg)」は、蓄ガス圧力P0が変化しても変わらないので、暫定目標圧力Pmeは「P0+Cgt×ΔP=P0+Cgt×(Pt−P0)=P0+(Pt−P0)×(Ptg/Pt)」で算出されることになる。
【0046】
従って、排気ガスGpの充填は、蓄ガス圧力P0が暫定目標圧力Pmeとなるまで、言い換えれば、Cgt×ΔP/Ptの分の排気ガスGpを追加充填する。その上で空気AaをPtになるまで、言い換えれば、(1−Cgt)×ΔP/Ptの分の空気Aaを追加充填すればよい。
【0047】
次のステップS22では、三方弁24を排気ガスGの一部Gpがガス圧縮装置25に供給されるように切り換えて、電磁クラッチ34をONにして、予め設定された時間(ステップS23の蓄ガス圧力の判定のインターバルに関係する時間)の間、排気ガスGpを蓄ガス容器27に蓄圧する。
【0048】
次のステップS23では、蓄ガス圧力P0が暫定目標圧力Pmeになったか否かを判定し、蓄ガス圧力P0が暫定目標圧力Pmeになっていなかったら(P0<Pme)(NO)、ステップS22に戻り、蓄ガス圧力P0が暫定目標圧力Pmeになったら(PO≧Pme)(YES)、ステップS24に行き、電磁クラッチ34をOFFにして、排気ガスGpの蓄圧を終了し、次のステップS25に行く。つまり、蓄ガス圧力P0が暫定目標圧力Pmeになるまで排気ガスGpの蓄圧を行う。
【0049】
次のステップS25では、エンジンの運転状態が制動状態にあるか否かを判定し、エンジンが制動状態にない場合には(NO)、ステップS26で、電磁クラッチ34をOFFにして、所定の時間(ステップS25のエンジンの運転状態のインターバルに関係する時間)を経過した後、ステップS25に戻る。なお、エンジンの運転状態が制動状態にない場合は、車軸と電磁クラッチ間の車軸とガス圧縮装置の間のギヤ比の変速比を負荷運転時にガス圧縮装置25の回転速度を制御するための変速比に制御する。
【0050】
このエンジンの運転状態が制動状態にあるとは、エンジンがブレーキ作動状態にあることであり、フットブレーキ、排気ブレーキ、エンジンブレーキ、その他の補助ブレーキのいずれかの作動状態になっていることを意味する。制御としては、車両側の駆動軸31の回転速度を測定し、この回転速度の低下率が予め設定された設定回転速度低下率以下のときに制動状態にあると判定する。あるいは、フットブレーキ、排気ブレーキ、エンジンブレーキ、その他の補助ブレーキの作動をモニターし、いずれかが作動状態にあるときに制動状態にあると判定する。
【0051】
ステップS25で、エンジンの運転状態が制動状態にある場合(YES)には、ステップS27に行き、車軸と電磁クラッチ間の車軸とガス圧縮装置の間の変速比をガス圧縮装置25の回転速度が予め設定された設定回転数になるように制御して、三方弁24を空気Aaがガス圧縮装置25に供給されるように切り換えて、電磁クラッチ34をONにして、予め設定された時間(ステップS28の蓄ガス圧力の判定のインターバルに関係する時間)の間、空気Aaを蓄ガス容器27に蓄圧する。
【0052】
つまり、空気Aaの蓄圧は、エンジンの運転状態が制動状態にある時に限定する。これにより、空気Aaの充填は制動エネルギーを回生して行うことになるので、燃費効果が期待できる。
【0053】
次のステップS28では、蓄ガス圧力P0が最終目標圧力Ptになったか否かを判定し、蓄ガス圧力P0が最終目標圧力Ptになっていなかったら(P0<Pt)(NO)、ステップS25に戻り、蓄ガス圧力P0が最終目標圧力Ptになったら(PO≧Pt)(YES)、ステップS29に行き、電磁クラッチ34をOFFにして、空気Aaの蓄圧を終了する。つまり、蓄ガス圧力P0が最終目標圧力Ptになるまで空気Aaの蓄圧を行う。
【0054】
ステップS30の過給補助制御では、図5に示すように、最初のステップS31で、過給補助用の手動の過給補助起動スイッチがONか否かを判定する。この手動の過給補助起動スイッチがONであれば(YES)、ステップS33に行き、強制的に蓄圧ガスCを用いた過給補助を行う。
【0055】
ステップS31の判定で、この手動の過給補助起動スイッチがONでなければ(NO)、ステップS32に行き、エンジンの運転状態が発進時や急加速時等の過渡状態か否かを判定する。この判定は、例えば、アクセル開度αを読み込んで、このアクセル開度αの速度を用いて行い、アクセルの踏み込み速度(dα/dt)が予め設定した設定速度αvcを超えた場合を過渡状態と判定する。
【0056】
ステップS32の判定で過渡状態であると判定されれば(YES)、ステップS33に行き、強制的に蓄圧ガスCを用いた過給補助を行う。また、ステップS32の判定で過渡状態でないと判定されれば(NO)、ステップS30を終了する。
【0057】
ステップS33では、予め設定された設定時間(例えば、1秒程度)の間、過給補助を行い、その後は過給補助を停止する。この過給補助では、EGR弁21と吸気弁(インテークスロットル)51を全閉に固定し、電磁弁29を全開にする。また、流路切替装置30を図7の吸気ラインの連通状態から図8の蓄ガス供給ラインの連通状態に切り換える。なお、この設定時間は、過給補助の状態を維持する時間であり、実験などにより最適な値に設定されるガ、概ね1秒程度で十分である。
【0058】
このとき、制御装置40はEGR制御を行い、エアマスフローセンサ(MAFセンサ)52で吸気量(MAF)を測定し、目標の吸気量になるように、EGR弁21の弁開度を制御しようとする。この場合に、エアマスフローセンサ52を図1及び図2に示すように、吸気弁51の上流側に配置すると、エアマスフローセンサ52は吸気弁51が全閉であるので、吸気量をゼロと測定するのでEGR弁21の操作量をゼロとするので、通常のEGR制御とこのステップS33の制御とは干渉しない。
【0059】
一方、エアマスフローセンサ52を吸気弁51の下流側に配置すると、エアマスフローセンサ52は吸気弁51が全閉であっても、流路切替装置30からの蓄圧ガスCの流量を測定するので、ゼロにはならない。そのため、通常のEGR制御では、EGR弁21を開弁制御しようとする。つまり、通常のEGR制御とこのステップS33の制御とが干渉することになる。そのため、EGR制御よりも、ステップS33の過給補助におけるEGR弁21、吸気弁51の操作を優先し、EGR弁21と吸気弁51を全閉に固定する。
【0060】
そして、ステップS33の過給補助が設定時間を過ぎるとステップS34の過給補助の解除に行き、過給補助操作を終了し、EGR弁21と吸気弁51の閉弁固定を解除し、通常のEGR制御と吸気制御に戻す。また、手動の過給補助起動スイッチをOFFにする。
【0061】
つまり、手動の過給補助起動スイッチがONであればOFFに切り換え、手動の過給補助起動スイッチがOFFであればそのままとする。ステップS30を終了する。
【0062】
上記の内燃機関の過給補助方法及びエンジン(内燃機関)1、1Aによれば、エンジン1、1Aを搭載した車両の急加速時や発進時等のエンジン1、1Aの過渡運転時において、ターボ式過給機14のターボラグに起因する加速性能の低下を最小限に防止し、排気ガスG中の粒子状物質(PM)と窒素酸化物(NOx)の低減を図ることができる蓄圧ガスCによる過給補助において、制御装置40が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスCを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができて、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができる。
【0063】
さらに、排気ガスGの一部Gpの蓄ガス容器27への蓄圧はエンジン1、1Aの運転状態が通常運転時に行い、空気Aaの蓄ガス容器27への蓄圧はエンジン1、1Aの運転状態が制動状態であるときにのみ行う方法を採用すると、空気Aaの蓄ガス容器27への充填を制動状態のときに行うので、制動エネルギーを回生して充填を行うことができ、燃費を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の内燃機関の過給補助方法及び内燃機関は、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡状態のときに蓄圧ガスをシリンダ内に一時的に供給して、過渡状態のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる内燃機関において、制御装置が過渡状態を判定して自動で行う蓄圧ガスを用いる過給補助に加えて、手動操作による過給補助を行うことができて、追い越し加速時などの急加速時においても十分な過給補助を行うことができる。
【0065】
従って、ガス圧縮装置を用いて、排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを蓄ガス容器に溜め込み、負荷が急激に増加する過渡状態のときに蓄圧ガスをシリンダ内に一時的に供給して、過渡状態のNOxの排出を抑制するとともに加速性能を向上させる、トラックやバスや乗用車等に搭載する内燃機関の過給補助方法及び内燃機関で利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1、1A、1X,1Y、1Z エンジン(内燃機関)
11 エンジン本体
11a 吸気マニホールド(吸気系通路)
12 吸気通路(吸気系通路)
13 排気通路(排気系通路)
14 ターボ式過給機
17 EGR通路
21 EGR弁
22 排気ガス導入通路
25 ガス圧縮装置
26 圧縮ガス供給通路
27 蓄ガス容器
28 蓄ガス供給通路
30 流路切替装置
40 制御装置
51 吸気弁
52 エアマスフローセンサ(MAFセンサ)
A 新気
Aa 空気
C 蓄圧ガス(ガス)
Cg 排気ガスの比率
G 排気ガス
Ge EGRガス
Gp 排気ガスの一部
P0 蓄ガス容器内の圧力
Pme 暫定目標圧力
Pt 最終目標圧力
Pta 空気の目標分圧
Ptg 排気ガスの目標分圧
ΔPa 空気の追加充填分の分圧
ΔPg 排気ガスの追加充填分の分圧
α アクセル開度
αvc 設定速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスの一部をシリンダ内に再循環するためのEGR通路と、
内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮するガス圧縮装置と、
該ガス圧縮装置で圧縮された前記ガスを貯蓄する蓄ガス容器と、
該蓄ガス容器と吸気系通路を流路切替装置を介して接続する蓄ガス供給通路を備えた内燃機関の過給補助方法において、
内燃機関の運転状態が過渡状態であると判定したときに、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行うと共に、手動操作により、過給補助起動スイッチがONされたときにおいても、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行うことを特徴とする内燃機関の過給補助方法。
【請求項2】
排気ガスの一部の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が通常運転時に行い、空気の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が制動状態であるときにのみ行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の過給補助方法。
【請求項3】
内燃機関の排気ガスの一部をシリンダ内に再循環するためのEGR通路と、
内燃機関の排気ガスの一部と空気とこれらの混合ガスのいずれかのガスを圧縮するガス圧縮装置と、
該ガス圧縮装置で圧縮された前記ガスを貯蓄する蓄ガス容器と、
該蓄ガス容器と吸気系通路を流路切替装置を介して接続する蓄ガス供給通路を備えた内燃機関において、
EGR弁と吸気弁と前記流路切替装置を制御する制御装置と手動の過給補助起動スイッチを備えて、
該制御装置が、
内燃機関の運転状態が過渡状態であると判定したときに、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行うと共に、手動操作により、過給補助起動スイッチがONされたときにおいても、前記蓄ガス容器からの蓄圧ガスを用いて過給補助を行う制御をすることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
前記制御装置が、排気ガスの一部の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が通常運転時に行い、空気の前記蓄ガス容器への蓄圧は内燃機関の運転状態が制動状態であるときにのみ行う制御をすることを特徴とする請求項3記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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